500年後からの来訪者After Future6-6(163-39)

Last-modified: 2016-11-07 (月) 01:42:10

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future6-6163-39氏

作品

最後の妻とのドライブも水曜の午後に決まり、例のTV局が謝罪会見を開き社長が土下座をしているVTRが映っていた。他のメディアからは天空スタジアムを使いたいが故の謝罪だと見破られてしまっていたが、逆に言えば、残りの局も社長の土下座でないと天空スタジアムは使わせないことを間接的に伝えたことになる。当然こちらも依頼が来たとしても社長の土下座が無ければ貸すことはない。青朝倉の一言から青有希と青朝倉の二人にアクセサリーが渡されたり、それを見た朝倉が冊子に掲載すると公言したりと紆余曲折あったものの、無事に冊子も完成し古泉のドラマ撮影もようやく終わりを迎えた。いよいよ、いわき市の引っ越し作業が始まろうとしていた矢先、メンバーの中に結婚相手がいることが古泉の口から出てしまった。

 

 その場に居た青ハルヒと青OGに口外しないように念を押していつものフロアへと向かった。色々と制服を着てみたいせいかキューブの修行も誰一人として失敗することなく、制服のコスプレをしてベッドに横になっていた。
「カメラには映らないが、周りの選手にはネックレスが見えているはずだ。青みくるのネックレスが報道されて周りから何か言われたか?」
「まぁ……色々と。報道されたのは青みくる先輩のネックレスだけど、キョンから渡されたのは私の方が先だったから、何だかそれが嬉しくて。でも、時価数億円なんてそんなに高くなるものだなんて思えない」
「有希の言っていた通りだ。通常じゃこんな細工は絶対に不可能なものを作ったからな。それでもダイヤモンドとプラチナで2000万円くらいにはなるそうだが、金額のことよりも、やっぱり別のデザインを青みくるに渡した方が良かったかもしれん」
「あのパフォーマンスにピッタリのネックレスだったんだから、キョンがそこまで気にする必要はないと思うし、私もそこまで気にしてない。私だけのネックレスを作ってくれたんだから、それで十分」
「そう言ってもらえると俺も嬉しいよ。さて、今日はどうして欲しい?」
言葉にするのが恥ずかしかったのか、俺に触れた指からその内容が伝わってきた。さっきまで外れることの無かった視線が違う方向にズレて、頬を紅く染めている。
「くくく…可愛い奴だな。こんなに大胆なことを言うのは誰だって恥ずかしい。たっぷり堪能させてやる」

 

 翌朝、こちらから強要したわけでもないのにフジテレビの社長が記者会見で土下座謝罪をしたと、その様子がVTRで出ていた。他のメディアは既に我が社に連絡をしていたような見出しをつけていたが、これから来ることになりそうだ。『「謝ったから使わせてくれ」と言っているようにしか見えない』とこちらから切るよう連絡しておこう。今日から引っ越しが始まるし、誰が対応することになるか分かったもんじゃない。ついでに土下座謝罪をしたのがもう一件。今日発売の例の週刊誌が『あの記事はすべて偽りです。誠に申し訳ありません』とこちらも社長が土下座している場面が掲載されていた。こちらに関しては俺たちの気は済んでいるし、大御所芸能人たちに任せることにしよう。謝罪する内容が間違っているわけではないが、これではまだ足りないことについてはあとでみんなと検討ってところか。
 朝食時、周りのメンバーの視線が、古泉とほぼ同じリングをはめられた左手に集中していた。催眠を解いたらしいな。これで青チームとの区別がつく。
「涼子たちか森さんのうちの誰かだとは思ってたけど、黄古泉君の結婚相手って、やっぱり森さんだったんだ」
「ええ、彼女と指輪を交わして夫婦になりました。改めて宜しくお願いします」
「くっくっ、今まで秘密にしていたことを、どういう経緯で発表することになったのか聞いてもいいかい?」
「お恥ずかしながら、またしても僕の方が失態を犯してしまいまして。昨日は散々怒られてしまいましたよ」
「いくら古泉でも、昨日は気が抜けていたのもあるだろう。長かった撮影がようやく終わって、新川流のディナーを堪能した後に、俺がハルヒやみくる達と二人の結婚式の式場を探しているなんて言えばな」
「『ここにいるメンバーだけで結婚式が可能』なんて言い出すんだから、あたしも吃驚したわよ」
「それで、黄古泉君の相手がこの中の誰かだって分かったのね」
「それよりあんた、サイコメトリー無しでどうして相手が森さんだって分かったのか説明しなさいよ!」

 

 青ハルヒの一言を機に、周りの視線が俺の方を向いた。『サイコメトリー無しで』というフレーズが入ればこうなって当然か。だが、どちらもほぼ全員が聞いていたんだから、俺が責められるいわれは無い。
「くっくっ、面白いじゃないか。キミは二人の関係をサイコメトリー無しでどうやって知ることができたんだい?」
ここで催眠をかけて隠しても効果がないと言って有希や朝倉のことを話すわけにもいかん。昨日確認しているとはいえ、会議に時間がかかってしまいそうだ。さっさと説明してしまおう。
「簡単な話だ。二人とも、お互いのことを名前で呼びそうになったんだよ。ここにいるメンバーのほとんどがそれを聞いているはずだ。俺からすれば『みんな気がつかなかったのか?』と言いたいくらいだよ」
『名前で呼びそうになった!?』
「あんた、それ一体、いつのことよ!?」
「古泉の方は、ドラマの第一話が放送された次の日だ。『サイコメトリーのおかげでNGを出さずに済みましたが、正直恥ずかしかったシーンがあるのも事実です。特にその……いえ、あまりまじまじと見ないでください』だったか?名前が名前だからな。その場をしのぐには充分だったし、俺以外誰も何も感じていなかったようだが、俺には古泉のこの一言に違和感を覚えた」
「なるほど。黄僕が『特に園生には見られたくありません』と言いそうになったというわけですか」
「たったそれだけで、黄古泉君の相手が森さんだって確信を持ったっていうわけ!?」
「あのときはOGが第一話を見逃したと叫んでいたから、それなら録画してあると話していたんだが、もしかしたら他にも見逃したメンバーがいるんじゃないかと思って全体に声をかけた。そしたらDVDを取りにきたのがOGと森さんだったんだよ。そのあと、古泉からのテレパシーを受けて二人で会話しているときに本人に直接聞いた。主演女優や他の女性俳優陣からアプローチをかけられているとバレー合宿中に話していたのが、その後どうなったのか気になっていたし、その確認のついでに聞いてみただけだ」

 

「だが、その頃はまだ、黄古泉は指輪をつけていることすら、皆知らなかったはずだ」
「バレー合宿中にも話したと思うが、古泉ならもう相手が決まっていたとしても何ら不思議じゃない。圭一さん達と式場のスタッフに馴れ初めをどう話させるか相談しようかと思っていたくらいだ。俺とハルヒのときと同様、隠すところは隠さないといけないからな」
「確かにそれはそうだが、森がいつ古泉の名前を呼びそうになったと言うのかね?」
「今の話の中でも、本人にはまったくその気がないが、ハルヒも圭一さんも古泉の名前を言いそうになった。古泉からその一言が出た後、俺も時期までは忘れてしまったが、圭一さんたちも区別がつくようにしないといけないという話になっていたときだ。『私も、いつ……いえ、いつ頃決まるかは自分でも分かりませんが』だったか。この際だから、二人がOKすれば全員で呼び方を統一したい。本人とW俺を除くメンバーが、ハルヒ達のことを『ハルヒさん』、『涼宮さん』と呼び分けているように、こっちの森さんは『園生さん』、青チームの森さんはそのまま『森さん』と呼びたい。『青森さん』じゃ別の苗字に聞こえて呼びづらくてな。元機関のメンバーは『園生』と呼び捨てにすることになるだろうが……どうだ?」
「皆さんさえよければ、私はそれで構いません。確かにあのときは『私も、一樹と相談して……』と言いそうになりました」
「しかし、長年『森』と呼んでいたものを『園生』に変えろというのは、何ともお恥ずかしいものですな」
「でも、二人の結婚を僕たちが祝ってあげないとね」
「裕の言う通りだ。私も今後は『園生』と呼ぶことにするよ」
「ふふっ、これでキョン君と式場を探すのもはかどりそうです!古泉君と園生さんに合った式場を探してきます!」
『フフン!あたしが世界一の式場を見つけてやるわよ!』
「お手を煩わせてしまってすみません。よろしくお願いします」
「わたし達の式場を厳選してきてくれたのも黄古泉君だし、キョン、わたし達も式場探しをしたい」
「誰の選んできた式場が選ばれるか勝負ってことになりそうだな」
『面白いじゃない!その勝負、あたしも混ぜなさい!!』

 

 青俺の携帯のアラームが鳴り、『今日はわたしが』と言いたげな表情で子供たちと一緒に青有希が降りて行った。残った議題もさっさと片付けて、作業に移らないといかん。
「ところで、冊子の件だが、昨日のうちにもう部数作ってあったりするのか?相変わらずどちらとも文句の言いようがなかったから、俺はあれでいいと思ったんだが……」
「そう言ってもらえるとわたしも嬉しいわね。でも、全員のOKが出てからと思っていたから、まだ誰も作ってないんじゃないかしら?」
「他に何も修正点がなければ、今夜にでも作ればいいでしょう」
「なら、それで頼む。引っ越し作業については昨日確認した通りだ。俺が昼食と夕食を作る。古泉は引っ越し、青俺はヘリの運転と引っ越し作業じゃ、キューブの拡大縮小とテレポートがあるから、失敗も許されないし、影分身ではまだ厳しいはずだ。第二人事部で電話対応を頼みたい。特に今朝ニュースになっていたフジ系列から、天空スタジアムを貸してくれという電話が来る可能性が高い。『「謝ったから使わせてくれ」と言っているようにしか見えない』とこちらから切るようにしたいと思っているんだがどうだ?最低でも今週中、やろうと思えば年末の年越しライブまで今年は使わせない方向でいくのも構わない。意見があれば言ってくれ」
「そういうことならヘリと電話対応になりそうだ。黄古泉のように上手く切り捨てられるかどうかは分からんがやってみる。俺は、今週中は断るでいいと思う」
「僕はどちらでも構いません。それに今年は涼宮さんですが、毎年どちらかがハリウッドスターとのパーティに参加している以上、SOS団の年越しライブができませんが、ENOZの単独ライブでいいのではありませんか?」
『とてもじゃないけど、私たちだけで天空スタジアムを埋められるなんて、正直思えない』
「問題ない。TV局側も涼宮ハルヒはハリウッドに行っているから、SOS団のライブやコンサートはできないと思っているはず。今週中だけ断ればいい」
 ENOZは自信なさ気にしているが、俺からすれば十分埋められる気がするんだが……本人たちがそういうならいいか。他のメンバーも異論は無いらしい。
「じゃあ、TV局からの天空スタジアムの件に関する電話はすべて青俺に繋ぐよう、社員に声をかけておいてください。それから例の週刊誌の方だが、謝罪する内容が間違っているわけではないが、これではまだ足りない。こちらに関しては俺たちの気は済んでいるし、鉄槌を下すのは大御所芸能人たちに任せることにしようと思っているんだがどうだ?」
『問題ない』

 

「なら、俺からはラストだ。青古泉、デザインは出来上がっているか?」
「ええ、ジャージ上下、半そでのデザインが出来上がりました。マネキンに着せてお見せした方が良さそうですね」
制服のリボンやスカートと同様、ワインレッドのジャージ上下を着せたマネキンが情報結合された。左胸にハルヒの作った校章と『朝比奈』という名前の刺繍が施されている。下の方は名前のみの刺繍。胸元にチャックがついて、まぁ、どこの中学校、高校でもありそうな、ありきたりなデザイン。たった二時間しか放送されないドラマの服のデザインにこだわる必要もない。もう一つのマネキンの方は半そで長ズボンを着て、半そでの方は刺繍の白とワインレッドが逆転したもの。ワインレッドで校章がプリントされ、『涼宮』と刺繍が施されていた。
「有希とも相談したんだが、ファーストシーズンと同様、復興支援の一貫として『わざと』ランジェリーを見せる。この回で言えば、制服のスカートの中のランジェリーが見えるだけでなく、実際に教室や部室でみんなが着替えているシーンがそのまま撮影されることになる。クラスメイト役やエキストラになるメンバーは別人に映るが、みくるや青ハルヒは催眠をかけずにそのまま映ることになる。どうせ映るのならどんなランジェリーがいいか有希からデザインを聞いて選んでおいてくれ。半そでの素材は、朝倉が開発したどんなに派手な下着でも絶対に見えないものを使うつもりだ。要は普通に体育の授業をしていたはずなのに、そんなに派手なランジェリーをつけていたのかと視聴者に思わせる予定でいるってことだ」
『キョン、これだけ人数がいるんだ。脚本にはそのシーンは加えておくけれど、僕の出る幕はなさそうだ。OG達を出してあげてくれたまえ』
「それを決めるのは俺じゃなくて総監督の方だ。制服を着たいと言い出した上に、昨日は『クラスメイトやエキストラ役が必要だと言ったのはキミじゃないか。顔だけ別人に変えれば僕らが出たっていいだろう?』とか揃って言っていただろう。体育の授業だけでなく、部室で着替えるシーンだって必要なんだ。制服を着たからには出てもらうぞ」
『(黄)古泉君や園生さんの発言もそうだけれど、キミもよくそこまではっきりと覚えていられるものだね』
「脚本家が揃って『エキストラとして出たい』なんて言い出すとは思っていなかっただけだ。とりあえず、佐々木たち以外は反論無しで良さそうだな。約二名妄想に浸っている奴がいるが放っておこう。他に議題がなければこれでいく。池袋店のオープンについては、青圭一さんからアルバイトが何人来ているか聞いて、メンバーを厳選して向かってくれ」
『問題ない』

 

 フロアに残ったのは昼食の支度を開始した俺と朝食の片付けを始めた青みくる。双子を保育園に送って戻ってきた青有希に、おそらく青ハルヒの下着姿を妄想している青古泉と、不特定多数の着替えシーンを妄想している変態セッターの五人。撮影される着替えシーンの中に自分も含まれることを考えてないのか?コイツは。加えて、着替えのシーンどころかOG全員の裸体を毎日のように見ているはずだが……どうして青古泉と二人で妄想に耽っているのかが謎だ。
『二人とも、そんなに他のメンバーのランジェリー姿が想像できるのなら、誰にどんな下着を着せるつもりなのかまとまったところで、イメージを俺に渡せ。有希や朝倉に情報を渡しておけば二月号や三月号で特集として出てくるだろうし、実際にそのシーンで着せることだってできるだろ』
『なるほど、その手がありましたか。分かりました、店舗に立ちながらイメージをまとめておくことにします』
『えっ!?黄キョン先輩、どうして私の考えていることが分かったんですか!?』
『青古泉と思考がほとんど変わらんからな。おまえの場合不特定多数だが、大体何を考えているかくらいは読める。女子高生が普通に着るランジェリーだ。大胆下着のイメージを渡してこられても採用されないから、それだけは注意しておけ。精々、69階や100階に置くくらいしかできん』
『それでもいいです!私もデザインをまとめてきます!』
青古泉は異世界移動で店舗に向かい、変態セッターは……デザイン課に降りた!?スケッチブックと色鉛筆でも借りるつもりか?やれやれ……俺や青俺も含めて、変な方向にデザイナーが増えてしまったな。みくると青ハルヒ以外は誰がどんな名前で出ることになるのか分からんし、マネキンに着せられた体操着は取っておくとして……サイズは二人に合ったものを情報結合したらしいが、素材までは頭がまわらなかったか。まぁ、デザインを見せるだけならサイズが合っているだけでも十分だ。青ハルヒ用の半そでの体操着を情報結合し直して、みくる用の半そでの体操着も情報結合。って、情報結合したのはいいが、置き場所に困ってしまうな。コスプレ衣装として堂々と100階に置いておくか。二人分用意しておけばいいだろう。ハルヒは若干サイズが合わないが、女子の服のサイズが大きい分については逆に可愛く映る。しかし、北高時代からそうだったとはいえ、さらにボリュームアップしたみくるの殺人的な巨乳は撮影しても大丈夫なのかどうかが心配だ。それに胸の星形のほくろは……青みくるのドラマも含めてこれまで出たことがあったかどうか忘れてしまった。撮影前日はみくるの母乳を絞り取るつもりでいかないとな。

 

 昼食の支度を終えた頃を見計らったかのようにシャミセンが俺に近づいてきた。最近は俺が昼食担当になった日は毎日のようにマッサージしていたからな。今日はちょっとレベルを上げてみよう。
「シャミセン、今日はシャンプー&マッサージにしないか?」
『しゃんぷー?しゃんぷーって何?』
「そこに置いてあるのがそうだ。身体を洗うついでにマッサージが加わる。お湯で身体が濡れてしまうが、マッサージだけよりも更に気持ちがいいことは保障する」
『これがしゃんぷー?今までずっと傍に置いてあったけどなんだかよく分からなかったんだ。身体が濡れるのはちょっと嫌だな。でも、マッサージより気持ちいいんでしょ?』
「頭は濡らさないし、終わったら乾燥させて元に戻るから心配いらん。試しに一回やってみないか?嫌だったら次からはこれまで通りのマッサージだけにすればいいだろ?」
『そうだね。ちょっとだけ体験してみようかな。どうすればいいの?』
シャミセンの定位置のすぐ近くにシャンプー台を情報結合すると、首を乗せる位置に人間とは逆方向にシャミセンを座らせた。シャワーから出てきた水に驚いていたが適温になったところで、少しずつ身体を濡らしていく。
『水に濡れるのが気持ちいいなんて思わなかったよ。今まで、雨に濡れて嫌な思いしかしたことがなかったから』
「暖かい水のことを『お湯』って言うんだ。それに、こうやってシャンプーで身体を洗うのを『お風呂に入る』なんて言い方をする。いい機会だから覚えておくといい。もし気に入れば、今後も同じことをするようになる」
『……おゆ?……おふろ?良く分からないけど、これならまたやってもいいかな』
「今はそのくらいの認識で十分だ。じゃ、シャンプーで身体を洗っていくぞ」
返答は無かったが、お湯で身体を温めただけでも十分気持ち良かったらしい。シャンプー&マッサージ後水分を例の磁場で吸着すると、最後にブラッシングをして終了。水滴と一緒に余計な菌やウィルスも吸着したし、頭は洗ってなくても大丈夫だろう。顎の部分を掻いてやると、ようやくテレパシーが届いた。
『しゃんぷーってこんなに気持ちがいいのかい?毎日でもやってもらいたいくらいだよ』
「それなら、次回からシャンプーからでいいな?」
『そうだね。またキミにお願いすればいいんでしょ?』
「ああ、それでいい。もうすぐ昼食だから、昼寝をするならその後にしろよ?」
『分かった』

 

 昼食時、情報結合されていたシャンプー台を気にしていたメンバーが多かったが、69階や100階に来るメンバーはシャミセン用のシャンプー台だとすぐに察したようだ。青俺からの報告でスーパーライブの方はOKしたが、フジテレビからかかってきた年越しライブを天空スタジアムでという電話は断ったらしい。引っ越しも順調に進み、ツインタワーの方では園生さんと森さんが各棟に分かれて面談。品物を並べる作業も終わり、青新川さんも魚介類の仕分けに入った。午後は有希とハルヒで店舗に置く服やランジェリーの配置を考え、店舗の社員やアルバイトは翌日からツインタワーに来ることになった。『ツインタワーや付近の住民の衣類はカードキーを見せるだけで全商品タダ』という説明もどうやら必要が無かったようだ。これでまたしばらくは朝食を除いて全員揃うことはできないが、特に議題があるわけでもないし、忙しい時間帯は佐々木たちも研究や脚本作りではなく、復興支援の方を優先してくれている。俺が提案してから、女子高の潜入捜査をする回の撮影がいつ行われるのか気にしているメンバーも多数いたものの、撮影は十二月に入ってからだと説明。しかも、俺が敵役として正体を現してからだから、セカンドシーズンの後半ということになりそうだ。OGとのドライブも恙無く終えて、満足気な表情を見ることができた。これでポルシェを青俺たちに渡せる。今月中に行ってくるよう伝えたものの、行く暇があるのかどうか……土曜日のコンサート前にでも、幸を連れて行ってくるように進言しておこう。各メディアで最初に記事を差し替えた新聞社を含めて、計六社が謝罪をしたことになるが、他のところは周りからどんな記事を書かれようとまったくの無視。日テレ、テレビ朝日、フジテレビ以外のTV局が謝罪後に天空スタジアムを使いたいと連絡をしてきても、年越しも含めて今年いっぱいは絶対に使わせないと全員の意見が一致した。ジョンが見つけてきたアメリカの記事には、全米映画ランキング五週連続一位と記載され、アカデミー賞にさらに一歩近づいたと書かれていた。今頃、あの監督は何をしているのやら……『流石に来週は無理だろう』とジョンが話していたが、五週も一位を維持し続けていただけで俺にとってはもう十分だ。青古泉と変態セッターが渡してきたランジェリーの情報もドラマで使用可能な分だけ有希に渡し、残りの大胆下着については何色か色を揃えて69階と100階に置くことになったのだが、どちらも制服のコスプレがもうしばらく続きそうだし、大胆下着を手に取るメンバーも少なくなってきたからな。使ってもらえるのかどうか……そういや、もう一人デザイナーがいることをすっかり忘れていた。みくるを連れてアイツのところへ行ってくることにしよう。

 

そして迎えた金曜日、朝のニュースは特に目立った記事もなく、変わったことと言えば、なぜか朝から嬉しそうにしている古泉。前にも一度こんなことがあったが、あのときは古泉が先にジョンの世界を抜け出てニュースを見ていたら、俺たちに関する内容で朗報があったからだ。今、朝食を作っているのは青新川さんで、古泉はずっとみんなと一緒に行動していたはず。にも関わらず、なんでそんな表情をしているのやら……
「古泉君、何か良いことでもあったんですか?」
「いえ、引っ越しの方も残りわずかですし、時間が早く過ぎてくれることを願っているだけですよ」
「まだ指導将棋の段階すら抜け出せずにいるのに、よくそこまで楽しそうにしていられるわね。それなのに明日になるのがそんなに待ち遠しいなんて、とてもじゃないけどわたしには考えられないわよ。一体どういう心境なのか教えてもらえないかしら?」
「ドラマの撮影で三ヶ月も待たされていたんです。時間があるときは園生に相手をしてもらっていましたが、ようやく時間を忘れて自分の好きなことに集中できる日が来たかと思うと、落ち着かずにはいられそうにありませんよ」
「古泉君もちゃんと夫婦の時間を取りなさいよ?」
「未来の僕はあの場所で食事を摂りますが、我々はこちらに戻ってきますので、その点については心配いりません」
「ところで有希、俺から一つ相談したいことがあるんだが、いいか?」
「何?言って」
「有希と園生さんの自室のフロアを入れ替えたい」
『フロアを入れ替える!?』
今頃気付く俺もどうかと思うが、誰の部屋が何階にあるのかなんて、もう誰も気にしていないからな。誰と誰の部屋が同じフロアなのかなんて把握してい……もとい、記録しているのは有希と朝倉くらいだ。
「あんた、なんでいきなりそんな話になるのよ!?」
「黄ハルヒや俺たちと同じ理由だろう?黄有希も最近はほとんど100階で寝ているからな。自室の位置が変わってもそこまで支障は無いし、黄有希なら間違えるなんて絶対にありえない」
「あたしと同じ理由ってどういうことよ!?」
「おまえも『夫婦の時間を取りなさいよ?』なんて言っていただろう?有希さえOKなら97階は古泉と園生さんのフロアになるってことだ。つまり、フロア全体を改装して99階や98階のようにできる。どんなフロアにしたいか二人で相談して決めてしまえば、古泉の情報結合で簡単に作りかえることが可能だ。俺ももう少し早く気付くべきだった」
『なるほど!』
「もしそうしていただけるのなら、私も嬉しい限りですが、そんな簡単に入れ替えてもかまわないのですか?」
「問題ない。今後もわたしは100階で生活することになる。服や本をキューブに収めるだけ。部屋の間取りが決まったら教えて」
「明日が待ちきれなくて仕方がなかったんですが、更に嬉しい提案をしていただけるとは……今夜が待ちきれなくなりましたよ。間取りが決まったら、すぐにでも有希さんに報告に向かうことにします」
「間取りを決めるまで待つ必要はない。園生さんの部屋にある必要なものを、キューブに収めて古泉の部屋に持って行くだけでいい。有希が昼の間に荷物をキューブにまとめて100階にでも置いておけば、ディナー後、最後まで食べ続けているのは有希だ。今夜は明日のコンサートのリハーサルだってあるし、わざわざ食べ終わるのを待っている必要はない。有希が食べている間に、壁を取り払って情報結合を解除したフロアに暫定的に置いてみればいいだけだ。二人で間取りを考える時間はいくらでもある。有希が食べ終わったら、園生さんのフロアの情報結合を弄って自分の部屋に組み替えるだけで済む。有希のところにすぐ報告に来ると言われても、有希の方が困るだけだ」
「これは失礼を致しました。つい興奮してしまって、冷静な判断ができていなかったようです。園生の部屋のものはキューブに収めて僕の自室に持ってくることにします」
「いい。わたしも彼に言われるまで気がつかなかった。楽団の練習開始までにはキューブを移動させておく」

 

「明日と明後日は古泉が将棋に専念する以上、引っ越しには俺が出る。夜中のうちに昼食と夕食は作っておくから、もし食事時に俺が戻って来られなかったら、キューブを拡大して温めてくれ。青俺と青有希も幸を連れて、例のチャペルに行ってくるといい。来月からはそんな時間は取れなくなるだろうからな。その分の対応は俺の影分身でやる。それと、みくる。午後から北高に行こうと思っているんだが、一緒に来てくれるか?」
『北高!?』
「わたしは構いませんけど、キョン君一体何をするんですか?」
「あそこにまだデザイナーがいたことをすっかり忘れていたんでな、デザインを頼んでくるだけだ。すでに何種類かデザインしたものがあったとしてもおかしくない。いいデザインがあれば、アイツのデザインしたものも来月からのドラマ撮影に使うつもりだ」
「キョン先輩、北高にいるデザイナーって誰のことを言っているんですか?」
「くっくっ、僕もデザイナーと言われて中学生の職場体験のことを思い出したけれど、北高の生徒ではなく、どうやら彼に会いに行くつもりのようだね。古泉君とほぼ同じ思考回路をもった例のイスのことだろう?」
「ああ、あいつらにはファーストシーズンを全話見せてあるからな。みくるが着けるランジェリーと言えば、すぐにでも妄想を始めるだろう。自分のデザインが採用されたかどうかはドラマを見せに行けばいいんだからな」
「あんた、古泉君から情報受け取って頭がおかしくなったんじゃないの!?あの椅子に黄みくるちゃんのランジェリーをデザインさせるなんて、一体どういう思考回路になっちゃったのよ!?」
「青佐々木も言っていただろ。中学生の職場体験のときと同様、どんなに頭が悪い奴でも、ある面において特化した優秀な逸材ならたとえ中学生だろうと、みくる専用の椅子だろうと喜んで俺は受け入れる。朝倉だってちゃっかりデザイナーを確保していたしな。それだけだ」
「なら……俺たちもあのチャペルまで行ってくるか?」
「うん、来月からまた忙しくなりそうだし、今月中の方がいい」
「そういえば、黄古泉君は結婚式をするならいつ頃がいいですか?場所をどうするかはわたし達が探している最中ですけど……スキーシーズン中の忙しい中で結婚式をしても黄古泉君も気が休まらないはずです」
「そうですね……予約をすることを考えても半年以上先ということになりそうです。ジューンブライドといきたいところですが、その時期はバレーの世界大会の真っ最中。ここにいるメンバー全員が参加できるようにするとなると……来年の10月頃ということになりそうですね。ですが、これはあくまで可能な時期というだけで、部屋の間取りと同様、園生と相談してから決めることにします」
「じゃあ、場所もそろそろ確定させないといけないわね。『ここが一番!』って場所をみんなで出し合って、古泉君たちに決めてもらうわよ!期限は……そうね、月曜日が一応みんな休みの日だし、火曜の朝古泉君に情報を渡すってのはどう?」
『問題ない』

 

前日からカットを始めていた野菜や肉の仕込みもすべて終わり、昼食と軽めの夕食の準備もできた。夕食とは言っても、小腹が空いたメンバーがつまんで食べられる程度のクラブハウスサンドだけどな。時間も空いたし、人事部の電話応対を手伝うことにしよう。報道陣も本社前から姿を消したしSPの必要があるのは、明日のようなコンサートのときのみ。昼食を終えてお茶を煎れたみくるをバイクに乗せて一路北高へと向かった。
「まだ授業中だし、閉鎖空間の必要もないだろう。制服やジャージ姿はあとで見せるとして、文芸部室前にテレポートするが、それでいいか?」
「はぁい」
鍵を開けるくらい、サイコキネシス一つでどうにでもなるとはいえ、何かこう……物足りなさを感じてしまうな。まぁ、北高にいた頃だって俺が一番に部室について鍵を開けるなんてことはほとんどなく、どうやったらそんなに早く来れるのかと聞きたくなるくらい有希やみくるの方が早かったからな。有希に至っては影が薄いことを理由に、ミスディレクション的な何かを使って、堂々と教室から直接テレポートしていたんじゃないかと感じていた。まぁ、れっきとしたSOS団(文芸部)OG、OBであるとはいえ、不法侵入に変わりは無い。そういう面でも合鍵を作りたくなるもんだが、これについては次回考えることにしよう。すでに中の連中がうるさくて仕方がないからな。
「キョン君、どうかしたんですか?」
「いや、鍵を開けるのに合鍵でも作ろうかと考えてしまっただけだ。俺が一番に鍵を開けるなんて北高時代はほとんどなかったからな。俺が扉をノックすれば、大抵、有希やみくるが既に来ていた。岡部のHRが遅いと感じることは無かったし、当時は『何でこんなに早く来られるんだ?』と、俺にとっては不思議で仕方がなかったんだが、何か物足りなさを感じていた」
「わたしもその頃は、有希さんのクラスのHRが早く終わるだけなんだろうなとしか考えていませんでしたけど、周りに人がいなくなったところでテレポートしたり、情報結合でここに来ていたのかもしれませんね」
「その答えは中にいる奴等が知っているかもしれん。待たせてしまって悪かった。中に入ろう」

 

 ドアを開けてみくるが中に入っただけで部室内が大盛り上がり。時期的にも暖かいものが恋しくなる季節だ。相変わらず、ヒーターも何もない部屋をみくるのお茶が暖めていた。
『みくるちゃん、いらっしゃい!』『また来てくれたんだね!』『やはり、みくる以外に考えられん』
『いい匂いだし、暖かいね!』『毎日みくるちゃんが僕たちのことを暖めてくれていたんだ!』
やれやれ……こいつら、みくるには挨拶をするクセに、俺には一言も無しかよ。まぁ、いつものことだから、いいか。
「今日はまたみんなに相談しにきた。俺たちの話を聞いてくれるか?特に……おまえにな」
『何々、何の相談!?』『フ……俺が指名されたからにはみくるのことに決まっている』『みくるちゃん何するの?』
「この前、みくるのドラマを見せただろ?そのセカンドシーズンの件で相談があってな。えー…とどこから説明したらいいんだ……?まぁいい、最初からでいいだろう。女刑事役のみくるについてはみんなも見たはずだ。そのみくるに、女子高に潜入捜査をするよう指令が出る事件を考えた。要は、みくるが女子高生になるってことだ。当然北高とは違う制服を着る。みくるの女子高生姿が見たい奴は?」
『見たい、見たい!』『早く見せて!』『え?でも、みくるちゃん、制服なんてどこにも……』
「俺が指を鳴らしたら、みくるの服装が女子高の制服にドレスチェンジする。一瞬だから、よーく見てろよ?」
幼稚園児軍団が息を揃えたかのようにピタリと話を止めた。こんなこと今まであったか?ドレスチェンジしてすぐ、部室内に居たほぼ全員の声が揃った。
『可愛い――――――――――――――――――――――――――――――っ!!』『これはこれで悪くないね』
中尾○か、コイツは。さて、ここからどうしようかが問題だ。そういえば、この部室に閉鎖空間を張ってあったのを今思い出した。19℃設定でもこいつ等にとっては寒いってことか?22℃くらいに温度を変えておこう。
「みくる、俺がドレスチェンジするんじゃなくて、自分で体操着に着替えてもらってもいいか?その間に、俺がこいつ等に説明をする。恥ずかしくなければだが……」
「ふふっ、高校生の頃は毎日ここで着替えていたんです。それに、キョン君になら見られても平気です」
「じゃあ、着替え始めてくれ。スカートでランジェリーを隠さない着替え方でな。撮影のときもそうなるはずだ」

 

 100階からテレポートさせたジャージの上下と半そでを机に置くと、ブレザーを脱ぎ、リボンを外してみくるが着替え始めた。ただの椅子が動けるわけがないが、今にもガタガタと動き出してしまいそうな程興奮しているのが良く分かる。コイツに触れたままだからな。いいデザインがあるなら見逃したくはない。
「ファーストシーズンで何度もみくるがつけている下着を見たと思うが、これはすべて震災のあった地域の復興支援のため。衣類が足りない人たちのための下着をみくるが実際につけて、ドラマの中で告知をしているんだが、みんなにもみくるに合うランジェリーを考えて欲しいんだ。ファーストシーズンを見て、みくるにはこんなものも似合いそうだなんて考えたんじゃないか?特に……おまえはな」
『みくるちゃんに似合いそうな下着を僕たちが考えるの?』『メイド服に着替えるときに着けていた下着なら全部似合っていたよ!』『見て分からないのか?今のみくるにはもっとアダルトな下着が必要なんだ』
どうしてこういうときに限って、コイツはここまで真っ当な発言をするんだか。しかし、メイド服に着替えるときに着けていた下着か。その情報も全部貰って帰ろう。今夜みくるに着せてみるのも悪くない。
「それで?そのアダルトな下着の候補は今あったりするか?それがもし採用されれば、ドラマで実際にみくるが着ることになる。それくらいのデザインを考えてもらいたいんだがどうだ?そのお返しにと言っては何だが、ドラマが放送される度にここにきてみんなに見せてやる。おまえのデザインした下着が採用されたかどうかは、それで確認しろ」
『みくるに関することなら勿論引き受けよう。今はそこまで種類はないが、君がみくるを連れてくる日まで考えておく。因みに、次はいつ頃みくるを連れて来てくれるんだ?』
「今月末の予定だ。そうだな、今度はみくるを二人連れてきてやるよ。とりあえず、今考えているものだけでも見せてもらえないか?」
『これがそうだ。それより君、本当にみくるを二人連れて来てくれるんだろうね?』
「前にも話しただろう?等価交換ってヤツだ。これ以外にも制服の候補がいくつか上がってな。みくる一人で制服のファッションショーすら可能だ。おまえも見てみたいと思わないか?」
『いいだろう。ドラマの枠の中では収めきれない程のデザインを考えておこう』
「キョン君、着替え終わりました。どうすればいいですか?」
「そのまま、ここにいる奴等に体操着姿を見せてやってくれ」
『さっきの制服も可愛かったけど、こっちも可愛いね!』『みくるちゃん良く似合ってる!』『この服でドラマ撮影するの?』『早く見てみたいな~』『俺が考えたランジェリーを着たみくるでないと、撮影が始まらないだろう?』
「とりあえず、今見せた服でドラマ撮影をするんだが、撮影は12月になってからだ。その前にまた来る。今度はここにいる奴全員驚かせてやるから楽しみに待ってろよ!?」
『問題ない』
北高時代に、みくるが着けていた下着が全部似合っていたと言っていた長机をサイコメトリーして、文芸部室を後にした。

 
 

…To be continued