500年後からの来訪者After Future6-1(163-39)

Last-modified: 2016-10-30 (日) 02:22:33

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future6-1163-39氏

作品

有希&古泉が特番で最も刑罰の重かった週刊誌に嘘記事を書かせ、本社前からまた報道陣が姿を消した。社員や従業員、楽団員が気兼ねなく出社することができるように閉鎖空間を張るプランを立て、報道陣から「本社の方も襲われたようですが…」などという質問が来れば「社員や楽団員には対応策を講じているから心配はいらない」と報道陣はどうなろうが俺の知ったことではないとアピールするつもりでいる。佐々木達の研究もどうやらこれで発展することができそうだ。セカンドシーズンのオープニング曲も決定し、今夜の夜練後に天空スタジアムで俺たちだけのライブが決まった。

 

「しかし、一度だけというのはドラマ用のものを一度だけってことかい?それともCDとして発売するフルバージョンになるのかい?」
「それもそうね。有希、ドラマではどこの部分を使うつもりなの?」
「今渡したのはフルバージョンの楽譜。ドラマ用の楽譜も作っておく。フルバージョンを編集したものになるから夕食後にサイコメトリーするだけで十分。演奏は両方見せるべき」
「じゃあ、それで決まりね!」
「私からもいいかね?例の生放送番組から出演の依頼が届いた。青朝比奈さんのバラード曲だ。古泉の折り返した電話のせいもあってか、色々と局内で揉めたんだろう。今週末だそうだが、大丈夫かね?」
「出るのは構いませんけど、どの程度の範囲で飛べるのか確認しないと……リハーサルだけでその確認ができればいいんですけど……」
「それについては私も確認した。そのための打ち合わせの時間もリハーサルのときに用意しているそうだ」
「ところであんた、青みくるちゃんのトーク中の衣装はどうするのよ?あんな羽を付けたままじゃ座れないでしょ?」
「できれば、青ハルヒか青佐々木が情報結合をしてスタンバイ前に羽が生えるところをパフォーマンスとして見せて欲しい。それに今回からイヤリングとネックレスを見せてくれ。それ用のイヤリングのデザインはできているから、夕食までに作っておく。来週のコンサートからと思っていたが、番組収録ならそれもより多くのシーンで映すことができそうだ。それとも、コンサートと同様、ハルヒがピアノを弾くか?」
「番組収録とライブの方は青あたしに任せるわよ。あたしがピアノを弾くのはコンサートのときだけになりそうね」
「フフン、そういうこと!みくるちゃんの羽の件も問題ないわよ!」
「ただ、あくまで青みくるのパフォーマンスだ。青ハルヒが指を鳴らしたら生えてきたなんて事にならないよう十分配慮してくれ」
「あたしに任せなさい!」
「ちょっと待ってください。大御所芸人から話が出ることはないでしょうが、女性アナウンサーから年末のライブ会場の件が話に上がるかもしれません。もし、『今年の年末のライブ会場はSOS天空スタジアムで行われることになるそうです』と女性アナウンサーからコメントされるようなら、『まだ決定ではない』と答えていただけませんか?」
「どの道、今回は俺がマネージャーとして行くことができん。催眠をかけて出ようと思っていたが、そういうことなら古泉の影分身が代わりに向かってくれるか?青有希ではなく有希でもいいが、説明不足になりそうだからな」
「了解しました。念のため、僕も今泉和樹の催眠をかけて向かうことにします。でないと、リハーサルからでられませんからね。テレパシーは涼宮さんか青朝比奈さんに送ることになると思います」
「分かりました。黄古泉君のテレパシーをそのまま伝えることにします」

 

 ポルシェに戻り、運転を再開するとてっきり他の研究の相談かと思いきや、別の話題になった。まぁ、どれも似たような悩みを抱えていたなんてことも十分考えられるからな。
「くっくっ、キミもそうだけど、彼も相変わらず頭が切れる。彼の言う通り、女性アナウンサーからあんなセリフを言われてこちらが承諾した態度を見せれば、社長の土下座なしに勝手にOKが出たと判断されてしまうからね。僕も彼に言われるまで気にも留めなかったよ。そのために今週出て欲しいときたのかもしれないね」
「古泉と有希の差し替えた記事が出てきたからということもあるだろうな。あの週刊誌は社長どころか社員総出で土下座で謝罪なんてこともありえそうだ。それはそれで面白い」
「しかし、彼の撮影はいつ終わるんだい?あの発言からだと、少なくとも今週金曜日まではまた続いているということになると思うけれど……キミはもう聞いているのかい?キミも既にそれを知っていると言いたげな口ぶりだったからね」
「青ハルヒや青みくるなら大丈夫だろうとも考えられるが、どの道リハーサルが長引くのなら、その間は人事部で電話応対をとアイツなら考えるだろう。撮影が終わっていても、そうでなくてもな」
「やれやれ、この前のOGの発言ではないけれど、話のレベルが高すぎてついていけないよ。彼のクランクアップと料理を振る舞う日を聞いておいてくれたまえ。OG達はホールスタッフとして出たくても夜練になるだろう?」
「青OGが出たがるだろうから、野球の応援と同様、催眠をかければいいだけだ。主演男優が古泉だから争いになることは無いだろう。おまえがそんな心配をする必要は無いと言いたいところだが、四人だけじゃ足りないかもしれないな。夕食時にでも聞いてみることにしよう」
チャペルに到着すると『そういえば、もうちょっと早くに連絡が欲しかったもんだね』と、結婚式当日、SOS団内で唯一制服姿だったこと思い出したんだろう。愚痴をこぼしていたが、ドライブ中の記念撮影も終えて、誓いの口づけまで済ませて本社へと戻った。メイクを落としてドレスチェンジをすると、今日は脚本家兼演出として動くらしい。四時からの音合わせに付き合うらしい。俺も気になったからついていったが、ハルヒ以外の四人がダンスのときと同じマイクをつけている。ハルヒとのコーラスじゃあるまいし、ハルヒの歌う歌詞と被るところでもあるっていうのか?音合わせにはENOZの姿もあった。オープニングに合わせたエンディングを考えているんだろうが、練習試合には誰が出ているんだ?まぁ、OG六人だけでも問題ないと言えばそうなんだが…まぁ、いいか。

 

 色々と長かった一日ももうあとわずか。夕食で議題に挙がったのが、古泉の撮影がいつ終わるかについて。それにディナーも合わせる必要があるからな。
「一応十一月八日の月曜日ということになっています。青朝比奈さんのパフォーマンスで脚本が変わってしまった件も落ち着いて、それ以降伸びることはないかと」
「じゃあ、その日に本社五階でお疲れ様会ってことでいいか?」
「まだ皆さんには話していませんので、明日スタッフ全員に打ち明けてみましょう。参加人数も確認してきます」
「なら、その件は明日の昼か夕方ってことになりそうだな。すまんがもう一つ、ディナーの件で相談に乗ってもらいたい」
『相談?』
「内容は至ってシンプルだ。十二月から週末のおススメ料理の為に金、土、日とスキー場のスペシャルメニューを作ることになるんだが、金曜日は日本代表のディナーと被る。日本代表のディナーと夜練がない日を木曜日にずらそうかと思っている。あまり一日空いたりするよりは……と思っていたんだが、どうだ?」
「黄あたしみたいにあたしも影分身を覚える必要がありそうね。そうでもしないと仕込みが間に合わないわよ」
「一日空いたとしても仕込み作業の追われるのであれば、この際日本代表のディナー以外は手軽に作れるもので用意すればいいかと。わざわざ豪華にする必要はありませんよ」
「変更する時期は十二月に入ってからでいいか?」
『問題ない』

 

その後、青みくるにネックレスとセットにできるイヤリングを渡した。アクアマリンをはめる枠の左右にこれまたエンジェルウィングの型枠をプラチナで作ったもの。これくらいなら冊子に乗せてもいいかもしれん。
「ところで朝倉、おまえもイヤリングをつけてみないか?おまえに合ったデザインが浮かんだんでな。俺のデザインじゃ気にくわないかもしれないが、アレンジを加えれば冊子に載せられるかもしれん」
「そうね。どんなものなのかだけでも見てみようかしら?でも、気にくわなかったらそのまま情報結合を解除するわよ?」
「ああ、それで構わない」
小箱を朝倉の前にテレポートすると、小箱を手にとって朝倉が中身を確認する。ナイフを模ったプラチナの枠にラウンドブリリアンカットのサファイア2個を柄の部分にはめ、同様のダイヤモンド大2個と小1個を刃の部分にはめる。横から小箱の中身を覗いていた古泉がそのデザインを見て一言。
「なるほど、確かに朝倉さんに合ったデザインで間違いありません。それに、朝比奈さんや青僕のドラマの最終話でナイフを振るシーンは全国に放映されていますから、これなら催眠をかけずとも社員が疑問をもつようなこともありませんよ。青朝倉さんのジュエリーが決まるまでの短期間でもつけてみてはいかがです?」
「そこまで言われたんじゃ仕方がないわね。でも、青わたしのアクセサリーが見つかるまでの間だけよ?」
「黄僕がそこまで言うくらいですから、形状はナイフで間違いなさそうですが、我々にも見せていただけませんか?」
仕方が無さそうにイヤリングを手にとってはいたものの、表情は嬉しさで満たされていた。朝倉の髪とサファイアの色が見事なグラデーションになっている。
「いいじゃない、黄涼子!こっちの涼子のアクセサリーが見つかるまでなんて言わずに、ずっとつけていて欲しいくらいだわ!」
「大袈裟よ。でもこれで、青わたしとの区別はつけられそうね」

 

「ってことは、あとは古泉君と、圭一さん達だけになりそう」
「黄朝倉に黄俺がデザインしたように、圭一さん達にも自分でデザインを考えるより他のメンバーからのプレゼントの方がいいと思うんだが……例えば、圭一さんには裕さんからとかな。それに、古泉たちならもうつけているだろ。催眠をかけて他のメンバーに見られない様にしているだけだ」
『もうつけてる!?』
「つけているのにあたし達に見られない様に隠しているってどういうことよ!!」
「こっちの古泉は簡単だ。チェーンの長さを変えてWハルヒと同じネックレスをつけている可能性が高い。黄俺と黄佐々木のアレキサンドライトなら別に構わんだろうが、そんなの、他のメンバーに見せられないだろ?ついでに簡単に睡眠が外せない様に閉鎖空間に条件を張ってあるはずだ。佐々木の面をかぶった木偶人形ですら閉鎖空間を破壊することができた。黄俺はそのとき、内側から絶対に壊れないようにするための閉鎖空間をステルスで張っていたから壊されなかったが、涼宮体にはそれでも破壊された。黄俺も俺もその涼宮体よりはるかに上のパワーを持っている。閉鎖空間を破壊して催眠を解くくらい造作もない。さて、自分から見せるか、俺にバラされるかどっちがいい?超サ○ヤ人なら周りにバレない様になれることも黄俺が見せてくれている。生憎と閉鎖空間を壊す準備なら万端だ。催眠を解かれる前にテレポートするなんて真似はするなよ?既にテレポートでこのフロアから移動できない条件で閉鎖空間を展開したからな」
高校時代の古泉を思い出させるニヤケスマイルで青古泉が固まった。
「バラすまでも無さそうね」
「そういうことをしているから、いつまで経ってもレッテルをはがせないのよ。でも、『古泉たち』ってどういうことよ!?こっちの古泉君も隠しているって言いたいわけ!?」
「こっちの古泉の動きが見られないのなら何かしら付けるべきだったな。黄古泉の場合、おそらく指輪だろう」
『指輪ぁ!?』
「古泉君がもう誰かと結婚しているってことですか!?」
「でないと、未だに何もつけていないのがおかしいんだよ。黄ハルヒが黄俺にダイヤモンドとプラチナの鉱山をあさって来てくれと言った翌日、プラチナの原石を本社上空で見せていたが、そのきっかけになった一言を言い放ったのは黄古泉だ。『進捗状況はいかがです?』ってな」
「そんな発言がどうしたっていうのよ!黄古泉君ならキョンが大量に原石を集めてきたことくらい容易に想像できるじゃない!」
「そう。俺もそのときはそうだとしか考えてなかった。だが、その原石の仕分けを手伝おうかとまで黄俺に提案していたんだ。他の宝石は別としてダイヤモンドやプラチナはすぐにでも欲しいという発言をしていたにも関わらず、未だに何もつけていないのはおかしい。ただでさえ、周りからは異世界の自分との区別がつけられるようにと言われていたんだ。黄古泉ほどの奴が今になっても尚、それをつけていないのは妙だと思わないか?撮影で周りに悟られない様にする程度なら、俺たちには見られたって構わないはず。そのためのネックレスやイヤリングのデザインを考えていたんだろうが、自分のことになるといいデザインが思い浮かばず今に至った。違うか?」
「ですが、古泉には撮影と人事部の対応でデザインを考えている暇もないかと……」
「いえ、森さん、いいんです。そんなことを言ってしまうと、僕なんかよりも彼の方が数倍忙しいですからね。眠気を取ってまで毎日のようにこちらに来ているんです。催眠をかけてまで夜練に参加しているんですから」
青古泉同様、閉鎖空間を張っていても、もはや逃げ場は無いと悟ったんだろう。テレポート不可能の閉鎖空間まで張られてしまっては尚更だ。古泉が指輪につけていた催眠を解いた。

 

「青キョン先輩の言う通り、本当に指輪だったんですね……」
メビウスの輪のようにリングを一回ひねっただけの単調なデザイン。男性の結婚指輪ならそれで妥当か。ダイヤモンドをあしらうならハルヒのように女性側にのみつけるはず。W俺のように結婚記念日に贈るようなものとは違う。
「しかし、青僕が逃れる術を無くすための閉鎖空間を展開していたとはいえ、僕の方までバレてしまうとは。しかもサイコメトリー無しでとは恐れ入りましたよ。あなたにそこまで言っていただけるとは光栄ですが、たった二言でそこまで見透かされてしまうとは思いませんでした」
「でも、結婚指輪ってことは相手の方も歓迎するべきです!古泉君の撮影が終わったらすぐにでも結婚式を……」
「くっくっ、でも、場所はどこにするんだい?こっちの世界じゃ、いくら催眠をかけたって彼の名前一つで式典のスタッフにバレてしまうよ。かといって、異世界でもどこまで浸透しているのか分かったもんじゃないからね」
「とにかく、あたし達のチャペルの場所を探してきてくれたんだから、今度はあたし達が探す番になりそうね。こっちの世界はどうかわからないけど、異世界なら『国外』で結婚式をすればバレることもないし、バレたってそこまでの影響はないわよ!相手が誰なのかにもよるけど……」
「まぁ、結婚式が挙げられるとは到底思えませんし、ハルヒさんもそこまで気にしないでください」
「でも、これで黄古泉君の結婚が発覚したんだから、相手の方もここに呼んだらどうかしら?わたし達のことどのくらい話してあるの?」
「以前、彼からもし○ボックスの話を聞いて、それを参考に異世界人のことについては話してあります。ですが、困りましたね……。こんな調子では異世界の僕だと紹介できそうにありませんよ」
『うん、それ、無理!』
OG達が揃って朝倉の真似をした。

 

「とりあえず、この後夜練もあるし、この件に関してはそこまでにしよう。他に何か連絡はあるか?」
『なら、出てきたついでに俺からだ。昨日と今日のアメリカの新聞だ。どちらもキョンにとっては朗報だ』
『アメリカの新聞?』
テーブルの上に情報結合された新聞をほぼ全員が前に乗り出してみていた。内容は……この前の試合後のことか。『CRAZY GOD 140マイルの投球!金属バットが破壊!!』という見出しの記事と、『「Nothing Impossible」週刊映画ランキング4週連続第1位!アカデミー賞予備選考エントリー決定!』の記事。もうアカデミー賞の選考が始まるのか。
「確か、160km/hで100マイルだったわよね?」
「ああ、この前投げた224km/hで丁度140マイルだ」
「くっくっ、この記録がどこまで伸びるのか見てみたくなったよ。アカデミー賞にノミネートしてもおかしくない」
『ニュースでは例のVTRがアメリカでも流れて話題になっていた。「投球フォームは至って普通なのにどうしてこんな球速になるのか謎」だそうだ』
国民的アイドルが言っていた内容とほとんど変わらずか。明日のニュースは映画の方のニュースが新聞の一面を飾ることになりそうだ。社長の土下座謝罪については二の次だろうな。どこもそうするに違いない。
 夜練を終えて、OG達もそのままの格好で天空スタジアムへと集まった。すでにスタジアムの閉鎖空間の条件を変えられ、満天の星空と絶好の夜景が俺たちの目の前に現れていた。アリーナ席のパイプ椅子に座ってライブの様子を見ていた。まずはフルバージョンから。間奏の有希のギターテクニックは相変わらずか。そしてドラマ用のものはその間奏も省いたもの。OG達は大いに盛り上がっていたが、これに合わせてオープニングを作るとなると……骨が折れそうだ。ハルヒや有希が構成を決めてくれているといいんだが。

 

 俺たちだけのライブを終えて、黄チームSOS団、青佐々木は満足気な表情をしていたが、さっきはあれほど盛り上がっていたにも関わらずOG達の表情が重い。どうかしたのか?
「キョン先輩、青古泉先輩にもう一度罰を与えた方がいいんじゃないですか?」
「青キョン先輩が指摘していたとおり、私たちの知らない間にWハルヒ先輩と同じネックレスをつけていたなんて……信じられないですよ!」
「確かにな。どちらの古泉も自分と異世界の自分を区別するものは付けていたが、それが俺たちに見えないのなら話は別だ。古泉も指輪を作った時点で少し悠長に構えていたのかもしれん。青俺に指摘されるとは思ってなかったんだろう。俺も催眠をそんなことに利用させるために青古泉にエネルギーを分け与えたわけじゃないし、どちらも俺がデザインしたものだから俺もちょっと引いてる。まだまだ更生してもらわなきゃならないところも多々あるが、アイツには異世界支部の関係でもっと仕事をしてもらう必要がある。それに、更生する必要があるのは青古泉だけじゃないだろ?」
場の空気が更に重くなってしまった。最後の一言は余計だったかもしれん。
「えぇ――――――!?また私!?」
「もうなんか、誰に対して変態的なまでの好意を抱いているどころじゃないよね」
「ちょっと気を抜いたらすぐに変な行動に出るんだから……私も自分の異世界人だなんて紹介できないよ……」
ははははは……古泉の相手の場合は既に承知の上だと知ったら更にダメージを受けそうだ。
「まぁ、一時期に比べれば、随分良くなったんじゃないか?今はちょっと大胆くらいでほとんど普通の下着をつけているが、皆こぞって大胆下着ばっかりだった頃だってあっただろう?俺が温泉旅行から帰ってきたときは全員同じテディドールだったしな」
「私もあんまり人のこと言えないけど、黄キョン先輩がいなかったらこの子がどんな行動に出ていたか……」
「早くキョン先輩に抱きしめられたいです!私ももうキョン先輩じゃないと無理!」
「じゃあそろそろ湯船からあがってベビードールに着替えてこい。今日から自分でブラインドフィールドと遮音膜張るんだぞ」
『問題ない』
ベビードールを選ぶのは早かったが、ブラインドフィールドと遮音膜を張るだけでどれだけ時間をかけているんだか。毎日のようにやっているっていうのに、未だに周りから見られたり聞こえたりするのが恥ずかしいのか?ちゃんとした膜が張れたOGから影分身を連れてベッドにダイブ。何だかんだで全員ちゃんと張れていると思った…が、
「ちょっと待て!おまえ遮音膜にする気全く無いだろ!?色変えただけで周りに丸聞こえじゃねぇか!」
影分身の声が聞こえて他のベッドからOG全員が外の様子を見に出てきた。ただ一か所、OGではなく影分身が出てきて遮音膜を張り替えていた。こういうところが青古泉と同じだと言ってるんだ。まったく……
『やれやれ』
残り11人が俺の真似で揃った。

 

 翌朝のニュースは報道陣が大御所芸人達を追いかけているシーンがVTRで映っていた。無論、嘘記事ということもあり、国民的アイドルも
「インタビューに応じた覚えはありません。今後どうするかは皆さんと話し合ってからにします」
と話していた。本社前に報道陣はおらず。自分の会社以外のところへ足を運んでいるだろうな。新聞記事は映画のことになるかと思っていたが、予備選考くらいではそこまででもなかったか。だが、アメリカの新聞記事が取り上げられこちらの新聞記事とは別に紹介をされていた。新聞の見出しも『嘘記事発覚!?謝るならまず自分から!』、『各社社長に非難の声!部下はどうなっても構わない!?』、『謝罪する気ゼロ!器は小さく、プライドは大きく!』
『謝罪する気ゼロ』の見出しをつけた新聞社は、有希が記事を差し替えたところ。既に土下座しているところに何を言われても仕方がないだろうな。それより他の新聞社の記事がニュースで叩かれていた。特にそれが顕著だったのが謝罪会見を開いた日テレ。『謝るならまず自分から』と見出しをつけておいたにも関わらず、この新聞社の社長は一切謝っていないと報道。その通りなんだから文句は言えまい。
「古泉、昨日忠告したばかりだっていうのにまだつけているのかおまえは。そんなんだから黄古泉が結婚相手を呼べないんだろうが!せいぜい自室に飾るくらいにしておけ!」
「妙ですね……何を根拠にそのようなことを?」
「もしやと思って張っておいた、おまえ専用のサイコメトリーの膜に引っ掛かっただけだ。大体な、証拠を提示しろって言う奴は半分認めているようなもんなんだよ!」
周りからジトーっとした眼が青古泉を襲う。やれやれ…視線は無くなってもまだ変わらずか。やはり、もう一回刑罰かな?だが、朝倉もイヤリングをつけて満足気な表情で現れた。何も言わないが、気に入ってもらえて何よりだ。

 

「皆もニュースを見ていると思うんだが、もうどの会社の社長が謝罪しても、今さら謝ったところでどうしようもない状態に陥っている。ただ、昨日の古泉の発言通り、例の生放送の特番で天空スタジアムを使うというのなら話は別だ。土下座で謝罪しない限りは一切使わせない。それが絶対条件として留めておいてくれ。他の局でも同じことだ。今日は楽団員の練習後、移動型閉鎖空間の取り付けと説明を頼む。その間に俺が昼食を用意しておく。午後からは青ハルヒ、おまえとチャペルに行きたいと思っているんだがどうだ?」
「ようやくあたしの番みたいね!絶対行くわ!そのためにこのピアス買ったんだから!」
「よし、明日はみくると午前中から向かうつもりだ。それから、金曜日はいくら影分身とはいえ古泉が収録に向かう以上、ディナーの方の調理は俺がやる。仕込みも既に始めているから気にしないで番組の方に集中してくれ」
「了解しました。僕に見える催眠をかけて…ということになりそうですね」
「ああ、そのつもりだ。それから、前回のコンサートでは報道陣にわざと閉鎖空間の壁にぶつけてから引きずりだしたが、次回からは先ほどの青俺のようにサイコメトリーに引っ掛かった時点で除外する。例の『社長さえいなければ』発言に対抗する処置だと思ってくれればいい。それと、青古泉。俺はそんな事の為におまえにエネルギーを与えたわけじゃない。九月一日の時点で話した通り、その状態を継続するようなら、Wハルヒと相談した上で前回のような刑が下ることになる。そのつもりでいること」
「……肝に銘じておきます」
「それから、遅くとも来月までには来るであろう異世界での試合についてだ。Wブッキングしないことが一番良いが、コンサートと被った場合はみくる、青佐々木、青朝倉、青有希でコンサートの方に出てくれ。指揮は俺の影分身で行う」
「あんたじゃなくてもあたしの影分身で十分よ!」
「駄目だ。指揮は常に全体の音を聞いてなければならないし、ハルヒの影分身の修行はまだ始めたばかり。バッティングのときはそっちに集中する必要がある。元々、指揮は過去ハルヒに任せるかという案だったはず。おまえは野球に集中しろ。でなければ、試合には出さない」
「だったら過去のあたしを呼べばいいじゃない!あんただって試合に出られなくなるでしょうが!」
「青俺が投手としてマウンドに立つ以外は俺の出る幕は無い。あとは有希や朝倉がなんとかしてくれる。それとあまり過去ハルヒを甘やかさないことにした。三年という約束もしたからな。指揮の練習なんてしている暇は無い筈だ」
「ぶー…分かったわよ」

 

「ところで圭一さん、一つ聞きたいことがあります。スキー場のホテルの予約が来たのはいつ頃か覚えていますか?」
「はっきりとしたことは言えないが……何かあったのかね?」
「十二月と一月の料理長のおススメメニューですよ。彼が世界各国で告知をしている最中だというのに出せるわけがないだろうと言ってまわり、料理を出さずに行くのか、十二月から週末は出していくのかという問題なんです。それによって野球の試合の件に大きく関わってきますからね。涼宮さんは特に」
「青ハルヒの分は仕込み作業さえ終わっていれば後の調理は影分身で済む。青ハルヒには投球に神経を注いでもらう必要がある。十二月以降に試合の連絡が来れば俺と古泉は出ることができない」
「データにはいつ連絡がきたかまでは入力していない。社員で覚えている者がいないか聞いてみることにする」
「分かりました。もし二月以降の予約が先に来ているようであれば十二月と一月の料理長のおススメは無しにします。俺が告知に行っているということが分かった後になって予約が入ってきたということになりますので。ですが、先に入ってきたのが十二月だったとしても、予約を入れた客は半分諦めていることも考えられます。どうするか決定するのは、シーズンがもう少し近づいてきてからということになるでしょうが、全員そのことを頭に入れておいて欲しい。それと今年は十二月三十一日が金曜、一月一日が土曜、二日が日曜だ。俺も青ハルヒもいない状態で、古泉一人で仕込みから調理まではいくらなんでも無茶だ。その週はおススメ料理が出ることは絶対にない」
『問題ない』
「それから、昨日、青ハルヒ、青古泉で池袋店のシートを外しに行ってもらっているはずだ。来週十一月九日からOPENになる。青古泉は北口駅前店の様子を見つつ店舗が立てられそうな土地を、首都圏を中心に探してまわり、余裕があれば各県最低一店舗は確保しに向かって欲しい。青チームの森さん、裕さん、青OGは池袋店の方にまわってもらうことになるかと思いますのでよろしくお願いします」
『分かりました』
「あとは、古泉には今日の撮影で打ち上げをいつにするか聞いてもらう。青俺、もしOKが出たら、指定された時間にその場所までバスで向かってくれるか?別日に本社前に集合になる場合はいらないだろうが……おそらく撮影終了後すぐになるだろう」
「分かった」
「では、分かり次第連絡をとることにします。よろしくお願いします」
「有希、すまんが、これで頼めるか?」
「……うん、そういうことなら」
「そういうことってどういうことよ!?」
「まぁ、人の文句ばっかり言っていられないってことだ。今朝の新聞のようにな」
『???』

 

 青俺の発言が気になるメンバーも多かったがとりあえずは解散。まぁ、おそらくは青有希に対するネックレスやイヤリングについてなのだろう。デザインはようやく完成したが、何かしらの理由があって渡すのはちょっと待って欲しい。どんな理由かは俺にもわからんがな。岡島さんと財前さんが片付けをしている横で昼食の準備とディナーの仕込み。生放送やリハの様子はスカウターで見ていればいいだろう。
『すいません、ちょっとよろしいですか?』
『ああ、結局どうなった?』
『来週月曜の……おそらく五時頃からということになりそうなんですが、お任せしてもよろしいでしょうか?』
『ああ、構わない。それにしても、青古泉のついでという形で青俺に一本とられてしまったが、大丈夫か?』
『ええ、あなたにバレてしまってから僕も何かしらのネックレスやイヤリングをと考えていたんですが、僕にしてはいくらなんでも遅すぎるという理由で判明してしまうとは思いもよりませんでした。結婚相手を呼ぶと言われたときはさすがに困りましたが、青僕に対してお灸を据える意味も込めてとっさの対応を閃いたときは正直ホッとしましたよ。それに、今朝のあのやりとりで彼ももうデザインは決まっているようですしね』
『そのようだな。詳細は俺にも分からんが、何かしらの理由があってまだ青有希には渡せないってところだろう。その理由も含めて青有希に情報を託したら承諾を得た。俺にはそんな風に見えたよ。有希たちは区別する必要がないからな。それに、自分のもそうだが、相手のものもどうするか考えていたんじゃないのか?古泉なら何の不自然もなく渡せるだろう?自分のものを考えていたら思いついたってな』
『僕もそのつもりだったんですが、あなたが羨ましいくらいですよ。驚くほどアイディアが湧き出てくる上に、どれも素晴らしいデザインばかりなんですから。情報爆発をイメージした球体なんて、あなたにしか考えられませんよ』
『どれもその場の思いつきだ。条件が無さ過ぎてW佐々木は最後の最後まで迷ったぞ』
『僕も昨日の会話のように咄嗟に思いつくといいんですが……こればっかりはまだまだ時間がかかりそうです。ですが、僕の分を考えずに済むようになったので、その点だけはいい方向に進んだと捉えておくことにします』
『もし何かまた変更があれば教えてくれ。青俺にどこにバスを止めればいいかについても食事時辺りに』
『そうさせてください。すみませんが、よろしくお願いします』

 

 古泉本体からのテレパシーもそこで切れ、どうやら撮影に戻ったらしいな。昼食の仕込みも終え、明後日のディナーに向けた準備を始めてしばらくしたところでビラ配りチームが戻ってきた。
「キョン、先に昼食食べさせてくれない?」
「それは、別に構わんが、急にどうしたんだ?」
「食べ終わってからでないとヘアメイクできないじゃない!」
それはごもっとも。って、まさか、俺に食べる時間すら与えてもらえないんじゃなかろうな?
「ディナーの仕込みなんていつだってできるんだから、あんたも一緒に食べるわよ!自分で作っておいてお腹を空かせたまま行くつもり?」
夫のことまでしっかりと考えてくれる妻がいて嬉しいよ、まったく。
「分かった。すぐに片付ける」
しかし、全速力で行ってくるだけだし、そこまで急ぐ必要もないだろうに。その俺たちに文句を言ってきたのが、無論、ハルヒ。楽団員に移動型閉鎖空間の説明をしてようやくエレベーターから降りてきた。
「あ――――――!!あんた、何、勝手に食べ始めてるのよ!?」
「食べ終えてヘアメイクをしたら、すぐにでも出発したいそうだ」
「ずるい。わたしもあなたとドライブに行きたい」
「じゃあ、土曜の午後でもいいか?金曜日はディナーの仕込みがあるんでな」
「分かった」
「大ニュースだ!!」
久しぶりにそのセリフを聞いたと思ったら声の主は圭一さんではなく異世界移動で戻ってきた青圭一さん。
「我々の世界での野球の日程が決まった!私もコンサートやこちらでの野球と被らなくて安心したよ。十四日(日)の夜七時から東京ドームだそうだ」
「くっくっ、僕たちが東京ドームに行くのも、結構久しぶりな感じがするね。向こうでも早く天空スタジアムでやりたくなったよ」
「黄佐々木がそんな発言をするとは思わなかったな。あの布陣での攻略法でも見つかったのか?」
「冗談を言わないでくれたまえ。僕は見ている方に決まっているじゃないか」
「『やりたくなった』は試合に出たいという意思表示だろうが」
「どちらでもいいではありませんか。僕も異世界支部と天空スタジアムのお披露目を四月にしたことを後悔しているくらいなんですから。それにしても、よく土曜日でなくて済みましたね」
「おそらくだが、海外組からすれば土曜の夜にやるようなもんだ。試合が終わって、すぐに戻っても向こうはまだ日曜日の夜だろうからな。逆にこっちの試合が海外組まで呼ぶとなるとWブッキングしやすくなってしまう。そのときにどうするか考えておかないとな。そういえば、異世界の方は140マイルの投球は見せていなかったな。しかし……見せていいものなのか?」
「やめておいた方がいいでしょう。やるのであれば、彼にも180km/h投球ができると見せてから超サ○ヤ人になった状態で投げた方がいいかと。異世界では彼がクレイジーゴッドになるはずですよ」
『ブッ!!』
「もう!吹き出しそうになったじゃない!ヘアメイク前で良かったわよ。黄古泉君もいきなりその名前出さないでよ!まだ慣れてないんだから!」
「それで古泉、おまえ同期しているか?集合場所と人数はどうなった?」
「青僕や朝比奈さんのドラマと同様、ラストシーンを撮り終えて、撮影終了になるようです。細かな場所は後ほど彼に渡しますが、人数は42名で五時から本社の五階でということになりました」
「んー…よし、決めた!」
「キョン君、いきなりどうしたんですか?」
「すまん、OG達に確認したい。十二月からのディナーの曜日が変更になる件、他の選手たちに伝えたりしているか?」
「まだですけど、キョン先輩どうかしたんですか?」
「アホの谷口と同レベルじゃ、いきなり曜日が変わって気付かない報道陣も多いだろう。十二月一日の日本代表のディナーは天空スタジアムでやる!」

 
 

…To be continued