500年後からの来訪者After Future7-2(163-39)

Last-modified: 2016-12-03 (土) 11:24:01

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future7-2163-39氏

作品

何の進歩もなくただただ取材の許可を願い出る電話が鳴り響き、今週も土日は電話を取らないことにしようと意見が一致。フロントにいる園生さんや森さんSPに見える催眠をかけた青俺にまで取材をさせろとアプローチを仕掛けてきた。社員にも取材の許可に関する電話の対応方法については周知しているし、これ以上は社長に伝えると脅して、それでも尚かけてくるようなら社長に直接連絡をしていた。

 

「どうですか?状況は?」
テレポートなら一瞬だが、そういうわけにもいかなかったんだろう。電話対応を始めて小一時間経過したところで古泉が第二人事部に現れた。
「おおむね予想通りに進むかと思ったんだが、今朝の古泉のコメントを受けて、俺がデザインしたアクセサリーはどれなのかと聞いてきた。とりあえず報道陣相手には教える筋合いはないから即切り捨てたが、一般女性からの電話もあった。それについては答えておいたよ。あと、ついさっき新聞社の社長に連絡してな。『社長が謝罪しているにも関わらず、社員が取材を強行しようとしていて、今シーズンの取材は許可しないと宣告したが未だに電話連絡をしてくる』と伝えた。『すぐにその者を処分して社員に強引な取材はするなと伝える』そうだ。古泉の言っていた通り、フロントの園生さん達にまで危害を加えようとしているからな。もう社長に連絡してもいい頃合いだ」
「それは失礼しました。すぐに僕も参加させていただきます」
「アクセサリーの件はそれだけ話題になっているってことだし、気にする必要は無い。圭一さん達にも伝えたから心配はいらん。それと今日の午後ダンスのバックバンドの収録だ。有希の都合がつき次第になるそうだから何時になるか俺も分からん。青佐々木からは早めに撮影の方に戻して欲しいと言われたよ」
「了解しました。一回で終えることができるよう善処します」
『園生さんたちにまで危害』という言葉が効いたのか、第一人事部にも古泉の影分身二体が電話対応に向かっていった。そろそろ俺も佐々木を連れて産婦人科にいかないとな。催眠をかけて母方の姓で書類をかけばいいだろう。

 

「それで、体調の方はどうなんだ?」
六人乗りのボックスカーで一路、ハルヒのときにお世話になった産婦人科へ。無論、佐々木の方にも催眠をかかっている。
「大分安定してきたんじゃないかな。キミのつわり対策が本当に役に立ったよ」
「だが、結局あれ以外の対策は何も思い浮かばなかった」
「いいじゃないか。私の身体が少しずつ変化してきている証拠だからね。乳腺が発達している最中だと思うと嬉しくなるよ。朝比奈さんのように私の母乳も飲んでもらえるかい?」
「分かりきったようなことを聞くな。母乳で胸が張るようになったらいくらでも飲んでやるよ」
「くっくっ、キミにとっては分かりきったことかもしれないけれど、実際に言葉にしてもらえると嬉しいんだ。毎日キミに抱きしめてもらいながら寝ているというのに、どうしてこんなに不安になるんだろうね」
「昼はあまり一緒に居てやれないせいもあるかもしれん。しかし、今は考えることが山積みでそこまで不安を抱えることもないんじゃないのか?」
「そうだね。まったく、脚本どころか校舎の設計図まで考えないといけなくなるとは思わなかったよ。ハルヒさんが校舎のイメージを閃いてくれると助かるんだけどね」
「最近はそうでもないが、ハルヒの『閃いた!』は良くないことの方が多いから注意した方がいい。北高時代はその言葉と同時にどうして俺が痛みを伴わなければならないんだと思っていたくらいだったからな」
「例のダンスのタイトルを考えていたときだって、どちらもいいタイトルだと思っていたけれど、キミはそうでもなかったのかい?今日レコーディングする曲と入れ替えてもいいくらいだと私は感じていたんだけどね」
「あれは俺も良いと思った。入れ替えても良いとさえ感じたが、今のハルヒ達に歌詞を考えているほどの余裕はない。ドラマの撮影を終えて、ホテルの厨房に行かなくても済むようになって、バレーもオンシーズンを終えてからってことになりそうだ。そうでもしないと、いくらハルヒでも身体がもたない」
「そういえば、今回のバレーのオンシーズンは僕は出られなくなるんだったね。でも、逆に良かったかもしれないよ。キミのダイレクトドライブゾーンにはついていけそうにないからね」
「どうしておまえは毎回マイナス思考から入ろうとするんだ?100マイルの球を打てと青古泉に言われたときと全く変わってないな。タイミングさえ覚えてしまえばあとは慣れるだけだ。妊娠していなくても二月までに間に合わせろというのは無理かもしれないが、夏までにならなんとかなるだろ。練習に参加できなくなったら見ているだけでもスピードに慣れることはできる」
「くっくっ、どうしてだろうね。キミにそうやって自信を持てと言われたいのかもしれない。さて、そろそろ車から降りようじゃないか。昼食に間に合わなくなってしまいそうだ」
だったらどうして産婦人科についた時点でその発言をしなかったんだと言いたい。まぁ、帰りはテレポートでもいいだろ。

 

 俺にとっては二回目でハルヒのときと似たようなことを言われただけにしか聞こえなかったが、佐々木の方は真摯に受け止めていた。順調に進んでいるという医師の一言に安心しているようだった。電話対応の方もやる気の漲っていた古泉と俺の影分身で午前中には沈静化しつつあった。社長に直接伝えたのも何件かあったからな。『社長に土下座させておいて』と一言添えるだけで苛立ちを隠せない社長ばかりだった。今日中に解雇処分が命じられるに相違無い。怒涛のチェックアウトも終えて、影分身も料理指南と電話対応、告知のものだけになっていた。ここまで使い慣れると他に使い道が無いものかと逆に困ってしまう。ハルヒ達と交代して食事は全員でというのも悪くないだろう。フロントにいる園生さん達や店舗にいる青古泉たちとも交代して、何日かぶりにメンバーが揃った。
「やっぱりみんな揃って食べた方が美味しいです!」
「みくるちゃんも大袈裟よ。でも、交代で一人寂しく食べるよりはいいかもしれないわね」
「わたしも、黄キョン君が影分身で交代だって来てくれて嬉しかった」
「黄あたしも有希もまだ厨房から離れられないわけ?」
「毎日忙しくて、もう一ヶ月以上経っているように思えるけど、まだ半月も経ってない。でも、地域の住民の人たちが少しずつ仕事に慣れてきたみたいだし、若手政治家にも黄キョン君が料理を教えてくれているから助かってる」
「皿洗い以外何もできなかった連中が下準備くらいはできるようになったし、もうちょっと仕事が早くできるようになれば雑用係として認めてあげてもいいわ!あたしもできるだけ撮影に参加したいしね」
「しかし参ったよ。古泉君は土日だとおススメ料理の仕込みが入ってしまうから将棋が火木になったけれど、それ以外の時間で撮影をするとなると、芸能プロダクションから俳優を呼ぶのが困難になってしまうんだ。涼宮さんはビラ配りと撮影で影分身を一体作るだけで済むけれど、青古泉君の場合は影分身を使ったとしても片方が将棋だとどうしても撮影でNGを出すことになる。何とか折り合いをつけることはできないかい?」
「そんなの心配いらないわよ!主演男優なんだから撮影優先に決まっているじゃない!その日の撮影が全部撮り終ったら将棋に参加することにすればいいわ!」
「どうやら、それしか方法が残されていないようね」

 

 古泉はドラマ撮影中はずっと将棋に打ちこむことができなかったんだ。それを考えれば青古泉も一ヶ月くらいなら我慢せざるを得ないだろう。俺の影分身が撮影に参戦するという手もあるが、これはあくまで最後の手段。青古泉を甘やかすことになりかねん。青古泉の表情がニヤケスマイルで固まっている。
「そういえば、土曜日のクイズバラエティで先週のドラマの瞬間最高視聴率を答える問題があったのよね?正解はいくつだったのかしら?」
「それなら、35.1%だ」
『35.1%!?』
「どうりで『21世紀版木○拓哉』と書かれるわけだ。TV局の命運を握っていると言っても過言じゃなさそうだな」
「分かりました。その日の撮影をなるべく早く終わらせて、佐々木さんのラボへと向かうことにします」
「ちょっとあんた!いくらサイコメトリーを使った演技でも、あたしの納得のいくものじゃなかったら何度でもやり直させるわよ!?覚悟はできているんでしょうね!?」
「総監督のご期待に応えられるよう善処することにします!」
士気の上げ方としてはどうかと思うんだが、青古泉が火曜、木曜も撮影に参加することをOKしただけでも十分か。古泉に変える必要があるところは月曜や水曜の午後で十分だ。それに、ディナーをこっちで引き受ければ問題ないだろう。
「ところでキョン、レストラン前の様子がどんな感じだったのかあたしにも見せてくれない?」
「え?今見るのか?無駄に時間を潰しているところも撮影してそのまんまだから、編集作業をしてからじゃ駄目か?俺もどの時点で暴言があったかまでは全部把握していないしな」
「くっくっ、だったら明日の夕食時に放映ってことでどうだい?そのあとドラマの披露試写会といこうじゃないか。二話まですべて見られるとは僕も思ってなかったからね」
「でも佐々木先輩、二話で一つの事件を解決するのなら、一話だけじゃ続きが気になって仕方がありませんよ!」
「最後まで見たい奴はここで見ているでどうだ?また有希にDVDを作ってもらうことだってできるだろ?」
「それよ!その手があったじゃない!じゃあ明日の夜は報道陣の様子とドラマの披露試写会ね!」
『問題ない』

 

 ハルヒには「ドラマの撮影をして夕食を食べたら厨房に来い」と伝え、それ以外のメンバーはそれぞれの分担に戻っていった。俺の影分身が入っていれば、ハルヒは自分の影分身を撮影の方に回せそうだな。明日にでも提案してみるか。レコーディングの方もさっさと終わらせてしまおうという有希の鶴の一声により、青有希もレコーディングを終えてから厨房に戻ることに。バックバンドでも有希の編曲で古泉のギターが冴えわたっていた。これで歌と踊りが入ったらどうなるのか俺も楽しみで仕方がない。週末の迷惑な程の報道陣も平日になるとぱったりといなくなり、料理長のおススメくらいでそこまで取材を強行しなくてもいいだろうにと思いながら平穏な二日間を過ごし、迎えた火曜日の夕食。青OG二人は夕食を食べてからまた仕事に戻るそうだが、ストレスだけ溜めて戻るようなことがなければいいんだが……まぁ、このあとのシャンプーとマッサージで疲れやストレスを吹き飛ばせるか。俺とエージェントの後ろに巨大モニターが現れ、まずは報道陣の様子を映したVTRからスタート。俺たちに対する暴言も混じっているため、全員の顔が次第に苛立ちを隠しきれなくなっていく。
「何が『仕事しろ』よ!こいつらだって無駄な時間過ごしているだけじゃない!人事部の社員の方がよっぽど働いているわよ!!」
「こういう人間がいるからいつまで経っても許可できないんだとテロップをつけてDVDを各メディアに送りつけたいくらいですね。すでに今シーズンが終わるまで撮影許可しない会社も出てきています。一ヶ月くらいでは許可できそうにありませんよ」
「駄目、テロップをつけるとこちらが敢えて電話対応していないのがバレる。テロップをつけずにカットした方がいい。別の方法でアプローチをしてくる危険性が高くなるだけ。フロントに取材許可を願い出てきたのと同じ。でも、今回はDVDを送りつける。前回はすべてのメディアの社員が映っていたから隠蔽されるだけだった。でも、今回は取材が許可されているTV局や新聞社にとっては絶好のネタになる」
「どんな感じか分かっただけで十分だろ。今週末も撮影するし、ドラマの方を見てみようぜ」
『問題ない』

 

 モニターはそのままに今度は佐々木の指が鳴る。美容院の外から中の様子を映すところからスタート。日本代表選手や楽団員が美容院の席に座っている。古泉の足元、背中、カットしている様子が映り、ようやく古泉の顔が映った。シャンプーをしながら「力加減はよろしいですか?」と客に確認をしている。場面が変わってみくるがポルシェを運転しているシーン。「まったく、この辺駐車場が一つもないんだから!」と路駐できそうなところを探して美容院に向かって走ってくる。ポルシェから降りる瞬間にみくるが着けているランジェリーの見えるシーンが入っていた。これは確か……みくる専用のパイプ椅子がデザインしたもの。第一話のオープニング前から使われていたとなるとアイツもおおよろこびするだろうな。明日にでも見せに行ってこようか迷ってしまいそうだ。
「古泉君!」
「お客様、少々失礼します」
日本代表選手が首を縦に振ったのを確認してその場を離れた。タイミングを見計らったように客に飲み物が運ばれてきた。一体誰に催眠をかけたのやら。
「朝比奈さん困りますね。ここは完全予約制。急に来られてもすぐには対応できないんです。しばらく椅子に座って待っていていただけませんか?」
いつもの古泉のセリフにしか見えないが、役柄の設定を考えれば接客用の言葉遣いということになる。このあと素が出るんだろう。朝比奈さんが店内を見渡し、その日出勤しているスタイリストが表記されているプレートが映された。プレートにはトップスタイリスト古泉一樹と札が付けられていた。これでセカンドシーズンの古泉の設定が分かるって寸法か。みくるが椅子に座ると再度アシスタントがお茶を運んできた。日本代表選手のカットを終え、会計と次回予約の確認をして客を見送ると、ようやくみくるのところへやってくる。肩に触れたところでCGでサイコメトリーの演出。
「分かりました。すみませんが、仕事が終わる時間に自宅の方へ来ていただけますか?このあともずっと予約でいっぱいなんですよ」
「仕方がないわね。分かったわ、それまでにもう少し捜査を進めてみるわね!」

 

小声で話した古泉に対してみくるが大声で『捜査』と告げ、周りの客やスタッフの視線を集めていた。出されたお茶をハルヒのように一気飲みしてみくるが美容院を出た。歩道をコツコツと靴音を鳴らしながら今回の事件の概要についてみくるが頭の中で整理している。再びポルシェに乗り込んだところでオープニングが流れ始める。佐々木の言っていたドラムの音に映像を合わせると言っていたのが良く分かる。連続性があるとはいえ、こんなに頻繁に映像を切り替えるのは流石の有希でも苦労したようだ。
場面が変わって青古泉の自宅のシーン。ちゃんとした職についたこともあり、分譲マンションで青ハルヒと住んでいるという設定らしい。呼び鈴が鳴って青ハルヒが応対する。
「げっ、朝比奈さん……」
「こんばんは、涼宮さん。古泉君はまだ帰ってきていないの?」
青ハルヒの「げっ」という一言に苛立ちを感じているのが良く分かる。細かな演技までバッチリだな。そこへバイクがやってくる音が鳴り、しばらくして青古泉が部屋に現れた。みくるが来ていることを確認して鍵を閉めた。
「ただいま。ったく、朝比奈さんも毎度毎度美容院の方に来やがって……俺より頭が良いんだから少しは学習してくれよな。それで、今日は何をサイコメトリーすればいいんだ?」
「これよ」
警察が現場から押収した品を拝借してきたようだ。
「そんじゃま、始めるとすっか!」

 

 第一話の最後の方で園生さんと俺が英語で話しているシーンが流れ、第二話で青古泉がサイコメトリーした内容に違和感を覚え始めていた。この次辺りで青古泉たちと殺害現場でご対面といったところか。結局二話のエンディングまで全員が見入ってしまった。ENOZの曲が流れているところで自然とため息が出る。
「実に見応えがあったよ。私もそろそろ撮影に参加することになりそうだ」
「オープニングがカッコ良すぎです!!あんなの、どうやって作ったんですか!?」
「オープニング用として撮影したものを有希さんが曲に合わせて編集してくれたんだ。一切ズレがない完璧な仕上がりで僕も驚いていたよ。有希さんにしかできない演出だろうね」
「ところで、撮影したものを有希が編集するのは聞いていたが、Super DriverのPVはどうするつもりだ?またランジェリーで撮影か?」
「えぇ!!アレをまたやるんですかあぁぁぁ!?」
「問題ない。今回は100階の中央ベッドで撮影する。毎日使っているベッドだから平気。それに二月号と三月号のランジェリーの特集でもモデルとして着けてもらう」
「朝比奈さんの他に、長門優希と佐倉玲子がモデルとして掲載されれば、我々の世界での冊子の売れ行きも急上昇することに違いありません」
「ちょっと待ちなさいよ!あんた、あたしじゃ冊子の売れ行きが伸びないって言いたいわけ!?」
「涼宮さんの場合はいわずもがな。間違いなくモデルとして冊子に載ると思っていましたが、違いましたか?」
「当ったり前じゃない!ランジェリーの撮影するときは絶対呼んでよ!?」
「でも、わたしや黄わたしが100階のフロアに行ってもいいのかしら……?」
朝倉はいいとしても、青朝倉はまずいな。コスプレ衣装や普通のランジェリーならまだいいが、それ以外は隠しておこう。
「ところで、どの道夏場には見せることになるんだろうが、木製バットでバックスクリーン直撃弾を放つ奴がこんなに細い腕をしているなんてことになるんじゃないのか?こっちはバレーで見せているからまだいいとは思うが」
「あなたの言う通り。どの道夏場で見せることになるなら、今から掲載しても一緒」
「それで、朝倉たちが100階のフロアに入っても大丈夫なのか?」
『問題ない』
「キョン、あんた、明日の午後空いてる?」
「木曜日の仕込みをやっているだけだが、どうかしたのか?」
「古泉君に見える催眠をかけて撮影に出て欲しいのよ。腕枕をされた状態で話すなんてシーン、いくら黄古泉君でも抵抗が……園生さんにも何だか悪い気がするし」
驚いた。みくるだけでなく青ハルヒもか。古泉なら気にならないと思っていたが、まさか園生さんのことまで考えているとは信じられん。カメラに映るのが青古泉になるとはいえ、園生さんの前で宣言しているなら安心だ。
「それなら、撮影する少し前に連絡をくれるか?それなら仕込みの方もキリよく終えられる」
「分かった。じゃあ、それで決まりね!」

 

 撮影が進むにつれて青ハルヒやみくるから似たような内容で撮影に参加して欲しいという要望が増えてくるだろう。サードシーズン以降結婚式場を舞台にして事件が起こるなんてこともありうる。青古泉と青ハルヒの結婚式に古泉が例のドラマの如く花嫁を奪還しに来たりしてな。古泉のドラマも最終回の平均視聴率は36.1%、瞬間最高視聴率は40%を超えたとか。今の時期にそんな視聴率を叩きだされたら、他の局が泣くぞ。青ハルヒから連絡が来るまでホテルの厨房でひたすらキャベツの千切りを続けていた。若手政治家がぽっかり口を開けたまま手が止まっていたが、スピードが速いだけであって、両手に包丁を構えてキャベツを投げるわけじゃないから大したことは無い。このくらい普通の料理人にだってできる。俺はそれにサイコメトリーを加えているだけに過ぎん。どうせ俺が来るのならと、俺と青古泉たちが初対面するシーンも一緒に撮影するらしい。脚本を渡されるわけでもなく、佐々木からセリフと衣装が伝えられた。そのついでにさっき閃いた事件の概要も渡しておいた。
「くっくっ、コイツは面白いね。サードシーズンの第一話にはもってこいの事件だよ。セカンドシーズンの最終話も少し変える必要がありそうだね。どんな事件にするか考えておくことにするよ」
「ちょっとあんた!一体どんな案を佐々木さんに渡したのか総監督のあたしにも教えなさいよ!!」
「セカンドシーズンで青ハルヒが青古泉の腕枕で寝るような関係なんだろ?だったら、サードシーズンで結婚式を挙げるのも悪くないと思っただけだ。もうトップスタイリストとして仕事に就いているしな。だが、いざ誓いの口づけをしようってときに、同時に行っていたもう一つの式場で事件が起きて、刑事であるみくるは当然現場に乗り込み、散々な結婚式になるって話だ。俺たちの成人式と似たような内容だよ。誓いの口づけは無いが、それでも青古泉が鼻血でタキシードを汚すようなことがあれば古泉と交代だ」
「そんなシーンが撮影できるんですか!?是非僕にやらせてください!それまでに鼻血は克服しておきます!!」

 

 青古泉の鼻血はさておき、古泉に見える催眠をかけた俺と青ハルヒが自室のベッドで横になって会話をしているシーンを撮影した後、青佐々木が別の場所で用意していたセットで俺と青古泉たちが初めて顔を合わせるシーン。殺害現場で初めて会うなんていうのもどうかと思うが、それ以外に対面する場所が思いつかん。死体役は青佐々木が演じ、殺害現場で俺が待っているという筋書きらしい。現場に駆け付けた青古泉たちに声をかける。
「よう」
「誰だ!?おまえ!」
死体を見つけたみくるがすかさず警察手帳と手錠を出した。
「とにかく、殺人容疑であなたを逮捕します!」
「おいおい、殺人犯が殺害現場にのんびりと居座っているとでも思うか?」
「じゃあ、あんた一体何なのよ!?」
「俺か?俺はただ依頼を受けてこの場にやってきたにすぎない」
『依頼!?』
「結論から言った方が早そうだ。俺はアンチサイコメトラー。おまえと同じ能力を持った存在だ」
「俺と同じ能力だと……!?」
「あなたに依頼したのは一体誰なの!?」
「やれやれ、あんた本当に刑事か?そんな質問に答えられるとでも思っているのか?依頼人を明かさない奴なら、あんたの周りにも大勢いるだろう。俺はただ現場に残った遺留品の情報を書き換えに来ただけだ。要するに、おまえの邪魔をしているんだよ、古泉一樹」
「チッ、どうりでサイコメトリーに違和感があるわけだ。これまでの事件も全部おまえが情報を書き換えたせいだったんだな?」
「そういうことだ。死体も遺留品も一切動かしていなければ指紋も残っちゃいない。そんな人間を逮捕できる法律があったか調べ直してみるんだな。今後もおまえらの敵として現れることになるだろう。まぁ、あとは犯人探しを頑張ってくれ。今後、サイコメトリーはあてにならないだろう。こうして俺が殺害現場に現れて情報を操作するんだからな。どれが本物でどれが書きかえられた情報かおまえに判断ができるか?古泉一樹。くくっ、ふははははは」
高笑いをしながら殺人現場から去っていく。みくるがすぐに警察に連絡し、青古泉が片っ端からサイコメトリーを開始した。
「クソッ!駄目だ、どれもアイツが情報を操作した痕跡が残ってる」
「それでも構わないわ!あとでその内容を全部教えて頂戴!」
「どれが本物の情報か分からないどころか、全部アイツがすり替えたかもしれないんだぞ!?」
「『不可能なものを取り除いて、残ったものがどんなに信じられないものでもそれが真実』この場にはあまりそぐわない言葉かもしれないけれど、あの男の操作した情報もありえないものを取り除いていけば、真相に結びつけることができる。とにかく今は一つでも多くサイコメトリーして情報を集めて!!」
しばらく現場周辺を捜査しているシーンを撮影して、総監督から声がかかった。
「カ――――――――――――――ット!!バッチリよ!この調子でどんどん進めましょ!」
NGが出ずに済んだようだ。床に転がっていた青佐々木もようやく起き上がって死体メイクをテレポートでとっていた。今のシーンがどの時点で使われるのかは知らんが、サイコメトリーに疑問を持ち始めるくらいまで進まないとこの場面には至るまい。キャベツの千切りに戻るとしよう。

 

 大量に切り刻んでおいたキャベツも無駄に終わることなく、日本代表チーム全員が広島風お好み焼きを食べ、後はジンギスカンや回鍋肉、焼き肉に手を伸ばしていた。
『キョンパパ!わたしもお好み焼き!!』
「伊織パパ、わたしも!」
通算何度目のお好み焼きになるのかは知らんが、そろそろ広島風とそれ以外のお好み焼きの区別をつけてもいい頃だ。今度作るときは自分たちで作らせてみるか。シャミセンもできたての焼き肉の熱さに驚いてミネラルウォーターで舌を冷やしていた。『熱いから注意しろよ』と言ったんだが。佐々木も大分食欲が出てきたようだ。
「ところで佐々木、おまえいつからシャーロキアンになったんだ?昨日撮影したシーンでみくるが言っていたあのセリフ、確かシャーロック・ホームズの名言だったはずだ」
「逆質問で申し訳ないんだけどね。キミはあれがシャーロック・ホームズの名言だとどうやって知ったんだい?」
「そりゃあおまえ……って、そういうことか」
「僕たちの研究と同じだよ。トリックを考えるのにゼロから始めるにはいくらなんでも時間がかかり過ぎる。参考資料としてサイコメトリーしたんだよ。例の漫画をね」
「あれを最新刊まで読破するのは骨が折れそうだ。画より吹き出しの方が多いコマばっかりだからな。あの漫画はサイコメトリーで読んだ方がいいかもしれん」
「キョン、それはやめておいた方がいい。犯人が誰かを暴くという推理小説や推理漫画における最大のファクターがなくなってしまうじゃないか。ストーリーと一緒に犯人の情報まで入ってくるんだからね」
「それもそうだ。因みにあのシーン、何話目で使うつもりだ?サイコメトリーに違和感を持つようになってからでないと繋がらないだろ?」
「第五話であのシーンが入る予定だ。キミの言う通り、これまでとは何かが違うと感じるようになるまで顔を合わせることはできないからね」
ドラマの撮影にやる気になっているのか、いつも通りの食欲なのかは知らんが、ハルヒ達が黙々と鉄板料理を食べ進めていた。明日からまた報道陣の相手か。少しは成長して欲しいもんだが、先が思いやられるよ、まったく。

 

 みんながジョンの世界でバレーの練習をしている間も寝られるときは寝るようにしているのだが、眼のクマは段々と酷くなる一方。まだ催眠をかけてまで隠す程のものでは無いが、年越しパーティと授賞式くらいは催眠をかけた方がいいかもしれん。朝のニュースも至って平穏だが、大変なのはここからだ。今シーズン三回目の怒涛の三泊四日が始まった。電話の方は大分落ち着いてきていると圭一さんから報告は受けたが、まだ入れないと分かれば何かしらのアクションを起こしてくるに違いない。明日は園生さんと森さんの代わりに圭一さんと父親だな。各ホテルへ影分身を送ってチェックインを手伝い、客がそれぞれの部屋で一息吐いている頃に着々と報道陣がレストラン内に集まり始めた。閉鎖空間に頭をぶつけてイラついている報道陣がスカ○ターに映っている。
「くそっ!いつまで俺たちの邪魔をすれば気が済むんだ!!」
「先週のようなネタが出てくるといいんですけど……」
「あんなのはただの偶然だ!スキーシーズンが終わるまでそんな偶然が重なるわけがないだろ!!」
「レストランの様子抜きじゃ駄目なんすか?」
「当たり前だ!そんなことを繰り返していたら、例の会社の新聞しか売れなくなるだろ!!」
「もうちょっと早く社長が謝ってくれさえいれば入れたんですけどね~」
「あの社長が土下座謝罪しただけでも、俺からすれば驚天動地だよ!」
「なんだ、おたくらまだ入れないんだ?なんなら撮影した映像をくれてやってもいいんだぞ?」
「チッ、高値で売り付けようとしているのが目に見えてるんだよ!とっとと消えろ!!」
「あっ、そう。それは残念だ。精々有意義な時間を過ごしてくれたまえ」
「くそったれ!俺たちも入れさせろ!このっ!くそぉ!!」
『いつまで俺たちの邪魔をすれば気が済むんだ!!』はこっちのセリフだ。暴れるだけ暴れてろ。戦闘力たったの1のゴミが破れるような閉鎖空間じゃないんだよ。『精々有意義な時間を過ごしてくれたまえ』ってな。
『わたしの戦闘力は……』
もう聞いたから言わんでいい!

 

その三日間も報道陣になす術は残されておらず、先に謝罪をした新聞社二社だけがおススメ料理で一面を飾り、TBSはすぐに別のニュースに切り替えていた。怒涛のチェックアウトを終えて今日の電話対応がどんな状況だったのか圭一さんに聞かないとな。
「やれやれ……この三泊四日もようやく一段落できたな」
「ですが、今週は木、金、土とライブ続きですからね。涼宮さんの代わりは僕が務めるこ……『あんたは駄目!』」
「だが、ハルヒでないといけない曲なんてあったか?」
「そう言われてみればそうね。あったとしてもフレ降レミライのダンスくらいだけど、それは黄あたしも踊れるし、おススメ料理を作ることにするわよ」
「キョン君、午後は空いてますか?」
「ん?ああ、例の件か。それなら撮影するときに呼んでくれ。俺は異世界の本社で仕込みをしているから」
『異世界で仕込み!?』
「まったく、一度に二つもボケないでもらいたいですね。どうツッコんでいいのやら分かりませんでしたよ。まず、例の件とは一体何のことなんです?」
「先週の青ハルヒと一緒だよ。青ハルヒよりも前にみくるから頼まれていたんだ。みくるが美容院で古泉にシャンプーしてもらうシーンを撮影するときは俺が古泉の催眠をかけてシャンプーして欲しいってな。二人ともまだ結婚してから三ヶ月しか経ってないし、いくら古泉でも今回は駄目らしい。青ハルヒのときも俺が変わったんだし、みくるのシャンプーも問題ないだろ?」
「それならいいけど、異世界の本社を使ってまで仕込みってどういうことよ!?」
「そうでもしないと間に合わないんだよ。日本代表は今週のディナーが今年最後になる。丁度スーパーライブと被っていて青ハルヒには催眠をかけて厨房に入ってもらう必要があるんだが、年の終わりくらい豪勢にいきたいのと、三日間のおススメ料理、楽団とENOZ、SOS団のコンサートライブの打ち上げが二十五日。楽団員とここにいるメンバー分だからおよそ100人分。それに加えて来週火曜日の忘年会の仕込みだ。全員出席って話だったからな。俺たちや楽団員、本社の社員も入れるとざっと300人ってところか」
『300人!?』
「何もそんなに驚くこともないだろう。一つの県につき、いくつ店舗があると思ってるんだ。店舗の社員を全員かき集めたらそのくらいになるに決まっているだろうが」

 

「それでわたしたちの世界の本社も使うってことだったのね。こっちじゃ社員食堂は使えないから」
「水臭いですね。そういうことなら僕にも手伝わせてください」
「でも、日本代表のディナーから仕込みを始めたとしても、いくらなんでも早すぎ。折角の料理が悪くなりそう」
「その点については心配いらん。現状維持の閉鎖空間で保存するだけだ。冷蔵庫に入れておくよりよっぽど役に立つし、鮮度も落ちることは無い。すまないが有希、全店舗に夕方五時半頃から迎えに行くこととネームプレートを持参するようにFAXを流してくれ。それと楽団員たちにネームプレートを配って楽器名や名前を書くように指示して欲しい。頼めるか?」
「問題ない。でも、あなたが仕込みに集中するのなら、レストラン外の報道陣の様子を撮影した映像はわたしが編集する。明日の夕食で確認したら各メディアに送りつける。あとで映像を見せて」
「それなら有希に任せるよ。よろしく頼む」
「くっくっ、なら先週に引き続き第三話と第四話の放映といこうじゃないか。青古泉君が自分のサイコメトリーに違和感を持つ重要な回だからね。細かい演技を見てもらいたいんだ」
「佐々木先輩、もう四話まで出来上がったんですか!?」
「楽団の練習やディナーがあるせいでどちらかというと遅いくらいだよ。でも、年明けのクイズバラエティの告知をする分には心配はいらない」
「それで、結局鶴屋さんは登場するのか?」
「女子高潜入捜査の回からになるから第七話からになりそうだね。でも、殺されるわけじゃないから安心してくれたまえ。彼女にはサードシーズン以降も出てもらいたいんだ」
「彼女がどんな役回りになったのか聞いてもいいかしら?」
「キョンが提案した潜入捜査では何も無いところでいきなり火がついて火傷するという事件から始まる。朝比奈さんが所属している課とは違うところから、鶴屋さんが既に潜入捜査を始めているという設定で事件に介入してもらう。同じ組織にFBIや公安の諜報員が紛れ込んでいるようなものだと思ってくれたまえ」
「おまえ……いつから漫画で例えるようになったんだ?そういう意味ではジョンとほとんど変わらんぞ」
「キミにはこの前話したじゃないか。トリックを考えるための参考資料としてサイコメトリーしたときに得た情報だよ」
「でも、それだと鶴屋さんの予定をすぐに確認して撮影をしないといけませんね。鶴屋さんがどの程度ドラマに出るのかは分かりませんけど、脚本や校舎は出来上がっているんですか?」
「あっはははははははは……それなら心配いらないっさ!みくるのドラマに出られるなんて聞いたら、用があってもこっちに飛んでくるにょろよ!」
『えぇっ!?』

 
 

…To be continued