500年後からの来訪者After Future7-15(163-39)

Last-modified: 2016-12-16 (金) 12:25:57

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future7-15163-39氏

作品

セカンドシーズンの撮影もいよいよ大詰め。残すは女子高潜入事件のシーンが二つと、全員がトリックを解くことができたら、最終回の解決編を撮ることになった。忘年会でほとんど食べられなかったW有希が全体の五分の三を平らげるという偉業と言えば聞こえはいいかもしれないが、丸一日かけて作った料理をあんなにあっさり食べられてしまうなんて作る気が失せてきた。カレーはしばらく封印しておこう。

 

 美姫も満足気に練習試合を終えて81階に戻ってきた。夕食を食べながらセカンドシーズンの第五話と第六話を見ていた。俺が青古泉達に初めて自己紹介して、情報を弄られていてもそれをヒントにみくるが解決に導いている。第六話のオープニングが変わり俺が加えられていた。古泉のテーマもこのシーズンで広まることになりそうだ。
「そういえば、第一話と第二話にこのテーマ曲流れていたか?」
「今確認した。編集し直しておく」
「それで、明日はどうするおつもりなんです?」
「どうするも何も、朝は幸の誕生日祝い、午前中に残りのシーンを撮影して、その間に俺たちの忘年会の準備。夕食は軽めに抑えておいて、本マグロを捕獲に行って一匹を除いて捌いておくつもりだ。そのあと全員で忘年会。日本時間で深夜二時に影分身がパーティ会場に着く。『ハルヒを迎えに戻る』と告げて、青ハルヒと二人で向こうに行くのが深夜四時。早朝六時にパーティが始まるってことなりそうだ。有希、一つ頼みがあるんだが、いいか?」
「何?言って」
「俺のパフォーマンスを複数のカメラで撮影してDVD化したものを、各TV局と早期に謝罪した新聞社二社に送りつけて欲しい。例のイベントの説明に使う必要がある。TBSは仕方なくってところだ」
「分かった」
「いくら影分身で対応できるとはいえ、パーティの仕込みどころか我々の忘年会の準備まで任せるわけにはいきませんよ。僕にも手伝わせてください」
「今年は寿司を握るからこれまで通りで大丈夫なんだが、来年からは向こうでシェフを用意してもらう必要はなさそうだ。パーティの主催者にそれも伝えておくことにする。火入れまで終えた状態のものをそのまま出すだけだからな。現状維持の閉鎖空間で十分だ」
「朝食を食べながら、現地での様子を有希さんにモニターに映してもらうことしましょう。どんなパフォーマンスになるのか楽しみですよ」
「とりあえず、年越しライブの警備と案内は青俺の影分身で頼む。そういや、年越しライブの図面は届いているのか?」
「昨日のうちに図面通り作り上げておいた。あとはフジテレビのスタッフがなんとかするだろう」

 

「それなら、告知を終えて戻って来られたら、デザイン課の社員募集の垂れ幕を垂らしたいと思っている。対象は中卒~20代、18歳未満は保護者同伴。スケッチブックにデザインを描いてくるところは変わらずだ。こちらも新戦力を加えたいのと異世界支部の運営のための手本にして欲しいってだけだ」
「デザイン課に新戦力が加わるのなら文句はないけど、面接の方は大丈夫なのかしら?」
「履歴書をサイコメトリー段階で社内の機密事項をすぐ周りにバラ撒くような奴は採用しない。それだけ俺たちの会社に入るための基準が高いってことだ。朝倉が二人いると噂が広がってしまうからな。履歴書に何の問題もなく、デザインセンスが良ければ給与面について保護者に金の管理だけは十分気を付けるよう話せばいい。希望してくる数にもよるが、多ければW圭一さんが面接をすることになるだろう。そこに俺や古泉、デザインを確認するのに催眠をかけた有希や朝倉が入ってくれればいい」
「でも、そうするとデザインはいいのに不採用なんてことにもなりそうね」
「いくらデザインが飛び抜けているからとはいえ、一般常識も分からないようなアホを受け入れるつもりはないし、アレンジしても文句を言ってくるだろうから一切使わない。その程度のデザインなら新戦力として加わったメンバーに考えさせればいい」
「うっ……私もその『一般常識も分からないようなアホ』の一人に入ってしまいそうです!」
「自分より年上の人間に対して北高生時代と変わることなく敬語を使ってくる人間がその範疇に入ると思うか?ここにいるメンバー全員そんな目で見ちゃいないから、安心しろ」
「どうやら、そのようですね。正式にあなたが戻ってきてから色々と動き始めるのが目的のようですね。あなたが居ない間もこれだけの事ができていたんだとより強調するようなものです。他にも何か考えているのですか?」
「岩手県知事に直接電話連絡を入れるつもりだ。安比高原のホテルの運営もハルヒや俺の影分身で対応しているような状態だ。シーズンオフに入ってホテルの運営に参加できる人間をかき集めるように伝える。それに、スキー場の中腹で働いている地域住民も一ヶ月も経てば大分慣れてきた頃だろう。人事移動できないか各所を回ってみるつもりだ。最後に、レストランに侵入できない報道陣についてだが、『今の状態を維持していれば一月末。それまでにまた暴言があれば一ヶ月延長。許可しても行動によっては再度制限をかけて今シーズン中はレストラン内には入れない』とみんなで決定したことを人事部の社員にも伝えて、『まだ許可が下りないのか』と電話がかかってくればそうやって返すように伝えてもらおうと思っている。電話の数が多ければ、また一ヶ月延長になることも含めてな」
「ようやく、あたし達が抜けられそうね。でもあんた、忘年会はいいけど、あたし達が紅白で抜けることを忘れてないでしょうね!?」
 そのことをすっかり忘れていた。今年は年越し忘年会ってことになりそうだ。だが、それなら新川さんも入れる。
「すまん。紅白のことまで考えてなかった。どの道、他の番組に出演するアーティストもいるし、出番が終わったらすぐにでも戻ってくればいいだろ。どの道ハルヒは抜ける必要がある。最後まではいられないし、丁度いい。新川さんを待って忘年会にしよう。子供たちも風呂に入れた後、眠気を取っておく」
「それなら、明日は第七話と第八話の放映にしましょ。あたし達とENOZは紅白に出てるから暇つぶしにでも見ておいて頂戴!」
『問題ない』

 

 翌朝、青俺が81階のフロアに飾り付けをして幸の誕生日パーティが開かれた。
『Happy Birthday to you~♪Happy Birthday to you~♪Happy Birthday Dear Sachi~♪Happy Birthday to you~♪誕生日おめでとう~!!』
七本の蠟燭を一息で消し、周り中から拍手が贈られ、幸も嬉しそうにしている。周りの音に反応していた頃とは大違いだな。苺のショートケーキを人数分に切り分け、余った分は子供たち三人と立候補した女性陣に手渡された。朝食の量もそんなに少ないわけじゃないが、食べきれるんだろうな?コイツら。まぁ、練習をしている間に消化することができるだろう。撮影メンバーは現地に赴き、それ以外のメンバーは体育館で練習。青俺たちは丸一日異世界のビラ配りに回るそうだ。有希がセレクトした制服に着替えて準備完了。アレンジすることなく、青古泉が用意した制服の中から二人に似合うものが選ばれた。学園長に挨拶に行くシーンから撮影スタート。
「ちょっと!朝比奈さんは警察手帳を持っているから名乗りやすいでしょうけど、あたしはどうしたらいいのよ?」
「あたしと同じ『警視庁捜査一課涼宮ハルヒ』と名乗ってくれればいいわ。念のため警察手帳は持ってきているけど、必要のない限り見せるつもりはないの。他の生徒に悟られないためと言えば学園の人間も納得するわ」
「分かったわよ、それなら心配しなくても済みそうだわ」
職員室にいた管理職らしき人間に声をかけると学園長室へと通された。
「警視庁捜査一課朝比奈みくるです」
「同じく、警視庁捜査一課涼宮ハルヒです」
「私がこの学園の学園長だ。すでに以前起こった事件については資料が渡っていると思う。早急に解決してもらいたい。何かあれば私のところまで連絡に来て欲しい。よろしく頼んだよ」
『はっ!明日以降宜しくお願い致します!』

 

「まったく、どうして一樹が帰って来るまでこの格好でいなきゃいけないのよ!こっちが恥ずかしくなるわよ!」
『少しは要望に応えてやったらどうだ?あんただってアイツに甘えることくらいあるだろう?』
「そういうあんたはどうなのよ!?」
『そうだな、馬子にも衣装ってところだ』
「そんなんじゃ、一生彼女なんてできないわよ!!」
『今の俺が求めているのはスリルと面白さだけだ。特定の女がいたところで面白いと思わなければそれまでだ』
やれやれ、高校時代のハルヒ達とまるで変わらんセリフだな、おい。ジョンの一言を無視して料理を続ける青ハルヒ。ようやくバイクの音が鳴り響き、マンションで止まった。
「ただいま……って、おぉ―――――っ!!俺が言い出したこととはいえ、予想以上で驚いたぞ。ハルヒの女子高生時代もこんな感じだったのか?」
「ジョンからは『馬子にも衣装』だって言われたわよ!あんたは!?」
「予想以上だって言っただろ?たまにでいいから、その制服着てもらえないか?」
「アホか――――――――――――――――――――――――っ!!」
ここは青古泉をぶん殴って吹き飛ばすシーンとして編集してもらうとしよう。
「ハルヒさん、お風呂の掃除終わったわ。今、お湯を張っているところよ」
「えっ!?嘘だろ?朝比奈さん、メイク落としたらそんな顔になるのか?」
『警察手帳を見せても刑事に見られないから、厚化粧で大人メイクしてるんだそうだ。俺も別人かと思ったよ』
「それで、明日から着る制服はどこにあるんだ?早く着替えて見せてくれ!」
「明日になればいくらでも見られるでしょうが!今着替える必要はないわよ!」
「そこをなんとか頼む!できれば、朝比奈さんも一緒に」
「ったく、しょうがないわね!今着替えるから、あんた達は後ろ向いてなさい!!」

 

 昨日、一昨日とは違ったランジェリーを見せ、青ハルヒとみくるがSOS女学園の制服に身を包んだ。みくるの北高時代の下着も大分情報結合したが、まだ若干残っている。みくる自身がそこまで気に入っているものじゃないのかどうかは本人に聞かないと分からんが、忘れている可能性もある。変態セッターのような大胆下着ではないようだし、早いところコンプリートしたいもんだ。
「振り向いてもいいわよ!」
ジョンは無関心だろうが、青古泉も何も言えずにいた。
「何よ!?あんたが注文するから着替えたのに、何か一言無いわけ!?」
「いや、何と言っていいのやらさっぱり分からん。文句のつけどころがない。ジョンの反応がないのは興味がないだけだ」
「まぁ、ジョンについては分かっていたから、あんたがそういうならそれでいいわ。料理もできたし、食べましょ!」
「カ――――――――――――――――――――――ット!!これで第七話と第八話も完成ね!あたしも最終回のトリックを解かなくちゃ!!有希、編集任せたわよ!」
「問題ない」
これで残るは最終回の解決編の再撮影のみ。ラスベガスに情報結合したセットをすべてキューブに収めて社長室の引き出しの中へ。社長室がただの倉庫になってしまいそうだ。大掃除も含めてフロアの埃を取っておいた。ハルヒ達は自室でトリックの解明、有希は81階で編集作業を終えるとすぐに着替えて体育館へと向かっていった。その間、人事部では圭一さんと古泉の影分身で電話対応、青俺は青みくるや青朝倉も一緒にビラ配りへと出かけていった。異世界の倉庫は青俺の影分身で振袖のみピッキング中。こっちの倉庫や作業場は古泉の影分身で対応にあたっていた。今年の後半だけで、ここまでの急成長を遂げることができるとは俺も予想外だ。最初は影分身でバトルなんて不可能だとジョンが言っていたのにな。
『たとえ修練を積んでも、こればっかりは無理だろうと思っていただけだ。それを覆したのはキョンで間違いない』
俺の影分身はホテルの厨房で若手政治家の指南中。おっと、SOS団とENOZがいなくなる関係でホテルの接客担当がいなくなることをすっかり忘れていた。おススメ料理が出ないことも含めて俺が担当することにしよう。そんなことも知らずに報道陣は今週も無駄に現地に足を運んでいるだろう。あんな連中に本当に給料を手渡していいのか?と記事にしたいくらいだよ、まったく。

 

 昼食を終えて、古泉と二人で忘年会の料理の仕込み兼パーティ翌朝の料理の仕込み。そのあとの告知のための昼食や夕食はヒロインの自宅で待機している影分身に任せればいい。告知の方はスーダンのTV局を回っている最中。向こうが機内に入ったからとはいえ、今度はこっちの方が忙しくて眠れなさそうだな。SOS団とENOZがリムジンに乗ってリハーサルに向かう頃、『解けたわよ!!』とハルヒ達が声を揃えて俺の元へとやってきた。
「駄目だ。どっちのハルヒも80点。齊藤と園部の呼び出し方が強引過ぎる上に証拠が二つも足らん!出直してこい」
『ぶー…分かったわよ』
夕食時、スキーを早々と切り上げてレストランにやってきた客が案の定大ブーイング。俺は勿論、青ハルヒまでいなくなるんだ。それくらい察して欲しかったが、週末の予約が取れるならいつでも構わないという考えだったようだな。レストラン内への侵入が許可されている報道陣も撤収。渋々メニューに眼を通して注文が入りだした。本社81階では第七話と第八話の披露試写会が行われていた。しかし、青古泉も俗に言う安楽椅子探偵のように映ってならない。サイコメトリーだけで情報を与えすぎたか?
「しかし、あなたや涼宮さんがパーティに出向くのが明日の午前四時なら、今週も対応できたのではありませんか?」
「来年以降にも関わってくるからな。俺がいないとき出せないと言った方が客も納得せざるを得ない。ドラマと同様、再来年辺りで終わりにするつもりだ。予約を受けるときも社員にそれを伝えてもらうことにする」
「困りましたね。黄朝比奈さんもトリックが全て分かっていて、涼宮さんも証拠を残すのみとは……あとは僕さえ解けてしまえば解決編の撮影ができるんですが……」
「くっくっ、それを言ったら僕はどうなるんだい?脚本家として立ち会わないわけにはいかないじゃないか。キミも僕も黄僕が既にトリックを解いているところは共通しているんだ。そう焦らないでくれたまえ。キミが解けてしまうと僕が更に焦らなくちゃいけないことになりそうだからね」
「私も同様です。一樹が解けていても私はまだ解けていません。途中で姿をくらますとはいえ、私もトリックと証拠をはっきりさせてから撮影に参加するつもりでいます」
「先に言っておくが、証拠は全部で三つだ。三つ揃えてこなかったら合格にはならんからな。古泉も最後の一つで苦労したんだ。当然みくるや佐々木、OG二人は三つすべて揃えてきた。ハルヒ達もあと二つ。一色にこれ以上の言い逃れはさせないほど証拠を突きつけてやらないと折れないぞ?」
『三つも!?』
「その内の一つが欠けていたから黄古泉君が97点だったというのかい?」
「ええ、一色は証拠をすべて隠滅したつもりでも、まだはっきりと残っているんですよ」

 

ハルヒ達を待つ間、最終回のトリックを暴くことに専念しそうだな。古泉や佐々木たちもその悩んでいる様子を眺めていたいと言いたげな表情だ。レストランの接客を俺がやっていると説明したってのに……やれやれ。
「SOS団とENOZの出番が終わった。テレポートで先に送る。忘年会の準備だ!」
『問題ない』
「全員揃っているわね!?パーティの開始よ!」
「みくる、今日も一緒に飲もう。酔いなら俺が冷ましてやる。一月開始のドラマを年内に収録し終わったんだ。そのくらいいいだろ?」
『キョンパパ!わたしもみくるちゃんの傍がいい!』
「じゃあ、わたしがそっちにいきますね。間に入れてください!」
紅白での演奏と青みくるのパフォーマンスを見せてきたところだし、ハルヒが乾杯の音頭を取るのがベストか。
「たった一年……特に八月以降は色々ありすぎたくらいだけど、本当に面白い一年間だったわ!みんな、充実した一年をありがとう。せ~の!」
『かんぱ~い!!』
「それにしても、わたし嬉しいです。年越しパーティがある分、今日はキョン君にシャンプーとマッサージをしてもらえないかと思ってました」
「俺も今回は寿司を握ることも含めてこっちに影分身は残せそうになかったんだが、時差の計算をしたら今夜も明日も問題なかった。今飛行機でアメリカに向かっている最中だ。あと数日でゆっくり寝られそうだよ」
「えっ?じゃあ、キョン君、今もクマを消す催眠を?」
「ああ。眼の周囲だけな。この後のパフォーマンスを失敗するわけにもいかないし、鶴屋さんの書いてくれた二文字を堂々とパーティ会場に張りつけてくるさ。その前に、みんなと姫始めだな。みくるが北高時代に着けていた下着もまだ残ってるし、見せて欲しいんだ」
「あれっ!?まだ残っていたんですか?」
「やっぱり忘れていたか。どうして選ばれないんだろうとずっと不思議だったんだ」
みくるに触れて残りの下着の情報を受け渡した。
「ようやく思い出しました。これ、最初に捨ててしまった下着です。この時間平面に来た頃のものと同じサイズの下着をいくつか買っておいたのをすっかり忘れてました。撮影も終わりましたし、明日の朝はこれを着たいです!」
「生憎と、明日の朝は着替えさせられないんだ。みくるだけでなくOG達も含めて全員な」
「じゃあ、キョン君!ちょっとでもいいですから、キョン君の腕枕で寝ていたいです!」
「ただの人形なら朝まで可能だが、たったの1%でも意識がある方がいいんだろ?新婚生活もまだ四か月だからな。妻を寂しがらせるような真似だけは俺もしたくない」
「ふふっ、パーティも楽しいですけど、早く100階に行きたいです!」

 

 料理が尽きても年越しの瞬間までは誰も自室に戻ろうとせず、『HAPPY NEW YEAR!!』と年越しを祝った後解散となった。片付け当番は撮影には参加していても今日一番仕事をしていないという理由で青古泉に決定。
「シャンプーとマッサージが終わったらすぐ姫始めな」
と言い放った俺にWハルヒ達が照れていたが、あとはそんな様子も見られない。69階の方も超能力修行は今日は無し。全員同時に抱くんだからブラインドフィールドも遮音膜もいらないだろうと、フロア中央に100階と同じベッドを再構築すると、OG12人と妻7人の秘部に俺の分身と尻尾が突き刺さる。
「くっくっ、キミのテレポート膜のせいで、僕の後ろの穴はキミの触手が入り込むための入口としてしか機能しなくなってしまったじゃないか。トイレに行く回数が減ったのは嬉しいけれど、どうやって責任を取るつもりなのか説明したまえ」
「そんなもん説明するまでもない。今、おまえが一番それを感じ取っているだろう?それとも、後ろの方は止めにしようか?」
「そんなことを言わないでくれたまえ。僕たちの大腸はキミの触手から快楽を得ることしか出来なくなってしまったんだ。少しは仕事を与えてもらえないかい?」
「あんまり仕事をさせると困るのはおまえの方だろう?」
「たまには、それもいいかもしれない。赤子に影響を与えるような真似だけはしないでくれよ?」
「お安い御用だ」
「駄目です、先輩!みんなと一緒に抱かれるなんて私クセになっちゃいそうです!」
「だったら責められてばかりいないで周りの連中を責めたらどうだ?毎日こうしていたんだ。そのくらいはできるだろう?」
「やっ、そんなことみんなの前で言わないでください!私、恥ずかしい……」
『そんなの言われなくても分かるわよ!』
まぁ、当然ってヤツだ。マラソン後のように息を切らしている妻やOG達を抱き締めると、しばらくして寝息に変わっていった。

 

 リムジンから降りると報道陣がフラッシュを焚いて俺たちを撮影してきた。
「毎年こんな時間から集まっているのか?」
「例の事件と、あなたとジョンがゴールデングローブ賞にノミネーションしたからじゃないかしら?監督賞も脚本賞もあなたが受け取ってもいいくらいよ!」
「他の連中にも同じことを言われたよ。『授賞式後のパーティは、誰も料理に手をつけない』だとさ。俺はビバリーヒルズの最高級料理を味わってみたいんだけどな」
「わたしもみんなに賛成したいわね。そんな気しかしないんだもの!」
パーティの主催者は当たり前として、残り二人も俺たちの到着を待ってくれていたようだ。報道陣が俺たちの後をつけてきたが、SPに止められた。だが、SPを疲れさせる必要もない。閉鎖空間を広げて入口まで報道陣を押し戻し、転がしていく。
「本当にSPいらずとは僕も驚いたよ。前にも彼女から聞いたけれど、パーティが終わった後、僕らの不安を払拭してくれるんだろう?」
「ええ、ナイフも拳銃も効かない上に空調完備とUVカットもついてくる画期的な空間を皆さんに着けてまわるつもりです。というより、今つけてしまいましょう。まだ日も出ていますしね」
「UVカットまでできちゃうなんて素敵よ!でも、今まで内緒にしていたなんてずるいわよ!」
「あの事件でようやく閃いたと言うのが一番適切です。それまでは俺も考えもしませんでした」
「試しにつけてみせてくれないかね?そのナイフも拳銃も効かない空間とやらを」
「おや?もうとっくにつけているんですが、気温の変化に気が付きませんでしたか?」
『もうとっくにつけてる!?』
「ええ、この通り」
情報結合したナイフを主催者に向けて振り下ろすと、身体に刺さるどころかナイフが折れた。
「WOW!ナイフが効かないどころか折れてしまうなんて吃驚よ!」
「これと同じものをパーティで集まった皆さんとSPの方々に取り付ける予定です。たとえ狙撃されても兆弾で跳ね返る音がするだけですし、マシンガンを乱射されてもSPが近づいて殴り倒すだけですよ」
「毎年キミに伝えている気がするけれど、今年のパーティも楽しみでならないよ」
「今宵は日本の文化を皆さんに伝えるパーティです。パーティの開始から終わりまで、すべて俺のパフォーマンスです」
『パーティが終わるまで全部!?』
「ええ、ハルヒを連れてくるついでにそのための準備をしてきますので、一旦失礼します」
「このあとを楽しみにしているよ」
四人にアイコンタクトで挨拶を交わして日本へと戻った。報道陣を入り込ませない閉鎖空間は残してきたが、条件を変えておくのをすっかり忘れていた。毎年撮影にくるカメラマンだけは通れるようにしておかないとな。

 

仕込んだ料理も捌いた魚も鶴屋さんが書いてくれた二文字も準備ができている。少しばかり寝ることにするか。一セットくらいは練習試合に入れるだろう。
『キョン!』
「あんた一体どうしたのよ?ハリウッドスター達と一緒にいるんじゃないの!?」
「青ハルヒを連れてくるついでに今夜のパーティの準備をしてくると言って戻ってきた。二時間もないが少しでも休もうと思ってな」
『キョンパパ!一緒に試合!!』
「それはいいが、足手まといになるようならコートから追い出すからな」
『問題ない』
しかし、しばらく見ない間にセッター陣もかなりレベルアップしたようだ。変態セッターが青古泉より読みにくくなってやがる。俺と子供たちの前に立ちはだかったのはOG六人。コートの外で見ていた青佐々木と古泉が入り、試合開始。セッターには美姫がついた。古泉のサーブからスタート。
「ツー、伊織、前だ!」
左に落とされたがそんなもの関係ない。セッターに攻撃を仕掛けるようなレシーブの直後、センターから飛び込んだ俺を囮に古泉の超光速バックアタックが炸裂した。
「ナイストス、美姫!」
「わたし、キョンパパがいないと試合が面白くない!」
「これからいくらでも一緒に闘える。さっさと次いくぞ!」
「あたしに任せなさい!」

 

『キョン、時間だ』
ジョンの一言で有希に撮影のことを任せて三人でジョンの世界を抜け出した。店で購入したイヤリングに俺のデザインしたネックレス。イヤリングに合った白のドレスを身に纏った青ハルヒが現れた。
「キョン、メイクしてくれない?」
「ああ、しかし済まなかったな。結局良いデザインのイヤリングが思いつかないままパーティの日が来てしまった」
「あれだけネックレスやイヤリングをデザインしたんだから当然よ!ようやくあと少しで告知が終わるんだし、まずはその催眠で隠しているクマを何とかしなさい!」
「お言葉に甘えさせてもらうよ。じゃ、行くか。おススメ料理が出せなかった理由をはっきりさせないとな」
「フフン!あたしに任せなさい!」
たった二時間の間に同じセリフを聞くことになるとは思わなかった。再度ハリウッドへと戻るとまたしても報道陣のシャッターの音とフラッシュの嵐。俺はもういいと思うんだが……まぁいいか。『寿司』と書かれた原寸大の用紙を持って四人と話した後、パーティ会場へ一番に足を踏み入れた。調理場のすぐ横にテーブルを数台用意して壁に用紙を張り付けた。みくるに書いてもらった『Japanese』、『Sushi』も一緒に張って準備OK。影分身一体に仕込んだキューブの一つを渡し、奥にいたシェフ達と一緒に新川流料理の数々を作っていく。パーティ会場には本体を入れた影分身四体と青ハルヒで寿司を握っていく。玉子以外は本マグロを捕獲してきた際に一緒に捕れたものばかり。鰺、穴子、烏賊、鰯、鰹、カンパチ、鯛、コハダ、サーモン、鯖、秋刀魚、ハマチ、鰤、いなり寿司、玉子。それぞれ漢字で書けるものは漢字で書き、ローマ字でその読みを記載、英語で何の魚か分かるように明記した札がそれぞれの皿の近くに置かれていく。本マグロはパフォーマンス用の一匹を残してすべて捌いてあるし、あとは一切れずつに切って握るだけだ。

 

 調理場からビュッフェ用の料理が出始めた頃、パーティに参加するハリウッドスター達が続々と集まり始めた。新川流料理の匂いはもとより、いわば一つのコーナーとして用意した寿司に関心を持ち、俺が四人いることに驚いていた。ようやく現れたカメラマンも寿司コーナーに釘付け。おっと、みくるにお茶を頼むのをすっかり忘れていた。ジョン、まだそっちにみんないるか?
『もうそろそろ声をかけようと思っていたところだ。朝比奈みくるだけでいいんだな?』
ああ、すまんが、連絡を頼む。ジョンから連絡を受けたみくるがジョンの世界を抜け出し、本社100階で目覚めた。
「キョン君、おはようございます。わたしもお茶のことをすっかり忘れていました」
「もう青新川さんが朝食の準備をしているだろうから、邪魔になりそうなら異世界の方で煎れてくれ」
「じゃあ、今日はこれに着替えさせてください」
みくるが忘れていた下着と今日着る服のイメージがサイコメトリーで伝わってきた。状況が状況だけに少々慌てたが、みくるがすぐに81階に降りていった。用意したテーブルに収めきれないほどの寿司を握った後、別コーナーには煎れたてのみくるのお茶がどんどんテレポートされてきた。
「どうやら、もうキョンのパフォーマンスが始まっているみたいだね。今夜はパーティが終わるまでずっとキョンのパフォーマンスが続くそうだ。僕も何が起こるか楽しみでならないよ!皆も是非期待しててくれ!」
ステージ上にあったマイクをテレポートして寿司コーナーからパフォーマンスの説明を始めた。
「今宵は日本の文化を知ってもらうパフォーマンスを行っていきます。まず皆さんに召し上がっていただきたいのはこの寿司という食べ物です。生魚を食べるのに抵抗がある方もいらっしゃるかと思いますが、近くにある醤油に魚の切り身を少しつけて食べてみてください」
流石に手を出しにくいか。周りの人間と話している様子は見られても小皿に手を伸ばそうとする人間はいない。
「あら?みんな食べないのならわたしが先に食べちゃうわよ?ここにあるお寿司全部食べたいくらいなんだから!」
『ここにあるもの全部!?』
「でも、こんなに種類があるんじゃ、どれから食べようか迷ってしまいそうね。やっぱりここはサーモンから食べようかしら?」

 

 ヒロインに先に食べさせておいて良かった。素手で寿司ネタを取り、醤油につけて口に運んだ。
「ん~~久しぶりにこの味に巡り合えたわ!ところでキョン、本マグロはどうしたの?」
「ああ、パフォーマンスとして見せるためにまだ捌いてないし、今泳いでいる途中だ」
「泳いでいる途中というのは一体どういうことか説明してくれ!!」
「魚に限らず、新鮮なものを新鮮な状態のうちに食べるのが美味しさの秘訣です。それを極めたのが、生きた魚を捌いて食べること。今、俺が手にしているキューブの中で本マグロが泳いでいます。このキューブを拡大すると……そうですね、この会場の約二倍くらいにはなる筈です」
『この会場の二倍!?』
「ええ、今からキューブを拡大しながら海水を海へとテレポートしていきます。魚というのは少しでもストレスがかかると旨味が落ちてしまいます。この中にいる本マグロは俺に捕えられているとも知らずに大海を泳いでいる途中なんです。その様子をご覧にいれましょう」
まずは一辺3mくらいに拡大したキューブから海水を抜いていく。海水を全てテレポートするまでの時間が無駄に多いのがこのパフォーマンスの難点だが、キューブを大きくしていくにつれ、姿を見せ始めた本マグロに拍手が沸き起こった。
「さて、先ほども申し上げた通り、ストレスのかかった魚はストレスがかかるほど旨味が落ちてしまいます。そこで、今からこの本マグロに電撃を浴びせて仮死状態にしてから捌いていきます。かなり激しい音が鳴り響きますので、皆様、耳を塞いでご覧ください」
全員耳を塞いだのを確認すると、尻尾を掴んで電気ショックを浴びせる。
「凄い音ね。耳を塞いでいてよかったわよ!でも、本当にまだ生きているの!?」
「ええ、それを今から皆様に確認していただきます。魚を捌いている間、退屈になる方もいるかもしれませんので他の魚もご賞味ください」
斬鉄剣に似た刀のような包丁を情報結合して捌いていく。その間に他の寿司ネタが気になった女性が小皿に手を伸ばすと、醤油に付けて口の中へと運んだ。
「ん~~~~~~~~!!凄く美味しいわ!ご飯の上に魚を乗せただけなのにこんなに美味しいなんて!」
「これは驚いた!こんなに美味い食べ物があったのか!?」
「生魚の匂いが全然気にならないわよ!」

 

 反応は上々。ワサビは当然入っていない。再生包丁でマグロを捌きながら次の説明に入った。
「ちなみにこのお寿司、ワインにはそこまで合いません。そこでこの寿司に合った飲み物をこちらで用意しました。画面に映っている彼女が煎れてくれたお茶です。俺も毎日のようにこのお茶にありつきたいくらいのものですので是非そちらもご堪能ください。おっと、画面に映った自分に気がついてどうやら慌てているようですね。本当は彼女をここにつれてきたかったんですが、緊張しすぎてお茶が上手く煎れられるかどうか分からないという理由で日本で煎れたお茶をここまでテレポートしています。寿司の方もこれだけではございません。ここにいる全員でも食べきれないほどの量を用意しましたので、存分にご賞味ください」
本マグロの内臓を海に捨て大トロと中トロがたっぷり詰まった部位をハリウッドスターたちに見せていた。喉を鳴らして食べられる瞬間を待ちきれない様子だ。そろそろか。
「それでは、今捌いている本マグロが生きているという証を皆さんに体感していただきます」
『体感する!?』
「一体どうやって!?」
「皆様がこのパーティ会場にいらっしゃる前に、既に本マグロを捌いて寿司にしたものを用意してあります。まずは本マグロの赤身の部分です。どなたの合図でも構いませんので皆様一斉に食べてみてください。先に言っておきます。絶対に驚きます」
影分身が赤身をテーブルに移し、ハリウッドスター達が一皿ずつ手に取っていく。その間に最後の本マグロを三枚に下ろしていた。

 

「キョンがそこまで断言するんだ!食べた瞬間、全員驚くに違いない!僕が合図をしよう!みんな準備はいいかい?……せ~の!」
『hm~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?』
「噛んだ瞬間に動き出した!?」
「信じられん……」
「この状態でもまだ生きてるってこと!?」
「キョン!これは一体どういうことだ!俺たちにも分かるように説明してくれ!」
「この本マグロを捌くにあたり、今回は再生包丁という技を使用しています。その技を使うとどうなるか、まずは実際に見ていただくことにしましょう。先ほど三枚に下ろしたばかりの本マグロの仮死状態を解きます。とくとご覧ください」
パチンと指の音が鳴ると捌く前と同様、本マグロが暴れ出した。
『えぇ――――――――――――――っ!?』
「ほっ、骨と頭だけで動いた!!」
「彼が動かしているんじゃないの!?」
「それじゃ、口に入れたときに動き出したことの説明がつかないだろ!」
「この再生包丁という技は一つとして細胞を傷つけることなく切る技です。つまり、細胞が破壊されていないので傷一つ負ってない、自分はまだ生きているんだと本マグロが錯覚し、俺の手から逃れようと身を捻った。それと同様、噛むという刺激をあたえることで仮死状態から元に戻り、なんとか口の中から逃げ出そうとして赤身が暴れ出した。もう一方も召し上がってみてください。先ほどと同じことが起こる筈です」
「何てこった。本当に魚が口の中でもがいてやがる」
「でも、赤身だけでこんなに美味しいなんて……」
「いやはや、見事だ」
「では、このあと、中トロ、大トロと握っていきます。ビュッフェの方の料理もございますのでお好きなものからお召し上がりください!」
盛大な拍手が沸き起こり、一礼をして捌く作業を再開した。映像の方はみくるの紹介だけで十分だ。モニターを切り、しばらくの間歓談が続いていた。

 
 

…To be continued