500年後からの来訪者After Future4-10(163-39)

Last-modified: 2016-10-24 (月) 10:43:54

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future4-10163-39氏

作品

映画のヒロインも俺についている間は精神的にも安定して告知も順調に進んでいるのだが、まだ引退表明はほぼ決断に近い状態にある。イタリアで襲われた原因は俺のせいだが、料理、疲れ、眠気と色々と甘やかし過ぎた部分もあるかもしれない。意識を失わせることなく一人で寝ることも必要になってくるだろう。それはさておき、ハルヒから一夫多妻制OKが出た翌日、みくるが全員このことを話し、本社に帰ってきて早々、母親にどやされる始末。青ハルヒとの結婚を青古泉がどう思っているかは分からんが、W佐々木の存在意義を満たすことができるようになり、昨日も妻全員と大人の時間を過ごしていた。

 

 ジョンに今日の夕食の件を伝えている間にヒロインが朝食をぺろりと平らげていた。俺も朝食をと食べているとマネージャーと話している声が聞こえてくる。
「……そう。キョンの会社がある国はリムジンの手配をキャンセルしてほしいの。…疲れ?そんなの全然ないわよ。今だってキョンの料理を食べたばかりなんだから!こんなに贅沢で裕福な告知なんてこれが最初で最後になりそうだわ。キョンは映画の依頼が来ても受けるつもりがないからって。……うん、大丈夫。キョンといるとすぐ寝られるの。えっ?キョンと代わるの?……いいけど、何かあるの?伝えたい事?分かった」
大体想像はつくが……さて、何と応対して、どう説明したものか……
「はい、代わりました、キョンです」
「本人も元気そうで安心しました。ですが、こちらにかかってくる電話のほとんどが例のイタリアの事件のことばかりで、まず間違いなく聞かされてVTRも見させられるでしょう。報道陣から伝えられるよりは私の方から伝えようかと思っています。あなたにあまり甘えない様に伝えましたが、どうか、今後ともよろしくお願いします」
「かしこまりました。わざわざご連絡いただきありがとうございます」
ヒロインに携帯を返すと、まぁ、聞いてくるよなぁ、普通。
「マネージャーからあなたに用事って一体何だったの?」
「苦笑いしかできん。アメリカの新聞記事のトップを俺が飾って、『クレイジー野郎』から『クレイジーゴッド』に昇格したらしい。個人的にはあまりおめでたいとは思わないんだがな」
「『クレイジーゴッド?』……プッ!あははははは、何よそれ。あっはははははははは…」
「ああ、そうだ。一つ提案なんだが、今日は日本語で話さないか?TV局を回って空港に乗り込んだら本社でみんなと話すことになるからな。俺たちは昼食だが、向こうは夕食だ。前回は、俺たちのことばっかり聞いてもらっていたから申し訳ないなんてメンバーもいてな。ハリウッドスターになったきっかけとか色々と聞きたいんだと」
「申し訳ないだなんてそんなことないわよ。あなたの料理も美味しかったし、こんなに仲間がいるんだって思ったら羨ましくなったわ!わたしのことなんかで良いのかしら?」
「ハリウッドスターと直接会話なんて滅多に経験できるものじゃない。一応アメリカやイギリスそれにフランスや韓国もそうだが、俺たちの会社の支部があるところの言語は全員マスターしている。といっても英語以外はほとんどハルヒからの恩恵だけどな。それでも敢えて日本語で話がしたい」
「そんなことだったら、全然構わないわよ。TV局についたみたいね。行きましょ」

 

 今回はヒロインのみ逆遮音膜で対応し、報道陣の内容を聞いてみると案の定、イタリアの事件のことをうるさく言ってやがった。まぁ、フランス語じゃ伝わらないけどな。スタジオ入りして、インタビューが開始。映画の撮影を終えてどうだったか、どんなところに力を入れたかなど、映画に関する内容については通訳として間に入ったが、
「そういえば、イタリアでお二人が襲われた事件、リムジンのドライバー三名が殺害されていたようですが、それについてどのように思っていらっしゃいますか?」
「我々にもなぜあのような襲撃を受けたのかさっぱり分かりません。そんなに知りたければ直接イタリアに行って警察に聞いてきてください。映画に関連した内容でないのなら応える必要はありません」
「しかし、あれほどの大事件、どうやって回避されたんです?」
「同じことを二度も言わせないでください」
「少しだけでも構いませんので」
怒鳴り散らしてもよかったが、それでは告知がこれで終わってしまう。匂いと同様殺気はカメラには入らない。全力の殺気がスタジオ内を襲った。今回はヒロインにも体感してもらうことにした。あれはあれで嬉しかったが、仲間のことを思うと、俺から離れてくれた方がいい。
「ひっ……わっ分かりました。そそ、それでは何かパフォーマンスを見せていただきたいのですが、よっ、よろしいでしょうか?」
殺気はそのままでヒロインにかけておいた閉鎖空間に色を付けた。
「キョン、この立体は一体何なの?」
「ナイフや拳銃の弾でも破壊できない強力な壁だと思ってくれればいい。今からナイフと拳銃で攻撃するから見ていて欲しい。絶対にあたることは無いから安心していてくれ。なんなら、俺が受ける方でも構わない。どうする?」
「あなたを信じるわ」

 

 フランス語に切り替えてやる内容を説明。あくまでこれはヒロインの安全を確かめるためのものだが、例の一件のことに関連するものには違いない。ヒントはくれてやる。そこからは自分たちで考えろ。情報結合したナイフでヒロインを攻撃しようとするが、ナイフは折れ、拳銃は弾丸が無くなるまで撃ったが閉鎖空間に遮られ兆弾になることなくそのまま下に落ちた。最後に映画について一言述べてスタジオから出たところで、ようやく殺気を放つのをやめた。
「あぁ、怖かった………話している内容が分からないまま、あなたが殺気を放つから吃驚したわよ。どうしてあんなことしたのか教えてくれないかしら?」
「今バレーの世界大会をやっているんだが、俺のサーブについてしつこく聞いてきたんだ。二回目までは穏便にしてやったが、仏の顔もなんとやらってヤツだ。って、日本のことわざまではあまり知らないか。だが、どこの報道陣もしつこいのは変わらんな。俺たちは映画の告知をするためにここに来たんだ。他のことに時間を割いている暇はないし、飛行機の出発に間に合わなくなるだろ?」
「そうね。早く次のところも終わらせて、ハルヒさん達に会いたいわ。それと、日本のことわざならあなたが日本語を教えてくれたときに一緒に伝わってきたわよ?」
「それはいい事を聞いた。俺も細かいところまでは把握してなかったが、それなら話しやすくなりそうだ」
再度リムジンに乗り込んで、フランス最後のTV局へと向かった。報道陣の聞いてくる内容が内容だけに、マネージャーのところまで送り届けるまではついて行く必要がありそうだ。TV局を出るときも一応聞いてみたが、スタジオのインタビュアーと何ら変わりはない。次からは俺にも逆遮音膜だな。ストレスを溜める必要は無い。

 

「ところで、さっき見せたパフォーマンスについてなんだが、低周波トレーニングと一緒で透明で見えないだけで今もついているんだ。これまで内緒にしていたが、告知を始めたときからな。だから、万が一誰かにナイフや拳銃を突きつけられても安心していられる。映画撮影のときもこれがあったから銃弾を受け止めたり、はじき返したりするシーンを撮影できた。一発でも喰らえばそのまま全身に浴びて死んでしまうからな。まぁ、俺の場合はあくまで保険だ」
「そういうことだったのね。出発した段階で教えてくれればよかったのに」
「万が一のときに備えてつけておいたんだ。これから出発するって時にそんな話をしていたら各国を回る度に怖くなってしまうだろ?」
「それもそうね。ちなみにこれも例のトレーニングと一緒でずっとついたままなの?」
「俺が解除するか、俺が死なない限り半永久的についたままだ。それと低周波トレーニングと違って今度は女性に嬉しいお知らせだ。ただナイフや拳銃が効かないだけじゃなくて、温度調節機能とUVカット機能もついている。夏場は涼しく、冬は暖かい。日焼け止めクリームももう必要ないってことだ」
「えっ?それ本当!?一日中外に出ていても日焼けしないの!?」
「ああ、撮影のときに、自分の出番じゃないときは日陰に隠れ無くてもいいってことだ。それに、次のシーズンに合わせた格好で撮影するときは汗もかかないし、寒さに凍えるひつようもない」
「ねぇ、キョン。それも年越しパーティで皆に話してもいい?」
「俺はそれで構わないが、いつみんなに話すつもりだ?」
「解散して……一時くらいかしら。みんなにもう一度集まってもらって私が説明するわ」
「しかし、低周波トレーニングは男性陣ならまだいいが女性陣はつけたり消したりする必要がある。いくらテレパシーで連絡が取れるとはいえ、誰の声なのか区別できるかわからん。聞き返すのも失礼だしな。それに、眠気を吹き飛ばせるとはいえ、シャワーも浴びずにもう一回集まれなんてみんな賛同するとは思えないが……大丈夫か?」
「それもちゃんと名乗るように説明するわ。テレパシーだって電話と一緒よ!でも、そうね。女性陣は化粧も落とせないってことになっちゃうわね。キョン、何かいい手はない?」
「ん~そうだな。なら報道陣には解散して、みんなが部屋に戻っていくような催眠をかけておく。報道陣が撤退したらみんなに話すのはどうだ?自宅と一緒で一度出たらでられないように例の立体で覆っておく。当然外からの撮影もできないようにしておこう」
「うん、それに決まりよ!年末のパーティが楽しみだわ!」

 

 もう一つのTV局を回り、空港へと足を運ぶ。今度のTV局もスタジオ内に殺気を放つことになったが、ヒロインには逆遮殺気膜。しかし、英語が通じる国でこんな話題が振られてしまうとまずいな。韓国とロシアだからいいとして……マネージャーにもう一回相談する必要がありそうだ。
「すまん、今後の予定を見せてもらえないか?」
「ええ、いいわよ」
韓国、ロシア、ドイツ、スペイン、ポルトガル、イギリス、スイス、ノルウェー、ギリシャ、オーストリア、スロバキア、ポーランド、チェコ、フィンランド、トルコ、カナダか。ロシアの後はヨーロッパ各国を回ってからカナダか。
「世界各国を行ったり来たりするのもどうかと思ったが、これじゃ機内での時間がそこまで取れそうにないな」
「でも、その分時差もないし、生活リズムが狂うこともないから二人で話していたり、また日本の映画も見せてもらえないかしら?」
「じゃあ、みんなで食事を食べた後に自宅に戻ってから映画鑑賞だな」
「どっちも楽しみよ。あなたやハルヒさんそれにあなたの仲間に会えるなんて。それに、あなたの言っていた『聞かせたいもの』も何のことかわかるんでしょ?」
「ああ、そうだ。もしかしたら見たことがあるかも知れないアニメの映画だ。それより、心の準備は大丈夫か?本当に区別がつけられないからな。まぁ、俺の仲間の方もハリウッドスターが来るからと緊張してそうだけどな」
「確か、双子が10組だったかしら?早く空港に着かないかな……」
『そろそろ空港に到着する。夕食は81階にキューブで置いてあるから配膳は済ませておいてくれ。100階についてからエレベーターで降りる。よろしくな』
『問題ない』

 

 ようやく空港に到着して報道陣を押しのけて機内へと辿り着いた。いつも通り催眠を施して本社100階へとテレポート。まだ九月の中旬、職場体験がようやく終わった頃だ。この時間じゃ夜景を楽しむこともできん。
「キョン、ここ100階でしょ?あなたと初めて出会って、ここで食事したんだったわね……」
「ああ、そのときはまだ食材の旨味を引き出すことはできなかったから、あの頃のものとは味が違う」
「一度あなたの料理を食べて、もう一回と思ったら更に美味しくなっていたんだもの!あの年のことは一生わすれないわよ!」
「まだ日も沈んでないし後でもう一回来よう。みんなが待っている」
「そうね、行きましょ」
エレベーターが81階に到着した音が鳴りドアが開く。
『いらっしゃいませ』
後ろを振り向いた黄チームとその後ろにいる青チームを見て呆然としている。
「エレベーターが閉まってしまうから降りてくれないか?席も用意してある」
「え、えぇ……」
ドレスコードは無し。左腕に黄、青のバンダナをしていた。ジョンも黄色いバンダナをつけている。異世界のジョンは見つかっていないってことになっているからな。ヒロインが席についたところで一人ずつ紹介をした。
「さっき説明した通り、腕に黄色いバンダナをつけているのがこちらの世界の俺たち、そして青色のバンダナをつけているのが異世界の俺たちだ。ハルヒはもう紹介する必要はないよな。でこっちが異世界のハルヒ。去年のパーティに来たハルヒは青ハルヒの方なんだ。今年もそのつもりでいる」
「座っていても身長が違うのが分かるわよ」
「ああ、どうして身長に違いが出たのかは俺にも分からん。それで、ハルヒの横に座っている二人が、俺とハルヒの子供たちだ。同じ日に生まれた双子で名前は伊織と美姫」
『よろしくお願いします!』
「おっ、ちゃんと挨拶できたな。二人とも偉い!」
『フフン、あたしに任せなさい!』
「ふふっ、確かにハルヒさんの子供で間違いないわね。セリフも含めてハルヒさんそっくり」
「次が異世界の俺だ。韓国でのリムジンの運転手を頼んでいる。そして、映画の最後にジョンとのバトルシーンを撮影した有希と異世界の有希。で青俺と青有希の子供が幸だ」
「宜しくお願いします!」
「えっと次がみくるさんだったかしら?お寿司のときにお茶を煎れてくれたって言っていた…」
「そう、朝比奈みくるだ。本当は一緒にパーティに参加してもらいたいんだが、どっちのみくるも話をしただけで緊張してしまってな。結局、ここからパーティ会場にいる全員にお茶をテレポートすることになった」
「凄くおいしいお茶だったわ!是非みんなにも味わってもらいたいんだけどいいかしら?」
「わたしのお茶でよければ是非」

 

「で、その隣がこの前アメリカ支部で調理担当をしてくれた古泉」
「あなたとお会いするのはこれで四度目になりますね。よろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ。あのときは美味しい料理をありがとう。それにしてもみくるさんも古泉君もバンダナをしていないと違いがまったく分からないわね。人参の好き嫌いやボードゲームの強さで分かるっていっていたのって誰のこと?」
「ボードゲームの方は古泉だ。どちらもボードゲームに根強い関心を持っているんだが、こっちの古泉は誰が相手でも簡単に負けてしまうが、青古泉の方はどのボードゲームもめちゃくちゃ強くてな。青古泉に挑戦したのはハルヒと有希、それに今回で会うのは二回目になるかな。あそこに座っているのが朝倉涼子。将棋に関しては青古泉よりも強い。次もこれで二回目になる。性別は女だが、俺の親友の佐々木だ」
「あなたの親友?」
「ああ、お腹が空いたり眠くなったりしない限りは何時間でも話し続けられるくらいだ。一つ話題が出るとどんどん広がってしまってな。話が進むほどベクトルがずれていく一方だ。で、その次が俺の両親。先月までは我が社の社員としてはあまり相応しいとは言えないスタイルとファッションセンスだったんだが、例のトレーニングをしたおかげでようやくここまで痩せることができた。もう少し痩せたら母親の方は一旦止めるつもりだ」
「二人とも、前はどんな感じだったの?」
「スカ○ターでモニターに出す。スイッチを入れてくれ」

 

スカウターのステルス状態を解除してモニターにはトレーニングを始める前の二人の様子が写る。
「嘘……これが先月!?一ヶ月でここまで痩せたってこと!?」
「だから言ったろ?女性は途中で付けたり、取り外ししたりしないとまずいって」
「ってことはパーティから一ヶ月もしないうちにあなたにテレパシーが飛んでくることになりそうね」
『条件を付ければキョンがつけたり外したりしなくても平気だ。ただ、女性に維持したい体重を聞くことになるから、それでも良ければだけどな』
おまえ、どうしてそれを先に言わなかったんだと言いたいところだが、俺やジョンの場合常時付けている必要があるってことか。
「でも、耳打ちしなくてもあなたに振れさえすれば誰にも聞かれることなくスタイルが保てるってことよね?」
「そういうことになるな。それでも嫌がる人だっていそうだが…まぁ、大体の目安でつければいいだろう。でその次から古泉の元同僚になる。さっき話していた人参嫌いが多丸圭一さん。青圭一さんの方は人参が好物なんだが、古泉同様バンダナをつけていないと俺たちも区別がつかん。その隣が、弟の裕さん、その次が森さん。朝倉と二人で冊子の編集長をしてくれている。そして、俺と古泉の料理の師匠の新川さん。こっちの新川さんはディナーを作っている最中でな。値段が140$と高額なんだが、それでも二ヶ月以上先まで予約で埋まっている」
「あなた達の師匠なら140$でも安いくらいよ」
「で、最後にエージェント。まぁSPのようなものだ。警備から通販商品の梱包、海外支部のことまでいろんな仕事を引き受けてもらっている。ジョンの紹介はいらないだろう。長くなってしまってすまない、食べ始めようぜ」
『いただきます』

 

「みくるたちはどうだ?ハリウッドスター一人でも緊張しているのか?」
「キョン君たちが来てから場の空気がピリッとした感じがしました。確か100人位集まるんですよね…?わたしにはそんな場所で、ちゃんとしたお茶を煎れられる自信がありません」
「もう一度飲んでみたいんだけど、お願いできないかしら?」
「分かりました」
みくるが食事を一旦止めてキッチンでお湯を沸かし始めた。それをヒロインがジッと見つめている。
「あ、そうだ。すまない、マネージャーに連絡したいことがあったのをすっかり忘れていた。携帯を借りてもいいか?」
「かまわないけど、どうしたの?」
「さっき大笑いしていただろう?もし、その件でマネージャーの方にまで電話がかかってくることだってありえる。こっちの人事部でも多分そうだろう。本人も『クレイジーゴッド』でOKしたって伝えてくるんだよ」
『ブッ!』
『このバカキョン!いきなりそのフレーズ出すんじゃないわよ!危うく吹き出すところだったじゃない!』
「えっ、ってことはハルヒさん達も知ってたって事?」
「ジョンが最初に見つけて大笑いしてな。それでアメリカの記事をみんなで見て大爆笑されたんだ」
「では、こちらもそうさせてもらうよ。社員がその電話を何度も取っていたからね」
圭一さんには先に伝えておくべきだったか。まぁいい、とりあえず遮音膜を張って電話をかけた。
「はい、どうしたの?」
「すいません、キョンです。襲撃ではないのですが、今日、ちょっとしたトラブルがありまして、ご連絡させていただきました。今日フランスで二つTV局を回りました。どちらの局もインタビュアーからの第一声がイタリアでの事件についてだったんです。フランス語でしたから通訳をせずに僕だけで対応しました。TV局や空港、ホテルにいる報道陣も、本人には聞こえない様にしていますが、同様の内容を聞こうとする報道陣ばかりです。これからしばらくは英語を母国語に使う国はありませんが、イギリスに行ったところで間違いなく彼女に伝わってしまいます。今、飛行機の中からテレポートして日本の僕の会社で仲間と一緒に食事をとっているところです。記憶を戻すわけにはいきませんし、イギリスへ行く前にマネージャーさんの方から話をしていただくしか方法がありません。勿論場所を教えていただければ、こちらからお迎えにあがりますし、どこへでも本人を連れて行くことが可能です。いかがでしょうか?」
「分かりました。ご対応ありがとうございます。食事が済みましたら、申し訳ありませんが一旦自宅に連れてきていただけないでしょうか?SPにはこちらから伝えておきますので」
「では、食事を終えたあとそちらに向かいますのでよろしくお願いします」
「ありがとうございます。では後ほど」

 

まぁ、どの道話すことになるし、仕方がないだろう。
「携帯ありがとう」
「随分長かったのね。一体どうしたの?」
「いや、向こうの方もその件で大分苦労していたらしくてな。マネージャーにどやされてしまった。とりあえず、俺たちに話したい事があるそうだから、一旦自宅に戻ってきて欲しいそうだ。SPの前に堂々とな」
「話したい事?ん―――――――何かしら?新しい映画の依頼ってわけでもなさそうだし、とにかく行ってみてから話を聞くことになりそうね」
「ああ、とりあえず今は食事を楽しんでいてくれ」
Wハルヒは至って普通のやり取りをしながら食事をしていたが、青朝倉や青みくるはハードスケジュールの面で気にしているらしい。ハルヒや有希あたりはヒロインが引退して本社に来ることに反対をしているようだが、例のハーレム部屋で一緒に抱いて寝るだけだから何の問題もない。影分身を69階に待機させて、本体はマネージャーと一緒に話をする必要がありそうだ。
「ねぇ、キョン。青ハルヒさんのアンダースローを実際に見てみたいわよ!」
「今日でなくとも、明日になれば嫌という程見られるぞ?」
「このバカキョン!こういう要望に応えなくてどうするのよ!あんたがキャッチャーやりなさい!」
「やれやれ…じゃあ、バッターボックスで青ハルヒのアンダースローを見た方がいいな。横から見るよりその方が体感しやすい。ボールが当たりそうになっても例の壁が防いでくれる。まぁ、青ハルヒに限ってデッドボールなんてことはないだろうけどな」
「フフン、そういうこと」

 

青ハルヒがグローブとボールを情報結合、俺はミットだけで十分だ。青チームの後ろ側でヒロインがバットを構える。第一球これぞ王道のアンダースローがストライクゾーンを通過した。
「これがアンダースロー?青ハルヒさんもよくそんな位置からリリースできるわね。指が床にあたったりしないの?」
「最初はそんなときもあったけど、今はもうミスすることなく投球できるようになったわ!」
「しかし困りましたね。明日の試合、ミスターサブマリンの球を涼宮さんが打つとなると練習が出来ないので涼宮さんを九番にしましたが、どうするおつもりなんです?」
「渡辺投手と同じよ!同じアンダースロー投手だからこそ相手の手の内が読めるってもんよ!」
最初の第一球を含む三球を投げて今日はここまで。
「じゃあ、韓国での告知が終わったら私もベンチから応援しているわ。えっと、異世界のキョンがリムジンの運転をしてくれるのよね?」
「そうです。時間を見ながら回ることになるのでスピードが速いこともあるかもしれませんが宜しくお願いします」
「こっちのキョンにも言ったけど、あなたもハルヒさん達みたいに丁寧語でなくても構わないわよ?ハルヒさんみたいに声をかけてきてくれて構わないわ」
「Wハルヒの場合は誰に対してでもこういう感じなんだ。気にするな。逆にWみくるやW古泉、W新川さんのように誰に対しても丁寧語、尊敬語を使う人もいる。じゃあ、俺たちは一旦戻る」
『また明日』
ヒロインが手を振ったところで自宅前へとテレポートした。

 

SPから「中へどうぞ」と言われ、玄関を開ける。閉鎖空間も一旦解除しておこう。映画を見たときの巨大モニターでは無いが、大型テレビの前でマネージャーが待っていた。VTRを流すつもりなんだろう。
「私の家まで来て……話って何?」
「二人ともそこに座って。今ね、二人の告知のことで世界中が話題にしている話があるの。あなたは覚えていないかもしれないけど、今からVTRを流すから見ていてちょうだい」
TVに映されたのはリムジンを囲んだ末端組織の連中と俺、そしてリムジンの中にいるヒロイン。
「どういうこと?映画の最初のシーンによく似ているけど、リムジンに乗っているのって私?ねぇ、キョン。こんなこと今まであった?」
「どうやら、彼の言っていたことは本当のようね。これはイタリアで本当に起きた事件を報道陣がVTRとして収めたもの。もう一つの方も見て欲しいのよ」
今度はイタリアの空港で俺たちがリムジンから降りたところからのVTRが流れていた。
「こんなの嘘よ!だって私、イタリアでTV局を回って……」
「聞いて頂戴。イタリアでTV局を回った記憶はあっても、リムジンで移動していたときの記憶はある?空港に入る前の記憶はある?」
「そんなの、どの国でもリムジンに乗っていたし、空港もいくつも入っていたからイタリアかどうかなんて分からないわ!」
「今見てもらった二つの事件であなたは大きな精神的ダメージを受けた。彼が料理を作ったり傍にいてあげたりしてくれていたけど、それでもあなたのメンタル面は一向に良くなる気配が無かった。だから彼があなたの記憶を操作してくれたの。イタリアのTV局を回った記憶はあっても、この事件にかかわる記憶を全部消してくれた。でもね、この件に関して世界中の報道陣があなたにインタビューを試みているの。さっき、彼からの電話を受けて私も吃驚したわ。告知が終わってから、このことをあなたに話すつもりだったけれど、今日フランスで回った両方のTV局でこの事件についてあなたたちに聞いてきたそうよ。そして、彼はフランス語ならあなたには通じないからと、あなたに通訳することなくすべて断ってくれたの」

 

「ちょっと待ってよ。じゃあキョン、あなたのサーブについて聞いてきたっていうのは……」
「ああ、サーブの件は俺が話をすりかえたに過ぎない。本当はイタリアの事件について質問してきたんだ。何度もしつこいくらい聞いてくるんで殺気で黙らせた。それが今日の告知であったことだ。そうでもなければあんな場所で俺が全力の殺気を放つことなんてない。それに、TV局、空港、ホテルの前で待機している報道陣たちもイタリアの事件について聞いてきていた。さっき携帯を借りたのも、今はフランス語だから何を喋っているのか分からないが、今後英語が母国語の国に行ったときに、今日と同じようにイタリアで起きた事件について聞かれたらどうするかをマネージャーさんと話をしていたんだ。リムジンに乗った記憶はたくさんあるだろうが、リムジンの助手席に乗った記憶はあるか?最初に見た映像の前にリムジンの運転手がマフィアの組織の末端に入れ替わっていたんだ。本当のリムジンの運転手はおそらく殺害されているだろう。そして、マフィアの末端を蹴落として俺がリムジンの運転をしながら各TV局を回っていたんだ。それも多分記憶に残っていないはずだ。相当な精神的ダメージを負っていたから、俺がそれに関係する記憶をすべて消したんだ。今日回った二局と同様、イギリスに行った時点で同じ話をしてくるだろう。この事件についてどう思ったか、殺害された三人に対してどう感じているか。どの国々でも報道陣なんてスクープが取れればいいだけで被害者の精神的ダメージなんて何も考えてないんだよ。告知が終わればこの家の前に世界各国の報道陣が訪れることになるだろう。だが、その件については心配はいらない。この付近一帯に近づこうとする報道陣は一切入れないようにするだけだ。今後の映画の出演依頼がきたときはSPにもさっき説明したようなナイフも銃弾も通じないようにしておく。狙われたってせいぜい弾が跳ね返る音がするくらい。あとはSPに任せておけばいい。家の外の声が一切届かないようにしておく」

 

 避けては通れない道だが、やはりと言ってもいいだろう。ヒロインが沈黙したまま何も言いそうにない。
「………それで、今日はどんなことを聞かれて何て答えたの?」
「『ドライバー三名が殺害されていたようだが、それについてどのように思っているか』と聞かれて『自分たちもどうしてあのような襲撃を受けたのかさっぱり分からない。そんなに知りたければ直接イタリアにいって現地人に聞け。映画に関連した内容でないのなら応える必要はない』と返した。これが事実だからな。アプローチを変えても『二度も同じことを言わせるな』と言って三度目で殺気を放った。巻き込まれた三人については俺も申し訳ない気持ちでいっぱいなんだ。だからこそ犯人を許せない。イタリアを出発するときの連中は重傷を負わせたから全員監獄の中だ。最初にリムジンを囲んだ連中は怪我人一人残して逃げたそうだどな」
「今後も狙われることってあるの?」
「可能性はゼロじゃない。だが、さっきパフォーマンスとしてやって見せた通り、ナイフも拳銃も効かない。いくら人質に取ろうとしても立体の壁が邪魔して人質は不可能。その間に俺が襲ってきた連中を倒すまでだ。今回は俺一人で十分。次からはSPに同じ条件の立体で囲っておくからSPがやられることは絶対にない」
「とにかく、狙われた理由すら分からないんだから、告知のインタビューでは基本的には彼が応えてくれるわ。告知が終わったら、彼にも来てもらうことになるかもしれないけれど、記者会見を開くことになりそうね。他のハリウッドスターたちも今のVTRを見て怖がっているの。彼だからトラブルを回避することができたって思っているでしょうね。SPだけでは防ぎきれないと」
「キョン、お願い。今日はあなたの傍にいさせて。でないと私怖くて……」
「どうやらこれ以上は、私にはどうすることもできそうにありません。すみませんが、どうか彼女をよろしくお願いします」
「分かりました」

 

 車の音がどんどん小さくなっていく。マネージャーが戻っていったようだ。閉鎖空間を再展開してヒロインに声をかけた。
「朝も入れなかったし、シャワーくらいは浴びさせてもらってもいいか?」
「いいけど…早く戻ってきてね」
「分かってる」
ひとまずこれでこっちは心配ない。本社の方は岡島さんと財前さんで片付け。ハーレムフロアにはハルヒと有希を除く全員が集まっていた。佐々木は影分身一体を連れてそのまま個室へ。Wみくる、青佐々木はシャンプー台が三台ある風呂でシャンプー&マッサージをしてから服を脱いで湯船に浸かるらしい。青ハルヒは身体を洗ったの後シャンプー&マッサージをしたいようだ。
「くっくっ、OG達が『超気持ちいい!』と叫んでいたのが良く分かるよ。身体もエアマットのあるお風呂で洗ってもらいたいくらいだ」
「分身でできる範囲でならどんな注文でも応じるぞ」
「でも黄キョン君大丈夫なんですか?告知で回っている最中にこんなことしてて」
「心配いらん。今はフランスから韓国に行く飛行機の中にいることになってる。本体は今シャワーを浴びている最中だ。その後ヒロインと一緒にジョンの好きな映画を見てヒロインを眠らせる。あぁ、青俺に伝えておいてくれるか?『明日は三食とも弁当をこっちで用意する』ってな。どの道ヒロインも弁当になるんだ。一人分増えるくらいどうってことない」
「ちょっと待ちたまえ。もう夕食も終わって寝るだけなのに、こっちのキョンと会う機会が無いじゃないか」
「ジョンの世界で会えるだろう?」
「ごめん、ごめん。そのことをすっかり忘れていた。分かった、僕が伝えておくよ」
「さて、青ハルヒも待っているし三人とも服を脱がせて隣の風呂に移動だ」

 

 三人の服をすべて脱がせて風呂の外に置くと、大きなエアマットの上に三人うつ伏せの状態。ボディソープを泡立てて三人の背中をマッサージしながら洗っていく。肩の凝りをほぐし、脚を洗っていく。最後にお尻と秘部に触れると三人とも敏感に反応していた。シャワーで背中の泡を落として今度は仰向け状態。首、腕、お腹、胸と洗って疲れを取っていく。
「こんなに癒されるマッサージをされたら、毎日でもお願いしたいくらいです」
「黄わたしと同じです。黄キョン君、昨日みたいにわたしのこと抱きしめてくれませんか?」
「僕も今日はここでこのままがいい」
「じゃあまずは身体を流さないとな。それとみくるは場所を変えよう」
「キョン君、場所ってどこですか?」
「行ってみてからのお楽しみ。このフロアの中だから心配しなくてもいい」
みくるをお姫様抱っこすると、みくるについている水と条件づけた磁場で全て拭きとってからテレポート。トイレの個室に入って鍵をかける。
「キョン君、トイレで一体何を…?」
「さっきサイコメトリーで伝わってきたんだよ。みくる、最近お通じないだろ?そのせいでお腹が膨れて見えているみたいだから、それを解消する」
「そんなことまで分かるんですか!?わたしも少し太ったかなぁって思っていたくらいで、原因が何なのか考えもしませんでした。でも、どうやって解消す……えっ!?キョン君まさか……」
「安心しろ、みくる。今みくるが思っているようなやり方じゃない方法で解決してやるから、心配するな」
「どうするんですか?」
「簡単だ。テレポートするだけだ」

 
 

…To be continued