500年後からの来訪者After Future4-3(163-39)

Last-modified: 2016-09-16 (金) 13:04:41

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future4-3163-39氏

作品

いよいよ始まった映画の告知。最初は新鮮に感じていたが、世界各国を回って、これがあと何百回続くのかと思うと先が思いやられるよ、まったく。初日でこんな状態では……などと思っていたが、ホテルや飛行機の中にいる間の時間は俺もヒロインも自由な時間を過ごしていられる。今日も夕方に一旦戻り、進捗状況を聞いて弁当の準備をしていた。そのあと、いつできるかわからないからとハルヒを家族風呂に誘い、朝比奈さんまで一緒に入りたいという大胆発言。寝るよりもこっちの方が100倍癒される。向こうに戻る時間ギリギリまで付き合えというハルヒの意向により、水を集める磁場を張って裸のまま四人で横になった。まだ起きているかと思ったが、双子はどうやら眠っていたらしい。念のため天蓋付きベッドに遮音膜とブラインドフィールドを張った。

 

「ところで、前にジョンと話したことがあってな。俺とジョンに分かれる影分身じゃなくて、俺だけが影分身することもできるらしい。その分、意識が人数分の1になってしまうけどな。あまり時間も無いし、三人同時に相手をしてやるよ」
印を結ぶと、有希と朝比奈さんの前にも俺が現れ、それぞれで別のアクションをし始めた。
「あんた、こんなことができるのなら告知に行ってもこっちで仕事できるじゃない!」
「それがそう上手くもいかなくてな。どちらかに意識を集中させているともう片方の意識が薄れてしまうんだ。ジョンに改善方法はないのかと俺も聞いたんだが、どうやらダメらしい。だからインタビューを受けながら異世界で電話対応なんてことは出来ない。要するに、今みたいにほぼ同じことを考えていたり、考える必要もない場合のみ可能ってことだ」
「ずるい。それならわたしの部屋にも来て欲しかった」
「わたしもです!」
「俺もつい最近ジョンに聞いて実際に試してみたんだ。二人に別れてハルヒや有希と別々に話しながらというのは無理があるらしい。やるとすれば今みたいな形になるかな」
「でも、キョン君にこうして抱いて貰えるなんてとっても嬉しいです!」
途中でヒロインと連絡を取り合い、余韻に浸っている三人のM字に広がった両足を元に戻して掛け布団を被せる。まだ三人ともジョンの世界へは行っていないらしいな。一人ずつ唇にキスを交わしてホテルへと戻った。ヒロインからのキスはこれで無かったことにさせてくれ。

 

「おはよう、キョン。あなたも早いのね」
「日本に戻って仕事をしていました。夕食の会議にも参加して実はまだ寝てないんですよ。日本はまだ午後10時を過ぎたばかりですからね。眠気を取り去ってしまうか空港に着いてから寝ようかと考えていたところです」
フロントでチェックアウトの手続きを済ませると、ロビーのソファーに二人で座ってリムジンの到着を待っていた。
「じゃあ、私の眠気を取ってもらってもいいかしら?リムジンに乗ったらすぐにあなたの作った朝食が食べたいのよ」
そういうことならお安い御用だ。疲れもすべて吹っ飛ばしてしまおう。しかし、今後は逆にホテルについても眠れないなんて言われそうだな。朝比奈さんのように背後からではなく正面から眠らせる方法は無いものか……
『朝比奈みくるの場合は背後から近づいて相手の意識を失わせるだけであって、正面からできないわけじゃない』
なんだ、朝倉と将棋してるんじゃなかったのか?
『今対局中だ。キョンの考えていることが頭の中に入ってきたから応えただけだよ。朝比奈みくるのようなツールが無くてもキョンにも可能だ。必要になったときに教える』
『キョン?聞こえる?』
ヒロインからのテレパシーにハッとして辺りを見渡すと、リムジンが到着していた。
「すみません、仲間からのテレパシーに応じていたもので……これが昨日話したデメリットなんですよ。それ以外はいくら声をかけられても聞こえなくなってしまうんです。反応がなければテレパシーで声をかけていただけると助かります」
「そういうことだったの。報道陣の声が耳に入らなくて済むなんて思っていたけど、何度呼んでも返事がないからどうしちゃったのか心配しちゃったわ。でも、解決法があるのならそれで済みそうね。行きましょ」
「あ、ちょっとだけ時間を貰ってもいいですか?ほんのちょっとだけで終わります」
ソファーの近くにあった今日の新聞記事をサイコメトリーして準備OK。
「お待たせしました。行きましょう」
「新聞がどうかしたの?」
「後ほどご説明します」

 

 ホテル前に溜まっていた大勢の報道陣を押しのけてリムジンのドアを開けると、ヒロインを先に乗せて俺が後から乗る。このサイクルは告知が終わるまで変わりそうにないな。乗り込んですぐキューブを拡大して弁当を手渡した。俺も腹が減っていたんだ。二人ですぐに弁当を開けて食べ始めた。
「弁当を作ってくれているあなたにこんなことを言うのは失礼だと思うけど、これなら時間短縮にもなるしリムジンに乗っているときの楽しみも増えていいわね」
「時間短縮の分、ゆっくり身体を休めてください。今後はこんなことはできないでしょうから」
「この映画の監督じゃないけど、私もこの映画で引退しようかしら?こんなに優雅な一時なんて今以外あり得ないわよ」
「もう次の映画の撮影をしているんじゃなかったんですか?」
「いいえ、依頼はきているけど、この告知が終わるまでは撮影に入れないもの」
それもそうだ。半年以上世界各国回っているんじゃどんなに豪華なセットを用意しても埃まみれになってしまう。
「その依頼も断るってことですか?」
「どうしようか迷っちゃうわね。主演男優があなたなら二つ返事でOKしちゃうけど?」
「流石に俺の方も他の仲間に仕事を押し付けている状態ですから、依頼が来てもそうやすやすとは受けられないんですよ。今でさえバレーの男子日本代表として大会に出場しないといけないのに告知の関係上出られないんです」
「この国も含めて、あなたがいなくて喜んでいるかもしれないわね。あなたのサーブだけで大量得点されてばかりだなんて何度も見たことがあるわよ。どの国も未だに攻略法が見つからないみたいだし。そういえばさっきの新聞、あれなんだったの?」
「人や物に触れることで欲しい情報を引き出すことができるんですよ。年末の年越しイベントのときも眠気や疲れを取るついでに、どこか負担がかかっているところがないかチェックしてそれを回復するときと同じです」
「そんなことまで出来るの?」
「テレパシーと同じ俺の能力の一種だと思っていただければそれで結構です。そしてその得た情報を使ってこんなこともできるんです」

 

 各新聞社の一面だけを情報結合してみせた。ほとんどの新聞社で俺たちのことを記事にしているものの、閉鎖空間の条件で俺たちはカメラに映らない。「Crazy Crazy」だの「Too Crazy」だの色々と見出しがついていたが、記事の内容はほぼ同じ。SPがいるわけでもないのに押し出されて、報道陣が一人も俺たちに近づくことができなかったと書かれていた。
「凄いわね。あなた一人のパフォーマンスで全新聞社の一面を飾るなんて。でも私たちがカメラに写らないって言っていたのも、これを見て驚いたわよ。私たちが写った写真が一枚も無いんだもの!」
『キョン、聞こえるかい!?』
吃驚した……新聞を見てテレパシーしてきたんだろうが、タイミングが良すぎるぞ。
「年越しパーティ主催者の彼からテレパシーが届きました。多分これを見たからでしょう。二人で聞けるようにしますので何かあれば話しかけてみてください」
「そういえば、彼と話すのも半年ぶりね」
『ええ、聞こえます。新聞をご覧になったんですか?』
『吃驚したよ、どの新聞の一面も肝心のキミ達二人を写したものじゃないんだからね。これも例の空間かい?』
『バレてしまいましたか。その通りです。報道陣が入り込めない空間を作り、カメラで我々のことは撮影できないと条件を加えた結果ですよ』
『本当に私もキョンも写ってないんだもの。吃驚しちゃったわよ』
『今、キミがキョンの料理を味わっていると思うと羨ましくて仕方がないよ。これからずっとキョンの料理を食べるんだろう?』
『昨日も今日もリムジンで食べるお弁当を作ってくれたわ!その分眠れる時間も多かったし、ずっとキョンとこうしていたいくらいよ』
『今の一言は聞かない方が良かったかもしれない。年末が待ち遠しくてならないよ。二人の映画の公開もね。あっ、そうだ!キョン、今年はジョンにも招待状を送るから去年みたいなバトルを見せてくれないかい?』
『それが……去年のパフォーマンス、実は俺が二人になったんじゃなくて、俺に見えるよう催眠をかけたジョンが会場に現れただけなんです。ですから、俺とジョンのバトルは去年見せてしまっているんですよ。それに今年はもっと大規模なものをお見せしようかと』
『一体どんなものをやるつもりなんだい?ヒントだけでもいい。教えてくれないか?』
『披露試写会で見せたように漫画の世界を目の前でお見せしようと思っています。カード一枚で街全体を破壊する予定です。勿論、壊れたものは全て直しますし、住民も避難させた上で行いますのでご安心を』
『カード一枚で街全体を破壊する!?』
『クレイジー野郎がクレイジー過ぎると言うのが良く分かったよ。そんなことが可能なのか是非とも見てみたい!』
『そちらが今年のパフォーマンスのメインなんですが、実はもう一つ、パフォーマンスをお見せしながら料理を味わっていただこうかと思っているんですが、ジョンではなく他の仲間を連れて行っても構いませんか?勿論SPにも見えなければカメラにも映らない様にしますので』
『それって……もしかして寿司のこと?』
『スシ?スシってなんだい?』
『そこまでヒントを出していないのに、気付かれてしまうとは思いませんでしたよ。寿司というのは日本の郷土料理のことです。ですが、ワインやシャンパンにはあまり合わないんですよ。そこで、俺の仲間を連れて行って飲み物を出してもらおうかと。俺が毎日でも飲みたいものですので、味は保証します。お酒ではありませんけどね』
『キミが毎日飲みたいくらいのものなら僕も飲んでみたい!SPにバレないのなら何人でもOKさ。是非連れてきてくれないかい?』
『では、また年末に』
『楽しい旅になることを祈って待っているよ!』
SPにバレないなら何人でもOKとは良い事を聞いた。Wハルヒを同時に連れていくわけにはいかないが、これなら古泉も現地で調理ができる。
『そろそろ気付いてやったらどうだ?とっくにTV局に着いているぞ』

 

 運転手に再三謝りTV局内へ。まぁ、ジョンの話題が出ていたところにジョンがテレパシーで加入してくるわけにもいかなかった……だな。佐々木じゃないが話が余計膨らんでしまう。残り三局をまわって空港へ向かうリムジンの中で昼食の弁当を食べていた。
「それで……機内ではどうする予定ですか?席に着いた時点で眠っているようにしか見えない催眠を施すつもりですが、シャンプー&カットとマッサージも可能です。それとも、また自宅に戻られますか?」
「そうね、髪を切ってから自宅に戻ってもいいかしら?こんな機会滅多にないんですもの」
「分かりました」
しかし、近場から回っていけばいいものを、公開日の関係上、地球上を行ったり来たりしなければならんとは……当たり前のように空港前で俺たちを待っている報道陣。しつこさはどこの国でも似たようなもんだよ、まったく。搭乗手続きを済ませて飛行機に乗り込む。無論ファーストクラスだがOGですら一時間ちょっとで飽きたほどだからな。座席に着いてすぐに催眠をかける。アイマスクをつけて、さもそのまま眠るかのように。CAと近くの席の人間以外俺たちに近づけない閉鎖空間を張って、佐々木のラボへとテレポート。日本時間で深夜三時ってところか。ヒロインを自宅に送り届ければ、ジョンの世界でみんなに会えそうだ。色々と聞くことにしよう。
「お首は苦しくございませんか?」
「ええ、大丈夫よ」
「では、どんな髪型にしたいか細かな注文も含めて、すべて頭の中でイメージしてみてください。俺がそれを読み取ってカットしていきます」
「あなたそんなことまでできるの?」
「ええ、俺が日本語を教えたのも、自宅の場所を確認し合ったのもすべて同じ能力によるものです。応用すればこれだけで何でも可能です」
「じゃあ、イメージしてみるわね。念のため、切る前に確認させてもらってもいいかしら?」
「分かりました」
読み取った内容を肩に触れて伝えると……どうやら「これでよろしいですか?」と聞く必要もなさそうだ。鏡越しに見えるヒロインの表情が満面の笑みに変わっていた。

 

 カットを終えてシャンプー台へ。
「洗い足りないところはございませんか?」
「もう最高よ!ずっとあなたの傍に居たい。私の傍にずっと居て欲しいくらいだわ!こんな感覚味わったらこれからもずっとあなたにお願いしたいくらいよ!」
「シャンプー&カット程度でしたら今ぐらいのお時間で済みますし、互いの都合さえ合えばこうやって髪を切ることも可能です。そのときになったらテレパシーで連絡をください。空いていればすぐにでも向かいます」
「じゃあ約束ね!絶対よ!?」
「分かりました。では、これからマッサージをしていきます」
マッサージを終える頃にはヒロインも眠ってしまっていた。夕食は……彼女の自宅で食べることになるかもな。到着時刻にさえ注意を払っていればいい。自宅のベッドに送り届けて本社へと戻った。日本時間で午前四時を回ったばかり。有希もハルヒも朝比奈さんも裸の状態でベッドに横になっていた。ハルヒと朝比奈さんの間に入って二人を腕枕することにしよう。出るときと同様、眠気は無くても眼を瞑ってジョンの世界にテレポートするイメージをすれば行けるはず。辺りが白くなってジョンの世界についたと思った次の瞬間野球のボールが顔面に直撃した。今日はバレーじゃなかったのか?
『キョンパパ!』『キョン!!』『(黄)キョン先輩!』
「あわわわ…黄キョン君、だだだ大丈夫ですかぁぁ!?」
いくら青朝比奈さんといえど、こういうハプニングが起きたときはこっちの朝比奈さんと同じになるらしい。
「やれやれ、ダメージは無いにせよ、いきなり目の前にボールが飛んできて避けられなかった。ジョンの世界のどの位置に来るか明確にイメージしていないとダメらしいな。それで、今日はバレーの練習じゃなかったのか?」
「このあと世界大会だそうですよ?それで守備力の向上にと野球の練習に切り替えたんです。まだ、この六人で出られるかどうかは分からないそうですが、練習しておいて損はありませんからね」
「時間も時間だし、そろそろ終わりにしないかい?」

 

 佐々木の一言をきっかけに野球道具一式をテレポートでまとめて雑談会。と言ってもお題はほとんど決まっているようなもんだ。
「キミがここに来たということは、大幅に時間が空いたってことで間違いなさそうだけど、今、一体どんな状態なんだい?」
「飛行機に乗って次の国へ向かっている……ことになっている。座席に催眠をかけてヒロインと二人で戻ってきた。髪型を変えたいなんて話もしていたから、佐々木のラボでシャンプー&カットとマッサージをしたらそのまま寝てしまってな。自宅に送り届けてきたところだ」
『自宅に送り届けてきた!?』
「あんた、ヒロインの自宅の場所なんて何で知ってるのよ!?」
「アメリカ支部に行く前に迎えに来て欲しいと言われた場所がヒロインの自宅だったんだよ。てっきり別の映画の撮影が終わってここに泊っていくように言われた場所だとばかり思っていたからな。俺も後から聞いて吃驚した。ああ、それと向こうの新聞を見た年越しパーティの主催者からテレパシーが来てな。ジョンにも招待状を送るなんて言ってたんだが、SPに見つからずにカメラにも映らなければ何人来てもいいそうだ。とりあえず俺と青ハルヒと朝比奈さん。手が足りなくなれば古泉も呼ぶことになりそうだ」
『キョン、それはないだろう?折角僕にも招待状を送ってくれるというのに、キミってヤツはそれを断ったと言うのかい?』
『ジョン、僕の真似をするのはやめたまえ』
「しかし、パーティの主催者が新聞を読んですぐにテレパシーを送ってきたなんて興味深いじゃないか。どんな記事になっていたのか教えてくれたまえ」
俺が説明するより、実際に見た方が早い。全新聞社の一面を五部ずつ情報結合して全員の前にバラ撒いた。英字新聞をすかさず手に取り読んでいる奴と読めない奴に分かれた。子供たちは当たり前として異世界のOGも英訳できないらしい。
「黄キョン先輩たちは英字新聞も読めるんですか!?」
「ハルヒ、この際だ。青チームのOG達にも五ヶ国語の知識を渡してもいいか?」
「いいわよ。でも、あんたにしか渡していない残り五ヶ国の情報はダメよ?」
「分かってるって」
「……ってことは黄ハルヒ先輩も黄キョン先輩も10ヶ国語が分かるんですか!?」
「日本語を入れて11ヶ国語だ。すべてハルヒのセンスと努力と支えによって生まれた代物だ。俺はその恩恵を受け取っただけで、本当に凄いのはハルヒの方だ」
「フフン、分かればよろしい!」

 

 青OGたちにも我が社の支部のある国の言語を情報として渡して一人ずつ英字新聞を渡して見せた。
「凄い、さっきまで何が書かれているのか全然分からなかったのに……スラスラ読める!」
「くっくっ、でも記事の内容はどこも一緒だね。SPもいないのに報道陣が押し出されて、肝心のキョンとヒロインが写った写真が一枚もないなんてね。よくこれで一面を飾れたと思うよ」
「黄チームの世界のニュースもこの記事が報道されていてもおかしくありません」
「なら確認した方が早そうだな。OG六人の記事で塗り替えられる前に」
「え?青キョン先輩、塗り替えられるってどういうことですか?」
「あんた達が六人で世界大会に出て、ブロック無しで圧勝したって記事に差し替えられるってことよ!」
「相変わらず、ハルヒがそうやって宣言すると、本当のことになりそうな気がしてならない。俺もそうなって欲しいと心の底から祈ってるよ!」
『先輩方、ありがとうございます!!』
正直世界大会前の現実世界の記事なんてどうでもいいんだが、やはり取り上げられていたか。新聞社全社が俺たちのことで一面を飾っていればそうなるか。対して異世界の方は例のアナウンサーの件でもちきり。『認めたも同然!?これからも偽名取材します!!』、『アナウンサーの発言を止めたディレクターに非難の声!』、『○▽TVに非難殺到!アナウンサーの処遇は果たして!?』等々。アナウンサーを擁護してTV局側を非難する記事ばかり。流石に自分のことに関わってくるから今日は出演できないだろうが、今後の処分によっては謝罪会見もあり得る。矛先も変えることが出来たし、ちゃんとした理由を持って社長に報告ができるってもんだ。他のTV局から電話が来たとしても「○▽TVのようになりたいですか?」と脅しをかけられる。ところがすべての新聞社がこれを一面にしたもんだから、納得がいかないと文句を言い出した奴が一人。
「黄チームの世界はまだ時間がかかるとしても、こっちはまだメンバーが揃わないわけ!?早く試合させなさいよ!」
「涼宮さんも落ち着いてください。メンバーが揃っていても場所が抑えられないのでは告知が出来ません。すでに完成している我々の世界の天空スタジアムでというわけにもいかないでしょう。日程が決まったらほぼ間違いなく最強チームで挑んでくるはずです。もう少しの我慢ですよ」
「ちょっと待って!古泉君、もう本社建て終わったの!?天空スタジアムも!?」
「ええ、ほとんどのフロアは空いたままですが、メインになるフロアは既に小物も用意しました。人事部も既に電話回線がつながっています。あとは三月になった時点で社員募集の垂れ幕を下げるだけの作業です。四月になれば青チームOG全員とこちらの圭一さんたちが引っ越すことになるでしょう。81階をここと同じ会議室にしてそれより上のフロアを居住スペースにするだけです」
「面白いじゃない!そういうことなら半年よりも数日の方が待てるわよ!」
『あとは朝食を食べながら話すといい。時間だ』
『お疲れ様でした!』

 

 二、三時間程度に過ぎないが睡眠時間を確保することができたようだ。俺の後から眼を覚ましたハルヒと朝比奈さんが腕枕されていることに気付き、おはようの代わりに二人からの口づけを受けた。有希にはその代わりに俺からの口づけ。満足できないとでもいいそうな表情だが、「また機会があればいつでもできるだろ?」と髪を撫でた瞬間にサイコメトリーでメッセージを送ったんだが、「今じゃなきゃ嫌!」と返ってきてしまった。いくらなんでも今は無理だろう。さっさと服を着ないと双子にどやされ・・・
『有希お姉ちゃん、どうして裸なの?』
あちゃぁ……遅かったか。密度の濃い二日間だったが、ようやく三日目。CMに映りたくてもSOS団もENOZも曲が出来上がっているとは到底思えない。身支度を整えると朝の会議には参加せずヒロインの自宅へと向かった。念のため上空から透視してみたものの、マッサージ後と同じく、テレポートしたときの体勢のまま熟睡していた。閉鎖空間で覆った家の中に入ると、キッチンは使えそうだが、冷蔵庫の中身は水やワイン、あとは乾物系の酒の肴が少々。あとは精々コーヒーくらいで調味料なんてあるわけがない。半年も自宅を離れることになるんだから当然か。今のこの状態の方がおかしいくらいだ。食材と調味料を情報結合したところで調理開始。料理の匂いが届いたのかベッドで眠っていたヒロインが起きてきた。
「あれ…?私、どうして自分の家に……って、キョン!?」
「おはようございます。シャンプー&カットを終えてマッサージの最中に眠ってしまわれたようでしたのでここまで運んで来たんですよ。今回は弁当では無くここで料理をと思って、勝手ながらキッチンをお借りしています」
「あなたが使う分には私は構わないけど、調味料も食材も一切なかったはずよ!?そんな状態で料理なんて……」
「簡単です。買ってきただけですよ。すべて日本のものですが、今のあなたなら読めるはずです。各国を回っている間、今と同じような時間ができたときはこうやって二人で食べませんか?」
「本当に!?是非そうさせてちょうだい!あぁ、映画にもこんなシーンあったら良かったのにな……」
「役の設定上、若干難しいかもしれませんが、夫婦で助け合いながら生活をしているという要素を含めても良かったかもしれませんね。飛行機に戻るにはまだ早いですし、向こうのリムジンの中で食べる弁当も作っておきました」
「うふふ……夢にまで見た光景が現実になるなんて思わなかったわ!毎食あなたの料理が食べられるなんて!」
「弁当を作る時間もありましたので、短時間でできるものばかりですが、お召し上がりください」
「あなたの料理なら、時間なんて関係ないわよ!」

 

 それから各国をまわり、ヒロインが国際電話でマネージャーに連絡を取り、ホテルの食事は全てキャンセル。ついでに、ジョンから受け取ったリストを元に、通訳が必要な国とそうでない国に仕分け、それについても俺が対応できる国はキャンセルしてもらった。しかし、ジョンからのリストを見て驚いたぞ。ブラジルがポルトガル語だとは知らなかった。飛行機での機内食も食べることなく彼女の自宅で料理を作っていた。食事以外で空いた時間はマッサージをしたり、古泉に用意してもらった日本の旅行ガイドを二人で見ながら旅行してみたり、仕事に戻ってみたりと様々だ。その間、バレーボールの世界大会はというと、まだ鈍ってはいなかった日本代表選手たちの防御力で初戦の二セットを勝ち取ると、三セット目はOG六人で相手の全ての攻撃を受け切り完封。スイッチ要因のクイック技も文句のつけどころがない。零式も好調のようで何よりだ。それ以降はOG六人がメインとなり、セットによってエースやMBが入る程度。勿論エースやMBとの連携やブロックアウト封じを真似しようとするシーンも見られ、「リベロを作る必要がなくなったくらいだ」と監督もコメントしていた。男子の方は俺が抜けた分、圧倒的大差はつけられなかったが、五セット目を迎えることなく、ほとんどの試合で意地の三セット連取、あるいは四セット目を圧勝で終わらせて見せた。「彼一人抜けた穴は非常に大きく、男子日本代表は零式と司令塔という二つの武器を失った。だが、逆に彼の言葉を胸に秘め、これが日本代表の強さだと相手に見せつけることができた」と男子代表の監督も熱弁していた。異世界の報道陣もアナウンサーを止めた一件から偽名による取材がぴたりと止み、ようやく鶴屋邸に回線を戻すことができた。異世界の店舗もようやくアルバイトが揃い、シフトを組ませて回せるようになった。地元三店舗目もOPEN叶だったのだが、青古泉が抑えておいた渋谷の土地に店舗に青森さんが暫定店長として配置し、アルバイトの募集をかけながら青チームで店舗のシフトを回していた。そして九月十日の朝の会議。ヒロインは自宅で休むことになり、日本の本社に戻ってきた日のこと。まず挙がったのは、中学生の職場体験の話題。

 

「今日の二時に北区の中学生10人が人事部に来ることになっている。面接をして各店舗とデザイン課に仕分けるという話だったと思うがどうするかね?」
「圭一さん、生徒10人って男女比は?」
「全員女子だそうだ」
「よし、有希と朝倉が野球の試合と同様催眠を自分にかけて、圭一さんと三人で面接に入って欲しい。デザイン課と各店舗の人数割り振りは基本4・2・2・2のつもりでいるが、人間関係やファッションセンスによって変えてもらっても構わない。それから王子・赤羽の二店舗になった生徒については店長との顔合わせもあるのでリムジンで送迎してもらいたいんだが、空いているとはいえ俺が行くわけにもいかないし……」
「では、こちらの新川でどうかね。店舗に送迎するだけなら夕食を作るのに大した影響は無いだろう」
「くっくっ、本店とデザイン課に配置した生徒の反応を見るのが楽しみになってきたよ。最終回の放送が13日だからね」
「おまえ、たとえドラマを見た生徒が黄新川さんを怖がったとしても、それを言うのは黄新川さんに失礼だろうが」
「おや?僕は怖がられるのではなく、逆にサインを求められると思いましたが……あなたも佐々木さんとあまり変わりがないのではありませんか?」
「女性社員でさえサインを欲しがるくらいだから生徒の方は間違いないだろうな。新川さんを職場の人として選んで生徒からインタビューされることもありえるだろうが、とにかくだ。青新川さんがOKでしたら、圭一さんからテレパシーを受けとってリムジンの運転をお願いしてもよろしいですか?各店舗で降ろして、あとは生徒が各自解散という形で構いませんので」
「わたくしで務まるのでしたら、いくらでもお引き受け致します」
「いやはや、わたくしなどインタビューされるわけがございません。ましてや、サインなどとは……」
「そんなの、料理長のスペシャルランチを食べれば一発よ!」
「奇遇ですね、僕もハルヒさんと同じことを考えていたんですよ。本店に配置される二人も上に上がって六人で昼食になるでしょうから。火曜日は生徒六名分増量してはいかがかと。負担になるようでしたら青新川さんに催眠をかけて補助についてもらえば可能だと思いますが……」
「ん―――――……まいったな」
「あら?どうかしたのかしら?」
「火曜の夜にまた回転寿司を作ってヒロインに食べさせようと思っていたんだ。ついでにまた社員にはクジを作って水曜の昼に配るつもりだったんだ。社員と生徒分合わせて26人分。しかし、それだと待遇が良すぎるんだよなぁ。店舗に行った四人や他の生徒と比べても……」
「そんなの簡単よ!こっちの新川さんにも手伝ってもらえるなら生徒10人分作ってテレポートして持っていけばいいじゃない!他の職場の生徒のことなんて関係ないわよ!お寿司もあたしと黄古泉君が入るんだからどうってことないわよ!」
「分かった。それなら火曜の店舗閉店後に店長とアルバイトを呼んで寿司だけでも振る舞う。本店のアルバイトも合わせて全員だ。でないと受け入れ側として不公平だ。38名分用意する。青朝倉、魚介類を大量に注文しておいてくれ。ただでさえ有希のような大食漢がいるんだ」
「分かったわ。火曜の午前中に届くようにするので大丈夫なのかしら?」
「もう時差の関係でいつ何時間余裕があるのかその日にならんと分からんからな。とりあえずそうしておいてくれ」
「では、火曜は新川の料理、水曜は寿司、店舗に行く生徒はそれ以外の曜日は弁当でいいかね?」
『問題ない』

 

「ところで、SOS交響楽団の希望受付はまだ続けるのか?昨日の段階で、どの楽器も定員割れ状態だ。どうする?」
「何らかの楽団に所属していてそこを抜けるのに時間がかかることも考えられるでしょう。現時点で土日のどちらに何時からきてもらうかを決めて、昨日までの希望者については郵送でその内容を伝えればいいでしょう」
「はぁ……ようやくこっちの古泉もまともになってきたか…あとはこっちのOG達の懸念を払拭してくれれば、黄古泉にも迷惑をかけずに済むんだが…」
「現時点での希望者数の三分の二を土曜日の午後二時に来るよう連絡して。もちろん、楽器が偏らない様に。残り三分の一と当日までの希望者を日曜にする。審査は多丸圭一、わたし、朝倉涼子の三人。合格者のみ人事部で面談を行うことにする。特に一人暮らしをする必要がある人間は一人暮らしが可能か聞く」
「ちょっと有希、あたしのこと忘れてな……「はぁ!?今すぐTVを見ろだぁ!?こっちの世界でそんなことできって……できるか。………あ``」
「とりあえず何が写っているのか調べよう。ジョン、頼む!」
『分かった』
「くっくっ、キミたちの親御さんからの連絡のようだね。何が映るか予想はつくけど、僕たちに連絡してくるにしては大胆な発想だね」
「この映像、フジ系列のもののようですね。こちらの世界では日テレに挑戦状を叩きつけましたが……」
「ああ、あの野球大会自体を運営していたのがフジTVとプロ野球会だからな」
『SOS団見てるか~~~~~!?』
国民的アイドルが朝のニュースに出て俺たちが見ているかどうか区切り毎にこうやってメッセージを送っていたようだ。テロップによると、職場体験が終わった後の十八日(土)東京ドームで夜七時から試合開始。
「青ハルヒ、折角あそこまでしてくれているんだ。TV局に乗り込んで宣誓してこい!」
「面白いじゃない!カメラに映ってくるからあんたたちはここで見てなさい!!」
「ママ、わたし学校!」
『!!!』
「まいったな、保育園ならまだいいとして、学校で遅刻が多い児童と思われるわけにはいかん。議事録用のパソコンにアラームつけるかジョンに教えてもらうか……」
「くっくっ、そこまでする必要は無いよ。キミが自分のケータイにアラーム機能を付けておけばいいだけの話じゃないか。こっちのキョンは海外を行ったり来たりしているからね。君が責任を持つべきじゃないのかい?倉庫の鍵開けも含めてね」

 

 しばしの間をおいてモニターに映った人間が騒ぎ出した。
『え!?ミスサブマリンが直接ここに来た!?ユニフォーム姿で!?』
『一体どうやって……』
青ハルヒがスタジオ入りしたらしい。ようやく状況を把握したアナウンサーが司会を再開。
『え~我々も直接ここにいらっしゃるとは思ってもいませんでしたが、改めましてミスサブマリンこと涼宮ハルヒ投手です!どうぞ~!』
青い帽子を抜いた青ハルヒが一礼した。席に座るよう促されて朝の番組のゲストとして参加してやがる。
『しかし驚きました。中○さんが今朝のニュースで全国に伝えるのは聞いていましたが、まさか涼宮投手までこちらにいらっしゃるとは……ちなみに、どのような経緯でこちらに?』
『会社の方も来月号の冊子も出来上がったのに連絡がまだ来ないから、「直接行って確かめてこい」と周りのメンバーから言われまして……昨日からこっちに来ていたんです。それでここに向かっている最中に中○さんからのメッセージが届いたので、あたしも直接乗り込んでやろうかと』
『ほら、見てくださいよ。この度胸!TV局に直接乗り込むなんて他のチームだったらありえないですよ?』
『ということは日程の方も大丈夫ということでよろしいでしょうか?』
『はい!相手が誰であろうと絶対に勝ちにいきます!!是非、あたしたちの試合を見に来てください!』
『涼宮投手、ありがとうございました~』
『ありがとうございました』
最後に国民的アイドルと握手を交わしてスタジオを後にした。

 
 

…To be continued