500年後からの来訪者After Future3-13(163-39)

Last-modified: 2016-09-04 (日) 23:20:04

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future3-13163-39氏

作品

監督が暴露してしまった夜練も、監督と俺のコメントで報道陣を制限。選手たちが止まっているフロアにエージェントを警備員として配備していたら案の定報道陣が現れた。異世界のことも含めて、過度な報道陣たちにお灸を据えることにした。結局これまでと変わることなく、ただアナウンサーが謝るだけで終わっていたが、今後はこちらから攻めることが可能だ。また長い一日が始まると思うと気が滅入るが、これからも進化し続けるためには中途半端でいるわけにはいかない。

 

 ジョンの世界を抜けて、朝食でのミーティング。今日一番大事なことについては最後にすることにして、まずは昨日報道陣に話した件から議題に上げた。
「ニュースを見たメンバーは昨日の俺のコメントも聞いているはずだから分かると思うんだが、生放送での試合について俺たちの意見をまとめておきたい。TV局は毎度おなじみのところに任せるとして、15点マッチを五セットにするか、25点のまま三セットに収めるか、あまり選択肢として良いとは言えないが25点の五セットにするか。こっちはメンバーが変わっても日本代表チームはそのままだからな。TV局側も長丁場になるからといってその分時間を伸ばして試合をそのまま垂れ流すような真似はしないと思うんだが、どうだ?」
「これだけメンバーがいる中で三セットっていうのはちょっと……」
「かといって15点では、満足感は得られそうにありませんね」
「くっくっ、それは心配いらないんじゃないかい?どちらか一方が一点取るまでに二分以上もかかっているんだ。攻撃が単調にならない限り、コートにいる全員に活躍の場があると思わないかい?」
「キョン、まずはキミの考えを聞かせてくれないかい?議題として出すからにはキミ個人の意見だってあるはずだ。僕たちにも教えてくれたまえ」
「三セットなら青チーム、OG、黄チームの順で出るだけだ。15点五セットの場合は、W古泉がこれまで出られなかった分を考慮して、青古泉が一、二セット、三セット目がOG、古泉が四、五セットの予定でいる。今回は古泉の新サーブがある以上、新サーブを先に見せてから青古泉が出るようなことは避けたいと思っている。25点の五セットの場合は最初に古泉を出すだけだ。三セットくらいで放送は終わるから、青古泉がその後出てもそこまで気にされることもないだろう。ただ、問題なのは子供たちをどこで出すかで悩んでいる。『期待の新生現る』と書かれた以上、三人を出さないわけにはいかない。今後の新聞記事も子供たちが活躍している姿が写ることになるだろう。ただ、メンバーリストに何と書けばいいのか皆目見当がつかん。W俺、青有希、子供たちでチームを組めば、俺はキョンと表示されるからいいとして、それ以外は全員同じ名字になってしまう」
「困りましたね。あなたの仰る通り子供たちを出さないわけにはいかないでしょう。ですが、本名を書けば色々と調べられてしまうでしょうし……」
「三人を生放送に出さないと文句を言われるのは確実」
「まだ時間はありますし、とりあえず保留でいいと思います。わたしは15点マッチの五セットでやりたいです!黄古泉君のサーブを全国の人に見てもらいたいです!」
「僕のサーブくらいで大袈裟ですよ。ですが、僕も青朝比奈さんと同意見です」
「黄キョン君、W古泉君とOGが何セット目に出るのかは分かったけど、子供たちを何セット目に出すか決めてるの?」
「あくまで俺の個人的な意見だが、一セット目が青チーム、二セット目が青チーム+子供たち、三セット目がOG、四セット目が黄チーム+子供たち、五セット目黄チームでどうかと考えている。ENOZ四人には生放送に出ない分、他のところで練習試合に参加して活躍してもらうつもりだ。因みに俺は五セット目しか出ない。というより一セットしかもたない」
『一セットしかもたない!?』
「あんた、一体それどういうことよ!?5セット全部は無理でも、2,3セットくらい出られる体力は十分にあるじゃない!」
「ああ、ハルヒの言う通りだ。だが、その代わりそのセットは俺が一番目立つ。勿論零式抜きでな」
一番目立つと断言した俺を睨む奴もいれば、どうやって俺が目立とうというのか考えている奴もいる。まぁ、黄チームは目立ちたがりばかりだからな。俺が抜けないと子供たちが入れない。
「とりあえず、名前の件は後まわしにするとして15点マッチの五セットで黄俺の案でいいと思うんだが……」
「そうだね。僕もその案に乗るよ。人事部にTV局から連絡が来たときは圭一さんたちにそれを伝えてもらえばいい」
「では、連絡が来次第、その旨を伝えることにするが、それでいいかね?」
『問題ない』

 

 子供たちの名前の記載については全員に伝えた。あとはみんなで考えてくれるだろう。誰かがいい案を提供してくれることを祈るまでだ。
「よし、なら次だ。相変わらず報道陣は上っ面の謝罪だけでいつまで経っても変わりやしない。どこで夜練をやっているのか報道陣が本社をあちこち探し回るだろう。昨日はエージェントに警備として立ってもらっていたんだが、最終日の前日まで毎日となるとエージェントに申し訳がないので立札を立てることにした」
『立札って?』
「『これより先、報道陣は立ち入り禁止!侵入した場合は今後一切敷地内に入ることはできません!』と書かれた立札を各階に置く。それを無視して進入してきた奴等は敷地外へとテレポートするトラップを張って二度と入れなくするつもりだ。人事部に「バレーの取材に来たんだから入れてくれ」という文句の電話が鳴るだろうが、「過度な取材を強行した結果だ」として、実際に侵入しようとしている映像を大画面に映せばいい。ただ、画面を切り替えるためにそれが可能なメンバーを一人人事部に居てもらう必要が出てくるんだが……」
「問題ない。多丸圭一にやり方をわたしが教える。電話が来た時点でその映像に切り替えればいい」
「でも、その映像ってどうやって撮るんですか?」
「そんなの簡単よ。各フロアをサイコメトリーしてその映像を黄有希が編集すればいいわ!」
「決まりのようね」
「ああ、というわけで、今日からは夜練中のエージェントの警備は無し。人事部に苦情が来た場合は圭一さんが大画面にその証拠を映し出すことにする。次、最終日のディナーについてなんだが、その後は夜練をするわけでもないし、80階からの夜景を堪能するのなら次のシーズンでも可能だ。監督に最終日にまた回転寿司にしないかと聞いてきて欲しい。昼食が選手全員栄養満点ランチになるからな。監督がOKしたら、青朝倉はその分の材料を量増ししてくれ。ついでに魚介類はできれば午前中のうちに捌いておきたいんだが……可能か?」
「届けてくれる時間を変えるだけだから大丈夫よ、きっと。栄養満点ランチの食材の件もちゃんと伝えておくわね」
「監督には私から伝えておきます!夜練のことを考えなくてもいいなら、きっとOKしてくれると思います!」
「なら、OKを貰った段階ですぐに青朝倉に伝えてくれ」
「わかりました!」

 

「さて、ここからが本題だ。黄チームが体育館で練習試合をしている間、今日の午後三時に異世界の裕さんが北口駅前店に面接にやってくる。面接は青古泉になるだろうが、圭一さんも含めて二人ともどうしますか?」
「昨日、色々と考えていたんだけど、僕も会うことにするよ。異世界の僕も何日か考える時間が必要だとは思うけど、兄貴と僕が目の前に現れるなんて現状を目にしたら納得せざるを得ないと思うし、今のこの光景を見ればなおさらね。できれば兄貴と一緒にここに連れてきて食事をしながら話してみたいんだけど、いいかい?」
「おそらく、何かしらの仕事についているとは思うんだが、出来れば異世界の私も本社の社員として加えて欲しい。始まるのが四月一日なら、今の職を退職するまで充分な時間があるとおもうんだが、どうだね?それに、新川や森が何をしているのかも聞いてみたいと思っている。知っていればの話になるがね」
「では、お二人を異世界の裕さんに会わせてからはオフィスで話をするというのはいかがです?三時半にもう一人面接に来る方がいらっしゃいますし、30分で終わることができるとは思えませんので」
「俺も青古泉と同意見です。異世界の裕さんが納得するまでオフィスで話していただいて構いません。電話対応の声が煩わしいなら遮音膜で対応します。それに森さんや新川さんを知っているなら是非加わっていただきたいですが、お二人とも職を離れるのは難しいんじゃないかと……」
「くっくっ、確かにキミの言う通りだよ。二人の能力なら雇っている側も絶対に手放さないはずさ」
「新川さんの場合は店長として自分で店を構えている可能性が高そうですね。長蛇の列ができていてもおかしくありません。異世界の森さんや新川さんが今何をしているのか僕も気になって仕方がありません」
「いやはや、わたくしがそんなことをしているとは到底思えません」
「まさかとは思うけど、WみくるちゃんのスポーツやW古泉君のボードゲームみたいに、あたし達の世界の新川さんは料理が下手なんてことはないでしょうね?あたしと黄あたしだって身長以外にも料理の上手い下手で違いがあったんだから!」
「その点については十分考えられるかと。私も同様です。異世界の自分と何が違うのか知りたくなりました」
「でも、どちらの世界の新川さんも料理の腕なら変わらないのなら、スペシャルランチやディナーを作ってもらいたいです!」
『キョンパパ、早くバレーしたい!』
「おっと、どうやら喋りすぎたようですね。とりあえず、面接には圭一さんも裕さんも参加するということでよろしいですね?森さんや新川さんのことについてはその後、話題にすることにしましょう」
「キョン先輩!今度の土曜の試合、わたし達もチアガールとして応援させてください!!」
「それは構わんが、ディナーを食べずに俺たちと一緒に早めの夕食を食べていくってことか?」
『是非お願いします!』
「分かった。じゃあ、衣装は有希に頼んでくれ。それで、すまないが夜練終了後、全員ここに一度集まってもらいたい。子供たちの名前の件、最終日のディナーの件、異世界の裕さんの話、生放送に出るメンバー、最後にトラップに引っ掛かって二度と入れなくなった報道陣の件。色々と報告事項もあるし、聞きたい話もあるだろう。軽く酒を飲みかわしながらでも構わない。ここで報告会を開きたいんだがどうだ?」
「では、そちらの手配は僕と朝倉さんでやっておきます。黄僕はずっとバレーとディナーで空き時間がありませんからね」
『キョン、それはないだろう?僕たちはそれまでここで待ってないといけないのかい?』
「ディナーのホールスタッフとして動いてくれてもいいし、黄、青それぞれのチームで何セット目に誰が出るか決めたり、メンバーリストになんて書くか案を出し合っていて欲しい。それで時間が潰せるはずだ。全員で話しているからこそ、閃くようなことも十分にある。すまないが、今日はそれで頼む」
『問題ない』

 

 時刻はとっくに九時をまわり、オフィスには愚妹が既に電話対応についていた。電話対応には、Wハルヒ、有希、青俺、青朝比奈さん。忘れないうちに遮音膜を張っておくか。
「あれだけニュースで話題になっていたのにまだこんなに電話がくるわけ!?」
着信を知らせる音は鳴らないものの、ランプが点滅したまま一向に止まりそうにない。
「問題ない。偽名を語る電話は今日にでも一度通報すればいい」
「あとはアナウンサーに謝らせておいてまた同じことを繰り返させる気か?とでも言えば引き下がるだろう。こっちも大分制限されてきた。今週の試合が終わって一段落すれば鶴屋さんの家の回線は元に戻せる」
「面白いじゃない!偽名の電話は住所も電話番号も全部引き出して警察に送りつけてやるわ!」
颯爽と席に座ったWハルヒがパソコンを起動。耳と肩で受話器を挟んで、サイコメトリーしたデータをどんどん入力していった。俺も負けていられないな。
「はい、鶴屋です」
「☆■TVの仙道ともうし…「今朝ニュースで話題になったばかりだというのにもう偽名を語ってくるとは思いませんでしたよ、○Δ◆TVの小林さん?明日またアナウンサーに謝らせるつもりですか?アナウンサーも迷惑しているでしょうね。あなたのような分からず屋がいるから自分の責任でもないのに謝らなくちゃならない。今日で偽名をかたって迷惑電話をかけてきた人間全員分のリストを警察に送付します。勿論あなたの分も入っておりますので首を長くしてお待ちください。住所は……………、電話番号は………ですね?それでは失礼します」
「……」
おまえらの断末魔を聞いている程こっちは暇じゃないんだよ。受話器を置くことなく電話を切って次の電話に出た。
「はい、SOS Creative社です」
「▽◇TVの小渕と申しま…「またあなたですか、東日本代表のピッチャーさん?謝罪会見もしてイタズラ電話も認めたにも関わらず再度かけてくるとは思いませんでしたよ。相手の四番バッター……しかも女性を相手に勝負をしかける度胸もない癖に、こういうところだけは度胸があるようですね。もう一度あなたから電話があったことを報道陣に伝えることにしましょう。それと、次にかけてきた時点で警察に通報するとお伝えしたはずです。容赦なく通報させていただきます。あなたが牢屋に入っている間に世間ではあなたの出身校が大変なことになっているでしょう。住所は……………、電話番号は………で間違いありませんね?それでは失礼します」
「……!」
朝倉への暴投もこの二回のイタズラ電話も、理性で制御できなかったおまえが悪い。今日も有希に全部伝えてFAXだな。

 

「はい、SOS Creative社です」
「あの、すみません、北口駅前のお店に開店前に入れてもらえませんか?可愛い服見つけちゃって…九月まで待てないんです。できれば冊子も。どこの本屋にもそちらのお店の本が売ってなくて……」
「構いませんよ。都合のいい時間を言っていただければ店舗を開けてお待ちしておりますが、いかがですか?」
「本当ですか!?えっと……今日はこのあとバイトが入っちゃっているので、明日の今頃の時間帯でもいいでしょうか?」
「分かりました。では明日の10時頃ということでよろしいですね?ところで、今はどのようなお仕事をなさっているんですか?」
「えっ?今ですか?今は飲み屋でアルバイトをしているだけなんですけど……それが何か?」
「九月まで待ちきれず、本屋を何件も回っているくらいの方でしたら、我が社の方で働いてみませんか?あなたのファッションセンスによっては社員として採用させていただきたいくらいなんですが、いかがでしょうか?明日いらっしゃるときも私服で来ていただければ、判断材料としてはそれで十分なくらいです」
「分かりました!是非よろしくお願いします!!」
「では、明日お待ちしております。失礼します」
「失礼します」
くくく……これは新川さんや森さん、圭一さんどころじゃなくなってきた。まさか同じアプローチの仕方で来るとは思わなかったぞ。さっきは異世界の新川さんは料理が下手なんじゃないかなんて話が出ていたが、どうやらファッションセンスはどちらも同じらしい。この分だと三月までここでバイトして、四月からは本社に引っ越しだな。あわよくば全員我が社に引き込むか?ビラ配りはないが、それぞれで各部署や社員食堂についてもらうことだって可能だ。って、議題が多すぎて仕事の分担を確認してなかったがビラ配りは大丈夫だろうな?OG六人だけでも十分宣伝になるし、「代表入りおめでとう」などと言われれば四人も喜ぶはず。アルバイトは五人出た時点で一度止めるという話だったが一枠あけておいてもらおう。昼食時にでも話せばいい。
「どうぞ」
いつの間にか異世界移動してきた朝比奈さんがお茶を出してくれた。有希の真似をしたわけでは決してないだろうが、このたった三文字には朝比奈さんの愛情が凝縮されている。ジョン、この際朝比奈さんにも異世界移動の練習をさせてもいいんじゃないか?
『それは秘密にする必要があるわけでもないし、教えて構わないだろうが、あと一週間もしないうちに朝比奈みくるのお茶を飲めなくなるのを忘れていないだろうな?』
そういえばそうだった。まぁ、宣伝以外は戻って来られるしそのときにでも煎れてもらうとしよう。
その後も偽名電話を全て削除。午後から警察に動いてもらうことで全員の意見が一致し、データを送付することになった。

 

「やぁ、おかえりをお待ちしておりましたよ。どうです?そちらの様子は?」
「午前の練習に出ただけでそんなに嬉しかったのか?おまえは。何か朗報でもあるのかと思ったぞ」
「ジョンの世界での練習に慣れていたせいか、他の日本代表と一緒に練習をするのが新鮮に感じましたよ。半年前に同じことをやっていたというのに、どうしたのやら自分でも分かりません」
「このあとは生放送以外に出られる日はないのか?」
「ええ、どうやらそのようです。精々少しでも早く終わったときはテレポートで戻って途中で入れてもらうくらいしか出来そうにありません。ですが、来シーズンは週末を除いていつでも出ることができますからね。それまでに技を磨いておくことにします。バレーも、超能力も」
古泉だけでなく、午前中で何があったんだ?と聞きたくなる程笑顔でいるメンバーがちらほら。OGからは午前中ビラ配りに出かけて「世界大会頑張ってね!」と言われたのが嬉しかったのと、監督に最終日のディナーの確認が取れたこと、それが青朝倉に伝わって青朝倉まで笑顔になっていた。あとは圭一さんから生放送の件で連絡があり、こちらの提案でOKだということ、ついでにこの後のことが楽しみでならないってところか。
「ところで、W佐々木は午前中何をしてたんだ?」
『第二シーズンの脚本を考えていたのさ。今やっているドラマも見終わったし、そろそろハルヒさんや有希さんと同期したいんだけどいいかい?誰を呼ぶかによって脚本が変わってくるからね』
「問題ない。いつでも言って」
「あたしももう見終わってるわよ!」
席につこうとしていたハルヒや有希がそのままW佐々木のところへ向かい、自分以外の三人に触れてドラマの感想と俳優の候補を同期した。
「じゃあ僕は練習試合に出てないときにもう少し考えてみるよ」
「黄僕がそれなら、僕は電話対応をしながら考えることになりそうだね」
「一応全員に伝えておく。今朝のニュースが報道されているにも関わらず偽名を語った電話が多くてな。午前の段階で一度警察に通報している。その中に、謝罪会見をしておきながら二回目のイタ電をしてきた奴がいてな。朝倉相手に勝負する度胸も無かったクセに、こういうところでは度胸があるようだ。東日本代表のピッチャーもリストに加えておいた。今日も有希に記事を書いてもらうつもりだ。写真は謝罪会見のときの映像でいいだろう」
「結局、その程度の男だったってわけね。冊子もそろそろ仕上がる頃だし、わたしも電話対応に回ろうかしら?」
「では僕もそちらに参加させていただきます。交渉も一段落しましたので」
「こういう面では頼りになる。青古泉の一段落とやらも俺たちの予想を上回るところまで終わってそうだ。どこまで進んだか教えてくれないか?」
「我々の世界で倉庫にする場所と二号店の土地を抑えました。今夜シートを被せに行く予定です。本社の方の建設よりも、まずは大学の建設をしなくてはいけないので、そちらの方にエネルギーを使用しています。午後は練習試合に参加ということであれば、またエネルギーを分けていただけませんか?」
「そういうことなら、お安い御用だ」
「古泉君、大学の建設は講義が始まるまでには間に合いそうなんですか?」
「講義の前に部活動がありますので、九月の上旬までには仕上げる必要があるんですが、もう半分以上は建設を終えているので今週の野球の試合が始まる前までには終われるかと」
「凄いです。もうそんなところまで進んだんですか?」
「冊子が完成次第、番号をこちらのものに変えて各書店をまわります。涼宮さん、朝比奈さん、朝倉さんの三人は準備をお願いします」
「ちょっと待った。ハルヒなら運転できるだろうが無免許運転に変わりはない。こんなことで人数を減らしたくないが俺が運転する。テレポートやキューブの拡大縮小を周りに見せるわけにはいかん。電話対応の方は頼む」
「それなら、俺たちはさっさと暴れてくるとしよう」
「ええ、暴れがいがありそうです」
「問題ない。わたしが一番目立つ」
「あの練習でどれだけ実力があがっているのか楽しみね」
「頼もしい限りだね。キミ達の活躍をゆっくり拝見させてもらうよ」
「えっ!?ってことはわたしが試合に出るんですか!?」
『みくるちゃん、いなずまサーブ!』
「あなたにもトスを上げる。そのまま打って」
「心配いりませんよ。とられたら取り返せばいいだけです」
「フフン、あたしに任せなさい!」

 

 青古泉に触れてエネルギーを渡すと、黄チーム七人で体育館へと降りた。練習用の体育館の方は、午前中OGがビラを撒いてくれた分、ENOZと子供たちはまずは見学になりそうだ。
「古泉、サーブから始めるのと前衛から始めるのとどっちがいい?」
「そうですね、前衛からでもよろしいですか?」
「なら、サーブは俺からだな。有希のいつものセリフじゃないが『わたしで終わり』ってヤツだ」
「ご配慮、感謝します」
さて、黄、青のSOS団とOGの三チームなら俺たちが一番攻撃力が高いはず。昨日までの練習でどこまでレシーブ力がついたのか拝見させてもらうとしよう。サーブが簡単に取られてしまうのはお互い様。相手の采配は…ツーアタック!昨日青チームとあれだけのプレーをやっておいて朝比奈さんを狙うというのもどうかと思ったが、ミス一つなく有希の頭上にボールがあがった。ライトから飛び込んできた朝倉との超光速連携だったが、このスピードでもついて来られるようになったらしい。相手のAクイックを古泉のブロックにあてて青チームの連携技。
「来たぞ古泉!」
指示しなくとも気付いているだろう。相手の視線が集まっている腕と反対の腕を動かし、リバウンドを阻止。昨日の経験からか、それでもレシーブを上げてくる日本代表に呆れていた。昨日4セットしかできなかったというのが良く分かったよ。ジョンの世界で練習するときは朝比奈さんも野球の球を受けてもらう必要がありそうだ。しかし、ここまでラリーが続くとセッターもどこにあげたものか迷うらしいな。おかげで何が来るか読めた!!
「C、ハルヒ、一歩右!」
久しぶりの指示に味方も驚いていたが、すかさず動いたハルヒが真正面でボールをレシーブ。相手と違って有希の方は読めやしない。そのままツーアタックを放ってようやく1-0。
「何よあんた、指示できるのなら最初からやりなさいよ!」
「リバウンドの連携は視線で分かるから古泉に指示が出せた。これだけラリーが続くと相手も攻撃が単調にならないようにと迷うらしい。それでようやく読めただけだ。これからラリーが続けば読める回数も増えてくるだろう。一応、攻撃力じゃ俺たちが一番上なんだ。ちゃんと空いたスペースに決めろよ?」
『問題ない』

 

 スイッチする以外はセッターはすべて有希が務めることになっているのだが、青古泉もOGもあれだけラリーが続く中で良く単調にならずに済んだもんだ。野球と同じく、相手に見えない様にサインを味方に送っているのだろうが、二、三回ラリーが続くと次に来る技が読めてくる。
「ツー!跳べ、古泉!」
さすがにツーアタックでリバウンドさせるわけにもいかずフェイントで落としたが、次は使われるかもしれん。3-0まで来たところで相手のタイムアウト。
「圧巻の集中力で何よりです。しかし、たった三点とるのにこれだけ時間がかかるのでは15点マッチでも収まりきらないのではありませんか?」
「そこはTV局側が様子を見て時間を延ばすだろう。それより、次のツーに気をつけろよ?俺が指示を出したせいで古泉のブロックを逆利用してくるかもしれん」
「分かりました。今度は僕だけで判断させてください。それにしても、よくそんな先のことが読めますね。これも用意した一着ですか?」
「いや、今のプレーをリバウンドさせて俺たちでできないか考えたが、相手がブロックに跳んでくるわけがないと思って諦めた。だが、相手にはそれができる。俺がツーだと読むせいでな。それだけだ」
「なるほど、そういうことでしたか」
「次からあなたたち二人は連携のつもりで跳び込んで来て。わたしがそれに合わせてトスを上げる」
「連携か通常のバックアタックか分からなくするつもりのようね。でも、ボールが跳ね返ってきてもちゃんと反応してくれるのかしら?」
「『フフン、あたしに任せなさい!』なーんてな」
「くっくっ、息がピッタリで見ていて羨ましいくらいだよ。次のセットは僕にも出番をくれたまえ」

 

 やれやれ、ここまでラリーが続くとこんなにしんどいとは思わなかった。有希の提案した作戦で得点をぶん獲り、午後の全セット圧勝で幕を下ろした。明日以降、真似してくることも考えられるが、これで世界大会を勝ち抜いてくれるのならそれでいい。夜練を終えて全員81階に集まった。青有希も幸の宿題を切り上げて降りてきた。テーブルとアイランドキッチンに用意された食べ物や飲み物、俺にはついでに夕食が前にだされて席に腰かける。
「さて、今日一日の報告会を始めようと思っているんだが、疲れが少しでも癒えるように別の場所に移動したい。みんなはそのまま座ったままでいい。俺がテレポートする」
『別の場所って?』
ほぼ全員からの疑問に行動で応える。机や椅子の下には芝生や土。45000人を導入できる観客席と野球のグラウンドが姿を現した。
「キョン、もしかしてここ……」
「多分ハルヒの想像通りだろう。これがこっちの世界のSOS天空スタジアムだ」
『SOS天空スタジアム!?』
『ちょっと待ちたまえ!もう作り上げたっていうのかい?』
「青古泉が言っていた大学の新校舎と同じだよ。少しずつ建設していただけだ10月になったらシートと垂れ幕を外してもいいだろう」
「それで、疲れが少しでも癒えるようにって一体どういう…」
「このスタジアムにはちょっとした細工を施してある。周りの様子を見ててくれ」
「えぇっ!?キョン君、折角スタジアムを作ったのに壊しちゃうんですか!?」
「落ち着いてください、朝比奈さん。これは情報結合の解除ではありません。透き通っているだけです」
「どうやらシートも一緒に透明にしたらしいな。こんな演出黄俺にしかできん」
「綺麗………」
「満天の星空にこんな綺麗な夜景なんて……ロマンチックね」
『キョンパパ!お星さま綺麗!』
「ハルヒ、俺はこの会議が終わったら垂れ幕の内容を書き換える。十月一日完成予定ってな。例の挑戦状にここでやることを書き加えてくれ。それと年越しライブは無理だが、今みたいにすべて透明にした状態でSOS団とENOZのライブを演りたい。クリスマスイブのライブと年明け一月五日に新春初ライブだ。これで日本武道館や東京ドームを抑える必要が無くなった。あとはチケットを売るだけだ」
『ここでライブするの!?』
黄、青のSOS団とENOZが立ち上がった。消失世界じゃあるまいし、ただ野球をするためだけに造ったとでも思っていたのか?おまえらは。
「当たり前だろう。唯一無二のスタジアムでライブをするんだ。他のアーティストからも依頼が来るかもしれんが最初はSOS団とENOZに決まっているだろ!」
『絶対演る!!』

 

 一通り夜景や星空を堪能したところで、報告会を開始した。
「それで、異世界の裕さんがどんな反応してたのか教えなさいよ!」
「僕が予想していた通りだったよ。『なんで兄貴がここに!?』なんて言ってた。その後僕が出ていったら何も言えなくなっていたよ。すぐオフィスに移動して色々話を聞いたんだけど…ここからは兄貴に話してもらった方がいいかな?」
「ああ、わたしも驚いたよ。森や新川と一緒に会社を経営していたらしい。だが、数年前から次第に赤字になるようになり、裕だけでも他に就職先があればと探させていたんだそうだ。それなら異世界の私や森、新川も一緒に働かないかと提案しておいた。新川の料理の腕はこちらとほとんど変わらないそうだ」
「ってことは青チームの森さんや新川さんにも店員をやってもらえそうね!本社が建てば今と同じところで働いてもらえばいいわよ!赤字の分はこっちで支払って会社をたためばそれで済むわよ!」
数年前から次第に赤字か……視線を感じて眼をそちらに向けると古泉が俺にアイコンタクト。どうやら考えていることは同じらしい。ハルヒの力が消えて伊織に宿ってから異世界の方にも影響が出始めたと考えてほぼ間違いない。異世界の圭一さんたちからすれば、タイミングが良かったということになりそうだ。しかし困ったな、森さん、新川さん、裕さん、二番手の希望者にあいつで丁度五人。
「ハルヒが言った通り働いてもらえるのならそれで四人ってことでいいのか?」
「あんた達が試合している間にもう一人希望者が出たわ。古泉君もそれで一旦ストップして張り紙も内容を書き換えているから問題ないわよ」
「すまん、一番最後に話そうと思っていたんだが、そんなことになっていたのなら今話さないとダメだな。午前中にバイト希望じゃないんだが、オープン前に開けて欲しいってヤツが出てきた。書店まわってもこの店の本がどこにも置いてないから冊子も購入したいそうだ」
「バイト希望じゃないのなら別に今じゃなくてもいいじゃない!!」
「明日の十時にそいつが店舗に来ることになってる。そのときのファッションと、店に置いてある品物でコーディネートしたものを有希と朝倉に見てもらって、二人がOKなら異世界のSOS Creative社の社員にしたいんだよ」
『社員にする!?』
「ちょっと待ちなさいよ!バイト希望でもない奴がなんでいきなり社員になるのよ!」
「プ…くくく……なるほど、そういうわけですか。W新川さんと同じく、彼女のファッションセンスに違いが無ければ即採用です。何せ、こっちはデザイン課から一人減ることになるんですからね。スケッチブックや色鉛筆も渡すおつもりなんですか?」
「ああ、そのつもりだ。話の切り出し方まで同じだったから、笑いを堪えるのに必死だったんだ」
「彼女って……二人で一体誰のこと言ってるのよ!あたし達が分かるようにはっきり説明しなさいよ!」
「お前だってその場にいただろうが。北口駅前店のシートがはがれて、オープンまで待てなくてオープン前に入れて欲しいって言った奴だよ」
「もしかして…異世界の私ですか!?」
「正解。昨日OG達で話していたことが現実になった」
『えぇ―――――――――――――!!』
「明日の十時に来て、他のメンバー五人がユニフォームを着ている状態で現れたらどういう反応するだろうな?」
『絶対見に行きます!!』

 

「あのー…キョン先輩、異世界のわたしは他には何か言ってませんでしたか?今何してるとか…」
「飲み屋でバイトしているそうだ。あそこにしか置いていない我が社の本を、書店を何件も回って探したくらいだから、ファッションに関してはほぼ同じとみて間違いないはずだ。さっき古泉が言っていた通り、明日スケッチブックと色鉛筆を渡す。朝倉からは11月号の特集と、参考になりそうな冊子をいくつか用意して欲しい。というわけだから九月一日からすぐに店員というわけにはいかないだろうが、正社員にという話もしておいた。今のバイト先を辞める旨を伝えて、その後店員として働くことになるだろう。時給と採用されたデザイン分給料に入るとなれば向こうも喜ぶ。残り五人のうち何人かを誘ってくるかもしれん。そのときは能力に応じて編集部だったり経理部、本店の店員として活躍してもらえばいいだろう。来年は異世界でクリスマスカップでも開催するか?」
「キョン、それはやめておいた方がいい。決勝で争うのは僕たち三チームのうちのどれかになってしまうし、僕たちも張り合いがない。でも、異世界の彼女たちならジョンの世界に呼んでバレーをするのもいいかもしれないね」
「じゃあ、明日の10時に俺とOG六人は北口駅前店で待つってことでいいか?有希と朝倉はそれまで電話対応を頼む」
『問題ない』
「では、これを持って行くといいでしょう。六人が日本代表入りしたときの記事です。驚かれると思いますよ?」
『古泉先輩、ありがとうございます!』
「じゃあ、次だ。今朝話していた夜練の間のトラップの件だが、10人ほど引っかかって入れなくなった奴がいる。有希、映像ですぐに出せるよう準備を頼む。人事部に電話がかかってきたら今朝話したような形で返すよう社員にも伝えておいてください」
「問題ない」「社員が受けた場合は私に繋ぐよう連絡しておこう」

 

「あとは、メンバーについては黄、青、両方とも誰が出るかまだ決まっていないはずだ。そっちの方は焦る必要はないんだが……子供たち三人をどうするかで困ってる。俺もいい案があれから浮かばなくてな。何か無いか?」
『キョン(伊織)パパ!わたし出られるの!?全部出たい!!』
「みんな同じ気持ちなんだから無茶を言うな。それに、今までずっと練習試合に出られなかった人もいるんだ。青古泉が一、二セット、古泉が四、五セット、子供たちが二、四セットで今回は妥協してくれ」
「くっくっ、三人とも出してあげたまえ。異世界のOG達のことを聞いて、ようやくそれが可能な方法を思いついたよ」
はぁ……と思わず溜息が出る。コイツ、人には焦らすなと言っておきながら、自分だけは例外だと言わんばかりに焦らしてきやがる。TV局側には出場するメンバーを絞るために検討中だと言って結局まだ出していない。
「で、どんな方法を思いついたんだ?」
「くっくっ、先に日本代表入りした二人の苗字で出せばいい。それなら姉の日本代表入りを受けて自分もという理由付けになるだろう?無論双子は苗字を統一する必要があるけどね」
「なるほど、その手がありましたか。確かに理由付けに困ることはありません」
佐々木も自分で閃いたアイディアが面白くて仕方がないらしいな。コイツ独特の微笑が二連続で出るなんて、おそらくこれが初だろうな。
「そういえば、妹いたよね?」
「そうだけど……佐々木先輩、そんなことで大丈夫なんですか?」
「青チームと交代で出場していることに比べれば、そのくらい心配いらないよ。キョンがよほど汚い字で書かなければだけどね」
「青古泉の殴り書きと一緒にするな。まぁいい、とりあえずこれで万事解決だ」

 
 

…To be continued