500年後からの来訪者After Future4-6(163-39)

Last-modified: 2016-10-09 (日) 00:54:51

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future4-6163-39氏

作品

イタリア到着早々、イタリア支部の経営に対して恨みをもった連中からの依頼で組織が動き出し、早朝だというのに大勢の組織のメンバーが俺とヒロインを殺害しようと計画してきた。生きて返そうとすればまた狙ってくるのは間違いない。アメリカのマフィアや藤原のバカと同様、塵にして組織を一つずつ潰していった。そして告知を終えた出国前の最後の襲来。杜撰すぎるほどマヌケな計画を立て、そのためだけにリムジンの運転手を簡単に殺害しやがった。理由はヒロインにも報道陣達にも話していないがすぐにイタリア支部、及び各店舗の社員、アルバイトに通達。社員の被害が出ない様に古泉たちに対策を練ってもらった。

 

これであいつらの帰る場所は無くなった。催眠を施してヒロインの自宅へと戻ってきた。
「誰とテレパシーしていたの?」
「他のメンバーと連絡を取り合っていた。さっきの連中のアジトを襲いに行ってもらったよ。四つ潰したから、これで残りの組織は107だな」
「イタリアだけでそんなに組織があるの!?」
「ちょっと調べただけで出てくるような有名な組織だ。立ったまま話しているのもどうかと思うし、どうする?夕食を作ろうか?それとも着替えるか?」
「そうね、夕食を食べる気分にはなれそうにないから、昨日と同じようにあなたの隣で寝かせてくれないかしら?」
ヒロインが俺に触れると、昨日と同じような服のイメージが伝わってきた。色が違うだけで下着が丸見えなのは昨日と一緒か。ハリウッド女優と二人でこんなことをしているなんて経験ができる奴なんて数は少ないだろうが、俺にはハルヒがいる以上、一線は越えられない。二人同時にドレスチェンジしてベッドで横になった。
「ねぇ、あいつらとどんな会話していたの?」
「サイレンサー付きの銃で後ろから狙撃してきただろ?リムジンの手配を頼んだ会社の社員二人を射殺してその会社の社員になりすましていたのに、あれだけの人数があの場所に隠れていた。おかしいと思わないか?後ろから狙撃した時点で俺たち二人が死んでいれば、周りにあれだけの人数を配置しなくても二人だけで済んだんだ。にも関わらず、最初からその作戦が失敗するかのように多数の人間があの場所に紛れ込んでいた。空港に向かう客や報道陣になりすましてまでな。二人も殺してまであの作戦を決行したのに……クソッ!もっとあいつらに重傷を負わせておくべきだった」
「マネージャーに連絡してリムジンの手配はやめるようにしようかしら。運転手も危険だわ」
「イタリアに来る前までは何事もなかった。キャンセルはせずに様子を見た方がいい。俺が運転してもいいが、何も聞こえないとはいえ、TV局に着くごとに報道陣を押しのけてキューブを拡大する必要があるからな。不快な時間はすこしでも少ない方がいい。運転手が入れ替わっていれば、乗り込んだ時点で俺に伝わる」
「あなたに伝わるって一体どういうこと?さっきもイメージしたものをあなたに触れただけで伝わったし、シャンプー&カットもそう。どうして分かるのかわたしにも教えてもらえない?」
「まぁ、ここまで何度も見せているし、説明しておいてもいいだろう。テレパシーやテレポートと同様、サイコメトリーという能力に該当する」
「サイコ…メトリー?」
「人や物が持っている情報を読み取るなんていうのが基本中の基本。それを応用して頭に思い浮かべたイメージを読み取ったり、その確認をしてみたり。この自宅の住所を教えてもらったときもそうだ。日本語の知識を渡したのもこれに該当する」
「テレパシーにテレポートにサイコメトリー……パフォーマーっていうより、なんだか超能力者みたいね」
「俺のことをそう呼ぶ奴もいる。全米ではクレイジーパフォーマーとして噂が広がったけどな」
「でも、周りの言う通り、あなたのパフォーマンスを見ていると『クレイジー野郎』じゃ収まりきらないわよ」
「それ以外に呼びやすい二つ名が見つかるといいが、『クレイジークレイジー』や『クレイジー過ぎる』じゃ二つ名にならないだろ?」
「それもそうね。変ね、さっきまで凄く怖かったのに、あなたと話していたらお腹が空いてきちゃったわ」
「じゃあ、夕食にしよう。また後ろからくっついているといい」
「あぁ、もう二度と離れたくないわよ」
「告知している間はできるだけ二人っきりの時間を過ごそう」
「うふっ、愛してるわ。あ・な・た」
いつかは来ると思っていたが、ヒロインからの四度目の口づけを受けて二人でキッチンへと向かった。

 

 俺がヒロインの精神的ダメージを和らげている間に、ハルヒは組織を潰し、古泉は勤務時間ギリギリで社員を引き止めることに成功。翌日からエージェント達による引っ越し作業も可能だと話し、快諾を得たらしい。店舗の方も有希がFAXした内容に怖がっていたが、青俺たちが現れて閉鎖空間を付けると安心していたようだ。友人と一緒にいるときは友人を守るような形で待ってくれていればすぐに助けに来ると説明して一息つくことができたようだ。翌日、気になっていたのは日本、イタリア、アメリカの記事。ニュースはスカ○ターで確認したが、日本ではまだ報道はされていない。報道されるなら明日か。アメリカも同様のようだ。イタリアでニュースとして取り上げられるまでは気付かないだろうな。そしてイタリアのニュース、新聞の見出しは『クレイジー野郎が敵対組織を一蹴!』と掲載され、ナイフや拳銃を所持していた大勢の相手に対して大きなハンデを抱えて圧倒したと記事に書かれていた。イタリアでもクレイジー野郎で通ってしまったらしいな。ヒロインはまだ起きそうにないがそろそろ動きださないとまずい。二食分の弁当の用意を終えるとヒロインが起きてくるのを待って機内へ。リムジンに乗り込むまでは不安そうにしていたが、やはり俺たちの支部が無い国なら問題ないらしい。ヒロインに「大丈夫だ」と告げると、ようやく朝食の弁当に手をつけていた。イギリスとフランス、韓国は俺が運転するしかなさそうだ。告知をしてホテルに着く頃には、他のメンバーはジョンの世界で雑談をしている頃。夕食を食べてベッドに横になる頃には朝食の会議に間に合うだろう。スカ○ターで日本のニュースを確認していると、新聞社全社がイタリアでの事件で一面を飾っていた。写真のほとんどがカメラの映像の一番いいところだけを静止画として写した空港での様子。VTRとしてでてきたのは、イタリアについて早々、乱射された拳銃の弾を全て掴みとるシーンと出国する際にヒロインを抱えて組織の連中を相手にしていたシーン。新聞社によっては『イタリアマフィアVSキョン社長!?』と見出しをつけているところもあった。どうせまた報道陣が本社前に待機しているんだろうが、中学生の職場体験の邪魔だ。どうにかして報道陣のベクトルを変えておきたいんだが……異世界ならまだしもこっちの世界では……VTRで流れた俺の180km/h台の投球に眼を向けさせるか。

 

眠ってしまったヒロインの髪を撫でると、もう離れても大丈夫だろうとは思うんだが…念のため1%だけ残しておくか。まずはステルス状態で本社の敷地内へ。俺は今外国にいるのにどうしてここまで報道陣が増えているんだか。こいつら全員イタリアのマフィアのところに送ってしまおうかと考えてしまう。全員殴り飛ばしたいくらいだ。
『後ろから銃弾でカメラを破壊したらどうだ?イタリアから日本に来たことにすればいい。今後のためにもなるはずだ』
そいつはいい。機材をすべて破壊して空港の警備を強化するよう催眠をかけよう。爆発音を鳴らしながら次々とカメラを壊していく。後ろを向いても誰もいない。全ての機材を破壊するまでには至らなかったが、敷地外の報道陣に恐怖心を与えるには充分だったようだ。すかさず追いかけて息を切らしているところに催眠をかけて81階へと戻った。
「ただいまっと」
『キョンパパ!!』
「よう、二人ともいい子にしてたか?」
『今日はパパと一緒に寝る!』
「二人が俺の隣にいたんじゃママが寂しくなるだろ」
「じゃあわたしがハルヒママの隣に行く!」
「まだ、戻って来られるかどうかは分からんが、これそうならこっちに戻ってくるから心配するな」
『キョンパパまたどこか行っちゃうの!?』
「まぁな、でもちゃんと二人と会える時間を作るから、その時までに何がしたいか考えておくんだぞ?」
『あたしに任せなさい!』

 

 ハルヒと同様言い方一つでここまで変わるとは思わなかった。今にも泣きだしそうな勢いだったからな。まぁいい、さっさとやることを進めよう。
「昨日はイタリア支部の件でみんなの練習の邪魔をしてすまなかった。あの後進捗状況はどうなっているかおしえてくれないか?」
「出国の際にあなた方の前に現れた組織についてはジョンから情報を得て僕とハルヒさんで潰しておきました。それから、あなたが最初に潰した三つの組織のシートは外してあります。イタリア支部の上層部も客室にしてあります」
「運営の方は滞りなく進んでいるわ。そのせいであなたが襲われたようね」
「古泉、『僕とハルヒさんで』ってことはあの場所に二つの組織がいたってことか?」
「おや?サイコメトリーしたのはあなたではありませんか。お気づきにならなかったのですか?」
「ああ、リムジンの運転手二人を殺した上に杜撰な計画しか立ててなかったんで逆上していた。そいつが持っている情報よりもどれだけ深手を負わせることができたかの方を重視していたからな。それで、イタリア支部に務めている社員の中に一人暮らしの社員が居て家賃を払わされているような人間がいるようなら、イタリア支部の低層階を家賃ゼロで明け渡そうと思っている。その分、上層階はホテルフロアになるだろう。こことイタリアの時差はここの時間のマイナス七時間。つまり今は午前零時過ぎだ。こちらで夕食を食べ終わる頃には丁度昼時になるだろうから向こうで一度会議を開いて引っ越し作業を手伝って欲しい」
「では僕が向こうに行くことにします。諸手続きがあるはずですから、引っ越しは明日以降になりそうです」
「じゃあ、光熱費もすべてこちらで支払うと伝えてくれ。それから、社員食堂のスタッフに夕食時も働いてもらえないか聞いて欲しい。購買部もスーパーのようにする必要が出てくるはずだ」
「ねぇ、キョン!いくらイタリア支部内で社員を守っても運輸会社だってあるのよ?それに食材に毒でもいれられたらどうするのよ!」
「悪影響を及ぼす人間、食材、物が敷地内に入ろうとしてきたらすべてそいつらのアジトにテレポートされるように仕掛けておいた。爆弾でも持ってこようものならアジトにテレポートして、即爆発する」
「でも、それだけの対策を立ててもまた犠牲者が出る」
「アメリカのようにある程度潰した時点で踏みとどまってくれるといいんだけどね」
「アメリカとは組織の質がまるで違いますよ、昼でも夜でも関係なく襲ってくるんですからね。ニュースのVTRにもありましたが、イタリアではああいうことが頻繁に起こって報道陣もそんな事件に慣れているかのようなカメラワークでした」

 

『キョン』
「どうした、ジョン。イタリアの店舗にトラックで突っ込んだアホでもいたのか?」
『よく分かったな。だが店舗は傷一つ負うことなく運転手は警察病院へ運ばれた。サイコメトリーで得た組織の情報もある』
「やれやれ、あのアホと同じ行動をする奴が出てきそうだと思ったら案の定か。まだ深夜だっただけ良かったな」
『店舗にトラックで突っ込んだ!?』
「末端組織のやることなすことすべてアホの谷口と大差がない。異世界のあのアホの催眠を一度解いて催眠と同じことを俺たちがやりたいくらいだよ。もういい、末端組織を潰しながらでかい組織を探しに行ってくる。ハルヒや有希、朝倉、佐々木は今日来る予定の中学生たちに無料コーディネートをしてやってくれ。朝倉が面接室に入っただけで黄色い声をあげていたんだ。四人で行けば嬉しがるだろう。そのあとでかい組織で暴れ回ってくれればいい」
「ところで、イタリア支部の人事部は大丈夫かね?」
「でっ、でも、偽名は通じないと散々分からせたはずなんじゃ?」
「確かめる必要がありそうですね。黄僕が会議を開いている間は僕が対応します。黄朝比奈さん、北口駅前店をお願いしてもよろしいですか?それから朝比奈さんにも電話対応を手伝って頂きたいのですが」
『勿論です!』
「ちょっとあんた、あたしを忘れないでほしいわね!夕食を食べ終わった後なんでしょ?あたしも行くわ」
「私も一緒に連れて行ってください。それから、ハルヒさんに一つお願いごとがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「森さんがあたしに?」
「はい、青チームの我々にイタリア語だけでも構いませんので、あなたがマスターした言語を渡したいのです」
「そんなのいいに決まっているわよ!イタリア語だけなんて言わないで全部渡して!キョンがフランス、イギリス、韓国に告知に行けば同じことが起こるかもしれないんだから!」
「ありがとうございます。では、青チームの我々も電話対応に参加させてください。昼の疲れや眠気は古泉にとって貰うことにします」
「すまないが、こちらの森と裕は渋谷店と二号店の店長だ。私はイタリアでの電話対応で構わないが、あと一人は渋谷店についてもらいたい」
「双子を保育園まで連れていったら私が行く」
青有希のセリフに合わせるかのように青俺の携帯のアラームが時刻を知らせてきた。
「じゃあ、あまり気分のいい会議ではなかったが、各分担で宜しく頼む」
『問題ない』

 

 ジョンから聞いたアホのいる警察病院へ。サイコメトリーでより詳しい情報を引き出しあのアホと同じ1000年間俺から地獄の苦しみを与え続けるという催眠をかけてその場を去った。髪の毛がすべて抜けてようが知ったことか。丁度いい場所もないし、俺流の牢獄を用意してやろう。そうだな……条件を付けるとすると……壁を叩くとそこからナイフが飛び出してくることにしよう。どのみち後で吹っ飛ばすからな、多少の傷を負っていても何の変化もない。得た情報を基にアジトのど真ん中に直接テレポート。
「よう、こっちから遊びに来てやったぞ」
「貴様、出国したはずじゃ……」
「おまえらみたいなアホ共をのさばらせておくとロクなことにならないんでな。カモラをすべて潰しに来てやった」
「カモラすべてだと?やれるものならやってみろ!!」
「悪いが、俺の方から攻めるとおまえらが何もできないまま死んでしまうんでな。死にたい奴からとっととかかって来い」
「てめぇが死ね!!」
後ろからナイフで切りつけようとしてるのに、こっちから攻撃しますと自分でバラしていちゃ世話ねえな。さらに後ろをとって胸部を貫き、心臓を握りつぶして見せる。
「俺の言ったことが本当だと理解できたか?今こいつの心臓を握りつぶした。あと何分生きていられるかな?」
「そ…んな……バカ……な………ぐふっ」
「撃て!そいつを撃ち殺せ!!今なら銃弾は掴み切れない!」
「ほう、多少は頭が回る奴がいたようだ。おい、まだ生きているか?おまえの仲間はおまえに向けて発砲しろと命令を下した。俺がおまえを盾にすることを見越してな?最後に言い残すことはあるか?」
「お、れ…に……かま………わ…ず……う……て…」
「見事な死に様だよ。すぐにおまえの仲間も地獄に送ってやるから安心しろ」
全方向から拳銃が狙いを俺に定め弾幕の嵐が俺と死にかけの一人目掛けて放たれたが、閉鎖空間で跳ね返り、過半数が傷を負った。
「馬鹿な。何一つ動きもせずにはじき返しただと!?」
「『Nothing Impossible』俺に不可能はないってことだ。おまえらもコイツと同じ命日だ!」

 

最初に串刺しにした奴を牢獄へとテレポートすると一人一撃で重傷を負わせてからテレポート。いくら喚こうがもう容赦はしない。隠れていた奴も含めてすべて牢獄へ送ったところで、金品を強奪、俺たちに関わる書類を焼き捨て武器もすべて破壊して次のアジトへと向かった。サイコメトリーしては次のアジトへと繰り返すこと数時間、1%を残してきた意識がヒロインの目覚めに気付いた。今暴れているアジトが終わるまでは俺は寝ていることにしよう。
しかし、組織の数が多いだけで構成員はほとんどいない。金品も全て回収、武器も全て破壊した。あいつらに丁度いい組織も見つけたし今日はこれで終わりにしておこう。カモラも残り87組織まで減っていた。あとは牢獄に入れた奴等を粉々にするだけだ。牢獄と一緒に上空へテレポート。飛行機が周りにいない事を確認して超サ○ヤ人化。全力のかめ○め波で吹き飛ばしてやる。
『キョン、次は俺にもやらせてくれ』
どうせそうくると思ってたよ。ついでに声帯も似せてみよう。
『避けられるものなら避けてみろ!!貴様は助かっても地球はコナゴナだ!!』
「か~め~○~め~波――――――――――――――――――――!!」
『何ぃ!!俺のギャ○ック砲とそっくりだ!!!』
あ~もう!無視だ無視。とりあえず牢獄にいた奴はすべて吹き飛んだ。これで一旦様子見だ。金品の入ったキューブをイタリア支部の金庫に収め、影分身を解くと、裸になったヒロインが俺の上にまたがっていた。ついでに俺の服も半分以上脱がされている。どこか心地いいような気分がすると思ったらこういうことか。

 

「ストップ、ストップ!」
「嫌、止めないで!!」
「たとえ告知中は夫婦でも、これ以上はハルヒも怒る」
「お願いよキョン。怖くて仕方がないの。さっきもあいつらに襲われてる夢を見て……私が撃たれて……」
「とりあえず、このままでもいいから横になって少し話していよう。それなら夢を見なくて済むだろ?」
「こんな中途半端で横になるなんて嫌!」
こんなことしていたとハルヒにサイコメトリーされたら離婚騒動になってしまう。やれやれ、なんとか対応策を考えないといかんな。
「なら、今回だけだ。見ててやるから自分で動いてみろ」
「えっ!?あなたに見られながらなんて……恥ずかしい」
「俺は動くつもりはないぞ?」
「もう!分かったわよ。でも視線が合うのは恥ずかしいから後ろ向かせて」
「へぇ、お尻は見せてもいいんだ?」
「あなたになら見られたって平気よ」
結局そのまま180°向き直り、背中とお尻を見せたところで再度動き始めた。しかし、流石はハリウッドスター。ウエストに余分な脂肪が一つたりとも無い。この三、四日はずっと俺の傍を離れずにいたが、毎日何かしらのトレーニングをしているんじゃないのか?まぁ、今度聞いてみることにしよう。新川流料理のせいで太ったなんてことになったらまずい。大きな声を出したかと思うと、身体が弛緩し上半身が俺の方に倒れてきた。悪戯心で胸を触ってみるとビクンと反応した。イタリアだけでこんな調子じゃイギリス、フランスと耐えられるかどうか……嫌な記憶だけ抹消するなんてことができればいいんだが……って、それだ!!!

 

とりあえず、決行は今日の夜。あと四時間もしないうちにリムジンが到着する。余韻に浸っていたヒロインがようやく動き、五度目の口づけをされてから腕枕の形をとり、足をからませてきた。って1%の俺が寝ている間に何度もキスされていたかもしれんな。反対側の腕で髪を撫でると、先ほどよりもさらに笑顔になっていた。
「ねぇ、一夫多妻制を採用しない?私、この映画の告知が終わったら、あなたの会社で働きたい」
一夫多妻制を採用したいのはヒロインに限ったことではない。有希や朝比奈さん、W佐々木だって同じ気持ちなんだ。それに、ただでさえこの世界の戸籍上ではハルヒ、青有希の二人が俺の妻ってことになっているんだ。しかし、俺たちの会社で働くか。アメリカ支部のデザインした写真のモデルになるのならこれ以上の人材はいないが、半日以上時差があるんじゃアメリカ支部は嫌がるだろうな。かといって日本で掲載するとしても……一大事件に発展することに違いはない。異世界じゃ絶対に載せられないしな。
「ファッション会社にモデルとして勤めるのなら、これ以上の逸材は無いくらいだが、日本中が大騒ぎになるぞ?」
「別にいいじゃない!報道陣の前ではっきり言ってやるわ。今後はキョンの会社の専属モデルとして働くって」
「じゃあ、それにはまず、ハルヒがどういう奴だったか話すところから始めないといけないな」
「ハルヒさんが?」
「そう。俺とハルヒが出会ったのは高校の入学式の日。ちょうど俺の後ろにハルヒが座ってな。出席番号順に自己紹介していったんだが、ハルヒがそこで何と言ったか」
「そんなに変なことを言っていたって事?」
「今でも一語一句間違えることなく覚えているくらいだ。『東中出身、涼宮ハルヒ。ただの人間には興味はありません。この中に、宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたらあたしのところまで来なさい!以上!』こんなことを聞いて呆れない奴は誰一人としておらん」
「確かに聞いている限り、突拍子もないこと言っているように聞こえるけど、それで、その後どうなったの?」
「本当に集まってしまったんだ、全部」
「全部集まった!?宇宙人も!?………超能力者はキョンでしょ。でも他の三つは?」
「俺はその入学式前日までは至って普通の一般人だったんだが、未来から意識と超能力だけをこの時代に送ってきて俺の頭の中に入り込んだ奴がいてな。そのせいで俺が超能力者になってしまったんだ。因みに、それ、誰だと思う?」
「ちょっと待って。ってことは、私の知っている人の誰かが未来人兼超能力者ってことになるじゃない!」
「そう、そして、俺の頭の中に入り込んだから、さっきのことも全部そいつに見られてる」
「え―――――――――!!私、あなた以外の男の人にあんな姿見られたってこと?」
「そういうことになるな。ただ、身体を持ってないから人間の三大欲求が全くないんだ。飲み食いはしないし、気分でしか寝ないし、性欲に至っては何があろうと一切何も感じない」
「………ジョンしか思い当たる人がいないわね」
「正解、500年も未来からやってきたんだよ」

 

 こんな出来事、はいそうですかと素直に受け入れられる事の方がどうかしてる。まぁ、どの道記憶を消すし我が社の専属モデルとして働くなんて考えも無くなるだろう。本社に呼ぶとしても天空スタジアムを一度持ち上げて101階を作るというとんでもない工事をしなきゃならん。やっと納得できたところで、毛布で体を隠すと別の部屋で着替え始めた。俺も脱がされた服を着て弁当の支度をしないとな。
『キョン、記憶を消すなら今の方がいい。今日の告知でどんなこと口走るか分かったもんじゃない』
そうするか。俺もどうせ消してしまう記憶を最初から最後まで話すのも面倒だしな。ステルスを張って後ろから近づき眠らせると、イタリアでマフィアに襲われた記憶と今の一連の会話を抹消。それに加えて俺も影分身で自分の記憶からさっきのヒロインとのやりとりを削除した。下着姿に戻してベッドに寝かせると眠気を全て取り去った。弁当作りに取り掛かってしばらくしたところでヒロインがようやく眼を覚ましてきた。
「キョン、おはよう。あなたも早いのね」
「ああ、昼食の分も作らないといけないからな。良く眠れたか?」
「うん、あなたがずっと傍にいてくれたからかな。でも、あなたと一緒に起きたかった。わたしが先に起きて、あなたのぬくもりをもう一度実感したかったな」
「そんなことならこれから先いつでも機会が来るだろ。まだ八分の一しか終わってないんだからな」
「でも、今がいい」
いつの間にかベッドから起き上がって俺の後ろに近づいていたらしい。下着姿のまま、後ろから俺に抱きついてきた。こんな調子じゃいくら他の国で襲われそうになっても「専属モデルとして働く」なんて言いかねん。結局弁当が出来上がるまで抱きついたまま俺の傍を離れることは無かった。今、イタリアは早朝ってところか。ヒロインに着替えてくるよう指示を出すとスカウターでイタリアのニュースを確認した。組織を潰していたのは深夜の出来事だからな。建物を破壊したわけじゃないし、組織が壊滅していることに気付くのももう少し時間がかかるだろう。あとは職場体験の生徒達の様子でも確認しておくか。

 

「キョン、あなたそれなあに?」
「え?それって?」
「あなたが耳につけているものよ」
おい!ジョン、一体どういうことだ!?
『どうやら、関係者だと俺が勝手に判断してしまったようだ。どの道つけさせるつもりだったんだろ?いいんじゃないか?説明してやっても』
記憶は消したが、俺たちのことについて喋ってしまったからかもしれないな。
「関係者外には全く見えない様に条件をつけておいたんだが…見えてしまったのなら説明せざるを得ないな。これで日本や他の国々のニュースを見ていたんだ。どんな報道のされ方をしているかとか。特に最初の国では報道陣のカメラに写らない様にしていたからな。告知にちゃんとなっているのか心配でつけていたんだ」
「ふふっ、ってことは私もあなたの関係者内になったって事かしら?どんな報道のされ方していたのか教えてくれないかしら?私じゃ英語と日本語しか分からないから、聞いてもしょうがないわよ」
「アメリカと一緒だ。カメラで写したはずなのに写ってないって逆に一面を飾ることになっていたよ」
「じゃあ、行きましょ。今度は…確かスウェーデンだったかしら?今度はあまり時間を取れそうにないわね」
「なら、早めにホテルに戻ろう」
また後で調べてみる必要がありそうだ。ホテルに戻ってチェックアウトを済ませると残りのTV局をまわって空港へ。座席に着いてすぐヒロインの自宅に戻ると、弁当を洗いながら夕食の準備。そういえば、結局初日の職場体験の様子は見られなかったな。イタリアの様子も気になるが、今はヒロインを寝かせてしまう事が先決だ。

 

夕食後、先にシャワーを浴びてスカ○ターでイタリアのニュースをチェックしていた。ヘリでの狙撃も十分あり得ると思っていたが、今のところ特に何も無い。ジョン、青古泉たちは何か言っていたか?
『偽名でのキョンへの取材電話が殺到していたそうだ。社員の話だとキョンが来伊してからずっとらしい。社員に二、三日休むよう伝えて電話対応に回るらしい。それと、マフィアについてだが、フランス、イギリスについては心配いらないが韓国は気をつけた方がいい。マフィアの語源になったのがイタリアということもあって、イタリアだけは全組織を滅ぼす必要があるかもしれない』
イタリア支部なら社長に報告するといえば引き下がるだろうし、警察に通報する方も問題ない。警察が賄賂を受け取っていたのはマフィアの方であって報道陣ではない。それより、今日の職場体験の生徒の様子でも見てみよう。朝倉や新川さんが怖がられて無ければいいが……本社の様子が写ったところでヒロインのダイブを喰らい、ベッドに押し倒されてしまった。
「もう、またニュース!?スウェーデンまで少ししか時間がないんだから、ちょっとでもあなたと二人っきりにさせて」
「今見ているのは本社の様子だ。この前話しただろ?日本では職場体験っていう制度があるって。その生徒たちの様子を見てる。よかったら一緒にどうだ?日本語だから分かる筈だ」
「面白そうね。どんな風に中学生が働いているのか見てみたいわ」
ジョンが気を利かせてすぐにスカ○ターを出してきた。デザイン課の様子が写っている。他の社員と同様五人の生徒一人一人の作業台が設置され、それぞれがデザインを考えていた。二日目のファッションも昨日ハルヒ達に選んでもらったものに私服をプラスして文句なしのコーディネート。それに、髪型についても、おそらく朝倉が説明したんだろう。『体育の先生あたりに髪はしっかり結びなさいとか言われているだろうけど、ここではどんな髪型でも構わないわよ』とかな。しかし、次の国に着いたらすぐにホテルだが、それでも仕込みは夕方からになるのか。青朝倉に悪い事をしてしまったな。
『それについては心配いらない。涼宮ハルヒが材料が届き次第捌き始めることになっているようだ。今、本マグロを捕まえに行っている。俺の世界に来ていた時点でキョンの様子を確認していたからな。キョンが本マグロを取りに行く時間はないと判断したようだ』
そいつはありがたい。さっさと二人前作ってヒロインにもってくることにしよう。

 

「可愛気があるからまだ子供だって分かるけど、この中に紛れちゃうと他の社員と区別がつかないわね。羨ましいなぁ、ねぇキョン、私やっぱりこの映画で引退することにするわ。こんなに楽しい告知をするのも最初で最後なんだもの。あなたが映画に出ないのなら、疲れと眠気だけしか溜まらない告知なんてもうごめんよ。化粧でごまかそうとしてもごまかしきれないんだもの。引退したらあなたの会社に入れてくれないかしら?」
結局こういう方向にいきつくのか……これじゃ、どう記憶操作していいものやら分からなくなってしまったぞ。
『天空スタジアムが出来た段階で100階を閉鎖して彼女の部屋にすればいいだろう』
それはそうだが、ハルヒ達が何て言うか……
「ねぇ、私じゃダメかしら?」
「ダメなわけじゃないんだ。むしろ、モデルとしてデザインした服を着こなしてくれるのならこっちとしても大歓迎したいくらいなんだが………これで引退すると言って周りはそう簡単にOKしてくれるのか?今後は俺たちの会社で働くって言って納得してもらえるのか?マネージャーやSPだって職を失うことになるんだぞ?」
「私が説得して次の職場を見つければ文句はないんでしょ?時間はかかるかもしれないけど、なんとかなるわよ!」
「だと良いんだが……とりあえず、そろそろ機内に戻ろう。もう必要なければ、これは俺が預かる」
「関係者外には見られないんでしょ?なら、もう少し様子を見させてもらえないかしら」
「分かった。もしモニターが邪魔になったら外側のスイッチを押すだけで自分にも見えなくなる。装着感は残るがそれでもよかったらつけていても構わないし、いらなければ外して返してくれればそれでいい。ここ二、三日ずっとシャワーばかりだったからな。俺もゆっくり湯船に浸かりたいんだ」
「お風呂に入るときだけ外せばいいのね。生徒がくるのは平日ずっとって話していたからこの子たちがどんな風になるのか気になるのよ」
「とりあえず機内に戻るぞ」
スウェーデンの空港から出た後の報道陣の様子はどの国でも同じ。手配したリムジンに乗り込んで……問題ないな。一路ホテルへと向かっていった。ヒロインもスカ○ターから見える映像に興味津々だ。ランチタイムで80階に六人で昇ってくるとその手には料理長のスペシャルランチの券が握りしめられていた。新川さんを怖がる様子もなく……というより、他の女性社員から
「昨日の最終回見ました!!とってもカッコ良かったです!!」
などと言われて新川さんも照れくさそうにしていた。OGのように叫びはしなかったが、生徒の新川さんの料理に対する反応も良好。

 

 ホテルに着いてヒロインの自宅に戻ってくると、即座にヒロインがバスタブに湯を張りにいった。当然先に入ってもらうとして、双子やハルヒとの時間がようやく取れそうだ。ところでジョン、ヒロインの記憶操作の件ハルヒ達は知っているのか?
『いや、まだ知らせていない。古泉一樹の記憶操作の件もあるし、キョンにしか話していない。ただ、キョンの言う谷口という男の両親を俺が洗脳させたことはみんな知っている。解決策として上がる可能性は十分にあるってことだ』
それなら十分だ。ハルヒ達を説得させる理由として成立する。これから韓国でも起こりそうなら尚更だ。ところで、今日の現実世界の新聞の一面はどうなってる?
『え?それはその…なんだ、直接見てもらった方が早い』
やれやれ、おまえ、俺が映画撮影している途中に選手としてホームラン打ったときとまるで変わってないな。隠し事をするのが下手過ぎる。おまえが一面飾ったんだろ?
『とっとりあえず、見てみれば分かる』
「わっ、これ日本の新聞記事!?これジョンよね?へぇ~『驚愕のラストバトル!!ジョンVSエージェント八人!!』かぁ。確か、キョンも今度ドラマに出るのよね?トップスタイリスト役だったかしら?」
「まぁ、別人になりすましてだけどな。俺が素のまま出ると主役が映えない上に設定が難しくなるからダメだとうちの脚本家に言われたよ。頭の切れる犯人役として出ろと一度言われたこともあったが却下された」
「それもそうね……ん~~~あなたが素のままで出られる役なんて想像もできないわよ」
「とりあえず、俺は一度日本に戻る。以前寿司の話をしただろ?それを作ってくる。この新聞を読んでいても構わないし、旅行雑誌見ながら今度行きたいところを探してもらっていても構わない。何かあったらテレパシーで連絡してくれ。一人分だけ送って先に食べていてもどれが何の食材なのか分からないだろうから」
「寿司?あの寿司がまた食べられるの?じゃあ、私寝ないで待っているわ!」
「すまん、家族の時間も少し持たせて欲しいんだ。だから先に寝ててくれ。戻ってきたら起こすよ」
「そっか。折角一晩一緒に過ごせると思ったんだけど……そうだよね。キョンも家族がいるものね」
「どの道スウェーデンにはもう一日滞在するんだ。そのときは一緒だ」
「約束よ!?」
「ああ、問題ない」
しかし、英語を使っている国の人間に日本語をマスターさせてこうやって記事にするとそういう話し方になるとは想定外だ。『ラストバトル』と『ジョンVSエージェント』、『トップスタイリスト』の三つが流暢な英語になっていた。中学校のALTでも十分通用しそうだな。英会話教室でも開くか?……って、ハリウッドスターをそんなことに使うなんて、俺の思考回路はもう欠陥だらけになってしまっているらしい。

 
 

…To be continued