500年後からの来訪者After Future4-12(163-39)

Last-modified: 2016-09-22 (木) 21:28:00

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future4-12163-39氏

作品

69階を使い始めて二日目。ハルヒは子供達を寝かせてから、有希はおでん屋が終わってからと制限がかかってしまうものの七人ともあの部屋で眠るようになり始めた。影分身もあの程度なら大して問題はないようだし、正直なんで今まで気がつかなかったんだと言いたいくらいだ。今日は韓国の告知をしながら妻達の結婚指輪選び。値段は関係ないが、刻印がいつ頃終わるのか聞かないとな。

 

 サングラスはかけたものの、ノーメイクで韓国の空港から出てきた。青俺のリムジンに乗り込んでヒロインも青俺だと確認して安心していた。一騒動あったようだが後はハルヒ達に……いや、どうするか迷うな…結婚指輪選びに野球の試合となれば気分の悪くなるようなことは後からにしておこう。
「異世界のあなたに各国の運転手をお願いしたいくらいだわ。あなたと同じテレポートで来たんでしょ?」
「そういうことになるな。だが、眠気や疲れをとることができるとはいえ、青俺の生活リズムが狂うことは確かだ。イギリスと日本は青俺に任せてあるから、それ以外はその国の運転手に任せればいい。運転手が変わっていれば俺のサイコメトリーに引っ掛かる。他の映画の告知に回っているハリウッドスターよりよっぽど安全だ。ナイフも銃も効かないんだからな。年末のパーティでハリウッドスターたちやSP全員に同じものを施すからそれで安心できるだろ」
「それもそうね。それより、日本で食事をしたっきり何も食べてなかったからお腹が空いたわ。あなたが夕食を作るって言いだしたときに断らなければ良かったわよ」
「なら、朝食でも食べるか?」
「えっ!?いつ作ったの!?」
「昨日見せただろう。影分身できるのは何も二体や三体に限ったことじゃない」
「ってことは、私の傍に居てくれている間に別の場所で作ってたってこと?」
「ああ、青俺の分も含めて夕食までちゃんと用意してある。今から食べても、みんなで早めの夕食を摂ったら野球の試合。内容に関わらずその後打ち上げだから、お腹が空く心配もないだろう」
「嬉しい!すぐに食べさせて頂戴!」
『それで、さっきの件、ハルヒ達には?それに、そいつをサイコメトリーした結果は?』
『いやまだだ。いつ話そうか迷っていてな。今日指輪選びに行くんだろう?俺たちも誘われたが、いくらリムジンでも入りきりそうにないから断ったんだが……ジョンとも話して明日潰しに行こうってことになった。それと、リムジンに張った閉鎖空間で弾丸をはじき返したからサイコメトリーはできなかった。すまん』
『分かった。ヒロインもいるし話題に出さないことにしよう』

 

 サイコメトリーから伝わってきた情報では、青俺がリムジンで空港前に来た時点で男が一人銃を携えて寄ってくると、拳銃を青俺に向けて一言。
「その場所を空けてもらおうか?」
「おまえが座る席じゃないんだよ」
「これが何かわかんねぇのかてめぇは!?」
「拳銃だろう。だが、それがどうした」
「殺されたくなかったら早くそこから出やがれ!」
「やなこった。そんなもの脅しにも何にもならん。待ち人が来るまで寝かせてもらう。まぁ、がんばれ」
男が拳銃を放ったものの、リムジンに備え付けられた閉鎖空間で跳ね返り右腕を負傷。そのまま撤退して行った……か。報道陣が銃声を聞いて駆け寄ったが逆遮音膜で無視を貫き通しているうちに俺たちが来たようだ。
一つ目のTV局に着く頃にはヒロインも弁当を平らげ、青俺にも朝食の弁当を手渡してスタジオ入り。インタビュアーが席に着いて告知が始まった。
「お二人がイタリアのマフィアに襲撃されてから、他のハリウッドスターたちもSPも警備を厳重にしているそうですが、今のお気持ちを聞かせていただけませんか?」
「告知以外の内容に応える必要は無い」
「では、あのときはどのようにして防ぐことができたのですか?」
「二度も同じことを言わせるな」
「VTR以外で何があったか教えていただけませんか?」
「(英語で)次のTV局へ行こう。一つの国の一つのTV局で告知出来ないくらいで大差はない」
ヒロインの腕を引っ張ってスタジオを出ていった。
「何を話していたか分からなかったけどやっぱりあの事件について?」
「ああ、俺たちは映画の告知に来たんだ。そんな質問に応えるために来たんじゃない」
「待ってください!!」
インタビュアーとは別の人間が俺たちを引き止めに来た。
「先ほどの無礼をどうかお許しください。その件については一切触れませんので、どうかよろしくお願いします!」
「さっきのインタビュアーを退職処分にしてくれるなら構いませんよ?二度と顔を合わせたくありませんので」
「退職処分ですか!?我々にそこまでの権限は……」
「(英語で)行こう。やっぱり駄目だ」
「お待ちください!!せめて、別の人間に変えますのでどうにかお願いできないでしょうか?」
「なら、他のTV局にも伝えておいてくれ。例の件の話題が上がる度にこっちは憤慨しているんだ。その話が出た時点で即TV局を出るとな」
「かしこまりました。次のTV局に向かわれるまでに伝えさせていただきます。どうかお戻りいただけないでしょうか?」
「(英語で)戻ろう。ようやく告知ができそうだ」
「呆れた。後でどんな話をしていたのか教えてね?」
「ああ、青俺にも聞かせてやろう」

 

『キョン、時間だ』
ジョンの言葉を受けて69回で寝ていた七人の眼が開き始めた。それぞれ遮音膜を張って七人を抱きしめる。
『おはよう、ハルヒ』『おはよう、みくる』
などと、黄、青関係なくそれぞれ名前で呼び、佐々木も名前で呼んでみた。
『いきなり名前で呼ばないでくれたまえ。恥ずかしいじゃないか』
「黄キョン君おはようございます。『みくる』って呼んでくれてわたしも嬉しいです」
「このバカキョン!起きるなりあたしの方が恥ずかしくなるようなこと言わないでよ!!」
『こういうときくらい、ダメか?』と言うと、頬を染めながら全員『問題ない』で返ってきた。それから七人のおでこに触れ、昨日来ていた服や下着はどうするのか、今日の服は下着も含めて着せてやるから教えてくれと伝えた。Wみくる、青ハルヒ、有希はずっと繋がったままだったから事後処理も含めてだ。みくるには太めの栓と白のパールショーツ、それにアンスコを朝から履かせていた。七人の服を各自の部屋の洗濯機に放り込み、それぞれの下着と服を着せると、エレベーターで上に戻っていった。後は影分身を解いて一体だけ残しておけばいい。朝食の会議にも参加することにしよう。
『キョンパパ!!』
「おう、おはよう」
『昨日の映画最後まで見られなかった……』
「なんだ、途中で寝てしまったのか?じゃあ、今日は幸と三人でもう一回最初から見よう」
『問題ない!』
俺の分は必要ないと伝えると子供たちが不思議そうに見ていたが全員揃ったところで食べ始めた。
「それで、さっき確認したニュースはどうするつもりよ?」
「ニュースを確認できなかったメンバーもいるはずだ。どんなものだったのか教えてくれ」
「内閣総理大臣の記者会見が報道されていたのよ。公約の最後の一つ、消費税増税によって得た資金の使い道について。あたし達が復興に携わった分、復興のための資金にあてていた分も全て含め、半分は日本のこれまでの借金の返済に充て、残りは全都道府県の知事と何度も意見を出し合った結果、このような形で使用することになったと全国民に向けて発表してたわよ。ただ、あまりにも具体的過ぎて、どのTV局もアナウンサーがどう説明してよいやら分からない状態だった。首相は『これはあくまで原案に過ぎず、叩き台を提示したに過ぎない。反対するのは構わないが、では何に投資すればいいのか意見を出して欲しい』って言ってたわ」
これで現日本政府に対する批判はほぼ出来なくなった。プライドだけが一人前の政治家は精々喚いていろと言っているようなもんだ。だが、ここまでの内容だと「どうするつもり?」という青ハルヒのセリフがかみ合わない。

 

「それで、一体何でもめているんだ?」
「報道陣から現地で働きたいと申し出ている若手政治家のことについてコメントを求められていました。その発言内容が、『多くの若者が現地の復興に協力しようとしてくれていることを非常に嬉しく思う。シーズンオフはたとえ経験が浅くとも、その人物の能力に応じて役職に就いてもらいたいと考えている。必ずや自らの責務をやり遂げてくれるはずだ』というものだったんです」
「あたし達が『これで現地で働くスタッフがさらに集まりそうね。あたし達の負担も軽減できそうだし、この分だと来年は福島県にもスキー場が作れるわよ!』なんて話していたら古泉君たちがうかない顔をして……あんたどう思う?』
「古泉たちと同じ顔になるだろうな。圭一さん達がストレスを溜めることになりそうだ」
「私達がストレスを溜めることになるとは、一体どういうことかね? 既に昨日の夕方から、現地で働かせて欲しいという若手政治家からの電話が何件も届いているし、バスの運転手の件も解決済みだ。どこに問題があるというんだ?」
「首相の発言が問題なんです。黄圭一さんの言う昨日の夕方にかかってきたという電話も、この後折り返して断るべきかと…」
『断る!?』
「辞めていった政治家達と同じだよ。若手政治家の方もこういうところに『だけ』は頭が回るらしい。首相の発言の揚げ足をとって自己中心的なバカが我が社に連絡を寄こしてきた」
「揚げ足をとったってどういうことかしら?」
「首相の発言を要約するなら、『現地で働くと言ってきた若手政治家には経験の有無に問わず重要な役職に就任させる』つまり、これまでの日本政府なら絶対にそのポジションに就けないであろう若手政治家がその役職に就任することができる。そう考えて甘い蜜を吸おうとした人間が本社に連絡してきた。おそらくこの後も電話が来るだろうね。表向きは現地での手伝いをしたいという理由で参加してくる。でも裏では自分が脚光を浴びるチャンスだと思ってる。未だに受け継がれている汚い政治家がやる行動だよ。キミもそう思っているんだろう?」
「今の青佐々木の発言通りだ。そんなバカに日本政府を運営させるくらいなら、俺たちがやった方がよっぽどいい。そういうバカな連中をどう対処するかでW古泉が悩んでいたんだろう。青古泉は折り返して断るべきと言っていたが、古泉は?」
「僕の方は青僕と真逆です。首相の言葉に便乗した若手政治家には重労働を押し付けてシーズンオフになれば何の役職にも就かせない。ブラックリストとしてまとめたものを首相に渡しておけばいいでしょう。ですが、昨日の電話の全てがそうだとは言いきれませんし、中には本気で自分も現地に赴いて復興支援をするという真っ当な政治家もこれから出てくるかもしれません。しばらくは我々も人事部で電話対応した方がよさそうですね。昨日の夕方にかかってきたという電話も折り返して、サイコメトリーで相手の本当の思惑を逆探知してこき使えばいいだけです」

 

それも一つの手だが、古泉にしてはやけに強引というか暴力的というか…いつもなら逆なんだが…とりあえず、十二月にはいわき市のオープンだって控えてる。
「古泉にしてはやけに攻撃的な気もするが、俺たちの選択肢の一つであることには変わりない。ただ、青古泉のように、甘い考えで電話をかけてくる奴は断るという方向で行くのもありだ。全員に問う、W古泉どちらの意見を採用するかこの場で決を取りたい。この場で決定しなければ日本政府はいずれまた崩壊する。福島にもスキー場をという案も出ているが、十二月はいわき市のツインタワーもOPENする。安定するまでしばらくの間はこの中から何人か出る必要もある。それもふまえて皆の意見を聞きたい、どうだ?」
「そう言われてみれば確かにそうね…。福島のスキー場までOPENするのは難しいわよ。でも…二人の意見のどっちがいいかなんて決められないわ」
「そんなの簡単じゃない!若手政治家をふるいにかければいいのよ。白黒はっきり付けたものをあんたが内閣総理大臣に叩きつけてやればいいわ」
「あなたの提案した安比高原スキー場はあなたの言う通り規模が大きい。でも、それだけ人手が必要。シーズンオフになったら切り捨てるのであれば、こちらの古泉一樹の案でいい」
「なるほど。では、昨日かかってきた電話については、こちらで折り返して安比高原スキー場の方で働いてもらうよう伝えよう。それでいいかね?」
『問題ない』

 

「あっ!今日の片付け当番、ハルヒさんとわたしになっていたのをすっかり忘れていました。お昼前までに返って来られるといいんですけど……」
「では、僕と黄朝倉さんと交代というのはいかがです?指輪もゆっくり選びたいはずでしょうから。ビラ配りも皆さんが戻ってきてからになりそうです」
「みくるちゃん、そうさせてもらいましょ。購入後でも刻印を入れることが可能なのか確かめないといけないし」
「リムジンのキューブを展開して地下一階で待つ予定だが……その前に佐々木、お腹触ってもいいか?」
「いきなり何を言い出すんだキミは。時と場所を選んで発言したまえ。僕のことも少しは考えてくれないかい?」
まぁ、確かに、この中の半数以上は何のことか分かってないだろうが、コイツがここまで早く赤面したのは初めてかもしれないな。こんな体験これが初めてなんだから当たり前か。
「すまん、だが気になって仕方が無かったんだ。ダメか?」
「キミが声に出してしまった以上、時間を巻き戻せるわけじゃないからね。僕も気にはしていたんだ。朗報を聞かせてくれたまえ」
服をはだけてお腹を出した佐々木の下腹部をサイコメトリー。卵管采の様子を探ると、韓国にいる本体の分も含めて、さっきまでのイライラが一気に吹き飛んだ。俺の表情で周りにいたメンバーが何のことか気付いたようだ。
「キョン!」
佐々木が俺の方に抱きついてくる。俺そっくりの男の子だったな。今度の話し相手は異世界の自分ではなく、自分の遺伝子を持った子供になるのか。生まれてからすぐ話しかけていそうだな。
「とりあえず、細胞分裂しているのが確認できた。これから10カ月後ってことになりそうだな」
『キョン(伊織)パパ、映画!』
「先に上がって待っていてくれ」

 

「ねぇ、キョン。そろそろ教えてくれない?どんな風に聞かれたの?」
「こっちの言うことも聞く耳を持たない馬鹿だったよ。第一声が『お二人がイタリアのマフィアに襲撃されてから、他のハリウッドスターたちもSPも警備を厳重にしているそうですが、今のお気持ちを聞かせていただけませんか?』だった。それに対して俺が、『告知以外の内容に応える必要は無い』と応じたんだが、次も『では、あのときはどのようにして防ぐことができたのですか?』と聞いてきやがった。『二度も同じことを言わせるな』と忠告したにも関わらず、まだ『VTR以外で何があったか教えていただけませんか?』と聞いてきたから、スタジオから出た。映画に関する質問が一つたりともなかったんだよ」
「はぁ……無駄な時間をかけさせてくれるわね。それでその後はどんな会話になったの?」
「多分ディレクター辺りのポジションの奴だろう。俺たちから事件の話を引き出してから告知に入るつもりが事件に関する内容も告知の方も一切情報が出ることもなく出て行ったからな。『先ほどの無礼をどうかお許しください。その件については一切触れませんので、どうかよろしくお願いします!』なんて言ってたよ。だがそれだけじゃ俺の気がおさまらなかったんでな。『さっきのインタビュアーを退職処分にしてくれるなら構いませんよ?二度と顔を合わせたくありませんので』と言い放ってやった。当然、そんな権限あの男には無い。別の人間に変えさせて、他のTV局にも伝えておけを言ってやった。例の件の話題が上がる度にこっちは憤慨しているんだ。その話が出た時点で即TV局を出るとな」
「じゃあ、このあと回る国々でもその手で行かない?」
「まぁ、一筋縄ではいかないだろうが、とりあえず最初のTV局で試してみることにしよう。このあとは大した時間もかからずに回れるはずだ。俺もそろそろ朝食にする」
『ところで、待っている間に何かあったか?』
『今のところは何もない。まぁ、今頃作戦でも練っている最中だろう。アホの谷口程度の頭でこのリムジンにトラックで激突するなんてことにならないといいんだが』
『十分あり得るな。可能かどうかは分からんがサイコメトリー機能も兼ね備えておこう。激突してもそのまま出発してくれ』
『分かった』

 

テレポートで本社地下降りてくると、影分身一体を双子の部屋に移動させ映画の再上映。リムジンには青新川さんが運転席に座り、妻七人を乗せて最後に俺が乗った。
「自分の気に入ったものがあれば値段はいくらでも構わないが、仕事の内容によって付け外しを忘れないことと、大きなダイヤがついているなんていうのはやめてくれ。特に、青ハルヒ」
「あたし!?なんでそうなるのよ」
「おまえの場合は料理も作ってるし、それに、これはみくる以外全員に該当するが、野球でグローブをはめることになるだろ?今日だけで終わりじゃないんだ。練習するたびにグローブをはめていて折角のダイヤが外れたなんてことになりかねん」
「そういわれてみればそうね。あたしが右利きでよかったわ。アンダースローの邪魔になるもの」
「でも、折角の結婚指輪なのに付けたり外したりしなきゃいけないなんて……」
「到着いたしました」
「ありがとうございます。まず、俺の影分身七体が出る。みんなには関係者外からは全くの別人に見えるよう催眠を施してあるから、そのまま出てきてくれ」
『問題ない』

 

 やってきたのは銀座に本店がある宝石店。七組同時に入って来られると驚くかもしれんが、土曜日に本店にオープンと同時に来た客ならそこまで怪しまれずに済む。最初は俺は妻七人に任せる予定だったが、それぞれにあった指輪を探すのも悪くない。七人とも俺の腕に抱きついていたが、店員にまず真っ先に聞きに行ったのが青ハルヒ。
「あの~すいません、刻印いれるのってどのくらい時間がかかるんですか?」
「三日頂ければ、再度ご来店いただいたときにお渡しすることが可能です」
「できれば、結婚式の日付を入れたいんですけど、まだその日取りが決まらなくて……そういう場合って購入した後入れていただくことはできますか?」
「指輪とレシートをご提示いただければ、こちらの方で刻ませていただきます」
「ありがとうございます!」
『OKだって』
『問題ない』
あれだけ大きい声を出していれば全員に伝わるだろ普通。やれやれ、テレパシーしないでみんなにも聞こえるようにするんだとばかり思っていたぞ。しかしハルヒや青有希&青俺と来たときと同様種類が多すぎてどう選んでいいものやら……
「わたしはこれ」
TOPで決定したのはやはり有希。ブラックダイヤリングを指差して店員がショーケースを開ける。他の妻も有希の選んだものが気になって見にきた。
「刻印はどうなさいますか?」
「Stay with me で」
「両方同じ刻印でもよろしいですか」
「ええ、それでお願いします」
しかし、Stay with me 『一緒に居て』か。有希らしいメッセージだな。有希の気持ちがそのまま伝わってくるような感覚だ。カードで支払って他の影分身たちにテレポートしないといかん。カードとサインには別の名前に見えるような催眠を施してある。
『キョン、私も日付よりメッセージにしたくなったんだけどどうだい?』
『自分のマリッジリングなんだから、変えたくなったのならそれでいいんじゃないか?』

 

 結局、全員日付では無くメッセージを入れることになった。ハルヒは鶴屋さんが俺たちの結婚式のときにかいてくれた「鴛鴦之契(えんおうのちぎり)」、青ハルヒはMy only love 『あたしの唯一愛する人』、みくるはYours love 『永遠にキョン君のもの』、青みくるはPure love 『純粋の愛』、佐々木はI will always be by your side. 『いつも傍にいる』、青佐々木はI ‘m really glad I met you. 『キミに出会えて本当に良かった』
「駄目だ、みんなの入れたメッセージで涙腺が……」
リムジンに乗り込んで第一声。こんなに嬉しいと思ったのはこれが初めてだろうな。
「ここまで嬉しく感じたときは今日が初めてだろうね。みんなからのメッセージ入りの結婚指輪を貰う日が楽しみで仕方が無い。誰か時間が早く過ぎる方法を僕に教えてくれたまえ」
『嬉しいのは分かったから、僕の真似をするのはやめたまえ』
「それより、車から降りるときのキョンのセリフで閃いたよ。指輪を付け外ししなくて済む方法を」
『本当ですか!?』
みくるが揃って青佐々木の閃きに反応した。この中で一番無くしそうな二人だからな。ドラマと同じ流れになりかねん。事件が起きてみくるをサイコメトリーしながら犯人(指輪)を見つける、なんてな。
「佐々木さんどんな方法なのかわたしにも教えてください!お願いします!」
「指輪に催眠をかけるのさ。関係者以外には指輪は見えないとね」
『あ―――――――――!!』
俺にもその発想は無かったが、有希もその考えには至らなかったようだ。一昨日ハルヒに言われていた有希の大声が出た。
「ってことは、指輪をはずさずにビラ配りにも出られるんですね!?」
「多分だけどね。まぁ、これまでの催眠のことを考えたら大丈夫なんじゃないかい?」
「なら、あとは若手政治家をふるいにかければいいわね!圭一さんたちの手伝いに行くわよ!」
「駄目だ!試合のためにも今はストレスをためない方がいい。特に、Wハルヒや有希、青みくる、佐々木はな」
『どういうことよ!?』
「相手がどんな連中か考えてもみろ。初戦の頃のアホの谷口達とはケタが違うんだ。青ハルヒは冷静な判断と正確なボールコントロールが出来なくなるし、有希はナックルボールを捕らないといけない。ハルヒと青みくるはうさ晴らしにバットを振ろうものなら簡単に相手にアウトを取られてしまう。佐々木はその時の状況に応じたバッティングが必要だ。今は圭一さんや俺の父親、森さん、朝倉が入ってくれているはず。今日は四人に任せて別の仕事にまわった方がいい。電話対応をするのなら明日だ。ここでストレスを溜めさせるわけにはいかない」
「さすれば、わたくしが皆様をお送り次第、電話対応にまわることにいたします」
「じゃあ、僕たちは早めの昼食をとって店舗にいる森さん達と交代になりそうだね」
「ビラ配ったら、天空スタジアムで練習しましょ。今日くらいどうってことないわよ!」
『問題ない』

 

 同期された情報がこっちにも伝わってきた。指輪と同じくこのリムジンのナンバープレートを韓国仕様に変えておこう。こっちはいたって順調に進んでいるんだ。W佐々木のバッティング練習の相手をしていても問題はない。
「ねぇ、キョン。職場体験に来ていたって言う子たちは今日は何をしているの?」
「昨日で職場体験終了だ。今日明日と休みで月曜から元の生活に戻ることになる」
「残念。あの子たちの様子見たかったんだけどな」
「有希や朝倉に『中卒でいいから働かせたい』とまで言わせた生徒もいたようだ。最終日に声をかけたかどうかは知らんがな」
「再来年が楽しみね」
「あぁ、期待のホープが既に現れているんだからな」
順調に告知も進み、空港には午後四時頃になりそうだ。
「空港に着いたら報道陣を押しのけて空港に入ってしまおう。トイレにはいったところでテレポートするから、自宅で夕食を食べないか?」
「そうね。やっぱり自宅が一番安心できそう」
空港に着いてすぐ、俺がドアを開けると報道陣が駆け寄ってくる。ヒロインが外に出た瞬間、一台のトラックがリムジン目掛けて突っ込んできた。閉鎖空間に阻まれてトラックだけが凹みリムジンはノーダメージ。
『サイコメトリーできた。このまま日本に戻ってくれ。皆にはまだ内緒だ』
『分かった』
「今のうちに空港の中に入ろう。早く食べて機内に乗ったらすぐに本社にテレポートだ」
「え?えぇ……」

 

 ヒロインの自宅に戻ると、いつもと同じように抱きついてきた。
「さっきの追突が怖かったのか?」
「どうして?どうして私たちばっかり……」
「もしかしたら俺たちのせいって可能性も出てきたな」
「どういうこと?」
「襲撃されたのはイタリアと韓国。どちらも俺たちの会社の支部が立っているところだ。俺たちの会社に対して恨みを持っている奴が自ら犯行に及んだか、マフィアにでも頼んだか」
「そんなのただの逆恨みじゃない!それにアメリカやフランスではそんなことなかったわ!あくまで可能性ってだけで、あなたがそんなに気にする必要ないじゃない!」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。だが、今回の一件でガードは万全だと証明することができた。スカ○ターにさっきの映像映すから、良く見てくれ」
「そんなの見なくたってどうなったか想像できるわよ!」
「普通の衝突ならな。だが、今回は違う。リムジンは傷一つ受けちゃいないんだ」
「どういうこと?」
「スカ○ターを見ればはっきりする」
スカ○ターに移った映像はトラックがブレーキを踏むどころか更に加速してリムジンに突っ込んで来るのがはっきりと映っていた。閉鎖空間に阻まれ運転席前には閉鎖空間の角に斜めに衝突した跡が残っている。前のガラスが割れ、エアバックが出ていたが、運転手の上半身はガラスの外にはみ出ていた。北口駅前店初日と同様、運転手がニヤけているのが確認できた。

 

「どうだ?傷一つないだろ?」
「ええ……これもあなたの例の空間?」
「そうだ。俺たちはこれを閉鎖空間なんて呼び方をしている。閉鎖と言っても別に閉じ込められるわけでもなんでもないんだが、今、俺たちに施しているのと同じ条件が付けられる。この閉鎖空間には『関係者以外の侵入を阻む』という条件が備わっている。ナイフでも、拳銃でも、トラックの衝突でも、関係者外は絶対に入れない。それでこんなへこみ方をしているんだ。韓国では青俺に閉鎖空間をつけてもらったが、今後の国では俺がリムジンに閉鎖空間を取りつけて、中の運転手がまともかどうかチェックするだけだ。誰も俺たちに攻撃なんかできないんだよ。これで、どれだけ強力なのか証明できたようなもんだ。夕食どうする?機内に乗ってさえしまえば、また戻って来られる。ここで夕食を食べて試合会場まで直接テレポートするだけだ」
「そうね、先に機内に乗ってからゆっくり味わいたいわ!」
空港に戻ったところですぐに入口を透視。パトカーとレッカー車が到着して報道陣が聞かれる側になっている。ヒロインの自宅で、二人でその話題について盛り上がっていた。
「おっかしいわね!報道陣が証人になるなんて。自分たちでどうやって報道するつもりなのか見てみたいわ!」
「今度はモスクワだから、告知して回ってホテルに着くころにようやく朝になる。韓国のニュースがどんな報道をしているか見てやろうぜ。俺が通訳するから」
「でも、うちのテレビで韓国のニュースなんて見られるの?」
「ちょっと説明するのが難しいんだが、韓国のテレビ番組を録画してそれをこっちに持ってきて放映するっていうのが一番正しいと思う。要はDVDを再生しているのとほとんど変わらん。時間が同じだけの話だ」
「とにかく、その映像が見られるってことでいいのね?」
「なんなら、試しにこれから始まる野球の映像でも流してみるか?俺もそろそろ向かわないとな」
「えっ!?ホント?ぜひ見させて欲しいわ!」
画面に映ったのはバックホームからの映像。両チームが練習を既に始めている。これなら、ベンチにテレポートすれば問題はない。
「ちょっと待ってよ!これ、あなたじゃない!」
「そう、俺の影分身だ。これでテレポートすると、完全に元に戻る」
「じゃあ、早く行きましょ!」
「そうだな、そうすることにしよう。ああ、行く前に説明しておくことがある。いまから閉鎖空間に条件を一つ追加する。関係者以外には見えなくなってしまうからそれだけ注意をしておいてくれ。ベンチ奥からでもスカ○ターで違う方向からの映像や実況の声が聞こえてくるはずだ」
「とにかく、知らない人とぶつからない様にってことね?」
「ああ、それでいい。行くぞ」

 

俺たちが移動した頃には両チームともベンチに集まっていた。
「どうやら、これで全員のようですね。あなたも今日は試合を楽しんでいってください。打順とポジションは先日申し上げたものと変わりません。この試合もこれまでと同様10点差がついた時点でコールドです。今回は我々は守備からのスタートになります。司令塔はセンターの彼に任せて、あなたは黄佐々木さんのサポートに徹して下さい。アンダースローにはアンダースローで、レーザービームにはレーザービームで対抗してくるとは僕も予想外ですよ。こんな夢のコラボは見たことがありません。倒しがいがあるというものです」
「面白いじゃない!日本一をぶっ潰してやるわ!!」
『問題ない』

 
 

…To be continued