500年後からの来訪者After Future4-4(163-39)

Last-modified: 2016-09-30 (金) 12:22:09

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future4-4163-39氏

作品

ヒロインから受けた三度目のキスに対する後ろめたさから、ハルヒや有希、朝比奈さんの三人を抱いて告知に戻ってきた。しかし俺も一緒にあのまま三人と寝られたらどんなに幸せだったか……。それから数日、告知をしながら空いた時間は仕事に戻ったりヒロインの自宅で一緒に食事をしたりとジョンの世界に行くため以外の目的で睡眠を取ることはなかった。これからもそうなるだろう。九月十日いつもの雑談会から本社に戻る時間ができ、朝の会議から参加していると、青俺の両親から『テレビを見ろ』とテレパシーが届き、異世界での野球対決の日時が決定。この日なら異世界のOG達をチアガールに盛り上がることができるだろう。今夜にでもOG達にスカ○ターを持ち帰らせて試合を観戦できるようにしよう。直接TV局に乗り込んだ青ハルヒが帰ってきて会議を再開した。

 

「ただいま~」
『おかえり~』
「って、えっ、涼宮さん、どうしてこんなに早く戻って来られたのかしら?他の記者に後をつけられたりしたんじゃ?」
「TV局内であれだけ告知すれば誰もあたしのことをつけてなんて来ないわよ。女子トイレに入った時点でこっちに戻ってきただけで、涼子も心配し過ぎよ!」
「だったらいいんだけど…それにしても黄キョン君、涼宮さんにTV局に乗り込め!なんて発想が大胆すぎるわよ!」
「発想も何も、Wハルヒならどうしたいと思うかって考えただけだ。二人の表情を見れば分かるだろ。どうせ受付に『今ニュースに出ている中○さんに直接返事をしに来た』とでも言ったんだろう?」
「フフン、そういう事」
「あとはこちらの世界とWブッキングすることが無いよう祈るだけですね。既に今週の番組でハルヒさんからの挑戦状の件が放送されていましたから」
「流石に来週末は無いんじゃないかい?もう少しメンバーを調整して練習している風景を撮影するような気がするけれど……それに九月末になるなら天空スタジアムを開放してもおかしくはないはずだよ」
「とりあえず話を戻そう。ハルヒは指揮者なんだから当然審査員の中に含まれる。二曲演奏が終われば有希たちと四人で合格者を決めればいい。人数があふれている楽器は合格者と交代して二回目の演奏をさせるだけだ。あと、王子店と赤羽店の店長には俺が直接電話をかけて内容を伝える」
「では、面談はあなたのお父上と僕で行いましょう。SOS団メンバーに対して変態て『あんたが言えるセリフじゃないわよ!』
「古泉の真似をすると『涼宮さんやハルヒさんに近づこうとする輩は僕が排除します』ってところだろうが、俺がそれをやるとしたら真っ先におまえを排除するぞ。とりあえず一番危ないのは朝比奈さんの方なんだから、ちゃんとサイコメトリーをしてふるいにかけろよ?」
「承知しました」
「俺から最後に一点、青ハルヒがさっきTVで告知してきた通り、職場体験期間中に品物が入れ替わるから、最終日にもう一回、生徒にフルコーディネートさせてやってくれ。他になければこれで動こう。今日も一日よろしく頼む」
『問題ない!』

 

 今日の片付け当番はW佐々木。青新川さんが残るのかと思ったら催眠をかけて80階に降りていった。どの道手伝いをしているのなら先に言えば……って、俺だけ知らなかったってことか。材料を切るくらいなら出来ても30人以上の昼食を作るのにそこまでの手伝いは出来ないと見てよさそうだ。
「ところで、キミに聞きたいことがあるんだけどね、今キミは何をしているんだい?」
「見れば分かるだろ。ヒロインと俺の分の食事と弁当作りだ。10時頃に一旦ヒロインの家に行って食事を振舞ったら、また仕事に戻ってくる。一応中学生との面談もステルスで後ろからみているつもりだ。三時過ぎにヒロインを連れて機内に戻れば数分後に次の国に到着する。それだけだ」
「くっくっ、この前朝比奈さんの席に触れた瞬間に自動でサイコメトリーして吃驚したんだけどね。ジョンと二人に分かれるだけでなくキミだけの影分身も可能らしいじゃないか」
「なんだ、二人して妬いているのか?言っとくが二人別々に会話はできないぞ」
『僕たちがそんな風に見えるかい?だったらキョン。僕たちにも彼女たちのような体験をさせてくれたまえ』
「それなら、夕食が終わったくらいに戻って来れる日にしてくれ。あのときは、ハルヒ達を腕枕しながらジョンの世界に行くことができなくてな。俺としてはそこまで満足できなかったんだ」
「くっくっ、だったらラボの上層階にダブルベッドとキミやハルヒさんの部屋のような家族風呂を作っておこう。その日が来たら声をかけてくれまえ」
「おまえら、あのタワーを建てた当初の約束を忘れているんじゃないだろうな?研究はしててもタワーで寝泊まりするのは無しだと言ったはずだ。それに土日は未来古泉が来るんだ。将棋を指しているところに、いきなりダブルベッドと家族用の風呂があったら誰でも察しがつく。どちらかの部屋の内装を作り変えるか、フロアごと模様替えをするかのどちらかだ。でなければ、俺はおまえらの要望には答えん」
『ぶー…分かったわよ』
「いつからハルヒの真似をするようになったんだ、おまえらは。とりあえず、以前ジョンと三人で温泉旅行に行ったみたいに、風呂に入っているだけで時間が経つようなことだけはするなよ?茹でダコになられちゃかなわん」
『くっくっ、その心配はいらないよ。僕たちが求めているのはその後の時間なんだからね』

 

 それからしばらくW佐々木と話をしながら調理を進めて、青新川さんが戻って来る頃には弁当も出来上がっていた。店舗に電話するのはヒロインが食事を終えてからで十分。テレポートしてヒロインの自宅に赴くと、来て早々俺に駆け寄ってきた。
「あなた、おかえりなさい。でも、随分遅かったじゃない!私を餓死させるつもりかしら?」
「すみません、朝の会議が長引きまして。ですが、料理は向こうで作ってきたので、一緒に食べませんか?」
「ねぇ、告知をしている間だけでいいから夫婦の関係でいさせてくれない?あなたに甘えさせて欲しいのよ。それに、そんな敬語や丁寧語なんて私にはいらないわ。あなたとは対等でいたいのよ。それじゃ、ダメ?」
「いいんですか?ホントに?」
「いいから言っているんじゃない!」
「じゃあ、食事にしよう。リムジンで食べる弁当も作ってきた」
「あなたとの時間が過ごせて嬉しいわ。この後はどうするの?」
「今日と来週はイベント事があってな。その打ち合わせで一旦戻るつもりだ」
「イベント事?」
「ああ、日本じゃ、中学二年生に色んな職場を体験させる制度があるんだ。その体験先としてお願いできないかと先月連絡が来てな。今日はその職場体験の事前訪問。職場の人と打ち合わせをして来週の平日五日間が体験期間ってわけ。店舗の店員をさせたり、実際に服のデザインを書かせてみたり。まぁ、色々だ」
「なんだか大変そうね。ってことは来週もあまり時間が取れないって事かしら?」
「いや、今日の割り振りが終われば後は社員に任せておける。ただ、日本時間で火曜日の夜だけは時間をくれないか?」
「別に構わないけど、その日に何かあるの?」
「この間、リムジン内で新聞を読んでたらテレパシーが来ただろ?あのとき話していた寿司をみんなでまたやろうと思ってる。披露試写会で見せた本マグロだけが寿司ってわけじゃないんだ。他にも色んな種類のネタがある。それを作ってみんなに満足させたら、ここに戻ってきて二人で食べたいと思ってる」
「あれ以外にもあるの!?私も食べてみたいわね!年末にみんなにも振る舞うんでしょ!?」
「ああ、そのつもりだ。あのときのパフォーマンス、あまりみんなに言いふらさないでくれよ?」
「私に任せなさい!」

 

「プッ……」
「あら、私何か変なこと言ったかしら?」
「ハルヒが良く使うんだよ、そのセリフ。そっくりだったからつい…最近他のメンバーの口調を真似する奴が多かったからな」
「そういえば、ハルヒさん、今何をしているの?」
「店舗の店員をしたり、ビラを配りに行ったり、電話対応に参加したりで何でもこなしているけど、今は野球の練習かな」
「野球の練習!?」
「夏休みの最初の頃から全国で野球の大会を開いて日本一を決めるイベントがあってそれに参加していたんだ。映画の撮影に来る前に野球の練習をしてから来たときもあったくらいだ。そして、その日本一に輝いたのがハルヒ達だったんだ。他は高校や大学の野球部だったりそのOBだったり、とにかく男ばっかりのチームの中で唯一女中心のチームで挑んだんだ。俺も一応チームのメンバーとして登録されてはいたんだが、映画の撮影もあったりして、出ても代打がほとんど。女性中心のチームだからこそできる戦略で日本一を勝ち取った。俺がこっちで『クレイジー野郎』って二つ名がついたように、ハルヒにもその投球から二つ名がついた。『ミスサブマリン』ってな」
「ミスサブマリン?ってことはアンダースロー?あなたたちバレーだけじゃなかったの!?」
「そう、アンダースロー。七月の上旬だったかな?仲間がその大会のチラシを持ってきて、『今度は野球で日本一に挑戦してみないか?』って話になってみんなで野球の練習を始めたんだ」
「それで野球の練習だったの。でも、女性中心のチームでよく勝ちあがって来られたわね?」
「女性中心のチームの利点はストライクゾーンが狭いこと。野球に慣れていれば慣れている程、相手チームのストライクゾーンを知り尽くしているから、ハルヒ達みたいなチームにはストライクゾーンギリギリの球はすべてボールになってしまうんだ。そして、俺とジョン、大会のチラシを持ってきたもう一人の仲間が投げるボールを打ち返すバッティング練習を徹底的にやってきたから、どんな変化球にでも対応できるようになった。当然ハルヒは木製バットですら左右にホームランを打つことができる。それに加えてハルヒのアンダースローで相手が慣れていない球で相手の攻撃を最小限に抑えて勝利することができた。そして今日、ハルヒ達に挑むチームを作るって芸能人が現れて、今朝のニュースで告知してきたんだ。その試合が日本時間で来週の土曜、夜の七時から。その時間にインタビューが無ければ俺も出たいし、もしよかったらみんなに内緒で見に来ないかと思ってる。相手はMLBに出場しているようなプロ球団。今から高揚感が湧いて仕方がないくらいだよ」
「面白そうね!ハルヒさん達がどんな試合をするのか私も見てみたいくらいよ!そういえば、あなたやジョンが投げる球ってどのくらいのスピードなの?あなた達の投球でバッティング練習していたからにはそれ相応の球速なんでしょうけど……」
「メジャーリーガークラスと同じだと思えば丁度いいかな」
「メジャーリーガークラス!?ちょっと待ってよ……ってことは100マイルも出せるって事!?」
「その通り。それに加えて、俺だけ更に速い球が投げられると言ったらどうする?」
「その上があるのなら、見てみたいわ!次の国に着いたらあなたのパフォーマンスはそれで決まりよ!すぐにでも連絡しなくっちゃ!」
「じゃあ、その間に一旦日本に戻ってくる」
「いってらっしゃい。あ・な・た」

 

 四度目のキスは無かったが、さっきの佐々木の話のように、ハルヒ達が自動で俺をサイコメトリーしてヒロインとの関係を知ることは十分あり得る。まぁ、一線を超えることがないようにすれば、告知が終わった時点で夫婦の真似ごとも終わりにできるだろう。人事部にいきなり行くのも社員を驚かせてしまいかねん。81階に戻ると、既にみんな昼食を食べ始めていた。
「おかえりなさい。キョン君、どうぞ」
やれやれ、朝比奈さんのお茶を飲みに毎食戻っているようなもんだな。だが、ハリウッドスターたちに俺が毎日でも飲みたいお茶だと宣言したんだ。朝比奈さんに今のうちから宣言しておくか。
「ありがとうございます。ところで朝比奈さん。このお茶を年越しのパーティでハリウッドスターに振る舞って欲しいんですが……場の空気に耐えられそうですか?青ハルヒですら、ハリウッドスターと何を喋っていいのやら分からないと言っていたくらいですからね。できれば今のうちから心の準備をしておいてもらいたいんですが……どうやら無理そうですね」
「きききききキョンくくくく君……わわわわわたしにそそそそんななことととむむむむむ無理ですよよよよ」
「だったら、お茶の煎れ方を聞いてこっちの朝比奈さんじゃダメなのか?」
「ききキョンく君、わわわわたしにだだだって、そそんななことととむむ無理ですよぉぉぉ」
「こちらの朝比奈さんがそこまで動揺するなんて珍しいですね。東京ドームで野球の試合と言われても平気だったのに……」
「ここ古泉君、東京ドームで試合をするのとハリウッドスターのパーティに参加するのとじゃ、いくらなんでも差がありすぎですよぉ」
「青チームのOG達がバレーの日本代表に対して緊張感を持つのと同じだ。Wハルヒでさえ手に持ったカクテルグラスが震えるほどだったんだ。お茶を煎れるだけとはいえ、朝比奈さんには流石に耐えられないか。ここで入れてもらってテレポートになりそうだ。でも紹介だけでもしたいんですけど…ダメですか?」
『ぜぜぜ絶対むむ無理ですぅぅぅ……』
「それにしてもあんた、随分遅かったわね。ヒロインと食事をするだけじゃなかったの?」
「ああ、食事についてはすぐに済んだんだが、Wハルヒのことが話題に上がってな。今じゃ『ミスサブマリン』と呼ばれるくらいだって言ったら大会の予選から話す羽目になってしまったよ。今度の大会もリムジンでまわっていなければ見に来たいそうだ」
「困りますね、ハリウッドスターが見に来るとなれば、チームの中でのキョンはあなたの方にしなければいけません。つまり、ナックルボールは使えないということになってしまいます」
「仮に見に来たとしても、俺がナックルボールの情報を渡すだけで済む。黄俺なら更に昇華してくれるかもしれん」
「いいのか?そんな簡単に受け渡して……」
「元々反則技だからな。黄古泉のナックルサーブと似たようなもんだ」

 

「では仕方がありません。この場でスターティングメンバーを発表します」
「ちょっと待て、古泉。W鶴屋さんの予定を聞いてからにしないと良くないか?」
「W朝比奈さんにお願いして確認してもらいました。どちらともOKだそうです。一番レフト黄有希さん、二番ショート黄佐々木さん、三番ファースト朝比奈さん、四番センターを彼に、五番セカンドハルヒさん、六番レフト黄朝倉さん、七番キャッチャー鶴屋さん、八番サードをあなたに、九番ピッチャー涼宮さん、以上です」
「くっくっ、これで勝てなかったら僕たちが入る隙間もなさそうだ」
「ハルヒさん1000本ノックで大分身についてきたけど、最強チーム相手にするにはまだ練習が足りなさそうね」
「やれやれ、結局僕が入るのかい?あの布陣を敷いてくるのを分かった上でのこの采配。僕にどうしろと言うのか教えてくれたまえ」
「あなたの仕事は黄有希さんを三塁まで盗塁させること。アウトになろうが、それさえ達成できればそれで構いません。次は前回のあの布陣に加えてライトプレイヤーも一、二塁間に入ることになるでしょう。その次の朝比奈さんで黄有希さんをホームに戻します」
「加えて、俺がサードなのも黄佐々木のフォローのためか。朝比奈さん、内野でレーザービーム飛んでも大丈夫ですか?」
「キョン君ならわたしのグローブに収めてくれますから平気です!」
「というわけだ黄佐々木。ボールがバットに当たる前に俺が動く。フォローに入るから自分のプレーに集中しろ」
「くっくっ、そいつは頼もしいじゃないか。僕の打席と同じように相手の攻撃の場面でも狙われそうで正直怖かったんだ。それと、今日から涼宮さんの投げる球を打たせてくれないかい?渡辺投手が来るんだ。アンダースローに慣れておきたい」
「あっ、涼宮さん、わたしもお願いします!」
「フフン、あたしに任せなさい!」

 

 やれやれ、朝比奈さんもハリウッドデビューと思っていたんだが、青朝比奈さんまであんな調子じゃあな……青古泉にハリウッドスターが住んでいる土地の交渉に出向いてもらってしばらくそこでW朝比奈さんを生活させてみるか?
『青チームの朝比奈みくるまであんな状態じゃ無理だよ。折角美味しいと紹介したはずのお茶が不味かったりしたらキョンに汚名が着せられるだろう?それを考えれば二人にお茶を煎れてもらってテレポートした方が無難だよ』
ジョンまでそう思うんじゃ仕方がない。人事部に降りてさっさと電話をかけてしまおう。内容が内容だけに遮音膜を張った方がよさそうだ。
「はい、SOS Creative社赤羽店でございます」
「お疲れ様です。社長のキョンですが、職場体験の事前打ち合わせの件で店長さんにお話しをしたいのですが」
「あっ、社長、お疲れ様です。わたしが店長です。えっと、中学生が二名今日こちらに来ると伺っておりますが」
「その件でお知らせしたい事とお願いがありまして、今お時間大丈夫でしょうか?」
「はい、大丈夫です」
「そちらに行く生徒に火曜と水曜は新川料理長のスペシャルランチと、僕の寿司を昼食として食べてもらおうかと思っているんですが、生徒だけでは申し訳ないので、火曜日のアルバイトの方も含めて閉店後に僕のお寿司を召し上がっていただこうかと考えているんですが、いかがでしょう?勿論こちらからお迎えにあがります」
「えっ!?社長のあの豪華絢爛なお寿司をですか!?」
「豪華絢爛ってほどのものでもありませんが、そんなもので良ければ」
「絶対行きます!アルバイトの人たちにも伝えておきますね」
「宜しくお願いします。それともう一件、職場体験期間中に来月号が発売されて店舗の品物が入れ替わった後、最終日で結構ですので月曜日と金曜日の二回、生徒に似合いそうなフルコーディネートをしていただきたいのですがよろしいでしょうか?アルバイトの方も無料コーディネートで構いませんので」
「かしこまりました。社長自らご連絡ありがとうございました」
「宜しくお願いします。失礼します」
王子店の方も同様に連絡をして快諾を得た。あとは生徒を待って面談するだけだな。

 

『有希、朝倉、降りてきてくれ。生徒たちが来た』
『わかった』
面接室には生徒が座る椅子が10脚と圭一さん、有希、朝倉が座る椅子と机。「ステルスで俺にも入らせてくれ」と有希に頼み、面接がスタート。10人ともスタイルもファッションセンスもそこまで悪いわけでもない。年齢制限さえなければ、モデルとして冊子に掲載してもいいくらいだ。
「こんにちは。○▽中学校から来ました……です。よろしくお願いします」
生徒全員の挨拶を聞いて圭一さんが話し出した。
「改めて、こんにちはと伝えておこう。君たち全員の統括をしている人事部の多丸という者だが、これからいくつか質問をする。君たちの要望に応じて担当が変わる。何かあればその担当の者に聞いてもらいたい。では、まずファッションセンスには自信があるという生徒はいるかね?勿論、我々はファッション会社だから手を上げづらいとは思うがどうかね?推薦でも構わない。この子はファッションセンスがいいと感じる子がいたら教えて欲しい」
生徒が圭一さんの質問に悩んでいる間に有希と朝倉、俺で生徒から受け取った資料をサイコメトリー。特に問題のありそうな生徒はいないな。あとは編集長のお眼鏡に叶った生徒がどのくらいいるかどうかだ。ようやく話がまとまったらしく、周りに進められて手を上げたのが三人。
「では、次だ。絵を描くのが得意だという生徒はいるかね?」
さっきの三人を入れて五人か。
「正直、家からここまで来るのはちょっと通いづらいという生徒はいるかね?」
そんな質問をされても生徒の方は困るだろうとは思ったが、それでも一人手が挙がった。
『編集長、どうする気だ?』
『絵を描くのが得意だって手を上げた生徒五人ともデザイン課に来てもらいたいわね。どんなデザインになるか見てみたいし、本店の方は一人でいいはずよ。どの道六人で昼食を摂ることになるだろうから』
『問題ない。その一人も決まった』
『その一人とはどの子かね?』
『一番右に座っている生徒』
「分かった。それでは絵を描くのが得意だと手を上げた生徒五人にはデザイン課、一番右に座っている子にはこの下の本店。残り四人は赤羽店か王子店のどちらかにこれから向かってもらうことになる。どちらがいいか、四人で話し合ってもらえないかね?それから君、本店とデザイン課の担当を呼んできてくれたまえ」
「分かりました」
朝倉が一階へ行って裕さんを呼び、自分の催眠を解除すればそれで済む。
「ええぇ――――――――――――-!?」
面接室のドアを叩いて入ってきた朝倉を見て生徒全員驚いていた。生徒の反応に対して朝倉も嬉しそうだ。……とりあえず今はな。来週のドラマの最終回を見て新川さんのようにならなければいいんだが……
「初めまして。デザイン課編集長の朝倉涼子です。よろしくね」
「初めまして。一階の本店の店長をしている多丸裕と言います。そこにいるのは僕の兄貴だ。よろしく」
『よろしくお願いします!』
「では、六人を案内してくれ。君たちはそれぞれの担当について行きなさい。こちらの四人はどちらにするかきまったかね?」
『はい!決まりました!』
「では本社前にリムジンを止めてある。店舗に直接送っていくから各店舗の店長に話を聞いてきてもらいたい。王子の方はそうでもないだろうが、学校や自宅までのルートと時間の確認をしながら帰ってくれればいい。来週からの君たちの仕事ぶりを楽しみにしているよ」
『ありがとうございました!』

 

 リムジンに乗れると聞いて残った四人も浮かれている。青新川さんが後部座席を開けるとそれに乗り込んだ四人を連れて各店舗へと向かっていった。
「ちなみに有希、本店の一人を選んだ理由はなんだったんだ?」
「簡単、残り五人のうちファッションセンスの良い生徒を選んだ。日によっては彼女もデザイン課でデザインを考えさせるのも一つの手」
「なるほどな。じゃあ、その辺の采配については有希に任せていいか?」
「問題ない」
デザイン課に五人というのは予想外だったが、有希の言っていたことを考えれば、デザイン課に配置された生徒も一階の本店で働いてみるということだってありえる。とりあえず、懸念事項も一つ払拭されたし、ヒロインのところへ戻るとするか。
「ただいま」
「おかえりなさい、どうだった?」
「ああ、スムーズに事が進んでよかったよ。絵の上手い生徒をデザイン課に欲しいって編集長が言いだして、当初の予定よりも少し人数の違いが出たが、何も問題はない。そろそろ飛行機へ戻ろう」
「もう戻るの?もう少しゆっくりしていかない?」
「時間を気にしながらじゃゆっくりにならないだろ。時間を気にする必要のないときにゆっくりしようぜ」
「そのときが楽しみね」
次にやってきたのはイタリア。ここなら支部の上層階を掃除すればホテルなんて予約を取る必要は無い。やっと支部のある国にやってこれたな。
『キョン』
ああ、分かってる。支部があるからこそってやつだ。二か所から俺を狙撃するつもりらしい。報道陣はいつものことだが、早朝から御苦労様。閉鎖空間で報道陣を押しのけている間に銃弾が二発跳んできた。兆弾になり音がする方向へ報道陣が一旦そちらを向いたが、狙撃事件だと気付かずに俺たちについてくる。ひとまずリムジンに乗り込み遮音膜を展開。ヒロインに事情を説明した。
「さっきの音に気付いたか?」
「音?そういえば、あなたの作った空間に何かが当たる音がしたけど……」
「狙撃された。しかも二か所からだ」
「狙撃!?全然気が付かなかったわ。あなたがSPじゃなきゃ私殺されていたってこと?」
「とりあえず、どういう連中なのか聞いてみよう。そこの運転手も仲間らしいからな」
「運転手が仲間!?」
「(イタリア語で)あんたの武器借りるよ。目的地が違うようだが、どこに向かうつもりか教えてくれないか?」
「ぐっ、いつの間に!?」
「へぇ、そんな森の奥深くまで行くんだ?このリムジンで?」
「どうしてそのことを!?」
「わざわざ早朝から御苦労さん。悪いが運転手交代だ。あんたのところのボスに伝えておけ。こっちの用が済んだら潰しに行くってな。もっとも組織と言ってもかなりの末端のようだがな。狙撃した二人とは違う連中か。あとでそっちにも向かう事にしよう。じゃあな」

 

 運転手をリムジンの外へとテレポート。TV局には充分間に合う。ある程度走ったところで車を止めた。
「狙撃手にも会ってくる。車には絶対に手出しできないようにしたから安心していい。さっさと片付けてメジャーリーガー以上の球を見せてやるよ」
「私を未亡人なんかにしないでしょうね!?」
「分かってるって」
リムジンのタイヤを狙っていた狙撃手の頭部にさっきの奴から貰った拳銃を後頭部から突き付けた。
「何処を狙っている。俺ならこっちだ。おっと動くなよ?頭が吹っ飛んでもいいのか?」
「くそ、どういうことだ!?」
「それを知りたいのはこっちの方だ。どうせ俺たちの会社の影響で倒産した会社から頼まれたんだろうが、倒産した会社に金があるわけがない。だからおまえらみたいな末端の組織にすがるしかなくなる」
「このっ!いい気になるんじゃね……ぐあっ!!」
「こっちはアメリカのほとんどのマフィアを相手にしてきた。それでも俺はこうして生きている。どういう意味か分かるな?」
「ラスベガスが眠ったのも全部おまえらがっ」
「そういうことだ。さて、必要な情報はすべて引き出した。もうおまえに陽は無い。最近漫画の現実化に興味があってな。おまえらでも知っているかどうかは知らないが一応やってみることにしよう」
狙撃手に遮音膜を取りつけて空高く浮き上げる。
『さぁ、このあとどうなるか知ってるか?』
『やめろおおおおおおおお』
爆発音も聞こえることなく狙撃手が爆発した。さて、こういうとき、何て言うんだっけ?ジョン。
『許さんぞ……よくも………よくも………』
今からメンバーかき集めるつもりだが、おまえも出るか?
『久しぶりに暴れるのも悪くないが、この前撮影したバトルよりは退屈しそうだな』
古泉が戻ってくるのにもまだ時間がかかるとりあえずTV局に向かうか。
『キョン!助けて!!』

 

 運転手が仲間を呼んだらしい。こんな早朝からよく飽きもせず堂々と来るもんだ。リムジンの後方にテレポートしてリムジンの周りを囲っている連中にご挨拶といこう。
「おはよう諸君!朝から仕事御苦労さん。拳銃を向ける方向が違うんじゃないのか?」
「貴様、一体どこから来た!?」
「空港から出てきた時点で狙撃を試みた奴を一人ぶちのめしてきた。おまえらがどういう連中かも知っている。全組織の下の下のようだな。もう少し中ボスくらいの奴を連れてこい。こんな雑魚が相手じゃ話にならん」
「ハッ、この中の女がどうなってもいいのか?SPも付けずに告知に来てハリウッドスターが殺されたんじゃ、おまえの会社もどうなるかな?」
「SPが付いて来ない意味をまったく理解していないおまえらに未来が分かるはずもない。撃っても構わんが、どこに跳ね返ってくるかわからんぞ?映画の告知だと知っているのならなおさらな」
「貴様のはすべて編集によるものであって、この女にはそれすらできない。違うか?」
「なら、さっさと撃って確かめてみろ。そんなに自分の考えが外れるのが怖いか?」
ギリッ!と歯軋りの音が鳴り、ヒロインに向けられた拳銃のトリガーを引く。
「後悔しやがれ―――――!!」
「ぐっ!」
閉鎖空間で跳ね返った弾丸がすぐ近くの仲間の腹部に命中した。
「さて、後悔したのは俺か?それともおまえか?果たしてどっちだろうな?ハリウッドスターを殺すとか言ってたの、一体どこのどなたでしたっけ――――?」
「うるさい!!なら貴様を殺すまでだ!!」
銃口を俺に向けて躊躇なく弾丸を発射する。閉鎖空間で反射させてもよかったが、指で弾丸を掴みとった。
「もう一度聞こう。どうして俺たちにSPがついていないのか分かるか?」
「知ったことか!アイツを撃ち殺せ―――――――――――――-!!!」
銃口の先に人はいないが報道陣が駆けつけて反対側の車線から撮影してやがる。カメラを壊してやってもいいが、いい宣伝だ。銃弾をすべて掴み取りカジノのシーンを再現してみせた。カチカチと弾切れの音がリムジンの周辺で鳴り響いている。
「宣伝活動に協力してくれてどうもありがとう。おまえらの探している弾ならここだ」
青ざめた顔をしていた連中が事実を突き付けられて恐怖に慄いている。
「映画では、この後俺が右手に持っている弾丸を発射して全員の心臓を狙う事になっているんだが、防弾チョッキの準備はできているか?」
「ひっ、引き上げろ――――――――――-っ!!」
やれやれ、走るのとリムジンを運転するのとどっちが速いかわかるだろうに。面倒な奴らだ。だが、おかげで良い使い方を閃いたよ。印を結んで全方位の逃げ場を塞いだ。
『おまえらから仕掛けておいて勝手に逃げるなよ』
15体の影分身から殺気が放たれた。
『匂いもそうだが、カメラに殺気なんて映らないんでな。SPが付かない理由が理解できたか?』
そこにいた全員が首を縦に振る。
『じゃあ、誰かさんのせいでけが人も出たようだし、俺たちもあまり時間がない。全員まとめて縛りつけておこう。運転手を頼もうかと思ったがそれも止めだ。イチイチ脅していると面倒なんでな。警察が来るまでこの場に居てもらおう。それから、救急車はそれから呼んでもらえ。恨むなら俺じゃなくて、ヒロインを狙撃した奴を恨むんだな。それとも、俺が代わりに制裁を加えておこうか?』
「ひぃぃぃ――――――――!!」
『だから雑魚だと言ったんだ。玩具一つ持っただけで強がりやがって』
全員を金縛りにして一束にまとめ、『銃刀法違反です。捕まえてください』の看板を首にぶら下げて歩道に放置しておいた。影分身を解いて運転席に向かう。
「安心しろ。警察に捕まったときに解けるようにしておいた。おまえらの仲間が助けに来た場合、一生そのままだから気をつけろよ」
『それから、さっきから俺に銃口を向けているおまえな、いつでも塵にできることを忘れるな。俺は敢えておまえを放置してやったんだ。これ以上何か仕掛けてくるのならもう一人の狙撃手と同様消してやる』

 

 もう一人がどんな組織のどんな連中かは俺の知ったことではない。だが、暴れる口実ができた。夜になってから決行しよう。
「どうした?そんなところに一人でいないで、助手席にでも座らないか?二人でドライブでも満喫しようぜ」
「えぇ、でも前から狙撃されたりしない?」
「さっき確認しただろ?このリムジンには今は透明だが、例の立体で囲ってある。拳銃もナイフも効かなければ、爆弾でさえ傷一つ負わせることができない」
「キョン、怖かった。あんなのSPじゃ解決できないわ!あなたが傍に居てくれて本当に良かった」
「このままTV局まで飛ばす。しっかり掴まってろよ」
「今日はずっとこうやっていさせて」
閉鎖空間を拡大して邪魔な車は排除、信号をすべて青にしてTV局へと急ぐ。さっきの一件もあってか報道陣の数が膨れ上がっていたが俺には関係ない。助手席から出ようとしたヒロインに「俺が開けるからいい」と伝え、報道陣を押しのけて助手席側へ。ドアを開けてヒロインを外に連れ出すとリムジンを縮小してキューブ化。報道陣もそれに驚いているが、俺たちはカメラにも写らなければ、報道陣の声もシャッターの音も届かない。前に立ちはだかった報道陣を押しのけて局内へと入った。スタジオ入りしてからも、告知よりも空港に着いてからの話題が振られる。
「ここに来られるまでにかなりの大事件に巻き込まれたようですが、大丈夫なんですか?」
「ええ、二人とも傷一つありません」
「銃を持った連中に囲まれていたそうですがどうやってそれを回避したというんです!?」
「映画の最初のシーンと同様、俺のパフォーマンスですよ。銃弾を指で掴みとった。ただそれだけです」
「そんなことが可能なんですか!?」
「可能だからこそ、映画のあのシーンが撮影できたわけですし、今こうして生きています」
「とてもじゃありませんが、信じられませんよ。ですが、それに匹敵するような驚くべきパフォーマンスを見せていただけるそうですが……因みに、どういったものなんでしょうか?」
知ってるくせにこうやって本人の口から言わせたいってところか。
「メジャーリーガーをはるかに上回る球速の球を投げてご覧にいれましょう」
『さっきの事件のことばかりだったから通訳しなかったが、映画の最初のシーンを強引につなげた。この後必要があれば通訳するよ。次の局以降も同じことになりそうだ』
『キョン、ありがとう』

 
 

…To be continued