500年後からの来訪者After Future6-14(163-39)

Last-modified: 2016-11-25 (金) 05:22:40

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future6-14163-39氏

作品

OGの超能力修行もいよいよ最終段階に突入。今週中は罰ゲームを設けるが、あとは毎日少しずつ練習していけば来年三月の復興支援の頃には引っ越し要因として活躍してくれるはずだ。圭一さんもOGのように超能力の修行をと願い出て、圭一さん用の修練メニューをエネルギーと一緒に手渡した。異世界で試合を終えた二日目、地元に赴いたビラ配り組の周りに懐かしの顔ぶれが揃うというハプニングに襲われ、急遽朝倉が佐倉玲子として自らサインにまわり、一向に話が止みそうにない青みくる達を俺がヘリで連れ戻すことになった。そして、今朝の会議から何かを閃いたW佐々木が久方ぶりに時間を忘れて研究に没頭。今日は両親に話に行くとか言っていたが、本当に大丈夫か?アイツ等……

 

 ようやく昼食に戻ってきた青チームのメンバーに携帯のことを伝え、あとは本体がヘリで迎えに行っている三人とこれまでの仕事から未だに離れられない青OG二人に説明するのみ。これで青鶴屋さんのときのようなことにはなるまい。青OGも一度家に帰るいい機会だ。サインと冊子の販売に集中している朝倉と影分身二体を残して青ハルヒ達を連れ戻した。
『おかえり~』
「ただいま戻りました。地元でもあんなに人に囲まれたのは今日が初めてです。でも、みなさん元気そうでなによりです。色々応援してもらってわたしも嬉しいです!」
「涼子のところに集まっていた子達が、みんなあたしのところに集まってきたようなもんだったわよ!」
「みくるのところに集まるのならまだ分かるっさが、試合で大した活躍もしてないのにあたしのところにまで来るとは思わなかったにょろよ!」
ダルビッシュ投手の投げた球を自分の狙ったところにピンポイントで落とそうとした上に、ソロホームラン狙ってイチローにあのプレーをさせれば十分目立つだろ。ハルヒ達は試合に向かったし、あとは朝倉とこの二人だな。
「じゃあ、昼食が済んで一息ついたところで、青みくると青鶴屋さんは試合に参加してきてください。俺はオフィスで電話対応してきます」
「もう午前中だけで体力を消耗してしまった気分っさ。足手まといにならないといいにょろが……」
なんだ、そんなことならすぐにでも解決できる。疲れを払拭するついでに携帯の件も伝えてしまおう。特に青ハルヒの携帯は危機が迫りつつあるからな。それに、やるならビラ配り組全員だ。

 

 今まですっかり忘れてましたと全員が言わんばかりにビラ配り組の表情が変わった。覚えていたとしても使う暇も与えてはもらえなかった……か?
「おぉ!黄キョン君、助かったにょろ!見事に疲れが吹っ飛んだっさ!!はるにゃんの携帯の件も了解っさ!」
「そういえば、眠気や疲れなら自分で取れるんだったわね。それよりあんた、あたしの携帯がピンチってどういうことよ!?」
『携帯がピンチ!?』
「おまえの携帯が今どこにあるか考えてみろ。そしてそこに誰が向かっているかもな」
「しまった……黄俺から携帯の話が出た時点で古泉に忠告しておくのをすっかり忘れていた」
「心配いらないにょろ。電話がある場所からあたしの部屋まで結構距離があるっさ。家の人間にも見つからないように隠してあるから、携帯の隠し場所をはるにゃんに伝えればいいだけっさ」
「あたしがすぐに取ってくるわ!鶴ちゃん早く場所を教えて!」
「ハルヒが取りに行かなくても携帯を異世界移動するだけで充分だろ。まさかとは思うが、アイツ、鶴屋さんの部屋にまで入ったりしないだろうな……」
「だからそれを確かめるついでに行ってくるんじゃない!」
「まったく、そんなことまで気にしてないといかんとは……折角、黄チームのOGから『頼りがいがある』なんて今朝言われたばっかりだっていうのに、それを全部無駄にするようなことになりかねん」
「それを今是正している最中だろ?とりあえず、あれだけ囲まれていたのもランチタイムに入ったからだ。それが終われば仕事に戻らざるを得ない。朝倉が戻ってきたら疲れを取ってやってくれ。バレーの練習試合もアイツも入れて丁度六人だからな」
「分かった。食べ終わった人の分の食器はわたしが片付ける。今朝は佐々木さん達に任せちゃったから」

 

 今日の片付け当番は青有希と青みくるだったようだ。それで朝の当番がW佐々木だったらしい。特に今週はどちらの世界もビラ配りに気合が入っているといったところか。それにしても今日は朝から予想外の展開ばかりでみんなのスケジュールが狂う一方だ。W佐々木がこのあとどうするつもりなのかは知らんが、両親に会いに行くというのも引き止めた方がいいかもしれん。オフィスには青圭一さんと愚昧、店舗に立つ必要が無くなった青チーム新加入メンバーが揃っていた。こちらも台数は少ないが、ソファーやテーブルの情報結合を解除してまで電話対応できるほどの影分身は出せない。青古泉からの報告を受けて明日どうするか決めることにしよう。青古泉でなくとも俺の影分身が常駐していれば青俺たちの心配もなくなるはずだ。そういや、青鶴屋さんの言う『結構距離がある』というのが一体どの程度のものなのか確認してみたくなった。家が家だからな。俺たちからすれば『結構』で収まりきるような距離だとは到底思えない。
 夕食時の一歩手前で本体だけ本社に戻ると、意外にもW佐々木が夕食を食べ始めていた。さて、どうするかな。
「なんだ、一応様子を見に来ただけなんだが、研究に没頭したまま『両親に話をする』と言っていたのは延期するのかと思っていたぞ。もう座礁したのか?」
「そうだね、確かにそう言われると反論できないよ。今朝のキミのパフォーマンスを見て閃いたことには違いないんだけどね。でもサイコメトリーやテレパシーを科学で解明することに一歩踏み出すことができた。この時間平面上でもすでに使われていることなのに、どうして気がつかなかったのかと呆れたよ」
「異世界移動装置の入力画面を無くして音声入力に切り替える…か?」
「まったく動く気配が無かったから意識を送ってないものだと思っていたけれど、こっそり僕たちの研究をみていたのかい?サイコメトリーではなさそうだし、そうでもしないとそこまで言い当てることができないだろう?」
「おまえはそこまで情報を漏らしていないつもりでも、ヒントが多すぎるんだよ。今朝の俺のパフォーマンスに、サイコメトリーやテレパシーの概念、この時間平面上でもすでに使われているとくれば、思い浮かぶのは俺がどこ○もドアの前で行き先を告げたあの瞬間しか無いだろう?ついでに座礁した理由は、どんな声帯の持ち主でも使えるようなものにしたくても音声認識では上手くいかない場合がありその対応策に困っているか、入力画面をすべて無くしたいと思っても音声入力した座標が本当に合っているのか確認する術が無いから実験したくてもできない。違うか?」

 

 食事をしている二人の手が止まり、明らかに不自然な間ができた。やれやれ、どうやら図星のようだな。
『確かにヒントは多かったかもしれないけれど、たったそれだけでどうしてキミにはそこまで読み取られてしまうのか説明したまえ!』
「そんなもん、音声入力でふざけた認識をされるなんて内容の番組ならいくらでもTVでやってるし、音声入力に切り替えた段階で画面をすべて取り払おうとすることくらい、これまでの過程を考えれば次にどういうステップを踏むのか容易に想像がつく。全部取り払う前に、行き先の住所なり座標を表示する必要最低限は残してから次の段階に進め。それとな、殺人事件のトリックを考えている奴が、装置のスイッチを押す程度の仕掛けくらい簡単に想像できるだろうが。影分身で音声入力をしたら、意識を全部戻してスイッチを押させるだけで実験台の完成だ」
『あ``……』
佐々木たちの手が再び止まったところでビラ配り組が戻ってきた。午後はみくるが代わりにビラ配りにまわったらしいな。昼の時点でみくるがこのフロアに居たってことは、もう一月号の撮影に入ったのか?
「やれやれ、どうしてキミは僕たちが数時間かけても駄目だった先の答えに、そんなにも簡単に辿り着くことができるんだい?」
「研究者がたった数時間で思考を諦めるな。それに、音声認識の方の解決策は俺にもまだ分からん。実験台については、丁度今、俺が影分身の修行中だったからこそ思い至った案に過ぎないだけだ。それより、二人は研究に没頭していたから知らないだろうが、異世界でビラ配りをしていたメンバーが北高時代のクラスメイト達に囲まれて、昼食を摂りに帰りたくても帰って来られないハプニングが起きた。今朝も古泉のドラマの件で俺たちの予想を覆すことが起きているし、両親を説得する自信があまりないのであれば、今日必ず行かなければならないことでもない。無理はするなとだけ言っておく」

 

 ほどなくして他のメンバーも集まり始め、電話対応にあたっていた影分身も一通り電話対応を終えたところで解除した。夕食を終えた佐々木たちもこの後のことで悩んではいたようだが、どちらとも実家へと帰っていった。昨日に引き続き、みくると古泉の席にはドリンクメニューが置かれている。
「いやぁ、驚きましたよ。閉鎖空間の条件だけであれほど報道陣を絞れるものなのですか?僕のところに取材に来た報道陣も本当に極僅かで、バレーに関すること以外何も聞かれませんでしたよ」
「外にいた何人かからの電話は俺も対応したし、人事部の社員も似たような内容の電話を受けているはずだ。それに、頃合いを見計らって警察にも連絡した。敷地内に入ることのできなかった奴はそれで追い払われているはずだ」
「警察に連絡とは少々荒立たしいですね。一体どんな連絡をしたんです?」
「『今朝の新聞の件で報道陣が本社前を蔓延っている。前にも警察の方から警告文を各メディアに送ってもらったが未だに止む気配が無い。本社を訪れる一般客の不安を煽ることにもなりかねない立派な営業妨害だから追い払って欲しい。被害届が必要な場合はこちらから申請する』言い方が多少違うところもあるが、内容としてはこれだけだ」
「なるほど、あなたが起こす行動としては実に正統な対応と言えそうですね。朝も昼もあれだけ長時間会議をしていながら、我々に何も話すことなく、どんな強硬策に出たのかと不安がよぎりましたよ」
「まぁ、今だからこそ出せるカードってところだ」
「そうだ有希。すまないが、後で社長室の金庫のナンバーを教えてくれないか?中を透視してテレポートすれば、それだけで十分持ち出せるんだが一応念のためだ。ダンスの振り付けは子供たちに倣ったし、ヘリの運転にも慣れた。そろそろビラ配り中の鈴木四郎役は俺がやろうと思ってな」
「それなら、8080」
『ちょっ……』
「ちょっと有希!なんでこんなところでそんな大事なこと暴露するのよ!いくら身内でも知ってもいいことと、そうでないことの区別くらいはっきりつけなさいよ!金庫の暗証番号なんて経理課の課長としてのあんたと社長だけで十分じゃない!キョンだって『後で』って言ってたのに、なんで今それを話すのよ!!」

 

 青ハルヒの発言に周り全員が納得していた。普通の会社ならいくら身内でも明かさないのが当たり前だからな。
「問題ない。金庫も中にあるものも全部黄キョン君の閉鎖空間が付いてる。誰かが何かを持ち出せば、必ず黄キョン君のサイコメトリーに引っ掛かる。たとえ悪戯で盗み出そうとしても絶対に隠し通せない」
「そうだとしても、なんでそんな安直な番号になったんだ!?もっと複雑なものに変えたらどうだ?」
「はぁ!?青キョン、ダンスの振り付けまで覚えたクセに、それが何の番号なのか、あんた分かってないの!?」
「これは驚きました。ここにいるほとんどのメンバーがその四ケタを聞いた瞬間に納得していましたが、まさかあなたがそれに気付いてないとは想定外ですよ。精々こちら側のOGや圭一さんたちだけかと……」
「あっ!私分かりました!ハ(8)レ(0)晴(8)レ(0)ユカイ!!」
『ブ――!はずれ!』
「何!?違うのか!?OGに言われた瞬間にてっきり俺もそれだとばかり……」
「ちなみに青有希ちゃん、他に候補としてどんな数字を考えてたわけ?」
「えっと……0461とか9292とか」
『9292!?』
「私も8080と0461は分かりましたけど、9292って一体誰の……」
「『一体誰の…』って8080も0461も誰かのセリフなのか!?」
「9292なら今ここに居ない奴だ。流石にこれは難易度が高い」
『ああ、なるほど!』
「キョン、サビの前からダンス踊ってみて」
「はぁ!?夕食の最中にどうして俺がそんなことをしなくちゃならんのだ!?」
「それいいわね!こっちのキョンが分かるまでずっと踊らせることにしましょ!」
『問題ない』

 

 まさか青有希からそんな罰ゲーム的なヒントが飛び出すとは思わんかった。分かってなかったら俺も同じ目に遭っていたかもしれん。子供たちまで一緒に踊りだそうとしていたが、ハルヒと青有希がそれを阻止していた。当然背中を向けて踊ることは許されず、みんなが見ている目の前で青俺がダンスを踊ること数回……
「こんなことをしていて本当に答えに辿り着けるのか!?」
「あんたが辿り着かないから何度も踊らされているんでしょうが!」
「パパ頑張って!!」
「やれやれ、幸まで分かっているような顔しやがっ………あ``」
「くくくくく……どうやら答えに辿り着いたようですね。僕も何度か使ったことはありますが、一番使う頻度の高いあなたが今頃になってようやく閃くとは……や(8)れ(0)や(8)れ(0)と言いたくなりましたよ」
「有希がダンスを『サビの前から』踊れと言っていた意味がようやく理解できた。小学一年生でも分かる数字の羅列だとは思わなかったぞ」
「最近見ない光景だったから笑いを堪えるのに必死だったわよ。いつもは関係が逆なんだけれど……ところで、残りの0461と9292が何のことだか、ちゃんと分かっているのかしら?」
「ああ、8080が分かった段階で0461がハルヒのものだと判明した。9292も黄俺が佐々木のことを指していると教えてくれたからな。おも(0)し(4)ろ(6)い(1)と、く(9)っ(2)く(9)っ(2)だろう?まさか、仕事の話を振っただけで、こんな恥ずかしい思いをさせられる羽目になるとは。しかし、そうでもしないと四ケタの数字は作れそうにないな。『問題ない』も『うん、それ、無理』も難しそうだ。もう忘れてしまったが、平方根のゴロ合わせにすらならん」
「はぁ!?あんた、そんなものも覚えてないわけ!?」
まずい、ここで頭の良かった奴とそうでない奴にはっきり分かれてしまいそうだ。
『ハルヒ先輩、それは私も覚えてないです』
「√5は無理でも、√2と√3くらいは社会人の常識よ!?キョン、あんたは!?言って御覧なさいよ!」

 

 「なんでそこで俺に振るんだ!?」と言いたくなったが、青俺が分からないと言っている以上、SOS団メンバーの中で考えれば順当か。残りのメンバーに振っても簡単に答えてしまうだろう。
「何よ、あんたも思い出すまでダンス踊るつもり?」
「いや、受験勉強していた頃を思い出してしまった。あの年は本当に色々あり過ぎて、雑念が入る度にジョンに注意されていたからな。ハルヒ達に付き添ってもらっていたことにありがたみを感じていただけだ」
「だったらさっさと言って御覧なさいよ!ゴロ合わせも含めて全部!あたし達をガッカリさせないでよね!!」
「心配いらん。√2=1.41421356(一夜一夜に人見ごろ)、√3=1.7320508(人並みに奢れや)だろ?」
『おぉ――――――――――っ!!』
ちょっと待て、何か反応がおかしくないか?朝倉は今に始まったことじゃないからいいとして、何かこう周りに見下されている感が否めない。
「みんな、あんなゴロ合わせでよく覚えていられるね。僕は√3は仕方なく覚えたけど、√2の方は自分なりのアレンジを加えて覚えてたよ」
『アレンジ!?』
「裕さん、あんな数字の羅列にどうやってアレンジを加えるんです?」
「ちょっと言い方がまずかったかもしれない。アレンジというよりは、ゴロ合わせを最初から考え直したと言った方がいいかな。い(1)よ(4)い(1)よ(4)に(2)い(1)さん(3)56(56)で、『いよいよ兄さん56(歳)』当時は兄貴がそんな歳になるなんてずっと先のことだと思っていたけれど、もうそろそろ射程圏内に入りそうだね」
『プッ!……くくくく、あははははははは!そっ、そんな覚え方があったなんて夢にも思わなかったわよ!今すぐ教科書会社に直談判しに行くべきだわ!!あっははははははははははは……』
鶴屋さん並の大爆笑をしているのはWハルヒだけにあらず。佐々木たちもこの場に居合わせなかったことに後で後悔することになるやもしれん。二人とも、今頃両親の怒りを鎮めている頃だろうからな。ハルヒ達の言う通り、そんな覚え方があったのかと圭一さん達も苦笑いするというより呆れている。
『数字のゴロ合わせもいいが、そろそろ時間も考えた方がいいんじゃないのか?』

 

 野球のユニフォーム姿で現れたジョンのセリフをきっかけにW俺とOG達が動き出した。ダンスを踊らされて食事もまだ中途半端な状態の青俺の食器のみをその場に残して青有希と青みくるが片付けに入った。さっき踊れなかった分とばかりにフロアで子供たちがダンスを踊っている。青有希が幸を風呂に入れることを考えれば、ダンスに夢中になっていた方がいいだろう。夕食の最中に事情を話していたらしき青OG六人でどこ○もドアをくぐり抜け、自分の携帯を掴んで六人で話し合いながら調べ物をしていた。昼に俺が伝えた携帯の件でほぼ間違いない。
 夜練を終え、いつものように影分身を送る頃には佐々木たちも帰ってきているものだと思っていたが100階に二人の姿は未だ見当たらず、みくると二人で今日の午前中の出来事のことについて話していた。
「今日の午前中は一月号の撮影でもしていたのか?てっきり、みくるもビラ配りに参加しているものだと思っていたぞ」
「そうですね、佐々木さん達が前倒しで考えていた振袖の撮影です。まだ今月号が発売されたばっかりなのに、もう撮影するって聞いたときはわたしも驚きました。でも、もうすぐドラマの撮影が始まるんだって実感も湧いてきて……美容院のシーンが一番楽しみです!わたしもタイミングを間違えないようにしないと、脚本にない動きの方が多いシーンの撮影なんてサイコメトリーもできないですし、不安もあるんですけど、やりがいがありそうだなぁって。でも、いくらドラマの撮影でも、わたしはキョン君にシャンプーしてもらいたいです!古泉君が嫌なわけじゃないんですけど……その………」
「まぁ、催眠を使えば簡単に入れ替わることも可能だからな。俺が言い出したこととはいえ、口調も普段の古泉とはまったく違うものだ。そんなことを言ったら、今放映中のドラマはどうなるんだって話になりそうだが、みくるが言いたいのは要するにそういうことなんだろ?」
確認しているように聞いてはいるが、今はシャンプーを終えてマッサージをしている真っ最中。みくるの考えていることがそのまま伝わってくる。確かに、ファーストシーズンの撮影を始めた頃はまだそんな使い方で催眠をかけてなかったはずだし、みくるとこんな関係になったのも告知でイタリアを出た後のことだから、まだ二ヶ月半弱しか経っていない。密度の濃い日々を過ごしていたせいか、ハルヒが一夫多妻制をOKしてから一年以上経過しているように感じていたが、文字通り新婚夫婦なんだから妻がこんな気分になって当然だ。北高時代の有希を思い出させるほどの小さな頷きを確認して全身マッサージに入った。

 

「ところで、今朝のパフォーマンスの反応を見て俺も驚いていたんだが、現ド○えもんのことをよく知ってたな。内容が内容だけに、みくるのような未来人にとっては、あんなものはすべて過去の遺物なんじゃないのか?もしくは『こんなの絶対にありえない』なんて感想を持ってすぐに見なくなりそうなもんだが……」
「そんなことはありません!わたしのいた未来でも未だにつ『禁則事項です』……あっ!」
「くくく……そのフレーズを聞いたのもいつ以来だろうな。聞きたかったセリフがようやく聞けた気がするよ。だが、今のセリフで大体のことは把握できた。そうか、いくら建物や家電製品はみくる達の未来では過去の遺物だったとしても、ド○えもんの道具の中には未来でも実現不可能な道具が混じっていて、それがみくるにとっては夢のようなのものだったと。そういえば、藤原のバカも場所の移動にはどこ○もドアじゃなくてTPDDを使ってたしな」
「禁則事項です」
「その強制催眠も、機械によってかけられたものじゃなくて、本当は有希がかけたものだったりしてな。超サ○ヤ人状態なら解除できるかもしれん」
「禁則事項です」
「みくるが未来人だと俺に告げたあの日のようになってきたな。心配するな、もしそれが可能だったとしても実行に移すことはない。佐々木たちの研究の答えを俺だけ先に知るようなもんだからな。親友を裏切るような真似だけは、俺は断固として拒否するぞ。禁則事項に該当しない内容だったとしてもだ」
「そういえば、佐々木さん達遅いですね。結婚のことも、子供を産むことも反対されているんですか?」
「アイツの両親が反対の姿勢を貫き通そうとするのなら、アイツも自分の存在意義を満たそうとするはずだ。俺もほとんど似たようなもんだが、もしそうなっているのなら、逆勘当をしてすぐにでも帰ってくるだろう。そのうち朗報を持って帰ってくるさ。『ドラマの撮影でもシャンプーをしてもらうなら』なんて話していたさっきのみくると同じだよ。アイツ等も『研究を途中で止めてでも戻って来たくなる』とか言ってたからな。実家で寝泊まりして帰ってくるなんてまずありえない」

 

 顔を紅く染めて黙ってしまったみくるに可愛気を感じながら、マッサージを続けていた。
「俺もさっき思い返していたんだが、結婚指輪を購入してからまだ二ヶ月しか経っていないんだ。みくるがあんな発言したっておかしくも何ともない。ハルヒを除いて全員新婚夫婦なんだから、それくらいが丁度いい。有希や青ハルヒだって毎日のように抱き合っているんだからな。『俺が古泉の催眠をかけて撮影に入る』なんて言うと、ハルヒは納得いかないなんて顔をするだろうが、できるだけみくるの要望に応えられるようかけあってみる。それに、青ハルヒや他の出演者ならまだしも、みくるがシャンプーされているシーンの撮影なんて当分先になるはずだ。それまで毎日堪能していればいいだろう。園生さんがシャンプー&カットのシーンを入れてくれなんて佐々木たちに願い出ることだってあり得るんだからな。どうする?有希や青ハルヒのように毎日抱き合ってみるか?みくるが恥ずかしいと思うのなら個室に行けばいいだけの話だ」
焦らすようにみくるの弱い部分に触れていると、視線は外したまま、ようやくみくるが口を開いた。
「キョン君に説明されるまで、結婚してまだ二ヶ月だなんてわたしも気が付きませんでした。もう一年以上経っているものだとばっかり思ってて……キョン君、今日はわたしのこと抱いて欲しいです。いくら個室に入っていても、有希さんや涼宮さんみたいに毎日はさすがに恥ずかしいです。それじゃダメですか?」
「駄目なわけあるか。それがみくるの選択だ。愛しい妻が甘えてきたっていうのに、それに応えなくてどうする。みくるは俺の妻なんだから、いっぱい甘えていいんだぞ?みくるが甘えてきてくれないと、俺が逆に困る」
「キョン君、わたし、もうキョン君の傍から離れたくありません!ずっと傍にいさせてください!」
「自分で入れた指輪の刻印をもう忘れたのか?みくるは俺のものだ。みくるはずっと俺の傍にいろ!これは命令だ」
「はいっ!」
やれやれ、この会話も全部未来のみくる達に見られていると思うと……何とも言い難いな。
『あと二、三日は電話対応に追われそうだが、それが一段落したらこっちの時間平面で夜中の時間帯にそっちに行く。寝ている最中でも叩き起こすからそのつもりで待ってろ!』
『も、もももも問、だだ題ななななない』
案の定か。二人揃って噛みまくってやがる。目が泳いでいるのが容易に想像できてしまうな。有希のカメラに映らない条件で催眠をかけて、スカ○ターでこちらからも様子を探ってみるか?あまりに変化がなくて飽きるかもしれんがな。見られてばかりというのも、あまり気分のいいものではない。

 

 俺たちが夜練に出ている間に、青古泉と青ハルヒで大阪一号店の建設から品物の陳列までを終え、今頃青古泉がシートを外している頃だろう。大阪一号店のOPENは来週の水曜日。それまでにアルバイトが何人来て、十日前後の営業だけでどれだけ仕事を覚えてもらえるかにかかっている。近いうちに各自の分担も決めないといかんな。69階、100階のフロアの照明も消え、ジョンから今週の全米映画ランキングの話を聞いていた。『来週は無理だろう』とジョンも話していたのだが、それでもランクが一つ下がっただけで第二位を記録。これで『○週連続全米映画ランキング第一位』は五週で途切れたが、いつまでベスト10入りをしていられるかで記録を伸ばしていくことになりそうだと英字新聞に記載されていたらしい。あと少しで日付も変わろうかとしていた頃、ようやく二人揃って100階に現れた。もうみんなジョンの世界に行っているし、テレパシーの必要もない。
「随分遅かったな。二人ともこの後はどうするつもりだ?すぐにベッドで寝るか?」
「明日の朝もそこまで時間は取れないだろうから、キミのシャンプーや全身マッサージを堪能してから寝たいんだけどね。それでも構わないかい?特に青僕は楽団の練習も控えているからね」
「なら、二人揃ってシャンプー台だな」
朝から何かとテンションの上がり下がりが激しかった二人だからな。今日は早々と服を脱いでしまうのかと思いきや、みくる達と同様、佐々木たちも新婚生活を満喫したいらしい。結局、一枚ずつ俺が服を脱がせるところから始めることになってしまった。
「それで、この時間までかかった理由は一体何だったんだ?両親に否定されて諦めるほど、二人にとっての存在意義はそんなに小さいものじゃないだろ?」
「そうだね、キミの言っていた通り、今日は朝から何かとトラブル続きだったからね。僕たちもそれなりの覚悟を決めて両親と会ってきたんだけれど……キミのことを話しただけで僕の両親が全部察してくれたよ。後はTVに映らなかった部分の思い出話に花を咲かせていたらこんな時間になってしまったんだ。どうやら、キミにも心配をかけてしまったようだ。ごめんよ、許して欲しい」
「僕の方も最終的には黄僕と似たようなものだよ。でも、一番時間がかかったのは二つのモニターを見せて催眠がかかっていることを納得させることだったね。圭一さん達がTV中継で試合観戦していたように、関係者から見た映像とTVカメラで撮影された映像を見比べながら、ようやくキョンが二人いることを理解してもらえたよ。それが分かった後は、身長違いのハルヒさんや朝倉さんと瓜二つの黄朝倉さん、それに応援していた黄朝比奈さんのこともスムーズに話を進めることができた。近いうちにキミの遺伝子を受け取ることも話したけれど、それについても反対されるようなことは無かったよ」
全身マッサージを終えるまでは会話が一向に止みそうになかったが、ベッドに横になって俺の腕に頭を乗せると、流石の佐々木たちでも話し疲れたらしい。眠気もあるだろうが、瞳を閉じてしばらくも経たないうちに二人の寝息が聞こえていた。

 

 古泉&青みくるに続くように、翌朝の新聞の一面は全社俺の映画に関するもの。すでに告知の方にアメリカや日本の奴等が現地の報道陣に紛れ込んでいたし、ジョンから話を聞いていたこともあり、今度は想定内の出来事として処理された。警察に追い払わせた連中も飽きもせず敷地外をうろつき、朝倉が切り刻みたがっていたものの、ニュースのあった日にテロがあってはまずい。午前中のうちに警察に通報することで全員の意見が一致。昼食や夕食も夜中に準備しておいたし、これでどちらの世界にも電話対応に向かう事ができる。古泉たちは交互にバレーの練習試合に出るらしく、今日は古泉の方は青鶴屋さんの邸宅へと足を運んでいた。その分、青古泉は大阪の店舗の建設地としてふさわしい場所を探し、古泉の残りの影分身と俺で電話対応にあたり、その夜は未来へと足を運んでいた。俺の人形が二体に増え、未来古泉と一緒に五人で食事を共にしているという情報が伝わってきて、正直呆れかえっていたのだが、同位体と同様、体温が保てるようになったようだ。しかしこれで、各時間平面上のみくる達の人形も死体のように冷たいなどということも無くなったはず。みくるの人形を表に立たせて有希は影に身を潜めることができるだろう。ついでに、外見が俺でも意識が有希なら未来古泉も絶好のボードゲーム相手が見つかったようなもんだ。未来古泉も平日の楽しみが一つ増え、今後は朝倉や青古泉から白星を勝ち取ることになりえるかもしれないな。それはそれで面白そうだが、朝倉には早々に一月号を仕上げてもらわないといかん。有希も楽団の練習と一月号の作成に力を注いでいる分、美容院のセットの配置等を考えるのは佐々木たちの役目になった。カット予定の人間は楽団員と日本代表選手から選び、撮影の旨をもう伝えてあるようだが、本当に大丈夫なのか?おい。不安はあるものの、撮影当日のお楽しみということにしておこう。
「しかし、こっちのみくる達にもくせ毛対策のシャンプー剤やトリートメントを使っているんだが、ここまでの状態になるには当分先になりそうだ。ダンスを踊ったときに、みくるがさっきまで着ていた中華風プリンセスの衣装を着せて髪型も同じように結いはしたが、帽子で隠れている部分以外は仕方なくアイロンを使っていた。禁則事項に引っかからない程度で構わないから、俺にも教えてもらえないか?この髪の秘密を」
「この時間平面上に戻ってきてからも続けていただけです。わたしだって皆さんと一緒に生活をしていた頃からの悩みでしたから。わたしも鶴屋さんのような髪質が羨ましくて色々試していたんですけど、どうしてもボリュームが出てしまって……」
単純に時間をかけていただけだった。SOS団結成当初に俺の前に現れた大人版のみくるですら、まだくせが残っていたからな……こりゃ当分かかりそうだ。しかしまぁ、矯正してダメージを与えるよりはまだマシか。

 

「もうキョン君のことが待ちきれなくて仕方がなかったんですよ?キョン君がまたわたし達に会いに来てくれるとテレパシーが届いたと思っていたら、それでもまだ二、三日はかかると聞いていたのに、たった一日で来てもらえるなんて嬉しいです。この間、キョン君が提案してくれたことを長門さんがそのまま実行に移してくれて、今は毎日のようにシャンプーや全身マッサージを堪能できるようになりましたし、意識は長門さんでもキョン君に抱いてもらえるようになりました。ようやく念願が叶って、今は充実した日々を満喫している真っ最中です!」
身体は俺、頭脳は有希、その名は俺型ヒューマノイドインターフェース!……なんてな。頭脳が有希の時点で俺型のヒューマノイドインターフェースなんて言えるような代物ではなさそうだが、たった二体でも急進派の変態共が嫌がりそうな男性タイプの同位体ができたのならプラスマイナスゼロで考えてやらんこともない。アホの谷口と同様、あの親玉の胃袋にみくる達の不要物を贈呈してやりたいところだが、涼宮体の中に入りこみでもしない限り、ただの思念体に物理的なものを送ったところでまるで効果が無い。どちらも単なる嫌がらせでしかないが、あのアホと同じレベルにまで至らないのならやっても意味がないからな。
「シャンプーやマッサージにしろ、みくる達を抱くにしろ、いくら二人同時にできないからとはいえ、俺は有希に二体も作って操れなんて言った覚えはないんだが?三人+俺二体で食事をしていて、古泉にハルヒを連想させてしまったらどうする気だ?丁度五人だし、北高の文芸部室にいた頃とほとんど変わらないだろうが。まぁ、今でこそ有希が古泉に施した記憶操作がどんなものかはっきりしているから、思い出したとしても古泉にとって楽しかったときの記憶しかないだろうけどな」
「これでキョン君が人形じゃなかったら、わたしが本当に求めていた日々が蘇るんですけど……キョン君、1%でいいですから、キョン君の影分身をここにも置いてもらえませんか?」
「どう包み隠そうがこの時間平面上のことを俺が知ってしまう以上、禁則事項にひっかかることくらい分かっているだろう?たとえ1%の影分身でもサイコメトリー能力を持っているんだ。今でこそ記憶から抹消してあるから思い出すことは叶わんが、俺や俺の時間平面上の古泉は急進派の連中に破壊された500年後の建築物を情報結合で建て直している。こうしてみくる達と話したり抱き合ったりしているだけだったとしても、俺たちの時間平面上ではありえないものがいつ目の前に飛び込んでくるか分かったもんじゃない。それこそ、みくると高校生活を共にした、みくるのことをよく知る俺の方がまだいいだろう。それでも、そんな禁則スレスレのことをみくるにやらせるわけにはいかん。過去の自分も含めて部下に示しがつかないだろ?」

 

 やれやれ、みくるも禁則事項に該当するのを承知でアプローチを仕掛けてきているのは重々承知の上。それをOKできるほどの余裕は俺にはないし、そこはキッパリと断るために来たんだが……どうしてこんなに説教臭くなってしまうんだ?ジョンも一緒に来ていればこういうときに一言挟んでくるのかもしれんが、今はみんなジョンの世界で土曜の野球の試合に向けた練習中。本体で未来に行くからと青俺に内緒でジョンに移動してもらっている状態だ。昼間のように暇を持て余しているのなら、青俺の頭の中からこの時間平面上の様子を伺っているに違いない。今回は有希と朝倉を温存したメンバーで挑む采配を監督がしている以上、今頃バッティング練習の相手として100マイルの投球をしているはずだ。ただでさえ告知のせいで俺がジョンの世界に行けず、投手側の人数が限られているからな。今のジョンに俺たちの様子を見ていられるような時間など与えてはもらえまい。とはいえ、その分こうして未来に時間跳躍していられるだけの時間が確保できた。俺も今のみくると同じで自分の理想を追い求めているだけか。しかし、有希や他のメンバーがいたからとはいえ、一夫多妻制をハルヒにOKさせたみくるも凄いもんだと今さらながら感じているわけなんだが、そもそもみくるはこんなに積極的にアプローチをかけられるような性格だったか?いくら不連続な時間平面だろうと、各時間平面上のみくるの性格まではそこまで大きく変わらないはず。……どうやら大分長い時間考え事をしてしまったらしい。だがその間、みくるはずっと黙ったまま顔を見られない様にしていた。眠ってしまったわけでもないようだし、いくらキッパリ断るとはいえ少々言いすぎたかもしれん。
「過去のわたしが羨ましいです。涼宮さんに一夫多妻制をOKして欲しいとアプローチをするなんて、わたしには到底できません。でも、キョン君の傍に居たい一心で行動を起こしたのは良く分かりました。だって、今のわたしもそうなんですから。わたしもキョン君の傍にずっと居たいです。キョン君お願いです!わたしにも命令してください!」
「ったく、組織のトップが言葉の使い方を間違えると周りから叩かれるぞ?俺の時間平面上の報道陣の現状がいい例だ。『次に俺が来るときまで同位体で我慢していろ!』なんて言ったら困るだろ?どの道そうなってしまうし、間接的にも何度も話してはいるが、そこまで時間が取れるわけじゃない。みくるの気持ちは十分伝わっているから、俺が過去に戻るまで一秒たりとも離れるなよ?」
「『俺が過去に戻るまで一秒たりとも離れるな』ですね、分かりました。キョン君、時間が来るまでずっとわたしにキスしてくれませんか?」
「それなら、お安い御用だ」

 
 

…To be continued