500年後からの来訪者After Future4-1(163-39)

Last-modified: 2016-09-14 (水) 12:17:34

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future4-1163-39氏

作品

ドラマの撮影もいよいよ大詰め。森さんや新川さん、エージェントを入れたラストシーンは役を演じていた青古泉や森さんすら新川さんが怖いくらいだったと話し、エージェント八人を相手にしたジョンのバトルも、どこで帳尻を合わせたのか分からないくらい無駄がなく、ドラマのラストバトルとしてこの上ない演技を見せた。あとで古泉や圭一さんたちにそのシーンを見てもらうことにして、バレー合宿最後のディナー。今後は寿司でなくても食べ放題メニューにするときは最終日に出すことにしよう。インタビューを終え三階に降りると、既に青ハルヒがシャリの準備に取り掛かり、朝比奈さんが団扇であおいでいた。前回と同じようにレーンを情報結合したところで本マグロの解体作業に取り掛かった。

 

 ほどなくして古泉が戻り、青ハルヒと二人で本マグロ以外のネタを握り始める。
「それで、ラスベガスでの撮影は上手くいったんですか?」
「ああ誰一人NGを出すことなく一発でハルヒのOKが出た。『黄朝倉さんの殺気より新川さんの方が怖いくらいでしたよ』なんて青古泉が言ってたよ。ジョンとエージェントのバトルもタイミングが良すぎるくらいで、どこで帳尻を合わせたのかまったく分からなかった。午後の練習試合も一セット目で青チームが圧勝したところで、後はハルヒ、有希、朝倉、子供たちで闘っていた。明日の一面がどうなるのか俺にも分からん」
「朝倉さんの殺気以上ですか。見送りが終わったらすぐにでも見てみたいですね」
「青古泉の場合は今まで朝倉の殺気をさんざん浴び続けてきたからな。慣れの部分もあるんだろうが、森さんまで怖がっていたからな。最終回が放送された後、新川さんが社員に怖がられるんじゃないかと思ったくらいだ」
「わたしも新川さんに吃驚してNGになるんじゃないかと思ってました」
「皆さんがそこまで言うからには余程のことだったようですね。今すぐにでも見たくなりました。おっと、お客様の御到着のようですね。ディナーに専念して少しでも時間の経過を早めることにしましょう」
レーンには既に渋滞しているほどの寿司ネタが置かれ、OG六人を含めた全員が出揃ったところで口を開いた。
「それでは、今シーズン最後のディナーを始めさせていただきます。ルールは前回と同様、金の皿がワサビ入り、銀の皿がワサビ抜きになっております。どのネタから食べ始めても構いません。今回も有り余るほど寿司ネタをご用意させていただきましたので十二分にご堪能ください。本マグロについては前回パフォーマンスとしてお見せしていますので、握ったものから順にレーンに乗せさせていただきます。よろしくお願いします」
選手たちからの拍手を受け、本マグロの解体作業の続きを始めた。しかし……ハリウッドスター達に寿司を味わってもらいたいからと青ハルヒに手伝ってくれとは頼んだが、ここにいる日本代表たちのさらに倍の人数となると、二人でも追い付きそうにないな。ビュッフェに出す料理は古泉にも手伝ってもらうことにするか。赤身、中トロ、大トロとレーンに乗せていくと、口の中で動き回る本マグロに驚きつつも、捕れたてかつ新鮮で一切ストレスのかかっていない本マグロの美味に酔いしれていた。

 

「しかし、今シーズンほど満足した二週間は無かっただろう。これで終わりだと思うと残念で仕方がない。料理も、勿論バレーもね。来シーズンも夜の練習に我々も参加させてもらいたいんだが、どうかね?」
「かしこまりました。ご来訪をお待ちしております」
ディナーに満足した選手たちから盛大な拍手を受けていよいよ見送り。ハルヒが何を用意したのかは知らないが並び順を勝手に決められ、俺、ハルヒ、有希、朝比奈さん、青古泉、青朝倉、佐々木、青俺、青有希、鶴屋さん、ENOZの順番に並んだ。今日から日本代表として世界各国を回る四人もキャリーバッグを用意してもらったようだ。既に涙を零している四人が一人ずつ握手を交わしていく。この後異世界のOGも入れて全員揃うってのにそこまでしなくてもいいだろうに……思わず朝比奈さんがもらい泣き。監督とも握手を交わすと、
「じゃあ」
「また来シーズンもよろしく頼むよ」という監督の想いがこめられた一言をいただいた。まぁ、ディナーの最後に話していたからな。監督の後ろから選手たちが続いて行く。
『全員後ろで手を組んで』
ハルヒからのテレパシーがその場にいる全員に伝えられると、テレポートで団扇が渡された。はたしてどんな文字が書かれているのやら。表裏を間違えない様にしないとな。
『いくわよ!せーの!!』
OGが高三だった頃、俺の作ったど派手な団扇をそのまま採用したらしい。『火の鳥NIPPON FIGHT』という14文字が選手たちの眼に映る。そして裏側には『目指せ!六人で世界大会出場!』とOG六人に対する俺たちからの想いがこもっていた。俺たちの方を向きながら本社を出ていくOG達に、なぜか上を指差して微動だにしない有希と、同じく上を指差して飛び跳ねているハルヒ。OG達がそのサインに気付いて上を向くと……大画面に何か細工をしたらしいな。透視して裏側から見てみると、天空スタジアムの垂れ幕が取り外され、有希が編集したらしき映像が映し出されていた。バスが発車してもなお、一番後ろの座席でずっと俺たちに手を振っている四人に、手を振り返していた。
「行っちゃったわね」
「ああ、そうだな」

 

三階の情報結合を元に戻すと、ディナーの最中に作っておいた余りを持って81階へ。社員の分は既に冷蔵庫の中に入れてあるし、明日また朝比奈さんにまわってもらうことにしよう。朝比奈さんのお茶で今日こそはとハルヒが乾杯の音頭をとった。
「それじゃあ、バレー合宿二週間お疲れ様でした!乾杯!」
『かんぱ~い!』
まったく、往年のドリフターズじゃあるまいし、引っ越しを終えた異世界の圭一さん達も含めて81階に全員集合。そういえば青新川さんは本マグロの踊り食いはこれが初めてだったな。自然と周りの視線が青新川さんに向く。って、もう一回説明しなくちゃならんのか?俺は。
「みんな新川に注目しているようだが、何かあったのかね?」
「順番としてはあまり適切ではありませんが、青圭一さんたちも本マグロの赤身から召し上がってみてください。間違いなく驚きますよ?」
古泉に促されて四人一斉に赤身を口にした。まぁ、大体こっちの圭一さん達と同じ反応ってところか。
「確かに驚かされたよ。赤身の踊り食いができるとはね」
「しかし、これを一体どうやって?」
古泉とアイコンタクトすると、古泉が説明を始めた。俺と同じ再生包丁で何匹も捌いているからな。青新川さんも「そんな技があったとは……」なんて言いたげな表情だ。シャミセンも呼んで全員で寿司をつまんでいく。
「おっと、忘れるところでした。今日撮影したというラストシーンを僕にも見せていただけませんか?撮影に向かった皆さんがこぞって『新川さんが怖かった』というくらいですからね。どんなものが出来上がったのか拝見させてください」
「それは楽しみだ。私にも見せてくれないかね?」

 

 もう編集済みのようだ。ジョンが遅れて到着するところからスタートした。まずはジョンVSエージェントのシーン。ナイフをすべて避けて相手を煽り、白刃取りでナイフを奪い、エージェントにナイフを返すところまで。階段を駆け上がり朝倉と青古泉との会話、そして青古泉の瞼を切られるシーン。一階の様子に切り替わり、指サックをしているエージェントに拳を合わせてダメージを与えると、そこでジョンのセリフが入り、鉄パイプで殴られた後ジョンの鋭い視線で身動きできなくなる。今度は青古泉が暴走しはじめたところが映し出される。朝比奈さんのセリフが入ったところで再度一階に戻り、エージェントごと鉄パイプを持ちドミノ倒しにしてからの肉弾戦、森さんの発砲、青古泉のセリフはそのまま残し、一階と二階の映像が交互に入れ替わっていく。そしてジョンがエージェントを打ち上げカメラがそのまま二階に上がった。どうやら、このカメラだけ透視機能を備え付けてあったようだ。でなければ側面すべて囲まれた廃ビルでこのカメラワークは出来ない。あとはジョンが二階に上がって新川さんの独壇場。青古泉の暴走を止めて、青ハルヒが第二シーズンにつながるセリフを吐き、エンディングへ。
「編集されてはいたが、ジョンVSエージェントのシーンはどこもカットしてなかったな。青古泉たちのシーンもノーカットだった」
「あのバトルアクションでタイミングを合わせたというんですか!?時間を稼ぐようなシーンなんてどこにもありませんでしたよ?しかし、百聞は一見に…でしたね。新川さんのあの迫力では誰でも驚きますよ」
「ところで、野球もバレーももう終わったんだ。Wハルヒも有希も一人頭三人前でなくてもいいだろ?腹は減るだろうが、しばらく我慢してくれ。と言っても俺が作るのは明後日の昼食まで。それ以降は青新川さんにお願いすることになるだろう」
「駄目、あの量じゃ足りない」
「寿司の大半を平らげた奴のセリフか?もっと遠慮ってものを知らんのか、おまえは」
『あ―――――――――――――――っ!!』
「しまった。俺もラストシーンが気になってモニターに見入ってしまった。黄有希のことなんて考えもしなかったぞ」
「ちょっと有希!あんた食べ過ぎよ!!」
「問題ない。わたしはこれで満足」
「とりあえず、これで有希の食事は一人前で決定だな。食い物の恨みは恐ろしいぞ?」
『問題ない』

 

『片付けは僕がやっておくよ』
W佐々木の好意に甘えて、今日中にやっておかなければならない仕事に取り掛かった。W鶴屋さんはW朝比奈さんが鶴屋邸まで送っていった。まずは団員募集の垂れ幕だ。
『SOS交響楽団決団決定!団員募集中Tel 03-○○○○-○○○○』
あとは、青古泉に任せてもいいんだが、青朝倉と一緒だな。俺も自分でやらないと気が済まない性質らしい。異世界移動すると北口駅前店と二号店のシールを『本日OPEN』に書き換え、報道陣からはガラスがブラックアウトして『取材お断り』と黄色い字で見えるよう催眠をかけておいた。アホの谷口にも何もできない状態にしておいたし、これで明日のオープンに繋げられる。食材の入ったキューブを持ってジョンの世界に足を踏み入れた。ハルヒ達や有希もこれで三人分作ることもなくなったし、俺が告知を終えて戻ってくるまでは人事部の社員も昼食にくることはない。とすると、Wハルヒ、W俺、W有希、W朝比奈さん、W古泉、W朝倉、W佐々木、父親、W圭一さん、W裕さん、W新川さん、W森さん、エージェント八人とシャミセンで32人前。昼と夜は新川さんが抜けて、夜は母親が加わるから、朝32人前、昼31人前、夜32人前になるのか。これにOG六人が入っていたと思うと今までよく毎食作ってこられたな。青新川さんにもしっかり伝えておこう。因みに俺が食事の支度、ジョンと朝倉は将棋、古泉とENOZはテレポートの練習。青古泉とOGで異世界OG二人、スイッチ要因のOGが一人、青朝倉がセッターの練習。サーブ練習用として使っていたコートへ移動すると、ネット際でバックトス、ロングレンジトスの練習を三人一組で行っていた。その間、有希が球出し、トスをしながらWOGと青俺、子供たちがバレーの練習。青ハルヒは青鶴屋さんとピッチング練習。W佐々木、青有希、鶴屋さんはハルヒの1000本ノックを捕って青朝比奈さんへ送球するところまで。今後しばらくはこの形で安定しそうだな。昨日の異世界の新聞を見る限り、チーム出来たから今週末東京ドームで試合なんて事になりかねん。俺が食事の支度、ランチの仕込みを終える頃には既に雑談会になっていた。

 

「それにしても、セッターがこんなに難しいなんて思わなかったわよ。古泉君も青チームで初めてバレーの試合やったときは色々と苦戦したんじゃない?」
「そうですね、当初は涼宮さんとのAクイックくらいで、あとは正直朝比奈さん任せでした。それに、朝倉さんを含めて、彼も、有希さんもプレーする以前にルールもロクに把握できていませんでしたからね。僕の場合は青チームのメンバーでクイック技の練習をしつつ、黄チームとの対決では彼に采配を読まれない様にと必死でしたし……そういう意味では彼に鍛えられていたのかもしれません。僕だけでなくOGもね」
「その頃はOG達がたった一週間で急成長していた頃だったからな。最後のブロードが読み切れなかったことを今でも覚えてるよ。確か33-35だったか?俺たち黄チームとOGとの最後の試合」
『33-35!?』
「どんな試合したらそうなるの!?」
「クイック技の応酬をしていたけど、私の采配のほとんどがキョン先輩に読まれてた。でも、大会で予選を突破して最後の引退試合は優勝で終われたから、凄く嬉しかった。黄チームに特別審査員賞が出たときは驚いたけど」
『引退試合で優勝!?』
青OG達が驚いていたが、今でさえこっちの古泉に疑心暗鬼を抱いているくらいだからな。SOS団との練習試合なんて言われたら嫌がるだろうな……練習試合をしたのがこっちの世界で本当に良かった。
「でも、今からでも十分間に合うわよ。来シーズンはあたし達と同じように異世界の自分と同じユニフォームを着て日本代表相手に闘えるんだから!髪型を揃えないといけないのが難点だけどね」
「とてもじゃないですけどあの中に入っていける気がしないですよ。黄チームのわたし達が日本代表相手に完封で勝つなんて未だに自分の眼が信じられません」
「最初は誰でも似たようなものです。我々もあの体育館で一緒に練習をしていて本当にいいのか疑問でしたからね」
「なんせ、見たことある顔が眼の前……もとい、自分の目線より上にあるんだからな。日本代表との初戦がエースにリベロまでついていて、あのときは勝てる気がしなかったぞ。そういや、全員攻撃だって言ったのに青ハルヒが準備してなくて周り全員からブーイングされてたな」
『プッ!!』
「あのときは散々謝ったじゃない!次の日あんたからペナルティつけられたし……あんまり思い出させないでよね!」
「とにかく、髪型を同じにすれば午前中の練習だって出られるんだ。ENOZみたいに練習から始めて場に慣れたら試合に参加してみるといい。夢の中で運動して痩せられてバレーが上手くなって日本代表と闘えるとなれば、デメリットがどこにもないからな」
『ニュースを確認するんじゃないのか?そろそろ時間だ』
『一面はあたしに決まっているじゃない!』
「問題ない。わたしが一番目立った」
「なら、早く確認してみましょ」
 ハルヒ達の気にしている現実世界の一面は……ハルヒでも有希でも朝倉でも無かった。『涙の別れ!!目指せ!六人で世界大会出場!』、『キョン社長、半年後に「おかえりなさい」』等の見出しに、見送りをしている俺たちの全体像を撮影したものがほとんど。
「このバカキョン!あんたの企画であたしのプレーが台無しになったじゃない!」
「おまえだって提案したときは『面白いじゃない!』なんてノリノリだっただろうが、あんなうちわまで作ってきて俺のせいにするな。誰が出したアイディアかは知らないが、『目指せ!六人で世界大会出場!』がそのまま見出しになっているんだからいいだろう」
「キョン先輩、あの新聞の一面記念にとっておきたいんですけど、ここのものって持ち出せないんでしたっけ?」
「いや、持ち帰ることを意識していれば大丈夫だが、記念にとっておくのなら本社の自室に置いた方がよくないか?」
「ケチくさいこと言ってないで、さっさと12部用意して半分を渡せば済むでしょうが!あとはあんたが六人の部屋にテレポートしておけばいいわ!」
『青ハルヒ先輩、本当ですか!?キョン先輩是非お願いします!』
やれやれ、時間になる前にさっさと12部作ってしまうことにしよう。異世界の方は対SOS団関係の野球のニュースで昨日とさほど大差がない。

 

 翌朝、夏のイベント事はこれですべて終わり、今日からまた通常営業。子供たちの小学校や保育園の時間も考慮しつつ朝の食事を進めていた。保育園や小学校に行くよりもバレーがしたいなどと言いだすかと思ったが、久しぶりの小学校や保育園が楽しみで仕方がないらしい。トップは当然あの議題だ。
「青古泉の容赦期間も終わって、今後どういう形をとっていくのかを今決める。Wハルヒ、青古泉をどうするのか判決を言い渡してくれ」
「あたしは……この二週間のようなことがこれからも続くようならそれでいいわ」
「あたしも。青あたしと同じでいいわよ」
「だそうだ。青古泉、今後もこの二週間と同じように続いていくのなら刑罰は執行されないらしい」
「あの一週間のようなことには二度となりたくありませんからね。今後も無事に過ごせるようで何よりです」
「では私の方からもいいかね?特に緊急性を問われるものでも無かったからバレー合宿が終わるまで黙っていたんだが、去年、君たちが運営した宮城県のスプリングバレースキー場の件だが、料理長のおススメが出る週末の三日間はオープンしてから四月下旬まで全て埋め尽くされている。それから、『現地で働かせてくれ』と申し出てきた若手政治家がまた増えてきている。どうするかね?」
「どうするも何も、以前出た案で決定じゃないのかい?キョンが政治家たちを従えるんだろう?」
「それはいいけど、調理スタッフはどうするのよ!?政治家に料理なんて出来ないわよ!」
「問題ない。わたし達が入ればいいだけ。それより、次のシーズンはSOS団とENOZでCMを作る。でも、どのスキー場にするか決まらないと作ることができない」
「財宝発掘ツアーのついでに調べておいたんだが、岩手県は安比高原スキー場にしようと思ってる。盛岡からは片道一時間もかかってしまうが、リフト18基、コース数21と他のスキー場よりも飛び抜けて規模がでかい。加えて、雪玉が作れない程の湿度の少ないサラサラの雪「アスピリンスノー」があのスキー場の売りだしな。大人数でスキー場に来たとしても、各コースにバラけてしまえば、そこまで混雑しているとは思わないだろう。ただ、青俺は異世界の倉庫の管理、青古泉は各交渉と北口駅前店の店長、エージェントだって世界各国飛び回っているんだ。俺たちで駅からスキー場までのバスの運転をするのはいくらなんでも無茶だ。宮城県の方はスプリングバレーのすぐ近くにあるスキー場を予定している」
「問題ない。どちらも大型バスを運転できる人間を探せばいい。いなければ免許を取りに行く人間を募る。どちらの県も今後は自動車教習所が必要になってくるはず」
「なるほど、免許を取得したくても取得できない若者が出てくるということか。しかし、大型車の運転免許を取り行くならまだしも、教習所の教官なんて特殊な職業はいるのかね?」
青圭一さんの言う通りだ。自動車教習所を作ったとしても、そこで教えられる資格を持った人間がいなくてはどうにもならん。とりあえず、どちらの県もツインタワービルで呼び掛けてからだな。人材が集まればそれでよし、集まらなければ本社の下層階を居住スペースにして都内の教習所に連れて行けばいい。朝食とランチならタダで用意出来る。
「それなら、ツインタワービルの住人の中にいないかどうか聞くところから始めないといけないわね。この際、自動車教習所も作ってしまってもいいんじゃないかしら?環境さえ整っていれば、全国から募集することだってできるじゃない!」
「よし、じゃあその方向で進めて行こう。十分に集まらなければこっちで動くか、この際だから大型免許を取得してしまおうという人間には本社下層階に居住スペースを提供して、免許取得にあたってかかる費用もこちらで負担することを伝える。人事部は今の会議の内容を岩手と宮城の県知事に連絡することと、首相に次のシーズンどこで働くか伝えてくれ。若手の政治家も同様だ」

 

「ママ、わたし学校」
幸の一言をきっかけに、子供たちと青有希を見送ってから会議を再開した。
「案の定、今朝のニュースでSOS交響楽団の垂れ幕が放送されていた。人事部に入団希望者が連絡をしてくるはずだ。以前確認した通り、住所や電話番号、楽器名を聞いて楽譜を送って欲しい。有希、対応マニュアルを人事部に配布しておいてくれ。それから、今日異世界支部の北口駅前店と二号店が同時オープンする。昨日、シールを本日OPENに切り替えて報道陣からはガラスがブラックアウトした状態で『取材お断り』と見えるように催眠を施した。W朝比奈さん目当てで来るオタク連中もいるかもしれないが、W朝比奈さんがいないことが分かれば撤退していくはずだ。青古泉が店舗に向かうときに青チームの森さんや裕さんも連れて行ってくれ。ビラ配りに向かうメンバーは終わったら人事部か異世界のオフィスで電話対応を頼む。俺はスキー場の修理とスキーウェアの貸出や販売をする建物を作っておく。あとはSOS団とENOZがゲレンデで滑ってCM撮影をすればいいだけだ」
「え?でも、黄キョン君。いくら東北地方でも九月ですよ?まだ雪が積もってないんじゃ?」
「朝比奈さん、それは心配いりません。知識さえあれば俺たちでも天候を操れることをジョンが見せてくれました。倉庫の鍵を開けてもパートの人たちが来るまでにはまだ時間があるし、天候を操作してゲレンデを整えるのは俺がやる」
「ちょっと待ちたまえ。曲も出来てないのにCM撮影するのかい?」
「それもそうね。天候ならいつでも変えられるし、曲ができてからの方がどんなCMにするかイメージが掴めるかもしれないわね」
「ハルヒ、青俺もそう言ってくれているし、雪を降らせた状態のスキー場を見てからにするか?」
「そんなのあたしには必要ないわ!スキー場で流して欲しい曲だって言われるほどの曲にして見せるわよ!」
『私たちも曲作りに専念するわね!』
「よし、じゃあ俺から最後だ。毎日の食器の片付けをバレー期間中と同じく当番制にしたい。この二週間は朝比奈さんにばかり頼っていたからな。一日ごとの交代だ。他になければ、今日も一日よろしく頼む」
『問題ない』

 

 青新川さんに明日の夕食以降のことと、人数を月曜日の日のことも伝えて本社を飛び出た。とりあえず、ツインタワービルで館内放送するのは今夜にやるとしても、自動車教習所なんてどうやって作ったらいいのかさっぱりわからん。いくつかの教習所をまわってサイコメトリーしていると、「もう少しなんとかならないのか?」という声が聞こえてきたので、それを全て現実化してみた。あとはMTとATを大量に作ればそれでOK。しかし、折角作っても、使い始める頃には埃だらけ、車は汚れていたんじゃ始めたくても始められん。埃は例の磁場で何とかするとして、雨や風で汚れることの無いように閉鎖空間を張っておこう。あとは2つのスキー場の修理・点検とスキーウェアの貸出や販売をする建物を作っておいた。これで午後は電話対応にまわれそうだな。しかし、九月に入ったばかりだっていうのにもうスキー場のことを考えないといかんとは……やれやれだ。
『キョン君、クジ配り終えました』
『ありがとうございます。じゃあ十二時少し前に80階へお願いします』
『はぁい』
『そろそろ昼食だ。それぞれで判断して戻ってきてくれ。特に店舗の方は入れ替わる必要もあるだろう。手の空いているメンバーはそっちにまわってくれ』
『問題ない』
80階での社長の豪華絢爛寿司セットもこれで三回目か。颯爽と配り終えて81階へ戻ると、青古泉や青森さん、青裕さん店舗組が戻ってきていないが、誰かが食べ終わったら交代に行くだろう。俺も一旦休憩だ。
「ごちそうさま!森さんと変わってくるわ!」
青ハルヒが一目散に異世界移動していった。催眠の条件をもっと強力にしておこう。撮影目的で店内は入ってこれない様に閉鎖空間を張ることと、外側からの撮影はガラスが黒くなるよう催眠をかけてしまえばいい。これならW朝比奈さんが店舗に行っても苦労することはない。
「じゃあ、わたしも古泉君と交代してくる」
青有希の方も異世界移動は問題ないらしいな。青有希が消えた直後に青森さんが戻ってきた。夕食も似たような形になりそうだ。食べ終えてすぐ今日の片付け当番が誰なのか聞いてみると、ハルヒと朝比奈さんだったらしい。朝比奈さんの負担を軽減するために対策をとったのに、順番とはいえどうしてこう裏目に出るんだか……まぁいい、とりあえず催眠を強力にするところからだ。

 

 午後の電話も相変わらず鶴屋邸の回線には偽名を語る奴ばかり。この分じゃ当分回線を戻せそうにないな。有希にまたFAXを送ってもらうことにして、定期的に通報することにしよう。圭一さんを含め、そこにいたメンバー全員の納得を得てブラックリストと有希が作った新聞記事をFAXで流してもらった。しかし、異世界のOGたちも全員今の会社を辞めて我が社に入ることになったとはいえ、それまでにはまだ時間のかかるメンバーも多い。OGがいてくれればもう一店舗といきたいところなんだが流石に無理があるか。都内のどこかの土地を抑えることができれば、アルバイトが集まり次第都内初店舗としてOPENできそうだ。キリのいいところで夕食を摂りに戻ると、保育園から双子が帰ってきていた。
『おかえり~。キョンパパ、わたし今日先生に褒められた!』
「それはよかったな。何かいいことでもしたのか?」
『「バレー凄かったね!」って言ってくれたの!』
双子は嬉しそうに言っていたが、自分の表情が一気に曇っていくのを感じていた。やれやれ…やはり分かる人間には分かってしまうか。幸のこともあり、夏休みの間休むとは言ったが、ニュースでは体を拡大はしていても双子がそのままの顔で試合に出場。以前、ハルヒを拡大縮小したマジックがプラスされれば、自ずと答えに辿り着いてしまう。幸の方も青俺に似たような内容の報告をして俺と同じ反応をしていた。
「それで、首尾はいかがですか?」
「俺の方はスキー場の修理・点検とスキーウェアの貸出や販売をする建物を作っておいた。あと自動車教習所もどちらの県も滞りない。このあと各ツインタワーに出向いて館内放送するつもりだ。申し込みが終わる頃には俺は告知の方へ向かっているだろうから、誰か回収しに行ってくれ」
『もう作り終わったの!?』
「スキー場の方はサイコメトリーして一部を治すだけ。教習所の方はどんな作りにしたらいいのか分からなかったから、いくつか教習所をまわって二県とも似たようなものを作ってきただけだ。それと、午後は電話対応にまわったが、未だに青鶴屋さんの回線に偽名を語る奴が何度もかけてくるから当分の間戻せそうにない。一応今日の段階でブラックリスト入りした報道陣のリストを警察に送って、有希に記事を作ってもらったものを報道陣にFAXしてある。定期的に通報する必要がありそうだ」
「あれだけアナウンサーに謝らせておいて未だに偽名で電話してくるなんて……迷惑としか言いようがありません。ところで黄キョン君、鶴屋さんの家に関わる電話はありましたか?」
「あった場合は直接テレパシーで連絡していますけど、あれだけ取材の電話が鳴っているんじゃ、かけてくる方も迷惑するくらいですよ」
「もう許せません!明日からは黄キョン君に代わってわたしが電話対応します!」
演技以外でここまで怒る青朝比奈さんも珍しいもんだ。今度鶴屋さんに会ったら映像と一緒に渡しておこう。
「じゃあ、明日からよろしくお願いします。よし、この後のことについてだが、店舗組と交代するメンバーは店舗の方を頼む。古泉は青新川さんの手伝いだ。俺はツインタワーでアナウンスをかけてくる。今日はジョンの世界ではOG六人を中心に野球の練習をする。テレポートの練習をしているENOZや古泉、セッターの練習をしている青朝倉や青古泉はそのままで構わない。一日おきに野球の練習をしたいと思っているんだが、あくまでWOGのスパイクレシーブのための練習であって、ここにいるメンバーのバッティング練習でないことだけは頭に入れておいて欲しい。昨日のようにハルヒの1000本ノックや青ハルヒのピッチング練習なら全然構わない。注意して欲しいのは俺たち三人の投げる球を打ったり受けたりするのはOG優先であって、OGからの希望がなければ180km/hの投球もない。そのつもりできてくれ」
「こっちの古泉に伝えて徹底的に鍛えてもらわんとな」
「でも、明日からキョンは告知に向かうし、ジョンとこっちのキョンの二人だけになるけど大丈夫?」
「問題ない。ジョンがボールを投げる以上、将棋は不可能。二人に加えて、わたしと朝倉涼子が投げる。合宿中の夜練では見せるわけにはいかなかっただけ」
「くっくっ、さらにOGの防御力をあげるつもりかい?動体視力が衰えていく他の選手に比べてまったく衰える気配がないどころか更に成長しているとなれば、あの六人で世界大会に出られるかもしれないね」
「じゃあ、これで解散だ。各自休めるときに休んでくれ」
『問題ない』

 

 みんなの前では今日は野球の練習だと言ったものの、明日の朝食と昼食の支度とランチの仕込みが終わらなければ参戦できん。俺の代わりと言わんばかりに朝倉の超光速送球を青鶴屋さんが受けていた。それを打とうとバットを構えたのは青ハルヒ。ハルヒ達は昨日と変わらず1000本ノック&送球の練習。青OG達が練習風景を見て呆然としていた。
「こんな球を私たちが捕るの!?」
「最初はそこまで早くない球から始めてくれるし、ミットを構えていれば、先輩たちがそこに投げてくれるから大丈夫。威力はスパイクと同じくらい。まず私たちの真後ろで見てスピードに慣れるところからかな」
そういえば、異世界のOG達にコーティングを施すのをすっかり忘れていた。セッターの練習をしていた二人も呼び集め、コーティングについて説明。情報結合したナイフで自分を突き刺して見せ、もし剛速球が顔面に当たっても痛くも痒くもないと言ってそれぞれの練習場所に戻した。結局その日はキャッチャーとまではいかなかったが、バットを持って撃つところまで進んだ。初めての練習だからな。こんなもんだろう。
「あ~あ、これでキョンまでいなくなっちゃうんだ……黄古泉君は撮影だし、こっちのキョンは倉庫を仕切っているし、古泉君は店舗の店長。あたしたちだけでやっていけるのかどうか不安になってきたわよ。異世界支部の社長になったのはいいけど、アメリカ支部を建てたときと一緒で何をやっていったらいいのかよく分からないし」
「ひとまずこれで現状維持ですよ。店舗のアルバイトを募集しつつ接客に慣れていってもらって、倉庫の方も彼が行かなくてもパートの人たちでやっていけるくらいになるまで時間がかかりますからね。涼宮さんには電話対応で本社設立前から報道陣を規制して欲しいのと、僕と店長を代わっていただいて僕が都心に店を構えられる場所を探しに行くくらいです。黄チームの世界と同じレールに乗るだけですよ。すでにトラブルはいくつも回避していますから問題ありません」
「俺は八時前には向こうへ行くが、昼過ぎに戻ってくることが可能だ。TV局を三局ほどまわってホテルに戻ればこっちに戻って来られる。他の国に行くときも飛行機の中にいる間は催眠をかけて戻ってくるさ。自分が社長だからって全部抱え込まなくてもいいんだよ。優秀な副社長がいるんだから、今は自分のできることに専念すればいい」
「それなら、あたしもみくるちゃんと迷惑電話の切り捨てになるのかな。芸能プロダクションからの勧誘も断らないと……早く鶴ちゃんのところに回線戻さないとね」
「おっと、涼宮さんも含めてですが、朝比奈さんへのCMの依頼は受けてください。絶好の宣伝になりますし、報道陣を規制する一手にもなるはずです」
「それで、今日のニュースはどうなっているんですか?わたし達の世界の…」
青朝比奈さんの言葉を受けてジョンが二つの世界のニュースをモニターに映し出した。現実世界は俺たちのものとは全く関係ないものに切り替わっている。対して異世界の方は…『未だ止まず!取材という名の迷惑電話!』『偽名を語り執拗に繰り返す報道陣!』『執拗な取材に報道関係者の逮捕が続出!』『アナウンサー三度目の謝罪!責任の行方は!?』等、各社相変わらずか。アナウンサーも自局の執拗な取材に対して謝罪してはいるが、流石に頭に来たらしい。編集できない生放送で堂々と語っている。
「どの局も、我々アナウンサーが自局の執拗な取材に対してこうして謝罪を申し上げておりますが、これで三度目となると、視聴者の皆様からは『反省の色なし』と受け止められても仕方がないといっても過言ではありません。ニュースのネタになるからと、一度断られた取材に対して何度も偽名でアプローチをす……『止めて!止めて!!』
「くっくっ、今のは止めるべきじゃなかったんじゃないかい?政治家と一緒さ。アナウンサーの方が支持されて、止めた方は執拗な取材を続けると言っているようなもんだ」
「どうやらそのようですね。電話対応もこれでかなりやりやすくなるでしょう。明日の新聞記事が楽しみになりましたよ」
「俺たちに関わる記事が一面に出たときは一部ずつ取っておいてくれないか?戻ってきたときにまとめてみることにする」
『それなら俺がやっておく。時間だ』
『お疲れ様でした!』

 

 一昨日のOG達と同様、キャリーバッグを転がして81階へと降りた。正直、持って行く必要がないんだけどな。
朝の議題として挙がったのは、ツインタワーでアナウンスした件の申し込み状況の確認、青朝比奈さんと青ハルヒは圭一さんと電話対応に向かい、ハルヒは作詞、有希がそれを待って作曲、ENOZもそれと同様だ。青俺は倉庫、青古泉は店舗。古泉に弁当を渡して残った弁当はキャリーバッグと一緒にキューブに収めた。
『キョン(伊織)パパ、どこか行くの?』
「ああ、しばらく会えないこともあるかもしれんが、暇を見つけて戻ってくるから心配いらん」
「あんた、弁当三つも持って何をする気よ!?」
「ヒロインの夕食、夜食と俺の昼食だ。今頃、腹減らして俺のこと待っているだろうからな。じゃあ、みんな、すまん。色々と中途半端で押し付けてしまって申し訳ないが行ってくる」
「フン、あんたがいなくたって寂しくも何ともないんだから!こっちで全部片付けておいてあげるから、さっさと行ってきなさいよ!」
「ああ、頼んだぞ」
『フフン、あたしに任せなさい!』
何もメンバー全員でハルヒの真似しなくてもいいだろうに。

 
 

…To be continued