500年後からの来訪者After Future5-9(163-39)

Last-modified: 2016-10-16 (日) 15:31:10

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future5-9163-39氏

作品

有希と二人で一つのピアスを買いに行き、偶然にも二つ合わせるとハート型になるというOGの結婚指輪と同じものになった。その最後の指輪も今日取りに行くことができる。未来のみくるや有希も結婚指輪をなんて話していたが、各時間平面上の未来を安定させるエージェントのトップに立っている人間に禁則事項すれすれの真似をしてもらってはこっちが困る。これ以上は俺も潰れるだろうし、影分身が持たない。多少の時間のズレがあるとはいえ、キッパリと断った。

 

 用意した野菜スイーツも女性陣でようやく食べ終え、それぞれの分担に向かった。楽団員の女性だけでも、一人に一つくらい食べさせてやればいいものを「甘過ぎる」などと言いながらも結局すべて平らげていった。ビラ配りの件は話したし、99階で昼食の追加とディナーの支度をしながら人事部で電話対応。店が開く時間になれば、OGを連れてこの前行った店に行くだけだ。しかし、影分身二体で仕込みにあたっているから効率がいいとはいえ、やはり寂しいもんだな。告知が終われば影分身三体……いや四体で作業にあたれるが、青ハルヒには居てもらいたいもんだ。今は異世界支部社長として自らビラ配りに行っているし、かといってジョンと話したくてもテレパシーじゃ作業もそこまで進まない上に時間がすぐに経ってしまう。それでも実体化して話すというのも、俺だけ仕事しているようでちょっと気にくわない。まぁ、夜練に出てもらうという仕事はしているし、逆に言えばジョンはこの時間帯が休みのようなもんだからな。気分でしか寝ない奴だが、24時間働かせるわけにもいくまい。SPも四体配置したが、社員や楽団員にストレスを感じさせることなく報道陣を閉鎖空間に押し込み、中から何か言っているようだが、生憎と俺は読唇術を持ちあわせてはいないんでね。何も聞こえないし、分からない。分かりたくもないね。来週あたりに一度脅しをかけてその次はまた警告文を投げつけるつもりだが、今すぐ蹴散らしてやりたいくらいだ。ん?そういえば、SPの意識を0%にしたらどうなるんだ?
『簡単だ。ただの人形になるだけだ。そこに立っているだけになる』
ということは、意識0%のSPを本社の玄関に人形として置いておくだけでサイコメトリーに引っ掛かったときだけ起動することができるというわけか。念のため倒れないように超能力でくっつけておいて、動くときに解けばいい。同じ理屈でジョンの合図があるまでは、妻やOGたちを抱いている人形も0%で良いってことか。妻達には申し訳ないが、集中しないといけないときはその手でいこう。この先、告知でヤバそうな国を回るときは特にな。
『キョン先輩!そろそろ行きませんか?』
『もうそんな時間か。すまんが、キリの良いところまで終わったら声をかけるってことにさせてくれないか?』
『あたしに任せなさい!』

 

ハルヒの口癖が双子……もとい、子供たちを経由してどんどん広がっているが、本人たちはどう思っているんだか。OGを連れてポルシェで本社を飛び出した。
「はめるまで待ちきれないかもしれないが、全速力で行くこともないだろ?ドライブを楽しまないか?」
「私もそうしたいと思っていました。それでお願いします!」
「タキシードとドレス姿でお互いにはめ合うのはジョンの世界でやるとして、どうする?もうはめてしまうか?」
「午後の練習試合に気合が入りそうなので、指輪をはめて試合に出たいです!それにドレスもデザインを考えていたので、それが完成してからでもいいですか?」
「なんだ、もう決まっているものだと思っていたぞ。高三の頃に試着したあのドレスじゃないのか?」
「えー…っと、どんなドレスでしたっけ?」
記念撮影までして店頭に見本として見せたっていうのにそれも覚えとらんのか。まぁいい。試しに着せてみよう。どうせ催眠をかけるんだ。俺もタキシード姿で店内に入ると言うのも悪くない。ドレスチェンジさせると、数年前のものとはいえ自分で選んだドレスということもあり、好感触のようだな。
「先輩に言われるまで、このドレスのこと、すっかり忘れていました。キョン先輩、このドレスでもいいですか?」
「ああ、ついでにこの格好のまま店に入ってしまおう。催眠で普通のカップルにしか見えてないんだ。まさかウェディングドレスを着たまま来店したとは店員も思っていないだろう。店内ではめてやるよ」
『本当ですか!?』なんて言ってくるかと思ったが、この格好のまま店内に入ると聞いて照れているようだ。しばらくもしないうちに店に到着すると、左腕にしがみついてタキシードとウェディングドレスのまま入店。カメラで撮影して昼時に他のOGにも見せてしまおう。

 

 手袋を脱がせるところが催眠としてどう映っていたのかは知らないが、既に左手には指輪がはめられていた。俺の薬指にも二つ目の指輪としてはめられている。後でハート型になることを見せるのに必要になるだろうし、チェーンに通すのはその後だな。しかし、どんなドレスのデザインをしていたのか気になるし、この子のデザインならほぼ間違いなく朝倉と有希のOKが出る。来年の四月号に載せるものとしてデザインを仕上げるように話しておいた。昼食でOG達が周りに群がり、俺の指輪と合わせてハートが浮かび上がることを他のOG達に自慢していた。
「購入したのは指輪の方が先だが、有希とのこのペアピアスも二つ合わせるとハート型が出来上がる。今回はお互いに指輪をはめたときに記念撮影もしてきた。これがその写真だ」
テーブルにポルシェに乗っている最中のものと、入店したときのもの、指輪を互いにはめたときのものを情報結合。
「えっ!?記念撮影って、先輩いつの間に!?」
『えぇ――――――っ!!ウェディングドレス姿!?』
「こんな格好で指輪を取りに行ったの!?」
「俺たちが大学に入って、北口駅前店がいよいよオープンするってときに、直前になって店に入れて欲しいって言ってただろう?そのときにドレスも着てヘアメイクもしたのにそのことをすっかり忘れていてな。どうせ催眠で普通のカップルが来店しているようにしか見えないから、思い出させるついでにそのときのドレスを着せてみたんだ」
「そういえば……着ていました!このドレス!!」
「有希先輩にヘアメイクまでしてもらっていたのに覚えてなかったの!?」
「先輩たちみたいに自分でデザインしたものを着ようってばっかり考えてたら、あのときのことすっかり忘れてて」
「キョン……あんた、それ一体どういうことか説明しなさい」
「なんだ、羨ましいならハルヒも行くか?ウェディングドレスでドライブ」
「そんなわけないでしょうが!このバカキョン!」
『キョン君、わたしも連れて行ってください!』
「みくる達も行くのは構わんが、目的地を決めておいてくれ。本社から出てしばらくは催眠で普通の車で普通のカップルにしか見えないようにするが、それ以降は顔を除いて催眠を解くからな?ポルシェでウェディングドレス姿を見られることは覚悟しておけよ?みくるも今度は恥ずかしがらないようにな。青みくるはこの前の体勢でドライブしよう。二人とも、ピアスとペンダントはつけた状態な。それに、いい機会だし、みくるはドレスにあったピアスでも選びに行くか?」

 

 自分で『わたしも連れて行ってください!』と言っておいて恥ずかしがっていた。
「キョン、あたしもウェディングドレス姿でドライブに連れて行って!あたしもピアスをつけたくなったわよ。黄有希、あたしにもピアス穴開けてもらえる?」
「問題ない。でも、わたしもドライブに連れてって」
「あんたは結婚式の直後にオープンカーで先に二人乗りしていたでしょうが!あたしが一番なんだからね!」
「あれ?おまえ、行かないんじゃなかったのか?」
「前言を撤回するわ!側室がやろうとしていることを正妻がやらないわけにはいかないじゃない!」
「素直じゃねぇなぁ。そこははっきり自分もドライブに行きたいと最初から言えばいいのに」
「うるさいわね!いいから連れて行きなさいよ!」
「有希、ビラの件はどうなった?」
「問題ない。コンサート前までにすべて配ると言って持って行った」
「なら、俺から一つ提案がある。来週の金曜日は午前練と夜にリハーサルをやってくれ。午前練だけだと本番と同じ状態にはできないからな」
「分かった。団員にそう伝える」
「あっ!キョン!報告するのすっかり忘れてた!来週のディナーの件、これなら問題ないって管理栄養士の人からOKもらった。昼も全員栄養満点ランチにする必要はないって言ってたよ!」
「分かった。なら、あとは甘すぎるものに改良を加えることにする。ありがとう」
朝あれだけのスイーツを食べたこともあってか、昼食も足りないというメンバーはおらず、OGたちも練習試合に向かっていった。

 

昼食後、片付け担当のW佐々木の様子を見ながらどう話を切り出したものかと悩んでいた。
「どうかしたのかい?ジョンとテレパシーをしているわけでもなさそうだ。僕たちに話したいことでもあったのかい?」
「ああ、二人に話したいことがあるのはその通りなんだが……今日OGの指輪を取りに行って、青ハルヒもピアスが欲しいと言いだした。二人にも何か記念になるものをと思っているんだが、何も浮かばなくてな。二人とも俺の妻だが親友に変わりはない。親友となら俺も同じものを身につけたいと思っているんだが、何か良いアイディアはないか?おまえとなら腕時計やブレスレットでもありだと思っているんだが……イマイチしっくりこなくてな」
「そうだね。他のみんなみたいに僕たちも何か記念になるものが欲しいと二人で話をしていたんだ。キミの言う通り、僕もキミと同じものを身につけたい。涼宮さんはピアスが欲しいだけなんだろう?なら、キミのもう片方のピアスホールに僕が選んだものをつけてくれないかい?」
「困ったね。僕も黄僕と同じ考えだったんだ。彼女とのピアスもあるし、もうつけるところがないじゃないか」
「片耳に二つ付ければいい。もう一つピアスホールを開けてもらう。有希が開けてくれたのを見ていたら俺もやれそうな気がしているんだが、影分身を何体も出している今の状態じゃ、失敗してしまいそうだからな。ジョンに頼みたいんだがいいか?」
『フュー○ョンを失敗したときのようになったらどうする!』
ポ○ラならリスクはあっても失敗はないだろうが。俺に出来てジョンに出来ないはずないだろ?
『やれやれ、そう言われてしまったら出てくる以外に選択肢はなさそうだ。初めてではないはずだが、大分前の話になる。後で文句を言うのはやめてくれよ?二人は両耳でいいのか?』
「今後、アクセサリーを通販で売り出すことになるかもしれん。店舗は無理でも通販ならどうかと俺も進言してみようと思っていたところだ。実際の大きさをはっきりさせるために、みくるや佐々木たちにモデルになってもらうことだって十分あり得る。両方頼みたい」
『こっちまでやれやれと言いたくなったよ。キミと同じピアスをつけることは承諾したけれど、両耳にピアスホールを開けるとまでは言っていないだろう?本人の希望を無視して勝手に決めないでくれたまえ』
「さっきみくるにも話していた通りだ。気分によって付け変えることだってあるかもしれん。デートに誘う目的にさせて欲しい。開けておいて損はないだろう?」
『キミにそこまで言われてしまったら、僕はどうしたらいいんだい?承諾するしか選択肢が無くなってしまうじゃないか。本当に僕を誘ってくれるんだろうね?』
「ああ、心配いらん。というより、機会を見て誘ってくれても構わないんだぞ?」
『僕にそんな恥ずかしいことができるわけがないじゃないか。キミの方から誘ってくれたまえ』

 

 ジョンが失敗するはずもなく、W佐々木の両耳と俺の片耳にピアスホールが空き、後は佐々木たちが俺たちに合ったピアスを探すことになった。青ハルヒは自分で有希に頼むだろう。その夜、本体はみくるにシャンプーから全身マッサージまですべてやってもらっていた。今後は俺もみくる達のシャンプーやマッサージでないと駄目になるかもしれん。ハルヒはマッサージが終わったところで99階へ移動。100階の個室にはOG二人を連れ込み、有希は今日はおでん屋で商い。鏡部屋で抱いてやればいいだろう。例の二人に羨ましい思いをさせてやるまでだ。ハルヒも下のフロアに行っているし、前後両方責めているOGもそろそろ個室から出てきてもいい気がするんだが……まぁ、慌てることもないか。これまで何度も責めていたからか、みくる達も潤滑液を使わずとも後ろの方もすんなりと受け入れるようになった。マッサージが終わったところでそのお返しにと、お姫様抱っこで中央のベッドに運び、みくるを寝かせて口づけを交わすといつものように抱いていた。秘部の突起に玩具を備え付ると、ランダム震動に加えて、俺の分身が体内を刺激していく。みくるが痙攣するまでそう時間はかからず、その痙攣による締め付けに耐えきれず、俺の遺伝子がみくるの体内へと流れ込む。力が抜けてしばらくするとみくるがハッとして起き上がる。
「えっ!?キョン君!今、わたしの中で!?」
「心配するな、みくる。みくるが今思っているようなことにはならない。毎日体温測って危険日を考えるよりサイコメトリーの方が何億倍も優秀だ。妊娠するようなことはないから、安心しろ」
「もう!キョン君、吃驚させないでください!それに、ハルヒさんも青有希さんもこんな気分を味わっていたなんて……なんか、ずるいです!」
「ちなみに、どんな気分だったのか教えてくれないか?」
「お腹の中がキョン君の体温で包まれているような気分になりました。わたし、今、凄く満足しています」

 

 余韻に浸ること数分。ようやく落ち着いたところで、俺も横になってみくるに腕枕をすると、再度話しかけた。
「なぁ、みくる。みくるが子供を産んでも、もう禁則にならないんじゃないか?該当していても、もうそれ以上のことを俺たちはやっている。ジョンが未来からやってきて俺が超能力を使うようになった時点でこの時間平面上の未来が変わってしまっているだろ?」
「でも、未来を安定するために派遣されたエージェントが真っ先にそれを破るなんて行為はできません。でないと、わたしが未来に連れて帰られちゃいます」
「有希からも聞いたんだがな、未来の有希もみくるも俺と一緒に結婚指輪を買ってシャンプーから全身マッサージまですべて終わってからこうやって抱かれたいらしい。未来のみくるは各時間平面上の未来を安定させるための組織のトップだ。そのトップが禁則事項スレスレに該当するようなことをやろうとしている。どう思う?」
「ダメです……キョン君、そんなこと言わないでください。でないとわたし、妊娠して、キョン君との子供を産みたくなっちゃいます」
「……んー…ならこうしよう。みくるは妊娠して出産したことにする」
「えっ!?キョン君、それ、どういうことですか?」
「ハルヒが妊娠した時にも色々と調べていたんだがな、そいつを応用して、みくるから母乳が出るようにする」
「でもどうやって……?」
「妊娠して子供が生まれるまでの間に、乳腺が発達して母乳が出る状態になるよう脳が必要な栄養素を送りこむそうだ。だが、妊娠期間中はそれも別の栄養素に抑え込まれて母乳が出ることはないが、出産後は抑え込む必要が無くなって逆に押し出すようになるらしい。要はみくるの脳に自分は妊娠して出産したと催眠をかける。そのあと、みくるの胸をサイコメトリーして情報結合で乳腺を発達させる。しばらくすれば母乳が出るようになるはずだ。ハルヒも日によってだんだんと胸が張ってきてな。双子も、もう俺たちと同じ食生活をしているから母乳を飲む必要が無い。それでハルヒを抱くたびに母乳を俺が代わりに飲んでいるんだが、みくるの母乳もどんな味がするのか飲んでみたくなった。みくるも子供はいなくともこうやって抱いているときにおっぱいを吸われる感覚を味わうことができる。どうだ?」
「そんなことできるんですか?」
「こうやって話している間もジョンは俺に何も言ってこない。みくるの身体に悪影響が出るようなら、ジョンが俺を止める筈だ。だが、それが無いってことは、今からみくるに施そうとしていることをやっても支障はないってことだ。みくるにとっては保険のようなものだと思ってくれればいい」

 

 しばらくの間、俺から視線を外して考え込んでいたが、ようやく答えが出たようだ。表情だけで十分なくらいだ。
「……本当にそれが可能なら、わたしも母乳が出せるようになりたいです!わたしの母乳で良ければ、いっぱい飲んでください!子供ができなくても、こうやってキョン君の遺伝子を貰って母乳が出るのなら、わたしはそれで十分です!お願いします!」
「いくら結婚からといっても、みくるだけ子供が産めないんじゃな。佐々木の存在意義じゃないが、いくら未来人の禁則事項でも種族を繁栄させるのは人間の本能だ。本能に抗うことなんてそう簡単にできるもんじゃない。今後もそれを我慢して生活しなきゃならないなんて酷過ぎるだろ。かといって未来に戻って他の奴となんて、それじゃ結婚した意味がない。母乳を出すだけでなく、みくるが妊娠しないように卵管に遺伝子が通れない膜を張る。俺の遺伝子で良ければ、いつでも何度でも注入してやるよ」
「キョン君!」
豊満な胸と反比例するような腕の細さにも関わらず、どこにこんな力が……ってみくるに施したコーティングか?苦しいくらい抱きついて当分離れそうにない。
「未来に帰ってキョン君以外の人と付き合うなんて嫌です!キョン君以外の人と結婚するなんて考えられません!キョン君との子供でなきゃ、産みたくありません!」
「それでも我慢しなきゃいけないと思ったらいつでも言え。みくるの傍でこうして抱いてやるから」
「嬉しいです。わたし、キョン君ともう離れたくありません!毎日こんな風にさせてください!」
「じゃあ、今からみくるの脳に催眠をかける。記憶を弄るわけじゃないから実感が湧かないかもしれんが、しばらくして母乳が出てくれば成功だ」
「はい。よろしくお願いします」
おでこに触れて、脳に『自分は妊娠して出産した』と催眠をかけると、豊満な乳房に触れてサイコメトリー。母乳が出せるようになるまで乳腺を発達させると、卵管に膜を張り、男の遺伝子は通れないという条件をつけた。みくるがこうして俺の傍にいる限り、俺以外の男に抱かれる可能性といえば、精々青俺くらい。青有希に渡した指輪に刻印したメッセージじゃないが、青俺は青有希以外もう抱くことはないかもしれん。結婚式前日のように、相手を入れ替えて抱くなんてことも、もうあるまい。

 

 翌朝、ハルヒを連れて有希のマンションへとテレポート。有希の部屋を掃除してマンションの裏へとやってきた。
「あんた一体こんなところにきてどうするつもりよ?ウェディングドレス着せてくれるんじゃないの?」
「ああ、その前にやっておきたいことがあってな。この場所で何をしたか覚えているか?」
誰かが餌付けをしているのか猫が数匹集まってきた。俺たちがアイツと出会う前に子供を産んでいたとしたら……と考えたが、アイツと似たような奴は見当たらないな。
「ただの有希と涼子のマンションの裏じゃない!」
「おまえがここで見つけたんだぞ?そして、おまえが名前をつけた」
「あ――――っ!!シャミセン!!」
「ようやく思い出したか。思い出の場所の巡礼と思ってまずはここにきた。シャミセンの子供か孫でもいればと思っていたんだが、アイツと毛並みの似た奴が一匹もおらん」
「でも、やけに人懐っこいわね。野良猫ってもうちょっと人間に対して敵対心を持ってるんじゃないの?」
「シャミセンを拾ったときもこんな感じだっただろ?マンションの住人が餌付けしているのかもな。それより、サイコメトリー手伝ってくれないか?アイツの子孫がいれば本社に連れて帰りたい。名前はシャミセン二号だ」
「あんた、もうちょっと他に名前なかったわけ?ネーミングセンス無さ過ぎよ」
それを言ったらおまえはどうなるんだ?いくら猫の皮が三味線に使われているからとはいえ……
「シャミセンと全く関連の無い名前をつけるわけにもいかんだろう?」
『しょうがないわね……』と言いたげな素振りで一匹ずつ触れていると、
「……っ!!キョン、この子、シャミセンの孫よ!」

 

ハルヒが掴んでいたのは、毛並みがシャミセンとは全く異なる黒猫。俺も試しにサイコメトリーしてみると、確かにシャミセンの孫で間違いない。
「孫ってことは、おまえ、両親は?」
『……?この人間、僕に向かって話しかけてる?』
「そうだ。おまえに向かって話している。もう他界してしまったが、俺たちはおまえの爺ちゃんを知っている。子供や孫がいないかと思って探しに来たんだ」
『なんで僕の考えていることが分かるんだ?それに僕の爺ちゃんを知ってる?僕の両親ですら死んじゃったのに?』
「超一流のシェフが作る俺たち人間でも贅沢とも言えるほどの食生活をしていたからな。他界したのもつい先日だ」
『つい先日!?随分長生きしたんだね。それ、本当に僕の爺ちゃんなの?』
「まぁ、写真でしか残ってないし、毛並みはまるで違うかな」
だが、当時ハルヒが探していた黒猫で間違いない。遺伝子まで操作するなんて、どれだけの影響力を秘めていたんだ?コイツは。まぁいい。とりあえず、
「おまえ、両親が死んだのなら俺たちと一緒に来ないか?おまえの爺ちゃんと同じ食生活をさせてやる。気にくわなかったら、またここに連れてきてやる。それでどうだ?」
『おいしい食べ物があるのなら行ってみようかな?それより、気にくわなかったらちゃんとここに連れて来てくれるの?』
「それは保障する。因みにおまえ、名前はあるのか?」
『名前?名前って何?』
「相手を呼ぶときに使うものだ。おまえの爺ちゃんはシャミセンと呼ばれていたんだ」
『じゃあ僕もシャミセンでいいよ。シャミセンって聞こえたら、キミ達のところにいけばいいんでしょ?』
「まぁ、すべてというわけではないが、大体そんなところだ。とりあえずハルヒ、ドライブどころじゃなくなってしまった。本社に戻ってもいいか?」
「良いに決まってるじゃない!早くみんなに知らせましょ!」
当然本社に戻ってもお昼時と言うわけでもなく81階に行っても誰一人としていなかったが、とりあえずこれから住むフロアの紹介からだな。

 

「住むかどうかはまだ決めかねているところだろうが、もし住むと決めたら今後はここで生活することになる。おまえの爺ちゃんもここで生活してたんだぞ」
『見てまわってもいいかい?』
「おっと、すまない。色々と見てみないと分からないか」
シャミセン二号……いや、シャミセン三世と呼んだ方がいいか?とりあえずコイツを床に降ろすと、シャミセンをここに連れてきたときと同様、フロアのガラスをひっかいている。子供たちが帰ってくる前に除菌しておくか。俺も手を洗わないとな。人間に悪影響を及ぼす菌やウィルス、余分な毛と条件づけた磁場を張って俺やハルヒについていたものもすべて吸着して燃やした。ついでに青有希の部屋も掃除してくるか。俺が高校時代まで使っていた毛布はシャミセンの火葬と一緒に燃えてしまったからな。
『情報結合したらどうだ?燃える直前まで持っていたんだ。匂いも抜け毛も何もかも再現できるだろ?』
その手があったか。なら情報結合してみよう。アイツが気にいるといいんだが……黄金のシャミセン像の隣に毛布を情報結合。猫用のトイレとシャンプーを用意して匂いに慣れさせないとな。遮臭膜で覆っておくことにした。
「おーい、シャミセン!おまえの爺ちゃんが気に入っていた毛布だ。おまえの気に入るものになるかどうかは分からんが、こっちに来て居心地を確認してみないか?」
『爺ちゃんのお気に入りの毛布?』
爪とぎに夢中になっていたところに声をかけると颯爽とこっちにやってきた。口調は……佐々木より、国木田に近いか。孫ってだけあって、雄のクセに声も甲高い。
『ホントだ、爺臭い!でも、悪くないね。爺ちゃんのお気に入りっていうのが良く分かったよ』
「なら、住み心地はいいってことでいいか?あとは食事の方だが、普段どのくらい食べるんだ?」
『どのくらいって言われても……』
「じゃあ昼食になるまで待っていてくれ。それでどれだけ食べるか判断しよう」
さて、有希やみくる、古泉はどんな反応をするだろうな。

 

 昼食の準備のためにハルヒと有希がユニフォーム姿で入ってきた。
「ああ、有希、コイツな……」
「聞いた。シャミセンの孫。本当に黒猫。わたしも驚いた」
「どう?この子なら有希の肩にも乗れそうでしょ!?」
「問題ない」
練習を終えてメンバーがそれぞれ戻ってきた。
『可愛い――――――――!!先輩、この猫どうしたんですか!?』
「聖地巡礼と思ってハルヒと思い出の場所を回ろうかと思って、最初にシャミセンと会った場所に行ったんだ。そしたらコイツ、毛並みは全然違うがシャミセンの孫だ」
『シャミセンの孫!?』
「ああ、当時高校一年生の俺たちが文化祭に向けた映画撮影をしていた頃、ハルヒが探していた黒猫が、孫の代になってようやく現れたんだよ」
「しかし驚きましたよ。似ているところと言われても見つかりそうにありません。シャミセンの仏壇を見ても彼には実感が湧かないでしょう。本体と同期することにします」
「とにかく、昼食の支度できたわよ!はい、これシャミセンの分」
ハルヒから渡された分を床に置いてシャミセンを呼んだ。
「とりあえず、おまえの爺ちゃんと同じ分の量を用意してもらった。食べられそうか?」
『これ全部僕が食べていいの?』
「ああ、そうだ。今までどうしていたのか知らんが、横取りするような奴は一匹たりともおらん」
『………美味しい!今まで食べていたのよりずっと美味しいよ!』
人懐っこい猫ばかりだったから、猫飯くらいのものは食べていたんだろうが、ハルヒの料理とは比べ物にならん。
「とりあえず、俺たちの新しい仲間だ。シャミセンの孫で本人もシャミセンと呼んでくれれば返事をするそうだ」
「くっくっ、歓迎したいのは僕も同じなんだけどね。キミばかり会話していないで、僕達にもテレパシーを転送してくれたまえ。彼がどんな風に喋るのか聞いてみたいんだ」
「すまん、それをすっかり忘れていた。今はハルヒの料理に夢中だから夕食で子供たちが帰ってきたらまた紹介する。まだ声変わり前の……そうだな、人間でいえば小学六年生の男の子って感じだ。口調は佐々木よりも国木田の方が近いかな」

 

 昼食を食べ進めてはいるが、シャミセンが気になって仕方が無いらしいな。早々に食べ終えたOG達が俺の席の後ろをまわってシャミセン三世の食べている様子を見守っていた。
『……もうダメだ、限界だよ。僕の爺ちゃんってこんなにたくさん食べていたの?』
「なら、夕食は少し減らしてもらうことにする。それまで自由に過ごしていいぞ」
それにしても、よっぽど美味かったらしいな。限界といいつつも完食したようだ。夕食でどんな反応をするのか楽しみだ。
「ふふっ、声変わり前の小学六年生っていうのが良く分かりました」
「口調が佐々木と言うより国木田っていうのもなんとなく分かった。今のところそんな感じがする」
「ところで、有希、朝倉。デザイン課でアクセサリーのデザインを考えさせてみないか?アクセサリーまで置ける店舗は少ないだろうが通販として販売する分には構わないだろう?ハルヒやみくる、佐々木をモデルにピアスやネックレス、エンゲージリング、マリッジリング、時計にブレスレットをつけさせる。服をデザインするついでに、もうワンポイント必要なときだって今までもあったはずだ。ネックレスや指輪は近くの店舗に行けば大きさを測れるようにすればいい」
「そうね、店舗に置ける場所が少ないから今まで考えてこなかったけど、四月のウェディングドレスに男女ペアのマリッジリングは絶対必要よ!デザイン課の社員達だってこんなアクセサリーが欲しいなんて思っているはずだわ!冊子も発売されたばかりだし、考えさせてみるわね」
「それで、ハルヒ。結局午前中行けなかったが、ウェディングドレスを着たおまえと行ってみたいところがある。ずっと練習試合に出るのなら日曜まで不可能ということになるが、それでもいいか?」
「さっきも聖地巡礼とか言ってたけど、一体どこに行こうって言うのよ!」
「ドレスを着て行くところなんて、そこまで考えなくても分かるだろ?最初が有希のマンションの裏なら……」
「分かった。わたしもそこに連れて行って」
「キョン君、わたしもドライブ先はあそこがいいです!」
「もー…有希も青みくるちゃんも何処のこと言ってるのよ!?」
「キョン、黄キョン君が終わったらわたしも連れて行って」
「そうだな、折角だから幸も入れて土日に行こう。誰にも見られていない方が恥ずかしい思いをしなくていい」
「そういや、あの時は青古泉の視線が痛いくらいだったからな……俺たちも双子連れて土日にするか。有希はまた別日の方がいいんだろ?」
「あんたたち一体何処のこと言っているのかいい加減教えなさいよ!!」
「俺も青ハルヒからよく言われるから、あんまり人のことは言えないんだが、おまえもこういうところに関しては鈍感だな。青俺たちと二組同時で行った結婚式の教会だよ。双子は見ているが今度は二人だけでやりたい。今日の午後は青みくるってことになるかな。青OG三人のヘアメイクもどのくらい上達したのか見せてもらいたい」

 

 いつまで顔を真っ赤にして固まっているつもりだコイツは。
「それで、青OGにヘアメイクを頼んでもいいか?」
『問題ない!』
シャミセン三世は……黄金像の隣で似たような格好で寝てやがる。こういうところが似ていてもシャミセンの孫だなんて分かりやしない。黄金のシャミセン像に何も興味を示していないしな。あとで教えてやることにしよう。眠ってしまったシャミセン三世にOGもどうやら見飽きたらしい。昼食の食器をシンクに運び始めていた。
「じゃあ、ハルヒはこんな調子だし、試合に出る気も満々のようだから青みくるの準備ができたら教えてくれ。俺はそれまで明日の昼食の支度とディナーの仕込みをしてくる」
「分かりました。終わったらテレパシーしますね!」
とは言ったものの、そこまで時間もかかるまいと思っていたが、テレパシーが届いたのは99階で仕込みを始めて30分も経ってからだった。ハルヒも試合に間に合わないと言われてようやく動き出したらしい。大音量のテレパシーが来なかったということは、青みくるが先でも構わないと判断してよさそうだ。
『青ハルヒも佐々木たちもピアスをどれにするか決まったのか?明日以降も一人ずつ出かけるから、それまでに調べて決めておけよ?』
『僕たちもウェディングドレスを着たいんだけどね。それでもいいかい?』
『勿論だ。青OG達の練習台には丁度いい』
『ちょっとあんた!あたし達を練習台にするってどういうことよ!』
『メイクが終わって気にくわなければ有希に頼めばいい。メイク落としのやり方も教えてあるから心配いらん』
『くっくっ、記念撮影だってしたいんだ。審査基準は厳しいけれど大丈夫なのかい?』
『まぁ、お手並み拝見ってことにしておいてくれ』

 

 佐々木達とのテレパシーも終え、81階に降りると、既に青みくるはウェディングドレス姿。佐々木たちも審査基準は厳しくするつもりらしいが、青みくるのメイクを見る限り何の歪みも見当たらない。ヴェールで隠れているせいもあるかもしれんが、本人が納得しているのならいいか。タキシードにドレスチェンジして有希のマンションへ。催眠は顔だけ別人にして閉鎖空間も今回は無し。どれくらい時間がかかるかは分からんが、子供たちが帰ってくるまでに戻ればいい。青みくるを前回と同様、太股の上に乗せてポルシェを走らせた。

 
 

…To be continued