500年後からの来訪者After Future6-17(163-39)

Last-modified: 2016-11-28 (月) 15:02:43

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future6-17163-39氏

作品

現実世界での試合を終え、世界一頑丈なバットを持ってしても超サ○ヤ人の投球を打ち返すことはできず、破壊されてしまった。その後の会話で年内に試合を組むのは難しいが、こちらの世界でも海外組を呼ぶというフレーズにハルヒ達が大盛り上がり。青ハルヒにはこれから社長としてのスキルを学んでもらう必要が色々とでてくるがみくるの体内に仕掛けておいたものが効果を発揮したらしい。俺の影分身が81階に戻る頃にはフロアが沈黙で満たされていた。

 

「折角の打ち上げだってのに、何だ?この通夜の後みたいな雰囲気は」
「朝比奈さんがこれだけお酒を飲んでも全然酔っ払ってないんだ。古泉君はもうとっくにダウンしているんだけどね。二人とも酒に慣れる訓練を始めた時期は一緒だし、ここまで違いが出るとは到底思えない。まさかとは思うがキョン、キミが何かしたんじゃないのかい?」
「あ――っ!!それよ!佐々木さんの言う通りだわ!あんた、みくるちゃんの身体に何したのよ!!」
「……やれやれ、もうバレるとはな。まぁ、みくるがこの時間になっても起きているなんて今日が初めてだし、誰かしら違和感を持って当然か」
「ですが、あなたが施した何かしらの対策で酒に弱い人間をここまで強くさせるとは、何をしたらこうなるんです?」
「正確には酒に強くなったわけじゃない。アルコールを吸収される前にテレポートしたんだ」
『テレポート?』
「色々と調べて試しにみくるに膜を張ってみただけなんだがな、アルコールはそのほとんどが小腸で吸収される。だから、小腸の手前でアルコールだけテレポートするような仕掛けを施した。あくまで『ほとんど』だから、みくるも酔いつぶれるだろうと思っていたがどうやら平気みたいだな」
「だったら、どうしてみくるちゃんだけなわけ!?古泉君にも付けてあげればよかったじゃない!」
「今回は特別だ。理由は青古泉も今日のスターティングメンバーを発表するときに説明していただろ?有希と朝倉を外した理由の一つだよ」
「なるほど、確かに僕が話したんでしたね。『次回はW鶴屋さんが家の用事で出られないかもしれない』から、今日はとことん二人で話をさせたかった。……違いますか?」
「ああ、それに加えて、毎回この膜で対応していたらいつまで経っても酒に強くなることは無いし、酒に酔う気分に浸ることはできない。古泉の方は訓練を継続して、ダウンしたときは園生さんが古泉を自室までテレポートする修行にもなる。本人は実感が湧かないだろうが、妻に介抱してもらった事実だけでも十分嬉しいだろ?」
『なるほど!』
「キョン君がそこまで考えてくれていたなんて、あたしも嬉しいにょろよ!今夜はみくると一晩中語り合うことにするっさ!」

 

 一晩中なんて鶴屋さんも大袈裟だと思っていたが、結局、ここで全員寝ることになるのかよ。古泉は園生さんがテレポートしたし、妻とOGはいつものフロアで腕枕だな。あとは自室に送り届ければいいだろう。食器の片付け担当もどうやら俺になりそうだ。みくる達の部屋にW鶴屋さんを寝かせて片付け作業に勤しんでいた。
 翌朝、各新聞社の一面記事は予想通り青みくるの独壇場。例のパフォーマンスはあの番組で放送するからVTRを渡さなかったと判断して良さそうだ。『熱愛発覚!?朝比奈みくる爆弾発言!!このキーペンダントでわたしの鍵を開けられるのは……』などと青みくるのコメントをそのまま利用した記事ばかり。あとは『合気道技炸裂!!』なんて見出しで青ハルヒが写ったものが一社、『女性ファンがボールの奪い合い!想いのこもったホームラン炸裂!!』と古泉の本塁打で一面記事を飾ったものが一社。VTRも青ハルヒと青みくるのインタビューがそのまま流れていた。案の定、敷地外には溢れんばかりの報道陣。死んでいてもおかしくないほどの怪我をしても、逮捕された奴がいても考えは変わらんらしい。バレーの取材で本社に入った奴を除いて昨日と同じ対応だな。
「それにしても、こっちのキョンの予想通りだったわね!みくるちゃんの一言だけで記事が差し替わるなんて想定外よ、想定外!」
「ですが、当初の目的は果たせたのですから、いいのではありませんか?」
『当初の目的って何よ!?』
「ジョンがハルヒの前に先発ピッチャーとして出た理由を忘れたのか?この分だと、俺は投げずに済みそうだな」
「くっくっ、そうだね。僕たちの攻撃力の秘密は見せたけれど、これがバレーの非公開練習に繋がっているとは誰も思っていないはずだよ。そういう意味じゃ、朝比奈さんのコメントも丁度良かったんじゃないかい?インタビュー以外でも、『キャッチャーになった人たちからは』なんて言い方をして言葉を選んでいたからね」
「ネックレスのことを聞かれるって分かっていたのに、わたし、どうしてあんなことを……今日から一体どうしたらいいのか分からなくなりました。黄わたしにも迷惑をかけちゃって」
「やることならこれまでと変わらん。コメント一つで報道陣が騒ぎたてているだけにすぎん。異世界の方には全く影響が無いし、そっちの方でなら何も気にすることなくビラ配りが可能だ。午後も試合に出たいときは体育館に行って、バレーに関すること以外はノーコメントだと貫けばいい。こっちの世界でのビラ配りもよりみくる達に集まりやすくなるだけの話だ。しつこいようなら青俺が迎えに行くだけで十分対応できる。そこまで落ち込むようなことでもない。敷地外に蔓延っている報道陣がバカなだけだ。いくら怪我しても逮捕されても懲りない奴等だからな。今日もバレーの取材で敷地内に入った奴以外は警察に通報して逮捕させる。みくるに取材を試みようとする奴が勝手に入れなくなるだけ。昨日、古泉の言っていた威力営業妨害ってヤツだ」

 

「みくるの悩みをすぐに解決してみせるなんて、黄キョン君流石にょろよ」
「似たような例が前にも数回あっただけですよ。俺たちからすればこんなもの困ったことでも何でもありません。青ハルヒが異世界とこっちの世界のことを混同してしまった発言をする方がよっぽど困る。こっちの世界で初めてイチローが来たのに『前にイチロー選手が来たときに……』とかな。有希、後でこれまでのインタビューシーンだけまとめたものを青ハルヒに渡しておいてくれるか?」
「分かった」
「昨日打ち上げの最中に話にも出たが、来月からの俺たちの振り分けを話しておく。あくまで暫定的なものであっていくらでも変更は可能だ。これまで聞いた希望も含めて配置してみた。何かあれば後で教えてくれ。スプリングバレースキー場は現地の人たちで運営可能になった。リフトの管理をする建物にも空調を完備した閉鎖空間が備え付けるだけなんだが、ただ一点、スキーウェアの販売&レンタルについてはサイズ違いに対応する必要がある。古泉の影分身で店員として付いてくれ。料理長のおススメも古泉だ。泉ヶ岳スキー場の方には、食堂に青有希、青OG二人。レストランの接客担当が岡島さん、財前さん、みくる、料理長のおススメ担当が青ハルヒだ。若手政治家二人にここで皿洗いをさせる。場合によっては夜は接客として出てもらうつもりでいる。フロントは森さん、青佐々木だが、月曜朝の混雑時は他のメンバーも入ってくれ。安比高原スキー場の方は食堂にハルヒ、それから料理を習いたいと言っていた青OG。レストラン担当が榎本さん、中西さん、佐々木、料理長のおススメ担当として俺が入る。皿洗いは泉ヶ岳スキー場と同じ。フロントには首相と園生さんについてもらいたい。その分朝倉が編集部とデザイン課の統括だ。各ホテルの警備に若手政治家を交代で付かせる。リフト券売り場には閉鎖空間はつけないが、去年リフトの監視で働いていた政治家を配置して前よりはマシな人事にした。その分、ブラックリスト入りの連中はリフト管理所で寒さに震えながら仕事をしてもらう。引っ越しの順番と同様、一番きついところから配置をしてくれ。あいつらには目の前に吊るされた人参を食べようとする馬のように働いてもらう。もっとも、そんな人参は最初から用意されていないとも知らずにな。夜は客がレストランに集中している間に全客室の布団敷き。これについてはブラックリスト入りしているしていないに関係なく政治家連中にやらせる。青俺は、ビラ配りのヘリの運転と、新しくOPENする二か所のスキーウェアのサイズ変更にまわってくれ。ビラ配りは青ハルヒ、青有希の代わりとして有希、青みくる、青朝倉の四人。青朝倉と有希はそのままおでん屋の経営だ。青ハルヒも途中抜けしてディナーの仕込みに入ってもらっても構わん。影分身で対応するならそれでもいい。やり方は任せる。全員の食事は十二月から朝昼晩すべて青新川さん。片付けはほとんど俺になるだろう。大阪一号店は昨日話した通り、青古泉と青OGの二人、池袋店には青裕さん、オフィスの電話対応は青圭一さんと愚昧、人事部には圭一さんと父親、古泉で頼む。レストランの接客メンバーは催眠をかける必要はないが、サインは断ってくれ。催眠をかける必要があるのは、サイズ変更要因としてウェアの販売所にいる古泉のみ。そのまま向かうといつまで経っても販売所から客が出てこない。ウェアについては今まで人気の高かったものを置くが、二月号としてデザインができていれば情報結合したものを俺にくれ。電話対応に追われる場合もすべて俺がつく。とりあえず以上だが、何かあるか?」

 

「スキー場が二つも増えて去年よりももっと忙しいのに、私たちは何もしなくていいんですか?」
「午前中から夕方まで、ずっと体育館で身体を動かしている六人に比べれば、俺たちの仕事なんて大した労力でもない。ただ、黄佐々木の体調が気になる。そのときだけ代わってもらえればそれでいいんじゃないか?」
「そうだね、ぜひそうさせてくれたまえ。去年と違って今年はキョンのシャンプーや全身マッサージが堪能できるんだ。疲れなんてそれで十分吹き飛んでしまうよ」
「こっちも了解よ。振袖優先だけどスキーウェアの方も考えさせてみるわね」
「こちらも同様です。袴と並行してウェアを考えさせることにします」
「しかし、いくら配置場所が離れているとはいえ、ハルヒさんには催眠をかけた方がいいのではありませんか?」
「くっくっ、心配はいらないよ。テレポートなら昨日だって堂々と見せているじゃないか」
「こっちの世界にいるのに、黄ハルヒばっかり催眠をかけた状態というのも何か悪い気がするしな」
「古泉君も心配しすぎよ!あたしなら心配いらないわ!!」
「それなら、昨日の件で一つ報告がある。先週も今週も他の客に紛れて天空スタジアムに入ろうとしてきた報道陣のほとんどがTBSのカメラマンだった。SPに殴りかかって来たのもそうだ。要は社長も謝るつもりが更々なければ、社員も強行突破しようと試みている。テレビ朝日やフジテレビでも渋々承諾するようにしたんだ。たとえ社長が謝罪したとしても、向こう一年間は使わせないようにしようかと思っているんだがどうだ?ちなみに、渋々承諾したところも、『天空スタジアムを使いたいのは構わないが、何かしらこちらの優先すべき内容が入った場合はそちらを優先する』と条件づけようかと思ってる。異世界での試合が重なった日は特にな」
「黄キョン先輩、そこまでやってきてるのなら、もう使わせる必要なんてないんじゃ……」
「そうです!暴力事件として現行犯逮捕してもいいくらいです!」
「SPに殴りかかろうとする勇気だけは認めてあげてもいいかもしれないわね。それとも、あなたが化けたSPじゃ、そこまで威圧感が無いのかしら?」
「それを言うとハリウッドスターのSPも威圧感が無いと言われてしまうぞ。それ以外の客は十分すぎるくらい怖がっていた。あいつらがアホなだけだ」
「その様子では、来月以降レストランに入れることもできそうにありませんし、今流しているCMもTBSだけ止めることにしましょう。今どうするか考えても時間の無駄ですよ」

 

 古泉のその一言で朝の会議もそれで終了。ジョンのSOS団加入の件も相談しようと思ったが、もうほとんど加入しているようなもんだしな。その日はハルヒと青ハルヒが仕事を入れ替って青ハルヒが試合に出場。夜に近づけば近づくほど、青有希のよだれが止まらなくなり、事情を聞くとカレーを作っている俺の服から匂いが漂ってくるらしい。そんなことを言っていたら、有希や青朝倉にしみついたおでんの匂いはどうなるんだか。圭一さん達の休みの日ということもあり、電話対応は一切しないまま一日を終えた。
 月曜日、前回は途中でアラームが鳴ってしまった分、今回は腹いっぱい食べると豪語して子供たちが出かけていった。まさかとは思うが、胃袋までハルヒの遺伝を受け継いでいるんじゃあるまいな。幸の場合はカレーのみ別腹……とかな。水曜日に大阪一号店のオープンがあるくらいであとは何事もなく事が運べるとおもっていたのだが、夕食前になって練習試合を終えたOG達がエレベーターを降りるなり叫んできた。
『大ニュースです!大ニュース!!』
『大ニュース?』
バレー関係で大ニュースってなんのことやらさっぱり分からん。
「くっくっ、これで子供たちが日本代表に選出されたなんてことになったら、大事件になりそうだ。世界各国の代表の相手が小学校低学年なんてね」
「それが大ニュースにならないことくらい、この六人だって分かっているだろう」
「とにかく、何が大ニュースなのか説明しなさいよ!」
「えっと、日本のバレーボール協会から通達がきたらしくて、来年の世界大会も今年と似たような結果を残せるのなら試合のない十月から一月末まではそれぞれの会社で自主練習ってことになったんです!二月の初めにこのビルに集まって、そこから日本代表チームとしての練習開始だって言ってました!絶対、結果残して帰ってくるので、私たちにも先輩たちの仕事を手伝わせてください!!」

 

 説明としては簡潔で適切だったと思うが、衝撃の事実に周りの反応が遅れることしばらく。
「えっと……つまりどういうことなのかしら?」
最初に口火を切った青朝倉も瞬きの回数が増えている。
「くっくっ、一年中縛られていたのが四ヶ月間だけはそれが無くなったってことだろう?彼女たちの場合は、練習はジョンの世界でしているわけだから、昼の間は僕たちの仕事に加わることができる。週一回のディナーも夜練の必要もないってことさ。再来年の二月に再度集まったときに防御力にどれだけの差が出るのか楽しみになってきたよ」
「ですが、六人にとってはあまり良くないニュースになりそうですね」
「えっ!?私たちにとって良くないニュースって、古泉先輩、それどういうことですか!?」
「その四ヶ月間、選手は自分の会社で練習を続けますが、今のように午前中から夕方までというわけにはいきません。加えて、監督やコーチはその間何をしているのかを考えれば……」
「何するの?」
「私に聞かれても…」
「新戦力の発掘だよ。おまえらが引退した後、日本が負け続けるようになったら困るだろう。『零式があったから勝つことができた』と全世界の人間にそう見られることになる」
「加えて、九月の大会では監督が『リベロの必要が無くなった』とコメントしていますからね。六人のうちの誰かをリベロとしてコートに加えて、現リベロは日本代表チームから外される可能性が高くなります。勿論、交代も含めてレギュラーから外されてばかりいるような選手も足切りという形で日本代表を引退することになることも考えられます。その分、将来有望な新戦力を加えて二月にここに集まる。あなた方もそのうちの一人というわけです」
「私は絶対に足切りなんてされません!!この六人で結果を残してみせます!!」
「キョンの零式は絶対に破らせない。零式改(アラタメ)も絶対習得してみせる!」
「その意気なら当分心配なさそうだな。二月にここに集結した段階で監督をガッカリさせるような真似だけはするなよ?」
『問題ない!』
「でも、選手の皆さんが会社に戻るって一体どういうことですか?」
「みくるちゃん!ここでクリスマスカップをやったときのこと忘れたの!?選手全員同じチームじゃなくて、別々の会社でバラバラに参加していたでしょうが!六人とも日本代表だったの一つしかなかったでしょ!?」
「ですが、それ以降はとても有意義な二週間を過ごしていましたし、僕もハルヒさんに言われてようやく思い出しましたよ」
「ついでに、黄ハルヒがつわりで胃の中のものを戻したこともな」
「そういえば、丁度この子が生まれる一週間前だった。ところで黄キョン君、夕食はまだ?」
「ハルヒのつわりを思い出した直後にカレー食べ放題ってのは勘弁して欲しかったな。まぁ、いいだろう。ルールは前回とほとんど変わらん。有希と青有希は専用の鍋が空になるまで他のメンバーの鍋には手を出せない。変更点はスープとサラダが残っていてもおかわりOK。その代わり、満腹になる前にはちゃんと食べきること。みくると古泉にはそれに加えて酒がつく。そうだな、あるアニメで例えるなら『お残しは許しまへんで~!!』ってヤツだ」
『問題ない!いただきます!!』

 

「ん~~~美味しい~~~!キョン先輩、ご飯にターメリックを加えただけでこんなに美味しくなるんですか!?」
「ターメリックライスに合わせてルーの方も多少調整した。前回とはまた違ったカレーになっている。ちなみに、社員や楽団員の忘年会でもカレーを作るつもりでいる。ビュッフェ形式だから余ったらまたここにいるメンバーで食べよう。俺たちの忘年会はまた別日になるだろう」
「駄目、それだけじゃ足りない。わたし達の忘年会でもカレーを作って」
「告知が終われば、また抽選会を定期的に行うことになる。そのときに作ってやるから忘年会のときはそれで我慢しろ。しかし、大ニュースと聞いて俺はてっきりまた後輩が何かやるもんだとばかり思っていたぞ。北高の運動会もダンスは未だにソーラン節じゃなくてハレ晴レユカイだからな。毎年団長の腕章とカーディガンを誰がつけるかで三年生が争っているそうだ。岡部も当時のバレー部顧問もとっくに別の学校に変わってしまったんだが、よくやるもんだと思っていたよ。北高の伝統行事みたいなもんだ。またダンス用の曲を作ってみるか?ハルヒ、青有希ときたから、今度はみくるがセンターかな?」
『面白いじゃない!』
『新しいダンス!?キョンパパ、わたしもダンス踊りたい!』
「三人はその前にフレ降レミライをマスターしないとな。今度は幸をセンターにして踊ってみるといい」
「伊織パパ、それホント!?わたしもママのダンス踊りたい!」
「じゃあ、左右反対のDVDを見ながら真似をするところからだな」
『問題ない!』

 

「例の椅子にデザインを頼みに行ったときにサイコメトリーでもしたんですか?文化祭も終わっていますから今年度は難しそうですが、来年度はあの年のように運動会をジャックしてもいいかもしれませんね。新曲を引っ提げて」
「ダンスを覚える側の身にもなって欲しいわね。わたし達だけならまだしも、ビラ配りに出る青チームも覚えなくちゃいけないのよ?」
「心配いりませんよ。今はスキー場に流すために作った曲とセカンドシーズンのオープニングとエンディング曲の告知で当分新曲は出せません。スキーシーズンが終わってからでも十分時間を取れるはずですよ」
「くっくっ、なら今度のコンサートでキミも踊ってみないかい?僕の代わりに青チームのキョンが踊ってくれるんだ。青朝倉さんの代わりにキミが出れば丁度いいじゃないか。SOS団ファンだけが集まるわけではないからね」
「それも面白そうね。あんた、黄佐々木さんの催眠じゃなくて、髪型だけ変えてキョンになりなさいよ。立体映像としてしか見られないのならキョンが踊っていても大丈夫でしょ?」
「俺はそれでも構わんが、衣装はどうするつもりだ?今さら北高の制服なんて言わないだろうな?」
「このバカキョン!立体映像としてしか見られないって言ったでしょうが!ここにいる半分以上が女子高生役をすることになるんだし、北高の制服を着ていても過去のものとしか見られないわよ!」
「だったら、踊りたそうにしている奴に譲ってやってくれるか?今回は青チーム五人でってことになりそうだ」
「踊りたそうにしている奴って誰のことよ!?」
「ハルヒの振り付けパートなら間違いなくすべて踊りきる。そうだろう?古泉」
「黄僕がこれから振り付けを覚えることになるのなら、僕が立候補しようと思っていましたが、バレていましたか」
「というわけだから、メンバーはこれで決まりだ」
「ですが、催眠をかけて出ることが可能になりましたし、あなたや青僕のようにピンチダンサーとして出ることも考えなくてはいけなくなりそうです。僕も早急にダンスをマスターすることにします」

 

 W有希は自分たちの鍋の横に移動して黙々と食べ進めているが、他のメンバーは味わって食べてくれているらしい。今回は互角かW有希の方が勝つかもしれん。
「そうだ。久方ぶりに告知に行っている影分身と時間が合ってな。今日は俺もジョンの世界でバレーがしたい。青チームで相手になってくれないか?青ハルヒもソフトボールを投げる練習はまだ先でもいいだろ?」
「それは構いませんが、我々を相手にあなた一人で勝負するように聞こえるのは僕だけですか?」
「そんな無茶な真似はしないさ。それこそ25-0で終わってしまう。闘うのは『俺一人』じゃなくて『俺たち』だ」
『はぁ!?』
「黄キョン君、子供たちと一緒に試合をするの?」
「いや、そういうわけじゃないんだが、試してみたい事がある。まぁ、この後のお楽しみってことにしておいてくれ」
『不思議探検ツアーをする』と言ってみたり、『今度はカレンダーにSOSと刻む』と言ってみたり、これまでの行動で、俺が情報を公開しないときはどんなアプローチをしかけても喋ることは無いことは、ここにいるメンバーにインプットすることができたようだ。それぞれで俺が一体何をするつもりなのか考えていた。まぁ、何人かにはバレていてもおかしくはない。時間制限が無くなった分、三人揃って『お腹が痛い』と言いだした子供たちに、胃の中のカレーをキューブで収縮して皿に残った分は残さず食べるように促した。子供の身体で四回もおかわりをする方が無茶だ。ハルヒや有希たちがいる分、勝負で負けたくなかったのかもしれん。負けず嫌いは……ハルヒだけでなく、俺にも似たのかもしれん。

 

本体がいつものように子供たちを連れて風呂に入っている間に81階ではWハルヒとW有希の争いになっていた。エージェント達ですらギブアップしたのに本当によく食べるもんだ。クミンシードでライスをアレンジするのだけは絶対にしないでおこう。最後の方はライスの方が少なくなっていたが、それでもW有希には関係ない。全体の量の半分を有希たちだけで食べつくしてしまった。
告知の方もホテルに到着し、いつものようにヒロインの家のベッドで二人で横になっていた。たまには俺の方が先に寝た振りをしてもいいだろう。寝ている間に俺の身体を弄ばれた気がするが、今の精神状態なら眠れないなどということもあるまい。ジョンの世界に早々に飛び込んでバレーボールの感触を確かめていた。今なら零式改(アラタメ)が撃てるかもしれん。ちょっとだけ試してみることにしよう。トスの段階から高速の前回転をかけ、零式と同じ要領でサーブを放った。トスの際にかけた高速回転に零式の回転がしっかりと上乗せされ、白帯の上部に触れた瞬間に空中に浮かびあがることなくネットを蔦って落ちた。落ちるスピードも零式を上回り、コートに落ちた後もバウンドすることなく床を転がって反対側のエンドラインを越えていく。落ちた後にバウンドしないのは計算外だったが、とりあえずこれで理不尽サーブ零式改(アラタメ)の完成だ。
「これがOGの練習していた理不尽サーブ零式改(アラタメ)ですか。白帯にあたっても浮き上がらないのでは、零式の対処法は使えそうにありませんし、あんな高速で落とされては最初から前に詰めていない限り対応すらできずにコートに落ちてしまいそうですね」
「全身マッサージをしていた他の連中と違って来るのが早いな。全部見られていたか」
「ええ、あなたが話していたことが気になりましてね。ある程度の予測はついたんですが、本当にそんなことが可能なのか確かめたくなったんですよ」
「まだ案の段階だから俺もこの後どうなるかは分からん。ただ、年越しパーティが終われば影分身のことも全米や日本全国に広まる。二月に入ったら、生放送は他のメンバーに全部譲るから、一日だけ『俺たち』だけで闘いたい。おそらく、どのチームともプレースタイルが違ってくるはずだ」
「生放送を他のメンバーに譲ってまでとは気になって仕方がありませんよ。青チームのメンバーが揃うまで待ちきれそうにありません」
「聞こえたわよ、キョン!」

 

 声がした方向に古泉と二人で向き直ると、言葉を発した青ハルヒ、古泉と同様気になって仕方がなかったらしき青古泉と、全身マッサージを終えた青有希、青みくる、青佐々木、青俺が現れた。ハルヒ達やOGもその後ろからやってきた。
「生放送の出場を蹴ってまで丸一日練習試合に出ようなんていい度胸してるじゃない!あたしたちに負けたら一日たりともあんたには譲らないんだから覚悟しなさいよ!!」
「なら、準備運動をしてさっさと始めようぜ。閃いたまでは良かったが、試すチャンスがなくてこっちもうずうずしていたんだ」
「先ほど零式改(アラタメ)の完成形を見せていただきましたが、これまでの零式の対処法が通用しそうにありません。言うなれば、対処法を使わせないための新たなる必殺技と言ったところでしょうね」
『零式の対処法が使えない!?』
「キョン、後で私にも見せて!完成形のイメージがあれば、より早く習得できる気がする」
「ああ、今度は出し惜しみをする必要が無いからな。いくらでも見せてやるよ。もっとも、どこの国も零式の対処法にすら辿り着けていないけどな。俺たちからすれば、あんなものただ返すだけで攻撃のチャンスを一度無駄にしているのと変わりがない」
『キョンパパ!わたしもキョンパパと一緒に試合したい!!』
「ああ、その前にちょっと試したい事がある。そのあとでもいいか?」
『問題ない!』

 

 準備運動を終えてコートの反対側には青朝倉を除いた青チーム六人、こっちのコートは今のところ俺一人だけだ。
「影分身で六人になるんでしょ!?さっさと準備しなさいよ!!」
「やはりバレていたか。なら、遠慮なく」
ユニフォームを見に纏った影分身を五体情報結合。本体や影分身たちの違いをつけるために本体の番号を一番、影分身には二番から六番の番号をふり、背中にはYUKIやMIKURUではなくすべてKYONと記載されている。
「あんた、青チームを相手にこんな状態で闘えるの!?」
「それを今から確かめるんだよ。いつでもいい、始めてくれ」
サービス許可の笛が鳴り、青みくるが大きくトスを上げた。コースが判明した段階で、レシーブする影分身を除いた四体がすかさず攻撃態勢に入る。一人はBクイック、一人はAクイックからのブロード、一人はバックアタック、一人はエンドラインから理不尽スパイク零式、最後はアタックラインから前に飛び込んでくるCクイック。レシーブを敢えて低く上げたボールを超高速のブロードで相手コートに叩きつけた。辺りが静まり返り、ボールの跳ねる音だけがジョンの世界に響いている。
「何よ……?今の………」
「味方に攻撃するようなレシーブだったのに、何で来るのか全く読めなかった」
「わたしのサーブを受ける前に他の影分身が攻撃態勢に入っていました」
「黄有希さんと黄朝倉さんの超高速連携を昇華したようですね。レシーブの段階から無駄な時間を削って受ける準備をする時間すら与えてもらえないようです。ですが、攻撃スタイルも分かりましたし対応できないわけではありませんよ」
「だったら見せてやるよ。理不尽サーブ零式改(アラタメ)をな」

 

 笛が鳴って今度はこちらのサーブ。先ほどと同様、高速の前回転をかけたボールを零式の撃ち方で放った。一縷の乱れもなく白帯上部に触れるとそのまま相手コートに勢いよく落ちた。青俺がレシーブに構えた足の間をボールが転がっていく。
『なっ!?』
「なによそれ!あんなスピードじゃ普通に構えてたって追いつけるわけないじゃない!!」
「だったら俺が最初から前に出る。有希やハルヒもネット際で構えていてくれ。黄俺のことだ、クロスが無いとは到底考えられない」
前衛三人がネット付近で構え、青古泉はその少し後ろか。青みくると青佐々木の守備範囲が広くなっているが、追いつけるのか?……まぁいい。まずはクロスからだ。
「アッ、アウト!!」
撃った瞬間に青ハルヒがアウトだと宣告。三度ボールがネットを蔦って床に落ちた。
「嘘……どうしてコートに落ちるのよ!!零式をクロスであんな位置に撃ったら間違いなくアウトじゃない!!」
「多分、落ちるスピードが早くなったせい。その分クロスに撃っても零式よりも斜めに行かなくなった」
「も――――――――――――――っ!!ちょっとあんた!もう一回あたしのところに寄こしなさい!今度こそ取ってやるんだから!!」
「なら、さっさとボールを戻せ。始められないだろうが」

 

 ご注文にお応えしてもう一発。無論、青ハルヒのかまえはネットを蔦う前に対処する、俺たちしか知らない零式の解決法。しかし、バックトスをする前に超高速回転の餌食となり、ホールディングの笛が鳴った。
「やれやれと言いたくなりましたよ。一瞬たりとも宙に浮かないのではネットを蔦って落ちようとする球の回転に対抗できません。零式の改良版というのが良く分かりました。あのサーブの攻略は次の機会にすることにして、ラリーの応酬に切り替えませんか?どこから攻撃が来て、どの影分身が取ればいいのか判断に困れば、先ほどのようなプレーはできないはずです」
「仕方無いわね。取られた分を取り返してさっさと勝つわよ!」
『問題ない』
青ハルヒもようやく諦めてくれたか。このセットだけで試したかったのは理不尽サーブ零式改(アラタメ)だけじゃないんだ。青笹木が通常サーブを見事に捉え、青チームが攻撃を仕掛ける。
「時間差!!青俺に合わせて三枚だ!!」
「嘘……ラリーが続いているわけじゃないのに、キョンが青古泉君の采配を読んだ?」
「おそらく、前回の生放送時に見せたものと同じでしょう。全体を見て判断しているに違いありません。ですが、影分身も操っている今の状態では、このセットすら持ちませんよ」
青俺と同時に跳んだ影分身三体に対して青俺に残された手段は三つ。一つ目はリバウンドからの連携、二つ目は影分身の指を掠めるブロックアウト、三つ目は壁を越えたフェイント球。リバウンドをするのが青俺では、いくら青みくるでも咄嗟に合わせられない上に、俺にリバウンドは効かないのも知っている。青俺の選択は影分身の指を掠めるブロックアウト。だが、それもリバウンドと同様視線が指に集中していることさえ分かれば後は腕を下げるだけだ。見当違いの方向にボールが飛んで行き、遠目で見ていたジョンがボールをキャッチした。

 

「まいったね、采配を読まれた上に三枚ブロック。それに加えてブロックアウトも効かないんじゃ、どう対処していいのか見当もつかないよ」
「先ほど黄僕の声が聞こえてきました。全体を見ているゾーンで判断している上に影分身を操っているのなら、このセットすら最後まで集中力が持ちません。三枚ブロックはすべてフェイントで落とすようにしましょう。ブロックに跳んだ分、攻撃に切り替えるまで時間がかかる筈です」
5-0で迎えた俺の第五球。通常サーブを難なく取られるのは今に始まったことじゃない。次は……青有希か。
今度は三枚ブロックには飛ばず、腕の角度でコースを判断すると必要外の影分身が攻撃態勢に入った。青有希の狙いは本体。セッター狙いのつもりなんだろうが、周りにいるのが誰の影分身なのか忘れてもらっては困る。相手が防御態勢を敷く前に超光速Aクイックが炸裂。その後も低いレシーブからの超高速連携で点を稼ぎ25-0で勝敗が決した。
「まったく、理解できないことだらけですよ。前回の生放送のときのように、相手のコート全体を見て判断でいていたのではいないのですか?」
「俺は青古泉しか見てないぞ?」
『はぁ!?』
「ちょっとあんた!ゾーン状態でもセッターの采配は分からないんじゃなかったの!?ラリーが続いたときくらいしか読めないって言ってたでしょうが!!」
「だから修行したんだ。セッターの采配が読めるように。零式改(アラタメ)が使えるようにな」
「修行って、あんたバレー合宿が終わってから一度もバレーボールに触ってすらいないじゃない!!」
「くっくっ、なるほど、そういうことだったとはね。キミはバレーボールの練習をしたわけじゃない。集中力を更に鍛える訓練をしたんだろう?毎日のように影分身を酷使することでね」
「そんな……ゾーン以上の集中力なんてありえるんですか!?」
「あったんだから仕方がないだろ?さっきの超光速プレーは、とあるバスケ漫画で言うと直結連動型ゾーン(ダイレクトドライブゾーン)という名前がつくらしい。あのプレーならレシーブから攻撃に転じているからセッターが迷う暇がない。だから青俺にも采配が読めなかったんだ。そして、青古泉の采配を読み切ったのは、ゾーンの第二の扉を開いた状態。俺が自分で勝手に『覚醒モード』なんて呼び名をつけている」
『覚醒モード!?』

 

 どうやら眠れる獅子を起こしてしまったらしい。武者震いの止まらないハルヒがようやく口火を切った。
「面白いじゃない!あんた、今度はあたし達の相手をしなさい!」
『あ―――――――っ!!ハルヒママずるい!わたしが先にキョンパパと一緒に試合するの!』
「というわけだ。先約が入っているんでな。子供たちも入れて相手になってやる。その代わり、二人ともさっきの俺のプレーについて来られなきゃ、コートから追い出すからな」
『問題ない!』
いくら美姫でも有希の超光速トスは不可能。本体でも影分身でも対応できないときのみ任せることにした。ブロック三枚での防壁プレーは精々男子の世界大会でしか使えないし、ダイレクトドライブゾーンの超光速プレーには不向き。ようやくハルヒ達のチームが決まったらしい。有希のセッター対角にOGをいれてスイッチ要因+防御力上昇。更に美姫の采配なら読めるかもしれないからと青俺がコートに入った。サーブ順はハルヒ、有希、青俺、朝倉、OG、古泉の順。最初のプレーから超高速連携で間違いないな。こっちのサーブ順は美姫、俺(本体)、影分身、伊織、影分身、影分身の順。美姫のサーブからプレーがスタート。ハルヒと青俺の間を正確に狙ったサーブが飛んでいく。有希の采配は……読み通り!!
「B、俺だ。攻撃準備!」
指示の後手を変えてくるのは朝倉に限ったことではない。真下に叩き落としてきた元祖超高速連携を何とか受け止めセンターに上げると、飛び込んできた影分身がそのままAクイック。Aクイックで撃つと見せかけたステップを踏んでいた青俺も、ブロックにすら跳ぶことができずにいた。空いたスペースに叩きこんでまずは一点。次は……
「A、美姫、一歩前!」
美姫以外の五人が攻撃態勢に入った。美姫のレシーブもさっきの俺のプレーを真似た低いレシーブ。それならこっちも対応できそうだな、伊織!今まで有希に上げてもらっていたのか、さっきのセットの見様見真似なのかは分からんが、寸分違わぬタイミングでBクイックを放ちエンドラインギリギリでボールがコート内に落ちた。
「まったく、困ったものです。全員攻撃を仕掛けてもすべて読み取られる上に防御に転じる隙も与えてもらえないとは。しかし、青僕ならまだしも、有希さんの采配まで読まれてしまうとは、想定外もいいところですよ」
「有希先輩でも読まれてしまうんじゃ、私のトスなんて全部……」
「途中でフェイントに切り替えても対応されるしな。さっきのセットもそうだった」
「問題ない。まずはフェイントを織り交ぜてリズムを崩すところから。ここで防御に入ったらわたし達の負け」
「面白いじゃない!キョンの鼻っ柱、圧し折るわよ!!」
『問題ない』

 

『キョンパパ、アルファベットのお勉強?今はバレーの試合中だよ?』
「は?おまえら、クイック技のことを知らんのか?」
『クイック技ってなあに?』
「クイック技だと知らずに今までスパイクを撃っていたのか!?」
頭を45°傾けてしばらく悩むと、元の位置に戻ったと思ったら大きく頷いた。確かに、日本代表のセッターの采配が読めなくなって指示をしていなかったからな。生放送でベンチから俺が指示を出しているところを見てはいるが、コート上で指示を出されるのは二人にとってはこれが初めてになるのか。やれやれ、ということは幸も同じことになりそうだ。青有希辺りに頼みたいところだが、試合が気になって仕方がないようだし……ったく、誰か教えておいてくれよな。
「二人とも、そんな状態じゃ、いくら俺が指示してもどんな攻撃が来るのか分からない。幸も含めて三人で勉強会をするぞ。これをしっかり覚えないと、いつになっても試合に参加できん」
『え――――――っ!わたしは試合がしたいの!!』
「AもBもただのアルファベットとしてしか認識してないんじゃいつまで経っても強くなれない。そこまで難しいものじゃないから今日中にコートに戻って来られる。それとも、試合にはもう出られなくてもいいのか?」
『絶対嫌!キョンパパ、勉強会!!』

 
 

…To be continued