500年後からの来訪者After Future4-5(163-39)

Last-modified: 2016-09-30 (金) 12:24:04

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future4-5163-39氏

作品

青ハルヒにTV局に乗り込んで直接返事をしに行って来いと言ってみたり、楽団の応募もオーディション前日まで募集する話もあり、W佐々木が朝比奈さんも含めた六人で家族風呂に入ったこととその後のことについて自分にも体験させろと言ってきたり、職場体験中の詳しい内容(特に食事面)での配慮と事前打ち合わせをしたりと色々とあったものの、一番大きな事件で現在進行形のものと言えば、イタリアの空港に降りた直後からカモラとかいう組織の末端中の末端に命を狙われ、現在進行形でそれが続いていることだ。TV局内まで入り込んでは来ないだろうが、TV局に行く毎にその事件について同じ説明をしなくちゃいかんという無駄な時間の浪費に腹を立てていた。

 

 最初のTV局でハルヒのエネルギーを全身に循環させた状態での投球でメジャーリーガーを超える球速を叩きだすと宣言し、野球経験のあるというスタッフがキャッチャー役を務めた。キャッチャー用の防具が無いとミットだけはめていたが、俺がミットの中に収めればいいだろう。
「それでは第一球、お願いします!」
司会の合図に従って第一球目を投げた瞬間、スタッフが逃げようとしたが、その隙すら与えられずにミットにボールが収まった。
「勘弁してください!防具も無いのにこんな球捕れませんって!!」
「因みに今の球速は?」
「ひゃ184km/hです!」
『184km/h――――!?』
「誰か他に受け止められる人いませんか!?」
その場にいた全員が首を横に振る。イタリアでは俺のことが何と知れ渡っているかは知らんが、とにかく一回だけでなくもっと見てみたいというのは全員一致らしい。どういう役回りだか知らないが、ADらしき人間がスタジオに防球ネットを持って現れた。あるのなら最初から用意しておけ。といいたくなったが、このネットまで破ってしまいそうだ。その後ろにスピードガンを構えた女性とカメラもあることだし、閉鎖空間で対応するか。
「お待たせ致しました。それでは第二球、お願いします!」
案の定、ネットを突き破って閉鎖空間に当たった。突き破る前に威力が下がってラッキーだと思っているだろうが、もう一球となればカメラもスピードガンを持った女性も間違いなく逃げる。ようやく眼を見開いてその数値を見た
「182km/hです!」
「ネット以外に何か無いの!?」
「ダメです。彼に捕ってもらうしか方法が」
「いや、だから防具も無いのに、あんな球、俺、捕れませんって!!」
「あと一球だけ、何とかお願いします!!」
「お願いしますとか言われても、もう怖くて目の前に立てませんよ!」
「ネットの後ろで構えてたらダメ?」
その後来た上司らしき人から耳打ちされて、ようやくネットの後ろで構えることとなった。

 

「最後の一球です、お願いします!」
「もう勘弁してください!!ネットの後ろに立っても威力が、全っ然変わらない!!」
「球速は!?」
「嘘……ひゃ、189km/hです!!」
『189km/h――――――――――――――――――――!?』
「ありがとうございました」
俺が放った一言でようやくスタジオ内全体から拍手が沸き起こった。呆然と立ち尽くすスタッフがようやく動き出し、視聴者に向けて一言告げて一局目を終えた。当然TV局前は報道陣であふれ返っていた。何も聞こえないので何も答えられません。などと心の中で言いながら、リムジンを出す空間に蔓延っている報道陣を閉鎖空間を広げて押しのけると、リムジンを拡大して、ヒロインを中へ誘導し、運転席についてTV局を後にした。
「普段マイルに慣れているせいかkm/hで言われても実感が良く湧かなかったんだけど、どのくらいのスピードだったのか教えてくれないかしら?」
「第一球が114マイル、第二球が113マイル、第三球が118マイルかな。大体の計算なので細かくは分からないが」
「118マイル!?100マイル以上を出せるメジャーリーガーもそこまで数は多くないって言うのに、あなたそんな球投げてたの!?」
「横から見ているだけじゃ速さはあまり伝わらなかったかもしれん。キャッチャーの真後ろで見てたら、あのスタッフの動揺ぶりが分かったんじゃないか?それより、マネージャーと連絡はついたか?」
「一応確認してもらったんだけど、やっぱり別の人が乗ってたみたい。警察にも連絡して捜索してもらってるわ。殺されてないといいんだけど……」
「とりあえずアイツが持っていた拳銃の弾は一発も使われてなかった。銃殺でないことは確かだ。空港の近辺で生きているかもしれない。それにこのリムジン、イタリアを離れるときはどこに置いておけばいいんだ?」
「明日の空港で降りたときに運転手を連れて待ってくれているそうよ。その人に鍵を手渡せばいいらしいんだけど……」
「多分同じことを考えているだろうな。その手渡す相手も俺たちの命を狙った奴の仲間にすり替わっている」
「キョン、この国はもう終わりにしない?」
「心配いらない。俺たちは何の映画の告知をしていると思っているんだ?『俺に不可能はない』じゃ頼りないか?宣伝だけ終えたらホテルに入るだけ入って、ハリウッドに戻ろう。あそこなら安心できるだろ?」
「でも、キョン、約束して!今夜はあなたの傍にいさせて!お願い!」
「分かったよ」

 

 最初の一つを含めてTV局を四つ回ってホテルに入った。大勢の報道陣で溢れ返っていたが、俺たちには関係ない。キューブを縮小して中に入るとトラップ機能付きの閉鎖空間を展開した。ホテルに立ち入ろうとしたマフィアをサイコメトリーして情報を得ると、テレポートでそいつの組織に送り返す。爆弾を投げようものならアジトが大爆発するって仕組みだ。
『スイートルームに入るところまでは監視カメラが付いているはずだ。それからテレポートする』
『分かった』
このフロアに報道陣が入れない閉鎖空間で固めてからテレポートした。
「ああ、キョン。怖かった……」
自宅に帰るなりヒロインが抱きついてきた。
「大丈夫だ。今日は少し夕食を豪勢にしてみよう」
「ずっと後ろから抱きついていてもいい?」
「ああ」
さて……ジョン、サイコメトリーしたマフィアの情報は伝わっているか?
『俺にはな。ただ、ここにいるメンバー全員野球のことしか頭にないと思うぞ?マフィアなんて言っても張り合いがないと思うだろう』
なら、俺一人でいい。夕食と摂ったら潰してくる。
「キョン、お昼のお弁当ごめんなさい。私怖くて……」
「気にするな。食べ終わったら今日はもう休もう。マッサージもしてやるから」
「お願い!今日はあなたと一緒に………」
「じゃあ、夕食もここまでにしよう。また明日の朝食べればいい。とりあえず服は着替えたらどうだ?それまでに夕食片付けておくから」
「嫌、あなたに少しでも長く抱きついていたいの」
「なら、せめて俺だけでも着替えさせてくれるか?スーツじゃ堅苦しいんだ。着替えると言っても一瞬で終わる」
指を鳴らして普段着にドレスチェンジ。どうやら意表を突かれたらしい。
「俺とハルヒが最初にパーティに呼ばれたときに見せたパフォーマンスなんだが、さすがに覚えてないかな?着替えるものが分かっていれば今みたいに一瞬でドレスチェンジできる。テレポートの応用だ」
「嘘……そんなこと、あなたが最初に来た年でしょう?そんなのあったかしら?」
「じゃあ試しに着替えたいものとそれがある場所をイメージしてくれれば一瞬で着替えさせて見せる」
「えっと…どうやって伝えたらいいのかしら?」
「人差し指にイメージを集中させて俺に触れてくれ。それで分かる」
イメージで伝わっては来たが……本当にこれでいいのか?
「人前でこんな格好で大丈夫か?」
「あなたなら平気よ」
まだ夏場というのもあるんだろうが、下着の上から一枚羽織るだけ。しかも下着が透けて見えるんじゃなぁ……まだ八分の一も終わってないっていうのに、今ここまで大胆な行動にでられたらこの先もっと……まぁ、命を狙われて怖がっているんじゃ仕方がないか。狙われているのは俺の方だろうがな。二人でベッドに横になると苦しいくらいに抱きつき、足をからませてきた。
「少しは安心できそうか?」
「私、あなたとこうしているだけで幸せ」
髪を撫でたところで、ヒロインの意識を失わせた。これで当分起きては来ないだろう。経験者が言うんだ。間違いない。朝比奈さんに何度声をかけられても起きなかったからな。例の七夕の事件のときは。夕食はラップで包んで冷蔵庫の中へと移動。1%の意識だけ残してイタリアに戻った。

 

 まず向かった先は刑務所。今朝の奴等にまずはお返しといこう。透視能力で奴等を捉えると、ブラインドフィールドと遮音膜を張ってあいつらの前に姿を現した。
「よう、半日ぶりだな」
「貴様、一体何しに来た!?」
「威勢だけは一人前ってところか。俺が現れただけで悲鳴を上げているような奴と違ってまだ新鮮だ。さて、やることを説明する前に先に話しておくことがある。おまえらを囲んでいる黒い立体と黄色い膜についての話だ。黒い幕は見て分かる通り、周りから中の様子を見せなくするもの、黄色い膜の方は遮音膜と言ってな。この膜より外側にはどんなに悲鳴を上げても一切誰にも聞こえないということだ。これから何が起ころうとな。
「だったら、あんたに何をやっても周りの連中には分からないってわけだな?」
「ほぅ、雑魚とはいえ、流石イタリア1の組織の末端と言うべきか。これでもその言葉が言えるか?」
全力の殺気を放つと、さっきの威勢はどこへやら。アホの谷口と藤原のバカに比べたらまだマシかと思ったがそうでもなかったな。
「試しに一つ見せておこう。俺が全力で殴ると……こうなる」
天井のど真ん中を打ちあげて天井を破壊、瓦礫がいくつか落ちてきた。
「何てパワーだ……」
「やめろ、やめてくれ!そんな威力で殴られたら一発で死んでしまう!」
「安心しろ。これはただ穴を開けたかっただけでおまえらに向かって使うつもりは無い」
ホッとしている奴が大半だが、未だに恐怖におびえている奴が一人。
「だっ……だったらあんた、一体何をしにここに来たんだよ!?」
「説明が長くて悪かったな。まずは復習といこうか。この膜どんな効果があるんだったっけ?」
今朝リムジンを囲ったうちの一人を遮音膜で囲って出られない様にすると、ようやく一人が答えを導き出した。

 

「な……中に入っている奴の声が外に漏れない……?」
「正解。そして、俺は今漫画の世界を現実に出来ないかと色々と試しているんだが、おまえらも知っているか?このあとどうなるか………」
遮音膜で覆った一人が天高く舞い上がっていく。
「まっ……まさか、粉々に吹き飛ぶんじゃ……!?」
「賢いね~。それに日本の漫画が世界に精通していて嬉しいよ俺は。さて、今上に上げた奴の最後の断末魔を聞かせてから爆破することにしよう。順番回って来るまで待ってろよ」
『最後に何かいい残すことはあるか?』
『嫌だ、助けてくれえええええええええええええ!!』
爆破音がするはずもなく、上空でちょっと光った程度だが、他の奴等からは何が起きたのか判断するには充分だったようだ。喚いた奴から上にあげて爆破を繰り返した。残りは後二人。リーダー格だった奴と、そいつが撃った弾で傷を負った奴の二人。
「死体の一番処理のしやすい方法を知っているか?こうやって粉々にするんだよ。こうすれば脱走されたと思われる。爆弾を持ってきた仲間が逃がしたと警察はそう思い、辺りを探しまわるだろう。だが、実はとっくに地獄の底。さて、待たせたな。おまえの番だ。ヒロインを恐怖に陥れた罪を償ってもらおうか」
「なんでもするから助けてくれ!頼む!!」
「何でもする?じゃあ、粉々になって死ね」
遮音膜で覆うとこれで何回目の打ち上げ花火になるのやら。精々地獄でマフィアごっこでもやっていろ。リーダー格を爆破すると残った一人に話しかけた。
「おまえには一度だけチャンスをやる。味方のせいで傷を負ったが、俺に責任はないわけでもない。今日はこの黒と黄色の膜を解除してそれで立ち去る。脱獄するならそれでも構わん。俺が他の連中を殺したと言いふらしても無駄に終わるだろう。ホテルから出ていないはずなんだからな。だが、次に俺たちの命を狙おうとした場合は、他の奴と同じ運命になると思っておけ。いいな?」
「ありがとうございます!ありがとうございます!!」
そのあとサイコメトリーで得た情報を基に三つの組織のアジトへと赴いた。『サイコメトリーで得た情報を基に三つの組織のアジトに行っている』にもかかわらず、最初に出会った奴からは「なんだ、てめぇは?」といつもの雑魚キャラの一言。
「おまえらの組織が今何をやっているのか少しは把握しておけ、この脳内筋肉バカが。映画の告知をしにきたんだよ」
と告げ、金品をすべて押収、建物を破壊してシートを被せてから次の組織の元へと向かった。

 

 三つの組織を崩壊させる頃には、日本は丁度朝食時。こっちで何が起きているかを話すには丁度いい。
「ただいまっと」
『おかえり~』
「どうです?首尾の方は」
「どうです?って言われて何て答えたらいいのか俺も迷ってるんだが、まぁいい。正直に全部話そう。イタリアの空港から出た瞬間狙撃された」
『狙撃された!?』
「国が国だからな。おそらく俺に対してなんだろうが、狙撃手二人に狙われて、別の組織の奴がリムジンの運転手とすり替わっていてな。そのままリムジンで移動していたら森の奥深くまで連れて行かれて銃殺する予定だったらしい。運転していた奴の拳銃を奪ってテレポートで車の外に放り投げた。ある程度進んだところで狙撃手一人から情報を引き出して潰したんだが、その間にヒロインを乗せたリムジンが大勢の人間に囲まれていてな。閉鎖空間をリムジンに張っておいたからヒロインには傷はないんだが、精神的ダメージが大きい。新川流料理ですら残すくらいだったからヒロインが寝たところで関係した組織を三つ潰してきた。で、これが軍資金」
キューブを拡大して周りに見えるようにしたが、末端の組織でこれだけのものを持っているんだ。トップはどのくらいの資金を持っているんだか。
『ちょっとあんた!なんであたし達に連絡しなかったのよ!!』
「潰しに行く前にジョンにそっちの様子聞いたんだが、『みんな頭の中は野球でいっぱいだから、マフィアくらいじゃ張り合いがないって言うだろう』だとさ」
「それは残念です。バレーも大して出られずに終わってしまったので少し暴れてみたかったのですが……野球の方も佐々木さんの代打という形になるようですし」
「とりあえず、明日のニュースを見てからだな。アメリカのときと同様、マフィアのアジトは全て塵にしてシートを被せておいた。それを見た連中がどう動くか次第だ。ヒロインのマネージャーにも確認して、空港でリムジンを手配した会社の人間に鍵を手渡すことになっているんだが、そこでまたどこぞの組織の人間と入れ替わっていることもあり得る」
「ちょっと待ちたまえ。キミは昨日の夜、それに関連した組織をすべて潰してきたんだろう?それなのに他の組織の人間が襲ってくるなんておかしくないかい?依頼人と契約を交わしているわけではないはずだ」
「ちょっとサイトで調べたらすぐ出てきたよ。イタリアのマフィアすべてがファミリーのようなものらしい。俺が調べた情報によると、総じてカモラと呼び111の組織があり、総勢5700人超のメンバー。影響力、経済力、暴力度では、イタリアでもっとも危険なマフィア。警察にも賄賂を送っているらしい。俺が三つ潰したから残りは108つ。何の偶然かは知らんが、煩悩をすべて潰してイタリアを極楽浄土へ……なんてな」
『面白いじゃない!』
「要するに、これからもアプローチが大いにあり得るってわけね!次に攻撃を仕掛けてきたときは絶対に報告しなさいよ!?」
「そのときは僕にも是非ご連絡を。撮影以外の時間帯で設定していただけると助かります」
「それで、ヒロインも怖がっているしすぐにでもイタリアを出立したいくらいだそうなんだが、イタリア支部の今の状態を確認する必要がある。冊子もそろそろ出来上がる頃だろうし、戦闘に長けていて周りをまとめられる人物といえば朝倉しか思い浮かばないんだがどうだ?青古泉には異世界支部を任せているし、有希や青俺では統括には不向きだし、青俺には倉庫の管理だってある。この土日でイタリア支部の様子を伺って、月曜からは職場体験の担当として色々と指示して貰いたい」
「そう言われてみればそうね。じゃあ、冊子が出来次第行ってくるわね」
「すみません、あなたが潰したアジトの場所の情報を後ほどいただいてもよろしいですか?使えそうな土地なら有効利用したいので」
「ああ、かまわない」

 

 青俺の携帯のアラームが鳴り、子供たちは保育園と小学校へと向かった。
「ところで青古泉。一つ頼みたい事があるんだがいいか?来週の野球の試合が終わってからでも構わない」
「どういった内容でしょうか?」
「ENOZから一人セッターを作りたいと思っている。青朝倉や青チームのOG達が練習するのなら一緒に練習に入れてくれないか?これだけ呼吸がぴったり合う四人なんだ。トスさえちゃんとあがれば連携プレーもすぐにできるだろうと思うんだがどうだ?」
「私たちの中で一番セッターに向いてるのって……誰?」
「僕なら岡島さんを推薦したいですね。楽器もドラムですし、セッターはテンポが大事ですから」
「有希はどう思う?」
「わたしも青チームの古泉一樹と同じ。岡島瑞樹」
「セッター二人が同じ意見なんだから決まりよ!でもENOZのテンポに合わせられる残り二人を決めるすると…誰にするか迷っちゃうわね。OGも日本代表になったし、生放送の三セット目はENOZっていうのはどうかしら?」
「一人目は有希に決まってる。あんなギターテクニック有希と中西さんしかできん。ただ、そのセットは有希がスイッチ要因だけどな」
「だったら、残り一人の枠にはハルヒさんに入ってもらいたいな。あの年の文化祭のときは本当に二人に助けられたし」
「じゃあ、この六人でENOZチームが決まりね!」
「すまん、念のため確認しておきたいんだが、ENOZのテレポートの修行はどうなった?それにSOS団とENOZの新曲とCM撮影は?」
「そんなのとっくの昔に出来ているわよ。CMも古泉君が各局まわって流してくれてるわ」
「テレポートの方も基本はできましたから、あとは個人で技を磨いてもらうだけです」
「なら、俺は弁当作ったら向こうに戻って寝る」
「くっくっ、キミがここに来るまで何をしてきたのか全員知っているけど、朝の会議の最後に『戻って寝る』なんておかしいと思わないかい?」
「ですが、この中で一番働いているのはあなたですから、休めるときに休んでおいた方がいいでしょう」
「男子の世界大会、ここでやる試合だけでも出られないものかと悩んでいるところだ。申請上もう変更が効かないなら仕方がないが、都合が合えば出たい」
「それはやめておきたまえ。キミができることと言えば、鈴木四郎の催眠をかけて練習用体育館で男子の日本代表にボールを投げるくらい。折角『これが本当のアクション映画だ』とキミが告知してまわっているのに現実離れするような行為は避けた方がいい」
「これは手厳しいですね。反論の余地なしのようです」
「これで鍵開けに向かえそうだな」
「僕もそろそろ迎えが来る頃ですので」
「それじゃ、今日も張り切っていくわよ!」
『問題ない』

 

 古泉にイタリアのアジトの場所を伝えて弁当作りへ。残りのテレビ局をまわって機内に乗ってしまえばヒロインも安心して寝られるようになるだろう。今日の片付け当番は青朝倉と青有希。既に出来上がってCMで流していると聞いてTVをつけてみると、ENOZがCM担当した安比高原スキー場も雪玉を作ろうとしても作れない「アスピリンスノー」があることも余すことなく収録。実際に雪玉を作って投げようとするシーンもあった。
「スキー場は黄キョン君が提案したところで問題ないって言ってた。宮城県の泉ヶ岳スキー場のシーズンについてはキョンが天候を操作してスプリングバレースキー場と同じにするって。バスも泉ヶ岳スキー場の方に寄ってからスプリングバレーに行くこともできるみたい」
「それは朗報だ。あそこはナイターでは仙台市街を眺めながら滑ることができて、上部は上級者も滑りごたえのあるハードバーンだからな」
「黄古泉君が各局に交渉に行って数日で、週末の三泊四日で宿泊したいって電話が人事部に殺到しているそうよ?スプリングバレーはもう予約がいっぱいだからって。安比高原スキー場と泉ヶ岳スキー場のホテルも十月には予約でいっぱいになるんじゃないかしら?」
「こっちも上手く事が運んでくれるといいんだが……これでフランスに行ってまた狙撃されたらヒロインが二度と告知にいけなくなってしまう」
「問題ない。黄キョン君なら全部解決できる。今はヒロインの傍にいてあげて」
「それもそうね。火曜日は黄有希さんでも食べきれないほど注文しちゃおうかしら?」
「二人とも心強くて助かるよ。ありがとう」
弁当を作り終えた時点で影分身を解き、弁当はヒロインの自宅までテレポートしてきた。ヒロインはまだおきそうにないな。時間もまだまだ余裕があるし、時間までジョンとバトルにしよう。零式の練習は佐々木に止められたから当分やらなくて済む。
『ようやくか。だが、そうやって時間を作ってくれるだけでも十分だ。時間になったりヒロインが起きたら声をかける。それまで俺の修行に付き合ってくれ』
ああ、すぐにでも始めよう。

 

 超サ○ヤ人状態にならずにハルヒの力を全開まで引き出すのは流石に無理らしいな。この際金髪にでもしてしまおうかと思うくらいだ。それでも吹き出すオーラを制御できなければ意味がない。
『影分身と一緒で諦めた方がいい。昨日の一件での使い方は、俺も上手いと感じたが、精々逃げ道を防ぐことと殺気を放つことしか出来ないだろう』
すまんが、ジョン。あとでスカ○ター貸してくれるか?イタリアのニュースをチェックしたい。
『お安い御用だ』
 ヒロインがようやく目覚めると俺の腕をきつく締め付ける。右手にはジョンがテレポートしてくれたらしきスカ○ターがあった。ヒロインにも見えない様にしてニュースを確認……その前に、一度聞いてみるか。
「そんなにきつく締め付けられちゃ、痛いくらいだよ。リムジンは俺が持っているから到着を待つ必要はないし、昨日の夕食も残ってる。どうしたい?」
「ずっとこのままでいたいけど、そうも言ってられないし…今日の夜もここで一緒に寝かせて!」
「分かった。今日は絶対に俺の傍を離れるなよ?」
コクンと頭を下げると、服を脱ぎ捨ててシャワーを浴びにいった。ほとんど下着だったから俺の目の前で既に全裸の状態だったが……見ていないことにしておこう。それより、イタリアのニュースチェックだ。ニュースのトップに出てきたのは映画のシーンを実際に再現しているところから。影分身で周りを囲まれ、捕まえてくださいの看板を首から下げたところまで。そして、その連中が脱走したと報道され、例のアイツは残ったようだな。負傷者を置いてそれ以外が脱走したとアナウンサーが語っていた。あとは空港前、各TV局前、ホテル前で撮影したどの写真にも俺とヒロインが写っていなかったと新聞記事の一面を飾っていた。折角告知で来たのに新聞に載らないと折角の告知も効果が半減してしまいそうだ。カメラには映るという条件に変えることにしよう。
「キョン、あなたもシャワー浴びてきたら?」
「あぁ………あ``!?」
「どうかしたの?」
「いくらなんでも裸で出てくるのはまずいんじゃないか?」
「キョン、告知の間は夫婦でいさせてって言ったじゃない!夫になら裸を見られても何も問題はないわよ」
「そうか、すまない。じゃあシャワー借りるぞ」
「ええ」

 

 二人でホテルにテレポートしてきても特に問題は無し。フロントで手続きを済ませると、ヒロインを助手席に乗せて次のTV局へと向かった。狙撃手らしき視線もまったく感じないし何事もなく事が運び、ようやく空港前に到着した。ヒロインもだいぶ笑顔が戻ってきて何よりだ。俺たちが出てくるのを待っていた会社の社員に鍵を返し空港内へ足を踏み入れようとしたその瞬間、サイレンサーを備えた銃の音が後ろから聞こえる。
「くくくく……やはりこのタイミングで来たか。だが、それでも俺たちには通用しない。今おまえらが見た通りだ」
「ぐっ……貴様一体何をした!?」
「おまえが理解できるようなシロモノじゃないんだよ。それで?本当のリムジンの運転手はどこだ?」
「さぁ?知らないね。知ってても教えると思うか?」
「いいや?だからおまえの身体に直接聞くことにしようと思ってな。ところで、拳銃が効かないと分かった今、おまえらに策はあるのか?たった二人で何ができるのか教えてもらおうか」
「それは、こっちのセリフだ!」
コイツらが出てきたリムジンからさらに数人、客や報道陣になりすましていた数人が俺たちの周りを囲む。本物の報道陣がカメラで俺たちの様子を撮影していた。弾道から外れて、自衛隊のようなうつ伏せ状態。どこぞの戦場カメラマンじゃないが、いかにもこういうシーンは慣れていると言いたげだな。
「くくくくくく……はははははは……、はーっはっはっはっはっは!!」
「何がおかしい!!」
「こんな近くで大声を出すな阿呆。こんなに人数を配置していたとは思わなかったよ。俺からリムジンの鍵を受け取って振り返ったところで射殺する。そういう筋書きじゃなかったのか?ここまで大勢連れてきているところを見ると、その計画は失敗すると予想していたのと何ら変わりは無い。加えて、拳銃もナイフも効かない相手にまだそんなガラクタを使う気か?笑いどころがあり過ぎて堪えきれねぇよ。プッ、くくく………はーっはっはっは!」
「構わん!やってしまえ!!」
「知識が乏しいおまえらにハンデをくれてやる。俺はヒロインを抱きかかえて脚しか使わずにおまえらを全滅させる。当然、ヒロインに傷一つ与えることなくな」
「やれるもんならやってみがっ!」
「やれるもんならなんだって?もう一回言ってみろよ?」
腹部を足で踏みつぶしながら応えるのを待っていた。
「ああ、お仲間がピンチだと思ったのならいつでも助けに入ってきて構わんぞ。順番が変わるだけだからな?」
俺の殺気がそこにいた全員に広がった。
「そうか、残念だ。運転手二人を射殺して荷台の中に押し込んだとはね……さて、いつまでやられているつもりだ?おまえを助けようとする味方は一人もいないようだぞ?あ、そう。昨日の連中の復讐に来たんだ。だが、ちょっとおつむが足りなかったようだな。おまえらもあいつらと同じ人生を歩みたいか?おい、いつまでやらせる気だ。足を上げるのが疲れてきたぞ」
「やめ…て…くれ……」
「何?なんて言ったかもう一回はっきり答えろ。さっきみたいな大声を出してみろ」
「やめろ!!」
「おまえに命令される筋合いはない」
「ぐっ……やめてくれ、頼む!」
「人にお願いするときはどうするんだったか、小学校で習わなかったのか?」
「やめ…てください……お願い…します」
「よし、分かった。じゃあ今度は顔面だな」
「もうやめてくれ!!」
「やめて欲しけりゃ仲間に助けを求めたらどうだ?こんなに大勢いるのに、誰もおまえのことを助けに来てくれないとは、情けないねぇ。こんなんでよく昨日の復讐だと言えたもんだ。おまえらのアジトも果たしてあれをアジトといえるのかねぇ?」
「どうして……おまえが、それを」
「同じことを二度も言わすな。直接おまえの身体に聞くと言っただろう?おっと、そろそろ飛行機に乗り込まないとまずい。おまえら全員、一撃で仕留めて終わりにしてやるよ」

 

 足で踏み続けていた奴には顔面を踏みつぶして歯が五本折れた。その隣にいた奴は回し蹴りで右腕とあばら骨を折り、他の奴もあのアホと同様、両膝の骨を複雑骨折させたりしていると、自分もやられてしまうという恐怖心からようやく攻撃を仕掛けてきたが、拳銃の引き金を引こうとしたところで軌道を変え、他の奴に当てた。二度目の発砲をしようとしたところで、足払いで体勢を崩すと右手を踏みこちらも複雑骨折。ついでにトリガーが引かれ、カメラマンの腹部に命中した。ナイフで突き刺そうとしてきた奴は、こちらの間合いに入ったところで持っている手を蹴りあげ、そのまま正面蹴り。ナイフが顔面に埋もれていた。残りも同様に掃除してようやくヒロインを降ろす。
「報道陣!こいつらの乗ってきたリムジンのトランクに銃殺死体が入っている。殺人罪と銃刀法違反で今すぐ警察を呼んでくれ!じゃあ、さっさとこの国からおさらばだ。行くぞ」
「機内に入ったらまた甘えていい?」
「そうだな。到着時間を確認してまた家に帰ろう」
結局組織は一つだけだったようだし、これが本当にアジトなのかと疑問に思うくらいだ。こんなんじゃハルヒ達は満足できそうにないぞ……組織の数ばっかりでロクな奴がいない。すぐに手続きをしてイタリアから離れると、ヒロインがようやく一息ついた。
「あなたが一緒じゃなきゃ、二度とイタリアにはいきたくないわね」
「それより、甘えたいんだろ?早く戻ろうぜ」
「またドレスチェンジをおねがいしてもいいかしら?」
「お安い御用だ」
『みんな聞こえるか?百八煩悩のうちの一つがまた攻めてきた。アジトもアジトとは呼べるようなもんじゃないから暴れるなら一人で行け。その代わり、暴れ足りないなんて言うなよ?文句ならそこの組織の奴に言ってくれ。情報はジョンが持ってる』
『涼宮さんはここに残ってくれないかい?キョンもそう言ってるし、バッティング練習させてくれたまえ』
『なら、あたしで決まりね!』
『それは構いませんが、彼の言う通り暴れ足りなくて次も行くなんていうのはやめてくださいよ?』
『フフン、あたしに任せなさい!』
『ハルヒ、アジトにいる連中を潰したあとのことは分かっているな?』
『いちいち細かいこと言われなくても分かってるわよ!』
『じゃあ古泉は、今イタリア支部にいる社員を外に出ないように伝えに行ってくれ。帰りがけに襲われるかもしれん。服や下着は本店のものをタダで渡してくれて構わない。しばらくの間は客室に社員が泊まるよう指示を出して欲しい。持って来たいものについてはエージェント達にも引っ越しの手伝いを頼んでくれ。上層階も客室に変えて社員に提供して構わない。リムジンの運転手も全員殺された。社員を襲いに来る可能性が十分にある。他のメンバーは店舗の社員とアルバイトに移動型閉鎖空間を取りつけにまわってくれ。店舗ごとにいちいち説明している暇がないから有希は各店舗にFAXを頼む。社員やアルバイトに取り付けた閉鎖空間のサイコメトリーに引っ掛かった時点でジョンが救出に向かってくれ』
『問題ない』

 
 

…To be continued