500年後からの来訪者After Future6-20(163-39)

Last-modified: 2016-12-01 (木) 16:26:51

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future6-20163-39氏

作品

妻七人全員から髪や身体を洗われるというどこぞの国の王族のような経験を強要されてから、曜日毎に俺も妻によるシャンプー&全身マッサージを受けることになった。久しぶりに訪れることのできたジョンの世界でこれまでの修行の成果を発揮することができ、アフレコもヒロインに驚いた他の声優たちの方がNGを出しかねない程だった。当然翌朝はアフレコに関する内容で新聞記事の一面を飾り、朝食時にその様子をモニターで映すことにした。

 

 俺は見る必要はないし、俺の後ろに映像を投影すればいいだろう。ジョンが中尾さんに自己紹介しているシーン、ヒロインがアフレコに入ってからの様子、終盤のやりとり、リムジンの中で話していたことをピックアップした。
『え―――――――――っ!?ジョンがこんな挨拶してたんですか!?』
「誰かさんの視線と一緒でどストレート過ぎるだろ。中尾さんもよくジョンに合わせてくれたな。ファンサービスってヤツか?」
「失敬な。しかし、ジョンですら戦闘力530000に届かないとは驚きました。我々の戦闘力がどの程度か、是非教えていただきたいですね」
「くっくっ、それなら本物のスカ○ターをジョンから借りて計ってみようじゃないか。ただ伝えられるだけでは面白みに欠けてしまうよ。僕は戦闘力たったの1で間違いないけどね」
「面白いじゃない!今夜はみんなで戦闘力を確かめるわよ!」
『問題ない』
「とまぁ、昨日はこんな様子だったわけなんだが、ドラマの撮影の進捗状況はどうだ?」
「週末は涼宮さんがおススメ料理の仕込みで撮影が厳しくなるけれど、平日にまとめ撮りをしているから今のところ順調と言えるだろうね。そろそろキミにも出てもらうことになるから、心の準備をしておいてくれたまえ」
「佐々木たちじゃあるまいし、どんなシーンなのかは知らんがそんなもの必要ないと思うぞ?そういや、芸能プロダクションから呼んだ俳優はどんな反応を示していたんだ?ラスベガスまでテレポートしたんだろ?」
「これまでのキミのパフォーマンスで全国民に耐性がついていると言っても過言ではなさそうだ。驚きはしたけれど、すぐに役作りに入っていたよ。ただ、僕が二人いるという場面は流石に見せるわけにはいかない。催眠をかけなくちゃいけないのが面倒だけど、その程度の配慮で済んでいるからまだいい。でも、各シーンを撮影するたびにハルヒさんに映像をチェックしてもらっているんだけれど、やっぱり監督がいない状態で撮影を進めるわけにはいかない。彼女一人だけでいいんだ。なんとか都合はつけられないのかい?」
「昨日ハルヒから話は聞いたが、若手政治家は野菜の皮むきすらできんらしい。ハルヒが影分身一体に催眠をかけてようやく切り盛りができる状態だそうだ。地元の人間も入ってきているそうだが店舗と一緒で経験不足。とてもじゃないが週末のレストランは任せられないらしい」

 

 他のメンバーもそれぞれ自分の仕事をしているし、調理の手伝いとなると圭一さんや裕さん、エージェントでは不可能。俺や古泉の影分身で入れないことは無いが、食材の良さを敢えて活かさずに調理してしまうのは食材に申し訳が立たない。古泉や青ハルヒだって同じことを考えているはずだ。この中で今現在手が空いているメンバーと言えば……朝倉とデザイン課にいる青OG。一月号も十一月中に完成させているし、それを使った美容院のシーンももう撮影を終えているに違いない。二月号も例のパイプ椅子が考えたランジェリーのデザインのおかげでそこまで忙しくは無い筈だ。だが、楽団の練習やコンサートのことを考えれば、朝倉にさらに負担をかけるわけにはいかん。今夜もリハーサルがあるしな。みんな表情を曇らせて同じように悩んでいた。
「よし、ディナー後のことやコンサートのリハーサルのこともあるし、今日は夕食の段階で俺の影分身がハルヒや青有希たちと入れ替わる。ブラックリスト入りした政治家に料理を教えるなんざ断固拒否するが、真っ当な若手政治家ならやることを指示すれば次第に覚えるはずだ。雑用としてすら使えないままじゃ、ハルヒがいつまで経っても戻って来られない。子供たちも寂しがっているしな。泉ヶ岳と安比高原スキー場のホテルの調理場に指南役として影分身を一体ずつ置くことにする。手が空いたらディナーの仕込みをすればいいだけの話だ」
「待ってください。ただでさえ今日のディナーは野菜スイーツなんです。あなたの負担が大きすぎますよ」
「それならもうほぼ終わった。午前中のうちに第二人事部で電話対応にまわることができる。明日のディナーの仕込みもするから電話対応は一体だけだが、レストランに入らせてくれという電話を切り捨てるだけなら今日は一体で十分だ。明日は増やす必要があるだろうが、ディナーの仕込みはそれまでには終えておく」
「あの膨大な種類と量をあなたお一人で作り上げたというんですか?我々もジョンの世界でバレーをやっている場合ではなくなりそうですね」
「去年は影分身を使うどころかそんな発想をすることもなかったし、みんなの食事の支度までしていたからジョンの世界で仕込みをし続けていただけだ。今年は影分身が使える上に、一騎当千の青新川さんがいる。野菜スイーツは前にも作っているし、三階や80階の厨房も使って作っていたから前回よりも時間短縮できたよ」
「でも、キョン君の負担が大きいことに変わりありません。本来ならキョン君は告知に行っててここにはいないはずなんです。政治家の皆さんに教えるだけなら、わたしがホテルに行きます!キョン君が背負う必要はありません!」
「現時点でそれがベストというだけだ。若手政治家に料理を教えるためだけにみくるがホテルの厨房にこもってしまったら、ドラマの撮影は進まないしビラ配りの効果も薄れる。それに夕食のときは接客として動いてもらう必要がある。今の俺の負担を考えてくれるのなら、その分二月のバレーのオンシーズンは練習試合に出させてくれ。その頃には、ハルヒや青有希が戻って来られるようになって、ドラマの撮影もほとんど撮り終えているはずだ」

 

 満場一致での『問題ない』は出なかったが、それ以外に策が思いつかず朝食の会議はそれで解散となった。会議の内容をハルヒや青有希、青OG達に伝えに行くと、当然ハルヒが怒りだしたのだが、今後のハルヒの負担と来年のことも見据えて決めたことだと伝え、ようやく了承を得た。ホテルに出向いた影分身は若手政治家に仕込みの指南を始め、本社99階ではようやく野菜スイーツが全種類出来上がった。古泉に報告するついでに第二人事部に移動。第一人事部にも古泉の影分身二体が配置されていた。早速電話対応にあたるとしよう。
「はい、SOS Creative社です」
「TBSの藤堂と申しますが、週末のレストランの取材をなんとか許可していただけないでしょうか?」
「これでTBSからの電話は11回目のようですね。これまで何度も『今さら社長が謝罪会見を開いたところでもう手遅れ』だと伝えてきたはずです。『取材の電話がしつこいようなら許可が降りるのは大分先になる』ということも話しています。もう今シーズンは週末のレストランの取材は諦めてください。おたくの社長から電話がかかってきたとしても『あなた方のせいで』取材は許可できないと伝えることにしましょう。よろしいですね?」
「てめぇ、人が下手に出て話していれば何様のつもりだ!ただ電話対応しているだけの人間がそんなことできるか!いいからさっさとレストラン内部に入らせろ!!」
「週末の夕食以外は制限がかかっていませんのでいくらでも取材していただいて結構です。それに、今話した内容は上から降りてきた指示に従って対応しているにすぎません。もはやTBSの人間はレストラン内部に入れそうにありませんね。『あなた方』ではなく、『あなたのせいで』今シーズンの取材は許可できないと伝えることにします。そろそろご自身のことも考えてはいかがです?客に紛れて幾度となくコンサートに入り込もうとした上にSPに対して暴力行為に及ぼうとした。もっとも、SPの小指一本でやられて逃げていくあなたの姿が動画サイトにUPされて人気になっているようですけどね。そうでしょう?TBSの藤堂さん」
「くそったれ!いつか必ずおまえらの会社に復讐してやるからな!覚えていやがれ!!」
「それは不可能だ。あんたと同じような電話が何件もかかってきているんだ。二、三日もしないうちにおまえのことなんて忘れてしまうだろうな。おまえ一人で何かしらの行動を起こしても、我が社にとっては何一つ影響が無い。解雇処分を受ける前に荷物をまとめておくんだな」

 

 言うだけ言って、こちらから切ってやった。これでTBSからの電話はすべてアイツのせいにできる。解雇処分を受けたあとどんな行動に出るのかは知らないが、報道陣ですら無くなったアイツに記事を差し替えることすらできやしない。敷地外で蔓延ることがあれば、周りの報道陣と一緒に病院送りにするまで。コンサートの観客に危害を加えようとすればそのまま牢獄行きだ。とりあえず報告は昼にするとして、一本でも多く電話を取るのみだ。
『逆ギレ!?』
「ああ、SPに小指一本でやられた奴だ。今後、TBSから連絡が来たら、藤堂という社員のせいで今シーズンはレストラン内の取材許可は出せないと伝えてくれ。たとえ解雇処分をしたと社長から連絡がきたとしてもだ」
「やれやれ、本能にアホの谷口と知能指数が変わらんな。明日以降のレストランや明後日のコンサートで何かしかけてくることが容易に想像できる」
「そのときは警察に逮捕されるだけだ。青俺、すまないがコンサートに来た観客の列にも閉鎖空間を張ってくれるか?報道陣は入れない条件で。展開した瞬間に報道陣を例の牢屋にテレポートさせるようにして欲しい。ついでにチケットをぶんどって集まった客に渡してくれ。念のため、チケット代は返すと告げて欲しい。どの道、受け取らずに帰っていくだろうけどな」
「分かった。観客を巻き添えにするわけにもいかん。当日の昼頃には閉鎖空間を張っておく」
「話が一段落したようなら私の方からもいいかね?」
「圭一さんの方にも似たような電話が来たんですか!?それとも、今話に上がった人間からのアプローチですか?」
「いや、こちらは朗報になるだろう。古泉のドラマの最終回に向けて主演女優とTV出演して欲しいと依頼が入った。一つは土曜日に生放送のクイズバラエティ、もう一つは来週月曜日の朝のニュースでゲストとして二人で出て欲しいそうだ」
「なるほど、そういうことであれば両方とも引き受けましょう。ディナーのことも加味して、クイズバラエティの方は青僕に任せることになりそうです」

 

 午後も影分身を増やして電話対応。99階には明日のディナーの仕込みに影分身二体であたっていた。しかし、サイコメトリーが使えない社員でも俺たちと似たような対応ができるとはいえ、こうもレストラン内の取材の許可を願い出る電話が多いと面倒だ。有希にまた新聞記事を作ってもらうことにしよう。レストラン内に侵入できる報道陣たちにとっては、一面を飾れる内容を提供してもらえたようなもんだ。ホテルのレストランもランチタイムのピークを過ぎ、皿洗いの終えた若手政治家に夕食の仕込みを一つずつ見本を見せながら覚えさせていた。結婚もしていないようだし、普段の食生活がどれだけ酷いのか容易に想像がつく。今の時代、料理もできない男は結婚相手として見てもらえんぞ。大根やニンジンの皮むきならピーラーでなんとかなるが、ジャガイモはそうも言っていられない。皮と一緒にかなりの量の実を捨てることになってしまったが、こればっかりは練習させていくしかないだろう。『政治家は使えないから』と政治家連中が時間を持て余すくらいなら、料理初心者でも可能な下準備をやらせた方が少しはマシになる。こんな作業をハルヒにやらせるわけにはいかん。定食に添えるキャベツの千切りだけはこっちでやるしかないか。食材に申し訳ないと思いながら、仕方なくサイコメトリー無しでキャベツを刻んでいた。夕食時、調理スタッフに見えるよう催眠をかけた影分身がハルヒ達と入れ替わり、久方ぶりに81階に全員が出揃った。子供たちもハルヒや青有希の姿を見て嬉しそうにしている。
「できた」
いつもの必要最低限の三文字と共に、今度は何ができたのかと考えていると、俺や古泉の前に楽譜が情報結合された。青有希とOGの前にも楽譜が置かれたということは、ダンスのバックバンドか。
「これ、もしかしてダンスの楽譜?」
「そう。後日ダンスの振り付けを依頼する。でも、この曲を出すのは七月中旬の予定。ハレ晴レユカイ同様、中高生が行事で踊る時期にこちらが合わせる」
「でも、有希先輩、その時期だと私がバックバンドとして出られるかどうか分かりません。青私ってピアノ弾ける?」
「中学の合唱コンクールじゃ毎年ピアノだったから大丈夫」
「良かった。ピアノがどれだけ弾けるかで青わたしと違っていたらどうしようかと……」
「しかし、ダンスの曲のタイトルが『止マレ!』と言うのは驚きました。てっきり、これまでと同じようなものになるものだとばかり思っていましたが……」
「あたしもそうしたかったんだけど、ピンとくるものが無かったのよ!ダンスも三曲で終わりってわけじゃないし、良いタイトルが浮かんだらあたしに教えてくれない?」

 

 これまでのダンスのタイトルと似た良いタイトルね……確かにあの二曲と同等のものとなると厳しそうだな。みんなもタイトルくらいならと思案してはいるが、なかなかいいものが思いつかないらしい。「あ」から順番に一つずつ考えていった方がいいかもしれん。
「あ……あ……アレアレドッチ?」
「このバカキョン!真面目に考える気あるの!?あんた!」
「くっくっ、タイトルを考える方法としては、それでいいじゃないかい?とりあえず、『あ』から順番に思い浮かんだものを口にしていくのも悪くない。閃いたものから順に声に出してくれたまえ」
「い……う……う~ん、良いものが浮かんでこないわね」
「お……オレオレ詐欺師」
『ブッ!』
「くくく……これは失礼を。ですが、『お』ではそれ以外に思いつきそうにありません」
「ハルヒ先輩、十月の最初じゃダメですか?」
「どうして?」
「ハロウィンにちなんで、クレクレオカシ!」
『おぉ―――――っ!』
「ふむ、そういうのも悪くないわね。候補として考えておくわ!他にないかしら?」
「じゃあ、四月上旬にチレ散レサクラなんてどうかしら?」
「クレクレオカシにチレ散レサクラ……他には?」

 

 悪くないタイトル名の候補が挙がったせいか、周り中さらに考え込んでいる。言葉として口から出てきたのはソレソレアタシ、ダレダレカレシ、カレカノキブン、ヤレヤレフアン……って、ヤレヤレフアンなんて身内にしか分からんだろう。どんな歌詞になるんだか見当もつかん。
『閃いた!』
ハルヒ達の名言集の一つではあるが、『安心しなさい!』と一緒でそこまで良い案が閃いたとは思えないんだが……
「とにかく、良い案が浮かんだのなら、二人同時に言ってみたらどうだ?」
『フフン、聞いて驚きなさい。せ~の!』
「ノレ乗レリズム!」「シレ知レセカイ!」
「これは驚きました。てっきりお二人とも同じ考えだと思っていましたよ。ですが、どちらも曲のタイトルとして適当だと言えそうです。特に涼宮さんの『シレ知レセカイ』はこれまでの曲の流れを受け継いでいます」
『(黄、青)あたしもなかなかやるわね!でも、四曲目のダンスはこのどちらかで決まりよ!!』
それにしても、青古泉の発言も次第に古泉に似てきたな。去年のようにテレパシーで会議なんてやっているとどっちの古泉なのか区別がつかなさそうだ。
「さて、昼いなかったメンバーにも報告したいし、有希に頼みたいことがある。ディナーとリハーサルの前に一件だけ話をさせてくれ」
「何?言って」
「今日の午前中、TBSの藤堂という奴からレストランの撮影許可を願う電話が入った。SPに殴りかかろうとして小指一本で負けて逃げて行ったカメラマンだ。俺も社員に伝えたマニュアル通りに対応していたら逆ギレしてきてな。復讐してやるとかぬかしていたが、アホの谷口と同じレベルだから、やることは精々俺たちがイラつく程度で大した影響は無い。だが、社員でも俺たちと同等の対応ができるとはいえ、その件でかかってくる電話がいくらなんでも多すぎる。本当に自分の都合の良いときにしか動かない連中だよ。そこで、有希にまた新聞記事を作ってもらいたい。見出しは、そうだな……『都合が良すぎ!SOS Creative社「当分の間、取材は許可できない」』ってところか。先月までに謝罪しているところは堂々とこの見出しで新聞の一面を飾ることになるだろう。この新聞記事で人事部にかかってくる電話の数を減らす。写真は、SPに小指一本でやられている藤堂が写ったものを載せてくれ。それから逆ギレした以上、たとえTBSの社長からかかってきたとしても、藤堂のせいで今シーズンはレストランの撮影は許可しないことにする。社長からの電話を社員が取った場合は古泉に繋ぐよう伝えてくれ」
「分かった。その内容で記事を作る。明日の朝には一面が差し替えられるはず」
「政治家も報道陣もホンットくだらない連中ばっかりね!他にもそんな奴がでてきたら容赦なく切り捨てて頂戴!そのくらいの罰の方が丁度いいわ!!」
「それとは逆に、監視カメラの映像を見てこいつらなら許可してもいいと思えるような奴が入ればその会社の人間は通れるようにしたい。もっとも、そんな奴がでてくるとは到底思えないがな」
「公開処刑にノミネートするのが目に見えていますね。分かりました、社員にはそのように伝えておきます」

 

 ハルヒ達はリハーサル、古泉と青ハルヒ、OG六人は三階へと降りた。
「青有希、99階を使っても構わないから、子供たちを風呂に入れてやってくれないか?野菜スイーツを食べたくてもディナーやリハーサルが終わるまで待っていないといかん。そのあと風呂に入れて睡眠不足になるよりはいい」
「分かった。99階のお風呂を借して」
「よろしく頼む」
種類豊富な野菜スイーツだから、選手たちがどれを食べようか悩む時間もある。ディナーの方は俺たちが遅れたとしてもさほど問題ではない。調理スタッフの催眠をかけて三階に降りた頃には古泉がルール説明を開始していた。まだ二回目だが、もう細かく説明する必要もあるまい。リクエストディナーの第二弾であることも話し、フロアに来ていたカメラマン達にその様子をしっかりとおさえられていた。因みに再来週は鉄板料理食べ放題。最近食べたばっかりで覚えているのもあるかもしれないが、リクエストベスト3がすべて食べ放題ディナーになるとはな。普段のディナーでは物足りなかったのかもしれん。一品くらい増やすかどうか今度、古泉たちと相談してみよう。前回と同様、甘いものは別腹のようだ。監督やコーチ達はもう部屋に戻っているが選手たちは誰一人として部屋に戻ろうとはしなかった。OG達も例外ではない。青みくるや催眠をかけた青OG達が皿を戻して来てくれているが、皿洗いをしているのは俺と俺の影分身。そろそろハルヒ達から催促がかかってもおかしくない。今度にしようかと思ったが、今話してしまうか。
「古泉、一つ相談なんだが、アンケートを集計した結果、ベスト3がどれも食べ放題メニューになってしまった。最近食べたばっかりで美味しかったからもう一回という捉え方もできるが、通常のディナーでは足りないなんてことも考えられる。仕込みは俺がやるし、来週は一品増やすか量増ししようかと考えているんだが、どう思う?」
「確かにそういう捉え方もできますが、もしそうならOG達が選手たちから愚痴を聞いているはずですし、我々のサイコメトリーが自動で発動するでしょう。日本代表チームが我が社に訪れるようになってから全体の量は変わっていませんし、これまで通りでいいのではありませんか?」
「あんたも考えすぎなの!黄古泉君の言う通りだわ!これまで通りで十分よ!」
「そうか、分かった。なら来週は通常通りだな」
前のときもそうだったが、甘いものは別腹というのが良く分かる。それぞれ使われている食材やスイーツの名前、カロリーを書いてはいるが、日本代表選手がカロリーを気にする必要はないはず。だが、野菜スイーツだけでどれだけのカロリーを摂取しているのか計算したくなった。あとで俺や子供たちが食べた分のカロリーだけでも計算してみるとしよう。

 

 ハルヒ達がリハーサルを終えて降りて来る頃には有希の手には一枚の紙切れ。「これ読んで」と有希が宇宙人だとカミングアウトした頃を思い出されるセリフと共に、先ほど頼んでおいた記事ができあがっていた。見出しと写真については俺が注文をつけたし、演奏している最中にでも記事の中身を考えていたんだろう。取材の許可を願う電話に対して『あまりしつこいようなら許可が降りる時期が遅くなる』と伝えられているにも関わらず、何度もかけてきている会社が多数。会社によっては、今シーズンは一切許可が降りない可能性もありえる……か。FAXを送れば記事を作ったのが俺たちだとすぐにバレるだろうが、あくまで第三者の視点から記事が書かれていた。有希にこのまま各メディアに送ってくれと伝えて、スイーツを食べ始めた。
 翌朝、結局昨日は限界を超えて食べていた子供たちのカロリーも計算するのを途中で断念。だが、いくら低カロリーな野菜スイーツでも、それだけで2000kcalを超えていたのだけは間違いない。栄養面も考えて今回は苦しい思いをしてもらうことにした。朝のニュースは先月までに謝罪が済んでいる新聞社二社が、こちらからFAXした通りの見出しと写真が掲載され、記事は多少弄られていたものの、内容に大きな変化は見られなかった。残りの新聞社も我関せずとばかりに独自の見出しで同様の内容で一面を飾っている。まぁ、謝罪会見のときとほぼ変わらないというのが率直な感想だ。だが、これでこの新聞社からの電話が来れば、この一面記事を逆手に取ることができる。電話対応が楽しみだな。TBSはアナウンサーが謝罪しただけでそこまで新聞記事についてふれることはなく、他のTV局は、どの局も女性アナウンサーが似たようなコメントをしていた。
「確かに、社長が謝ったから取材させてくれというのは都合が良すぎますね」
「食事を終えてレストランから出てくる客にインタビューしたり、ゲレンデの様子を映したりする分には報道規制がかけられていませんので、まったく取材ができないというわけではありません。にも関わらず、このような行為に及んでいるというのは、同じ報道する側の人間として恥ずかしいと感じています」
フジテレビも天空スタジアムの件で似たような状況になってはいたが、TVに出ているアナウンサーは関係ない。おなじみの男性アナウンサーのセリフに周りの女性アナウンサーが納得していた。最初に記事を差し替えさせてもらった新聞社の社長も今頃高笑いをしているに違いない。ここまで来れば『社長さえいなければ』などと考える奴もおらんだろう。

 

81階にメンバーが集まってくると、明らかに不機嫌そうにしていたのがハルヒと朝倉。大方、本物のスカ○ターで自分の戦闘力を測った結果に納得できなかったんだろう。ハルヒが一番下とか言ってたからな。「スカ○ターの故障だ」とか言ってたんじゃないか?
『当たらずとも遠からじってところだ』
「いやはや、君の手腕には驚いたよ。たった一通FAXを送っただけで、あそこまで報道陣を変えられるものだとは私も思いもよらなかった。これで人事部の社員たちの負担も軽くなりそうだ」
「くっくっ、あのFAXに便乗してきた新聞社は自分たちが逆に困るってことが分からないようだね。あんな一面記事を出しておいて電話がかかってくるようならぜひ聞いておいてくれたまえ。『あの一面記事を出しておいても尚、電話をかけてくるということは今シーズンの取材は諦めると判断していいのか』とね。ところでキョン、今日の午前中は空いているかい?キミと園生さんのシーンを撮ってしまいたい。青僕もハルヒさんもいない状態で撮影することになるけれど、あとはそのシーンとオープニングさえ編集してしまえば第一話と第二話が完成するんだ。午後だと園生さんもフロントの仕事で忙しくなるだろうから午前中にと思っているんだけどどうだい?そこまで時間はとらせないし、ディナーの仕込みに影響するほどでもないから安心してくれたまえ」
「ああ、俺はそれで構わない。二話で一つの事件の構成にすることは聞いていたがもうそこまで進んだのか。ハルヒや青佐々木抜きで撮影したいというのも早くみんなで見てみたいってことなんだろうが、オープニングの編集で時間を喰っているのはどういうわけだ?」
「オープニングは撮影したシーンをSuper Driverのドラムの音に合わせて有希さんが編集する予定なんだ。編集用の映像は撮れたんだけど、いくら有希さんでも音に合わせて映像を切り替えるなんて難しい作業だからね。それと、回が進むごとにオープニングに園生さんや新川さん、キミが映る場面も入れたいと思っている。アニメのオープニングと似たようなものだと思ってくれたまえ。通常の状態のまま終わっていたのが、ある回を境に超サ○ヤ人に変身するようになるのと同じだよ」
「『なるほど、分かりやすい』とかジョンが俺の頭の中で言っているんだが、佐々木のやりたい事は分かった。そのときになったら呼んでくれればいい。ところで有希、忘年会の出欠と楽団員の有志がどれだけ集まったか教えてくれないか?」
「問題ない、全員出席。楽団員有志は総勢8組。同じ曲がいくつか被っていたのでじゃんけんで一組に絞った。景色を眺めるために必要最小限の照明しか使わないことも伝えてある。ジャズを演奏する組もある。ここにいるメンバーも忘年会に参加するべき。聞いて損は無いはず」

 

 有希の今のセリフの中に呆れてしまいそうになる言葉が多すぎてしばしの間、沈黙がフロア内を埋め尽くした。
「……全員出席っていうのはちょっと吃驚しちゃったけど、あの夜景と黄キョン君の料理なら当たり前よね。それにわたしも楽団員有志の演奏を聞いてみたくなったわね。一緒に参加しようかしら?」
「黄有希がそこまでいうからには相応のムードで忘年会が楽しめるんだろうが、黄新川さんやまだ仕事中のこっちのOG二人はどうするんだ?特に今月で退社するのなら色々と作業があるだろう」
「わたくしのことはお気になさらず、皆様で楽しんでいただければそれで結構でございます」
「いいえ、今年は新川さんがドラマ出演していますし、セカンドシーズンもどうなるのか社員も気にしているはずです。いくら情報を渡したとしても青新川さんでは実感が湧かないでしょうし、その日のディナーは我々の影分身で対応するというのはいかがです?」
「俺は元々その場には居ない人間だからな。俺一人でも十分だ」
「駄目、あなたが日本代表に提案したリクエストディナーと同じ。一回しか聞けないかもしれない。鈴木四郎であなたも参加して」
「そうです!キョン君も少しは休んでください!」
「分かったよ。ならその日は俺と古泉の影分身が新川さんの代わりに入るってことでいいな?」
『問題ない』
「皆様のご配慮、ありがたく頂戴致します」
「私も心配いりません!黄キョン先輩にキューブのことも習いましたし、その日は絶対に定時であがれるように前倒しで仕事をすることにします!」
「じゃあ、これで分かれましょ!あたしもディナーの仕込みをしなくちゃいけないし」

 

 青ハルヒはディナーの仕込みとビラ配りで影分身三体ってところか。俺はとりあえず母親に今夜もハルヒと入れ替わって欲しいことを伝えて朝食の片付け、ハルヒや青有希達に会議の内容を連絡に行って、安比高原のホテルでディナーの仕込み。指南役の調理スタッフはもう政治家たちに料理を教えている。あとは佐々木も気にしていた電話対応に向かうとしよう。佐々木から連絡がくれば撮影にいけばいいだろう。
「はい、SOS Creative社です」
って、案の定か。社名を言いきる前に相手が電話をかけてきた理由が分かってしまった。
「◇○新聞の吉村と申しますが、今日のレストランでの様子を取材させていただきたいのですが」
「朝と昼なら規制はされていませんから構いませんよ」
「いえ、できましたら夜の方も取材させてくれませんか?」
「自分の会社の今朝の一面記事がどんな内容なのか理解していないんですか?あの文面で新聞を作っておいて尚、電話をかけてくるということは今シーズンの取材は諦めると判断してもよろしいですか?」
「そこをなんとかお願いできないでしょうか?」
「話になりませんね。あなた以外の人間は許可が降りるまで待っていたとしても、あなたが今後もかけてくるようであれば、おたくの社長に『あなたのせいで今シーズンのレストランの取材は許可できない』と伝えることにします。では、失礼します」
佐々木の言っていた通りだったな。スクープに便乗して、そのあと自分たちがどうなることになるか全く分かってない。この調子じゃ、アホの谷口が日本中にどれだけいるんだか分かったもんじゃない。
『キョン、準備ができたからそろそろ来てくれたまえ』
『来てくれってどこに行けばいいんだ?てっきりおまえが連れていってくれるものだと思っていたぞ』
『ラスベガスだよ。キミなら僕たちのことをすぐに見つけられるはずだ』

 

 やれやれ、準備が整ってから呼んでくれたのはありがたいが、いくらラスベガスと言っても広すぎてどこに佐々木たちがいるのやら分かりやしない。透視能力で見まわしていると眠ってしまったラスベガスに一つだけ明かりのついている場所を見つけた。佐々木や園生さんもいるようだ。すぐに撮影現場へとテレポート……したのはいいが、あまりイメージのいい場所とは言えなさそうだ。藤原のバカがアジトにしていたような廃工場跡が建設されていた。
「キョン、待っていたよ。今日キミにやってもらいたいのはこれなんだけどね、大丈夫かい?」
手の甲に佐々木の細い指があたり、情報が伝わってくる。しかし、空調完備の閉鎖空間をつけているのに随分冷たい手をしているもんだ。セリフもほんの二言、三言で済む。ただ、海外から戻ってきたという設定なのかどうかは知らんが、園生さんと英語で話すらしい。
「ところで、俺の衣装はどこにあるんだ?」
「それなら今伝えたじゃないか。キミなら情報結合で簡単に作れるだろうと思ってね」
まったく、俺の能力を理解した上で応用してくるところがコイツらしい。さっきの電話の主とは真逆だな。とにかく、今回は顔すら映らないようだし、とっとと終わらせてしまおう。廃ビル内の大きな換気扇のようなものを背景に撮影がスタート。園生さんが俺に近づいてくる。
「あんたか、俺をここに呼び出したのは。それで、俺に何をさせるつもりだ?」
「こちらの資料をご覧ください」
「くくく……コイツは面白そうだ。いいだろう、引き受けてやる。しかし、サイコメトラーとは驚いた。俺と同じ能力を持った奴がこの世にもう一人存在していたとはな。報酬は高くつくぜ?」
「我々の組織に対するあなたの貢献度次第です」
渡された資料にまでこだわっているようだ。青古泉、青ハルヒ、みくる、ジョンの写真と名前や職などの情報が記載されていた。たったこれだけのシーンでNGが出ることも無く一発OK。佐々木に先ほどの電話の件を話すと、
「くっくっ、案の定のようだね。やれやれ、これじゃ四月の下旬になっても撮影許可が降りそうにないじゃないか。これで事件一つ分を取り終えたし、僕にも電話対応させてくれないかい?」
「それは別に構わんが、『くっくっ』と笑うのか『やれやれ』と呆れ果てるのかどちらか一方に統一しろ」
「ごめんごめん、でもそういう心境だってことは理解してくれたまえ。しかし、何事も修錬というキミのセリフにも納得ができたよ。有希さんがいないとカメラマンがいなくなると思っていたんだけどね。彼女からやり方を聞いてやってみたらそれだけで出来てしまった。使えば使う程良くなるのはどうやら頭脳だけじゃないらしい。ところでキミに一つ相談があるんだけどね。ドラマの披露試写会をいつにしようか迷っているんだ。出来れば全員揃う場で見たいと思っているんだけれど、都合のいい日はないかい?」
「それなら、来週の火曜の夕食時ってことになりそうだ。DVDを焼き増しして新川さんに一枚渡すのと、青OG達が仕事から戻って来られるかどうか分からんからあの二人もそうなるだろう。ハルヒ達は俺の影分身が交代すればそれで済む。ついでに月曜に産婦人科に行くことも忘れるなよ?」
「分かった。出来れば今ぐらいの時間にしてくれたまえ。ハルヒさんや有希さん、青僕がいないと撮影にならないからね。それに、今どんな状態なのか楽しみでならないよ。キミのサイコメトリーには敵わないと分かってはいるけれど、やっぱり産婦人科に行って診断してもらいたいんだ」

 

 佐々木がそう言い張る以上、内緒でサイコメトリーするわけにもいかん。月曜日を楽しみに待つとしよう。とはいえ、怒涛の三連休を乗り越えなければならないことに変わりは無い。三人で本社に戻り、佐々木はそのままラボへと向かい、園生さんをホテルへと送った。まだ長距離のテレポートを扱うまでには至ってないらしいな。俺も電話対応の続きといこう。
 ランチタイムを終えた母親を連れてハルヒの元へとテレポート。引き継ぎ事項をハルヒから母親に情報が手渡され、SOS団、ENOZを連れてテレビ朝日へと向かっていった。その頃にはディナーの仕込みも翌日のものに取り掛かっており、やる内容を覚え始めた若手政治家が食材の下準備に取り掛かっていた。現地の住民も厨房内で夕食の仕込みをしていたが、サイコメトリーで伝わってきた情報によると、すべてハルヒの指示らしいな。本体はリムジンの運転をしながらスカ○ターでレストランに取り付けた監視カメラの映像と音声を拾っていた。レストラン前ということもあり、暴言は聞こえてこなかったが、レストラン内に入れないにも関わらず、多くの報道陣が集まっていた。みくるや佐々木、ENOZがいない分、今日の接客担当は若手政治家と俺の影分身。おススメ料理の規制について若手政治家にもう一度確認してから客の注文を聞いて回っていた。ここまで開始時間に合わせて客がレストランに集まってしまうと、ゲレンデの方は暇を持て余してしまうな。まぁ、その分ブラックリスト入り連中をホテルに呼び戻して布団を敷く作業をさせるだけだ。しばらくしてスカ○ターから負け犬の遠吠えが聞こえてくる。
「クソッ!いつまでこの状態が続くんだ。こんなことなら、さっさと社長に土下座させときゃ良かったぜ」
「間仕切りが邪魔で中の様子が一切分からないですしね。あれが無ければズームで撮れるんですけど……」
「おい、許可はまだ降りないのか?」
「ダメです。もう誰もいないみたいで、いくらかけても繋がりません!」
「やめておけ。入れるようになる時期が更に伸びるだけだ。今朝の新聞記事を逆手に取られてる」
「定時帰りでいい御身分だな」
「あんな記事にするからじゃないッスか!」
「馬鹿野郎、他の記事で一面を飾り続けてみろ。シーズンが終わる頃には新聞が売れなくなるだろ!」
「そりゃそうッスけど、明日の新聞の一面どうするんすか?」
「俺が知るか!チッ、社長以外にも同じパフォーマンスのできる奴がいたってことらしいな」
くくく……今日だけで公開処刑をするには充分な程のネタを提供してくれるとは思わなかったよ。まぁ、今日だからこそってこともありえるな。社員が定時帰りなのはちゃんと仕事をしているから。おまえらのように無駄な時間を過ごしている奴とは違うんでね。生憎とうちの副社長は最低一ヶ月はこの状態を継続すると言っているんだ。精々無駄な時間を過ごすんだな。

 
 

…To be continued