500年後からの来訪者After Future3-19(163-39)

Last-modified: 2016-09-09 (金) 21:31:14

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future3-19163-39氏

作品

異世界のOGたちを呼んで生放送の五セット15点マッチもついに決着!一セット目はセッターが一人だけの青チームを相手に青古泉を執拗に狙い攻撃を単調にされて大差で日本代表チームにセットを取られてしまったが、残る四セットはすべてこちらの勝利で幕を閉じた。その中でも一際目立っていたのが零式を解禁し、異世界のOGに今の自分たちの実力を見せ、この六人で世界大会にでるというある種の執念で完封勝利。また、古泉の新サーブが遂に解禁。ナックルボールの性質と威力の無さから、安定したレシーブができずセッターに繋げられずにサーブのみで四点をぶん獲った。15点マッチということもあり、さすがにこれ以上は周りのメンバーが活躍できないとして通常サーブに戻したが、サーブを放つまでのモーションが通常サーブとまったく変わらず、通常サーブで相手の意表をつくことができた。二週間、ドラマの撮影で午前の練習も練習試合もほとんど出ることができなかった古泉に乾杯の音頭を任せ、SOS天空スタジアムでの盛大なパーティが始まった。

 

「ところで幸、夏休みの宿題は終わったのか?」
「問題ない。ママに教えてもらった!」
「よし、じゃあ三人にはこれをやろう」
キューブで縮小しておいたものを拡大して中身を取り出すと、それだけで何が出てくるのか分かったらしい。まぁ、某チェーン店で使われている箱をそのまま再現したからな。
「キョン(伊織)パパ、これ、ドーナツ?」
「ああ、三人のために作っておいた。三人とも食べたいものを選べ」
原寸大に戻った子供たちにテーブルに置かれたドーナツの箱の中身が見えるはずもなく、幸が双子のところまで移動して床に置かれた箱の中身を真剣な眼差しで見つめること数秒。『コレ!』と叫んで両手で二つのドーナツを指差した。
「じゃあ、あとは明日の朝にしよう」
皿に乗せて席の前に置くと、三人とも眼が輝いている。『パーティ=ドーナツ』の脳内方程式は崩せたものの、未だに三人の好物はドーナツで間違いない。来年は双子も小学校だし、夏休みの宿題が終わってなければ練習試合に出られないルールにするか。
「ハルヒ、後で頼みたい事があるんだが、いいか?」
「何よ!?」
事前に俺が一番目立つと言っておいたし、何で相手の攻撃が読めるのかもすべて説明したのにパーティが始まっても未だに不機嫌なのは変わらずか。
『乾杯の音頭を古泉一樹に任せたのもあるだろうな。キョンも他のメンバーも忘れているようだが、スカ○ターはこれで回収させてもらうぞ』
スカ○ターと聞いてまだ身につけていたことにようやく気付いた。ジョンがテレポートさせると俺と同じ反応を示したのが数人。ハルヒもその内の一人だったようだ。ハルヒに触れて頼みごとを伝えると、さっきまでの不機嫌オーラが嘘のように消え去った。
「面白いじゃない!!あたしに任せなさい!」
「そういえば、これつけていたのすっかり忘れてた」
「わたしもです。あ、そうだ。ハルヒさん、明日の撮影はいつ頃終わりそうですか?出来れば明日は青チームで練習試合に出たいんです。一日くらいなら古泉君が練習試合に参加していても不思議には思われないかなって……」
「う~ん……殺陣から涼子や新川さんたちが逃げていくシーンまでを一気に撮らないといけないから、一回で終わるかもしれないし何度かやり直してたら丸一日かかっちゃうし……あたしにもどうなるか分からないのよね」
「黄あたしが納得できるものを一発で仕上げて見せるわよ!古泉君、いけるわよね!?」
「それは僕も同感ですが、朝倉さんがさっき言っていた通り、今日このあとジョンの世界で練習したとしても、明日の実戦でスイッチ要因としての役割を果たすのはいくらなんでも無茶です」
「フフン、青みくるの願い、あたしが叶えてやるっさ!」
「鶴屋さん何か考えがあるんですか?」
「黄鶴ちゃん!教えて!どうすれば対等に戦える!?」
「わたしからもお願いします!今シーズン中に青チームだけで勝っておきたいんです!」
前にも見た光景だが、今回は青古泉が執拗に狙われたことによるもの。相手の作戦さえ打破してしまえば青チームの方が断然強い。俺にもどんな戦略なのかよく分からんが、鶴屋さんはどんな戦術を閃いたんだ?

 

「簡単にょろ。前衛の横じゃなくて、青古泉君が前衛の後ろに隠れていればいいだけっさ!」
『はぁ!?』
「ちょっと待つっさ!それじゃ古泉君のトスが間に合わないっさ!」
「話は最後まで聞くにょろよ。当然、真後ろに隠れていたらセッターが狙われることは無いにょろが、セッターのポジションに着くまでに時間がかかってしまうっさ。でも、今のレシーブ力なら通常のレシーブより高く上げて、青古泉君がポジションにつくまでの時間が稼ぐことができるにょろ。それに、レフトとセンターは左に、ライトは右に移動してスパイクの準備に入るだけで道が開けるっさ。相手がフェイントでボールを落としてきたときは、そのままトスを上げて攻撃してしまえばいいにょろよ。相手だって受ける体制は整っていないはずっさ。あとは空いたスペースに打ちこむだけにょろ」
「いつもよりレシーブを高く上げろってだけなら……いけそうだな?」
「わたしもキョンと同じ。これなら朝倉さんにセッターを交代しなくて済む。でも来シーズンまでにはわたし達もスイッチ要因を作るべき」
「そのくらい簡単よ!!古泉君、明日の撮影絶対に午前中に終わらせるわよ!!」
「今日の大敗を巻き返す絶好のチャンスのようですね。黄鶴屋さんのアイディアを絶対に無駄にはしません!」
「あたしも入れて欲しいっさ!こてんぱんにやられたままじゃ家に帰れないっさ!」
「じゃあ……古泉君ができるだけ前衛にいられるようにするには………キョン君、わたし、涼宮さん、古泉君、鶴屋さん、有希さんのサーブ順でどうですか?」
「僕と朝倉さんはお払い箱かい?途中で入らせてくれたまえ」
「それもそうね。セッターじゃないのなら、わたしも入れて欲しいな」
「明日は圧勝するわよ!一つでもミスしたら即涼子や佐々木さんと交代だから!いいわね!?」
『問題ない』

 

 珍しいこともあるもんだと最初は思ったが、今日一日のことを考えれば当然か。朝比奈さんより古泉が先にダウンしていた。古泉を自室にテレポートして鶴屋さんと佐々木の間に入る。
「おまえには謝ってばかりな気がするが、今日もジョンの世界で食事の支度をしないといかん。撮影に立ち会えとまで言われてしまってはな」
「バレーの監督と同じ気分だよ。半年後までキミとの時間が取れないと思うとね。けど、脚本を書いたり、撮影したりなんてやっているうちに時間が過ぎていきそうな気がするんだ。キミがこっちに戻ってくるときは、仕事よりもハルヒさんや子供たちの時間を作ってくれたまえ。もし、それでも時間が余ったらこうやってキミと過ごす時間を持たせて欲しい」
「脚本に撮影って……おまえ、自分の研究の方はどうした?」
「脚本がある程度仕上がったところで青僕と二人で研究に没頭することになりそうだね。十二月に入った段階で以前話した通り冊子ができあがるからそこで撮影に入る。キミのご母堂も随分痩せてきているからね。最初の客として映えるような髪型とファッションにしたいと思ってるんだ。キミも楽しみにしててくれたまえ」
「それで、結局今日は野球とバレー、どっちの練習をするんだ?」
「青古泉君も青朝倉さんもバレーの方になりそうだからね。僕もスパイクを打つ方にまわることにするよ」
『黄キョン先輩、私たちもジョンの世界ってところに行ってもいいですか?』
「それは別に構わないが、いきなりどうしたんだ?さっきの対決を見てバレーをまたやりたくなったのか?」
「それもあるんですけど……一階でフルコーディネートした後、黄私の部屋の服を見たらサイズが違ってて着られなかったんです!寝てる間に運動して痩せられるって今聞いて……」
なるほど、そういうことか。こっちのOGたちが着ている服はすべて我が社のものだからな。服のセンスについては最初に電話してきた一人を除いてこっちの方が上だろう。下着はさすがに嫌がるかもしれないが、他の服についてはそこまで抵抗はないらしい。
「だったら、今夜から来るといい。ところで、青チームの北高の最後の引退試合は結果はどうだったんだ?」
「練習は頑張ったんですけど、結局予選で負けてしまって……」
「クイック技は使えるのか?」
「そんな上級技全然使えませんでした。何度か練習したこともあったんですけど……こっちの世界の私たちがあそこまで連携技を駆使して闘ってるなんて本当に吃驚しました」
まぁ、俺たちが高校三年生のときは15点マッチの一セットで顧問に承諾をもらって、俺のサーブだけで15-0で完封してそこからスタートしたからな。青チームも呼んで三チームでという条件で練習試合をOKしてもらっていたから異世界の方も青古泉がバレー部顧問に交渉に行ったとしてもあのときの青俺では15-0にはならない。だがその分クイック技が見られたかもしれん。今さら「もし、……だったら」なんてことを言ってところで変えられるわけがないんだからな。この時間平面上が特別なだけだ。俺たちが関わった時間平面上だけが特別なんだ。他の時間平面上では朝比奈さんのようなエージェントがその時間平面上の未来を安定させるために派遣されて同じレールに乗っているだけにすぎない。高三の頃の異世界に出向いて青ハルヒたちをけしかけたとしてもそれはその時間平面上のことだけであって今目の前にいる六人にまったく影響はない。だが、
「それなら丁度いい。こっちの六人も青チームもスイッチ要因を作るための練習から始めるんだ。レシーブ練習は勿論だが、クイック技の練習にも参加できる。ただ、ちゃんと動ける格好で来いよ?自分でイメージした服でジョンの世界に行くことになるからな」
『はい!分かりました!』
「今後は彼女たちを鍛えていくことになりそうだ。僕も早く練習がしたい。みんな疲れて眠ってしまったようだし、そろそろ戻らないかい?片付けは明日の朝でもできるだろう?」
「佐々木先輩!片付けは私たちにやらせてください!」
「くっくっ、どうしたんだい?急に。まだ離れてもいないのにもうホームシックかい?半年待たなくても来たいときにいつでも戻って来られるじゃないか。テレポートなら地球の裏側にいても一瞬だからね。それに時差の関係でズレることもあるかもしれないけど、ジョンの世界でみんなにも会える」
「佐々木の言う通りだ。食事の支度が俺から青新川さんに変わっても夕食を六人分追加して欲しいと言えば、OKしてくれるはずだ。ジョンの世界で新川流の料理を食べるんだろ?」
やれやれ、さっきのコメントでも複雑な気持ちだなんて言ってたが、今までの人生の半分とまでは行かなくてもこのメンバーで過ごしてきたことに愛着が湧いていたらしい。六人全員涙を零していた。部屋に戻らずにここで寝てしまった連中を部屋へと送って俺たちも部屋に戻った。床で寝ていたメンバーたちは背中が土だらけだったなんてことにならなければいいんだが……すべて透明に見せているとはいえ、俺たちのいる場所は野球のグラウンドのど真ん中。周りは土だ。まぁ、例の磁場でどうにでもなる。昨日だって風呂からあがったあと、条件を水に変えた磁場を張ったらバスタオルとドライヤーが必要無かったくらいだからな。

 

 こっちのOGは最初はうまくイメージできなかったから異世界のOGたちもどうなるかと思ったが、そこまで心配する必要もどうやら無かったらしい。北高時代のユニフォームで六人がジョンの世界に現れた。俺が食事の支度をしている間、朝倉と古泉はジョンと将棋、他のメンバーはバレーの練習。スイッチ要因になったOGと青朝倉は有希と青古泉から指導を受けていた。そして、子供たちには正座を強要させられて俺が頼んでおいたハルヒのお説教。
「あんた達、古泉君のサーブで四点もリードしてたっていうのに、危うくデュースになって負けていたかもしれないのよ!?まだまだ未熟!伊織も零式が撃ちたいのならレシーブやトスがもっと上手くなってからにしなさい!!それまで零式は使用禁止!来シーズンまでにしっかり練習してないと三人とも試合に出さないからそのつもりでいなさい!いいわね!!」
『ぶー…分かったわよ』
「何よ、その返事は!!いいのよ?嫌々練習に参加するくらいならいっそのことバレーは諦めても。あんた達のせいで日本代表に来てもらえなくなるかもしれないもの。そんな腑抜けた奴を出すくらいなら、どれだけ忙しくてもあたし達だけで闘うわ!!ちゃんと返事できないのならあんた達の出番は絶対に来ないと思いなさい!分かったわね!?」
『はい、分かりました』
折角、古泉のサーブで稼いだ分の点差が詰め寄られたことについてキツイお仕置きをとは頼んだが、「何よ、その返事は!!」は無いだろう。三人ともハルヒの真似をしただけだ。まぁ、泣きながら練習に参加していったが、次第に表情は明るくなっていた。

 

「さて、昨日朝倉が言っていた勝負がどうなったか、結果を見ることにしようぜ」
『勝負?』
「わたしたちの中で誰が翌朝の新聞の一面を飾ることができるのか、六人で勝負していたのよ」
「六人って僕も入っているのかい?僕が一面を飾るなんてありえないから安心してくれたまえ」
「面白いじゃない!誰が一番写っているかあたしがチェックしてやるわ!」
「おそらく六人中二人だけだと思いますよ?それ以外の候補と言えば監督とOGたちくらいです」
「二人って誰のことよ?」
「ニュースを見れば分かりますよ」
青古泉のセリフを受けてジョンが現実世界と消失世界のニュースを二つ同時にモニターに出した。消失世界の方は特に何も………ん?
『海外組も参戦!?SOS団を倒すのは俺だ!』、『負けず嫌い集結!!中○チーム結成か!?』等々
「朝倉の提案した催眠でもう効果が出てるとは思わなかったぞ。海外組も参戦ってことは倒しがいがありそうだな。まさかもうこんな見出しで記事になっているなんてな」
「わたしもこんなに早いとは思わなかったわ。セッターの練習よりも野球の練習を優先した方がいいかもしれないわね」
「それよりこっちの方。どうやら古泉君の言った通りだったようね」
現実世界の方の新聞の見出しは、『司令塔復活!!怒涛の攻撃で圧倒!』、『キョン社長豪語!自分一人抜けても男子日本代表の強さは変わらない!』等の見出しで試合中やインタビュー中の俺が写ったもの。『古泉一樹、無銘のサーブで連続得点!!』、『新サーブ炸裂!バレー版ナックルボール!?』、『日本代表を翻弄!必殺サーブ命名なるか!?』等、古泉の新サーブを撃つ瞬間を捉えた写真で一面を飾ったもの。『完封再び!弱点を克服して世界へ!』とOG六人のインタビューシーンを撮影したもの。予想通り、ハルヒ、有希、朝倉に関する記事は一つとして無かった。監督の方はVTRでとりあげられていた。投げる側が三人しかいないのに俺たちだけで男子にも同じ練習なんてできるか!
「やっぱり、新サーブを撃った黄古泉君の方が多かった」
「も―――――――――――――――――どうしてあたしの記事が一枚もないのよ!?」
「わたしも不満。抗議する」
「今日一番目立てばそれでいいわよ。彼も古泉君も試合には出られないんだから」
「あっ、黄涼子、それちょっと待ちなさいよ!今日は青チームでやるんだから!」
「あなたたちは一セットでも勝利を収めればそれでいいはすよ?わたしたちにも出番が欲しいわね」
『あとは朝食を食べながらにしたらどうだ?時間だ』
『お疲れ様でした!』

 

 ジョンからは朝食を食べながらと言われたものの、今日は今日で考えなければならん議題がある。今日でおそらく今年最後になるであろう自家製パンを、子供たちはドーナツを食べながら舌鼓を打っていた。その状況を見て俺が口火を切ろうとしたのだが、有希のたった三文字によって遮られてしまった。
「できた」
「できたのは分かったから今度は何ができたのか見せてみろ」
今度は何が出てくるのやらまったく見当がつかん。有希の高速詠唱と同時にテーブルの中央に現れたのは……楽譜?
「これ、もしかしてオーケストラの楽譜?」
「そう。ハレ晴レユカイのオーケストラバージョンとベートーベン交響曲第七番の第一楽章。この二つを課題曲として団員を希望してきた人に送る。中学生の職場体験が終わった翌週の週末あたりに希望者を集めてわたしと朝倉涼子、多丸圭一で審査する。あなたは指揮者として全体を統括する必要がある。練習しておいて」
「あたしに任せなさい!」
「ベト七の第一楽章と言えば、前にドラマで何度も聞いた記憶がありますよ。これがオーケストラで聴けるのであれば僕も同席させていただきたいですね」
「問題ない。メンバーが多い方が緊張感も高まる。明日垂れ幕を垂らす。団員加入希望者に住所や電話番号、楽器名を聞いてこの楽譜を送付して欲しい。対応マニュアルはわたしが作っておく」
「そうしてもらえるとこちらも助かるよ」
「では、僕の方で量産したものを人事部に置いておきましょう。撮影に行く前の数分で十分です」
「じゃあ、あとは俺からだ。俺も含めてドラマの最終話の撮影に向かうメンバーはこのあとここに残ってくれ。今日のビラ配りは午後でも構わない。体育館で練習する方を優先して欲しい。二つ目、朝食が食べ終わったら異世界のOG六人を自宅や会社へ送って欲しい異世界移動できるメンバーで頼む。男性が部屋に入られるのは嫌だということもあり得るんでな」
「キョン先輩たちなら構いませんけど、古泉先輩はちょっと……」
「やれやれ、こっちの古泉のせいで黄古泉の印象まで悪くなってしまった。明日の朝Wハルヒに確認して今後どうするか決めるが、大丈夫なんだろうな?おまえ」
「ええ、心配いりません。それより、我々も早く撮影に向かいたいですね。議題はまだあるんですか?」
「くっくっ、一週間刑罰を与えただけで解消できるのならどうしてもっと早くやっておかなかったんだい?やろうと思えばジョンだってできたはずじゃないか。今頃になってようやく罰則を与えることにした僕たちが言うのもおかしいけどね」
「とりあえず早く始めましょ。昼までには戻って来たいから」
「じゃあ次だ。三つ目、今日は青圭一さんたち四人は休みだ。一度自宅に帰ってこちらの客室に引っ越す準備をして欲しい。それなら今後はここで一緒に食事をして店舗やオフィスに直接行けるようになる。客室には無いシンクや冷蔵庫、洗濯機などはこちらで準備することが可能です。何が必要か決めておいていただければW古泉やエージェントに引っ越し作業をしてもらうつもりでいます。四つ目、青圭一さん達の給料について青有希に対応をしてもらいたい。そのついでに朝比奈さんと青有希には異世界移動をする練習をして欲しい。青俺がついてやってくれ」
「分かった。書類の書式はこっちも異世界も変わらないと思う。四人に書いてもらった時点で向こうの世界で申請する」
「わたしが異世界移動ですか……?異空間に閉じ込められるようなことがないといいんですけど……」
「そのために二人に俺が付くんです。異空間をさ迷うなんてことは絶対にさせません」
「キョン先輩、私たちみたいに圭一さん達の部屋を見てもらって間取りを考えてもらうのはどうですか?」
「もし、それが可能でしたら参考にさせていただきたいです」
「分かった。我々も自分の部屋を見せることにしよう」
「五つ目、青古泉には異世界の二店舗に『明日OPEN』のシールを張りに行って欲しい。撮影前に終わらせてもどってきてくれ。六つ目、今日から異世界の倉庫にパート・アルバイトの希望者が集まり、ピッキング・梱包の作業が始まる。青俺が全責任を持つと言ってはいるが、今日の午後の練習試合には青チームが出る。黄チームから誰か一人倉庫に向かって欲しい。因みに俺はディナーの準備、古泉は撮影があるから女性陣の誰かになる」
「じゃあ、異世界移動の練習も含めてわたしが向かいます」
「こちらも問題ありません」
「七つ目、今日はディナーと見送りがあるから夜の会議ができない。忘れないうちに伝えておきたい。今夜からENOZ四人にはエネルギーを分け与えるのでドレスチェンジができるようにテレポートの修行を始めてもらいたい。青古泉はセッターの練習に付き添っているし、古泉に頼みたいんだがどうだ?」
「そういうことであれば、僕が適任でしょう。よろしくお願いします」
『こちらこそ、よろしくお願いします』
「八つ目。昨日古泉が放ったサーブの名前について人事部に電話が来たりハガキが届くなんてこともあるだろう。有希、サイトに古泉のサーブの名前を書き込めるようなスレッドを立てて欲しい。可能か?」
「問題ない」
「すみません、そのことを全く考えずに発言してしまいました。出来る限り僕も参加しますので、ご対応をよろしくお願いします」
「俺からはラストだ。明日の店舗オープンに先駆けて、青チームの森さんと裕さんに仕事着として我が社の服をフルコーディネートしたい。裕さん、本店で二人が選んだ服の裾などを合わせてもらいたいんですがいいですか?それに、青古泉の方もアルバイト二人に無料コーディネートを頼みたい。出来れば開店前がいい」
「僕の方はOKだよ」
「では開店の三十分前に来るようこちらから連絡をしておきます」
「他、有希以外に議題のあるメンバーはいるか?」
「あんた、あたしをオフィスに連れて行ってちょうだい。あの子がどうしているか気になるし、それに異世界のあたしやお父さんに挨拶もしてくるから」
「分かった。朝食後にオフィスに送る」
「くっくっ、名実ともに社長のようだ。有希さんのものも入れて今朝だけで10個も議題があがるなんて圧巻だよ」
「数が多いだけでテレポートと異世界移動の修行以外は大して時間がかかるようなものじゃない。何も無ければすぐに動こう。青チームが試合に出られないようなことは避けたいからな」
『問題ない』

 

 食べ終わってすぐ動き出したのは青俺と青古泉。倉庫の鍵開けとシール張りで間違いないだろう。圭一さんや新川さん達は異世界の自分に自分の部屋を見せに行った。体育館下の客室はワンフロアで四人にするよりワンフロアに二人ずつだな。圭一さん達が降りてくるのを待って母親と一緒にオフィスへと異世界移動。青圭一さん達は一旦家に戻り引っ越しの準備。異世界のOGをそれぞれの家に送り、メンバーが出揃うまで朝比奈さんと食器を洗う作業。これもディナーの片付けのように分担していかないとな。明後日以降は青新川さんが食器の片付けまでやってしまいかねない。
「さぁ、行くわよっ!」
監督の一言を機に、出演するメンバー全員を連れて一路ラスベガスへ。俺たちの目の前には二階建ての廃ビルと工場跡が現れた。どうやら閉鎖空間の中らしいな。工場跡の前にバイクが停まっている。足元には何処までのびているのか分からないほどの車道。廃ビルや工場跡に隣接する建物を写した板で囲まれていた。
「何ボサッとしているのよあんた!まずはあんたの出番何だからさっさと工場に入りなさい!」
ジョンは既に実体化しているし、俺と青古泉のシーンが終わらないと朝倉や森さん、新川さん、エージェントたちが暇を持て余してしまう。ダメージは無いとはいえ、やられ役を演じるのも難しいもんだ。アホの谷口や藤原のバカの真似をしながら悲鳴をあげていた。青古泉に縛られたところで青古泉が携帯を取り出して朝比奈さんの携帯に連絡を取った。
「朝比奈さんか?俺だ。犯人を捕まえた。すぐに来てくれ。場所は……」
「この携帯は朝比奈みくるのもので間違いないけど、彼女の身柄はこちらで確保させてもらったわ」
「誰だ、おまえ」
「あら?あなたたちが事件を解決するたびにわたしの店でお酒を飲んでいたでしょう?声だけじゃ分からないかしら?」
「事件を解決するたびに………っ!!あんた、まさかおでん屋の!?何であんたがそんなことしてんだよ!」
「おでん屋りょうこの女将はあくまでわたしの表の顔。でも本来のわたしは犯罪計画を立案して顧客に高値で売る組織の一員。幹部と名乗ってもいいかもしれないわね。………あなたが悪いのよ?あなたのサイコメトリーのせいで、わたし達が立案した完全犯罪に亀裂を入れられ、顧客はみんな監獄の中。わたし達の情報を漏らさないように催眠をかけてはいるけれど、これ以上顧客を監獄に送られるとわたし達のことがいずれバレてしまう。それに、あなたたちのせいで顧客が減って商売の邪魔なのよね」
「知るか!さっさと朝比奈さんを解放しろ!!」
「今のあなたに命令する権利があると思っているの?アドバンテージがあるのはわたし達の方。朝比奈みくるが殺されてもいいのかしら?一人じゃ寂しかったらお友達も誘ってきても構わないわ。今から指定する場所に来なさい。さもないと、あなたの一番大切なものを失うことになるわよ?」
「俺の一番大切なもっ………おまえら、ハルヒまで!?」
「まだ捕らえるような命令は下していないけど、あなたの行動によっては彼女が一体どうなるか………」
「さっさと朝比奈さんの場所を教えろ!!」

 

「カ――――――ット!!OKよ!涼子も演技力抜群ね!青あたしと青古泉君がバイクに乗ってるシーンの撮影をしてからラストのシーンの撮影ね!」
演技力抜群も何もSOS団加入前までの朝倉とまるで大差がない。言葉に殺気をこめるなんてコイツにしかできん。次のシーンの準備のために二人がバイクに乗って道路の端まで向かう。
「有希、バイクに乗りながら二人の会話を撮るなんて音は拾えるのか?」
「二人の前に超小型の集音マイクを付ける。普通はシーンだけ撮影してあとからアテレコする。でも、こっちの方が時間をかけなくて済む」
「カメラはバイクに平行についてくるだろうが集音マイクもか!?まったく、漫画の世界を現実にするなんて色々と試してはいるが、さすがに有希や朝倉には敵いそうにないな」
「問題ない。あなたはただやり方を知らないだけ。今のあなたなら何でも可能」
「なら、今後の参考にさせてもらうよ」
『準備できたわよ!』
「有希、カメラ大丈夫!?」
「問題ない」
『じゃあ、よ―――い、アクション!!』
カメラの映像を見ていると、青古泉からヘルメットを受け渡された青ハルヒがバイクの後ろに乗り込み、猛スピードで走りだす。って、ジョン。スカ○ター使えるんじゃないか?これ。
『そのようだ。しかし、もう出す必要もないだろう』
第二シーズンになったら有効活用できそうなもんだが……まぁ、そのときになってみてだな。
「ねぇ、いい加減話しなさいよ!一体どういうこと!?」
「朝比奈さんがさらわれた」
「はぁ!?あんた、まだあの女刑事とつるんでいたわけ!?いい加減、縁を切りなさいよ!あっちはあんたのサイコメトリーをあてにしてるだけなんだから!」
「今回はそうも言ってられない。朝比奈さんを人質に捕っている組織ってのがかなりヤバそうな連中なんだ。俺がこうやってハルヒを連れていなかったら、ハルヒの命だって危なくなる。どんな組織だか知らないが、そいつら全員ぶっ潰して朝比奈さんを取り返したらこの事件は解決だ」
「なんであたしの命まで狙われなくちゃならないのよ!」
「さぁな。直接会って聞いてみるしかないだろ。あの女、『あなたの一番大切なものを失うことになる』とかぬかしやがった。それだけは絶対に俺が許さない」
「……仕方ないわね。あんたに付き合ってあげるわよ」
二人の会話を終えて青古泉が更に加速したところでハルヒのテレパシーが届く。青古泉の鼻血でNGにならなければいいんだが……青古泉からすれば、あんなシーン今が初めてだろうからな。

 

 監督のOKが出てようやく森さんや新川さん、エージェントたちの出番。廃ビルに着いてヘルメットを脱いだところにジョンが遅れて到着する。
『よう、待たせたな』
「俺たちも今来たところだ。それより、来てよかったのか?」
『面白そうだったから…じゃ理由にならないのか?』
「いや、充分だ」
廃ビルの中に入ってすぐエージェント達に遭遇する。
「古泉一樹以外はここに残ってもらおう」
『おいおい、勝手にルールを決めるなよ。ここは俺一人でやる。その女がいたんじゃ足手まといだ』
「ちょっと!それどういう意味よ!?」
「いいから来い!ハルヒ!」
廃ビルの階段へと急ぐ二人をエージェントが追う。
「待て!!」
『おっと、誰がここを通っていいと言った?』
ジョンがすかさずエージェントの前に立ち塞がった。W佐々木の脚本をサイコメトリーしたときから思ってはいたが、一つ一つのセリフがジョンに似合いすぎる。こういう場面を何度も経験しているかのように思えてならない。
「構うな。どの道全員殺せというボスの命令だ。順番が変わろうと結果が同じならそれでいい」
『そういうことだろうと思ってたよ。少しは楽しませてくれるんだろうな?』
ナイフを構え、指サックをはめ、転がっていた鉄パイプを握る。エージェントがそれぞれ戦闘態勢を整えるとそれに呼応してジョンが構える。一度殺陣を見て有希も時間を計測していただろうが、タイミング良くエージェントを打ちあげられるんだろうな?カンカンカンカン……と階段を駆け上がっていく音が二重に聞こえてしばらくして音が止んだ。監督の前には廃ビル一階と二階の巨大モニターが設置され、あらゆる角度からカメラが捉えた映像を映し出していた。
「ちょっとあんた!アイツ一人に任せておいて大丈夫なの!?」
「暴走族50人を一人で倒すような男だ。アイツとは何度もやり合ったが未だに勝負がつかなくてな。逆に仲が良くなってしまった。いくら体格のいい大男が揃っていようがあの程度なら心配はいらない」
「あら、それは残念ね。たった一人を相手に負けるようなエージェントならもういらないわ。記憶を抹消して別の人間を雇おうかしら」
廃ビルの天井の穴から光が差し込み、朝倉と朝比奈さんが姿を現す。
「出てきたな。朝比奈さんをさっさと解放しやがれ!」
「いいわよ。この女はもう用済みだから」
朝比奈さんを縛っていた縄をナイフで切り裂いた。これまでずっと捕えられていたにも関わらず、青古泉が来て簡単に開放された朝比奈さんが困惑していたが、青古泉のところへと走り出す。

 

「一樹君!」
「朝比奈さん、無事か!?」
「ええ、でも一体どうして!?あなたたちの狙いは何!?」
「君が古泉一樹とかいうサイコメトラーか?」
杖をついた新川さんと森さんが姿を現した。
「それがどうした!」
「君のような男一人に、我々のビジネスの邪魔をされては困るのだよ」
「あんたたちのビジネスって一体どういうことよ!?」
「そこの女がご丁寧に説明してくれたよ。完全犯罪計画を立案して顧客に高値で売るそうだ。それを俺のサイコメトリーで解決されて顧客が減っているんだとよ」
「そんなの知らないわよ!だったらサイコメトリーでも解決できないような完全犯罪でも考えていればいいじゃない!あたしたちは刑事でもなんでもないわ!!そこの女刑事が遺留品を勝手に持ち出してサイコメトリーさせているだけなんだから!!もうあたしたちに付きまとわないでよ!!」
青ハルヒの叫びに朝比奈さんの表情が曇る。
「そう、最初はわたし達も単なる偶然にしか思ってなかったわ。でも、念のためあなたに監視をつけてみたら、わたし達の完全犯罪が悉く暴かれてしまった。わたし達だって考えていたのよ?サイコメトリーをもってしても解決できない完全犯罪を。でも、それよりも簡単な方法があったことに今まで気が付かなかったわ」
「君を殺す計画に切り替えたのだ。関係者を含めてすべて」
「そうかよ。誘拐犯が『お友達を誘ってきても構わない』なんてセリフおかしいと思ったんだ。『人質を助けたければ一人で来い』というのが普通だ。こっちもおまえら全員片付ける気で来た。さっさと頼りがいのある護衛でも呼んだらどうだ?女二人とジジイが相手じゃ、こっちのやる気がでねえよ」
「あなた、一つ思い違いをしているようね。そりゃあ、あなたからすれば女二人とジジイに見えるかもしれないけれど、一階に八人もいるエージェントがどうしてこっちに一人もいないのか……考えなかったのかしら?」
「知るか。おまえらの都合なんて俺には関係ない」
「関係があるから、こうやってあなたに教えてあげているんだけど、まだ分からない?」
「……っ!!二人とも後ろに下がってろ!早く!!」
「ちょっと気付くのが遅かったようね。下にいる八人より、わたしの方が強いってことよ!」
ナイフを取り出した朝倉が青古泉目掛けて攻撃を仕掛けた。後ろの二人を気にしている間に間合いを詰められ、朝倉のナイフが青古泉を襲う。
「ぐあぁっ!!」

 
 

…To be continued