500年後からの来訪者After Future7-10(163-39)

Last-modified: 2016-12-11 (日) 14:51:02

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future7-10163-39氏

作品

コンサートライブも終え、打ち上げパーティでの料理やクリスマスケーキに楽団員や子供たちも満足していた。OG達や子供たちに日本代表との練習、練習試合を任せ、俺たちは第九話の最後の仕上げにとりかかった。残るシーンもあとわずか。シドの部屋の現場検証を終えて、獅○達の部屋をまわった後、青古泉の部屋で情報を共有するシーンの撮影に入った。

 

「どうだった!?」
「収穫ゼロだ。全員の無事が確認できた程度。先に屋上の確認をしておいて良かったな。どうやら降り始めてきたようだ。これじゃ爆弾が仕掛けられてなくてもクルーザーが出せそうにない」
「それでも、齊藤さんも含めて、みんな少しは明るくなっていたから心配ないわよ」
『その齊藤から情報は引き出せたのか?』
「ええ、二年前の事件の真相もすべて話してくれたわ」
警察手帳にメモ書きされたものを見ながらみくるが話し始める……が、いくらなんでも字が汚すぎるとして、有希からNGが出た。青古泉が手帳にメモした内容を書きなおしてTake2。
『なるほどね。自分のものだと分かるプレートが奪われたから、次に殺されるのは自分だと勘繰ったわけか』
「ええ、でもこの事件の犯人が絞れたわ。あとはシド殺害時の密室の謎さえ解ければ……」
「そんなの無くても犯人が絞れたのなら、どこかに閉じ込めておけばいいじゃない!!」
『そんな行動に出れば、あの三人が黙っちゃいない。シドは二日目の朝食までは生きていた。獅○、超サ○ヤ人と俺たちは………あっ、しまった』
『プッ!!あっははははははは!いくら見た目がそうだからって、ジョンがNGを出すとは思わなかったわよ!あはははははははは……』
「くっくっ、これでNG集がまた一つ増えたようだ。ハルヒさん達の言う通り、ジョンがNGを出すなんて稀少価値が高すぎる。ジョンがNGを出しかねない脚本を考えておくよ」
「やれやれ……頭の中では超サ○ヤ人と認識していたのがそのまま口に出たらしいな。じゃあ今度は、古泉がカットした人間が殺されていく話にでもするか?別のミッシング・リンクも用意しておく必要がありそうだけどな」
「名案だよ。今度は青古泉君が罠にはめられるということかい?他のスタイリストに嫉妬されていてもおかしくないからね。その話はサードシーズンの後半になりそうだ。その事件のあと、その美容院の店長に昇格というのはどうだい?全国に店舗をもつチェーン店の設定だから、店長になってもおかしくないはずだ」
「古泉君ばっかりどんどん偉くなっていくわね。あたしは別にいいけど、黄みくるちゃんは昇格してもいいんじゃない?警部として捜査一課をまとめるっていうのはどう?」
「それをやると、圭一さんがみくるの部下ってことになるだろうが」
「いいじゃないか。それはそれで面白そうだ。結婚式の事件を終えたら朝比奈さんを昇格させるよ」
『とにかく次だ、次!』

 

 ジョンが恥ずかしがっているところを見るのも……いつ以来だろうな。みくる達が入ってくるところからTake3。
『そんな行動に出れば、あの三人が黙っちゃいない。シドは二日目の朝食までは生きていた。そのあと、獅○、桜○と俺たちは昼食までビーチバレーをしていた。館内に残っていた三人の誰かだと見て間違いなさそうだ』
「三人って、齊藤さんまで入っているってこと!?」
『服部とシドを殺害して自分が次に狙われると脅えている振りをしていれば、いくらアリバイがなかったとしても齊藤が容疑者として加えられることはない。二年前の事件が本当に起こったことだったとしても、シドに顔面を蹴られて気絶した人間にプレートを引きちぎることができると思うか?』
「シドに蹴られる前に引きちぎられた可能性もあるわ。その点については他の人たちにも事情を聞く必要がありそうね。ところで、昨日はシドや齊藤さんとどんな会話をしていたの?あたし達が遊戯室を出たのは……10時頃だったかしら?」
『齊藤からそこまで詳細を聞いているのなら俺が追加することは何もない。昨日話していた内容と相違点も無かった。俺たち三人が部屋を後にしたのは11時過ぎだったってことくらいだ』
「ねぇ、ロープが使えなかったとしたら、どうやってあの部屋から抜け出すの?」
「それをさっきから考えているんだ!」
「でも、ひとりで考えていても一向に進まないわ。思いついたものを何でもいいから話してみて」
「あっ!脚立にロープを引っかけるのはどうだ!?」
「それよ!脚立にロープを通して持ち上げればいいんだわ!」
『残念だが、それはできない。あのパイプ椅子と首なし死体はあの小窓の真下にあった。脚立をロープで引っ張れば、死体にあたって胴体の方も倒れているはずだ』
ジョンのセリフを受けて、みくるが撮影した映像を確認しだした。
「駄目ね。ジョンの言う通りだわ。何回かやればそのうち成功するかもしれないけど、首をはねているのにそんな時間は無いはずよ。細い糸を通して外から鍵だけ中に入れることも考えたけど、落ちているだけならともかく、鍵を握りしめられていたんじゃ、その策も使えないし……」
「……ハルヒ?どうかしたのか?顔色が悪いぞ」
「えっ?うっ、ううん。何でもない!あの密室トリックのことを考えていただけ」
「そういえば、もうこんな時間なのね。そろそろ食堂に向かいましょ。齊藤さんにも食事を届けなくちゃ!」

 

「カット。後は夕食時のシーンと次回予告、メモを持った涼宮ハルヒが洞窟に向かうシーンを撮影して第九話の完成。そのまま第十話の撮影に入ってもいい。でも、古泉一樹たちがトリックとその証拠に気付く可能性が高い」
「第十話の台本をサイコメトリーしてこの状態なんだから心配いらん。撮影後のことも考えてジョンの代わりに古泉が入って夕食を食べてくれ。齊藤に料理を持っていくのに初日のディナーとは形式を変えてある。ハルヒや有希はこのあと夕食でも大丈夫だろうが、それ以外のメンバーはレストランでの接客や調理が終わって戻ってきてから夕食だ。そのくらいが丁度いいだろう」
「しかし、脚立を持ち上げるのも、糸を通すのも駄目となると……それ以外に方法なんてあるんですか?」
「この密室トリックを解くには奇天烈な発想と専門知識が必要不可欠。専門職でも解けない可能性もある」
「だから、ヒントを出すなって。とりあえず、青ハルヒが暴風雨の中を歩いて行ったら、暴風雨中のシーンをすべて撮って戻ることになるだろう。青朝倉、洞窟に入ったら青ハルヒの後頭部を石で思いっきり殴ってくれ」
「えっ!?思いっきり殴れって、そんなことして涼宮さん大丈夫なの!?」
「コーティングがあるから思いっきり殴られたって、ダメージはないから心配ないわよ。涼子、思いっきり殴って!それとキョン、洞窟の中でのシーンはあんたが出てくれない?」
「分かった。それなら安心ね」
「なら、外に出るところからすべて俺がやる。それなら青古泉が濡れることはない」
「じゃ、食堂のシーンからね。早く始めちゃいましょ!」
食堂にみくると青古泉以外の全員が集まり、みくるがトレイを持って現れるところからスタート。
「みくるちゃんっ!齊藤さんどうだった!?」
「心配はいらないわ。ほら、この通りお昼も食べてくれたみたい。夕食もあたしが声をかけたら扉を開けてくれたから、今頃食べているんじゃないかしら?」
「良かった。これで迎えが来てくれればみんなで帰れるよっ!」
「でも、この嵐いつ止むのかな?」
「大丈夫だよ、葉月ちゃんっ!いつか必ず晴れる日が来るよっ!だから今はちゃんと食べて元気出そうっ!」
「うん。光さん、ありがとう」
「えへへっ!」

 

 談笑しながら食事を進めることしばらく、一番に食べ終えた一色が席を立った。
「ご馳走様。ごめんなさい、わたし先に部屋に戻ることにするわ」
「一色さん、具合でも悪いんですか?」
「それもあるけど、自分の身は自分で守らなくちゃ!ごめんね」
「要するに俺たちは信用されてないってわけだ」
「そんなことないよっ!みんな揃っていれば絶対に安心だよっ!そうだっ、今夜はみんなで遊戯室で遊ぼうよっ!」
「ええ、いいわよ」
「ごめん、一樹。あたし、どうも具合が悪くて……先に部屋に戻っていてもいい?一樹たちは光さん達と一緒に居てあげて。部屋の鍵もらってもいい?」
「ああ、本当についていなくても平気か?」
「日付が変わる前には戻ってくるんでしょ?大丈夫よ」
「ハルヒさん、大丈夫かしら?」
「アイツも一人になりたいときだってある。これ以上は逆に怒られかねない。早めに戻って休めばいい」
「じゃあ、みんなで遊戯室に行こう!」
「光、今日は俺も参加させてくれ!」
「勿論だよっ!鈴木さんはっ!?」
「なら、俺も入ろう。何をするんだ?」
「フフン!人数も多いしババ抜きに決まりっ!!」
全員が食事を終えて遊技室に向かってカメラの枠から全員が消えたところでカット。次回予告は、みくると青古泉、ジョンが館内を走り回っているシーンと青ハルヒが洞窟内で倒れているシーンを撮影して、その映像にアフレコするだけ。玄関の前でメモを手にしながら青ハルヒが洞窟へと向かっていくシーンを撮影して第九話を撮り終えた。

 

「さて、青ハルヒなら問題ないと思うが、洞窟に行くまでの道が結構厳しくてな。みくると青朝倉が行けるかどうか確認する。まぁ、落ちてもコーティングでダメージはないし、舞空術でどうにでもなる。みくるの場合は俺が浮かせるし、青朝倉の場合は有希が補助してくれるはずだ」
「そっ、そんなに険しい道のりなのかしら!?」
「足場のほとんどない道を蔦っていくんだ。今と似たような天候で初めて行ったときはハルヒですら足を滑らせた。あの時は俺が下になったからハルヒにもほとんどダメージは無かったけどな。全部撮影して放送するわけじゃないから途中だけで十分なんだが……どうする?」
「途中だけなら、わたし行きます。キョン君が助けてくれるんですよね?」
「ああ、任せろ」
「わたしも途中だけでいいならやってみようかしら?」
「じゃあ、エントランスホールで三人が落ち合うシーンから撮影するわよ!」
青古泉に化けた俺とみくる、ジョンが階段を駆け下り、エントランスホールに両サイドから走ってくる。
『そっちはどうだ?』
「駄目だ、館の中にはどこにも……」
「ということは……」
自然と玄関に視線が向き、俺が扉をサイコメトリー。
「一樹君、どう?」
「クソッ!時間は不明だが、嵐の中メモ用紙を片手に持っているハルヒのイメージが流れ込んできた!犯人に呼び出されたんだ!さっき、朝比奈さんの言っていた通りなら、今度はあいつが!!」
『メモの内容は?』
「分からない!この島のどこかに誘い込まれて……そうだ!クルーザー!!」
「待って!他の人間ならともかく、ハルヒさんがあたし達に内緒でクルーザーで逃げるなんてことは絶対にしないわ!この島のどこかに特別な場所がある筈よ。まずはそれを探しましょ!」

 

「カット。次は洞窟内で涼宮ハルヒが頭部を殴られるシーンを撮影する。そのあと、三人の声のする方向とは逆方向に一色が逃げていくシーン」
青ハルヒがやっとの思いで洞窟に到着。ずぶ濡れで着けているランジェリーが透けて見えている。
「ここね!来てやったわよ!!出てきなさいよ!……も―――っ!人を呼び出しておいて現れないなんて!……っ!まさか、アイツにはめられた!?すぐに戻らないと!」
洞窟の入り口の方へ向いた青ハルヒに隠れていた一色が飛び出し青ハルヒの後頭部を殴る。青ハルヒが倒れ、首をはねて館に戻ろうと洞窟を出ようとした一色の耳に、みくる達の声が聞こえてくる。
「ハルヒさ――――――――――――ん!!」
「ハルヒ―――――――――――っ!居たら返事をしろ――――――――っ!!おい、ジョン!おまえもハルヒに聞こえるように……って、どうかしたのか!?」
『あの場所、洞窟のように見えないか?行き先がクルーザーでないのなら……』
「とにかく行ってみましょう!」
洞窟に向かって駈け出して行った三人が見えなくなったところで一色が洞窟内から抜け出し、反対方向へと逃げていく。洞窟に向かって走っている間にジョンがみくるに疑問を投げかける。
『いい加減話したらどうだ?俺たちを急き立ててまでアイツを探させた理由は何だ?』
「一樹君が服部の部屋からサイコメトリーした二文字のアルファベットと齊藤さんが話していた自分だと分かるように付けていたプレートの二つがようやく繋がったわ。あれはSとMじゃない。SとHだったのよ!」
『なるほど、確かにプレートに刻みこむならイニシャルで間違いない。これで犯人が判明した』
「涼宮ハルヒでS・Hか。リンクの中にハルヒが入っているって言ってた意味が良く分かったよ。だが、服部はどうなるんだ?アイツだけH・Sだろ?」
「以前はファーストネームを先に書く傾向が強かったから、あたしの場合なら朝比奈みくるでM・Aになるわ。でも、今はそれも廃れつつあってM・AでもA・Mでもどちらでもよくなったのよ。そして、あたしたちとあの組織の人たちを除くメンバーの中で、そのリンクから外れている人間はただ一人」
「I・S……一色沙弥華か!服部とシドどころかハルヒまで襲いやがって!一発殴るくらいじゃ済まさねぇ!!」
「見つけ次第逮捕したいところだけれど、シド殺害時のトリックと証拠が判明しない以上、逮捕できないわ!」
『重要参考人として連行できないのか?他の連中も殺されるぞ』
「それはあくまで任意同行であって、本人が拒否したら連れていけないの!」
「くそっ!頼む、間に合ってくれ!!」

 

 洞窟前に辿り着いたみくる達が穴の両サイドに隠れて中の様子を伺っている。
「(朝比奈さん、ライトか何か持ってきてないのか?)」
「(ごめんなさい、さすがにそこまでは気がつかなかったの。相手は日本刀を持っている可能性が高いわ。慎重にね)」
「(分かった)」
一歩ずつ洞窟内に足を踏み入れていくと、倒れている青ハルヒを見つけた俺が叫ぶ。
「ハルヒ!!」
「不用意に近づいては駄目よ!一樹君!!その奥に犯人がいるかもしれないわ!」
みくるが腕を掴み俺が青ハルヒに駆け寄るのを防いだ。ようやく洞窟の奥まで辿り着き、一本の刀を発見した。
「脇差?脇差が置いてあるわ!ハルヒさんの方は!?」
「まだ脈はある。だが、身体が冷え切って……そうだ!ジョン!ライター貸してくれっ!」
『生憎と禁煙中なんだ』
「とにかく、一刻を争うわ!あんな道じゃ、気絶しているハルヒさんを運べそうにないしロープか何か借りてくるわね!一樹君はハルヒさんの身体を暖めて待ってて!」
「はぁ!?身体を暖めるって一体どうやって!?」
『人肌恋しい季節ってヤツだ。さて、邪魔者は退散させてもらうとするか』
「おっ、おいジョン!クソ、こうなったら仕方がない!」
青ハルヒの服を脱がせて俺も上半身だけ服を脱いだ。青ハルヒの首に腕を通して抱きしめ背中をさする。青古泉がテレポート膜のことを思いつかなかったら、このシーンを見ただけで鼻血が止まらんだろうな。今もモニターを真剣に見ているに決まっている。しばらくして青ハルヒが眼を覚ます。
「……一、樹?ちょっ!あんた、あたしの身体に何してんのよ!!痛っ!」
「馬鹿!離れるな!!おまえの身体が冷え切って今にも死にそうだったんだ!この嵐の中戻ったら館に着く前に死んでしまうだろ!もう少しジッとしてろ!」
「だからって、許可なくあたしの服を脱がすことないじゃない!」
「しょうがないだろ?服は乾いてもおまえが死んでしまっていたら、こうしている意味がないだろうが!」
「……バカ」
「うるせぇ」

 

 しばらくしてロープで降りてきたジョンと共に崖を登り、館内で冷え切った体を温めていた。
「ちなみに、どうしてこの三人までずぶ濡れなんだ?」
「光さんが『わたしも助けに行くっ!』って飛び出そうとして、桜○君と二人で引き止めていたんです。そしたら、一色さんと朝比奈さん達が帰ってきて……」
「一色さん、あなた一体どこに行っていたんですか?」
「クルーザーを見に行っていたのよ。この暴風雨ならクルーザーの音も聞こえないと思って向かったんだけど、クルーザーの何処を探しても爆弾は見つからなかったわ。船底に仕掛けられていることだって考えられるし、悩んだ末、諦めて帰って来たのよ。そしたらこの三人が居たってわけ」
「犯人はあたし達が必ずつきとめてみせる!それだけは忘れないで」
「じゃあ、そのときはわたしも呼んでくれないかしら?ジャーナリストとして事件をまとめておきたいのよ。どうやってあの二人を殺害したのかも含めてすべてね。ルポライターの彼も、真実を知りたがっているんじゃないかしら?とにかく、こんな状態でいつまでもここにいるわけにはいかないわ。桜○君、園部さん、一緒に戻りましょ?」
「はい」
「うー…ようやく暖まれるぜ」
「あたし達も部屋に戻りましょう。お風呂で十分温まったら、一樹君の部屋に集合。いいわね?」
みくるの言葉に三人が頷き、それぞれ自室に戻ろうと階段を登っていく。
『カット。全員戻ってきて。余分な水分を取る』
『濡れたメンバーの閉鎖空間の設定温度を少し上げておく。それに、ジョンは水分を取る必要はなさそうだ』
「水分を取る必要がないとは一体どういうことだね?」
口調だけだと圭一さんなのか、齊藤に化けた青みくるなのか分からんな。まぁ声も全然違うし、圭一さんだとすぐに分かるんだが。メンバーが揃ったところでジョンが影分身をもう一体作り、意識を移すと、服や身体の濡れていた影分身の情報結合を解除した。

 

「なるほど。こんな方法、ジョンでないとできませんよ」
「ところで有希、撮影はどうする?もう少し撮るシーンはあるが、それ以上は解決編に結びついてしまうからな」
「今日はここまで。天候の操作は可能。エネルギー波で雲を消し飛ばすだけ。でも、他のシーンはどれも長すぎて撮影は困難。おススメ料理が出るのが遅れる。あなたもブラインドフィールドを解除しておいて」
「明日はチェックアウトと忘年会の仕込みに追われそうですが、たまには休養するのも悪くないのではありませんか?今日の撮影を振り返って、僕もこの謎を解き明かすための時間が欲しいと思っていたところです」
「わたしも編集して、あなたが気にしていた時間を確認する。次回予告と視聴者プレゼントのアフレコもしたい。映像はわたしが作る。三人はレコーディング」
「決まりのようね。たまにはわたしもレストランの接客に向かおうかしら?トリックも解けたしスッキリしたわ」
『トリックが解けた!?』
「も――――――っ!!有希の次はあたしが解いてやるって決めてたのに!!涼子に先を越されるなんて!!」
「俺は有希より朝倉の方が早いと思っていたんだけどな」
「ということは、黄朝倉さんを連想させるようなトリックと証拠だということになりそうですね。僕も明日はじっくり考えてみることにしましょう」
「あんたは人事部で電話対応してなさいよ!黄古泉君は忘年会の仕込みで忙しいんだから!」
『とりあえず戻ってから話したらどうだ?他のメンバーも気になっているんだろう?ヒントも教えてやればいい』
「じゃあ、本日の撮影はこれにて終了!帰りましょ!」
『問題ない』

 

 結局そのあと、朝倉が安比高原のスキー場に現れてファンにサインを頼まれていた。俺と古泉、青ハルヒは料理長のおススメを作り、みくる達も接客に入っていた。有希とハルヒ達は夕食もぺろりと平らげ、ハルヒは第九話の脚本と撮影した映像だけでトリック解明に奔走し、青古泉も映像を見させて欲しいとハルヒに近づいていた。有希は微動だにしていなかったが編集作業に入っているのだろう。次回予告、CM、視聴者プレゼントの映像を入れてどうなることやら……水曜日の披露試写会が楽しみになってきた。何もしなかったのは佐々木たち。圭一さんやOG達、青新川さん、青俺、青有希達と今日までの撮影の話で盛り上がっていた。
「あ―――――――っ!!あたしたちが仕事していたっていうのに、暇そうにしているのなら接客に参加しなさいよ!それに古泉君、撮影した画像を見る名目で黄あたしに近づいているんじゃないわよ!!」
「失敬な。僕はトリックの解明に必死なだけです。すみませんが、邪魔をしないでいただけませんか?」
「やれやれ、明日は天変地異でも起こりそうだ。古泉がハルヒに向かって『邪魔するな』なんて今まであったか?」
「わたしも吃驚したわよ。今日が初めてなんじゃないかしら!?」
「けれど、それについては僕も謝るよ。彼女たちに撮影の様子を話していたらいつまで経っても終わらなくてね」
「おまえの場合自分で話を膨らませているだけだろうが!どちらも『話が終わらなかった』は理由にならん」
「キミだって話を聞いていただろう?証人になるのならまだしも、否定するなんて酷いじゃないか」
「どっちも大して変わらないわよ!あんただって手伝いに来たっていいじゃない!」
「ただいまっと。なんだ、まだこんなにいたのか。有希、編集終わったか?」
「あなたの懸念していた通り。CMや次回予告も入れると若干オーバーする。でも、カットできるところがない」
「最終話の撮影を終えてどうなるか判断することになりそうです。嵐の中で撮影したシーンまで入ってしまうと犯人が判明してしまって面白味がありませんし、年が明けてしばらくしたところで、TV局に交渉することになりそうですね。場合によっては脚本を書き足す必要も出てくるでしょう」
「問題ない。解決編と豪華客船の事故のシーンはわたしと彼、ジョンだけで撮影する。豪華客船は閉鎖空間と催眠で十分。あとは影分身するだけ」
「そんな寂しいことを言わないでくれたまえ。豪華客船のシーンなら僕たちが参加してもトリックとは何ら関係ないだろう?」
「とりあえず、今日はこれで休もう。嵐の中で撮影したメンバーは特にそうだ。明日の怒涛のチェックアウトを終えて、忘年会の料理作りの進捗状況を見て判断する。ジョンとの殺陣も考えておかないといけないしな」
『問題ない』

 

「キョン君、あたしと一緒に湯船に浸かりませんか?」
「みくる、口調はいつも通りだが、一人称が『あたし』になっているぞ?女刑事役がそんなに浸透してしまったのか?とりあえず、断る理由はどこにもない。一緒に入るか」
「青ハルヒさんにしていたみたいにわたしの身体も暖めてくれませんか?」
「なるべく頭部を動かさない様に抱きついて背中をさすっていただけだぞ?そんな羨ましがるようなことでもないだろ?まぁ、甘えてくる分には俺も嬉しいからいいけどな。こっちに来いよ」
「とっても暖かいです。犯人に呼び出される役はわたしでもよかったんじゃないですか?」
「全国にいるみくるファンからすればそうだろうな。あくまで、設定上そうせざるを得なかっただけだ。青ハルヒのイニシャルがS・Hだからじゃなく、邪魔者を殺害してしまおうという思惑にすればみくるでもよかった。ただ、それをすると、齊藤から聞いたプレートの話と青古泉がサイコメトリーしたアルファベット二文字を結び付ける役がいなくなってしまう。青古泉が自分で気付いたことにするよりは、『ハルヒさんが危ない』と言われて理由も分からないまま青ハルヒを探し回る方が必至さが出るだろ?」
「そんな細かいところまで考えていたなんて……トリックが解けた有希さんや朝倉さんが羨ましいです。有希さんとキョン君たちだけで解決編を先に撮影するなんてずるいです!脚本に書かれたセリフをそのまま言っただけでしたけど、『犯人はあたし達が必ずつきとめてみせる!それだけは忘れないで』って言ったからにはわたし達で犯人を逮捕したいです」
「やれやれ、だったら時間を計るためだけに解決編を収録することになりそうだ。ただし、放送日直前になっても解けなかったら撮影せずにそのままTV局に渡すからな?」
「絶対解決してみせます!」
茹でダコになる前に温泉から出てみくるのシャンプーと全身マッサージを堪能して、その日は本体がみくるを腕枕。発案したのは俺だが、曜日で誰がシャンプ-するか決めてからOGの方に本体で行くことができてない。不公平にならない様に69階にも足を運ばないとな。

 

 月曜朝のニュースも昨日と大差はないことだけ確認できればそれでいい。
「今日の午前中は、昨日説明があった次回予告と視聴者プレゼントのアフレコをレコーディングルームで行う。朝比奈みくる、それから青チームの涼宮ハルヒと古泉一樹は、このあとレコーディングルームに来て。短時間で終わるからビラ配りに支障はないはず」
「それは構いませんが、例の著作権の問題はどうなったんです?」
「ENOZがカバーする曲も含めてすべて承諾を得た。お金を振り込む必要はある。でも、今のわたし達からすれば微々たるもの。明日の忘年会の最後にENOZで歌うのも一つの手。ただ、料理が無くなった場合は短時間で終わることもある」
「それはあんたが言うセリフじゃないわよ!青有希ちゃんと二人でカレーのスペース陣取るつもりでしょうが!」
「ざっと300人ですからね。W有希さんが満足できるほど食べられるかどうか疑問に思えてなりませんよ。彼のオリジナルカレーの右に出るものは全世界の視野で見たとしても誰もいないでしょう」
「それならここに二人もいるだろうが。古泉と青ハルヒがそうだ。とりあえず、俺が担当した分は用意できた。社員食堂では収まりきらなくなって忘年会ができなくなっていたが、今年からは天空スタジアムで全国の社員を集められる。最初だから俺もどうなるかは分からんが、折角の演奏を妨害するような真似はしたくない。追加は一切なしだ。それと撮影で使う三日目の朝食の用意ができた。殺害されてしまう人物の分も含めて十人分だが、ジョンを含めて三人分は他の誰かで食べて欲しい。撮影組はそっちで昼食にしたいと思ってる」
「いいなぁ……私たちも撮影しているところを見てみたいです!」
「午前中のうちに電話は片付けることにしよう。昼食から入れてもらえないかね?」
「そういうことでしたら、是非とも僕も参加させてください」
「ちょっと待ちたまえ。殺害される人物の分とはいえ、僕や青僕、有希さんは撮影に参加する。三人分ならもう決まっているんじゃないのかい?昼食を食べ終わったら、古泉君が圭一さん達を連れてきてくれたまえ」
「だったら、今日の夕食は俺が作る。青新川さんが出るシーンも撮ってしまいたい」
「では、僕も午前中のうちに料理を仕上げてしまいましょう。異世界の方も使わせていただいてもよろしいですか?」
「ああ、俺は99階で作る。じゃあ、解決編を除いて最終話を今日と明日で撮影を終える。明後日から女子高潜入事件だOG達には活躍してもらうから、そのつもりでな」
『問題ない』

 

 有希と青古泉たちはレコーディングルームに降りて行った。館内を回ってハルヒを探すシーンだけを次回予告に使い、みくるがトランプの最中にイニシャルのことに気付く場面は最終話だ。映像と関係なくアフレコが行われた。
「ハルヒが危ないって一体どういうことだ!?」
「彼らでも知らないこの事件のもう一つのミッシング・リンクが分かったのよ。でも、そのリンクの中に偶然ハルヒさんが入ってしまっているわ!あの人達もおそらくそれが狙い。自分の手を汚すことなく犯人にハルヒさんを殺害させるつもりよ!」
『とにかく手分けしてアイツを探す!あんたはそいつについて行け!』
「どうして!?三人で別行動を取った方がいいんじゃないの!?」
『万が一殺害しようとしている犯人を目撃したとして、あんた一人の力で犯人を止められるのか?』
「それは………」
「考えている暇はない!とにかくハルヒを探しに行くぞ!」
次回予告を録り終えて、青古泉は第二人事部へ。視聴者プレゼントのお知らせをみくると青ハルヒで収録して、ふたりともビラ配りにでかけた。俺は朝食の片付けと夕食の支度。福袋についての議題が挙がらないが、ジョンの世界でみんなが既に用意してくれているに違いない。昼食前に撮影メンバーを連れて孤島へ。天気も操作する必要はなさそうだな。今日最初に撮影するのは三日目。密室トリックの解明はできたが肝心の証拠が見つからないまま朝を迎えた。みくると青古泉は齊藤の分の食事を届けに行き、ハルヒとジョンは食堂で考え事、桜○は既に席についており、一色、俺、獅○の順で食堂に現れた。みくるが齊藤の部屋の扉をノックして声をかける。
「齊藤さん?朝比奈です。朝食を持ってきました。起きていらっしゃいますか?」
「……まだ寝てるんじゃないのか?」
「無理矢理起こしてでも無事を確認したいのよ。齊藤さん?返事をしていただけませんか?齊藤さん!?」
「朝比奈さん、ちょっとどいてくれないか?」
「……っ!一樹君、まさか!?」
「そのまさかを確かめるんだよ!」

 

 ドアノブをサイコメトリーするなり、すかさず青古泉が扉を開ける。扉のすぐ傍には血痕。齊藤はエントランスに飾られていた斧で首を斬られてベッドに横になっていた。
「きっ、キャ―――――――――――――――――――――――――!!」
食堂にいたメンバーがみくるの声に反応した。
「朝比奈さんの声!?」
『齊藤に何かあったんだ!』
すぐに全員が飛び出し、みくるのもとへと駆け寄る。みくるは膝をついて泣き崩れていた。
「見ちゃ駄目だ!!」
「一樹君、齊藤さんどうしたの?ねぇっ!教えてよっ!!」
「エントランスに飾ってあった斧で首を切断されている。腹部をナイフで何度も刺されてからな」
「そんなっ……」
ようやく涙が止まったみくるが頭を上げる。涙でメイクが崩れていた。
「……園部さんは?園部さんはどこ!?食堂に一緒にいたんじゃないの!?」
「あたし達が最初に来てからは見てないわよ?」
「葉月ちゃんっ!」
齊藤が殺されたという事実に絶句していた獅○がすかさず園部の部屋に向かう。扉を叩きながらドアノブを動かしていた。齊藤の方はそうではなかったが、また密室事件が起こったと判断したみくるが園生さんに叫ぶ。
「葉月ちゃんっ!ここ、開けてよっ!!ねぇ、お願いだよっ!葉月ちゃんっ!!」
「森さん、急いでマスターキーを!!」
「かしこまりました」
「ちょっと待ってくれ」

 

桜○が自然体のまま身動きを取らずにいた。
「この部屋、誰も使ってなかったはずだよな?」
桜○の言葉に反応した獅○が桜○にかけより、ドアノブに手をかける。園部の部屋は密室だったが、こちらは開いていた。部屋の中央の照明に園部のポニーテールの先が結ばれ、胴体はこちらもベッドで横になっていた。
「そんな、葉月ちゃんはわたしが、わたしが絶対に守るって約束したんだ。葉月ちゃんが……葉月ちゃんが!!」
「光さん入っちゃ駄目!!」
「こんなの嘘だ。嫌だ、嫌だよぅ………嫌ぁ―――――――――――――――――――――――――っ!!うわぁ――――――――――――――――――――――――っ!!」
獅○とみくるの後ろから青古泉が中の様子を覗きこむ。
「クソッたれ!こんな女の子にまで襲いやがって……」
青古泉が扉を思いっきり殴り、殴った部分がへこんでいる。
「一樹君、手から血が………っ!」
みくるが何かに気付くと同時に獅○が廊下を走りだした。第一の殺人で持って行った甲冑の剣を携えて戻ってくる。大きく振りかぶると、俺に向かって剣を振り下ろした。
「嘘だろ!?光が振り下ろした剣を指二本で受け止めるなんて……」
「剣が曇っているぞ。剣道一筋華の女子大生なんだろ?おまえの剣はこうやって復讐するために使うのか?もっとも矛先を間違えているけどな」
「うるさいっ!服部さんとシド君を殺害して、二人の身体を運べるのはおまえしか残ってないんだっ!!」
「光さん、その人は犯人じゃないわ。真犯人は他にいる」
「みくるちゃんっ!!葉月ちゃんを殺したのは誰だか教えてっ!!」
「今のあなたに教えることはできないわ。あたしも真相を頭の中で整理してから話したいし、朝食を食べ終えたら全員の前で話します。新川さんにも同席してもらうわ」
「分かりました。そのように新川に伝えておきます」

 
 

…To be continued