500年後からの来訪者After Future4-16(163-39)

Last-modified: 2016-09-27 (火) 23:33:40

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future4-16163-39氏

作品

影分身を使うようになってから、食事はヒロインと一緒に摂っているが、日本でも食事の際の会議には参加するようになった。69階フロアにはどちらのOGたちもどぎまぎさせてしまうような大胆なランジェリーと玩具ばかりが並び、まだ退職には至らない青OG五人は一旦家に戻ることに。こっちのOG達は毎日でも来るかもしれん。どこでどんな生活を繰り返しているのか分かれば、遠距離でのテレポートをマスターさせて自分たちでこっちに来させるのも一つの手だな。ジョンの世界には当分行けそうにないし、また来たときに伝えることにしよう。俺は六人分の指輪をチェーンに通したネックレスを身につけ、妻達には刻印が施された指輪をようやくはめることができた。後はSOS交響楽団のオーディションを残すのみ。告知でヒロインと一緒に各国をまわりながらも、互いに有意義な生活を送っていた。

 

 ようやく交響楽団団員募集の垂れ幕を外せる日が訪れた。俺以外のメンバーが朝食を摂りながら今日の話題について触れていた。
「いよいよですか。どんなメンバーが揃うのか僕も実際に見て聞いてみたいですよ」
「演奏を聞くだけなら古泉も影分身してみたらどうだ?バレー合宿中と違って疑念を抱かれることもないだろう。撮影には支障はないはずだ。可能なら今泉和樹の催眠をかけて案内役もやってもらいたい」
「それは構いませんが、あなたもジョンも一体どうやって影分身をしているのか僕にはさっぱり……」
「使うことができても使っていないものだとばかり思っていたぞ。やり方なら至って簡単だ。自分自身の人形を作って意識の何%かをその人形に送りこむだけだ。今こうして座っているのも人形に過ぎん。本体はヒロインと一緒に告知に出向いている。もう告知にも慣れたし、本体の方は30%くらいでいい程なんだが、今は本体に50%、ここにいる俺が30%、69階で待機させているのが1%、ヒロインの自宅で食事や弁当の用意をしているのが19%だ。時と場合に応じてパーセンテージを調節しているが、基本はこれだな。得た情報を同期すればすべての人形に伝わる」
「そういえばあんた、今どこにいるのよ?」
「スイスからノルウェーに向かう飛行機の機内で眠っていることになっている。今はヒロインの自宅で食事をしているところだ。どの国でも未だにイタリアと韓国での事件について聞いてくるんで、最初のテレビ局ではヒロインと怒って二人でスタジオから出ていく芝居をしている」
『くっくっ、まさに去る(猿)芝居のようだね。どんな芝居をしているのか僕達にも教えてもらえないかい?』
「インタビューの一発目がどの国も事件に関する内容だから、『映画の告知以外でのインタビューに応える必要はない』と告げて、二度目で『同じことを二度も言わせるな』、三度目で椅子から立ち上がりスタジオ内にいる全員に聞こえるように「たった一つの国のたかが一つのTV局で告知出来なくても何の影響もない」と告げて立ち去る。するとディレクターあたりの奴が俺たちを引き止めに来るから、「社長に連絡してインタビュアーを解雇してくれるのなら構わない」と言っているんだが、そんなこといきなりできるはずもない。そこで妥協案として「残りのTV局でも同じようなことにならない様に連絡をしろ。でなければインタビュアーとあんたの解雇を条件にインタビューに応じたと社長に伝える」と脅している。まぁ、W古泉がみくる達と本屋を回っていた頃の交渉術を真似したに過ぎない」
「いやしかし、素晴らしいですよ。TV局側からすれば何の情報も得られずにハリウッドスターを怒らせて帰してしまったと思うでしょう。インタビュアーやディレクターが本当に解雇されてもおかしくありません。試しに僕も自分の人形を作ってみましょう。影分身というよりは同位体と言った方が妥当かもしれませんね」
瞬時に古泉の人形が現れ、意識や感触を確認していた。俺が影分身していたときは周りからどう思われていたのかは分からんが、過去古泉がこの時間平面上にやってきたような感覚だ。
「どうやら本体よりも人形の方に意識が偏っているようです。あなたのように綿密なパーセンテージで使いこなすには修錬が必要のようですね。今日は撮影に50%、誘導に40%、オーケストラを聞くのに10%の三体でやってみることにします」
「では僕は……『あんたはしなくていい!』
「まぁ、確かに古泉が影分身したところで店舗と将棋に分かれても、将棋の方がメインになりそうだな。それよりもこっちのOGに影分身を覚えてもらってデザイン課と店舗の店員に分かれるというのはどうだ?有希、それなら給料も単純に二倍になるだろ?」
「うん、問題ない」
「ホントですか!?やり方を教えてください!」
「青俺の名案を無碍にしてしまうようで申し訳ないんだが、自分自身を情報結合して意識を分けて操るなんて高等技はかなりの修錬を積まないとできない。Wハルヒはセンスでどうにでもなるだろうが、Wみくるや青有希でも多分無理だ。それができれば単純に戦力も二倍、給料二倍で俺も文句はないんだが……」
「なら俺がジョンの世界で一から教える。こんな即戦力をこのままにしておくなんてもったいなさ過ぎる!」
「キョン先輩、いくらなんでもオーバーですよ」
「そういえばENOZのみなさんはドレスチェンジ可能になったんですか?」
「自分一人ならできるようになったけど、四人同時にだとまだキツイかな。年末までにはなんとか完成させるつもりよ」
「なら、当分超能力の修行をすることになる奴が多そうだ。こっちのOG六人も長距離テレポートの練習をさせないといかん。それに青みくるには例の衣装を纏って自分で飛んで歌えるところまで仕上げてもらいたい。あの曲は確実に依頼が来る。年末の方もな」
『OG六人のテレポート?』
「とにかく、今日の午後二時から演奏開始だ。合格者は俺と父親で面談をやる。地方の人間がこっちに引っ越してきて、一人暮らしが可能かどうか聞くだけだ。合否の通知は郵便でいいだろう」

 

 今日は保育園も小学校も無い。青俺の携帯のアラームが鳴ることもなく朝の会議も終わろうとしていたそのとき、全く別の方向から議題が飛び出してきた。
「ねえ、熊本や大分の方も復興支援した方がいいんじゃないかしら?住まいはあってもほとんどプレハブ小屋だって話だし、ツインタワーを建てた方が、閉鎖空間で台風にも耐えられるわよ」
「涼子、それよ!ツインタワーを建てるのに半年かかると考えれば、今からシートを張りに行って、スキーシーズンが終わってから引っ越し作業をすればいいわよ!」
「では、午前中は僕が土地の交渉にまわります。まずは二体で撮影とは別行動をさせるところから修行を開始することにします」
「やれやれ……社長も副社長もこんな状態じゃ、俺たちが県知事と連絡をとるわけにもいかん。圭一さん、古泉の交渉が終わったら県知事と連絡を取ってもらえますか?東北と同じツインタワーの建築作業に入ると伝えてください」
「分かった。シートを被せるときは人事部の連絡先も載せておいて欲しい。それを見れば何のことかすぐに分かるだろう」
「分かりました。じゃあ、他になければこれで解散だ。みんな、よろしく頼む」
『問題ない』
青俺には特に午前中はやることもないからと伝えると、青OGにエネルギーを分け与えて、情報結合の修行を開始した。子供たちは98階でお勉強会。幸は宿題に取り組んでいた。そのあと映画を見て昼食の頃に戻ってくるらしい。今日の片付け当番はハルヒとみくる。この前青古泉達と代わった分だ。梱包用の段ボールを一つ情報結合して説明を開始した。
「今からこの段ボールと同じものを作ってもらう。まずはコイツに触ってサイコメトリーをする。要は、『あなた誰?』と聞くようなものだと思ってくれればいい。それから、頭の中でコイツと同じものを作るイメージをする。今俺が渡したエネルギーで段ボールを具現化するんだ。やれそうか?」
「できるかどうかは分かりませんけどやってみます。でも黄キョン先輩、私はテレポートはいいんですか?こっちの世界の私たちはテレポートの修行をするって、さっき……」
「簡単な話だ。今覚えてもらうべきものを教えているだけだ。テレポートや舞空術も覚えたいならそっちの修行もしてもいいだろうし、特に順序はない。だが、こっちのOGたちのテレポートに比べたら、はるかにレベルの高い修行をやっていることに間違いはない。青俺に一から教えるとまで言わせたくらいの能力を持っているからこそ、修行をしようと提案した。それだけの話だ。『こっちの六人は一人でいられる時間がほとんどないからな。69階でボディマッサージをしてから自室に戻って「個別で」合宿所までテレポートする。ここまで言えば分かるだろ?』」
「分かりました。やってみます」
テレパシーの件も納得できたらしい。結婚前に青俺と青有希のことを見てニヤけていた、青ハルヒや青朝倉と同じような顔をしてやがる。

 

「ただいま戻りました。おや、早いですね。もうこんなに作れるようになったんですか?これなら一月もしないうちに同位体をつくることができそうです」
「こっちの方のセンスも抜群だったってことだ。そろそろ複数作る段階に入ってもいいくらいだが、これで一区切りだな。他の青OG達も昼食から混ぜて欲しいと言っていた。明日の夕食後のボディマッサージまで堪能していくつもりだろう。連絡が来た時点で青新川さんには伝えてある。それで、土地の方はどうだった?」
「僕の顔を見ただけで喜ばれたくらいですよ。土地ならタダでいいからツインタワーに住ませて欲しいと。もう大分も熊本もシートを張り付けて構いません。電話も来るでしょうが、その土地に住んでいた方々から上層階を埋めていけばいいでしょう」
「午前中だけで土地の交渉を全部終わらせて来たんですか!?黄古泉先輩、本当に凄い……」
「だから散々言っただろう。こっちの古泉と青古泉を同じ眼で見ない方がいいってな」
「連れてきたぞ……って早っ!!もうこんなに作れるようになったのか!?」
「こっちの古泉と同じ反応だな。まぁ、それだけ超能力の方もセンスがあったってことでいいんじゃないか?」
「先輩方、ありがとうございます!」
昼の議題は、古泉が交渉してきた土地について。全員の前で先ほどと同じ報告をすると、提案した青朝倉も満足気な表情。ハルヒがすぐにでもシートをと言ってきたのだが、圭一さん達は明日はお休みの日。月曜から社員にも参戦してもらい、現地住民を引っ越すことになったのだが……
「困りましたね。あなたの設定した例の日付の前に引っ越しを終わらせてしまいたいところですが、四月はまだスキーシーズン中。我々の休みのことも考えると平日の三日間ということになりかねません」
「問題ない。彼と古泉一樹、涼宮ハルヒはおススメ料理の準備に集中していればそれで済む。あとはわたし達でやればいい。でも両方同時に引っ越しを開始することはできない。一方は三月中にやる必要がある」
「だったら、地震の激しかった熊本県から始めましょ。大分県は四月中になりそうね」
「では、両方の県知事と連絡を取ることにするが、それでいいかね?」
『問題ない』

 

午後も超能力の修行は順調に進み、オーディション会場となる体育館のセッティングは有希の担当。父親にスカウターを渡して俺はその横で鈴木四郎の催眠をかけて待機。古泉と同様俺も生の演奏を聞いてみたいからな。体育館中に並べられたパイプ椅子に腰かけて続々と集まる加入希望者を朝倉と有希で誘導。溢れた人間は審査員後ろのパイプ椅子で待機となった。整然とした様子を見て、圭一さんがマイクを持って話しだした。
「では、これよりSOS交響楽団の加入オーディションを始める。私はこのオーディションを統括する多丸という者だ。よろしく頼む。さて、これから君たちには課題曲として提示していた二曲を披露してもらうことになるのだが、審査についてはここにいる私と、長門有希、朝倉涼子、それから指揮者として君たちの前に立つ涼宮ハルヒの四人で判断をして、その合否については後日電話をするか、通知文を送ることになるだろう。課題曲を演奏したあと、ここにいる何人かはこの後人事部で面談をする者もいる。演奏が終わって名前を呼ばれた者から荷物を持って人事部へ向かって欲しい。呼ばれなかった者は我々の後ろで待機している者と一緒にもう一度演奏してもらう。その場合は、より良い演奏をした方を審査対象として扱うものとする。何か質問はあるかね?……では、これより演奏を開始する」
圭一さんが机にマイクを置くとハルヒが指揮台に立った。ロシア、ドイツなどの五ヶ国語と同様、指揮について練習している姿は一切見たことがない。指揮者としてちゃんとまとめ上げられるのか?ハルヒが指揮棒を振ると寄せ集めとは思えないほどの完成度の音が体育館中に響き渡る。みくると古泉が演奏したものとはまた別格のハレ晴レユカイがオーケストラで聴けるとは……全員合格にしてしまいたいくらいだぞ。次のベト七もケチのつけどころがない。課題曲の演奏が終わり、一人ずつ人事部へ面談に行くよう朝倉から指示が出る。『面談に呼ばれた=合格者』が俺たちの共通理解だが、どこで区別をしたのか見当もつかん。
「古泉、合格と不合格の違いが分かったか?」
「あなたの集中力を持ってしても分からないのであれば、僕にはさっぱり見当がつきませんよ。せいぜいハルヒさんが何度かしかめっ面をしたくらいしか気付くことができませんでした」
「いや、今は影分身のせいでゾーン状態にまでなれないんだ。コイツに意識を集中させると他の影分身が消えてしまう」
「おや?この間の……っと、失礼。野球のときはヒロインも連れてきていましたから影分身はしていませんでしたね。異世界のヒロインのところに行くと言って、青チームのあなたに司令塔と託していたのをすっかり忘れていましたよ。僕の方も撮影に50%も割く必要はなさそうです。そうですね……何かあったときのために40%くらいであとはサイコメトリーでなんとかなりそうです。ようやく本来の仕事ができそうですよ」

 

 二階の人事部に降りてきた合格者を裕さんが店舗をアルバイトに任せて誘導役。一人ずつ履歴書をサイコメトリーしながら、こちらで一人暮らしをすることが可能かどうかの確認をする程度で、サイコメトリーに引っ掛からない限り、敷金礼金は元より家賃光熱費ゼロの建物に移動するだけだ。あとは経理課に任せればそれで済む。面談をしている間に二回目の演奏も終わったらしく、満足気に本社を去って行った。面談を終えて父親と一緒に81階へと戻ると、既に大量の段ボールがいくつもキューブ化されていた。情報結合も一回に付き10個単位で生産できるようになっていた。これは10月まで待たなくても済むかもしれん。
「とりあえず面談の方は特に何も無い。どんな感じだ?」
「面談に行かせた人たちは確定でいいんだけど……残りをどうしようか考え中ってところね。明日の様子を見てから決めることになりそうよ」
「我々にはとても寄せ集めた集団とは思えないほどの演奏に聞こえましたが……一体どこで判断されていたんです?」
「あなたたちは分身体だったから集中して聞くことができなかっただけ。音ズレ、ノイズがでた時点で保留にした。不合格者はまだいない。それにレギュラーメンバー以外の合格者も必要。競い合わなければ衰えていく一方。バレーの日本代表と同じ。OG六人に勝てなければいくらエースであろうと候補から外される」
「こっちの世界の私たちってそんなに強いんですか?あの試合の映像をを見ても未だに信じられなくて……」
「なんだ、ジョンの世界で練習試合をやってるんじゃないのか?」
「セッターとスイッチ要因の二人がまだクイック技のトスを上げる練習をしている真っ最中です。まぁ、そう焦る必要もないでしょう。我々も何年もかけてようやくここまで実力がついたんですからね」

 

 なんにせよ、楽団の合格者については明日の様子を見て決定することになった。夕食の議題は楽団の件と土地の件で快諾を得ることができたと報告した程度。たまには双子と一緒にいる時間を過ごそうかと99階でTVを見たり一緒にお風呂に入ったり。その間にハルヒ達は69階へとやってくる。毎日のようにやってくるOG六人と、仕事で疲れたからとテレパシーで連絡してくる青OGを異世界移動で呼びよせる程度なんだが、それでもシャンプー台が足りず、全浴室にエアマットとシャンプー台三台を情報結合する羽目になってしまった。そして、毎日のように服の下にセクシーランジェリーとアンスコを履いて秘部を濡らしてくるOG六人。浴槽一つをこっちのOGだけで陣取っていた。
『おまえら他の選手にバレたりしないのか?練習に影響して監督やコーチから見切りをつけられても知らんぞ!』
『今は私たち三人ずつに分かれて宿舎に泊っているので他の選手に見られるようなことはないです。お風呂もキョン先輩に洗ってもらっているのであとは湯船につかるくらいしか。それに……最初は恥ずかしかったんですけど、だんだん癖になってきちゃって、大胆下着をつけていた方が調子がいいくらいです!………だよね?』
『問題ない!』
やれやれ……映画のヒロインと同じようになってしまったらしい。ランジェリーの棚にSサイズとMサイズのアンスコを大量に用意した俺が文句を言える立場ではないんだが、
『とりあえず、ジョンの世界でしばらく遠距離テレポートの修行だな。ハルヒ達に呼んでもらわずに直接このフロアに来い。途中で落ちそうになっても舞空術は既にマスターしているはずだから大丈夫だろう。エネルギーはジョンからもらうといい。一人で居たい時間もあるだろうしな』
『分かりました!』
『ところで、アロマオイルにもいくつか種類を用意してあるんだが、昨日までのは潤いと癒し、それに筋肉の疲労回復効果のあるオイルを使っていた。他にも、保湿効果、肩こり、むくみの解消、老廃物の排出、デトックス効果と色々ある。別のオイルを使ってみたい奴はいるか?』
『キョン先輩、じゃあ私、むくみ解消で!』
『私もそれでお願いします!』
『キョン先輩、私は肩こりに効くものでお願いします!』
『じゃあ、他のメンバーはいつもと同じでいいな?』
『はい!宜しくお願いします!』

 

「ところで、キョン先輩のつけてるネックレスってどこで買ったんですか?」
「これは買ったものじゃない。有希やみくるたちとの結婚指輪をチェーンでまとめただけだ」
『有希先輩たちとの結婚指輪!?』
「ああ、有希やみくるからずっと一夫多妻制にしてくれとアプローチを受けていたんだが、ハルヒがそれをようやくOKしてな。結婚した証として青ハルヒや有希、Wみくる、W佐々木たちと結婚指輪を交わした。俺のチェーンが見えるのならみくるや佐々木たちのはめている指輪も見える筈だ」
「本当に指輪をはめてる……でもみくる先輩たちが結婚指輪をつけていたところを見られちゃまずいんじゃ……?」
「『関係者にしか見えなくするという条件で催眠をかければいい』と佐々木が名案を出してくれてな。関係者以外には見えないようになっている」
「キョン先輩!私も妻にして下さい!!」
『いきなり大胆発言―――――――――――――――――――――っ!?』
言うと思った……俺の零式をマスターしたこの子なら、まず間違いなく。だが、それをOKするなら古泉にプロポーズした子も毎日こうやって戻って来られるということになる。古泉にシャンプーから全身マッサージまでやってもらった方がいいかもしれん。
「ハルヒ達がOKすればな。しかし、それをいうなら日本代表入りした直後に古泉にプロポーズしたOGは、ここじゃなくて古泉の部屋で全身マッサージしてもらったらどうだ?サイコメトリーするだけだから古泉だって簡単にできる。テレポートで毎日戻ってくるなら一年に一ヶ月しか会えないなんて制限も無くなるだろ?もっとも、ジョンの世界で毎晩会ってるか」
『ホントですか!?この後聞いてみます!!』
「あっ!指輪に刻印が入ってる!!」
『ホントに!?』
「なんなら、どれが誰からの指輪か当ててみるか?選択肢は青ハルヒ、有希、Wみくる、W佐々木の六択だ」
『キョン先輩、指輪見せてください!!』
本体のものじゃないし、オイルまみれになっても心配ないだろう。チェーンを外して指輪を見せた。
「これ、Yours foreverなんて誰からのものなんですか!?私絶対こんな大胆なメッセージ贈れないです!」
「大胆下着をつけた方が調子がいいとか抜かしていた奴のセリフか!?とりあえずこれで六人とも終わりだな。ランジェリー選びのついでにみんなで考えておけ。答えは送ってくれた本人に聞きに行くといい」
『はい!ありがとうございました!』

 

 しかしOG達も履くものがどんどんエスカレートしている気がするな。オープンショーツにパールショーツ、TバックにOバックか。また現状維持の閉鎖空間に入れて隠しておくとして、アンスコでも履いてなければ練習着やユニフォームの方が濡れてしまいそうだ。
「くっくっ、随分長かったね。どんな話をしていたのか僕にも教えてくれたまえ」
真ん中のベッドで横になりながら浴槽の様子をずっと見ていたらしい。閉鎖空間の外に顔を出した青佐々木が話しかけてきた。OG達のシャンプーや全身マッサージを担当していた影分身がすべて消え、その情報が残りの影分身に伝わった。
「なぁに、OG達も俺のつけていた指輪が気になっただけだ。後でおまえのところにも確認に来るだろう。『これ青佐々木先輩の指輪ですか!?』ってな」
「キョン、僕たちの指輪を話のネタに使わないでくれたまえ」
「そういや、どっちだったか忘れたが多分同期しているはずだから知っているだろう。おまえのそういう怒った顔が可愛くて仕方がなくて、わざと怒らせることもあったんだが、今回は俺が悪い。だが、自慢したかったっていうのもあるんだ。みんなからこんなメッセージもらったんだぞってな。みくるや青ハルヒのメッセージも大胆だったが、俺の一番はおまえのあの一文なんだぞ?『キミに出会えて本当に良かった』ってのが本当に嬉しかった。来年の記念日には、同じ文を刻んだもので返ってくるかもしれんが、『俺も、おまえに出会えて本当に良かったよ』」
「バカ……キミにそんなこと言われたら、何て返したらいいのか分からないじゃないか」
「だったら今日はここまでだな。これからは毎日こうしていられる、だろ?」
「そうだね、先にジョンの世界でこっちの世界のOG達を待っていることにするよ、おやすみ」
「ああ、おやすみ」

 

 OG達を宿舎へと送り、妻全員がジョンの世界に行っている間、俺は告知の最中で今夜も行けず仕舞い。だが、その途中でとんでもないハプニングが舞い込んできた。
『キョン先輩!ハルヒ先輩からOK貰いました!!私も妻にしてください!!』
『何!?おい、ハルヒ。本当にいいのか?』
『あんたに足治してもらったときからずっとあんたのこと好きだったんだから、二つ返事でOKしたわよ。あたしも青あたしも真似できなかったあんたのサーブもマスターしたし当然よ。その代わり、あんた、ちゃんと責任取りなさいよ?』
『俺のネックレスにまた一つ指輪が増えそうだな。刻印どうするか考えておけよ?それから、もう俺の妻なんだから、「先輩」をつけたり、敬語使ったりするのも無しだ』
『分かりま……じゃない。分かった、考えておくね』
そういや、ジョン。ジョンの世界の様子をスカウターで見られないのか?
『そういう使い方は俺もキョンに言われるまで考えてなかった。おそらくできるはずだ。やってみてくれ』
古泉に告白しておそらく撃沈したであろうOGとハルヒにOKを貰って嬉し涙を流している二人が抱き合って泣いている様子が映っていた。今夜にでも練習の様子を聞いてサーブで零式の練習をしないのなら一日くらい青OGに催眠をかけて交代すればいい。またバイクに乗れるいい機会だ。そのときは青みくるみたいなパールショーツにするか?
『キョン?TV局ついたわよ?』
「ああ、すまん、すぐに行く」

 

『キョン、時間だ』
明日からおはようと告げる奴が一人増えることになるのか。向こうの親になんて言ったらいいんだ?俺は。ってその時点で大スクープだと報道陣が喚き散らすことになりそうだ。朝食時の議題は残りの加入希望者と震災地のシートの件のみ。シートは古泉が被せてくることとなり、今日くらい本体を戻してOGを迎えてやれと団長命令が下った。ヒロインの自宅から機内へと戻り、とうとうハルヒの覚えてくれた10ヶ国語が通用しないギリシャへと足を踏み入れた。報道陣も何を言っているのやらさっぱりわからん。リムジンのドアを開けると中に通訳さんが既に乗っていた。
「今後は一つの国でも時間を食うことになりそうだな」
「あなたからすればそうでしょうけど、私はずっとそうだったんだから!もうちょっと通訳して欲しかったわよ!」
「それは謝る。すまない」
通訳さんと英語で挨拶を交わしてギリシャ初のTV局へ。インタビュアーが喋り始めたところで、ワンテンポ遅れてインタビュアーが話している内容が伝わってくる。
「既に何カ国も回っていらっしゃるようですが、近隣の国であんな大事件があったと知ったときは驚きましたよ。その時の様子を詳しく聞かせてもらえませんか?」
「『映画の告知に関すること以外は応えるつもりはありません』と伝えてください」
「心配いりません。お二人が話された内容をそのままギリシャ語で伝えますので」
だったら、その「心配いりません」は果たしてこの後続けることができるのか楽しみだ。
「韓国でももう少しのところで大事故に巻き込まれるところだったと聞きましたが、その後は何事もなく回避することができたのですか?」
「二度も同じことを言わせるな」
「他のハリウッドスターも警備体制を強化していると聞きましたが、お二人が狙われる心当たりはおありですか?」
「ダメだ。通訳を通しても話が通じない。たった一カ国の一つのTV局で映画の告知ができなくても大した影響は出ない。次に行こう。ここはもうダメだ」

 

 さすがに通訳も驚いてスタジオを出ようとした俺たちを引き止めた。
「今の言葉、本当に伝えていいのですか?」
「ええ、構いません。俺たちはこんなところで時間を喰っている暇がないので。あなたも早くきていただけませんか?」
スタジオ中がどよめき、ようやく通訳が俺の言葉をギリシャ語で話し、俺たちに着いてきた。後ろで何か叫んでいるようだが俺たちには何を言っているのかさっぱり分からん。そのままTV局を出ようとした俺たちにようやく別の男が道を塞いだ。再度、ワンテンポ遅れて男の言葉が理解できた。
「お待ちください。たいへん失礼を致しました。事件に関わることは一切触れませんので、お戻りいただけないでしょうか?」
「いいですよ?すぐに社長に連絡をして、あのインタビュアーを解雇にしてくれるのならね」
再度、通訳の眼が見開いたが、どうやら任された仕事に徹するらしい。そっくりそのまま伝えてくれたようだ。こちらもワンテンポ遅れて表情に現れる。
「解雇ですか?いくら社長を呼んでもすぐに解雇とまでは……」
「ダメだ、行こう」
これくらいの言葉と動作くらいは伝わったらしい、外に出ようとした俺たちを二度引き止めた。
「しばらく、しばらくお待ちください。ただいま別の者を呼んでまいります。どうか解雇だけはご容赦いただけませんか?」
「どうする?俺たちの精神的ダメージをまったく考えていないあのインタビュアーをなんとかしない限り、俺は戻らんぞ?」
「私もどれだけ精神的苦痛を受けたか……それでも空港を降りるたび、リムジンから降りるたび、TV局から出るたびに事件のことばっかり。いい加減、諦めるってことを知らないのかしら?」
ヒロインのこのセリフは本当の話だから、こういうところで憂さ晴らしをしてもらうことにしよう。

 

「おいおい、一体いつまで待たせる気だ?俺はもう行くぞ?ったく、次も似たようなことになると思うと、先が思いやられる」
「本当ね。こっちはハードスケジュールで一つのTV局でこんなに時間をかけていられないんだけど……」
「お待たせ致しました。もう一切事件のことはお聞きしませんのでどうかご容赦を」
「ダメだ。さっきのインタビュアーが解雇されたというれっきとした証拠がないと容赦なんてできない」
「先ほどの者の処分については追って連絡させますので、何卒、何卒お戻りいただけないでしょうか?」
「Time is money俺は日本人だがこのくらいは当たり前のように知っている。あんたが引き止めた時間分、もう次に行かないと間に合わないんだよ!……そうだ、名案を思いついた。どうせまた次のTV局でも事件のことを聞かれるんだ。俺たちが回る他のTV局に連絡して映画の告知以外の質問は一切しないようにと伝えろ。それならこっちも時間短縮ができるし、まだここに残っていてもそこまでの浪費にはならん」
通訳さんには後で謝っておかないとな。俺の発言を必死で要約してくれている。
「し、します!他局のも事件に関連することは一切質問をするなと伝えます!それでどうかお戻りいただけないでしょうか?」
「絶対にだぞ?一つでも事件に絡んだ質問が出た時点でここの社長に直接連絡して伝えておく。さっきの男とあんたの解雇を引き換えにインタビューに応じたってな!」
「必ず……必ずや伝えますので、どうかそれだけはご容赦ください。お願いいたします………」
「ここまで言っているんだもの。あなたも少し抑えたら?」
「あぁ、だが、次はない」

 

 告知を終えてリムジンに乗った。通訳さんもようやく一安心したという顔をしている。心臓が止まるかと思ったとでも言いたげだな。
「すみませんでした。韓国を飛び立って以来、あんな調子で事件に関連する話題を振られてばかりいたので、二人で相談して、次の国に行くたびに先ほどのような猿芝居をしていたんです。あれだけ言っておけば、他局からあの事件に関連する話は出てこないでしょう。あなたにだけは最初にお話しするべきでした。誠に申し訳ありません」
「あれがお芝居!?良かったです……寿命が縮むかと思いました」
「それにしても、今回はあなたも随分オーバーだったんじゃない?」
「どの国に行っても相変わらず、それに精神的ダメージを受けたのは事実だ。少しでも身を持って体感してもらわないと割に合わん。とりあえず食事にでもしよう。通訳さんの分もありますので、よかったら召し上がってください」
弁当を一口食べた後の通訳さんの反応はいわずもがな。ホテルに入ったところで本体と影分身を入れ替えて本社へと戻ってきた。ヒロインが分身に抱きついて寝ている間は本体に97%意識を集中させることができる。これで昨日気付くことができなかった音ズレやノイズが分かるかもしれん。オーディションの二日前になってようやく連絡が来た人間も混じっているんだ。昨日より今日の方が鋭さが増すだろう。圭一さんが一通りの説明を終えて演奏が始まった。

 

「どうやら、間に合ったようですね」
「今日のドラマの撮影はもう終わりか?」
「ええ、今日はこれで僕の出番はありませんので、テレポートで帰ってきましたよ。有希さんが仰っていた音ズレやノイズの判別をしようと思いまして。どうやら、考えていることは同じようですね」
「ああ、今は本体に97%だ。ちょっと聞いただけでも、昨日とは質が明らかに違うがここからまた合否を決める区別をする必要があるだろう。今から集中する。演奏が終わるまで何も聞こえないと思っていてくれ」
「了解しました」
必要の無い情報が暗闇に沈んでいく。古泉、有希、朝倉、圭一さんの姿が無くなり、残っているのはハルヒの指揮と演奏者のみ確かにところどころでノイズが混じっている。不要になった演奏者が暗闇に沈み最後まで残ったメンバーを記憶し朝倉達と合致しているかどうか確かめたが、最後まで残った全員の名前が読み上げられた。後は残りをどうするか有希たちに任せるだけ。さっさと面談を終わらせることにしよう。

 
 

…To be continued