500年後からの来訪者After Future3-17(163-39)

Last-modified: 2016-09-08 (木) 00:37:50

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future3-17163-39氏

作品

夏休みスタートと同時に始まった野球大会もようやく終焉を迎え、対プロ球団戦後の乾杯の音頭はこれまでチームを影で支えてきた佐々木がとることになった。異世界のアホの谷口についての話題がでてしまい、折角のパーティの雰囲気も台無しになってしまったが、これで対策は万全。あとは明日オフィスが大騒ぎになるであろう電話対応に人員を配置するまで。しかし、ジョンが用意してくれたスカ○ターの形が形だけにどこに収納しておこうか迷ってしまうな。

 

 青新川さんの料理を堪能し、青圭一さんたちを客室に案内したところで解散となった。双子を風呂から出した後、ゆっくりと湯船に浸かってジョンに話を聞いてみた。というより、もう一度言わなくても伝わっているはずだ。
『それなら心配いらない。明日の生放送が終わった段階で全員分回収する。どの道当分使わないからな』
それで、音量の方は調節できないのか?明日OGが零式を放った時点で実況が大声を張り上げるぞ。
『ああ、音量なら耳の後ろにある歯車を転がせば調整できる』
なんでそれを先に言わなかったんだ、おまえは!!アナウンサーの叫び声がでかくてどうにかならないもんかとずっと我慢してたってのに……まったく。
『俺の説明不足だった。明日キョンから説明してくれないか?』
おまえが自分で説明しろ!!おまえの不手際だろうが!!
『そんなことを言わないでくれたまえ。僕だってうっかりしていただけなんだ』
佐々木の真似をしてもダメだ!また、ジョンが真似をしていたとあいつにチクるぞ。
「あんたいつまで入っているつもりよ!あたしが入れないじゃない!」
「先週まで家族風呂で一緒に入っていた奴のセリフか?ハルヒも服を脱いで入ってくればいいだろ。折角風呂も有希が改築してくれたんだし、何の問題もないだろうが」
「あのときは旅行だったらよ!あんたが毎日見られるほどあたしの裸は安っぽいものじゃないんだからね!」
「俺にとってはああやってハルヒが傍にいてくれただけで十分癒しの時間だったんだが……そこまで言われるんじゃ仕方無い。さっきはあのアホの話題が出て盛り下がってしまったし、ジョンの世界に入ったらすぐに明日の仕込み。やれやれ……休養する暇もありゃしない」
「あ――――――もう!分かったわよ!!」
浴室のドア越しにハルヒが服を脱いでいるシルエットが映っている。青古泉ならこれだけで大量の鼻血が出るだろうな。ハルヒが入っている頃には湯船が紅く染まって青古泉は出血多量で気を失っているだろう。毎晩のように野球やバレー、バトルで全身を鍛えているせいか、非の打ちどころのないハルヒの裸体が目の前に現れた。
「何、ジロジロ見てるのよ」
「いや……文句のつけどころがないプロポーションに見惚れてしまった」
「……バカ」

 

 さっと身体をシャワーで流すと、湯船に足を入れてきた。有希がいない分、横からではなく前から抱きつくつもりらしい。俺の首の後ろで両手を組むと、朝比奈さんには及ばないが、それでも北高時代と比べたら比較にならないほど豊満になったハルヒの柔らかい胸が当たる。そんな刺激に耐えきれるはずもなかった俺の分身はハルヒの体内に身を潜めていた。片手でハルヒの髪を触り、小さな頭を撫でる。もう片方の手でハルヒを抱きよせ、胸の弾力を確かめていた。
「さっきのヘッドスライディングで髪に土がついたかと思ったが大丈夫みたいだな。しかし、こういう時間もあと数日で無くなると思うと……聞かれる内容も大体予想がつく。いちいちそれに答えないといけないと思うと……やれやれだ」
「あんたが望むなら、帰ってきたときにいつでもこうしてあげるわよ!それより、こんなことでホントに休養できているんでしょうね?」
「ああ、あのアホのせいでイラついていたのが嘘のように消え去っていく。疲れが取れるというより、心が穏やかになっていく感じがする。今日、俺の出番が来たらボールを真っ二つにでもしてやろうかとも思っていたが、みんなのプレー見てたらどうでもよくなった。実況も言ってたよ。見ていて爽快感がある。だからこのチームが好き……だとさ」
「メジャーリーガークラスのメンバーを早く集めてきてくれないかな。あたしも一回だけじゃなくて何度も闘ってみたいのよね。動体視力が落ちないうちにやりたいのよね」
「俺も青ハルヒの最後の打球を見て一つ思いついたものがあるから、そいつを試してみたいんだ」
「あんた、よくそうやってアイディアが浮かぶわね。今度は何を閃いたのか教えなさいよ」
「青ハルヒみたいに高速回転をかける必要の無いランニングホームランだ。薪割りの斧のようにバットを構えて打球を下に打ちつける。高く上がれば上がるほど、ランニングホームランの可能性が高くなるし、バウンドさせている分フライでアウトになることは絶対にない。相手に真似されるとこっちまで困ってしまうから使うかどうか迷っているところだ」
「そんな打球、真似しようとしてもできないわよ!あんたか青キョンでないとランニングホームランまでにはならないでしょうね。ファールか良くて一塁に進める程度。あとは内野ゴロで終わりそうだわ」
「じゃあ、次の機会にやってみるか。いつになるか分からん上に、俺が出られるかどうかも分からんがな」
『なら、さっさと二人ともこっちに来たらどうだ?練習試合が始まるまでに来ないと、鼓膜が破れるかもしれない』
「鼓膜が破れるってどういうことよ?」
「子供たちが思いっきりテレパシーを送ってくるんだよ。テレパシーだから耳を塞いでも防御できん」
「だったら、早く上がりましょ。あたしの身体、あんたが洗いなさい。ついでにシャンプーと全身マッサージね」
「へいへい」
 結局、俺たちがジョンの世界に着く頃には、練習試合が既に始まっていた。子供たちからのテレパシーが無かった理由もコートの状況を見て納得した。青俺とW有希が入ってOG達と闘っている真っ最中。さっきOKした零式をOGたちが使うもんだから、ここぞとばかりに伊織まで零式を撃ってやがる。明日の生放送では絶対に使うなと釘を刺しておくことにしよう。青俺とW有希が抜けて試合ができなくなってしまった古泉と青ハルヒが明日の食事の支度と仕込み作業に入っていた。
「遅いわよ!さっさとあんたも手伝いなさい!早く終わらせてあたし達も練習試合するわよ!」
「ああ、すまん。すぐに準備する」

 

 仕込みを終えてコート二つで練習していたものの、互いの防御力のせいでセット数で言えばほんのわずかだったが、中身が濃い上に、これまで試合してきたものより疲労が激しい。まぁ、セッター以外全員攻撃に跳んでいるのにコートに落ちないせいで何度もジャンプする羽目になるからな。零式や理不尽サーブ以外で攻撃力を高める方法は無いものかと思案したものの、何も浮かばずに終わった。そして、気になるのは異世界の新聞記事がどうなっているかだ。こっちはどうせ練習試合とインタビュー、ディナーだけで子供たちが自分の写真が映らないか楽しみにしている程度。対して異世界の方は……バラけたな。『中○正広宣誓!このチーム倒したい奴全員集合!!』、『ミスサブマリン改め、SOS Creative社社長涼宮ハルヒ!』、『異例の判定に騒然!グローブで掴んだのにホームラン!?』
『前人未到!150km/h台のナックルボーラー現る』、『レーザービーム以上!?SOS団に死角無し!!』残りは俺が許可していない新聞社で、結局誰も入りこめず別の記事が一面に出ていた。しばらく閉鎖空間を持続させてお灸を据えるのもいいかもしれん。写真に写っていたのはこっちの世界では子供たち三人。異世界の方は、国民的アイドルと青ハルヒ、青俺を載せている新聞が二つ。最後に青鶴屋さん。
「どうやら、昨日の勝負は俺の勝ちらしいな。青俺が写っている新聞社が二社。ボールを捕って失点を防いだ青鶴屋さんが写るのは構わんが、投げた方の朝倉の写真が一枚もないっていうのが気にくわないな」
「あら、そういってもらえると嬉しいわね。でも、これだけ国民的アイドルが宣言しているんだから、早く次の試合をしたいものね。そうでもしないと、日本全国から根性がないとか度胸がないとか言われそうよ」
「昨日あれだけの対応策をとられてしまったんだ。送球が安定するまで僕は欠場にさせてくれたまえ」
「状況によっては敢えてあなたを出した方がいい場合もあります。ショートが自分からあんなに前に出てくるんですから、打球が当たりそうになっても、たとえ当たったとしても文句は言えません。その前に黄有希さんがランナーとしていれば、三塁まで到達することもできるでしょう。黄佐々木さんがアウトになったとしても、それは駒を進めるための犠牲に過ぎません」
「それより残りの新聞記事があたし達のことじゃないってどういうことよ!?」
「ああ、俺の閉鎖空間に遮られて入り込めなかった連中だ。社長に偽名の電話の件を伝えると言ってもさほど効果が無かったから、そこの会社の奴全員ドームに入れない様にした。しばらく閉鎖空間はつけておく。俺たちに刃向かうとどうなるかいい見せしめだ。古泉が本社建設当初にディレクターに直接文句を言ったときがあっただろ?あのときの青古泉のように『次回から入れるようにする』と対応してくれ」
「おっと、VTRが流れるようですね。誰のどんなシーンが写っているのか楽しみです」
朝倉のバックスクリーン直撃弾、佐々木に対する相手の布陣、ハルヒのヘッドスライディング、青俺がフェンスを駆け上がって外側に落ちて戻ってきたシーン、有希の超光速送球、SOS団初めての満塁のピンチに、朝倉の超光速送球でランナーを打ち取り、青俺のナックルボールか。俺たちのホームランはなかったが、ここまで白熱した試合だったんだ。VTRを作る側もどこを選ぶべきか迷っていただろうな。青ハルヒの勝利者インタビューが終わり、次のニュー……ん?

 

「さぁ、今の涼宮選手のコメントにもありましたSOS Creative社について、まだSOS団の地元周辺でしか置かれていないようなのですが、こちらのこの冊子。涼宮選手や朝比奈選手をモデルとした一見、普通のファッション雑誌に見えますが、中身を見ると素材が全て明記され、値段が他社の服と比べてはるかに安価で提供されています。なぜ、このような安価で販売することができ、100階ビルの建造と天空スタジアムの建設に至ることができたのか。今後のSOS Creative社の動きに期待が高まります」
「今日、青ハルヒは生放送を除いて練習試合に出ない方がよさそうだな」
「そのようですね。まさかこちらにしか置いていない本がお台場まで届いていたとは驚きですが、これで全国に冊子のことを広めることができました。今日中に全国展開している書店の本社から連絡が来てもおかしくありません」
「なんでそれであたしが練習試合に出られないなんて事になるのよ!」
「簡単です。朝食後に我々で電話対応に出向けば、午前中から○万部欲しいという連絡が入り、我々の電車での時間を加味して契約は今日の夕方にという流れになるでしょう。電車など使わずともテレポートで行くことが可能ですが、このニュースが流れている以上、他の会社からも似たような連絡が入り、練習試合に参加している暇などありませんよ。涼宮さんも練習試合で汗だくの状態のまま契約に行きたくはないでしょう?」
「社長が契約に出向かないわけにはいかん。青古泉に任せておけば、青ハルヒはサインと社印を押すだけで十分だ。俺と古泉で行ったときもそうだったからな。絶対に敵に回したくない人材だと思ったよ」
「くっくっ、前にも同じセリフを聞いたけど、今になってもそれが変わらないなんて、古泉君に嫉妬してしまいそうだよ。キミにとって僕はどういう存在なんだい?ぜひ教えてくれたまえ」
「親友以上じゃダメなのか?」
「キョン……少しは空気を読んでくれたまえ。僕が恥をかくだけじゃないか」
『なら、話はそこまでにした方がよさそうだ。時間だ』
『お疲れ様でした!』

 

朝の議題は当然青チームの世界の電話対応について。最初に口火を切ったのは古泉。
「あのニュースの内容を考えると、今日はW圭一さんを入れ替えた方が良さそうですね」
「黄古泉君、それってどういうことですか?」
「こっちの人事部の統括を彼のお父上にお任せして、青圭一さんが入り、オフィスへ圭一さんが出向くんです。今日は取材や番組出演依頼、各球団、芸能プロダクションからの勧誘、冊子の契約、冊子を購入した客からの問い合わせ等々、様々な電話が予想されます。電話の応対に慣れている圭一さんをオフィスに向かわせることで、我が社にとって良い電話とそうでないものに仕分けることができます。それに加えて、青裕さんたち三人が判断に迷う電話が来たときは、異世界人でも見た目は圭一さんですから三人にとって相談しやすい相手ということになります」
「なるほど、私が異世界の電話対応をした方がより効率的だということか。確かに古泉の言う通り、異世界の裕も森も新川も相談しやすくなる。今日はわたしがそちらに赴くことにしよう」
「ちょっと待ちたまえ。圭一さんもキョンのご尊父も日曜は休みじゃないのかい?青チームの四人は月曜日が定休日だと青古泉君が定めてくれたけど、休みもなく働いて大丈夫なのかい?」
「我々の配慮をしてくれるのはありがたいが、そうも言ってはいられない状態だろう。それに私たちよりも君たちの方がよっぽど働いている。休みを取っても電話の対応が大丈夫か気になって仕方がないだろう。気持ちだけいただいておくよ。こちらの森は休ませてやってくれ」
「キョン、お母さんたち大丈夫かな?閉鎖空間で入れなくても外で待ってたりしたら……」
「そうだな、また皆の家にまわって東日本代表を執拗に追い詰めるよう催眠をかけてくる」
「あんな奴等なんてもう放っておけばいいわ。それより、今日の記事に出ていた国民的アイドルさんのバックアップをさせてみない?各球団に出向いてわたしたちと対戦する気がないか聞いて回らせるのよ。勿論、メジャーリーグに出ている日本人選手も含めて。選手が集まればすぐにでも試合が可能。そう思わない?」
「黄涼子、それよ!芸能人の野球好きを集めただけのチームよりは断然そっちの方がいいわよ!それでこそ、闘いがいがあるってもんよ!」
「今一番波に乗っているプロ球団すら倒したっていうのにまだ上があるのかい?怖くてバッターボックスに立てそうにないよ。僕はベンチウォーマーでもう十分だ。ゆっくり観戦させてもらえないかい?」
「バレー合宿が終わってしまえば、しばらくは個人の自由だ。しかし、今朝のニュースを見ていたときは古泉が黄佐々木にも出て欲しいと言っていたんだ。当然練習に付き合ってくれるよな?ジョンと将棋なんて指さずに」
「わたしも皆さんの投げてくれるボールが正確すぎるくらいでグローブを構えることしかしていませんでした。わたしにも捕球練習させてください!」
「心配いりませんよ。九月に入れば土日はよほど忙しくない限り、佐々木さんのラボで未来の黄僕と一緒に将棋が指せるんです。夜間はちゃんと監督としての責務を果たします。ただ、黄僕がドラマ撮影のせいで参加できないのが難点です」
『それなら俺が朝倉涼子と古泉一樹を同時に相手にすれば済むだろう?』
「あら、指導将棋をしながらわたしの相手だなんて、わたしも随分なめられたものね。でも、それをただ伝えるためだけに出てきたとは思えないわね。一体どうしたのかしら?」
「スカ○ターの音量調節機能について説明し忘れたんだよ」
『音量調節!?』
やはり、どうにかならないのかと思っていたのは俺だけではなかったらしい。半数以上のメンバーがジョンを睨んでいた。ただまぁ、自分から出てきて説明しているから、佐々木の真似をしたことについては報告しないでおいてやるよ。

 

「じゃあ、この後すぐ俺は電話対応に向かうことにするが、今日のビラ配りはOG以外のメンバーで頼む。OG六人は午前中は荷物整理、午後は異世界の自分たちと会ってここで話すことになるだろう。食事や生放送後のパーティのための料理もすべて青ハルヒや古泉と三人で作った。昨日と同じくスタジアムでパーティをして異世界のOGたちにも景色を堪能してもらうつもりだ。ただ、場合によっては残り五人も転職をして我が社で働きたいと言い出すかもしれん。そうなった場合、日本代表として本社を離れている間、今OG達が使っている部屋をそのまま使ってもらうことにする。異世界人とはいえ自分自身だから、そこまで変わるところもないだろうが、部屋を案内して相談してみてくれ。異世界支部を運営していくにあたって人材が必要になってくる。今までOGたちがやってくれていたように色々と仕事を任せたいと思ってる。すぐには退社できないだろうが、こっちはいつでもOKだと伝えてくれ。明日のディナーはOG六人とも日本代表と一緒に回転寿司を食べたら、他の選手と一緒にバスに乗り込むことになるだろう。青チームの圭一さん達と同様、来年の四月の時点で82階以上のフロアに引っ越してもらえばいい。99階や98階あたりは、青古泉の計画通りスィートルームにでもすればいいだろう」
『キョン先輩、ありがとうございます!!』
「あと、明日青古泉主演のドラマの撮影をラスベガスで行う。セットを建てるのもそうだが、第二シーズンの概要と脚本も出来てきた。そろそろ主題歌を考えてもいい頃だ。ドラマ中のBGMをENOZが担当してくれているんだが、今古泉が撮影しているドラマのように主題歌をアレンジしたものを流す場合もある。ハルヒと有希で作詞作曲と建築を頼む。それと、明日ドラマ撮影に行くメンバーは今日は休んでもらっても構わない。特に新川さんは今週は火曜日に休んでもらうのはどうかと思っている。社員食堂はその分青新川さんに立ってもらい料理長のスペシャルランチとディナーを作ってもらうというのでどうだ?」
「じゃあ、明日はこっちの新川さんと食材をどうするか相談することにするわね」
「では、撮影が終わり次第僕もディナーの方に回ることにしましょう」
「あたしに任せなさい!」
「セットはわたしが準備する」
「わたくしのなどのために、皆様のご配慮ありがとうございます」
「すみません。最後に僕から一つよろしいでしょうか?」
ハルヒの真似をするのであれば、「何よ、さっさと言って御覧なさいよ」だな。だが、例の一週間を終えてから青古泉の活躍は周りの想像以上なのは確かだ。何か重要な案件に間違いない。
「いいからさっさと言って御覧なさいよ」
「では、遠慮なく。異世界の方も既にネットから発注が来ています。明日から倉庫に呼ぶ予定でいますが、今日も明日も三時以降は面談で埋まっていますので、パート・アルバイトの希望者が出た場合は明日の十時から15分刻みで連絡をお願いします。加えて今日と明日、僕と涼宮さんが契約にいく場合は、面談をこちらの森さんにお願いしたいのですがよろしいですか?」
「分かりました。店舗の方で対応します」
「大分長くなってしまったが、何かあれば食事時に確認し合うことにしよう。また長い一日だが宜しく頼む」
『問題ない』

 

 まず最初に動いたのは青俺。青古泉に明日以降の倉庫については自分がやると名乗り出た。鍵を開けるところから、パート・アルバイト希望者へのピッキング、梱包の説明、足りなくなったものをキューブから取り出す作業まで全責任を負うらしい。青古泉の方もトラックは明後日から来るように手配をしてあると話していた。それを聞いてすぐ青俺が実家へ異世界移動、青古泉の方も異世界に向かった。俺も圭一さんたちを連れてオフィスへ。俺たちがテレポートで来られる以上、ここの鍵は愚妹が持っている方がいいだろう。今日は一日電話が点滅しつづけることになりそうだ。俺の時間も限られているし、一つでも多く電話対応して邪魔者は駆除するまで。青新川さん、青森さん、青裕さんにもエネルギーを渡してある。……って、青森さんと今後は呼ばなきゃならんのか?黄森さんというのもどうかと思うが、他のメンバーが何て言うかによって決めることにしよう。どの道、来年四月には異世界支部で活躍してもらうことになるんだからな。偽名を名乗った時点で本名を言い当て、ブラックリストに追加。芸能プロダクションや球団の名前が出た時点で「誰も今の仕事から離れるつもりはない」と一言。たまに周りから、この場合はどうしたらいいかなどを聞かれながら駆逐していくこと数時間。
『キョン先輩、私をオフィスまで連れて行ってくれませんか?そろそろみんな来る頃なので』
『分かった。荷造りはできたんだろうな?』
『問題ないです!』
OGをこちらへ呼び寄せると、すぐさま外に出て店舗の前に集まっていたメンバーに声をかけている。まだ全員ではないが、既にそこにいた全員で盛り上がっている。練習試合に出るわけでもないのに、どうして午前中からユニフォーム姿なのか問い詰めたくなったが、六人で決めたようだ。残り五人もユニフォーム姿で待っていると見て間違いない。しかし、バレーを続けているのとそうでないのとでここまで違いが出るものなのか?森さんたちももう少し見分けがつくようになっていればなぁ。俺の両親と違ってみんなスタイルがいいからどちらか一方にジョン式筋トレをかけても意味がない。
「キョン先輩!全員揃いました!送ってください!……できれば、キョン先輩も一緒に」
俺が一緒に行ってどうするんだ?逆に話しづらくないか?まぁいい、希望通り八人で向かうことにしよう。異世界のOG達の変わり様を見たら、残り五人も驚くだろうな。こっちは日本代表として決まったときの新聞をもっているから髪型は知ってるが、OGたちは異世界人が来ると分かっていても外見や服装などはまだ見たことがない。さて、どんな反応をするのやら。

 

 本社の81階へと戻るとOGたちが黄チーム側の座席に座っていた。案の定異世界の自分の姿に何と言っていいのやら分からんらしい。
「とりあえず、自分の前の席に座って」
既に異世界人の自分と会っているOGが声をかけていた。自分も黄チーム側に座っている。
「それで?俺も一緒にってのはどういうことだ?」
「みんなよりも先に昼食を食べたいんです。多分、私たちと同じ反応をすると思うと、みんなの前じゃ恥ずかしくて……」
なるほど、今日は人事部の社員もいないし大丈夫だろうとは思っていたが、そういうことか。
「分かった。12人全員食べるでいいんだな?」
『問題ない』
「今の『問題ない』って……何?」
『有希先輩の真似』
「あっ、でも昨日の野球の試合は長門って苗字で別人に見えるように変装して出場してたから…」
『変装!?』
「私も見たときはビックリした。ベンチの横で応援していたチアガール、みくる先輩以外は私たちだったの!」
『私たち?』
「見せた方が早そうだな。ついでに俺も青俺と間違えられてそうだから一緒に見せてしまおう」
パチンと指を鳴らして俺を含めた七人に催眠をかけた。
『え―――――――――――――!!じゃあ、今までの試合の応援していたのも全部!?』
『そう、私たち。異世界の私たちが混乱しないようにって先輩たちが別人に見えるようにしてくれたの』
「昨日の試合で人数が増えていたのは?」
「私たち二人が先に日本代表に選ばれて、日本代表として世界各国回ってたから応援に行くことができなかったの。でも、この二週間はこのビルの体育館を使って練習合宿で先週も出られたんだけど、結局昨日の試合だけになっちゃって。日本代表が来るようになってからずっと先輩たちが日本代表選手とシーズンごとに闘ってる。日本代表より先輩たちの方が強いんだ」
「何言ってんだ。今シーズンは初日、二日目と圧勝して最後は25-0だっただろうが。防御力なら俺たち三チームの中でOG達がトップだろう?」
『25-0!?』
「日本代表相手にどんな試合したらそんな結果になるの!?」
「今日の試合を見れば分かる。特等席を確保しておいたからみんなでその証拠を見るといい。昼食暖めたぞ、配膳手伝ってくれ」
催眠はもう解除しても問題ないだろう。

 

『美味――――――――――――――――――――――――――――――――い!!』
異世界のOGたちの反応を見て、おそらく俺の真似だろう。やれやれと中指をこめかみにあてている。一口食べてガタンと椅子を後ろに倒して立ち上がっていた青OG達がようやく椅子に腰掛ける。
「これ誰が作ったの?」
「普段はそこにいるキョン先輩とそっちの世界のハルヒ先輩が作ってくれてるけど、今みたいに日本代表が来ているときはこっちの古泉先輩も入って三人で調理場に立ってる。キョン先輩が食事の支度ができないときは古泉先輩が作ってくれてる」
『古泉先輩!?』
「涼宮先輩のことばっかり見て、他の女子と会話してても視線はずっと涼宮先輩を見てるあの古泉先輩?」
その解釈で間違いないな。スタイルや顔立ちは良くても青ハルヒばっかり見てたらそういう噂になってもおかしくない。まぁ、ようやく変わろうとしてきているがな。
「そう。でもこっちの古泉先輩はそんな変態的なことはしないし、とっても頼りになる先輩」
「そう言えば、この前古泉先輩にプロポーズしてたよね?マネージャーとしてドラマの撮影について行ったし」
『プロポーズ!?』
「わたしがあの古泉先輩にプロポーズしたの?それにドラマ撮影について行ったってどういうこと?」
「半分断られちゃったようなもんだけどね。とりあえず、六人とも古泉先輩に対するレッテルをはがした方がいいと思うよ?こっちの古泉先輩とは全然違うから。ドラマ撮影っていうのは、古泉先輩が主演の月9ドラマ。秋のシーズンで放送される予定」
「月9って王道のラブコメだよね?それに古泉先輩が主演で出るの?」
「そう、今撮影に行ってて、昼食で戻ってくるのは今六人が想像している方の古泉先輩。でも、刑罰の執行期間が終わってからは結構頼りになったよね?」
「刑罰って何?」
「北高時代から今までずっ――――とWハルヒ先輩ばっかり見てて、先々週だったかな?青古泉先輩にはWハルヒ先輩がまったくの別人に見えるようにしたら四日目くらいから体調不良になって…一週間の執行期間が終わってからは少しマシになった」
しかし、女子が会話しているところに俺が居ていいのか?ステルスでも張るか?
「ねぇ、今『青古泉先輩』って言ってたよね?青ってどういうこと?」
「こっちの世界の人間と異世界の人間と色で分けてるんだ。私たちみたいに外見ですぐ区別がつくと分かりやすくていいんだけど、瓜二つで区別がつけられない人がたくさんいて、こっちの世界の人は黄色、異世界の人は青色って色で分けてる」
「そうだ、あのときおかしいと思ったんだ。朝比奈先輩を入れて六人なはずなのにどうしてSOS団『Blueチーム』なんだろうって……」
「何なら後ろに飾ってあるガラスケースを見てみたらどうだ。俺たちが瓜二つなのが良く分かるはずだ」
『ガラスケース?って、えぇ―――――――――――っ!!何この金塊!?』
「キョン先輩が企画してくれた宝探しツアーで見つけたお宝。確か、オーストリアとロシアと、太平洋のど真ん中の海底5000m?」
「ああ、それで間違いない」
「オーストリアとロシアはまだいいけど海底5000mなんてどうやって行ったんですか!?」
「キョン先輩の超能力。エネルギーさえもらえれば、私たちだって空を飛び回ることだってできる」
その言葉に呼応してOG六人が宙に浮いて見せた。
「凄い、キョン先輩私たちでもできるんですか?」
「それなりに練習は必要だがエネルギーさえ渡せば誰にでもできる。天井に頭をぶつけない様にしろよ?」
『私にも分けてください!!』
やれやれ……先に食事をするまでは良かったが、このままじゃ他の連中も来てしまうぞ。話が本筋からどんどんそれている。最初は何を話していたのか俺も忘れてしまった。

 

 折角温めた食事も一口しか食べてないまま周りの金塊やガラスケースに入れられた北高時代の俺たちの思い出の品々を眺めていた。こっちのOGたちはすでに食べ終えている。そう言えば、双子の苗字のこと伝えないとな。
「ただいま戻りました」
先ほど話題に出ていた青古泉が一番に現れた。異世界のOGたちが青古泉を凝視している。
「ああ、我々の世界のOGたちですか。僕がどうかしたんですか?」
「おまえが北高時代にやっていた青ハルヒへの変態的な行動が北高全学年女子の話題になっていたんだと。こっちの古泉は真っ当だといくら説明しても、おまえのおかげでレッテルを張られたままだ。まぁ、催眠を解かれてからは優秀な人材として色々とまわってくれているが汚名返上に至るまでは先が長そうだ。だが、昼食を食べながら確認したらどうだ?もうハルヒに対する視線は無くなっているはずだからな。それに座席も移動してもらうことになりそうだ」
OGの誘導に従って、異世界のOGたちが席を変えた。席の前に料理をテレポートして食べ終えているOGの皿はすでにシンクの中。エレベーターの到着の音がなり、子供たちとENOZ、青有希が現れた。
『キョンパパ、ただいま!』
「おう、おかえり。ちゃんとタオルで汗拭いてるか?折角のユニフォームが汗でベタベタだな。三人ともユニフォームもう一つ作ってやるから、午後はそれを着て試合に出ろ。その間にユニフォームは洗濯しておく」
『もう一つユニフォーム!?キョンパパ、早く着たい!!』
「じゃあ、靴以外全部ドレスチェンジだな」
白を基調としたユニフォームを着せて三人の着ていたユニフォームは99階の洗濯乾燥機の中へ。洗濯乾燥機をまわしてから電話対応に行くことにしよう。
「キョン……パパ?キョン先輩、その子たち一体いくつなんですか?」
「小学一年生と幼稚園の年長さんだ。身体を拡大してバレーの練習に一緒に参加している」
『小学一年生と幼稚園児!?』
「身体を拡大したってどういうことですか!?」
「なら、原寸大に戻すことにしよう。………これが原寸大の身長だ」
『キョン(伊織)パパ!これじゃわたし試合に出られない!!大きくして!!』
再度拡大した子供たちを見て、口をぽっかり開けたまま動きそうにない。これからほぼ全員が集まるっていうのに……大丈夫か?

 

全員が揃ったところで昼食。すでに食べ終えたOGが異世界のOGたちの疑問に答えていた。
「ところで青古泉、契約についてはどうなった?」
「その件でしたら森さんから伺いました。今日の四時から30分刻みでこちらの世界と同様の四社を回ることになるでしょう。どの会社も10万部ずつなどと言っていますが、今朝のニュースで話題になったくらいですから、どの道追加することになりそうだと説明して最低でも20万部。僕の目算では30万部ずつになるかと。既に冊子の方は120万部作り終えていますのでいつでも対応可能です。涼宮さんもそれまでに準備をお願いします」
「今日中に四社回れるのであれば、明日の面談は青古泉で問題なさそうだな。ドラマの最終話の撮影は午前中からでいいだろう。俺は電話対応にまわるから撮影が終わったら見せてくれ」
「駄目、あなたも一緒に来て。第三者の眼で見る必要がある。冊子と同じ」
「Wハルヒや有希がいるのなら十分じゃないのか?」
「キョン君、わたしもキョン君に見ていて欲しいです。ダメですか?」
「俺が向こうで出来ることなんてほとんどないと思うんだが……分かったよ」
「閃いた!」
襟首を掴まれてダメージを負うことは無かったが、後ろに椅子を倒してハルヒが立ちあがる。コイツ、昨日は『なんであんたばっかりアイディアが浮かんでくるのよ』的なこと言ってなかったか?
「それで、何が閃いたんだ?」
「最終話で捕まる犯人役!あんた、青古泉君に縛られなさい!」
「ああ、それなら適役だな。ってどんな顔の奴だったか忘れた。有希、ラスベガスに行ったら催眠かけてくれ」
『ラスベガス――――――――――!?』
青チームの圭一さんたちとOGが同時に立ちあがった。OGは来たばかりだから仕方がないとして、国外の支部のことまではさすがに話していなかったのか。
「外国にも俺たちの会社が建っているんだよ。アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、韓国、そして今作っている最中の異世界支部。アメリカ支部の経営が順調に進むにつれて他の企業が倒産してな。その報復にマフィアが俺たちの会社を襲ってくるようになった。だが、俺たちにそんなもの通用しない。逆にマフィアを壊滅させてその土地と資金を強奪していたんだ。それでラスベガスの建物がほとんど無くなって、ドラマの撮影に広い土地が必要だからとラスベガスにセットを建てた。それだけだ」
「それだけって、マフィア相手にどうやって闘ったんですか!?」
「食事中に戦闘シーンを見せるわけにもいかんし………そうだな、TVにそのときのことを映すか」
いつもニュースをチェックしているTVをくるりと回転させると、まずモニターに映ったのはアメリカ支部をヘリ二機が攻撃しているシーン。サイコキネシスでヘリを破壊して、ボスのいるカジノへ。ガードマンを倒し拳銃の弾幕を浴びても閉鎖空間が防いでくれる。ボスの首を絞めあげて「もうあんたらには二度と関わらない」と言ったところで終了。もっとも、英語が理解できているかどうかは別だけどな。この後の大量殺人のシーンを見せるわけにはいかない。
「とまぁ、こんな感じだ。ボスを絞めあげて見逃す代わりに土地を明け渡せと脅した。他のマフィアも同様だ」
「これ、全部キョン先輩の超能力で?」
「ああ、なんなら試しに拳銃を撃って見せようか?本人にあたるどころかその手前で弾丸が落ちるところを。俺が撃たれる方でも構わんが」
「いや、君がそこまで言うんだ。この映像もどうやら本当にあった出来事らしい。私も驚いたよ、他にも色々と見てみたいものだが、そろそろ仕事に戻る時間だ。また機会があったときに見せてくれ」
「分かりました。とりあえず今日で野球もバレーも一段落するし、今日の生放送後のパーティは派手にいこうぜ」
『問題ない』

 
 

…To be continued