500年後からの来訪者After Future5-19(163-39)

Last-modified: 2016-10-27 (木) 13:27:52

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future5-19163-39氏

作品

二回目のSOS交響楽団のコンサートも無事に終え、楽団員は天空スタジアムで、俺たちは81階で打ち上げ。ただ、気になるのは報道院のやり口が強引になり『社長さえいなければ』という発言が何度もあったこと。俺一人いなくとも閉鎖空間の条件なら誰だって変えられるし、なんでそんなことになっているのかは知らないし、知りたいとも思わんがそれを事実として受け止め、全員の前で話した。毎度集まる報道陣に撒き方も次第にエスカレートしているし、社員やパートの人たちに安心して出社できるようにする必要がありそうだ。ウエディングドレス姿に着替えたOGと一緒にポルシェに乗り込み、車を走らせた。

 

「キョン、いくらなんでもこれは恥ずかしいし、振り落とされちゃう」
「その分しっかりしがみついていればいい。もし車から離れるようなことがあっても舞空術で飛べばいい。オープンカーじゃ助手席に乗っていても話しにくいだろ?こんな全速力じゃ特にな。抱き合って話しながらチャペルに行くならこれがベストだ。恥ずかしいと言っているが、見ている奴は誰もいないぞ」
「ホントだ。車一つ走ってない。え?どうして?」
「今まで散々見せてきただろう。夜練の最中に報道陣が乗り込んで来れないのもこの閉鎖空間のおかげだよ。この間だって一人で零式の練習をしていて、俺以外誰も入ってこなかっただろ?」
って、その日の夜のことを思い出させてしまったか?
「それも超能力の一つなの?」
「ああ、直方体を作ってそれに条件をつける。最初に見せたのは……北高の春季大会の夜だったかな?知らないうちに閉じ込められたの覚えていないか?確か、おまえだったはずだぞ?」
「そういえば……でも、あのときは何がなんだかよく分からなくて……」
「じゃあ、ハワイに行ったときの簡易女子更衣室は?」
「あれもそうなの!?」
「直方体を黒くして中を見えなくした。それに加えて男は入れないって条件を付け加えた。その前の水中水族館も海に落下したときに使っていたのも全部そうだ。あとは……SOS団のハレ晴レユカイを北高女子全員で踊るってメールが来たって言っていたときがあっただろ?あのとき、暗闇で覆ったのも全部これだよ」
「条件を変えるだけで何でもできるってこと?」
「そうだ。直方体さえ作ることができれば、あとは条件次第。使い方は山のようにある。報道陣が敷地内に入って来れないのも、エアコンがどこにもないのに本社のどこに行っても夏は涼しく冬は暖かいのも全部な」
「私にもできる?」
「舞空術とテレポートができるなら十分やれるさ。今夜のブラインドフィールドと遮音膜は自分で張ってみたらどうだ?」
「えぇっ!?あれも全部そうなの!?」
「暗闇で中が見えないって条件と、空間内の音は絶対に外に漏れないって条件をつけただけの代物だ。どうせやるなら皆でやってみるか。一人ずつ教えるより能率がよさそうだ」

 

 もう恥ずかしいなどという思いは消え失せたようだが、少しは周りの景色も堪能してもらいたいもんだ。閉鎖空間に付ける条件のことを色々と模索しているらしい。こんなところを写真に収めたら後で文句を言われそうだな。
「そういえば、佐々木先輩と何かあったの?」
「アイツが何かしていたのか?俺は打ち上げの途中で抜けたから状況がイマイチよく掴めてないんだが……」
「ハルヒ先輩たちが戻ってきた後、みんなに向かって土下座してた。『今日はキョンをそっとしておいて欲しい。全部僕のせいだ』って……」
それで誰からもテレパシーが飛んでこなかったのか。それにしても土下座するのは各メディアの社長たちだけで十分だってのに、アイツも大袈裟だな。
「まぁ、アイツが例のマッサージのことを口走ったのもあるんだが、昨日来たあの六人は実は仲が悪くてな」
「仲が悪い?」
「正確には過去の俺と過去のハルヒで喧嘩になって、未だにそれを引きずっている状態なんだ。興味本位で佐々木が仲互いをするきっかけになった事件について聞いていたんだが、俺の予想よりもはるかに重く感じていたらしくてな。似たような事件を思い出していたら、俺まで気分が悪くなってしまった。折角の打ち上げの気分を台無しにしたくなかったし、その後69階や100階でみんなにそのストレスの矛先を向けるわけにもいかなくてな。『しばらく放っておいてくれ』とアイツに伝えて99階で休んでいた。マッサージのことも含めて、興味本位で聞いた自分が悪いとでも思ったんだろう。俺も今聞いて驚いた。アイツがそこまでしていたとは思わなかったよ」
「それで止める役がいなくなったって話をしていたんだ……過去の私たちに無茶振りをするかもしれないって」
「まぁ、そういうことだ。しばらくは連絡をとることもないだろう。さっき話題に上がったコンサートやライブがあったとしてもな。ほとんど時間もなかったが、過去のハルヒと今のハルヒと比べて、違いを感じたりしたか?」
「過去のハルヒ先輩の方が、命令口調が多かった……かな?」
「それに気付くことができれば十分だ。高校一年のときにアイツと出会って今のように丸くなるまでどれだけ苦労したかと思うと……溜息しか出てこないだろうな。有希やみくる、古泉、それに俺の四人は特にな」

 

「それで、キョンはもう平気なの?」
「ああ、おかげさまで十分休めたし、ハルヒ達のネックレスも案がようやく出てきた。まぁ、さっきも言った通り三人ともハート型になってしまったけどな」
「でも、みくる先輩のはドラマのピアスとも、キョンと一緒に買いに行ったピアスとも合うし、青ハルヒ先輩のオレンジ色のあの宝石の理由もそんなことがあったんだって納得できたし、ハルヒ先輩のもチェーンが調節されて指輪と被らないようになっていたし、キョンが先輩たちのことそこまで考えてくれているんだって思ったら、羨ましくなった。私もキョンがデザインしたネックレスが欲しいって言ったら……怒る?」
「俺がデザインって……ほとんど似たようなものが出来上がるだけだぞ?それに、あの四人に渡したネックレスもあんまり宝石が大きいと世界大会で文句言われるんじゃないかと心配していたんだ」
「あれくらいなら全然平気。他の国の選手なんてもっと大きいのつけているんだから!」
「佐々木のバッティングじゃないが、俺もそろそろネタが尽きてきたんだ。周りと似たようなものにしかならんぞ?」
「それでも私はキョンが作ってくれたものが欲しい!」
「分かった。他のメンバーのもほとんど閃きだから、いつ渡すなんて約束はできんが、作ってみるよ」
すると、真っ正面からキスをされた。全速力で走っている最中にそれはマズイっておい!サイコメトリーと両端のラインで分からないでもないが……いつまで続くんだこのキスは。古泉の月9ドラマより長いかもしれん。本命の相手に嫉妬されなければいいんだが。後でこのシーンの写真69階の湯船にバラ撒いてやろうかな。正直、この景色に飽きていたんだが、明日は青佐々木と来ることができるし、そこまで時間も気にしないで済むだろう。
「このチャペルだ。古泉が厳選してくれた中でハルヒや青有希たちと四人で選んだのがここだ」
「……素敵………こんな場所で結婚式ができるなんて……」
「だろ?初めてここに来たときは、ハルヒがサクサクと進んでいくもんだからもうちょっと気分に浸らせろなんて思っていたが、普通はそういう反応で、どちらかっていうと新郎の方が待ってなきゃいけないくらいだよなぁ?」
「中も見られるの?」
「勿論だ」
 チャペルを一通り見学したあと、新郎新婦の入場から誓いの口づけまでの二人だけの結婚式を終え帰路に就いた。

 

 夕食時、一番の気がかりは当然折り返し電話の反応だ。
「くっくっ、それで折り返し電話で相手の反応はどうだったのか教えてくれないかい?」
「そうですね。大体の予想はしていましたが、第一声が『そんなことできるか!』だったのはいただけませんでしたね。社長は土下座どころか謝る気すらないんですから。彼の言っていた通り、天空スタジアムを撮影したいだけだったようです。当然それでは貸せないと返すと『そこを何とか』と繰り返すばかり……妥協案は無いと言ってこちらから切りましたよ。今頃TV局内で大騒ぎといったところですね」
「流石、黄古泉君ね!相変わらず、切り捨てるときは容赦ないんだから!黄あたしが言っていた通り、社長の土下座でないと絶対に貸さないわよ!!」
「ところで涼宮さん、彼からの連絡はあったの?」
「ちょっと涼子!紛らわしい言い方するんじゃないわよ!あたしの夫はキョンなんだからね!」
「だが、その反応を見る限り、連絡はあったようだな、ハルヒ?」
「え?……いや、あの………その……」
「本文そのまま読まなくてもいいから、内容だけわたしたちに教えてくれないかしら?」
「でも、どんなメールだったのか後で見せて欲しいです……よね?」
青みくると、青朝倉が口元を押さえて笑っていた。だから……隠せてないって。
「こっちも色々と作戦考えたりとかしたいから、第三土曜日辺りにって……」
「では、その週の土日はもう何も入れられそうにありませんね。すぐに闘いを挑んで来ないということは、我々のことを認めてくれているなによりの証拠ですよ。我々もそれまでに修錬を積む必要がありそうです」

 

「……私たちはバレーの練習をしないと……黄私たちに少しでも追いつかないと違う人間だってバレちゃう」
「堂々と入れ替わって体育館に入ってもいいんじゃないですか?その方が昼も練習できますし、こっちのOGのみなさんだって、久しぶりに店舗の店員をするのも悪くないと思いますけど」
「みくる先輩、それ本当ですか!?」
だから、こういうときに嘘を言ってどうするんだって。
「まだ六人中四人しかできないけど、わたしも黄朝比奈さんに賛成。実力差があるからって出ないよりも思い切って出た方がいいと思う」
「でも、黄私の零式は……」
「心配いらん。今練習している理不尽サーブ零式改(アラタメ)はトスの段階から回転をかける。この機会に不完全でも、零式の練習をしてみるといい。ただし、修得難易度SSSクラスの上に、ジョンの世界では通常練習をしっかりやってからでないと練習する時間がないけどな」
『零式アラタメ!?』
「あれの更に上があるというんですか!?」
「ああ、俺も告知が終わったらジョンの世界で練習する。おそらくだが、やってみるだけで出来ると思う」
「くっくっ、どこからそんな自信が出てくるのか聞かせてもらえないかい?」
「何度も言っているだろ。何事も修錬だってな」
「キミがやってみるだけで出来るというなら、一時間でいいから眠って僕達に見せてもらえないかい?」
「今はまだ修行中だ。現段階ではおそらく不可能だが、告知が終わる頃なら多分いける」
「修行中って一体何しているって言うのよ!?」
「いずれ分かる。それより有希と古泉の例の計画はいつ動くつもりだ?」
「今夜。狙いは明日発売の雑誌」
「なら、それが終わってからでいい。本社の社員、作業場パート・アルバイト、購買部店員、本店アルバイトを全員かき集めて会議を開いてくれ。時間を見て、ディナーの接客スタッフや調理スタッフにも全員だ」
「我々を除く本社に勤める人間全員ということになりそうですね。一体何をするおつもりですか?」
「イタリア支部と似たようなものだと思ってくれればいい。本社に出勤してくる人間全員に移動型閉鎖空間を取り付けて、ナイフや銃弾は通用しないことを目の前で見せてもらいたい。俺も今朝はちょっとやり過ぎたとおもっていたんだがな。報道陣は怪我をする人間が増えていくのに自分たちは大丈夫なのかと不安がよぎっているはずだ。それを解消してもらいたい。ついでに本社にいなくても常に温度が一定に保たれていたり、UVカットの効果もあると付け加えれば喜ぶ人間も多いはずだ」
「なるほど、社員の不安を払拭して、報道陣にはより重症を負わせるわけですか。ちなみに、今朝は何を?」
「両サイドからマシンガンを乱射した。機材は視線を送っただけで破壊している。朝倉が処理した分も含めて、致命傷には至ってはいないが、救急車で運ばれてそのまま入院した奴も多いはずだ。再三警告しても寄ってくるから俺の方も段々エスカレートして社員のことを考えていなかった。俺が前に出て話すわけにはいかないし、すまんが古泉たちの方から連絡してもらいたい」
「問題ない。わたしが全員取り付ける。後は古泉一樹、あなたが説明して」
「了解しました」

 

 夕食後、W俺とジョンは当然夜練、青ハルヒと青古泉は異世界の池袋店のシート設置、建物の建設、服の配置に向かった。OG達は俺たち同様夜練だが、その間古泉、有希がみくるや佐々木達、青OGを呼び集め、新川さんのディナーの接客をしているスタッフと交代。移動型閉鎖空間を張り、報道陣と違って安心して本社に来ることができると説明。三階の夕食スタッフもハルヒ、青有希が交代して一緒に説明をしていた。加えて、ディナーの調理スタッフと青新川さん、古泉が入れ替わり、同様の内容を有希から説明された。これで明日の朝食・昼食スタッフを個別に呼べば、残りの社員やパートたちは会議室に集めて一気に取り付けることが可能。特にディナーの接客スタッフは本社を出ても暑すぎたり寒すぎたりすることなく、日焼けもしないことに喜んでいた。
 夜練後、双子を風呂に入れてからいつものフロアへ。69階では12人で温泉に入っていた。ネックレスの有無で黄、青の区別がはっきりしている。
「できたぞ」
「えっ!?できたって、さっき頼んだばっかりなのにもう!?」
『何の話?』
「チャペルに行く途中で、わたしもキョンのデザインしたネックレスがいいってお願いしたの。先輩たちにそれぞれに合ったネックレスをプレゼントしていたから、周りと似たようなものにしかならないかもしれないし、いつできるかも分からないって言っていたのに……」
「もう黄キョン先輩と選んだネックレスを付けているのに、黄キョン先輩のデザインしたネックレスを頼んだの!?黄私ずるい!!」
「この際、俺たち以外絶対に不可能なものを作ってみようと思ったら、結構簡単にアイディアが浮かんだんでな。俺もこんなに早く閃くとは思ってなかった。ついでにもう一人の分も作ってみようとしたんだがな。有希に渡そうと思っているネックレスのデザインとほとんど変わりがないから、どうしようか迷っているんだ」
「え――――――っ!?キョン先輩、私の分も考えてくれたんですか!?すっごく嬉しいです!!」
「でも、『俺たち以外絶対に不可能なもの』って一体どういうこと?」
「見れば分かる。タオルで手を拭いてくれるか?」

 

 小箱をテレポートして本人に開けさせた。プラチナのチェーンに繋がれたのはエンジェルウィングをイメージした型枠、その中に大型のハートシェイプダイヤモンド。そしてここからが俺たちにしか作れないところだ。どんなに優れた職人だろうと、どこかしらに必ず切れ目が出るだろうな。
『超かわいい!!』
「でも、どこが『絶対不可能』なの?」
「え?こんなのどうやって作ったらいいか分かんないじゃん!ダイヤモンドの中に別の宝石を入れるなんて無理でしょ!?」
「そう、やろうと思えば出来ないことはない。やり方としては、ハートシェイプのダイヤモンドを半分にして中に穴を開ける。そこに同じ形をした一回り小さいピンクサファイアを埋め込んで、最後に半分にしたダイヤモンドを元に戻すことで可能だが、どんな名職人だろうと少しでも掘り過ぎればその空洞が目立つし、最後にピッタリとくっつけたとしても、切れ目ができるし、半分にしたときにその分のダイヤモンドが欠けて微妙に合わなくなる。どこにも切れ目なんて無いだろ?」
小箱からネックレスを取り出して全員で確認していた。プラチナで作ったエンジェルウィングのせいで見えないからとネックレスが一人ずつ回されていく。どの道濡れるから、もういいか。小箱だけ濡れないところに置いておけばいい。
「ホントに切れ目が無い!」
「当然だ。切ってないんだからな」
「どうやって作っているのか今度見てみたいです!」
「粘土細工や飴細工と似たようなやり方だと思ってくれればいい。粘土や飴が鉱石に変わっただけだ」
「でも、そのネックレスをつけたら今つけているのはどうするの?」
「私も、キョンがこんなに早く作ってくれるって思ってなかったから、そんなこと全然考えてなかった」
「じゃあ、黄私が今つけているネックレス、私にちょうだい!お願い!!」
「え?あ……キョン、どうしよう……」
「いいんじゃないか?他の四人のようにずっとつけていてくれるのなら、つけられないだろ?」
「うん、肌身離さずつけていたい」

 

つけていたネックレスを外して異世界の自分に渡すと、二人でダイヤモンドとピンクサファイアのネックレスをつけ直して、どちらも満足気な表情だ。それを見て自分のネックレスを見つめている奴が一人。
「それなら、私ももうすぐそうなるってことですよね!?久しぶりにデザイン考えたり店員になったりしてみたいし、青私に今渡しちゃう!」
久しぶりにって……二ヶ月しか経っとらんだろうが。
「えっ!?それ、確か130万円以上したっていうペンダントでしょ!?そんなの私がつけるの?」
「俺も自分で作っていてよく分かってないが、他の五人がつけているネックレス、どこぞのお宝鑑定番組のように鑑定を依頼したら、100万、200万じゃ済まないかもしれんぞ?」
『そんなに高いんですか!?これ!!』
「だから、俺も分からんって。今渡したものだってエンジェルウィングは全部プラチナ。ダイヤモンドも何カラットかはブリリアンカットした後の重さで決まるからな。2gで10カラットだ。確実にそれ以上あるだろ?」
「多分、それにキョンの技術力の分が加算されると思う。こんなのキョンや古泉先輩たち以外できない」
「2gで10カラットなんて、私初めて知りました」
「ところで、今夜中にデザインを考えて、有希とコイツの区別がついたら、明日の朝には青みくるやW佐々木達にもネックレスを渡すつもりだ。青みくるのものは今渡したヤツの色違いだけどな。ピンクサファイアがアクアマリンになっただけだ。コンサートでも見せた最後のアンコール曲のパフォーマンスそのままだからな。青みくるにも渡したかったんだ」
「そう言われてみれば……でも、黄キョン先輩、どうしてそんなにたくさんデザインが湧き出てくるんですか?黄キョン先輩のデザインしたネックレス、黄有希先輩も黄涼子先輩も全部冊子に載せるつもりみたいですし……」
「ん――――――――強いていえば、今日のドライブ中のアレかな?」
『ドライブ中のアレって!?』

 

 超小型カメラで撮影しておいた映像を情報結合で人数分現像して湯船にバラ撒いた。
『え―――――――――――――――――!!!こんな大胆なことしてたの!?』
「ちょっ!キョン!!こんなの恥ずかしいからみんなに見せないで!!」
「閉鎖空間の中だったから歩いている人も走っている車もいなかったが、ポルシェがトップスピードで走っている最中に真っ正面から堂々とキスされたからな。どっかのプロレスラーの闘魂注入と似たようなもんだ。ずっとこの状態だったから、古泉の月9ドラマのようなキスシーンより長いんじゃないかと思ったぞ。あわや交通事故になりかねないようなことをされたら誰だって気合が入るってもんだろ?」
『ふ――――――ん、なるほど、そういうことですかぁ……』
「まぁ、さっきのお返しってことで。それより、もう一つネックレス作ったんだが、デザイン的に青チームの残り四人の誰かに……と思っている。誰かつけてみないか?」
『どんなものか見せてください!!』
社長室の金庫を青俺に拡大してもらったとはいえ、この後取りに行く予定の鉱石たちも入れるとなると、それでも入りきらんかもしれんな。ことネックレスやジュエリーに関しては、社長室が俺の作業スペースになりつつある。プラチナのチェーンにサファイアを猫の形に加工したもの。細い尻尾と首にリボンがつき、リボンの中にはブリリアンカットの小型サファイアが左右に三つずつ。
『超かわいい!!』
「初代シャミセンの黄金像じゃないが、現シャミセンをモチーフにサファイアをベースに作ってみた。欲しい人!」
残り四人のうちの誰かと言ったのに、どうして全員手が上がるんだ。おい。
「ちょっと!黄チームはみんな黄キョン先輩にネックレス貰っているでしょ!」
「こんなに可愛いの、ここに飾っておきたいくらいよ!チェーンの長さを調整して二つ付けてみたい!!」
「まぁ、一つ限りってわけじゃないが、全員分作って飾っておくっていうのも稀少価値が下がりそうだ。青チーム残り四人から一人と、それ以外の中から一人だな」

 

「でも先輩、どうやって決めるんですか!?」
「ドライブの途中も二人で話していたんだが、今日はいつも寝るときに張っているブラインドフィールドと遮音膜を張る練習をする。それで一番早かった人ってことになるかな。一つはそこの四人の中で一番早かった人だ」
「えっ!?でも、ドライブ中に先にその話をしていたのなら不公平なんじゃ……?」
「話と言っても、これくらいなら自分で張れるようになると言っていただけで、実際にやってみるのはこれが初めてだし、やり方もまだ説明していない。これなら公平だろ?」
周りを見ながらライバル視している奴と逆にそれに脅えている奴、不安そうにしている奴に分かれた。バレーと同じで繊細さと集中力、イメージが勝負の分かれ道になる。そういう意味では零式をマスターしたOGが一歩リードってところか。
「よし、今からやり方を説明する。まずは磁場を作ったときと同じく掌にエネルギー弾を出す。今度はそこまで大きくなくて構わない。指輪のリング程度で十分だ。……全員できたな。まずは練習からだ。このエネルギー弾を自分の好きな形に変える。三角でも四角でも丸でも星形でもハートでも何でもいい。イメージ力が豊富なら素早く作り変えることができるはずだ」
とは言ったが、一番早かったのはやはりおまえか……WハルヒやW鶴屋さんのようにセンスがあるわけでもなければ、古泉やエージェントのように経験があるわけでもないこのメンバーの中で、コイツの場合、イメージ力と言うより妄想力だな。異世界の古泉だから超能力の習得のスピードが早かったんじゃなくて、妄想力のおかげだということがこれで証明されたようなもんだ。変態度で言えば、文芸部室のイスや青古泉と変わらんからな。このメンバーの中でも、それを理解している奴が多いようだ。

 

「なんでそんなに簡単に変えられるの!?」
「この子の場合、イメージ力じゃなくて妄想でしょ?」
「あっ、自分の好きな形でいいんだった!……ムフフ」
『だからって何でそんな卑猥なものができあがるのよ、あんた!』
「まぁ、とりあえずここまでにしておこう。さて、ここからが本番だ。今度はこのエネルギー弾で直方体を作る。直方体と言っても中は空洞。空間ができあがると思ってくれればいい」
「あれ?色が変わった!」
「私も!」「なんで!?」
「全員バラバラな色ってわけじゃないみたいだけど……先輩、これどういうことですか?」
「この空間のことを閉鎖空間と言ってな。俺が作ると赤紫色に染まるんだが……今朝青ハルヒに渡した宝石の色がオレンジだっただろ?あれはこの閉鎖空間の色に合わせたもの。そして、この閉鎖空間の色でその人物の性格を判断するジョン的性格判断っていうのがあるんだ。あのとき説明したのはジョンから聞いた内容をそのまま伝えたもの。自分の色がどんな性格なのか、あとでジョンに聞いてみると良い。因みに俺の場合は『紫は赤と青を混ぜた色。赤は熱血漢、青は冷静沈着。赤紫ってことはどちらかと言うと熱血漢ということになる。だが、冷静な面も持ち合わせている』なんて言われたよ。かなり前のことだから、一語一句合っているかどうかは分からんが、大体こんな感じだ」
「え――――――――っ!?ってことは、あんた冷静沈着ってこと!?嘘だぁ!」
黄チームのセッターも青色か。俺も機会があれば聞くことにしよう。変態セッターが作っていたのは青色というよりはどちらかというと群青色に近い閉鎖空間だった。それでも、ほぼ青色になっていたことに対して周り中が驚いている。ちなみに、今日一緒にドライブに行ったOGは……俺の予想通り真っ赤だった。やれやれ。

 

「まぁ、両チームとも青系の色の閉鎖空間を作ったのがセッターだったってことは、チームとして間違った采配はしていないってことだ。さっきの写真じゃないが、恋もバレーも熱が入りまくっている奴もいることだしな」
『プッ……あははははははは、閉鎖空間だけじゃなくて、顔まで真っ赤になってる!あはははは……』
「キョン、次はどうするの!?」
「ここからが勝負だ。今からやることを最後まで説明して合図を出す。合図があるまでは絶対に先に進めないこと。100m走でフライングするのと似たようなもんだ。いつも寝るときの状態に一番早くできた人の勝ちだ。ただし、その後ちゃんとできているかを確認する。いくら早くてもそれで駄目だった場合は失格だ。準備はいいか?」
『問題ない』
「よし、今作った直方体を拡大して自分のベッドに投げる。そしたら周りから中の様子が見えない様にすべての面を黒く塗りつぶすと、ブラインドフィールドの完成だ。次にもう一つ閉鎖空間を作ってベッドに投げる。今度は『中の声が外に漏れない』と条件をつけて、色を黄色にする。それが、遮音膜だ。やることは以上、終わった時点で湯船に浸かってそれ以降は何もしないこと。俺が指を鳴らしたらスタートだ。聞き洩らしは無いな?」
各々がやることを理解して頷いている。音が鳴ったらスタートということもあってか、沈黙のまま、合図を待っていた。指を鳴らすと一斉に閉鎖空間を投げた。元々閉鎖空間の色が黄色のOGもいたし、判断材料の一つとして配慮しておこう。一位になればの話だけどな。閉鎖空間を拡大しながらベッドに上手く設置できたのは数人。ベッドには投げることはできたものの拡大できなかったり、拡大できても少し斜めになって修正していたり。暗闇で覆うのも明らかにベッドが見えているのに遮音膜を作り始めているOGもいる。まぁ、最初はこんなものか。俺だって舞空術の修行で天井に頭をぶつけていたんだ。何事も修錬なのは変わらずだな。全員が湯船に浸かったところで終了。確認作業をしてから結果発表といこう。

 

「全員終わったな。まずは皆の作ったものを見てみろ。斜めになっていたり、ベッドが透けて見えている時点で何人かはアウトになるはずだ」
「え――――――――!!斜めだとダメなんですかぁ!?」
『うん、それ、無理!』
「ねぇ、あれ……ベッド見えてるよね?」
「えぇっ!?見えてないよ!!」
「あれは……ダメでしょ?」「うん。×だね!」
『はい、OUT―――――!』
「そんなぁ……」
「じゃあ次だ。湯船から出て、いつものように磁場で水を吸着したら、ベッドの上で一斉に叫ぶ。声が聞こえてきたら遮音膜になってないのでOUT。残りのメンバーの中から上位二人が商品Get。青チームはそのまま自分のネックレスにして常時身につけてもらって構わない」
磁場はもう作り慣れているようだ。全員がベッドに入った時点で合図をすると、何人かは分からんが声が聞こえてきた。浴槽の周りに集まって結果発表。予想通り、変態セッターがダントツの一位。失格者を除外して残ったメンバーで最も早かったのが黄チームのセッター。どちらも冷静沈着な性格が超能力にも出たらしい。
「今日から自分で作ったブラインドフィールドと遮音膜で寝ることにする。最初だから、今日のみ修正OKだ。明日以降は一度張ったら修正は一切しないこと。当たり前だが、不完全だと周りから見えたり、声が聞こえたりすることになる。翌朝報告してやってくれ。自分が恥ずかしい思いをしないように注意しろよ?」
『ムププ……問題ない』

 

 OG達の方は大分時間を喰ってしまったな。明日の朝にでも眠気を取ることにしよう。佐々木の土下座で一日空いた分割増をしておいた。全身マッサージまでやっている間に、俺の不正の件が話題に上がって全貌を話したが、報道陣の汚さに呆れかえっていたり、苛立っていたりして黄チームのOGたちも昼食のみ人事部も入っていたことにようやく納得していた様子だった。ついでにサイコメトリーのやり方を教えることができたし、人事部で電話対応に加わってもらうのもいいかもしれん。俺や古泉の影分身同様、催眠をかけないといけないけどな。同期をすると、無論100階の方はマッサージを終えて、影分身が抱き合っていた。この時間になっても、未だに俺が作ったピアスをはめているハルヒやWみくるは、このまま寝るつもりか?みくるに至ってはハートシェイプのどでかい方のピアスだしな。どういうつもりなんだか……だが、俺が今回話したかったのは、有希。抱いている最中でも有希なら冷静な回答を返してくるだろう。
「有希、一つ聞きたいんだが……おまえ、みくるのことをどうするつもりだ?この時間平面上の未来を安定させるためのエージェントとして生き永らえさせるつもりか?」
「そう。朝比奈みくるは現段階の状態を維持させる。正確には定期的に現時点の状態にまで戻す。あなたが朝比奈みくるに施した催眠や情報結合は残るから安心して。これで、わたしと朝比奈みくるは彼女たちのラボで朝比奈みくるが生きた時代まで過ごすことになる。朝倉涼子が情報統合思念体に戻らずに過ごしているのはこの時間平面上のみ。あなたや涼宮ハルヒ達の死後、朝倉涼子がどのような行動にでるかはわたしも不明。そして、ジョンももはやあなたの脳内に留まる必要は無い。同位体を作ってわたしや朝倉涼子のように意識を移すだけでいい」
「確か、未来の有希はみくるが寿命を迎えた後、自ら命を絶ったんだったな。おまえもそのつもりか?」
「未定。ジョンや朝倉涼子がどのような決断をするかによって変わる」
「全く年を取らない有希やみくる、朝倉はどうやって過ごしていくつもりだ?」
「特定の人間に真実を伝えて、それ以外の人間からは影を潜めるようになる。あなたや青チームのあなたの子孫がそれに該当する。わたし個人としての要望は、朝比奈みくると同様、あなたにもずっと生きていて欲しい。他の時間平面上のすべてのわたしがあなたと今のような関係にありたいと思っている。わたし自身も未来永劫、今の関係を保っていたい」

 

 有希の思いはそうだろうが、ハルヒ達がそれをどう思うかだな。俺は人類最後の結末を知ってしまった以上、一つでも多くの時間平面で人類の滅亡を防ぎたいなんて、神様的な事を思うようになってしまった。涼宮体でも侵入不可能な閉鎖空間を作ることが可能なら、それこそ藤原のバカを全て滅ぼしたときのように、数多の時間平面上の涼宮体を片っ端から排除していきたいくらいだ。超サ○ヤ人の状態での閉鎖空間で試してみたいところだが、たったそれだけのためだけに、この時間平面上を滅ぼしかねないような真似だけはしてはならない。
「有希、本来みくるが戻らなきゃならなかった時間平面の未来はどうなるんだ?」
「この時間平面上だけでなく、第二次情報爆発直前に未来に戻された朝比奈みくるのほとんどが、その時間平面上に残ることを選んだ。わたし達のコンサートを見にやってきた時間平面上の朝比奈みくるもそれに該当する。本来朝比奈みくるが戻るべき時間平面上での責務は、その時間平面上にいるわたしが彼女の分を負担すると、あなたの言うTPDができた時点でそれが決定した。第二次情報爆発後に過去に送られた朝比奈みくるは必ず帰還させるという条件で」
『おまえ一人でみくるの分まで大丈夫なのか?』と聞こうとしたが、みくる一人の負担くらい、コイツなら『問題ない』の一言で終わらせてしまうに違いない。だが、さっきの通り、有希は影を潜めることになる。ジョンの時間平面を除いて、俺は二つの時間平面上の未来へと行ったが、最初にコイツと会ったときはどちらも影を潜めていた。俺なら顔を出しても大丈夫だと判断したから出てきたんだ。みくるの代わりに前に立つ人間を育成するつもりか?……いや、俺たちだって影分身を使えるんだ。みくるの人形を一体情報結合して操作するくらい、コイツにとっては朝飯前だな。どんな朝比奈みくるになるのか見てみたいもんだが。
「ハルヒ達が何と言うか分からんが、俺は最低でも500年は生きるぞ。この時間平面上まで滅ぼしてしまおうと他の時間平面からやってきた急進派のクソッたれ共をすべて排除するまではな!!」
「嬉しい。それまでは今と同じ関係を続けさせて」
「刻印に入れて伝えようと思っていたがやめにするよ。I will always be by Yuki’s side.『俺はいつでも有希の傍にいる』」

 
 

…To be continued