500年後からの来訪者After Future6-15(163-39)

Last-modified: 2016-11-25 (金) 05:22:10

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future6-15163-39氏

作品

予定外のハプニングも、これまでの経験と今の俺たちだからこそ可能な手段で臨機応変に対応することができ、相も変わらず忙しい生活だが順風満帆な日々を過ごしていた。ハルヒが一夫多妻制をOKしてから、まだ二ヶ月しか経っていないことに正直驚いていたんだが、毎日のように影分身20体がかりでシャンプーや全身マッサージ、嫁やOG達を抱きながら寝ていれば当たり前かと思っていた。しかし、みくるも似たようなことを感じていたようで、俺に甘えることにいささか抵抗感を抱いていたようだが、新婚夫婦ならそれが必然。空いた時間を利用して未来のみくるや有希に会いに来ていた。

 

 ダブルベッドのもう半分では本体がみくるを抱きしめてピロートーク中。閉鎖空間につけた条件のせいで同期しないとトークの内容がこちらには伝わってこないんだが、こちらも普段ではありえないほどの声量で刺激に身を任せている奴もいるし、話の邪魔をしなくて済む。部屋の隅では俺の人形が二体、今日の役割は終えたと言いたげに立ったままその場で眠りについていた。前回までのように、用済みだと言わんばかりに人形を投げ捨てられる光景を見させられるよりはいささかマシだが、これはこれで怖いものがあるな。しかしコイツ、俺が帰る時間までこうやって抱き合っているつもりか?少しは話もしたいもんだが、大声をあげて快楽の余韻に浸っている姿を今日だけで何回眼にしたか分からん。俺の時間平面上の有希よりも感情豊かな分、表情だけで今どんな気分なのか充分伝わっては来るんだが……満足気な表情を何度もされて俺も嬉しいとは思うんだが、変態セッターやWハルヒのように翌日身体に力が入らないなんてことになっても知らんぞ。って、有希に限ってそれはありえんか。
「いくらヒューマノイドインターフェースの身体でも、少しは休んだらどうだ?今は毎日のように俺の人形に抱かれているんじゃないのか?」
「朝比奈みくるはそれでも十分満足している様子。意識はわたしでも見た目があなただからまだいい。でも、わたしの場合は自分で動かした人形で自分を抱いている状態。刺激は強くても、自慰行為に及んでいるのとほとんど気分が変わらない。こうしてあなたが来ているときは、一秒でも長く朝比奈みくると同じ気分に浸っていたい。それに、今回はあなたも影分身。今度来るときは本体で抱いて」
「一向に止める気配がなかったのはそういうことだったのか。それなら、今度と言わずにその次のときも……なんて配慮をしてもいいくらいだが、そこまで頻繁に来られるわけでも時間が取れるわけでもない。だが、毎日のように俺たちの様子を見ていたのなら、こっちの有希やみくるに対して俺がやっていたのと同じことだってできる。今後もどうせ見ているつもりだろう?古泉に見せられるような内容ではないし、様子を見ながら俺の人形に再現させたらどうだ?」
「問題ない、最初からそのつもりだった。あなたの配慮は嬉しい。でも今は、少しでも長くあなたに抱かれていたい」

 

 どや顔でセリフを言い放った有希に対して文句を言いたくなったが、感想を一言述べるとすれば『有希ならやりかねん』だな。そういう意味では俺の知っている有希らしいし、何より分かりやすくていい。もはや問答は無用と言わんばかりの有希の視線に対して行動で応え、隣では本体とみくるの唇が合わさったまま離れそうにない。理由は……考えるまでもないな。結局、有希とは最後まで行為に及び、みくるとは口づけを交わしたまま今回はおしまい。ジョンからのテレパシーを受けて、二人に別れを告げた。
 先ほどは、未来有希の発言に対して良い意味で変わらないことに嬉しさを感じていたのだが、その真逆だと言わんばかりにこちらも全く変わらないことに対してストレスを感じてしまうな。古泉&青みくるに関することについて本社前に報道陣が集まるならまだしも、俺の映画に関することで報道陣がここに集まったところで意味がないというのに、相変わらずアホの谷口と同レベルの連中ばかりだな。今日は午前中に警察を呼んで、明日は朝倉に頼むことにしよう。一度病院送りになっている奴等がまた来ているようだしな。その辺りの根性や諦めの悪さは別のところで使って欲しいもんだ。命が惜しくないのかねぇ、まったく。朝の議題として最初に提示して全員の了承を得た。
「それでは、議題というわけではありませんが、気分を変える意味で僕の方から一つ。以前皆さんからご提示いただいた中から、園生と相談してチャペルが決定しましたのでその御報告をさせてください」
「意外と早かったわね。もう少し時間がかかるものだと思っていたけれど……確か、九か所だったかしら?」
「国は同じでも、場所までは被らなかったんだろう?僕以外の八組がどんな場所を選んできたのか、僕たちにも教えてくれたまえ」
「黄僕と園生さんの結婚式場として誰がどこを選んできたのか僕も是非伺いたいものですが、困りましたね。一つずつ紹介していられるほど時間はなさそうです」
「かといって、九か所いっぺんにモニターに出されても全部確認するまでに時間がかかるだろ?」
「では、僕と園生で選んだ一か所をモニターに出し、残る八か所についてはサイコメトリーで情報を受け渡すことにしましょう。我々が選んだのは、こちらのチャペルです!」
『あ―――――――――――――――――――っ!!』

 

 巨大モニターに投影された映像を見て叫び声を上げたのは無論ハルヒ達。理由は、自分の選んだ場所では無かったからだ。叫びはまではしなかったが、自分の選んだ場所では無かったことに気を落としているのが数名。この場所は確か……
「チャペルの内装や展望できる景色についてはどれも甲乙つけがたいものでしたが、強いて理由を挙げるとすれば『最近できたばかり』という点で魅力を感じたというべきでしょう。朝比奈さんに選んでいただいたグアムのクリスタルチャペルで結婚式をと、僕と園生の意見が一致しました。改めて、よろしくお願い致します!」
古泉や園生さん、みくるに周りから拍手が贈られた。あとは俺たちの都合がつく日に予約が取れるかどうかだ。
「いいなぁ……グアムにこんなチャペルができたんですね。先輩に説明されるまでどこのチャペルなのか分かりませんでしたよ!古泉先輩、ハルヒ先輩たちがどんな場所を選んだのか教えてください!!」
変態ではない方のOGの一言に対して古泉が行動で応えた。『ここまで影分身を出して操れるようになったか』というのが個人的な感想だが、メンバーのおよそ半数の影分身が古泉と園生さん、子供たちを除くメンバー全員に両手の人差し指でほぼ同時に触れた。残り八か所のチャペルの情報が流れ込んでくる。ダークホースと言われた森さんの選んできたチャペルを蹴ってまでみくるのものが採用されるとは思わなかったし、よくもまぁこんな短期間で一か所に絞れたもんだと呆れるほど、どのチャペルもいいものばかりだ。
「くっくっ、確かにこれじゃ『最近できたばかり』なんて理由でもないと決められそうにない。古泉君が『甲乙つけがたい』と言った理由が良く分かったよ。こんなものを見せられたら、全部堪能してみたくなったじゃないか。キミもそう思わないかい?」
「九か所中七か所は発表される前に知っていたんだ。おまえら七人が違う場所を選んだ段階でそう思ってたよ。しかし、さっきの話に戻してしまうようで申し訳ないんだが、グアムなら時差は日本の一時間後。このメンバーだけでいいなら平日でも問題ないだろうが、問題は予約するときにどうするかだ。どういう手段をとっているのかは知らんが、古泉の結婚くらい報道陣が簡単に嗅ぎつける。かといって、偽名で予約するわけにもいかんしな」

 

 子供たちを除き、そこにいたほぼ全員が表情を曇らせた。各チャペルの情報に酔いしれていた女性陣は特に嫌な顔を見せている。やっぱり、今は言わない方が良かったか?
「そんなことまであたしたちの邪魔をしてくるっていうわけ!?」
「グアムならばローマ字表記ですから漢字で書くようなことではありませんが、僕たちのように『一樹』と書いて『いつき』と読む例はほとんどありません。他に同姓同名がいるとはとても考えられませし、十中八九黄僕だと断定して来るでしょうね。今は、セカンドシーズンのドラマに注目が集まっていますから、タイトル通りのローマ字表記を見れば、すぐに感づくかと」
「でも、チャペル側も顧客の守秘義務は守るんじゃないかしら?芸能人の結婚なんて自分から結婚した事実を明らかにしたか、結婚後にバレるくらいで式場の前に張りこんでいるなんてことはないわよ!」
「問題ない。青チームの朝倉涼子の言い分は正しい。データのハッキングさえされなければ、まずバレることはない。あとは日にちを決めるだけ」
「どうやら、支障は無いようですね。近日中にチャペルに確認して予約を入れておきますので、改めてこの場でご報告させてください」
「それが決まり次第、その日の新川のディナーの予約は受けないようにする。ランチタイムの方は自動券売機の調整をすることは可能かね?」
「それなら、こちらのOG六人に新川さんのスペシャルランチを初めて食べさせたときに券売機を操作したことがあります。あのときは内部からOGが揃う日まで回して、六人分だけ先に抜き取って元に戻しましたが、今は三ヶ月予約が当たり前。今度は券売機に交渉するつもりです」
『券売機に交渉!?』
「キョン君、機械に交渉なんてできるんですか!?」
「ただのパイプ椅子でさえ、あれほどクオリティの高いランジェリーのデザインを考えることができたんだ。券売機だってテレパシーを送れば返ってくるはずだ。『結婚式当日のスペシャルランチは既に完売していることにしてくれ』と頼めばいい。拒否されれば催眠をかけるまでだ」

 

機械に交渉したり催眠をかけるなどという奇天烈な発想に呆れている奴も何人もいたが、予約のことを加味しながら定期的に券売機を確認するよりこの方法を取った方がよっぽど手間取らずに済む。なんにせよ、この件に関して報道陣が関わってくるだろうという予想が、俺の単なる思い過ごしで終わるのならそれでいい。古泉の認知度を高めてしまったことを今さらながら後悔したのと、『結婚後にバレる』という青朝倉の一言であのアホの顔が思い浮かんだことに苛立ちを感じていたが、他のメンバーはそこまででもないようだ。子供たちも出かけていったところでさっさと今後の予定を話して次に進めようとした矢先、先ほど挙がった件でハルヒが話を巻き戻した。
「それであんた、佐々木さんと全部のチャペルを回るつもり?」
「たとえ閉鎖空間とテレポートが使えたとしても、あれを全部回るなんて普通のサラリーマンでも不可能だ。お盆や正月の休みを使ってもまだ足りん。こんなチャペルに行くのなら最低でも一か所に付き一泊二日はかけないとな。やるとしても、ハルヒと二人で全部のチャペルを回るか、七人全員と自分が選んだところに行くかのどちらかだ。折角海があるのに泳げないなんていうのもNG。クルーザーで近海を回るなんていうのも悪くない。どちらにせよ、影分身を本社に残していく必要があるというのが最大の難点だけどな」
「それくらい別にいいわよ!あたしだって、あんたのいない夜を過ごすなんてごめんだわ!あんたがそういうならあたしが自分で選んだ場所でいいから連れて行きなさいよ!」
「古泉たちの結婚式が終わってからな。でないと、俺とみくるが先にチャペルを堪能することになってしまう」
ハルヒは今月中にと考えていたようだが、告知もまだ終わってないし俺の気が休まらない。残りの妻二人も九か所のうちのどこかに行ってみたいと言い出したところでようやくハルヒが納得した。ようやく全員の前で話せそうだ。
「さて、前から話そう話そうと思いながら結局話せずに終わっていたんだが、今後の予定のことで話がしたい。大まかな流れだけ話すから聞いていて欲しい。特に青ハルヒは来年四月から異世界支部の社長として動くことになる。ビラ配りだけでなく、いつ、何をして、メンバーが何人必要になるのか今のうちから考えておいてくれ。まずは明日、至って普通の日本代表のディナーの日だが、これまでの日本代表チームの反応を見て、来週のディナーに向けたちょっとした趣向を凝らそうと思ってる」
『ちょっとした趣向?』

 

 佐々木たちなら『くっくっ、面白いじゃないか』などと割り込んでくる場面だが、それを言わせる前にこちらから内容を伝えた。そんなセリフを間に挟んでいるほどの余裕は無い。
「題してリクエストディナー。今までのディナーの中でまた食べたいと思うものを選手や監督、コーチ達にアンケートを取る。一番得票数の多かったものを来週のディナーとして出すってことだ。それ以外でも得票数の多かったものは十二月以降に出していく。やることは至って簡単だ。明日、俺たちがディナーを振る舞っている間に青チームOG四人には日本代表チームが宿泊している部屋にテレポートして、アンケート用紙と鉛筆をその部屋の人数分置いてきてもらう。超能力の修行も兼ねてな。受付に行くなり、その部屋で使われているベッドの数を確認すれば、人数くらいすぐに分かってしまうが、ここは敢えてサイコメトリーで人数を割り出してもらう。そのついでに何かしら選手たちからの不満や要望がないかも情報として持ってきてもらいたい。用紙は俺が用意する。アンケートを取るついでに十二月二日のディナーの件も書き記しておくつもりだ。天空スタジアムでの夜景や星空を満喫しながらディナーをやること、報道陣にはバレないように気を付けて欲しいこと、この二点を加える。翌朝の練習前にこちらのOG達で各部屋に回収に行ってもらう。アンケートの集計についてはサイコメトリーがあればそれで十分。これがまず一つ目だ。何か意見があれば言ってくれ」
「なるほど、言われてみればディナー中に日本代表選手が話していましたね。『こんなディナーは二度とないかもしれない』という内容だったと思いますが、何かしらの対策を講じることまでは考えていませんでしたよ。ですが、いいのですか?食べ放題のことも含めて、折角のあなたの案をおいしいところだけ我々がいただくような形になってしまいますが……」
「『社長さえいなければ』と喚いていたバカのような考えを持たせないためだ。俺がいなくてもこれまでのディナーと同等かそれ以上のパフォーマンスをしてくると日本代表チームの脳裏に焼き付ける」
「じゃあキョン先輩、わたし達もアンケートに食べたいものを書くんですか?」
「今回は選手たちを優先する。おまえらなら直接俺に言ってくれればいつでも用意することが可能だ。話のついでにこれも伝えておこう。来週月曜の夕食はカレーの食べ放題を予定している。今度はライスにも工夫を凝らすつもりだ。キャロットライス以外でな」

 

 『キャロットライス以外』と聞いて圭一さんに周りの視線が集まり、圭一さんは安堵していたが、青圭一さんは気を落としていた。古泉たちのボードゲームの強さと同じく、人参の好き嫌いが極端過ぎる。
「有希がいない間にその話が出て助かった。作っている最中の匂いに敏感に反応しそうだが、月曜日の夜まで黙っておくことにする。ついでに、子供たちにもな。いつまで経ってもよだれが止まりそうにない」
「くっくっ、いいじゃないか。約束はきちんと守る子供たちに育ってくれたんだ。子供たちには話してあげたらどうだい?ちなみに、キャロットライス以外でどんなライスにする予定なのか聞いてもいいかい?サフラン、ガーリック、クミンシード、ターメリックあたりがメジャーだと思うけれど……」
「今度のカレーにはターメリックライスを合わせるつもりだ。これだけ女性陣の多い中でガーリックライスは論外。クミンシードはどちらかと言えばインドカレーのようなものには合うが、俺の作るカレーには合わない。インドカレーに似たものを作るときにはクミンシードを使ってもいいんだが、あれには消化促進、食欲増進の効果があって、特に有希やWハルヒの食欲をさらに増幅させるととんでもないことになりかねん。しかしまぁ、ターメリックにも肝機能強化の効果があってみくるや古泉には必要不可欠になりそうだが、どちらも、たった一回でその効果が現れるとは到底思えない。サフランは。普通はパエリアに使うもの。高価で世間ではあまり使われていないらしいが、俺たちには関係ない。それでも、カレーにあまりそぐわないものを使うのもどうかと思ってな。サフランもターメリックもどちらもウコンには違いないし、色もほぼ同じ。敢えてサフランを使う意味はない」
「ハルヒ達はそうだろうが、黄有希はもうこれ以上増幅しようがないだろう?カレーに関してなら、有希にも当てはまりそうだけどな。前回黄俺が決めたルールで丁度良かったし、次も同じルールでいいんじゃないか?」
「キョン君、同じウコンなのにどうして名前が違うんですか?」
「正確に言うと、ターメリックは秋ウコンと言われている。時期としてはもう冬が始まっていると考えてもいいくらいだが、旬の食材を旬のうちに使ってみようというわけだ。来週のカレーとディナーに関してはこのくらいでいいか?」
「そういえば、アンケートの結果発表は、いつ日本代表チームに伝えるのかしら?」
「何言ってるのよ涼子。そんなの当日の練習試合が終わってからに決まっているじゃない!場合によっては来た瞬間に分かるってこともありえるわね。先週の鉄板料理食べ邦題とか、回転寿司ならフロアを模様替えすることだって十分考えられるわよ!」
「日本代表チームには今の青ハルヒの案でいいと思っているんだが、特に古泉と青ハルヒには事前に何をやることになったか知らせる必要がある。決まり次第この場で報告するから、日本代表チームには内緒にしておいてくれ。それとも、青OG達で集計して報告するか?」
『問題ない』

 

 OG達から議題が上がるなんて、北高の運動会で踊るダンスを見に来てくれと連絡があったときくらい。あの年以来、ハレ晴レユカイを踊るのが毎年恒例になっているようで、文芸部員たちが必死にダンスを覚えている様子も前に北高を訪れたときにその情報が伝わってきた。『今年はフレ降レミライを踊らせてください!』などという高三の女子が現れてもおかしくない。北高名物のようなものだからな。2tの金塊を使わずとも、残りの金だけで十分だ。まぁ、来ることはまず無いだろうが、北高からの依頼や許可が欲しいなんて電話が来たら、純金のハルヒ像を送ってやることにしよう。報告は青OG達に任せると伝えて次の議題に移った。
「次は明後日の野球の試合に関する内容だ。番組でも試合のことを宣伝してくれるそうだし、今度の試合は客席も定員割れをする恐れがある。敷地外で報道陣は弾くのはいつも通りだが、大画面に会場図を映してもらいたいのと、スタジアム内での案内と状況を伝える役にまわって欲しい。席が埋まった段階で残りの客には申し訳ないが入場を断ることになるだろう。客の入場開始はこれまでと同様午後五時。午後四時には大画面に会場図を映してくれ」
ここまで話すと有希が首を縦に振った。ことカレーに関しては、青古泉の妄想とほとんど変わらんな。喋ることができない状況にまで陥っている証拠だ。しぐさだけで相手に伝わることは一切言葉にしようとしない頃の有希に戻ったような気がする。そういや、北高初の文化祭の時期まで朝倉がいたとしたらクラスの出し物はどうなっていただろうな。本性を現さずにあの時期までいたとすれば、少なくとも『アンケート発表』などというふざけたものでは終わらせなかったはず。本人や当時のクラスメイトに聞いてみたいところだが、二人ともあまりいい思い出は持っていないだろうからこの件に関しては触れないでおこう。青有希も帰ってきたし、カレーの件は伏せておこう。
「ハルヒ達や黄古泉は選手として試合に出るし、消去法で俺の影分身ということになりそうだな」
「状況によって……ではありますが、今回は立ち見での観戦というのもいいのではありませんか?」
「キョン、土曜日の夜練のことは私が監督に伝える。多分、監督たちも見に来るはず」
「明後日の試合が終わったら、涼宮さんはソフトボールでの投球練習をしてもらえないかい?どちらの世界でも、次の試合の予定はまだ分からないけれど、女子高潜入捜査のときのそのシーンだけは先に撮っておきたいんだ。それまでに校舎やグラウンド、近隣の住居などの配置は僕たちで考えておくよ。涼宮さんが部員に投球を見せつけるシーンと催眠をかけた涼宮さんの投球を青朝比奈さんが打ち返すシーンの二つを撮影する予定なんだけどね。彼女なら二、三日もしないうちにマスターできるはずだ。どうだい?」
「制服や体操着に合わせて、部員の練習着やユニフォームも衣装として考える必要がありそうね。撮影日までにわたしと有希さんで考えておくわ」
「面白いじゃない!肝心の試合前に撮影するなんてことにならないようにするわけね!フフン、あたしにかかればそんなの一日もあれば十分よ!」
「うん、それ、無理。涼宮さんが良くても他の条件が整っていないと撮影できないわよ。それに、腕を一回転させる分安定しなくなるし、投げる直前で勢いを落とすわけにはいかないわ。いくらナイフや拳銃が効かないコーティングがあっても、デッドボールじゃNGにしかならないでしょ?」
『おめぇ、そのゴールデンフ○―ザってのになってすぐ地球にやってきただろ?』
はいはい、完成はしても安定するまで様子を見ろって言いたいんだろう?部活の練習着やユニフォームについては朝倉たちの意地もあるらしい。制服、体操着のデザインを考えたのがすべて青古泉。その上ランジェリーのデザインまで考えられちゃ、いくらアレンジが必要なものばかりだったとしても、デザイン課&編集部の長としてのプライドに傷がつく。一月号の着手については横に置いておけるほど時間はあまりないが、これだけは譲れない……か。

 

「話が違う方向にズレてしまったな。当日のスタジアム内の誘導と状況報告には青俺の影分身であたり、今回は多少の立ち見はOKとすることで暫定的に決定とする。何か代案があったら教えてくれ。それと、青圭一さんたちと青OG六人は土曜日の昼間を使ってリムジンで携帯を買いに行ってもらいたい。それまでに自分の携帯をどれにするつもりか選んでおいて欲しい。特にまだ仕事をしている青OG二人がいるから土日の間に終わらせてしまいたい。できれば引っ越しの件も今週末で終わらせて、その後、青圭一さん達はどこ○もドアを通ってこちらに来ることになるだろう。青新川さんが運転するリムジンなら助手席も入れて10人全員乗れるはずだ」
「そういえば、まだ携帯を決めていなかったよ。彼女たちがどんなものにしたのか、会社のことも含めて資料を見せてもらえないかね?」
「私たちは向こうの携帯でサイトを回りながら決めたので……サイトの行き方で良ければ」
「わたくしも新しい携帯と言われましても、どのようなものを選んでよいのか分かりません。森に選んでもらうことにします」
「では、残りは我々四人だけのようですし、彼女たちからサイトの行き方を聞いて選んでおきます」
「僕もそれで構わないよ」
「青OG達はキューブの拡大縮小もできるようになった。自分の引っ越しを自分でやってみて欲しい。これができればまだ慣れる必要はあるが、三月の引っ越しには戦力として加えられる。複数でのテレポートもやってみてくれ」
『問題ない!』
「次、来週水曜日に大阪一号店のオープンだ。来月に入れば、店舗に割ける人員が少なくなる。今月中と言ってもあと十日もないが、出来る限りアルバイトに店舗の店員としての仕事を叩きこんでもらいたい。青古泉ともう一人誰か向かって欲しい。最初は交互に食事をすることになるはずだ」
「黄キョン先輩、それならこの子がいいです!池袋店もまだアルバイトだけで回せるほど経験を積んでないです!」
「ちょっと待ってよ!どうして私になるの!?」
「あんたなら、古泉先輩と思考回路がほぼ同じなんだから丁度いいじゃない!」
「ふふっ、周りの反応を見る限り、それで決まりのようね」
周りの反応を見る限りって、『古泉先輩と思考回路がほぼ同じ』のセリフを聞いて呆れているのがほとんどなんだが……まぁ、驚くようなこともなくなったし、それで定着してきたってことでいいか。
「ぶー…分かったわよ」

 

「この件についても暫定的なもので構わない。当日になって変更があり得るかもしれん。そのときは臨機応変に対応してくれ。次は、スキー場OPENに向けた政治家たちの引っ越しについてだ。詳細は依然はなしたが、特に二十九日の方はストレスを溜めて帰ってくるなんてことになりかねん。閉鎖空間の条件に『必要と判断したもの以外のサイコメトリーはできない』と条件をつけて引っ越しに出向いてくれ。それから、来月から始まる週末のディナーについてだが、去年のように報道陣がレストラン内を占拠したかのように集まられては接客の邪魔だ。週末の夕食のみ報道陣に規制をかける。『レストラン内が大変混雑する恐れがございますので、報道陣の出入りを制限させていただきます 総支配人』と書かれた立札を下げて、謝罪をしていないTV局、新聞社、週刊誌の人間は誰であろうと入れなくするつもりだ。最初の三日間で誰が入ることができて、誰が入ることができないのかくらい、あんなアホ共でも判断がつけられるはず。次の週の月曜日から古泉に影分身を一体人事部に待機させて各会社からの電話の応対をする。前にハルヒが断言した通り、『記者会見を開いた上での社長の土下座謝罪がなければ取材は許可できない』と突き返してくれ。その週の土日は電話対応は一切しないものとする」
「くくくく……それは面白そうですね。もはや時効だと思っているであろう報道陣に、更なる仕打ちをもって対抗するとは。分かりました、人事部に影分身を一体残して行きましょう。特に最初の三日間のおススメ料理は豪華なものに仕上げたいところですね」
「ああ、俺もそのつもりだ。青ハルヒも含めて誰が何品作るのか、後日検討したい。悪いが付き合ってくれ。今のところ、食事の支度もあるから俺が四品、古泉が三品、青ハルヒが三品の予定だ」
「あんたね!食事の支度もあるのに四品ってどういうことよ!!そんなにあたしたちが信用できないわけ!?」
「影分身の修練の度合いと告知のせいで眠れない分を有効活用することを考慮した結果だ。それに、スプリングバレースキー場ならまだしも、他の二つはこちらから人員を割く必要がある。県知事に来年以降のことも考えて現地で働くスタッフを集めてもらうつもりだが、それでも俺たちが抜けることができるようになるには時間がかかるだろう。それぞれ、どこでどんな仕事をしたいか考えておいてくれ。若手政治家なら接客も可能だろうが、それはブラックリスト入りしていない方の若手政治家のみ。ブラックリスト入りをした方はリフトの監視員として昨年と同様、現実の厳しさを存分に体感させてやる」
#br
 この件についても表情だけで判断ができそうだ。若手政治家からの電話に応じたメンバーは特に顕著に現れている。言っていることと考えていることのギャップが激しすぎたせいだろう。あとは細かな人事を考えるだけだが、今回はそれには触れないことにしよう。と思った矢先、あと二週間もすれば月が変わることも考えて誰をどこに配置するか討論をし出した。
「ハルヒ先輩!わたしもハルヒ先輩と一緒に食堂で働かせてください!ハルヒ先輩の料理を習いたいです!」
「それなら、青有希ちゃんの時と同じようにあたしが作っている傍で見ていればいいわよ」
「しかし、そうなると黄ハルヒと有希は別のスキー場のレストランってことになりそうだな」
「では、僕は……「皿洗いなら若手政治家にやらせておけばいい。どうせ去年と一緒で黄ハルヒと一緒にいたいとでも言うつもりだろう?」
「『では、僕は』としか発言していないのにそこまで見破られるとは思いませんでしたよ。しかし困りましたね、とすれば僕はどこに向かえばいいのかさっぱり分かりません」
「さっき、大阪一号店を任せると言ったはずだ。来月までにできるだけ叩き込んで欲しいとは言ったが、それでもアルバイトだけで運営していくにはまだまだ経験不足に変わりは無い。十二月の時点でOGの方に抜けてもらう。とりあえず、それぞれで自分ならどこに向かうかを考えておいてくれ。去年も青俺から話題に挙がったが、ビラ配りすらできないような状態では駄目だ。夜練も入ってくるし、告知に向かっている影分身を除いた残りの意識を半分に割るくらいか。来月金曜日は今泉和樹でストレートのみになりそうだ。俺からはこれが最後だ。来たる十二月二十八日(火)の夜六時から、天空スタジアムで社員と楽団員の忘年会を行う。ビュッフェ形式で鉄板料理や野菜スイーツなどの用意もするつもりだ。全国の店舗から社員を集めてきてもらいたい。それに伴って各店舗にFAXを送信して、参加・不参加の確認をとってもらいたいのと、コンサートのステージは敢えて残しておいて、樂団員有志たちによる演奏をしてもらおうと考えている。メンバーを集めて、曲を決めて、グループで練習する時間を考えれば、今のうちに連絡しておいた方がいいだろう」
『分かった、どちらもわたしが対応する。団員には明日の練習でその旨を伝える』
「対処法として間違っているとは言わんが、せめて口の中のものを飲みこむなりトイレやシンクで吐き出すなりしてからにしろ!!どうしてそれより先にテレパシーで対応する手段を選ぼうとするんだおまえは!!会議中にトイレに行くくらい誰も止めやしないだろうが!!」
『わたしは議事録をまとめる役。会議が終わるまでは離れられない』
「やれやれ、ああ言えばこう言うだな。なら、口の中のものをテレポートしたらどうだ?」

 

 その策に気付かなかったらしい。佐々木が怒ったときのように唾液で膨らんでいた頬がいつも通りの有希に戻った。が、今のやり取りで何のことか察したらしい。今度は青有希からよだれが出てきた。
「やれやれ……内緒にしておくつもりだったのに、今の黄俺と黄有希のやり取りでカレーのことだと分かったらしいな。ことカレーに関する妄想力は二人とも古泉と変わらん」
「黄キョン君、いつカレーを作るのかわたしにも教えて」
「月曜の夜の予定だ。しかし、よだれとは一言も言っていないのによく分かったな」
「黄わたしがそんな状態になるなんてカレー以外考えられない」
やれやれ、いつまで経っても止まらなさそうだが、最悪の場合青有希のみおでんにすると言えばなんとかなるだろ。
「すまん、一つ確認させてくれ。SOS団とENOZで撮影すると言っていたCMと曲はできているのか?」
「もうとっくにCMとして流れているわよ。あのTV局の社長も謝罪に追い込んだし、こっちの方は出演依頼がこないかもしれないわね」
「それでもCMで流れているのなら十分です。スキー場でも流す予定でしたし生放送に出演せずとも問題はないかと。ドラマのセカンドシーズンの合間にも流してはいかがです?残りは今までCM起用で何度もお世話になったところでいいでしょう」
「なるほど、ではこちらから連絡を取ってみよう。また朝比奈さんにCM出演の依頼がくるかもしれない。スポンサーとして表示するとはいえ、以前と同様タダでということでいいかね?」
『問題ない』

 

 今後の予定のことで長かった会議も終わりようやくそれぞれの仕事にバラけて行った。青ハルヒがこれを聞いてどれだけのことを考えているかというのも気になるが、一人で抱え込まなければいいんだが……以前にも似たようなことがあった気がするが……まぁいいか。どうなったかはこちらから聞けばいいだろう。昼食、夕食の支度を終えて、明日のディナーの仕込みに入っていた。その間に朝倉による二回目の斬撃が報道陣を襲う。文字通り首の皮一枚を残して大量出血を防ぎ、全身を切り刻んで放置。自業自得だ、救急車なら自分たちで呼べ。仕込みを終えてランチタイム後の社員食堂へと降りた。俺が夜のスタッフに化けるのであれば、料理長が古泉に変わっただけでいつもの三人と変わりない。アンケートの方も無事に各部屋に配ることができたようだし、特に不満も無かったようだ。あるとすれば『ここ以外の合宿所にはもう行きたくない』という程度。こちらとしてはそれだけで十分満足だと言えるだろう。金曜日の朝、朝倉に報道陣を切り刻んでもらったにも関わらず、日テレ以外のTV局他報道陣がまたしても押し寄せていた。早朝から今夜の野球の観戦をしようともう客が並んでいる。朝の会議で今回は『威力営業妨害にあたる』として試合前に警察に通報し、報道陣を逮捕するよう連絡すると古泉から案が飛び出し、自ら警察に連絡するとのこと。早朝からSPが出ることになったが、まぁいつも通りであることに違いないSPを立たせている間に昼食と軽めの夕食の支度、打ち上げの料理を作っていた。ここのところ、青新川さんに任せてばかりだったからな。その旨を伝えて青チームを連れて携帯の購入に向かうよう進言しておいた。昼食には青OGからアンケートの集計の結果が届き回転寿司が一番多かったとのこと。回転寿司にするには昼食を全員栄養満点ランチにする必要がありそうだが、前日の夜練で連絡ができるだろう。
 時刻はすでに午後四時をまわり、大画面には会場図が提示され、パトカーが十数台も現れた。並んでいた客も何が起きたんだと様子を見ていたが、パトカーの中へと連行されるのは敷地外にいた報道陣ばかり。古泉からの連絡で逮捕状が出ていたとしてもおかしくない。再三忠告を受け、けが人も何人出ているにも関わらず、未だにこれだけ大勢集まっているんだ。こちらの対応としては真っ当といえるだろう。テロをしているのが俺たちだという点を除いてな。年明けの香港、台湾、中国はマネージャーに連絡して、俺自らリムジンの運転をすることにしよう。もう、青俺に頼む必要もない。

 

 午後五時をきっかけにSPが一人ずつ客を通していく。前の人間を押してまで入ろうとする奴には無論閉鎖空間の壁にぶち当たっていた。相変わらず列に紛れ込んでいた報道陣を牢屋に閉じ込め、スタジアム内に客を誘導すること20分、場内の様子が良く見える座席はもう満員だという青俺のテレパシーを受けてこちらも同期した。本社の外で案内させている影分身には、関が埋まってしまっている入口の前に立ってもらうとしよう。しばらくして満席になったとテレパシーを受け、列を確認すると、ざっと30人ってところか。
「立ち見でも良ければ」
と言って客を通し、並んでいた全員がスタジアム内に入り込んだ。列に紛れ込んでいた報道陣数人をようやく解放すると、案の定SPに向かって殴りかかってきた。あの動画を見ているのかどうかは知らんが、殴りかかってきたらどうなるか例を見せている。以前のように小指だけで相手をすることなく、容赦なく全員殴り飛ばしてから客に邪魔にならない位置に蹴り飛ばし、SPと案内役を本社に戻した。敷地外にはSPに叩き潰されて気絶している報道陣だけが残っていた。
「どうやら、案内も終えたようだね。列に紛れ込んでいた報道陣はどうしたんだい?」
「ああ、あの動画が全国に流れているにも関わらず、案の定殴りかかってきたからな。今度は殴り返して、今は敷地外で気絶しているよ。善良な市民さえいれば救急車でも呼んでもらえるかもな。勿論警察が事情聴取をしに来たときの証拠VTRも抑えてある。他の報道陣と同様、もう逃げられないはずだ。命を落とすことの無いだけ感謝してもらいたいね。年明けの香港、台湾、中国の動き次第では、本当に死んでもおかしくない。まぁ、報道陣が死ぬくらい俺にとっては何とも思っちゃいないけどな」
意識を本体に戻すと既にスターティングメンバーがグラウンドで練習中。ブルペンではジョンと青ハルヒが青俺や青鶴屋さんを相手にピッチング練習中。相手の方は、結局国民的アイドルだけで、前回打席に立った大御所芸人は解説にまわったか。予想通り、海外組は誰一人としていない……か。カレー食べ放題とでも提案しておかなかったら来週も紅白試合なんてことになりかねん。
「では、念のためポジションと打席を確認しておきましょう。一番ライト涼宮さん、二番セカンドハルヒさん、三番ファースト朝比奈さん、四番サード黄僕、五番レフト黄鶴屋さん、六番キャッチャー鶴屋さん、七番センター朝倉さん、八番ショート有希さん、九番ピッチャージョン、以上です。こちらの予想通り、今回も海外組はいないようですね。彼の提案では、一回だけはジョンがピッチャーを務めて、二回以降は涼宮さんにという話でしたが、海外組にも来てもらわないと勝てそうにないと相手に植え付けることにしましょう。一回で終わらせて構いません!宜しくお願いしますよ?」
『問題ない!』

 
 

…To be continued