500年後からの来訪者After Future6-8(163-39)

Last-modified: 2016-11-09 (水) 01:55:26

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future6-8163-39氏

作品

北高からみくると一緒に戻り、成果は明日の朝話すことにして、小腹の空いたメンバーにはクラブハウスサンドを用意した。二月のオンシーズンでは日本代表にスープとサラダと一緒に朝食として出すのも悪くないと考えながら鉄板料理食べ放題のディナー。リハーサルを終えて81階に戻ってきたハルヒ達からテレパシーが届き、佐々木にはつわり対策の閉鎖空間とテレポート膜を施した。このくらいでこの時期のストレスや体調不良が全て拭えるとは思ってはいないが、それについては毎晩のようにマッサージをしながら確認をしている。対策が閃けばその都度予防策を講じていけばいい。日本代表メンバーのディナーを終えた翌朝、今日の流れを確認した後、別の話題でメンバーの意見を聞いていた。まずはあのパイプ椅子がデザインしたランジェリーからだ。

 

 青チーム全員が後ろを向き、マネキンにはアイツがデザインしたランジェリーが着せられた。アイツから受け取ったのは五着。マネキンではなくみくるの人形にした方が良かったかもしれんが、これだけ男が揃っているんだ。本人が恥ずかしがってしまう。
「あんたこれ、本当にあのパイプ椅子がデザインしたものなの?」
「圧巻ですね。ただのパイプ椅子にここまでのデザインセンスがあるとは……僕も驚きましたよ」
「『俺が考えたランジェリーを着たみくるでないと、撮影が始まらないだろう?』なんて自信ありげに話していたからな。次に北高に行くまでにどれだけ考えてくれているかは分からんが自信作を渡してくることに間違いはない。さっきも言ったが、アイツは月末までに『ドラマの枠の中では収めきれない程のデザインを考えてくる』そうだ。これと同じレベルのデザインをただのパイプ椅子に考えられちゃ、セカンドシーズンはアイツのデザインだけでドラマが放映されてしまう。どうする?青古泉?編集長?」
「いいでしょう。質、量ともに彼より勝ってご覧にいれましょう」
「参ったね。古泉君にも彼にもそこまで考えられては本当にセカンドシーズンの下着がそれで決まってしまいそうだ。どのシーンでどんなランジェリーを着てもらうか、こっちが困ってしまいそうだよ」
「まさか、復興支援にここまで尽力してくれるなんて思わなかったわよ。この分じゃ、ランジェリーの特集は一月分だけでは収まりそうにないわね。二月号、三月号両方に載せることになりそうよ。あなたが告げた言葉の意味がようやく分かった気がするわ。デザイン課の社員に考えてもらう必要が無くなりそうだもの。有希さんはどうかしら?」
「わたしもあなたと同じ。これと同じ質のものが大量に来るのなら、デザイン課の社員に考えさせる必要がない」
「それに加えて、部室の長机からこんな発言が出た。『みくるちゃんがメイド服に着替えるときに着けていた下着なら全部似合っていたよ!』ってな。これについてはアレンジする必要があるが、その情報もすべてもらってきた。復興支援の一貫にするなら、少し年齢層が低めの世代のものも提示する必要があるだろう。みくる、情報を有希に渡してもいいか?」
「問題ない。その情報ならわたしがすべて持っている。あなたの言う通り、年齢層が若干低めのものも提示すべき。朝比奈みくるが当時着ていたものをアレンジして掲載する」
「そういえば、わたしが着替えるときは有希さんが必ず居たのをすっかり忘れていました」
有希がいなかったときと言えば、九曜に圧力をかけられていたときのみ。だが、その期間だけしか着けてない下着があるなんて考えられん。情報を受け渡すことについては余計なお世話だったようだが、ランジェリー以外にも、特にティーンズ層の下着も必要だと提示できた。マネキンがつけている下着は朝倉にも有希にも記録されたはず。69階と100階に置いてマネキンだけ情報結合を解除した。

 

「さて、青古泉と朝倉にもう一つ別件で相談がある。異世界支部の内装についてなんだが、人事部は面接室が二つ、青圭一さんや愚妹の入る第一人事部に加えて第二人事部も作って欲しい。プラスして青OGと青圭一さん達の個室を作ってしまえば、90階以上は二部屋ずつのスイートルーム。100階はワンフロアで一つのスイートルームで良いと思っている。そこまでは青古泉に言伝をするだけでいいんだが、問題は編集部を作るか作らないかで迷っている。もし作ったとしても、向こうの編集部からすれば、こちらで作っている分のページはどこで作られているのか疑問が出てくるだろうし、かといって作らなければ、デザイン課のメンバーがどうやって冊子を作っているのかこちらも疑問が生じることになる。どう思う?」
「僕は、内装は現状のままにして編集部は作るべきかと。こちらの負担も半分になる上に、デザイン課の社員が編集部の面々を見ながらヒントを得ることもあるでしょう。加えて、モデルとして活躍してもらう人材が得られるのをみすみす逃してしまいかねません。残りのページについては、統括している森さんが作成していることにすればいいでしょう」
「朝倉は?」
「気にくわないけど、どうやらそのようね。編集部の人間がデザインしてはいけないなんて規則もないし、定期的にUSBにデータを保存して向こうで扱っていれば社員も納得するわよ」
「なら、その方向で行こう。それから異世界の天空スタジアムについてだが、番組取材は一切受け付けず、俺たちの野球の試合が終わってしまえば、一般公開を早めてもいいと思っている。報道陣を中に入れずとも青新川さんのスペシャルランチも天空スタジアムからの夜景も口コミですぐに広がる筈だ。81階をここと同じ会議室にして、ここと直接つながるどこ○もドアを設置する。基本はここにいるメンバーでの会議、食事はこちらで行うつもりだが、それでいいか?天空スタジアムの一般公開は野球の試合があった翌月。90階以上のスイートルームの予約もそれからだ。それについては青圭一さんにすべて繋ぐようにしてもらいたい。撮影目的の報道陣が紛れ込むに決まっているからな。もう大分報道陣は抑えつけてあるが、本社完成と同時にまた偽名でかけてくるだろう。そのときは青古泉、青俺で対応してくれ」
『問題ない』

 

「次だ。昨日のディナーで気が付いたんだが、青みくるが配膳するたびに日本代表選手の視線が青みくるの首元に集まっていた。要はネックレスが見たいらしい。ドラマ撮影があるわけでもないし青みくるがバレーの練習や練習試合に参加しても何も問題はないと思っている。青みくるの分はみくるが催眠をかけずにやればいい。月夜野くるみにCMの依頼が入っているというわけでもないし、朝比奈みくるとしてどちらの世界でも出るだけでいい。場合によっては青ハルヒや青俺の影分身が対応するだけで、サインも青みくるが使っているサインペンをサイコメトリーすれば同じものがかけるはずだ。青みくる、どうする?」
「あたしがみくるちゃんにビラ配りを強要しちゃったようなもんだし、みくるちゃんの自由でいいわよ」
「じゃあ、異世界でのビラ配りにはわたしも参加させてください。午後のビラ配りは黄わたしにお任せして、練習試合に出ることにします。ネックレスをつけてもいいんですよね?」
「ああ、その代わり、報道陣には見えない催眠をかけて欲しい。日本代表メンバーに見られるくらいでいい」
「はぁい」
「それから、青朝倉と有希に確認がしたい。監督たちのおでんはどうなってる?これも昨日のディナーの様子を見て気が付いたものだ。食べ放題ディナーなのに酒の方を優先していた。夜練も半分にしたし、そこまで酒を飲む機会がないわけではないと思うんだが、監督たちにおでんを振る舞う場所もないはずだ。何か手段はあるのか?」
「問題ない。社員食堂は~20:00までとしている。あなたが告知でいない間、練習試合に出ているわたしが監督からの伝言を受けている。そのときは社員食堂の営業を終えてからおでんを振る舞っているから問題はない。頻度が少ないわけでもないから、あなたが心配する必要もないはず」
「分かった。俺からはこれで最後だ。ツインタワーの引っ越しが、今日と明日で終わるのなら、政治家たちのスキー場近辺への引っ越しは今月末29日、30日の二日間でやりたいと思っている。俺たちが食堂で作るのは十二月一日の夕方から。それまでの食事については自分でなんとかしてもらう。近くにコンビニなんてあるわけがないからな。自分のことしか考えないアホ共には丁度いい。あんな奴らのためだけに俺たちが負担を抱える必要はない。やることは至って簡単だ。29日の午前中からブラックリスト入りした若手政治家の引っ越し作業に入る。これまで電話を受けた中で一番ギャップの激しかった奴から順番に引っ越しを始めて、真っ当な若手政治家や去年スキー場で働いた政治家は30日、首相を最後にする。圭一さん、来週の月曜でいいので社員にブラックリスト入りした政治家にその旨を伝えてもらえますか?『29日に引っ越し作業をするので一日の昼食までの食事はそちらで用意しておいて欲しい』と。サイコメトリーが使える人間が連絡すると、気分が悪くなるだけですからね」
「分かった、そうしよう」
「では、その順番については僕の方で決めておきます。もし、直接電話に出られた方で『コイツは……』という要望がありましたらお知らせください」
「くっくっ、それを伝えたらどんな反応で返ってくるのか気になって仕方がない。コンビニ弁当で済ませようとしても賞味期限が切れてしまうからね。来週からは青僕が練習に出ることになるし、僕にも連絡をさせてくれたまえ。彼らがどんな慌て方をするのか楽しみだ」
「精神的ストレスがかかるようなら途中で止めて安静にしてろよ?」
「興味が沸いただけだから心配しないでくれたまえ」
「じゃあ、佐々木さんのラストコンサートなんだから、絶対成功させるわよ!!」
『問題ない』

 

 その後、ウェディングドレスにドレスチェンジした青有希に青俺がヘアメイク。案の定、羨ましそうに見ていた幸がドレスを着てヘアメイクをしてもらっていた。敷地外にいる報道陣は数人程度、SPが午前中から出る必要もない。せいぜい檻の中で退屈そうに過ごすといいさ。ニュースもなんの変哲もなかったし、残りのTV局、新聞社、週刊誌は謝る気が無いと全国から冷たい目で見られるだろう。もうこれについては長い目で見ていくだけでいい。いつまでもアホな連中に構っていられるほど時間が無いんでな。滞りなく引っ越しを終え、練習試合に参加した青みくるも満足気な表情で戻ってきた。双子と同様、ドライブの途中で眠ってしまったらしい幸のメイクを取っていた。青有希も家族旅行を楽しめたようだ。
 時刻は五時を迎えようとしていた頃、ようやくSPと案内役の出番がやってきた。既に長蛇の列を作っていたコンサートの観客を一人ずつ入場させていると、催眠がかかったままのチケット屋がすべての席をタダで販売していた。催眠がかかっているとはいえ、違和感がないのか不思議で仕方がない。しばらくして、サイコメトリーに引っ掛かった報道陣をSPが行く手を阻む。
「なんだよ!!チケットなら渡しただろ!?どうして止められなきゃいけないんだよ!?」
「そんなに堂々とカメラを背負って入ろうとしている奴を入れると思うか?TBSの藤堂さん?チケット代なら返してやる。報道陣は会場には入れない。お仲間を連れてさっさと帰るんだな」
「とっ、藤堂って誰だ!?俺の苗字は清水だ。出鱈目抜かすのもいい加減にしろ!通してもらう!」
やれやれ、運転免許証を確認すれば藤堂だとすぐにバレるというのに……つくづくアホだねぇ。強引に入場しようとしても閉鎖空間の壁にぶつかるだけだが、力任せではSPに敵わない事を見せつけるいいチャンスだ。コーティングで簡単に押し返し、歩道に尻もちをついている。
「次の方どうぞ」
「てめぇ、何しやがる!俺が先だろうが!」
「帰れと言っているのがまだ分からんのか。おまえのようなクズの相手は後回しだ。牢屋にでも入って喚いていろ」
後ろに構えていた三人目のSPが閉鎖空間の牢屋に押し込み一人目を捕獲。一部始終を見ていた観客がSPを怖がっていたが、そのくらいの認識が普通であって、こいつらがアホなだけに過ぎん。列に並んでいた他の報道陣も同様に牢屋に閉じ込めてチケットを奪い取った。チケット屋はタダ券を完売させて陽気に帰っていく。儲けが一円たりとも存在しないことに気付くのは一体いつになるのやら……

 

 開始時刻にはまだ大分時間があるが、長蛇の列も一区切りしたところで閉鎖空間の牢屋の条件を変え、報道陣が牢屋から飛び出てきた。今頃、夕食を食べながらモニターで見ているかもしれんな。有言実行、SPに向かって殴りかかってきたバカ共の拳を小指だけで難なく受け止め。逆に報道陣の方がダメージを受けている。それで諦めればいいものをバカは死んでも直らんらしい。すべて小指だけで受け止めて怪我を負わせること数回。拳を押さえ、足を引きずりながら、チケット代も受け取らずに帰っていった。カメラにも収めているし、このくらいのことで一面になることもない。もし警察が本社を訪ねてくるようなら証拠VTRを渡すのみ。これをあと数回繰り返していれば、どんなバカでも諦めるだろう。その頃に青俺や古泉たちと交代すればいい。意識を本体に戻して夕食を食べ始めた。
「ようやく一段落したようですね。モニターで様子を見ていましたが……あれだけの体格差、力の差がありながら、それでも中に入ろうとする執念は一体どこから来ているんでしょうね。ああいう行動に出る人間の思考が、僕には理解できませんよ」
「理解する必要も無いだろ。後のことは一切考えちゃいないんだ。異世界のアホの谷口ですら、店舗に自家用車で突っ込むという杜撰な計画を立てていた。現実時間で五年じゃまだ足りんかもしれん。同じ内容を1000年繰り返されるという催眠に変えてしまおうかと悩んでしまう。その代わり、現実世界では一瞬で終わる」
「やめておきなさい。まだ本社のシートも取れてないのに余計な邪魔が入るだけだわ!あのアホには一生催眠をかけ続ければいいわよ!」
「ところで青ハルヒと青俺に相談なんだが、明日のパフォーマンスはどうする?このまま俺が鈴木四郎として超サ○ヤ人状態での投球も見せていいのか、青俺がそれを見せてパフォーマーとして異世界で名を上げるのかどっちがいい?明日の試合終了後は間違いなく鈴木四郎が呼ばれるぞ?ナックルボーラーとしての青俺もな。一日三球が限度の180km/h投球の後にナックルボールってわけにもいかんだろう?」
「パフォーマーはあんたでいいわよ。どっちの世界も『キョンがパフォーマー』として広まると、あたし達の方が逆に混乱するわ。あんたが例の投球も見せればいいわよ。ビラ配りもこっちのキョンにも鈴木四郎の催眠をかけて配ってもらうことにするわ。いくらヘリの運転でもサイコメトリーしているだけなんだから、そのくらいできるでしょ?」
「それもそうだな。そろそろ次のステップに入ってもいい頃だ。そうさせてもらおう」

 

 時間も頃合い、報道陣から奪い取ったチケットも集まっていた客にすべてタダで受け渡した。これで口コミが広がると面白い。チケット屋がいい席をタダで売ってくれる上に報道陣の分を貰う事ができるってな。有希に提言して情報をバラ撒かせてみるのも悪くない。報道陣のアホさ加減を動画サイトにUPしてもらうことにしよう。
 定刻になり、場内が暗闇に沈む。ステルスモードの席に座った俺たちの前に楽団員が現れ、スタジアムが透明になっていく。これを見にやってきた観客もこの中に大勢いることだろう。ハレ晴レユカイと青みくるのパフォーマンスはまだ残っているが、これから先、それ抜きでこの天空スタジアムを埋められるかどうかが鍵になりそうだ。ハルヒがステージに現れてようやく演奏開始。佐々木の体調も心配する必要はなかったようだ。夜練の方も至って順調に行われている。最後の青みくるのパフォーマンスをスマホで撮影してネックレスを映そうとする観客が大勢いたが、たかがスマホくらいでネックレスが捉えられる筈がない。すべての演目が終了し、佐々木の最後のコンサートは無事に終えることができた。警備と案内を終えてSP達が本社内へと入っていく。その間に天空スタジアムでは打ち上げの準備をするために楽団員がアリーナ席の椅子を移動させていた。まぁ、このくらいは手伝ってもらわないとな。SP達の情報結合を解除したところで本体が動き始める。どうやら、俺待ちだったらしい。
「今回の乾杯の音頭はあなたにお願いすることになりそうです。警備や案内、打ち上げの料理の用意まですべてあなた一人でやってしまったんですからね」
別に青ハルヒでもいいだろうが、あまり間を空けていると文句を言われかねなさそうだ。
「じゃあ、コンサート後の打ち上げは今回でラストだ。コンサートの成功と、明日の試合の勝利を祈って……乾杯!」
『かんぱ~い』

 

「ところでみくる。ネックレスをつけた状態で練習試合に参加してみてどうだった?」
「えっ!?あっ、そっか、黄わたしは今いないんでしたね。視線は感じていましたけど、試合中でしたからあまりまじまじとは見られませんでした。練習の方に出ると、また変わってくると思います」
「ハルヒ、俺たちの世界でのビラ配りは午前中にしなきゃいけないなんて縛りは無いし、明日は先にこっちの世界のビラ配りをするっていうのはどうだ?チケットも完売しているし、後はどれだけの人間が視聴者としてTVを見るかだから午前でも午後でもどっちでもいいだろ?」
「それもそうね。でも、そんな事の為にわざわざ入れ替える必要なんてあるの?報道陣には見えないんでしょ?みくるちゃんもどちらかといえば練習試合の方がいいんじゃない?」
「そうですね。明日は子供たちもいますし、練習に出るのは来週からにさせてください。明日の試合が終わったらビラも変わるんですよね?」
「黄ハルヒから受け取ったものをとりあえず段ボール一つ分情報結合してヘリに積んである。例の福袋の件で都内と地元を中心にまわるって話だったよな。何曜日にどこに行くとか決めておくか?」
「土日は都内と地元で確定するとして、あとはその日にみんなでどうするか決めればいいわよ」
青朝倉が話に入ってきた。まぁ、自分にも関わる話だからな。佐倉玲子でビラ配りをしているだろうから、青朝倉もサインを書く機会が多いんだろう。それにしても、カシミヤ100%をもってしても冊子の数には影響されず仕舞いか。やはり、当時の朝比奈みくる効果は絶大だったってことらしいな。連日酒が入ったパーティに圭一さんやエージェント達がご機嫌だったが、こちらのパーティの方はそこまで長引くことはなく、料理が無くなったところで終わりを告げた。時間も時間だし、OG達の超能力修行のステップアップは明日からで十分。100階でシャンプーから全身マッサージまでをしているとハルヒ達が遅れてやってきた。確認するまでもないが、一応念のためだ。天空スタジアムを透視すると楽団員が片付けていたアリーナ席が元に戻っていた。先ほどの敷地外での様子を有希に各動画サイトにUPしておいてくれと頼み。その日は終わりを迎えた。

 

 翌朝、昨日と同様、俺が引っ越しに向かう関係で昼食と夕食の準備も既に終えてある。相変わらず有希も仕事が早い。食事の支度を終えてから動画サイトを確認すると、「テラワロスww報道陣がSPの小指一本に負けた!TBSの藤堂とか言う奴ショボすぎww」、「チケット屋がタダで販売!報道陣のチケットもタダでもらえる!チケットが買えなかった人は現地へ!!」などというタイトルで俺が渡した映像がそのまま映っていた。有希が『テラワロスww』なんてタイトルをつけるとは予想外だったが、より大勢に見てもらうためにはこっちの方がいいのだろう。反対側の歩道から撮影した映像だから、SPに殴りかかっていったシーンの映像とタイトルに会社名と名前が載っていることがセットになっていても何も問題はない。チケットの空き待ちをしていた一般客が様子を見ながら撮影したものとして見られるだろう。ニュースや新聞でもそんな些細なことを扱っているところはおらず、勝手に自滅したアホ共の無念は無念のまま終わることになりそうだ。ジョンのいつもの一言と共に起きてきたみくるから、ようやくお気に入りの下着No.2を聞くことができた。
「今日も昨日と変わらずだ。昼食、夕食はこちらで用意した。食べたらすぐに異世界の東京ドームへ向かう。青ハルヒ、今日のインタビューで四月以降のことについて話して欲しい。『中○さんたちとの野球の試合を終えた翌月から一般開放します。それまで誰にも天空スタジアムは使わせません!』というのが一つ、それから、来月のこちらの予定を国民的アイドルに伝えておいてくれ。念のため、昼食で鶴屋さん達が来たら、おまえが決めたポジションと打順を伝えてくれるか?」
「あたしに任せなさい!」
「そのあと、W鶴屋さんたちを連れて未来のみくる達のところへ行ってくる。行くのは本体だけだが、話をするだけだから2~3%の意識だけで十分だ。ジョンがあの時間平面上まで連れて行ってくれるから時間移動で失敗することはない。それから、まだ退職できない青OG二人に聞きたいんだが、今日は応援としてみくる達と一緒に出るか?素顔をさらして大丈夫か?仕事先の人間から何か言われたりするようなことは無いか?」
『心配いりません!私も応援に参加します!!』
「よし、今日も頃合いを見てチアガールの声帯を治しに行く。俺からは以上だ」

 

「そういえば、天空スタジアムでは他のアーティストが年越しライブをするんでしたね。僕が例の野菜スイーツを年越しディナーでという話をさせていただいていましたが、それも結局三階でという形になりそうです。日本代表選手たちは大みそかも元旦も関係なく練習をするのですか?」
「えっと……他の会社と一緒で、一応29日からお休みになって帰省する人もいるんですけど、残りの人達は体育館で自主練をしてます。でも、一人じゃ大した練習もできないので、結局コーチに球出ししてもらったり、チームを組んで練習試合していたり……日によって集まるメンバーも違うので、その日によって変わるんですけど…」
「ということは、食べ放題ディナーを作っても仕方がありませんね。『他の会社と一緒』ということは一月四日以降から通常練習に戻りそうですし、野菜スイーツはそのときに出すことにしましょう」
「くっくっ、そのときは是非僕たちの分も用意しておいてくれたまえ。ところでキョン、キミの年末年始の予定はどうなっているのか教えてくれないかい?」
「十二月に映画のアフレコで一度戻っては来るが、それ以降はアフリカを一周してスーダンまで告知が終わったらそのままハリウッドでパーティに向かうことになる。向こうの時間で大晦日の昼に空港に着いて、そこからパーティ会場まで約二時間。既に来ているハリウッドスター達と話したら、『ハルヒを迎えに行ってまた来る』と伝えて戻ってくることになるだろう。佐々木の両親に結婚して妊娠したことを言いに挨拶に行くだけなら別に年末年始にする必要はない。今だってこうやって本体がここにいるんだからな」
「くっくっ、それについては僕一人で十分だ。一夫多妻制のことも、キミと結婚したことも、妊娠していることも僕が説明に行ってくる。いくらキミでも、僕の両親が怒ることはまず間違いないからね。朝比奈さん達のアプローチに僕がただ便乗しただけだと説明してくるよ」
「それで、パーティが終わった後はどうするのよ?」
「今年は俺たちも見送る側。ハリウッドスター全員を見送って青ハルヒをこっちに戻したら、その後すぐリムジンで空港に向かう。次の行先は香港だからな。正月早々、波乱の幕開けになりそうだ。みくるもマフィア相手に闘ってみるか?今からジョンに闘い方を習っておけば、正月を終えるころには充分闘える。防御面は閉鎖空間で全部はじき返せるし、今後、藤原のバカのような連中が来たっておかしくないんだ。今日の午後から向かう時間平面上のみくるも戦闘経験はないからな。覚えておいて損をすることはない」

 

 以前有希と話していた通りだな。青チームの圭一さんたちと青OG達は話についてくることができていない。
「そうですね。キョン君の告知が終わってから、キョン君に教えてもらいたかったですけど、この時間平面上の未来を安定させるためなら、わたしも闘いたいです!」
「あのー……黄キョン先輩、未来の黄みくる先輩に会いに行くって一体どういうことですか?」
「こっちのみくると、それからジョンは今の時代の人間じゃないってことだ。そうだな、俺たちの孫の孫の孫の……の孫の孫くらいの時代に生まれた人間。タイムマシンで未来からやってきた未来人ってことだ」
『未来人!?』
みくるとジョンが未来人だと言って驚くのは青チームの10人のみ。残りのメンバーは何の反応も見られない。まぁ、今後、有希や朝倉が宇宙人だってカミングアウトするためには必要なステップになるんだから仕方がない。
「今だってこっちの世界の人間からすれば、青チーム全員異世界の人間。すなわち、異世界人ってことになるし、俺が分け与えたエネルギーで超能力を使っているんだから、青OGだって超能力者の部類に入る。本来なら、みくるはとっくの昔に未来に戻っているはずだったんだが、本人の意向と俺が未来に帰らないでくれと伝えて、今の時代に残ってくれている。だから、午後から行く未来のみくるからすれば、鶴屋さんとは十数年ぶりの再会になるんだ。今回は夕食までの短時間だが、思い出話に花を咲かせる機会を俺がセッティングした。それだけだ」
『私も未来に連れて行ってください!!』
「この前、過去のハルヒ達を連れてきたときと同じだよ。過去を変えようとしたり、未来のものを勝手に持って帰ってこようとすれば未来の規則に引っ掛かり罪人として牢屋に閉じ込められることになる。そう簡単にタイムマシンを使うことはできないんだ。それに、未来の自分がどうなっているかだけでも見たいと思っても、さっきから話に上がっている通り、その瞬間毎に切り取られた数多の時間平面が積み重なってようやく一つの時間の流れを作っている。そして、それぞれの時間平面でほぼ同様のベクトルに向かって時間が流れているんだが、例外的なものもある。例をあげるとすれば、ここがそうだ。ジョンが未来からやってきて、俺が超能力者になった。他の時間平面上ではジョンは現れず、俺は至って普通の人間。こんな会社を建てられたのもこの時間平面しか無いだろうな。例えば、他の時間平面に行ってOG達の目の前で挨拶をしても、北高の一つ上の先輩という認識はあったとしてもほとんど初対面。青古泉のように北高全学年女子の間で話題になっていれば話は別だけどな。そして、この時間平面上が特別ってこともあって、双子が将来モデル兼バレーの日本代表になっているかどうか、俺も見に行きたいと思っているんだが、行ったとしてもバレーにはまったく関係ないことをしているかもしれないし、そもそも双子が生まれているかどうかも怪しい。過去の俺たちのことを考えてみればいい。あの六人のうち、結婚しているのは過去の俺と過去のハルヒではなく、過去の俺と過去の佐々木が結婚している。勿論、一夫多妻制はせず、過去の佐々木を正妻として迎えている。要は、過去や未来に行って自分が何をしているのか見に行くのは別に構わんが、過去を変えようとすれば未来の法律に違反して牢屋送りになるし、未来の自分が何をしているのかを見て、こうなりたいと思ったとしてもなれるかどうかは分からない。そういうことだ」

 

「言われてみれば、どの時間平面でも古泉は古泉として広まっていそうだな。俺たちの世界で過去や未来に行ったとしても、黄古泉でも青OG達と同じ反応をされそうだ」
「黄僕が主演女優たちから執拗にアプローチを受けていたことを考えれば、僕の本命が誰なのか周知されている方がそれはそれで良いと思い……」
『良いわけないじゃない!』
「では、わたくしはランチの仕込みがございますので、これで失礼させていただきます」
「わたしたちもそろそろ向かわないと、彼、待っているんじゃないかしら?」
「一昨日の僕と同じ気持ちでいるでしょうが、誰であろうと人を待たせるわけにはいきません。あとはお願いしますよ?」
「あんたたち、ちゃんと夕食には戻ってきなさいよ!?」
『問題ない』
青ハルヒが古泉たちに放った一言を機に解散。人事部にはW俺の影分身で対応し、青ハルヒ達はビラ配り、子供たちは練習をしに体育館に降りた。今後の予定も決まっているし、大した連絡もないだろう。昼時に引っ越しを終えて戻る頃にはW鶴屋さんが到着しており、青ハルヒから打順とポジションの最終確認が行われていた。
「一番レフト黄有希、二番セカンド黄あたし、三番ファーストみくるちゃん、四番キャッチャーキョン、五番ライト黄涼子、六番ピッチャーあたし、七番ショート鶴ちゃん、八番センター黄鶴ちゃん、九番サードこっちのキョン。イチローをセカンドで刺すんだから、ミスしたら承知しないわよ!!」
「だったらいつもよりも速い球を投げてくれるんだろうな?バッターに初球を打たれるなよ!?」
「問題ない。手出しできない球を選択するだけ」
「面白いじゃない!今回はあたしが一番目立つんだから、あんたこそ本番で失敗するんじゃないわよ!?」
『それで皆張り切っていたにょろ?でも、何だか面白そうっさ!あたしも混ぜて欲しいにょろ』
午後の予定をそれぞれ確認して解散。これでいわき市の復興支援も七割を終えることができる。食事が済んだところでW鶴屋さんを連れて時間跳躍。一昨日の古泉と同じ気持ちで待っていたらしき有希と、半分は嬉しいが、もう半分は残念という顔をした未来のみくるが俺たちの目の前に姿を現した。

 

『みくる、元気してたっさ?また遊びに来たにょろよ!!相変わらず綺麗なままで羨ましいにょろ。本当に年取ってるっさ?』
「そう言ってもらえるとわたしも嬉しいです。短い時間ですけど、機会を作ってくれてキョン君もありがとうございます!また、遊びに来てくださいね!いつでも待っていますから」
「告知もあるし、鶴屋さんたちも年末年始は忙しいからな。年内は無理かもしれないが、機会を見つけてまた来るさ。ところで、どこで話すつもりだ?俺と有希は別の部屋の方がいいだろ?」
「問題ない。あなたはこっち」
有希に連れられてやってきたのはベッド。情報結合していた俺の人形を文字通り放り投げ、ブラインドフィールドと遮音膜を展開した。これで俺たちの近くにみくるや鶴屋さんがいては、みくるはこっちが気になって鶴屋さんとの会話にならないはずだ。ダメ元でも一応聞いてみるか。
「有希、これでみくるまでこの部屋だったりしないだろうな?これじゃ逆に気になって鶴屋さんとの話に集中できないだろう?鶴屋さんたちを怒らせて帰らなきゃいけなくなるような真似だけはするなよ?」
「問題ない。彼女たちはさっき立っていた場所にテーブルと椅子を移動させた。朝比奈みくるがお茶を煎れている」
「今まで、この時間平面上のみくるがお茶を煎れるなんてことあったか?」
「あなたの時間平面上の影響。あなたも知っての通り、ここからあなた達の様子を見ていた」
「なんだ、俺と有希のシーンばっかり映していたんだと思っていたぞ。……最初はそうだったが、みくるに文句を言われたっていうのがおまえの顔を見たら良く分かった」
「なななななんののここここと?????」
「相変わらず、分かりやすいな。聞いてはいたが、おまえもみくるも指輪付けているし、イヤリングにネックレスまで……これ以上は俺が潰れるって言ってたのも聞いていただろうに」
「わたしも毎日あなたに抱かれたい。朝比奈みくるも同じ気持ち。以前着けていた下着を今の朝比奈みくるのサイズに合わせて情報結合して欲しいと頼まれた」
「お気に入りの下着にメイド服を着せて抱いていたところまで全部見ていたってことで間違いないらしいな。それに加えて、母乳が出るように身体を改造している最中だとか言うんじゃないだろうな?」
「問題ない。母乳ならもう出るようになっている。それより、時間まであなたに抱きしめられたい」

 

 W鶴屋さんが来るから、今回はこれでとみくると有希で徹底討論したようだ。一線でも超えていたら次はみくるが俺のことを一人占めする……か。嬉しいねぇ…俺みたいな人間を取り合ってもらえるなんて。とりあえず要望に応えてみた。人形と違って暖かいとでも言うんだろう。
「情報結合した人形におまえの意識を少しでも分けて動かしたらどうだ?同位体と同じように、食事から栄養を摂って臓器を動かすことくらい、おまえなら朝飯前だろう?」
「あっ」
「その考えには至らなかったって言いたげだな。みくるが戻らなかった時間平面上でも、死体のように冷たいみくるを動かしているんじゃないだろうな?おまえ」
「もももも問題なななななないいい」
「ったく……振りだけでもいいからちゃんと毎日眠らせろよ?それとな、今朝も新メンバーに俺たちのことに関して耐性をつけるために未来人の話をしたんだが……TPDで未来に行ってもまったく別の時間の流れ方をしているのに、どうして俺たちの時間平面上でのことを教科書に載せることができたんだ?しかもまだ実行に移していないイベントも含めて全部。TPD以外に、その時間平面上の過去や未来を行き来できる新しいタイムマシンでも作ったのか?まぁ、もしそんなものが実在していれば、藤原のようなバカが俺の時間平面上に集結するなんて無かったはずだが、アイツのバカさ加減には心底呆れているんだ。そんなタイムマシンが存在していても、あのバカが気づくはずもない」
「あなたの予想は正しい。あれはあなたの時間平面上の未来がどのように進展するのか、わたし達が予想して作ったもの。あなたに見せられなかった本当の理由は、私たちですら分からなかったから。新年度から採用されるという話も嘘。でもあなたが企画しているイベントが終わればその次の年度から施行されるのは事実。異世界のあなたに美姫のパワーを移したのも、わたしたちにとっても想定外のこと。情報爆発を起こせる力が二つになった今、あなたの時間平面上に何が起こるか、わたしたちにも分からない。あなたがプレコグで見た内容もそう。でも、あなたやジョンが超サ○ヤ人と呼んでいるあの状態なら、あなたたちと対等に戦える者は存在しない。でも…」
「でも、俺たち二人以外はそうではない……だろう?社員に閉鎖空間をつけたのはいいんだが、超サ○ヤ人状態でもう一回つけ直そうかと考えているところだ。果たしてそれで涼宮体の攻撃を遮れるかどうかは別としてな。だが、やってみて損は無いとは思っている。もうそろそろ藤原のバカが何か仕掛けてきてもおかしくないくらいの時間は経ったが、アイツごときに力を奪われる程俺たちはバカじゃない。あの教科書の内容が憶測で作られたものなら、天蓋領域からの侵略もあり得るということになりそうだな。警戒すべきは藤原なんかじゃない。未来の情報統合思念体や俺たちの時間平面上の天蓋領域ってことになりそうだ。ところで有希、こんなことを禁則事項にしたところで何のデメリットもないだろうから聞いておくんだが、この時間平面上の情報統合思念体は涼宮体を最大で何体作れる?」
「おそらくとしか言いようがない。でも、五体は作れるようになっているはず。当然、涼宮体を更にパワーアップさせた同位体も」
外見は涼宮体でも同位体が木偶人形くらいのレベルになっていたように、パワーアップしていてもおかしくない……か。そんなもの予想外でもなんでもないし、油断していた方が悪いとしか言いようがない。いくら有希とはいえ、こんな話ばかりして時間が来るのもどうかと思うし、聞きたいことは聞けた。あとでみくると喧嘩にならない範囲で有希の要望を聞いてやることにしよう。

 
 

…To be continued