500年後からの来訪者After Future3-15(163-39)

Last-modified: 2016-09-06 (火) 10:00:18

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future3-15163-39氏

作品

異世界のOGと出会い、こちらと何ら変わりの無いファッションセンスと斬新なアイディアに、朝倉も即社員としてデザイン課で働いて欲しいとまで言い出した。異世界のOG六人はこちらの世界での日本代表との生放送を特等席で見ることになり、その前日に異世界の圭一さんたちを招き入れることになった。今日は青ハルヒと青古泉が書店を回り、異世界でもいよいよ通販がスタートする。明日は野球のプロ球団戦、明後日はバレーの生放送とイベントづくしだが、闘いがいがあるってもんだ。

 

 その日の夜、W鶴屋さんもジョンの世界へと来訪。別に寝ている間のことなんだから、今までだって来ても良かったんだが……。先週の名誉挽回をと青鶴屋さんは俺の180km/h台後半の球を捕るキャッチャーとしての練習、その列に並んだのがWハルヒ、朝倉、青朝比奈さん、そして鶴屋さん。青俺は有希とナックルボールの練習。すでに指三本での練習に入っていた。青有希、青朝倉、W佐々木は青古泉のノックを受ける練習中。その間、手の空いたジョンの前で朝比奈さん、OG、それにENOZがキャッチャーやバッターとして構えていた。古泉は一人でバレーのサーブ練習。これまでの戦闘経験を考えればいくら剛速球でも古泉なら対応できる。今回は俺と古泉のセリフが逆になってしまいそうだが、解禁するまで楽しみにしておこう。今は一球でも多く球を投げることに専念するのみ。
食事の支度と仕込みは青ハルヒと二人で午前中のうちに終わらせることになった。その分異世界で電話対応をしていたのは青古泉。土日ということもあり、全国展開している企業からの電話は来週にならないとないのだが、昨日の段階からパート、アルバイトの希望者が出ており、午後から面接ということになるだろう。青ハルヒと一緒に仕込みを続けていたものの、アイツの今後の行動が気になって仕方がない。
「青ハルヒ、すまんがしばらくの間、一人で作業を進めてもらえないか?」
「別にいいけど、あんた一体何しに行くのよ!?」
「異世界のあのアホの様子を見てくる。藤原のバカと結託するようなことは絶対にありえんが、青古泉がかけたという催眠は、アイツ自身が痛みを感じるものじゃない。毎晩その夢ばかり見せられて、こちらの世界のときと同じくトラックで突っ込んでくることだってありえる。ステルス状態であのアホの頭の中を覗いてくる。それだけだ」
「それもそうね。あたし達の邪魔をしようとしてたら、古泉君の催眠よりもっと重い罰を与えておいて頂戴!」
「ああ、そのつもりだ」

 

 まず確認するべきは青俺の携帯にあのアホからの連絡が入っているかどうかだ。何通もメールが来て、何件も着信履歴が残っているのが目に見えているけどな。青有希の部屋の掃除もついでにやってしまおう。青チームの携帯も充電器でつながれていなければいくら待機モードでも電源が切れていただろうな。青俺の携帯を確認すると、アホの谷口からの着信履歴が24件、メールが18通も届いていた。最初の方は、『最近、俺がキョンたちにズタボロにされる夢を見るようになったんだが、何か知らないか?』いかにもアホの谷口らしい。俺たちだからこそ青古泉の催眠だと分かるが、普通の人間からすれば『おまえがどんな夢を見ているかなんて俺たちにわかるわけがないだろう』という反応で返ってくる。その後のメールも次第に、悲痛なメールになっていき『なぁ、頼むよキョン、何とかしてくれ!』だの、『俺様を無視するつもりか!?』だの『今は隠しているようだが、異世界人と一緒に野球のチームを作っていたことをバラすぞ!』だの報道陣にそんなことを話したところで、俺たち以外からはどう見たって別人にしか見えない。異世界人なんて言っても信じるわけがない。刑の執行が決まったな。あとはあのアホの脳内がどうなっているか見るだけでいい。青谷口……もとい、アホ谷口の家の屋根へとテレポートして家の様子をサイコメトリー。OGと似たような状態だな。夜間のファストフードチェーン店で食い扶持を稼いでいるだけ。だがOGとの圧倒的な差はOGの方がデザインやファッションセンスという分野で特化しているということ。対してアホ谷口には何の能力の欠片もない。ステルスで家の中へ潜りこみ、アホ谷口の脳内をサイコメトリーしたが、案の定。トラックを盗んで北口駅前店に突撃するつもりだったが、そのトラックのあても見つからず、運転できるかどうかも不明。自家用車でガラスを割って中へと侵入する……か。青古泉の悪夢をもってしてもそこまでやる度胸があったとはな。監獄に閉じ込められたどこぞのピッチャーに少し分けてやりたいくらいだ。だが、おまえには向こう五年間、痛覚を伴った催眠の眠りについてもらう。無論、実時間でな。夢で見た映像を体感させてやるよ。再度触れた瞬間、アホ谷口が倒れる。安心しろ、両親が帰ってくれば病院に運ばれ、植物人間状態にはなるが必要な栄養素は点滴によって得ることができる。五年後に全員でお見舞いに来てやるよ。どんな反応をするのか楽しみが一つ増えた。じゃあな。

 

「遅いわよ、あんた!アイツの様子を見に行ったんじゃなかったの?」
「ん?ああ、あのアホの家に行く前に、あいつから青俺に何かアプローチをしているかもしれんと踏んで、青有希の部屋に寄ってきた。ついでに掃除もな。最初に届いていたメールの内容は『最近、俺がキョンたちにズタボロにされる夢を見るようになったんだが、何か知らないか?』だったよ。どれだけ文面に矛盾があるのかまるで分かってない。それに、アイツと俺たちとでは文字通り住む世界が違うんだ。青俺にどんなアプローチをかけようと青俺に伝わることはない」
「それで?結局アイツをどうしてきたのよ?」
「聞かない方がいいと思うぞ?今日と明日の試合に集中できなくなるし、イラつくだけだ」
「もうイラついているんだから、どの道変わりないわよ!」
「こっちの世界と同様、トラックで北口駅前店に突っ込むつもりだったようだが、そのトラックを盗むあてもなく、結局自家用車で代用するつもりだったらしい。その度胸だけは認めてやってもいい。牢屋の中に入れられたどこかのチームの投手に分けてやりたいと思ったくらいだ」
「アイツ……もう我慢できない!あたし自ら制裁を加えに行ってやるわ!」
「制裁ならもう下しておいた。青古泉がかけた催眠を今度は実体験してもらうことにした。痛覚を遮断することなく、実時間で五年間の眠りにつく。その間俺たちからの容赦の欠片もない制裁が24時間365日続けられることになっている。明日からは病院で植物人間状態だ。五年後に目が覚めて、それでも俺たちに反抗しようというのならこっちの谷口と同じようにするまでだ。両手を切断し、両膝の骨を粉砕する。俺もここまで冷酷になったのも久しぶりだ。今日の試合代打でいいからどこかで出させてくれないか?」
青ハルヒが大きく息を吸い込むと、はぁと溜息を吐く。俺や佐々木風に言うなら「やれやれ」ってところか。
「あんたがそこまでしてきたのなら、もういいわ。とりあえず、これで邪魔者はいなくなったわけだし、あんたも早く仕込み作業に戻りなさい」
「ああ、そうさせてもらう」

 

食事の支度も今日の仕込みも終わり、あとは調理スタッフに今夜のディナーを任せるだけ。異世界の圭一さんたちの分も準備ができている。圭一さんの言っていた青新川さんを唸らせるようなものになっているといいんだが。ビラ配りに行っていたメンバーや練習に参加していたENOZたちが戻り、残るは圭一さん達と青俺、青古泉。
「戻りました。既に皆さんお揃いのようですね。では、異世界の圭一さんたちに来ていただくことにしましょう」
圭一さん、森さん、裕さんの二の腕にバンダナが巻かれている。森さんは境遇の違いで髪型や化粧に違いが出るとばかり思っていたが、バンダナをしているということは向こうの森さんと変わらないらしいな。他に違いがあるとすれば……いやいや、そんなことを会うたびにやってもらってたんじゃ意味がない。くそ、アホ谷口で苛立っていたのに、思い出したくもない顔まで思い出しちまった。テーブルをグーで殴りつけた俺に周囲の視線が集まる。
「どうしたのよ、あんた」
「いや、OGと同じで森さんも髪型や化粧で区別がつくかと思ったが、バンダナをしているところを見ると、そうでもないらしい。他に違いはないかと探していたんだが……思いついたついでに藤原と橘の顔が一緒に浮かんできたんで腹が立ったんだよ」
「是非聞きたいものですね。僕も先ほどから圭一さんたちの区別がつけられないものかと見比べていたんですが、何一つ見つけられなかったんですからね」
「やめておいた方がいい。朝倉の殺気と似たようなものだ。朝比奈さんが最初に藤原たちに誘拐されたとき、新川さんと圭一さんの車であのバカを挟みうちにしたことがあった、そのときだ。橘に拳銃を突きつけて冷徹な面構えをしていた森さんのあの表情は今でも忘れられん。異世界の森さんには閉鎖空間の対応も未来人たちとのカーチェイスをやった経験がないのなら……と思ったんだが、いちいち森さんにその顔をしてもらうわけにはいかんだろう?」
「くっくっ、確かにその通りだ。でもね、キミの今の発言がいいヒントになってくれたよ。第二シーズンの前半で森さんが美容院に来る場面を撮影したい。職業や住まいは変わっても自分たちはいつでも彼を監視していると警告をしに来たって筋書きだ。もっとも、髪型を変えてもいいという本人の許可が無ければ変えられないけどね」
「くっくっ、もう一ついい案が浮かんだよ。異世界のOG六人を美容院のスタッフとして出演してもらうというのはどうだい?他の五人も髪型やメイクで違いが出てくるはずだ。明日来た時点で話題として挙げてくれたまえ」
「森の髪型については、今後検討するとして、そろそろ異世界のわたし達も呼びたいんだが、構わないかね?」
『面白いじゃない!あたしたちで違いを見極めるわよ!』
『問題ない』

 

 「ようやくか」と言わんばかりに青俺が異世界移動で現れた。同じく青いバンダナを二の腕に巻いた、多丸兄弟と森さん、新川さんが姿を現した。やれやれ、ここまで似ているとは……髪型が元に戻ったとはいえ、殺気で違いが出るW朝倉とは違い、これじゃ古泉を呼び戻してもどっちがどっちだか見当もつかんだろう。
「これが四月に完成予定の日本一の建物の中とは驚きだ。それに、我々と同様違うところがほとんど無くて区別がつけられないよ。色の区別や名前の呼び方はこちらの世界の私から聞いた。新川以上の料理をやらを食べさせてもらえないかね?」
「困ったわね、喋り方までこっちの圭一さんと同じなんじゃ、どうしたらいいのか分からないわよ。何か違いがあるといいんだけど…」
「とりあえず、練習試合の時間も迫ってる。早く済ませてしまおうぜ」
人事部の社員もいないしエージェント達が席を変え、佐々木の次に俺の父親、圭一さん、裕さん、森さんと続き、新川さんの分の席を空けてエージェントがそれ以降の席に腰掛ける。異世界の圭一さんたちも同様に席に着いた。青佐々木と青圭一さんの間は俺の母親の席。今はOGもいるが今月いっぱいでいなくなることを考えれば、会議に支障をきたすことはあるまい。そこにいたほぼ全員の視線が異世界の圭一さん達のところに集まる。やれやれ、初めてグレードアップしたときのみんなの反応と変わらん。氷で閉ざされたようにカチンと固まっていた。
「わたくしの料理とこれほどの違いがあるとは思いもよりませんでした。一体どうやって……」
「今ここにいるメンバーのほとんどに俺のエネルギーを分け与えて、超能力が使えるようになったんです。異世界の圭一さん達がこっちに来ることができたのも、その超能力によるものです。後ほど、異世界の圭一さんにもエネルギーをお渡ししますが、これはサイコメトリーという超能力を使っています。先週の野球の試合を終えてから報道陣の偽名を語った電話を処理していけたのはこの能力のおかげです。あとで試しに電話対応してみてください。受話器に『相手の本当の名前と会社名、住所や電話番号を教えてくれ』と聞けばすべての情報が伝わってきますし、キーボードも『おまえの使い方を教えてくれ』と聞けばメモに書くよりも早く入力することができます」
「そのサイコメトリーと、この料理がどうつながるのか説明してもらえないかね?」
「受話器やキーボードと同じですよ。食材に触れて聞いたんです。『おまえの美味さを最大限にまで引き出せる切り方を教えてくれ』ってね。試しに食べてみてください。サイコメトリーで切った野菜スティックです」
指を鳴らしてコップに入った野菜スティックをテレポート。三種のソースも添えてみた。すぐに確かめようと野菜スティックを一本ずつ指で挟んでソースにつけて食べている。
「驚いたよ、ただの胡瓜をここまで美味しくできるなんてね。これが一瞬にして僕たちの目の前に現れたのも超能力でいいのかい?」
「ええ、文字通り瞬間移動……テレポートです。ですが、今の一連の流れで圭一さんは区別がつけられそうですね」
『区別がつく!?』
「黄キョン君、どうやって見分けたの!?」
「キョン君どこが違うって言うんですか!?」
「何だ、誰も気付いてないのか?異世界の圭一さんをもっとよく見てみろ。絶対にこっちの圭一さんではありえないところが一つあるだろうが」
『キョンパパ!わたしも人参食べたい!』
『!!!』
「そうよ!こっちの圭一さんは、新川さんの料理ですら人参だけ残すくらい嫌いなのに、何種類もある野菜の中から選んだものが人参だなんてありえないわ!やっと一つ違いが見つけられたわね。でも、それでも普段仕事をしている最中はバンダナ以外区別できそうにないわね。何か方法はないかしら?」
「心配いりませんよ。彼が提案した仕事に就くということであれば働いている場所がまったく違います。二号店も今夜シートを外しに行って、九月一日に同時オープンすることにしましょう」

 

「しかし、キミもなかなかやるじゃないか。異世界の圭一さんが人参を食べられるか確かめるなんてね」
「圭一さんの外見以外の大きな特徴と言えば、これしかないだろ?まさか一番に人参を掴むとは俺も思ってなかったが、異世界の圭一さんは人参が好物とみて間違いないようだ」
「私も話を聞いて驚いたよ。新川の料理ですら人参を残すほど嫌いとはね」
『話が一段落したのなら、俺から議題を挙げてもいいか?』
「ジョンが議題を挙げる!?おまえ、何する気だ!?」
実体化したジョンが大きなケースを持って現れた。
「議題をあげるというより、野球関係者に渡したいものがあるだけだ。受け取って着けてみてくれ」
SOS団メンバーとOGたちの前に配られたのは……スカ○ター!?
「おまえ、こんなものをつけて俺たちに試合しろって言うつもりか!?いくらプロ野球選手で身体を鍛えていたとしても戦闘力たったの5のゴミと変わらんだろうが!」
『まぁ、聞けって。まず今配ったのは戦闘力を測るためのものじゃない。俺やテレビカメラが写した映像が見られるようになっている。それに、耳からはアナウンスや実況が何を話しているか聞こえてくるように細工を施した。俺たち以外の人間には見られないようにステルスを張ってあるから、試合中に着けていてもテレビカメラにも映らない』
「そりゃあ、試合中にアナウンスが何を喋っているか分かればいいだろうけど、バッターボックスに立った時は邪魔になっちゃうわよ」
『その心配はいらない。モニターの横に外側から押せるスイッチがある。それを押せば着けている感覚はあるが、俺たちにも見えなくなる。バッターボックスに立つときはそのスイッチを切るだけだ』
ジョンに唆されている気がするが、実際に装着してスイッチを入れて確かめていた。俺も試しにつけてみると左目だけジョンの視線で見た映像が流れている。明日のバレーでも使えそうだな。
「これは面白いですね。試合が待ち遠しくなりましたよ」

 

 結局、あのアホのことについては触れず、午後は青ハルヒは練習試合へ、俺はオフィスへと赴き既に青古泉から渡されていたエネルギーを青圭一さんに量増しすると、足りなくなった分のエネルギーを青古泉に分け与えて、仕事を交代した。アイツが今動くとすれば、地元の三号店、四号店の見当をつけて交渉に入ったり、本社付近の土地を抑えることくらい。青古泉が座っていた席からは倉庫に品物を入れる作業は既に終えているそうだ。これで我が社の六つ目の支部が出来上がることになるのか……一番負担がかかるのはエージェントということになりそうだ。青古泉や、撮影を終えた古泉、有希あたりに手伝ってもらう必要が出てくるだろう。倉庫のパート希望者からの電話を受けつつ報道陣を潰していく。青圭一さんもそれに倣って偽名を語る電話をどんどん退けていった。W鶴屋さんを入れて早めの夕食を終え、黄チームとOG六人に催眠をかけて異世界の東京ドームへ。ジョンから渡されたスカウターも全員つけていた。案の定、閉鎖空間に阻まれて入れない報道陣が何人もいたが、知ったことか。オフィスに電話をかけているかもしれんが、もうこの時間は誰もおらん。本社の81階でW圭一さん達が見ているだろうからな。その会社、TV局の人間の誰が行っても入れない様にしてある。偽名電話の制裁を甘んじて受けるといい。ENOZと一緒に練習試合に出ていた二人が戻り、連絡を受けてベンチへとテレポート。
「いよいよ最終決戦ですね。こちらも全力でぶつかっていくことにします。前回と多少変更がありますので、念のため確認をお願いします。一番ピッチャー涼宮さん、二番ライト朝倉さん、三番セカンドハルヒさん、四番レフト黄有希さん、五番ショート黄佐々木さん、六番ファースト朝比奈さん、七番サード朝倉さん、八番センターを彼に、九番キャッチャー鶴屋さん。以上です」
「ちなみに、変更した理由を聞いてもいいにょろ?」
「アマチュアとプロの違いを涼宮さんに見極めてもらってから黄朝倉さんに本塁打を放っていただきます。それに、前回お伝えした采配ではグラウンド上の司令塔がいなくなってしまうのと、黄鶴屋さんを出した状態でピッチャーを変えようとすると、そこまでで黄鶴屋さんには出番がなくなってしまいます。そんなことになるくらいならここ一番というところで活躍して頂いた方がいいと判断したまでです。それまでコンディションを整えておいてください」
「あたしに任せるっさ!」

 

 ジョンのスカ○ターのおかげで生放送開始前からアナウンサーや実況が会話している内容が耳に入ってくる。前回と同様、今回も国民的アイドルと渡辺投手が実況に入るらしいな。今回は俺たちが先攻。プロとアマチュアの違いを見せてもらうことにしよう。主審の立ち位置から相手ピッチャーの様子やバッターボックスに立った青ハルヒが見られるとはジョンに感謝しないとな。ようやく気が付いたアナウンサーがチアガールが増えていることについてコメント。
「SOS団チームの選手登録は前回と変わらずですがチアガールの人数が増えていますね。先ほども剛速球を受けていたようですが、中○さんどう思われますか?」
「いや~あそこまで層が厚いとなると、この試合どういう展開になるのか見当もつかないですよ」
球速も画面で表示してくれるし相手投手を分析するのにこれ以上のものはない。ワンストライクワンボールから、青ハルヒがバットを振るのを誘う球を見切ってワンストライクツーボール。第四球で青ハルヒが動いた。打った瞬間耳元でアナウンサーの声がうるさいくらいだったが、セカンドとショートの上を通り左中間へ。青ハルヒのツーベースヒット……何ぃ!?センタープレイヤーが素早く捕球すると二塁まで進もうとしていた青ハルヒが途中で止まり一塁へと戻る。そうやすやすとは進ませてくれないか。だが、次の朝倉の本塁打なら青ハルヒがどこにいようと関係ない。後続に繋げるためかどうかは知らんが、相手の出方を見てツーストライクツーボールまで追い込まれた。ストライクゾーンすれすれからボール球に変化する球を見極めて、ツーストライクスリーボール。相手投手の闘志は漲ったまま一向に小さくなる気配はない。第六球、相手のフォークボールを読み、朝倉がバットを振った。打球の勢いは落ちることなく一回裏の得点表示されるところへと突き刺した。
「一回裏、相手に一点たりとも点はやらないという意思表示でしょうか。これまでも佐倉選手の放った球は相手チームに対する宣言とも言えるでしょう」
「バックスクリーン直撃弾だけでも凄いのに、あんな小さな的をよく狙えるな~完全にフォークだと読んでいましたね。どうですか?渡辺選手」
「ここまで精密なホームランは僕も見たことがないですよ。前回の試合でも佐倉選手にバットを振らせるような変化球はすべて通じませんでしたからね。ただ打つだけではないということが良く分かります。敬遠された分、今回は二番手ででてきたんでしょうが、SOS団チームの主砲に違いないと思います」
あ~あ、実況がそんなこというもんだから、ハルヒと有希が燃やしていた炎に更に油を注いでしまったようだ。

 

 先ほどの球で十分だと判断したらしいハルヒが初球を叩いた。レフト方向へ一直線だったが、フェンスに当たってレフトポジションのプレイヤーが捕球。これでもツーベースヒットにはさせてくれないようだ。すかさず二塁へ送球すると二塁の直前でハルヒが立ち止まり、板挟みにされている。ファーストにはピッチャーがついていた。逃げ切れるか……?諦めたハルヒがとぼとぼと一塁へ向かっていく。その様子を見て間に立っていたファーストの選手にボールを投げた。音と同時にハルヒが振り返り、二塁へ全力疾走!すぐに投げ返したが審判の判定はセーフ。朝比奈さんとOG達が歓喜の声を上げている。
「いや~~~今のは意表を突かれましたね」
「挟まれた状態であんなにゆっくり戻ろうとしていたら、誰だってアウトを取るチャンスだと思いますよ。ボールを投げた瞬間に振り向きましたからね。後ろにも眼がついているような……いや、耳に神経を研ぎ澄ませていたんだと思います。今のプレーはこの試合を見ている人全員が意表を突かれたのではないでしょうか。同じ手は通用しませんが、ここぞというときに使ってきたと言うべきでしょう」
「ということは、次の長門選手に期待がかかります。先ほどの精涼院選手のプレーに応えることができるのか。……おっと、ここでキャッチャーが動いた。敬遠、敬遠であります」
「次の佐々木選手で敢えて盗塁をさせるつもりでしょう。彼女はバントに特化した選手だとこれまでの試合で散々見せてきましたからね。既に対策をとられているようです」
ノーアウトランナー一、二塁バッターは五番佐々木。ショートがピッチャーの横で構えレフトが二、三塁間まで出て来ているほどの対策を取ってきたか。あいつに長打はないと分かっているからこそ可能な陣形であって、ここで隠し玉のホームランでも出せば全国民が驚いてしまう。だが、アイツにそんな真似は出来ない。一度一塁へ牽制球を投げたが有希のリードはさっきと同じ。「バントをするならどうぞ」と言わんばかりの絶好球が放たれた。先週はこれを見送ったが今回は初球で叩いた。一、二塁間を勢いよくボールが走っていく。ハルヒと有希が佐々木の打つ前から動き、有希は二塁、佐々木は一塁へと無事に出塁したが、ハルヒが三塁を蹴ってホームベースへ直行!ライトプレイヤーがホームベースに向かって投げるが俺たちのレーザービーム程ではない。行けるか……?
「お―――っと、精涼院選手三塁で留まらずにホームを狙った――――――!!それを見た長門選手も三塁へ。ライトからキャッチャーにボールが送球されます。精涼院選手のヘッドスライディング―――――――――!!」
「判定は!?今の判定どうなった?」
審判の判定はアウト。VTRでハルヒのヘッドスライディングの様子が映し出される。ハルヒの手がホームベースに届く一歩手前でボールの収まったミットでタッチされていた。ベンチにいた全員がハルヒのプレーにスタンディングオベーション。
『ママ凄い!』
「も―――――――――――――――!!あとちょっとだったのに!!」
「スローVTRでもほんの0コンマ数秒差だった。おまえと佐々木のプレーで有希が三塁まで行けたんだ。さっきの二塁をぶん獲ったことも含めて、観客の注目を浴びてたんだぞ?暫定だがMVPに間違いない」
「まだ一回表だというのに、ここまでのプレーだけでこれほど会場を興奮させるとは……。僕も皆さんのように暴れてみたいですね。流石黄チームSOS団の団長ですよ。大いに盛り上げてくださいました」

 

「いやぁ~~~今のは惜しかったなぁ………。見てて興奮しましたよ!あそこからホームまで行く度胸がね、俺凄いと思う。アウトにはなったけど、まだランナー一、三塁じゃこの後も一瞬たりとも見逃せないですね」
『今からステルス状態で声帯を戻しに行く。いきなり触られても驚くなよ?』
『問題ない』
ショートとレフトの選手が元のポジションに戻り、バッターボックスには青朝比奈さん。ここからが本当の一番手だが……どう出るかだな。有希は得点を獲りに、佐々木は二塁へ少しでも安心して進むためにリードを広げていた。
「今黄有希が頷かなかったか?朝比奈さんを見ながら……」
「あんたこの距離で良く分かるわね。ただでさえ反応がほとんどないのに」
「ですが、もしそれが本当なら、黄有希さんが点を取りに行くという合図でしょう。二人でテレパシーしたと考えるのが普通です」
テレパシーが普通って……世間の一般常識じゃそれは普通とは言わないだろう。何にせよ青朝比奈さんがどんなアクションに出るかだ。
「さぁ、六番手に出てきたのは朝比奈選手。これまでの試合記録を振り返っても打率はチーム内でトップ。そして、その打球はまさに変幻自在、どこにどんな打球が行くのか我々にも予想ができません」
「もうね、あの子レーザービーム以上の球を平気で受け止めるんだもん。ピッチャーがどこにどんな球を投げても平気で打ち返される気がするんですよね……。あとは彼女の気持ち次第だと思いますよ」
「中○さんは、このチームと闘うのではなかったんですか?」
「俺もうどんなメンバー集めたらいいのか分からなくなりましたよ。各球団の主砲クラスの選手をかき集めて対サブマリンの練習を徹底的に重ねないと……このチームとは一回だけとかじゃなくて、何度も試合を申し込みたいくらいなんですよ。あの天空スタジアムっていうのも見てみたいですし」
「僕もどんなものが建つのか見当もつきませんが、闘ってみたいですね。あの場所で」
実況の会話を聞いていて、他のメンバーが何を思っているのかは分からんが、試合を申し込まれるのならいくらでも使って欲しいと思う。俺たちの世界で言うところの日本代表のようなもんだな。定期的に試合をするのも悪くない。メンバーを入れ替えながらな。

 

 現在一回表2-0ワンアウトランナー一、三塁で六番青朝比奈さん。今のところワンストライクツーボールとプロ球団にはストライクゾーンの狭さは通用しないと思っていたが、そうでもないのか?ミスサブマリンではないが、やりにくいのは確からしい。第四球で青朝比奈さんが動いた。狙いは三塁目掛けたバント。微妙な逆回転が三塁に行こうとする力を妨害していた。ホームベースへ有希がまっすぐ突っ込んでくる。ワンテンポ遅れてピッチャー、サードが動き出したが、ピッチャーがボールをグローブに収める頃には有希がホームベースを踏み、これで3-0。
ランナー一、二塁でバッターは青朝倉。これで満塁になれば青俺に満塁ホームランのチャンスがまわる。相手の様子を伺いながら自分が打てそうな球を待つ青朝倉。ワンストライクスリーボールで四球まであと一球。第五球、ストライクゾーンに入ってくる球を青朝倉が打ち返した。三遊間を抜いたと思いきやショートが青朝倉の打球を取って三塁、二塁へと送球。ダブルプレーを取られ、一回表の俺たちの攻撃は終了した。とぼとぼとベンチに向かってくる三人をベンチ全員とチアガールが迎え入れる。
「ごめんね……わたしが出塁できていたら、キョン君の満塁ホームランのチャンスだったのに」
「気にするな!プロ球団相手にこれだけのプレーができれば上等だ!」
「佐々木、ナイスバッティング!」
「僕だけのために相手があそこまで体制を変えてくるとは思わなかったよ。キミにあの球を教わっていなかったら僕が打った時点で攻守交代していたかもしれない。次の打席もあんな風にされると思うと怖くて仕方がないよ。どうしたらいいのか教えてくれたまえ」
「状況次第ですよ。僕も予想はしていましたが、まさかあそこまで露骨に対策を取られるとは思いませんでした。あなたはこの回で十分な仕事をしてくれました。次は交代もありえますが、アウトになってもさほど問題にはならないでしょう。黄有希さんと朝比奈さんのコンビネーションもお見事でした」
二人揃って『問題ない』とハイタッチ。準備ができたメンバーから各ポジションに散っていく。自分にも順番が回ってくるかもしれないと予想していた青鶴屋さんが一番遅くなってしまったが、そういう状況にあったんだから誰も文句を言う奴はいない。

 

「さぁ、一回裏、ミスサブマリンに対してどんな策で挑むんでしょうか」
「この場面は是非とも見ておきたいですね。先ほども佐々木選手に対するあの異様なまでの布陣でしたから、どんな手段で勝負を仕掛けるのか今後の参考にしたいと思います」
「しかし、今回は三点でしたが、このチームを相手にリードされている状態だとプレッシャーが半端ないと思いますよ。しかも不慣れなアンダースローですから、ヒットで出塁したとしても得点につなげられるのかどうかが勝負の分かれ目ですね」
向こうのチームが俺たちに対する対策を練っているように、俺たちだって無策で来たわけじゃない。さっき守備位置についた選手の中に左バッターはいなかった。あとは青ハルヒの投球と有希の采配次第。打たせて捕る練習なら昨日散々やったからな。内野ゴロでもしっかり反応できるはずだ。青ハルヒの第一球、これぞアンダースローというどストレートがストライクゾーンを潜っていく。相手はまだ様子見か。第二球は下からあがって来ずにストライクゾーンの外側を通るボール球。先ほどとほぼ同じ軌道で相手がこれに見事に引っかかり空振り。ツーストライクノーボールで迎えた第三球、第一球と同じ軌道で今度は速球を投げた。さっきまでは80km/h台、今度は126km/h。タイミングをずらされた一番手がそれに対応できずに三振。
「うわ~~~~~~~~!!ほんの少しのズレだけで三振が取られるの!?これで変化球とかジャイロボールがあるわけでしょ!?バリエーションが豊富過ぎて対応できないよ、俺」
「まずは、相手の出方を見るつもりが見る前に終わってしまった気分ですよ。おそらく彼女も同じでしょう」
二番手がバッターボックスにつくと、先ほどと同様、下から浮き上がってくる王道のアンダースローを初球で叩いた。
『佐々木、一歩右!』
青俺からの指示に従い、佐々木がボールをキャッチして青朝比奈さんへ。ん……?おい、ちょっと待て。何だセーフって。明らかに佐々木の送球の方が早かっただろうが!
『青チームの朝比奈みくるの足が一塁ベースから少しだけ離れていた。VTRでもスロー再生されるはずだ』
スカ○ターに先ほどのシーンを違う方向から撮影していたカメラが撮ったものが映された。確かに青朝比奈さんの足が一塁ベースを踏んでいない。微妙な差だったか。これは仕方ないものとしよう。それにハルヒがやる気を出しているしな。ダブルプレーはダブルプレーで返すらしい。三番手に投じられた第一球、ボールの下を叩いてしまいやすいという内角高めのボール。
『まずい!!』
青ハルヒの投球と相手の姿勢をみた青俺がバックスクリーンに向かって走っていく。内角高めをバットの芯でとらえた球が青ハルヒの帽子を掠めて真逆に飛んで行った。いつぞやの青ハルヒの真似をするかのように、青俺がフェンスを駆け上がっていく。フェンスの上までのぼって振り返ると、ボールの来るタイミングに合わせて跳んだ。青俺なら威力に負けてグローブが脱げるなんて事もあるまい。
「キョン、危ない!」
斜め後ろから青有希の声が聞こえてきた。ここまで声を張り上げた青有希を見るのも久しぶりだが、「危ない」と言った理由が判明した。グローブは脱げなかったものの、ボールの勢いに流されてそのまま体勢が後ろにそれた。フェンスに着地することなくそのまま落下。
「パパ!」「キョン!!」
「心配いらん。あの程度で怪我を負うようなコーティングじゃない。ナイフや弾丸もはじき返すくらいなんだ。問題はこれがアウトになるのか、ホームランになるのかってことだ」
青俺が再びフェンスを駆け上がると、一番上からグラウンドへ跳び下りてきた。ボールは捕ったというアピールはしているが…
「監督、この場合どうなるんだ?」
「あんな前例、プロ野球会の歴史をさかのぼっても、彼と涼宮さん以外にいるわけありませんよ。ここは主審に判定が委ねられるでしょう。それよりも、相手チームが涼宮さん対策として何をしてきたのか大体の予測がつきました。判定が下った後、それを伝えなければいけませんね」
主審の判定はホームラン。ランナーがホームベースを踏んで3-2。
「え~~~~~~~~~~~!!あんなファインプレーしたのにホームラン!?球しっかりグローブに収めてるじゃん!」
「あんなプレー、これまで見たこともありませんよ。主審もジャッジが本当にこれで正しかったのか迷っていることでしょう。いや、しかしよくグローブに収められましたね」
『主審がホームランと判定している以上仕方がありません。取られた分は取り返す。やることは前回と変わらずです。ですが、先ほどの黄佐々木さんのときのあからさまな対応と今のプレーで、相手は涼宮さんのアンダースローに対して内角高めに照準を合わせてきていると言えるでしょう。それよりボール半個分上げた球でも微調整されるはずです。内角を狙う場合は中ほどか低めを狙うようにしてください』
『問題ない』
 いよいよ相手の主砲がバッターボックスについた。監督からの指示ではないが、いかにも内角高めを打ってやると言いたげな素振りをしている。確かに先週の試合で内角高めを打たれていたが、それだけでアンダースローを……いや、涼宮ハルヒを舐めてもらっちゃ困る。セオリー通りにいかないのが涼宮ハルヒってヤツだ。ここからが『ミスサブマリン』涼宮ハルヒの本領発揮だな。

 
 

…To be continued