500年後からの来訪者After Future5-20(163-39)

Last-modified: 2016-10-29 (土) 00:38:59

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future5-20163-39氏

作品

チャペルに連れていくのもこれで四人目だが、その嫁から佐々木がコンサート後に全員に土下座していたと聞いた。土下座するのは各メディアの社長たちだけで十分だってのに、アイツも大袈裟だ。その分、俺も休めたし一日空いた分の割増マッサージを終え、OG達の超能力修行、有希との会話。そして、どうして未だにピアスを付けたままでいるのかそのメンバーに事情を問い詰めることにした。

 

「キョン、今日はあんたの方から抱きしめてくれない?今日は仰向けで眠りたいのよ」
「それでピアスを付けたままだったのか。というよりそれが目的だったのか。さっきからずっと妙だと思っていたが、ようやく謎が解けたぞ。ってことは、みくる達も同じってことになりそうだな。しかし、ハルヒ。おまえが今つけているそれはあくまでコンサート用であって、最初からもう一つ作るつもりなんだぞ?」
「あたしがそうしたいだけなんだから別にいいじゃない!いいからさっさと抱きしめなさいよ!」
「やれやれ……なんて言うのも失礼な話だが、そんな風に受け止めてくれる嫁が居て俺は幸せだよ」
言い方は違えども、みくるも青みくるもOGも『今日は仰向けの状態で眠りたい』と告げ、それぞれの要求に応えることにした。
 翌朝、昨日の有希との話ではないが、やるなら今やった方がいいだろう。古泉と有希で計画した例の一件もあり、本社前の敷地外には誰一人としておらず、おそらくは名前の載った各大御所芸能人たちの自宅付近で様子をうかがっているか各メディアの本拠地に出向いているかってとこだろう。本社の外側に取り付けている閉鎖空間を全て解き、超サ○ヤ人で同じ条件の閉鎖空間を再展開した。新聞の一面には反映されてはいないが、朝のニュースでは、古泉たちが偽造した記事に焦点を当て、報道していた。日テレを除いて『自分のところは関係ありません』という姿勢は変わらず、アナウンサーも謝罪するようなことも無かった。これで最初に偽造した新聞社も報われる。週刊誌の見出しには「土下座で謝る気がないなら辞任しろ!大御所芸能人達の本音炸裂!!」と書かれていた。

 

「今日はSP無しでもいいくらいだな」
「そのようです。黄僕と黄有希さんの例の記事が効いたようですね」
「問題ない。あとは社員たちを集めて閉鎖空間をつけるだけ」
「午前中に時刻を知らせる必要があるでしょう。ランチタイムに入っている社員もいるでしょうし、ランチタイムが終わってからでは、既に帰宅しているパートの方もいるかもしれませんので」
「昨夜敷地外をサイコメトリーした結果、隠しカメラがかなりの数設置されていた。細かくは数えてないが10や20では収まりきらない。だが、警察のものは極わずかで、残りはすべて報道陣のものだ。破壊しても再度場所を変えて設置するだろう。いくら場所を変えようがサイコメトリーに敵うはずもない。破壊するか、わざと残してそのまま監視を続けているバカを嘲笑うか、どっちがいい?」
「敵の姿を捉えられないのですから、残しておくべきかと」
「同感です。破壊する方が逆に問題が生じると思いますよ?」
「他に無ければW古泉の発言通りわざと残すが、それでいいか?」
『問題ない』
「ところで古泉、試してみないことにはまだ分からんだろうが、いわき市に引っ越し作業をするのに最大何体出せそうだ?家具をキューブに収めて住民をテレポート、キューブの拡大までだからそこまで難しくは無いとは思うんだが……」
「あなたの仰る通りです。試してみないことには僕も何とも言えませんが、ドラマ撮影を終えても四体程度かと」
「今後の予定を考えていくと、いわき市の引っ越し、政治家連中をスキー場に移して、十二月からはスキー場の運営とおススメ料理、二月のバレー合宿、三月と四月に熊本と大分の引っ越し、四月から異世界支部の本社の運営が始まる。五月に政治家連中を戻して、その後は熊本と大分の第二地区のことも考えていく必要がある。青俺にも修練を積んでもらってはいるが、影分身ではできる仕事が限られてしまうはずだ。毎回エージェントたちに手伝ってもらってはいるが、エージェント達だって世界各国の支部をまわっていて、これ以上の負担はかけられない。ハルヒ達に手伝ってもらっていても限界がある。異世界支部が本格的に稼働していくとなると尚更だ。俺も色々と考えたんだが……エージェント全員に影分身の修練を積んでもらうのはどうかと思っている。最初は二体から始めることになるが、それでも二つの仕事を一度にやることが可能だ。各国の支部へとテレポートするときは、テレポートする方を70%くらいに高めれば、あとは一瞬で半分に戻すことが可能だ。どうですか?」
「俺にできて、エージェントができないわけがない」
「君の言う通り、今後は過酷なスケジュールが続きそうだ。だが、エージェントたちなら心配いらないだろう。今月の引っ越しを終えれば、三月を迎える頃には古泉と同程度にまでできるはずだ」
「来年の六月頃になれば、異世界支部も含めてですが、通常営業ができるはずです。本社で分担している仕事を異世界でも行うことになる。分担を変えてもいいとは思いますが、やはり最初は慣れている仕事の方がいい。ただ、一つ気にしているのが、青チームの圭一さん達がエージェントを見てもまったくの初対面だという反応をしていたことです。過密スケジュールを終えた後、ここと異世界で二体に分かれる際は、異世界に行く影分身に催眠をかける必要があること。エージェントなら自分でかけられると思いますが……」

 

 話を終えようかというところで青俺の携帯が鳴った。子供たちを連れて青有希が会議から外れる。
「とにかく、そんな先の話はそのときになってからすることにして、今はエージェント達に影分身を覚えてもらうでいいじゃない!」
「涼宮さんの発言通りで今はそれでいいかと。あまり考え過ぎると、またハルヒさんが心労を重ねることになりますよ?しかし、異世界に行く場合には自分に催眠をかけるというのは僕も賛成です。今は重要視しなくとも、異世界のエージェントが何をしているかによっては、野球の試合で応援をしていたOG達のようになりかねません」
「では、僕も影分身をおぼえ……『あんたはしなくていいわよ!』
「古泉の場合、本体は自室にこもって妄想にふけっているなんてことになりかねん」
「そんな使い方があるんですか!?……あ``」
「やれやれ……黄俺の話していた通り、本当に思考回路が古泉とほとんど変わらずとは……」
「この子なら本当に短期間で影分身を覚えてしまいそうです!昨日、黄キョン先輩が教えてくれた超能力の練習でも一番早かったので……」
「キョン君、超能力の練習って何をしたんですか?」
「閉鎖空間を作って、自分でブラインドフィールドと遮音膜を張る練習だよ。昨日一日でマスターした上に一番早かった。情報結合の基本はイメージ力だからな。今から思えば、青俺と青古泉が同時に修行を始めたときも、古泉の異世界人だから習得していくのが早いんだと疑わなかったが、今からすればどっちも妄想力という意味ではほぼ互角だからな。本当に短期間で影分身をしてしまいそうで怖い。ちなみに、昨日ジョンのところにOG達が集まらなかったか?閉鎖空間の色で分かるジョン的性格判断を聞きに行ってたと思うんだが……」
「くっくっ、何事かと思っていたけど、ようやく謎が解けたよ。キミが原因だったとはね」
「ちょっとあんた!どうしてあの子たちにブラインドフィールドと遮音膜を張る練習をさせる必要があるわけ?」
「何事も修練だと言っただろ。まぁ、今回はそれは二の次だ。12人が一緒のフロアに居て、妻二人のベッドだけが遮音膜やブラインドフィールドに覆われていたら『中で何をしているんだ?』ってことになるだろ?かといって、100階でハルヒ達と……っていうのもまだ抵抗があるみたいだし、それで全部のベッドにブラインドフィールドと遮音膜を張るようになった、それだけだ。あと、圭一さん、今日から人事部でいわき市に引っ越す世帯に中旬に引っ越すことになると連絡を取って欲しいんですが……社員に頼んでもらえませんか?」
「分かった。すぐにでも伝えることにする」
「では、僕もその電話に加わることにします。引っ越す側もなるべく早くツインタワーに行きたいと思っているでしょう。喜ばれると思いますよ?」

 

「さて、もう気付いているメンバーも多いと思うんだが、俺から最後だ。青有希がいないときにと思っていたから、最重要ではなかったが長話になってしまってすまない。渡したいものがある」
「それで、あんな先のことまで話していたっていうわけ!?ちょっと!あんたが早く有希にネックレスやピアスを渡さないからじゃない!ちゃんと考えているんでしょうね!?あんたが躊躇している間に、八人全員にネックレスを渡されちゃうわよ!?」
「くっくっ、それは楽しみだ。渡したいものの中に僕の分も入っているんだろうね?」
「有希さんが帰ってきたら、何て説明しておこうかしら?『「今日中に仕上げる」なんて言っていたわよ?』って伝えても良さそうね。だって『SP無しでもいいくらい』なんだから!」
「んー…そう言われてもな……有希に合いそうなものをずっと考えているんだが……ピンと来るものが無くてな」
青有希にせっつかれない様にと思っていたが、裏目に出てしまったかもしれん。
「まぁ、ヒントになるかもしれんから、一緒に見てくれればいい。俺たちにしか作れないネックレスだ」
有希、青みくる、W佐々木、OGの前に小箱をテレポート。青ハルヒの言う通り、俺がデザインしたネックレスはこれで妻全員に行き渡ることになる。小箱が現れて一番に飛び付いたのが有希。その次にW佐々木、OG、青みくるの順。青みくるが小箱を開けるところを青俺もまじまじと見つめていた。
「こんな素敵なネックレス、わたしが貰っていいんですか?」
「みくるちゃんのあのパフォーマンスにピッタリのデザインじゃない!」
「……でもこれ、あの子のつけているネックレスと色違い?」
「ああ、どっちに渡そうか迷いに迷った末だ。昨日の時点でOGには話していたんだが、エンジェルウィングのデザインなら青みくるにもつけてもらいたくてな。ピアスと同じアクアマリンがダイヤモンドの中に入っている」
「ちょっと待ちたまえ。ダイヤモンドの中にアクアマリンを入れるなんて一体どうやったんだい?」
「問題ない。情報結合なら飴細工と似たようなもの。切れ目や無駄な空間を一切作らずに加工することが可能。わたしのものも一緒」
「それで『俺たちにしか作れないネックレス』ってことだったのね。でも、黄有希さんのは一体……何?」
「有希のネックレスは情報爆発したときの宇宙の様子を再現したものだ。地球を中心に伊織の金色のオーラが爆発した様子をゴールドで球体を切るようなデザインをしてみた。あとは太陽系の惑星と他の星々をいろんな色の宝石の粒で表現して、球状のサファイアの中に埋め込んだ。チェーンも情報爆発の色に合わせた24kゴールドチェーン。OGに渡したものも同じだ。オバールシェイプのタンザナイトの内部に細かい宝石の粒子をいくつも混ぜ込んで天空スタジアムから見える満天の星空をイメージして作った。周りにダイヤモンドを敷き詰めているのはこれまで付けていたものと変わらず、残りはチェーンも含めて全部プラチナだ」
「すごい!天の川ができてる!!」
「こんなのキョン先輩にしか作れないよ!」
「鑑定士に鑑定させたとしても、単なるガラス細工だと言われてしまうでしょうね。まさに唯一無二のようです」
「それにしては……僕たちのものはシンプル過ぎないかい?」

 

 青佐々木の一言を機に、全員の視線がW佐々木のネックレスに向いた。
「いえ、おそらく佐々木さんのものがこの中で最高額になるでしょう。数百万で収まるほどの代物ではありません。1億は軽く超える筈です」
『軽く1億を超える!?』
「青古泉君!一体それどういうことよ!?」
「ダイヤモンドの中でも赤は超S級のレアカラーとされています。これを見る限り、ファンシーレッドダイヤモンド。奇跡の宝石とも呼ばれる宝石です。しかもこの大きさだと……世界最大のレッドダイヤモンド『ムサイエフ・レッド』をあきらかに超えていますね。ムサイエフ・レッドは5.11カラットで9億8000万。一体何カラットのものを作ったんです?」
『9億8000万!?』
「あんた、そんな宝石、一体どこから採ってきたのよ!?」
「オーストラリアのアーガイル鉱山ってところだ。W佐々木のネックレスをどうしようかと一番迷ったんだがな。ハルヒが一夫多妻制をOKして、『親友』から『俺の妻』にランクアップしたものだと思っていた。佐々木たちもそうじゃないかと思う。だが、佐々木たちとは『夫婦』でも『親友』でもありたいと思ったら、二人には特別なものをと色々と調べまわったんだよ。特にバレ―の日本代表との初対決のとき、黄、青合体させて一つのチームを作りたいと言い出したのはおまえだ。色は赤がいいと言ったのもな。青古泉の言う通り、レッドダイヤモンドは超S級のレアカラー。他の原石のように磁場だけじゃ一欠片も吸着しなくてな。昨日は影分身十数体がかりで鉱山をサイコメトリーしてまわったよ。今、青佐々木がつけているのは2g、10カラットのラウンドブリリアンカットダイヤモンド。ムサイエフ・レッドは13カラットの原石を加工して5.11にまで下がってしまったが、俺にはそんなもの関係ないからな。有希が言っていた通り、飴細工のように形を変えただけだ。10カラットで丁度いい大きさだったからそれで止めにしたが、社長室の金庫に少しだけだが未加工のものが残っている。ムサイエフ・レッドの倍だから、単純計算で19億6000万以上ってことになるか。」
「キキキキキキョキョキョキョキョンンンンンンン、ぼぼぼぼぼぼぼ僕ががががこここここんんんんななななももももののののをををををを…………」
「佐々木さんでも朝比奈さんと同じ反応することもあるのね。でも、20億のネックレスなんて言われたら、誰でもそうなりそう。そのネックレスを渡されただけでも、わたしも同じようになりそうだもの」

 

 やれやれ、レッドダイヤモンドの金額にフロアにいるメンバーが絶句している間に青有希が戻ってきてしまった。
「………?みんなどうかしたの?」
「きっ、黄俺が佐々木に渡したネックレス………20億の代物だそうだ」
「あんなに小さいので20億もするんだ」
「青有希ちゃん?な、なんであんた、そんな平静を保っていられるわけ!?」
「彼女は経理課の長ですよ?各国の支部を建てるのにかかった費用に比べれば大した額ではありません。それに、黄僕や黄有希さんが今日説明する予定の移動型閉鎖空間が我々には既に取り付けられていますからね。いくらこのダイヤの価値が分かる人間が大勢いたとしても閉鎖空間に敵う相手はいませんよ」
「し、しかしだな……ということは、黄佐々木がつけているものは一体いくらするんだ!?」
「レッドダイヤモンドと双璧を成すほどのものとなれば、あれは……アレキサンドライトですか?しかもキャッツアイ入りですから、値段は……僕にも想像がつきません」
「こ、古泉君、キャッツアイ入りって、どっ、どういうことか説明してもらってもいいかしら?」
「宝石も、何もついていないものと何かしらの紋様がついているものとでは価値が違ってくるんです。名前の通りキャッツアイ、すなわち、猫の目と似たような模様が入った宝石という意味です。朝倉さんも身につける宝石を決める際の参考にしてみてはいかがです?」
「それで、あんた……そんなものどこで採ってきたのよ!?」
さっきのレッドダイヤモンドのときとほぼ同じセリフでハルヒが問いかけてきた。まぁ、青有希が20億の宝石に驚いていないことに逆に驚いていたから当然か。
「レッドダイヤモンドと同じでこっちも影分身でサイコメトリーしてまわった代物だ。ロシアのウラル山脈エメラルド鉱山ってところまで行ってきた。オーストラリアにも地名がエメラルドなのにサファイアが山ほど採れるなんて変な場所があるんだが、アレキサンドライトで間違いない。今、青古泉が宝石の特定に迷っていたのは、この宝石は光の種類によって色を変えるからだ。レッドダイヤモンドが奇跡の宝石なら、アレキサンドライトは皇帝の宝石。産地がロシアってこともあるんだが、それのキャッツアイ入りのものを探し当ててきた。値段については俺にもよく分からん。佐々木のネックレスの宝石をこれにした理由は、この宝石が創造性や捜索力を刺激してくれると言われているから。要は佐々木たちの研究のための宝石ってことだ。クリスタル療法だと危機に直面したときの直感力を高める効果もあるらしい。だが、一つだけだと孤独になるなんて噂もあって、最初はW佐々木に渡そうかと考えたんだが、やっぱり別のものがいいと思って、青佐々木がレッドダイヤモンドになった。しかし、それだけだと佐々木が孤独になってしまうから、俺も同じものをつけたんだよ。孤独な奴が近くに二人いれば孤独じゃなくなるだろ?」
胸をはだけて佐々木と同じネックレスをつけていることを全員に見せた。当然、アレキサンドライト単体ではなく、マーキース型のプラチナの型枠の上に、アレキサンドライトを4か所で固定して、まわりをダイヤモンドで埋めた。無論チェーンもプラチナだ。

 

「くっくっ、そうだね。僕もキミとは親友よりさらに親密な関係でありたいと思っていたから、親友じゃ満足できなくなっていた。『夫婦でも親友でもありたい』なんてキミに言ってもらえて僕は幸せだよ。指輪だけでなくネックレスまで同じものをつけてくれるなんて嬉しいじゃないか。キョン………わ、私は……」
「佐々木がこんなに大勢いる前で自分のことを『私』って……」
佐々木の涙にWみくる、青朝倉、OG達が貰い泣き、青佐々木も涙を流していた。俺が長話した分とネックレスを渡した分で大分時間が経過していたが、俺たちの通勤時間はゼロ。日本代表の練習開始にも十分間に合う。沈黙を破ったのは、新川さんだった。
「では、わたくしはこれで下のフロアに向かいます。仕込みがありますのでお先に失礼致します」
「私たちもそろそろ体育館に向かわないと……キョン先輩、ネックレスありがとうございました!昨日先輩が言っていた、有希先輩と私のネックレスを区別するって意味がようやく分かりました!」
「え?今日は交代するんじゃないの?」
「キョン先輩からこんな素敵なものを貰ったらやる気が漲ってきちゃった。入れ替わるのは、また今度にさせて!」
『私も練習に行ってきます!』
「さて、青佐々木。俺たちもそろそろ行くぞ。ウェディングドレスには合わないネックレスで申し訳ないんだが、それで勘弁してくれ」
「ききききキミは一体何を言い出すんだい!?こんなものをつけてポルシェになんて乗って、もし落としでもしたら僕はどどどどどうやって責任をとればいいのか説明して……いや、説明しないでくれたまえ」
どっちなのかはっきりしろ。それに、そんなもの気にする必要がない。
「肌身離さずつけていれば、とれた瞬間に分かるだろ。そのあとサイコメトリーするだけだ。おまえもどうせ恥ずかしがるだろうから閉鎖空間を展開する。閉鎖空間内なら盗まれることも、他の車に押しつぶされることもないし、壊れたとしてもすぐに直せる。それに、体勢としては取れにくいはずだから大丈夫だ」
「体勢?僕が助手席に座るんじゃないのかい?」
「後で分かるさ」

 

 ハルヒとみくるが朝食の片付けをしている目の前でウェディングドレスを身に纏った青佐々木のヘアメイクをしていた。純白のドレスに、まさに紅一点とも言えるネックレスでレッドダイヤモンドが一際輝いて見える。まぁ、これはこれで見栄えがするし、赤いポルシェに乗ってしまえばそれも気にならなくなるだろう。
「青佐々木もみくるもウェディングドレスに合わないネックレスやイヤリングですまん。青ハルヒのイヤリングのようなデザインが閃けば良かったんだが……」
「くっくっ、世界一のネックレスを貰っておいて、そんなことで文句が言えるはずがないじゃないか。コンサートでもライブでもこのネックレスでいさせてくれたまえ。どんな衣装だったとしてもね。どの道僕たちにしか見えないんだろう?」
「ああ、盗掘の罪がかかる上に、何癖付けられてロシアが全力でこれを奪いにくるだろう。青有希の反応通り、今の俺たちにとっては20億程度で大騒ぎすることでもないしな」
「キョン君もそんなことで悩まないでください。それより、わたしも早くチャペルに連れて行って欲しいです!」
「だったら、みくるとは明後日行くことになるかな。明日は楽団の練習日だし、全速力……というわけにもいかんだろう?それとも、ドラマのときのようにみくるが運転するか?そういえば、ドラマの撮影のときは全速力で運転してたな。ハルヒの合図があるまでは早く動かしたくて仕方がないなんて言いたげな顔だったし……どうする?」
「えっ!?えっと……わたしはキョン君が運転する車に乗りたいです。でも、さっき話していた体勢って?」
「それを今話したらコイツまで嫌がるかもしれんから、あとでな。じゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」

 

 やれやれ……結局ハルヒは一言も喋らずだったな。W佐々木のネックレスの金額や『世界一』の称号、『夫婦』でも『親友』でもありたいと言ったことに妬いているんだろう。アイツは俺の『団長様』だってことをすっかり忘れてやがる。ポルシェに乗り込んだときの青佐々木の反応はこれまでの妻たちとさほど変わらず、この方が話しやすいし、少しでもくっついていたいと話して、ようやく承諾を得た。
「キョン、確かにこの状態なら、たとえネックレスが外れたとしても、キミにあたって無くしそうにないけれど、もう少し何とかならなかったのかい?このままじゃ、私はハルヒさんに嫌われてしまうよ」
「青俺が青有希のネックレスとイヤリングで悩んでいたのと一緒だよ。おまえらのネックレスをどうするかで困っていたところでようやくそれが出てきたんだ。今から他のものに変えろなんて言われても、それ以外に考えられん。佐々木も昨日見て気がついていただろうが、ハルヒもみくるたちもイヤリングを付けた状態で寝たいなんて言っていたんだ。アイツにはまだコンサート用でないイヤリングを渡す。青朝倉がジュエリーに困っているのなら、俺が朝倉にナイフを模ったイヤリングを渡そうかと思っているくらいだ。もっとも、本人が嫌がって情報結合を解除してしまいそうだけどな」
「キミと彼女の経歴はキミからも黄私からも聞いているけれど、今の彼女がそこまでするとは私には思えない。キミや古泉君のデザインだって、ああは言っていても認めてくれていたじゃないか」
「それについてなんだが、昼の段階で有希と朝倉に話すつもりだ。『宝石や色を変えるか、アレンジして別のものにしてくれ』ってな。でないと、古泉が言っていたように『唯一無二』にはならないし、同じアクセサリーを付けた人間が全国に現れてしまう。それに、今日渡したメンバーのものは冊子には載せられないからな」
「くっくっ、カシミヤ100%の冊子の特集に嘘記事を書かれてすべて確認したときと真逆になりそうだ。すべて確認したら本物のレッドダイヤモンドだったなんてことになれば、世界経済が崩壊してしまいかねない。それにしてもこの時期になっても尚、私たちの世界でカシミヤの嘘記事が書かれないのはどうしてだろうね?」
「簡単だ。嘘記事を書いたところで新聞や冊子の売れ行きにさほど影響がでないからだ。書かれるなら来年ということになる。とりあえず今は他社のカシミヤ商品を低迷させて、これからのシーズンで少しでも顧客に暖かさを実感してもらうことくらい。そういや、低迷していた研究の方はどうなったんだ?」

 

 『研究が低迷していた』という俺の一言に苛立ちを感じたのか、こっちの佐々木からまだすべて聞いていないのかは分からんが、青佐々木との会話がそこで一旦途切れた。情報の受け渡しなら佐々木が青佐々木に触れるだけでいいはずだ。
「まったく、やれやれだよ。方程式を一つずつ紐解いているのはいいんだけどね。次の段階に行くにはどうしたらいいのか、また分からなくなってしまったよ。キミと話していれば、また先に進む気がするんだ。他の時間平面上でも、過去私のように苗字もキミのものになってなくても、キミをスカウトして一緒に研究している気がするんだ。キミと夫婦であり、親友でもある関係というのは、すべての時間平面上の私たちにとって極上のものに違いない。けどね、こうして毎日キミが傍にいてくれなきゃ私は立っていられない気がするんだ。今は黄私の体調に配慮して影分身を一体置いてくれているけれど……まいったね。キミの行動が制限されてしまうのは重々承知している。それでも私たちはキミと一緒に研究をしていないとダメみたいだ。前々から何度もアプローチしていて『またか』と思われても仕方がないとさえ思っている。それでも、告知が終わったら私たちの研究を手伝って欲しい。お願いだよ、キョン」
この前発展したばかりだというのに、もう座礁していたのか。それだけ二人での研究の進み具合が早いと見て間違いなさそうだ。
「まぁ、無量大数の単位にまで突入してしまうんじゃないかと思ってしまう程の数多の時間平面の中で、あの時間平面上だけが特別なんだろうな。でなければジョンが『緊急事態だ!』と何度も叫んでくるだろう。おまえと同じ大学に合格して二人で有意義な大学生活を送っていたなんてあの時間平面上くらいだろう。過去俺が大学に合格した日にパーティをしていたが、乾杯直後に母親が過去佐々木に礼を言っていたのも、今なら分かる気がするよ。おそらくとしか言いようがないが、残りの時間平面上での俺は、ハルヒ達と一緒にみくると同じ大学を受けて、就職活動をしてはみるものの、ハルヒや古泉たちのように、そう簡単に就職先が決まっているなんてことは無いだろう。ラボを建てたおまえにそうやって誘われてようやく職につくことができた。そんな気がしてならない。おまえに誘われて、ありがたいとさえ感じているだろう。告知さえ終わってしまえば、その時々でパーセンテージは変わっても、今のように身内にだけしか顔を出せないような状態にはならない。今朝も話したが、引っ越し作業さえ終えてまた安定した生活が送れる時期になれば手伝ってやれる。だから今どんな状態で何に躓いているのか、周りくどい言い回しをしてないでさっさと教えろ!でないと手伝えもしなければ、相談にも乗ってやれないだろうが。今日からおまえら二人は同じ閉鎖空間内で会話しろ。100階の四つの浴室のうちの一つはおまえら専用ってことになりそうだ」

 

 折角のドライブだっていうのに、今頃になってようやく表情が明るくなったと思ったら、今度は恥ずかしくなったらしい。赤面した顔を俺の胸に埋めるように額を当てた。
「おまえが今思っていることを当ててやろうか?『古泉君やOGのセッターのように、どちらか片方が変態だと言われてしまう程、性癖に偏りがあったらどうしよう』当たり前だが、先に妊娠したこっちの佐々木よりも、おまえの方が抱く回数が多くなってしまうからな。それを佐々木に知られるのが恥ずかしい。……違うか?」
「どうしてキミには、こうも簡単に私の思考が伝わってしまうんだい?」
「『今日から同じ閉鎖空間内で』と言って顔を隠したくなるほど恥ずかしいことって言ったら、それくらいしか思い当たらんだろう?超能力無しでも、俺が古泉の行動が読めてしまうことに嫉妬していたんじゃないのか?」
「彼のことが羨ましいと思っていたのは間違いないけれど、キミももうちょっと察してくれたまえ。私にだって読まれたくないことはあるんだ」
「そうでもしないと会話が先に進まないだろう?『一緒に研究をしてくれ』と何度もアプローチをして俺が嫌がっているんじゃないかと勘繰るほどの奴が、こんなに貴重な時間を無駄にする気か?何で悩んでいるのか教えてもらえないと話が進まないだろうが!」
「自分で言ったセリフを今からでも取り消したいくらいだよ。どうしてあんな簡単に黄私に先を譲ってしまったんだろうね。黄私が赤子に母乳を与えている間も、私はキミの遺伝子を貰って、迫りくる欲求をキミに発散してもらわないといけないことに、どうして気がつかなかったんだと自分でも呆れているよ。でも、そうだね。そうでもしないと、キミと繋がっていられるあの貴重な時間を、私の欲求を満たすためだけに使っているのはもったいない。黄私がキミから受け取ったヒントを基にして、実際に異世界移動できる装置を有希さん達の部屋に置かせてもらったんだ。莫大な資産が必要という点も情報結合と小型化することで何とかクリアすることができた。実際に向こうに行って、異世界に置いた装置で戻ってくることもね」

 

 佐々木から進捗状況を聞いて数日だっていうのに、そこまで進展していたとはな。しかし、その装置というのがどんなものか見てみないことにはな。『小型化する』ためには異世界に行く人間を入れるようなカプセルのようなものがあってはこれ以上小型化することはできないし、その案は佐々木たちがまず真っ先に排除しているはず。異世界移動のためのエネルギーもそこまで必要ないとなればエネルギーを生み出すための装置もそこまで巨大なものではないはずだ。
「佐々木、その装置の使い方を教えてくれないか?さっきおまえはW有希の部屋に装置を置かせてもらったといっていたな。ラボに置いたらまずいことでもあるのか?例えば、北口駅前店の店舗の内部かオフィスに行ったりする。場所の指定ができないなんてことはあるのか?」
「そんなことはないさ。場所の入力さえしてしまえば移動のスイッチを押すだけだよ」
「複数の人間が行きたいときはどうする?」
「ジョンの嗜好品と一緒さ。瞬間移動するときにその人物に触れてさえいればいい」
「それなら話は早い。佐々木とドライブしてから今までの短期間でそこまで進展しているとはな。おまえにいい道具を見せてやるよ」
「もう解決策が見つかったって言うのかい?それに、一体キミが何を出してくれるのか楽しみだ」
声帯を変化させてそれっぽく演じてみた。
『ス○ールライト~!』
「あ……そうだ、その手があった!いや、でも入力が困難に………」
「入力画面だけは大きいまま、他を小さくしてしまうんだよ。できれば異空間移動のエネルギーの補充は充電という形にもっていければ、少し大きめだが、スマホやタブレットとして持ち歩ける。これで装置一つで済むだろう?」
「キョン!!」
この前のOGみたいにキスで無くて助かった。レッドダイヤモンドが胸に食い込んでいるのが痛いが……まぁいいだろう。青佐々木にキツく抱きしめられて当分離れそうにない。前回のように昼食に遅れるわけにもいかんし、コイツも佐々木に報告したいに違いない。しばらくしたところでポルシェを止めると、昼食に戻ろうと告げ、二人で本社へと戻ってきた。昼食の支度はいつも通りハルヒと有希で……はぁ!?

 

「ただいま」
アイランドキッチンの様子を見ても青佐々木がそこまで反応を示すようなこともなく、頭の中は入力画面以外の小型化をどうしようか考えているに違いない。既に戻ってきていた佐々木がそれに気付いた。
「その様子だと、ドライブ中に進展があったようだね。僕にも教えてくれたまえ」
青佐々木から情報を得て、二人とも同じ表情になった。
「まさかこんな簡単に解決の糸口が見つかるとは思わなかったよ!僕の存在意義のもう一つが近日中に満たせるかもしれない。これなら異世界移動の修錬を積まなくてもよさそうだ」
「佐々木さん達の研究していたものが出来上がったの?」
「九割方と言った方が適切かもしれないね。でも最初の五割はハルヒさんと有希さんで進めてくれていたものだからね。僕自身の手で研究してみたいのはこれから始めることになりそうだ」
「あたしと有希で研究って……あ―――――っ!!異世界移動をするための装置のこと!?莫大な費用なら今のこの会社になら十分あると思うけど……行くだけで帰って来られないんじゃなかったの?」
「情報結合で作って費用は一切かかることなく、小型化のアイディアも前回と今回でキョンの助言でスマホかタブレットの形状にまで収めることになった。これなら行って帰ってくることが可能だよ。やはりキミの力は必要不可欠のようだ。告知が終わったら僕の研究を手伝ってくれたまえ」
「さっきも青佐々木から申し訳なさそうに言われたよ。影分身で行くことになるが、告知と同じで精々20%ってところだろう。それでも定期的に同期すれば、本体を含めて影分身全員で案を出し合うことになる。告知が終わってからというよりも、熊本と大分の復興支援プロジェクトが終わったら……だな」
「ところで、どうしてハルヒが影分身を出現させてまで昼食の支度をしているんだ?」
「あんたが今朝エージェントに提案してたんじゃない!エージェントだけでなくあたし達もできるようになれば他の業務に支障をきたすことはないわよ!」
ごもっともな意見どうもありがとう。有希は影分身と言うより、情報統合思念体に申請して一定の時期だけ同位体を派遣してもらうことになりそうだ。周りのことまでしっかり配慮してくれる妻で本当に良かったよ。過去ハルヒのように高校時代の名残がまだ残っているようでは、アイツの言葉にいちいち苛立っていただろうからな。

 

「しかし、キョン。僕らだけこんな格好で昼食を食べるのかい?」
「チャペルに向かっている途中なんだから仕方がないだろう。午後は次の研究の発展の糸口を探さないとな」
「次のって他にどんな研究をしているんですか?」
「色々と進めているんだけど、どれも座礁していてね。それでキョンに相談していたんだけど、こうも簡単に解決の糸口が見つかるとは思っていなかったよ」
「だが、話を聞いて驚いたよ。佐々木とチャペルに向かってから、これまででそこまで進展しているとはな。おっと、忘れないうちに話しておこう。有希、朝倉、冊子に載せるって言ってた俺のデザインしたネックレスだけどな、宝石の色を変えるかアレンジを加えて別のものにして欲しい。でないと、ハルヒ達に渡したネックレスが唯一無二のものにならないし、今日渡したネックレスは絶対に載せないでくれ。ガラス細工だと嘘記事が出てしまうし、青みくるやW佐々木に渡したものが本物だと証明されてしまってはまずいことになる。それから社員をいつ集めるのかは知らないが、楽団員のことをすっかり忘れていた。明日の練習後にでも、有希の方から説明を頼みたいんだがいいか?」
「分かった。アレンジを加えて別のものに差し替える。楽団員への説明についても問題ない。でも、今青OGがつけている、シャミセンをモチーフにしたネックレスは出すことが可能。あれもアレンジして別のものとして掲載する。それに、できた」
今度の『できた』は何のことになるんだか。黄チームSOS団に楽譜が配布されたということは、セカンドシーズンのオープニング曲がもうできたのか?青古泉も気になって楽譜を覗いている。
「なるほど、タイトルが『Super Driver』とはセカンドシーズンのオープニング曲としてピッタリのものになりそうです。しかし、佐々木さんのそのネックレスもまさに紅一点ですね。赤いポルシェに乗っていることも考えればこれ以上のものはありませんよ。レッドダイヤモンドがそこまでウェディングドレスに映えるとは僕も予想外です」
「どんな曲なのかあたしも聞いてみたくなったわね。オープニングをどこで入れるかも脚本に練り込まないといけないでしょ?」
「くっくっ、そうだね。今すぐにでも研究に没頭したいところだけれど、青僕が戻ってきてからにさせてもらうよ。オープニングが流れている最中に青古泉君や朝比奈さん、涼宮さんをどこでどういう形で登場させるか、演出も考えないといけない」
「だったら、今日の四時に天空スタジアムで実際にやってみましょ!ライブとして天空スタジアムを使ういい機会だわ!それにしても、あのTV局の社長もまだ土下座する気がないのかしら。あたし達からすれば、あの番組の会場として使いたいのなら、逆に使って欲しいくらいなんだけど……」
「問題ない。昨日差し替えた嘘記事で報道陣がまた荒れることになる。二、三日は様子を見た方がいい」
「それでも動かないようであれば、こちらから連絡を取ってみましょう。『折角のチャンスを逃すつもりか』とね」
「是非、僕も生で聞いてみたくなったよ。キョン、チャペルまでまだ時間がかかるのかい?」
「あの調子で行けば、三時までには戻って来られる。だが、午後四時だと折角の天空スタジアムの特質性が使えなくなってしまう。OG達も見たいだろうし、夜練後じゃ駄目なのか?」
『ハルヒ先輩、私たちもライブが見たいです!』
「しょうがないわね……じゃあ、四時から五人で合わせてみて、あんた達が来たところで一回だけね!」
『問題ない』

 
 

…To be continued