500年後からの来訪者After Future7-13(163-39)

Last-modified: 2016-12-14 (水) 21:22:31

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future7-13163-39氏

作品

有希と二人で撮影した解決編の一部を上映し、有希と朝倉に引き続き、古泉と変態セッターが見事にトリックを解いてしまった。肝心のバラエティ番組に出演するメンバーはまだ答えに辿り着くまで時間がかかりそうだが、最終回を放送する頃にはほぼ全員解けているだろう。青OGもついに五人目が我が社に正式加入。青圭一さん達も含めてフルーツタルトでお祝いし、正月休みでようやく縛りの無くなったOG達を入れて女子高潜入捜査事件の撮影が始まった。

 

 一時間目の授業が終わり、またもやクラスメイト達がみくると青ハルヒのところに集まってくる。
「佐々木先生の授業、吃驚したでしょ!?」
「わたしも驚きました。でも、こんな時期に教育実習生が来るなんてどういうことなんですか?専任の英語の先生もいないようでしたし……」
「佐々木先生、アメリカの大学で教員免許を取得するみたい。向こうじゃ新年度が始まるのが九月からだから、今の時期が日本だと丁度九月くらいになるんだって。日本みたいに四月から新年度がスタートするのは世界的に見るとマイナーな方だって言ってた」
「でも、教育実習生なら専任の先生が付くんじゃないの?」
「それが、佐々木先生が来る前まで私たちのクラスで授業をしていた先生が交通事故で両足を骨折しちゃったらしくて、今も車椅子でないと身動きがとれないらしいよ?他の英語の先生も来られないし、学園長が何回か授業を見に来てたかな」
「そうそう、それで佐々木先生なら安心して任せられそうだって話になったんだって!」
「それであんなに英語が流暢なんですね。人気の理由が良く分かりました」
「フフン、実はそれだけが人気の秘密じゃないんだな~これが!」
「英語の他にも何かあるの?」
「隣でバドミントンの練習しながら見てたら吃驚したよ!バレー部があんな練習をしているところなんて見たことないもん!あれ一体何の練習?」
「多分それ、クイック技の練習のことだと思うよ」
『クイック技って?』
「バスケやサッカーで例えるなら速攻と似たような感じかな。トスが上手くないとあんな高等技の練習なんてできないよ。球出しもミリ単位の正確さであんなに気持ちいいレシーブやスパイク、今までしたことなかったな。それに細マッチョでB組の子が佐々木先生に『上半身触らせてください!』なんて言ってた」
「佐々木先生の話で盛り上がるのはいいけど、皆そろそろ着替えないと遅れるわよ?」

 

 流石は万年学級委員長。青朝倉と俺の影分身が教室から抜けて、クラス内の女子が着替えを始めた。有希に操作された記憶とはいえ、中学時代は何の委員会に入っていたのか聞いてみたいくらいだが、おそらく聞く必要もあるまい。スカートでランジェリーを隠さない様にと、監督から全員に指示が出ていた。下着姿になった女子の視線の矛先は当然みくるの胸。青ハルヒも例のトレーニングの成果もあり、女子高生の枠で考えるのならAAランクにはなるが、みくるの場合はSSSクラス。念のため、昨日母乳を絞り取ってはいたが、それでも周りの注目を浴びるには充分すぎるくらいだ。
「朝比奈さん、胸おっきい~!」
「童顔で巨乳なんて、ギャップがあり過ぎよ!」
「とぅ!」
仮面ライダーのようなセリフが聞こえたと思ったら、鶴屋さんがみくるを押し倒して両乳房を鷲掴みにして揉み始めた。まだ着替え途中の女子までみくるに近づいて、鶴屋さんに胸を揉みしだかれるみくるの姿を眺めていた。
「ちょ、ちょっと鶴屋さん。やっ、やめてください~~~~!」
「ふむふむ、大きいだけでなく弾力も最上級のようっさ!同じ転校生同士仲良くなりたいにょろよ~。みくるって呼んでもいいっさ?」
みくると鶴屋さんが初めて出会った光景も、おそらくこんな感じだったんだろうな。これまで何度も見てきたシーンではあるが、いつになってもみくるの反応は変わらずか。
「それでいいですから、手を放してください~~~!体育の授業に間に合わなくなっちゃいます!!」
「それもそうにょろ!早く着替えて一緒に走るっさ!(ところで、噂のサイコメトラーはどっちっさ?)」

 

 やれやれ、脚本通りとはいえ、それを確かめるだけのためにみくるの胸を揉みしだいたのかと言いたくなってしまうな。青ハルヒとみくるにだけ聞こえるような声で呟き、メイクはしていないがみくるが刑事の顔に戻る。
「(それについてはトラックを走りながら話すわ。結論から言うと、どちらでもないの)」
「(了解にょろ!)」
青ハルヒとみくるの着替えを待って、グラウンドに出ると三人でトラックの外側を走りだした。みくるがゴムで髪をしばっているなんていつ以来だ?俺の記憶が確かなら、体育の授業で強制されるようなことでもない限り、フレ降レミライで未来のみくると同様中華風プリンセスの衣装と髪型をして以来か。ドラマで青みくるが髪を束ねるなんてことが多少あったくらいだろう。来月のコンサートではそれが見られるのか。楽しみが一つ増えたな。
「(でも、驚いたわ。誰も信じてくれないから一樹君のことは一課でも最初の頃しか話を切り出して無かったのに)」
「(フフン!あたしの情報収集能力の右に出る者はそうはいないにょろ!その一樹君というのがサイコメトラーになりそうっさ。どうりで『どちらでもない』なんて答えが返ってきたわけにょろ。女子高に男が入るわけにはいかなかったってことっさね。あたしも会ってみたいにょろよ。どの道、その一樹君と一緒に会議をするのなら、あたしも入れてもらえないっさ?)」
「(それは別にいいけど、一体何を持ち帰って一樹にサイコメトリーさせる気よ!?)」
「(まだ二時間目だし、めぼしいものは何もないわ。とりあえず、鶴屋さんも手がかりになるようなものがあったら隙を見て確保しておいて)」
「(それはいいにょろが、あの教室だけで監視カメラがいくつあるか数えきれないほどにょろ!教室のものを持ち帰ろうとした時点でクラス担任にバレるっさ!)」
「(もうそんなところまで進展しているなんて思わなかったわよ!あたしがいなくても良かったんじゃないの?それに、監視カメラがそんなに沢山つけられているのに、他の女子は気付いてないわけ?)」
「(知ってても言い出せない状態のようっさ。それに気付いてから、見られても恥ずかしくないように、わざと派手なランジェリーを着けるようになったらしいにょろ。みくる達以外に空席が一つあったことに気付いたにょろ?あの席に座っていた子が直談判して、不登校になってしまうほど追いつめられたと学園七不思議のような噂が飛び交っているにょろよ)」
「(その子が、ソフトボール部のエース的存在だったってところかしら?)」
「(察しがいいにょろね!あたしもそれでソフトボール部に仮入部中にょろ。みくる達はあの教育実習生のことも気にしているようだし、バレー部の部活見学が終わったらこっちにも来て欲しいっさ!)」
『(分かった)』

 

 トラックを回りながら捜査に関する話を終え、体育の授業が始まった。体育の教員は勿論女性。候補として誰が挙がったかなど言うまでもない。当然、ハルヒだ。一時間目にハルヒが扮していた女子は俺の影分身で対応している。しかし、この時期に女子が外で体育の授業をしていた記憶が一切ないんだが……何をするつもりなんだか。
「転校生が三人もいることだし、今日はちょっとしたスポーツテストを行います。50m走を何度か練習して、後半は実際にタイムを計ってみるから全員そのつもりで。じゃあ、スタート位置について。まずは腿上げジャンプを10回やってから30m走るところから始めます」
『はい!』
『佐々木、走るときだけ鶴屋さん役を変えないか?別にそこまでしなくてもとは俺も思うんだが、ソフトボール部期待の新生という設定なら足は早い方がいい。有希辺りに変えられないか?』
『それもそうだね。区切りもいいし、一旦撮影を止めることにするよ』
俺の提案が通り、有希が鶴屋さん役となった。鶴屋さんの出したタイムにも他の女子が驚いていたが、それ以上に注目を浴びたのが走っている最中に左右不規則に揺れるみくるの胸。他の女子は左右揃って上下しているだけなのだが、やはり格が違う。
「朝比奈さん、走りにくくないの?」
「もう慣れたというか、諦めたというか……仕方がないかなって」
「うんうん、羨ましい悩みっさ!この後また感触を確かめさせてもらうにょろよ!」
「え~~~~~~~っ!次の授業に間に合わなくなっちゃいます!」
体育の授業が終わり、教室に戻ったみくるの背後から鶴屋さんによる揉みしだきが始まった。揉んでいる方が青みくるということもあり、散々経験させられて手慣れているといったところか。有言実行と言えば聞こえはいいが、他の生徒が制服に着替えを終えている中、二人だけが未だに体育着のまま。周り中の生徒から見られていたものの、時間的なこともあり青ハルヒと青朝倉に止められて何とかチャイムが鳴る前に着替え終わることができた。

 

 一時間目開始の際の様子が嘘だったかのように、チャイムが鳴っても席に着くことなくいつまでもだらだらと喋り続けていた。クラス担任がようやく教室内へ入ってきたのを確認して、ようやく三時間目の授業の準備をする始末。因みにクラス担任は国語教師という設定。
「(一時間目のアイツのときとはえらい違いね)」
「(でも、それだけのスキルと鍛え上げられた身体を兼ね備えていたってことになるわね。念のため確認する必要はあるけれど、ミリ単位の正確さで球出しという証言もあながち嘘というわけではなさそうよ)」
「(一樹もどちらかと言えば体格は良い方だけど、『上半身の筋肉を触らせてくれ』なんて言われる程鍛えているわけじゃないわ。アイツと一樹がやり合ったら、もしかしたら勝てないかもしれない)」
「(あら、一樹君の身体のことをそこまで知ってるなんて意外ね)」
「(うるさいわね!そんなことどうでもいいじゃ……)」
「きゃああああああああああああああ!」
突如、女子生徒の服に火が付き、悲鳴が聞こえたと同時に二人が状況を把握した。素早くブレザーを脱ぎ、その生徒に駆け寄ったみくるがブレザーで火が付いた部分を抑えつける。ブレザーで抑え込むことによって酸素を入れない状態に持ちこみ火を消した。
「どうして火がついたのか聞いてもいいですか?」
「私にも分からない!さっきの体育で身体が暖かくなっていたから、カーディガンを着ないでブレザーを羽織っていたんだけど、寒くなってきたからカーディガンも着ようとしたら突然火が付いて……」
「分かりました。原因は分かりませんが、このままカーディガンを脱ぐのは危険です!また、発火するかもしれません。シャツも焼け焦げちゃっていますし、はさみで切ってもいいですか?誰かはさみを貸してもらえませんか?」
「それなら私が持ってます。新しく買ったばかりのブレザーを台無しにしてごめんなさい。朝比奈さんありがとう」
「気にしないでください。たまたまわたしが一番早く対応しただけですから」
周りの生徒たちも、自分たちが何もできなかったことを悔いて、女子生徒の心配をしていた。クラス担任も何を言っていいのやら分からないと言いたげな様子でいた。
「すみません、校内散策ついでに彼女を保健室に連れて行ってきます。カーディガンは職員室の先生に預けてきます。それでもいいでしょうか?」
「ああ、頼んだよ。咄嗟に君が対応してくれて助かった。ありがとう」
クラス担任の一言を機にクラス全体から自然と拍手が沸き起こる。みくるが女子生徒を連れて教室をあとにした。

 

 女子生徒を保健室にいた養護教諭に任せ、職員室で事情を説明すると、みくるの事を知る上司が学園長室にみくるを連れて入り、内密に警察に届けるよう連絡して欲しいとみくるから学園長に言伝があった。焼け焦げたブレザーを羽織ったみくるが教室に戻り、その次の休み時間。クラスの女子生徒たちがみくるに集まってくる。
「朝比奈さん、さっきはカッコ良かったよ!」
「いきなり悲鳴が聞こえて、あたしたちもどうしたらいいのか全然分からなくて……」
「でも、いくら緊急事態だったからって、転校初日でブレザーが焼け焦げるなんて何だか可哀想」
「先生たちにかけあってみようよ!古池じゃ頼りなさそうだし、私たちみんなで直談判すればブレザーの一着くらいなんとか工面してくれるって!」
「古池ってクラス担任のあの人のこと?」
「そう。二人もやらしい眼でアイツに見られなかった?特に朝比奈さんは注意した方がいいよ?」
「そう言われてみれば、そうだったような……」
「何にせよ、あの子が無事だったのもみくるのおかげっさ!」
「ところで、二人は入る部活とか決めているの!?」
「今日、色々と回ってみるつもりです。佐々木先生の球出ししている姿も見てみたいですし」
「それならあたしに任せるにょろ!あたしもこの校舎のことはまだよく知らないし、三人で回ってみるっさ!体育館くらいは分かるから平気にょろよ!さっき火傷した子も今日部活に来られると良いっさが、ソフトボール部に行くのが遅くなるかもしれないから宜しくっさ!ついでにソフトボール部のことも二人に宣伝しておくにょろよ!」
「あっ、鶴屋さん、それずるい!涼宮さん、バスケ部に入らない?」
「いや……それが、バスケットは未経験で……」
「中学のときは何していたの!?」
「あたしは、中学も前の高校でもソフトボール部よ!」
「あたしの眼に狂いは無かったにょろ!とりあえず、ソフトボール部に仮入部するっさ!」

 

 放課後、クラスで体育着に着替えているみくると青ハルヒ、そして鶴屋さん。
「(ところで、盗撮されているのは聞いたけど、盗聴はされてるの?)」
「(心配いらないにょろ。廊下に隠れている生徒がいないか注意していればこのくらいの声なら聞こえないっさ)」
「(さっき火傷した子もソフトボール部って話だったわよね?ソフトボール部関連の事件で間違いないわよ!)」
「(あたしもいきなり悲鳴が聞こえて吃驚したわ。この後もそうなるだろうけれど、百聞は一見にしかずってことになるわね。これが理科室とかならまだ分かるけれど、まるで火の気がないところから突然発火するなんて……)」
「(前の二件も似たような状態だったにょろ!片方はC組のクラスの生徒にょろが、もう片方はA組っさ!不登校になった生徒のことで何度かアプローチしてみたにょろが、ソフトボール部内どころか、このクラス全体でもみ消そうとしているようっさ!)」
「(これが事故じゃなく事件とすると……その不登校生徒が関連してきそうね)」
「(とりあえず、まずはバレー部にょろね。ところで、二人とも佐々木先生とどんな関係にょろ?)」
「(あいつが自分でアンチサイコメトラーだって名乗ってきたわよ。一樹のサイコメトリーを妨害したり、情報を書き換えたりするの。英語の先生の交通事故の話も多分あいつらの仕業ね)」
「(ちなみに鶴屋さん、佐々木先生のフルネームを知っていたら教えてくれないかしら?)」
「(確か、佐々木貴洋と名乗っていたにょろ。でも、そういう経緯があるのなら偽名の可能性もありそうっさ!)」
体育館に向かう途中の廊下で、ソフトボール部の様子を見つめている朝倉と遭遇するが、みくると青ハルヒはそれに気付かず。鶴屋さんを含む三人の方を向いた朝倉の後ろ姿がカメラに映っていた。体育館の入口から中の様子を覗いている三人。バレー部はステージ側で入口の方ではバドミントン部が練習をしていた。バドミントン部の練習の邪魔にならない様に三人が移動して、バレーの練習風景を見つめていた。

 

『ハルカ~~優希~~くるみ~~玲子~~紗貴~~美夕紀~~貴子~~瑞樹~~舞~~……』
「身体がしっかりコートの中に向くよう意識しろ!」
『はい!次、お願いします!』
「授業のときとはまた別人ね。でも、あれだけ球出ししているのに一切ブレが無い。サイコメトリー能力といい、流暢な英語といい、どれだけのスキルを持っているの!?」
「スパイク」
「スパイク―――――!!」
『はい!』
バレー部の生徒がレフト、センター、ライトの三列で並び、セッターの位置に俺、球を渡す役に一年がついた。
「何度も話しているが、自分のところに飛んでくると思って飛び込んで来い。でないと、相手にどこから撃ってくるかバレるし、跳んだ分の体力を無駄に消耗するだけだ。いいな!?」
『はい!宜しくお願いします!』
「これが、授業の終わりに話題に挙がっていたクイック技ってヤツ!?」
「そのようね。あたしもバレーは中学や高校の授業でしかやったことが無いけれど、セッターの上げた球に合わせてスパイクを撃つのが基本だったはず。でも、今の練習は飛び込んできた選手に対してセッターが合わせているわ。高等技って言っていたのが良く分かったわよ」
「じゃあ、そろそろソフトボール部の方にも行ってみるにょろよ。あの子も来てるかどうか確かめるっさ!それに、はるにゃんのプレーも見てみたいにょろよ!」
『はるにゃん!?』
「他に良い呼び方が浮かばなかったにょろよ。はるにゃんって呼ばせて欲しいにょろ!」
「いや、別にあたしは呼び捨てでも構わないわよ?」
「それじゃ、はるにゃんでも良いっさね!グラウンドはこっちっさ!!」
鶴屋さんの後を追いつつも、みくると青ハルヒの顔が引きつっていた。

 

『カット。映像も音声も問題ない。そろそろ昼食で集まっている頃。わたしもお腹が空いた』
有希の一言で満場一致の『問題ない』が飛び出し本社へ。部活中はみくると青みくるの立場が逆転することもあり、ピアス穴を隠す以外の催眠を解除した。ようやくどれが誰だったのか区別がつく。
「くっくっ、順調過ぎるくらいだよ。午前中だけで撮影がここまで進むなんて僕も驚いた。キョンの英語の授業も、バレー部顧問としての活躍も含めてね。教員免許を取得してみたらどうだい?今のキミなら影分身で勉強し始めてもセンター試験に間に合いそうだ」
「仮に100体に分かれたとしても、そのうち80体は問題が解けずに悩んでいるのが目に見えている。一体につき一人、ハルヒ達について居てもらわないと英語以外はまず無理だろうな。俺からすれば青朝倉の相変わらずの委員長っぷりの方がよっぽど凄いと思ってたんだが……言い方は悪いかもしれないが、万年学級委員長ってヤツだ。号令に違和感の欠片も無かったからな」
「サイコメトリーのおかげで、そこまで大層なものじゃないわよ。それより、このままじゃ有希さんが発狂してしまいそうね。どこ○もドアを閉じた方がいいんじゃないかしら?」
「遮臭膜を三重に張っても進捗状況を悟られてしまうからな。ジョンの分析によると、テレパシーとサイコメトリーの複合技を嗅覚で判断しているんじゃないかってことらしい。それなら遮臭膜をいくら張ったところで関係ないからな」
「やれやれ、遮臭膜三重でもなお悟られるって……有希にとってはカレーが麻薬のようなものらしいな。罰を執行されていた頃の古泉と大差がない」
「あと5時間47分29秒……」
「まさか、秒単位でカウントしているとは思わなかったわよ。黄有希さんの半熟卵のおでんと同じになりそうね」
「そういえば、わたしや鶴屋さんは常に警察手帳を持ってなくちゃいけないんですか?体育や部活で制服を教室に置いていくのは危ない気がして……でも、焼死体が発見されたときは中を確認するんですよね?」
「みくるちゃん、脚本をちゃんとサイコメトリーしたの!?警察の人間だって第八話でバレることになっているじゃない!設定として不自然でもなんでもないわよ!役に入りこみすぎなの!そんな調子で、午後から鶴ちゃん役できるんでしょうね!?」
ハルヒの心配も頷けるが多分平気だろう。青みくるも撮影前から声帯を変えたわけでも催眠をかけたわけでもないのに鶴屋さんを演じていたからな。
「それで?聞くまでもないとは思うが青ハルヒ、投球練習は何球必要だ?」
「即、撮影に決まっているじゃない!あたしの投球でソフトボール部員を驚かせてやるんだから!!」

 

 というわけで、時刻は夕刻。もうそろそろ日が沈む頃合いにソフトボール部の練習を見にきたみくる達。因みに今撮影を行っているラスベガスは深夜一時なのだが、有希の作りだした閉鎖空間でいくらでも太陽の位置を操作可能という何とも都合のいい能力だよ、まったく。先ほど火傷を負った女子生徒も部活に参加していた。部室からグローブを借りて準備体操をした後、練習に加わっていた。
「ところで、涼宮さんのポジションは?」
「ピッチャーだけど?」
『ピッチャー!?』
「はるにゃんの投球が見てみたくなったにょろよ!誰か打席に立って打ってみるっさ!!」
青ハルヒの投球に正捕手が付き、我こそはと名乗りを上げた部員からバッターボックスに入った。青ハルヒのソフトボールでの第一球。外角低めを狙ったストレートがミットに収まった。一回転してもコントロールに狂い無しか。
『おぉ―――――――――っ!!』
「だっ、誰かスピードガン持ってきて!!」
スピードガンを持ってくる間も与えられずに投じられた第二球、低速のチェンジアップが内角低めを通りバッターが見事に空振り。正捕手の後ろからようやくスピードガンを構えた第三球。どストレートからのジャイロボールが炸裂。こちらもバットに掠りもせず三振。
「球速は!?」
「ひゃ、118km/hです!!」
「118km/hって日本代表とほとんど変わらないじゃない!即戦力よ!即戦力!!球種も多彩みたいだし、前の子より涼宮さんの方が断然いいわ!……って、あっ、ごめん」
『前の子』というフレーズが出た瞬間に、青ハルヒの投球に盛り上がっていた部員達が通夜の参列者のように沈黙してしまった。みくる達三人もその雰囲気にしっかりと気付いていた。今度は正投手の催眠をかけた青ハルヒを相手に青みくるがバットを振る。外野を守っていた一年生たちが青みくるの打球を追いかけていた。
「ここまでレベルが高いなんて思わなかったにょろよ!二人ともすぐにソフトボール部に仮入部するっさ!」

 

 予想以上のプレーに驚いた部員たちが、すぐにみくると青ハルヒの部室内でのロッカーを指定。
「明日以降はここを使って!教室に戻るの面倒だし、先生たちに玄関を閉められたりするから」
「でも、ネームプレートが入っているところを使ってもいいんですか!?」
「その子、今不登校中で滅多に学校に来ないのよ!もし来たときは私から伝えておくわ!」
「分かりました」
教室で着替えを終えたみくる達がようやく下校。青古泉の部屋に鶴屋さんが関心を抱きながら、青ハルヒが夕食の支度をしていた。しばらくしてバイクの音が近くで止まり、青古泉が仕事から帰ってきた。
「お――――っ!!君が噂を轟かせているサイコメトラー君っさ!?え~っと……確か、一樹君でいいにょろ!?」
「おいハルヒ、この人一体誰?」
「あの女子高であたし達より先に潜入捜査を始めていた刑事さんよ」
「まさかとは思うが、今後はここで捜査会議をするつもりじゃないだろうな?」
「そのまさかよ。一樹君、帰ってきて早々で申し訳ないんだけど、サイコメトリーしてほしいものがあるの」
「え――――っ!?朝比奈さんいつの間に持って来たのよ!!」
「一樹君には色々と報告しないといけないわね。まず、あなたが懸念していたアイツだけど、教育実習生として堂々と学園内に入り込んでいたわ。流暢な英会話と巧みなバレーボールの技術を併せ持っていた。そして、その彼につくはずだった英語の教諭が交通事故に巻き込まれて両足を骨折。例の組織の仕業とみて間違いなさそうね」
「例の組織って何のことっさ!?あたしにも教えてほしいにょろよ!」
「完全犯罪計画を立案して依頼主から多額のお金を支払わせる組織があるの。これまであたしが一樹君に頼んで色々とサイコメトリーしてもらっていたおかげで事件を解決に導くことができていたんだけれど、事件を解かれると困ると言って、組織のボス自ら一樹君を殺そうとしたこともあったわ。そして、最近彼らと同盟を組んだのが、佐々木貴洋と名乗るあの英語教師。アンチサイコメトラーの話は鶴屋さんにはしてあるわ」

 

 忘れていたとばかりに鶴屋さんのことを紹介すると、ようやく青古泉がベッドに腰を下ろした。
「それで、サイコメトリーできるものは持ってきたんだろうな?」
「ええ、これよ」
「焦げた布きれと……ネームプレート?どうしてこんなものを持ち帰ってきたのか説明してくれないか?今日一日だけで一体何があったんだ?」
「鶴屋さんから聞いた情報も入っているから『今日一日で』というわけではないんだけど、今日の三時間目の授業の途中でカーディガンを羽織ろうとした女子生徒の腕にいきなり火が付いた。これがそのカーディガンの切れ端よ。残りは既に警察に渡っているわ。被害者はソフトボール部の生徒で、前の二件との繋がりがこれではっきりとしたわ。それに、涼宮さんに捜査協力を依頼して本当に良かったわ。涼宮さんの投球を受けてソフトボール部の生徒たちの反応も上々だったし、前の正投手に対する反応もあからさまなものだった。顧問を含めたソフトボール部の中で何かしらの事件が起こり、それをきっかけに前の投手が不登校になってしまった。そして、最近になって何者かが事故を装った計画殺人を実行に移しているのは間違いないわ。今日の一件も、前の二件も生徒が焼死していたとしてもおかしくなかった。殺人事件に至る前に何としても食い止めなくちゃならないのよ」
「朝比奈さんもあんな状況でよくこんなものを持ってこられたわね。だからあのとき、はさみを持っている人がいないか聞いてたんだ」
「それもあるんだけど、何も無いところで急に火が付くなんて摩擦熱のようなもので着火した可能性があると推理したの。それでも、あそこまで大きな火になるなんてあたしも思ってもみなかったわ。何かしら別の要素が付随しているか、まったく別の方法で火を付けているかのどちらかよ」
「じゃあ、このネームプレートは不登校になった前の投手のものってことでいいのか?」
「ええ、そっちの方はあの男に情報を書き換えられている恐れがあるけれど、カーディガンの方は弄る暇は無かったはずよ」
「書き換えられているかどうかは違和感で分かる。とりあえず、こっちの布きれの方からだな」

 

 四人分の夕食とばかりに青ハルヒが料理を運んで青古泉の様子を伺っている。本来サイコメトリーをするのにここまでの時間はかからないんだが、まぁ、演出上ってヤツだ。
「サイコメトリーはできたし、違和感もないんだが……」
「一体どうしたって言うのよ!」
「犯人の目星は付いているのか?」
「無いこともないにょろが、可能性としてはあまり高くないにょろよ」
「一樹君の口ぶりから察すると、注意喚起したくても犯人が誰だか分からない以上、それができないってことになりそうね。一体どんなイメージが見えたっていうの?」
「部室のロッカーらしきところに『いつも頑張っている先輩へ』と書かれた無記名のメッセージカードとこのカーディガンが入れられているイメージが流れ込んできた。それと、何を現しているのかは俺にも分からないが15の数字が浮かんできた。背番号では無さそうだが、心当たりはあるか?」
「みくるの言った通りにょろ!犯人から送られてきたカーディガンを着ているソフトボール部の生徒が他にもいれば、いつ事件が起こってもおかしくないっさ!」
「何かしらの細工をされたカーディガンを着ていることになるわね。ハルヒさん、ソフトボールで15という数字に心当たりはあるかしら?」
「うー…ん、15で思い当たるもの……ダメだわ!何も浮かんでこないわよ」
「犯行の手口がはっきりしただけでも十分すぎるくらいにょろ!15が何を刺しているのかについてはこれから考えていけばいいっさ!ネームプレートの方はどうっさ!?」
「朝比奈さん……、この人本当に潜入捜査している刑事なのか?こんな口調で話す人が署内にいたら、俺なんかよりよっぽど噂が広まるんじゃないのか?」
「なんならあたしの警察手帳見るにょろ?」
「あたし達も吃驚したわよ。クラスで一番明るい生徒を探せば分かるって言われて、教室に入る前にそれが鶴屋さんだって分かるくらいだったんだから!普通ならそんな情報だけで探せるわけがないわよ!」
「とにかく、一刻の猶予もないことは今のサイコメトリーで明らか。一樹君、ネームプレートの方もお願い!」

 

 会話を続けながら、青ハルヒの料理をどんどん食べていく鶴屋さん。青古泉の分はどれだけ残るのやら……
「意外だな。アイツが弄った形跡が全く無いが、弄る必要もないってところか」
「今度はどんなものだったにょろ?」
「ユニフォーム姿の女子生徒が部室で……おそらく顧問と口論しているシーンが見えた。音は何も聞こえてこなかったから、口論の内容は分からない。ロッカーを背にしているからその生徒の背番号も見えなかった」
「それでも、確信に一歩近づくことができたわ!」
「ところで、その二人……こんな顔じゃなかったにょろ?」
鶴屋さんの持っていた資料の中から出てきたのはクラス担任と不登校生徒の写真が一枚ずつ。
「ああ、間違いない。この二人だ」
「じゃあ、口論の内容は例の盗撮の件ってことになりそうね」
「コイツ、そんなことしていたのか!?」
「鶴屋さんが確認しただけで、クラス内に十数台は取り付けられているそうよ。……それにしても困ったわね。すぐにでもこの男を確保したいところだけど、カーディガンの送り主が分からない以上、どんな行動に出られるか分かったもんじゃないわ。送り主さえ分かれば一緒に確保できるはずよ。クラスの生徒や部員達の反応の理由もはっきりした。一人が何かしらのアクションを起こせば、全員の着替えシーンがサイトに流れ出ることになる。たとえ自分が捕まったとしても何かしらの策を講じているはずよ」
「ちょっと待ってよ!じゃあ、あたし達が着替えていたシーンも全部保存されているってことじゃない!」
「そうことになるわね。もっとも、生徒に対する単なる脅しってことも考えられるし、容疑者も大分絞れてきたわ!あとはカーディガンにどんな細工を施したかのかってことと、犯人を決定づける証拠が必要ね!」
「もう容疑者が絞れたにょろ!?一体誰っさ?」
「部室のロッカーに何かしらの細工を施したカーディガンを入れたのなら、部室の鍵を持つ一、二年生と不登校になった生徒と深い友人関係にあった人間。被害者がこれで三人になったから、逆に容疑者が絞られたようなものよ」
「おいおい、メッセージカードには『いつも頑張っている先輩へ』と書かれていたんだぞ?どうして二年生まで容疑者になるんだよ!!」
「後輩からの贈り物だと見せかけるくらい、誰だって出来るわよ!そのメッセージカードがどこかに残っていれば筆跡鑑定で犯人を特定できるんだけど……」
「とりあえず、今日はここまでっさね。でも、三人のおかげでたった一日の間にかなり進展することができたっさ!はるにゃんの料理も美味しかったにょろよ!明日もよろしく頼むにょろよ!」
これ以上悩んでいても仕方がないと踏んで即座に帰り支度を済ませた鶴屋さんが青古泉の部屋から去って行った。
「最初から最後まであのテンションを保ったままだったわね」
「って、俺まだ何も食べてないぞ!?ハルヒ、何か他にも作ってくれ!」
「はぁ!?あたし達明日も早いのよ!?コンビニで何か買ってきなさいよ!」
「それなら、あたしが行ってくるわ。ハルヒさんはその間にお風呂に入っていて。あたしも食べ足りないし、一樹君にサイコメトリーをお願いしたのはあたしだから。家賃代わりってことで」

 
 

…To be continued