500年後からの来訪者After Future6-19(163-39)

Last-modified: 2016-11-30 (水) 19:06:48

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future6-19163-39氏

作品

『セカンドシーズンでは収まりきらないほどのデザインを考えておく』と豪語したみくる専用の椅子が見事にそれを実行に移し、質、量ともに文句のつけどころがない。しかもそれを、朝倉がすべて採用するとは思わんかった。加えて、他の女性陣もそのデザインを見て自分も欲しいと言い出した。そして、スキーシーズン最初の週末。謝罪していないメディアの人間にはレストランに入れない条件で閉鎖空間を張ったところ、慌てて社長が謝罪会見を開きだした。全国中に恥をさらしているのと何ら変わりがない。当然、そんなことで取材OKにするわけにはいかん。いよいよジョンが待ちわびていたアフレコ前日、リムジンに乗り込んだヒロインと俺の影分身がスキーに行くと言い出した。

 

「あら?あなたの会社の前には誰もいないのね」
「威力営業妨害で逮捕させたり、警察に追い払わせたり、警察から警告文を流してもらったりとまぁ、色々と対策を立てていた結果だ。さっきも警察に連絡して逮捕してもらった」
「威力……営業妨害?」
「つまり、報道陣が邪魔で店舗や食堂への客足が遠のくから営業妨害だと訴えたわけだ」
「それなら私も訴えたいくらいよ。でも、気分を害するだけじゃ警察は動いてくれそうにないわね」
だが、報道陣がいないとはいえ、今はおでん屋の営業の真っ最中。ウェアにドレスチェンジすることも含めて地下へと降りた。後は影分身とハルヒに任せておけばいい。スキー板とストックを持ってテレポートして行った。
『おかえり~』
「ああ、ただいま」
「おや?ハルヒさんと一緒にヒロインを迎えに行ったのではないのですか?」
「それがな、ヒロインと三人で安比高原のナイタースキーに行ってしまった。俺の影分身とスキー場の話をしていたらしくてな。リムジンに乗り込む頃には行くことが決まっていたらしい。ハルヒなら『んー…そうね、あたしも行ってみようかな。ブラックリスト入りした連中がちゃんと働いているのか確認しなくちゃ!』だとさ」
『ナイタースキーに行ったぁ!?』
「とてもじゃありませんが、世界中を映画の告知で回っているハリウッドスターの行動とは思えませんよ」
「でも、ハルヒ先輩もヒロインさんも夕食は大丈夫なんですか?」
「そこまで本格的に滑るわけでもないし、腹の虫が鳴いたら帰ってくるだろう。ところで古泉、今週の日本代表チームのディナーは野菜スイーツだったと思うが、どうする?古泉だけで平気か?」
「そうですね……僕が野菜スイーツを作ると全員の前で宣言しておいてたいへん申し訳ないのですが、手伝っていただけませんか?電話対応のことも気がかりですし」
「分かった。なら青ハルヒと三人で今週末のおススメ料理を検討してしまおう。可能なら来週の分もな」

 

 スキー場のおススメ料理の方は、四週分のメニューを作ってしまえば、あとはそれを繰り返すだけで良いと三人の意見が一致。今日は俺もジョンの世界に行くし、明日の夜の時間を使って野菜スイーツの作業を進めておくと古泉に進言した。あー…この後が怖くて仕方がない。傍目から見ればハーレムのように見えるだろうが、誰がどこに何をしてくるか分かったもんじゃない。頼むから変なところだけは触らないでくれ……俺の身体がどんな反応を示すのか分かったもんじゃないから。
 遅れて100階にやってきたハルヒのシャンプー&全身マッサージを終え、天国……場合によっては地獄の時間がやってきた。いつの間にか四隅の浴室の一角が模様替えされており、シャンプー台が一台、巨大なエアマットと大きくなった浴槽。要するに、俺専用の浴室のようだ。当たり前のように服を脱がされシャンプー台に寝かされた。シャンプー役は無論ハルヒ。軟体動物のように指を動かしているところがまた怖い。逆に言えば、爪を立てられることは無いということになりそうだが、いかんせん、リラックスなどできそうもない。ついにシャワーの音が鳴り、ハルヒによるシャンプーが始まった。俺の分身には妻七人の裸体は刺激が強すぎたらしい。脈打ったまま一向に収縮する気配がない。チャンスとばかりに眼を光らせた青ハルヒが、俺の上に跨り、俺の分身を体内に隠した。
「あんたがあたし達に命令したトレーニングの成果を見せてやるわ!身をもって味わいなさい!」
みくる達は俺の提案に対して素直に従っただけ、佐々木たちは出産があるからトレーニングをするわけにはいかず、有希にはトレーニングの効果が無い。ハルヒ達には年越しパーティに行くのなら可能な限り綺麗なままがいいだろうと助言をしただけであって、決して命令したわけではない。だが、WハルヒもWみくるも眼に見えて妖艶な身体になっているし、わざわざ俺の分身をきつく締めつけてまで確かめさせなくてもいいだろうに。
『涼宮さんばっかりずるいです!キョン君、わたしもこの短期間で結構変わったんですよ』
これ以上何をするつもりだと思っていたら、俺の腕を豊満な胸の谷間に埋めてこちらも離してもらえそうにない。ハルヒのシャンプーも含めて気持ちがいいのは確かだが、これを毎日となると別の意味で身が持たない。

 

「一つ聞きたいんだが、有希や佐々木たちも含めて、これから毎日同じことをするつもりか?」
「勿論です!今までキョン君に癒されてきた分のご奉仕をさせてください!」
「キミには助けてもらってばかりだからね。これくらいじゃ、僕の気は治まりそうにない。キミの要望なら何でも応えるよ」
「ラスベガスのカジノのボスやどこぞの王国の王族じゃないんだ。気分がいいのは確かだが、こんな待遇は俺には合わない。今でさえ有希や佐々木たちはやることがなくて暇だろう?丁度七人だし、曜日を決めて一人ずつじゃ駄目か?ハルヒのシャンプーが終わるのを待っている間、青ハルヒやみくる達にも申し訳なくてな」
「困ったね。『キミの要望なら何でも応える』とは言ったけれど、まさかそんな答えが返ってくるとは思わなかったよ。自分で言った手前、承諾するしかなさそうだ」
「問題ない。おでん屋のことも含めてわたしが月曜日」
「じゃあ、わたしは日曜日がいいです!ずっとディナー続きで、キョン君が一番疲れているはずです!」
「それならあたしは水曜にするわ!ディナーの準備が始まる前にあんたのことたっぷり癒してやるんだから!」
「僕は金曜日にさせてもらえないかい?ディナーと夜練で神経を研ぎ澄ましている日だからね」
それぞれが思い思いの言葉を口にして曜日が決まっていく。やれやれ、この状況もどうせ未来から見られているに決まってる。結果、妻同士で争うことにはならず、すんなりと曜日が決定した。月曜有希、火曜青ハルヒ、水曜ハルヒ、木曜青みくる、金曜佐々木、土曜青佐々木、日曜みくる。野球のスターティングメンバーの発表じゃないが、どこかにメモでもしておかないと忘れてしまいそうだ……って、サイコメトリーすればいいか。とにかく、今後は曜日毎に本体が誰に着くのか決まりそうだ。『今日だけは全員で』という妻達の強い要望により、七人がかりで全身マッサージされた後、本体だけで七人全員を腕枕するという無茶振りを強要させられた。左腕には豊満なバストをあばら骨にあてた青みくると、青みくるを抱きしめるように距離を縮めている青ハルヒ。そして、青ハルヒに背中合わせでくっついて俺の左手を握りしめて離しそうにない青佐々木。右腕の方も同様に、みくる、有希、佐々木の順で頭部を俺の腕に乗せていた。小顔が揃っていても、六人同時に腕枕をしていたら流石にキツいか。残ったハルヒは俺の分身を体内に埋めて胸筋に頬を当てて眠っていた。ジョンの世界に行くのならこの体勢が崩れることもないだろうが、青俺も青有希も頼むからそんな目で見ないでくれ……これも妻の要望なんだ。

 

「やっと来たわね!あんたもさっさと準備運動しなさい!試合始めるわよ!!」
さっきまでの行動が嘘のように変貌している。切り替えが早いと言えば聞こえはいいが、もう少し余韻を残すくらいのことはして欲しかった。だが、時間が限られているのは俺の方。さっさとコンディションを整えてしまおう。アフレコの台本を必死になって読んでいる誰かさんは放置だ。影分身五体と一緒にコートに入って青チームを見据える。サーブ順に変更は無し、青佐々木が青朝倉とチェンジしていた。そういや、この前はセッターを執拗に攻めるなんてことはしなかったな。青朝倉のスイッチ要因としての動きも見せてもらうことにしよう。青みくるがサーブを打つ瞬間を見極めてすかさず同期。レシーブ要因以外の影分身が攻撃態勢に切り替わる。ネットに背中を向けたフェイクを入れて超高速Aクイックを青古泉目掛けて叩き込んだ。ボールが真上に高く上がり、ボールの真下には青朝倉。青古泉もライトからの攻撃態勢を取った。そこまで修得したってことで良さそうだな。
「ブロードのC!」
試合で使えるようになったというだけでバックトスを上げようとしているのが丸分かりだ。そのかく乱のために青古泉がCクイックに向かってきたのかもしれんが、青朝倉の態勢が完璧な半身になっていない。ブロードに飛んだ青ハルヒがフェイントで前に落としてきた。それでも、ダイレクトドライブゾーンに支障は無い。ネット際でレシーブをした影分身がそのまま垂直に跳び、それに合わせた超光速連携で青ハルヒが空けた穴を貫いた。青みくるや青朝倉がスライディングで飛びこんでくるもののそれも叶わず。サーブ権が移って俺のサーブ。前衛三人がネット際で構え、後衛三人でトライアングルを作っている。スイッチ要因を信頼していなければできない守り方だ。それなら、精神的ショックの大きいのはこのコース!
「下がれ!俺だ!!」
ゾーン状態の青俺なら1mm差でも白帯にあたるかそうでないかくらい判別できる。青朝倉がその後ろに入って零式返しのチャンスを待った。軌道だけ真上に変えようとボールに触れた瞬間、ボールが青俺の腕を蔦って胸に収まっても尚回転し続けている。
「ゾーン状態の彼でも軌道すら変えられないというんですか!?」
「ちょっとあんた!今の球をあたしにも寄こしなさい!あたしが上げてやるわ!!」

 

 この間も同じセリフを聞いた気がするが、まぁいいか。ネット際に構えず、通常のレシーブ形態で中央で腰を落としていた青ハルヒへの第二球。青俺と同じく、軌道のみ変えてすぐさま腕を降ろそうとしたが、こちらも触れた瞬間にボールが青ハルヒの腕を蔦っていった。
「ちょっ……何よこれ……あっ!………」
胸に収まったとたんに青ハルヒが変な声を出し始めた。何をやっているんだアイツは?
「も―――――――――っ!このエロキョン!!こんな変態サーブ開発するんじゃないわよ!」
『変態サーブ!?』
「くっくっ、さっきは青チームのキョンだったから良かったけれど、女性相手にこのサーブは撃たない方がいいかもしれないね。それに、青チームはここで棄権することになりそうだ」
「おい古泉!いつまでもハルヒばかり見ていないでその鼻血をなんとかしろ!!」
「ああ、なるほど。そういうことですか」
「『ああ、なるほど』って黄古泉先輩みたいな言い方して、何が分かったっていうのよ?」
「高速回転のかかったバレーボールが大人の玩具代わりになって涼宮先輩の胸を刺激したってこと」
『あ……なるほど』
変態セッターがゆえに目の前で起こった出来事を瞬時に判断できたってところか。だが、そうすると、その変態セッターより早く判断ができた佐々木は一体どうなるんだ?
「ふふっ、正セッターがこんな調子じゃ、棄権するしかなさそうね。それに、サーブ名も考え直した方がよさそうね。『零式改(アラタメ)』を改め、『変態サーブ』でどうかしら?」
『問題ない』
「ちょっと待て。そこは『うん、それ、無理』で揃うところだろ。俺はそんなことのために改良したわけじゃない」
「私もこのサーブの習得は諦めようかな?……なんちゃって」
やれやれ……冗談に聞こえないところが怖い。

 

「青朝倉、さっきスイッチしたときのブロードのCなんだが、手の方はこれから練習を重ねれば次第にバックトスだとバレにくくなるだろうが、ちゃんと半身になっていないと、青古泉がCクイックでフェイクをかけてきた意味がない。青ハルヒとの連携なら今後も機会が多いだろうし、その点にも気をつけてみてくれ」
「分かった」
「たったそれだけのことで、僕のCクイックがフェイクで涼宮さんが撃ってくると判断したと言うんですか!?」
「ああ、青古泉なら絶対にしないからこそ逆に目立ってしまった」
「なるほど……ですが、朝倉さんへのアドバイスも含めて参考になりましたよ。相手があなたでないとフェイクとして利用できそうにないのが残念です」
そのあと、黄チームを相手に零式改(アラタメ)を数回撃ったところで通常のサーブに戻した。指示出し後の三枚壁とダイレクトドライブゾーンの両方の戦型で試合をしたが、どちらも日本代表チームにとっては新たな攻撃スタイルとして目の当たりにすることになる。世界大会に向けたいい経験になるだろう。特に三枚壁の方はな。それに、ダイレクトドライブゾーンなら影分身五体でなくとも、ハルヒ達ならすぐにでも合わせられるようになる。有希の超光速トスのタイミングで撃つだけだからな。
「すみません、ひとつお伺いしてもよろしいですか?」
「どうかしたのか?」
「前回あなたの仰っていた覚醒モードはいつ使用しているんです?影分身五体も操っている状態では、ゾーンにすら入ることができないのではありませんか?」
「なぁに、簡単な話だ。その時々に応じて意識のパーセンテージを変えているだけだ。三枚壁の戦型のときは、セッターの采配を読むときだけ影分身の意識を1%まで落としている。1%でも、『指示通りに動いて跳べ』程度の命令なら動くことが可能だ。そのあと意識のパーセンテージを元に戻している。古泉だって出来るだろ?」
「まったく、無茶を言わないでください。常に状況が変化するバレーボールにおいて、プレーをしながら意識のパーセンテージをコントロールするなんて高等技術は、あなた以外できませんよ」
「何度も言ってるだろ?何事も修錬だってな。それより、ダイレクトドライブゾーンを黄チームでやってみたい。有希と朝倉なら超高速連携で慣れているから大丈夫だろうが、古泉やハルヒにもタイミングを合わせられるようになって欲しい。低いレシーブの方はさほど難しくないはずだ。二月のバレーのオンシーズン一発目はこれで行こうと思ってる。できればそれまでにOG六人にもマスターさせて世界大会で闘わせる予定だ」
「それは面白そうですね。是非僕もチームに加えてください」
さっきもそうだったが、ようやく三ヶ月になり、目に見えてお腹が大きくなってきた佐々木の代わりに美姫を投入して黄チーム対OGの試合が始まった。一番近い人間がフェイント球の対応をすると共通理解をして、あとは指示を出すだけ。六人中三人がセッターなら、そのうちの誰かが対応できる。最初は失敗も多いが試合を重ねていくうちに少しずつ慣れてくるだろう。OGの防御力に敏捷性で対抗して勝利を収めることができた。

 

『キョン、時間だ』
ジョンの世界から抜け出して眼を覚ますと案の定、六人分の頭の重さで両腕が痺れていた。ハルヒが乗っていた上半身の方は底面席が広かったせいかそこまでの負担は見られなかったが、胸が押さえつけられたせいで母乳が漏れていた。そろそろ佐々木を連れて産婦人科へと思っているのだが、来週月曜日まで行っている暇がない。どうせ直前になると文句を言いだしそうだし、来週月曜に産婦人科に行くよう伝えておいた。
「さて青ハルヒ、今週金曜日はSOS団とENOZの生放送の日だ。おまえなら社長としてどういう指示を出すか教えてくれないか?」
「そんなのいきなり振られても答えられないわよ!」
「来年は社長として動くことになると言ったはずだ。SOS団とENOZが抜けてどうなるか、いいから考えてみろ」
「黄有希と黄涼子が出演するんだからおでん屋は休みでしょ。それから……黄あたしが番組に出ている最中にあたしがレストランで調理していたらまずいから催眠をかけて、そのくらいしか思い浮かばないわよ」
「SOS団とENOZのスキー場での仕事の割り振りは把握しているか?」
「そんなの覚えきれるわけないでしょ!」
「じゃあ、生放送の次の日は何がある?」
「ディナーに決まっているじゃない!」
「もう一つ、おまえにも関わる大事なことがあるんだが、思い浮かばないか?」
「あぁ、そういえばコンサートだったわね。それがどうかしたの?」
「コンサート前にやっていたことがあるだろう?」
「コンサート前にやっていたって……圭一さん達が携帯を買いに行ったくらいで今度のコンサートじゃ関係ない……って、あっ!リハーサル!!……でも、金曜日が生放送じゃリハーサルなんてできないじゃない!」
「それを打破するためにはどうしたらいい?」
「木曜にでもやるつもり?」
「そこまで把握できれば十分だ。常に先を見据えて考えることを止めないようにしないと社長は務まらん。佐々木たちのような研究者も同じだ。今青ハルヒに確認した通りだ。ハルヒがTVに出演する分、今回は青ハルヒに催眠をかける。その間、レストランには母親に向かってもらう。おでん屋は金、土と休みになることを張り紙にしておいてくれ。SOS団とENOZがいなくなる分、レストランの接客がみくるしかいなくなってしまう。日本代表選手の夜練も被ってくるし、その日は影分身慣れしている俺の方で対応する。土曜日の警備と会場案内は青俺に任せる。リハーサルは明日の夜やることを今日の練習で楽団員に伝えてくれ」
「分かった」

 

 影分身からの連絡を待って、本社の地下駐車場でジョンと二人でリムジンで待機。大爆笑するところは何度も見たり聞いたりしているが、ドラマの撮影が終わった週の終わりにようやく自分も将棋に参加することができると考えていた古泉と同じ顔をしていた。このあとのアフレコが待ち遠しくてたまらないらしい。ジョンのお目当ては科学者役の声優。どんな切り出し方で話しかけるのやら……
「お待たせ!ジョンも久しぶり!あら、随分嬉しそうね。どうかしたの?」
「このあとのアフレコでフ○―ザ役の声優に会えると知ったときからずっとこの日を待ち望んでいたんだ」
「そういうことだったのね。わたしも映画でしか声を聞いていないからどんな人なのか楽しみよ!早くいきましょ!」
そう焦らなくとも、俺たちがNGを出す前提でスケジュールが組まれているから、別に急がなくてもいいんだが、ジョンの期待を裏切らないためにも早く行くことにしよう。どうせ今考えていることも全部伝わっている。今回は俺も本体でアフレコのスタジオ内に入ることにしよう。影分身と運転を交代してリムジンに乗り込んだ。
『おはようございます』
スタジオについて早々、スタッフに顔パスで案内され、収録をする部屋へと足を運んだ。何度かTVで声優たちがアフレコしている風景を見ているが、他の声優たちと一緒にこうして立っていられるとはな。しかしまぁ、たった一つの映画をアフレコするのにこれだけの声優やスタッフが揃うのか?確かに映画の内容からすれば、カジノのボスやその部下、それに顧客にバニーガール。中盤で仲間を気絶させるシーンが入って、最後は科学者のガードマン。エキストラが多すぎるんだから仕方がないか。それより……事前に調べてくることは考えなかったのか?おまえは。フ○ーザ役の声優の顔くらい、検索すればすぐに出てくるだろうが!!キョロキョロするな!
『だったら、この中の誰がフ○ーザ役の声優なのか教えてくれ。声を聞かないと判断ができなくて困っていたんだ』
それなら左から六番目、髪を立たせているのが中尾さんだ。
『分かった。タイミングを見計らって挨拶に行く』

 

「どうかされましたか?」
「あ、いえ、これだけ多くの声優の方々がアフレコに来て下さっていたとは予想外だったので驚いてしまって……改めて、宜しくお願いします」
「ハリウッドスター自らアフレコをされると聞いて、我々も緊張しています。こちらこそ宜しくお願いします」
「そう言われてみれば、英語以外の国の言語を流暢に話せるハリウッドスターなんていたかしら?私はキョンから教えてもらってこうして日本語が話せるようになったんだけれど……キョンともアフレコの練習をしてきたので、今日は宜しくお願いします」
『おぉ―――――――っ』
まぁ、ハリウッドスターにここまで日本語を流暢に喋られては感嘆するのが普通だ。ヒロインもその反応に対してそこまで気にしていないらしい。「時間もあまりないので」というスタッフの一言でアフレコが始まった。俺たちは演じている側だから、どのタイミングでセリフを入れるかなんて、サイコメトリーを使わずとも熟知しているんだが、他の声優たちはそうはいかない。シーン毎に一度映像に合わせてセリフを入れるリハーサルを行ってから本番になるらしい。スケジュール的に余裕があるものだとばかり思っていたが、どうやら、そうでもないらしいな。今はリハーサルだし、ジョン達も終盤にならないと出番が回ってこない。それをいいことにジョンが中尾さんにアプローチを仕掛けていた。
『初めまして!ジョンと言います!ドラ○ンボールが大好きで、復活の『F』も何度見たか数えきれないくらいフ○ーザの大ファンなんです!僕の戦闘力は236000です!宜しくお願いします!!』
「ほっほっほ、ギ○ュー特選隊の戦闘力を上回るとは、これは素晴らしいですね。……いいでしょう、あなたを我がフ○ーザ軍の総司令官に任命してさしあげましょう。大いに貢献してくれることを期待していますよ?」
『ありがとうございます!!』

 

 サインを貰うついでに一月の披露試写会のことについて話をしておけとは言っておいたが、どうやら心配はなさそうだ。それにしても、対面したときは全く分からなかったが、リハーサルで他の声優さん達の声を聞いているとどれも聞いたことのある声ばかり。ついついそのキャラクターが頭に浮かんできてしまう。マフィアのボスくらいならまだしも、エキストラにこんな有名な声優を起用していいのかと疑いたくなってしまう。オープニングの収録も終わり、ようやくヒロインの出番。「リハーサルの段階から本番のつもりで」と伝えてリハーサルが始まった。スタジオで待機していた声優やスタジオの外にいた声優、スタッフがヒロインのアフレコに言葉を発することもできず、室内にいた声優が気付いた頃には、そのセリフを言うシーンが終わっていた。リハーサルを終えてスタッフの顔色を伺うと、「これならいける!」と言いたげに自信に満ち溢れた顔をしていた。
アフレコも終盤に差し掛かり、ようやくジョンと中尾さんがスタジオ内に足を踏み入れた。ガードマン役の声優も数人いるが、あとは俺たち四人の独壇場。中尾さんの声帯でヒロインと科学者が会話している場面を練習していたが、やはり本物は違うな。頭にはフ○ーザの姿しか映らない。最後に俺とジョンのバトルシーン。戦闘中のアフレコは必要ないが、ガスマスクをつけている設定からか、ジョンの口から出てきた声とは思えないほどのしゃがれ声でガードマン役を演じきり、映画のアフレコも無事に録り終えることができた。
『一月の披露試写会でまたお会いできるのを楽しみにしています!今日はありがとうございました!!』
なんでおまえが俺たちの代表だと言わんばかりに中尾さんに堂々と挨拶をしているんだ?ったく、映画に関わってくれた声優さん達やスタッフ全員にお礼の言葉を述べてスタジオを後にした。時刻は昼食時をとっくに過ぎており、このまま成田に向かって即空港入りだな。スタジオ前に報道陣が待機していたのは言わずもがな。ただ、イタリアの事件のことより、ヒロインがアフレコできたのかどうかに関する質問が多数。俺が懸念していた中国や台湾、香港も無事に告知を終えて帰ってくる頃には、例の事件のことで記者会見を開こうなどと忘れ去っていて欲しいもんだ。ほぼ100%回避できないだろうがな。

 

 リムジンに乗り込んで運転を始めたところでヒロインの自宅で作っておいた弁当を三人分テレポート。ようやく昼食にありつけそうだ。
「それにしても、お腹の音が鳴らないかどうか心配で仕方が無かったわよ。でも、フ○ーザ役の声優さんに会えて良かったわ!本人だからこそ可能なアレンジって言えそうね!練習していたときとは大違いよ!!」
「ジョンが涙を零しそうになっていたくらいだからな。俺の頭の中もフ○ーザのイメージでいっぱいだったよ。しかし、リハーサルと本番でざっと映画二回分の時間を使ってしまったからな。このまま空港に向かう。一回でOKが出て安心したよ」
「あなたが『リハーサルの段階から本番のつもりで』なんて言っていた意味が良く分かったわよ。何度も聞いてはいたけれど、私が実際にアフレコをするところを見てみないと信じられなかったみたいね。百聞は一見にしかずだったかしら?即本番じゃ、MGを出されていたに違いないわ」
「ことわざとしてはそれで正解だが、今回は一見じゃなくて一聞だな。それで、披露試写会でのパフォーマンスの件、中尾さんに伝えたんだろうな?」
「そういえば、『僕の戦闘力は236000です!』なんて言ってたわね。あれ、本当なの?」
『感無量だ。「それは面白そうですね。いいでしょう、クライマックスに相応しいステージをご覧に入れて差し上げましょう」と言ってもらえた。サインは額縁に入れてリクライニングルームに飾っておく。戦闘力に関しては事実だ。スカ○ターを作っておいて自分の戦闘力を計らないわけがない。俺の場合は百の位で四捨五入している』
「どういう基準で数値化しているのかは不明だが、因みに俺はいくつになるんだ?」
『キョンは通常の状態なら214000、超サ○ヤ人なら5000000だ』
『ごっ、5000000!?』
「どうりで140マイルなんて投球ができるはずよ!そんなにパワーアップしてるんだから!ちなみに、わたしの戦闘力はいくつになるのかしら?」
『大多数の人間の戦闘力はたったの1。拳銃を所持していても精々5程度。拳銃の腕に自信があるSPでも二ケタに達する奴はまずいない。それだけ俺たちが特別だってことだ。だが、年越しパーティで閉鎖空間を取りつけるのなら戦闘力100くらいにはなる』

 

 戦闘力たったの1というジョンの発言に怒ったのかどうかは分からんが、ヒロインが黙ることしばらく。
「SPが叶わない理由がこれではっきりしたわ!やっぱりあなたと一緒でないと私ダメみたい。でも、普通に闘ったらジョンの方が勝つってことよね?映画の撮影のときはやられる振りをしてたってこと?」
「そうなるな。他のメンバーの戦闘力も聞いてみたいもんだが、それは後にするとして、閉鎖空間を取り付けただけで一ケタだった戦闘力が一気に100まであがるのならSPで十分じゃないか?拳銃は効かないし、持っていても戦闘力たったの5、ゴミだ」
「……そうね。他のみんなにも安心してもらわなくちゃ!早くパーティの日が来ないかしら?」
「俺も待ち遠しくてたまらないよ。飛行機に乗ったら自宅に戻って休まないか?果報は寝て待てって言うだろ?」
「あなたの腕枕じゃなきゃ嫌!」
「分かってるって」
空港で張っていた報道陣をいつも通り押しのけ、影分身にヒロインを任せた。ジョンと二人で会話をしながら本社に戻るというのも悪くは無いが、明日のディナーの仕込みをしながらの方がいい。人目につかないところにリムジンを止めて、テレポートで本社へと戻った。今日は食器の片付け要因として二体、99階で仕込みをするために二体、ヒロインと行動を共にする影分身が一体。昼食の皿洗いも終わったようだし、これで本体も自由に行動できる。夕食まで時間は少ないものの、野菜スイーツの種類が多いこともあり、少しでも進めておくことにした。古泉の方は高タンパク低脂肪の料理の仕込み中だが、そろそろ終わっていてもおかしくはない。夜中の間に作業を進めて明日の朝、古泉とどうするか相談することになりそうだ。

 

 夕食には過半数のメンバーが揃っていたが、今日は夜練もあるしレストランで接客をしているメンバーとも交代しなくちゃならん。アフレコの件が気になって仕方がないメンバーもいたようだが翌朝に話すことにした。昨日決めた通りの順番でいくと、俺にシャンプー&全身マッサージをしてくれるのは二日続けてハルヒになるんだが、他の妻が文句を言うことも無く、正妻と二人っきりの時間を過ごしていた。
「厨房の様子はどんな感じだ?まだ現地の人は入って来ないのか?」
「異世界の店舗と一緒よ。人は居ても経験不足であたし達が抜けたら週末は厳しいわね」
「それでも平日は戻って来られるようになったら戻ってきて欲しい。双子も寂しがっているからな。…ん?そういえばハルヒ、影分身使えるんじゃないのか?」
「影分身に催眠をかけて二人がかりで厨房をまわしているわ!ホンットに政治家って使い物にならないわね。野菜の皮むきすらできないんだから!」
「皿洗いだけのために配置したようなもんだからな。使い物にならなくて当然だ。ハルヒが何かを教えようとする必要はない。ただ単にブラックリスト入りした連中と区別をつけたかっただけの話だ。期待しない方がいい」
「それもそうね。ジョンの世界にいる間にOG達にも手伝ってもらいたいくらいなんだけど、あんたが見せた攻撃の型をマスターするまでは全員バレーの練習をするって決めちゃったし、あたしや古泉君だって有希と涼子の連携に合わせられるくらいになりたいし、雑用係がいなくて困っているのよね」
「雑用係ならここにいるだろう。団長様」
「あんたは本来世界各国回っているはずでしょうが!それなのにディナーの準備をしたり、天空スタジアムの案内や警備をしたり、あたしたちの食事まで作っているのに、これ以上あんたの仕事を増やすわけにはいかないのよ!」
「やれやれ、こうやってシャンプーやマッサージをしてもらって、そういう心配りまでしてくれているってのに、どうしてイヤリングのデザインが今になっても思い浮かばないんだか……報道陣の謝罪会見じゃないが、今さら何を言ってるんだと自分で呆れるよ」
「そんなのいつだっていいわよ!今朝も青あたしが社長としての仕事ができるように教えてたみたいだし、色んな事を考えすぎなの!そんな状態でデザインなんて浮かぶわけないじゃない!」
「すまん。じゃあ、もうしばらく時間をくれ」
「分かればいいわよ」

 

 俺が見せたダイレクトドライブゾーンの型をマスターするまで全員バレーに集中しているか。ってことは、ジョンは夜も案外暇なわけだ。さっきの戦闘力の話、続きを聞かせてくれないか?涼宮体がどのくらいなのかも含めて。
『キョン以外のメンバーは200000を切る。その中で一番高いのが朝倉涼子、一番低いのが黄チームの涼宮ハルヒだ。一番低いといえどコーティングしているのは他のメンバーも同じだから、あとは筋力と戦闘経験の差だな。涼宮体が約1000000、ついでに第二次情報戦争時のキョンが1500000だ』
どうりでコーティングでガードしていてもダメージを喰らうわけだ。しかし、たった数匹の蟻でも恐竜相手にもうちょっと粘りたかったな。
『過去の時間平面では涼宮ハルヒから受け取ったオーラすら使うことなく勝利を収めたんだ。それで十分じゃないのか?』
確かにそうかもしれん。しかし、これで涼宮体があと二回変身を残しているとすると……どうなるか分からんな。
『それでも超サ○ヤ人には敵わない。だが、他のメンバーは……』
みなまで言わずとも分かってるよ。しかし、ジョンですら初期形態のフ○ーザの戦闘力に及ばないとは意外だな。
『俺も自分で測ったときは正直落ち込んだよ。530000を追い越すつもりで修業をしていたんだが、結局50%の力でもやられてしまう』
20倍界○拳のかめ○め波ならなんとかなりそうな気もするが、流石にあの技は使えないか。
『元○玉なら使えるぞ。テレパシーで「元気を分けてくれ」と頼むだけだからな』
何!?今度文芸部室の連中で試してみようか迷ってしまうな。極僅かなエネルギー弾にしかならなさそうだが……普通の人間の戦闘力がたったの1なら、日本全国の人間から元気を分けてもらって、ようやく初期形態のフ○ーザを倒せるかどうかってことになりそうだ。

 

 ジョンとの会話もそこで打ち切り、影分身で野菜スイーツ作り。今回は三階、80階の社員食堂、81階、99階の調理場やキッチンも利用した。80階、81階は青新川さんと母親が来た時点で打ち切ったが、九割方終えることができたし、午前中のうちに出来上がるだろう。古泉に任せる必要も無い。昼食前には俺も電話対応にあたることができるだろう。今朝のニュースは確認するまでもない。ヒロインとハルヒが空港で話しているシーンを撮影したものかアフレコスタジオから出てきた俺たちの写真を載せて、他の声優たちからヒロインのアフレコの様子をインタビューしたもの。見出しも『涼宮ハルヒ自ら出迎え!年越しパーティでの再会を誓う!?』、『声優陣呆然!アフレコの完成度は果たして!?』等々、ほぼそのまま、タイトルをつけただけだった。他は特に大したニュースもなく、作業を続けていると、目を覚まして服を着替えた双子が部屋から飛び出してアイランドキッチンまで走ってきた。
『キョンパパ!ケーキ?ケーキ?』
「これは野菜スイーツだ。この前食べただろ?」
『わたしも野菜スイーツ食べたい!!』
「みんなの分も作ったから今日の夜食べるぞ。完成まであとちょっと時間がかかるんだ。それまで待てるか?」
『問題ない!』
母親は月曜しか81階に現れないが、ハルヒや青有希、青OG三人の姿もそこにはなかった。今夜の食べ放題のこともあるし、夕食時は影分身と入れ替わることにしよう。去年のようにジョンの世界で翌朝の仕込みをしているわけでは無さそうだし、若手政治家に少しでもハルヒ達の負担を軽減させるように作業を覚えさせないといかん。これがブラックリスト入りした政治家なら、下準備の作業を教えるなんて絶対にお断りだが、真っ当な政治家なら少しでも覚えようとするだろう。ジョンの世界でニュースを見て気になって仕方が無かった奴が真っ先に声を上げた。

 

「くっくっ、昨日はレストランの接客で聞けなかったからね。ハリウッドスターの来日ならまだ分かるけれど、アフレコだけで一面を飾るなんて一体どんな内容だったのか説明してくれたまえ」
「どんな内容も何も、記事に書いてあった通りだ。空港へ向かうリムジンの中でも、『百聞は一見にしかずね』なんてヒロインから言い出すような状態だった。『リハの段階から本番のつもりで』と声をかけておいたら案の定。ヒロインのアフレコに驚いて他の声優が自分のセリフを言いそびれていたくらいだ。これが本番ならまずNGで間違いないだろうなんて話していたよ」
「声優が自分のセリフを言いそびれるほどとは僕も驚きました。披露試写会が一段と楽しみになりましたよ。ところで、スタジオ内でのジョンはどんな様子だったんです?昨日は感激のあまり色紙を抱きしめて涙が止まりませんでした。『私の戦闘力は530000です』と色紙にも書かれていましたから、例の嗜好品の話を出さなければそんなことにはならないはずです」
「ん―…そうだな、ヒロインのアフレコも含めてモニターで見せた方が早そうだ」

 
 

…To be continued