500年後からの来訪者After Future3-16(163-39)

Last-modified: 2016-09-06 (火) 10:59:52

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future3-16163-39氏

作品

迎えたプロ球団戦当日、異世界の圭一さんたちが本社に来訪し、俺たちの試合をモニターで応援することになった。試合が始まるまでの間にアホ谷口に別の催眠をかけたり、東京ドームに入れない報道陣がいたりとちょっとした出来事もあったが、試合開始直後、朝倉、ハルヒ、佐々木、青朝比奈さんの活躍により、プロ球団相手に三点を獲得。その裏、以前フェンスを駆け上がった青ハルヒの真似をするかのごとく青俺がフェンスを駆け上がり、ボールをグローブに収めたが勢いで体勢が崩れ、キャッチしたにも関わらず主審の判定はホームラン。まぁ、取られた分だけ取り返せばいい。二回表の最初のバッターは青俺なんだからな。佐々木にたいする露骨とも言える布陣とホームランを打たれたときの球種から、相手は内角高めに絞って練習を積んでいるとの監督の判断。それが正しいのかどうかじっくりと見させてもらう。

 

 どこぞのピッチャーのようにホームラン一発ごときで精神的ダメージを受けるほどうちのピッチャーは落ちこぼれちゃいないんだよ。相手の主砲に対する第一球、内角中ほどを狙い空振りを誘う球。振らなくてもこれならストライクになる。ものの見事にフルスイングで空振りすると、今度は同じコースを狙ったジャイロボール。今度こそと思ってバットを振るが内角中ほどからさらに沈んで内角低めを通過しツーストライク。ここまで来ると相手が滑稽に見えてくる。四番バッターが空振り三振になるわけにもいかないだろう。次でなんとしてでも当ててくるはずだ。三球目は内角低めのジャイロボールだったが、この球を叩きに来た。
『黄有希!』
と青俺の指示がとび、有希がニヤけている。バットの芯よりかなりズレたところでボールを叩いたが、持ち前のパワーで三遊間を抜き、レフトへと勢いよく転がっていく。パワーの分だけ走力については乏しい選手のようで超光速送球でなくとも刺せそうなもんだが、相手への見せしめとしては丁度いい。
「来た来た来た~~~~!!ここ見て欲しいの!ここ!」
ボールをグローブに収めた有希が超高速送球。青朝比奈さんの捕球も滞りない。
「中○さんの仰る通り、レーザービーム以上と言っても過言ではないでしょう。しかしこの布陣に対してどこに打球を打てばいいのか……先ほどのキョン選手のファインプレーはボールがバットに当たる前から動き出していたような気もしましたが、渡辺選手、いかがでしょうか?」
「先ほどは涼宮選手の投球とバッターだけしか見ていませんでしたから何とも言い難いところですが、我々も相手の体勢やバットの角度、音で距離や場所を想定して動くことが可能です。ありえないプレーというほどのことでも無いでしょう。それにしても、中○さんもこのチームと勝負がしたいというより、このチームのファンになったんじゃありませんか?対戦相手として勝負を挑むときは、長門選手がいるところへは打てないでしょう?」
「あ~~~俺そうかもしれないですね。このチーム、何て言うか………すっごく爽快感がする!一回表の攻撃でもスリーボールまでいってるのにそこから打ちにいったり、アグレッシブに点を獲りに行ったり、ホームランはバックスクリーン直撃弾ばっかり!他のチームと比べると……そうだな、器が違う気がする。度胸もあるし、技も鋭いし、今まで見たことないですよ、こんなチーム」
ジョンのスカ○ターでこの実況を聞いているのかどうかは分からんが、俺たちにとってこんなに頼もしい実況はないだろう。古泉や鶴屋さんもそうだとは思うが、早く出番が回ってきて欲しいもんだ。

 

 内角高めを狙わず、球の緩急やジャイロボールで五番手を三振に打ち取り、二回表俺たちの攻撃。
「黄朝倉に申し訳が立たんから、俺がもう一度宣戦布告してくるよ」
木製バットを持つと、ベンチにいるメンバーにそう言い残してバッターボックスに向かっていった。
「有希さんが羨ましいな~。頼もしい旦那様で」
「朝倉さんもそろそろ自分のことを考えてもいい頃。黄古泉君の話と一緒」
「くっくっ、週7でおでんを食べても禁断症状が出ない人を探す必要がありそうだ。おでん一筋で生きてきたなんて人でも朝倉さんのおでんを食べたら『まいった』というだろうね」
「もう何年も黄キョン君の料理を食べてきたから、さすがにそこまでは求めてないけど……そうね。バレーの監督たちのようにおでんを食べながらお酒が飲める人だったら嬉しいな」
「我々と同年代でそんな稀少価値のありそうな人がいるでしょうか?おでんで酒を飲むとなれば年上の方になりそうですね。干支を一回りしているかもしれませんが……」
「コラ、古泉。監督がベンチで世間話をしてどうするんだ?」
『もう帰ってきたの!?』
「初球を打って二回裏のところに突き刺してきた。それだけだ」
「パパ、ホームラン凄い!」
やれやれ、ちゃんと青俺の活躍を見てくれていたのは幸だけだったようだ。これで得点が4-2。打順は九番青鶴屋さん。青ハルヒ、朝倉とつなげることができれば一気に得点を稼げるが……ハルヒの行動をみて青ハルヒが黙っているわけがない。審判もジャッジで迷うようなプレーをやりかねん。さっきの実況じゃないが、ここまでくれば狭いストライクゾーンを利用してなんてレベルじゃなくなってきたな。昨日は速球になれるためにずっとキャッチャーだったが、どんな変化球だろうと狙ったところに打てるようになるまでひたすら練習してきたんだ。もちろん、同じ球ばかり投げるのではなく、何が来るか分からない状態でな。快音と共に打球は右中間へ。だが、先ほどのWハルヒと同様、そう易々と二塁は踏ませてもらえそうにない。ノーアウトランナー一塁で打順が戻って一番青ハルヒ。前の打席での自分や青鶴屋さんのお返しだと言わんばかりに初球を叩いた。危うく青鶴屋さんが蹴躓くところだったが、一塁の左側を抜いた打球が勢いよくフェンスへと向かっていく。ようやくツーベースヒットが成立しランナー二、三塁でバッター朝倉。いくらプロ球団でも、さすがにこれは敬遠されるか。

 

 ノーアウト満塁のチャンスでバッターは三番ハルヒ。さっきは惜しくも点に繋げられずにアウトだったせいもあってか気合十分……いや、十二分くらいか。気合が入り過ぎて逆に嫌な予感しかしない。
『ママ頑張って――!』
おっと、そろそろ声帯を治してくるか。ステルスを張ってグラウンドを出ようとしたところで、耳からアナウンサーの声が聞こえてくる。
「初球を叩きにいった―――――――――――!!」
ハルヒが初球を叩くのは今に始まったことじゃないが、やはりもうちょっと待てと言うべきだった。ハルヒの打球はショートの顔面目掛けて一直線。咄嗟にグローブでガードしたが、ボールは収めきれず仕舞い。それを見た青鶴屋さん達が一斉に動いた。動かなければ各塁に送球された時点でトリプルプレーになってしまう。すかさずボールを拾い上げたショートの選手が三塁、二塁、一塁と送球してスリーアウト。だが、青鶴屋さんの帰還によりこの回で二点がプラスされた。ホームの前を塞いでいたキャッチャーの頭上を「ほいさっ!」と前宙でかわしてホームベースに着地。その時点ではまだツーアウトで、得点として認められた。
「おまえ、気合が入り過ぎて興奮しすぎだ。こういう大事なチャンスにこそ、もう少し冷静さをだな……」
「うるさいわね!まったく、あんなところにでかい図体でいられると邪魔なのよ邪魔!!」
やれやれ、今のハルヒに何を言っても聞きそうにない。さっきの活躍が嘘のように会場内が静まり返ってしまった。SOS団団長の名が泣くぞ?おい。
 続く二回裏、初球でいきなりのバント。青俺が指示を出していたものの、青朝倉と佐々木が意表を突かれてボールを手中に収めたときは既に一塁を通り過ぎていた。
「黄鶴屋さん。アップしておいてもらえますか?」
「やっとあたしの出番っさね!待ちくたびれたにょろよ!」
「くっくっ、誰を彼女と変えるつもりだい?」
「敵の弱点を狙うのはたとえ相手が我々のようなチームだろうと卑怯でもなんでもありません。それだけ我々の強さを認めていることになりますからね。一回裏で内角高めは狙ってこないと判断されてしまったようです。そして、ショートゴロに収まる筈だった打球がセーフになり、今のバント。黄有希さんにまで届かない様に力を加減して内野安打を狙ってくるでしょう。三遊間を狙ってね。アンダースローに低めの球が多いことを逆利用するようです」
「ってことは、黄佐々木さんか朝倉さんと?」
「ええ、次の打順から見ても黄有希さんが敬遠されなければソロホームランを狙うでしょうし、黄佐々木さんにたいしてあんな布陣を敷いてこられては先ほどのような手ももう使えません。黄有希さんの盗塁の成功率を高めることも不可能となると致し方ありません」

 

 青鶴屋さんは先週の失態をやり返してやったと意気揚揚。だが、まだ満足はしていないらしい。まぁ、失点の半分しか取り返してないんだから仕方がない。二回裏5-2ノーアウトランナー一塁。相手のバッターは七番手、さっきのショートの選手か。四番と比べればハルヒが言う程でかい図体というわけでもない。プロ野球会では至って普通の選手だと思うんだが……狙いは悪くなかったが、打球がショートの真正面に行ったんだから仕方がない。
「監督、相手が三遊間を狙ってくるのなら三回表を待たずに変えてしまった方がいいんじゃないのか?相手はショートというポジションを知り尽くしているんだぞ」
「だから何だと言うんです?今度こそ朝比奈さんにと思っている黄佐々木さんや朝倉さんの気持ちを無碍にしろとでも言うんですか?涼宮さんのピッチングだけで三振を取ることも可能なんです。そう易々と打たせるわけが無いとは思わないんですか?」
「大丈夫、打たれる前にキョンが指示を出してくれる」
今のところツーストライクワンボールで追いこんではいるが、青ハルヒの第四球、ここで相手が心待ちにしていた内角高め!?有希も強気な采配をするもんだ。意表を突かれて修正するも、アンダースローの餌食となってセカンドフライ。
「いや、今のは予想外ですよ、予想外!一回表であれだけ内角高めを打たれて、この回で低めを中心に攻めてきたのにここで内角高めで捕ってくるとは思いませんでした」
「どちらも相手の意表を突くプレーの連発ですからね。こんなに見応えのある試合は久しぶりですよ」
続く八番手、外角低めを狙ったジャイロボールで空振りさせると、同じ軌道で第二球。
『佐々木!二歩右!!』
監督の読み通り、有希のところまで届かないよう力加減をされた内野安打。青俺の指示通りすかさず動いて捕球すると、
「佐々木さん、こっち!」
ダブルプレーで仕留めるとばかりにハルヒが佐々木に声をかけた。リードしていた分ランナーが二塁ベースを踏むまであと少し。不安定な体勢で二塁に送球するも、ハルヒがジャンプしてようやく捕れる暴投。着地してランナーにあてようとしたところで既に二塁ベースに足がついていることに気付き、一塁へ。だが、その一塁すらもはや手遅れ。ワンアウトランナー一、二塁で向こうもこれで一周か。

 

『ハルヒ、そのまま斜め前に走れ!』
青俺の指示と共にボールがバットに当たる音が鳴り、サードへ向けたバント。
『朝倉はそのまま構えて待ってろ!黄ハルヒに送球してここで仕留める!』
いつでも来いといわんばかりにハルヒがグローブを手首で振りながらセカンドで待っていた。グローブをはめていない方の手でそのまま青ハルヒが三塁へ送球。
「セーフ!」
青朝倉がボールを受け取ったにも関わらず塁審の判定はセーフ。その一瞬の隙を突き、ワンアウト満塁というSOS団初のピンチに陥った。
『二塁ランナーは最初から盗塁するつもりで動いてましたから致し方ありません。先ほどの黄ハルヒさんの打席ではありませんが、一見ピンチに見えるときこそ逆にチャンスというものです。こういう場面こそ我々が期待していたものだと言えるでしょう。皆さんの実力がようやく見られそうですね。じっくり拝見させてもらいますよ?』
『問題ない』
「先々週からこのチームの試合を見てきましたけど、この状態になるのは初めてじゃないかなぁ」
「個々の実力を見極めた上で戦略を立てているようですね。佐々木選手の巧みな技には頭が下がりますが、守備にはどうやら慣れていないようです。サードの朝倉選手の方もどうやら試合経験を積ませるためにポジションについているようですね」
「プロ球団相手に試合経験を積ませる!?渡辺投手、それは一体どういうことですか?」
「現に、投球練習をしていたジョン選手と鈴木選手がまだ出ていませんし、メンバーリストを見る限りでは他にも出ていない選手もいるようです。チアガールが160km/h台の球を受け止めているくらいですからSOS団はまだ全力ではない気がします。それに、こんな状況を待っていたかのような顔をしているように見えるんですよ。どの選手も」
「圧倒的パワーで勝ち上がってきてこのような状況に今まで陥ったことが無かった、ということでよろしいでしょうか?」
「十分ありえますね。少しずつですが、僕にもSOS団を倒すための戦略が見えてきましたよ」

 

 さて、取られたら取り返せばいいだけなんだが、この状況ではさすがの有希も自分が目立ちたいだけの采配はしてくるまい。相手チームも有希を怖がって、わざと内野安打で出塁してきているんだ。レフト方向への長打はありえない。青ハルヒの第一球、超低空を維持した球がストライクゾーンの外側を通ったがこれは見切られてボール。第二球、今度はストライクゾーンに入ってくるジャイロボール。だが、これを待っていたと言わんばかりにバットの芯にボールが当たるとライト方向へ一直線。
『フェンスだ!黄朝倉、走れ!』
待っていた球とはいえ、低めの球をホームランにするには至らなかったらしい。先週に引き続き、青鶴屋さんに名誉挽回のチャンス到来。朝倉からの超光速送球が青鶴屋さん目掛けて一直線。
「うわ~~~~~!!ライトからもそんな球来るの!?」
「先週は勢いに負けてしまいましたが今回はどうでしょう?」
汚名返上と言わんばかりに朝倉のボールをキャッチした青鶴屋さんがスライディングしてきた選手へとタッチ。そのまま送球をしていればダブルプレーも取れたが、主審の判定を待った。
「アウト!アウトです!SOS団見事に失点を防ぎました!」
「やべぇ、イチローが二人いるようなもんじゃん!」
『涼宮さん、ピッチャー交代です。後半も投げてもらいますのでその間は頼みましたよ?』
『フフン、さっきのキョンの球、今度はあたしが捕ってやるんだから!』
『悪いが、こっちは宣戦布告をしているんだ。ホームランクラスのボールを打たせるつもりはないぞ?』
『上等よ!さっさと潰して次の回に進むわよ!』
青俺と青ハルヒがポジションチェンジ。青鶴屋さんが今度こそ満足気な表情でベンチへ戻ってきた。チアガール全員とハイタッチしてベンチにいたメンバーからも盛大な拍手が送られる。有希がキャッチャー用の防具をつけてレフトには俺が配置された。

 

「さぁ、ここでSOS団ピッチャー交代。ミスサブマリンに変わってキョン選手がマウンドに立っていますが、おっとキャッチャーも交代するようです。鶴屋選手に変わって長門選手が配置につきました。レフトに変わって入ったのは先週と同様鈴木選手。しかし、このタイミングでのこの交代というのは……?」
「涼宮選手の低速ピッチングに慣れてしまったところに、その倍の速さが飛んでくるんですから、普段打ち慣れているボールでもやりにくいと思いますよ。それより、どうしてこのタイミングでキャッチャーが交代したのかが分からないんですよね。盗塁を例の球で刺すのならもっと前にやればよかったのに…」
「長門選手でないと捕れない球をキョン選手が投げるとしたら……さらに強敵になりそうですね」
投球練習のあと、相手バッターに指二本の予告ナックルボール。
「おっと、あの握り方は…ナックルボール、ナックルボールであります!渡辺投手の予想が当たりましたね」
「キャッチャー交代の訳が僕にもようやく分かりました。あの球ならキャッチャーが変わってもおかしくありません。投げ方も特殊ですから、どうせ投げるなら投げる前に予告して見せたようですね」
「ツーアウト満塁の状態から得点につなぐことができるんでしょうか?それともキョン選手のナックルボールで完封してしまうのでしょうか?一瞬たりとも目が離せません!」
青俺の第一球、予告通りナックルボールが投じられたが、バッターはバットも振れないまま、ミットに収まったボールと主審の顔を交互に見ている。スカ○ターの表示によると144km/hか。
「えぇ!?今の本当にナックルボール!?あんな速いナックルボール俺見たことない!スローで見られる!?」
VTRで青俺のナックルボールの投球シーンがスローで流れる。
「ホントだ。放たれた直後から変化してる…こんなナックルボールなんてアリ!?球速は?144km/h!?」
「指ではじくボールですから精々110km/hぐらいしか球速は出ないはずです。それをはるかに上回るなんて」
第二球、第三球と投げたが、どちらも空振りに終わり、ランナー満塁も水の泡と化した。

 

「パパ、カッコいい!!」
幸と二人でハイタッチしていた。カメラの死角に入った有希がテレポートで防具を脱ぐと、木製バットを持ってバッターボックスへ。敬遠でほぼ間違いないだろうがな。今週は青俺のナックルボールを打たせてくれと出てくるだろう。敬遠された有希がバッターボックスに残したバットをそのまま拾った鶴屋さんがバッターボックスについた。
「やれやれ、これでようやく一安心できるよ。あんなあからさまな対応をされるとは僕も想定外だよ」
「言っただろ、それだけおまえの実力を認めてるんだ。プロ球団ですらな」
「しかし、送球というのはあそこまで難しいものなのかい?守備の穴はここだと言われてもおかしくないほど僕が狙われたからね。捕る方に回った方がいいんじゃないかと迷ったくらいだよ」
衝突音が鳴り響き、グラウンドに眼を移すと、鶴屋さんのライト前ヒットが炸裂。代打としての役目をしっかり果たしてくれた。ノーアウトランナー一、二塁バッターは朝比奈さん。
「次も代打を出します。黄僕はアップをしておいてください」
「ようやく僕の出番ですか。待ちくたびれましたよ。いくらストライクゾーンを狭くする戦略だからと女性陣を配置しても、代打で出るのはほとんどジョンなんですから」
「あら、その言葉、予告バックスクリーン直撃弾と捉えてもいいのかしら?」
「これは手厳しいですね。僕には朝倉さんや彼のような宣言はできそうにありませんよ」
今のところワンストライクツーボール。次で勝負をかけるか……?
「強烈なあたり!!」
アナウンサーの大声がスカ○ターから響いてきたが、言っていることに間違いはない。三塁のすぐ右を地を這う蛇のように勢いよく飛んで行く。レフトがボールを拾うころには三塁を蹴っていた。ホームに投げたのを見て鶴屋さんも三塁を目指す。チーム最速の前に再びキャッチャーが壁となってそれ以上の侵入をさせまいとボールが来るのを待った。ショートを経由してキャッチャーへボールが送球される……が、あの目立ちたがり屋、青鶴屋さんの真似をするどころかそれを昇華しやがった。キャッチャーを避ける術としては確かに悪くないが、キャッチャーにぶつかる寸前で跳び上がり、有希の伸身ムーンサルトが炸裂。着地点はミリ単位で距離を測ったかのようにホームベースの真上に立っていた。キャッチャーがボールを受け取って振り向いた頃には時すでに遅し。観客からの拍手を浴びている。ついでに笑い声も混じっていたけどな。鶴屋さんや朝比奈さんも二塁、三塁へと出塁した。
『ちょっとあんた!いくらなんでも目立ち過ぎよ!!』
『有希お姉ちゃん、凄い!』
「問題ない。10.0」
『そういう問題じゃないわよ!!』

 

 有希の伸身ムーンサルトはさておき、これで6-2。ノーアウト二、三塁バッターは青朝倉に変わって古泉。アナウンサーも実況二人もさっきの伸身ムーンサルトに呆れ果てているから放っておこう。
「やれやれと言いたくなりましたよ。あんな大技の後に僕ですか?僕も少しは目立ちたかったんですが……僕に出来るのは精々このくらいです」
古泉の打球はレフト方向へ一直線。目立つには充分すぎるくらいだ。古泉のツーランホームランで9-2W俺のソロホームランで11-2まで追い詰めた。試合前はボールを真っ二つにしてやろうと思っていたが、みんなの活躍を見てイライラが無くなったようだ。バックスクリーン直撃弾は三回裏と四回表に突き刺さっていた。
「この裏を青俺のナックルボールで終わらせると宣言してきたんだ。情けない真似だけはするなよ?」
『上等じゃない!あたしが一番目立ってやるわ!』
トリプルプレーがなかったらハルヒが一番だっただろうに。余計なことをするからだ。しかし、青ハルヒの奴どうやって目立つつもりだ?朝倉が初球をバックスクリーンに放った時点で盗塁すらできんというのに…興奮状態から一転してバッターボックスに立った青ハルヒは冷静そのもの。もはや初球で打ち返せるものを見送った後、青ハルヒが放った打球はセンターへ。誰もがセンターフライで終わると思っている間、青ハルヒは懸命に塁を進んでいた。
「涼宮さんも随分高く打ち上げたものですね。まるで天井サーブを見ているようですよ。プロ野球選手が落ちる場所を間違うなんてことはないでしょうが、ちゃんと『捕球できるかどうか』が見物ですね」
ようやく落ちてくるかと思ったところで青ハルヒが二塁を蹴る。
「どうやら、その場の思いつきとはいえ、新しい必殺技を生み出してしまったようですね。あなたの零式と同じく、超高速の前回転がかけられていてはグローブに収まったとしてもボールが逃げ出してしまうでしょう」
ダイヤモンドを一周する直前でセンタープレイヤーのグローブに一度は収まった。だが、青ハルヒがかけた球の回転によりグローブからボールが飛び出してしまった。それを見た観客たちの会場中からブーイングが起こる。何が起こったのか、俺たちを除けば受けた本人くらいしか分からんだろうな。青ハルヒのランニングホームランが成立して12-2。自分も目立とうとしていたハルヒも10点差がついたところで興味が失せたらしい。朝倉、ハルヒ、有希が初球をピッチャーゴロで返し三回表が終了した。

 

「上位打線三人が自らアウトを差し出したようなプレーでしたが、先ほどの涼宮選手の打球は一体何だったのでしょうか?」
「センターフライに終わりそうだと誰もが思っていた中で、一人、涼宮選手が懸命に走っていたところを見るとあの打球に何か秘密があるのかもしれないですね」
「僕にはボールが高速回転しているように見えました。打ち返したときにあの高速回転をかけていたのなら、涼宮選手の全力疾走も、一度キャッチしたボールが逃げ出したように落ちたことも説明がつきます。ですが、あんな打球はこれまでの涼宮選手にはありませんでしたし、思いつきでやってのけたにしても練習もせずにあんな高速回転がかかった球なんてそう上手くいくものではありません。アンダースローを二週間でマスターしたというのも彼女の飛び抜けたセンスがあったからこそのように思えます。そして、その後のピッチャーゴロも三回裏で投球するキョン選手のナックルボールを信じているんでしょう。ここからがキョン選手の本領発揮になりそうです」
「いくらナックルボールでもプロ球団相手に失点を0にできるかなんて僕にも予想がつかないですよ。でも、このチームならやってくれそうな気がするんです。期待に応えてくれそうな気がするんですよ。だから俺、このチーム好きなのかも」
「おっと、マウンドに立ったキョン選手がまた予告ナックルボールをしていますが、これは一体……?」
「弾く指が一本増えていますね。それで再度予告をしたんだと思います。さっきは二本でしたから」
「えっ!?ってことは、さっきよりも球速が上がるってこと!?」
「このあとのキョン選手のピッチングに期待がかかりそうです」
解説どうもありがとうとレフトポジションから伝えておこう。ここにいる観客はさっきのセンターフライのエラーに怒っているだろうな。それに、朝倉たちのあの打球は、この回で終わらせると宣言したようなものだ。相手チームも流石に怒っているが、青俺ののナックルボールを捕らえられるかどうかだな。

 

 相手チームは一回表で青俺にホームランを危うく捕られるところだった三番手から。三人ともソロホームランを狙ってフルスイングするのが目に見えている。だが、防御面も改善され、ジョンは出ていないがほぼ最強の布陣が出揃った。次にバックスクリーンを狙えば青ハルヒが真上でなく前に跳べばアウトにできる。青俺の第一球、ストライクゾーンど真ん中を狙った球だったが、途中で変化して結局外角低め。
「今の球、球速いくつ!?」
「154km/hです!」
『154km/h―――――――――――――!?』
「球団のピッチャーのストレートと変わんないじゃん!」
心配するな。完成した指三本のナックルボールを実戦で試してみたかっただけにすぎん。これが終われば俺の理不尽サーブと同様、封印することになるだろう。まぐれあたりする球をすべて内野ゴロに打ち取って、俺たちのコールド勝ちが決まった。勝利者インタビューでまずは青ハルヒが呼ばれ、その後、実況二人がナックルボールに挑戦するらしい。
「プロ球団戦、大勝利おめでとうございます!」
「ありがとうございます!」
「どうでしたか?闘ってみて」
「今までは二塁まで簡単に進めたのに途中で引き返すことになったり、満塁の状態で投げる緊張感が出たり、ありきたりな言葉かもしれないんですけど、『やっぱりプロは違うな』って。あたしたちのチームの弱点がほとんど暴露されちゃって、中○さんのチームとの対決までにもっと練習しておかないとなぁと思ってます」
「僕も試合を見ながら、SOS団との試合は一回きりじゃなくて、何度も闘ってみたいと感じていたんですよ。どうでしょう?引き受けていただけますか?」
「あたしたちで良ければ、よろしくお願いします!」
「そういえば、来年の四月以降はSOS団の本拠地が完成するんですよね?あの天空スタジアムをお借りしても構いませんか?上の方と相談していただけないでしょうか?」
「上の方も何も……あたしより上はいません!あたしがSOS Creative社社長涼宮ハルヒです!SOS天空スタジアムのお披露目は中○さんのチームとの対決の日になりそうです!」
「あの天空スタジアムへ最初に足を踏み入れるのが僕たちでいいんですか!?」
「ここと同じくらいの広さになる予定ですので、今ここに来て頂いている方たちも含めて皆さんでお越しください」
青ハルヒのセリフに会場中が歓声をあげ、拍手に包まれる。
「分かりました。今後の試合が楽しみです。涼宮選手でした、ありがとうございました~」
「ありがとうございました」

 

 三本指のナックルボールも二人とも三振に打ち取って選手控室へと戻った。
「さて、このあとはこちらの世界の新川さんの料理が待っていますし、ここから本社に戻りましょう。一歩でも外に出れば報道陣に囲まれてしまいます」
『問題ない』
さて、本社に戻ったはいいものの、今日の乾杯の音頭は誰がとるんだ…?
『いやぁ、白熱した試合を見させてもらったよ』
W圭一さんが声を揃えた。今後は裕さんや森さんもそうなるかもしれんな。
「とにかく、さっきの青ハルヒの話にもあったが、青圭一さんたちにも完成した天空スタジアムを見てもらいたい。このままテレポートするから席についてくれ」
さっき野菜スティックでテレポートを見せてはいるが、一瞬で周りの景色が一変しては青圭一さんたちも驚きを隠せないようだ。
「確かにスタジアムで間違いないようだが、本当にここがビルの上にそびえ立つスタジアムなのかね?」
「そういう疑問も出るかと思いましてちょっとした細工を仕掛けてあります。他のメンバーはこれで二度目になるのか。ゆっくりと周りの景色を堪能して下さい」
「ところでキョン。この仕掛け、あんたじゃないとできないの?」
「いや、このドームを覆っている閉鎖空間の条件を変えただけだ。『ドームの設備を全て透明にする』ってな。だからドーム以外から持ってきたこのテーブルや料理は透明にはならない。閉鎖空間を扱える奴になら誰でもできる」
「これは見事な景色……来年にはわたくし共の世界でもこの景色が見られるということでよろしいですかな?」
「ええ、これと同じ仕掛けを我々の世界にも作って披露することになるでしょう」
「さて、景色を眺めるのならこの後だっていくらでも出来る。さっさと乾杯してパーティといきたいところなんだが、乾杯の音頭を誰にしようかで迷ってる。因みに俺は佐々木に一票だ」
『はぁ!?ちょっとあんた、どうしてあたしじゃないのよ!?』
「ハルヒの今日の活躍は佐々木のヒットがあったからこそだ。それに、そのあとトリプルプレーを取られてちゃハルヒには任せられないし、青ハルヒだってこの間乾杯の音頭をとっただろう?俺は佐々木か青鶴屋さんのどちらかだと思ってる」
「よしてくれよキョン。僕はキミ達のようにホームランなんて打てないんだ。僕にそんな権利を与えられてもこっちが困ってしまうよ」
「いいえ、プロ球団があそこまで極端な守り方をしたのはあなたの打席だけです。これまでの試合でのご活躍がなければあんなことにはならなかったはず。僕も佐々木さんに一票です」
「そうですね、黄キョンくんの言う通り、鶴屋さんが先週失敗していたプレーを今回で取り返したのも大きいと思いますけど、今までチームを影でサポートしてくれていた黄佐々木さんにお願いしたいです」
「でも、それを言うなら朝比奈さんの方が……」
「そこまでだ。黄佐々木に三票入った時点で決まったも同然だ。早くパーティ始めろと子供たちがうるさくならないうちに始めようぜ」
「やれやれ……じゃあ、プロ球団戦の大勝利と明日のバレーの生放送の健闘を祈って…『かんぱ~い!』

 

「あっ!!キョン先輩!明日の生放送、私たちのセットだけ理不尽サーブをすべて解禁にしてください!!零式も含めて全部!」
「別にいいぞ。見せるんだろ?異世界の自分たちに」
『本当ですか!?やった―――――――っ!!』
「あんた、そんな約束して大丈夫なの?」
「この前だって25-0だったんだ。零式の性質を知っているはずの日本代表ですらこの状態と捉えられる。見ている側は『できない』んじゃなくて『見せない』と思っているだろうが、『見せない』んじゃなくて『知らない』んだ。監督ですらな。自分たちの技を回避する方法を自分からバラすような真似をする子たちじゃない。俺はこのメンバーになら話してもいいと思って話したんだ。それくらいどうってことない。それより、乾杯の音頭は佐々木に頼んだが、明日の異世界の新聞の一面誰になるか勝負しないか?俺は青俺に一票だ」
『あたしに決まっているでしょうが!!』
「問題ない。わたしで決まり」
「あら?抜けがけはしないで欲しいわね。青鶴屋さんに送球したのがわたしだってこと忘れてないかしら?」
「わたしも伊織パパと一緒!パパが新聞に載る!」
「わたしもキョンに一票。あっ、でも明日は実家の電話は電話線を抜いておいた方が……」
「有希さんの言う通りよ。涼宮さんみたいにフェンス駆け上がってバックスクリーン直撃弾を防いだ上に150km/h台のナックルボールじゃ間違いないわよ」
「なら、今行ってまだ起きているうちに伝えておいた方がいいな。ちょっと行ってくる」
「では、すみませんが、ついでに彼の様子を伺ってきていただけませんか?催眠をかけてどういう行動に出るのか分かりませんからね。前もって知っておきたいんです」
「そんなことなら今日の午前中にキョンが行ってきたわよ?」
『行ってきた?』

 

「やれやれ、こういう場で話す内容じゃないんだが……出てしまった以上仕方がない。あのアホには青古泉のかけた催眠を実体験してもらってるよ。向こう五年間、現実世界の時間でな。今頃どこかの病院のベッドにでも運ばれているはずだ」
「もう少し詳しく説明していただけませんか?僕の催眠ではまだ足りなかったとみて間違いなさそうですが……」
「順序立てて説明していくと、青古泉の催眠をもってしてもあのアホが動く可能性は十分にあると思っていたから気になったところで異世界に行ってきた。まず向かった先は青有希の部屋だ。部屋の掃除ついでに青俺宛てにメールや電話が来ていてもおかしくなかったからな。悪いとは思ったがアイツからのメールだけ見せてもらった。国木田や他の連中からも届いていたが、そっちはまったく見ていない。最初に届いていたメールの内容を見てホントにコイツアホだと思ったよ。『最近、俺がキョンたちにズタボロにされる夢を見るようになったんだが、何か知らないか?』だった。自分がどれだけ変なメールを送っているのか自覚してないんだからな。そこから更に内容がエスカレートして、『異世界人と一緒に野球の試合に出ていることをバラす』なんてのもあった。勿論あんなアホの証言だけで報道陣が信じるわけもないし、それで終わっていればよかったんだが、本人に触れた時点で気が変わったよ。こっちのアホの谷口と同様、トラックを盗んで、九月一日のオープンの日に北口駅前店に突っ込もうというプランを練っていた。盗めそうなトラックのあてもなく、結局自家用車で突っ込むつもりだったようだが、その後自分がどうなるかをまるで考えてない。もし俺が催眠を書き換えなかったら自家用車だけ潰れてレッカー移動。あのアホは一人牢獄で呆然として、俺たちには苛立ちだけが残る。だから書き換えてやったんだよ。五年後、催眠から覚めてそれでも俺たちに危害を加えるようならこっちの谷口と同じような状態にするまで。それだけだ」
「催眠を解いて我々で実際に刑を執行したくなりましたよ。今牢獄にいる誰かさんにその度胸だけは分けてやりたいくらいです」
「とりあえず、実家に行って有希の部屋にも寄って青チーム全員の携帯をもってくる。返信はしなくてもみるだけならこっちでも可能なはずだ」
「よろしくお願いします」
「いってらっしゃい」
「申し訳ありませんでした。折角のパーティの雰囲気を台無しにしてしまって……」
「悪いのはあんたじゃなくて、あのアホなんだから、あんたが気にする必要ないわよ」
「とりあえず、球団からの勧誘等も含めて明日は異世界の電話対応に追われることに違いない。青圭一さんたち四人には今日はホテルの客室で泊ってもらって、明日はオフィスで電話対応をお願いしようかと思っている。まだ改善するような気配が見られなければまたFAXを送るか、警察に通報するかのどちらかだ」
「明日は僕も電話対応に参加させてください。面接もありますが、全国展開している書店と契約を交わすまでは動きたくても動けません。精々、このあと倉庫と二号店のシートをはずすくらいです」
「我々もそれで構わない。プロ球団からの勧誘はすべて断るということでいいかね?」
『問題ない』

 
 

…To be continued