500年後からの来訪者After Future5-15(163-39)

Last-modified: 2016-10-22 (土) 14:29:15

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future5-15163-39氏

作品

国民的アイドルチームとの試合も終わり、鉱山の発掘作業へと乗り出した。磁場さえ作られれば誰にでもできるものなんだが、その様子が知りたいからと結局全員で行くことに。その夜、限度を超えてもまだ抱き合っていたハルヒとOGが以前の青ハルヒと同じ状態に陥り、青古泉と思考回路が変わらない奴だということを全員の前でカミングアウト。たまには新聞社や週刊誌にも謝罪をしてもらおうと有希に一面記事を差し替えてもらったが、アホの谷口と同レベルばかりで解決策が見い出せんらしい。明日にでも報道陣に催眠をかけに行く必要があるかもな。

 

 文芸部室を出てバイクに乗った俺に後ろからみくるが心配そうに声をかけてきた。
「キョン君、青古泉君の考えたランジェリーじゃないですけど、わたしが普段使っていた椅子の妄想を全部受け取って大丈夫なんですか?」
「意外とああ言う奴ってのは、一線を越えられずにいるもんなんだ。青古泉だって、ちょっとでも線を越えたら鼻血が出てくるだろ?青OGもハルヒと一緒にダウンしているし、そこまで過激なものは無かったが、ちょっと後で試してみたくなったものがあった。今日はマッサージが終わったらみくるは個室だな」
「そんなに恥ずかしいことなんですか?」
「ちょっと現実的ではないってだけだ。大体な、高校の部室に置かれた椅子ごときにそこまで過激な妄想ができると思うか?しかも文芸部だぞ?官能小説ばかり読んでいるような奴がいるなら話は別だが、とにかく、アイツにとってみくる以上の女の子はいなかったってことだ」
「それで、どでかいダイヤモンドって言ってましたけど、キョン君どうするつもりなんですか?」
「簡単だ。どでかいハート型のダイヤモンドを作ったら閉鎖空間で囲って条件をつける。『この空間内の物体の質量はすべて十分の一になる』ってな。それなら負担もかからないだろ?」
「すごい、そんな簡単に解決できるなんて……」
「佐々木たちの研究も、超能力も、勉強も、要は閃きと修錬だよ。みくるだってドレスチェンジできるようになった。今度はキューブの拡大縮小だったり、お茶がこぼれないように膜を張ったりする練習をしてもいいんだ」
「そうですね。また来るって約束もしましたし、お茶がこぼれないようにわたしも色々試してみます」

 

 北高から帰ってくる途中で、ようやくハルヒとOGが復帰できたと同期で連絡が届いた。昼食は結局食べられず仕舞いだったが、夕食は揃って食べられそうだ。
「ごめん、青あたし!昨日は自分を止められなくて……」
「指揮をするくらい何の問題もないわよ!あたしも同じようなことあったみたいだし……涼子とこっちのキョンにそのときの様子を聞かされて恥ずかしかったわよ」
「青私ももう少し考えて行動してよ!?」
「ごめんなさい。私もハルヒ先輩と一緒で自分のこと止められなかった」
「ちなみに、あんたの思考回路が青古泉先輩と一緒だって、もうここにいる全員知っているからね!?」
「えぇ――――――――――――っ!?なんでそんなことになっているの!?」
「私たちじゃ言いにくいだろうからって、キョン先輩が私たちの代わりに説明してくれたわよ!」
「そ、そんなぁ………」
「くっくっ、それで、もう一つの思考回路の方はどうだったんだい?」
「結局、キョン君が全部サイコメトリーしちゃいました」
『全部サイコメトリーしたぁ!?』
「あんた!あれほど止めたのになんでサイコメトリーしちゃうのよ!バカじゃないの!?」
「それで、何ともないのか!?」
「ああ、こちらの読み通りだ。普通の高校の文芸部室のイスごときにそこまで妄想できるはずもない。青古泉だって一線を越えたら鼻血が出るんだ。朝倉や有希は気分を害するかもしれんが、俺なら青古泉でも多分平気だ。それより、アイツからいい情報を貰った。『左右色違いのどでかいハート型のダイヤモンドピアスじゃ駄目なのか?そういうものこそ、みくるにはふさわしいだろう?』だとさ。当然、周りの連中がみくるの耳がそんな重さに耐えきれるわけないって反論していたんだが、閉鎖空間の条件次第でいくらでも軽くできる。あとはガーネットかルビー辺りをとってきて形を整えるだけだ。そのピアスを付けた状態でもう一度文芸部室に顔を出してくる。丁度今青古泉とみくるのドラマを見せているところだ。何かあれば聞かせてくれと伝えておいた。ついでに、エスカレーターのメンテナンスもそろそろしないといけないと思っていたくらいだからな」
「古泉君と同じ思考回路のイスにしては、随分まともな意見が出たわね」
「失敬な。僕だってお二人に合ったジュエリーなら既に考えてありますよ」
「ならその情報も俺にくれ。不必要なものは影分身に記憶を消してもらうだけだ」
「あんたね!これ以上は本当に潰れるわよ!?」
「丸一日潰れていた奴の言うセリフか?面白そうなものがあれば、どっちのハルヒにも試してやるよ」
「では、のちほど情報をお渡しするということで」
「ああ、だがその前に鉱山に行って落盤しない様に閉鎖空間で固めてくる。俺たちが発掘したせいで死傷者が出たなんてことにならないようにな。丁度、タンザニアにガーネットの鉱山もあるし、そこでとってくるつもりだ」
「くっくっ、面白いじゃないか。ぜひ作って反応を聞いてきてくれたまえ。それに、彼は他にどんなことを話していたのか教えてくれないかい?」
「おまえに相談があるって言ってようやく了承したんだが、まず『こ、この椅子はみくる専用のものだ。キミのはあっちにあるだろう?』、『みくるのこと以外の相談ならお断りだぞ?』、『そ、そういうことなら手伝わんでもない。しかし、今の状態でも十分大人っぽいんじゃないのか?』、『俺の納得するものじゃないと認めないぞ?ああ、左右の色は変えてくれ』、『キミ、結構分かっているじゃないか。お互い気が合いそうだ』だったかな。最後のは断固拒否するけどな。アイツから『お互い気が合いそうだ』なんて言われるとは思わなかった」
「佐々木さんの言葉を復唱してしまいますが、どんな会話をしたら彼からそのような言葉が出てきたんです?」
「最初は両方ハート型のダイヤモンドだったんだが、さっき説明したとおり、左右の色を変えてくれと言いだしてな。片方がダイヤモンドなら、もう片方はルビーかガーネットあたりだろうと言ったら、その言葉が出てきた」
「なるほど。どちらも黄朝比奈さんのことを考えていたからこそというわけですか。ということは、僕ともお互い気が合いそうですね。二人とも妻として迎えているわけですから」
『合うわけがないじゃない!』
妻全員がほぼ同じことを同時に発言した。W佐々木は語尾に「か」とついていたし、有希は「合うわけがない」で終わっていた。

 

「あの~キョン先輩、原石の仕分けが終わったら、キョン先輩がデザインしたネックレスを私にくれませんか?二人はもうネックレスをしていますけど、私も先輩のデザインしたネックレスで世界大会に出たいです!」
「あっ、それなら私もお願いします!」「私も!」「キョン先輩私も!」
「あのな、俺や青俺のセンスならこの前見ただろうが。俺にネックレスのデザインを求められても答えられんし、つけていて恥ずかしくなるぞ。それをやるなら、青古泉がWハルヒのために考えたネックレスの方が、デザインとしてはよっぽど良くなるはずだ」
「その可能性は高そうね。女性のランジェリーをどうしてあそこまで知り尽くしているのか、わたしもあのときは不思議でしょうがなかったわよ」
『キョン先輩がデザインしてくれたものがいいです!!』
「そう言われてもなぁ……結局他の何かを参考にすることになってしまうし、俺がデザインしたなんて言えなくなってしまうぞ。それに試合をTVで見て、ネックレスが映る度にこっちが恥ずかしくなってしまう」
「くっくっ、僕たちの研究と同様、キミもゼロから作りだすことになりそうだ。アイディアが豊富に浮かぶキミが羨ましくてならなかったけど、今回は一緒に悩んでみないかい?」
「分かったよ。なら明日は佐々木とチャペルに行ってくる。昼には一旦戻るから俺たちの分も作ってくれ」
「ちょっと待ちたまえ。どうしていきなりそんな話になるんだい!?」
「別のことを考えていた方が閃きやすいのと、W佐々木と行くなら、ポルシェで全速力なんて真似はしたくない。佐々木は楽団の練習もあるし、明日行くのが一番いい。それだけだ。ドレスの準備しておけよ?」

 

 そのあとすぐジョンが出てきて夜練が始まってしまった。青古泉からデザインを貰うことはできなかったが、まぁ、ああ言っておけば今夜はそのことばかり考えているだろう。それから情報を受け取った方がいい。69階の方はようやく12人全員がベビードールを着るようになり、100階ではみくるが浮かない表情をしていた。
「みくるもそんなに心配するなって。『これだけで終わりなんですか?』なんて感想しか出てこないぞ?」
「そんなこと言われても……」
「ふふっ、でも、わたしもお願いしようかな。キョンがデザインしたネックレス」
「おまえ、夕食のときの黄俺の発言聞いてなかったのか?別々に考えていたはずなのにまったく同じになったなんてことになりかねんぞ!?」
「黄キョン君は四人分作らなくちゃいけないんだから、キョンはその後。それなら絶対に被らない」
「くっくっ、それは面白そうだ。どんなものになるのか僕にも見せてくれたまえ」
「そういえば、古泉も作るものやデザインは決まっているみたいだが、材料が欲しいとは言ってこないな。買いに行かなくても材料さえあれば、アイツなら5秒もかからんと思うんだが……」
「古泉君がどうするつもりなのか、キョン君知らないんですか?古泉君ならキョン君と一番気が合うと思いますけど……佐々木さんが嫉妬するくらいですから」
「そうだね。本当に羨ましい関係だよ。阿吽の呼吸で会話が成立するんだからね。僕だとついつい長話になってしまうんだ。キミも、もう少し察してくれたまえ」
「おまえがどんどん違う方向にベクトルを変えていくからだろうが!古泉とはベクトルが同じだけだ!佐々木の場合、いつのまにやら話がまったく関係ないものになっていて、そういえば、何話していたんだっけ?なんてことになりかねん」
「僕のせいだって言うのかい?」
「俺が修正しようとするとさらに深入りしてくるから、いくら俺が元に戻そうとしても全っ然元通りになる気配が一向に訪れない。まぁ、古泉もあいつなりのポリシーがあるんだろう。圭一さんたちも純金の腕時計は嫌だそうだ」

 

 今日着る予定のベビードールを選んだみくると個室に入ると、パイプ椅子を情報結合して裸のままそこに座るように指示を出した。指を鳴らした次の瞬間、パイプがみくるの両手両足に絡み付き、動けない状態にしてから秘部を刺激し始める。
「どうだ?これがアイツの妄想のすべてだ。このくらいじゃ満足できそうにないだろ?」
「そ…うですねっ。キョン君の言ってたことが良く分かりました。これくらいじゃ、満足できそうにないです」
みくるの発言を受けてパイプ椅子の情報結合を解除。お姫様抱っこでみくるを抱えてベッドに横になった。大分胸も張ってきたようだし、みくるの母乳も吸いださないとな。
「今日はいっぱい抱いてやる。刺激に耐えるんじゃなくて身を任せるようにするといい。ハルヒたちのようにならないように気をつけろよ?」
「嬉しいです。キョン君、わたしのミルクをまた飲んでください」
「みくるのミルクなら、どれだけ胃を圧迫していても飲めそうだ。こういうのを別腹っていうんだろうな。ありがたくいただくことにするよ」
ハルヒたちも昨日の失態を繰り返すようなことは無く、満足したところで眠りについていた。
 皆が寝静まっている頃、本体は原石を発掘した鉱山へとやってきた。目的は落盤や地盤沈下による死傷者がでない様にすること。そして、タンザニアのカンガラ鉱山に眠っていると言われるガーネットを採りに行っていた。ピンクサファイヤとタンザナイトだからな。他の四人もできれば色の付いた宝石にプラチナか24Kゴールドのチェーンにしたい。採掘しては閉鎖空間で固定するという、一件シンプルそうに見えてかなり大がかりな作業を続けていた。ものによってはピンクゴールドやイエローゴールドをチェーンにした方がいい場合もある。色々と調べたところ、コロンビアのムソー鉱山に最高品質のエメラルドがあるようだし、そっちも採りに行ってこよう。しかし、サファイアが採れる鉱山なのに地名がエメラルドというのは驚いた。オーストラリアに実際にそういう名前の地名があるっていうんだから驚きだ。まぁ、日本でも苗字とその地域の名前が一緒なんてことはよくあるからな。仕分け作業も手慣れてきたところで、もう一体影分身を用意して作業にあたっていた。ダイヤモンド、プラチナの仕分けを終え、今は採ったばかりのガーネットの仕分け作業。色の濃淡でさらに仕分ける必要があったが、サイコメトリーした情報を元にやっていると、そこまで面倒という程でもない。日が経つにつれ毒サソリの死体が増えていたが、本体が仕分け作業に入らない限りはどれだけ刺されようが関係ない。

 

 翌朝、周りにいた全員が緊張の面持ちをする中、ハルヒ達に似合うというネックレスの情報を青古泉から受け取った。青俺だったか誰だったか正確には覚えていないが「雑念の方が多すぎる」という発言が出た記憶がある。確かに雑念の方が多かったが、女性陣は嫌がっても、そこまで気になる程でもない。
「あんた、本当に大丈夫なわけ?」
「すぐに不必要な記憶を抹消した方があなたの身のため。今感じている気分も一緒に」
「今の感想を素直に言ってもいいか?」
「遠慮なくおっしゃってください。昨晩、考えに考え抜いたものばかりですので」
「確かにハルヒ達に似合いそうなデザインばかりで、女性誌にも載せたいくらいだ。若干これはアレンジした方がいいんじゃないかなんてものもあったけどな。まぁ、それについては俺個人の意見であって、朝倉や有希がどう判断するかで冊子に載せるかどうかが決まるだろう。だが、残りの雑念については………『なんだ、この程度か』というのが率直な感想だ。もしかすると俺の方が変態なのかもしれん。または、普段表に出しているから、周りからの眼があまり良くはないものの、根は意外と純粋だっただけってことも考えられる。みくるの椅子もそうだったし、青OGも、周りが言う程、大して変態でもないんじゃないか?」
『キョン先輩が変態だなんて絶対にありえません!!』
「では、彼の言葉をそのまま受け入れて『根は意外と純粋』ということでおねが…『そんなわけないでしょうが!』」
「今まで散々迷惑かけておいて、北高の女子生徒全員からそういう眼で見られて、黄古泉君にまで被害が及んでいるのに、キョンの一言で済まされるわけないわよ!」
「黄キョン先輩、人が良過ぎますよ……」
「いや、言い方が悪くて申し訳ないが、部室のイスも青古泉も鼻で笑う程度だったってことだ」
「だとしても、涼宮さん達が今まで迷惑していた分の清算にはならない。とにかく、朝食の続きといこうじゃないか。子供たちの時間もあることだしね」

 

「今日は佐々木を連れて例の教会まで行ってくる。何時頃帰ってくることになるかは分からんが夕食には間に合わせるつもりだ。それからハルヒ、有希に一つ相談だ。今週のコンサートは日曜日だ。金曜の夜にリハーサルと話していたと思うんだが、土曜の夜に何も入らなければそちらに移動するか、もしくは両日ともやるか。どっちがいい?」
「土曜日の午前練の様子を見てコンサートの正規メンバーを決定する。土曜日に何も無ければ、リハーサルはその日だけでいい」
「あたしはどっちでもいいわ。有希がそういうのなら、そうしましょ」
「じゃあ、次だ。青有希に頼みたいことがある。経理部の社員に頼んでも構わないが、10万円分ほど1000円札に両替をしてきて欲しい。紛れ込んだ報道陣にチケット代を返すのが目的だから、日曜の夜までに間に合えばそれでいい」
「問題ない。わたしが今日行ってくる」
「じゃあ、それで頼む。俺が影分身で出したSPがそれを持つことになるだろうから、金庫にでも入れておいてくれ。それから古泉、プラチナまで仕分けが完了した。あとはピンクサファイア、タンザナイト、エメラルドとあるんだが、何をどのくらい欲しいかだけでも情報としてくれさえすればその分を渡す。余れば返してもらえればいい」
「ご配慮感謝します。しかし、エメラルドはいつ採掘に行ったんです?」
「昨日だ。OGの残り四人分のネックレスをとなると、もう少し種類が欲しかったところだからな。世界経済が崩壊しない程度に他のものも取ってくるつもりでいる。欲しいものがあったら言ってくれ。最優先で採りに行って不純物を取り除く」
「古泉先輩、何を作るつもりなんですか?」
「作るものは決まったんですが、デザインをどうするか考え中ということにさせてください。彼にも配慮していただきましたし、これまで発掘したもので……という概念にとらわれ過ぎていたのかもしれません」
「すまん、言い忘れていた。佐々木のヘアメイクをOG三人で頼みたいのと、青圭一さん、昨日青ハルヒと青みくるが撮影してきたCMはいつ頃から放映されるかご存じですか?」
「十一月からだと聞いているが、それがどうかしたのかね?」
「いえ、それを見た他の会社が二人をモデルにしようと連絡がくるかもしれません。来月は古泉のドラマ撮影は終わっても、下旬には政治家やこれからいわき市に行く住民の引っ越し作業があるので、念のため把握をしたかったというだけです。ビラ配りの方も二人がメインになりそうですし」
「なるほど、ではCM撮影の依頼が来た場合はすぐに連絡をすることにしよう」

 

 朝の会議も終え、有希や朝倉には青古泉がデザインしたネックレスの情報を受け渡した。ランジェリーとは違って、これについては男性も知っていて当然のものではあるが、二人の顔色はあまり良いとは言えない。出所が青古泉だからな。仕方がないか。結局今朝のニュースも昨日の謝罪の件がなかったかのように別の記事で一面を飾り、VTRで出ていた新聞社社長にインタビューを試みているシーンでも社長は何も答えず仕舞い。インタビューする方もされる方もどっちもアホの谷口と変わらん。
「佐々木、おまえが座るところはそっちじゃない」
「二人乗りの車で助手席に座るなと言われたら私はどこに座ればいいんだい?」
説明してからじゃ恥ずかしがるだろうし、宙に浮かせてハルヒ達と同じ定位置へ。
「おまえはここだ」
「まったくキミは、私にどれだけ恥ずかしい思いをさせれば気が済むんだい?周りの車に見られてしまうじゃないか!」
「安心しろ。たとえ助手席に座ったとしても、おまえなら間違いなく恥ずかしいというだろうから、閉鎖空間の中を走るだけだ。それとな、オープンカーじゃ話が通りにくいし、この方が話しやすいだろ?聞き間違えておまえを怒らせるような真似はしたくないんだ」
「私を振り落とさないでくれよ?」
「心配いらん。おまえが抱きついていればそれでいい」
「キミとこんな時間が持てて嬉しいよ。早く私を満喫させてくれたまえ」

 

 いつものことながら、その気にさせるのに時間がかかる奴だ。
「それで、過去の俺たちに連絡はとれたのか?」
「くっくっ、過去のキミにテレパシーをしたらテレパシーだと気付くまでにどれだけかかったことか……私も数えていなかったから分からないけどね。どうやら私が連絡したときには傍に過去の私はいなかったらしい」
「それで、二人ともどうするつもりなんだ?」
「過去のキミが朝比奈さんに連絡を取って六人でくるそうだ。高校時代のストレスもようやく取れてたまには連絡を取り合っているらしい。大学に合格したと聞いてここでパーティを開いたときはそこまでストレスを溜めているようには思えなかったけど……何か心当たりは無いかい?」
「きっかけはどっちが先かは分からんが、SOS団から過去の俺が抜けて、有希やみくる、古泉から戻って来てくれと執拗に迫られた。それでも部活には出ず、真っ直ぐ自宅に帰っておまえと受験勉強をしていたんだろう。そんな状態でハルヒの心中が安定するわけがない。俺たちが何度も閉鎖空間を破壊しに出向いて急進派も黙らせた。一時は古泉も植物人間になるところだったが、俺がすべて回復したついでに伝えたよ。『あんまり過去の俺につきまとうなよ』ってな」
「キミはどっちがきっかけを作ったと思っているんだい?」
「あくまで予想でしかないが、ハルヒの暴言にキレて俺が部活に出なくなった可能性の方が高い。過去のおまえの方から『僕と同じ大学を受けてくれないかい?』なんて切り出してくるとは到底思えないからな。自宅前で待っているであろう古泉たちを回避しておまえの家に転がり込んだってところだろう。そして、過去のおまえから二人で同じ大学をと誘われた。そうでもしないと、ジョンもいない俺が佐々木と同じ大学を受験する覚悟なんてできんだろう?」
「くっくっ、コンサートが終わったら是非聞いてみたいよ。キミの発言には信憑性がありすぎて、それが本当のことにしか思えないんだからね」
「だったら、青佐々木と話をつけておけ。コンサートの後の打ち上げは交代してくれってな。今度のコンサートの打ち上げは全団員で行う。過去のハルヒ達は81階に降りてきてもらうことになるだろう」
「まったく、キミってやつはどこまで先を見通せば気が済むんだい?そんな細かいところまで配慮されると、私はキミの作ったレールの上を歩くしかないじゃないか」
「次のコンサートは全員で打ち上げをする。おまえが過去の佐々木と話すにはそれしか方法がないだろう」
「そうだね。青私に聞いてもらってもいいけど、詳しく知りたいときはその方がよさそうだ」

 

 やはり佐々木と話をしながらだと時間が経つのを忘れてしまう。青ハルヒと温泉旅館に行ったときの話ではないが、視界が開けていて周りの景色も確認できるというのに「もうこんなところまで来たのか」としか頭の中に浮かんでこない。
「それで、今は何の研究で躓いているんだ?」
「前にも話した通りさ。過去や未来と連絡が取れるツールを考えているところさ。やれやれとしか言葉が出てこないよ。自分で過去のキミと連絡を取っておいて、それをする方法に困っているんだからね」
「異世界を行き来できる方法を引き継ぐんじゃなかったのか?」
「どれも同じだよ。行き詰って他の研究に没頭してはみるんだけど、結局どれも大きな壁に阻まれている始末さ」
「先に進まないのなら止めてしまえ。デザインに戻ったらどうだ?ドラマの脚本もあることだしな。どでかいハート型のダイヤモンドピアスで脚本家としてはOKなのか?」
「何度も見てようやく気付くようなものをつけるより、大胆で分かりやすい方がよっぽど良い。圭一さんや青古泉君達がそれに対して文句を言ったり、ジョンがそれを褒めたりするなんていうのも悪くない。ピアス自体を盗まれるなんて回があってもいいくらいだ。毎回殺人事件じゃ人がどんどんいなくなってしまうからね」
「そのために各芸能プロダクションから俳優を雇うんだろう?子役なら子供たちに任せればいい。もしくはOG達を小さくするか?」
「このドラマに子供たちが出るようなシーンはほとんど訪れないよ。逆に拡大して出てもらうことだっ…て……」
どうやら佐々木が何か閃いたらしい。コイツが案の段階で他の人間にその内容を話すなんて滅多にないが、記憶として留めておくくらいはしておいた方がいい。
「忘れてしまわないうちに、俺に情報を渡しておいたらどうだ?それとも、一旦ラボに行って青佐々木に伝えてくるか?」
「くっくっ、その必要はないよ。もし忘れてしまっても自分の頭をサイコメトリーすればいいんだからね。でもキミには話してもいいだろう。今、私が閃いたのは現実世界と異世界を行き来するツールの開発についてなんだけどね。『行き来』するためのものを考えていたのがそもそもの間違いだったようだ。方程式の答えを一気に出してしまうようなものだよ。途中計算も書かずにね。一つ作ってしまえば、異世界に同じものを情報結合するだけで戻って来られることにどうして気がつかなかったんだろうね。まずは行くだけのツールをできるだけ最小限の費用で作ることができないか考えることになるだろう。キミが発掘してきた原石と一緒さ。費用がかかるなら自分で作ればいいんだからね。これからはキミに食事のテレポートを頼むことになるかもしれない。でもね、キョン。私はもうキミのマッサージとキミの抱擁がないと生きていけなくなってしまった。遅くなってもシャンプーから全身マッサージまでお願いしてもいいかい?」
「何のために親友から俺の妻にランクアップして、こうやってチャペルまでドライブしていると思っているんだ。生涯おまえと共に過ごすと誓うために教会へ行くんだ。妻の疲れを癒すことくらい、夫として当たり前だろうが!」

 

 俺の発言を機に佐々木の顔が見られなくなってしまった。俺に抱きついたまま、一向に離れそうにない。
「やれやれ、これでまた当分はおまえのデザインした服を拝めそうにないな」
「そうなりそうだ。でも、来年の四月からは新戦力が加入するんだろう?」
「いくら新戦力が加入したからとはいえ、おまえの代わりが務まる奴なんて滅多にいやしない。また行き詰ったらデザインを考えていると良い。今もドラマの話をしていてヒントを得ることができたんだからな」
「キミとの会話でないと進展しそうにないよ。自分で言うのもどうかと思うんだけどね。私が保証する」
「相変わらず大袈裟な奴だが、それで進展するというならいくらでも付き合ってやる。とにかく今は何も進展しないで悩んでいる青佐々木に連絡するのが先決じゃないか?もうすぐ昼食時だからな」
「折角余韻に浸っているのに、そんなことを言わないでくれたまえ。食事時になったら戻る。時間はないだろうけど、もうしばらくこの状態でいさせて欲しい」
案の定、二人で戻ったときはハルヒからの「遅いわよ!!」の一言。午後は仕事とは関係の無い話をしながらチャペルに向かい、予想以上に早い段階で戻ってくることができた。明日からはディナーの仕込みもあるし、原石の仕分け作業をさっさと終わらせることにしよう。その日は夜練と妻やOGの相手以外は仕分け作業に費やし、夕食を食べる本体もほとんど意識の無い状態で進めていた。

 

 翌朝のニュースは昨日となんら変わらず。VTRは社長が無言で会社に入り、無言で会社から出て自宅に戻るだけ。新聞記事は至って普通……。さて、どうしてくれようか。朝食の会議で議題に出してみた。
「有希に記事を差し替えてもらってから二日経つが、新聞社は何事も無かったかのように新聞記事を書き、社長は終始無言。報道する側も他に眼を向けようともしない。どいつもこいつも馬鹿ばっかりだ。手はいくつかあるが、報道陣が集まっているところに出向いて他の新聞社やTV局の社長にも謝らせるよう催眠をかけるか、別の新聞社の一面記事を差し替えるか、TV局のVTRを社長が謝っているものにすり替えるか、どれがいい?」
「もうどうでもいいわよ。本社前に来ていなければ、どうなろうがあたし達の知ったことじゃないわ!」
「大いに賛成したいですね。あんな連中を相手にしていては逆に疲れるだけです」
「まだこちらが動くほどでもない。もう少し様子を見てもいい。あなたの言った通り、策はいくらでもある」
「異世界の方もカシミヤに関連するものはまだ出てきていない」
「こちらの方も問題ありません。放っておくのが一番でしょう。どの道コンサート当日には集まるんですから」
「よし、なら俺は今日から金曜のディナーの仕込みに入る。その間みくるや青佐々木たちを連れてドライブに行ったりOG達のネックレス作りはできなくなってしまうが、まぁ、ディナーが終わったら再開できる。日曜の午前中にみくると一緒に北高の文芸部室に行くつもりだ。コンサートが終われば、原宿店を除いてこれで二ヶ月になる。各店舗店長候補はいるか?」
「北口駅前店は問題ありません」
「二号店も社員に格上げしても良いかと」
「僕が行かなくても十分やっていけると思うよ」
「よし、なら各店舗の店長候補を十一月より社員として扱う。他のアルバイト達にもそう伝えて違う店舗の店長になることを伝えれば士気も上がる筈だ。青朝倉の方で給与関係をよろしく頼む」
「分かった」

 

 カシミヤ100%は嘘という記事が出てこないというのは捉え方によってはそこまで異世界で浸透していないと言うことになる。加えて、青古泉、青森さん、青裕さんの手が空くとなれば、新店舗の開拓をしたいところだが、食事時だけ戻りその間を社員とアルバイトに任せるような形で持続させるしかあるまい。十二月以降のことを考えてもここは致し方ない。食事の支度と仕込みに専念するのみだ。
 金曜の朝になって報道陣に動きが現れた。例の新聞社がようやく他の新聞社や週刊誌、TV局に謝罪はないのかと訴えかける一面記事を飾り、それを受けて報道陣が自分の会社以外のところに集まるようになった。俺からすれば動きが遅すぎると言いたいくらいだが、これで報道陣が荒れ、すでに土下座までした例の社長は、安心してその様子を見ていられるようになったってところか。「怒りの矛先をどこに向けたらいい!?」なんて怒鳴っていた奴がやっとその矛先に気が付いたようだ。これでまたしばらくは様子見になるだろう。一昨日の例の番組でようやく試合のことが放映されたし、これでまた対戦してみたいというプロ野球選手が増えるといいな。アンダースロー対策もやはり渡辺投手に頼んでいたようだ。選手として出ないのなら実況でも良かっただろうに。
「いや~それにしても、あのレーザービームをどう攻略するかですよね。あの瞬間まで、朝倉さんがあんな球を投げるなんて誰も思っていなかったはずですよ」
「それはいいけども、あれを攻略なんてできるの?」
「今のところ策がありません。それに、レフト方向も危ない気がするんですよ」
「レフトって長門さんもレーザービームを投げるってこと?」
「多分としか言いようがないんですけど、僕たちの攻撃のときにダブルプレーとられたじゃないですか。そのとき、ショートがセカンドとスイッチしたんですよね。それで長門さんから送球された球を朝比奈さんのところに投げた」
「セカンドの選手じゃ捕れないボールだったって言いたいの?」
「あくまで僕個人の予想です。まだまだ色々と隠してそうなんで、またチームを組み直して挑みたいと思います。タカさんも次回は見る方にまわりそうですから。あんなのを見せられてタカさんも縮こまっていましたし」
「折角渡辺投手に練習に付き合ってもらったんだから、渡辺投手出せばいいんじゃないの?」
「向こうは涼宮さんのアンダースローに慣れているはずだからって、渡辺選手が辞退したんですよ。僕はアンダースロー対アンダースローの対決も面白そうだと思っていたんですけど……」
「ミスターサブマリン対……ミスサブマリン?」
「そうなりそうですね。涼宮さんに『ミスサブマリン』の二つ名がついても僕は良いと思っています。交代要員も集めないと九人ピッタリじゃ、状況に対応できないですって」
「それにしても、社長の……224km/hだっけ?本人もパフォーマンスの一部だからギネス記録には登録できないなんて言っていたけど、番組のタイトル通りあれは世界が仰天するよ?」
「いくらパフォーマンスでも、あんな球、どうやったら出せるのか解明したいですよね。金属バットが折れるどころか破壊される程の威力ですから……180km/hの方はまた挑戦したいです」
二人のトークにみんな満足気な表情をしていたからな。今度は有希がみくるにレーザービームを放つだろう。

 

俺の方のディナーの仕込みは既に完了。「甘過ぎる」とされていたものについても別の野菜を取り入れ、甘さを抑えつつ絶妙のバランスで両方の長所だけを引き立てるようにアレンジ。ランチタイム終了後、厨房はそのままでテーブルを詰めて、野菜スイーツが並んだ。みんなに試食させたときと同じく、それぞれの名前やカロリーが明記され、ディナーの調理に古泉と青ハルヒ、みくるのお茶やハーブティ、ノンシュガーの紅茶、コーヒーなどはみくると青有希で担当することになった。ホールスタッフにENOZが入りOG達は食べる側。俺も影分身で出ると言ったのだが、そこまでする必要はないとして81階で様子を見ることに。その間に原石の仕分け作業の続きといこう。日本代表選手たちが席に付き、古泉から今回のディナーのルール説明。ディナー開始と共に選手全員が席を立ちスイーツを見定めていた。
『キョンパパ、わたしもスイーツ食べたい!』
「ああ、日本代表選手たちでも食べきれないほど用意したから、このあとは俺たちの番だ。どれにするか今のうちに決めておけよ?」
『問題ない!』
 OG六人は前に一度食べているからな。今回は個数制限もしていないし、山のようにスイーツを盛ったOGがテーブルに戻っていた。他の選手たちも気になったものを選んで席に着く。その瞬間を待っていたかの如く、古泉が用意したディナーの一品目が運ばれていた。俺は仕分け作業をしているからいいとして、周りは青新川さんの料理を食べながら、早くディナーが終わらないかと待っている。モニターには、スイーツはすべて野菜の甘みだけで作られたノンシュガーだと説明している古泉の姿が写っていた。
「キョン、キミに一つ聞きたいんだけどね。前回のように一部をまだキミが持っていたりしないのかい?」
「いや、今回はその必要がないからな。全部あそこに置いてある。この前ここにいるメンバーで食べていたときも女性陣が残っていたし、今回は監督達が先に戻って、選手の方は時間がかかるんじゃないか?」
「聞いた僕が馬鹿だったよ。スイーツの食べ放題がどういうことか理解していなかったようだ」
「それより、再来週の食べ放題は何がいいか案はないか?ただし、カレーとおでん以外な」
『カレーとおでん以外』と条件づけた時点で有希が頭を垂れた。青有希も居れば同じ動作をしていただろうな。
「肉よ肉!!焼肉食べ放題で筋力増強よ!」
「でも、いくら部位で買って旨味を最大限に引き出したとしても調理を日本代表に任せるんじゃそこまで美味しくないんじゃないかしら?この前黄古泉君が見せたような形でないと……でも、どう考えても涼宮さんと二人じゃ間に合いそうにないのよね。同じ理由でしゃぶしゃぶもできなさそうだし……」
「普通のディナーでいいんじゃ……」
「それしかないか……告知が終わるまで待つしかなさそうだ。韓国料理なんてのも考えたが、肝心の石焼きビビンバが古泉と青ハルヒだけじゃ対応しきれん」
「ちょっと待ちたまえ。そいつは面白そうだ。ディナーでは出せなくても僕たちだけならできるんじゃないかい?」
「なら、日本代表に出すのは二月にして俺たちだけでやるか?」
『問題ない』

 
 

…To be continued