500年後からの来訪者After Future5-4(163-39)

Last-modified: 2016-10-13 (木) 19:57:48

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future5-4163-39氏

作品

温泉から本社へと戻ると妻やOG達が待ちわびていたかのように俺を求め、俺がいなかった時間の分と言わんばかりに抱きついて来た。嬉しくないわけでは決してないのだが、双子じゃあるまいし、いい大人が俺一人いなかっただけで眠れないだの身体が疼くだの言われてもどうしたものか困ってしまう。みくるとのデートの後、夕食の最中に事態が急変。余命後半年だと……バレー合宿の来シーズン頃までは生きられるだろうとサイコメトリーが俺にそう言っていたのに。オフシーズンにも関わらず、OG達が日本代表選手達を連れて本社に戻ってきたことに合わせるかのように、シャミセンからの最後のテレパシーを受け、とうとう寿命が尽きてしまった。

 

『ペット葬儀屋には古泉一樹が連絡したんだろう?この後はどうする気だ?』
ジョンがこの後の夜練のために、全員の前に姿を現した。
「何言っているのよ、ジョン!シャミセンが死んじゃったのに、夜練なんてできるわけがないじゃない!」
「いや、影分身は一人になるが俺も出る。それから、青朝倉、有希と交代してきてくれないか?アイツに触れて、このことを伝えてくれ。店舗の方も青チーム主体で頼む。行けるメンバーで構わない」
「このバカキョン!今そんなことやってる場合じゃ……」
「すまないハルヒ、やや雑になるだろうが、ボールでも投げてないと、今の心境をどこにぶつけていいのか分からないんだ。葬儀には出るから……頼むよ」
「キョン………」
「二人が出る以上、俺も出ないとな」
「すぐに黄有希さんと交代してくるわね!」
「黄わたしの代わりに、わたしが原宿店に行きます!」
「困ったね。礼服をどこにしまったか忘れてしまったよ」
「あんた!あの子も呼び戻して頂戴!お願いよ!」
「すまん。俺が言えるようなセリフじゃないんだが、今のアイツにシャミセンが死んだなんて言ったらどうなるかくらい考えてくれ。礼服には着替えなくていい。これが俺たちの正装だ」
『ペット葬儀屋が到着するのに、あの報道陣は邪魔だな。俺が追い払って来よう。この前のアレでいいんだろう?』
「ああ、頼む。あとは報道陣には中の様子は見えない条件をつけておけばそれで済む」
「専用車が入口前に到着するよう手配しました。そろそろ我々も降りましょう」

 

 シャミセンを布団で包み、立ち会うメンバー全員で玄関前にテレポート。練習用体育館には鈴木四郎の催眠をかけた影分身を置いて、ジョンと青俺がテレポート。時間通り練習は始まったが、黄チームのOG達は玄関前に来ていた。ようやく合流した有希が俺の抱えているシャミセンをジッと見つめていた。ペット葬儀屋の専用車が到着して布団ごとシャミセンの火葬が行われた。これで、俺の実家にあったものが全部なくなってしまったな。双子は俺と手を繋いでいたが、まだ幼稚園児だ。何をしているのかなんて分かるわけがない。朝倉を除く黄チームSOS団メンバーがシャミセンの骨を骨壺に一つずつ収めていく。あとは俺の両親がそれぞれ一つずつ。残りの骨はハルヒ、有希、みくるが担当した。この三人が収めるのが一番良いだろう。青チームのOGにはアイツとの出会いを話すことになりそうだ。シャミセン、おまえはこれからも俺たちと共に歩んでいく。仏壇は81階に置くことになるだろう。古泉と葬儀屋が詳細を確認し終えたところで、葬儀屋は帰っていった。
 81階に戻って夕食の残りを口に運んでいた。いくら青新川さんの料理でも、いくら舌が美味しいと感じていても、この気分だけはそう易々とは変えられない。そういや、何の話をしていたんだか、すっかり忘れてしまった。今の俺にできることと言えば、100階でハルヒ達を慰めてやるくらいか。俺の方が慰められる側かもしれん。夜練を終えた影分身が69階へと向かった。今回ばかりは本体がこっちでないとダメだろうからな。100階で待っていたWハルヒ、有希、Wみくる、W佐々木を連れてシャンプー台へ。
「予兆はキミから聞いていたし、キミが旅行から帰って来るのを心待ちにしていたはずなのに、どうしてだろうね。気持ちいいと感じていても、いい気分になれそうにないよ」
「みんなそう思っているんだから、今日くらいはいいんじゃないか?俺も似たようなものだからな」
結局、その日は69階も100階の方も誰一人として抱くことはなく、精々ハルヒと有希、みくるが当時の映画撮影の衣装を着て影分身の腕枕で寝ていた程度。といってもハルヒは北高の制服を着ていただけに過ぎず、腕章が監督になっていた程度。OG達もとりあえず今日はシャミセンとの経緯を俺から話すようなこともなく、妻だけ100階の個室にテレポートして眠ることになった。

 

 全員が寝静まった後、99階で一人……いや、一応三人か。今週のビュッフェディナーの準備に取り掛かっていた。本体は本マグロを捕えに向かい、社員食堂の大釜で寿司用とカレー用のご飯を炊きながら、カレーライスのルーとビーフシチューの仕上げ、自家製コーンスープ作りに入っていた。告知の方が丁度オーストラリアにいることもあり、時差も無くジョンの世界に行っても何も問題はないんだが、自分で言い出した手前、古泉達にあまり負担はかけたくはない。それに、年末のパーティの予行演習にもなる。理想は25%ずつの四体で構成し、一体が厨房、本体で本マグロのパフォーマンスを見せ、その間に残り二体で他の寿司ネタを握る。主催者からのテレパシーが来るまでに他の料理の仕込みを終えることができれば俺一人で回すことも可能だ。まぁ、寿司に関しては、青ハルヒにも握ってもらうことになるだろう。頼んでおいたアレもそろそろできたかどうか聞いてみないとな。米も焚き上がり、カレー用のご飯は別の入れ物に移してそのまま閉鎖空間でアンスコ同様、現状を維持。今回は焚くときの水の量とルーで勝負する。キャロットライスでは圭一さんが食べられないからな。もっとも、人参は既にルーの中に溶け込んでいるのは内緒にしておこう。空いた大釜にもう一度米と水を入れて二度目の炊飯作業。影分身の方はシャリ作りを始めていた。
『キョン、時間だ』
ジョンの合図がかかる頃にはカレー用ご飯、シャリの準備は整い、カレーやビーフシチュー、自家製コーンスープも完成。魚もすべて捌いて、こちらも現状維持。ハンバーグに入れる生パン粉を作るためのパン生地を足でこねて、徹底的に肉を叩いていた。パンを影分身に任せて家族四人でエレベーターを降りる。
『キョンパパ、いい匂いいっぱい!』
「色々作っていたからな。今日の夜食べられるぞ」
『ホント!?キョンパパのご飯、早く食べたい!明日のバレーも頑張る!』
そういえば、平日も帰ってきてすぐ着替えれば試合に出られることを話し忘れていた。来週の月曜に話すとしよう。

 

 朝の会議は淡々としたもので、職場体験で受け入れた生徒からの手紙が届いたことの報告、今夜のディナーの進捗状況の確認、原宿店は青OG三人とアルバイト二人で十分、後は俺がディナーまでの間99階で仕込みをするということくらい。子供たちが小学校や保育園に出かけて行き、他のメンバーの様子も昨日よりは若干良くなっていた。
「しかし、お一人でカレーやビーフシチュー、コーンスープまで仕上げて魚介類もすべて捌き、今も尚ハンバーグに入れるための生パン粉を製作中とは驚きましたよ。我々…と言っても僕の同位体でどこまでのことができるかは分かりませんが、仕込みに加わらなくてもよいのですか?」
「おでんに関しては青朝倉に一任しているが、年越しパーティの予行演習のつもりで準備をしているから大丈夫だ。それに、何事も経験のようでな。毎日のようにシャンプー&マッサージで20体近く影分身していると、サイコメトリー能力を使って何かをする程度のことなら、ほんの数%の意識で済むらしい。これから昼の仕込みの分も合わせて大量の野菜をカットしていくだけだ。広島風お好み焼きに使うキャベツの千切りも含めてすべてな。その代わりディナー中は古泉たちに任せることになるだろうから、そのときは頼む」
「了解しました。ですが、そうすると取材電話の対応も、あなたお一人でできるということになりますね。僕も同位体の数を増やしてみることにします。おっと、忘れるところでした。シャミセンの返骨と仏壇セットは今日の夕方までには届くそうです。今飾ってある金塊もそろそろしまうか別のものを展示して、仏壇をどこに置くか検討をしてもいいかと。あとは彼の写真をどうするかですが……」
「問題ない、既に見当はつけてある。後は情報結合するだけ。でも、シャミセンの写真の件で何かあれば教えて」
「金塊と仏壇を両方置くのはよした方がいいんじゃないかい?置くとしても、金塊をキョンの布団の上で寝ているシャミセンの像を錬金するくらい。確か、情報結合は分子レベルで操作できるんだろう?」
「キョン、そうしましょ!ただの金塊を置くだけよりよっぽどいいわ!2tの金塊はそのままにして残りのもので作ればいいわよ!有希、いけそう?」
「問題ない。できればこのフロアと、それから100階にも置きたい」
「是非そうしてくれ。それと、まったくの別件だ。清掃業者が来た後、大浴場と69階、100階の浴槽に張るお湯についてなんだが、俺たちも含めて日本代表選手たちに合った温泉をテレポートしてくる予定でいる。効能としては肩こり、腰痛を和らげ、疲労回復効果があるものを運んでくるつもりだ。大浴場には男女とも『温泉と同じものを再現してみました』と書いた看板に効能を記載する。気になるメンバーは大浴場の方にも足を運んでみてくれ。温泉旅行から帰ってきてすぐにやろうと思っていたんだが、すっかり忘れていた。他に何も無ければこれで解散にしよう。今日も一日宜しく頼む」
『問題ない』

 

『キョン先輩の全身マッサージだけじゃなくて、温泉にも毎日入れるなんて、私、感激です!』
「野球の練習で培った防御力のせいで、日本代表選手たちと試合をするときはラリーの応酬だからな。肩こり、腰痛を和らげる効果は必須だろうと思っていた。あまり遅くならないように注意しながら入ることになるが、選手たちからも効果が出たなんて声が上がってくるようになったら教えてくれるか?シャンプー剤がどうとかも含めてな」
『問題ない!』
圭一さんが置いていった職場体験のお礼の手紙とやらを見て、俺も仕込みに戻ることにしよう。サイコメトリーで全て把握できるだろう。大体似たような御礼状だったが、敢えてピックアップするとすればこれくらいか。
『ニュースで見た通り、赤身や中トロ、大トロが口の中で暴れてビックリしました!ずっと立っているのがこんなにキツいなんて思いませんでした。でも、二日目と三日目は料理を食べてパワーがあふれてきました。五日間ありがとうございました』
『朝倉さんに「中学校を卒業したらここに来てみない?」と言われたときは本当に嬉しかったです。冊子にも私がデザインしたものが載っていて驚きました。昼食も凄く美味しかったです。ありがとうございました』
やれやれ、「あなたの思惑通りに事が進んでいるのがちょっと納得いかない」とか言ってたわりには、自分だってちゃっかり新戦力確保してるじゃねぇか、アイツ。後でヒロインにも教えてやるか。
『引退しようとするのを回避させるんじゃなかったのか?そんなものを伝えたら、またヒロインの気持ちが揺らぐぞ。100階をヒロインの居住スペースにはしないことにしたんだろう?』
おっと、そのことをすっかり忘れていましたよ。……なんてな。だが、釘を指してくれて助かった。ありがとう。
『いえいえ』

 

ハルヒ達は天空スタジアムで明日のコンサートのための練習、古泉は影分身を二体置いて撮影に向かったようだ。人事部の社員も二体ならW古泉が電話対応に参戦していると思うだろうな。これ以上は催眠をかけて今泉和樹で参加することになるだろう。撮影の方に何%を費やしているのかは分からんが、以前話していた主演女優を始めとした女性俳優陣やスタッフからのアプローチが激しいなんて言っていたのはどうなったのやら。99階で可能な限りの数で食材を切る作業を行っていたが、流石にこのビュッフェにスイーツまでは無理がありそうだ。50人強の人数のハンバーグを作るだけでもこれだけ時間がかかってしまうのに、さらにスイーツまでとなると、いくら追加の声が上がっても、時間内に間に合わせるのは厳しいだろう。再来週にでもディナー+スイーツのビュッフェをすることにしよう。たとえショートケーキ一つ作るとしても、苺をただ乗せるだけのような俺自身が納得できない料理を出すわけにはいかない。栄養面にも配慮しつつ、バリエーションに富んだスイーツビュッフェにしないとな。野菜スティック、広島風お好み焼き用のキャベツ、ビーフシチューにトッピングする野菜、その他新川流料理で手早くできるものをすべて切り分け、肉の仕分け作業。古泉に任せる予定の極厚の牛肩ロースの赤身肉をいくつも切り分け、肉料理に使う分を薄くカット、それでも余ったものについては青新川さんやハルヒ達に聞いて切り分けておけばいい。三階の社員食堂が終わったところで三階のフロアを一変。中央には俺が作った料理の数々が並び、現状維持の閉鎖空間で温度も全て均一に保つことができている。ハンバーグにはデミグラスソースをかけ、ビーフシチューにはトッピングする温野菜を選ぶように注意を促したシールを張り、透明な遮臭膜をいくつも展開した。四隅には鉄板料理、寿司、おでん、アルコールやソフトドリンクが並び、それぞれで使う食材、寿司ネタ、シャリ等の準備もOK。人事部で電話対応をしていた古泉、おでん屋で仕込みをしていた青朝倉、両方の世界でのビラ配りを終えて戻ってきた青ハルヒ達やみくる、W佐々木など集まれるメンバーにテレパシーで声をかけ、三階フロアの間取りのチェックを頼んでいた。ハルヒ、有希、OG、ENOZは体育館で練習試合の真っ最中。青有希もカレーにしか興味がいかないと踏んで双子の迎えを頼んだ。
「おでんは青朝倉さんですが、あなた一人でここまでのメニューをすべて作り上げたというんですか!?鉄板料理や寿司の方まで準備が完了しているとは圧巻ですね。日本代表チームもこの模様替えには衝撃を受けるに違いありませんよ」
「あたしは今から握っていけば十分間に合うわよ」
「最初は俺も99階で握る。古泉には今日のディナーのルール説明を頼みたいんだがいいか?みくるには飲み物の方を担当してもらいたい。勿論、みくるのお茶も含めてだ。監督やコーチ達にはアルコールのメニューを渡してくれ。本来なら有希に任せたいところなんだが、カレーのことで頭がいっぱいになるだろうから、今回は接客から外した。同じ理由で青有希もだ」
「了解しました」「わたしもお酒を間違えない様にします」
「じゃあ、この後のことは頼む。俺は温泉をテレポートさせながら、このフロアの状況をモニターで確認する」
『問題ない』

 

 各風呂場にお湯をテレポートさせながら影分身を待機させ、湯の管理を任せた。100階は四隅同時にテレポートすればすぐにでも終わってしまうからな。体育館で練習試合が終わるとハルヒが99階へと戻り、双子も少し遅れて帰ってきた。アイランドキッチンで握っていた寿司に興味を示していたが、「夕食後のお楽しみだ」と告げるとハルヒが双子を81階へと連れて行ってくれた。しばらくしてエレベーターが動きだし、現れた日本代表選手たちを座席へと誘導。鉄板料理はディナーが始まってからパフォーマンスとして見せた方がいいと判断したようだ。OG達も他の選手の誘導を手伝っていた。古泉からのルール説明が終わり、ディナー開始。まず選手たちが集まったのは勿論寿司。料理の味を知っているものから食べ始める選手が多く、カレーやビーフシチュー、ハンバーグなどはノータッチ。監督やコーチ達もおでんとアルコールのコーナーを行ったり来たりしていた。ようやくフロアに現れたカメラマンたちが内装の改変ぶりに驚き、チャンスを逃したと言いたげな顔をしている。一番にカレーに手を出したのはOG達。閉鎖空間の換気機能をもってしても防ぎきれなかったW有希のカレーに対する執念を見たせいだろう。どんな反応をするのか楽しみだと思っていたら、
『美味――――――――――――――――――――――――――-い!!』
六人全員で雄たけびを上げて立ち上がった。やれやれ、今までとまったく変わりがない。青チームのOGのことをとやかく言えそうにないな。OG達の食べていたカレーに興味を示した選手がようやく出始め、新川流料理の数々にようやく手をつけ始めていた。古泉は鉄板を前にしてもまだ調理を開始しない様子。残った分は俺たちで食うとはいえ、いくらなんでも作り過ぎたかもしれん。寿司の方も一段落したようだし、俺も81階に降りるとしよう。

 

 81階でも同じように三階での様子がモニターに映し出されていた。いつの間にやら運び込まれたシャミセンの仏壇とモニターの前に置かれていた99.99%純金のシャミセン像。実寸大のものが細部までこだわり抜かれていた。仏壇に置かれていたシャミセンの写真は、おそらく俺たちとシャミセンが出会った頃のものだろうな。結婚式前の激太り状態でも最近の衰弱していたものでもなかった。空席の前には青新川さんが用意した小腹を満たす程度の量の夕食。W有希はそれすら手をつけることなく三階の様子を見守り続けていた。カレー以外喉を通りませんとでも言いたげだな。OGはまぁ、いつも通りの反応だったから良く分からんが、何度も味見やサイコメトリーで確認したとはいえ、他人が食べるところを見るのはこれが初めてになる。カレーだけでなく、ハンバーグやビーフシチューもそうだ。ここにいるメンバーで一度試食させてみるべきだったかもしれん。
「黄OGの反応を見た大食漢がどんどんカレーに向かっているな。俺たちの分……というより、W有希の分はあるのか?」
「カレーのルーやご飯もそうだが、あそこに置いてある料理のいくつかはまだ俺が持っている。足りなくなったら追加する予定だ」
『まだ持ってる!?』
「黄キョン君、黄わたしと二人分だけでいいから先に食べさせて欲しい」
「そんなよだれだらけの状態で一人分くらいで満足できるわけがないだろう。ルーとご飯が余って全員にカレーを配ってから二杯目を喰えばいい。今はまだ我慢だ」
青有希が頭を垂れる。子供たちやシャミセンの方がよっぽど我慢ができるんじゃないかと感じるくらいだ。

 

 ビュッフェディナーも中盤に差し掛かり、選手たちが立ち歩く頻度も高くなってきていた。
「ようやく、僕の出番のようですね」
タイミングを見計らっていた古泉が鉄板を温めると、牛肩ロースの赤身肉を取り出して脂も引かずにそのまま鉄板の上へ。匂いは届かずとも、鉄板料理はその音で注目を集めることができる。極厚の肉をそのフロアにいた全員が確認したところで、調味料を乗せて蒸し焼きに。その横では今度は油をひいた状態で広島風お好み焼き作りが始まった。おそらく、この後有希が皿に盛るであろうご飯の量とたった一つのお好み焼きにそこまで乗せるかと周りに思わせるほどのキャベツの量。そして豚肉のスライスが置かれ、次第にキャベツの高さが低下していく。音が気になって様子を見にきた選手たちに、肉を焼いている匂いが届く。お好み焼きをひっくり返す度に拍手が沸き起こり、空いたスペースに落とした卵の黄身を割って、肉やキャベツとドッキング。焼きそばの麺を炒めてたっぷりソースを絡めると表面にもソース、マヨネーズ、鰹節、青海苔が乗って広島風お好み焼きの完成。すぐに食べてみたいという選手たちが持っていた皿に一切れずつ渡していた。
「何このハンバーグ!めちゃくちゃ美味しい!!」
タイミングを見計らったのか、単なる偶然かは知らないが、自家製デミグラスソースをかけたハンバーグを食べたOGが叫んだ。一応日本代表チーム全員分+αの分は作ったが、OGの一言を気にハンバーグに手を伸ばし始めた。
「カレーもそうだって言ってたけど、あのハンバーグもあんたのオリジナル料理?」
「ああ、牛と豚をひたすら包丁で叩いてひき肉と同じ程度にまで刻んだものを両方サイコメトリーして黄金比で組み合わせた合びき肉だ。そいつに生の状態ですらリンゴと同じ糖度の玉ねぎを炒めたものと、自家製の生パン粉を合わせた俺のスペシャリテだ」
「スペシャリテって何よ?」
「俺の『究極の一品』ってところだ」

 

 それから、おでんと酒を楽しんでいた監督やコーチ陣もカレーやハンバーグなど、大量に皿に盛ってテーブルに持ち帰るようになり、他の選手たちも同様に何種類もの料理をテーブルに持ち帰り、そのテーブルに座っていた選手数人で食べるようになった。カレーを何杯もおかわりしている選手もいれば、ようやく完成した極厚肉のスライスをその場で食べて、美味に酔いしれている選手もいた。コーンスープは朝食にするべきだったかもしれん。メインになる料理が多すぎてビーフシチューやコーンスープに手を出す選手がほとんどいない。野菜スティックで口の中をリセットして他の料理に手を出していた。
「くっくっ、どうやら作り過ぎたようだね。おでんは店に戻すとしても、この後僕たちで食べても全部平らげられそうにない。ここに持ち帰ってくるより、僕たちが三階に行った方がよさそうだね」
「しかし、各テーブルの皿はどうするんだ?シンクが無いから皿を下げるわけにもいかんだろう。それとも洗わずに情報結合解除か?」
「三階の食器をそのまま使っているからどうしようか迷っている」
「問題ない。一旦情報結合を解除して、フロアを元に戻したときにもう一度情報結合すればいい」
「なら、それでいこう。もう寿司は全部握り終えているし、誰か青ハルヒと交代してきてくれないか?台車で各テーブルでいらなくなった皿を回収しにまわってくれ。ついでにOG達に『この後は店舗組と交代だから食べたいものは今のうちに食べつくせ』と伝えてくれ」
「残ったメンバーでハルヒと交代するとなると、俺しかいなさそうだな。行ってくる」
「じゃあ、せめてここの食器の片付けは私たちでやらせて!」
W有希を除いたSOS団メンバーのどちらかが三階にいる以上、ENOZや圭一さんたちを除いたメンバーで考えると自分しかいないと判断した青俺が三階に向かい、榎本さんがその分ここの食器の片付けをと名乗り出た。W有希の分の料理はWハルヒで食べることになりそうだ。

 

 朝倉を配置したものの、つまみ食いしようとするカメラマンは見受けられず、イスの背もたれに上半身を預けて「もうお腹いっぱい」だと主張している選手が出始めた。古泉の影分身から全体に声がかかり、ディナーに満足した人から部屋に戻って構わないと指示が出された。結局、古泉の方も極厚肉を焼いたのは一回のみ。残った肉と合わせて、青新川さんやハルヒと相談だな。ようやく青ハルヒが81階に戻り、夕食を食べ始めた。
「W有希がカレーしか食いそうにないから、二人分食べてくれないか?できればハルヒも」
『フフン、あたしに任せなさい!』
酒を飲みながらディナーを食べていた監督たちもようやく席を立ち、OG六人もこのフロアに戻ってすぐ店舗組とバトンタッチ。全員居なくなったのを確認して青俺がテレポートで食器を台車にまとめている。
「よし、青OGも揃ったし新川さんと青朝倉の分のカレーとコーンスープを確保したら、俺たちの食べ放題開始だ」
『問題ない』
とは言ったものの、ヒロインと俺の分も確保しておこう。三人前あれば十分だろう。W有希には残しておいたカレーとカレー用のご飯を取り出しそちらから食べるように指示を出すと、一升分ほどのご飯を丁寧に更に盛っておにぎりのように固めていく。火曜サスペンスでおなじみの断崖絶壁かと思わせるほどのご飯の量。明らかにルーの方が足りなくなってしまう。
「有希、おまえそれ何合あるのか聞いてもいいか?」
「八合。わたしがカレーライスを食べるときはいつもこれ」
「どう見たって食べにくそうだし、ルーが足りんだろう?」
「問題ない。ルーのすぐ近くで食べるだけ」
有希の八合カレーを見て何を言っていいのか分からないメンバーがほとんど。W有希のところから少しでもカレーを取ろうとしようものなら、二人に何をされるか分かったもんじゃない。同期をすると、どうやらこっちの食べ放題を待っていたようだ。すぐにヒロインの自宅に三人前のカレーとコーンスープを送り届けた。

 

『キョンパパのご飯、美味しい!!』
寿司のワサビと同様、カレーには手を出さないかと思ったが双子の前にはカレーライスと広島風お好み焼き。しっかりと関西人の血を引いているようだ。お好み焼きはおかずと言わんばかりにカレーとお好み焼きの両方を一緒に食べていた。
『くっくっ、有希さんたちのあの反応の理由がようやくはっきりしたよ。ここまで美味しいと思えるカレーはこれが初めてだ。キミが「俺のスペシャリテだ」と言っていたのが良く分かったよ』
「どうやら、我々の考えていることは同じだったようですね。W有希さんをあそこまでにさせるカレーがどんなものなのか確かめてみたいといわんばかりの光景ですよ」
確かに全員の席にはカレーライスが置かれ、人参が入っているにも関わらず、圭一さんも黙々と食べていた。これはバラさない方が良さそうだ。日本代表チームと俺たちでようやくハリウッドスターたちと同程度の人数になる。パーティでは寿司をメインにするため、胃がすぐに膨れてしまいそうだが、それでもこの程度の量は必要になってくるらしいな。ほとんど残っていなかったハンバーグの追加分もすぐに出したが、大した時間もかからずに平らげてしまいそうだ。古泉に代わってお好み焼きと極厚肉を焼いていたが、俺も食べる方に回らないと全部無くなる。
「パパ、わたしカレーライス!」
「ハンバーグを二個も食べたのにまだ食べる気か!?」
「伊織パパのご飯、美味しい!」
そう言って食べてもらえるとこっちも作りがいがあったというものだ。すでに最初に置かれていたカレーのルーもご飯も空。残るはW有希のところにあるものだけなのだが、W有希から青俺に殺気が向けられた。
「あのな、黄有希はまだ分かるが、自分の娘がカレーを食べたいって言っているのにそこまでするか?普通…」
青俺のセリフを受けて、ようやく幸が食べていたカレーライスの皿を青有希が受け取り、半人前の量のカレーを盛って青俺に返した。幸の胃袋のことを気にしているのかどうかは分からんが、これ以上は渡さないと言いたげな表情だ。しかし、青有希がここまでの殺気を放つことができるとは思わなかった。マフィアも逃げ出すぞ、まったく。

 

 案の定、最後まで食べ続けていたのはW有希。有希にフロアの模様替えを元に戻しておくよう依頼して69階と100階へと移動。70階も含めて、浴槽が温泉の湯で満たされていた。
『キョン先輩、今日は温泉に入ってからシャンプーしてもらってもいいですか!?』
「ああ、それでいい。これからは毎日入れるんだ。特に黄チームは思う存分、身体を休めるといい」
『ありがとうございます!』
俺が承諾するとすぐに服を脱ぎ始めた。って、なんで全員揃ってアンスコなんか履いているんだ?今日は至って普通のショーツだってのに……まぁ、あとで聞けばいいだろう。
「もう、最っ高!あんなに美味しい料理を沢山食べて、温泉にも浸かって、この後も黄キョン先輩のマッサージが待っているって思ったら……早く仕事辞めてこっちに来たいなぁ」
「でも、青私も仕事で溜まったストレスは、十分発散できているんじゃないの?」
「そうだけど、会社に行くってだけでストレス溜まっちゃうから……毎朝行くのが嫌で仕方がないよ。早く私も店舗の店員とかヘアメイクの練習してみたい」
「その割にはこっちに来るのが早くなってきたんじゃないか?」
「ここに来るために、さっさと仕事を片付けているようなものですよ。こうしてみんなとも話したいし」
「だったら夕食も用意してもらったら?異世界移動ももうできるんでしょ?」
「流石にみんなで夕食を食べている時間には戻れないよ……」
「青新川さんに用意しておいてもらって後で食べるのも一つの手だし、夕食を食べて仕事に戻るのもありだ。青新川さんの夕食なら、全部とはいかなくても疲れやストレスが吹き飛ぶだろ?どの道、俺も日本代表の夜練をしているから、毎週金曜日以外はシャンプーを始めるのはその後からということになる」

 

 温泉に浸かりながら、俺が提示した案について考えていた。
「じゃあ、一緒に夕食を食べさせてください!」
「俺に頼んでどうするんだ。頼むなら青新川さんにしろ。『二人分』追加して欲しいってな」
『二人分?』
「ってことは、青私の分も?」
「私もお願いしていいんですか!?」
「だから、俺じゃなくて青新川さんに頼めって」
『問題ない!』
年の終わりや年度の最後まで務めなくてはならなかった青OG二人にようやく笑顔が見られるようになった。
『今日は抱いてください!』
全身マッサージを終えるとすかさず俺の手を引っ張り、それぞれのベッドへ。ブラインドフィールドと遮音膜に包まれた。
「大胆下着をつけているわけでもないのにアンスコを履いている訳がようやく分かったぞ。この瞬間を待ちわびていたってことでいいのか?」
「昨日は私もそういう気分にはなれなかったし、キョンやハルヒ先輩たちなら尚更そうだと思って言い出せなかった!だから今日はみんなでキョンに抱いてもらおうって話していたの!昨日の夜練じゃないけど、どこにぶつけていいのか分からない思いがまだ残っているのなら、私が受け止める。だから、全部私にぶつけて!」
「気持ちは嬉しいが、ボールを投げたり料理を作っていたりしたら、その思いがどっかに行っちまった。仏壇も届いたし、金塊を錬金して81階と100階にシャミセンの像が置いてあるんだ。妻専用フロアなんだから、見に行く権利はある。俺たちの会社のマスコットキャラクターみたいになっていたからな。アイツはいつだって俺たちの傍にいる。そう思ったら安心した。さっきのストレスの話じゃないが、いくら良いと言われたからといって嫁にあたるのはおかしい。そうだな……その代わり、少し大胆なことしようか」
「大胆なこと?」
「立体映写機で他のみんなから見られているようにする」
「え――っ!!そんなの恥ずかしすぎるよ……」
「心配いらん。見られているようにするだけであって、実際は俺以外誰も知らないからな」
こういうときは返事を待つ前に変えてしまうに限る。ブラインドフィールドで包まれていたはずの風景が一変してこのフロアの様子が俺たちの目の前に広がった。当然、残り11台のベッドの上には誰もおらず、このベッドの周りを囲むように他のOG達がベッドの横で俺たちを見ていた。
「ダメ……みんな、見ないでぇ…」
「大丈夫だ、そのうち見られているのがどうでもよくなるから」

 

「キョン先輩、あの……」
「分かってる。昨日はできなかったからな。後ろの方も体験してみたいんだろ?アンスコを履いていて正解だったようだな。普通のショーツにどうしてアンスコなんてと思っていたが、やっと理由が分かった。いくら普通のショーツでもアンスコも履かないと、服まで濡れかねないと思ったんだろ?12人の中で一番濡れていたようだしな」
この子の今日のショーツとアンスコだけはコレクション入りしておこう。
「私、今日のディナーで食べすぎちゃって……まだ少し苦しいくらいなんです。こんな状態で大丈夫ですか?」
「さっき食べた分がこんな短時間で下まで降りてくることはない。苦しいってことはまだ胃の中に留まっているだけだ。だが、そっちの方は解消してしまおう」
人差し指で胸の谷間よりやや下に触れてサイコメトリーで胃の状態を確認すると、栄養として過剰な分をキューブで縮小。後は各臓器が動いてくれるだろう。
「先輩に触れられてから全然苦しくなくなりました。一体何をしたんですか?」
「簡単な話だ。胃を圧迫していた食べ物をキューブに収めた。必要な栄養は敢えて残してあるから、明日の練習に支障をきたすことは無いだろう。余計なものは綺麗さっぱりテレポートして早く始めようぜ」
くくく……今日食べた分が下まで降りて来る頃が楽しみだ。みくるや佐々木たち、青ハルヒにOG二人分を一気にあのアホの胃袋の中にテレポートさせてやる。下着の状態を見れば準備万端なのは明らか。横を向かせて秘部を俺の分身が貫く。後ろ用の玩具をいくつかテレポートさせてみたが、どれから使い始めようか悩んでしまうな。細いものも色々とあるが、このくらいからでも平気だろう。クロリスTバックショーツのパールと同じくらいの大きさのものが数珠つなぎになっている玩具を選んで潤滑液をつけると秘部を責めながら玩具が後ろの方に侵入。一つ目のパールがOGの体内に入った。身体がビクン!と反応して秘部に力が入る。この玩具には振動機能は無く、ただ出し入れを繰り返すだけだが、振動機能を加えてやるか。パールが四つほど入ったところで玩具が振動を始めた。その瞬間、OGの身体が痙攣して力が抜けた。

 

 俺の分身は体内に身を潜め、パールは未だに振動を続けている。
「こんな調子じゃ明日は寝不足になってしまうぞ。どっちの方が良かったのか教えてくれないか?」
「どっちかなんて分からないです」
「ってことは、選べないほど後ろも良かったってことになりそうだ。どうする?続けるか?」
「はい……お願いします…」
秘部の責めを再開して後ろの方にはどんどんパールが入っていく。すべてのパールが入ったところで一気に抜くと再度全身が震え、全身が弛緩した。
「このままじゃ、青ハルヒと同じような状態になりそうだ。今日限りってわけでもないし、また今度続きをやろう」
玩具をテレポートすると、俺の分身が体内に身を潜めたまま横になってOGと向き合うと、抱きしめてそのまま腕枕。何度か口づけを交わすと、満足気な表情でこちらを見ていた。
「どうだった?なんて聞く必要もなさそうだな」
「私、変態の仲間入りしちゃった……あんなに良いなんて思いませんでした」
「『変態の仲間入り』したんじゃなくて『アイツの言っていたことが良く分かった』でいいだろ?」
「ダメですよ、先輩。そんなに優しくされたら……もう私、我慢できそうにありません。ハルヒ先輩に聞いてきます。私も先輩の妻にしてください。先輩と一緒に選んだ指輪とネックレス、私も欲しいです」
「だったら、その先輩っていうのと、丁寧語は使わない様にしないとな」
「もう何年もこれで通してきたのに、いきなり変えろなんて言われても無理ですよ。それにみくる先輩も古泉先輩も新川さんも誰に対しても丁寧語使っているじゃないですか」
「それを言われると反論できなくなってしまうな。しかし、夫に先輩ってつけるのはどうかと思うぞ?」
「青ハルヒ先輩だって先輩と結婚しても『涼宮さん』ってみんな呼んでますよ?」
「分かったよ。もう何も反論できん。俺は立ち合えないが、ちゃんとハルヒを説得して来いよ?」
「あたしに任せなさい!……なんちゃって」

 
 

…To be continued