500年後からの来訪者After Future6-18(163-39)

Last-modified: 2016-11-29 (火) 15:58:29

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future6-18163-39氏

作品

スキーシーズンに向けた割り振りも伝え、ようやくジョンの世界に行くことのできる時間ができた。告知の方に使っている意識は目標値の10%。あとはこれで維持できるようにしていけばいい。そして告知開始直後から始めていた影分身の修行の成果がようやく形として現れ、理不尽サーブ零式改(アラタメ)を放つことに成功。影分身五体を使った俺一人対他のチームの試合も、ゾーンの第二の扉を開いた『覚醒モード』とダイレクトドライブゾーンで次々と得点を重ねていた。

 

 幸も呼んでコートから離れたところでクイック技の勉強会。まったく、今まで誰も教えてなかったとは思わなかったぞ。コートの方は俺と俺の影分身だけで練習試合を繰り返していた。AからDまでのクイック技、ブロード、(一人)時間差、ツーアタック、セッターが狙われたときのスイッチとほとんどすべて説明する羽目になってしまったが、時間が来る前にコートに戻ることができてよかった。次は……おそらく日本に戻って来るまでここには来られまい。ハルヒ達は明日も来いなんてうるさそうだけどな。
 カレー食べ放題イベント後、異世界の大阪一号店もアルバイトも十分集まり万全の態勢でのスタートをきることができたし、二日続けて警察に連れて行かれたこともあり報道陣が敷地外に蔓延ることも無くなった。今週のコンサートでまた集まるだろうがやることはこれまでと変わらない。みくる達に日曜の午後に北高に行くことを告げて、並んでいた客たちのチケットを切っていった。
「黄俺、来月からディナーの仕込みもあるし、ライブやコンサートのSPや案内は俺にやらせてくれないか?もうTBSのカメラマン以外はほとんど沈静化してきているんだろ?」
本体は他のメンバーと一緒に食事中。来月からのことも考えればそうなるか。
「なら、次回から交代してくれ。影分身の修行にもなるだろう」
「しかし、年越しパーティでも寿司を握るという話でしたが、本当に大丈夫なんですか?昨日のリクエストディナーもハリウッドスター達の半分の人数ですら、あれだけ作業に追われていたんですから……」
「心配いらん。日本代表もこれで三度目だったかな。年越しパーティのときはビュッフェの料理もあるし、影分身一体を調理場に残して、本体と影分身三体、それに青ハルヒで握ることになる。パフォーマンス込みだから全員に一皿ずつ取られたとしても、味わっている間になんとか間に合うはずだ。昨日は社員やヒロインの分まで作ってもらっていたからな。夕食をちゃんと作っておいたってのに、ここのメンバーまで寿司が食べたいなんて言い出すし。話のついでに、みくるにまた各部署を回ってもらいたい。お茶の方も頼む」
『当ったり前じゃない!あんた、あの程度の量であたしの胃袋が満たせると思ってるわけ!?』

 

 青ハルヒは自分で作って自分で食べているからまだいいが、ハルヒと有希は……仕方がないか。
「とまぁ、有希も含めてこういうわけだ。ハリウッドスター達に用意する量を超えていたかもしれん。しかし、少量でもウニやいくらも用意しておいてよかったな。手を伸ばす選手が数人いるだろうと思ってはいたが、選手たちだけで全部食べつくされるとは思わなかった。ただ乗せただけの寿司ネタじゃシャリしか美味しくないからな」
「そのようですね。昨日は『旬の食材を多く用意した』とあなたから受けた一言をそのまま伝えておいて良かったと言えそうです。アジや鯛、マグロに手を伸ばす選手が多かったかと。しかし、僕は特に影響が無いのでいいのですが、朝比奈さんはコンサート前にお酒を飲んで大丈夫なんですか?」
「はい、少量なら音を外すこともありません」
「くっくっ、彼女なら心配はいらないさ。それより、今回初めてコンサートのステージに立つキミ達に、今の心境を聞いてもいいかい?」
「この間の数字の一件で羞恥心はほとんど無くなってるよ。そんなことより、古泉がハルヒのパートを踊ってしまわないかどうかが心配だ」
「心配いりませんよ。黄有希さんや黄朝比奈さんがセンターに立つときは残り全員同じ動きなんですから」
「我々もじっくりと聞かせてもらうよ」
「それじゃあ、いざ、出陣!!」
『問題ない』
入口のSPと同期してみたが、また同じ奴が客に紛れて牢屋行き。出てきたところでSPに殴りかかってきたか。テレポートの対象をアホの谷口からアイツにしばらく変更してみるのも悪くない。SPに返り撃ちに遭ってチケット代も受け取らないまま帰っていった。もう一万円以上損をしているはずなんだが……安いプライドなんて捨て去ればいいのにな。コンサート開始直後のハレ晴レユカイは青チーム五人と一緒に客の大半が踊っていた。未だに踊りを覚えている奴がこんなにたくさんいるとは。SOS団結団当初から朝倉の入部前までの五人の編成にどこか懐かしさを感じていた。青チームは最初から六人だったから実感が湧かないだろうけどな。

 

 翌日、異世界でのビラ配りを待ってWみくると一路北高の文芸部室へ。煎れたてのお茶を持ったみくるが最初に入り、例の時価数億円のネックレスをつけた青みくるがそれに続く。
『本当にみくるが二人いるとは……』
ここにいる全員が見ているはずだが、一番にセリフを吐いたのがみくる専用の椅子とは予想外もいいとこだ。
「だから、今度はみくるを二人連れてくるって言っただろ?それよりちゃんと考えたんだろうな?セカンドシーズンで収まりきらないくらいのデザインとやらは」
『ああ、これがそう……』『えっ?えっ!?異世界のみくるちゃんってことでいいの!?』『初めましてじゃないんだよね?』『僕たちが忘れているだけだよ!』『僕も覚えていないけど、異世界のみくるちゃん久しぶり!』
おいおい、今度はみくる専用の椅子以外を蹴り飛ばさなくちゃならんのか?
「わたしもあのときはバレーの試合のことで頭がいっぱいでしたから。でも、みなさんお久しぶりです!」
『あ――――――っ!!そのネックレス凄く可愛い!!』『何なに!?何が可愛いの?』『ネックレスだよ、ネックレス!あ、でもイヤリングも可愛いね!』『お揃いで可愛い!!』『フッ、ようやくみくるの良さに気付いたか』
駄目だ。みくる専用の椅子がまともな奴に思えてきた。とりあえず、さっさと用件を済ませてしまおう。
「おまえに一つ朗報だ。前にもらったデザインが全部採用されてな。前回と同じレベルのデザインなら冊子にも掲載されるし、セカンドシーズンどころかサードシーズンでも使われることになった。今回のデザイン、自信のほどはどうだ?」
『ようやく俺のみくるに対する愛を認める人間が出てきたようだ。だが、サードシーズンなどというものがあるのなら先に言って欲しかったな。それなら夏用のランジェリーも考えておいたものを……』
「デザイン課の編集長がな、ここまでのレベルのデザインを大量に考えてこられると、社員に考えさせる必要がなくなるそうだ。ちなみに、サードシーズンと言っても夏じゃなくて秋冬だ。だが、夏用のランジェリーも考えてくれるのならドラマで実際に使うことだって十分あり得るし、冊子にも掲載される。今度来るのはドラマの初回放送日の後か、おまえがデザインした下着が冊子に載ったときになりそうだ」

 

 朝倉の言っていた内容をそっくりそのまま伝えたが、相当嬉しかったらしい。コイツから貰ったランジェリーの情報も質、量ともに表彰状を贈呈したいくらいだ。性癖はどうあれ、なんでこんなにセンスのある奴が人間じゃないのか不思議なくらいだ。影分身の要領で人間の身体を情報結合してコイツの意識を移すなんていうのも悪くないかもしれん。夕食で全員が揃ったら、いの一番に知らせることにしよう。みくるのお茶を啜りながら二人とコイツ等の会話を聞いていた。嵐の前の静けさってヤツかもしれん。明日からはノンストップでイベントが進んでいくからな。こういうときくらいはゆっくりさせてもらうとしよう。
 夕食時、折角俺が最初に話そうと思っていたんだが、結果が気になって仕方がなかった奴が言葉を被せてきた。
「それで、彼のデザインしたランジェリーはどうだったんだい?」
「性癖はどうあれ、どうしてアイツがただのパイプ椅子なのか不思議に思うくらいだったぞ。アホの谷口やSPに殴りかかってくるバカと頭脳だけ取り換えたいくらいだ」
『チェ――――――――――――――――――ンジ!!』
やかましい!そんなにフ○ーザ軍の総司令官になりたいのかおまえは。ったく、話の続きだ、続き。
「くっくっ、今度はジョンが何と言ってきたんだい?」
「そのまんまだよ。ただ、もしそれが可能なら入れ替えてもいいくらいだ。見た目がアホの谷口なのは納得がいかないが、あんなアホはパイプ椅子程度がお似合いだよ」
『見た目は谷口、頭脳はパイプ椅子、その名は……』
「どうして大事な話の途中でそんなセリフを入れてくるんだおまえは!話が先に進まんだろうが!!」
「くっくっ、今のやりとりだけでもジョンが間に入ることのできるフレーズをいくつも言っていたじゃないか。でも、彼を人間にしたいと思うくらいのデザインだったんだろう?」
「ああ、質、量ともに表彰状を進呈したいくらいだった。サードシーズンのことを話したら、今度は夏用のランジェリーも考えておくそうだ。今日ほどアイツがまともな奴に思えた日は今まで無かっただろうな。みくるのパイプ椅子以外の連中を蹴り飛ばしたいくらいだった」
「まわりくどい言い方してないで、さっさとそのデザインを見せなさいよ!!」

 

 俺たちを囲むようにマネキンを情報結合してランジェリーを着せてみせた。女性陣は一つ一つのランジェリーを品定めするように見つめているが、俺と青古泉を除いた男性陣は眼のやり場に困っていた。
「ここにいるメンバー全員、ファッション会社の上役に違いないんだから、男性陣もデザインとしてどうなのか見たっていいんじゃないのか?青古泉のように堂々と見られるのも困ったもんだけどな」
「そんなのいつものことなんだからどうだっていいわよ。でも、あんたが『表彰状を進呈したいくらいだった』って言ってたのが良く分かったわよ。あたしもいくつか欲しいくらいだわ」
「これ全部パイプ椅子がデザインしたランジェリーだなんて信じられません。キョン先輩、私もいくつか貰ってもいいですか?」
「そんなことなら、二人のサイズに合ったものを情報結合するだけだ。どれを選んだのか後で教えてくれ」
「ちょっとあんた!『二人のサイズに合ったものを』ってどういうことよ!?青あたしやOGのスリーサイズを知ってるっていうの!?」
「どちらも妻なんだからそのくらい知ってても不思議じゃないだろ。なんならハルヒのも作るか?とにかく、今情報結合したのはまだ三分の一程度。次のものに切り替えたいんだがそろそろいいか?」
『これが三分の一!?』
「困ったわね、一応記憶しているけれど、あとで全部の情報貰えないかしら?」
「ってことは涼子先輩、これ全部採用するんですか!?」
「二月号の半分は出来上がったも同然よ!ランジェリーとウェアだけで冊子が完成してしまいそうね。ウェアの数を減らさないと、服のコーディネートを載せられないわよ」
「くっくっ、まだ三分の一しか見ていないのに朝倉さんにここまで言わせるとはね。彼をスカウトしてきてもいいんじゃないかい?」
「俺もそうしたいところだが、青古泉がもう一人増えるようなもんだ。それに、部室の他の連中が文句を言うだろう。また足を運ぶつもりだし、そのときに依頼したりデザインを受け取ればいい。とりあえず、次に切り替えるが大丈夫か?」
『問題ない』

 

 結局、アイツが考えたデザインすべて編集長のお眼鏡に叶い、ランジェリーが欲しいというメンバーも多数。園生さんは主張しなかったが、朝倉と有希に情報を受け渡すついでに古泉にも渡しておこう。あとは古泉が情報結合するだろう。その後、圭一さんから来週金曜日にSOS団とENOZの生放送番組の出演依頼が届いたと連絡があった。金曜日に九人も抜けるとなると厳しいところだが、そうも言ってはいられない。ENOZとみくる、佐々木の分は影分身で対応するとしてハルヒの代わりに母親を厨房に入れることにした。政治家連中の引っ越しは俺と古泉だけで十分。念のため古泉の影分身を一体人事部に置くことで意見が一致。次に何か起こるとすれば週末だな。
「すみません、一つよろしいですか?」
「キミから議題が挙がるのも珍しいね。どうかしたのかい?」
「いえ、どんな衣装を着て出演するのかは分かりませんが、宣伝効果を高めるのであれば、青朝比奈さんに出ていただいて、ネックレスをみせてはどうかと思いまして」
「問題ない。青チームの朝比奈みくるがネックレスをつけていても不自然にはならない」
「じゃあ、わたしはそのままレストランで接客ですね」
「でも、来週の土日はまた電話対応になりそうね」
「心配いらん。俺が人事部に影分身を向かわせる」
「おっと、そのことまで考えていませんでした。僕も向かうことにします」
「それじゃ、明日からのスキーシーズンに備えて、休めるときは少しでも休みましょ」

 

 翌朝から政治家連中の引っ越し作業が始まった。三日分の食糧を確保するため、コンビニ弁当だけでなくパンやカップラーメンを多く買いこんでいるブラックリスト入りが多数。自分のことしか考えていないクセに、こういうところは手を抜くらしい。少しは自炊しろと言いたいもんだ。どの政治家も食堂に配置したくても皿洗い以外できそうにないな。ついに十二月に突入し、朝からドラマの撮影スケジュールについて佐々木たちから報告があり、芸能プロダクションからいつ俳優を呼ぶかについても、すでに日程を決めて話を通しているらしい。てっきり美容院のシーンから撮影が始まるのかと思いきや、楽団員はいいとして日本代表は練習が終わらないと撮影に参加できないから夜になるらしい。いくら照明があるとはいえ、昼の太陽光を再現できるわけがないだろうと思っていたのだが、有希なら簡単に太陽を作りだしてしまうだろうし、こっちが夜ならラスベガスは昼だ。悩む必要もなかった。
『弾けて、混ざれ―――――――!!』
とか、ジョンが間に入ってきたんだが、それは太陽じゃなくて月だ。誰も大猿になることはない。今日からメンバーの食事はすべて青新川さんに任せて俺は片付け当番兼ディナーの仕込み。折角日本一の景色を見ながらディナーを楽しめるんだ。極上のディナーでもてなさないとな。二日の練習後、体育館で撮影をしていたカメラマンが練習試合終了と同時に本社から立ち去り、敷地外にいる報道陣もほんの数人程度。テロの被害に遭うこと数回、逮捕されること二回、それでもまだ懲りもせずやってくるんだから本当に馬鹿らしい。報道陣が敷地外へ出ていった時点で今日はもう入れない。たとえ、日本代表チームが天空スタジアム直結のエレベーターに乗るところを見たとしてもな。電話をかけて「入れてくれ」と頼もうとする頃には人事部には誰もおらん。閉鎖空間の条件を切り替え、必要最小限の照明で日本代表チームを迎え入れる。監督たちは夜景に驚き、選手たちはうっとりとした眼で天空の星空を眺めている。景色を堪能してようやく席についた選手たちに極上の料理が運ばれていく。絶景と共にディナーに酔いしれながら、心身の疲れを浄化しているようだった。

 

 スプリングバレースキー場は復興してから二度目のOPEN。平日はそうでもなかったが、金曜日の午後になるとSOS City駅、盛岡駅にはスキー客で溢れていた。我が社で用意したバスに大型免許を持った運転手が席に付き、バスが満員になったところでホテルへと出発。側面や後ろにENOZやSOS団の広告が貼られているのは言うまでもない。青OG達も初参戦するため、『おススメ料理は一回の注文につき一つだけ』と朝の会議でルールを再確認して若手政治家にも伝えておいた。規制はあるものの、どのホテルでもおススメ料理を堪能できれば、客も満足して帰っていくだろう。秘密裏に俺が帰国した上に、どうやって三ヶ所同時におススメ料理が出せるのか……などという疑問が出そうなもんだが、バレー合宿のシーズン中に古泉や青ハルヒが調理場に立っていたことを忘れてもらっては困る。レストランの前には、『レストラン内が大変混雑する恐れがございますので、報道陣の出入りを制限させていただきます 総支配人』と書かれた立札と社長が謝罪していない報道陣を阻む閉鎖空間をレストランを囲うように展開した。ついでに廊下の半分は客が通れる道をこちらも閉鎖空間で確保した。報道陣が邪魔でレストランに入れないなんて容易に想像がつく。自分たちの夕食は自分たちで用意するんだな。準備が整ったところで接客担当のメンバーと若手政治家たちがレストランの接客にあたった。どのホテルでも歓声が上がっていたようで何よりだ。
 翌朝、案の定、新聞社の一面記事が割れた。謝罪した新聞社二社は『キョン社長秘密裏の帰還か!三ヶ所同時におススメ料理!?』、『待ち侘びた瞬間の来訪!究極の料理にレストラン中が舌鼓!!』と見出しが書かれ、TBSを除くTV局はその様子を編集したVTRを流していた。TBSは新聞のみ報道をしていたが、たった二社しか取り上げていないため、アナウンサーも解説に困っていた。この週を終えないと気付かないと思っていたが、こうして新聞記事を並べただけでも分かる奴には分かってしまいそうだな。予定通り、土日の電話対応はしないことにしよう。

 

 ハルヒや青有希、青OG三人を除いたメンバーが81階へと集まった。スキーシーズンの間は双子を保育園に連れていくのは有希の担当となり、古泉や青俺も影分身をウェア販売所に待機させている。
「くくくく……今朝のニュースをちょっと思い出しただけでも笑いを堪えられそうにありませんよ。編集したVTRを流せるTV局ならまだいいですが、TBSもたった二社しか取り上げていない新聞記事をどう膨れ上げていいものか、アナウンサーも困り果てていましたね。今日中に記者会見が開かれてもおかしくありません」
「キミの言う通りなら明日の一面はそっちになりそうだね。しかしキョン、今日と明日の電話対応はしないとキミから聞いた覚えがあるけれど、謝罪した後はどうするつもりなんだい?」
「天空スタジアムの使用の件で叩かれたときと大差はないが、三ヶ月も見て見ない振りを貫き通してきたんだ。いくら土下座謝罪をしてきても、今シーズン中はレストランには絶対入り込ませない。来年のスキーシーズンにはいれてやらんこともない」
「そんなことをしたら、報道陣に睨まれちゃいますよ!!」
「それだけのことをあいつらはやってきた……いや、やらなかったんだ。相応の制裁は受けてもらう。俺たちを敵に回すとどうなるかくらい、充分わかっているはずだからな。それでも本社前をうろつき回る連中が絶えないんだが、そんな末端の雑魚はどうでもいい。古泉でも切り捨てられそうにないのなら俺が対応にあたる。何度かけてこようとこちらの決定事項が変更されることはない。かければかけるほど、そのメディアに対する印象を悪くするだけだ。まぁ、元々悪いイメージしかないけどな」
「随分思い切った行動に出ましたね。ですが、謝罪したから取材させろというのは僕も納得ができません。期間はどうあれ、最低でも一ヶ月は僕も許可できません」
「とりあえず、期間に関しては今議論していても仕方がない。今は現地の住民に少しでも多くスキー場で働いてもらって、俺たちが向こうに行かなくても済むようにすることだ。ディナーとウェアのサイズ変更を除いてな。今日はそのスタッフ募集の案内とアナウンスをする。スプリングバレーのときに、古泉が提案した策で行けば集まるだろう」
「黄古泉先輩がどんな案を出したんですか?」
「確か、農業や漁業にもシーズンオフがあるはずだから、そういう人たちにスキー場に来てもらう……だったかしら?」
「そういや、『外部から募るより、ここは内部から募ることにしましょう』なんて言ってたな」
「一年も前の僕のセリフをよくそこまで覚えてらっしゃいますね。しかも、彼の場合は一語一句違わずとは驚きましたよ」
「わたしもそのときのことをはっきりと覚えています。それくらい古泉君が出した案が画期的で、わたし達がずっと悩んでいたことをすぐに解決してしまいましたから」
「とりあえず、今日の午前中と夕食を食べている頃の二回アナウンスをかけて、警備員に申込書を預けてくる。希望者が出たところで森さんに面接をお願いしたい。去年も話したと思うが、同じ40代男性でも政治家と漁業をやっている人間とでは調理の面で天と地ほどの差があるからな。政治家連中の引っ越し作業をしたときも、コンビニ弁当とパン、カップラーメンくらいで食材なんて一つも無かった。現地の住民が入り次第俺たちが抜けていく。ブラックリスト入りした連中には最後の最後まで過酷な環境で仕事を続けさせるつもりだ。そのあと何の役職にもつけないことすら知らずにな」

 

 報道陣と政治家を陥れる話が続いたせいで周りの顔色が強張るかと思ったが、そのくらいが当たり前とでも言いたげな表情だ。異論なしってことでよさそうだな。
「ところでキョン。次はいつジョンの世界に来られる?零式改(アラタメ)をまた見せて欲しい。確か、アフレコで一度日本に戻ってくるんだよね?」
「あ――――っ!!あんた、あたし達ともう一回試合しなさい!こっちは全員攻撃のまま、あんたのダイレクトなんとかゾーンに勝ってやるんだから!!」
「ダイレクトドライブゾーンだ。七日の午後六時に成田空港に到着して本社に泊まって、八日の午前中にジョンと三人でアフレコに出向く。三時の飛行機でアフリカの次の国に行くことになっている。本人にも聞いてみないと分からんが、ここで皆と一緒に食事をするかどうかは分からんし、スイートルームより自宅へ帰りたいというかもしれん。今までのホテルでもずっとそうやって過ごしてきたからな。食事無しでただ振りをするだけ。金の無駄遣いもいいところだ」
「なら、出迎えは俺が行く」
「いや、俺の影分身で十分だ。香港、台湾、中国も俺の影分身でTV局をまわる。余計な犠牲者は出したくない」
「キョン君、またヒロインさんが襲われるんですか?」
「可能性として高いというだけだ。イタリアマフィアを潰した分、麻薬の取引が不可能になった復讐なんてことも十分あり得る。まぁ、イタリアのときと違って閉鎖空間でガードを固めてあると説明してあるから、そこまでの精神的ダメージを負うことはない」
「一月を楽しみに待つことにしましょう。我々も七日の夜までにダイレクトドライブゾーン対策を考えておくことにします!」
「そういや、この前は俺が勝ったんだから、オンシーズン中の一日だけは俺が影分身五体と出るからな」
「しょうがないわね。約束は果たすわよ。その代わり、生放送には出ないって言ってたんだから、あんたも忘れるんじゃないわよ!?」
「ああ、俺以外の黄チーム、青チームとENOZで編成してくれて構わん。OGは日本代表側だしな」

 

 たったこれだけの内容で随分時間を喰ったもんだ。子供たちは試合に出る気満々だし残り三人はどんなメンバーになるのやら。各ツインタワービルで現地スタッフを募集するアナウンスを入れる以外は昨日と大して変わりはない。翌朝のニュースではTBSと新聞社三社が謝罪会見を開き土下座謝罪。どんなに言い繕っていても他からはレストラン内に入って取材したいだけの土下座としか見られていない。古泉は最低一ヶ月と言っていたがどうなることやら。日曜日のニュースでも新たに新聞社二社と日曜発売の週刊誌三社が社長の謝罪会見。その日のうちに人事部に電話がかかってきただろうが、生憎と人事部はお休み。やれやれ……月曜日はチェックアウトでフロントに客があふれ返るってのに、まったく、自分の都合でしか動かない連中ばっかりだ。
「昨日、一昨日と一切電話対応をしなかったが今日はどうするつもりかね?」
「俺と古泉の影分身が一体ずつ第一人事部、残りの影分身を第二人事部に配備します。各ホテルのフロントには俺の影分身を二体ずつ向かわせました。チェックアウト時の混雑もこれで緩和できるはずです。それから、レストラン内の取材をさせて欲しいという電話はすべて俺か古泉に繋ぐように社員に伝えてください。社長への取材の依頼は当然断り、『秘密裏に社長が帰ってきているんじゃないか』と直接聞いてくる場合も『自分で調べろ』と返してもらって構いません。後はこちらで処理します。社長自らかけてきたとしても切り捨てます。古泉は偽名を使ってくれ。『今泉』でもアウトだ。俺の場合は『鈴木』だから心配はいらない」
「了解しました。ですが、期間についてはどうするんです?本当に今シーズン中は入らせないおつもりですか?」
「とりあえず『当分の間』と伝えてくれ。今決められることじゃない。今後の様子を見て、全員が納得するやり方で処分を決定する」
「呆れた。たったそれだけのことで会社の社長があんたに頭を下げるなんて思わなかったわよ。食事後の感想でもゲレンデでの様子でも撮影するものなんて沢山あるはずじゃない!」
「スクープさえ撮れればそれでいいとしか考えていない連中だ。試しに今週末がどうなるか集音マイクと監視カメラで様子を見てみるのも悪くない。社長が謝罪しても、社員にはその傾向が全く見られないと証拠を突きつけることだってできる。そのときはまた公開処刑をするまでだ」
「面白いじゃない!あたし達が戻るまで先に見たりしないでよね?」
『問題ない』

 

 影分身たちが人事部に赴き、本体は青有希たちに会議の内容を伝えに行っていた。
「ハルヒ、明日は成田までリムジンでドライブに行かないか?ヒロインを迎えに行って帰りは三人で話していればいい。ランチタイムが終わったら母親と交代すれば心配はないはずだ。どうする?」
「行くに決まっているじゃない!今年は話す機会がほとんど無かったんだから!」
「なら、ランチタイムが終わった時点で母親を連れてこっちに来るから、引き継ぎ事項がありそうならまとめておいてくれるか?」
「あたしに任せなさい!」
ホテルのチェックアウトは順調に進んでいるが、青佐々木がサインを強請られているようだ。次から催眠をかけるように伝えておこう。とにかく今は電話対応だ。
「はい、SOS Creative社です」
「週刊×□の東山と申しますが、社長さんは帰ってきていらっしゃるんでしょうか?」
「社長なら映画の告知で世界各国を回っていることはあなたもご存じのはずです。すみませんがそのような内容でしたらこちらから切らせていただきます。失礼します」
「あ、ちょっ…」
会社名、名前に嘘偽りは無かった。ブラックリスト入りとまではいかないが、イエローカードってところか。データに注意書きを含めて入れておけば社員も気付くだろう。圭一さん達にもテレパシーで伝えておいた。
「はい、SOS Creative社です」
「おはようございます。TBSの村田と申しますが、レストランの取材をさせていただきたいのですが……」
「構いませんよ。これから現地に行って撮影していただいて結構です」
「いえ、今日ではなくて、週末のディナーの取材をお願いしたいのですが……」
「世間からどう思われているかまったく分かっていないようですね。『社長が謝罪をしたから取材をさせて欲しい』などと都合良く許可が降りると思いますか?これまで周りからどんな批判をされても全く動く気配が無かったにも関わらず、今さらそんなことをしても手遅れです。当分の間許可が降りることはありません。何度も電話をかけてくるようでしたら今シーズンは諦めてください。では、失礼します」
今度は断末魔も聞かずに切ってやった。受話器を置くと向けられた視線に気が付いた。古泉か。

 

「まったく、面白みの欠片すらありませんよ。対応した電話のすべてがあなたの予想した内容なんですから。もう少し捻りを加えて欲しいものですが、あのような連中が相手ではそれも不可能でしょうね」
「どういうアプローチを仕掛けてくるか考えただけに過ぎん。このくらい、古泉にだって容易に想像がつくだろ?」
「そのようです。いくら宣伝のためとはいえ、青朝比奈さんのネックレスの件は提案しない方がよかったかもしれません。まさに、自分で自分の首を絞めている状態ですよ」
「何度もかけてくれば今シーズンは諦めろと脅している。これだけの人数であたっているんだ。精々今日の午前中がピークだろう。それ以降かけてくるようなら一切取材はさせない。後は木曜か金曜辺りにもう一度潰しておくだけだ。なんなら古泉が担当する仕込みも俺がやったって構わん。お互いどちらか一方に集中できるんだからな」
「それは名案ですね。ぜひそうさせてください」
俺たちが電話対応にあたっている間も、各ツインタワーで現地スタッフを募集中。希望がでたところで逐一森さんが面接して、次の日からその人物の能力に合った場所に入る手筈を整えていた。
 見透かしたという程のことでもないが、午後には電話も沈静化。翌朝、母親にランチタイム終了後にハルヒと入れ替わるよう連絡を取り、ハルヒと二人で成田空港へ。
「それで?結局ヒロインはどうすることになったのよ?あたし達と一緒に食事するわけ?」
「いや、自宅で食べるそうだ。復興支援でスキー場のことも話してある。『そんなドタバタした状態で私が入っていったら逆に迷惑になりそう。でも朝比奈さんのお茶は飲んでみたいわね』だそうだ。迎えのリムジンにハルヒが乗っていることも伝えた。空港に着いたら助手席から降りてヒロインを車内に誘導してくれるか?」
「それはいいけど、あたしが最後に乗ることになりそうね。あんたの影分身を入れて三人で話すのならヒロインが真ん中にいた方がいいんじゃないの?」
「そんなことならテレポートするだけで一瞬で解決するだろ?」
「ふむ、それもそうね。それならいいわ」

 

「ところであんた、本体は今どこにいるのよ?」
「俺が本体だが、それがどうかしたのか?」
「じゃあ、あたし達にシャンプーや全身マッサージをするときは?」
「OGの超能力修行も最終段階に入っているし、最近は身体の調子のアップダウンが激しい佐々木につくこともあるが、基本はハルヒだ。いきなりどうしたんだ?」
「あたし達はあんたに洗ってもらっているけど、あんたは子供たちとお風呂でしょ?あんただけ自分で身体を洗うんじゃなくて、あたし達でシャンプーもマッサージもしたいのよ」
「嬉しい提案ではあるが、それはそれで俺が恥ずかしくなりそうだ」
「双子ももう自分たちでお風呂に入れるし、あんたの影分身が風呂場の外で監視していればいいわよ」
「双子が嫌がりそうな気がしてならないんだが?」
「野球やバレーと一緒よ!大人がいない状態で入れるように練習しなくちゃ!」
そりゃごもっともで……練習と言えばあいつらも納得しそうだな。
「双子はそれでいいとして、有希やみくる達は知っているのか?」
「あたしが一声かけたらみんなOKしたわよ。七人がかりであんたの身体洗ってやるんだから覚悟しなさい!」
嬉しいような嬉しくないような……やれやれ。

 

 空港について周りを確認してはみたものの、テロらしき武装集団も見当たらない。あとは俺の影分身とヒロインが空港から出てくるのを待つだけか。
「ところであんた、あたしに催眠かけなくてもいいの?」
「俺もそれを考えていたんだが、毎年パーティに行っているんだ。素のままで報道陣のカメラに映った方が映えるだろうと思ってかけていない。……どうやら着いたようだな。報道陣が一斉に動き出した」
「この時間にここに来ることを知ってて、社長がいるかどうかなんて電話がかかってきたんでしょ?ホンット、どいつもコイツもくだらない連中ばっかり!早く野球の試合の連絡来ないかしら」
「そんなくだらない連中なら今まで散々切り捨ててきただろうが。そろそろヒロインを迎えに行ってきてくれ」
「分かった」
『俺たちの前に立っているおまえらが悪い』とばかりに報道陣が容赦なく押し出され、ハルヒの顔を見たヒロインがリムジンに向かって駆けてきた。
「ハルヒさん、久しぶり!元気してた?」
「スキーシーズンが始まったばかりで忙しいですけど、今のところは」
「とにかく、話はリムジンに乗ってからだ。スキーを楽しむ時間が無くなってしまう」
『スキー!?』
やれやれ、もう少し頻繁に同期しておくんだった。そういう話になっていたとは俺も驚いた。そういうことならすぐにでも本社に戻らないとな。

 

 発車してすぐにハルヒがヒロインの逆隣りへとテレポートしたが、この程度のことはできて当たり前くらいにしか思ってなさそうだな。
「あら?……あなた、異世界のキョンじゃないわよね?もしかしてこれも影分身?」
「ああ、影分身も大分使いこなせるようになったんだ。最初の頃は他のことをやりながらリムジンの運転なんて不可能だと思っていたんだが、修練を積んでいろんなところで応用している」
こっちが本物だとヒロインに思わせるつもりのようだ。影分身のフリをしておこう。
「ちょっとあんた!スキーを滑るのはいいけど、ウェアはちゃんと用意してあるんでしょうね!?」
「心配いらん。飛行機から降りてくるときに有希にテレパシーを送っておいた。本社に着いたらドレスチェンジをしてゲレンデに直行だ。帽子もサングラスもあるし問題ない。来日したハリウッド女優がスキーに行ってるなんて誰も想像できん。別人としか思われないだろうし、まさか日本に来ているなんて思わないだろ?」
「まったく、どこからそんなアイディアが出てくるのよ、あんたたち……」
「私も話を聞いて驚いたわ。スキーなんて久しぶりだけど、ちゃんと滑ることができるかしら?」
「自転車に乗るのとほとんど変わらないわよ!んー…そうね、あたしも行ってみようかな。ブラックリスト入りした連中がちゃんと働いているのか確認しなくちゃ!」
「ブラックリスト?」
「話すと長くなるんだが、要は、『災害地の復興支援に携わった政治家には、経験に関わらず職に就かせる』と発言した首相の揚げ足をとって、スキー場の復興支援に参加してきた連中がいるんだよ。自分のことしか考えない連中がな。そいつらには一番過酷なリフトの監視役をさせているところだ」
「そんな人間にリフトの監視なんて任せて大丈夫なの!?」
「もし、何かしらの大事故が起これば、責任はすべてそいつになすりつけられる。そんな奴が位の高い役職につけるはずないだろ?今頃、けが人は一人たりとも出してはならないなんて考えながら作業をしているはずだ。もっとも、スキーシーズンが終わっても役職には一切つけないがな」
「ふふっ、その人達がどんな仕事ぶりをしているのか見てみたくなったわね」
「もうすぐ本社だ。ハルヒもウェアを選んでおけよ?」
「あたしに任せなさい!」

 
 

…To be continued