500年後からの来訪者After Future6-3(163-39)

Last-modified: 2016-11-02 (水) 20:25:48

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future6-3163-39氏

作品

青ハルヒ、みくるとのドライブを終え、青ハルヒのラインナップに全員が納得の表情を見せ、みくると話した10年後、20年後の話についてはメンバーにいつ打ち明けるか、頭を悩ませていた。そんな中、古泉の懸念事項が現実のものとなり、女性アナウンサーの「SOS天空スタジアムで行われることになったそうです!」という断定的な発言に青ハルヒにテレパシーを送った古泉が真っ向否定。大御所MCがこちらの味方につくとは俺も予想外だが、野球では閉鎖空間の条件を変えるわけにもいかず、東京ドームとほとんど変わりがない。日テレ以外のTV局の社長の謝罪は『記者会見を開いた上での土下座謝罪しか認めない』と言い切った俺に、OG全員の『問題ない』が返ってきた。

 

 翌朝のニュースは青みくるの背中から羽が生えたパフォーマンスと、ネックレスの件でもちきり。「そんなカメラワークをしていたか?」と疑う程、青みくるの胸元を上から映した静止画をそのまま一面に掲載した新聞社もあったが、ダイヤモンドに切れ目が一つも入っていないことを見せるには丁度いい。各新聞記事の見出しもいつの間に俺がネックレスを作ったのか、俺にそんな技術があったのか、青みくるのネックレスだけで総額どれほどのものになるのか等々。だが、今日注目すべきは生放送をしたTV局のニュース。土曜日ということもあり、平日とは少し変わったものだったが、社長の謝罪の件は一切取り上げられず仕舞い。青みくるや俺に対する取材や『ネックレスを見せろ』とでも言いたげに報道陣が敷地外を埋め尽くしていた。今日は閉鎖空間に閉じ込めるだけで許しておくか。ここで負傷を負ったにも関わらず、未だに敷地外に蔓延っている奴もいるようだしな。どこの国の報道陣もアホの谷口とレベルが変わりやしない。
「さて、個々に話はしているが、まず何より青チームSOS団、昨日の収録お疲れ様でした!」
『お疲れ様でした~!』
「流石としか言いようがないわよ!黄古泉君の予言していた通り、女性アナウンサーがほとんど同じ発言をしてきたんだから!」
「いや、彼の予言では未来形だった。でも昨日の発言は過去形だったからね。あの瞬間は僕もイラッとしたよ」
「僕もあまり他の方のことをいえるセリフではありませんが、お二人とも大袈裟です。あれは予言という程のものではありません。ですが、大御所MCまでこちら側についてくれるとは僕も予想外でしたよ」
「確かに、古泉の言える言葉では無さそうだ。しかし、今日は社員もいない。この後の対応はどうするかね?」
『(黄)キョン先輩が話していた通りがいいです!!』
「キョンの言う通りって、あんた、この子達に何を話していたのよ?」
「なぁに、古泉もほぼ同等の考えだと思うが、残るTV局には『記者会見を開いた上で、社長が土下座で謝罪』しない限り天空スタジアムは使わせない。ただし、あのTV局だけは月曜の朝までと制限をつける。それ以降はどんなに懇願してきたとしても一切受け付けず、アーティストやMCが本社内に入ろうとしても報道陣と同じく敷地内にすら入ることができないようにする。その旨を古泉に連絡してもらうまでだ。『社員や楽団員は対応策を立ててあるが、アーティストやMCがテロに巻き込まれたら、社長の首だけで済まされない』と脅してな。無論、発言したのはあの女性アナウンサーだからとアナウンサーを解雇してもOUT。各TV局の社長が謝罪してからは、コンサートやライブに強引に入り込もうとする局員には『また社長に謝らせる気か!?』と脅しをかける。古泉、何か追加はあるか?」
「いえ、僕も月曜の朝までのつもりでした。今日と明日は人事部にいない方が良さそうですね。青朝比奈さんのネックレスの件でファンや報道陣からの電話ばかりでしょうから」

 

「……?みくるちゃんのネックレスの件って一体どういうことよ!?」
「新聞記事の一面もそれに関するものばかりだったし、今外にいる奴等もそうだ。俺が秘密裏に帰ってきたとしても、どうやって作ったのか。報道陣の知りたがっているのはそこだよ。専門家に鑑定してもらうにしても、ネックレスそのものがなければ鑑定しようとしても鑑定できないし、プラチナやダイヤモンドが本物かどうかも分からん。俺とジョンのバトルのときのように、映像をコマ送りにして見るしか方法が無いんだよ。『取材でなくてもいいからネックレスだけ貸してくれ』なんてものもあるだろう。ファンからの場合は『同じものをファン限定の非売品として売ってくれ』という要望だ。この間の青古泉のように青みくると同じものを付けたい、あるいは飾っておきたいなんて連中がかけてくる。ハルヒ達に似合うデザインを俺に渡しておきながら、俺がデザインしてハルヒ達がつけていたものをわざわざ催眠で隠してまでつけていた。あの時は正直俺も引いたぞ。既に古泉と区別をつけられるだけのデザインがありながら、それを付けずに青俺にバラされた。青俺も、古泉の指輪のことにはとっくに気付いていたかもしれないが、それが青俺の口から出ることは無かったかもしれん。『イヤリングが可愛い』という理由で発売日を聞いてくる女性なんて極一部。圭一さんや古泉だけでそれらをすべて対応する必要はないし、あのTV局からの妥協策も一切受け付けない。古泉の言っている『今日と明日は人事部にいない方が良い』ってのはそういうことだ」
俺が話し終えると、特に女性陣の、睨みにも似た視線が青古泉に向いた。
「黄古泉、あのときは本当にすまん。こっちの古泉のことで苛立ってつい……今日は、俺一人で影分身を使って人事部で電話対応をする!許してくれ!!」
「バレてしまったことは、もう仕方がありませんし、他の方も既に気付いていたことだって十分考えられます。ようやく青僕と区別がつけられるようになったと解釈していただければ結構です。それに、電話対応をやるのなら異世界の方です。我々、特に涼宮さんや有希さんへの野球関連の取材、朝比奈さん達にもCMの依頼も来るかもしれません。こちらにかかってくる電話のほとんどは彼が説明してくれた通りだと僕も考えていますし、社員が出社するようになってから、策を伝えてそれぞれの電話に対応してもらえばいいだけのこと。イヤリングは冊子に載せても、ネックレスの方はたとえファン限定だったとしても出さない方がいいでしょう。ガラス細工で安く提供すれば本物の価値が落ちますし、かといって本来の金額で出すわけにもいきませんからね」

 

「それで……このネックレス、一体いくら位なんですか?」
「計測不可能。他の商品と同じ相場で扱える代物ではない。それに、彼の技術力が加算される。でも、プラチナは1gで3400円、ダイヤモンドはラウンドブリリアンカットのダイヤモンド1カラットで25万円。0.2gで1カラット」
『1カラットで25万円!?』
「ってことは、たった2gで250万円ってことかい?」
「同じ2gでも単体か複数か、そしてその形状によって変わってくる。こちらの朝比奈みくるのイヤリングの値段を2000万円と提示した。これはそれと同等かそれ以上は確実」
「キキキキキョキョキョキョン君、わわわわわたし、そそそ、そんなものをつ、つけていたんですかぁぁ?」
「まだいいではありませんか。佐々木さんはその100倍価値のあるものをつけているんですから。しかも、やろうと思えば金庫に眠っているという残りも混ぜることが可能です」
「キミってヤツはそのことを思い出させないでくれたまえ。いくらカメラに映っていないとはいえ、こんなものをつけてTVに出ていたのかと今になって思い返すと、もう人前に出られないじゃないか」
『だったら付けずに行けば良かっただろう』と言いたいところだが、できれば肌身離さずつけていてもらいたい。
「それなら、今日は私も異世界の方に出向くとしよう」
「くっくっ、こんなに早く使える日が来るとは思わなかったよ。圭一さんとキミのご尊父は異世界移動ができないはずだ。二人にはこれを使ってもらうことにするよ」
「私に一体何を使えと言うのかね?」
「……正式名称は後で考えることにするよ。キョンのアイディアがなかったら完成しなかったものだからね。キミも良いネーミングを考えておいてくれたまえ。そうだね、今はスマートフォン型の異世界移動装置と言っておくよ」
『異世界移動装置!?』

 

「ってことは佐々木先輩、これがあれば異世界移動できない私たちでも自由に行けるんですか!?」
「場所の詳細を入力すれば、いつでも、どこでも行くことが可能さ。でも僕は、不完全だった頃のキョンの零式のように、これは未完成の代物だと思っているけどね」
『面白いじゃない!』
「佐々木さんの言う完成形がどんなものかは知らないけど、ついにあたしと有希の研究していたものができたってことよね!?」
「そうだね、半分以上をハルヒさん達が研究してくれていたからこその物だと言えるだろうね。複数で行きたい場合は、ジョンの嗜好品の瞬間移動のように、その装置を持っている人のどこかに触れていれば一人ずつ使わなくても一緒に行くことができる」
『行くときは額に指二本当てないと駄目だぞ』
「ただでさえ信じがたい装置だっていうのに、余計な情報を与えて周りを不安がらせるな、阿呆」
「僕らの追い求めている完成形はこんな小型機すら使わずに、場所をイメージしてテレポートする感覚で行けるようにしたものだよ」
『あたしにも使わせてちょうだい!』
「では、エネルギーを節約したいので僕も……」
『あんたは駄目!!』
「佐々木たちには悪いが、俺からすればまだ粗悪品の段階だ。『場所の詳細さえ入力すればいい』とはいえ、悪用しようと思えば簡単に空き巣に入ることができてしまう。使う人間を選ぶ必要があるんだよ。例えるなら、閉鎖空間外にいる報道陣が閉鎖空間の条件は変えられなくても、天空スタジアムに入りこむことができる。ハルヒ達も使い方には十分注意すること。それから青チームの森さんや裕さん、圭一さん、新川さんには渡してもいいだろ?」
『あたしに任せなさい!』
「そうだったね。こっちの古泉君が一緒に送ってくれていたのをすっかり忘れていたよ。キョンの言う通り、四人の分もすぐに用意する。黄チームのOG達はもう少し待っていて欲しい。使う人を選ばず、悪用される危険性が無くなったら必ず渡すと約束するよ」
『よろしくお願いします!』

 

「大分時間を喰ってしまったようだ。今日は楽団の練習もあるし、青俺はまずSPを使って報道陣を例の牢屋に閉じ込めておいてくれ。様子を見て古泉があのTV局に電話をすることになる。こちらの人事部にかかってくる電話は今日、明日は誰も対応しないということで統一する。それから古泉、月曜日の撮影終了後の打ち上げについてだが、カメラマンがTVカメラを持って上がって来なければ、ディナーの最後に天空スタジアムにテレポートさせて夜景を見せてから帰したいと思っているんだがどうだ?」
「昨日のような味方が増えそうですね。分かりました、それでお願いします」
「それじゃあ、今日も張り切っていくわよ!」
『問題ない』
SPに化けた青俺が報道陣を牢屋に押し込め、黄チームSOS団メンバーは楽団練習。青ハルヒ達はビラ配りに出向き、子供たちと青OGが体育館での練習に参加し、その分こちらのOG達が異世界の店舗へ。社員のいないデザイン課で一人でデザインを考えていても何も面白くないだけだからな。店舗は違えども、四人とも久しぶりに店員ができるとあってノリノリだ。フロアに残ったのは俺と青佐々木の二人。話題は勿論異世界移動装置の名前について。
「しかしキョン。タブレットよりは縮小できたとはいえ、あれ以上縮小して悪用されないようにするとなると……私には見当もつかない。キミはどうだい?」
「こっちの佐々木が言っていただろう。頭でイメージした場所にテレポートする感覚だよ。装置が必要とはいえ、もうテレポートの概念は攻略したも同然だ。それなら今度はサイコメトリーやテレパシーを具現化する方法を解明する必要がある。頭でイメージした場所を装置が読み取って移動することについては、ジョンやみくるが持っているタイムマシンも同じことが言える。禁則事項に該当するからジョンやみくるからはヒントすら出ないだろうが、みくるには未来からの指令をテレパシーのように受け取ることができ、許可が下りなければ使えなかったTPDDもTPDに変わって過去のハルヒ達を過去のみくるが連れて来られるようになった。加えて、相手がタイムマシンを持っているかどうか額に触れただけで判断ができる上に、タイムマシンを持っていることがバレないようにする方法、意識を失わせることができることも、この時間平面の人間にはどれも不可能なのに未来人にはそれができる。当たり前の話だが、ハルヒのパワーを直接受け継いだ伊織のように、生まれたときからその能力が使えたとは考えにくい。有希や朝倉のように人間と同じ食べ物から栄養素を吸収して、それを糧に脳内で動かしていることになる。みくるはTPDDのことを『英単語のようなもの』と言った。例えとして相応しいかどうかは別として、みくるのようなエージェント達がTPDDを持つことは、脳内に埋め込むこととさほど変わりがない。だからみくるは、『英単語のようなもの』と例えたと俺は思っている。藤原のバカのような連中は、この時間平面上で言うところのマフィアみたいなものだろう。麻薬と同じようなTPDDの取引が秘密裏に行われていたと考えれば説明がつく。もっとも、ハルヒを主とするSOS団に対抗する相手として佐々木が選ばれ、あの連中が揃ってしまったというのが当時の古泉の理論だ。その埋め込む方法も、シールのようなものを張っただけで脳に吸収されてしまうようなものなのか、何かしらの特殊なカプセルか何かに詰めて脳内に留まるようにするものなのか。考えなければならないことは山ほどあるが、異世界移動の理論が立てられたのなら、今度は時間を超えて過去や未来の時間平面と通信する手段を確立することが方程式を解く最初の手順になるだろう。スマートフォンのように多機能なものではなく、通話に特化した超小型携帯電話を開発してみるってのはどうだ?テレパシーの利便性を考えると、最初は両耳を塞ぐイヤフォンのような形になりそうだな。大音量で音楽と聞いている状態を変わらんからな」

 

 互いに作業を行いながら、俺の発言を青佐々木が頭の中で反芻していた。
「まったく、ハルヒさん達が大嫌いだという過去のキミと入れ替わっているんじゃないかと疑いたくなるよ。私たちの研究のはずなのに、次のステップに行くための手順を発案しているのがキミなんだからね。キミの言う通り、ただの未来人にしては何でも出来過ぎているのは確かだ。この前のドライブでは『使うエネルギーを充電できるものに変えろ』と言ったけど、今度は『摂取する栄養素をエネルギーにしろ』と言うんだから、また難題を振ってくれるよ。でも、その難題をクリアしないと、未来人の使っているようなツールに辿りつけそうにない。キミの推測は実に的を射ていると私は思うよ。そうだね、サイコメトリーやテレパシーを超能力ではなく理論として構築しないと、この装置もこれ以上の発展は出来ない。ちなみにキミに聞いてみたいんだけどね、デザインセンスだけでなく、理不尽サーブ零式改(アラタメ)なんてネーミングセンスも持ち合わせているようだ。この装置の名前、キミならどうするのか聞かせてくれたまえ」
「そうだな……ジョンの時間平面上ではどんな風に呼ばれているかなんて聞いたこともないが、みくるが持っていたタイムマシンが『タイム・プレーン・デストロイド・デバイス』でTPDDだからな。今は『デストロイド』が無くなったから俺が勝手にTPDなんて呼んではいるが、それと同じ要領でいくと『ディファレントワールド・ムーブメント・デバイス』でDMD。もしくは『パラレルワールド・ムーブメント・デバイス』でPMD。俺の映画じゃないが、倒置法で強調したとしても『 a Movement Device to the Different would 』でMDD。どれをとってもあまりいいとは思えないが、今思いつくのはそれくらいだ」
既に片付けを終えた青佐々木が青ハルヒの席につき、俺と向かい合って話していた。もっとも、見た目では一人対四人だけどな。こちらも昼食の準備も終えて、あとはハルヒ達が帰ってくる前に先に昼食を食べ始めればいい。有希も青ハルヒと同様、俺のヘアメイクでないと嫌だと言い出すに決まっている。

 

「くっくっ、確かにそうならざるを得ないね。全世界で考えるのなら、英語の略称で表すのが一般的だと私も思うよ。しかし、私の片付けとキミの昼食の支度にかかった時間がほとんど同じとは驚いた。僕も影分身を使えるようになった方がいいと思うかい?」
「使えるに越したことはないだろうが、研究をより効率的にするための影分身なら止めておいた方がいい。こっちの佐々木と合わせて結局二人分には違いがないからな。ただ、さもサ○ヤ人の尻尾のように触手を生やして前後両方を責めている影分身を見たときは俺も驚いた。何かしらのきっかけがあったのかもしれないが、まぁ、偶然か気まぐれの産物ってところだろうな。あとはそこまで目立った閃きは無いし、推奨はしない」
「キミのように何十体も操れるようなレベルにまでならないと無理のようだね。盗塁を刺す練習をしていたときも、告知に削いでいる意識を除いてもゾーン状態に成れたんだろう?今度は夜練で変化球でも投げてみないかい?」
「ああ、報道陣さえいなければ試合にも参戦したいくらいだよ。それに、告知にかける意識もだいぶ削れるようになった。今17%だ。10%まで下げられるようになれば、告知が終わってすぐ零式アラタメが撃てるはずだ」
『いい匂いだね。もうお昼ご飯?キミの手が空いたのなら、またマッサージを頼んでもいいかい?』
「ここにもキミのマッサージを必要としているメンバーが居たとは驚いた。彼の期待に応えてやってくれたまえ」
俺が昼食の支度をするたびにシャミセンのマッサージをしていたが、そろそろシャワーを浴びせても良い頃だ。相応の信頼関係は築くことができたし、青佐々木が食器を洗っている音も聞こえていたはず。抵抗することもおそらく無いだろうし、子供たちがいないときにでも一度やってみることにしよう。

 

 マッサージとブラッシングを終えて昼食を先に摂っていると、またしてもハルヒからの物言いでエレベーターが開いた。コイツ、学習することを知らんのか?と言うより、他に応用するってことをしないのか?青ハルヒのときと同じ説明をさせられたところでようやく納得し、言っても無駄なのは百も承知だが、有希が新川流料理をかきこむように食べていたことには一応釘を指しておいた。一口食べるごとに美味しいと言ってくる奴もいるっていうのに……やれやれだ。
「それで古泉、電話の方はどうだった?」
「こちらの読み通りです。すぐには繋がりませんでしたので、伝言をという形で話しておきましたよ。あなたの仰っていたことすべてね。午後にもう一度こちらから連絡すると時間を伝えておきました。そのとき電話に出なければ容赦なく切り捨てます」
「自分の役職名や名前は名乗ったのか?」
「ええ……何か問題でも?」
「いや、表に顔を出しているとはいえ、ほぼシャットアウトしかしない俺と、古泉の今の認知度を考えると、事と次第によってはドラマの撮影現場に泣きついてくるかもしれん。月曜で終わるとはいえ、可能性として十分にありえるからな。閉鎖空間を展開すればいくらでも対応可能だが、いくら報道陣相手でも古泉の印象を悪くするのもどうかと思っただけだ」
「前回すでに名乗っていますからね。この局に限っては名前を出した方がより効果があるかと。しかし、あなたのご意見にも納得がいきます。偽名とはいえ『今泉』ではすぐに嗅ぎつけられそうですし、他の局には人事部の社員だと別名を名乗ることにします。ご忠告ありがとうございます」
「青俺、明日のSPは俺が出す。SPを配置してしばらくしたところで報道陣を撒くつもりだ。SPは閉鎖空間でガードされるが、報道陣の機材は全て壊れ、負傷するところを報道陣たちの隠しカメラに抑えさせる。わざとすぐに警察や救急車を呼んで、犯人を探す猿芝居を打つつもりだ。警察に事情を説明して監視カメラを確認させる」
「分かった」

 

 早々と食べ終わっ……もとい、『喰い終わった』有希のヘアメイクをしていた。
「わざわざネックレスに合ったドレスをデザインしてきたってのか?おまえなら大丈夫だとは思っていたが、チェーンの痕が残っているだろうが。今、閉鎖空間で軽くする」
「問題ない。それより、あなたのタキシードも変わってくる。ドレスチェンジして」
やれやれ……そこは『あなたも着替えて』じゃなく『ドレスチェンジ』を使うのかよ。もう少し、OG達のように青有希に対する配慮をしてもらいたいもんだ。スリーサイズも躊躇なく書いていたしな。これだけドレスの種類も増えたんだ。来年の四月号は、今度は青みくると青ハルヒの誓いの口づけで両方の表紙を飾ろう。男女ともな。
「それで、愚昧の反応はどうだったんだ?………自分の父親じゃなくて、別人と間違われなかったかと聞いているんだ。おそらく青俺の両親の方はほとんど変わってないだろうからな」
「あ、あぁ……普通に話しかけたら『どちら様ですか?』と言われたよ。母さんにもやつれたなんて言われたときもあったが、そんなに違うものなのか?」
「そういや、呼ぶと言っておいて、あれから一度も呼んでないな。だが、ここに呼ぶと同じ低周波トレーニングをさせろと言ってくるに違いない。有希、どうする?」
「うー…ん、新川さんの料理だけテレポートしてわたしの部屋ってことになりそう。来週はそこまで時間もとれないし、やるなら今夜か明日」
「だったら、テレパシーで聞いておく。ところで佐々木、一つ質問なんだが、例の装置で料理を異世界移動させるとどうなるんだ?移動したい皿すべて一緒に異世界移動できるのか?」
「……っ!これは痛いところを突かれたね。トレイに乗っていないと、キミ達が触れた一皿だけってことになりそうだ。その点に関しても改良の余地ありとして覚えておくよ」
「あぁ、言いそびれるところだった。みくる達に一つ頼みたい事がある。来週の試合の日だが、鶴屋さんが昼食から来られないかどうか聞いて欲しい。もし、どちらかだけでもOKなら昼食の支度は俺がやる。その後、未来のみくるたちのところに連れていって夕食まで向こうで過ごしてくる。未来古泉の将棋の相手はジョンに……って、アイツは土日ならこっちに来ているか。残り一人分………どうやら問題なさそうだ。すぐラボに送る」
「おや、そういえばそのことを失念していましたよ。僕も来週から参戦可能になるんでした。ご教授、ご鞭撻の程、宜しくお願いします!」
「だったら、この後もジョンには来て欲しいわね。最近は野球かバレーの練習のどちらかになっていたから、丁度いいわ」
ジョン、すまん。どうやら失言だったようだ。
『いや、俺は構わない。最近はゲーム一本を極めることの方が増えて、単調作業で飽きていたところだ』
『じゃあわたしも、テレパシーで聞いておきますね』

 

「そういえば、異世界移動装置の名前の件だけどね、さっき……」と青佐々木が先ほど話していた内容を伝え始めたところで有希と二人でテレポート。みくるがその略名を聞いてどんな反応をするのか気になったが、あとで本人に直接聞いてみよう。『禁則事項です』と久しぶりに聞けるかもしれん。前回のドライブ同様、有希から俺の太股の上にお尻を乗せる形になりドライブ開始。有希とは色々と話したい事はあるんだが、はてさて、何から話したものか……だがまずは確認からだな。
「みくる達には伝えておいたが、どうせ未来から映像見ているだろうし、同期して未来のみくるに伝えてもらうなんて作業は必要ないだろう?こんなことをあの二人ともやっていたらこっちの身が持たんからな。モニターで見てるだけってことでいいか?」
「わたしは問題ない。でも、今のあなたの発言で……」
「何か言ってきたか?」
「ブーイング」
「だろうな。かといって自分も行きたいと言われてOKできることではないし、有希の場合は誰か代役を立てる必要がある。あの時間平面上でドライブなんて真似はできないし、まぁ、無理ってことで宜しく頼む。一応、会いに行く機会は作ったんだ。今回はそれで勘弁してくれ」
「でも、朝比奈みくるは彼女とも話す機会を持ちたいと思っているが、あなた個人とも話がしたいと思っている」
「影分身で個別に抱きつきながら……ってのが、オプションでついてきそうだな。こっちのみくるとも今後のことについて話したばかりなんだが、おまえは他のメンバーにはいつ頃打ち明けるつもりでいるんだ?有希はそこまで感じることは無いだろうが、朝倉は周りからの視線には敏感に反応する。近日中ってわけではないだろうが、数年以内に編集長の座を社員の誰かに引き継がせて、身内以外からは早めに隠す必要がありそうだ。折角のドライブで重い話からですまないが、そこのところを確認しておきたい」

 

 いくら有希でも、こればかりは判断に迷うか。時間としては短かったが、有希の反応としては遅いくらいだ。
「あなたや古泉一樹を含むSOS団両チームと元機関のメンバーのみの構成であれば、時間をとって今話しても平気。でも、あなたがデザインしたこのネックレスのように、情報爆発等のフレーズについては、最近になって加入した異世界のOGや多丸圭一達にはまるで理解できないもの。わたしや朝倉涼子が宇宙人に該当することすら彼らは知らない。あなたが今行っている超能力の修行のように少しずつ耐性をつける必要がある」
「その点については同意見ってことでよさそうだな。で、おまえなら誰を残す?」
「必要最小限。あなたの言う通り、わたしも朝倉涼子も身を隠す時期は違っても、いずれそれは訪れること。特に朝倉涼子は異世界の自分とほとんど違いが無いせいで、今後、少しでも違いが出てくると社員にはすぐにでも気付かれる。その後の朝倉涼子の行動や判断については依然不明のまま。この時間平面上の朝倉涼子だけが特別で、過去、未来の時間平面でも前例が一切ないから。あなたが残ると言うのなら、残るメンバーはわたし、朝比奈みくる、朝倉涼子、ジョンの五人。逆に涼宮ハルヒや双子のように、あなた達から力を元に戻してしまうと情報爆発が起こせる者は残すことができない。美姫のように素質だけ受け継がれる可能性が考えられる人物もすべて。美姫のようなケースは稀有。力を移動できる者と受け取る者が傍に居なければ、第一次情報爆発のように力が発動してそのまま爆発する」
「ということは、佐々木たちやアイツ等との子供もアウトってことになるな。永遠に存在意義を満たし続けることができると思っていたが、子供たちに引き継がせることになりそうだ。強要させないようにしないとな。しかし、Wハルヒが生涯をまっとうするのなら、青古泉が残ると言い張ることもないし、古泉の結婚相手まで情報結合を弄る必要も無さそうだ」
「意外。正妻の彼女だけは残すと思っていた」
「俺を含めて五人もいれば十分どころか多すぎるくらいだ。俺が居ればそれも四人で済む。あとは俺たちの子孫がいる。青みくるとは子供をどうするかすら話していないからな。ハルヒとは鴛鴦之契を交わした。あいつの場合、面白そうなことに飢えてはいても、不老不死には興味がないはずだ。俺を含む四人に催眠をかけてしまえばそれも容易くはバレないだろう?おまえや朝倉からは催眠で隠しても、隠したことにはならなさそうだしな」
「そう。古泉一樹がつけていた結婚指輪も、青チームの古泉一樹がつけていたネックレスもわたし達には見える。彼の結婚相手の指輪も同じ」

 

 有希とここまで確認ができれば充分だ。話を切り替えることにしよう。
「ところで、俺たちが今着ているタキシードやドレスのデザインも来年の四月号で載せる気か?濃い目のブルー単体だけじゃ、あまり重要は無いかもしれんが、色のパターンを変えれば話は別だ」
「そう。デザインだけ掲載して来年からは色をサイトで指定できるようにする。あなたが以前提示した、顧客に選ばせる方式を採用する予定。本社と異世界支部だけなら、どんな色、スリーサイズ、丈でも対応可能。状況に応じて各店舗にも通販売上TOP3をマネキンに着せる。表紙と裏表紙は青チームの朝比奈みくると涼宮ハルヒの誓いの口づけのシーンを撮影予定。これはあなたもそのつもりでいるはず」
「なんだ、とっくにサイコメトリーしたと思っていたぞ」
「あなたがわたしと二人で行動する場面は、そのほとんどを未来から視られている。これ以上の介入はあなたが嫌がるはず。あなたの思考がわたしに漏れないようジョンがガードをかけてからは、わたしも敢えて読まなくなった。サイコメトリーもしていない」
「やれやれ……そんなことだろうと思ったぜ。いくらジョンのガードといえど、有希がまったく歯が立たないなんてありえない。俺の映画のタイトルみたいなもんだ」
「それは大袈裟。わたしにも出来ないことはある。でも、不可能を可能にする方法がないわけでもない。あなたと朝比奈みくるが、初めてわたしの部屋に訪れたときに行った時間凍結と一緒」
「それでも充分『Nothing Impossible』だろうが。それで、来月号の方はどうなった?」
「すでに完成間近。デザイン課の社員にも来月号のデザインを考えるようにと朝倉涼子が指示を出した。この土日で何か閃いたものがあれば月曜日にそれを商品化・撮影をして掲載する予定。夕食の頃には男性誌、女性誌両方とも出来上がる。あなたのデザインしたアクセサリーもアレンジを加えたり、色を変えたりしたものが載っている。あなたが許可していないアクセサリーと、青チームの古泉一樹がデザインした一部のネックレスは未掲載。わたしもこのネックレスは唯一無二であって欲しい」
「有希にそう言ってもらえると俺も嬉しいんだが、やっぱり重さのことが気になる。閉鎖空間をつけさせてくれないか?」
「分かった。でも、その程度のことならわたしが自分でやる。わたしもあなたの心配りが嬉しい」

 

楽団の練習のことも聞きたかったが、話が一区切りついた頃には、すでにチャペルに到着していた。記念撮影は有希が自分でやっているだろうし、ハルヒと有希が楽団の練習計画を練り実践しているんだ。『問題ない』程度のセリフしか帰ってこないだろう。先ほどの表紙の話ではないが、有希との誓いの口づけの場面だけ俺も撮影して本社へと戻った。あの二人に撮影した写真を見せたら……どう思うかな。……未来まで行ってわざわざ現像した写真を渡すこともないか。情報だけ手渡せばじゅうぶっ………やれやれ、どうしてこんなときにアイディアが浮かぶんだか。古泉から電話の件を確認したら話題として出してみることにしよう。有希と二人で本社に戻る頃には子供たちも元のサイズに戻り、異世界店舗組を待つだけ。青有希達がここに居るところを見ると、どうやら明日になったようだな。全員が揃って夕食を食べ始めた後、最初に口火を切ったのは青佐々木。さっきからずっと気になって仕方がなかったようだ。
「くっくっ、ようやくキミに聞くことができるよ。あのTV局との交渉は上手くいったのかい?」
「交渉と呼べるようなものではありませんよ。敵はすでに手札を使いきった状態です。こちらのターンが終了するまでは、相手のドローフェイズは訪れませんし、もはや相手はサレンダー(降参)する以外に道はありません。午後に再度こちらから連絡をすると、ようやく担当者につながりました。改めてメッセージを伝えて、脅しもかけておきました。この後のやりとりは、我々がニュースを見て記者会見を開いた上で土下座謝罪をしているかどうかの確認をするだけです。報道されていれば、来月二十三日はスーパーライブで貸し切り。二十四日、二十五日はSOS団とENOZ、SOS交響楽団のクリスマスライブとコンサート以外の予定は考えられません!」
「暴れがいがありそうね」
「ライブとコンサートはどういう順番でやるのか決まっているのかい?」
「SOS交響楽団のコンサートが先。ベートーベン交響曲第七番第一楽章、ハレ晴レユカイ、God knows…、Lost my music、最後にあのバラード曲をオーケストラで演奏してからENOZのライブ。SOS団がその後に続く形。アンコールでSuper Driverを披露して終了。二十五日のライブ終了後、ここにいるメンバーと楽団員が天空スタジアムで一緒に打ち上げをする予定」
「ねえ、わたし達の世界で試合をするときに、涼宮さんからこちら側の予定を伝えておいたらどうかしら?連絡先を聞いても、すぐには返信できないわよ。涼宮さんが毎日向こうの世界に行くのも面倒だし、こっちのキョン君たちのご両親に携帯を預けて置けばいいわよ。何かしら連絡が届いていれば、この前みたいにテレパシーで連絡を貰えるじゃない!」

 

 青朝倉の一言で、青俺がテレパシー中なのか何かしらの策を考え込んでいる最中なのかは分からんが黙り込んでしまい、青ハルヒはメールの内容でも検討しているのか、こちらも黙り込んでしまった。
「そのときは鶴屋さんのところか、オフィスに連絡が届くんじゃないのかい?」
「鶴屋さんは年末年始は忙しいですから、日によってはテレパシーすら来ないかも知れません。あっ、でも来週はお昼からでもOKだそうです」
「キョン君、こちらの鶴屋さんも大丈夫です!」
「とにかく、今度の試合で青ハルヒから向こう側にこっちの都合が悪い日を連絡してしまおう。連絡先を交換できるかどうかについての可能性は不明だが、鶴屋さんのところに連絡が行った場合は、家の人間からオフィスに連絡が来たと電話を受け取ればいい。念のため青ハルヒは向こうの世界での携帯を試合に持って行くこと。あとは青俺の母親にでも預けておけば心配いらん。ついでに別件でハルヒや佐々木たちに提案があるんだが、いいか?」
「ハルヒさんや佐々木さん達ということはセカンドシーズンのドラマの件で間違いなさそうですね。詳しくお聞かせ願えませんか?」
「どうやら、キミも人の事は言えなさそうだ。今このタイミングでベクトルを変えてでも話しておかないと、忘れてしまいかねない案件なんだろう?」
「ああ、これで有希やみくるとチャペルに行ったし、さっきも来年の四月号の表紙の話を有希としていたんだが、来年のウェディング特集は青みくると青ハルヒの誓いの口づけのシーンで表紙と裏表紙を飾りたいと俺たちで意見が一致した。二年目に突入したときにこちらの世界で一度やっているものだ。青チームのOGや圭一さん達はそのときのものを見て貰えれば分かると思う」
10人の席の前に当時の四月号を情報結合。その表紙を見て青OG達が騒ぎ出した。
「嘘!?こんなに大胆な表紙で冊子を販売していたんですか!?来年が涼宮先輩とみくる先輩ってことは、これは黄みくる先輩とハルヒ先輩?」

 

 みくるは当時の自分の写真を目の当たりにして恥ずかしがり、青古泉は裏表紙に掲載されているハルヒに眼を奪われていた。
「あんた、ドラマの話をするんじゃないの!?こんなの今話しても仕方がないでしょうが!!」
「でも、異世界では初めてになるから、四月号の表紙はこれで決まりになりそうね」
有希も同意見とはいえ、編集長としての責務をぶん獲られた事に苛立っているらしい。古泉が話していた電話相手と社長の関係と当たらずしも何とかってヤツだろうな。ハルヒに更なる悪口を叩かれる前に続きを話してしまおう。
「有希とみくるのこのシーンの写真を現像して未来に持って行こうと思って、ふと、そこで止まったんだ。あの時間平面上じゃ写真にするより、情報として手渡しした方がいいと考えたときに閃いたんだよ。セカンドシーズンの一つの事件でみくると青ハルヒを女子高生に変装させて、女子高に潜入捜査させようってな」
『女子高に潜入捜査ぁ!?』

 
 

…To be continued