500年後からの来訪者After Future4-19(163-39)

Last-modified: 2016-09-30 (金) 20:33:24

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future4-19163-39氏

作品

俺の八人目の妻として名乗りを上げたOGと結婚指輪を買いに行き、天空スタジアムの最初の客としてこっちの国民的アイドル達を野球の試合相手として招き入れた。ノーアウトのまま、二順目のハルヒまで周り、一回裏でコールド勝ち。その後、俺の180km/h投球に挑戦し、異世界でミスサブマリンと謳われた青ハルヒのアンダースローを打ってみたいと試合後もプレーが続いていた。レギュラー陣はそのまま相手をしてもらって、チアガール達はもう必要ないだろう。先にシャンプー&全身マッサージを始めることにした。

 

ベンチ奥の扉から出ると69階へとテレポート。100階に待機させていた影分身もみくるが来るのを待っていた。いつまで掛かるかは分からんが、少なくとも、残り全員が青ハルヒのアンダースローを体験するまでは終わらないだろう。あとは青ハルヒから、再戦の依頼をすれば、メンバーを鍛えるなり、変えるなりをして挑んでくるはずだ。番組に関係なく仕掛けてくるようになるだろう。69階に降りてきたメンバーの催眠を解除していつものようにシャンプーからスタート。チアガールの衣装の下は相変わらず、大胆ランジェリーに濡れたアンスコ。玩具付きのセクシーランジェリーをつけているOGまで出てくる始末。そういえば青OGは彼氏とかいるんじゃないのか?
「えっ!!そんな下着つけていたの!?今日一日中!?」
「大胆下着だけじゃ我慢できなくなっちゃった。明日は別の玩具も使ってみようかな」
「私たちはずっとキョン先輩たちと一緒にいたから恋人とかはいなかったけど、青チームは彼氏いないの?」
「私は仕事が忙しくて一緒にいる時間が全然取れずに自然消滅しちゃった。さっきみたいに、残業じゃなくて試合の応援だったら、別に遅くなってもいいかなって思えるけど」
「こんなの、一度体験したらもう黄キョン先輩に洗ってもらう以外考えられない!」
「私たちもこっちのハルヒ先輩たちみたいにずっとこっちの世界にいようかな……」
「黄キョン先輩、向こうにいる二人と連絡とかってとれないんですか?」
「俺のエネルギーさえみんなに分け与えて持っていれば、さっきのようにテレパシーで会話ができる。だが、携帯はこっちに持ってきても繋がらないから定期的に向こうに戻る必要があるけどな」
『私にも分けてください!』
青OG四人が一斉に声を上げた。影分身が手を掴んでエネルギーを分け与えると実際にテレパシーを試しているようだ。黙ったままだが、表情が変化しているのが良く分かる。俺もテレパシーしているときはこんな感じに見えているのかもしれん。

 

 全身マッサージを終え10人で湯船に浸かっていると、突然何か思い立ったかのように青OGのセッターの子が浴槽から出て玩具をあさり始めた。他のOGたちも一体何をしようとしているのか気にしている。ようやく戻ってきたと思ったら青OGの一人に話しかけた。
「一体どうしたの!?」
「フフン、これ使ってみない?」
手に持っていたのは、女性同士で秘部を刺激する玩具。おそらく話しかけられた方は既に経験済みで膜も無いんだろう。でなければそんな提案はされるわけがない。
「え――――――――!!皆が見てる前でそんなの使うの!?私が恥ずかしくなるだけじゃない!」
「じゃあ、個室行く?」
「どっちでも一緒!!そんなにしたいならこっちの世界の自分とすればいいでしょ!?」
「黄わたしはまだ未経験だって言っていたからダメなの」
『まだ未経験!?』
青OG全員が反応した。まぁ、考えてみれば、高校二年生までに恋人ができていなければ、大学も俺たちの後を追いかけてきたし、そのまま仕事に参加してバレーに熱中していたからな。古泉にプロポーズして玉砕したOGではないが、恋人になりえる相手がいないまま日本代表になったから当たり前か。青古泉は論外だしな。
「ちょっ……全員のいる前でそんなこと暴露しないでよ!!」
「でも、そう言われてみればほとんど未経験だよね?日本代表入りするのにバレーに夢中だったから……まぁ、つい最近初体験したばっかりの誰かさんを除いてだけど」
『あ~なるほど!』
「だから、みんな揃って納得しないで!キョンまで照れているじゃない!」
『へ~「キョン」て呼び捨てにするんだ~?みくる先輩ですら「キョン君」なのに?』
「ここで俺が話を切るのもどうかと思うが、そろそろ打ち上げになりそうだ。服に着替えて81階に来てくれ」
『問題ない』

 

 俺がOG達を連れて81階に行く頃には青ハルヒ以外のメンバーが揃っていた。なんだジョン、戻ってきたのなら教えてくれても良かっただろうに。
『話の邪魔をしたら悪いと思っただけだ。ガールズトークの中にキョンが入っているのもどうかと思うけどな』
まぁ、切り出したのは俺のせいではないにせよ、カミングアウトが多かったのだけは確かだ。エレベーターが開いてようやく青ハルヒが満面の笑みで戻ってきた。まぁ、さっきの芸能人チームの話ではないが、青ハルヒ以外ほとんど仕事をしていないからな。
「じゃあ、こっちの世界での野球の初勝利を祝して…『かんぱ~い!!』
「結局どうだったのか教えてくれないかしら?」
「圧勝よ、圧勝!アウト一つ取られずに一回裏でコールド勝ち。試合の後、キョンの球を体感して、あとはアンダースローを打ってみたいって全員に投げたくらいかな。でも、強いメンバー揃えてまた来るなんて言っていたからどっちの世界でもいつアプローチが来てもいいように、あたしもバレーよりはピッチング練習しないといけないわね!今度は絶対に打たせないんだから!」
「涼宮さんがそういう認識でいるのなら、何も言う必要はなさそうですね。予め映像を見せておいたとは言え、今日の試合はアンダースローの球の研究すらせずに来たようなものでしたから、『我々の世界ではもう対策が立てられていることをお忘れなく』と言うつもりでしたが、どうやら考えるだけ無駄だったようですね」
「フフン!あたしに任せなさい!」
「皆様のご活躍をこの眼でしかと拝見させていただきました。お見事でございました」
「それより、青涼子。社員食堂の方はどうだったの?」
「う~ん、それが……」
『それが?』
「ハルヒさんの味付けで近隣のファストフード店が撤退していったせいで、バレーの日本代表たちだけじゃなくて、楽団の人たちも来ていたのよ。購買部に行く人もいたし、ディナーのことを知らないで間違えて80階に来た人もいたみたい。明日集めるなら黄有希さんの方からそのことを話してもらえないかしら?」
「問題ない。明日は楽団用の宿舎で放送をかける。都内の自宅から来る団員には人事部から電話連絡して」
「それは構わないが、一体どういう内容を伝えればいいのか教えてくれないかね?」
「明日の午後七時から天空スタジアムでGod knows…とLost my musicの二曲を演奏するから集まって欲しいと伝えて。それ以降はわたしからテレパシーで連絡するようになると団員に説明する。ステージとアリーナ席を情報結合して音の反響具合を確認する。古泉一樹、アリーナ席の数を確認できたらチケット業者に連絡して。サイトには既に十月四日の午前十時にチケットを販売すると載せてある」
「了解しました。業者の方にはなるべく見やすい席から埋めていくように伝えておきましょう。ライブならまだしも、コンサートでは、天空スタジアムを満員にできるとは到底思えませんので。正午で打ち切るよう伝えておきましょう」
「しかし、今回のコンサートは報道陣がチケットを購入して入ってきそうですね。何か対策はあるんですか?」
「問題ない。報道陣にはいくら撮影しても収録したものはブラックアウト、音もまったく拾えていないように閉鎖空間に条件をつけるだけ。それでも記事やニュースにしてくるようなら制限をかければいい。今日来たTV局はもうカメラに収めているから平気」

 

「しかし参ったな………どうしたもんか……」
「何、変な顔しているのよ、あんた」
「団員も社員食堂で夕食を食べるということは、日本代表チームのディナーができないってことだ。それに加えて引っ越しした建物を改装して自転車や車を置けるスペースを作ろうかと悩んでいる。自転車があれば少し遠くても買いだしに行ったり店に食べに行ったりすることも可能だ」
「問題ない。ディナーの曜日を決めて、明日団員に伝えればいい」
「建物もキョン君の言う通り改装でいいと思います」
「では、毎週金曜日でいかがです?土曜日はコンサートやライブもありますし、土曜日は一般開放も無しでいいかと」
『一般開放!?』
「くっくっ、今さら何を驚いているんだい?100階のときだってそうだったじゃないか。日付さえ決めれば垂れ幕で告知できるだろう?次のコンサートの告知については大画面に映すのと、ビラにその内容を載せてくれたまえ。何の曲を演奏するか決まってないとビラは作れないけどね」
「佐々木さん、それよ!ビラにもコンサートのこと入れましょ!キョン、いつから一般開放するの?」
「俺が考えていたのは一月五日のライブを終えてから。つまり、一月六日からを予定している。冬になってからの方が星も綺麗に見られるだろうしな」
「特に異論が無ければ、それでいいんじゃないか?それに黄有希、曲目は決まっているのか?」
「問題ない。オーディションのときの二曲に明日演奏するGod knows…とLost my music、青チームの朝比奈みくるが歌うバラード曲の計五曲。彼からも言われていた通り、あなた一人で羽を動かして空を飛んでいるように見せて」
「じゃあ、今夜からあたしとみくるちゃんは別行動になりそうね」
「明日のアナウンスはあたしがやるわ!」
「じゃあ、決定事項を確認しよう。明日の午後七時に団員を天空スタジアムに集めて二曲を演奏する。都内の自宅から来るメンバーについては今回だけ人事部から電話で連絡してもらい、それ以降は有希からのテレパシーで連絡をする。来週土曜日のコンサートの曲目は、オーディションのときの二曲と明日演奏するGod knows…とLost my music、青みくるが歌うバラード曲の計五曲。そのためのビラを作り、早ければ明日から撒き始める。日本代表のディナーは毎週金曜日。その日は楽団員が社員食堂は使えなくなることと、夕食は80階は新川さんのディナーで使えないことも明日連絡する。天空スタジアムの一般開放はライブやコンサートが終わった一月六日からスタート。こんなもんか?」
『問題ない』
「ついでに連絡するのを忘れていた。向こうの時間で今週の金曜日から俺の映画が公開される。アメリカの新聞で映画に関するニュースがあれば教えてくれ。今日は久しぶりにジョンの世界に行けそうだが、仕込みに追われそうだ」
「ところであんた、子供たちのこと青有希ちゃんから聞いた?」
「ああ、二人とも試合に出ているから風呂にでも入れておこうと思って99階に行ったら幸も含めて三人ともベッドで寝ていたからどうしたのかと思ったよ。事情も聞いている。ジョンの世界でも今のあいつらには練習はさせない」

 

折角のパーティも会議だけで終わるような形になってしまったな。青朝倉がおでん屋に戻り、有希は100階に現れた。みくる以外はまずはシャンプーから全身マッサージまで。OGたちも大胆下着に着替えてそのまま休むようだ。先ほど女性同士で使用する玩具を持っていたセッターの子も、自分がやられる方でいいからとベッドに横になり、責める方ならやってもいいと玩具を装着した別のOGが秘部を貫いた。周りもその様子が気になりベッド周辺に集まっていた。俺の妻も混じっていたが……まぁ、いいか。69階に残しておいた一体をテレポート要因にして100階の妻達の相手に意識を集中させていた。野球の試合に満足したせいか、今日はそのまま寝かせてという妻がほとんど。寝る直前まで話していた内容はあとで同期すればいい。全員眠ったところで100階の照明を切った。69階の方も言い出した本人と責めていたOGの二人が達したところで終了。69階の照明も消えた。天空スタジアムの一般公開日の垂れ幕も垂らし、異世界の原宿店のシートを外したところで、俺もジョンの世界に行き弁当作りとディナーの仕込みを始めた。

 

『キョン(伊織)パパ!!』
ジョンの世界に来てすぐ、子供たちが俺のところまで駆け寄ってきた。身体が小さいままじゃ練習も試合もできないからな。次のセリフは眼に見えている。
『わたしの身体を大きくして!』
「駄目だ。幸のママから事情は聞いた。保育園にも小学校にも行かずにバレーの練習や試合に出たいなんて我儘は通用しない」
『絶対嫌!!保育園(小学校)なんて行きたくない!!わたしもバレーがしたい!!』
三人とも泣き喚き、練習や試合に出たいと主張するが、俺が身体を拡大しなければレシーブもまともにできん。
「そうか。なら三人とも練習にも試合にも出さん。こいつらは放っておいて構わないから、練習を始めてくれ」
『問題ない』
三人に影分身して仕込みを開始した俺の服を美姫が引っ張ってきた。
「キョンパパ、わたし試合に出たい!」
「さっきも言っただろう。保育園もロクに行けない奴は試合に出さん。仕込みの邪魔だ。キーボードの練習でもしてきたらどうだ?」
W古泉が球出しをするレシーブ練習をする列についたハルヒに伊織が同様にアプローチを仕掛けてきた。
「ハルヒママ、わたしにも練習させて!」
「今のあんた達にコートに入る資格はないわ。出て行きなさい」
「ママ、わたしも試合出たい!」
「ちゃんと勉強しないのならバレーは諦めて」
三者三様にはじき返され、子供たちは泣く以外できなくなっていた。レシーブ練習も一通り終わる頃、突如ジョンの世界が金色に包まれた。
『キョン、情報爆発だ!!』
そんなことは分かっている!光の発生源は……美姫!?ハルヒの力は伊織に全部受け継がれたんじゃないのか!?とにかく同じ時間平面上で二度も情報爆発を起こさせるわけにはいかん!

 

 突如として光出した美姫を見た伊織と幸が泣き止み、OGたちも何が起こっているのか分からない状態。分かってもらっても困るけどな。焦っているのは俺やジョン、有希、みくるに古泉程度。青チームのメンバーですら、何が起こっているのかすら分からない。
「凄い、時空震動です」
「有希!今すぐ美姫の力を俺に移してくれ!!」
「駄目、これ以上はあなたの身体が持たない」
「だったら俺だ!ハルヒでも佐々木でも駄目なら俺にくれ!黄俺と同様、超能力にしか換算されないはずだ!!」
青俺の主張に有希がすかさず力の移動を始めた。青俺が金色のオーラに包まれている。情報爆発を起こせるだけのパワーが無くなったところで、ようやく有希が安堵の表情を浮かべていた。有希の表情がここまで大きく変化するなんていつ以来になるんだか。全てのパワーが青俺に渡ったところで力の制御方法を伝授して、ようやく一安心することができた。
「とりあえず、訳も分からない奴が多いだろうしこっちに集まって来てくれるか?」
子供たちは入れない閉鎖空間を作り、黒く塗りつぶす。あとは告知のときと同様、外からの声や音は届かず、中からは声や音が漏れない様にした。ジョンが最後に入ってきて全員が出揃った。
「三人がまた泣き喚いているが、放っておいていいのか?」
「心配する必要ないわよ。それに、話の邪魔だしね」
「くっくっ、一体何が起こったのか早く説明してくれたまえ」

 

「おそらく有希や朝倉も同じ見解だろうから俺が話す。だが、その前に見せておいた方がいいだろう」
超サ○ヤ人化すると青OG達が驚いていた。これ、前に見せたこと無かったっけ?まぁいい。
「さっきと同じく、今、眼に見えている力は、元々はハルヒが持っていたものだ。俺やジョン、古泉、エージェント達の超能力よりはるかに強力な力で、さっき野球の試合が終わって180km/hの投球を見せただろ?あれはこの状態の一歩手前。この状態で野球のボールを投げると220km/h台の投球ができる」
『220km/h―――――――――――――――――――!?』
「それくらい強力な力をハルヒが持っていたってことだ。俺や青俺が持っていると超能力としてしか変換されないんだが、WハルヒやW佐々木が持つと、ドラ○もんの道具で言うところのもし○ボックスに近い能力になる。だから、『もしも……だったら』と考えればそれが現実のものになるってことだ。あのまま美姫の力を青俺に移動させていなければ、あの三人は『小学校にも保育園にも行かずにバレーができる』そういう世界が出来上がってしまうところだったんだ。元はハルヒが持っていた力が双子を妊娠したのと同時に伊織に全部移されて、生まれる瞬間にさっきと似たような出来事が起きた。生まれてすぐの伊織にこんな力を持たせたままでいたら、世界がどう変わるか分かったもんじゃない。それで有希と一緒にハルヒの見舞いに行ったときに伊織に託されたパワーを全部俺が受け取った……はずだった。美姫には一切その能力がないと当時は判断していたんだが、ハルヒや伊織と同じ能力を開花させる力を美姫も秘めていたらしい。今までは自分のやりたい事をいくらでもすることができたから発動はしなかったが、今回は保育園や小学校に行かずに日本代表と一緒にバレーの練習や試合に参加したい。そんな我儘を言って俺たちがそれを許さなかったから能力が発動した。今青俺がもっている力は開花した美姫本人の力だと断言できる」
「とにかく、さっきみたいなことはもう無いってことで良いじゃない!こっちのキョンもこれで超能力者としてエネルギーを渡す側になりそうだし、青チームのOGたちもエネルギーを貰って空を飛んだり、テレポートしたりするといいわよ。特に、異世界移動ができるようになれば、残り二人が通勤している仕事先から直接ここに来ることだってできるわよ?」
『ハルヒ先輩本当ですか!?私も黄キョン先輩のマッサージを毎日してもらいたかったんです!!』
「なら、異世界移動の前に舞空術とテレポートするところからだな」
「時間も残り少ないし、練習を再開しましょ」
『問題ない』

 

閉鎖空間を解くと泣き疲れた子供たちが眼に入ったが、周りのメンバーは気にすることなくバレーの練習を再開。青OG達は青俺と超能力の訓練に入った。半べそをかきながら体育座りでコートの外からハルヒ達の練習風景を見ている三人。それを一切気にすることなく次の練習メニューに入っていた。あの事件もあり、弁当は用意することはできたが、仕込み作業はここを出てからになりそうだ。途中で青新川さんも81階に来るだろうし99階で再開することにした。影分身二体で仕込み作業を行い、残りの意識でヒロインを起こして身支度を始めさせた。ジョンから借りたスカウターでジョンの世界の様子を覗いていたが、結局その日は子供たち三人が練習に参加することなく朝を迎えた。異世界のニュースはまったく関係の無いものばかりだったが、現実世界の方はシーズンオフでも日本代表が本社に来ていることを報道していた。天空スタジアムからの景色については何も無いらしい。来週あたりの放送で出てくるだろう。双子の部屋から幸も一緒に出てきて、一人で98階に降りた。アイランドキッチンで子供たちと視線を合わせないようにしていたが、双子から声をかけられることもなく、ほぼ同時に起きて降りてきたハルヒと三人で身支度を整えていた。一応、小学校や保育園に行く準備をして81階に子供たちが降りていったが、何も喋らず朝食が並んでも一向に食べようとしない。今朝のミーティングは昨日確認した団員についてのことと日本代表のディナー、後は団員用マンションの一階部分を改装するくらい。青朝倉も昨日の様子を見て食材を増やしておくと説明していた。
青俺の携帯のアラームが鳴り、青有希が双子を連れて行こうとしたが、動こうとする気配もない。
「青有希ちゃん、放っておけばいいわよ。早く各分担で分かれましょ」
ハルヒの言葉を受けてそれぞれが席を立った。青OG達も異世界の店舗の方に向かった。
81階に残ったのは後片付けをしている榎本さんと中西さん、ディナーの仕込みをしている俺と子供たちの六人。無言のまま、皿を洗う音だけがフロアに響いていた。まだ保育園児と小学校一年生だからな。幸も学校が終わる頃に双子も保育園から帰ってくれば短い時間だけだが、試合に出られるという妥協案も思いつかないはずだ。だが、それを俺から提示するわけにはいかない。小学校の始業チャイムも既に鳴り終っているが未だに朝食に手をつけようともしなければ、誰も何も話そうとはしない。ようやくアクションを起こしたかと思ったら幸がトイレに行っただけ。だが、席に戻ろうとせず、カードキーを使って98階へと戻っていった。それを見た双子も99階へと戻る。81階には手つかずの三人分の朝食。やれやれと思いながらも三人分をまとめて冷蔵庫の中にしまっておいた。

 

 その間、楽団員用マンションではハルヒから各部屋へと向けたアナウンスが流れる。内容は本日七時から引っ越して来るまでの課題曲としていたGod knows…とLost my musicの二曲を演奏すること。社員食堂はバレーボール女子日本代表もいるので、利用する場合は込み合う時間帯はなるべく避けてほしいこと。夜は80階では完全予約制のディナーがあるため、三階しか利用できないこと。毎週金曜日は三階もバレーボール女子日本代表たちにディナーを振る舞うため、どちらも使えなくなること。それだけ連絡すれば、あとは集まってからで十分。ハルヒや有希には昼食の準備もそうだが、コンサート告知用のビラも用意してもらう必要がある。昼食時に聞いてみることにしよう。その間にマンションの一階部分の情報結合を操作しておいた。これで自転車を置くことが可能だ。実家から送ってくるよりもこちらで買った方がよさそうな気もする。全員分まとめて購入してもいいが、家賃もタダだし、そのくらいは負担してもらうか。
 昼食時、まずは子供たちの事の次第を圭一さん達に説明。小学校や保育園に行かずにバレーがしたいと言い張っていると話すと、
「そういうことだったとは……ようやく納得がいったよ。それなら子供たちの我儘を通すわけにはいかない。我々も君たちと同じような対応をすることにしよう。ところで、朝も食べずにこうして昼になっても降りて来ないが、大丈夫かね?」
「お腹が空いて我慢が出来なくなったら降りてきますよ。仕込みもまだ途中ですし、三人が降りてくるのをここで待つことにします」
「ではわたくしは自室の方で夕食の支度をさせていただきます」
青新川さんが言う自室というのはおそらく、こっちの新川さんの部屋のことだろう。
「子供たちの我儘とはいえ、おまえもあまりきついことを言うんじゃないぞ?」
「ああ、分かっている。それで、ハルヒ、ビラはできたのか?」
「当ったり前よ!午後から配りに行った後練習試合に参加するわ!」
「よし、じゃあ、夜は空いているメンバーでディナーの接客を頼む。黄チームのSOS団は夜七時から天空スタジアム、W俺とジョンは夜練だ。影分身を一体加えて四人態勢でやる。鈴木四郎の催眠をかけておくから、何か聞かれたら俺たちと一緒に野球の試合に出ていた仲間だと伝えておいてくれ。明日は本体の方も今泉和樹の催眠をかけるつもりだ。ディナーには俺が告知から内緒で戻ってきたと伝えておいてくれ」
「ちょっと待ちたまえ。ディナーなら報道陣が来て気付かれるんじゃないかい?」
「俺に気付いてインタビューを試みようとすれば、即敷地外だ」
「だとしても他のTV局のカメラであなたを映すわけにはいきません。僕と涼宮さんの二人で行います。あなたは夜練の方に徹して下さい」
「じゃあ、仕込みはすべて終わらせておく。夜練も今日から鈴木四郎と今泉和樹で行く、影分身だから変化球までは投げられない。そのことも含めて、監督や選手たちから何か聞かれるようなことがあれば頼む」
『問題ない』

 

三人分の昼食も用意してあったが81階に来たメンバーがそれぞれの担当へ戻っても降りてくることはなかった。上の階を透視して見てみると、幸が99階に行ったらしいな。ベッドの上で三人で話しているようだ。仕込みももう少しで終わろうかとしていた頃、ようやく三人揃って降りてきた。エレベーターから出て美姫の第一声、
「キョンパパ、わたしお腹すいた」
「だから?」
「朝ごはん食べたい」
「言いたい事はそれだけか?」
「伊織パパ、わたしバレーの試合したい!練習にも出たい!」
「小学校にも保育園にも行かない奴はコートの中へ入れないと言ったはずだ」
「キョンパパ、わたし月曜日は保育園に行く!だから試合したい!」
「駄目だ。日本代表が来ている間も幸は小学校、伊織と美姫は保育園だ」
『キョンパパの意地悪!保育園に行っていたら、わたし試合に出られないじゃない!!』
とうとう双子が泣き出した。それにつられて幸も我慢できずに涙を流している。落ち着くまで泣かせておこう。泣けばこっちが折れてくれるという甘い考えは捨てさせないとな。泣いている三人を無視してようやく仕込みを終えると、泣いても無駄だと判断したのかようやく三人とも泣きやんで再度俺に話しかけてきた。
「キョンパパ、どうしたらわたし試合に出られるの?」
「簡単な話だ。保育園と小学校に行けば試合に出してやる。行かないのなら土日も試合には出さないし、練習にも参加させない」
「土日だけ?」
「さぁな」
三人の方を見もしないでいた俺に、ようやく幸が妥協案を出してきた。
「伊織パパ、わたし小学校に行く。だから土日は試合に出たい!」
「それなら試合に出してやってもいいだろう。練習にも参加してかまわない。さて、あとの二人はどうするのかな?」
『わたしも保育園に行く!だから土日は試合に出して!』
「わかった。そういうことなら三人とも出してやる。ただし、約束を破った時点で試合には二度と出られないと思え。いいな?」
「あたしに任せなさい!」などとハルヒの真似をするかと思ったが、三人とも真剣な表情で頷いた。
「よし、それなら三人の朝ごはんを暖めなおしてやる」
涙を拭っても目は赤いままだったが、ようやく三人の笑顔が見られた。だが、それだけで終わるわけにはいかん。
「ただし、三人とも今日休んだ分、ちゃんとママに謝る事」
『あたしに任せなさい!』

 

夕食時、練習試合を終えて戻ってきたハルヒとなぜかユニフォーム姿ではない有希、幸のことが気になったらしき、青有希、朝倉がエレベーターから降りてきた。子供たちがハルヒ、青有希のところへ行って一言。
『ハルヒママ、今日保育園休んでごめんなさい』「ママ、今日小学校休んでごめんなさい」
ハルヒと青有希が驚き、俺の方を見る。アイコンタクトをして頷くとすべて察したらしい。
「あんたたち、来週からちゃんと保育園行くんでしょうね?一度でも休んだら、練習に参加しようとしても蹴り飛ばすわよ?」
「幸も同じ。小学校をズル休みしたら絶対に試合に出さない。いい?」
先ほどと同じく、子供たちが真剣な表情で二人を見ていた。
「いい度胸じゃない!それでこそあたしの娘ってもんよ!試合で負けたりしたらただじゃおかないわよ!」
『わたしは負けたりなんてしない!試合までちゃんと練習するの!』
「上等よ!徹底的に練習するわよ!ついて来られなかったら試合になんて絶対に出さないんだから。いいわね!」
ハルヒの言葉に対する返答はなかったがずっとハルヒのことをジッと見つめていた。幸も同様だ。三人の表情を見たハルヒと青有希が子供たちに抱きついていた。平日は諦めて土日だけ出るという形で落ち着いたが、平日でも帰ってきたらすぐに試合に出しても構わないと、ハルヒや青有希と情報をシェア。子供たちは明日から堂々と練習に参加できると踏んで興奮していたが、そんなんじゃ寝られないぞ……などと思いながら夕食の様子を見ていた。
「できた」
店舗組と古泉と青ハルヒを除くほとんどのメンバーが出揃ったところで有希から必要最小限の一言。テーブルには各楽器の楽譜。古泉が撮影中のドラマの主題歌か。有希がユニフォーム姿でない理由がようやく判明した。
「これで青みくるも後には引けなくなったな。来週まで間に合いそうか?」
「必ず間に合わせます!」
「有希、これを今夜配るってことでいいんだな?」
「そう。可能ならあなたにも天空スタジアムに来て音響のチェックをしてほしい。でも分身でゾーン状態になるには不可能」
「まぁ、ボールを投げながらスカウターで見てるよ。そういえば、ディナーの片付けは誰が担当する?」
「夏と同じでいいんじゃないかい?」
「ってことは、私たちになりそうね」
ENOZの残りの二人、岡島さんと財前さんがディナーの片付けを名乗り出た。

 

 告知の方はカナダのホテルからもう少しで出る時間になっていた。弁当の用意も万端だし、こっちを30%くらいで行動させてみるか。その分夜練の投球にあてることにした。催眠をかけて影分身一体と一緒に待機していると、日本代表チームが現れた。今回は監督も見学するらしい。青俺が鈴木四郎と今泉和樹の紹介をして一礼。ストレートしか投げられないことも説明してくれた。キャッチャーの防具の付け方はもう説明する必要もないだろう。ジョンは既に防具なしで構えているOGを相手にピッチングを始めていた。俺の本体と影分身の方にも同様に防具なしのOGが付き、その横で金属バットを構えた選手やOGの後ろからスピードを見る選手が見受けられた。
『影分身だからストレートでも多少ずれる。注意してくれ』
『分かりました』
こちらで投球練習を始めた頃、天空スタジアムでは席の配置について有希が指示を出していた。ハープにみくる、フルートに朝倉、コントラバスに佐々木が入り、それぞれが席に着いていく。補欠合格者はアリーナ席で待機していた。今後は定期的に練習をしていくこと、連絡はなるべく集まったときに行うが、必要があるときは有希がテレパシーを送ること、団員の宿舎の地下四階の体育館で、何人かで集まって練習をしても構わないということ。全体で練習する際は補欠合格者と入れ替えて最低でも二回行うこと、正規メンバーは給与が一割増で出ること。God knows…とLost my musicのみ有希が前に出るため、席を前に詰めて補欠合格者が入ること。最後に青みくるが歌う楽譜が手渡されてようやく演奏が始まった。案の定、あの中西さんのギターテクニックをバイオリンでやるらしい。テンポは原曲のままということはLost my musicのアレも原曲のまま弾くだろうな。指揮棒を振っているハルヒがこの演奏の前で歌いたいと言いたげな表情だ。合格者なだけあって気になるミスも感じられず……って、影分身だからハルヒや有希、朝倉からしたらどう聞こえているかは分からんが、有希は自分の演奏に集中し、ハルヒは終始笑顔が絶えず、みくるも緊張の面持ちかと思ったがそうでもないらしい。一回目の通し稽古が終わり、ハルヒから全体へ一言。
「じゃあ、二回目は本番と同じにするから楽譜が見えなかったら教えてね」

 

ハルヒの言葉の意味が良く分からんと言いたげな団員が多く見受けられたものの、指を鳴らすとステージにあるものとアリーナ席のパイプ椅子を残して透明になっていく。有希、ハルヒに焦点をあてたものやステージ全体を照らしているものなどの照明を除いて、満点の星空と日本一の建物から見られる絶景が辺り一面に広がった。
「日本で唯一無二の最高のステージでコンサートをするから、みなさん宜しく!」
ハルヒの一言に歓声があがり、拍手が送られている。士気が高まった状態で二回の演奏を終え、その日は解散となった。

 
 

…To be continued