500年後からの来訪者After Future7-12(163-39)

Last-modified: 2016-12-25 (日) 14:48:48

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future7-12163-39氏

作品

最終回の撮影も終え、解決編だけは俺と有希の二人だけで撮影した。忘年会も優雅な一時を満喫することができたが、カレーライスを満足に食べられなかったW有希からのクレームと、トリックに関係のないシーンだけでもいいから二人で撮影したシーンを見せて欲しいと要望があった。以前からやろうと考えていた青チームの新メンバーへのケーキや年越しパーティの準備も同時進行で進めないといけないし、OG達が解放される正月休みを使って第七話と第八話の収録も終えてしまわないとな。

 

「じゃあ、まずは青ハルヒを助けた後、部屋に戻ってからのシーンだ」
昨日と同様側面すべてにモニターを映し出し、昼間の間に撮ってきた映像を映し出した。
「ハルヒ、おまえが先に入れ。俺は朝比奈さん達との打ち合わせが終わってからでいい」
「どういう風の吹きまわし?」
「おまえは命を狙われたんだぞ?ジョンなら犯人を返り討ちにできるが、朝比奈さんの場合はそういうわけにもいかない。声は朝比奈さんでも、一緒に犯人がいる可能性もある。ただでさえハルヒを仕留め損なったんだ。今度こそとやってくることもあるかもしれん。俺が風呂に入っている間は誰が来ようと応対しないようにするだけだ。あと、おまえが玄関先で持っていたメモ、見せてくれないか?」
「どうしてあんたがそんなこ……って、サイコメトリーで分かったのね。大分濡れたから滲んでいるかも知れないけど……これよ」
「ちなみに、これをどこで拾ったんだ?」
「和室から戻ってくるときに一色さんに言われたのよ。『パーカーの帽子の中に何か入っている』って」
「『入っている』んじゃない。何も入っていないのに、さも入っているかのように見せたってことになるな」
「えっ!?それじゃあ、犯人は……」
「一色で間違いない。だが、シド殺害の密室トリックと証拠が分からないと逮捕ができないそうだ」
「そんなの、重要参考人でも何でもいいから、あの女を連行しちゃえばいいじゃない!」
「ジョンも同じことを言っていたよ。任意同行だから、本人が拒否すれば無理だそうだ」
「も――――――――-っ!!犯人が分かってて捕まえられないなんて!!」
「とりあえず、風呂に浸かって温まってこい。ハルヒがあがる頃にはジョンも、朝比奈さんも来てるだろう」
「あ!一樹、あたしの下着取ってくれない?」
「自分で取りに来ればいいだろ?俺が選んだものに文句をつけるなよ?」
「もう全部脱いじゃったのよ!どれでもいいから早く取ってきて!」

 

青古泉が青ハルヒのバッグを開け、下着を取り出そうとしてピタリと止まった。
「何やってんのよあんた!早くしなさいよ!!」
「密室が解けるかもしれない」
「はぁ!?」
「犯人の使った手口のヒントが見つかったんだよ!これで証拠さえ見つかれば今晩中にあの女を確保できる!」
「本当!?」
嬉しさのあまり青ハルヒが浴室の戸を全開にした。青ハルヒの裸体が青古泉の網膜に焼き付く。
「あ!」
「あ``!も――――――――っ!!あんたがこんなときにそんな話をするからいけないんじゃない!!さっさと下着をよこしなさいよ!!」
青ハルヒに下着を渡して、青古泉はベッドに横になりながら、渡されたメモを確認していた。

 

「『古泉一樹の命が惜しければ、今夜九時にあなた一人でこの地図の洞窟にいらっしゃい。朝倉涼子』か。館に戻ってからアイツの姿を見ることはなかったが、一色はずぶ濡れの状態で館に戻ってきた。これも一色に託した計画のうちなのか、それとも自ら手を下そうとしたのか……ダメだ。考えても分からん。それよりも、さっき閃いたことが本当に可能なのかどうかだ。それに証拠もまだ見つかっていない。アイツだと断定する証拠はないのか……」
「一樹君?ハルヒさん?居たら返事をしてもらえないかしら?」
「ああ、今開けるよ」
青古泉が扉をそっと開けてみくるの周囲にだれもいないかどうか確認をしていた。
「どうかしたの?」
「犯人に脅されて俺たちの部屋に来たんじゃないかと勘繰ったが、どうやら大丈夫らしいな」
「ハルヒさんは?」
「今風呂で暖まっているところだ。一度命を狙われているから、今夜また来るかもしれない。マスターキーは奴等の手中にあるし、鍵のことなんて容易に解決できるだろ?」
「あの人達に限って言えば、抽選会を操作するようなお膳立てはあっても、自ら手を下すことはありえないわよ」
「これを見てもそれが言えるか?」
濡れたメモ用紙がみくるに渡り、内容を見たみくるが脅えている。
「これ……」
「一色がハルヒのパーカーに何か入っていると言って出してきたものだそうだ。これも一色に授けられた計画の一部なのか、本当に朝倉が入れたものなのかは俺にも分からない。どう思う?」
扉を叩く音が二回鳴り、『俺だ』という一言と共にジョンが合流。メモについて三人で語り出した。
『こういう手口を使うという判断でいいだろう。俺には通用しないがな』
「一色を捕えてここから脱出することができたら、筆跡鑑定をするように要請しておくわ!一致しなければ朝倉涼子本人が書いたと見て間違いなさそうね。今後の事件で関わるようなことがあればこれが使えるわ」
ようやく青ハルヒが髪を拭きながら浴室から出てきた。
「馬鹿!おまえ、下着姿で出てくるな!朝比奈さんはともかく、ジョンもいるんだぞ!?」
「ジョンはあたしの下着姿になんか興味ないから平気よ!ところで、さっきあんたが言ってた、『犯人の使った手口のヒント』ってヤツ、あたしにも教えなさいよ!」
「一樹君、それ、一体どういうこと?犯人の使ったトリックが分かったの?」
「可能かどうかは俺にも分からない。ただ……」
『あぁ――――――――――――――――――――――――――――――――――――っ!!』
「何を叫んでいるんだおまえらは。自分の力で解くんだろう?これ以降はトリックや証拠の件に関わる」
「ちょっとあんた!あたしの許可なく、あんなシーンの撮影をするんじゃないわよ!あたしが恥ずかしくなるじゃない!!」
「背中からしか映ってないし、ヌーブラと下はランジェリーを着けていたと思われるだけだ。心配いらん。次は三日目の朝食を終えて、みくるが事件の真相を語り始めるシーンだ」

 

「では、この孤島で起きた事件の真相のすべてをお話しします。まず、もう光さんも桜○君も気付いていると思うけれど、今回のツアーは抽選会で偶然当たったものではなく、過去に起こった事件をきっかけにそれに関わる人物全員を呼び出すためのものだった。齊藤さんから二年前に起こった事件のことをすべて聞いたわ。殺された人たちも含めて、ここにいるほとんどのメンバーが二年前の豪華客船に乗っていた。そして、その船旅の最中に火災事件が起こり、乗客は救命ボートに避難するように指示が出された。女性や子供を優先的に救命ボートに乗り込ませようとしたけれど、豪華客船だったが故に何mも高いところから飛び下りなければいけなかった。普通なら救命ボートの他にも滑り台のようなものが準備されているでしょうけど、そのときは何かしらの理由で使えなかった。そして、誰も飛び込もうとしない客たちの中から選び出されたのが服部とシドの二人だった。いくらガタイの良いあの二人といえど、海に飛びこむのを躊躇っていたそうよ。その間も、みるみるうちに火の手がまわり、乗客達のすぐ後ろまで火の手が回ってきていた。このままでは死傷者が大勢出てしまうと判断した船員が、服部とシドの背中を押して強引に海へと落としてしまった。着水もまともにできず、二人は浮き袋で水面には浮かんでいたけれど、気絶したまま動く気配がなかった。そこで二人を助けに行ったのが園部さんを連れた光さんだったと齊藤さんから聞いたわ。この話に間違いはないかしら?」
「そう、あのとき、わたしは何とかして二人を助けたかった。でも一人の力じゃ気絶している二人をボートに乗せるなんてできそうになかった。だから、わたしはすぐ近くにいた葉月ちゃんと一緒に飛び降りた。そうでもしなきゃ、葉月ちゃんは自分一人じゃ飛び降りられそうに無かったから」

 

「光さんが飛び降りたのをきっかけに次々と乗客が飛び降りて救命ボートに乗っていった。齊藤さんが飛び降りた場所に一番近いボートが偶然にも光さん達のボートだったそうよ。齊藤さんから名前は挙がらなかったけれど、桜○君もそのボートに乗っていたとみてよさそうね?」
「ああ、俺たち六人だけでこれ以上はもうボートが持ちそうになかったんだ。でも、服部とシドを突き落した奴が俺たちのボートに乗り込もうとしてきたんだ!乗り込もうとすればするほど、ボートは傾いて、海水がボートの中に入ってきた。そのときは俺もどうしたらいいのか分からなかったが、ようやく気が付いた服部とシドが叫んだんだ。『そいつを振り落とせ!』って。俺も自業自得だと思ったよ。服部とシドを突き落しておいて自分も助かろうなんてな。他の救命ボートに移ればいいのに、齊藤さんがバッグで押し返そうとしても何とか乗り込もうとしてきたんだ。見るに見かねたシドがそいつの顔面を蹴って気絶させた。それ以降、何の反応も示すことなく俺たちのボートからアイツが離れていった。そのあとだ、服部がそいつを犠牲に俺たちが助かったことを誰か一人でも警察にバラせば、六人とも捕まるようにすると言って、互いの身分を明かしたんだ」
「それでお互いの名前を知っていて、名前を聞いた瞬間に驚いていたのね。そして、その六人が抽選という偶然を装って再びここで顔を合わせることになった。あなた達は気付いていないかもしれないけれど、その事件に関わった以外にも別の繋がりがあったのよ」
「別の……つながり?」
「齊藤さんが言っていたわ。『その船員に自分のものだと分かるようにつけていたプレートを引きちぎられた』とね。自分のものだと分かるプレートがどんなものなのか、齊藤さんから話を聞いた時はまるで分からなかった。昨日の夜、トランプをしている最中にきづいたのよ。エースや絵札に書かれたアルファベットを見て、プレートに刻みこまれていたのがイニシャルだってことに」
『イニシャル!?』

 

「そう。獅○光、園部葉月、桜○花道、齊藤平八、シド・ハ○ウインド……五人ともイニシャルがS・Hになるわ。そして、服部三四郎もその一人。彼だけはH・Sになってしまうけれど、プレートに刻みこまれたアルファベットがSとHなら、どちらも点対称な図形で、S・Hとも、H・Sともとれる。それがあなた達六人を繋ぐもう一つのミッシング・リンク。そして、あたし達四人はある組織によって呼び出されたの。ここで事件が起こるとわざわざ招待状まで寄こしてね。そこにいる鈴木四郎と名乗る男は、その組織の依頼を受けて事件がある度にあたし達の捜査を邪魔してきた人間。あたしたちの敵ということになるわね」
「じゃあ、この事件の真犯人は……」
「私たち四人と彼、それに森さん達を除いて、唯一イニシャルがS・Hにならない人物。一色沙弥華さん、犯人はあなたよ!」
「あなた達がここに来た理由も、彼が本当はルポライターでないことは分かったけど、イニシャルがわたしだけ違うという理由だけでどうして犯人扱いされなきゃいけないのか教えてもらえないかしら?」
「言ったはずよ。『この事件の真相のすべてを話す』と。シド殺害の密室トリックもあなたが犯人だという証拠もすべてね」
「証拠も見つかったっていうの!?昨日あれだけ話しても何も出てこなかったのに……」
「ええ、園部さん殺害のときに一樹君が怪我を承知で扉を殴ったときに分かったわ。一色さんあなたが起こした行動のすべてをお話しします」

 

「いくらサイコメトリーでも、これだけの量のセリフを間違えずに言えるかどうか不安になってきました。でも、このあとトリックを暴いたり、証拠をつきつけるわけですよね!?」
「そうなるな。まぁ、みくるの説明を受けて、他の人間にカメラが切り替わる瞬間があるから、解決編を一気に撮るわけじゃないから心配するな。NGを出してしまったら有希がどこから話せばいいか指示してくれる。じゃあ、次で最後だ。鶴屋さんがヘリで迎えに来るところからラストまでだ」
獅○、桜○を含めた全員がヘリに乗り、孤島から去っていく。エンディングが流れ、みくると青古泉がそれぞれ仕事をしているシーンが映り、閉店後の美容院で青古泉が青ハルヒにシャンプーをしていた。
「ホンット、自分から挑戦状を叩きつけておいて、最後は逃げていくなんて信じらんないわよ!」
「いや、最初から館を全焼させるつもりだったんだろう。爆弾もちゃんと用意していたようだし、ジョンでなければアイツに勝てなかった。それに、朝比奈さんがバックなんとか現象だとか言って止めに入らなければ、俺とジョンは木端微塵になっていたはずだ。ドアノブにロープや何かをひっかけて扉を開けるなんて真似もできなかっただろうな。俺たちが無事に脱出できて、こうやって帰ってこられたのもジョンや朝比奈さんのおかげってことだ」
「バックドラフト現象よ。そのくらい覚えておきなさいよ!結局、あいつらとの決着はつけられなかったんだから!またあの手で来るかもしれないのよ!?」
「そうだな。次こそ決着をつけよう。そのときはまた手伝ってくれるか?」
「あんた、あたしがピンチになったら助けに来てくれるんでしょうね!?」
「勿論だ」
「それならいいわよ!」
目隠しをした青ハルヒに青古泉がキスをした。

 

「最後はこんな終わり方をするんですか!?なんだか凄く感動しました!」
「あんたね!トリックや証拠に関わらないシーンなら、黄有希とあんただけで撮影する必要は無かったでしょうが!なんであたしを呼ばなかったのよ!!あたしに化けてるの黄有希よね!?」
「当たり前だ。いくら催眠をかけているからと言えど、自分自身とキスシーンを演じるなんて御免だね」
「では、すみませんが調べたいものがありますので、お先に失礼します」
「黄古泉君、調べたいものって何よ!?」
「本当にこんなことが可能なのかどうか確かめるだけですよ」
「ああ、そういうことですか。だから胴体が無かったんですね。すみませんが先輩方、私もお先に失礼します。私も携帯で調べてみたいので」
「ちょっと待った。古泉はいいが、女性陣には明日の撮影で着けるランジェリーを選んでもらわないといかん。有希から何かしらの注文があるかもしれん」
「二月号と三月号ではあまり派手ではないランジェリーとティーンズ層の下着の特集を組む。来年の七月号、八月号で派手なランジェリーを特集する予定。第七回、第八回の撮影では派手なランジェリーをつけているのに白い体操着からは全く見えないことを見せる。なるべく派手なランジェリーを選んできて」
「分かりました。では、お先に失礼します」
「も――――――――――――――――――――――っ!!二人して何なのよ!!何を調べるっていうのよ!?」
「彼女の『だから胴体が無かったんですね』の一言が気になりますね。服部の胴体が無くなった理由があの密室トリックに関係があるのでしょうか?」
やれやれ、これじゃトリックと証拠が明らかになるまで居座りそうだな。他のOG達も変態セッターにだけは負けたくないらしい。必死に考え込んでいた。
「なら、俺はカレーを作りに行く。何かあったら69階と100階にいる影分身に言ってくれ」
どこ○もドアを潜って異世界の社員食堂へと降りた。『問題ない』すら返ってこないとは……あまり遅くまで考えていなければいいんだが。スカ○ターで様子を見ながら調理を進めることにしよう。俺の方は眠気を取って作業にあたっていたが、81階に残っていたメンバーは眠気に耐えきれなくなったところで自室に戻っていった。

 

 翌朝、遮臭膜を三重に張っても青有希の嗅覚には敵わず、今どの程度まで進んでいるかまで当てられてしまった。超能力で言うとどれにあたるのか教えてほしいもんだ。
『三重遮臭膜でも効果が無いとなると、テレパシーとサイコメトリーの複合技を匂いとして感じ取っているとしか考えられない』
本人に自覚は無いとはいえ、とんでもない技を編み出したもんだなぁ……おい。
「すみません、トリックと証拠が合っているかどうか確認していただけませんか?」
「あ――――――っ!古泉君にも先を越された!!もう、どうして何も思いつかないのよ!」
早速、古泉から受け取った情報の答え合わせを開始した。
「概ね合っているが、証拠が一つ足りない。だが、これだけで十分逮捕できるだろう」
「おや、まだ証拠があったとは思いませんでしたよ。もう一度考えてみることにします」
『そんなにたくさん証拠があるの!?』
「じゃ、黄キョン先輩、今度は私の回答を見ていただけませんか?」
変態セッターの方も答えに辿り着いたらしいな。どれどれ………って、
「おまえな!!全部合ってはいるが、こんなに大胆な犯行に及ぶ犯人がどこにいるのか説明しろ!!」
「それはその……犯人の趣味ということで」
「どう考えたっておまえの趣味だろうが!」
「一つ、あなたにお伺いしてもよろしいですか?彼女が全部合っているということは点数で表すと100点ということになりそうですが、もし点数を付けるのなら僕の推理は何点くらいになりそうですか?」
「そうだな……97点ってところだ」
「安易に聞くべきでは無かったと後悔しましたよ。たった3点分となると、本当に細かな部分になりそうですね」
「それでも、古泉君はトリックも証拠も見破っているってことですよね?どちらも見当がつかないです」

 

 古泉は撮影にまで加わっているんだ。あと3点分くらいは自分で考えてもらわないとな。
「あっ、そういうことだったんだ。どうりで『こんなに大胆な犯行』ってキョンが言うはずだよね。え、でもそうするとトリックは……」
「どうやら、周りにもヒントを与えてしまったらしい。さぁて、ドラマの放送前までには全員感づいてしまいそうだが、Wハルヒとみくる、それに青古泉はまだ閃かないのか?」
「うるさいわね!早く食べて撮影に行くわよ!」
「まぁ、そうあせるなって。カレーは今夜だが、それとは別に作っていたものがあってな」
「作っていたものって何のことよ!?」
説明するより見せた方が早いだろう。青チームの圭一さんやOG達の前にたっぷりフルーツのタルトをテレポート。寿司でいうところのウニやいくらと違い、ただフルーツを乗せるだけでなく、すべてサイコメトリーでカットしているから、フルーツの鮮度や甘みがより引き立っているはず。以前の野菜スイーツのように甘過ぎることのないよう配慮はしたから青圭一さん達でも食べられるだろう。ホワイトチョコで『SOS Creative社入社記念 これからも宜しくお願いします』と書かれたチョコレートの板に拍手が自然と湧き出る。
「今からこのフルーツタルトを八等分に切り分ける。四つ作ったから今年新メンバーとして加わってくれた10人と子供たち、残りの女性陣で30人分。余った二つは今まで会社に勤務していた二人に食べてもらうつもりだ。打ち上げや忘年会でケーキ三昧だから男性陣には用意しなかったが……立候補する奴いるか?」
『問題ない』

 

「ん~~~っ!どのフルーツも凄く美味しいです!たった一回切っただけでこんなに美味しくなるんですか!?」
「すべて、サイコメトリーで旨味を引き出したことに違いはない。ああ、そうだ。今日の撮影なんだが、みくる達と青ハルヒはピアスをつけないことと、ピアス穴を催眠で隠してくれ。とくにみくるは体育の時間は髪を結ぶことになる。いくら髪で隠そうとしても限度があるからな。残りのメンバーは催眠だから気にする必要はない。ところで、青ハルヒはソフトボールの投球はできそうか?」
「フフン!昨日バッチリ練習してきたわよ!あたしに任せなさい!」
「なら、部活動のシーンも撮れそうだな」
「しかし、キョン。いくらピアスをはずしたからとはいえ、この二人が生徒に見つからない様に学園長室に行くなんて目立たないわけがないじゃないか。何か代案はないのかい?」
「でしたら、僕に名案があります。お二人ともスーツではなく、それぞれ別の学校の制服を着ていることにすれば、他校生、あるいは転校生に見られるでしょう。制服については僕の方で厳選したものに着替…」
『あんたが選ぶ必要はないわよ!』
「だとしても、ほとんど青古泉の選んだ制服で間違いない。どうするつもりだ?」
「問題ない。わたしが二人に合った制服を選ぶ。最初のシーンはそれで撮影して」
「なら、OGがいるうちにクラスでのシーンを撮ってしまいましょ!でも、2-A担任兼野球部顧問役は青古泉君が適任として、鶴ちゃん役を誰にしようか迷うわね」
「えっ?キョン君じゃダメなんですか?」
「いくら催眠をかけるとはいえ、ランジェリーを見せるのにキョンが鶴ちゃん役っていうのはちょっとね。でも、OG達に入ってもらってもクラスメイト役で影分身を使って出てもらわないと人数が足りないか。どちらにせよランジェリー姿を見せなきゃいけなくなるわね……」
「うん、それ、無理。最終回のラストシーンならまだしも、着替えのシーンで彼が出るなんて気色悪いわよ。この事件に関してはわたしもの出番はほとんどないし、わたしも催眠をかけて出ることにするわ。体育に向かう着替えのシーンなら早々と着替えを済ませてグラウンドに向かったことにすればいいじゃない。準備運動でトラックを走るシーンも、グラウンドに来た女子から走るという設定にすればいいわよ。男子の前でも堂々と着替えを始めていたいつぞやの誰かさんと一緒!」

 

 コイツ……堂々と『気色悪い』と言い放ちやがった。まぁ、初日の時間割は、一時間目が俺の英語、二時間目が体育だからな。俺のことを聞いているうちに他の生徒は着替えて出ていったということでいいか。しかし、いくら記憶……もとい、記録が残っているとはいえ、こんなときにそんな話を持ち出してくるとは思わなかった。本人以外は俺と朝倉しか知らん。
「それもそうね。じゃあ、その分、キョンは第二人事部で電話対応とカレー作り、学園長に圭一さん、クラスの学級委員に青涼子、鶴ちゃん役は……授業のときはみくるちゃん、部活のときは青みくるちゃんでどう?」
『問題ない』
ハルヒにしては良い配役をしたもんだ。それにしても、この回の偽名、もう少しなんとかならなかったのか?
「佐々木、おまえ、自分の子供の名前を俺の偽名として使うってのはどういうつもりだ?」
「くっくっ、最初はできるだけ本名を名乗っているように見せたかっただけさ。最終回が『鈴木四郎』だからね。他に思いつかなかったんだ。それともキミは、誰かに名前を聞かれて咄嗟に『江戸川キョナン』と名乗り出るつもりかい?」
『ブッ!』
「あっははははははは……ネーミングセンスが逆にあり過ぎるにょろよ!!毎日のように災難が降ってきそうな名前になるとはあたしも思ってなかったっさ!あははははははは……」
「青みくる先輩もう役作りに入っているんですか!?鶴屋先輩そっくりです!」
「これなら問題はなさそうです。しかし、担任兼野球部顧問役は僕が適任というのはいささか納得がいきません。学園内のシーンでは僕が出ることはありませんが、なんとかなりませんか?」
「罰を執行される前のおまえとほとんど変わらんだろうが!教室や部室に多数の監視カメラを設置した上に、ハルヒや黄朝比奈さんを舐めるように見るなんておまえにしかできん。そういや、黄朝倉の言っていた男子の前でも堂々と着替えを始めていたいつぞやの誰か……って、黄ハルヒしかおらんか」
「ああ、体育の前の授業が終わったら体育着を持って逃げるように教室から出ろと、朝倉から男子全員に指令が出ていたくらいだ。だが、この前もそうだったが、青古泉がハルヒ達の言い分に反対したり物言いをするなんて、夏のバレー合宿以降随分と変わったもんだな」
「いくらお二人から言われたことであっても、おかしいと思えば僕だって反論します。それで、結局どのシーンから撮影を開始するんです?女性陣は着替える時間も必要でしょうし、すぐにでも現地に向かいませんか?」
「それでも、涼宮さんに『邪魔をするな』って言ったときはわたしも驚いたわよ。そうね……二人が教室に向かうところからでどうかしら?そのまま授業に入っていけるでしょ?」
「じゃあ、皿を片付けたら部屋で着替えて81階に集合。青古泉君の場合は催眠だからいいけど、あんたはスーツに着替えなさいよ!?教育実習生の設定なんだから!いいわね!?」
『問題ない』

 

 着替えて再集合とはいえ、ほとんどのメンバーがその場でドレスチェンジをするだけで済む。声帯を弄って催眠をかけると、鶴屋さんに化けた青みくるや野球の試合のときに催眠をかけているメンバーならまだしも、それ以外はもう誰が誰なのか分からん。学園長に挨拶を済ませた二人がクラス担任に連れられて教室へと赴く。担任に化けた青古泉、それにみくると青ハルヒが教室に向かって廊下を歩いていく。教室内ではそれ以外の女性陣が揃っていた。
「(いよいよね。女子高生として周りに溶け込めるといいんだけど……)」
「(メイクをしていないときの朝比奈さんがそんな童顔だとは思わなかったわよ!厚化粧の理由がこういうことだったなんて!あたしの方が心配になってきたわよ!それで、あたし達よりも先にクラスに潜入している人ってどんな人なの!?)」
「(あたしもまだ会ったことも、話したこともないの。でも、クラスの中で一番明るい人を探せばすぐ分かるそうよ)」
「(はぁ!?どうしてもっと詳しい情報を聞いて来なかったのよ!?もし間違った人に声をかけたらバレちゃうじゃない!)」
「(心配はいらないわ。たったそれだけの情報で分かるほど明るいってことだし、何より先に潜入捜査したのならつい最近転校してきたばかりってことになる。最近転校してきたばかりの生徒が誰か聞けば、間違うことはないわ!)」
「(本当に大丈夫なんでしょうね!?)」
教室に近づくにつれて、不安気な表情が顔に現れてきていたが、二人の耳にクラスでの話声が聞こえてくる。
「……そ、それで、そのあとどうなったっさ!?」
「………、…………」
「あっははははははは!それは傑作っさ!そんなのドラマの中でしかありえないにょろよ!あははははははは…」
教室の戸のすぐ近くでランジェリーを見せながら抱腹絶倒中の鶴屋さんを目の当たりにした。
『(分かりやすっ!!)』
「ん?何か言ったか?」
『いえ、何でもありません!』
「ほら、鶴屋さん、また下着が見えてる!先生も来たみたいだし、早く立って!」
「感謝するっさ!あたしも笑うのを抑えようとはしているにょろが、なかなか堪えきれなくてつい倒れてしまうにょろよ。……おぉ!そこの二人はもしかしなくとも新しく入る転校生っさ!?」
「転校してきてたったの数日で、ここまでクラスに馴染んでいるおまえとは違うんだ。とりあえず、皆席に着け。新しい転校生を紹介する」
出席簿で頭をポンと叩かれた鶴屋さんを筆頭に、クラス全員が席に着いた。真ん中二列の最後尾に誰のでもない机と椅子が二つずつ。机の中には各教科の教科書が入っていた。加えて窓側三列目に空席が一つ。
『かっ、可愛い~!』
「今日から新しくこのクラスに入ることになった。じゃあ、みんなに自己紹介を……」
「『わたし』は朝比奈みくるです。皆さん宜しくお願いします」
みくるの猫かぶりに驚きを隠せずにいた青ハルヒだが、というか脚本どおりのそういう芝居で普段通りのみくるなんだが、豹変っぷりに俺以外のメンバーも驚いているだろう。NGが出ないといいんだが……
「あたしは、涼宮ハルヒ!よろしく!」
「二人とも、自己紹介が簡潔過ぎないか?まぁ、細かいことは休み時間にでもみんなから聞いてやってくれ。二人の席はこの二列の一番後ろだ」

 

みくると青ハルヒを追うようにクラス中の視線が次第に後ろに向いていく。担任がホームルームを始められずに困り果てていた。次第に空気を読んだ生徒が前を向いていく。簡単な連絡事項が伝えられた後、
「最近、不審な事故が増えている。みんな十分注意して生活をするように!」
「起立、礼!着席」
青朝倉の委員長っぷりも未だ顕在。微塵たりとも違和感が無かった。担任が教卓から離れていくと同時に、みくると青ハルヒに集まっていく。それを自席から見つめる委員長と暗い顔をして椅子に座っている生徒が一人。周りに囲まれ、質問されては返し続けながらもクラス内の様子に眼を光らせていた。
 一時間目開始のチャイムが鳴り、みくると青ハルヒを囲んでいた生徒がサッと席に戻る。
「(何よこれ!英語の先生が厳しいの!?)」
「(まだ何とも言えない段階よ。気になることがあったら記憶に留めておいて)」
「(あたしそこまで記憶力良くないわよ!ノートにメモしておいたら駄目なの!?)」
「(ただでさえ、あの組織の人間が関わっている上に、ここは女子高よ!?さっきのクラス担任のような人間が監視カメラを設置していてもおかしくないわよ!)」
「(えぇ―――――――――――っ!?ちょっ、朝比奈さん、あれ!!)」
教室に堂々と足を踏み入れた俺にみくるが口を塞ぐ。
「では、始めましょう。号令をお願いします」
「起立、礼!」
『よろしくお願いします!』
「はい、お願いします。では、前回の続きからですね。前の授業でやったところも範読しますので、どんな内容だったか振り返りながらやっていきましょう」

 

クラスを回りながら英語の教科書の内容を読んでいく。みくると青ハルヒの視線は俺に向いたまま、ヒロインと話すときと同様、ネイティブな発音で一気に読み進めていく。
「……えっと、涼宮さんでしたか?どうかしましたか?」
「えっ?あっ、いえ、前の学校の英語の先生と英語の発音があまりに違いすぎて吃驚しちゃって、これじゃALTの先生を呼ぶ必要がなさそうだなって……」
「ALTの先生を呼ぶくらいなら佐々木先生に来てもらいたいです!英語の授業は毎回佐々木先生が良いです!」
「先生、三週間だけじゃなくて、ずっと居て欲しいです!」
「そう言ってもらえると、僕も嬉しい限りですが、教育実習生という身ですから仕方がありません。ですが、僕がいる間に少しでも英語を好きに、もしくは得意になってくれると、僕も自信を持って正規の先生になることができそうです。では、佐倉さん、前回の部分は一体どんな内容だった和訳していただけますか?」
「はい、…………、………」
前回の内容を復習した後、この授業で扱う長文を和訳するにあたって必要になってくる関係代名詞の文法を筆記体で板書し、どのような内容が書かれているのか一つずつチェックしているうちに時間が過ぎ、授業終了のチャイムが鳴った。チョークをサイコメトリーしただけで、新川さんが作るスイーツのような見事な筆記体を黒板に書くことができた。授業内容については佐々木たちからすべて任されていたとはいえ、果たしてOKが出るのかどうか。OG達の反応もアドリブだからな。
「起立、礼!」
『ありがとうございました!』
「御苦労さまでした。次は体育のようですね。早めに着替えて次の授業に向かうようにしてください」
『は~い!』
「カ――――――――――――――――――――ット!有希、映像は?」
「問題ない。授業内容も良かった。これで、次のシーンに繋げられる」
やれやれ、ドッと疲れが出てきたぞ。これでもう一回50分の授業をやれなんて言われたらどうしようかと……教員の大変さが良く分かったよ。加えて、ハルヒみたいな奇天烈な問題児をクラスに抱えていれば尚更な。入学して二ヶ月もしないうちにバニーガールのコスプレでビラ配りしていたのを今頃になって思い出した。

 
 

…To be continued