500年後からの来訪者After Future6-13(163-39)

Last-modified: 2016-11-20 (日) 05:46:03

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future6-13163-39氏

作品

愚妹のフロアはないのかという母親の一言から会話が始まり、結果ストレスを溜めるだけで終わってしまった俺にジョンからの意外な提案が舞い込んできた。俺と佐々木ではなく、俺とみくるが夫婦関係になった時間平面上を探し出してきてくれたのだが、過去の俺や佐々木の時間平面上のその後も気になっていたこともあり、まずは過去佐々木達の時間平面上へと赴いた。シャミセンの件も無事解決していて正直ホッとした。みくると古泉の酒の修行も今日からスタート。どちらも大して紅白試合に影響することなく闘うことができ、長かった一日もようやく終わりを告げようとしていた。

 

 俺とみくるが親密以上の関係になっている時間平面上の二人を助けるため、すぐさま同期して目的の相手に事情を説明した。決め台詞はこうやって使わないとな。
『キョンが閃いた瞬間に俺にも内容は伝わったが、あまりやり過ぎると今度はキョンが処罰されることになるぞ』
俺を藤原のバカと一緒にするな!過去の時間平面上をかきまわすのならまだしも、より安定させようとしているんだ。いくら情報操作をしてもデジャヴが残るのなら、ハルヒとも口論になりかねない。そもそも、ハルヒ自身が連れてきたSOS団のマスコットキャラクターのことを忘れさせるなんて、それこそ記憶が甦った瞬間に情報爆発が起こってもおかしくない。それに、個人の記憶を操作するだけなら簡単だが、みくるの存在を無かったことにするなんて、いくら有希でもそうやすやすとできるもんじゃない。特に俺が絡んでいるのなら尚更だ。他の時間平面ではそれが起こって無かったとしても、ジョンが言っていた不連続な時間平面ならそれも起こりうる可能性が高くなる。まぁ、俺が手を出すのは例の二つで終わりにする。片方は今後どうなるか分からんしな。有希と親密な関係になった時間平面だってあったはずだ。今度はチェックしてあるんだろう?
『ほとんどの時間平面上の長門有希が、この時間平面上に嫉妬している状態だ。実際に行動に移した例も二つや三つでは済まない。次に暴走したら、異世界から戻って来られないだろう』
時期にもよるとは思うが、情報統合思念体もハルヒの力も消えてなくなるのなら、未来からも干渉する必要がなくなる。あとはその時間平面上の俺の気持ち次第だろう。とはいえ、次は俺の記憶さえも改変されてしまいそうだけどな。ついでに、約四年前の時間平面上に行った記憶は未だに浮かび上がってこないが、何をしに行ったのかは大体の想像がつく。佐々木たちを連れてその時間平面上に行くのもいいが、俺の方が恥ずかしくなってしまいそうだ。俺が同期をして事情を説明した相手は無論有希。0.1秒毎に時間平面が存在していたとすると五年もあれば、およそ一億六千万の時間平面が存在することになる。その中のたった二つの時間平面上のみくるだけ強制送還させずに本人の希望通りにして欲しいと頼んだに過ぎない。「問題ない」とは返ってきたが、そのついでに「今日は本体で抱いて欲しい」との要望があった。そのくらいのことならお安い御用だ。ジョンとの会話を終え、風呂からあがった本体が100階へと足を踏み入れた。青みくるのピアスやペンダントも、どうやら俺の予想通りだったようだ。

 

「さて、今日から超能力修行の第四段階に入る」
『第四段階?』
「キョン先輩、今度は一体何をするんですか?」
「サイコメトリーと情報結合だ。サイコメトリーが可能になれば、電話をかけてきた相手の本当の会社名や名前を知ることができるし、俺の父親も圭一さんもサイコメトリーでキーボードのブラインドタッチをマスターした。それに、周りを見れば分かると思うが、この影分身の術はすべて情報結合した俺の肉体に数%ずつ意識を送ったものだ。これができるようになれば段ボールや冊子、冊子に掲載された商品に至るまで、すべてエネルギーだけで作ることができる。下請け会社は一切なく黒字一辺倒のこの会社の最大の秘密がこれにあたる。青OGもジョンの世界に足を踏み入れるようになってからは、冊子や商品を情報結合している古泉たちを見ているはずだ」
「黄キョン先輩、私たちにもそんなことができるようになるんですか?」
「何事も修錬だよ。俺でさえここまでのことができるようになったんだ。ここにいるメンバーならもっと短い期間でマスターできる。ピアノやギターと同じだよ」
「それで、実際に何をすればいいの?」
「まずは今日のベビードールを選んでそいつをサイコメトリーする。『サイコメトリーする』というのがどういう意味かよく分からない場合は、子供たちが『これなあに?』と聞いている場面を思い出してくれればいい。選んだベビードールに触れて、それがどんなデザイン、色、形状、素材でできているのか教えてくれと頼む。その後、教えてもらった情報を元に、持っているエネルギーを使ってまったく同じものをもう一着作る。最後に選んだベビードールと自分が情報結合したベビードールの両方に触れて、まったく同じかどうかサイコメトリーで確かめる。やることは以上だが、一つ条件を付ける」
『条件?』
「各チームで情報結合が一番遅かった奴には、アイツがデザインした大胆下着をつけてもらう。当然その後の拡大縮小で失敗すれば、それを強引に引き延ばして着るのはこれまで通りだ。そこまで出来たら今日は何を着て寝るか自由に選んでくれて構わない。遮音膜をきちんと張れなければ周りに声が響き渡ることを忘れるなよ?」

 

 『アイツのデザインした大胆下着』と言っただけで誰のことなのかすぐに判断できたらしい。自ら最下位になるような真似をしなければいいんだが……その場合は大胆下着を着るのが三人に増えるだけか。
「じゃあ、ベビードールを自分のベッドの近くまで持って来たところで俺が合図を出す。順位が決まっても、俺が監査員としてまわって駄目だった場合はそいつが大胆下着を着ることになるから気をつけろよ?これで大丈夫だと判断した時点で情報結合したベビードールをドレスチェンジで着るところまでが勝負だ。聞き漏らしはあるか?」
『問題ない』
やれやれ、説明だけでこれだけ時間を費やすとはな。青OGには引っ越しの件も話したかったんだが……明日でいいか。それぞれベビードールを選んで戻ってくると裸のままフロアに敷いたカーペットに座り込んだ。開始の合図とともにそれぞれが眼を閉じてサイコメトリーを開始した。変態セッターと段ボールで情報結合の練習をさせていた青OGがすかさずベビードールにドレスチェンジ。影分身が監査に入ったが文句の言いようがないらしい。各チーム一位の奴に大胆下着を選ばせるつもりだったが、アイツが一位ならどれが自分のデザインした下着なのかすぐに分かる。情報結合が上手くいかないメンバーもいたが、最下位転落を阻止するためにサイコメトリーに時間を割いているのがほとんど。しばらくして各チームの最下位が決定した。
「影分身が監査に入ったが欠陥品はなかった。順位はこれで決まりだ。各チーム一位は下着を選んで来てくれ」
黄チーム一位は夏のオンシーズンで日本代表入りしたばかりの俺の妻。コイツのデザインと一緒で、情報結合の練習はしてなくともセンスが出るようだ。それにしても、練習している青OGを更に上回る速さとは……セッターとしての実力もちゃんと付いてきているんだろうな?おい。

 

「黄キョン先輩、毎日これで罰ゲームを決めるんですか?」
青チームトップ二人が独走状態だったのもあってか、不安気な顔で聞いてきた。他のメンバーも似たような面だな。
「いや、精々今週末まで。拡大縮小の罰もそこで終わりにするつもりだ。あとは毎日これのくり返しだ。来週以降は制服を情報結合したっていいんだからな。情報結合したものは自分のものとして持っていても構わない」
『やった―――――――――――っ!!』
過去ハルヒじゃあるまいし、どうしてこの年になってまで高校生ぐらいの精神年齢のままなんだか……いい大人が「やった―――――!!」なんて言うか?
『決まりました!』
「よし、最下位の奴にドレスチェンジで着せて、周りの奴に見せてやってくれ」
パチンという音がほぼ同時に二つ鳴ると、黄チーム最下位には乳房の下の方が見えるピンクのオープンブラに、秘部にスリットが入ったオープンショーツ。青チーム最下位にはメイド服をデザインしてはいるが、胸がほぼそのまま見えるオープンブラに、エプロンで前を隠したOバックショーツが着せられた。アダルト商品として冊子に掲載してもいいくらいだな。胸がそのまま見えるような状態ではモノクロで撮影するわけにもいかんし……マネキンに着せるしかないか。流石にこれをみくる達に着せるわけにはいかん。ついでに、青古泉やみくる専用の椅子にもデザインを考えさせてみよう。しかし、ハルヒや有希がこれをOKするかどうかが問題だ。有希のOKが出なければ編集長がOKを出す筈がないが、ここと100階にしか置かないのは少々もったいない気がする。それにしても、以前よりも随分反応が変わったな。大胆下着を着せられた方は赤面していても声をあげることはないし、それを見ている周りのOG達もニヤけているだけでからかうような言葉をかけるわけでもない。これはこれで逆に恥ずかしいかもしれん。キューブの拡大縮小も滞りなく終え、ようやくフロアの照明が消えた。

 

 青鶴屋邸に行くことを加味して夜のうちに昼食や夕食の準備を済ませておいたんだが、翌朝になって予想外の方向に話題が発展した。朝のニュースでは各新聞社の一面に古泉&青みくるの写真が掲載され、各社の見出しは『ドラマ平均視聴率33.6%を記録!21世紀版木○拓哉現る!!』、『サイコメトラーItsuki セカンドシーズンに期待!!』等々、主題歌と主演男優だけで最近ではありえない程の視聴率を叩きだしていると報道されていた。こんな掲載のされ方じゃ、主演女優が泣くぞ……何にせよ、電話対応の必要があるのは異世界の方だけでなくなったことだけは確かだ。本社の敷地外には懲りもせずにやってきた報道陣がちらほら。だが、これから増える可能性はあるものの、以前からすれば良くなった方か。こんな記事が出ればこの時間でも敷地外が報道陣で溢れ返っていたはずだ。調子に乗ってやってきたところでまた追い返せばいい。「何台カメラを壊せば気が済むんだ!!」などと上の人間に怒られている姿を見てみたいもんだ。
「まったく、やれやれと言いたくなりましたよ。昨日は紅白試合に夢中で、僕のドラマの放送日だという事をすっかり失念していました。しかし、視聴率が近年稀に見る値になっていたとは僕も今日初めて知りましたよ」
ジョンの世界でもそこにいるメンバーで話をしていただろうが、朝食を摂り始めて最初に口火を切ったのは古泉。
「さっきも話はしていたけれど、嬉しい出来事なんだからいいんじゃないかい?」
「でも、こっちの世界でも電話が鳴りやまないことには変わりないわよ」
「あの内容だと、黄古泉個人の取材よりも朝比奈さんとセットで番組出演なんてことになりそうだな。ついでに黄俺が作ったネックレスまで撮影してしまおうと考えるのが目に見えている」
「昨日もそうだったけど、あんたも随分頭が回るようになったわね。過去のキョンと入れ替わっているんじゃないでしょうね?」
「くっくっ、それはないよ。僕が保証する。昨日キョンと二人で会いに行ってきたばかりだからね」
『会いに行ってきたぁ!?』
「ちょっとあんた!どういうことか説明しなさいよ!」

 

 俺はその場面を見ていないからよく分からんが、佐々木が土下座をしてまで「僕のせいだ」と言っていたんじゃないのか?どうして全員の視線が俺に集まるんだ。まぁ、土下座した本人がバラしたせいもあるのかもしれん。
「なぁに、過去ハルヒからシャミセンの面倒を押し付けられそうだと話していたから、あれ以降どうなったのか様子を見に行ってきただけだ。過去ハルヒ達がどのくらいにまで会社を発展したとか、過去佐々木たちがどれだけ研究が進んだかなんてことには一切触れてないし、触れる暇もなかった。タイミングを間違えると夕食に遅れそうだったんでな。結論から言うと、有希や朝倉のマンションではペットは飼えないし、過去佐々木のラボにはシャミセンに関する要件では入れないように閉鎖空間を張っておいた。結局、過去ハルヒ達のオフィスで飼っているそうだ」
「それは酷いな。過去の黄僕に会いにいくのなら、僕も誘って欲しかった」
「『暇がなかった』と言っただろう。おまえまで入るといつまで経っても区切りがつけられん。とりあえず、青鶴屋さんの家にも向かう必要があると思って、今日の昼食と夕食は夜中のうちに作っておいた。今日の午前中は古泉が異世界のオフィスで電話対応。できるだけ影分身を作ってみてくれ。その分、午後は練習試合に参加して構わない」
『練習試合に参加する!?』
「このバカキョン!そんなことしたら報道陣が古泉君に集中しちゃうじゃない!!」
「本社の一番外側に張ってある閉鎖空間の条件は『俺が許可をしていない者は入れない』つまり、バレーの取材ついでに古泉に取材を試みたり、青みくるのネックレスをなんとか撮影しようと考えたりするような連中はいくらバレーの取材だろうと入って来られない。オンシーズンと同様、練習後に古泉に報道陣が集まるようなことがあったとしても、『バレーに関すること以外応える必要はない』と古泉ならバッサリ切ることが可能だ。存分に闘ってくればいい。その間、俺と青俺で第二人事部につく。もっとも、青俺はヘリの運転にダンスの練習も入ってくるから精々二体が限度だろう。その分の穴埋めは俺がやる。異世界の告知も鈴木四郎役は今日も俺だ。今日から冊子を販売する。人事部の社員には、古泉への取材と古泉のみ、あるいは古泉と青みくるの二人だけの番組取材はすべて断り、ドラマの俳優陣が何人も出演するものだけ受け入れる。それ以外は復興支援の方にまわるよう伝えておいてください。他の俳優陣に聞いてまわったら、周り中忙しくて古泉一人になったなんて連絡が入った場合も断ります。それと、青鶴屋邸の電話回線を増やして対応するつもりだったがやめにする。青古泉の方で対応にあたってくれ。いくつも回線を用意して対応するよりも青鶴屋邸の電話は繋がりにくいと判断させてオフィスにかけさせた方がいい。今回は時間を短縮しながら容赦なく斬り捨てていくよりも、逆にゆっくり対応した方が効果的だ。それと、青古泉が空いた分、異世界の電話が落ち着いたら地元と都心以外に一つ、残りの道府県の中から選んだところに一号店を建てたい。今夜建設して一週間放置、アルバイト希望を待って、店には青古泉についてもらう。異世界の発展に更なる一歩を踏み出すいい機会だ。できれば人口の多いところにしたいと思っている。どこがいいか案を出してくれ」

 

「相変わらず、手抜かり一つない采配に呆れかえりますよ。今朝のニュースは予定外とはいえ、あなたが電話対応に参加してもらえるのであれば、僕も有意義な時間を過ごすことができそうです。あなたの仰った通り、バレー以外の内容の取材は一切答えないことにします」
「確か、こちらの世界では地元と都心の次に選ばれたのは広島と福岡だったはず。ですが、地域性を考えないのであれば、僕は大阪に一票です。新しく開拓する道府県が決まり次第、すぐにでも二号店を探すことにします」
「じゃあ、鶴屋さんに古泉君が向かうことを連絡しておきますね。ビラ配りをどうするかもわたしから聞いておきます。わたしも大阪か神奈川ぐらいしか考えられません」
「もう少し地元や都心と離れたところ……と思ったが、東北も九州も震災があったことを考えるとそこしかないようだな。神奈川と大阪なら、俺も大阪に一票だ」
「どうやら、認めるしかなさそうね」
だから、もうちょっと言い方はなんとかならんのか?コイツは……まぁ、青朝倉にピアスが渡されてからも、朝倉も毎日欠かさずピアスをつけてきているから、今はこれ以上求めないでおこう。
「では、今夜大阪に出向いて店舗の建築と品物の陳列をしてくることにします。涼宮さん、商品の配置を見ていただいてもよろしいですか?」
「ついに新境地を開拓できるのね!面白いじゃない!あたしに任せなさい!」
「青古泉先輩ってこんなに頼もしかったっけ?」
『ブッ!』
「くっくっ、そう感じてもおかしくないだろうね。でも、これが彼の本当の実力だよ。ところでキョン、黄僕はどうするのかは分からないけれど、今夜は僕の両親にキミのことを話して来たいと思ってる。異世界人の説明からしなくちゃいけないから時間もかかりそうなんだ。夕食を早めに食べることは可能かい?」
「ああ、アイランドキッチンのキューブを拡大して温めてくれればいいだけだ。佐々木はどうするつもりだ?」

 

 もはや現状維持の閉鎖空間が付いていることを説明する必要がなくなってしまったようだ。「冷蔵庫に入れておかなくていいのか?」なんて文句も出てくるかと思っていたが、直射日光が当たるわけでもないし、冷蔵庫に入れて保存するよりこっちの方がよっぽどいい。現状維持なら直射日光が当たる場所でも関係ないか。悩む素振りを見せていたのもつかの間、佐々木が明るい表情で返してきた。
「そうだね。青僕と一緒に食事を摂らせてくれたまえ。僕も妊娠していることを知らせる分、時間がかかりそうだからね」
「さて、それなら………二人とも、これが何だったか覚えているか?」
情報結合した白い布を見て、双子の顔もジブリ映画の主人公のようにみるみるうちに表情を変化させた。
『キョンパパ、これ、四次元ポケット!?』
『四次元ポケット――――――――っ!?』
「正解。三ヶ月以上も前のことをよく覚えていたな。今から異世界の本社ビルの会議室とここを繋ぐ。青OGや青圭一さん達は自分たちのフロアをどうするか相談しておいて欲しい。引っ越しのことも考えておいてください。他の青チームメンバーも必要なら89階以下のフロアを自由に改装してくれて構わない」
「黄キョン先輩、それ本当に四次元ポケットなんですか?」
前にみんなの前で見せたときは青OGはいなかった……か?まぁいい、ついでに声を変えてパフォーマンスとして見せることにしよう。幸も気になって仕方がないらしい。四次元ポケットを腹部に張りつけて名ゼリフを放った。
「こんにちは、僕ド○えもんです!」
『おぉ――――――――っ!!』
青OGや幸だけでなく双子やみくるまで一緒になって歓声を上げ拍手をしていた。さっさと終わらせて次の議題に入らんとな。出すものを早くだしてパフォーマンスを終えることにしよう。場所は……青チーム10人が良く使うことになるだろうから、青チームの後ろだな。邪魔にならないスペースの見当をつけて道具を取り出した。
「どこ○もドア~!」
『えぇ――――――――――――――――――っ!?』
『くっくっ、そんな簡単に異世界と繋げられたら、僕たちがこれまで時間を費やして作り上げたものは一体何だったのか説明してくれたまえ。ハルヒさん達の研究でもあるんだ』
「これはね、26世紀の超能力の結晶なんだ。22世紀になる前に科学の力で解明してくれないと困るんだよ?僕みたいなロボットが生まれなくなっちゃうでしょ!?」
『26世紀!?』
「ジョンのいた時間平面のことを考えれば、26世紀で間違いないな」
「くっくっ、確かに500年後ならそうなるだろうね。22世紀になる前に、キミのようなたぬきのロボットを作れるだけの科学力にすればいいんだろう?」
「たぬきじゃない!猫型ロボット!!」
「そんなのどっちでもいいわよ!早くそのドアを開けて見せなさいよ!!」
「はいはい。もう!猫使いが荒いんだから……異世界の本社ビルの会議室へ」

 

 愚痴をこぼしながらも、佐々木も青ハルヒも見事にパフォーマンスのサクラを演じてくれた。ドアの向こう側に広がった光景に青OGや青圭一さん達、子供たちやシャミセンまで奥の様子を伺っている。繋がった先は、異世界の会議室、専用エレベーターのすぐ横。自室から降りてくればすぐにでもこちらの世界のこのフロアまで最短距離で辿りつける位置につながるよう設置した。
「ド○えもん!わたしもどこ○もドア通ってみたい!!」
折角の幸の要望も、夢から現実に引き戻すかのようにアラームが鳴った。
「じゃあ、子供たちは一度ドアを通ってから小学校と保育園に行きましょう~!」
『問題ない!』
「キョラえもん、僕も向こうに行ってみたいんだけどね。構わないかい?」
『ブッ!』
「くくくくく……青鶴屋さんは朝食から呼ぶべきでしたね。キョキョロットの次はキョラえもんですか。あなたもいくつ異名を持てば気が済むんです?」
「あっはははははははは!二つ並べちゃダメよ!鶴ちゃんが起き上がって来られなくなっちゃうわよ!」
「これにクレイジーゴッドまで加わったら、笑い死にでまず間違いないな。ドラマのセカンドシーズンで鶴屋さんも出したらどうだ?『死因:笑い死に』ってな」
「くっくっ、それも悪くないかもしれないね。どう見たって自殺なのに笑いながら死んでいるなんてシナリオも面白いじゃないか。麻薬を扱った事件になりそうだけれど、ストーリーを考えてみるよ。セカンドシーズンで収まりきらないなら、サードシーズンで扱えばいいんだからね」
「うふふ……そうね、その手があったわね。セカンドシーズンで全部収めきろうとしたわたしが馬鹿だったわ!」
「黄涼子、一体何の話よ!?」
「ランジェリーのデザインのことよ。今でさえ二月号、三月号で収まりきるか微妙な程デザインが集まっているのに、例の椅子にセカンドシーズンでは収めきれないほどのデザインを本当に考えてこられたらどうしようか困っていたのよ。来年の夏にまわせばいいことにどうして今まで気がつかなかったのかしら?」
「では、新たにデザインを考えて提示しても良いということですね。僕もこんなに案を出して果たして大丈夫なのか、不安だったんですよ」
「それは構わないけど、アレンジが必要なものばかり提示してこないで欲しいわね。でも、どちらにせよ困ることには違いなさそうね。どのデザインをいつ掲載するのか、有希さんやデザイン課の社員と相談することになりそうだわ」
「問題ない。男性誌を発刊する際にあなたが提示した課題と一緒。掲載するすべての月のテーマを決めればいい。あとはテーマに沿ってランジェリーを仕分けるだけ」
「分かりました。アレンジを加える必要のないよう、完成度をより高めることにします」

 

 W古泉や佐々木たちが話している間に、青有希は双子を連れて保育園へと向かった。一回通っただけで満足するとは到底思えなかったんだが……一回で十分だったらしい。まぁ、まだ向こう側にはシートを張った状態で、テーブルと椅子があるだけの殺風景なフロアだからな。シンクや冷蔵庫はあってもキッチンはない。当然、それ以外の棚や本、初代シャミセンの仏壇もな。『面白そうだね。僕も見に行ってもいいかい?』などと、思考回路まで国木田に似てきたシャミセンも爪とぎをするとこちら側に戻ってきていた。既にドアの向こう側に何人も入りこんでいるが、青OGや圭一さん達には各階をゆっくりと回ってもらうことにしよう。
「みくるに呼ばれて飛んできたにょろ!!どこ○もドアはどこっさ!?」
古泉の言葉を真に受けて、青みくるが本当に青鶴屋さんを呼んできたらしい。まぁ、この後はそのままビラ配りに出かけてもらえばいいか。
「こっちだよ」
「おぉ!!正真正銘どこ○もドアに違いないっさ!それに、黄キョン君、いつからものまねができるようになったにょろ!?」
「これはものまねじゃなくて、超能力で声帯を弄って……の○太くんと一緒で最後まで説明を聞いてくれそうにないや。まったくもう!人に説明させておいて話を最後まで聞かないなんて!」
「今のキミは人じゃないだろう?」
『あっはははははははは………』
「でも……鶴屋さんを出演させるのに、ただ笑って死ぬだけの死体役じゃ何だか可哀想ね。黄キョン君が敵側につくんだったら、古泉君たちの方に味方として出演させるのはどうかしら?」
「案としては悪くないと思うけど、役回りをどうするか困ってしまいそうだね。彼女をどんな役として出演させるつもりなのか決まっているのなら教えてくれたまえ」
「そうね、味方につくとしても役回りに困っちゃうわね。できれば毎回出てもらいたいんだけど……」

 

 まぁ、鶴屋さんをドラマに出演させるのは悪くないが、俺も鶴屋さんをどんな役で出したらいいかなんて何も思い浮かばない。殺風景なフロアに飽きたメンバーが席についてようやく会議が再開できる。まさか、新川さんまでドアの向こう側に行くなんて俺も予想外だったからな。四次元ポケットの情報結合を解除して声帯を元に戻した。
「よし、俺からはこれが最後だ。古泉に選んできたチャペルの情報を渡してくれ。こればかりはこちらから時間指定するわけにもいかないが、早ければ明日の朝にでも発表されるかもしれん。それについては古泉と園生さんに任せる。それでいいか?」
『問題ない』
席を立ったのはWハルヒ、有希、Wみくる、W佐々木、そして青有希の代わりに青俺が立ち上がった。しかし、強敵現ると言うべきだろうな。森さんが席を立った。異世界の花嫁に自分の理想とするチャペルを選ばれちゃ、とてもじゃないが敵いそうにない。
「この状況をどう表現すればいいのか、誰でもいいから僕に教えてくれたまえ。こんなダークホース的な存在がいるなんて考えもしなかったよ」
「情報を受け取った僕も何と表現していいのやら分かりません。園生には今夜チャペルの情報を渡すことになりそうです。僕も夕食時に受け取った方が良かったと、今さらながら後悔しているくらいですよ」
「古泉君、同じ場所を選んだ人はいたんですか?」
「同じ国というのはありますが、見事に九人とも分かれました。ですが、これなら、ハルヒさんから頂いた五ヶ国語の知識だけで済みそうです」
「他に議題が無ければこれで解散だ。すまないが、ハルヒと有希に相談したいことがある。残ってくれるか?」
「会議は長かったけど、わざわざあたし達に内緒してまで話すことないじゃない!」
「この後、二人には一つの提案をする。だが、その提案は、どういう形であれ却下される可能性が高いと俺は思っている。それを全員の前で話をしてぬか喜びさせるわけにもいかん。ほぼ間違いなく今日の仕事に支障をきたすんでな。ここまで説明すれば、大体どんな内容か検討がつく筈だ」
『あ……なるほど』
「え?えっ!?みんな何がなるほどなの?わたしにも教えてよ!」
『うん、それ、無理!』

 

 ハルヒや有希と何の話をするのか気になってフロアに残っているメンバーもいたが、周りに促されて渋々ここから去っていった。今朝の片付け当番は……楽団の練習もないのにどうして佐々木たちがやっているんだ?しかも、向こうも何やら内密に話を進めている。まぁいい、こっちはこっちで話を進めることにしよう。ハルヒと有希の掌に触れてその内容を伝えた。
「駄目。わたし達が着るだけで十分。どんなにいいデザインでも、この会社の品が下がる」
「このバカキョン!何考えてるのよ、あんた!有希の言う通りだわ!冊子に載せられるわけないじゃない!」
「冊子にこんなものを載せられるとは俺も思っていない。通販限定でサイトにのみ載せるじゃ駄目か?」
「問・題・外よ!この会社の品を下げることに変わりはないわ!それに、たとえ通販でもピッキング作業をしているパートの人たちから口コミが広がっちゃうわよ!」
「それについては別に作業場を用意してアルバイトを募集するつもりだ。本社や地元とはかけ離れた場所に建てる。会社名もまったく別のものにしたって構わない」
「どんなに会社名を偽っても、この会社のサイトとリンクが繋がっている以上、噂に尾ヒレがつくのは必然。わたしは容認できない」
「あたしもよ!こんなの絶対に認めないんだから!!」
「分かった。なら止めにする。時間をとらせてしまってすまない」
「あんた、古泉君を試合に出すんでしょ!?さっさと電話対応に向かいなさいよ!」
「ああ、そうさせてもらうよ。一月号は頼んだぞ」
「問題ない」

 

 例のメンバーが妄想を始める前に二人に相談しておいてよかった。やはりこんなもの通販であっても載せるわけにはいかん。案の定外にいる報道陣が増えていたが、古泉も青みくるも今は異世界に出向いていて本社にすらいない。午後にでも一度警察に通報すればいいだろう。第二人事部には青俺の影分身が既に電話対応を始めていたが、残り六つしか電話がないんじゃ、影分身を有効活用出来やしない。情報結合で更に台数を増やすと、W古泉に見える催眠をかけて第二人事部から堂々と姿を現した。俺が第一人事部に出てきたことに対して圭一さんと俺の父親も驚いていたが、事情を説明して早速電話対応を開始した。
「あれだけの報道をされていたにも関わらず、午前中だけで沈静化させるとは驚いたよ。これで古泉も試合に参加することができるだろう。いやはや、恐れ入った。私も彼女たちのように修行に参加させてもらえないかね?」
時刻は既に昼時、W古泉の催眠をかけた本体、及び影分身一体と専用エレベーターに乗り込んだ後、圭一さんの最初の一言がこれ。沈静化したと言っても、着信を告げる光が点滅したままの状態であることに以前変わりはない。いくら超能力の修行とはいえ、裸で修練に励んでいるOG達の姿を見せるわけにもいかんだろう。すでにサイコメトリーはマスターしているし、OGとはまた別の修行内容を圭一さんに手渡して、自室でも取り組むことができるようにした。
「サイコメトリーをマスターしている分、アイツ等とは多少修行内容が異なりますが、あとは修練を積むだけです。アイツ等は一日につき一回ですが、圭一さんならすぐにでも段ボールの情報結合から始められるはずですよ」
「なるほど、これまでの電話対応で知らない間に経験値が溜まっていたというわけか。私も今夜から始めることにしよう。エネルギーが切れる頻度が増えそうだが、そのときはまた君に声をかけるということでいいかね?」
「ええ、圭一さんならエネルギーを有効活用してくれますし、次回からMAXまで手渡すことにします」
というより、今からチャージしても良さそうだ。圭一さんに触れてエネルギーを分け与え、第二人事部に置いてきた影分身に対応を任せて三人で昼食を摂りに向かった。

 

 エレベーターも使わずにテレポートで第二人事部に降りたからその後のことは知らないが、佐々木たちは一体どこに行ったんだ?あの様子だと、今朝の会議のやりとりの中で何か閃いたように見えたんだが……ラボにでも行ったのか?フロアにいたのは練習に出ていたOG達と店舗組、W古泉とデザイン課に降りていたハルヒ達。青新川さんももう魚介類の仕分けをしなくて済むようになったし、すぐにでも大阪二号店をオープンさせたいくらいなんだが、来月になって誰がどういう配置につくか分からんからな。
「こちらの首尾はどうです?」
「今も影分身たちに対応を任せているところだ。第二人事部にあった電話だけでは足りなかったんでな。台数を増やしたのと、W古泉の催眠をかけて第一人事部でも対応していただけだ」
「私もまさか午前中だけで沈静化するとは思わなかった。古泉も気兼ねなく試合に参加してくるといいだろう」
「圭一さんにそこまで言わせるほどとは僕も驚きました。第二人事部の台数を増やした上に、僕たちの催眠をかけてまで社員の前に姿を現すとは……まさに圧巻と言うべきでしょうね」
「もうしばらく修練を積めば、古泉だってこれでは足りないと思うようになるはずだ。午後は古泉も試合に出るし、報道陣の眼に見える範囲で古泉の姿をさらすわけにもいかん。異世界のオフィスには俺が向かう。そっちの様子は?」
「こちらも大分沈静化しましたが、鶴屋邸への電話はまだ収まりそうにありません」
「ならオフィスで容赦なく切るだけだな。話が早くて助かるよ」
しばらく待ってはみたが、佐々木たちもビラ配り組も帰ってくる気配がない。青みくるや青鶴屋さんは練習試合に出るんじゃなかったのか?仕方がない同期して、佐々木たちに連絡を取ってみるか。
「これは……」
『これは?』
「強引にでもヘリに乗せて連れ帰らないと終わる気配がない。鈴木四郎に化けた俺のサインを求めてくる奴の行列が時間が経てば経つほど長くなっている。それに、青ハルヒ、青有希、青みくる、青鶴屋さんの四人が偶然居合わせた元北高のクラスメイト達に見つかった。いくら青朝倉でも収集がつけられそうにない上に、佐倉玲子に対するファンの対応に追われている」
「あら?それはわたしも嬉しいわね。先に食べて今日は青わたしと交代することにしようかしら?」
「そうしてくれると助かる。とりあえず、冊子の販売をしている青有希、それから青OG達と青俺を連れ戻す。みんなも先に食べていてくれ」
『問題ない』

 

 久しぶりに研究に没頭して時間を忘れていたW佐々木にはラボへと昼食を送り、青俺と連絡を取り合って青有希、青OGを連れ戻すように伝えている間に、冊子の販売をしていた青有希と俺の影分身が交代した。食事を終えた朝倉も異世界に赴き、佐倉玲子役を青朝倉と入れ替わって青朝倉が戻ってきた。
「いくら地元とはいえ、あんなに人が集まるなんて思わなかったわよ。みんな有希さんが説明下手なの知ってるはずなのに、あんなに質問責めに遭っているんだから!食べたらすぐ涼宮さんと交代してくるわね!」
「では、僕もそちらに向かうことにします」
「駄目だ。混雑はしていても冊子を販売する層としては適切だ。おまえが行ったら女性陣が遠のくだろうが。逆に混乱することになりかねん。鶴屋さんがあそこで対応してくれている分、おまえは鶴屋さんの家で余計な電話をカットしていればいい」
青OGがここぞとばかりに頷いていた。確かに、監督が行ったところで大して変わりがない上に青古泉じゃあな。
「とりあえず、青古泉君は青鶴ちゃんのところに行くとして、みくるちゃんと青みくるちゃんは交代できないの?」
「みくるには申し訳ないが、それをすると断るタイミングを逃すことになりかねん。それに、青みくるは良くても、青鶴屋さんが帰って来られない。俺がヘリで迎えに行って連れ戻してくる」
影分身一体をフロアに残して異世界の地元上空へとやってきた。みんなの前でどこ○もドアを使って見せる機会にこうも早く巡り合えるとは思わなかったな。佐々木たちがいれば、いつもの笑い声と共に何か一言付け加えてきそうなもんだが状況が状況だ。今本社にいる青チームには影分身から用件を伝えることにするか。
「揃ったところで話す予定だったんだが、残り三人には本体から話をする。この後、こっちの世界でのビラ配りもあるだろうが、青チーム全員に向こうの世界で使っていた携帯電話と充電器を取りに行って来て欲しい」
『携帯電話と充電器!?』
「時間がない中でも子供たちのいる前でと思って、どこ○もドアを今朝設置した最大の理由だ。たこ足配線くらいなら青俺や青古泉でも情報結合できるはず。異世界の自分の携帯電話を簡単に確認できるようにしたい。ただし、青ハルヒを除いて震動すらしない様にしておいてくれ。アイツの携帯には異世界の国民的アイドルから連絡が届くからな」
「でも、さっきの状況を見る限り、涼宮さんの携帯が鳴りっぱなしになりそうだけど……大丈夫かしら?」
「じゃあ聞くが青朝倉、高校や大学で青ハルヒの携帯の番号やメールアドレスを聞いてきたような奴はいたか?こっちのハルヒは結婚指輪のことで他の女子に囲まれていても、どう対応していいのか分からずに怒鳴り散らしていたようなもんだったからな。ハルヒが連絡先の交換をしているシーンなんて俺は見たことも聞いたこともない」
「このバカキョン!あたしが恥ずかしくなるようなこと思い出させるんじゃないわよ!フ、フン。今だったら……ちゃんと対応できるわよ!」
「そう。今だったらちゃんと対応できる。だが当時は違ったはずだ。青ハルヒの連絡先を知っている奴がどのくらいいたか教えてくれないか?青俺や青国木田を除いて、青ハルヒに近寄ってくる男は全員青古泉に睨まれていたはずだからな」
「言われてみれば確かにそうね。涼宮さんの連絡先を聞いている人なんて見たことないわね」
「仮にいたとしても、こっちの世界で生活している間に連絡しても無駄だと判断されているだろう。俺も見たことも聞いたこともない」
「わたしも同じ。でも、本人に確認した方がいい」
「本人にはこの後確認をする。今は青鶴屋さんが持っているはずだからな。それも取って来てもらう。それと、青OGと青圭一さん達には青チームSOS団同様、こっちの世界で使う携帯電話を会社名義で購入する。最新機種がろうが値段がいくらだろうが構わない。どんなものがいいか考えておいて欲しい。できれば、全員同じ会社のものにしてくれると助かる」
『会社のお金で私たちの携帯を買ってもらえるんですか!?』
「そういうことだ。どこ○もドアの近辺ならまだ電波が繋がっても不思議ではないが、特に青OG達は69階に来ると携帯で何かをすることができなくなる。そのためのものだと思ってくれていい。友人との連絡についてはドアの先の携帯で行うことになるだろう。近日中に買いに行ってもらうつもりだから、考えておいてくれ。残り二人への連絡も頼む」
『問題ない!』

 
 

…To be continued