500年後からの来訪者After Future6-10(163-39)

Last-modified: 2016-11-16 (水) 08:49:43

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future6-10163-39氏

作品

有希にUPしてもらった動画へのアクセス数がたった一日で一万件を突破し、天狗になっていた報道陣もようやく器相応の輩に成り下がってきた。そしてついに二度目のドリームマッチが始まり、開始早々イチローの盗塁をセカンドで刺すという偉業を成し遂げることができた。三回表にして終盤に差し掛かってきたが、まだまだ気を緩めるわけにはいかん。二打席目でイチローに二塁を奪取され、朝倉も超光速送球の準備を整えていた。

 

 ワンアウト10-2でランナー二塁、ワンストライクノーボール。これで一、二塁間にヒットを許せば、朝倉が前に出ることなく青ハルヒがボールを取りに行ってランナー一、三塁。朝倉にとっては絶好のチャンス到来ってことになる。だが、その狙いを阻止しようと、青ハルヒ自らの采配で二番手を仕留めると豪語。三番手には国民的アイドル、四番手にはゴジラ松井が待ち構えている。なんとしてもここで抑えたいところだが、果たしてどういう流れになるのやら。第二球、二番打者に投じられた球は内角低めの低速球。ここで打ちにいくつもりだったようだが、球速に驚いてバットは振らず仕舞い。右手でキャッチしたが、イチローも盗塁は危ないと判断したようだ。これで後が無くなった。第三球、今度は外角高めからのジャイロボールを速球で放った。青ハルヒが投球フォームに入った時点でイチローも動き始める。ジャイロボールの変化に微調整を加えたバットが球に当たり、悔しくもボールは一、二塁間を弾む。そうはさせまいと仕事の無くなったハルヒが球を正面で受け止め三塁へと送球するも、既にイチローが三塁ベースを踏んでいた。
「うわ~~~~~~こんなシーンで俺がバッターボックスに立つの!?やべぇ、めっちゃ緊張する!!」
イチローの活躍なんてどうでもいいと思うようなアホ以外はみんな同じ気持ちだから心配するな……って、何、相手チームの応援しているんだか。どんな修練を積んで来たにせよ、楽観視できる存在では無くなった。青ハルヒもどうやらそれは同じらしい。主審にタイムを申告してピッチャーマウンドに九人が集まる。
「何やってんのよあんた!タイムなんて必要ないわよ!」
『とりあえず、ベンチの奴等にも聞こえるようにテレパシーで話せ。この場面で、イチローに点を許してでも一、二塁でダブルプレーに仕留めるか、それともイチローを刺して四番をバッターボックスに立たせるか全員で意見を統一しておきたい』
『いつからそんな弱気になったのよあんた!そんなの決まっているじゃない!!』
『イチローを刺して、ゴジラのホームランを防ぐ!!』
ベンチのメンバーやチアガール達の声まで入っていた。
『決まりだな。なら、ボールを取ったらすぐに俺に投げろよ?』
『問題ない!』

 

 イチローを刺すには間に合いそうにないときにどうするかの相談だったんだが……全員の士気を高めることになったんだからそれでいいか。取られたら取り返すのが俺たちの流儀ってヤツだ。采配は青ハルヒに委ねたまま、緩急とジャイロボールだけでツーストライクワンボールまで追い込むと、第四球、ど真ん中からのシュートが投じられた。バットの芯をずらされたショートゴロだが、もうすぐそこまでイチローが迫ってきていた。青鶴屋さんからの送球を受けてすかさずタッチ。判定は……セーフ!?スローVTRでの映像を見ても、数ミリ単位の差だったらしい。吠えるとまではいかないが、松井選手と抱き合って背中を叩いていた。その光景を見た青鶴屋さんが悔しがっている。自分のポジションでジタバタしながら、青鶴屋さんの頭から湯気が出ている気がする。
『ポジションが逆だったら黄キョン君の球で絶対アウトだったっさ!自分で自分が許せないにょろ!!』
『鶴屋さん落ち着いてください。イチロー選手があそこまでするなんて、わたしは見たことがありません。それくらい全力でわたしたちと闘ってくれていたってことでいいじゃないですか』
『彼は常に全力で勝負を挑んでいますが、僕も朝比奈さんと同意見です。イチロー選手のあんなシーンを見たのは一体いつ以来でしょうか?記憶を辿っても出てきそうにありませんよ』
『全員一致で決めたことだ。この後のホームランを防ぐんだろう?取られた分は取り返すだけだ』
『問題ない。わたしが点を取りにいく』
『なら、さっさと始めて欲しいものね。取り返したくても攻撃できないじゃない』
朝倉の一言で全員の空気がガラリと変わった。センターから見ているのも悪くなかったが、このポジションで全体を見渡すのも悪くない。松井選手の場合、どんなコースに投げてもホームランを叩きだしてしまうが、芯さえ捉えさせなければ悪くてもフェンスにあたって終わる。青ハルヒもそれは重々承知の上。球の緩急やコースより変化球で対抗するつもりのようだ。第一球外角のナックルボールとテレパシーが飛んできた。第一球がナックルなら、ここまで連発してきたジャイロよりも読みにくい。ボールになる可能性はあるが、最初の一手として間違いではないはずだ。だが、それでも初球からバットを振ってきた。
『朝倉、フェンスだ!!』
やや芯から外れたボールだったがそれでも勢いは十分。フェンスにあたって落ちてきたボールを朝倉からハルヒへ超光速送球。国民的アイドルからアウトを取りそのままファーストへ送球してダブルプレーが成立。スコア10-3で三回の裏を迎える。

 

「しかし青ハルヒ、まさかあの場面で初球ナックルボールとは驚いたぞ。もうおまえの采配で勝負を仕掛けてもいいんじゃないか?」
「フフン、少しは見直した?」
「50km/h差のチェンジアップも含めて、『少しは見直した』くらいじゃ済まされないだろう。それと、ジョン。ブルペンで例の球の練習でもしないか?ステルスを張っていれば監視カメラに写らないだろ?」
『それはいいが、試合の方はいいのか?それに、チアガール達の声帯も治しに行ったらどうだ?』
「そういやそうだな。あれだけ白熱した試合内容だったんだ。今治しに行ってくる。試合ならソロホームラン三本でケリがつくだろ?」
「ちょっと待ちなさいよ!あんた、あたしの出番はもう来ないって言うわけ!?」
「それだけ青ハルヒが抑えたゴジラの三点が大きいってことだ。有希はもうランナーとして活躍するような状況じゃなくなった。鶴屋さんさえ出塁以上なら、有希のソロホームランで決まりだ」
青ハルヒは飛び跳ね、ハルヒはもう出番がないことにテンションが下がっていた。あれだけ活躍すれば十分だろうに……チアガール達の声帯を治しに行っている間に鶴屋さんがツーベースヒット止まりで悔しがり、W鶴屋さんの分とばかりに青俺と有希がバックスクリーン直撃弾を放って勝負がついてしまった。ジョンと大した練習もできなかったが大丈夫か?
『あれだけできれば十分だ。それより早くベンチに戻った方がいい。そろそろスタッフが呼びに来るんじゃないか?』
俺が呼ばれるのはインタビューの後。そこまで急ぐこともないだろう。前回と同様イチロー選手からのスタート。

 

「イチロー選手お疲れ様でした。松井選手と抱き合う場面も見られましたが、この一戦いかがでしたか?」
「一点取っただけであそこまで嬉しいと感じたのは僕も久しぶりでしたね。それだけギリギリのやりとりをしていましたし、いつ刺されてもおかしくなかったと思います。ボールを素手で受け止めてまで僕の盗塁を阻止しようとしてきたことには、僕も驚いています。また、闘う機会があれば参加させてください。彼女たちとは今後も激闘を繰り広げることになりそうです」
「イチロー選手、ありがとうございました」
「松井選手、今回は見事なホームランを見せていただきましたが、試合を終えてみていかがでしたでしょうか?」
「え――折角出塁した二人を戻せなかったのが正直恥ずかしいです。四番を任されたからにはランナーを残すようなことはあってはいけないと思っていたので……次はそうならないような練習をしてきたいと思います」
「松井選手、ありがとうございました」
「ダルビッシュ投手、今回の試合を終えてどうでしたか?」
「前回と変わらずですね。彼女たちのあの攻撃力の理由を理解していたようで、そうではなかったと思っています。次は一つでも多く三振を取りに来ます」
「ダルビッシュ投手、ありがとうございました」
「渡辺投手、今回はマウンドには立たれていませんでしたが、いかがでしたでしょうか?」
「いや、僕なんかがマウンドに立っていいのかと思うほどの大激戦でしたので……イチロー選手の盗塁を刺されたときはもう震撼しましたよ。いくらアンダースローでも素手で受け止めるなんて誰でも嫌がりますよ。それでも尚、イチロー選手をすぐに刺せる位置までボールを正確に投げるんですから、凄いですよね」
「あの球は狙ったものだったということでしょうか?」
「二度も同じシーンを見せられれば、皆さんそう言うと思います。イチロー選手の盗塁を防ぐための手立ての一つだったとしか思えません。今回も色々と勉強させていただきました」
「渡辺投手、ありがとうございました」
「中○さん、二回目のドリームマッチでしたが、いかがでしたか?中○さんも大事な場面で何度もご活躍されていたようですが?」
「もうね、ハラハラドキドキの連続です。僕もあんな場面で打席が自分に回ってくるなんて思ってませんでした。地道に練習していた甲斐がありましたよ。こんなに面白い試合、ずっと続けていたいくらいです。今回も海外からお越しくださった選手の皆様、本当にありがとうございました。先ほどいただいたコメント通り、お三方のご都合のつく日にまた、この試合を設定したいと思いますので、SOS団の皆さんもよろしくお願いします」
「中○さん、ありがとうございました」
「涼宮投手、今回の試合を終えて一言お願いします」
「前回の試合が終わった後は、こんな対戦は二度とできないだろうと思っていたんですが、機会に巡り合えて本当に良かったと思っています。中○さんがまた機会を作ってくださると聞いて、今からその日が待ち遠しくて仕方がありませんし、できれば、あたしたちのホームでも試合ができたらと思っています」
「ホームというと……例の天空スタジアムで試合をということでしょうか?」
「あたし達も完成が待ち遠しいくらいで、四月に入ったらすぐ……と思っているんですが、中○さんたちとの試合を最初のお披露目にしたいと思っています。一般開放はその次の月を予定しています。それまではどんな依頼が来ようと誰にも天空スタジアムは使わせません!」
「涼宮投手、ありがとうございました」

 

 青ハルヒが堂々と宣言した以上、これでフジテレビは試合をセッティングする以外にアプローチする手段がなくなり、他局からの依頼は全て排除できる。ピッチャーを青俺と交代しなかったこともあり、今回呼ばれたのは俺だけ。今度はイチロー選手を相手に180km/h台の投球を一回、もう一段階上があると主張して140マイルの投球を一回、ジョンに金属バットを持たせて、バットがどうなるか検証して一回。いくらメジャーリーガーでも反応は現実世界と似たようなものか。現実世界でも「あんた、MCなんだからもうちょっとマシな言い方ないの?」とか言われていたしな。ギネス記録の話も上がったが、俺たちの世界と同様『パフォーマンスの内の一つだからギネス記録には登録できない』と主張して東京ドームをあとにした。パフォーマンスならこれからいくらでも見せてやるさ。予想はしていたが、本社に戻ると青新川さんの豪華絢爛料理の数々が俺たちを待ち受けていた。
「試合を見ていた我々も未だに興奮が冷めそうにない。君たちも試合の余韻が冷めないうちに始めてくれ」
「それじゃあ、第二回ドリームマッチの勝利と、第三回の対戦を祈願して……乾杯!」
『かんぱ~い!』
そう言えば、子供たちもドーナツとは言わなくなったな。かといってこちらから出すと首を絞めることになりかねん。子供たちから要望があったら応えることにしよう。
「それで、涼宮さん。わたし達の世界の中○君とはどうなったの?来月の予定伝えたんでしょ?」
「え?あ、えっと…あの、その……」
「また連絡先でももらったのか?」
「このバカキョン!あたしが今言おうとしてたのに先に言うんじゃないわよ!!」
「しかし、我々の世界の彼によく貰うことができましたね。あれくらいの認知度では、連絡先を受け取るのは当分先だと思っていましたよ」
「くっくっ、予選の段階から実況を自ら買って出るほどだったんだ。異世界での認知度はまだまだ低いかもしれないけれど、彼だけで考えるなら十分親しい仲だと言えるんじゃないかい?」
「その認知度が高まった要因の一つはおまえで間違いなさそうだな。それに、青ハルヒ。連絡先をもらったんならすぐにでもメールしておいた方がいいんじゃないのか?『あっちの』携帯で」
「キョン、僕がそこまでチームに貢献できたと思って……まぁ、これでしばらくは僕が出場することは無いし、復帰する頃には忘れ去られているはずさ。しかし、キミの言う通り携帯の扱いについては注意する必要がありそうだ。どちらのからの連絡なのか混同しないようにしないとね」
「くっくっ、それはそれで試してみたくなったよ。黄僕が打席についた瞬間、あの布陣ができあがるのかどうか見させてくれたまえ」
「とにかく、俺たちの世界でのハルヒの携帯なら有希の部屋にあるから、すぐにでもメールを送ってきたらどうだ?こっちとそこまで文面は変わらんだろう?」
「あんたね!場所知ってるのなら、あたしの携帯だけこっちに持ってくればいいじゃない!どうしてあたしが有希の部屋まで行かなきゃいけないのよ!?」
「うん、それ、無理。テレパシーは届いても、携帯の電波は異世界まで届かないわよ。こっちでメールを打つにしても、結局向こうに戻ってから送ることになりそうね」
「ぶー…だったらメールだけ打つからこっちに持ってきなさいよ」

 

『キョンパパ、わたしもう眠い』
「よし、それなら風呂に入って寝よう。幸も一緒に入るか?」
「問題ない!」
「黄キョン君、いつもごめんなさい。たまにはわたしが……」
「気にするな。子供たちと一緒に入りでもしないと俺が入っている暇がないんだよ」
「じゃあ……お願い」
「任せとけ」
しかし、みくるはダウンしているからこのまま100階にテレポートするとして、古泉はどうするか……園生さんはサイコメトリーはできるが、テレポートを使えたかどうか忘れてしまった。まぁ、古泉が教えればいいか。自分自身のために。そういう意味じゃ、逆お持ち帰りをされる心配をする必要が無くなった。子供たちが浴室に入った時点で影分身を81階へ舞い戻ると、一体はみくるを連れて100階にテレポート。
「園生さん、古泉はどうしますか?部屋に送ってもいいんですけど、ベッドの配置とかが変わっているともう一度透視しないといけないので……」
「心配いりません。この土日は一樹がずっと将棋に夢中になっていましたので、壁は取り払いましたが、家具の配置は一切変わっておりません。今後は私もテレポートが使えるよう一樹に習っておこうと思っています」
「分かりました。じゃあ、ベッドに寝かせておきますね」
「宜しくお願いします」
古泉の件はこれでOK。みくるは……どうせ全部俺が洗うことになるんだからシャンプーから全身マッサージまでやってもいいんだが、とりあえず本人に聞いてみよう。
「みくる、100階には来たんだが、この後どうする?そのまま寝るか?それともシャンプーとマッサージをしてからの方がいいか?」
「このまま寝かしぇてくらはい。れも、このままじゃ、キョン君に汗くしゃいって言われちゃいそうれす」
「みくるが汗臭かったことなんて今まで一度たりとも無かったぞ?そんなに気になるならボディペーパーで軽く拭いてからにするか?みくる、服はどうするんだ?」
「チアガールの衣装は脱がせて欲しいれす。れも、下着はつけたまま寝かしぇてくらはい」
ボディペーパーで拭くことに関しては触れてなかったがOKってことでよさそうだ。靴と服を脱がせて一通り身体を拭き終えると、いつものようにベッドで横になった。腰に手を当てて抱き寄せると、みくるも抱きついてくるのかと思いきや、俺の右手を掴んで胸の谷間に俺の手をあてた。
「キョン君、ここも拭いて欲しいれしゅ。わたし、ここが一番汗をかきやすいんれす。キョン君も覚えておいてくらはい」
「ああ、分かった」
やれやれ、男の俺には分からん悩みだな。女でもこんな悩みを持つ人間なんてそこまでいるかどうか……再度情報結合したボディペーパーで胸の谷間を拭きとると、ようやくみくるから抱きついてきて眼を瞑った。照明があったとしてもこのまま眠るだろうが、一応ブラインドフィールドで覆っておこう。

 

 81階ではみくるがいつも座っている席にかけて鶴屋さんに話しかけた。気になっていたことがあったからな。
「有希、おまえも一緒に聞いておけ。鶴屋さん、一つ聞きたいんですが、鶴屋さんならボールを持ったキャッチャーをどう避けます?胸を触ろうとしてきた変質者を回避するのとほとんど変わりませんからね。鶴屋式合気道での避け方があるのなら、有希も知っておいた方がいい。青ハルヒの投球のように『いくらレーザービームがあっても変幻自在のあの動きは捉えようがない』と相手に思わせるには、一つでも多くバリエーションを増やしておかないとな」
「そうにょろね~無いことは無いっさが、実際に試してみないと使えるかどうか分からないにょろよ?」
なら、実際に試してみよう。鶴屋さんがそう言うんだから、今まで有希が見せた避け方とまったく別のものであることに間違いない。ミットとボールをテレポートすると、フロアの端から鶴屋さんが走ってくる。目の前でいきなり始まった俺と鶴屋さんのやりとりに青チームのメンバーが気付き、その視線が集まった先を見て黄チームのメンバーが振り返る。ボールを持ったミットを突きだすと、鶴屋さんが右足を斜め前に出してミットを避けると同時に、くるりと反時計回りに一回転して俺の横を通り過ぎていった。「おぉ―――――!!」という歓声と拍手が起こる中、今の鶴屋さんの動きを頭の中で反芻する。斜め前に出した右足は俺と鶴屋さんを結ぶ直線の垂直方向を向き、鶴屋さんの右手が俺の左肘を親指と残りの指四本で挟みこみ、鶴屋さんの手が離れてようやく腕を振ることができると思ったときには既にホームベースを踏んでいる……か。
「合気道なら、くるっとまわったときに手首も一緒に掴んでおいて、相手の体勢を崩して後ろに倒す技にょろが、キャッチャーの腕を掴むわけにもいかないっさ。避けるまではいいにょろが、その後捕まるかもしれないっさ!」
「問題ない。その後はスライディングで十分。わたしも試合前に今の技を見たかった。まだ避け方があれば教えて」
「む~~外側しか通れないとなると……今はこのくらいしか思いつかないっさ。でも、次の試合までに考えておくにょろよ!閃いたら有希っ子にも伝えるっさ!」
「キョン!あたしにも今の技やらせて!」
「今の鶴屋さんの解説にもあったが、肘は掴むなよ?」
「あたしに任せなさい!」

 

 ハルヒと同じくメールを打ち終わったらしき青ハルヒも青俺をキャッチャーにして練習開始。W鶴屋さんからのご指南はあったものの、指折り数える間もなくマスターしてしまった。有希と、まさか自分もと立候補するとは思っていなかった朝倉がたった一回でものの見事に習得した。呑み込みの早い弟子ばっかりでは師匠の顔が立たんぞ……
「しかし、困りましたね。イチローのレーザービームでないと、これを使う機会が訪れません。すぐにでも実践で使ってみたいところですが……来週のこちらの世界での試合で参戦してくるとは到底思えませんし……来月以降ですと彼や涼宮さんが参戦できるかどうか……」
「週末のおススメなら気にすることはない。俺の影分身に調理させて青俺とポジションを入れ替えるだけで済む。さっきの試合だって、守備で球に触ったのはイチローを刺そうとした一回きり。バッティングのときは初球をホームランに持ちこむだけでそのあと意識のバランスを戻せばそれでいい。ジョンが出たっていいんだからな」
「じゃあ、あたし達で紅白戦やりましょ!場所はもちろん天空スタジアム!日時は明日の夜七時からでどう?」
『紅白戦!?』
「そ。有希と涼子、キョンと青キョンが分かれて外野を守れば、どちらのチームもレーザービームが使えるでしょ?」
「面白そうね。他のメンバーはどうするのかしら?」
「くっくっ、そうだね、僕たちだけじゃ人数が足りなさそうだ。ジョンやOG達にも入ってもらうことになるだろうね。朝比奈さんや青チームの古泉君は選手としては参加できないだろう?」
『私たちがバッターボックスに立つんですか!?』
「夜練であれだけバットを振っていれば問題なさそうだな。黄古泉とジョンを分ければいい」
「でも、ピッチャーは涼宮先輩に誰が対抗するんですか!?青キョン先輩のナックルボールじゃ打てる気がしないですよ!」
「外野が既に決まっているのであれば、涼宮さんと対抗するのはジョンで決まりですよ。他のポジションではジョンのポテンシャルが活かせません」
「明日なら、どちらの鶴屋さんも参加できそうですね!」
『今日の失態分を取り返させて欲しいっさ!』

 

 厳正なるチーム決めの結果、紅チーム:ハルヒ、俺、有希、青鶴屋さん、青朝倉、佐々木、ジョン、伊織、美姫の九人。白チーム:青ハルヒ、青俺、青有希、青みくる、鶴屋さん、古泉、朝倉、青佐々木、幸、の九人。まさか子供たちまで入ることになるとは思わなかったが、こちらのOG六人がそれぞれのチームの代打として三人ずつが加わり、青OGは今回は見学。残業で試合を見に来ることすらできないかもしれないからという理由で残り四人が承諾した。別にそんなことを気にする必要はないと思うんだが、『いくら練習していても先輩たちの足手まといにしかなりそうにない』として、結局どちらのOGもスタメン入りを辞退した。
『そんな面白い展開になっているのなら、もっと早く同期して欲しかったな』
「あんた、キョンの頭の中であたし達の話を聞いていたんじゃないの?」
『さっきキョンが説明していたはずだ。子供たちと一緒に本体が風呂に入らないと入っている暇がない。ここにいるキョンはあくまで人形にすぎない。それで、どこまで決まったんだ?』
「キミが紅チームのピッチャーってところまでだよ。打順もそうだけど、他のポジションも決めなきゃいけないね」
『ハルヒママ!わたしも試合に出たい!!』
「あんた達、お風呂に入って寝たんじゃないの!?」
「明日試合なんて言われたら、今晩練習するしかないだろう?ポジションと打順もちゃんと聞いておかないとな」
『あたしに任せなさい!』
今までずっと味方だったんだ。遮音膜を張らなくても誰がどのポジション、打順でくるのか大体想像はつくんだが、Wハルヒが直前まで内緒にすると主張。ついでに各チームのマスコットキャラクター、ウグイス嬢、アナウンサー、実況まで決まり、紅チームのマスコットキャラクターは当然みくる、白チームの方は何と園生さんに決定。ウグイス嬢に森さん、アナウンサー青古泉、実況W圭一さん、青OGと裕さんたちはスタンド席から見学することになった。配置も決まり、料理が無くなったところで解散。ジョンの世界で練習するだろうからと、園生さんと森さんが片付けを引き受けてくれた。双子は影分身一体と一緒に子供部屋に赴き、ジョンの世界に行きたくても興奮して寝られないと言う双子に、の○太より早い眠り方をレクチャーすると、数秒後には揃って寝息を立てていた。

 

 チームのポジションや打順が決まった時点でどちらの鶴屋さんも一旦家に戻り、明日の夕食から加わることになった。青朝倉が内容を確認してOKが出たメールを青鶴屋さんが持ち帰り、異世界で送ってもらうよう手筈を整えた。一時は青俺の両親に任せるという話も出たが、『国民的アイドルの連絡先が入った携帯に愚妹が手を出さないわけがない』と青俺が主張。こちらの愚妹はもはやそんな行動には出ないが、返信も含めて、青ハルヒらしくない返信をするわけにもいかないと意見が一致した。まぁ、そんなことを言ったら鶴屋さん達だって似たようなものになりそうなもんだが……明日みくるにでも聞いてみるとするか。それに、鶴屋さん達の区別の仕方も考えないとな。それぞれ試合で疲れた身体をシャンプーとマッサージで癒していると、双子と同じく興奮して眠れないと幸が青俺たちにテレパシーを送ってきた。影分身に青有希のシャンプーから全身マッサージまでを任せて青俺本体は風呂に入っている最中。代わりに俺が双子と同じようにジョンの世界への行き方を教えると、一分も経たないうちにジョンの世界に姿を現した幸の姿がスカ○ターに映っていた。毎日抱き合っている有希と青ハルヒは今日も同じように抱いて欲しいと願い出たので、二人だけ個室へ連れて行き100階の照明が切られた。69階も変態セッターを残して他のメンバーは眠っていた。結局、100階ではみくるを除いてそのまま全裸で眠り、69階ではいつもの超能力の修行を終えてから制服のコスプレをして眠りに就いた。すべて青古泉が用意した制服だということをOG達はすっかり忘れているらしい。ハルヒ達でコスプレショーをやって、本当に似合うのかどうか青俺と審査してみたくなった。先ほどの打ち上げでは、まぁ、俺が紅白戦を閃かせるような話を鶴屋さんに切り出したからだが、誰が新聞の一面を飾ることになるかという話は出なかったものの、おそらく俺かイチローのどちらかだろうな。こっちの世界ならおれのパフォーマンスと言えば大抵の人間はその一言で納得するが、異世界ではあれが最初のパフォーマンスのようなもの。解明もそうだが、あの投球をも打ち返せるほどのバットの研究をし出すこともあり得る。それも踏まえてニュースを確認してみることにした。

 

 現実世界でのニュースは例の動画について取り上げられてなければ、他に確認するものも特には無い。当然、どの局、新聞社もそんな動画を取り上げるはずもなく、淡々とニュースが進められていた。しかし、着々と報道陣に対する日本全国民の眼が以前の政治家たちのようになっていることに変わりはない。今週末はどんなやり口で来るのやら……って、アホの谷口と同じレベルなんだからやることに変化があるわけないか。ちなみに、動画のアクセス数の方はWミリオンを突破した。コメント欄だけでは足りず、この動画についてのスレッドが立っていてもおかしくも何ともない。しばらくしたらアイツは解雇処分になっているかもしれんな。異世界の方は、やはりどのシーンを一面に掲載するかで各新聞社が割れた。だが、すべての新聞社がイチローの写っているシーンを掲載していることは間違いない。『もぎ取った一点に感激!イチローが松井と抱き合う!!』、『激震!イチローの盗塁刺される!!』とここまでは試合に関する内容で間違いないのだが、案の定出てきたか。異世界では俺はこの呼び名で通ることになりそうだ。『イチローVSシロー!驚異の220km/h台投球!!』、『戦慄の一投!金属バット壊れる!!』など新聞の記事を受けて元プロ野球選手や、金属バットを作るメーカーなど専門家に話を聞いているのはいつものことだが、『こんな投球を受ける方も凄い』という面で意見が一致していた。現実世界と同様青俺に受けてもらったのだが、青俺の後ろに透明な閉鎖空間の壁を用意してましたなんて説明して納得するのかどうか。ジョンの世界ではまだ練習が続いていたが、みくるや古泉の姿は無かった。そろそろみくるを起こしてシャンプーから全身マッサージまでを堪能してもらうことにしよう。眠気と疲れを取ると、しばしの間をおいてみくるが起きてきた。
「えっ!?あっ、キョン君、おはようございます。またわたしをここに連れてきてくれたんですか?わたし、変なこと言いませんでしたか?」
「おはよう、みくる。一回で二つも質問するな。まぁ、答え方としては多分コレが適切だろうが、チアガールの衣装を脱がせただけで、シャンプーもまだしていないんだ。そのために他のメンバーより早く起こした。とりあえず、これがみくるの質問の答えだ」

 

 みくるの額に触れてここに連れてきてからの様子をすべて受け渡すと、顔を紅潮させていたんだが、こういうときは少しくらい強引でも目的の場所へ連れていくに限る。お姫様抱っこでシャンプー台へ寝かせて髪を洗い始めた。
「キョン君、わたし、どうしたらお酒に強くなれるんですか?昨日もキョン君にあんな大胆なことしていたなんて……キョン君、昨日のことは忘れてください!」
「忘れられる方法がないわけでもないが、最後のアレについては青みくるにも関わる話だし、ハルヒだってそういう悩みを抱えていてもおかしくないくらいにまで胸が成長した。母乳で胸が張ったときは特にそうだろう。一番手っ取り早いのは休肝日を設ける必要はあるが、毎日酒を飲むこと。未来古泉がワインを片手にボードゲームにいそしんでいるのが典型的な例と言えるが、みくるにも以前話した通り、アイツはハルヒに対する恨みを忘れられずに毎日浴びるように飲んでいた結果だ。俺はその途中の段階の古泉も見ている。アイツと同じようにとは言わないが、少量ずつでも毎日飲んでみたらどうだ?休刊日はバレーのディナーがある日にすればいい。来月からは週末も忙しくなるが、ここに戻ってきたら二人で酒を飲めばいい。酒の肴になるようなものくらいならすぐに作れるからな。そのときはみくるの部屋で……っていうのはどうだ?二人っきりの時間として悪くないだろう?眠気ならいつでも取ってやる。酔っ払って自分では動けなくなっても俺がちゃんとここまで連れてきてやる。こうやってシャンプーから全身マッサージまでやっている間に少しは酔いも覚めるはずだ。みくるの介抱なら喜んで引き受けてやるよ」
以前にも何度かこんな話になった記憶があるが、結局みくるも古泉もいつの間にやら飲まなくなっていたからな。
「キョン君……嬉しいです!わたし、今日から少しずつお酒を飲みます!!」
「今日は……少量なら多分大丈夫だろうが、昨日、みくると古泉がダウンしている間に一つイベントができてな」
「イベントって今日の夜、何かやるんですか?」
「きっかけを作ったのは俺なんだが、鶴屋式合気道技でボールを持ったキャッチャーのミットを避ける方法がないか聞いていたんだ。そしたら、実際にやってみることになってハルヒ達も何度か練習していたんだが、そんなシーンなんて、相手がイチローのときしかありえないだろ?すぐにでも試してみたくなったんだが、現実世界でも異世界でも一体いつまで待ってないといけないのか分からんからな。有希と朝倉、俺と青俺が分かれて今夜七時から俺たちだけで紅白戦をやることになった。アナウンサー青古泉、ウグイス嬢が森さん、実況がW圭一さんだ」

 

 みるみるうちにみくるの表情が硬くなっていく。まぁ、何を考えているかはっきりしているけどな。
「そう心配するな。みくるは紅チームのマスコットキャラクターであって、試合に出場することはない。ちなみに白チームのマスコットキャラクターは園生さんだ。子供たちも拡大して野球の試合に参戦する。早くジョンの世界で練習したいのに興奮して寝られないなんて話になっていた。幸も眠れなくて青俺や青有希にテレパシーを送っていたくらいだ。……って、アナウンサーや実況まで決まっているのに塁審を決めるのをすっかり忘れていた。あとでそれの打ち合わせもしないとな」
吃驚して髪にシャンプーが付いたまま起き上がるなんてことは無かったが、詳細を説明してようやく安心したらしい。朝倉は嫌がりそうだが、塁審はいなくとも、有希やジョンがカメラで撮影していればいい話なんだが、メンバーがメンバーだけにストライク、ボールの判定だけは主審がいないと駄目だな。カメラ撮影なら俺でも可能か。
「よかったぁ~。じゃあ、わたしもキョン君たちの応援頑張ります!!」
「今後、試合をした日は胸の谷間を念入りに洗うことになりそうだな。みくる、今日の下着はどうするんだ?」
再度、顔を紅潮させたみくるの髪を撫でイメージを受け取った。まったく、この上ない程みくるが可愛く映って見える。他の時間平面上では間違いなくありえな……いや、ありえるかもしれん。佐々木と結婚した俺がいるくらいなんだ。SOS団は脱退してなくとも、今の俺とみくると似た関係が続いている時間平面があるかもしれん。青みくるのキーペンダントのように結婚指輪はネックレスで隠してしまえば、胸の谷間に挟まった指輪を見られることはない。だが、古泉や園生さんのように『みくる』と口走ってしまいそうで怖い。
『面白そうだ。可能性としては十分あり得る。俺が探しておこう』
未来古泉の時間平面はみくる達が緊急信号を出していたからだろうが、過去ハルヒ達の時間平面のように信号も何もない中から、そんな時間平面だけ見つけられるのか?
『以前、朝比奈みくるも話していただろう。パラパラ漫画のように時間平面を見ていくだけだ。連続性のない時間平面を抽出して、その時間平面の何が違うのか確認する簡単な作業だ。キョンが過去ハルヒと呼ぶ例の時間平面もそれで見つけた。そのときに確認した不連続な時間平面に印でも付けておけばよかったな』
まぁ、探してもらえるのはありがたいが、ジョンが話しかけてきたってことは、そろそろ周りも起きてくる頃か。ニュースを見たときのハルヒ達の反応はどうだった?
『キョンが予想していた通りだよ』

 

 やれやれ……予め、あの投球をやると宣告しておいたというのに結局そうなるのかよ。Wハルヒも有希も眼を覚まして早々、不機嫌そうにしていた。一面に掲載されたのはハルヒだけだったからな。だが、生中継であの試合を見ていた全員がWハルヒや有希、朝倉の活躍を見ている。楽団の練習でビラ配りには参加できそうにないが、青有希や青朝倉にどんな反応をされたか話してもらうことにしよう。
「いやぁ、昨日はすみませんでした。紅白戦のことも含めてすべて園生から聞きましたよ。この土日は将棋に集中していたのがあんな場面で役に立つとは思いませんでした。フロアの配置を変更しなくて良かったと言いたいところですが、どちらにせよお恥ずかしいところをお見せしてしまったのは変わりありません。園生のテレポートの修行と同様、僕も酒に強くなる必要がありそうです。これまで何度も朝比奈さんと一緒にトレーニングをしていたはずなのですが、気がついた頃にはそのことをすっかり忘れてしまって。ところで………園生がチアガールの衣装の着るというのは本当なんですか?」
顔が近い!って、古泉とこのやりとりをするのも数年ぶりだな。席に着く前に話を振ってきた理由が良く分かったぞ。顔を近づけてきたわけも含めてな。
「白チームのマスコットキャラクターというだけで、みくるの方は間違いなくチアガールの衣装だが、本人がそのつもりなら別に反対することもないだろう?周りから強制されたわけでは決してないし、俺たちが最初に園生さんと会ったときはメイド服を着ていただろうが。みくるも今夜からまた少しずつ酒を飲む。来月からは週末はおススメ料理の調理に追われることになるが、その後酒の肴でも作ってみくるの自室で二人で酒を飲もうという話になった。日本代表のディナーの日を休肝日にするつもりだ。古泉も園生さんと似たようなことをすればいい。酒の肴くらい、おまえにだって簡単に作れるはずだ」
「なるほど、言われてみれば確かにそうでした。チアガールの衣装は本人の希望とみて間違いなさそうですね。酒に関しても良いことを聞きました。存分に真似をさせていただくことにします」

 
 

…To be continued