500年後からの来訪者After Future5-18(163-39)

Last-modified: 2016-11-19 (土) 13:43:48

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future5-18163-39氏

作品

過去の時間平面上のハルヒ達六人を呼び、SOS交響楽団のコンサートが行われた。映画の披露試写会で過去ハルヒ達を呼んで以来ということもあり、新しく加入した異世界のOG達や、特に青圭一さんたちに過去古泉が驚いていた。まぁ、いると分かっていたとはいえ、まさか青裕さんがアルバイト希望者第一号になるなんて誰も思ってなかったし、エージェントは別としても圭一さん達四人が同じ会社に務めていたなんて俺たちだって吃驚だ。コンサートも終わり、気がかりなことが一つあったものの、佐々木の乾杯の音頭で打ち上げが始まった。しかし、片方は大丈夫だと思うが、あの二人、酔っ払って秘密を暴露したりしないだろうな?

 

 乾杯後、シャミセンを呼んで打ち上げ用の食事とミネラルウォーターの入った皿を差し出した。
「この打ち上げのために夕食を少なくしてもらっていたんだ。おまえもお腹空いたろ?どんどん食べていいぞ」
『そうかい?これ、確かキミが作っていたご飯だよね?ここにくる前まで食べていたものよりどれも美味しいご飯だけど、キミの作るご飯が一番美味しいよ』
「そう言ってくれると俺も嬉しいが、俺の作るものは朝や夕方のご飯を作ってくれている新川さんのレシピがあってこそのものだ。本当に美味しいご飯を作ってくれるのは俺じゃなくて新川さんの方なんだぞ?」
『ふ~ん、よく分からないけど、キミの作るご飯が美味しいのはその人のおかげなんだね』
「ああ、そういう捉え方で間違いない」
「事前に聞いてはいたけど、ここまで国木田君に似ているなんて思わなかったよ。キョン、キミはどうだい?」
「俺も一緒だよ。このフロアのどこに国木田が隠れているのか探していたくらいだ」
「有希のマンションの裏から連れて帰ってきた後、ハルヒの料理でも『凄く美味しいよ』なんて言っていたくらいだ。今度は過去ハルヒ達の会社で暮らすことになるだろう。有希でないとテレパシーを受け取れないからな。あとはシャミセンと同様、俺の布団が気に入っているようだから、それもまとめて渡してしまうといい。最初は『爺くさい』なんて言っていたんだけどな」
「やれやれ、まさかシャミセンに孫がいるなんて考えもしなかったから、アイツが死んでしまったときに一緒に火葬してしまったぞ。俺たち二人で新しいベッドを買うっていうのもあったんだが」
「それなら、明日の朝情報結合して過去有希に渡しておく……って情報を伝えるだけで、あとはアイツが情報結合するか。今はどこで暮らしているんだ?ラボの上層部あたりか?」
「さっきも涼宮さんが言ってたけど、キミにしては冴えてるね。この時間平面上の僕たちの部屋はこのビルの上層階なんだろう?僕のラボの上層階はこの時間平面上では一体何に使っているんだい?」
「過去ハルヒは過去の俺のことを知りもしないで発言しているからだろうが、自分と同じ大学に合格した俺がすぐ傍に居ながら、よくもまぁそんなセリフが言えるな。過去の俺のことはおまえが一番良く知っているはずだろう。あの大学に合格してもそれでも冴えないと言うのなら筋は通るが、だとしてもわざわざ過去ハルヒの真似をしなくてもいいだろ?……まぁいい。ラボの上層階なら、朝倉とW古泉、それに未来古泉たちの将棋の対局場になっている。みくるが元居た時間平面上だと、あの建物自体はほぼそのままだが、各時間平面上の未来を安定させるための組織のオフィスになっている。みくるが未来に戻れば、数年後にはその組織のトップになっているはずだ。どちらのみくるも、戻るつもりはなさそうだけどな」

 

「ところで、朝比奈さんのことでキミに一つ聞きたかったんだけどね。さっきつけていたあの大きなピアスは一体いくらしたのか教えてくれたまえ」
「タダだ」
『タダ!?』
「正確には、俺が炭鉱で採掘したダイヤモンドとガーネットの原石を、情報結合で不純物を取り除いて変形した。それだけじゃみくるの耳に負担がかかるから閉鎖空間で質量が……ってこれはさっき過去有希が説明していたか」
「炭鉱で採掘したって、どこまで行っていたんだい?」
「……すまん、国の名前を忘れてしまった。サルビアだかそんな感じの名前だ。南アフリカの一つ上の国とか言ってたな」
「ボリビア共和国だよ、キョン。世界最大級のダイヤモンド発掘地じゃないか。どうやって発掘してきたんだい?」
「条件をつけるだけで掃除機のように何でも吸着できる磁場を作ることができてな。その条件をダイヤモンド原石にしただけだ」
「くっくっ、キミは世界経済を崩壊させるつもりかい?そんなことをされたら宝石でも何でも取りたい放題じゃないか。今度は温泉や油田でも探し当てる気じゃないだろうね?」
「ダイヤモンドとプラチナを採掘したときはまったく考えてなかったんだが、他の宝石はなるべく世界経済が大きく左右されないように配慮はした。今いるメンバーの付けているアクセサリーは、指輪はすべて購入したものだが、それ以外は購入したものと俺がデザインしたものだ」
「デザインした!?キミがかい?」
「頼むからそれをこっちの佐々木達にも言ってくれ。俺のデザインしたネックレスが欲しいという要望が来て困っているところなんだ」
「聞こえたよキョン、それはないだろう?僕のネックレスを作るのが嫌だと言いたいのかい?」
「ハルヒがコンサートでつけていたピアスや青みくるのピアスなら条件付きだったからすぐ浮かんだんだが……おまえにネックレスとなると何をどう配置していいものやら分からん。『自由に作ってください』と言われて、逆に困ることだってあるだろう?注文があった方が逆に作りやすいことだってある。今つけているピアスと一緒だよ。ハート型にするよりも、二人で同じものをと言いたいところだが、俺にはもうこれがあるし……それで困り果てているんだ」

 

 どうやらどんなものがいいか考えてくれているらしい。条件が厳し過ぎても困るが、無さ過ぎても逆に困る。
「くっくっ、そういえば、二人に聞きたい事があったのをすっかり忘れていたよ」
『聞きたい事!?』
コイツ、考えている途中でドライブ中の話を思い出して話を切り替えやがった。だから佐々木との会話は終わりそうにないと言ったんだ……ったく。
「二人が同じ大学を目指すことになったきっかけさ。こっちのキョンの予想では、キミがハルヒさんの暴言にキレて僕の家に転がり込んだんじゃないかって話だったんだけど……」
「ああ、まさにその通りだ。さっきも『あんたにしては冴えているわね』とか言って、コイツまで真似をしていたしな。朝比奈さんや長門とはたまに連絡を取り合うことはあっても、アイツとだけは二度と御免だよ。この後も例の黒猫の世話を押し付けられそうでな。どう断るか考えていたところだ」
「ごめんごめん。キミがそこまで気にしていたなんて思わなかったんだ。この件に関しては僕の方が悪い」
「でも、それなら簡単だよ。話の通じないキミよりもテレパシーでお互いの意志を確認できる彼女の方が良いと言えばいい」
「いや、その程度じゃ過去ハルヒは納得しない。何かしらの理由をつけて押し付けてくるだろうな。どうする?打ち上げが終わったら帰るか?」
「できれば、そうさせてくれ」
「なら、キミのシャンプー&マッサージを今すぐ体験させてくれないかい?」
「それは断ると言ったはずだ、諦めろ。過去俺も帰りたがっているし、次にそれを口に出すようならすぐにでもラボの上層部に送り帰す」
「キョン……」
「佐々木は俺の発言には信憑性がありすぎると言っていたが、そうなってもおかしくない状態にまで陥ったことも俺にだって何度もあるんだ。コイツの軽はずみな発言で情報が漏れたようだが、一度でも体験すれば間違いなく麻薬中毒と同じになる。悪いことは言わないからやめておけ。シャミセンの対応なら、アイツを連れてラボへは入れない条件で閉鎖空間を張っておく。過去有希でも解除出来ない様にしておけば問題ない」
「すまないが、それで頼む」
「仕方がない。僕たちはこれで帰るよ。折角のコンサートの余韻が台無しになってしまいそうだからね」
「閉鎖空間の件もあるし俺も行く。また、しばらく距離を置くようにすれば関わろうとはしなくなるはずだ」

 

 二人を元居た時間平面上へと送り、俺も出向いて閉鎖空間を何重にも被せた。本社に張ってあるものと似たような代物だ。さっきは『アイツを連れてラボへは入れない条件で』と言ったが、用件だけ伝えに来る場合もあり得る。携帯の着信は無視でいいだろうが、目と鼻の先に過去ハルヒ達の会社があるんじゃ、過去俺がまったく外に出ない限り会わないことなんてありえない。シャミセンに関する要件で訪れた場合も条件に入れて、この時間平面上を後にした。過去佐々木も突っぱねたし、予想はしていたが過去俺の心境を聞いたら、とてもじゃないが打ち上げに戻る気分にはなれん。99階のベッドでしばらく横になっていた。
『キョン?戻ってきているのかい?戻っているのならパーティの続きといこうじゃないか』
『悪いが、今はそんな気分になれない。周りの連中が探していたら「しばらく放っておいてくれ」と言っていたと伝えてくれ』
『キョン、僕は……『しばらく放っておいてくれと言っているだろ!!』
『分かったよ、ごめん』
アイツに責任がまったくないわけじゃないが、嫁にあたるなんてことはしたくない。過去俺の一言で色々と思いだしてしまったからな。アホの谷口に関する記憶をすべて消去しようとしたときにジョンが止めたのと一緒だ。青古泉やあの椅子の雑念は全部消去したとしても、俺がもうちょっとでキレそうになっていた頃の記憶は残しておかないと、今後のWハルヒとの関係にも歪みが生じることになる。今までストレスを発散するときは何をしていたかすっかり忘れてしまったが、思い出したくもないし、サイコメトリーするなんていうのも論外だ。酸素ボンベを情報結合して、惑星を一つ粉々にすることしか思い浮かばん。韓国マフィアを潰したところで虚しいだけだ。あとは精々明日集まる報道陣に通告文書を投げつけて、マシンガンで全員に怪我を負わせるのみ。大画面に何が映るのか確認に来るはずだからな。

 

子供たちやみくる、古泉はそのまま81階でダウンするだろうが、結局その日は誰からも連絡がくることは無かった。青OGたちや有希、青佐々木あたりはシャンプーから全身マッサージまでをして欲しいと、テレパシーが飛んでくると確信めいたものを感じていたんだが……たまにはこんな日もあってもいいだろう。来年の書き初めで誰が一位を取ろうと69階と100階に影分身を残していくことになる。まぁ、トップの奴が俺を選べばの話だ。青古泉あたりに淡い期待をしておいてやろう。おそらく無駄だろうけどな。
翌朝、結局W佐々木のネックレスのデザインは思いつかず仕舞い。Wハルヒのネックレスができただけまだマシか。早朝から無駄足御苦労様と言いたいよ。大画面の映像を抑えようと昨日の倍の人数が敷地外に押し寄せていた。ステルスで背後を取り、通告文書を投げつけた後に両サイドからマシンガンを連射。命にかかわるものでなければ一面記事を飾るようなことにならない。機材を全て破壊し、その場にいた全員が倒れた。意識を失う程の怪我には至っていないだろうし、助けを呼ぶのなら自分たちでやるんだな。81階には朝食の支度をしていた青新川さん。残りは全員その場で眠ってしまっていた。疲れと眠気を取り去り、目が覚めたメンバーから自室へと戻っていった。過去ハルヒ達の姿が見当たらない。どちらのみくるもアルコールの弱さは同じはず。ジョン、おまえが送ったのか?
『いや、過去の朝比奈みくるがアルコールを飲まなかっただけだ。涼宮ハルヒも周りからキョンのシャンプー&マッサージは駄目だと言われて諦めて帰っている。打ち上げが終わり次第送るつもりだったんだろ?朝食の会議にまでいられると邪魔だったんじゃないのか?』
そうだな。過去の俺と佐々木は別だろうが、残り四人は新川さんの食事を毎食食べているだろうからな。食べていく必要性がない。過去ハルヒにはコンサートと野球の試合がWブッキングしたときの指揮を頼んでいたが、当分呼ばない方がいいかもしれん。指揮は俺の影分身で対応すればいい。有希は過去の会社の状況を知っているだろうが、教えてはもらえないだろう。本当にあと三年以内にこのビルを超えたものが本当に完成するのか?過去俺からすれば、さっさと遠くへ行って欲しいというのが望みだろうが、本当に眼と鼻の先に会社と研究所があるんじゃな。ようやくパトカーと救急車のサイレンが鳴ったかと思うと、朝食の匂いがフロアに広がったところでようやく眼を覚まし、シャミセンも匂いにつられて起きてきた。時間はあまりないが子供たち三人を風呂に入れて81階に四人で戻ったところで、他のメンバーが揃っていた。

 

「黄キョン君、ごめんなさい。幸まで一緒に……」
「構わん。昨日あれだけ汗をかいたのに、風呂にも入らずに小学校に行くわけにもいかんだろう?とにかく食べ始めよう。子供たちの時間がない」
『いただきます』
「以前にも確認していたが、今日から原宿店を除く店舗のアルバイトの一人が店長になり店舗を任せる形になる。青古泉、地元と都心で土地の開発はどうなっているか教えてくれ」
「都心はこちらの世界と同じ池袋、王子、赤羽店の場所を抑えました。地元も五号店まで可能です」
「あんた、ずっと北口駅前店の店長をやっていたんじゃないの!?」
「特に都心の方は場所とその土地の持ち主がはっきりしていますからね。店舗の裏で遮音膜を張って電話交渉していただけですよ」
「ようやく、頼もしくなってきたようね」
「今頃こんなことを言っても無駄なのは重々承知の上だが、もっと早くに刑罰を与えていればこんなことには……」
「とにかくだ。いくら原宿店とはいえ、青OGが三人も向かう必要もないだろうし、そろそろ店長候補が出てきてもおかしくない。都心の店舗を一つオープンさせて青OG二人と青チームの森さん、裕さんで店員になってもらうこともできる。新店舗をOPENするかどうかこの場で決を取りたい。OPENと言っても一週間は放置した状態でアルバイト募集と店内の服を見せる期間を設けるつもりだ。どうする?」
「冊子の売れ行きも低迷しているし、今なら十分経験も積んでいるわ!少しでも増やして信頼できる人材を発掘した方がいいわよ!」
「なら、原宿店と同じ。人目の多い池袋店がいい」
周りも文句は無いらしいな。
「よし、今夜は青ハルヒと青古泉で店舗を建ててシートを張りに向かってくれ。服も配置して青ハルヒにチェックしてもらいたい」
「あたしに任せなさい!」

 

「次、今日からこっちの世界でのビラが微妙に変わる。ハルヒのピアスを入れるだけだが、青俺、今余っているビラに修正を加えることは可能か?それが無理なら有希に作ってもらったものを情報結合してくれ。団員の方は、マンションのビラだけ修正してくれればいい」
「今の彼なら十分修正可能」
「黄有希のお墨付きとは俺も思ってなかったよ。黄ハルヒのピアスだけでいいんだな?」
「それで頼む。それから、青朝倉。青ハルヒの携帯から国民的アイドルに連絡を入れてくれ。内容は今月のコンサートの日を伝えて欲しいこと。今月は13日と27日になるはずだ。それ以外で天空スタジアムを使う予定が入ったとしてもできるだけ野球の試合を優先したい」
「分かった」
「コンサートの日を伝えることくらい、あたしにだって出来るわよ」
「じゃあ、涼宮さんが書いたメールをわたしが確認して送信することにしましょ?今後は涼宮さん一人でも送ることができるようにならなくちゃ!」
「それから、コンサート以外にSOS団のライブをやるかどうかだ。年末はライブばかりだし、今月無理に入れる必要もないと思っている。それに、ライブをやる場合はセカンドシーズンのドラマのオープニング曲とエンディング曲をSOS団とENOZでやりたい。どうだ?」
「脚本や設定については既に彼女たちから聞いている。作詞作曲はいつでも可能」
「私たちも大丈夫だと思うけど、一月から開始のドラマの曲を今からアンコール曲として演奏しても……」
「僕も財前さんと同意見だよ。ENOZなら作詞作曲が終わっても、編曲に時間がかかるはずだ。特にギターはね」
「キョン、来月散々ライブをするなら今月はいいわよ」
「他のメンバーもそれでいいか?」
『問題ない』

 

『みんなのライブ、早く見たい!』
ライブについて話が出たところで青俺の携帯のアラームが鳴り、子供たちは小学校と保育園へと向かっていった。
「それからドラマについてだが、みくるのピアスは決まったが、みくるや青古泉、ジョン達の冬服のデザインを考えてもらいたい。またスカートでランジェリーを見せるのかどうかもだ」
「えっ!あれをまたやるんですかぁ!?」
「大分や熊本の復興も考えるのなら必要不可欠」
「でも、それは二月号になりそうね。一月号は毎年恒例の振袖と袴の特集に服のコーディネートを追加するだけだし、十二月号にアクセサリーの特集を加えるわ。ベビードールの特集は来年の六月号辺りで良いわよ」
「その復興についてなんだが、まず今月は古泉のドラマ撮影が終わる。青みくるのときと同様、パーティをと考えている。当然日本代表チームがいるから三階では不可能。五階に調理場を設けて俺と青ハルヒで調理を進めるつもりだ。『副社長のドラマ撮影終了祝いに社長が戻って来なくてどうする!』とでも言えば納得してもらえるはずだ。その後、いわき市の引っ越し作業を今月中旬から始めたい。理由はこれまでと同じく少しでもパートやアルバイトに経験を積ませること。それに今月下旬に政治家連中の引っ越しがある。ブラックリストに入ったバカも含めて全員だ。加えて12月に入ったところでスキー場の運営とドラマ撮影が開始するし、12月中旬からライブやコンサートで忙しくなるだろう。週末にはおススメ料理も出す必要がある。古泉は既に始めているが、青ハルヒも影分身で調理を進められるように修練を積んでもらいたい。年越しのパーティのことも考えてな。三ヶ所とも同じおススメ料理ならそれぞれ分担して各影分身で同じ作業を進められる。それなら大して意識を集中させなくても済むはずだ」
「やれやれ……キミはもうそんなところまで計画を立てているのかい?古泉君のドラマの打ち上げまでそんなに細かく計画をされていたら、文句のつけようがないじゃないか」
「僕も同意見です。告知に行っている以上、ここでパーティは不可能としか考えていませんでした。たとえ僕と涼宮さんでパーティを企画していたとしても、日本代表がいることすらも考えずにいたはずです」
「なぁに、他のことを考えていたら閃いただけの話だ。みくるとハルヒ達に渡したいものがある」
『あたしに渡したいもの!?早く見せなさいよ!!』

 

 三人の目の前に小箱が置かれた。他のメンバーも中身が気になって仕方がないらしい。小箱の中身は三人ともネックレス。Wハルヒはどちらも大小二つのハートを重ねたもの。ハルヒはゴールドチェーンに大小二つのハートが絶対に外せない知恵の輪のようにかみ合い、大きい方のハートは小型のダイヤモンドを三つそえつけた純金。小さい方のハートはプラチナで作ったもの。指輪を通しているネックレスと被らない様にチェーンの長さを短くして両方見られるようにしたもの。青ハルヒの方は、プラチナで作った大小二つのハートを、大きいハートの方が上になるよう縦に繋がるようにデザインしたもの。大きい方のハートの中にはカナリートルマリンの宝石がブリリアンカットで一つ、小さい方のハートの中には同じくブリリアントカットのダイヤモンドが一つはまっている。チェーンはプラチナで構成した。みくるには短めのゴールドチェーンに中型のハートシェイプガーネットをあしらったもの。どちらのピアスにも対応でき、正面からカメラで撮影しても映るように配慮した。
「どのネックレスも素敵ね……」
「まぁ、色々と考えたんだが、結局三人ともハートになってしまった。すまん」
「そんなことないです!どっちのピアスにも合いそうですし、これならドラマの撮影でも映りそうです!!」
「あたしのもみくるちゃんと同じみたいね。指輪と重ならない様にチェーンを短くしてあるんでしょ?これ」
「ああ、ハルヒの言う通りだ」
「キョン、これ何の宝石か聞いてもいい?」
「青ハルヒの方は、ダイヤモンドとカナリートルマリンって名前のトルマリンの一種だ。青ハルヒの作る閉鎖空間がオレンジ色をしているだろ?閉鎖空間の色を元にした、ジョン的性格判断のことを思い出したんだ。それでオレンジ色の宝石をつけようと思ってそれになった」
「涼宮さんのジョン的性格判断ってどんなものだったかしら?佐々木さんが『今の彼女にピッタリだね。まさに今この状態だよ』って言っていたのは覚えているんだけど……」
「『オレンジは太陽のような性格。温かで、人を明るい気持ちにすることができるとても目立つ人。明るくて賑やかなところで、大勢でおしゃべりしながら過ごすのが大好きな人間』だそうだ」
「なるほど、確かにそう言いそうだ。朝倉さんも僕なんかのセリフをよく覚えていたもんだね」

 

「いいなぁ~先輩たち。そんな素敵なネックレスが貰えて」
「青私たちも作ってもらったら?キョン先輩に」
「やめておいた方がいいと思うぞ?俺なんかのデザインで気にいるかどうか……」
『私はキョン先輩がデザインしてくれたもので良かったです!もう一生外しません!!』
「問題ない。この三つも朝倉涼子の提案通り十二月号で加える。ゴールドはすべて24K。わたしにも作って」
「あれっ!?そのKって何のことだったっけ!?キョンにこの前聞いたばっかりなのに…う~んと……」
「カラットのことだ。数値は24が最大で、要するに99.99%の純金ってことだ」
「私、今黄キョン先輩に言われるまで、全然知りませんでした」
「俺だってサイトで調べてつい最近知ったばっかりだ。青OG達ならジュエリーをたくさん持っていてもおかしくないと思っていたが……違ったか?」
「雑誌では良く見ますけど、どれもいまいちピンと来なくて……でも黄キョン先輩のデザインしたネックレスはどれも素敵だなぁって思えるものばっかりで、みんなが羨ましいです!」
「まったく同じでいいのならすぐ作れるが、自分同士で区別できるようにしてくれよ?まだ古泉も朝倉も圭一さん達もバンダナ以外で区別がつけられないんだからな」
「そうは言っても、森は好きなものを身につければいいだろうが、我々がジュエリーをつけるというのも抵抗がある。調べてみてはいるが、なかなか目に飛び込んでくるようなものが無くてね。空調が完備されているとはいえ、これからの季節、我々のような男がネックレスをつけて胸元をはだけるというのも些か無理がある。特に新川に腕時計はつけられないだろう?」
「確かに、圭一さんの言う通り、いくら耐水性の腕時計でも、濡れるたびに時計を拭かないといけなくなるわね。わたしもピンとくるものがなくて困っているのよね。できるだけ早く黄わたしと区別がつけられるようにしたいんだけど……」
「丁度月曜日だし、本でみるだけじゃなくても、どこかに出かけてみるという手もあるだろう。すまんが午後はOGを連れてポルシェでチャペルに行ってくる。それと、話の流れからこれが最後になってしまって申し訳ないんだが、報道陣についてだ。今朝も大画面に誰かが映るんじゃないかと勘繰って大勢来ていたのを撒いた。だが、放映される頃にまた来るかもしれん。それと、前回のコンサート後と今回のコンサートでの報道陣の発言で気になったことがあってな。『社長さえいなければ』という発言をした奴が昨日何人も現れた。閉鎖空間にぶつかった後でもSPを振り切って敷地内に入ってしまえばという考えで抵抗した奴がほとんどだ。前回のように懲役と宣告されてもおかしくないような奴等がな。コンサート終了後も、SPに殴りかかろうとして移動型閉鎖空間に阻まれていた」
「わたしたちも随分舐められたものね。次に報道陣が現れたらわたしが撒こうかしら?」
「電話でも偽名では一切受け付けていないにも関わらず、そのような輩がまだいると言うんですか?」
「SP役を任されて丁度良かった。強引に入ろうとすれば叩き潰しても構わないんだろ?」
「ああ、そんなことで一面を飾れるようなニュースにはならんし、怪我をさせてしまっても回復してしまえばいいだけだ。要は『社長さえいなければ、この会社もガードが薄い』と前回のコンサート直後にそのセリフを吐いたバカに同調した連中がいるってことだ。俺がいなくともあんな連中ごときどうにでもなると、思い知らせてくれ!」
『問題ない』

 

 青俺はSPを情報結合して本社敷地外へ配置すると、異世界のビラ配りへと向かっていった。古泉と有希で報道陣に対する策を討論している。社長の謝罪があったのは未だ日テレのみ。新聞記事の一面は他の会社の社長を非難しているものばかり。土下座よりもさらに酷いものに差し替えられても知らんぞ。しかし、いくら楽団の練習があるとはいえ、二日連続で朝食の片付けは佐々木か。ピアスを見ればすぐに区別がつく。
「それで、俺に何の用だ?」
「……やっぱりキミには見透かされてしまうようだね。どうして僕がキミに用があると思ったんだい?」
「あれだけ長い朝の会議だったにも関わらず、楽団の練習を青佐々木に頼んでまで、片付け当番を二日連続でやる理由が他にあるか?」
「それもそうだね。昨日のことでキミに謝りたかったんだ。過去のキミがあそこまで涼宮さんを嫌っているなんて予想外だった。それに、僕が余計なことを喋ってしまったせいで、過去の僕だけでなくキミにまで………」
「どちらもマッサージすることなく帰して、シャミセンの面倒を押し付けられないように閉鎖空間まで張ったんだ。これで愚妹にアプローチをして承諾を得たところで、あのラボに二人で過ごしている過去の俺には関係無い。昨日、過去有希が提示した三年間は、あの時間平面上の俺たちとは一切連絡を取らない方がいいかもしれん。過去の俺が過去ハルヒの何をきっかけにSOS団から抜けたのかは知らんが、そうなりかねない事件を一つずつ思い出しているうちに俺まで腹が立ってきた。それでも、俺はハルヒとの結婚をOKした。文芸部室の例のイスや青古泉の妄想のように記憶を削除してしまおうとも思ったが、アホの谷口のような反面教師がいて、それを覚えていたからこそ、似たような連中も同じ対応をすることができたし、そこまでストレスを溜めずに済んだ。消し去りたくても消し去ることができない記憶なんだ。だが、それを耐えた分、過去ハルヒとこの時間平面上のハルヒはまるで違うし、結果がちゃんと伴っているから俺はそれでいい。ただ、腹が立って溜まったストレスをおまえらやOG達に矛先を向けて発散しようとするのは間違っている。だからこそ、おまえに『しばらく放っておいてくれ』と伝言を頼んだだけだ。その後、過去ハルヒからマッサージしろとテレパシーは来なかったし、昨日は誰も俺にシャンプーから全身マッサージまでを要求してくる奴はいなかった。有希くらいは来ると思っていたからな。おまえが他のメンバーに声をかけてくれたのかどうかは知らんが、あのあとは朝まで落ち着いて過ごすことができた。ついでにネックレスのことを考える時間もできたしな」
「そんなことを言わないでくれたまえ。僕のことを罵倒して、八つ当たりして、キミの気の済むまで僕を愚弄して欲しい。でないと……僕は…」
「だったら、同じ事を二度も言わせるな。反省しているようで昨日とまったく変わっていないなおまえは。俺は『溜まったストレスをおまえらやOG達に矛先を向けて発散しようとするのは間違っている』と言ったんだ。それで納得しろ」

 

 ハルヒならこういうときは俺に飛び付いて来るのが普通。いくらコーティングをしているとはいえ、タオルで拭いてもいない、まして、洗剤のついている状態で抱きついて来るのは勘弁して欲しいんだが、その傾向は見られず。まぁ、みくるのときのように抱きついたとたんに顔面にダイヤモンドが当たったなんて例もつい最近あったんだが、そのあとはお互い言葉を発することなくそれぞれの作業を進めていた。佐々木は片付けを終えてからテレポート。ラボにでも行ったんだろう。昼食の支度を終え、全員が集まるまでシャミセンと戯れていた。こういうときでないと信頼関係を結ぶことができないし、風呂にも自分から入れるようにしないといかん。菌やウイルスを除外したあとブラッシングで抜け毛を取り、シャミセンの顎を掻いたり、頭や背中を触ったりしながら、サイコメトリーでマッサージをしていた。
『こんなに気持ち良く触られたの、これが初めてだよ。キミ、僕に何をしたの?』
「マッサージっていってな。疲れていたり、凝っていたりしているところを揉みほぐすんだ。そんなに良かったのなら、時間が空いたときにまたやってやるよ」
『まっさーじ?僕はそんなに疲れていないと思うんだけど……』
「知らないうちに負担がかかっている部分があるんだよ。猫でも人間でもな」
『また、お願いしてもいいかい?』
「勿論だ」
今後も同様のマッサージが堪能できると知って、俺の足に顔を擦りつけてきた。これはどういうときにするしぐさだったっけ?また後で調べておくことにしよう。
 昼食時、敷地外を透視してみると今朝と同じくらいの報道陣で溢れていたが、練習を終えた朝倉が一瞬でナイフで切り裂いた。機材は全て壊れ、致命傷をわざと避けた切り傷で、朝倉を除く全員が倒れた。監視カメラが設置されていないかどうかあとでサイコメトリーしておくことにしよう。朝倉もステルスを張った状態で行動を起こしているが念のためだ。ビラ配りチームは休みの日でも異世界に赴き、青古泉たちも店舗の方に向かっていた。池袋店がOPENすればまた入れ替わりになるだろうが、全員が昼食に出揃った。

 

「一つ嬉しいお知らせがある。ニューシングルを出す度に生放送に出ていた番組からだ。年末のスペシャルで天空スタジアムを使わせて欲しいらしい。ステージの設営やリハーサルもあるから23日(木)は丸一日借りたいと言ってきた。もちろんSOS団やENOZにも出演依頼が届いている。特に、古泉のドラマの主題歌は青朝比奈さんのあのパフォーマンスでお願いしたいそうだ。どうするかね?」
「うん、それ、無理。順番が違うもの」
「いや、そうは言っても、今度は僕たちが出られなくなるんじゃないかい?」
「しかし、素直にOKするのは我々としても納得ができません。加えて、ステージの設営なら我々でやった方が早いですし、余計な人間を本社内にいれなくても済みます。どんなステージにするのか図面を送ってもらうべきでしょう」
「あのー…、先輩たち一体何の話をしているんですか?」
「要するに、今の報道陣の現状を考えた上でアクションを起こせという話だ。黄朝倉が言っている順番っていうのは、解雇した奴等のことを日テレのようにテレ朝の社長が謝罪もしないまま、あの番組を利用して天空スタジアムを撮影しようとしている。だが、断れば今度はSOS団やENOZは呼ばれないんじゃないかというのが佐々木の意見。黄古泉は、発言通り無関係な人間を多数本社に入れて会場の準備をさせるより、俺たちでやった方がよっぽど早い。どんな風に作ればいいのかだけ教えろ。そういうことだ」
「キョンに説明されるまで、わたしもよく分からなかった……過去の黄キョン君と入れ替っているんじゃ……?」
「おまえな、自分の夫とそうでない奴の違いが一番わからなくちゃいけない奴がそんなんでどうするんだ!?」
「あんたの分析したことがあまりにも的確すぎて、有希にとっても意外だったからに決まっているじゃない!それで、どうするつもりなの?」
朝話した件もあるし、俺は口出ししない方がよさそうだ。黙って様子を伺おう。
「問題ない。社長が謝罪すればOKと伝えればいい。もしそれで出演を断られれば24日と合わせて連日コンサートとライブをやるだけ」
「それだけSOS団やENOZ、天空スタジアムの存在は大きいということです。僕も謝罪がなければ断ると折り返す方に一票。社長に謝罪させて再度依頼が来るようであれば、黄僕の発言通りでいいかと」
「みんな、まだまだ甘いわね。記者会見で謝罪するだけじゃ、あたしは納得がいかないわ!土下座よ、土下座!!でないと記事をすり替えた新聞社が報われないじゃない!」
「では、折り返しは僕の方からすることにします。流石に土下座とまでは圭一さんも言いにくいでしょうから」
「すまないが、よろしく頼むよ」

 

「先輩たちの話のレベルが高くてついていけません……そういえば、黄有希先輩と黄古泉先輩は何の相談をしていたんですか?」
「今度は何の動きも見られない週刊誌を叩く。大御所芸能人にインタビューしたと偽りの記事を載せる」
「そして、大御所芸能人から『謝る気がないのなら辞任しろ!』という一言を得たと書きこむんです。新聞社を選んだときは、一番刑罰の軽かったところを選びましたが、今度は逆です。一番酷かったところの週刊誌を偽造して各メディアの社長たちとその週刊誌の両方を叩きます。週刊誌を出版している会社には、名前の挙がった大御所芸能人からのクレームが届き、まだ謝罪していない社長たちにはその週刊誌を見た全国の人間から冷酷な視線が向くことになるでしょう」
「先輩たちも何もそこまでしなくても……」
「あんた達の会社に対するストレスや青古泉君に対する視線と一緒よ。今まで散々迷惑をかけられてきて、社員がノイローゼになる寸前だったんだから。まぁ、それを一人で解決しようとして、大学のテストで不正行為をしようとしたのも、そういえばいたわね」
『大学のテストで不正行為!?』
「ハルヒ先輩、それはもう時効ってことでいいんじゃ……」
「えっ!?黄私たち知ってるの!?」
『し―――――――――――――――っ!!後で話すから今は流して!!』
「どの道立ち合うことになりそうだから自白する。俺だ」
『えぇ――――――――――――――っっ!?黄キョン先輩、どうして!?』
「だから、人事部の人達がノイローゼ寸前まで追い込まれてキョン先輩が自分一人で対応するって」
「でも、人事部の社員がノイローゼ寸前って一体何があったの?」
「会社も名前もデタラメなキョン先輩への取材の電話。それも一日に何度もしつこくかけてきてたの」
「でもそれ、どうやって対応したの?」
「あんた達は後から詳しく聞けばいいわよ。とにかく、前回のコンサートのようなことがこのビルを建ててからたくさんあったってこと。敷地外で無駄に時間を潰している奴を追い払ったりしているのも今までの報復ってわけ」
「よく分かりませんけど、なんとなく納得ができました」
「青OGには今夜話す。とりあえず午後は出かけてくるからそれで頼む。明日、青佐々木と行きたいんだが平気か?」
「いきなりそんな話を持ち出さないでくれたまえ。そういう事は余裕をもって言ってもらえないかい?僕にも心の準備ってものがあるんだ。もう少し何とかならなかったのかい?」
「明日の朝言うよりマシだろう?」
「では、折り返しの電話もありますので、僕はこれで失礼します。あとはお願いしますよ?」
『問題ない』

 
 

…To be continued