500年後からの来訪者After Future7-14(163-39)

Last-modified: 2016-12-14 (水) 22:06:16

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future7-14163-39氏

作品

第七話の撮影も順調に進み女子高潜入初日の分は、青古泉の代わりに俺が青ハルヒを腕枕して眠るシーンを最後に撮り終えていよいよ二日目。トップスタイリストとOLならまだしも、トップスタイリストと女子高生じゃ生活のリズムが違いすぎる。青古泉が目を覚ます頃には朝食と一緒に『ちゃんと朝食食べなさいよ!?』という内容のメモが置かれていた。

 

「(あのクラス担任の身辺調査ぁ!?)」
「(しっ!声が大きい。とにかく、あの男が盗撮をして、そのデータを流出させない約束で生徒を脅しているのは間違いないわ。でも、教科が国語ってこともあって、そこまで情報機器に長けているとはとてもじゃないけど思えないの。一樹君のサイコメトリーを含めても、あたしのプロファイリングでどんな男か判断するには材料が足りなさ過ぎるわ。ソフトボール部の部員が狙われていることも、犯行の手口についても連絡してあるし、捜査一課も動き始めた。いつ焼死体が出てもおかしくない状態よ。理事長にも消化器の設置を要請しておいたから、ハルヒさんも使い方をよく読んでおいて)」
「(そんなの簡単よ!ピンを抜いて噴射するだけじゃない!それより、どこに置かれることになったわけ!?)」
「(いくら狙われているのがソフトボール部の部員と言っても、部室と部員がいるクラスにだけ置くわけにはいかないわ。こちら側がどこまで把握しているのか犯人に分からなくするためにも全教室と部室に一台ずつと伝えておいた。学園側も焼死体が出てマスコミに色々と詮索されるのも嫌でしょうから設置せざるを得ないはずよ)」
「(それもそうね。あれっ?じゃあ、ソフトボール部の部室と2-Aにしか置いてなかったアレは一体何なの?)」
「(アレって何のこと?)」
「(ロッカーの上に置かれてた変な機械。何て説明したらいいのか分からないけれど、他のクラスにはあんなものなかったから気になっていたのよね。まさかあれも盗撮のためのものだったりして!)」
「(興味深いわね。是非教えてもらえないかしら?)」
学園に入るまでや入ってからのエキストラはすべて俺の影分身。通行車両は催眠で対応した。教室についた二人に猪のように突進してきたのは……当然、鶴屋さんだ。

 

「二人ともおはようっさ!昨日は二人のロッカーも決まったし、今日は最初からソフトボール部の練習に来て欲しいにょろよ!部員全員がはるにゃんの投げた球を打てるようになれば、春季大会を勝ち進むくらいわけないっさ!他のみんなもバッティング練習させて欲しいって話していたにょろよ!(ところで、あれから進展はあったにょろ?)」
「え―――――――っ!!あたし一人で全員の相手をするの!?最後までちゃんとコントロールできるかどうか」
「全員を相手にする必要はないわよ。一年生はそれよりも素振りの練習をしなくちゃどうにもならないし、二年生のごく一部に限られるわ。それに正捕手以外の選手にもキャッチャーを務めてもらえば動体視力を鍛えられるわよ!(捜査一課も本格的に動き始めたわ。クラス担任の身辺調査をさせているところよ。学園長にも各クラス、部室に一台ずつ消化器を置くように要請しておいたわ。このクラスとソフトボール部の部室だけだと犯人に怪しまれかねないわよ。それに、ハルヒさんが気になっていることがあるみたいなの。それを確認してからにしましょ!)」
掃除用具入れの近くにあった置物を指差して、三人がその物体に近寄る。
「(これ、本当にここと部室にしかなかったにょろ?)」
「(休み時間の間に他クラスにも行ってみましょ!)」
「(多分、放課後まで無理なんじゃない?休み時間の度に周りに囲まれそうな気がしてならないんだけど……)」
「三人とも、その機械がどうかしたの?」
後ろから聞こえてきた声に三人が振り返ると、委員長と同様、転校初日の二人がクラスメイトに囲まれていたのを自席から見つめていた少女が立っていた。

 

「ええ、これ一体何の機械だか知ってる?空気が流れ出てるみたいだけど……」
「それ、古池先生が教室とソフトボール部の部室に置いた空気清浄機らしいよ?少しでも環境をよくしたいんだって。窓を開けて換気すると、寒くてみんな嫌がるからって言ってた」
「でも、他のクラスを見回っていたときは無かったわよ?あの先生もここだけしか授業をするわけじゃないし、空気清浄機の設置なら学校全体で考えた方がいいんじゃないかしら?二つともあの先生の自腹なの?」
「そこまでは良く分からないけど、それがあるのは今のところこことソフトボール部の部室だけみたい」
それだけ言って少女は自席に戻っていった。
「(鶴屋さん、今の子ってどんな生徒なの?)」
「(不登校生徒と仲が良かった子にょろ!その子が不登校になる前から次第に暗くなっていたようっさ!多分、色々と相談されていて、人間不信になったに違いないっさ!いつ不登校になってもおかしくないにょろよ。それより、これと同じものなら今朝別の場所で見たっさ!)」
『(どこで!?)』
「(教員の男性側の更衣室にょろ。今朝監視カメラを仕掛けてきたっさ!)」
『(監視カメラぁ!?)』
「(毒を以て毒を制すってヤツにょろよ!それに、古池のロッカーの鍵がかかってなかったにょろ。中を調べたら面白いものを見つけてきたっさ!)」
『(面白いもの!?)』
「(これっさ!)」
鶴屋さんの出した『面白いもの』を見て、みくると青ハルヒが絶叫したくなったのを、口を防いでなんとか押さえた。『いつも一生懸命な先生へ』と書かれたメッセージカードがポケットから出てきた。

 

『(えぇ――――――――――――――っ!!)』
「(鶴屋さん、こんなのどこから持って来たのよ!?)」
「(メッセージのとおりっさ!古池の教員用ロッカーの中にょろよ!こっちも監視カメラを仕掛けて様子を見ようと思ったついでに開けてみたらこれと一緒にセーターがおいてあったにょろ!古池も殺害対象として加えられている証拠っさ!セーターは見つかりにくいように奥に隠してきたから、その間に古池の身辺調査を進めて、逮捕しても盗撮された映像が流れないかどうかはっきりさせるにょろよ!)」
「(これで、証拠は手に入ったわね。あとはこのカードに書かれているメッセージと似た字を書く人物を探し出して、発火の秘密さえ分かれば、二人まとめて逮捕できるわ!)」
「(あたしにはアイツが生徒のために空気清浄機を買うなんて信じられないんだけど……潔癖症にも見えないし、そんなことをするくらいなら、盗撮用のカメラが見つかったときのことを考えて予備を用意しておくはずよ!)」
「(あたしもハルヒさんと同意見よ。ここと部室、そして教員用の更衣室で見つかったってことは、犯人からターゲットに送ったカーディガンやセーターと同様、自然発火に見せかけるための小道具の一つと見て間違いなさそうね)」
「(だったら、すぐにでも撤去した方がいいわよ!)」
「(ダメよ。昨日、一樹君が懸念していた通り、犯人が分からない以上それはできないわ。あたし達に同じ手は通用しないけれど、犯人がどんな行動を起こすか分かったもんじゃないわ!とりあえず、現段階ではカーディガンを羽織っているソフトボール部員を注意して見るしか対策が立てられないわよ。通常のものとほとんど違いがないし、いつ起こるかも分からない。事が起こった際にすぐに対処できるようにしておきましょ!)」
『カット。この後HRが終わり次第体育の授業になる。ランジェリーを変えることも含めて今日はここまで。脚本では古池が焼死体で見つかるところまでが第七話。でも、編集後の時間によっては二日目の朝から第八話ということもある。第八話でもクラスで着替えるシーンは入れたいと思っていた。わたしはこれから編集作業に入る』
『有希、あんたちょっとでも早くカレーが食べたいだけなんじゃないでしょうね!別のシーンを撮影する時間くらい、充分あるじゃない!』
『も、もも問だだ題なななない』
どうやらハルヒの指摘通りだったようだ。しかし、折角の正月休みをドラマ撮影で費やすのもちょっとな。
『OG達も折角休みに入ったんだ。続けるかどうかは全員に確認してみたらどうだ?』
『あまり出番はありませんでしたが、最終回のトリックを考える時間をいただけませんか?』
『わたしも、何も浮かばないかもしれないんですけど、自分で解いてみたいんです!』
『僕も、残り3点分が何なのかはっきりさせないとスッキリできそうにありませんよ』
『仕方ないわね……あたしも含めてだけど、撮影中に別のことを考えられても困るし、今日はこれにて撤収!』
『問題ない』

 

「黄有希さん、すみませんが、最終回の映像をDVD化していただけませんか?映像を見ながら考えたいので」
「有希さん、わたしにもお願いします!」
「問題ない」
まだ、トリックが解けていないメンバーの席にDVDが情報結合された。3点分足りなかった古泉にも用意され、エレベーターで個室へと上がっていくメンバー達。途中で諦めるという選択肢は無いらしい。俺の方はカレー以外でも年越しパーティ用の料理の仕込みは始めているし、本マグロは31日に獲ってくればいい。電話対応の方も年末年始ということもあり沈静化しているし、青俺に二体ほど電話対応用の影分身を出してもらうとしよう。有希は自席で編集作業、ビラ配りを終えた青有希は涎を垂らして一向に収まる気配が無い。しばらくして体育館で本社に残っている日本代表達と一緒に試合をしていた三人が戻ってきた。そういえば、こいつらを日本代表と話をさせて大丈夫なのか……?誰かつけた方がいい気もするが、撮影が終わらない限りは難しいかもしれん。俺がOGに化けるくらいしか解決策が見つからん。指示を出さない様にしないとな。
『キョンパパ!ただいま!』
「おかえり。どうだった?」
「ん~やっぱりわたし、ハルヒママ達と同じチームがいい!トスのサイン(?)を出すのが面倒」
そりゃ御尤もな理由だな、おい。俺たちの場合、セッターが前衛のときは六人攻撃だからな。さっさと撮影を終えてハルヒ達を練習試合に参加させる必要がありそうだ。

 

 時刻は夕食時、エレベーターから降りてくるメンバーのほとんどが腕を組んで頭を悩ませていた。異世界支部からテレポートさせてきたカレーとターメリックライスを盛りつけ、それぞれに一人前のカレーが出揃った。
「じゃ、説明する必要もないだろう。さっさと始めようぜ!」
『いただきます!』
「ハルヒ、有希、撮影は明日で追われそうか?」
「今日と同じように進めばエキストラが必要なシーンはほとんど無くなる。明日中に終えることも可能」
「美姫がな、日本代表と同じチームで組むと、トスをどこにあげるかサインを出すのが面倒なんだと。俺たちの場合全員攻撃だから、好きなところにあげられるだろ?『もっと攻撃に参加しろ』と言いたいところだが、子供たちがそんなこと言えるわけがないからな。OG達だけでも早く練習試合に戻してやりたいんだ」
「はぁ!?そんなことで美姫が困ってたっていうわけ!?まったく、体力が続かないなら引退しなさいよ!」
「そういうわけだから、早いところ撮影を終わらせて、この三人とチームを組むメンバーを揃えたいってことだ」
「明日でほとんどの収録を終わらせるわよ!NG出したりしたらタダじゃおかないんだから!」
W有希は早々と一皿目を食べ終え席を移動。俺も空いた席に移動してみくると古泉に話しかけた。
「みくるも古泉も今日はワインにしないか?酔いの覚まし方を園生さんにも伝えておくから、酔っ払っても心配いらん。飲みやすいワインを厳選してメニューに入れておいたから、その中から選んでくれればいい」
「そういうことであれば、たまには挑戦させてください」
「わたしもお酒に強くなれるのなら飲んでみます!」
二人がOKしたところで良いの覚まし方を園生さんに伝授。古泉にはやはりワインが良く似合う。おしゃれなレストランで園生さんとディナーなんてのも悪くないが、すぐ酔い潰れてしまうのでは折角のディナーの雰囲気が台無しだからな。

 

 忘年会でそこまで食べられなかったこともあってか、食べるペースが以前より早くなっている。
「あ――――――――――っ!!あんたたち自分たちの分を食べ終わってからにしなさいよ!!」
『もう食べ終わった』
W有希用に用意しておいた全体の五分の二のルーが入っていたはずの鍋が既に空っぽの状態。それを見た全員がW有希に食べられてしまう前に少しでも食べようと更にスピードがアップ。みくるや古泉もワインどころではなくなっていた。
「あっ!!分かった――――――――――っ!!」
声を上げたのは最終回の証拠を掴んでいた妻の一人。
「くっくっ、大体の内容は掴めるけれど、一体何のことか教えてくれないかい?」
「最終回で犯人が使った密室トリックです!有希先輩たちの動きを見ていたら閃きました!!胴体が無い理由もはっきりしましたし、私も調べてきます!ご馳走様でした!!」
「新たなヒントが加わったようですが、『有希先輩たちの動き』というのは、これまた頭を悩ませるヒントですね……黄僕もOG達も何を調べる必要があったのかさっぱりです」
「なるほど、ようやく僕にも謎が解けたよ。確かに彼女たちの動きが胴体の無い理由に繋がる。古泉君たちが何を調べていたのかもやっと理解できた。確かに専門知識がないと使えないトリックに間違いない」
『カレーを食べ終えたら絶対に解いてやるわ!!』
「僕の場合はまだ完全には解けていません。答えに辿り着く間に周りに追い抜かれてしまいそうですよ」
「なぁに、兄妹なら顔立ちが似ているってだけの単純な話だ」
「……なるほど、そういうことでしたか。あれが本物かどうかDVDで確かめる必要がありそうです!!すみませんが、僕もお先に失礼します!ご馳走様でした!」

 

 残ったワインをすべて飲み干してエレベーターで自室に戻っていった。一気飲みして大丈夫か?アイツ。
「げっ!もうルーが残ってない!!いくらなんでも、おまえら食べすぎだ」
『何―――――――――――――――――――――――っ!?』
青俺の一言で勢いが一気に減速し、わずかに残ったカレーをようやく味わって食べていた。
「で?有希たちの動きがヒントって、有希専用の鍋からあたし達の分の鍋に移動しただけじゃない!」
「それをあの事件に当てはめると……あっ!!キョン君、もしかして…………」
「点数をつけるなら今のところ30点だが、みくるも解決の糸口は見つかったようだな」
「わたしも100点満点にしてみせます!!」
「え―――――っ!!黄みくるちゃんにまで抜かれるなんて!もう!あんな恥ずかしいシーンを自分で撮らないで放映されるなんて御免だわ!何が何でも解いてやるんだから!!ご馳走様!」
「やれやれ、自分で言い出したこととはいえ、丸一日かかった料理を小一時間もかからずに平らげられた上に片付け当番も俺とは……やってられないよ、まったく」
「だったら、僕が手伝おうじゃないか。僕もあとは調べるだけだからね」
 翌朝、ランジェリーも変わり女性陣のほとんどが制服姿で朝食に現れた。OGと佐々木、みくるも100点満点の回答。古泉も残り三点分がようやく埋められた。さて、年内に解いてやるわと自負していた二人はどうするつもりなのか聞かせてもらいたいところだが、それではドラマ撮影に支障をきたす。さっさと撮影を終わらせて、せめてOG達に入ってもらわないとな。
「ところで有希、編集の結果を聞かせてくれないか?」
「昨日話していた通り。古池太一が殺害されるまでだと時間をオーバーしてしまう。朝比奈みくるに指令が出されてから潜入初日の終わりまでを第七話にするのが無難」
「さっさと撮り終えて、あたし達も試合に参加するわよ!美姫がいちいちサインを出さなきゃいけないような試合をさせるわけにはいかないわ!」
『問題ない』

 

消化器を持ったクラス担任が教室に入ってくるところからスタート。古池が使い方を説明し、教室の後ろの廊下側へと置いた。二日目の一時間目は体育。昨日とは違ったランジェリーを身に纏っているシーンが撮影された。どんなに派手でも体育着から見えることはない。この事件が放送されている間はランジェリーがいつ販売されるのかという電話が鳴り止みそうにないが、そこは社員たちで十分。着替えを終えて、二時間目の理科の時間が始まったが、一刻も早く犯人を追及しようとしているみくる、青ハルヒ、鶴屋さんはそれどころではなかった。
「……比奈さん、朝比奈さん!」
「はっ、はいっ!!」
「ちゃんと授業に集中しているのかね?試しに元素周期表を20番まで言ってみなさい」
「えっと、それなら……『水兵リーベー僕の船、斜曲がりシップスクラークか?』だから、水素、ヘリウム、リチウム、ベリリウム、ホウ素、炭素、窒素、酸素、フッ素、ネオン、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、硫黄、塩素、アルゴン、カリウム、カルシウムです」
『おぉ―――――――っ!!』
クラス中からみくるに感嘆の声と拍手があがる。敏腕女刑事ならこの手の基礎知識に関しては詳しくないとな。
「うむ、良く覚えているようだ。この後も授業に集中するようにしなさい」
「はい、すみませんでした」
「(朝比奈さん、朝比奈さん!!)」
「(ハルヒさん、どうかしたの!?)」
「(一樹が言ってた15ってこれじゃないの!?)」
元素周期表の15番目を指差した青ハルヒにみくるがハッとする。
「(でも、それを使っていたとしても、発火するには約60℃の熱が必要だったはず摩擦熱くらいじゃ足りないわ。一体どうやって……)」
「うわあああああああああああああああ………!!」
「古池の叫び声!?」
「ハルヒさん、消火器を持って鶴屋さんに付いていって!あなたの足なら間に合うかもしれないわ!!」
「分かった!」
「はるにゃん、こっちにょろ!!」
「おい、君たち、待ちなさい!」

 

「一体どういうことよ!?奥に隠したんじゃないの!?」
「既に古池がこのことを知っていて、メッセージカードを記念品として敢えてそのままにしておいた可能性が高いわ!それなら、どこに入っているのかロッカーの中を隈なく探す筈よ!」
「犯人にバレないように処分しておくべきだったっさ!」
「犯人も同じことを考えているはず。更衣室にカメラを仕掛けておいたとしてもおかしくないわ!」
鶴屋さんの先導に従い、青ハルヒとみくるが後を追う。何人かの教師が集まっていたが、誰も手出しすることができず、高い室内では古池が足掻きもがいていた。すかさず青ハルヒが消火器を噴射し、火は収まったが、古池はそのまま倒れてしまった。
「すぐに警察と救急車を!急いで!!」
「わっ、わ……分かった!」
「じゃあ、君たちも教室に戻ってください。あとは我々で事情を説明します」
三人に声をかけた俺に対して、真っ先に青ハルヒが動いた。
「(今教室に戻ったら、コイツに情報を弄られるわよ!!)」
「(仕方がないわね!)」
「あたしは警視庁捜査一課朝比奈みくるです。この学園の不審な事件を解明するため、潜入調査を行っていました。現時点を持って、この現場をこのまま保存します。誰も立ち入らないでください!」
「同じく捜査三課の鶴屋にょろ!」
『警視庁捜査一課!?』
「君たち、刑事だったのか!?」
「とにかく今は、生徒たちを落ち着かせることを最優先してください!」

 

警察手帳を取り出したみくると鶴屋さんを見て、青ハルヒが自分はどうしていいものかと困っていた。更衣室の外にいる教員たちを無視してみくる達が現場調査にあたっていた。
「頭部がこんなに焼け焦げていたら、救急車ももう手遅れにょろ。……でも、出火場所がどうして頭部なのかが謎っさ!急にセーターに火が付いて脱ごうとしたのなら、頭部が一番燃えているのはおかしいにょろよ!」
「えっ!?これって、古池がセーターを着ようとしたんじゃないの!?昨日だってカーディガンを着ようとして火が付いていたじゃない!」
「とにかく、アイツに情報を弄られずにすんだわ!一樹君にサイコメトリーしてもらうものをピックアップして、あとは任せましょ。鶴屋さんもそのカードは持っていてください」
「任せるにょろ!」
「あれっ!?鶴屋さん、その袖についている赤い粉は一体何?」
「粉!?どこについているにょろ!?はるにゃん払ってくれないっさ?」
「………っ!ハルヒさん、払っちゃ駄目!!大事な証拠かもしれないわ!!」
「みくる、大事な証拠ってどういうことにょろ?」
「ハルヒさんがさっき教えてくれたアレの可能性が高いわ!鶴屋さん、ブレザーを脱いでもらえませんか?」
「良く分からないにょろが、こんなものが証拠になるにょろ?」
「これで確証がもてるはずです!」
現場にパトカーが到着し、圭一さんが現れた。みくるが圭一さんに事情を説明している間、青ハルヒと鶴屋さんは圭一さんから逃げるように教室に戻っていった。教室に入ると、教員がいるわけでもないのに全員が席に着き、どんよりとした空気が教室に漂っていた。

 

「ねぇ鶴屋さん、古池どうだったの?」
「火は消したにょろが、頭部が酷く焼け焦げていて、救急車でももう手遅れかもしれないっさ」
「そう……」
「あの人、佐々木先生みたいに人気のある先生だったの?」
「逆よ!このクラスのあちこちに監視カメラを仕掛けて私たちのこと盗撮してたんだから!!」
「それを誰かに告げ口したら、ネットに盗撮した映像を全部流すって脅されて……」
「私たちだけじゃないわ!ソフトボール部の部室でも同じように盗撮されて」
「じゃあ、あたしの前の子って言うのは……」
「そこの席に座っていた子。古池に直接文句を言いに行ったんだけど、次の日から私たちにいじめを強要してきて、その子と同じように逆らうようなら映像をすべてバラ撒くって脅されてたの」
「ってことは、たった二日であたし達までカメラで撮られてたってことになるじゃない!この際、カメラを全部取り払って訴えてやればいいわ!!生死はどうあれ、自業自得じゃない!」
「でも、『俺が逮捕されるようなことがあったら映像が勝手に流れるようになっている』って言ってたのよ!もし、死んでたら今まで盗撮され続けてきた映像が全部ネットに流れちゃうわよ!」
「冷静に考えるにょろよ!数学や理科の教員ならまだしも、専科は国語っさ!情報機器に詳しいとは正直思えないっさね!このクラスに設置された監視カメラを全部警察に預けて、ネットに流される前に家宅捜索してもらえばまだ間に合うかもしれないにょろ!それに、その子に今まで古池に脅されていたことを正直に話して学校に来てもらうっさ!」

 

 鶴屋さんの一言を皮切りにクラスに明るさが戻り、カメラの位置をすべて把握していると言わんばかりにクラス中の小型カメラが教卓の上に出揃った。
「ここまでやるとは正直思ってなかったわよ。放課後になったら部室の方も取り除きましょ!」
返事は聞こえなかったが、クラス中の女子が首を縦に振った。
「じゃあ、すぐにでもこのことを知らせてくるにょろ!間に合うかどうかはまだ不明っさが、一秒でも早い方が良いっさ!!」
鶴屋さんと入れ違いにみくるが教室へと入ってくる。
「みくるも一緒に来るにょろ!一刻の猶予もないっさ!」
「えっ!?ちょっ、鶴屋さん一刻の猶予もないって一体どういうこと!?」
「わけは後で説明するっさ!」
みくるを連れて、現場検証中の圭一さんのところに戻り、部室を含めて盗撮されていたことをすべて伝えると、すぐに家宅捜索の指示が出た。カメラのうち一つはみくるがサイコメトリー用にと抜き取っておいたらしい。
「それで、これがその古池とかいう奴のロッカーに入っていたカードにセーターの切れはし、それに監視カメラか。つーか、もういいんじゃないのか?ハッピーエンドで。その不登校の生徒もようやく戻って来られるんだろう?」
「これはれっきとした殺人事件よ!一樹君が言っていた15の数字も元素周期表の15番目のリンだってことが分かったし、鶴屋さんの袖についていた赤い粉も赤リンという報告を受けたわ。でも、リンは約60℃の熱でないと発火しないの!そのトリックとこの事件を引き起こした犯人を捕まえない限り事件は解決しないわ!」
「仕方ねぇな。そこまで言うなら付き合ってやるよ。その代わり、監視カメラから女子生徒の着替えシーンが流れてきても文句言うなよ!?」
「そんなの、あたしでも大体の想像はつくわよ!いいからさっさとやりなさいよ!!」

 

 青ハルヒに急かされて、布きれをサイコメトリー。眼を閉じながら流れてくる情報がみくる達に伝えられる。
「ハルヒ達が、アイツを止めてくれたおかげで助かった。こんな情報をサイコメトリーされたら一気に解決されてしまう。リンを発火させたトリックが掴めたよ」
『本当!?』
「一体どんな情報が流れてきたのか教えて頂戴!」
「古池って奴がセーターを着る瞬間の映像を客観視したものが流れてきた。頭を通そうとした瞬間に電撃が走っている。静電気が着火の原因と見て間違いなさそうだ」
「そう言われてみれば、昨日の一件もカーディガンを着ようとした瞬間に火が付いたんだったわね」
「ってことは、あの装置は一体何にょろ!?」
「酸素を充満させる装置に間違いないわ。勢いよく燃やして一人でも多く死傷者を出す予定だった。あとは犯人を割り出すだけね。明日の朝一番で国語のノートを回収させて筆跡鑑定にかけるわ!『どこまで進んでいたかを見るため』とでも理由をつけておけばいいはずよ」
「そんなことしなくても、犯人はあの子じゃないの!?あの装置を空気清浄機だって言ってきた……」
「そういうことか。筆跡鑑定は一人で済みそうね……一樹君他のものはどうかしら?」
「トリックも犯人も分かったのなら必要はないだろうに……このカードは駄目だ。情報を弄られている」
「ちなみに、どんな情報だったか聞いてもいい?」
「生徒が古池ってヤツにセーターを渡している場面だ。直接渡すならこのカードは必要ないだろう?」
「それもそうね。監視カメラの方はどうかしら?」
「どうせ撮影した女子高生の着替えシーンに決まって……」
監視カメラをサイコメトリーした青古泉が流れ込んできた情報を受けて叫んだ。
「まずい!!朝比奈さん、メモ用紙とペン取ってくれ!時間が無い!!」
「時間が無いってどういうことよ!あんた一体何が見えたって言うの!?」
「パソコンに時限爆弾のようなタイムリミットが映った画面と八ケタの数字が流れてきた!コイツ、夜10時までに番号を入力しなければ、本当に盗撮した映像をネットに流すつもりだ!家宅捜索している奴にすぐに連絡を取ってくれ!」
みくるが持っていた警察手帳とペンが手渡され、青古泉が『16248453』と八ケタの数字を記入した。それを元にみくるから情報が渡り、古池宅でパスワードの入力で困っていた刑事達によって映像の漏えいを防ぎ、盗撮されたデータはすべて削除された。

 

 三日目、不可思議な焼死体が発見されたことで当然のように報道陣が動き出し、古池がどんな人間だったのか生徒にインタビューしていた。みくるやハルヒもそれをスルーして教室へと入りこむと、これまで不登校だった生徒が登校していた。周りの生徒たちから何度も謝罪を受けている光景が青ハルヒ達の眼の前に現れた。
「ごめんなさい、ちょっとあなたと話したい事があるんだけど、いいかしら?」
みくるから声をかけられた少女が涙を流し、「自首する」と告げた。例の装置はすべて撤去され、鶴屋さんを含めた三人が事の発端から顛末までをすべて説明。古池のパソコンに保存されていた盗撮映像もすべて削除されたと報告。学園側は古池に関する情報を漏らさないよう全校集会で生徒に声かけをすると約束し、三人の任務も終わりを告げた。
『え~~~~~~~っ!!朝比奈さん、刑事だったの!?こんなに可愛いのに!?』
「涼宮さんの投球なら春の大会は勝ち進めるって思っていたんだけど……でも、正投手が戻ってきてくれたから!」
『鶴屋さんがいないとクラスが明るくならない!!』
「そう言ってもらえるとあたしも嬉しいにょろよ!でも、もう何も心配することはないっさ!」
「じゃあ、短い間でしたけど、お世話になりました!」
2-Aの生徒達に別れを告げてSOS学園を後にした。
「これでようやく明日から仕事に戻れるわ!皆になんて説明しようか考えておかなくちゃ!」
「みくるの人選に狂いは無かったにょろね!ソフトボール部でのピッチングもそうだったにょろが、はるにゃんの活躍あってこその解決だったっさ!今夜は一樹君の部屋で派手にパーティでもどうっさ?はるにゃんの料理がまた食べたくなったにょろよ!」
「あたしも賛成!一樹君も入れて四人でパーっと騒ぎましょ!!」
「ちょっと!事件が解決したら出ていくって約束忘れてないでしょうね!」
「あたしもこんなに早く解決するなんて思わなかったのよ!もう一晩だけ!お願い!!」
「駄目ったら駄目――――――――――――っ!!」

 

「今回はあまり仕事をさせてもらえなかったようね?」
「おいおい、俺を教育実習生として学園に配属したのはそっちだろう?まさか警察手帳を出してくるとは思ってなかったが、残り十数日間、俺はあの学園に縛られたままか?」
「あら?随分人気になっていたじゃない!生徒たちからキャーキャー言われて、あなたも嬉しそうだったわよ?」
「そう見えるか?こっちは大した仕事もできずにストレスが溜まっているんだ。次は自由に行動できるような場所なんだろうな?」
「ええ、依頼人から事情を聞いて既に動き始めているわ。次が彼らの墓場になるかもしれないわね」
「墓場とはまた大層な言い方をするもんだ。お手並みを拝見させてもらうとしよう」
「カ―――――――――――――ット!有希、残っているシーンは!?」
「朝比奈みくると涼宮ハルヒの二人が違う高校の制服で学園長室に入るシーンと彼の部屋の中でSOS学園の制服に着替えるシーンの二つ。違うランジェリーで撮影するから明日」
「でしたら、今日の夕食で第五話と第六話の放映というのはいかがです?」
「問題ない。編集済み」
「じゃあ、その前に日本代表チームを根本から叩き直すわよ!!」
『問題ない!』

 
 

…To be continued