500年後からの来訪者After Future7-11(163-39)

Last-modified: 2016-12-12 (月) 20:48:27

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future7-11163-39氏

作品

怒涛の三泊四日最終日。おススメ料理の仕込みはもう出来上がっている。あとは最終話の撮影を続けるだけとなった。ジョンがNGを出すなどという珍しい光景を目にしていたのだが、桜○の金髪を逆立てている姿を見れば、ジョンからすれば超サ○ヤ人に見えて当然か。第九話もすべての収録を終えたが、有希から時間がオーバーしてしまうという連絡が入った。最終回も解決編は俺と有希だけで撮るということで、それ以外の最終話を撮影することに。シド殺害のトリックと証拠に気付いたみくるがいよいよ事件の真相を語り始める。

 

 先ほどまで握っていた剣を没収され、獅○は今の想いをどこにぶつけていいか分からないと言った表情で朝食を平らげ、武器をすべて遊戯室に置いてきた青古泉たちが食堂に戻りようやく食事を食べ始めている。桜○も食べ進めてはいたが度々手が止まり、テーブルを何度も殴りつけていた。そんなことは気にも留めずに食べ進めていた俺と一色。自分が真犯人としてトリックを暴かれ、証拠が提示されたとしても毅然とした態度で立ち向かうのか、はたまた死を選ぶのか、そのしぐさや表情からは読み取ることができなかった。全員が食べ終えたところでみくるが服部の座っていた席の後ろに立った。
「では、この孤島で起きた事件の真相のすべてをお話しします」
有希以外のメンバーに渡した脚本にはこの後の解決編はすべて白紙の状態。園部役を演じる必要が無くなった有希から「カット」の合図が入る。
「よし、すぐに解決編後の撮影に入る。でないと有希と青みくるがいつまで経っても食事にありつけない」
新川さんたちはみくるが事件の真相を話している間に姿を消している。みくるの立ち位置は変わらず、それ以外の全員が立った状態から撮影再開。
「一色さん、これ以上反論できますか?」
「そう、二年前のあの事故でそんなことが起きていたなんて知らなかったわ。確かに兄の遺体には齊藤のバッグから引きちぎられたとかいうプレートが握りしめられていたわよ。S・Hとイニシャルが刻み込まれたプレートが!!服部とシドを最初に殺しておいて良かったわ。この場に残っていたら、今すぐにでも殺していたでしょうから」
「齊藤さんならまだしも、どうして園部まで殺す必要があったんだ!?答えろ!!」
「結局あなた達二人も一緒じゃない。緊急事態で仕方が無かったとはいえ、兄もあの二人を突き落したのは事実。でも、ボートに乗ろうとした兄を見捨てたあんたたちも同罪よ!!」
忍ばせておいたナイフを一色が構える。桜○は一色から距離をとり、獅○の後ろに隠れた。

 

『やめておけ。真相が明らかになった時点で、もうあんたの負けだ』
「うるさい!その二人もあたしが殺してやる!!」
「もうやめようよっ!さっきはついわたしもカッとなってしまった。でも、これ以上誰かが死ぬなんて悲しすぎるよっ!!」
「それなら、悲しむ必要が無いようにあんたから殺してやるわ!」
突如、大きな爆発音がなり、食堂が揺れる。一瞬の隙をついたジョンが一色の腹部を殴り一色を気絶させると、落ちたナイフを見当違いの方向に蹴った。
「何よ!?一体何が起きたって言うの!?」
「しまった!あいつらが居ない!!」
「すぐにここから脱出するのよ!みんな玄関に急いで!!」
全員食堂から去り、玄関に繋がる階段を降りて行く。これでこの館は焼け崩れる設定になっている。有希が自分と青みくるの分の食事をキューブに収めていた。玄関扉の前で俺が待ち伏せ、ドアノブには鎖が巻かれ、南京錠でロックされている。最初に俺に気付いた青古泉が真っ先に駆け寄ってくる。次第に館全体が炎に包まれ始めた。
「おまえ、最後まで俺たちを邪魔するつもりか!?」
「見ての通り、ドアノブは鎖で固定されて南京錠がかけられている状態だ。そして、南京錠の鍵は俺が持っている。これがどういう意味か分かるな?」
鍵を青古泉たちに見せてからポケットにしまいこんだ。
『面白そうだ。ここは俺がやる。その女は責任を持って館の外へ連れ出せ』
「館中に火の手がまわって時間が無い!二人でさっさと倒して抜け出すぞ!」
「おっと、俺は別に二対一でも構わんが、同じサイコメトラーとして忠告しておいてやる。俺は自分の能力でこの館がどういう状態にあるか常に察知することができる。おまえにも相応のことができるはずだ。おまえが俺とやるのは構わないが、他の連中のことを気にした方がいい」
『二対一じゃ時間稼ぎにすらならないとしか俺には聞こえないね』
「だったら試してみたらどうだ?時間が無いんだろ?」

 

 一歩前に出て構えた俺にジョンがすかさず攻撃を仕掛けてきた。ジョンの蹴りの連撃をすべてかわしていく。
「頭が切れることと、度胸があるのは認めてやる。だが、バトルにもそれがでているようだ。おまえが今何を考えて、何処を狙って、何で攻撃してくるかすべて読み取れてしまうぞ。そんなことで俺に勝てると思うな!おまえは一撃足りとも当てられずに俺に負ける」
隙を突いて顔面を殴り、ジョンがホールのど真ん中に倒れる。
『ジョン!!』
『解せんな。俺に触れてすらいないのにどうやってサイコメトリーしているのか聞かせてもらいたいね。コイツと同じサイコメトラーなんだろう?』
「ジョン!後ろに跳べ!!上から降ってくるぞ!!」
バックステップで大きく後ろに下がったジョンの前に俺とジョンを阻むように支柱が落ちてきた。
「なんだ、前にあのジイさん達とやり合ったときに同じ状況になったと資料に書いてあったが、聞いてないのか?」
「嘘……床を蔦って間接的にジョンの思考を読んでるってこと!?あのときの一樹君は敵味方の区別すらできずに暴走した。自我を保ったまま同じ事ができるなんて!」
「サイコメトラーとしての実力の差ってことだ」
『なるほど、暴走状態のコイツと同じ強さってことになりそうだ。一度闘ってみたいと思っていたが、こんな場所で機会に巡り合えるとは思わなかった。コイツ等とつるんでいるとこうやって面白いことが起きる。あんたの実力がどの程度のものか試させてもらおう』
「残念だが、もうおまえらの運命は決まっている。この俺がここにいる限りな」
『そいつはどうかな?』

 

 落ちてきた柱に飛び乗ると跳躍だけで俺との距離を詰め、右足での襲撃。腕でガードしたところで左拳を繰り出してきた。ジョンの攻撃を受けること数回、次第に攻撃が受け切れなくなり、ついにジョンの一撃が命中した。
「さっきまで避けられていたのに、ガード!?一樹以上のサイコメトラーを相手に、ジョンは一体何をしたのよ!?」
「考えながら攻撃するのを止めたんだ。何も考えてないからサイコメトリーしても読めない」
「言うのは簡単でも、これまでの闘い方と真逆のことをするなんてそう易々とできるはずがないわ!これほどまでのポテンシャルを持ちながら、どうして何の職にも就いていないのかあたしの方が聞きたいくらいよ!」
「簡単さ。自由気ままに生きる。それがアイツのポリシーだ」
『「一撃足りとも」……何だったか忘れてしまったな』
「ここまで簡単に闘い方をシフトできる奴も珍しいもんだ。いいだろう、久しぶりに俺も楽しめそうだ」
次第に崩れていく館の中でジョンと俺の壮絶なバトルが繰り広げられる。有希ならカメラに全部収めているだろうし、多少現実離れする程度のレベルなら何も支障はない。互いの攻撃が命中するようになり、俺の左拳にジョンの右拳でのクロスカウンター。利き手を使ったジョンに軍配があがり、俺がその場に倒れる。すかさず俺のポケットに入っていた鍵を奪い、南京錠のロックを解除した。
「よし、俺たちも行くぞ!」
「駄目よ、一樹君!ジョンも鎖は解いても扉は開けちゃ駄目よ!!大爆発が起きるわ!」
『一体どういうことだ?』
「バックドラフト現象よ!密閉空間の中で火災が発生したとき、急激に酸素が流れ込むと一酸化炭素と化学反応を起こして燃焼する。つまり、扉を開けて密閉状態の館の中に酸素を入れると爆発してしまうの!!」
「じゃあ、どうやってここから抜け出せって言うのよ!!」
『要は扉を開ける一瞬だけ爆発するんだろ?扉は俺が開ける。安全な場所に避難していろ!』
「それじゃ、あんたが死んじゃうじゃない!!」
『さっきも言っただろ。あんた等とつるんでいると面白いことが起きる。俺が爆発に巻き込まれればそれまでの運命だったってことだ。とにかく急げ!』
「ジョン!!」
「よせ、ハルヒ。今のアイツに何を言っても無駄だ。爆発に巻き込まれないことを祈ろう。安全な場所に避難する」
「それなら地下よ!爆発は上には広がっても下には広がらないわ!遊戯室に急いで!!」

 

 青古泉たちが遊戯室に避難している間に、ジョンが俺を抱えて和室付近まで運びだした。
「どう……いう………つもり…だ?」
『タイムリミット有りの状態であんたとやっても面白くもなんともない。俺が手出しするのはここまでだ。あとは自分でなんとかしろ』
「後…悔する……ぞ?」
『俺が面白ければそれでいい』
「変な……野郎だ…」
玄関扉まで戻ってきたジョンがドアノブに手をかけた。
『準備できたか?』
「こっちはいつでもOKだ!絶対に生きて出てこいよ!?」
『運が向いたらな』
先ほどより大きなバックステップと共にドアノブを引っ張った。その刹那、爆音と共に酸素と一酸化炭素が化学反応を起こす。二度目のバックステップを踏んだジョンに炎が急接近していた。
「今のうちよ!!玄関から脱出するわ!」
「ジョン!……ジョン!!」
「今はあいつを信じろ!早く外に出るんだ!!」
館を出た青古泉たちがある程度の距離とって座り込む。館が上から順に崩れていく光景をそこにいる全員が見つめていた。みくるが一色の手を後ろに組んで手錠をかけていた。突如、エンジン音が鳴り、全員の眼がそちらを向く。視線の先には青新川さん、園生さん、朝倉の三人がクルーザーで逃げていく様子が映っていた。
「アイツ等……クルーザーには何も仕掛けてなかったのね!誰よ!?クルーザーに爆弾が仕掛けられているなんて言い出したのは!!」
「ジョンよ。シドがクルーザーを動かせとあの男に命令したときにそう言ってたわ。でも、紀獏スイッチを押してないだけで、爆弾自体は仕掛けられていたのかもしれないわね。たまたまジョンが発言しただけで、誰がそのことに触れてもおかしくなかったはずよ」

 

「……っ!ジョンは!?ジョンはどうなったの!?」
「ハルヒ、あそこを見てみろ。……ったく、心配かけさせやがって!崩れ落ちている最中だっていうのにのんびり歩いて出てくるんじゃねえよ!」
ジョンの服が焼け焦げて手首から肘までの部分が無くなっていた。どうやら、両腕で頭部を炎からガードしてそのまま倒れこんでいたらしい。姿を現したジョンに青ハルヒが駆け寄っていく。
「ジョン!」
『よう、全員無事のようだな』
「バカ!それはこっちのセリフよ!みんなあんたのことを心配していたんだから!!」
「みんなあなたのおかげよ。捜査一課にスカウトしたいくらいだわ!」
『生憎と、何かに縛られるのは性に合わなくてね。またこういう機会があったら呼んでくれ』
 しばらくして、燃え尽き、焼け焦げた館跡にみくるや青古泉、ジョンが入り込んでいた。
「鉄扉は無事のようだが、中の死体は丸焦げだな。これじゃ誰の遺体なのか判別できそうにない」
「一樹君がトリックに気付いた時点でこうなることを予測しておくべきだったわね。でも、数が足りないわ。服部の首、シド、齊藤さん、園部さん、そして……あの男の遺体が見当たらないのよ」
『別の脱出ルートでも用意していたんじゃないか?どうせまた姿を現すだろ』
「おい!おまえら、そんな呑気なこと言っていられる場合か!?食料も全部燃え尽きてしまったんだぞ!!」
「あいつら……あたしたちをこの孤島に閉じ込めて餓死させる計画だったのね!!って、あ――――――――――――――っ!!あたしのお気に入りの服が!!」
「事件が起こると分かってて、どうしてそんな大事なものを持ってきたんだ?おまえは」
「館ごと燃え尽きるなんて考えもしなかったわよ!!あたしも朝比奈さんみたいに何かしらの準備はしておくべきだったわ!絶対に生きのびてアイツ等に仕返しをしてやるんだから!!」
『釣りでもしながら気長に待てばいい。刃物ならこのガラクタの中にどっさり埋もれているはずだ。イカダでも作るか?』
「その必要はないわ。そろそろ、迎えが来るはずよ」
『迎え!?』

 

「おい、おまえ!俺たちに『誰かにここに来る事を連絡してきたか』なんて聞いておいて、自分だけ秘密にしていたのか!?あのときそれを話していれば他の三人は助かったかもしれないんだぞ!!」
「桜○君、止めなよっ!みくるちゃんは万が一のことを考えて、今日この時間に迎えに来るよう連絡していたんだ。わたし達の方から通信する手段がない以上、今日まではここで過ごさなくちゃならなかったはずだよっ!」
「ごめんなさい。犯人を捕らえるまでは話すことができなかったの。このことを話せば、彼女は計画を早めようとしたでしょうし、無事に戻れたとしても今度はあなた達が一人ずつ殺されていくことになる。そうでしょう?」
「うっ、それは……」
「みくる――――――――――――――――――――――――――――っ!!迎えに来たにょろよ~!!」
「つっ、鶴屋さん!?」
ヘリの音が次第に大きくなり、10人は軽く乗れるようなヘリから鶴屋さんが降りてきた。無論、こんな時期に鶴屋さんの都合がつくはずもなく、運転手も含め、俺の影分身だ。
「随分派手に暴れたにょろね~。誰の仕業っさ?」
「この前の事件で英語の教師をやってた奴の仲間よ!」
「アイツも来てたにょろ?今どこにいるっさ!?」
『他の奴等とは別に逃げて行った。またどこかで会うだろう』
「とにかくみんなヘリに乗るっさ!すぐに応援を呼んで現場を調べるにょろ!!」
獅○、桜○を含めた全員がヘリに乗り、孤島から去っていくところでエンディングが流れる。同期してテレポートで孤島に戻るよう連絡をした。有希と青みくるはカメラに映らないところで食事をしていた。

 

「お見事です。見ている僕らまでハラハラさせられましたよ!トリックがまだ分かっていないにも関わらず、昨日の朝倉さんのように今はスッキリとした気分です」
クルーザーの音が聞こえ、青新川さん達も戻ってきた。
「問題ない。最後のシーンはこれで平気。閉鎖空間を解除して館を元に戻して」
指を鳴らして館に取りつけておいた閉鎖空間を解除。一瞬にして館が元に戻った。孤島にやってきたときに張ったものだから、齊藤や園部は勿論、シドの遺体や服部の首も情報結合されてはいないだろう。食材と一緒に持ってきた荷物も燃え尽きた設定だが、持ってきていたのは情報結合した鞄だけで撮影に参加しているメンバーの服やランジェリーが無くなったわけではない。
「いやはや、話には聞いていましたが、燃え尽きた館が一瞬で元に戻ってしまうとは……お見逸れいたしました」
「ところで監督、このあとの撮影なんだが……例の事件のシーン以外は解決編になってしまう。火災が発生して逃げるのはいいんだが、時間をどうしようか悩んでいる。昼が良いか?それとも夕方か?」
「このバカキョン!あんたが考えた設定でしょうが!顔面を蹴られてまでボートに乗り込むのを阻止されてるのに、周りの客に見られていたら登場人物たちだけの秘密にならないでしょうが!夜に決まってるじゃない!!」
それもそうだった。そうすると、今、夜になっているのは……太平洋のど真ん中辺りで良いか。
「じゃあ、これからテレポートする。空中で浮いている状態になるが、ちゃんと閉鎖空間を張ってあるから慌てる必要はない。準備はいいか?」
『問題ない』

 

 豪華客船でのシーンはそこまでセリフもないし、閉鎖空間で海に突き落されてもダメージは無いと話すと、圭一さんと古泉が服部、シド役に名乗りを上げた。齊藤は絵画を運んでいる途中。館に置いていたものとは別のバッグを情報結合してプレートをつけた。そのプレートが引きちぎられるシーンの撮影を終えると、海岸で遺体の手を握り、プレートを見て復讐心を抱く一色のシーンを撮影して今日の撮影は終了。最終回はあとは解決編を残すのみとなった。81階に戻ってすぐ、ビラ配りを終えた青俺に青古泉が近づく。
「すみません、あなたにお伺いしたい事とお願いがあるんですがよろしいですか?」
「うわっ!なんだいきなり!?顔が近いぞ、顔が!!」
「おっと、これは失礼を。ですが、かなり重要な案件でして、可能なら是非お願いしたいのですが……」
「俺に何をしろと言うんだ、おまえは」
「まず、あなたにお伺いしたいのが、ゾーン状態に入るのに何%の意識で可能か教えていただけませんか?」
「そんなことを急に言われてもな……ちょっと待ってろ。今確認するから」
影分身をもう一体出すと意識の調整をし始めた。しばらくもしないうちに影分身が解除される。
「大体80%ってところだ。これがどうかしたのか?」
「その80%で今日の夜練に参加していただきたいんです。残り20%はここで我々と一緒に最終回の披露試写会に参加するというのはいかがです?ジョンも彼も撮影に参加していますし、トリックや証拠も分かっていますからね。あなたさえ良ければ水曜と言わず、今日見ることができるんですよ。黄有希さんなら、今日撮影したものもすぐに編集できるはず。やっていただけないでしょうか?」
「た、確かにそれなら今日見ることは可能だが……俺もトリックや証拠を暴きたいからな。考えているうちにこっちの意識が20%を超えなければいいんだが」
「問題ない。十分修練を積んだ今のあなたなら、そんなことにはならないはず。編集も今やってる」

 

 有希のお墨付きなら問題あるまい。俺の方も70%程度あれば十分だ。本体をこっちに残しておこう。
『それはないだろう?俺だけそのまま夜練に参加しろっていうのか?』
スカ○ターでいくらでも見られるだろうが。最終話が放映されたら間違いなくジョンのファンが現れそうだ。OG達からもカッコイイと言われるに決まってる。ビラ配りにジョンも出てもらうのもありだな。
『キョンが考えた脚本に従っただけだ。たったそれだけでそんな大層なことになるわけがないだろう?』
すでにゴールデングローブ賞に助演男優賞としてノミネーションしているからな。十分ありえる。
「ちょっとあんた、いつまでジョンと話しているのよ!最終回を最後まで見るんでしょ?」
「ジョンが『俺だけそのまま夜練に参加しろっていうのか?』と文句を言ってきただけだ。スカ○ターで十分対応でき……って、青俺はよくてもOG六人が見られない。月曜だからこっちの新川さんもいるし、俺も良いと思ったがダメだ。青古泉、申し訳ないが今日は無理だ」
「そうですか……仕方がありません。では、水曜まで待つことにしましょう。その間も自分の演じたシーンを思い出しながら考えてみることにします」
「キョン、夜練後に69階で見られるのなら私はそれでいい。私たちよりも新川さんを優先して!」
『私もそれで構いません!』
「分かった。なら六人には、なるべく大画面で見せてやる。有希、フロアの側面すべてにモニターを出してくれ。それと、明日でもいいから、各店舗にFAXを流して欲しい。午後の五時半頃から迎えに行くからいつでも行けるようにネームプレートを付けて待っていて欲しいってな。古泉、各店舗の社員を迎えに影分身を何体くらい出せるか教えてくれないか?俺は30体が限度だ」
『30体も!?』
「そうですね、テレポートの距離にもよりますが、あなたで30体なら、できて20体が限度かと」
「俺にも参加させてくれ!こういうときに黄俺に任せっきりじゃ、いつまで経っても上達できん!」
「じゃあ、俺が北海道、東北、九州、沖縄。古泉が中国・四国と近畿。青俺が関東と中部でどうだ?青俺も近距離なら分影分身を多く出せるはずだ」
「ああ、それでいい」
「僕の方も了解しました」
「こちらも問題ない。明日FAXを送る」
「皆様方のご配慮をありがたく頂戴致します」

 

「しかし、日本全国の社員を集めるという大仕事を、たった三人でさらりと解決しないでくれたまえ。僕も修錬を積みたくなったよ。研究を進めながら脚本を考えたり、片付けを手伝ったりできそうだからね。早く試写会を始めてくれたまえ」
「絶対にトリックを暴いてわたしが自分で解決編を演じてみせます!」
「あたしが涼子の次に解いてやるんだから!!」
「編集が終わった。今から放映する」
巨大モニターが設置され、本社の住所と応募方法、内容の明記の仕方が載った画面が映り、四隅には青古泉、青ハルヒ、みくる、ジョンをギャグキャラにしたようなイラストが描かれていた。本当に有希が作ったのか?これ。
「番組を始める前に、視聴者プレゼントのお知らせ!いよいよ、今度の事件が最後!今日のドラマを見て、この事件の犯人が分かった人には、抽選で10名様に一樹自らシャンプー&カットをします!」
「こちらの内容を明記の上、来週月曜日必着で送るのよ?でも、犯人が分かっただけじゃ言い逃れされてしまうわ!犯人が使ったトリックと、その人が犯人だという証拠を明らかにしてから送ってちょうだい!」
「犯人の使ったトリックのヒントが番組のあちこちに隠れているから、今からでも録画しておきなさい!」
『ご応募、お待ちしています!!』
視聴者プレゼントにしては時間が長いが、内容が内容だけに、こうせざるを得ないか。青古泉の部屋の呼び鈴が鳴るところから始まり、オープニング、フェリーを降りた後の青古泉たち四人を青新川さんと園生さんが待ち受けていた。カメラの映像をチェックしていたわけじゃなかったから気になってはいたが、音声も画面も何ら問題はない。番組の最後にもう一度視聴者プレゼントのお知らせが流れて一度モニターが切れた。
「有希、CMを入れるとどのくらいになりそうだ?」
「およそ一時間十分。どのシーンもカットできるところがない」
「ロープを使っても、糸使ってもダメなんて、どうやったらこんな密室殺人ができるんですか!?」
『それを今考えているんじゃない!』
「まぁ、トリックを考えたのが俺だと青みくるが生放送で話しているし、古泉のシャンプー&カットが視聴者プレゼントならTV局もOKするだろう。明日解決編を撮影して最終話の時間を計らんとな」
「有希さん、早く最終話を見せてください!お願いします!」
「分かった」

 

「凄い……ジョンがめちゃくちゃカッコイイです」
「主演と助演が入れ替わってないか?」
「あ……すっかり忘れていた。ヘリで飛んで行ったあと最後は青ハルヒとのキスシーンだったな。その部分の脚本も考えておく」
「折角ですから第九話の前にもCMを入れてみてはいかがです?最近は漫画の原作者が映画の脚本、演出、総監督をすべて務めるなんてものも出てきていますからね。脚本と演出はあなたで間違いありません」
「分かった。視聴者プレゼントの件も兼ねて30秒でCMを作る」
「たった一回のドラマにそこまでしなくてもいいんじゃないか?サードシーズンの事件のハードルが更に上がって脚本家が泣きついてくるぞ」
『くっくっ、そのときはキミに泣きつくから安心したまえ。もう既にいくつかは案が出ているからね』
『ドラマどうだった!?』
エレベーターを使ってジョンが戻ってくるとは驚いた。どういう風の吹きまわしだ?
『なぁに、感想を直接聞いてみたかっただけだ』
『ジョンが物凄くカッコ良かった!』
ほれみろ。俺の言った通りだろうが。
『キョン先輩、すぐにドラマ見せてください!!』
「じゃ、今日はこれで解散にしよう。何度も言うようだが、事件の真相が分からなければ、俺と有希だけで撮影したものが最終回として放送されるからそのつもりでいろよ?バラエティ番組でも、『まだ謎が解けない』と発言してもらうからな」
『問題ない』

 

 そのあとこちらのOG六人にドラマを見せたが、「感想は?」と聞いたところ、『ジョンがカッコ良すぎる!』だった。青OG達も映像を見ながらトリックを暴こうと考え、証拠になるものを探し続けていた。翌朝、朝から嬉しそうにしているメンバーが一人。ようやく解放されるんだから当たり前か。
「じゃあ、今日の忘年会については昨日打ち合わせした通りだ。会場の設営は俺がやる。六時丁度に古泉の乾杯の合図だと思ってくれればいい。料理は俺以外の人間はガラスに阻まれる閉鎖空間で固定する。当然テレポートすることもできない。社員対策ではなく、W有希対策だと思ってくれればいい。それと、今日でようやく今の仕事から抜けられる奴が一人。六時開始の忘年会には間に合わずとも、俺たちだけの忘年会をやったっていいんだ。そのときはみんなで派手に盛り上がろう。みくるも古泉も、あとのことを気にせずにアルコールが飲めるはずだ。最初にカレーを盛る作業はOG達にお願いしたい。先週の打ち上げと同様の催眠をかけるのを忘れないでくれ。俺たちもネームプレートをつけて参加する。よろしくな」
『問題ない』
古泉が用意してくれた忘年会用の料理を受け取り、天空スタジアムのアリーナ席のパイプ椅子を情報結合解除。台を四台配置して、別枠で野菜スイーツ。空いているフロアにテーブルや椅子を敷き詰めた。ドームを透明にするのは社員を迎えに行く前でいいだろう。有希を連れて孤島に赴き、解決編を収録。編集を頼む前に「ダメ。今度は90分必要」と宣告された。みくるが齊藤から聞いた話をし始めてから、豪華客船での事故のシーンに切り替わり、海岸に並べられた遺体、明かされたトリックと犯人だと断定する証拠の提示、俺とジョンのバトルにバックドラフト現象、ジョンの生還、鶴屋さんが迎えに来てエンディング、最後に青ハルヒに化けた有希とのキスシーン。これだけの内容が盛り込まれれば、そうなって当然か。三話にするという案は却下だな。テレビ局に相談することにしよう。五時を過ぎ、81階に俺、青俺、古泉の三人が集まった。他のメンバーも戻ってきていたが昨日見たドラマを思い出しながら謎を解くのに必死らしい。古泉がリストアップしてくれた日本全国に散らばる店舗の情報をサイコメトリーして影分身を情報結合。フロア中が影分身で満たされた。
「ちょっとあんたたち、こんなところで影分身しないで天空スタジアムでやりなさいよ!!」
『フロアに収まりきるんだから別にいいだろ?じゃあ、社員を迎えに行ってくる。あとは頼んだぞ』

 

 鈴木四郎の催眠をかけた影分身30体でそれぞれの店舗に向かう。復興支援が行われているところばかりだから、何往復もすることはないが、それでもこれだけの店舗が全国に広まってくれたのは嬉しい限りだ。本社設立当初に俺の理想としていた形がようやく出来上がっていたことに満足していた。異世界も青古泉を中心に全国に広めてくれることを期待しよう。影分身を解除する頃には古泉の本体が中心となって飲み物が注がれていた。80階のディナーは打ち合わせ通り俺と古泉の影分身がディナーに対応。天空スタジアムには新川さんの姿もあり、既に女性社員に囲まれていた。料理の台を囲っていた閉鎖空間も消え、古泉のマイクパフォーマンスが始まった。
「全国からお集まりいただき、誠にありがとうございます。今年はこの天空スタジアムも完成し、今こうして我が社の社員全員で忘年会ができるようになりました。来年以降も毎年ここに集まって会を開きたいと思いますので、皆様も是非、参加していただければと思っております」
地域の店舗の店長を中心に盛大な拍手が古泉に贈られた。
「残念ながら今年は、映画の宣伝に伴い、社長はパーティには参加できず、今もアフリカの国々を回っている最中です。しかしながら、ここによういされた料理の半数以上は社長が『夜も寝ないで昼寝して作り上げた料理』です。簡単に説明をしますと、ホテルにいる間に料理を作り、リムジンや飛行機の中で眠っていたというだけです。寿司はありませんが、日本代表チームにディナーとして出した野菜スイーツや鉄板料理も揃っております。楽団の皆様には先日の打ち上げでも説明しましたが、砂糖を1gも使用していない低糖質低カロリーという女性に嬉しいスイーツとなっておりますので、是非、そちらもご賞味ください。尚、料理の中にカレーライスが混じっており、社長が玉ねぎのみじん切りを炒めるだけで四時間を費やしたという社長オリジナルカレーです。しかし、他の料理を見ている間に、カレーが大好物という有希さんにすべて食べられてしまいかねませんので、カレーライスを食べてみたいという方は、最初にカレーを取りに行き、食べ損ったということのないようにお願い致します。それでは、今年一年、皆様のご助力もあり、充実した一年間となりました。来年もぜひ宜しくお願い致します。乾杯!」
『かんぱ~い!』

 

「それでは、しばらくご歓談ください。尚、今宵はSOS交響楽団有志による演奏もございますので、料理の味と曲に酔いしれながら会を楽しんでいただければ幸いです。それでは、SOSスタジアムでしか見られない日本一の絶景をご覧ください」
目で見て、耳で聞いて、舌で味わう。これほど優雅なパーティはないだろうな。古泉のマイクパフォーマンスに笑ったり驚いたりしていたが、話した内容はすべて真実。OGが待機していたカレーの前にずらりと行列ができ、W有希もその行列に混じっていた。楽団員有志の最初の組がステージ上で準備を始めているが、カレーが無くなるのと演奏が終わるのはどっちが先になるか……俺にも分からん。最初の一口を食べた社員から列の最後尾に再び並んでいた。しかし、冬に相応しい星空だ。天空スタジアムができた当初よりも一際輝いて見える。景色と演奏を楽しんでいるところまではいいんだが、社員のやっていることはカレーの行列に並んでいることだからな。カレーがすべて無くなるまでこの状態が続きそうだ。やれやれ、今年中にもう一回作る必要がありそうだな。案の定、真っ先に無くなってしまったのはカレー。W有希が落胆していた。その間も他の料理に舌鼓を打ち、楽団員有志による演奏に耳を傾けていた。なんとも言い難いが、あれだけの量を作って尚、楽団員六組目の演奏が終わる頃には料理はすべて無くなり、美酒と演奏を楽しんでいた。ENOZ+ハルヒの出番は残念ながらなさそうだ。店舗の社員を各店舗に送り届けて忘年会は終わりを告げた。

 

『今すぐ作り始めて!!』
81階に集まって催眠を解いた俺にW有希が迫り寄る。もう一回作る必要がありそうだとさっき考えていたばかりだというのに今すぐ作れというのかコイツ等は。
「ちなみに今日はどのくらい食べることができたんだ?」
『たった三人前』
「くっくっ、カレー好きの二人がその程度しか食べられなかったんじゃ、すぐにでも食べてみたくなるだろうね。でも、まさかカレーが無くなるまで他の料理に一切手を出さなかったという光景も見て面白いと感じていたよ。饒舌な黄古泉君のマイクパフォーマンスもあるだろうけれど、僕たちもほとんど食べられなかった。キョン、作ってもらえないかい?」
「パフォーマンスというほどのことでもありません。『夜も寝ないで昼寝して』というフレーズも彼から伝えてくれと言付かったものですし、まさにそれが事実ですからね。しかし、あれだけの量を用意しても楽団員有志8組の演奏すら終えることができないとは驚きましたよ。来年もカレーは必須料理になるでしょうね」
「はぁ……分かったよ。だが、今から作っても明日の午後まで時間がかかる。明日の夕食はカレーで決定だな」
「ところであんた、有希と二人で解決編を全部撮影してきたのよね?結局どうなったのよ?」
「第九話は1時間15分、最終話は1時間30分かかる。TV局に交渉だな」
『1時間30分!?』
「黄キョン先輩!脚本に載ってなかった部分をちょっとだけでも見せてもらえませんか!?」
「僕も是非見てみたいですね。どんなシーンになるのか気になっていたんですよ。必ず事件の謎を解いて僕が必ず演じてみせます!」
「ちょっと待ちなさいよ!ってことは最後のキスシーンも黄有希と二人で撮影したってこと!?」
「そういうことだ。自分自身とキスシーンなんて断固拒否するぞ、俺は」
「僕たちまで放送される日を待ちわびないといけないのかい?明日から女子高潜入事件の撮影に入るんだ。そうやって焦らされると撮影に集中できないじゃないか」
「簡単な話だ。トリックを暴いて、証拠を見つければ、朝倉のようにスッキリすることができる」
「トリックのヒントじゃなくてもいいんです!どんなシーンを撮影してきたのかだけで構いません!わたし達にも見せてください!」
「やれやれ……しょうがない。脚本に載っていない一部だけだからな」

 
 

…To be continued