500年後からの来訪者After Future5-8(163-39)

Last-modified: 2016-10-14 (金) 10:41:31

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future5-8163-39氏

作品

SOS交響楽団の初回コンサートで見事に罠にかかった報道陣の公開処刑を行ったところ、国民的アイドルが大激怒。人事部の社員に有給休暇を与えて俺や古泉の影分身で丸一日対応し、すべてのTV局、新聞社のトップから解雇処分の連絡が届いたが、刑罰については国民的アイドルに任せることにした。DVDも本人の手に渡っているし、どうするつもりなのか俺にもさっぱり分からんが、何らかの形で近日中に更にシビアな刑を執行することに違いない。そのあとW鶴屋さんが100階でシャンプーから全身マッサージまですべてを堪能していった。たまには俺もシャンプーされる側になりたいと思い、三体の影分身を解いてWみくるに頼むことにした。

 

 いくらなんでもシャンプーを二人で行うのは無理がある。みくるが湯船に浸かっている間、青みくるがシャンプー。豊満な胸と先ほど購入したペンダントが何度も顔にあたり、別の意味で気分がいい。たった二日間でも我慢ができなかったという妻やOG達の気持ちが良く分かった。今後は青みくるに頼むのも悪くない。みくる達に身体を洗ってもらった後、みくるが疲れを取るオイルを選び二人がかりで全身マッサージ。みくるは秘部を俺の顔面に押し当て、俺の分身が青みくるの体内に隠れていた。たまにはこういうのもいいもんだ。全身マッサージを終えて、エアマットの上で両腕を使って腕枕をしていた。
「キョン君、わたし達のマッサージはどうでしたか?」
「みくる達の気持ちが良く分かった気がする。だが、二人でシャンプーするのはさすがに無理があるし、明日から交代で俺にもシャンプーと全身マッサージを体感させてもらえないか?」
『キョン君のお願いなら喜んで!』
「さっきも話していたが、どっちの鶴屋さんもシャンプーはダメージケアのもの、オイルは潤いと癒しのものになりそうだ。毛先になればなるほど、これまでのダメージで酷くなっていたからな」
「鶴屋さんにも、キョン君みたいな人が現れると良いんですけど……」
「俺たちで鶴屋さんに合いそうな人を探して『この人どう?』なんて言えないしな。俺たち……いや、みくる達だからこそ逆に断り辛くなってしまう。俺としては国木田か裕さん辺りがよさそうだと思っているんだが、どっちも鶴屋家当主の座に就くなんて柄じゃないしな。かといって政略結婚なんてして欲しくないし……何にせよ、俺たち……もとい、俺が口出しできるようなもので無いことは確かだ。みくるたちなら見つけられるかもしれん」
『わたしはキョン君以外に考えられません!』
「二人でそう言ってくれるのは嬉しいが、お互い立場が立場だからな。特に正月のイベントはどちらも断れないだろ?俺はハリウッドスター達とのパーティがあるし、鶴屋さんの方も毎年恒例の行事で連日忙しい。それに社会的にもハルヒと結婚していることがバレている以上、鶴屋さんの婿には絶対になれない」
みくるたちが真剣に考えているようだ。今まではどちらかと言えば守られる立場だったからな。
「すぐに答えの出るようなものじゃないし、夫婦の時間にしないか?二人とも今日はどうして欲しい?」
『今日はこのまま寝かせてください』

 

 おでん屋の営業も終わり、遅れてやってきた有希を抱いてベッドに横になった。
「有希とは毎日抱き合っているが、休みの日とか作らなくても平気か?それにあまり単調すぎると飽きるのが早いんじゃないか?」
「問題ない。今まで出来なかった分を取り返しているところ。たとえ単調でも、わたしの身体はそれで十分満足している。それに、未来のわたしと朝比奈みくるから何度もアプローチを受けている」
「未来の有希とみくるがアプローチ?なんて言ってきているんだ?」
「あなたと二人でデートして指輪を購入して、シャンプーから全身マッサージまでしてもらった後、あなたに抱いて欲しいと言っている。刻印もすでに決めている」
「やれやれ、これ以上妻が増えたら俺が潰れるぞ。ってことは、今頃有希とみくると同じ結婚指輪を情報結合ではめて今の状況を未来からモニターで見てるってことじゃねえか。今すぐ未来との回線を切れ!大体な、今の有希やこの時間平面上にいるみくるならまだしも、未来の有希とみくるが率先して禁則事項に該当しかねないことをやるわけにはいかんだろうが!」
「そう。未来のわたしは無理でも、未来の朝比奈みくるが妊娠してしまうようなことになれば禁則に該当する。でもこの時間平面上はジョンが来た段階で既に他の時間平面とは違う未来へ進んでいる。この時間平面上の未来に大きな変化をもたらすものでなければ支障はないと判断している」
「それは重々承知の上だ。だが、その言い分は未来の有希の私情が全体の八割を超えている。それより有希、一つ頼みがある。俺の本体にピアス穴を空けてくれないか?有希なら情報結合を弄るだけで一ヶ月も待たずに済むと思うんだがどうだ?」
「問題ない。でも、今頃そんな提案をする意図が不明」
「二人で一つのピアスを買って片方ずつ付けたいと思っている。関係者以外誰にも見えないピアスをな。できれば明日の午前中に有希と二人で出掛けたいんだが、どうだ?午後は試合に出るだろうし、明後日の午前中は楽団の練習があるだろう?まぁ、話が唐突過ぎて明日の午前中じゃ決められないかもしれん。そのときはそのときで、次の機会を待てばいい」
「分かった。明日、出発するまでに考えておく。わたしもOGや朝比奈みくるたちのようなものが欲しかった。あなたと同じものが身につけられるのなら、わたしも嬉しい」
「じゃあ、頼んだぞ?催眠を解いても恥ずかしくないヤツな」
「問題ない」
『合体したら二度と元に戻れなくなるぞ!!』
言うと思ったよ。有希と俺ならユキョンになるのか。韓国人みたいな名前になってしまったが、まぁいい。

 

 翌朝、ニュースは公開処刑が続いていたことと国民的アイドルが我が社を訪れたこと、そして解雇以上の処分について報道されていた。異世界の東日本代表ではないが、社会的制裁が下ることに違いない。近日中に緊急特番が組まれてもおかしくない。問題はどこのTV局でやるかだな。どのTV局からも天空スタジアムを撮影しに来ていたからな。映像に映った人間だけでなく、それを指示した人間も処分される可能性が高い。まぁ、後は国民的アイドルに任せよう。朝食を食べ始めた後、昨日一日の報告。
「昨日、全報道陣のトップからの連絡があった。国民的アイドルから連絡が入り、カメラが爆発した映像をカットしたDVDを本人が直接取りにきた。本人がいくら『カメラが爆発した』と言い張ろうが、こちらはすべての映像を渡したと主張する。どう処分するかは任せるとして、今日から大画面を次回のコンサート用に切り替えるのが一点。それから、昨日の楽団の打ち上げで、ビラ配りを自らやると言った人間が数名出た。楽団用マンションの入口に大量にビラを用意しておいた。楽団員に首都圏を任せて俺たちで地方のビラ配りをする。有希のテレパシーで楽団員全員に声をかけて欲しい。誰がいつどこでビラを配っているのか分かるように台帳も用意した。同じ場所でも問題ないが、色々とまわってもらいたいからな。自宅から本社に来ている団員については明日の練習後に天空スタジアムに用意しておくから持ち帰ってもらってくれ。今日もSPを出して社員や楽団員に取材させないようにするつもりだが、告知で使っている閉鎖空間で対応する。中からの声は一切漏れず、外から何も聞こえない条件を付けたものだ。なんで俺たちが報道陣のことまで配慮しなくちゃならんのかと俺も苛立っているんだが、無謀な取材を行って本社前で交通事故なんてことになるのも癪に障る。ある程度落ち着いたら、以前のようなやり方でカメラを破壊して追い払うつもりだ。他に何かあるか?」
「昨日になって原宿店のアルバイト希望者が出た。三時から15分刻みで三人来ることになっているどうするかね?」
「では、今日は僕が原宿店を担当しましょう。こちらのOG達には北口駅前店をお願いします」
「青古泉、今の北口駅前店に青OG三人も必要か?今はどちらの世界でもビラ配りが必要不可欠だ。青ハルヒが三人にチアガールの催眠をかけてくれるだろうからビラ配りに回したいんだがそれでもいいか?」
「了解しました。北口駅前店はアルバイト達で十分対応できるはずです」
古泉ならまだしも青古泉と一日同じ店舗というのは流石にまだ嫌がるはず。ビラ配りに回した方がいい。

 

「『ビラ配りが必要不可欠』なんて言っておいて、じゃああんたは何をするのよ?」
「影分身数体で人事部に行って電話対応だ。それと今作っているものがある。明日の昼食のときに出すから、みんなの感想を聞かせて欲しい」
『感想!?』
「キョン、一体何を作っているの?」
「来週の食べ放題メニューだよ。今週は普通のディナーだが、来週はスイーツバイキングにするつもりだ」
『スイーツバイキング!?』
「キョン君、お寿司の食べ放題のときですら、昼は全員栄養満点ランチだったのに、スイーツバイキングはいくらなんでも無理があるんじゃ……」
「ああ、みくるの言う通り普通のスイーツじゃ管理栄養士が間違いなく文句を言うだろう。俺が今作っているのは野菜スイーツだ。玉ねぎ、人参、小松菜、カボチャ、ゴボウ、トマト、さつまいも、京野菜等々、低糖質低カロリーで栄養満点のバイキングと、ディナーの方は高タンパク低脂肪のものを通常のディナーより少なめに出す。飲み物はみくるのお茶、ハーブティ、ノンシュガーの紅茶、監督やコーチ達はコーヒーでもありかな。選手がコーヒーを飲んだら胸やけしてしまう。とりあえずこんな感じのものを予定しているっていうのを、明日食べて、スマホで撮影したものをOG達から管理栄養士に見せて欲しい。頼めるか?」
『問題ない!』
「くっくっ、確かにスイーツ食べ放題でもそれなら管理栄養士も納得しそうだ。明日が待ちきれなくなってきたよ」
「スイーツ食べ放題なんてめちゃくちゃ楽しみです!」
『キョンパパ、スイーツってなあに?』
「二人だって何度も食べたことあるだろう。ケーキの仲間だよ」
『ケーキ!?キョンパパ、わたしの分は!?』
「ああ、三人には朝選んで食べてもらうつもりでいる。みんなより先に食べるんだから、文句言うなよ?」
『あたしに任せなさい!』

 

 全員に明日の昼のことも話したし後は電話対応の影分身を何体か人事部へ送って、SPを敷地外へ配置、本体と影分身一体で調理を進めていた。
『しかし、よくもまぁそこまで影分身を使いこなすようになったもんだ。今なら三体くらいに分身してもそれぞれで闘えるんじゃないか?』
毎日のようにあの人数の相手をしていれば自然とそうなる。シャンプーから全身マッサージまですべてサイコメトリーだけだからな。一体につき2%くらいしかないと思うぞ?告知の方も二体合わせて20%あれば済む。今だってSPが1%電話対応でも3%ってところか。マッサージも電話対応もほとんど変わらんからな。
『おっと、用件を忘れるところだった。今週金曜日の夜九時から緊急特番だそうだ。大御所芸能人ばかり集めて文句一つ言えない状態で大画面に映った奴を一人ずつ裁いていくらしい』
それはまた大層な社会的制裁だな。他の大御所芸能人も似たようなことを言われていると考えたら苛立ちそうだ。調べてくれてありがとな。あとは調理に集中させてくれ。
『いえいえ』
今日の有希とのデートが終わればこれで残るは三人。ハルヒは別格として、青みくるや有希に何を手渡したらと悩みに悩んでいたものがようやく閃き、あとは青ハルヒとW佐々木のみ。W佐々木は時計でも良さそうだが、以前と違って毎晩ちゃんと戻ってくるようになったからな。昨日はハルヒも青有希も刻印の入った二つの指輪をそれぞれプラチナと18Kゴールドのチェーンをくぐらせてネックレスに。左手には結婚指輪のみとなった。今朝も青みくるが胸の谷間にペンダントを隠していることに青ハルヒが気付き、昨日俺に言ったことと似たような返事で返していた。昨日はエアマットの上でそのまま寝たから周りには気付かれず仕舞いだったからな。

 

「みくるちゃん首から何下げているの?」
「昨日キョン君と一緒に買いに行ってきたんです。このペンダント」
「えっ!?凄く高そう。朝比奈さんこれいくらしたの?」
「有希さんの指輪ほどじゃないです。でも……確か167万円だったかな」
『167万―――――――――――――――――!!!』
「キョン先輩、こんなにたくさん高いものばっかり買って大丈夫なんですか!?」
「問題ない。黄キョン君や黄古泉君の場合は、持っている額の桁じゃなくて単位が違うから」
「くっくっ、面白いじゃないか。『桁じゃなくて単位が違う』とは僕も驚いたよ」
「でも、なんでペンダントを隠す必要があるのよ?そりゃあ、あまり堂々と見せられてもどうかと思うけど……」
「こうやって隠しておけば普段は他の人から見られることはありません。でも、100階にいるときだけは別です。この鍵でわたしのことを開けられるのはキョン君だけ……そういう思いを込めてこのペンダントにしました」
「どっちのみくるちゃんも大胆すぎるわよ!あたしまで恥ずかしくなったじゃない!でも羨ましいわね。あたしも温泉旅行だけじゃ満足できなくなってきたわよ」
一人一人が満足できるものをと思って俺も悩んでいるんだ。残る妻はあと三人だが、何をプレゼントしたらいいのか分からん。昨日のハルヒは「みんなと一緒だと恥ずかしいからといって個室に入っていたし……個室にこもるなら99階のベッドで遮音膜張っていた方がよっぽどいい。今日も個室にと提案してきたらここに降りてくることにしよう。有希が拡大したベッドも元のサイズに戻しておくとするか。
『決まった』
店の開店まであとわずかというところで有希からテレパシーが飛んできた。
『キリの良いところまでやってから行く。少し待っていてくれ』
『分かった。地下駐車場であなたが来るのを待つ』
誘拐犯か、コイツは。

 

 現状維持の閉鎖空間を張ってテレポートで地下一階へ。分かってはいたが、目の前にいきなり俺が現れても、相変わらず微動だにしないな。ポルシェの運転席に乗ったところで準備ができたかと思いきや、助手席のドアを掴んでフリーズしている。どうしたんだ?コイツは。舞空術で浮き上がったと思ったら、俺の太股の上にお尻を落とした。まさかとは思うが、昨日の青みくると同じことがしたいなんて言い出すんじゃあるまいな。
「青チームの朝比奈みくると同じ体験をさせて」
「案の定かよ。で、どこに行けばいいんだ?」
首に腕を絡めてきたと思うと、首の真後ろを一突きして情報が流れてきた。暗殺者かおまえは。
「ところで、ピアスの穴を開けるのはどこでやるんだ?」
「ここでやる」
反応する暇も与えられずに高速詠唱が始まった。耳たぶの感触を確かめなくても、高速詠唱が終わると同時にピアスの穴が開いたのが分かる。鏡で確認する必要もなくそのまま二人で帰ることができそうだ。
「ありがとな、有希」
「問題ない」
「それで、未来の有希たちのその後の様子はどうだ?」
「あなたに事の全貌を見破られて落ち込んでいる」
「俺はあの二人なら何をするか考えて出てきたものを話しただけだ。未来との回線がつながっていたのも案の定か。有希は恥ずかしくないのか?二人が見ているのを知ってて回線をつないでいるんだろ?」
「もう慣れた。でもあなたが来ないことを寂しく思っているのは確か」
「ジョンの世界に行くことすらできないんだ。告知が終わらない限りは無理だろうな。だからこそ、そういう提案をしているんだろうが、これ以上妻が増えると俺が潰れる。青有希も入れると10人になるんだ。いくらなんでも、これ以上は勘弁してくれ」
「分かった。そう伝える」

 

 俺が未来に行かなくなったのは……TPDDから時間平面を破壊せずに済むタイムマシンが完成して、未来古泉がこっちに来るようになったからというのもあるんだが、この時間平面上のみくる達が次第に未来のみくるに似てきたからだろうな。行く目的も特にないし、あの二人の相手までしていられる程の余裕がない。自分の首を自分で絞めているせいもあるが、まずは告知を終わらせない限りは不可能だ。有希から貰った情報を元に店に辿り着くと、颯爽と店内へと駆け込んで目当ての品を見つけた。
「これ」
有希が指を指したのは、2つの唐草ピアスが重なるカップルハートペアピアス。二つ重なるとハートが出来上がるのはOGのマリッジリングと同じらしい。ハルヒのマリッジリングと同様、女性側に小さなダイヤモンドが三つ付き色はピンクゴールド。男性側はプラチナで作られたもの。お値段49000円也。
「本当にこれでいいのか?」
「『気に入ったものなら値段は関係ない』と言ったのはあなた。他にも探した。でも、これ以外見つからなかった」
「よし、ならすぐに買って帰ろう。俺の分は有希がつけてくれないか?有希の分は俺がつけるから」
「問題ない」
てっきりハルヒよりも値段が上のものを狙うと思っていたが、そうなるとダイヤがでっかくなったり、みくるのピアスのようにドロップがついたりして俺には似合わないものになるんだろう。互いのピアスに催眠をかけて店を後にした。明日はOGと指輪を引き取りにいかないとな。明日の昼食の支度は早めにやってしまおう。ケーキもまだ作っている最中だからな。

 

 昼食時、一番に声を張り上げたのは当然ハルヒ。
「あんた、電話対応しながら、明日のスイーツ作っていたんじゃないの!?」
「ようやく有希と二人で記念になるものを思いついてな。影分身で行ってきただけだ。電話対応ならずっとやっていたぞ?古泉と圭一さんが証人だ。もっともロクな電話じゃなかったがな。敢えてこの場で話すならジョンが持ってきた話題くらいだ」
「ジョンが何を見つけてきたって言うのよ!?」
「今週金曜日に大画面に映した連中を一人ずつ裁いていく緊急特番を夜の九時からやるって話だ。大御所芸能人ばかり集めて文句の一つも言えない状態にするらしい」
「それで、彼はどのテレビ局でやることにしたんです?」
「『日テレ』だそうだ。夜練もないし、じっくり見ればいいだろう。どういう判断が下されるのかをな」
「くっくっ、既に判決は降りているんじゃないかい?特番の枠に収まるように編集作業も必要なはずだ。彼がその日まで野放しにしておくとは到底思えないからね」
「それで、こちらとしての対応はどうするつもりかね?」
「彼も各TV局でいろんな番組をやっているんです。彼にOKを貰った上での番組撮影なら受けてもいいのではありませんか?特に試合を心待ちにしている涼宮さんにとっては…」
「当然よ!こっちの世界の方も早くレベルを上げてくれないと張り合いが無いわ!いつまであたしに投球練習させるつもりよ!?」
「俺もできれば年越しパーティ前に見せておきたいんだ。180km/h投球のもう一段階上があるってな」
『はぁ!?』
「超サ○ヤ人にならずに220km/h台の投球をするというんですか?」
「なることに間違いないが、何も変化が無いと装うつもりだ。催眠と遮音膜と衝撃吸収膜を応用してジョンにもバトルで試してみたら驚いていたから問題ないだろう?流石にキャッチャーを有希に任せるわけにもいかんし、青俺か古泉にと思っているんだが、ジョンにバットを振らせて金属バットが破壊されるところも見せるつもりだ」
「とにかく!さっさと決着をつけて次の試合を待ちましょ」
『問題ない』

 

 午後もスイーツ作りと電話対応。小学校から戻ってきた幸にユニフォームに着替えたら99階に来るよう伝え、遅れて帰ってきた双子と三人揃って拡大。ほんの少しの時間だけでも試合に出られるだけで満足していた。そして迎えた翌朝、ニュースは本社の大画面が通常のものに戻っていたことと特番のことくらいで野球関連の話題は一切出ず、本社前の報道陣の数は一向に減る様子もない。もうしばらくの我慢ってところだな。告知の方にも日本の報道陣が来ていたが、何を言っているのか全く聞こえないので答えられん。
『キョン(伊織)パパ!スイーツ!スイーツ!』
朝からハイテンションな子供たちをなだめながら全員が揃うのを待ち、二日かけて作ったものを全員の前にテレポートしてみせた。
「凄いです。これ全部キョン君が作ったんですか!?」
「ああ、とりあえず昼までこのままにしておくからどれを食べるか見ておいてくれ。ケーキバイキングみたいに五個で元が取れるくらいの量を作った。細かく言っていくとキリがないから、まぁ、見てまわってくれ。子供たちは食べたいものを二つ選んで食べ始めていいぞ。でないと保育園や小学校から帰ってきてから食べることになるからな」
『もう決まった!』
「取ってあげるから、あんた達どれを選んだのか言いなさい」
『これ!』
三人ともそれぞれ違うものを指差し、自分の選んだものが乗った小皿を持って食べ始めた。
「しかし、これは凄い種類ですね。子供たちが指を指したのが全部バラバラだったのが良く分かりますよ」
「カロリーは全部キョンが計算したの!?」
「いや、サイコメトリーしたら、一個あたりいくつになるのか細かく教えてくれたよ。今のうちに写真に撮っておいてくれるか?昼だとごっそり持って行かれそうだから」
「分かった。私の携帯取ってくる!」
「こんな低カロリーでスイーツが食べられるなんて!黄キョン先輩、私たちも子供たちと一緒にしませんか?すぐにでも食べてみたいです!」
『問題ない!』
OG達だけで『問題ない!』と叫ばれてもな……
「僕も彼女たちに賛成したいですね。店舗から戻って来る頃には、すべて黄有希さんに食べられていたなんてことになりかねませんので」
「じゃあ、朝食で一緒に食べるってことでいいか?その代わり、撮影が終わってからだけどな」
『問題ない』

 

用意したのは小松菜とトマトのショートケーキ、ごぼうショコラ、カボチャシフォン、アボガドレアチーズ、マンゴーキャロット、カボチャモンブラン、マロンモンブラン、キャロットチョコフラン、スライスしたリンゴをトッピングで乗せたリンゴのムース、コーヒーゼリー入りマロンムース、グリーンアスパラのティラミス、抹茶ティラミス、ラディッシュサワーヨーグルト。パウンドケーキは人参とオレンジ、小松菜とゴボウ、カボチャと小豆、ゴボウとココアの四種類。マドレーヌは人参とマンゴー、ゴボウとカカオ豆、トマトの三種類。ガレットがさつまいも、トマト、赤パプリカの三種類にクッキーは玉ねぎクッキー、ゴボウチョコチップクッキー。京野菜シュークリームとしてカボチャ、枝豆、キャベツ、かぶら、なす、白みその六種。カロリーや表示されている名前をしっかりと押さえた画像を収め、子供たちも出かけて行ったところでルール説明を開始した。
「青有希には双子を保育園に送ってもらっている間の分、みくるにはお茶を煎れてもらっている分として10個選んでもらったが、基本的には一回につき五個まで。同じものを選んでも構わない。それを食べきらないうちは誰がどんな行動に出ようがおかわりは出来ない。飲み物はみくるのお茶、ハーブティ、ノンシュガーの紅茶、こっちのOGにはあまりお勧めしないがコーヒーを用意した。あくまで口の中をリセットするためのものだと思ってくれればいい」
「キョン、撮り終わった!」
「よし、じゃあ野菜スイーツ食べ放題スタートだ!」
どれが人気かは……まだ読めないな。とりあえず気になったものを取って各自席についた。圭一さんは当然人参が入っていないものをチョイス。青圭一さんの方は五個中三個が人参入りか。W古泉のボードゲームじゃないが、両極端にも程があるぞ、まったく。
「めちゃくちゃ美味しいです!ゆっくり味わって食べたいのに……先輩たち食べるの早すぎですよ!!」
「ちゃんと朝食も食べないとペナルティだからな」
「ペナルティって何よ!?」
「来週はこれの倍の量を用意する。当然、こっちのOGを含めた日本代表が先に食べて、余ったものが俺たちだ。だが、今日の朝食をちゃんと食べなかった奴は10分間のお預けタイムだ。小皿に盛ったものを食べきれなくてもペナルティな」
「ふむ、それならあたしには関係ないわ。『(黄)みくるちゃん、お茶』」
「はぁい」
「はい、Wハルヒにイエローカード発令。飲み物は自分で取りに行け!」
『ぶー…分かったわよ』
「しかし、この量の倍となると、いくら影分身でも対応しきれないのではありませんか?」
「そうでもない。種類豊富に作ったから時間がかかっただけであって量を倍にするくらいなら大して変わらん。もし、手伝ってもらえるなら高タンパク低脂肪のディナーの方を担当してもらえると助かる」
「では、そうさせてください。撮影も来月上旬で終わりそうなのでそれ以降は僕も仕込みを手伝います」

 

ようやく青有希が戻り、みくるもある程度お茶を作ったところでスイーツを満喫していた。「現状維持の条件で閉鎖空間を張ったから心配いらない」と説明すると、ようやく食べられることに喜んでいた。
「しかし、撮影後は青チームの古泉の方がバラエティ番組に出ることになるはずです。こちらの古泉が代わりに店舗の方に行かなくてはならないのではないでしょうか?」
「流石にその頃には古泉がいなくても大丈夫じゃないか?まだ店長を選ぶ程の段階ではないだろうが、バラエティ番組の出演くらいなら黄古泉に代わってもらうほどのことでもないだろ?」
「そうですね。すでに店長候補には店舗の合鍵を預けてありますし、問題ないかと」
「それにしても甘いわね……あんた、砂糖入れすぎじゃないの!?」
「砂糖?そんなの1gも使ってないぞ」
『こんなに甘いのに!?』
「そういえば、小麦粉は大量に注文したけど、砂糖は注文しなかったわね」
「特に栗やカボチャは今が旬だからな。他の時期に同じものを出すのとはかなり違いが出る筈だ」
旬の食材を使ったものが次第に無くなっていき、青ハルヒですら「砂糖入れすぎ」とまで言わせた甘さなんだ。圭一さんやエージェントたちは既に食事を終えていた。スイーツを味わいながら食べ進めているのがOG達12人とWみくる、青有希、青朝倉、W佐々木、ENOZ、W森さん。Wハルヒと有希は……まぁ、言わずもがなってヤツだ。
「よし、まだ食べたい奴は食べ進めてくれて構わない。この後だが楽団の全体練習がある。昨日有希にテレパシーをしてもらったが、天空スタジアムにビラを用意しておいた。特にマンションではなく自分の家から来ている団員に渡して配るように声をかけてくれ。演奏だけでなくこういう部分での貢献度も正規メンバーを選ぶ目安にして欲しい。それから、俺のネックレスに最後の一つの指輪が通る。すまないが練習の間だけ青OGで出てくれ。他に何も無ければこれで解散だ。今日も一日、よろしく頼む」
『問題ない』

 

「みんなの反応は今見た通りだ。管理栄養士に伝えられそうか?」
「えっと、砂糖は一切使っていないのと、低カロリーなのと、ディナーの方は高タンパク低脂肪でいい?」
「ああ、それに、全部食べられてしまう前にいくつかチョイスして管理栄養士に実際に食べさせてみてくれ。砂糖ゼロでこの甘さだってな」
「分かった!」
「しかし、カレーとスイーツでここまで違いがはっきりするもんだとはな。WハルヒとW有希はそうでもないみたいだが……エージェントが全員いなくなるとは思わなかったぞ」
「わたしはカレーとスイーツは別腹。それ以外のメニューだとここまで食べられない。それより、次はいつカレーを作るの?」
「給食の献立表のようなもんだ。やっても月一回くらいじゃないか?」
『駄目、週1にして』
「どうしてそういうところで揃うんだおまえらは。W有希の基準に合わせていたら週7でカレーになるだろうが。青有希だけ週7でおでんにするぞ」
「そっ、それだけはどうかご勘弁を……」
「あら、これだけ色んな料理を食べているんだからたまにはいいじゃない!おでん屋からいくらでも持ってくるわよ?有希さんの好きなだけ食べていいわ!」
「え、遠慮しておきます……」
「まぁ、次にカレーを作るときは、ご飯じゃなくてナンにでもしてみようかと思っている。また大量に作るからそのときに食べればいい。しかし、悪い言い方で申し訳ないんだが、W佐々木もこういうところでは女が出るんだな」
『ちょっと待ちたまえ。キミは今、自分は男と結婚したとカミングアウトしたようなものじゃないのかい?僕が女だということはキミが一番良く知っているはずなのに、どうしてそんな発言が出てくるのか説明したまえ』
「だから予め謝っただろ?中三の頃からの付き合いだっていうのに、スイーツをここまで食べる佐々木たちを見た記憶が無い。そもそもこんなこと今までやったことがあったかどうかすら忘れた」
「そう言われてみればそうかもしれないね。食べ放題なんて言い出したのはお寿司が初めてなんじゃないかい?しかしキミは中三の頃からの付き合いと言うけれど、高校時代は僕の大学入試が終わるまでは違う学校で違う生活をしていたんだ。確かにキミにこんなところを見られるのは初めてかもしれない。国木田君も知らないかもね。でも、そんなに意外だったのかい?」
「その口調にした目的も理由もすべて知っているが、どうしてもその口調が最優先で頭の中で処理されてしまうらしい。今は研究室だから必要ないが、デザイン課に戻ったら指輪にかけている催眠をおまえだけ解いてしまおうかと迷ってしまうぞ」
「よしてくれたまえ。いつ誰と結婚したのか迫られてしまうし、社員から僕が結婚した事がバレる危険性だってあるんだ。先月の職場体験ではないけれど、デザイン課に新戦力を加える以外はその必要はないよ」

 

「ところで黄涼子、再来年になったらあの中学生どうするつもり?」
青ハルヒの言う『あの中学生』ってのはおそらく朝倉に誘われた件を御礼状で書いていた生徒のことだろうな。
「青チームの本社も含めて、実力があれば年齢は問わないわよ。そうね、やるとしても精々保護者同伴で面接に来てもらう程度かしら。給料の使い方に注意するよう伝えることくらいよ。服は毎月のコーディネートで余るほど貰えるし、友人関係でトラブルにならないようにするくらい。給料をもらえば誰だって自慢したくなるわよ」
「社長として、しっかり面談で振り分けてくれよ?内部情報を外に漏らすようなアホの谷口のような奴は採用しないでくれ。今の社員でさえ、服をタダでもらえると漏らした奴もいるんだからな」
「あたしに任せなさい!」
「さて、食材の旨味を引き出したのはいいが、甘過ぎるというのは改良の余地ありだな。旨味を最大限に引き出しつつ甘さを抑える……抑える?抑えるはちょっと違うか。単純に量を減らすだけで済むならそれでいいんだが……まぁいい。日本代表に出す前に試食してもらって正解だったな。ここにいるメンバーは昼食の量は増やさないがそれでいいか?男性陣のように量を増やしても食べきれないだろ?って、Wハルヒと有希は別枠か。どうだ?」
『問題ない』
「よし、なら俺は電話対応と今週のディナーの仕込みだな」

 
 

…To be continued