500年後からの来訪者After Future4-13(163-39)

Last-modified: 2016-09-25 (日) 10:21:15

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future4-13163-39氏

作品

韓国での告知、襲撃もあったがとりあえず今は保留だ。一夫多妻制もいよいよ本格化し、それぞれが選んだ指輪にそれぞれの思いがこめられたメッセージが刻まれ、今日ほど嬉しいと感じたことはなかっただろう。双子が生まれたときと……どっちだろうな。あのときは伊織の情報爆発で色々と考えていたから、やっぱりこっちになりそうだ。若手政治家のクズ共のことなんてどうでもいい。各ポジションに付いた俺たちにレーザービームとヒット率という二大武器を兼ね備えた男がバッターボックスに立った。俺がここに居ていいのかちょっと不安になってしまったぞ。試合が終わったら青俺と二人でトイレに行くことにしよう。イチローVSシローなんてことになりかねん。背番号も変えておかないとな。

 

 みくるは異世界OG達と応援。俺たちの世界のOG達はこの試合を見てるのか?
『スカ○ターを全員に渡しておいた。おそらく見ている筈だ』
だったら驚いているだろうな。この異様な光景に。俺があの人の立場なら、第一打席目は勝負を仕掛けるはず。ワンストライクツーボールまで投げたところで……想定内!
『有希、前に走れ!』
レフト前ヒットをワンバウンドでキャッチすると青みくるへの超光速送球。審判の判定は………セーフ!?スカ○ターに一塁を映したVTRがスロー再生される。ヘッドスライディングをした手の方がわずかに先。まったく、第一打席から盛り上げてくれるぜ。有希ももう少し早くとっていればと後悔しているだろう。この裏でやりかえすことになりそうだ。
 青ハルヒに牽制球はない。この打席だけ有希と青鶴屋さんを入れ替えたいくらいだが、そういうわけにもいかんだろう。二番手に現れたのは前回試合をしたプロ球団の一人。初球をバントに構えて青俺が走った。
『佐々木、三塁だ!』
青俺がボールを掴む頃には既に二塁を踏まれ、状態を崩した青俺からレーザービームだったが、佐々木のグローブでは掴み切れずエラー。一度は踏みとどまろうとしたイチロー選手も三塁を蹴りホームへ。そこへ逆襲の一手を繰り出したのが佐々木の後ろまで詰めていた有希。再度超光速送球が放たれた。青鶴屋さんの捕球は完璧。今度は僅差になることなくアウトとなった。たったこれだけのプレーで会場中が盛り上がっている。二番手は二塁まで駒を進めていた。三番手に現れたのが国民的アイドル。青ハルヒのアンダースローに対してどんな対策を立ててきたのか楽しみだ。三球見送って様子を見ると、四球目で叩きにきた。
『佐々木、前だ!そのまま青みくるに投げろ!』
先ほどの青俺のように体勢を崩した状態でサードに投げるよりはファーストに投げて打ち取った方がいい。ハルヒの千本ノックの甲斐もあり、ようやく名誉挽回。
『キミの指示のおかげで助かったよ。二塁の選手が気になってサードにしようかどうか迷っていたんだ』
『外野を誰が守っていると思っているんだ、おまえは。いくら三塁にいても得点なんて俺たちがさせるか!』
『問題ない』
『どんな球でも捕ってやるにょろよ!』

 

 とはいったものの、やはり四番で出てきたか。この東京ドームを本拠地にしているチームに在籍して海外に行った。番号だけで誰だか分かってしまう。引退して、そのままチームのアドバイザーになっているそうだが本塁打を成し遂げるだけの威力が残されているかどうかだな。
『ちぃっ!!』
『キョン』としては二度目だが、青ハルヒから始まって、俺がこれで三人目になりそうだ。青ハルヒの初球、内角高めのボールを打ち返した。相手も対策は万全か。ドーム中『ゴジラ顕在』と思っているんだろうがそうはさせるか!「三度フェンスを駆け上がっていく――――――!!」とアナウンサーの声を耳にしながらフェンス頂上で振り向きボールを確認した。青ハルヒも青俺も『真上に』ジャンプしたから打球の威力に負けてしまった。なら『前に』跳んでボールをキャッチすればいい。勢いに負けることなくグラウンドに着地。グローブにはボールがしっかりと収まっていた。ベンチに戻るやいなやWハルヒが不機嫌オーラに包まれていた。理由はもう分かりきっている。
『あんた達ばっかり目立ってるんじゃないわよ!あたしにも活躍の場をよこしなさい!』
俺の予想と一語一句違うことなく言ってのけやがった。
「しかし、アンダースローも大分訓練を積んできたようですね。国民的アイドルの内野ゴロは予想外でしたよ。アナウンサーも熱弁していましたが、未だゴジラ顕在ですね。彼のプレーが無ければバックスクリーン直撃弾で間違いありません。さて、あの投手を相手に我々の攻撃力がどこまで通じるのか……楽しみですね」

 

 あの投手って渡辺投手じゃないのか?
「キョン、ナイスファインプレー!松井選手の本塁打をアウトにするなんて予想外だったわ!ゴジラVSクレイジーゴッドの勝負はあなたに軍配が上がったようね」
『プッ!くくっ…あはははははは………』
「今後もそう呼ばれることになるんだ、おまえらいい加減慣れろ!」
「くっくっ、無茶を言わないでくれたまえ。『クレイジーゴッド』だけならまだしも、『ゴジラVS』なんて付け加えられたら堪えきられるわけがないじゃないか」
「青佐々木さんの仰る通りです。こちらの世界では涼宮さんしか二つ名がありませんが、僕らの世界でもこの夢の共演が実現すれば、新聞記事のトップをその見出しで飾ることになるでしょう。どちらも知らない人からすれば、なんのことやら見当もつかないでしょうね」
「見当もつかないのは私の方よ。みんなほとんど区別がつかなくてどっちが異世界のメンバーなのか私にはさっぱり。彼が腕に巻いている青いバンダナで彼の区別はつくけど……」
「今回はベンチウォーマーがほとんど異世界のメンバーと判断した方がよさそうですね。次の回、各ポジションに散らばれば分かるはずですよ」
やれやれ、ベンチで話している間に有希が出塁してやがる。松坂以来の怪物までこっちに戻って来たってのか。その相手によくヒットで出塁できたな。

 

 佐々木の第一打席、ショートはダルビッシュ投手の真横、レフトの選手が二、三塁間、イチローも通常のポジションより前に詰めている……おいおい、佐々木相手に何もそこまでする必要もないだろうに……。ス○―ルライトで照らさなくても縮んでしまうぞ。有希は当然盗塁の準備をしていた。第一球、佐々木がすかさずバントに構え有希はすでに走り出していた。これはワンストライクを犠牲にして有希を盗塁させる技。ギリギリでボールを回避してミットに収まったが、既に有希は二塁を踏んでいた。キャッチャーも読んでいたに違いない。有希の盗塁を防ごうとするしぐさがまったく見られなかった。第二球、今度はボールに当てて一塁側へ。強めに当てたせいかこれまで見てきたバントに比べると飛距離が長い。バントに備えて前に出ていたダルビッシュ投手も不意を突かれ一塁側へ。有希が三塁へと辿り着き、なんと佐々木がセーフティバントに成功した。ベンチもチアガールも大盛り上がり。というより、これなら有希もホームベースを狙えたんじゃないのか?とりあえず、バットを持って俺の打席を待とう。チアガール達の声帯を治すのはそれからだ。続く青みくるの打席。ここまでレベルの高い対戦を繰り広げていては、ストライクゾーンの狭さももはや通用しまい。こうして振り返ってみると。青有希や青朝倉、W佐々木に自信を持たせるための監督の戦術だったように思えてならない。青みくるが有希の方をチラッと見ると、ワンストライクワンボールで第三球を叩いた。青みくるの打ったライト前ヒットですべてが繋がった。有希が三塁で止まっていたのも二人でアイコンタクトをしていたのもこのためか。今度はこっちの番を言わんばかりに有希がホームベース目掛けて走ってくる。
「レーザービーム対レーザービーム!三度目はどちらに軍配があがるのでしょうか。一回表からどちらのチームも会場全体を湧き起こすようなパフォーマンス!一瞬たりとも眼が離せません!!」
青みくるが撃った時点で前に詰めていたイチローがレーザービームを放つ。キャッチャーもどちらかと言えばレーザービームの方を見ながら有希を待ち構えていた。既に佐々木、青みくるは一、二塁で留まっている。俺にホームランを打てと言っているようなもんだろうが。こんな有名選手ばっかりのオールスターチーム相手に本塁打なんて打てそうにないぞ。先手を取ったのはレーザービームを受け取ったキャッチャーの方。だが、有希はスピードを緩めようとはしなかった。ここぞとばかりにミットで有希に触れようとしたその瞬間、またしても伸身ムーンサルト炸裂かと思いきや、単なる前宙。あんな場面で伸身ムーンサルトなんてやっていれば、ホームベースを踏む前にタッチされてしまう。有希の見事なファインプレーにより先制点が加わった。
『有希お姉ちゃん凄い!』
「問題ない」

 

 やれやれ、妻七人の結婚指輪を買いに行って、ハリウッド映画のヒロインまで見てるっていうのに、俺のテンションは何でこんなにも下がっているんだか。とにかくだ、さっさと終わらせて祝杯をあげてやる!海外から戻ってきてくれた選手たちにまた勝負がしたいと感じさせてやる!バレーの日本代表が来たときと同じだな。ここで敬遠なんて真似をしにもどってきたんじゃあるまいし。再戦を申し込ませてやる!第一球、ツーシームのフォーク、狙いは……内角高め。放たれたフォーク球に対して落ち始めてすぐのところで叩いた。打球は……勢いが落ちる気配はない。特に狙いを定めていたわけではないがバックスクリーン直撃弾を放つことができたようだ。ダイヤモンドを一周してベンチに戻ろうとするとハルヒから一言。
「あんた、少しはあたしを立てることも考えなさいよ!」
「あの投手相手に満塁ホームランを打っても仕方が無いだろう?それよりもソロホームランで防御率を下げた方がよほどダメージを喰らうはずだ。それとな、海外組に『もう一回闘わせろ』と言わせてやりたくなった。おまえならそれだけのプレーなんて簡単だろ。さっさと行って今日一番目立ってこい!」
「面白いじゃない!あたしに任せなさい!」
ハルヒの次が朝倉じゃ、有希のようにランナーとしての見せ場は無い。さて、ベンチに戻ったら声帯を治しにいかないとな。
『キョンパパ、ホームラン凄い!』
「バックスクリーン直撃弾を封じた後にバックスクリーン直撃弾を放つとは思いませんでしたよ。彼を相手にここまで全員出塁していますから、精神的にもかなり効いているはずです」
『青古泉、ヒロインのいる前で精神的ダメージの言葉は出さないでくれ』
『おっと、これは失礼を』

 

 ハルヒはまだ様子見か。俺がバックスクリーン直撃弾を放ったから、一番目立つにはソロホームランくらいじゃ新聞の一面を飾ることはできん。その間にやることをやってしまおう。
『みくる、そろそろ声帯を治しに行くが、アンスコも新しいものにドレスチェンジするか?』
『そうしてもらえると嬉しいです。動くたびにパールがずっとあそこにあたって濡れちゃって……』
『そういうランジェリーだからな。すぐ行く』
『六人とも、今から声帯を治しに行くから、いきなり触れられても変な声出すなよ?』
『キョン先輩そんなこともできるんですか!?ぜひお願いします!』
テレパシーしている最中にハルヒが打ったと思っていたがツーストライクスリーボールまで来て後が無い。何をするつもりだ?アイツは。快音が鳴り、打球は右中間のややライト寄り……って、何てハイリスクなプレーしやがる。ほとんど距離が無いのに、レーザービームを相手に一塁に出塁するつもりか!?フライの可能性もあるからそこまで打ち上げることもできず、かといって勢いのある球をバウンドさせるわけにもいかない。脚力だけで勝負に出やがった。ハルヒの全速力を見たイチローが捕球してからすかさず一塁へとレーザービームを放つ。ハルヒもヘッドスライディングのモーションに入った。さっきはこれでセーフだったが、ハルヒの手より先にボールが届いた。審判もアウトの判定を下そうとしたそのとき、グローブからボールがこぼれるという大失態!やはりキャッチャーでないと捕球は無理らしい。それを見たハルヒがすかさず起き上がり二塁へと走り出した。どれだけ貪欲なプレーをすれば気が済むんだ?アイツは。再度ヘッドスライディングしたものの、流石に間に合わずアウトの判定。当然だ。

 

チアガールの声帯を治して、みくるのアンスコをドレスチェンジ。今まで履いていたアンスコは69階へ。朝比奈みくるの濡れたアンスコとなれば、何百万単位のオークションになるかもしれん。早く祝杯を上げたいもんだ。ハルヒと同じく、朝倉も相手の様子を見ていたが、ツーストライクツーボールまで来たところで第五球をバックスクリーン直撃弾。セカンドについていた国民的アイドルが呆けている。ヒロインの横に腰かけたところでヒロインが話しかけてきた。
「こんな白熱した試合が見られるなんて思わなかったわよ!ハルヒさんもファーストでそのまま止まっていればいいのに、次の塁まで狙おうとするなんて無茶苦茶よ!でも、あなたも彼女も彼を相手に良くバックスクリーン直撃弾を打てたわね」
「これが俺たちの実力だ!有希も佐々木も青みくるも最大限のパフォーマンスを見せてくれたよ。因みに、今いるこの世界は異世界の方。本社もまだ建設中でシートがかかっている。丁度二人ともステルス状態だし、探しに行ってみないか?異世界の自分を」
「見つけられるかしら?」
「自宅にいないかどうか確認した後、マネージャーさんのところに行けばスケジュールがわかるはずだ。サイコメトリーで読み取れる」
「じゃあ、行ってみましょ!」
「二回表になったら教えてくれ。念のため影分身を残していくが、それだけだと相手の打球がどこに飛ぶか判断できないんでな」
「心配することはない。センターとしての仕事ができるなら、あとはこっちのキョンでも読み取れる」
「分かった。後は、頼んだぞ」
『問題ない』

 

 異世界のヒロインの自宅にテレポートすると、驚いたことにSPがいた。ということは……
「SPがここにいるってことは異世界の私は家の中って事?」
「いることは確かなんだが………」
「どうかしたの?」
耳打ちで異世界のヒロインの様子を伝えると、ヒロインの顔が紅潮していく。
「いいわ、自分で自分の手伝いをしてくるわ。私の服も着替えさせてもらえないかしら?」
俺に触れて伝わってきたイメージを元に、異世界のヒロインの衣装とドレスチェンジ。赤のベビードールに下着は黒のOバックショーツ。場合によっては自分も参加するつもりらしい。
「まだステルスは解除していない。このまま行って途中で解除するか?」
「今解除してもらえないかしら?そのままベッドの傍に送ってくれればいいわよ」
要望に応えてステルスを解除。テレポートさせてスカウターで様子を伺っていた。異世界の自分が今どんな気持ちでいるのか絶好の機会だが、事と次第によっては引退を誘発する可能性も否めない。諸刃の剣ではあるが試してみる価値はある。テレポートして早々ベッドで横になっていた異世界の自分に声をかけた。
「そんなに普段とは違ったことがしたいのなら私が手伝ってあげる」
「誰!?………え?わ、た……し?」
「そう。異世界から来た私よ。折角のムードを台無しにしちゃったのならごめんなさい。でも、その分手伝ってあげられるわ」
秘部に銜えていた二本の玩具を抜き取ると、クールケットで身体を隠した。いきなり現れた自分自身に敵対心を持っている。まぁ、当たり前か。

 

「ある人に異世界の自分のところまで連れてきてもらったの。異世界の私がどうしているか知りたくて……家にこうしているってことは、告知も終わって次の映画の撮影待ちってところかしら?」
「それがどうしたって言うのよ!?」
「私も自宅で次の映画の撮影を待っているときは、今と同じことしていたわ。告知で回るときも人に見られない所では、できるだけ開放感のある大胆な格好で、眠れるまでずっと一人で……それ以上は言わなくてもよさそうね。だって、自分自身なんだもの。今、私も告知で回っている最中なの。一緒に回ってくれている人のおかげで、こんなに楽しくて贅沢で満足できる告知はないわ。その人に異世界の自分に会わせてもらった。映画の撮影か告知で自宅にはいないと思っていたけど吃驚したわ。ねぇ、あなたはいつまで映画撮影と告知を続けるつもりなのかしら?」
「そんなの、依頼が来れば何歳になってでもやるわ!ハリウッドスターは子どもの頃からの夢だったんだから!」
「でも、撮影はまだいいけど、告知のハードスケジュールにこれからも耐えきれそう?」
「耐えきれそうとかそんな問題じゃないわ!どんなにハードスケジュールでもやってみせるわよ!」
「そう。私ね、告知の最中にマフィアらしき人達に狙われたりして、引退しようかどうか迷ってた。でも、異世界の私……つまり、あなたのことね。あなたの言葉で自信が持てたわ。もう少し続けてみたくなった。だって私も、ハリウッドスターは子供の頃からの夢だったんだから!」
「マフィアに襲われた?告知の最中に?でも、どうやってそれを切り抜けたの?」
「私と一緒に告知で回っている人が全部倒してくれたわ。そうね……SP50人集めても勝てないんじゃないかしら?それくらい彼は強い。SPが数人いただけじゃ解決できなかったでしょうね」
「SP50人相手でも勝てない!?そんな人………いるの?」
「私も、今のあなたとずっと同じだった。『そんなのできるわけない!』って毎回そう思うんだけど、彼は自分の発言したことをすべて実現した。見せられないのが残念だけど、拳銃の弾を掴んだり弾き返したりするのよ?絶対あり得ないって思わない?」
「でも、その人はやって見せたんでしょう?どんな人なの?会ってみたいわね」
「一緒に近くまで来ているのよ。今もわたし達の会話だって聞いているはず。キョン、来てもらえる?」

 

 告知の際のストレスは感じ取っていたものの、異世界のヒロインはそれでも依頼が来る限りハリウッドスターとしての人生を貫くか。ありがたい。これでヒロインもいい方向にベクトルが向いた。異世界のヒロインの自宅へとテレポート。似たような格好をしているし、今はクールケットで隠しているから大丈夫だろう。ステルスを解除してヒロインの横に現れた。
「こんな人がSP50人も倒せるっていうの!?」
「そうよ。信じられないでしょ?でも、本当のことなの」
「初めまして。今回異世界のあなたと一緒に告知で回らせていただいている、あだ名をキョンと言います。因みに俺たちの映画なら俺の仲間がDVDにしてくれたから、見ようと思ったら見られるぞ?ご丁寧にジャケット付きでな」
「こんな格好でごめんなさい。でもそこにいる私がそんな格好で堂々としているってことは、そういう関係ってことよね?それにあなたたちの映画が見られるのなら、どんなものなのか見させてもらえないかしら?」
向こうもようやく異世界人と認識してくれたようだ。ジャケット付きのDVDをヒロインに手渡した。
「キョンも戻らなきゃいけないでしょうし、二人で一緒に見ない?それに………さっきまであなたがやっていたこと、私も混ぜてもらえないかしら?他の玩具も使って、できれば私にも同じようなことをしてもらえると嬉しいわ。あなたの弱いところは全部知ってるわ。だって私自身なんだから!」
「じゃあ、映画を見ながら続きをしてもいいかしら?このくらいじゃ全然足りないんだもの!」
「キョン、終わったらテレパシーするってことでいいかしら?」
「テレパシー?」
「分かった。まぁ、簡単に説明するなら、携帯する必要の無い携帯電話と思っていただいて結構です。このフロアに遮音膜も張っていこう。どれだけ大音量で聞いても大声を出しても外にいるSPには伝わらないはずだ。では……」
「消えちゃった……彼どこに行ったの?それに遮音膜って何のことかしら?」
「日本で今試合をしている最中なのよ。その試合に戻っていった。私も何度も見ているし何度も体験しているんだけど、未だに驚きを隠せないの。テレポートっていう彼の能力の一つ。本当はソウルからモスクワへの飛行機に乗っている時間なんだけど、彼のテレポートがそれを解決してくれた。機内に入って座る度にここに戻ってきて彼に抱きついていたわ。今の私やあなたのような格好でね」
「テレポート?なんだか超能力者みたいね」
「私のいる世界では全米で『クレイジー野郎』なんて二つ名で通っていたわ。でも、この映画を見た人達が『クレイジー野郎がクレイジー過ぎる』なんて言ってたの。つい最近になって報道陣が全米にとったアンケートで『クレイジーゴッド』なんて名前になった。私も聞いたときは笑ったわ。でも、それくらいの内容がこの映画に詰まってる。存分に楽しんでみて。映画も……こっちの方も。大声をだしても絶対にSPに聞こえたりしないから安心して」

 

 戻ってすぐ影分身と情報を同期した。青ハルヒもハルヒと似たようなことに挑戦して、僅差でアウトになったらしい。打順が回って有希が本塁打なら青ハルヒもランナーとしての活躍は不可能。そして、先ほどは見事にセーフティバントをやってのけたが今度は同じ手は通じないはず。有希が本塁打を打った瞬間に監督が佐々木と古泉を入れ替えるだろう。青鶴屋さんが三振をとられたが、あの投手相手に九番まで回して三振が一回だけなんて記録の方が凄まじいくらいだ。バッターは五番これも前回のプロ球団の選手の一人。海外組+国民的アイドル+前回の球団のメンバーで構成されているようだ。おっと渡辺投手のことをすっかり忘れていた。
『すまん、今戻った。指示は俺が出す。よろしく頼む』
『問題ない』
 青俺がソロホームランを放って6-0、このまま失点することが無ければ次で勝負が決まる。やはり佐々木狙い!
『佐々木、左に跳べ!!』
勢いのある打球が地を這う蛇のように青ハルヒの右手を通過。ハルヒも援護に回ったが、ボールは指示通りに動いた佐々木のグローブへ。すぐに青みくるに送球したが、体勢を立て直しているうちに出塁を許してしまった。
『すまん佐々木。おまえに跳ばせるよりもハルヒに任せるべきだった。だが、ナイスキャッチだ!よくあれをグローブに収めたな』
『守備面で狙われることは分かっていたからね。どうしても通したくはなかったんだけど、間に合わなかったよ』
『いいや、黄佐々木は充分ファインプレーをした。次第におまえのところも狙えなくなってくるはずだ!』
『そろそろ次の相手に集中してくれないかしら?相手はアンダースローを知り尽くしているんだから』
アンダースローを知り尽くして……って渡辺投手か。アナウンサーもここぞとばかりに声を張り上げてやがる。

 

「ついにこの場面を迎える時が訪れました。ミスターサブマリンVSミスサブマリン。ミスサブマリンの投球を読み切れるのか、はたまた前回のように三振に打ち取られてしまうのか。この勝負も見逃せ……おっと、第二球を叩きに行った―――――――――――――レフト方向へ一直線!!」
有希も打った瞬間に気付いていただろう。動こうとしていない。
『ちょっと黄有希!キョン達みたいにフェンス駆け上がるくらいしなさいよ!!』
『涼宮さんも落ち着いてください。彼女にもそれは可能でしょうが、敢えてやらなかったんです。そんなところまで見せてしまっては今後我々に対抗しようとするチームが現れません。センター以外のホームランなら可能だと相手に植え付けてください。ただでさえ外野三人ともレーザービーム以上の球を投げられるんですからね』
渡辺投手の本塁打により6-2まで迫られた。八番手は青ハルヒが抑えたが、九番ダルビッシュ投手が左中間のツーベースヒット。俺より朝倉が向かっていた方が二塁で刺せたかもしれん。そして巡り巡ってバッターは一番イチローが打席についた。40代にしてヒットを放ってから一塁まで到達するのに、更に0.3秒縮めた超人だ。いつものルーティンワークでバットを構えた。さっきは有希狙いだったが……果たして。
『ハルヒ!左に走れ!一、二塁間だ!!』
朝倉まで届かせない絶妙なヒット。普通なら投手が向かう球だが、それではイチローには通じない。『一、二塁間だ』と後付けしたものの律儀に左に走ったハルヒが意表を突かれて前へ。ファーストへ投げるも、既に一塁ベースに手が届いていた。ハルヒも前に詰めるとボールが自分の頭を超えていくと踏んで左へ走ったんだろう。まぁ、仕方が無い。ワンアウト、ランナー一、三塁。青みくる、ハルヒ、青鶴屋さんは捕球のため動けない。打球は……
『有希!フェンスだ!』
レフト方向へ勢いよく放たれた打球だったが、これは本塁打にはならない。フェンスに当たってようやく落ちてきた球を超光速送球!ホームに向かっていくランナーの帽子が脱げる。主審の判定はセーフ!その間にイチローは三塁へ。6-3で先ほどと同様の形。青ハルヒの出方を見て、国民的アイドルが勝負に出た。

 

『朝倉、前に詰めろ!』
さっきは監督も驚いていたが、青ハルヒのアンダースローに対する対策を立ててきたらしい。グラウンドを何度もバウンドしながら一、二塁間を抜けて朝倉が捕球。また微妙な判定になりそうだ。審判もヒヤヒヤしているに違いない。青鶴屋さんに向けた超光速送球が放たれる。
「お――――っと、レフトからもレーザービームが放たれた。勝つのはイチローか?レーザービームか?主審の判定は?………アウト!アウトです!!今のシーンをスロー映像で見てみましょう」
スローVTRを見ていると、捕球してからの青鶴屋さんの動きが以前よりも鋭くなっている。超光速送球の威力をきっちり抑えてイチローの脚にタッチしていた。
『涼宮さん、ピッチャー交代です』
『はぁ!?あたしならまだ投げられるわよ!』
『今は相手の流れを止めるのが先決です。あなたがまだ投げられると思っているうちに彼と代わるのがベストです』
『ぶー…分かったわよ』
この回をしのいでから青俺と交代しようと思っていたんだが………監督がそう言うなら仕方が無い。青鶴屋さんがベンチに戻り、キャッチャーは有希。ジョンが俺の代わりにセンターへ入り、司令塔も青俺に代わった。

 

ツーアウトランナー一、二塁でバッターは四番松井。ホームラン王と呼ばれた実力は先ほどの打席で確認済み。バットを構えた松井選手の前に三本指の予告ナックルボール。表情に変化は無かったが、この球にどう対応してくるのか楽しみでならない。ナックルボールと宣言したからには、あとはコースをどこにするかだが、有希ですらどんな変化をするのか分からん状態で内角や外角を狙うわけにはいかん。ど真ん中を狙うのみだ。150km/h台のナックルボールに目を見開きながらも二球目からバットを当てにいったが、結局サードゴロで攻守交代。
「ナイスピッチング!ここで松井選手を抑えたのは大きいですよ。6-6と並ばれるところだったんですからね」
「それは青俺に言ってくれ。俺は単なる代役に過ぎん。ジョンの世界にほとんど行けてない状態なんだ。俺は何もしてないよ。精々、チアガール達の声帯を治しに行くくらいだ。ちょっと行ってくる」
「黄キョン君は黄キョン君の仕事をしているだけで、そこまで謙遜しなくてもいいと思います!」
「それが彼の流儀ですよ。だからこそハルヒさんが更に五ヶ国語も覚えてくるようになったんです。どんなことがあろうと生涯変わることはありません」
相手の方が先に一順するなんて今回が初めてかもしれん。チアガール達の声帯を直してベンチへと戻る。打ち上げのときは忘れてしまいそうだ。今のうちに頼んでおこう。
「鶴屋さん、一つお願いしたい事があるんですが、いいですか?」
「どんなお願いにょろ?」
「今度の年越しパーティで寿司をハリウッドスターたちに食べてもらおうかとおもっているんですが、結婚式のときに書いてくれたあのでかい半紙に、一文字ずつ『寿』、『司』と書いてもらいたいんですよ。可能であれば、ローマ字で『SUSHI』と書いていただけると助かるんですが……」
「そんなことでいいなら朝飯前にょろ!書けたらみくるに連絡するっさ!」
「すみません、よろしくお願いします!」

 

 鶴屋さんに事情を説明している間に有希が先ほどのイチロー選手の真似をした一、二塁間へのヒットで出塁。セカンドにいた国民的アイドルも動いたが、ダルビッシュ投手の方が早く辿り着いた。しかし、その頃には有希が既に一塁を踏んでいた。自分と同じ技、能力、プレーを持った有希を見てイチロー選手は今のプレーをどんな風に感じていたんだろうな。そして、交代をしなかった……もとい、させてもらえなかった佐々木の第二打席。相手の布陣は先ほどと同等……イチロー選手が若干前にでているな。たった一人のためにここまでの布陣にさせるというのも特記戦力の一つと言えるだろう。それですら第一打席はセーフティバントにしたんだから、もう少し自信を持てばいいものを……。今度はバントには構えず、有希がそのまま二塁へと盗塁。さすがにキャッチャーも動いたが、有希の方が一枚上手のようだ。ようやくバットを振ったかと思うと打球はショートの真正面。そこまで威力は無かったにせよ急所を狙った打球を咄嗟にグローブでガード。その隙に有希が三塁へと進み、佐々木はショートゴロでワンアウト。監督の言った仕事ができているんだ。文句を言う奴なんて誰一人いやしない。
「キョンで終われるといいな」
「有希っ子、それはどういうことっさ?」
「黄佐々木さんが黄わたしを三塁まで送り届けた。得点は6-3であと七点とればこちらのコールド勝ち」
「黄ハルヒがハイリスクなプレーをしなければの話だけどな。だが、黄俺がバッターボックスに入った段階で、向こうも渡辺投手に切り替えるだろう」
「通常のプロ球団の試合で、一回半も投げずに投手が交代するようなことはほとんどありませんが、このような試合展開なら十分ありえますね」
『少しはあたしにも出番よこしなさいよ!!』
『だったら、試合後の乾杯の音頭でも取ったらどうだ?』
ジョンの一言に周り全員大爆笑。青俺がすかさず遮音膜を張っていた。後頭部をコンクリートにぶつけてもなお、W鶴屋さんが笑っている。青みくるもツーストライクワンボールで後が無くなった。有希を生還させるだけでも十分だが、狙いはまたしても一、二塁間。今度は一塁のすぐ右を行く勢いのある打球がライトへと転がっていく。先ほどより遅い捕球となってしまったが、それでも尚、間に合ってしまうのがレーザービーム。本家本元のレーザービームが一気に距離を詰め、有希より先に捕球。さっきと同じ手は通じないはず。にも関わらず有希が跳び上がり、キャッチャーがそれに合わせて立ち上がり真上で有希を捕らえようとした……が、バレーで言えば青有希の一人時間差、バスケットならフェイクってところか。有希は跳んだのではなく、飛び上がろうとしただけ。すかさずキャッチャーの横を通過して見事にホームベースを踏んでみせた。
「やれやれと言いたくなりました。あんなプレー彼女以外に不可能ですよ。まさかここで一人時間差とは」
「くっくっ、相変わらず見せてくれるよ」
「それを言うならおまえもだろ。あんな布陣を敷かれて、最初の打席はセーフティバント、さっきも古泉の言っていた黄有希を三塁まで送る仕事を、きっちりやってのけただろうが」
「ちょっと待ちなさいよこのアホキョン!あたしより佐々木さんの方が目立っているって言いたいわけ!?」
「それが事実だ。だが、古泉ももうちょっと采配を考えてやったらどうだ?Wハルヒの後に宇宙人二人のどちらかじゃ、黄有希のようなプレーなんてできないぞ?」
「それは手厳しいですね。ですが、あなたの仰る通り、涼宮さんたちの後に黄有希さんか黄朝倉さんを配置することの方が多かったのは確かです。次回以降はそうならない采配をするようにします」
「次回なんて本当にあるんでしょうね!?」
「それは、我々のプレー次第ですよ。涼宮さんのアンダースローもさらに磨きをかける必要がありそうです」
『面白いじゃない!この回で終わらせるわよ!』
「だったらさっさとバッターボックスに立て!いつまで話しているんだ、おまえら。相手が待っているだろうが」
『もう!?』

 

「しかし驚きましたよ。渡辺投手に変わってすぐの球をバックスクリーンに叩きつけるとは」
「手頃な球だっただけだ。それにさっきの分のお返しだ」
「ハルヒさんも今度はハイリスクな勝負には出ないようですね。三遊間を抜きましたが、さすがに二塁までは進出させてもらえないようです」
「問題ない。次の打順は朝倉涼子。どちらでも同じ」
「ちょっとあんた!次回はあたし達を黄涼子の後にしなさい!いいわね!」
「でも、黄わたしも渡辺投手相手にホームランを打てるのかしら?前回は一応ホームランだったけどバックスクリーンじゃなかったし……」
「逆だよ。前回打てなかったからこそ、今回はバックスクリーン直撃弾を放つんじゃないかい?」
「それより古泉、出ていないメンバーを出したらどうだ?俺の代わりに黄鶴屋さんを出せばハルヒまでつなげられるだろう」
「それは出来ません。ここまでのメンバーを揃えても勝てなかったと相手に植え付ける必要があります。ジョンもあなたもソロホームラン以外の選択肢はありません。より強いメンバーで再戦を挑まれた方が闘いがいがある。そう思いませんか?」
「もうわたし達が入る余地がなさそうね」
「今度は朝倉さんに佐倉玲子の催眠をかければいい。黄朝倉さんのレーザービームを怖がってライトには狙って来ない。バッターボックスに立ったときも一緒。ほぼ間違いなくホームランで返される相手に内野安打をされれば誰だって驚く」
「そうだといいんだけど……」
何にせよ、朝倉、ジョン、青俺のホームランで俺たちのコールド勝ち。青俺と二人ですかさずトイレに入り、催眠をかけ直して、青俺の髪型も俺と同じに見えるようにした。戻った頃にはヒーローインタビュー。無論、今回戻ってきてくれた海外組の選手からインタビューが始まった。

 
 

…To be continued