500年後からの来訪者After Future6-12(163-39)

Last-modified: 2016-11-18 (金) 04:11:52

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future6-12163-39氏

作品

第二回ドリームマッチの翌日、前々から誰もが予想していた俺の偽名の呼ばれ方がとうとう全国的に広まることになってしまった。パフォーマンスという意味で、今度は違う『四郎』と張り合うことになりそうだと古泉の主張もあったものの、パフォーマンスの質もスケールも違いすぎるんだ。向こうの『四郎』の方が引き込まざるを得ないだろうな。佐々木を知るものなら、コイツなら絶対にありえないと思うくらいの大胆発言を全員の前で行い、その内容は自分の名前に関するもの。俺がOKならばという本人が勝手に決めただけで、よくもまぁ全員の前で発表できたもんだと呆れかえり、俺のあだ名に対する気持ちを率直に話した。半分説教のようになってしまったが、当人も納得し、『今日一日傍にいて欲しい』という要望を聞きいれた。昼食時、遅くはなったものの、異世界でのビラ配りでの様子を青ハルヒが自慢気に話していたが、異世界での発展もこれからだ。

 

 古泉が言っていた通り、青古泉もこれで北口駅前店にいる必要はない。引っ越しは後日だったとしても、夕食時にはこちらと異世界をつなぐどこ○もドアを設置する。テレポートも習得していない青圭一さん達は今後も佐々木たちの作った異世界移動装置を使うことになるだろう。これで体育館にはハルヒ、有希、朝倉、青古泉。夕方頃に子供たちが参戦するとしても残り二人はOGが入ることになりそうだ。夕食の準備と皿洗いを俺と佐々木で担当して……終わり次第、どうしたものか悩みどころだな。本音を言えば、佐々木の体調さえ良ければバレーに参戦したいところなんだが……近日中に佐々木が両親のところに行けるだけのメンタルケアということになりそうだ。
「……それで、一体何の用だ?」
午前中の佐々木と同様、どう切り出していいものか分からないと言いたげな母親が俺の前に立っていた。話の内容はおおよその見当がつく。
「……あんた、あの子のフロアは何階になるの?」
「アイツのフロアなんてあるわけないだろう。あったとしてもホテルフロアの最下層。フロアの四分の一にアイツを住まわせたとしても当然家賃を取ることになる。東京のど真ん中で光熱費もすべて会社が払っている状態だからな。青古泉の言っていた通り、このビルより一回り大きなものになるんだ。家賃も月10万は軽く超えるはずだ」
「月10万!?どうしてそんなに払う必要があるのよ!?」
「おっと、受け取り方を間違えるなよ?俺は『月10万は軽く超える』と言ったんだ。誰も10万ピッタリだと言った覚えはない。それにな、交通費が全くかからないのなら、本社に住むことができるという特質性を加味しても、それでも安いくらいだ。まぁ、そんなことをしてまで本社に住むことを考えるくらいなら、近くの高級分譲マンションに住むことをお勧めするよ。アイツはただの社員であって、特別優遇する必要は一切ない。それが嫌ならいつでも辞めてもらって構わない。なんなら、俺から解雇通告してやってもいいんだぞ?どこぞの報道陣のようにな?三月になれば引っ越しの話をする予定だったが丁度いい。今の件をアイツに伝えておけ」
「あの子は……あんたの妹でしょう?」
「俺の娘を殺そうとした奴を、今さら家族として受け入れられるとでも思っているのか?ジョンの超能力が無かったら、アイツは『俺の娘を殺した奴』だ。美姫に何と話したらいいのか教えてもらいたいね。『おまえには双子のお姉ちゃんがいたんだぞ』と俺に話せとでも?」
「もう十分償ったじゃない!」
「償った?一日たりとも刑務所に入ってすらいないクセに笑わせるな。これ以上俺たちに関わられても困るが、アイツは何もしていない。ただ単にここに居座っただけにすぎん。地元に連れ戻されるのが嫌だから、他の会社に行くのが嫌だからという理由だけでな」
「どうすればあの子を許してもらえるの?」
「生涯許すことはない。自分で左手を切断して余生を過ごしていくというなら考えてやらんでもないがな」
「分かったわよ。今のあんたに話しても無駄みたいね」
「勘違いしてもらっちゃ困る。アイツに対する俺の価値観はたとえアイツが死んでも変わることはない」

 

 涙を零して母親がフロアを出ていったが俺には関係ない。誰がどんなアプローチで来ようとな。
「内容はどうあれ、ご母堂を責め過ぎなんじゃないのかい?」
「愚妹に関する内容についてはどんなことがあろうと変えるつもりはない。おまえが将来、この時間平面上の過去や未来に行く理論を構築して過去を変えたとしてもな」
「そうだね、いずれその方法も構築してみたいと思うよ」
いずれ来るであろうと思っていたことが前倒しになったのはありがたいが、分かりきったことを聞いてきやがって……みくるのお茶でも飲まなきゃやってられん。
『だったら、気分転換でもしてみるか?前に話していた時間平面なら見つかったぞ。というより、そのうち一つについてはキョンも足を踏み入れている』
「俺が足を踏み入れたことのある時間平面?とりあえず佐々木もいることだし、内容を説明する。少し待ってくれ」
「急にキミが話し出すから驚いたじゃないか。またジョンが閉鎖空間の大量発生している時間平面でも見つけてきたのかい?」
「いや、俺と佐々木が結婚した時間平面があるのなら、SOS団は脱退せずとも、有希やみくると婚約を交わしている時間平面があったとしてもおかしくないと思っていただけだ。それをジョンが探してくれてたってわけだ。もっとも、佐々木と違って双方とも結婚もできなければ子供も作れないけどな」
「そういえば、過去の僕とキミとの間に子供ができたなんて話は僕も聞いたことがない。僕の存在意義の一つのはずなのにどうしてだろうね?」
「自他共に認める夫婦になったんだ。やろうと思えばいつでも満たせると思っているだけだろう。それで、俺が足を踏み入れた時間平面ってどういうことだ?」
『時期が時期だったから忘れていても仕方がないか。今からおよそ四年前の時間平面だ。キョンがそこに足を踏み入れたのは双子が生まれてすぐの頃。青チームの涼宮ハルヒにどやされて戻ってきたのを覚えてないか?』

 

 記憶を辿ってみるものの、確かにそんな時期に過去に行っていたとしても、当時は色々と事件が起こり過ぎて忘れてしまっていても仕方がない。自分自身をサイコメトリーすれば出てくるかもしれないが、覚えがないならそれはそれで新鮮味があっていいかもしれん。四年前だというのならハルヒの力ももう無くなっているはず。なら、何も気にすることなく生活できているはずだ。
「過去の俺や佐々木の様子もついでに見に行くことにして、それ以外の時間平面はいつ頃のものなんだ?」
『残りの二つについては絶対に成就しない。一つはキョンが大学二年生、朝比奈みくるが大学三年生の時間平面。もう一つはキョンが高校二年生の頃の七夕前だ』
「絶対に成就しないって一体どういうことだい?」
「情報爆発が起こった後に過去の時間平面上に送られたみくるは必ず未来に戻すことになったんだ。その代わり、未来に戻った後みくるに課せられる予定だった仕事はすべて有希が引き受けてくれる」
「相変わらず、キミはいつもヒント程度にしか話をしてくれないから余計混乱するじゃないか。朝比奈さんを必ず戻すのに、朝比奈さんに課せられる予定だった仕事はすべて有希さんが引き受けるって矛盾していないかい?」
「こればっかりは説明が難しいんだが……情報爆発前に強引に未来に戻したみくる達を再度過去へと送り返している。そのほとんどが未来に戻らずにその時間平面上に残ると主張しているんだ。それで、本来みくるが未来に戻ってからやるはずだった仕事をすべて有希が引き受けてくれた。ただし、情報爆発後過去に送ったみくるは本人の意思に関わらず強制的に未来に戻すという条件でな。それでジョンが絶対に成就しないと言ったんだ。俺たちの時間平面上のことや未来古泉の話から察すると、大学三年のみくるにもそろそろ帰還命令が来るはずだ。ハルヒの力が消えた時点でな」
「くっくっ、キミの言っていることがようやく理解できた。この時間平面や例の時間平面上の朝比奈さんの他にも過去に残った例がそんなにあるとは思わなかったよ。確かに、そんな状態じゃ半強制的でも戻さざるを得ないね」
「そんな時間平面に行って死の宣告をするわけにもいくまい。時間も限られているし、おまえも一緒だと長居することにもなりかねん。片付けと夕食の準備が終わったら短時間だが行ってみるか?」
「面白いじゃないか。ぜひ僕も連れてってくれたまえ」

 

 テレパシーで、尚且つ『佐々木』と呼べば俺だとすぐに分かると思っていたのだが、過去の佐々木に怒られてしまった。名前で呼んだらそのときはそのときで怒りそうな気がするが、まぁいいだろう。過去の俺以外に研究員がいるためか、上層部に来て欲しいと注文が入った。寝室を見られてもいいのか?未来の有希やみくるに会いに行くときの座標をイメージして過去へと時間跳躍をした。
「キョン……キミって奴は相変わらず僕を佐々木と呼ぶし、未来の僕が一緒に来るなんて一言も聞いて無かったから驚いたじゃないか。そういうことは予め連絡したまえ」
「じゃあおまえ、名前で呼ばれて文句は言わないって言えるか?すぐに俺だと分かるように敢えて苗字で呼んだんだが……そんなに怒らせてしまったのなら次から名前で呼ぶよ。その代わり、俺だとちゃんと認識しろよ?」
「テレパシーで僕に連絡してくるなんてキミしか考えられないじゃないか。それで、今日はどうしたんだい?」
「残りの四人には内緒で様子を見に来たんだ。特に二代目シャミセンの件がどうなったか心配だったんだが……どうやらそれも解決したようだな」
「サイコメトリー能力だったかい?本に書いてある内容を把握した上にそれを使って応用することもできるんだろう?読み返す必要がないなんて……まったく羨ましい限りだよ」
「それでもおまえは俺がエネルギーを譲渡しようとすれば断る。違うか?」
「そうだね。喉から手が出るほど欲しい能力ではあるけれど、それでは僕たち二人の研究にはならない。キミ達を上層部に呼んだのも僕たちの研究の進捗状況を見られたくなかったからだったんだけれど、サイコメトリーならすぐに気付かれることを失念していたよ。ここにいる僕には話さないでくれないかい?」
表情はいつもの佐々木で間違いないが、内心相当焦っているな。
「心配するな。俺が知りたかったことはさっき話した通りだ。自分の研究の進捗状況を知られたくないのはお互い様だろうし、自動でサイコメトリー能力が発動しない限り読み取る気は更々ない。こっちも進展は早くても座礁してばかりで何度も俺に助け舟を出してくる有り様でな。『キミが傍に居てくれないと自分の研究すらロクに進められないなんてね』とか言い出す始末だ。二人の関係が羨ましいっていうのもあるだろうがな」
「キョン……キミって奴はどれだけ僕を恥ずかしめれば気が済むんだい?まったく、三人で話を進めてないで、彼の件がどういう形で収まったのか僕にも教えてくれたまえ」

 

 それを聞いた過去の俺が頭を掻いていた。表情には出していたが、話していたのは俺と過去の佐々木の二人だけ。過去の俺はまだ一言も発言してはいなかったんだが、その話題が再浮上してようやく口を開いた。
「予想通り、シャミセンの世話を俺に押し付けようとして度々ここに来ていたらしい。未来の俺が張った閉鎖空間に何度か引っ掛かってようやく諦めたそうだ。妹の方にアプローチに行くとばかり思っていたんだが、それも杞憂に終わったらしい。今はあいつらのオフィスで飼っているそうだ。長門のマンションはペット禁止だからな」
そういや、そんな話をずっと前に有希から聞いた覚えがあるな。マンションの裏庭に蔓延っていた奴等の世話をしていた人物も自分の部屋に招き入れることができなかった……か。
「だったら、ここの閉鎖空間を解除してもよさそうだ。このままにしておいてもシャミセンの件が解決しているのなら意味をなさないからな。せいぜい空調完備程度にしか使えん。ところでもう一つの存在意義の方はどうしたんだ?前回こっちに来たときも未だにその話題が出ないから、どうしたのかと二人で疑問に思っていたところだ。ちなみにこっちは現在進行形で進んでいる。子供の名前もみんなの前でコイツが自信満々に発表していたしな」
「何!?コイツが自分の子供の名前を自信満々に発表した!?あのメンバーの前でか!?」
「キョン、キミは驚くポイントを間違えているんじゃないのかい?一夫多妻制で結婚したのは聞いていたけれど、妊娠していると聞いたのは今日が初めてだよ。僕たちも研究が一段落すればと思っていたんだけれど、まさかそっちの方までキミ達に先を越されていたとはね」
「ほれ見ろ。佐々木を知る者なら誰でもこうなるっていうのが証明されたも同然だ。国木田でも似たような反応をするに違いない」
「それに関しては十分わかったから、これ以上僕を辱めないでくれたまえ。今朝のことについては僕自身もようやく恥ずかしいと感じているんだからね」

 

 やれやれ、この時間平面の二代目シャミセンの件がどうなったか話していただけなのにもうこんな時間か。もう一つの時間平面にはまた別の機会に行くことになりそうだ。
「ところで、前にキミ達の時間平面上にお邪魔させてもらったときはそんなネックレスはつけていなかったはずだ。しかも、二人でお揃いのものをつけているなんてね。僕たちも同じものをつけてみたくなったよ。それに、未来の僕以外の妻たちからは何も言われなかったのかい?涼宮さんには特に」
「おまえ、これが何の宝石だか分からずに発言していないか?俺も値段は分からんが、買うとなれば相当な額の代物だぞ?おまえでも知らないってことは、やはり、ハルヒの興味を示すものに関する青古泉の情報量は半端じゃなかったってことになりそうだな」
「くっくっ、面白いじゃないか。ということはダイヤモンドやプラチナ同様、キミが探してきたものなんだろう?今度はどこまで行ってきたのかも含めて教えてくれたまえ」
「ロシアのウラル山脈エメラルド鉱山だ。ダイヤモンドやプラチナとは違って磁場じゃ一欠片も吸着しなくてな。影分身十数体がかりでサイコメトリーしてようやく見つけたものだ。宝石名はアレキサンドライト、この宝石は創造性や捜索力を刺激してくれると言われている。要するに、おまえやコイツの研究にピッタリの宝石ってことだ。ただ、一つだけだと孤独になるなんて噂もあって、最初は異世界の佐々木にも渡そうかと考えたんだが、やっぱり別のものがいいと思って、異世界の佐々木がレッドダイヤモンドになった。しかし、それだけだと佐々木が孤独になってしまうから、俺も同じものをつけたんだよ。そこまで理由を話したら他のメンバーも俺とコイツが同じものをつけていることに納得してくれた。ちなみに、異世界の佐々木が付けているレッドダイヤモンドは10カラットのブリリアンカットダイヤモンドで約20億。そこまでには及ばないだろうが、コイツも似たような額になったとしてもおかしくない」
『20億!?』
「ダイヤモンドってそんなに高かったのか!?」
「ダイヤモンドの中でも赤は超S級のレアカラー。通常なら原石を削ってブリリアンカットの状態にするんだが、情報結合なら飴細工と変わらん。不純物を取り除いたらそのまま変形するだけだ」

 

 口が開いて一向に塞がりそうにない二人の反応を待っていたら夕食に遅れてしまいそうだ。心配していたことも聞くことができたし、いい加減戻らないとな。
「すまん、俺たちはそろそろ夕食に戻らないといかん。気になっていたことも解決しているようだし安心したよ。閉鎖空間の条件を『過去の俺が許可した人間』というものに変えておいた。これならこの時間平面上のハルヒはまず入れないし、ハルヒに命令されてやってきた有希やみくるも、同様に閉鎖空間に阻まれることになるはずだ。メールが届いて、OKできるような内容なら付き合ってやってくれ」
「あ、ああ、それなら助かる」
「驚いたよ。キミの全面サポートだけでなく、そのネックレスまで未来の僕の研究の背中を押してくれているなんてね。気が向いたらまた来てくれたまえ。僕たちからキミに連絡することもあるかもしれないから、そのときは話し相手になってくれないかい?」
「宝石を取りに行くだけなら過去の俺にエネルギーを分け与えても問題ないはずだ。お揃いのネックレスを付けるだけなら研究にも関係ない。自分たちも付けたくなったらいつでも連絡してこい」
「そうだね。こっちのキョンと話し合って決めることにするよ。宝石関して僕たちはあまりにも無知だったようだ。今後、研究が滞ったときにでも色々と調べてみることにする。もう一つの存在意義の方もね」
そこで会話を切って二人と別れを告げて俺たちの時間平面上へと戻った。ビラ配り組が戻ってきている程度で体育館ではまだ試合中。どうやらハルヒ達にどやされずに済みそうだ。しかし、あの二人とまた連絡を密に取り合うことになると、こっちの佐々木がまた嫉妬することになりそうだな。

 

夕食を食べ始める頃にはWハルヒ、有希、子供たち、W鶴屋さんやOGは既に野球のユニフォーム姿。バレーで汗をかいた分もあるだろうが、この後の試合が楽しみで仕方がないという顔をしている。W鶴屋さんも交代でバレーの試合に参加させればよかったな。ちなみにOGたちのユニフォームは俺が情報結合して六人にドレスチェンジさせたもの。W朝倉以外の女性メンバーは自分に合ったサイズの服を俺が情報結合しても文句は言うまい。そして、みくると古泉にはドリンクメニューが手渡され、サワーやカクテルは基より焼酎、日本酒、ワインも記載されていた。特に焼酎や日本酒は二人が飲みやすいものを中心にセレクトしてみたが、それに手を出すのはいつ頃になることやら。酒のメニューを横から見ていたW圭一さんやエージェント達が羨ましそうにしていた。
「いやぁ、久しぶりに気持ちのいい試合ができましたよ。黄有希さんもセッターを交代してくださいましたし、黄僕ほどではありませんが、今月は楽しい月になりそうです」
「明日はわたしも練習試合に出たいです!できれば、鶴屋さんも一緒に」
「みくる、それは本当っさ!?黄キョン君、明日は昼食からお願いしてもいいにょろ!?」
「ええ、構いませんよ。こっちの鶴屋さんはどうします?」
「む~~青あたしが試合に出ている日は難しそうっさ。有希っ子から聞いたにょろが、野球で鍛えた防御力のせいでセット数も少ないようっさ。一日ずつ交代で出ることになりそうにょろよ」
「だったら、俺たちの世界でのビラ配りを鶴屋さんにも手伝ってもらうのはどうだ?」
「あたしがビラ配りをするっさ?」
「キョン、鶴屋さんにも今朝の新聞の一面記事を見せた方がいい。多分、鶴屋さんのお宅には一社しか届いてない」
「それなら、ニュースで見たにょろ!『イチローVSシロー』の見出しには笑いが堪えきれなかったにょろよ!」
「イチローVSシロー!?本当にそんな見出しになっていたにょろ!?その新聞記事を見せて欲しいっさ!」
やれやれ……結局、情報結合することになるのか。俺が情報結合をしようとした矢先、青俺が今朝の一面記事を鶴屋さんの前において見せていた。各新聞社の見出しを見た鶴屋さんの反応は……当然、報復絶倒だ。
「ブッ!……あっはははははははは…本当に『イチローVSシロー』って書いてあるっさ!くくくく……あはははははははははは…う~~苦じい……」
「昨日の試合内容とこの記事のせいでハルヒや朝比奈さんは元より、黄有希や黄朝倉と同じ催眠をかけた有希や朝倉までサインを求められて、一番多かったのが鈴木四郎の催眠をかけた黄俺。昼食の時間になっても戻りたくても戻って来られなかったくらいです。新聞には載っていませんが、鶴屋さんもビラ配りに出ればサインを求められるんじゃないかと思いまして」

 

 こっちの鶴屋さんは笑いが止まる度に新聞記事を見て再度笑い出し、青鶴屋さんの方は腕を組んで唸っていた。
「昨日の試合は正直反省しなくちゃいけないところばっかりだったっさ!あたしがサインを求められるなんてありえないにょろよ」
「ですが、第一打席は第二球目を強引にセンター前に落とそうとして彼のファインプレーに防がれただけですし、第二打席もソロホームランを狙って粘っていましたからね。素人目にはそう見えなくとも野球を知る者なら鶴屋さんの凄さを目の当たりにしているはずですよ?」
「彼女には申し訳ないんだけれど、キミの言う『野球を知る者』がサインを受け取ったとしても、その次につながらないと意味がないんじゃないのかい?」
「冊子の売れ行きが向上するだけでも十分ではありませんか。各書店にはそれだけ売れる本があると見られるわけですからね。微々たるものかもしれませんが、我々にとって必要な一歩であることに変わりはありませんよ」
「しかし、それでは青鶴屋さんを朝から晩までこちらで拘束してしまうことになってしまいます。加えて、青鶴屋さんのお宅には取材の電話が止まなかったのではありませんか?明日はそちらの方にもお伺いしなければと思っていたくらいです」
「そうしてもらえると助かるにょろ。家の者に取らせていたから良かったにょろが、今日も朝からずっと電話が鳴りっぱなしだったっさ」
「やれやれ、青鶴屋さん宅の電話対応については明日考えるとしても、この調子じゃ議題を挙げている暇もどうやらなさそうだな」
『この調子って?』
「Wハルヒや有希、子供たちを見てみろ!さっきから何も話さずに黙々と夕食を食べてるぞ。新川流料理を前にして『急げ!』とはあまり言いたくないんだが、こいつらに急かされる前に早く食べた方がいい。とりあえず、一つだけ連絡をしておく。明日の朝は古泉と園生さんに選んできたチャペルの情報を受け渡す日だ。それだけは忘れないでくれ」

 

 しかし、記事の細かな内容までは俺も確認していなかったが、どの新聞記事にもイチローが二塁で刺されたことが書かれている。俺が青ハルヒの速球を素手で掴み取ってわざとハルヒの真正面に投げなかったことも、昨日の渡辺投手のコメントと一緒に載せられていた。点の取り合いになることは確実。その上、九時の時点で点数が多かった方の勝ちという特別ルールを設けたせいで、七時きっかりに始めないと気が済まないらしい。W裕さんや青新川さんはいいとしてもOGやW圭一さん達まで慌てて食べていた。今夜の議題や報告はこれっきりかと思っていたが、早々と食べ終わった有希から議題が上がった。しかも、誰もが予想だにしない方向から。
「青チームのSOS団にお願いしたいことがある。次のコンサートからハレ晴レユカイを青チーム五人で踊って欲しい。観客からは半透明に見えるようにして立体映像が映っているように見せる。当日はマイクも用意する。でも、歌わずに口パクで通して。彼女の代わりは彼の影分身で務めて欲しい。身内にも彼女に見える催眠なら不自然さはないはず」
「いきなり難題を振ってくれるわね。でもダンス練習用のフロアは美容院になったんじゃなかったかしら?」
「問題ない。個別に練習するのなら自室で十分。五人のときは天空スタジアムで練習可能」
「立体映像が映ったように見せるのなら、実際に立体映像を映せばいいんじゃないのか?まぁ、黄有希のことだから何かしらの考えがあってのことなんだろうが……とにかく、黄佐々木の代わりというのなら俺が出る。黄俺は報道陣の対処と案内に追われているからな。報道陣が諦めでもしない限りは、黄古泉や俺に仕事を引き渡すつもりはないだろ?」
「あなたの意見も正論。でも、いくら原曲に合わせていても、テンポに若干のズレが生じる。それを修正して欲しい。音源はわたしが用意した」
佐々木の代わりに演奏する青佐々木を除いた青チームSOS団四人と青俺の前にCDが用意された。
「しかし、この曲も最初のコンサートからずっと演奏しているし、いくら立体映像のように見せるとはいえ、観客も飽きてきているんじゃないのかい?」
「ハレ晴レユカイは一月五日のコンサート&ライブのときまで。青チームの朝比奈みくるが歌う例の曲と同じ。それ以降はフレ降レミライに変更する予定。しばらく演奏した後、今回と同様ダンスも入る。そのつもりでいて」

 

 有希の話が一段落したかと思いきや、今度はまったく別件で青古泉が話しだした。
「では、僕も食べ終わりましたので今週末のラインナップを発表させていただきます。このあとの試合もその練習の一貫だと思っていただけると幸いです。一番ライト涼宮さん、二番セカンドハルヒさん、三番ファースト朝比奈さん、四番サード黄僕、五番レフト黄鶴屋さん、六番キャッチャー鶴屋さん、七番センター朝倉さん、八番ショート有希さん、九番ピッチャージョン。十二月、一月は鶴屋さん達が参加できないことを加味して、今回は黄有希さんと黄朝倉さんがスターティングメンバーから外れています。しかし、先発ピッチャーがジョンであることと同様、状況によっては黄有希さん、黄朝倉さんを代打で出すつもりでいます。ですが、これまでお二人に頼ってばかりいた分、今回はお二人抜きで勝ちに行くつもりです。催眠をかけるのはハルヒさん、朝倉さん、僕、鶴屋さんの四人。もし代打で佐々木さんが出る場合は告知のことも含めて催眠をかけずに出します。黄佐々木さんにも催眠をかけた状態でベンチに座っていただきますので、そのつもりでいてください」
有希に引き続き、颯爽と食べ終えた青ハルヒがそのオーダーに反論した。
「二回に入ったらジョンと交代するとはいえ、どうしてあたしがライトなのよ!!」
「ハルヒ……おまえ、同じことを二度も言わせるな」
「どういう意味よ!」
「昨日、ソロホームランを狙った鶴屋さんの打球がどうなったか忘れたのか?鶴屋さんがキャッチャーを務める以上、おまえがやり返すもんだとばかり思っていたぞ。イチローの真似をするんじゃないのか?」
『なるほど!』
『ピッチャーとしては、それはそれで防ぎたくなったな』
セリフと共にユニフォーム姿でジョンが現れた。食事を摂る必要のない奴がいたことをすっかり忘れていた。
「ピッチャーがジョンなら有希さんが采配を指示する必要もどうやらなさそうね」
「ええ、彼なら三振を取ることくらい詰み将棋を解くのと大して変わりませんからね」
「あたしにも采配を考えさせなさいよ!」
「確かに、青ハルヒの初球ナックルボールで松井のホームランを防いだようなもんだったからな」
「わたしも食べ終わった。黄キョン君、両替してきたお金は金庫に入れてあるからそこから持って行って」
「分かった。明日から販売に切り替える。俺からも一つ報告だ。俺と佐々木の子供の名前だが、朝発表があった通り『佐々木貴洋』で決定だ。ただし、生まれてきた赤ん坊に対して『キョン』とだけは絶対に呼ばないでくれ。一番多そうな呼び名と言えば……『キョンJr.』あたりか。幸や双子のように、赤ん坊が最初に喋った一言がキョンだったとしても構わんが、あだ名として定着するのだけは勘弁してくれ」
「そんな先のことを今話したってどうせみんな忘れるわよ!それより、準備ができたのならさっさと行くわよ!」
『問題ない』

 

 やれやれ……俺にとっては重大発表だったんだが、ハルヒの言ったことも正論と言えば正論。佐々木がそれで一安心していたからそれだけでも話した甲斐があったってもんだ。食器類の片付けは後回しにしてメンバー全員で天空スタジアムへ。コンサート用のステージは今日の練習が終わると同時に情報結合を解除しておいたらしい。アナウンサー席に青古泉、ウグイス嬢として森さんが付き、ポジションと打順が発表される。
紅チーム:一番レフト有希、二番ショート佐々木、三番キャッチャー青鶴屋さん、四番ピッチャージョン、五番、サード伊織、六番セカンドハルヒ、七番センター青朝倉、八番ファースト美姫、九番ライト俺。
白チーム:一番ピッチャー青ハルヒ、二番ファースト青みくる、三番セカンド鶴屋さん、四番ライト朝倉、五番キャッチャー古泉、六番センター青有希、七番ショート青佐々木、八番サード幸、九番レフト青俺
どちらも一番手に俊足のメンバーを据え置き、打順が回ってその邪魔をしないような形で九番にW俺が配置されていた。七時きっかりに試合開始を宣言し紅チームからの攻撃。……ん?野球のユニフォームにドレスチェンジしてから青みくるのピアスが変わったか?夕食の時まではネックレスに合ったエンジェルウィングのピアスだったはずが、今はキーピアスをつけている。そういえば、この前のディナーで接客したときもキーピアスだったな。ハートシェイプダイヤモンドのネックレスを見せないときはキーピアスと例のペンダントに変えているのかもしれん。シャンプーをしている頃に確認できるだろう。そんなことを考えている間に有希のセンター前ヒットで出塁。流石の有希も青俺と朝倉が待っている左右は厳しいと判断したらしい。青俺のレーザービームでも有希は止められそうにないけどな。そして、佐々木がついつい主審を務めている俺に視線を寄こした第一打席、目の前には佐々木専用の布陣が広がっていた。
「この年齢になって、僕はいじめでも受けているのかい?再三告げてきたけれど、この布陣を相手にどう攻略すればいいのかキミも考えてくれたまえ」
「監督が言っていただろ?有希を三塁まで運ぶことがおまえの仕事だ。アウトになったとしてもそれは必要な犠牲であって、それに対して味方が文句を言う方がよっぽどいじめだろうが」
「そうだったとしても、あまり気分の良いものとは言えそうにないよ」

 

青ハルヒの第一球も、バントに構えることなくストライクを一つ犠牲に有希が二塁へと盗塁。イチローと同程度かそれ以上の有希に対して古泉も間に合わないと判断したようだ。鶴屋さんもすぐに刺せる位置でグローブを構えていたが、微動だにしない古泉に対して何も文句を言おうとする素振りを見せていない。青ハルヒの第二球、この布陣にしておいてバントを失敗させるジャイロボールを放った。既に有希が走りだしていたが、これも佐々木はバントに構えず。だがストライクゾーンに入っていることに変わりはない。ツーストライクを宣告しようとした瞬間、いつの間にか素手でキャッチしていたボールを古泉がサードの幸目掛けて送球。こういう封じ方もあったのかと俺も今知ったよ。そういや、サードが青俺ならこのプレーも可能だな。どうして提案してくれなかったのかと言いたいところだが、昨日の俺の失敗を受けて白チームの誰かが閃いたに違いない。しかし、それでも有希を止めることは叶わず仕舞い。流石に幸では真正面に投げるしか方法が無かったからかもしれん。いくら古泉でもジョンやW俺程の球速は出せない。さっきはジャイロボールでバントすらさせない作戦に出たが、それも佐々木にインプットされてしまった。次はバントを許してしまうのかと誰もが思った青ハルヒの第三球、ナックルボールが投じられ、これではどこにボールが行くか分かったもんじゃない。既に有希はホームに向かって走り出している。佐々木の選択はバントに構えることなく、ナックルボールを敢えて打たずになんと振り逃げ!有希がホームへ向かっている以上、古泉は有希をなんとしてでも止めざるを得ず、その間に一塁を掠め取るつもりか!?トップスピードでかけてきた有希に古泉がミットを突きだすが、そこは昨日習ったばかりの鶴屋式合気道技が炸裂。わずかにスピードは緩んだが、古泉が後ろに振り回したミットを宣言通りスライディングで避けて見事に一点を勝ち取った。尚且つノーアウトランナー一塁。これは白チームも流石に厳しい。佐々木の生きる道が見つかったも同然だからな。一体誰の案なのか同期して確認してみると、佐々木に妙手を授けたのはなんとジョン。有希を三塁で刺す白チームの戦法を見て閃いたらしい。対佐々木用の布陣で構えていたメンバーが撤退していく。この一戦、開始十数分のプレーだけで俺たちが勝ち取ったものは大きい。ここぞとばかりに青鶴屋さんがライト方向にソロホームランを放ち、ジョンも初球をバックスクリーン目掛けて打ち返していた。

 

 その後、子供たちは打席に立つたびにホームランを狙うも、威力が足りずフライに終わり、青俺が言っていたイチローの真似も朝倉に先を越されてしまった。定刻を迎え、今回は白チームに軍配が上がった。強いて勝因を挙げるとすれば、双子がホームランしか狙わなかったせい。鶴屋式合気道技を試すことができたのも、有希、青ハルヒ、朝倉の三人のみ。ハルヒも三塁までは進出できたものの、そこから打ちにいった青朝倉と美姫のフライであえなく撃沈。せめて俺までまわっていればサポートできたんだが……まぁ、次の機会にということになりそうだ。
「あんた達、そんなにホームランが打ちたいのなら今日から素振りの練習するわよ!全身の筋肉を使わないとホームランなんて打てないんだから!!徹底的に鍛え直してやるから覚悟しなさい!!」
『はいっ!』
今回は素直に返事をした……というより、双子もホームランを打てなくて悔しかったからだろうな。
「伊織ママ、わたしも素振りの練習したい!」
「いい度胸じゃない!いくらあんた達でも容赦しないわよ!?」
『問題ない!』
 しかし、昨日の試合のニュースから紅白戦までの長い一日もようやく終わりを迎え、夕食の食器の片付けに降りたのはW佐々木。元々佐々木が片付け当番だったのか。青佐々木の奴、昼食後は何をしていたんだ?俺と佐々木を二人っきりで話をさせるために空気を読んだのかもしれん。それならそうと今夜の片付けは青佐々木一人でと言いたいところだが、あの二人のことだ。お互いの今日の出来事を報告し合っているに違いない。特に佐々木は喋る一方になりそうだ。今度は二人を連れて過去に行くなんて言われかね……じゃない、確実に青佐々木も行くと名乗りを上げることになる。まったく、やれやれだ。

 

 W鶴屋さんも自宅へと帰り、69階と100階ではいつものようにシャンプー&全身マッサージ。本体は双子と一緒に風呂に入っていた。の○太より早い眠り方については教えてあるし、ホームランを打つためならすぐにでもベッドに入るだろう。全身隈なく拭いたかどうかチェックをして自分の髪や体を洗っていた。しかし、今日は紅白試合をやって正解だったな。ジョンがあんな名案を出してくるとは思わなかったぞ。
『俺もまさか三塁で刺しに来るとは思ってなかった。あれがキョン達なら確実に成功している』
ところで、今日は行く暇がなかったが、ジョンが成就しないと言っていた二つの時間平面はなんとかならんのか?高二の俺の方はまだまだトラブルが絶えなさそうだが、大学二年の俺の方は秒読みに入っているようなもんだろう?今度は俺の方が記憶改ざん前の古泉のようになってしまいかねん。TPDDは宿らなくてもハルヒを焚きつけるくらいは……って、その頃にはハルヒの力は消えているんだったな。他に対策としてできることと言えば……有希に時間凍結を頼んでみくるの居る時代まで生きるくらいしか思いつかん。
『それでは不可能だ。あの時間平面の長門有希からキョンが忠告を受けることになる。「いくら時間凍結したとしても、それはあなたの知る朝比奈みくるではない」と突っ返されるだろう』
時間凍結では時間平面を移動したことにならないからか……って、ちょっと待て!ってことは何か?俺はジョンがやってきた時間平面より三年も前の時間平面上で生きていることになるだろうが!ついでにみくるが未来に戻ったとしても自分が元居た時間平面ではなくなってしまうぞ!?
『なんだ、とっくの昔に気付いているのかと思っていたぞ。だが、三年前の時間平面で生きているのはどの時間平面でもキョンしかいない。朝比奈みくるは時間凍結の理論を理解した上で未来に戻っている。未来人が元居た時間平面上に戻れないなんてことはまずありえない』
三年分余計にデストロイドして未来に戻ってたって言うのか?
『そういうことだ』
なんとも迷惑な代物を作り上げたもんだな……おい。
『どの道、長門有希があの時間平面上の情報操作に入る。朝比奈みくると過ごしてきた記憶もすべて吹き飛ぶことになるだろう。長期間共に過ごしてきた仲のようだから、あの時間平面上のキョンもデジャヴは感じるだろうが、それが何を意味しているのか分からなくなるはずだ。朝比奈みくるの家の家具の情報結合はすべて解除される』
ははは……未来人が過去の時間平面上の情報操作なんてできるわけがないとは思っていたが、それをやっていたのが未来の有希だってことにようやく気付いたよ。有希をTPDDで過去へと送りこむわけにもいかないだろうし、同期した有希が情報操作をしていた……ってことになりそうだな。あの冬の事件以前の有希には大人版のみくるの方がその内容をサイコメトリーで伝えているに違いない。時間凍結で駄目なら、俺が俺自身を未来へ送って未来で生活させるか?
『朝比奈みくるが重罪で処刑されてしまうぞ。それに、キョンがいなくなれば、涼宮ハルヒの力が復活する恐れもある。第三次情報爆発を誘発しかねない』
俺は良くても、ハルヒがデジャヴを感じるようなことがあると不味いってことか。相変わらず、理不尽極まりない力だよ、まったく。未来の有希に頼みこんでもOUTって、なんだ、あるんじゃねぇか。そんなカンタンな方法が!

 
 

…To be continued