500年後からの来訪者After Future2-3(163-39)

Last-modified: 2016-07-30 (土) 20:07:13

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future2-3163-39氏

作品

俺が主演のハリウッド映画最後の撮影を終え、地元代表決定戦で見事勝利を獲得したことも含めて全国大会出場を祝うパーティが開かれた。そのパーティにハリウッド映画のヒロインをスペシャルゲストとして呼んだため、初のドレスコード指定のものとなった。俺たちのことばかり話してヒロインには悪いことをした気もするが、新川流料理を存分に堪能してもらえたようだし、次に会うときは俺が話を聞く番だな。その後の二次会では朝比奈さんが俺の偽名を連呼し、W鶴屋さんに『キョン君の偽名で笑わなくなるまで欠場って事にして欲しいっさ』とまで宣言させ、佐々木からは青古泉たちのドラマのセカンドシーズンに向けて自分自身を実験台にシャンプー&カットをして欲しいと頼まれた。俺と佐々木が抜けた理由を青俺が来た時点で話したものの、なぜか今日に限って一番遅くやってきたハルヒから説明を求められてしまった。同じことを二度くり返すのはいかがなものかと思い、人差し指でハルヒに触れて事由を伝達。ようやく納得してくれたようだ。

 

「ふーん、それで佐々木さんの髪型が変わってたのね。みくるちゃんもあんたの偽名のことを気にしてあそこまでしてくれていたし、あたしもドラマの総監督として色々考えなきゃいけないわね」
「ハルヒさんなら、彼のことを十分考えているではありませんか。映画の宣伝のためだけに他国の言語をさらに五カ国もマスターして彼に伝授するんですから…我々がそう簡単に真似できるものではありませんよ」
「確かに青古泉の言う通りだが、映画の宣伝のため『だけ』っていうのは回避できるかもしれん」
「キョン君、それ、どういうことですか?」
「折角覚えてくれたものを、たった一回使っただけで終わらせるのはハルヒに申し訳ないですからね。他に用途がないかと思案していたところでようやく思いついたんですよ。バレーの日本代表として世界各国回るときに通訳として間に入ることに加えて、他国との試合のときは相手の国の言語で指示を出すことにしようってね」
「黄キョン君、どうしてそんなことするの?それじゃ味方に指示が伝わらない」
「サーブレシーブやスパイクを撃たれるときだけ日本語にするつもりでしょう。彼の狙いは相手国の正セッターをコートから引きずり出すことのようです。零式の対処の方に重点を置いている国が多いようですが、彼の本来の武器はセッターを観察することによって相手の攻撃を事前に察知することです。それを相手国の言語でやることによって、采配は全て見破られ、攻撃が単調になってしまうどころか、自信を無くしたセッターが連携ミスを誘発しかねません。味方にはABCDのクイック技とブロード、バック、ツーアタックのことだけ伝えておけば、あとは相手が勝手に自滅してくれるというわけです。これまでも圧勝で試合を終えてきましたが、これなら零式を攻略されたとしても大差で勝ち星をあげてくれるでしょう」
「でも、それをやると今の日本代表のように対策をとられるんじゃないかしら?」
「問題ない。年に二回、計一ヶ月間、わたしたちと1000セットを超える練習試合をしていた日本代表がようやく采配を読まれなくなった。世界大会で3セット連取されるだけでは、クセを治したとしても彼に読まれないかどうかは試合をしてみないと分からない。もし、読まれなくなったとしても年齢的に次の世代に交代する時期になるはず」
「やれやれ、俺は『相手の国の言語で指示を出す』としか言っとらんのに、古泉と有希にすべて読まれてしまったな。まぁ、有希の言う通り、今度のバレー合宿には新戦力が参入してくるかもしれん。こっちと同様にな」
「くっくっ、僕も楽しみで仕方がない。子供たち三人が日本代表相手にどんな活躍を見せてくれるのか、じっくり拝見させてくれたまえ」
『キョンパパ、キョンパパ、わたしも試合出られるの!?』
「ちゃんと毎日練習して、もっとうまくなったらな。だが、最初の三日間はジョンの世界で話した通りだ。もっとも、勝ちづづけることができなければ初日で交代もありえるから、そのつもりでいろよ?」
『わたし達は絶対に負けません!先輩方は復興支援の方に回ってください!!』
「困りましたね…子供たちも含めて彼女たちに暴れられては、活躍の場が回ってきそうにありません」
「いいじゃない!黄古泉君だって新サーブ撃つんでしょ?こっちは全国大会で通用するかどうかも分からないのに!」
「だからおまえにだけは練習の時間を確保したんだ。そんなに自信なさげな発言されるんじゃ、全国大会どころか、球団との試合にすら間に合うかどうかすら怪しい。何なら、センターポジションに居座ったっていいんだぞ?青俺や青古泉の言うチャンスがいつ訪れるか分からんしな」
「もういい。食べ終わったし練習してくるわ、ごちそうさま!」
いつものようにコイツを煽って士気をあげようとしたんだが…どうやら、空振りしてしまったようだ。セリフの割には食器を片付けてからテレポートしていったし……どうしたんだ?
「妙ですね…あなたの仰る通り、涼宮さんからはいつもの自信が感じられません。何も無ければいいのですが…」
「今回はSOS団の団長はあいつ一人だからな。団長として不甲斐無いところを試合で見せるわけにはいかないだけだ。あいつが宣言したからには、二週間後には新しい武器を引っさげて天上天下唯我独尊の涼宮ハルヒが帰ってくるだろ。それより、俺たちの方もそろそろ動かないとまずいんじゃないのか?」
「問題ない。今日引っ越しをする世帯も、まだ朝食を食べて引っ越しの準備をしている段階。コンビニやスーパーに商品を搬入するトラックが到着するのはもう少し後。今可能なのは、食器の片付けとおでん屋の仕込みくらい」
「それもそうね、昨日のパーティでわたしも黄有希さんも抜けたから半熟卵のおでんは出せなかったし、自分の部屋で仕込み作業しているから、人手が必要なときは呼んでくれないかしら」
「じゃあ、わたしも仕込み作業を手伝う」
「我々もそろそろ人事部に降りることにするよ」
「わたしも編集部の様子を見てからになりそうね。今週は森さんがずっと面談になりそうだし」
「では、それぞれの担当場所に散らばる前に僕から一つご報告を。多丸兄弟と森さん、あなたのお父上、それにあなたの定休日は日曜日ということになりました。日曜日は僕が食事を作ります。人事部の方も青僕を中心に我々でまわしていきます。色々と思い悩むこともあるかとおもいますが、休むときはしっかり休んでください。頭も身体もね」
「よし、じゃあこの後の片付けと食事については俺と青佐々木でやる。昼食も夕食もバラバラで食べることになりそうだからキリのいいところで適宜戻ってきてくれ。他に何も無ければこれで解散だ。今週一週間宜しく頼む」
『問題ない』

 

 圭一さん達が降りていったところで、青朝倉が上行きのスイッチをPUSH。フロアにいた全員で食器を運んでいると、食べ終わっているにも関わらず、動こうとしない奴が一人。しばしの間を置いて、ようやく考えがまとまったようだ。スッと立ちあがると俺と似たような切り出し方で口火を切った。
「すまん、一つ提案なんだが、明日以降も同じような動きになるのなら、時間を持て余してしまう。ハルヒとは別の場所で俺たちも朝……」
「おっと、それはいけません。有希さんや朝倉さん、W佐々木さんならまだいいですが、あなたにだけは練習させるわけにはいきません。いくら涼宮さんに内緒で練習していたとしても、サイコメトリーがオートで発動してすぐにバレてしまいます。あなたの抑えとして涼宮さんにマウンドに立ってもらうんです。これ以上、涼宮さんが自信を無くしてしまう行為をすることだけは、監督として許可できません」
「確かに、キミにこれ以上強くなられては彼女の出番がなくなってしまいそうだ。でもね、こっちのキョンの言い分も正しいと思わないかい?今日は僕が片付けをするけれど、他のメンバーは時間の経過を待つ必要がある。それなら、キョンと同じ時間に僕たちも起きて、朝練終了後、朝食でもかまわないだろう?特に、レーザービームを受け止める練習とキョン達の剛速球を打ち返す練習はやっておいた方がいい。古泉君の懸念しているのは彼のピッチング練習だけで、それ以外なら問題ないんじゃないのかい?時間があるなら僕も練習したいからね」
「わたしも一週間も練習していないと、黄キョン君達のボールが取れるかどうか自信がありません」
エレベーターの到着を知らせる音が鳴ったが、青朝倉も青有希も動こうとはしなかった。朝練をするのはいいが、へとへとの状態で本社に戻ってくるのでは意味がない。いくら疲れを消したとしても、「疲れた」としか出てこないだろう。しかし、青佐々木の意見も正論だ。青朝比奈さんに剛速球を投げても取れなければ意味がない。
「では、こういうのはいかがでしょう。青チームの彼の投球練習はせず、青有希さんたちが剛速球に慣れる練習をする相手役として練習に参加する。ハルヒさんもレーザービームを捕る練習に入ってもらいます。ですが、練習は火曜と木曜しか行わず、それ以外は英気を養う日とする。OGも折角の機会ですから、動体視力を鍛えて日本代表のエースのスパイクに反応できるようにするもの悪くないでしょう。毎日早朝から深夜までとなると、いくら全員の疲れを払拭したとしても、気分までは変えられませんからね」
「古泉先輩、わたしたちも練習に参加していいんですか!?」
「キャッチャーをやるのはさすがに抵抗があるだろうが、青有希や青朝倉の後ろに立って構えているだけでも十分練習になる。来週以降も続けていればバレーのサーブやスパイクくらい止まって見えるだろ。男子の日本代表ですらサーブの速さは110km/h程度だからな。金曜の昼食後はW俺が家族旅行兼調味料探しに行くつもりだし、俺は古泉の案でいいと思う。短時間でも休むときはしっかり休もうぜ」
「わたしも黄キョン君と同じ。出場する前に少しでも慣れておきたい」
「仕込みの時間があまりとれなくなっちゃいそうだけど、大丈夫かしら?」
「問題ない。スーパーやコンビニに品物を並べる作業が終わったら戻ってくればいい。その時点ではまだ引っ越しの最中。コンビニに昼食を買いに来る程度」
「どうやら、決まりのようね」
「そのようですね。朝練をする二日間は僕が食事担当になりそうです。彼やW佐々木さんには練習に行ってもらう必要がありますので」
「有希、青俺にかけた鈴木四郎の催眠を解いて、俺にかけ直してくれ。片付けと食事の準備ができたら俺も引っ越しに回る。分かっているとは思うが、有希自身もだ」
「問題ない」

 

 大幅な変更は無かったものの、いよいよ福島の復興支援がスタートした。俺と青佐々木は片付けと昼食、夕食作り。エージェントと催眠のかかった黄チームが各世帯を訪問して引っ越し作業。青チームとOG、ENOZは打ち合わせ通り、スーパーやコンビニの品物を並べる作業に入った。青朝倉と青有希はおでん屋の仕込み作業。スーパーの総菜作りはW朝比奈さんが名乗りをあげた。魚介類の解体作業には担当する世帯の引っ越しを終えた古泉が入ることになっている。これで三地区目だからな。初日にどの程度注文すればいいか、どのくらい総菜をつくればいいかに関してはおおよその見当がつく。コンビニ弁当で済ませた世帯もいれば、食材を見ながら夕食のメニューを考えている女性がスーパーをうろついていたりする女性もいたりと様々だ。ちなみに青ハルヒは自主練中、ハルヒは引っ越し作業中…くくく、この一週間で青古泉が発狂してしまいそうだ。ジョンの世界で会う以外、どちらのハルヒも見られないんじゃな。俺もみんなの食事作りを終えて引っ越しに加わり、各世帯を訪れた。
「ごめんください。SOS Creative社の鈴木と申しますが……」
『引っ越し作業をしに来ました』と言う前に返事が届き、ドアが開いた。偽名がはっきりしていると、ここまでスムーズに喋ることができるとは思わんかった。会社名も名前も嘘の取材の電話が人事部に殺到していた頃のことが脳裏に浮かぶ。サイコメトリーでの対応を思いつき、名刺と一緒に運転免許証を受付に提示しろと言うと何も答えられなくなったり、リストラされた人間がイタズラ電話で俺に取材をとかかってきたときには、自分の偽名すらフルネームで答えられずに慌てたりしてたな。案の定、昼食、夕食とも全員が出揃うことは叶わず、時間通りに昼食時に現れたのは圭一さんたち人事部の人間だけ。まだ引っ越し初日ということもあり、そこまで人数が多いわけではなかったが、コンビニやスーパーのレジ打ちも夕食前が一番混雑して、総菜作りや魚介類の解体作業を終えたW朝比奈さんや古泉が先に夕食を取り、レジ打ちをOGたちと交代しながら進めていた。しかし、黄チームだけでなく青チームやENOZにも催眠をつける必要がありそうだ。青俺と青有希をのぞいた青チームとENOZがサインを求められ、「バレー見てるわよ!頑張ってね!」などとOGに声をかける客も続出。日本代表でなくともちゃんと見ている人たちがいてくれたことに嬉しさを隠しきれないらしい。OG四人には土曜日まで催眠をかけないほうがいいかもしれん。

 

 翌朝、青ハルヒには内緒にしたまま、俺たちも同じ時間帯にジョンの世界から抜けて別の場所で朝練。圭一さん達には先に食べてもらい、俺たちは練習後に朝食を摂ることになった。軽くシャワーを浴びて朝練に参加していたメンバーが出揃うと、俺だけかもしれんが古泉の表情がどこかおかしく感じる。高校生時代のニヤケスマイルでも、記憶操作後の満面の笑みでもなく、それでも妙に嬉しそうな顔をしていた。俺たちが練習している間に何かあったのか?まぁ、それならそれでこの後報告してくるだろう。
『キョン、その違和感の原因が判明した。まだ完成していないのに告知が早すぎる』
まだ完成していないのに告知が早いってハリウッド映画のことか?告知って何の告知だ?
『テレビをつけて各局のニュースを確認してみればいい。この時間帯でも取り上げられるはずだ』
『キョンパパ!早くごはん食べたい!』
ジョンとの会話に割り込むように双子が叫び声をあげた。フロアにいるメンバーで『いただきます』をした直後、口火を切ってきたのはやはり古泉。
「その様子ですと、どうやらジョンにはバレてしまったようですね。一緒に練習に参加しているのでジョンも気がつかないと思いましたが……」
「おまえのその表情に違和感をもっていただけだ。ジョンからは『この時間帯のニュースでも取り上げているはずだから各局のニュースを確認してみろ』だそうだ。映画関連のニュースでどうやら間違いないようだが?」
「互いの表情やしぐさだけで何があったか分かるなんて羨ましいじゃないか。彼に嫉妬してしまうよ。僕がTVをつけてザッピングしよう。どんなニュースなのか僕も楽しみだ」
一昨日の夜、その映画のヒロインを招いてパーティを開いたせいもあってか、撮影に参加したハルヒや有希だけでなくOG達まで身を乗り出して画面に注目する。各局のニュースを確認しているうちに、英字新聞で俺のアップが一面を飾っていた。表題は『クレイジー野郎、世界へ』と書かれている。確かに完成すらしていない映画の告知にしては早すぎる。記事を読んでいる途中で画面が切り替わり、毎朝お馴染みの男性アナウンサーが記事の内容を話し始めた。
「今や日本一のデザイン会社社長として名高いキョン社長が、英字新聞の一面を飾りました。『クレイジー野郎が世界へ』という表題で記事が書かれています。アメリカでは、彼のパフォーマンスから、あだ名よりも『クレイジー野郎』という二つ名の方が通っているようです。記事はキョン社長が主演を務めるアクション映画の披露試写会の応募に関するものなのですが、なんと撮影期間がたったの5日間。その大半が脚本を練り直すことと、キョン社長の料理を堪能する時間にあてられたという話ですから驚きを隠せません。さらに、昨日更新されたばかりにも関わらず、既にアクセス数が100万件を突破。脚本家、監督、俳優陣、その他撮影スタッフ全員が彼一人に振り回されたと書かれています。そして、その練り直された脚本で撮影した映像がこちらです」
全員の視線がその映像に集中する。会話の部分は日本語で字幕がついている。一部だけだし、大したニュアンスの違いもない。俺がルーレットで一人勝ちするところから始まり、大柄の男を天井に突き刺してカジノを制圧するシーン。エセ科学者に毒薬を散布された情報を聞いて、トラックで町へと突撃するシーン、ヒロインとの会話、ジョンとのバトル、最後にジョンに殴り飛ばされ壁を破壊したシーン。カーチェイスはあのパフォーマンスを告知として見せてしまうわけにはいかないと判断されたらしい。エセ科学者との逆転に次ぐ逆転をくり返すシーンも試写会を見た客がコメントしているところを宣材として盛り込むつもりだろう。
「凄い…キョン先輩、こんなアクションシーンを演じてたんですか?」
「ジョンとのバトルがこの程度で収まるはずがありません。たとえ本当のことだったとしても、これ以上は編集か何かで繕われたものだと観客に疑いをもたれてしまい出来なかったと捉えるべきですね」
「古泉君に言われるまですっかり忘れてたわ。年越しパーティであんたとジョンのバトルを見せられて、うずうずしていたのよ。キョン、あたしとバトルしなさい!ストレス解消にもなって丁度いいわ!」
俺に一発も当てられずに、逆にストレスを貯め込んでいたのをすっかり忘れてしまったようだ。Wハルヒが二人揃って同じ顔をしている。バレー合宿が終わったら…と言いたいところだが、バレーが終わった段階で世界各国を回らないといかん。ハルヒの言う『夫婦の時間』ではないが、半年近い期間留守にしなければならん。バレーをする日とバトルをする日を明確にしないとな。
「なら、ハルヒも入れて二人同時に相手になってやる。だが、バレー合宿が近づいていることを忘れてもらっては困る。バトルは一日置き、バレー合宿が始まった段階でバレーに集中してもらう。それでいいな?」
『あたしたちも随分なめられたものね。二人同時に相手にしたことを後悔させてやるわ!』

 

 結局そのニュースは、映像を見た女性アナウンサーが「どのシーンも凄過ぎて何を言っていいのか分かりません」と語り、「日本での公開がいつになるかはまだ不明ですが、全米を震撼させるほどのアクション映画になりそうです」と告げたところで別のニュースに切り替わった。
「くっくっ、日本で披露試写会をするのならまだ分かるけど、まだ完成すらしていない映画の記事がこっちにまで届いているとは思わなかったよ。でも、これだけじゃないんだろう?キョンが違和感を持つくらいなんだ。隠してないで、早く僕たちにも教えてくれたまえ」
「食べ始めたところで報告するつもりでしたので、別に隠していたわけではありません。今朝、圭一さんから連絡がありましてね。映画の最後の仕上げをするので今日来て欲しいそうですよ?僕が言えるようなことではありませんが、圭一さんが殴り書きしたメモに場所が書かれています。文字を解読せずともサイコメトリーで十分わかるかと。それに披露試写会の日程が決まったそうです。こちらの時間で十三日の午後四時。僕も当日が楽しみで仕方がありません」
それで表情に違和感があったのか。披露試写会の日程を聞いて、朝比奈さんやW佐々木が古泉に同調した。また、時を止める研究をしたいなどと言いだしかねん。佐々木の真似をするのであれば、『試写会の日程の方を先に教えて欲しかった』だな。電話では殴り書きになってもおかしくないし、古泉の字の汚さを考えれば「僕が言えるようなことではありませんが」と言うのも納得がいく。古泉がメモをテレポートで渡してきたが、これでは本人でも読めるかどうか分からん。
「やれやれ…また催眠をかけ直す必要がありそうだ。とりあえず、食事の準備が出来次第向こうに行ってくる。このニュースが流れた以上、人事部に取材の電話が殺到しそうだ。だが、こちらから伝えたいこともあったし丁度いい。有希、『俺と主演女優は九月から世界各国に宣伝に回り、日本に戻ってくるのは一月頃になる予定でそれ以上はまだ分からん』と各社報道陣、取材陣にFAXを流してくれ。ついでに『日本語版のアテレコは俺と主演女優でやる。主演女優には俺が日本語を教えた』と付け加えておいてくれ」
「問題ない」
「なら、今日は俺が『鈴木四郎』だな。だが、黄チームは既に催眠がかけられている状態だからいいとして、青チームやENOZ、OGはどうするんだ?今日の引っ越しでまた人が増えるんだ。古泉も含めてレジ打ちの最中にサインを強請られるような状態だと仕事にならんだろう?」
「OGは野球の試合当日に催眠をかければいいわよ。戸籍を調べられるわけじゃないんだし、あたし達も別人に見えるような催眠をしてもらえば十分よ」
「ですが、ビラ配りのときまで別人に見えてしまってはビラ配りの効果が半減してしまいます。僕たちにかける催眠の条件は『福島のツインタワーに引っ越した人間には別人に見える』と変更する必要がありそうですね。涼宮さんの仰る通り、野球の試合当日にはOGにも催眠をかけないといけませんがそれ以外は大丈夫でしょう。地元の決勝ではOG四人とも催眠をかけられていない状態でカメラに映ってしまいましたからね。次の試合会場に報道陣が現れるかどうかは分かりませんが、変な噂が立たないうちに、まったくの別人だと認識させましょう。ところで、先ほどのバトルの件ではありませんが、黄有希さんに頼らずとも、涼宮さんなら催眠くらい簡単にかけられるのでは?超能力者として既にそれ相応のレベルに達していると思いますが……」
「彼の言う通り。今の涼宮ハルヒなら十分可能」
「だったら、この前黄有希さんが見せてくれたように試しにやってもらえないかしら?自分がどう映るのか一応知っておきたいし」
青朝倉の言葉を受けて青ハルヒの指が鳴る。前回と同じく、81階の窓ガラスが鏡に代わり、青俺と青有希を除いた青チームに催眠がかけられた。普段見られているだけあって、青古泉だけは急進派の親玉のような変態オタクになるかと思ったが、気に病むこともなくそれぞれに相応しい姿に変貌した。
「流石ですね。窓ガラスを鏡にするところまでやってのけるとは思いませんでしたよ」
「うん、これなら人前に出られそうね。楽しみも増えたようだし、そろそろいきましょ」
青朝倉の言葉を受けて、各自の担当に分かれた。FAXを流しても取材の電話は来るだろうが、毎日昼食を作ってるんだ。これくらいは社員たちで対応してもらわんとな。人事部の社員にFAXの件を伝えるよう有希に頼んでフロアに残った。

 

「それで?青佐々木と情報の共有はできたのか?」
「キミって奴は僕にどれだけ恥ずかしい思いをさせれば気が済むんだい?伝えられるわけがないじゃないか。少しは言動ってものを慎んでくれたまえ。でも……そうだね、もし逆の立場だったら伝えて欲しくなかったと思うんじゃないかな。キミが青チームのSOS団メンバーを北高の文芸部室に集めたと話していたときの有希さんと同じだよ。彼女もそれ以前の自分とは同期したくないと言い張っているんだろう?この記憶だけは自分だけのものとして持っていたい。ようやく彼女の想いが分かった気がするよ。これだけの過密スケジュールだからいつになるかは僕にも分からないけれど、もし青僕の髪を切る時間ができたら、僕にしたのと同じ体験をさせてくれたまえ」
シャンプー&カットならそこまで時間も取らないだろうが、その後もとなると、またパーティの後なんてことになりかねん。次のパーティは披露試写会後か全国大会優勝を勝ち取ったときになるだろう。夫婦の時間を気にしていたハルヒにもシャンプーだけでも体験させてやるか。披露試写会まで待ちきれないと言葉で示しながらも、二人で話す時間を堪能していたようだ。寝ても覚めても忙しい毎日には変わりないが、こうして自分の時間が持てるならそこまで苦になることはない。
 食事の支度を終えて、ツインタワービルの運営。音声のみの収録もあるし、今日は引っ越しを黄チームとエージェントたちに任せた。圭一さん達人事部の様子も気になったが、昼食ですら会うこともなく俺は俺の仕事を終えて眠りについた。
『有希お姉ちゃん!キョンパパとハルヒママがケンカしてる!!』
バレ―の練習とは別のところで既にフィールドを張って準備万端のWハルヒと向き合うと、話す暇すら与えてはくれんらしい。ニュースで映像を見たからか、撮影をしたときのジョンと同程度のスピードでWハルヒが突っ込んできた。生憎とジョンと中途半端なバトルを強いられてこっちもストレスが溜まっていたんだ。ジョンに時間を伝えられる前にさっさと勝負をつけさせてもらう。
「あれはケンカとは違う。バトル」
『ばとる?』
「そう。バレーや野球の試合と同じ」
『試合と同じ?……有希お姉ちゃん、わたしキョンパパとハルヒママの試合みたい!』
「今は駄目。バレーの試合に出られなくなる。それでもいい?」
『ぶー…分かったわよ』

 

迎えた金曜日の朝、ニュースを確認しながら青佐々木と二人で朝食の支度。火曜日に有希にFAXを送りつけてもらってからというもの、連日俺の映画に関する話題でもちきりになっていた。およそ半年後にようやく公開になる映画の一部のシーンを予告すら行われていない段階からスロー再生して実証していたり、たったの五日間でどうやってヒロインに日本語を教えたのかと専門家が解説してみたり、本当にアテレコで感情表現まで可能なのかとヒロインの方に取材に行ったり…向こうにも迷惑をかけてしまったな。ちなみにたったの五日ではなく、人差し指で触れただけだとテレビの前で応えておいてやろう。社長は今明日の野球大会に向けた準備と食事の支度で忙しいんだ。本社敷地外で閉鎖空間で阻まれて侵入できない報道陣の数が増えていようが俺の知ったことではないし、本社の正面玄関から俺が出ていくこともない。月を跨いで八月を迎え、エージェント+黄チームで全ての世帯の引っ越しが完了。森さんのOKがでた人からパートとして働いている状態。今日も編集部には男女とも朝倉が仕切り、森さんは住人と丸一日面接。以前、アンケートで出た下着や小型家電製品に関する配慮も滞りない。時期的にもランジェリーにも素材にこだわってより涼しいものが店頭に並んでいた。エアコンがないことについても説明してあるし、披露試写会が終わった頃にこのツインタワービルでもアンケートを取ればいいだろう。
「会社名も名前も嘘偽りなく、何度も取材の電話をかけてくる輩が多くて社員も困っているが、これまでと同様の対処をしながら駆逐しているところだ。それにもうすぐバレー合宿が始まるからね。そこで聞けばいいとでも勘繰っているんだろう。九月に入れば社長は世界各国を回って宣伝中だと告げられる。キミ達に来てもらう程のことでもないから安心して行ってくるといい。できれば、試合内容をこの前のようにTVに移してもらえるとありがたい」
モニターに関しては有希がやってくれるだろう。圭一さん達がいるいないに関わらずつけっぱなしにしておけばいいだろう。それより、俺が気にしているのは今日宿泊する旅館と途中で寄る調味料の製造所について。当日になってようやくその情報が手渡された。明日の会場は大阪ドームで午前中に試合をして午後は次の対戦相手の視察になるそうだ。日曜は午前中に視察をした相手と戦って、午後の試合が地方代表の決勝戦。それに勝てば来週は広島のマツダスタジアムで西日本代表が決定する。バレー合宿の最中に全国大会の決勝が行われ、俺たちが希望する球団に試合を申し込む。八月最後の週に球団との直接対決。バレーの練習試合については監督の采配で名前が上がらなかったメンバー+ENOZ+子供たちで十分だ。三人には丸一日バレーに勤しんでもらうとしよう。
「できた」
またしても必要最小限でしか言葉を発しない有希に、一体何が『できた』のかという疑問が湧き出る。すると青チームのSOS団メンバーの目の前に紙が情報結合された。青俺発案、古泉主演のドラマの主題歌で間違いない。青有希の前にも楽譜が配られているということは、有希が自分に見える催眠を青有希にかけてバイオリンを弾かせるつもりのようだ。
「これがSOS団初のバラード曲なんですね。わたしも歌詞を間違えないように徹底的に練習します!」
「ちょっと有希!どんな曲になったのかあたし達にも楽譜よこしなさい!」
「問題ない。気になっているのはあなた一人ではないはず。今から曲を流す。青チームの朝比奈みくるは歌詞をサイコメトリーして歌ってくれればいい」
青朝比奈さんが立ち上がり、みんなから見える位置に移動した。有希のちょっとした演出だろうな。フロアの電気が消え、四方の窓ガラスが全てブラックアウト。青朝比奈さんにスポットがあたり、曲が流れ始める。前奏の段階から曲に魅了されてしまったように聞き入っていた。そこへ青朝比奈さんの美声が加わると、W古泉を除いた男性陣が青朝比奈さんに釘付け状態。佐々木と会話しているときと同様、気がつくと曲が終わっていた。全員からの賛辞が拍手として青朝比奈さんに送られた。
「ここまで完成度の高いものになるとは思いませんでしたよ。僕も気を引き締めて撮影に出向く必要がありそうです。そうでもしなければドラマの内容が主題歌に負けてしまいます」
「黄古泉君も大袈裟よ。あたしたちのバックバンドでさらにいいものに仕上げてみせるんだから!あたしたちも徹底的に練習するわよ!」
『問題ない』

 

 昼食を終え、日曜までの全員分の食事を古泉に任せて青俺たちと揃って異世界移動。「明日の試合会場の近くまで家族で旅行する」という一言で子供たちは大はしゃぎ。既に青俺にも目的地までのルートと調味料を製造している会社の情報が手渡されている。どうせ食事時には戻ってくるのだが、
「じゃあ、明日の試合会場で」
という青俺の一言で別れた。俺たちは六人乗りのボックスカー、青俺たちは実家の軽自動車で青有希のマンションを出発。青俺たちはついでに実家に寄っていくらしい。佐々木の提案にもあったが、どうせやるのなら早めに俺の母親の髪型を変えてしまった方が、幸にも自分の祖父母と双子の祖父母の違いが分かる。俺の髪型を決めたときの話ではないが、W俺どちらかの父親が納得する髪型に変えてしまうのも一つの手だな。いくら人事部とはいえ、日本一のファッション会社に勤めているんだ。それなりの服装と髪型にするのも悪くない。いっそのことジョンの筋トレを本人に内緒で定期的にやってしまうか?
「ちょっとあんた!折角の家族旅行なのにまた誰かとテレパシーしてるわけ!?」
「いや、いい加減、幸が俺の両親と青俺の両親の区別がつくようにしないといかんと思ってな。佐々木から俺の母親の髪を切るって案が出ただろう?父親の方も髪型を変えたり普段着ている服をもう少し改善してみたり、W俺がやっているジョン式の筋トレを本人に内緒で施してみたりするのはどうかと考えていたんだよ。この前のニュースでも『日本一のファッション会社として名高い』なんて毎度お馴染みのアナウンサーが喋っていたんだ。いくら身内とはいえ、それに合った服装や体型を維持してもらわんとな。セカンドシーズンの第一話の脚本が出来上がっているわけじゃないが、総監督もそろそろ動きだす頃じゃないのか?」
「あたしだって色々考えてはいるけど…あんたや青キョンが持ってくるイベントに振り回されてばっかりで、ロクな案も出てこないわ。この後だって野球の試合に、あんたの映画の披露試写会、今度は宮古市の復興支援活動にバレーの合宿、九月に入ったらSOS交響楽団の団員を募集して、あんたはその間世界各国回っているし、今朝の青みくるちゃんのバラード曲も早くライブでやってみたいわよ」
『ライブ!?青みくるちゃんライブするの!?』
「ああ、再来週の土曜になるかな。その次の日もライブが見れるぞ」
『キョンパパ、「さらいしゅう」ってなあに?』
「14回寝たら再来週だ。ライブは土曜日にやるからちゃんと覚えとけよ?」
『ライブはどようび?……ライブはどようび、ライブはどようび』
来年は小学校だっていうのに、曜日の区別すら分からんとは…まぁ、少しずつ覚えさせていけばいいか。

 

 今回は会場が近いこともあり、そこまで製造所をまわることができなかったが、どこも癖のある味で悩んでしまうな。今使っているもののようにオールマィティなものを探すとなるとちょっと難しいかもしれん。料理によって変える必要がありそうだ。有希が指定した旅館に辿り着き、夕食を取りに一度本社へと戻るとこちらに合わせたかのように青俺たちも戻ってきた。いないメンバーは…青朝倉と青ハルヒはおでん屋、古泉と森さんはツインタワーか。青古泉もおでん屋に行っているものと思っていたが、W佐々木あたりが止めたんだろう。明日のクリーンナップもまだ聞いてなかったしな。
「くっくっ、その様子だとキョンやハルヒさんの料理に合った調味料は見つからなかったようだね。早く席に座ったらどうだい?明日の試合に出場するメンバーと打順の方も気になっていたんだ。全国大会の初戦に僕が出ることになるかもしれないんだからね」
佐々木のセリフから察すると、青俺たちの方も俺たちと同じような状態だったようだな。しかし、どちらの佐々木も自分が出場することに対してはそこまで抵抗はないらしい。やれやれ…コイツのいつもの悪い癖だ。喰わず嫌いというか何というか…。俺たちが戻ってくるのを待っていたのは何もW佐々木だけではないらしい。どうやら青古泉もその一人のようだ。青ハルヒの近くに行きたくてもクリーンナップを発表するまではここにいなくてはならない。監督としての任が欲望を制御したのか、他のメンバーに抑え込まれたのか定かではないが、ここぞとばかりに視線がハルヒに向いていることに違いはない。圭一さんたちも決勝戦を見ていただけあって気になっているようだ。
「しかし、明日の打順とポジションを確認するのならW鶴屋さんはどうしたんだ?てっきりW朝比奈さんが連れてきているもんだと思っていたんだが…」
「本人の意思を尊重したまでですよ。『彼の偽名で笑わないようになるまで欠場ってことにしてほしい』と話していたではありませんか。あなた方も座席にかけてください」
青俺たちを座席に座らせているよう促している間も、青古泉の視線はハルヒに集中したまま一向にずれる気配がない。四人を欠いた状態だが、古泉はどこにどんな打順で入ってもかまわないし、青ハルヒもポジションはセンターと既に決まっている。あとは古泉同様打順は関係ない。
「それでは、明日の午前の試合のクリーンナップを発表します。一番サード有希さん、二番ファースト朝比奈さん、三番センター涼宮さん、四番レフトジョン、五番セカンドハルヒさん、六番キャッチャー黄有希さん、七番ライトを彼に。八番ショート黄僕、九番があなたです。先日予告した通り、ピッチャーとしてマウンドに立っていただきます」
「古泉君、わたしが一番?涼宮さん達の方がいいんじゃ……」
「いや、古泉の言う打順の方がいい。有希と朝比奈さんは相手投手を見定める役割を担うことになりそうだ。打順が戻ってきても有希にプレッシャーがかからないように俺が九番になっている。おまえにプレッシャーをかけるような真似だけは俺がさせない」
「あら?あなたもいつの間にそんなに頼もしくなったのかしら?ハルヒさんたちじゃないけど、別の場所で戦ってみたくなったわね。青古泉君一人だけじゃちょっと物足りなかったのよ」
「それは別にかまわんが、九月に入ってからにさせてくれ。黄俺の場合は九月から世界各国をまわらないといけないから一日置きにWハルヒを相手にバトルをしているだけだ。本来ならどっちのハルヒもバレーに集中してもらいたいところだが事情が事情だからな。こっちのハルヒは半年も待っていたようだし、本人たちの意志を尊重したい」
「確かに僕が黄朝倉さんに戦いを挑みましたが、これまで一目置かされていたのは僕の方だというのは気に入りません。バレーが終わり次第、全身全霊をもって倒させていただきます」
今は平和そのもので、こうやってバレーや野球にうちこんでいられるが、いつ窮地に立たされるか分からんからな。青俺もそれを見越しているようだ。しかし、ジョンが四番とは驚いた。監督の采配に何か一言ないのか?
『ポジションについては言うまでもないし、これだけ四番を背負って立つことのできるメンバーが出揃っているんだ。打順が何番だろうと大して差は無い。それより、話をそろそろ本題に戻した方がいい。青チームの古泉一樹のことだ。打順やポジションの他にまだ何かあるはずだ』
と言うことは何か?全国大会でも何かしらの制限をかけようとしているのか?やれやれ…頼むから一回裏でコールド勝ち何て言うのはやめて欲しいもんだ。青俺がどんなプレーをしようが、青有希が出塁しなければならない状況に追い込まれてしまう。
「とりあえず、あたし達もそろそろ旅館に戻りたいし、さっさと全部話しなさいよ。あんた、それが終わったらすぐにでもおでん屋の手伝いに行くんでしょ?青あたしが見られるところに」
珍しくハルヒがまともなことを言った。……って、青古泉を知る者なら容易に想像できるか。
「妙ですね……以前にも、黄有希さんから涼宮さんやハルヒさんに関する僕の行動なら簡単に読みとれると言われましたが、そんなに分かりやすいですか?」
フロアにいた全員の首が縦に曲がった。
「おまえの場合、ことWハルヒのことに関しては自重ってものを一切しないからな。前に黄有希が言っていたが、どのポスターでもCDジャケットでも写真でもWハルヒが全て別人に見える催眠をかけてもいいんだぞ?」
「くっくっ、僕も以前ジョンから『24時間キョンと話し続ける』なんて催眠をかけるかどうか聞かれたことがあるけど、キミも試しにかけてもらったらどうだい?もっとも、催眠だと分かっている状態でキョンと話せたとしても僕は満足できそうにないけどね」
「これは手厳しいですね…確かに『涼宮さんと24時間二人っきりの生活をする』という催眠を自分にかけても、催眠だと分かっている以上、僕も満足できそうにありません。とにかく、ハルヒさんをこれ以上待たせるわけにはいきませんので話してしまいましょう。今回僕が制限をつけるのは、あなたと黄有希さんの二人です。コースやその采配についてはすべて黄有希さんにお任せします。ですが、僕が許可するまでストレートのみで勝負をかけてください。そして、黄有希さんは彼が投げた球の正確な球速をコールしていただくだけです」
「なるほど、それは制限というより奇策と言った方がよさそうだな。じゃあ、俺たちは旅館に戻る。ハルヒも家族の時間が欲しいようだからな。明日試合会場で会おう」
そこにいたメンバー全員の『問題ない』が返って来るかと思ったが、まぁいい。青古泉の狙いなら明日になれば分かる。五人で旅館の個室へとテレポートした。

 
 

…To be continued