500年後からの来訪者After Future7-1(163-39)

Last-modified: 2016-12-02 (金) 19:01:56

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future7-1163-39氏

作品

若手政治家が使い物にならないというハルヒの発言を受けて、少しでもハルヒの負担を減らすため、ドラマの監督としての仕事をしてもらうために若手政治家に料理の指南をするようになり、テレビ出演やコンサートのときには母親と交代することになった。というより、本社の社員食堂は母親がいなくとも大丈夫な気もするが、一度決めた以上、途中で交代なんて真似をハルヒがOKするとは思えないし、朝食や昼食の合間を縫って撮影や楽団の練習に参加しているようだから、心配はいらんだろう。スキーシーズン第二週目の週末、レストラン外には規制された報道陣がうじゃうじゃとしていた。公開処刑をするには充分すぎるほどの暴言も出たことだし、今後のことについてメンバーと検討していくことにしよう。練習用の体育館では日本代表の夜練が始まっていた。

 

 料理長のおススメも出しつくし、若手政治家も皿洗いにまわってしばらく、スカ○ターにはENOZとSOS団が出演する生放送番組が始まった。今回の曲は去年と同じく、CMでの告知やスキー場で流すためのもの。古泉の発案でネックレスをつけた青みくるがハルヒの隣に座っていた。
「続いてはSOS団です」
『宜しくお願いします!』
「スキー場の方は大盛況だと聞いたんだけど、今はどんな感じ?」
「週末は特に忙しくて、今日も他のメンバーにあたし達やENOZの仕事を任せてきました」
「この季節になると、おでん屋も客足が増えてきているんじゃないか?」
「問題ない。でも、今日や明日のコンサートのような日はお休み」
「みくるちゃんは今日はそっちのネックレスなのか。この前見せてもらったキーペンダントが飛ぶように売れているって聞いたんだけども、167万の品物をよく買えるよねぇ。そのネックレスは売るつもりはないの?」
「そうですね、キョン君がわたしの為に作ってくれたものですから。わたしだけのネックレスにしたいです」
「前に聞いたかもしれないが、あのキーペンダントはどうして隠すんだ?」
「お店の人や作っている人には申し訳ないかもしれないんですけど、このキーペンダントを見せられる人にしかわたしの鍵は開けられない。そういう思いを込めて隠しています」
「なるほど。そうすると、みくるちゃんのペンダントを見られる人物はかなり絞られてきそうだね。それじゃ、スタンバイお願いします」
くくく……レストランの外に居た連中がこの生放送の件にいつ気付くか見物だな。一面記事をこちらから提示してやったようなもんだ。これで土日の電話対応をしなくて済む。青みくるが自分のコメントを思い返して落ち込んでないか心配だが、リムジンの運転をしている影分身がフォローしているはず。100階に来たときにも表情が硬ければシャンプーやマッサージをしながらゆっくり話をすればいい。若手政治家と明日の朝の下準備を終えて本社に戻った。

 

 影分身たちと同期して100階に現れた青みくるの様子を見ていたが、本人は自分の想いをはっきりと言えたせいもあってか満足気な表情をしていた。今日のシャンプー担当は佐々木。先ほどの番組収録の件で佐々木が話を切り出した。
「くっくっ、野球の試合後のインタビューに引き続いて青朝比奈さんがあれだけの発言をするとは思わなかったよ。キョン、私のネックレスも催眠を解いてもいいかい?」
「Wハルヒは可能だが、おまえや青佐々木は無理だ。盗掘の疑惑がかけられるし、レッドダイヤモンドはムサイエフ・レッドを上回っている。ロシアが全力をあげて奪いに来てしまうぞ。朝倉はネックレスを付けていないし、有希のネックレスは身内にしか分からんし、有希では説明不足になりかねない」
「十二月号に掲載したように他の宝石に見られるような催眠をかけるというのは駄目かい?ダイヤモンドもレッドでなければいいんだろう?」
「策としてはそれで悪くは無いが、公に見せるのはドラマのオープニングとエンディング曲を披露する日ってことになりそうだな」
「私はそれで十分だよ。キミから貰ったネックレスだって周りに見せられるようになるのならね」
「とりあえず明日の新聞がどうなるかだな。先週と一緒で土日は電話対応無しで構わないだろう。圭一さんと父親の仕事の割り振りをどうするのかが問題だけどな」
「キミのご尊父は異世界のオフィスに行きたいと言うんじゃないかい?彼女に会いに」
「かもしれん。今は異世界の方も安定してきているし、青鶴屋さんのところにかかってくることもなくなった。あとは冊子に記載されている電話番号を異世界用に切り替えるだけだ。三月号には異世界の本社ビルの番号を載せることになるだろうな。そういえば、冊子を見たときは俺も気にして無かったが、鈴木四郎や長門優希、佐倉玲子がモデルとして映っているページはあるのか?」
「それなら心配いらないよ。振袖の約半分が催眠をかけた有希さんと朝倉さんになっているし、男性誌の袴の方も鈴木四郎の催眠をかけたキミが写っている」
「こっちの世界での鈴木四郎は異世界と違ってそこまで名前が轟いていないからな。あまり多すぎてもどうかと思うが……まぁ、いいか」
佐々木と二人で会話をする時間も内容が仕事のことばかりになってきたな。ドラマの撮影が終わるまで研究の方には行けそうにないし、週末は体調が悪くない限りレストランで接客の仕事をしているって、ん?ちょっと待てよ。アイツは今月からどうするつもりなんだ?

 

 翌朝、新聞記事は青みくるの一言だけで一面を飾っていた。見出しは様々だが、報道陣が本社前に押し寄せてきていることに変わりは無い。電話対応で切り捨てた連中やTBSのあの男も来ているようだし、久しぶりに撒くことにするか。今日のコンサートにも支障をきたすことにもなりかねないしな。ステルス状態で背後を取り左右からマシンガンを乱射。機材もすべて破壊したが、また集まって来たところでもう一度撒く必要がありそうだ。例の男には下半身に何発も銃弾を撃ちこんだし、当分病院から出てくることもあるまい。警察と救急車が来て怪我人を搬送していったが、残った報道陣も警察に逮捕されてパトカーに乗せられていった。威力業務妨害の常習犯として捉えられているらしい。例の男が本社前に蔓延ることが当分ないのなら、青有希をいれた妻10人とOG12人分の不要物のテレポート先をあの男の胃の中にしよう。胃を圧迫されてロクに食事もできない上に栄養素がほとんど残ってないからな。点滴で栄養補給するしかなくなる。あのアホにも情状酌量の余地を与えてやろう。
「パトカーと救急車のサイレンが鳴っていたけど、また報道陣を撒いたの?」
「ああ、コンサートのことも含めて邪魔だ。ついでに電話で逆ギレした奴も混じっていたから深手を負わせておいた。警察も何度も出動させられて苛立ちを感じているみたいでな。無傷の連中は逮捕されてパトカーに運ばれて行ったよ。これについては俺も予想外だ」
「昨日のみくるちゃんの一言がきっかけになったようだけど、ペンダント一つで騒ぎ過ぎよ!」
「そうなるな。まぁ、詳しいことはみんなが集まってからだ」
「詳しいこと?」
俺が予想していた反応とは大違いだ。てっきり「いいからさっさとあたしにも教えなさいよ!」なんて言ってくるかと思ったが、朝食時に聞けるから別にいいと判断してくれたらしい。青ハルヒもそこまで成長してくれたか。

 

 青ハルヒが来てしばらくもしないうちに朝食担当以外のメンバーが揃う。青みくるも落ち込んでいるわけじゃなさそうだ。あんなもの、気にする必要なんてない。
「まず、俺から報告だ。昨日の青みくるのコメントを受けて報道陣が本社前に大勢集まってきたんだが、テロに見せかけて報道陣を撒き、例のカメラマンにはかなりの深手を負わせておいた。当分病院から帰って来られないだろう。それと人数が多かった分、あとでもう一回と思っていたんだが、無傷の人間は警察が逮捕してパトカーで連れて行った。コンサート前にどれだけ集まるかは分からんが、客に紛れて入ろうとする奴はほぼいないはずだ。それから、レストラン前に設置しておいた監視カメラの映像で、昨日だけでも公開処刑するには充分なほどの暴言を吐いた奴等がいる。今日、明日と様子を見てどうするか決めようと思っている。確か、青朝倉や青俺が今週は電話対応をすると言っていたはずだが、かかってくる電話の内容を考えると、今週も土日は電話対応しない方がいい。その分、圭一さんと父親がどこについてもらうかなんだが、人手が足りない場所があれば教えてくれ」
「それもそうね。かかってくる電話と言えば、朝比奈さんに関することか、取材の許可くらいしか考えられないわね。でも、古泉君が出演するクイズバラエティはもう詳細は知らされているのかしら?」
「それについては心配はいらない。夕方の五時頃に古泉を毎日のように迎えに来ていた人間が本社に来てくれるそうだ。主演女優を先に迎えに行くそうだから、若干遅れるかも知れないと言っていた」
「では、撮影中の様子やお二人とどんなやりとりをしていたか、青僕に情報として渡しておくことにします。それに、圭一さんもあなたのお父上も泉ヶ岳と安比高原のフロント担当でいかがです?園生や青佐々木さんと交代すればドラマの方も進みますし、園生は編集部に戻ることも可能です」
「流石、黄古泉君!それよ、それでいきましょ!!」
「分かった、だが私もホテルまでのテレポートとなると自信が無い。すまないが送ってもらえないかね?」
『え―――――っ!圭一さんも超能力の修行をしていたんですか!?』
「君たちに負けていられないからね。君たちとは違った私個人の別メニューを彼が組んでくれたよ」
「では、お二人とも僕が送ることにしましょう」

 

「ところで、人事部は土日休みでいいんだが……将棋の方はどうするつもりだ?特に古泉はドラマの撮影がようやく終わったのに、ディナーの仕込みでまた参加できなくなってしまう。先週はどうしていたのか教えてくれ」
「先週は影分身で時間短縮できていましたが、仕込みを終えてからの参加でした。出来れば平日にしていただけると助かります。未来の僕には今日伝えればいいでしょう」
「ディナーの仕込みを彼に任せているのであれば、火曜と木曜でいかがです?朝倉さんが楽団の練習でいないなどということもありませんし、月曜日は電話対応に追われるはずです」
「キミにはドラマの撮影があることもインプットしておいてくれたまえ。将棋に集中すると影分身で撮影なんて、今のキョンくらいのレベルまで修練を積まないと難しいだろう?それに、朝倉さんも編集部の統括があるからね」
「わたしなら平気よ。二月号ももうほとんど出来上がっているわ。三月号もランジェリーとスーツで半分は埋まるはずよ」
「ならその件はそれで決まりだな。それから青ハルヒと青古泉、大阪一号店の福袋をどうするか決めてあるのか?」
「そういえば、そのことをすっかり忘れていましたよ。ですが、都心と同様女性200でいいのではありませんか?」
「も―――!!またキョンに先を越された!あたしも色々と考えていたのに!古泉君の言う通りでいいわよ。それから、大阪一号店の店舗周辺でも福袋のビラに変えるわよ!」
「俺だって忘れていることだってある。今年は福袋作りには参加できそうにないが宜しく頼む」
『問題ない』
「ところでキョン君、ここ数日ずっと気になっていたんですけど、キョン君の目にクマが……」
みくるに言われて手鏡を情報結合。確かにクマができている。いくら眠気を取っても限度を超えてきたってことか。
「確か、アフリカの国々をエジプトからスタートしてスーダンで終えるんでしたね。イギリス支部やフランス支部の運営のときのように同じ時間帯に眠ると言うのは難しくなるはず。昼の時間帯でも影分身を使う必要が無いときは眠った方がいいのではありませんか?」
「そうさせてもらうことにするよ。どの道あと一ヶ月もない」
とはいえ、若手政治家の料理指南で昼は眠れそうにないな。

 

『告知が終わっても、まだアメリカに行くことになりそうだ。俺とキョンに関係した記事を見つけた』
「アメリカの記事!?告知が終わってもまだアメリカに行くことになるって一体どういうことだ、ジョン」
ヒロインの記者会見も出る必要がありそうだが、どうやらそれではないらしいな。俺の発言に対してまたしてもジョンが行動で応えた。テーブルの中央に英字新聞が情報結合された。タイトルは、ゴールデングローブ賞のノミネーション。各賞にノミネートした人物の一覧がずらりと記載されている。ご丁寧にも俺とジョンが関わるところに印がつけられていた。
「キョン先輩もジョンも凄いです!主演男優、作品賞、助演男優賞、監督賞、脚本賞の五部門の受賞なんて!!」
「くっくっ、まだ受賞したわけじゃないさ。日本で言うところの流行語や今年の漢字のようなものだよ。ノミネートしただけで、受賞するかどうかは式典に出てみないと分からない。それに参加しなくちゃいけないということらしいね。しかし、監督賞や脚本賞はキミが受け取るべきなんじゃないのかい?監督も脚本家も振りまわしていたんだろう?」
「僕のドラマですら、監督も脚本家も彼に振り回されていたのを忘れていましたよ」
「えぇっ!?ビバリーヒルズのビバリーヒルトンホテル!?あんたもジョンもこんなところで授賞式をやるの!?」
「確か、一泊二日というだけで五万円を超えるはずです」
『五万円!?』
「相変わらずそういうところの情報に『だけ』は詳しいな。式典が向こうの時間で一月十日か。確かに告知が終わってもすぐに出かける必要がありそうだ」
「キョン!あたしも一緒に連れてって!!」
「年越しパーティにも出るのに授賞式もってのは難しいだろう。ハルヒも同じことを言うはずだし、受賞する人間しか入れないはずだ」
「いいえ、方法がないわけでもありません」
『方法がないわけでもない!?』

 

 ビバリーヒルズのホテルなどと言われれば、一度は泊ってみたくなる世界でも最上級クラスのホテルだ。そんな場所で授賞式をやるっていうのに警備が手薄になるわけがない。ハリウッドスター達のSPだっているはず。そんな場所にどうやって……ってテレポートで即解決するか。だがそれでもすぐに追い出されてしまうぞ。
「黄古泉先輩、一体どんな方法でホテルに入りこむんですか!?」
「簡単ですよ。僕の記憶が正しければ、式典後にはパーティが開かれるはずです。式典にどんなメンバーが参加して、そこに彼が加わったら周りはどう思うかを考えれば……」
「えっ?えっ!?キョン君が加わったらどうなるんですか!?」
「黄みくるちゃん、キョンがいるのに、パーティで出された料理にハリウッドスター達が手をつけると思う?」
『なるほど!』
「やれやれ……俺もそんな気がしてならん。だが、そういうことならハルヒよりも青ハルヒになりそうだな」
『私にもお手伝いさせてください!!』
「行くことができたとしても古泉と青ハルヒくらいだ。ホールスタッフならホテル側で用意されている。料理を運ぶ程度で来ることができるようなところじゃなさそうだ」
青OGやみくるたちが落ち込むのは分かるがOGがどうして落ち込むんだ?バレーの練習や練習試合を異世界の自分に押し付ける気か?
「まぁ、元々俺とジョンしか参加できない式典だし、古泉や青ハルヒだって来られないかもしれん。俺たちなら移動料金は必要ないし、泊って帰ってくるだけならいつでもできるだろ。とにかくハルヒ達にも伝えないとな」

 

 細かな確認だけの会議で短時間で終わると思っていたんだが、席を立とうとしたところで青俺が急に叫んだ。
「あっ!!」
「いきなり大声を出すんじゃないわよ!一体何だっていうのよ!?」
「古泉がクイズバラエティに出たら、コンサートのダンスメンバーが一人欠けることになってしまう!」
「だったら、わたしが古泉君に見えるように催眠をかけて出ればいいじゃない。黄佐々木さんが出られないからキョン君が代わりに出たってだけで、古泉君はそのついでのようなものだったでしょ?」
「僕もダンスメンバーが欠けると言われて焦りましたよ。コンサートが始まる前までにダンスをマスターしないといけないのかと。そんな簡単な解決策があったとは気が付きませんでした」
『キョンパパ!わたしもダンス踊りたい!!』
「そういえば、ダンスを踊れる奴がここにも三人いることをすっかり忘れていた。何かあったら子供たちを拡大して出せばいい。その代わり、三人とも誰の代わりに入っても踊れるようにしておけよ?」
『問題ない!』
とは言ったものの、子供たちはダンスの練習ではなくバレーの練習に参加し、午後も試合に出るつもりだろう。すでにホテルの厨房で仕事をしていた青有希達に会議の内容を伝え、ハルヒにはジョンが情報結合した英字新聞を渡した。案の定、「あたしも連れてって」と言いだしたが、その情報も含めてすべて伝え、残念そうな顔をして楽団のコンサート前の最後の練習に向かっていった。若手政治家の方は皿洗いの途中で次の工程に行くには時間がかかりそうだな。その間ディナーの仕込みをしてしまおう。昨日は料理指南をしながら仕込み作業をしていた関係で、今日の分は既に出来上がっているし、明日の分まで終わらせてしまおう。

 

『古泉、ちょっといいか?』
『どうかされましたか?』
『若手政治家に料理指南しながらディナーの仕込みをやっていたら明日の分まで終わってしまってな。古泉が明日作る分を俺が作るから、将棋の方に集中しないか?』
『それは嬉しい提案ですね。未来の僕には次は火曜日だと伝えましたし、お言葉に甘えさせてください』
『分かった。考えている最中にすまんな』
『いえいえ、こちらこそ。ありがとうございます』
皿洗いと食材の下ごしらえをしている若手政治家の様子を見ながら厨房で作業を進めていると、時刻は既に夕方。スカウターの画面にはレストランの外で昨日より更に苛立っている報道陣の様子が映っていた。いくら電話をかけても通じないからな。明日は一体どうなるのやら。本社前には報道陣がぽつぽつと現れてはいたものの、ホテルに来ている奴、病院送りになった奴、逮捕された奴がいるせいで、どうやら人手不足らしい。チケット屋は相変わらずアリーナ席をタダで売り、SPに見えるような催眠をかけた青俺が客をスタジアム内に入れ始めた。いくら人手不足でも、客に紛れ込もうとする奴は相変わらずらしい。青俺の張った閉鎖空間で報道陣がその閉鎖空間に入った時点で牢屋にテレポート。当然どんなに叫んでも周りには聞こえていない。いい加減無駄だということが理解できんのか?コイツらは。公開処刑を行った初回を除いても三回か四回は同じことを繰り返しているはずなんだが……やっと牢屋から解放されたかと思うとSPに向かって殴りかかる始末。俺もまだまだ甘いかもしれん。容赦の欠片もない青俺のカウンターを喰らって地面に這いつくばると、しばらくしてようやくその場から立ち去って行った。

 

 おススメメニューの火入れが忙しくなり始めた頃、ようやく青古泉の出演するクイズバラエティが始まった。主演女優だけでなく、他の俳優陣も一緒か。『今週放映された回の瞬間最高視聴率は?』なんて青古泉でも分かるわけがない。それ以外にも『主演女優の好きな食べ物は?』という問題に、主演女優が×印の書かれたマスクをはめられていたり、『このメンバーの中で一番NGを出したのが少なかったのは?』という問題がでたり。そんなもんサイコメトリーをして撮影した古泉に決まっている。ドラマ毎に俳優陣のNG回数が発表され、古泉のNG0回という結果に他のドラマの俳優陣も驚いていた。当然MCから青古泉にコメントを求められている。
「台本を手にとってサイコメトリーしただけです。どんなセリフでどんな演技をすればいいか教えてくれとね」
事実を告げた青古泉の言葉も次のドラマの告知だと判断されたようで、
「あのー…まだ次のドラマの告知はしないでもらえますか?いくらなんでも気が早すぎです!」
などとMCからの一言で笑いを取っていた。だが、視聴者に古泉一樹は本当にサイコメトリーができると思わせるには絶好の一手だったといえるだろう。そのあと各ドラマのNG集のVTRがあり、最後は宝石の値段を当てるという青古泉には絶好の問題が出された。『一番近い値を提示したチームに100ポイント!』などと、これまでの接戦は一体何だったのかと思わせるような、いつものクイズバラエティのやり口だ。だが、提示された宝石にさすがに俺も驚いた。ムサイエフ・レッドが印刷されたフリップが画面に映り、MCがこのダイヤモンドについて説明をしている。早々と青古泉が値段を書き終えたのはいいが、頼むからボロを出すような真似だけはしないでもらいたい。青古泉が記載した値段に主演女優たちも驚いていた。他のチームが5000万や1億、2億5000万と予想している中、9億8000万と回答した青古泉に他の俳優陣たちが驚いている。MCは別の意味で驚いているんだろうけどな。目標値から一番遠かった人間が全員分の食事をおごるというどこぞのゴチバトルではないが、ピタリ賞はあるのか?正解が発表され、見事に当てて見せた青古泉にMCが近寄る。
「ちなみに、このことは前から知っていたんですか?」
「ええ、つい最近も会社の方でアクセサリーの特集を組んでいたときに色々と調べていたんですよ」
生放送ということもあり、コンサートよりもこっちの方が不安だったが、それも杞憂に終わったらしい。見事としか言いようがないな。これでまたOG達の青古泉に対する考え方も変わってくるだろう。

 

 翌朝、新聞記事の一面は当然映画のノミネーションについて。やれやれ、こちらからネタを提供してやったんだ。来週以降は自分たちで何とかしろと言いたいね。しかし、ディナーの仕込みも終わっているし、今日くらいは指南役がいなくても問題ないだろう。こっちの時間で九時~三時頃までは寝ることができそうだ。目のクマもこれ以上酷くなると自分に見える催眠をかけないといけなくなってしまう。ヒロインがメイクで寝不足状態を隠していたと言うのが良く分かった。
「ところであんた!昨日の生放送で変なことしなかったでしょうね!?」
青ハルヒの問いに合わせて周りの視線が青古泉に集中した。
「なんだ、誰も見ていなかったのか?見ている最中は心配で仕方がなかったが、見事としか言いようがなかったぞ」
『えぇ―――――――っ!?』
「青古泉先輩がですか!?……信じられない」
「くっくっ、どうやらここは本人に聞くよりもキョンに聞いた方がよさそうだ。どんな内容だったのか教えてくれたまえ」
「各ドラマに関するクイズから始まって、『今週放送された回の最高視聴率は?』とか『主演女優の好きな食べ物は?』などと、いくら青古泉でも答えられないものもあったが、『チーム内で一番NGが少なかったのは?』なんて問題が出て、古泉のNG0回に他のドラマの俳優たちも驚いてたよ。MCがコメントを求めてきてたんだが、『台本を手にとってサイコメトリーしただけです。どんなセリフでどんな演技をすればいいか教えてくれとね』と答えて、MCから『次のドラマの告知はやめてもらえませんか?』なんて言われて笑いを取っていたよ。それから各ドラマのNGシーンを集めたVTRが流れて、最後の問題が出てきたときは俺も驚いた。ムサイエフ・レッドの金額を予想しろって問題でな。9億8000万とフリップに書いて見事に当ててしまったよ。MCから知っていたのか?と聞かれて『ええ、つい最近も会社の方でアクセサリーの特集を組んでいたときに色々と調べていたんですよ』とコメントをしていた。とにかく文句のつけどころが無かったよ」

 

「凄い。夏のバレー合宿から十一月上旬まで毎日撮影していたのにNGが一回も無いなんて……」
「台本をサイコメトリーした演技を披露して文句を言ってくるのは、精々黄ハルヒくらいだろ」
「でも、ハルヒさんが言っていたことは間違ってません。『友達が殺されているんだから、もっと怒りなさいよ!』って青古泉君に言っていましたし」
「しかし、最終問題がムサイエフ・レッドとは僕も驚きました。青僕のおかげでアクセサリーの告知もできましたし、明日の朝のニュースの方もスムーズに事が運べそうです」
「とりあえず今日も電話対応は無しでいくが、昨日は電話がつながらずにイラついている報道陣がカメラに映っていた。電話をすればするほど逆効果になると言っているにも関わらず、まだかけてくるバカな連中だからな。今日どうなるかなんて考えなくても分かる。青俺、すまないが影分身一体をSPに化けて青佐々木と交代して欲しい。園生さんや森さんならきっぱり断るし、報道陣からはホテルのスタッフとしてしか見られないはずだ。首相に文句を言いにいく奴もいないだろうし、俺たちと直接関わり合いがあって脅しやすい相手となると青佐々木に報道陣が集中する。青佐々木の方も交代した分、ドラマ撮影や脚本作りの方に力を注げるはずだ」
「分かった。首相と同じく文句を言えない様にすればいいんだな」
「それにしても、キョン先輩がバカな連中っていうのも納得がいきますね。朝と昼は規制がかからないんですから、昼にレストランに入ってそのまま居座ればいいってことに気が付かないんですか?」
「くっくっ、そんな安易な考えでランチタイムに入ろうとすればキョンのサイコメトリーにひっかかる。閉鎖空間に条件でもつけてあるんだろう?キミが許可していない報道陣は夜のレストラン開始時刻には外にテレポートされる。違うかい?」
「いや、俺もそこまでは頭が回らなかった。すぐに閉鎖空間の条件に追加しておく。あとはいつも通りだ。すまないが、九時から三時ごろまで一眠りさせて欲しい。丁度その時間、告知の方はホテルで眠っていることになってる。今夜のディナーの仕込みは終わっているし、あとは火入れをするだけだ。若手政治家の料理指南役も一日くらいいなくてもいいだろう」
「すまないがも何も、本来なら今日はキョン君のお休みの日なんです!三時までなんて言わずに、夜のレストランが始まる直前まで休んでてください!」
「こっちはいいんだが、告知の方は起きないと時間に間に合わない。遅い昼食を食べてホテルに向かうよ」
しかし、OGも閉鎖空間の色が青になっただけのことはある。セッターとしての素質は十分だったってことか。

 

 みくるの一言に周りが納得してくれていたが、告知の方は起きないといけない事実に表情を曇らせていた。
「では、昼食の片付けは僕の方でやっておきましょう。電話対応もないので暇ですしね」
「他に議題が無いのなら、僕の方からも一つ報告してもいいかい?ドラマのセカンドシーズンのことなんだけどね、第二話まではすべて撮り終わったから、一度みんなに見てもらいたいんだ。キョンとも相談したんだけど、夜練もディナーもない火曜日の夕食でどうかという話になった。ハルヒさんたちもキョンの影分身と交代して戻ってこられるようにする。修正が必要なところがあれば教えてくれたまえ。それと、有希さんに聞きたいんだけどね。例のダンスの新曲の楽譜は僕たちにはもらえないのかい?どんな歌詞や曲なのか気になって仕方がないんだ」
どうやら、バックバンドのことしか頭になかったらしい。
「……忘れてた」
みくる、朝倉、佐々木の前に楽譜が情報結合された。実際に演奏してみなくともサイコメトリーすれば大体どんなものかくらいは分かるだろう。
「ところで有希、振り付けの依頼はどうするつもりだ?ドラマの撮影が終わってからになるだろうが、踊りながら歌わないと練習にならないだろ?」
「問題ない。二月のバレーシーズン後に来てもらうように頼むつもり。でもそれまでに一度レコーディングをする。できれば明日の午後、バックバンドだけの演奏を収録したい」
「青有希なら俺の影分身と交代すればいい。チェックアウトも終わっているし、サイコメトリーで十分間に合うだろ?」
『問題ない』

 

 ハルヒや青有希たちに会議の内容を伝えに行き、指南役はキリの良いところで戻すことにした。ハルヒの安心した表情なんていつ以来だろうな。それだけ俺が心配かけてばっかりだったってことか。ジョンに時間になったら起こしてくれと頼み99階のベッドで眠りに付いた。ジョンの世界に行かずに眠るとこんなに早く時間が経ってしまうものなのか?眠ってすぐにジョンに起こされた気しかしないが、時計は間違いなく三時を指していた。洗面所の鏡を見ても眼のクマは相変わらず。あと一ヶ月で告知も終わりなんだ。休めるときは休ませてもらおう。すぐに指南役を送って本体はスカ○ターを装着。ステルスで各フロントの様子をサイコメトリーすると、スプリングバレーの方は現地住民だと分かるとすぐに引いたようだが、SPに化けた青俺にも喰いかかってきたか。森さん達の方にもクレーマーのように問い詰めたようだがバッサリと切られている。大人しくしていれば短期間で済むものを、こんな状態だから一向に許可が下りないんだよ。
 翌朝、昨日、一昨日は俺やジョン、みくるに関する記事でどの新聞社も一面を飾ることができたが、今日は二社がレストランのおススメ料理を堪能している客が掲載されたもの、それ以外はまったく別の記事で一面を飾っていた。フジテレビにチャンネルを切り替えると、少しして古泉と主演女優がカメラの前に姿を現した。最初のうちは今夜放送の最終回についての話題だったが、しばらくもしないうちに新聞の一面記事の話にすり替わった。閉鎖空間で報道陣を仕分けていることについて古泉が迫られている。
「タネを明かすことは当然できません。ですが、あれはタネさえ知っていれば、それなりの修錬は必要になりますが誰にでもできるものです。もちろん僕にもね。我が社の人事部の方には、『あまりしつこいようなら許可が降りるのが遅くなる』と伝えてはいるものの、何度も電話がかかってきているそうですし、昨日はフロントの従業員のところに押し寄せたとも聞いています。この調子ではまだまだ時間がかかりそうですね」
「一昨日の生放送ではラザイエフ・レッドのダイヤモンドの値段を見事に当てたそうですが、以前からご存じだったんですか?」
「あのときも説明しましたが、アクセサリーの特集を組んだときに色々と調べているうちに見つけたものが偶然クイズとして出てきただけです。僕自身もまさかそんな問題が出題されるとは思いもよりませんでした。ですが、僕はデザインには向いていないようで、彼が朝比奈さんのために作ったネックレスのようなものは今でも思い浮かびません。冊子に掲載されているアクセサリーも彼がデザインしたものが多く混じっていますし、アイディア豊富に浮かんでくるのが羨ましいくらいです」
「あのアクセサリーのほとんどがキョン社長のデザインなんですか!?デザイナーとしても活躍できそうですね」
「ええ、僕もそう思いますよ」

 

 古泉と主演女優がTVに映っている間に子供たちは小学校、保育園に出かけていった。その番組の最後まで二人がコメンテーターとして出演していたが、こちらの宣伝をしつつ、報道陣が強引な取材の試みをしていることを暴露して、隠すべきところはしっかり隠していた。
「くっくっ、こっちは安心して見ていられるよ。見事としか言いようがないじゃないか」
「どうやらそのようだ。これでまた人事部の負担も軽減されるだろう。相変わらず、こういう面での古泉の手腕には呆れるくらいだよ」
「これでまた週末まで報道陣が押し寄せることはないだろう。各ホテルには二体ずつ影分身を送ってチェックアウトの作業に入る。昨日とは別の意味で青佐々木がフロントにいない方がいい。青俺、すまないが今後もフロントに一体送ってもらえないか?」
「分かった。だが、フロントでのチェックアウトくらいなら俺でもいい気もするが」
「そうだな、じゃあ来週以降も月曜の怒涛のチェックアウトは青俺の影分身で各ホテルに出向いてくれ。電話対応には俺と古泉が入る。午後から有希の言っていたダンスのバックバンドの収録だ。古泉が出演するようなシーンの撮影はあるのか?」
「彼がこちらの古泉君と入れ替わるようなシーンは無いから心配しないでくれたまえ。ただ、黄有希さんは早めに戻してくれないかい?」
「レコーディングしながらでもカメラの操作くらいアイツならやってのけそうなもんだが、有希から細かい注文が入らない限り一回で終わるだろう」
「じゃ、今日の午前中は大阪一号店の周辺で福袋の宣伝をするわよ!」
『問題ない』

 

 片付けに影分身二体を残して第二人事部へ。青みくるのネックレスやキーペンダントと取材許可の電話だけだとばかり思っていたのだが、先ほどのニュースで古泉がコメントした内容を受けて、俺がデザインしたものはどれがそうなのかと聞いてくる報道陣や一般女性。報道陣には教えられないが、一般女性に教えるくらいなら構わないだろう。日本代表入りしたOG六人がつけているものもそうなのかなどという電話もあったが、こちらも報道陣に教える筋合いはない。念のため圭一さんや父親に連絡をしておいた。しばらくしてようやく予想していた内容の電話が鳴った。
「はい、SOS Creative社です」
「◇○新聞の遠山と申しますが、週末のレストランでの様子を取材させていただきたいのですが」
「自分の会社が先週末の一面記事に何を載せたのか覚えていないんですか?話になりませんね。すでにおたくの会社の吉村という人間に『あなたのせいで今シーズンのレストランの取材は許可できないと社長に伝える』と告げています。それでも尚、こうして連絡をしてくるということは、取材は諦めると判断していいようですね。『あなたと吉村という人間のせいで今シーズンのレストランの取材は許可できない』とこのあと社長に伝えることにします。社長室直通の電話番号を教えていただけますか?」
「待ってくれ、そんなこと聞いていなっ…」
「03-○○○○-○○○○ですね。処分については社長から直に聞いてください。では失礼します」
聞いていなかったとしてもどの道同じこと。圭一さんの名前を借りて社長に連絡を取った。

 
 

…To be continued