500年後からの来訪者After Future6-16(163-39)

Last-modified: 2016-11-28 (月) 15:55:24

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future6-16163-39氏

作品

未来から戻ってきた後、相変わらず敷地内に蔓延っている報道陣の対応のため、一回目は警察を呼んで追い払ってもらい、二回目は朝倉のナイフで切り刻み、三回目は試合を直接見ようと本社前に並んでいた観客の前で威力営業妨害であるとして報道陣がパトカーで連行されていった。試合後に有希に頼んでまた動画をUPしてもらうことにしようと思ったが、小指だけで迎撃するならまだしも、殴り返しているからな。止めておいた方がいいか。各メディアからすれば二、三人程度だろうが、大怪我や病院送りに加えて、警察に捕まるような人間が出てきてしまっては人手不足に変わりは無い。それでも本社に蔓延るようなら、上の方も相当なバカだということだ。古泉と園生さんのチャペルも決まり、いよいよ試合直前。青古泉の『海外組にも来てもらわないと勝てそうにないと相手に植え付けることにしましょう』の一言に全員の士気が高まった。

 

 もはやどちらの世界でも国民的アイドルを軽視できなくなっていることに関しては承知の上。一回表、バッターボックスに立った青ハルヒに場内から歓声が上がる。SOS団団長としてこれ以上の場はあるまい。相手の出方を見てから余裕の表情で出塁。続くハルヒも一球目を見逃して青ハルヒが盗塁。二球目をバントに構えた振りで青ハルヒを三塁まで出塁させた。こっちの世界ではまだ見せていないプレーだからな。第三球、サード側にバントといきたかったんだが、外角狙いではそれも難しい。一塁側へバントを放ち、ピッチャーがそれを捕りに向かう。勿論、送球先は一塁ではなくキャッチャー。ボールを受け取った頃には青ハルヒが目前に迫っていた。
「え~~~~~~~~~~~!!そのまま突っ込むの~~~~!?確実にアウト捕られるじゃん!!」
ジョンから受け取ったスカ○ターでアナウンスや実況、相手ベンチの声がすべて聞こえてくる。驚いているのは国民的アイドルだけではなさそうだな。だが、驚くのはここからだ。鶴屋さん曰く、手首と肘を掴んだまま腕の外側を回り、後ろに倒す技を「正面突き四方投げ」という名前がついているらしいが、この場合「正面突き」にあたる部分が相手のミットなのだろう。ミットを避けて手首や肘を掴むことなくキャッチャーの横を通りすぎ、振り返りざまにミットを後ろに回したが、青ハルヒがそれをスライディングで避け、ホームベースにタッチして先制点を獲得した。会場内がハルヒ達のプレーに呆れながらも、青ハルヒのスーパープレーに盛り上がっていた。
「くっくっ、ツーベースヒットやホームランならまだしも、内野安打とバントだけで先制点を勝ち獲るなんてね。一塁側にバントしてアウトにすらならないなんて僕も予想外だよ」
「おや?ジョンから指示を受けていたとはいえ、振り逃げでアウトを免れたのをもうお忘れですか?今後、あの布陣が敷かれたとしても、有希さんとあなただけで先制点が稼ぐことができるでしょう」
スロー再生は当然青ハルヒとキャッチャーのやり取りを映したもの。上から撮影したものでないことを残念に思っていたが、キャッチャーの後ろから撮影したものでも青ハルヒの動きが九割方収められていた。

 

「いや~~相変わらず序盤から魅せてくれますね~。一塁に向けたバントでノーアウトなんて驚きましたよ」
「これが二番手の本当の仕事だと知らしめたようなもんだよね。ボールが当たる直前までバントに構えられちゃ、三塁への盗塁は刺せないよ。一塁側へのバントは仕方がなかったんじゃないか?外角のボールだったし」
「でもさぁ、タモさんさぁ、今の避け方、スローVTRでも確認したけどあれはいったい何なの!?何かの技なわけ!?プロ野球でも、あんなプレーをする選手なんて見たことないよ?俺」
「バレーで避けるなんてありえないし……本人に聞いてみるのが一番手っ取り早いんじゃないの?」
「インタビューで答えてもらえるかどうか分からないけども、一応聞いてみよう。野球やバレー以外の何かだということは間違いない」
細かいところまで解説してもらって助かるよ。通常のアナウンサーや実況が来るよりもよっぽどマシな気がするぞ?鶴屋式合気道技くらいならインタビューに応じてもよさそうだ。鶴屋さんの株もあがるしな。その間に会場中の男たちが吠えて吠えて吠えまくっている。次は会場中の女性が黄色い歓声を上げることになりそうだ。ホームランでも打とうものなら「ボールにサインしてください!!」なんて強請られてもおかしくない。朝比奈さんの打席でランナー一、三塁、ハルヒにも合気道技を試すチャンスがやってきたが、古泉の選択はライト方向目掛けたホームラン。一挙に4-0と差を広げたがベンチで文句を言い出したのは無論ハルヒ。
「ちょっと!古泉君、どうしてあたしが三塁にいるのにホームランを打っちゃうのよ!!」
「涼宮さんのプレーでキャッチャーには警戒されていましたからね。ここは敢えて四番としての仕事をしたまでです。松井選手も仰っていたではありませんか。それに、ハルヒさんなら同じ状況をもう一度作ることができる。違いますか?」
「次はアシストしなさいよ!?」
「了解しました」

 

しかし、流石は平均視聴率33.6%コンビ。バッターボックスに立っただけでこの盛り上がりとはな。ついつい、ホームランボール争奪戦を繰り広げていた客席に視線が行ってしまった。W鶴屋さんがアウトを取られるはずもなく、進塁を目的としたバントで青朝倉が出塁してノーアウト満塁のチャンス。安易に初球からバントに出てしまっては佐々木のときのような布陣が出来上がってしまう。ある程度様子を見てツーストライクまできたところで三塁目掛けてバントを放った。本家本元、ホームを狙った鶴屋さんの合気道技だったが、うっかり肘を掴んでしまい反則としてアウトになってしまった。その後、ジョンがバックスクリーン直撃弾を打ったのは言うまでもなく、ハルヒに譲るとばかりに青ハルヒもソロホームランを放ち9-0。有希や朝倉の出る幕はどうやら無さそうだ。
「面白くなってきたじゃない!とどめの10点目はあたしが勝ち取ってやるわ!!」
士気が上がり過ぎて失敗する例をこれまで何度も見てきたが、今回はそうじゃない事を祈ろう。先ほどのハルヒの打席からか、バントを警戒してショートの選手が前に出てきたが、一、二塁間を狙った打球に反応が遅れて見事にハルヒが出塁。有言実行、青みくると二人で先ほどと同じ状況ができあがった。
「くっくっ、これは困ったね。イチロー選手がいない以上、彼はどこに打ったらいいのか教えてくれたまえ」
「強めのバントでサードゴロにする他無いでしょう。ハルヒさんがホームに着く前にダブルプレーを取られては、折角のファインプレーも水の泡になってしまいます」
「だが、同じ技を二回も見せられれば、何かしら対応策を立ててくるんじゃないか?」
「そうにょろね……相手が何もしてこなければ、条件が揃わず技を使うことができないっさ!」
そうしている間にボールがバットに当たる音が鳴った。監督の読み通りボールはサードに向かって飛び跳ねていく。作戦らしいものは何一つ浮かばなかったが、まぁここは、お手並み拝見といこう。ボールを受け取ると、自分がミットを突きだすから避けられると判断したキャッチャーが膝立ちのまま自然体で構えた。勢いを落とすことなくハルヒがホームに突っ込んでいく。斜め前に右足を出したところでミットが真横に向けられて進路を遮られたが、それを見たハルヒが両足を揃えて上に跳んだ。やれやれ、今度は鶴屋式合気道技を囮に伸身ムーンサルトかよ。前宙で良いんだからなと念を押しておいたんだが、アイツがそれに応じるわけがない。案の定空中で捉えられてOUT『とどめの10点目は~』とか抜かしてなかったか?おい。

 

 さっきの不手際の分とばかりに鶴屋さんがホームランを放ち、これで12-0。青鶴屋さんは順等に出塁したものの、ヒットを打つ以外の選択肢が無くなってしまった青朝倉、青有希が内野ゴロに打ち取られようやく一回の表が終了した。
「選手交代です」
まだ二回にすらなっていないのに誰を交代するのかと思いきや、鶴屋さんと青朝倉を下げて代わりに有希と朝倉をレフトとライトに配置。青ハルヒはその分センターへと動いた。この回で終わらせるつもりらしい。この後のインタビューで青ハルヒになんと答えさせるつもりだコイツは……
「ちょっとあんた!あたしにイチローのプレーの真似をさせてくれるんじゃないの!?」
「それはライトでなくとも可能ですし、ライトでは黄朝倉さんに先を越されてしまいましたからね。この回で容赦なく叩き潰します。涼宮さんが登板しなかった理由を聞かれたときは、アンダースローだけが自分たちの武器ではないことを見せつけたかったと答えていただければそれで結構です。あとは周りが勝手に我々の攻撃力の秘密について解釈してくれるでしょう」
「そういえば、前回の試合の後、超サ○ヤ人の投球を受け止める方も凄いと専門家が話していたにょろよ!今日はどうするつもりっさ?」
「前回は180km/hの球でも掠りましたからね。間違いなくそれにチャレンジしてくるでしょうし、前回は青俺の後ろに固い壁を用意していたくらいの説明ならしてもいいでしょう。壁が無いとどうなるかも含めて。今度は国民的アイドルが受けさせてくれなんて言ってきてもおかしくありませんよ。さて、俺は色紙とサインペンの用意をしてチアガールの声帯を治しに行ってくる。そろそろ催眠を解いてもいいだろう」
『色紙とサインペン!?』
「そういえば………黄古泉君のホームランボール、女性ファンが奪い合いをしていたわね。字が汚いのはどちらの古泉君も変わらないし、ボールみたいな曲面に書くよりは色紙の方が書きやすいし、野球にあまり興味の無いファンでも喜ぶってところかしら?」
「失敬な。ボールにサインをするくらいなら僕にだって可能ですよ」
「『キョン』と『ジョン』以外何と書いてあるか分からず、朝倉にシートを取り上げられていた奴に言えるセリフか?色紙とサインペンって言うのはそういうことなんだろ?」
「色紙でもちゃんとサインが書けるか不安が残るが、ボールに直接よりはマシだろう?とりあえず行ってくる」

 

 ベンチでサインの話で盛り上がっていた間に、有希と同等かそれ以上のジョンの采配で相手バッターが次第に追い込まれていき、一人目は三振。二人目は青ハルヒの念願が叶ったセンターフライ、三人目は有希の超光速送球に終わった。イチローの真似をしてとりこぼしたらどんなペナルティをつけようか迷っていたくらいだ。『それはそれで防ぎたくなったな』とか言ってたクセに、なんだかんだでちゃっかり盛り上げているじぇねぇか。ハルヒに後で聞いてみることにしよう。黄チームSOS団メンバーその8としてジョンを加入させるかどうか。青チームが文句を言いそうだけどな。
「すみません、涼宮選手と朝比奈選手にインタビューさせていただきたいのですが……それからキョン社長に例のパフォーマンスをお願いします」
「ハルヒは分かるが……どうして黄古泉じゃなくて朝比奈さんなんだ?ドラマも日テレじゃないし」
「ネックレスのことじゃないかい?でも、このユニフォームであのネックレスをつけたらどうなるかくらい分かると思うけどね」
「とにかく、行くだけ行ってみましょ」
それなら、その間にこの後のことを考えて、アレを取りつけておこう。どうなるか楽しみだ。インタビュアーは勿論この前別の局で顔を合わせたばかりの大御所MC。
「涼宮選手、お疲れ様でした。圧倒的大差での勝利だったけども、やってみてどうだった?」
「今まで練習を重ねてきて、本番で試してみたかったことも成功できたのでそれが嬉しかったですね」
「本番で試してみたかったというと、最初に見せたあのプレー?実況席でもあんなプレー、プロ野球でも見たことが無いなんて話していたんだけども、あれは何かの技なのか?それともその場の閃き?」
「うちのメンバーの中に合気道の達人がいるんです。本来なら相手の手首と肘を掴んで後ろに倒す技なんですけど、それを相手の腕を掴まずに脚のステップだけで回避したものです。鶴屋さんがあたし達に教えてくれて、本人も同じ技で抜き去ろうとしたんですけど、いつものクセでつい手が出てしまったみたいで……」
「それで反則が取られていたのか。しかし、合気道技とは驚いたねぇ……他にも教わっていたりするの?」
「今のところこれだけです。相手を避けて通りすぎる技は少ないらしくて、鶴屋さんも何か別の方法を閃いたらあたし達にも教えてくれるって話してくれていたんですけど、それも難しいみたいです」
「ちなみに今日は登板しなかったみたいだけど、何か理由でもあったの?」
「今日はジョンが投げた後にあたしが登板する予定だったんですけど、今回はあたしのアンダースローだけがSOS団の武器じゃないってところをお見せしたかったので、ジョンに先に出てもらいました」
「メジャーリーガークラスの球速が出ていたけれども、どうやったらあんな球が投げられるんだ?」
「キョンもジョンも全身の筋肉を鍛えていて余計な脂肪がほとんどついていないせいだと思います。投球フォームを練習して実際に投げてみたときは本人たちも驚いていました。あたし達がその球に慣れて、打ち返せるようになる頃には変化球も覚えてくれたんです。その投球を相手にバッティング練習をしてきました」
「なるほどね~。涼宮選手ありがとうございました~」
「ありがとうございました」

 

「中○君は今後どうするんだ?あんな投球でバッティング練習されていたら手の打ちようがないんじゃないか?」
「いや~僕も今の涼宮さんのインタビューを聞いて驚きました。あのチームの攻撃力の秘密がようやく分かりましたよ。年内は我々も忙しくなりそうですし、難しいと思いますが、海外で活躍している選手を呼び戻すくらいでないと勝てないかもしれませんね。涼宮さんも長門さんもイチローをイメージさせるようなプレーを見せてくれたので」
「この後はまた例の球に挑戦するつもり?」
「そうですね、前回は掠ったので今日こそ当てたいと思います。それに、もう一段階上の球を今度は受けてみたいと思ってるんですよ」
『あの球を受ける!?』
「金属バットが破壊されるくらいの威力ってことは分かっているんですけど、受けてみてどの程度のものなのか実感してみたいんですよ。それに、今回は金属バットの業者が世界一頑丈な金属バットを作ってくれたので、それでどうなるか試してみようかと」
「中○君さぁ、今そんなことして年末年始の番組出られるの!?金属バットを破壊するような球にキャッチャー用防具をつけたところで、布きれと変わらないじゃん!?」
「それならわたしが保障します!」
大御所芸能人達の間に割って入った青みくるに対して、ベンチにいたメンバー全員が驚いていた。
「みっ、みくるがあんな大御所芸能人の会話に割って入るなんて信じられないっさ!」
遮音膜を張っていないせいもあってか、青みくるの行動に大声を上げることもW鶴屋さんが笑い転げることもなかった。というより、それすらできないくらいの光景を眼にしたって感じだな。
「朝比奈さん、保障するってどういうことか説明してもらえますか?」
「最初はわたしも怖くてバッターボックスにすら立てなかったんですけど、キャッチャーになった人たちからは『一ミリもズレることなくミットに収まった』って何度も言っていました。だから、ちゃんと構えているだけでミットに収まるように投げてくれるはずです!」

 

「折角ですから、タカさんも受けてみませんか?それが本当なのか確かめたくなりました。打つ方は次回やることにします。朝比奈さんの言っていることが嘘だとは思えないので」
「え~~~~~~~っ!!俺があんな球をとるわけ!?前のときは光ったようにしか見えなかったんだぜ?」
「心配いりませんよ。構えているだけでOKなんですから」
「あのぅ……わたしはここで何をしたらいいんでしょうか?」
そこにいた大御所芸能人全員がハッとした表情を見せた。今回は生放送じゃないし取り返しがつく。二人続けてインタビューしたように見せることだって可能だ。
「タモさんが僕に話を振ってくるからじゃないですか!」
「いや、俺も160km/h台の投球を相手に練習していたことに驚いて、頭の中が真っ白になっていたから中○に振ったんだけども。とにかく仕切り直そう。……続いて朝比奈みくるちゃんです」
「宜しくお願いします」
切り替えが早いな、おい。流石長年の生放送でギネス記録を取っただけのことはある。
「さっきの涼宮さんの話を聞いて俺も驚いていたんだけど、みくるちゃんもあの投球でバッティング練習をしていたってことでいいの?」
「そうですね、どんな変化球がきても打ち返せるくらい徹底的に練習してきました」
「今回は一度しか見る機会が無かったんだけども、長門さんのレーザービームを受ける練習もそれで自信をつけたのか?」
「長門さんが正確に投げてくれるので、わたしはほとんどグローブを構えているだけでした」
「ちなみに、別の局で見せてくれたネックレスはどうしてるんだ?あの衣装のときにしか使わないの?」
「わたしのために折角作ってくれたものなので、あの衣装のときだけじゃなくて肌身離さず付けるようにしています。でも、このユニフォームやディナーの接客用の衣装みたいにネックレスが隠れてしまうときは別のものをつけているんです」
「隠れてしまうのに別のネックレスをつけるって一体どういうこと?」

 

 見せた方が早いと判断したんだろう。ユニフォームで隠れていたキーペンダントを取り出した。
「これまた凄いネックレスだね~。これも社長に作ってもらったの?」
「いえ、これはお店に行って購入したものです」
「ちなみにいくらしたんだ?」
「えっと……確か、167万円です」
『167万!?』
「このネックレスにした理由を聞いてもいい?」
「このキーペンダントでわたしの鍵を開けられるのは………あとは秘密です」
にっこり笑った青みくるに男性ファンが熱狂。167万円もするとはいえ、こっちなら買うことができるからな。
「朝比奈みくるちゃんでした。ありがとうございました~」
「ありがとうございました」
一回で勝負が決まってしまったが、生放送で全国に中継しているわけでもないし、尺は十分とれたはず。後は超サ○ヤ人での投球を見せるのみ。青俺がミットとキャッチャー用の防具をつけてグラウンドに現れた。
「その防具、お借りしてもいいですか?」
自分のチームのところにもあるだろうに、どうして青俺に一度つけたものを再度脱げと言えるんだ?まったく。
「中○さん、受ける前にお話ししておきたい事があります。一球だけ見ていてもらえませんか?」
青俺の周りに俺と大御所芸人たちが集まりカメラも近づいてきた。
「金属バットを破壊するほどの威力ですから、当然ただ受けるだけではボールの威力には勝てません。前回はキャッチャーの後ろに見えない壁を作って後ろに吹き飛ばされないようにしていたんです」
説明をしながら壁に色をつけて大御所芸能人達が納得し、カメラに収まったのを確認して壁を取り払った。
「今から壁抜きの状態で受けるとどうなるかお見せします。見るのは構いませんが、彼の後ろには絶対に立たないでください。よろしくお願いします」

 

 有希はこの球を受けて後ろに転がった。青俺がどうなるかは俺もやってみた試しがないが、大御所芸能人たちの期待を損ねることにはならんだろう。マウンドから青俺を見据えたところで第一球を投じた。
『えぇ―――――――――――――――――――――――――っ!!』
どうやら有希と同じらしいな。ボールがミットに収まったと同時に真後ろに転がり続け、壁にぶつかるまで勢いが緩むことはなかった。コーティングしているとはいえ、目が回ってなければいいんだが……
「中○君さぁ、俺にこんな球捕れって言うの!?」
「いやぁ、それにしても驚いた。後ろに立つなという意味が良く分かったよ。間違いなく巻き添えを喰らってる」
「べーさん、因みに今の球何km/hでしたか?」
「えっ!?あ、えーと……223km/h」
「前回見ていたからそこまで驚かなかったけど、それでも220km/hを超えてくるんだね。中○君本当にこれを受け止める気?」
「今度は壁ありだと思うので一球だけ挑戦してみます!最後の一球は例のバットがどうなるか試させてください」
某社長がその発言に安堵し、青俺が脱いだ防具を国民的アイドルがつけ始めていた。防具としての機能を活かせるとは到底思えないという発言も出てきたことだし、最後は防具をつけなくてもいいだろう。国民的アイドルがキャッチャーになった分、某社長が例の金属バットを携えてバッターボックスについた。キャッチャーの背中に再度閉鎖空間を出して準備万端。第二球、バットを振ることすら許されず、国民的アイドルの構えたミットに見事に収まった。後ろに押される分の威力は閉鎖空間の壁によって遮られた。
「っぱねぇ~……」
「中○君、どうだった?」
「いや~~半端じゃないっすよ!あんな球、後ろに壁でもないと受け止められませんって!!こんな剛速球をミリ単位でミットに収められるなんて未だに信じられないです!」
「なら、あと一球でこのバットがどうなるかだよね?」

 

 やっと俺の出番かと言いたげにジョンがベンチから現れた。あの威力を立て続けに見せられては、持っているだけでも嫌がるだろうな。某社長からバットを受け取り、ジョンがバッターボックスに入った。
「今度は我々もどこに打球が飛ぶか分かりません。キャッチャーの後ろに隠れて見ててください」
「キャッチャー用の防具をつけなくてもいいの!?」
「さっきどなたかが仰っていたではありませんか。この球の前では布きれのようなものだと。つけるだけ時間の無駄になりそうですからね。このまま投げることにします」
さて、ジョンにはもう結果が分かっていそうだが、特注したバットが果たしてどうなるのか。俺も楽しみだ。第三球、ボールがバットに当たる音が鳴り、丁度俺の真上に打ち上がった。ピッチャーフライになっただけでも上出来か……って、ん?なんだこれは?
「えぇ―――――――っ!?世界一頑丈なバットだって言ってたのに、それでも破壊されたの!?」
「でもさぁ、ピッチャーフライでも一応打ったんだからいいじゃん!」
「ボールならここですよ」
前回と同じセリフ同じ動作で、青俺が後ろに隠れていた大御所芸能人たちにミットの中身を見せた。ミットには間違いなくボールがおさまっている。
「えぇ!?ちょっと待ってよ!俺、ボールが上空に上がるのを見たぜ!?」
「俺も飛んでいったのは見た」
「キャッチしてから違和感に気が付きました。みなさんが見たのはこれです」
『バットの先端!?』
「もう、こうなったら世界各国回ってでも、この球に対抗できるバットを作るしかないんじゃない?中○君も180km/h台に挑戦するんでしょ?」
「いやでも、関○さんこれ以上は、バットは破壊されなくてもボールに当てることすらできなくなりそうですよ」
「中○君、それどういうこと?」
「バットが重くなって振るのが難しくなるんです。ただでさえとんでもないスピードなのに、彼でもタイミングを合わせられるかどうか……いや、でもそうですね。関○さんの言う通り世界各国探してみることにします」

 

 国民的アイドルのその一言を気に今日はそれにて解散。青ハルヒに大御所芸能人たちの見送りを任せて、俺たちは81階へと降りた。フロアにいないのは青ハルヒと天空スタジアムの掃除を任せた青OG達、加えて、ホームランボールを勝ち取ったファンが古泉にサインを求めていた。先ほどの色紙にサインを書き、ホームランボールと一緒にその女性に渡して戻ってきたらしい。そろそろ使い方が雑になってきてもおかしくないと思っていたが、夜景を見るためには余計なものはあってはならないと観客も思っているらしい。今後もそうあって欲しいもんだ。全員揃ったところで青ハルヒが乾杯の音頭を取る。
「それじゃあ、今日の試合の勝利を祝して……乾杯!」
『かんぱ~い!』
「しかし、青ハルヒがソフトボールを投げる件もそこまで慌てる必要も無くなったようだな」
「どういうことよ!?」
「さっき国民的アイドルが口にしていたよ。『年内は我々も忙しくなりそうですし、難しいと思いますが』ってな。年内に野球の試合をやる可能性はほとんどないだろう。異世界の方も含めてな」
『そんなに待てるわけないじゃない!!』
「紅白試合するわよ!紅白試合!!明後日はカレーの件があるから無理だけど、再来週ならいけそうね!」
「駄目だ、忙しくなるのは何も国民的アイドルに限ったことじゃない。その日はブラックリスト入りした政治家連中の引っ越し作業がある。時間はあっても余計疲れるようなことをみんなに強要するわけにもいかん。それとな、さっきの一言と一緒にこうも言っていた。『海外で活躍している選手を呼び戻すくらいでないと勝てないかもしれませんね』要するに、こちらの世界でも次の試合から海外組が参戦してくる可能性が高くなったってことだ。しかも有希と青ハルヒでイチローをイメージさせるようなプレーを見せている。とすれば……あとはどうなるか分かるよな?」
『面白いじゃない!』
「それならそうと早く言いなさいよ!そういうことなら来年でも許すわ!今度こそ二塁で刺してやるんだから!」
「随分盛り上がっているじゃないか。一体何の話をしていたのか僕たちにも聞かせてくれたまえ」
「なぁに、年内はこれで試合は無さそうだが、年が明けてからはこちらの世界でも海外組が来る可能性があるって話をしていたんだ。それまでにしっかりと練習を重ねておけなんて捉え方もできる。少々早いが俺たちの冬休みの宿題ってところだ」
「それはそれは……こちらの世界でも海外組が参戦するとなれば、ハルヒさん達でなくとも『面白いじゃない!』と言ってしまいそうです。来月は我々も更に忙しくなりそうですし、時間を気にしている暇もなさそうですね。スキー場やホテルでの我々の配置はもう決まったんですか?」
「それを今話して明日の朝まで覚えていられる自信があるか?」
「これは手厳しいですね。では、酔いつぶれる前にジョンの世界に行くことができるよう善処することにします」
「くっくっ、ジョンの世界に行くだけならテレポートの要領で行けばいい。しかし、話題に上がってしまっては僕も気になって仕方がない。明日の電話対応をどうするのかも含めて教えてもらえないかい?」

 

「暫定的に決めてはいるが、岩手の方はどのくらい人をかき集めたのかで変わってくるし、おまえはドラマの撮影があるだろう。そっちのスケジュールはどうなっているのかちゃんと組んであるんだろうな?それに、明日の電話対応はニュースを見てから判断することになるだろうが、今のところ必要はない。ロクな電話がかかって来ない」
「ロクな電話がかかって来ないとは一体どういうことだね?」
「まず、今日のことをふまえて明日の各新聞社の一面記事がどうなるか」
『あたしが一面を飾るに決まっているじゃない!』
「んー…黄ハルヒは無いとして、ハルヒは序盤に得点したところの写真が精々一社、黄古泉のホームランで一社、国民的アイドルが世界中のバットを探しまわる件で一社、あとは全部黄俺か朝比奈さんだろう。朝比奈さんの一言で全部もっていかれたようなもんだ」
『どういう意味よ!!』
「『このキーペンダントでわたしの鍵を開けられるのは………あとは秘密です』なんて言われたら、熱愛報道にまで発展しかねない。相手が誰なのかまたしつこく聞いてくるだろう。八割方黄古泉だと勘繰ってな。朝比奈さんへの取材や番組出演の依頼、黄古泉も同様だ。加えて例の曲でつけていたネックレスの方は売ってもらえないのかというファンからの要望。ついでに、ペンダントはどこで売っているのかなんてくだらん電話まで飛び込んできそうだ。そんなに気になるなら少しは自分で調べろと言いたいね。月曜日に社員も入れて対応した方が断然マシだ。社員だってどこで買ったものなのか知らないんだからな。ハルヒも自分が新聞の一面を飾りたいのは分かるが、今日の結果を受けて明日どういうことになるのかちゃんと考えないとな。社長として動くからにはそういうところも必要だ」
「ぐ……うるさいわね!あんたに言われなくても分かっているわよ!」
「なら聞かせてくれよ。四月から異世界の本社がお披露目になるとして、それまでにいつ、何をするつもりなんだ?」
「三月になったら垂れ幕を下げて四月一日から面談開始に決まっているじゃない!」
「店舗はどうするんだ?」
「スキーシーズンなんだから増やせるわけないじゃない!」
「そうでもありません。地元の方は大分経験を積んでいますからね。アルバイトの中から次の店長を選出して三号店を任せてもいいかと。それなら我々が加入しなくて済みます。加えて、去年のように次第に我々が現地に行かなくても済むのなら都内も次の店舗を建ててもいいかと」

 

 案の定、大雑把なものしか決まってなかったか。しかしまぁ、青俺や青古泉が居れば問題はなさそうだな。みくるは鶴屋さんと話していて例の件の自覚は無いようだが、古泉はそろそろか。
「ところでハルヒ、明日からこっちの世界で配るビラは出来ているんだろうな?」
「当ったり前よ!もう青キョンのヘリに積んであるわよ!」
『キョンパパ、わたしもう寝たい』
「よし、それなら一緒に風呂に入って寝るか」
「伊織パパ!わたしも一緒に入る!!」
「じゃあ、四人で行くぞ」
『問題ない!』
「すまんが、よろしく頼む」
「ああ、影分身ですぐ戻ってくるが、四月以降のことについて青ハルヒともっと綿密に話し合っておいてくれるか?こんな状態じゃ安心して社長を任せられん」
「分かった」
「ちょっと!安心して任せられんってどういうことよ!!」
「それなら、どんな垂れ幕を下げるつもりなのか詳細を教えてくれないか?」
「社員、パート・アルバイト、デザイン課社員、調理スタッフ募集の四つ以外に何があるって言うのよ!」
「社員もそうだが、特にデザイン課の社員は何歳から何歳までだ?それに、調理スタッフはランチタイムだけか?」

 

「んー…それもそうね。社員は18~20代、デザイン課の社員は中卒からでもデザインが良ければOKにするわ!新川さんがディナーを作るわけじゃないんだし、調理スタッフはランチタイムだけでいいじゃない!」
「涼宮さん、我々の世界での本社はこちら側以上にホテルフロアが多いんです。新川さんのディナーが無くとも朝食や夕食のスタッフは必要不可欠。それにスイートルームを予約してくる客にだけは新川さんに料理を振る舞ってもらう必要があるでしょう。ここに来訪したハリウッドスター達と同じですよ」
「それにデザイン課の社員は15以上18未満はデッサンを持参するのは勿論だが保護者同伴とかな。給料の使い方に注意させないといかん」
「も―――――!!いちいちめんどくさいわね!あんた達がそういうならそれでいいわよ!」
「そういうことも考えていかないと駄目だってことだ。ハルヒが社長だと全国生中継で宣言した以上、社長は変えられん。四月からの面接も誰がどういう役周りにするか決める必要も出てくる。スキーシーズンも終わっていないし、復興支援のことだってあるんだ。朝倉と黄有希はおでん屋が忙しい時期だし、俺も古泉も異世界支部の発展に向けて色々と考えているが、おまえも事細かく考えていかないとな。勿論黄俺も気にしてくれているし、おまえの案の抜け落ちた部分は俺たちが補充する。ビラ配りにあれだけやる気を出しているんだから、そう面倒臭がらずに一つずつ考えてみろ。たまには黄ハルヒと交代して、おまえもバレーの試合だって出ればいいのに、今まで一度も交代したことがないだろう?」
「ぶー…分かったわよ。あんたの言う通り、たまにはあたしもバレーに出てみたくなったわね。明日は代わってもらおうかな……でも、とりあえずスキーシーズンのおススメ料理とドラマ撮影になりそうね。あたしも影分身を覚えてビラ配りと仕込みの両方をできるようにしないといけないわね」
「なら明日はビラ配りと交代しましょ。古泉君たちも一日おきに出てるみたいだし」

 

「んー…ドラマ撮影の方は基本的に平日かジョンの世界でってことになりそうだな。例の女子高潜入事件はまだ先のようだし、ハルヒの出番はそこまで………何ぃ!?」
「いきなり大声出すんじゃないわよ!!」
「おまえはアレを見て驚かないのか!?黄古泉はダウンしているのに、黄朝比奈さんがこの時間帯になってもダウンしていないなんておかしいだろ!!」
「キョン、それは黄鶴屋さんと話しているからじゃないの?」
「いいや、黄鶴屋さんが居たとしてもとっくに潰れている時間だ。ソフトドリンクってわけでもなさそうだし、まったく酔っ払っている気配が無い」
「黄みくるちゃん、それ本当にお酒!?酔っ払っているんじゃないの!?」
「はい。お酒に間違いありません。あれっ!?そういえば、全然酔っ払ってません」
『全然酔っ払ってない!?』

 
 

…To be continued