500年後からの来訪者After Future7-7(163-39)

Last-modified: 2016-12-08 (木) 13:07:56

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future7-7163-39氏

作品

スーパーライブを終え、年内のイベントも残すはあと四つとなった。青みくるにコメント内容を依頼したおかげで有希も『宣伝としては十分すぎるくらい』と発言。翌朝の新聞は全社スーパーライブのものだったが、そのほとんどがスキー場の運営や青古泉とみくるのドラマ、ランジェリーに関する内容で埋め尽くされていた。あとは天空スタジアム全体を映した映像をそのまま静止画として新聞の一面に張りつけていた。ドラマの撮影もいよいよ最後の事件に突入。少しずつ見え隠れし始めた登場人物たちの関係とは果たして……

 

「ったく、自己紹介程度で時間をかけすぎなんだよ!!ディナーくらい自己紹介しながらでもいいじゃねえか!!」
「ここにいる全員で一斉に食べていただきたかったのです。私も新川の作った料理の味に驚いてしまいました。ルポライターにジャーナリスト、雑誌編集者の方も混じっておられるようですし、記事にしていただければ幸いです」
全員に一品目が行き渡ったところで青古泉が青ハルヒとみくるの皿をサイコメトリーした。
「(大丈夫だ。この品に関しては毒はない)」
「(なら、遠慮なく。あたしもお腹が空いていたのよ!)」
『ンム―――――――――――――――――!?』
服部以外、大袈裟にリアクションをしてもらったが、初めて食べたときも大体こんな感じだったな。
「何よこれ!!五つ星レストランの料理長か何かやってたの!?」
「服部さん、あの人は一体どういう経歴の持ち主なのか教えていただけませんか?」
「そういえば、クルーザーも普通に運転してたよねっ!!」
「新川の経歴については……本人もあまり触れられたくないようで聞いたことが無いんだ。直接聞いたとしても答えてくれるかどうか」
「いやはや驚きました。ツアーの期間中はずっとこの豪華絢爛な料理にありつけるというわけですかな?」
「すべて新川の方で用意させていただきます。こちらが二品目になります。どうぞご賞味ください」
「つまらねぇツアーだと思っていたが、少しはマシになったようだ。おい、姉ちゃん。酒はないのか?」
「ドリンクメニューをお持ちいたしますので少々お待ちください」

 

 最後のデザートが行き渡ったところで、青古泉がみくるに小声で話しかける。
「(朝比奈さん、さっきからずっと全員の料理をサイコメトリーしていたが、毒なんてどこにもついてないぞ。アイツが情報を操った痕跡もない。あの四人は完全犯罪計画の立案とサイコメトリーの邪魔だけだ。そろそろ犯人が動いてもおかしくないと思っていたが……)」
「(動くとしたら、今夜ってことになりそうね)」
「(止める手立ては?)」
「(とりあえず、あなたの個室で話し合いましょ)」
ビリヤードの約束をした齊藤がシドを連れて遊戯室に向かい、獅○から誘いを受けた青古泉たちも「長時間の船旅で疲れたから部屋で休むと告げて青古泉の部屋へと集まった。このシーンでNGを出されたら料理をまた作らないといけなくなることをすっかり忘れていた。次回以降どうするか考えないとな。余分に作っておけばハルヒ達や有希が食べてくれるか。場所を変えて四人での密談が始まった。
「ところで一樹君、さっきの料理、一品目は直接皿に触っていたけれど、二品目以降はどうやってサイコメトリーしていたの?」
「腕が机にあたった瞬間に情報が伝わってきて俺も吃驚したぞ。その後は料理や飲み物が出るたびにテーブルの裏に触れて確認をしていた。アイツが居て情報を弄った痕跡すら無いなんて、サイコメトリーして損をした気分だぜ」
ここで青古泉がテーブルの裏に触れているシーンが映り、みくるのランジェリーが見え隠れするシーンが入る。
「いいえ、彼らは直接手を下さなくても、犯人は何らかのアクションを起こす。それを未然に防げるのなら犠牲者を出さずに済むわ。それにしても、サイコメトリーも学習やスポーツと同じようね。使うたびに精度が増してきている。あなたがたった数ヶ月でトップスタイリストになったわけが良く分かったわよ。それより、問題はこの後。あたし達四人と彼ら以外の七人の中からほぼ間違いなく犠牲者が出る。そして、光さんが園部さんに対して『二年ぶり』だと言っていたわ。そのときに起こったものかどうかはまだはっきりしないけれど、何かしらの事件にあのメンバーが巻き込まれた。ほぼ全員が高所恐怖症になるような事件に間違いないわ」
『ほぼ全員!?』
『声が大きい。扉の向こうでアイツが聞き耳をたてていたらどうするんだ。獅○という女を除く全員が一階か二階の個室を選択している。そう言いたいんだろ?』
「ジョンの言う通りよ。同じトラウマを持っていたとしても光さんのような天真爛漫な子にはそこまでの恐怖は生まれないかもしれない。でも、それ以外のメンバーとも接点を持っているから、光さんもその事件の当事者の一人。当然殺害対象になるわ。そのときに何があったのかはまだ分からない。でもその事件が今回の犯人の動機につながる可能性が極めて高い」

 

 ジョンの表情に変化はないが、青ハルヒと……みくるもだな。自分で説明しながら獅○光が殺されてしまうんじゃないかと不安気な表情を見せていた。
「ちょっと待ちなさいよ!あの服部って奴、あの三人を従えていたじゃない!あんな奴の発言を本気にするの!?アイツが本当のボスってこともあり得るわよ!一階からでも十分景色が良かったとか三階まで荷物を持って行くのが面倒になったからじゃないの?」
「そういや、ハルヒもそうだったな。やっと孤島に着いたと思ったら、この館まで歩けと言われたんだ。館の前に着いただけで疲労困憊、その上にあんな話を聞かされたら誰だって脅える」
「でも、クルーザーに乗る前から脅えていた人物もいるわよ?」
『シド・ハ○ウィンド、だろ?』
「そう、齊藤という男もそうだった。この館の主が服部だと知って喋ることもできないくらいにね」
「それで、これからどうする気だ。誰かが殺されるのを待てっていうのか?」
「あたしだって誰一人として犠牲者は出したくないわ!でも、一番に狙われそうな人物の部屋の前で見張っていればどういうことになるか分かるでしょ!?悪いのは……これから計画を実行しようとしている犯人やあの人たちだけじゃない。メンバーの中にも、殺害してしまいたい衝動に駆られるくらいの罪を犯した人もいるはずよ」
『じゃ、俺は遊戯室とやらに行ってくる』
「ちょっと待ちなさいよあんた!そんなことやってる場合じゃないのが分からないの!?」
『シドと齊藤はビリヤードに行った。獅○の名前を聞いただけで驚いていた奴らだ。アイツ等なら一番情報が引き出しやすいし、護衛もできる。ご丁寧に抽選なんてまわりくどい真似をしてまで作った舞台なんだ。以前起きたとかいう事件の真相を明らかにした上で、計画を実行に移す前にケリをつけるだけだ』
「あたしも行くわ!」

 

 ジョンとみくるに続くように青古泉と青ハルヒが部屋を出ていったところで「カット!」の声がかかった。
「ジョンと黄朝比奈さんに美味しいところを全部持って行かれているような気がするのは僕だけですか?」
「あんただって十分活躍しているじゃない!あんたじゃNGになりかねないところはキョンや黄古泉君が代わりにやってくれているだけよ!」
「俺は、青ハルヒの『一樹と同じ部屋だったら、あたしはどこだっていいわよ!』の発言だけで鼻血が出てNGになると半ば確信めいたものがあったんだが、よく耐えたな」
どうやら妄想を始めたらしい。しばらくしてようやく鼻血が垂れてきた。
『アホか――――――――――――――っ!!』
「まったく、もう!キョン、古泉君とくっつかなきゃならないシーンは全部交代して!こんな調子じゃ、全然撮影が進まないじゃない!」
「自分で蒔いた種とはいえ、またしても美味しいところを持って行かれてしまいましたね。ですが、鼻血を防ぐ方法をようやく閃きましたよ」
『鼻血を防ぐ!?』
「ええ、以前彼が黄朝比奈さんに施したテレポート膜です。『鼻から出てくる血液のみ大静脈にテレポートする膜』を張れば、たとえ血が流れたとしても見た目には現れません」
「だったら、すぐの次のシーン撮るわよ!今度は青古泉君たちが三階までの階段でキョンと鉢合わせするシーンね!あたしもこのまま撮影に入るわ。有希、カメラ任せたわよ!?」
「問題ない」

 

 再びエントランスに戻り、荷物を持って階段を上がるところからスタート。服部、青新川さん、園生さんは例の脅しの件で先ほどと同じ場所で待機していた。
「さっき話していた葉月ちゃんと桜○君ってどんな人達なの?随分仲が良さそうだけど」
「葉月ちゃんは、えーっと今でも変わって無ければ花屋の店員さんをやっているはずだよっ!ちっちゃくて凄く可愛いんだけど、髪がすっごく長いのっ!ポニーテールにしてもお尻に届くくらいまでだったかな。桜○君はね……」
「よう」
三階の階段から降りてきた俺が青古泉達に声をかける。
「やはり来ていたか。また俺たちの邪魔をするつもりか?」
「そういうことになるな。俺もアイツ等に雇われた身だが、こんなところにまで来させられるとは思ってなかったよ。まぁ、その分報酬は上乗せさせてもらうつもりだがな」
「みくるちゃん、この人知り合い?」
「ごめん、詳しい事情は後で話すわ。今は流して」
「金さえ手に入れば殺人現場にも乗り込む……か?」
「おまえだって同じだろう?喧嘩に強いだけの一般人がサイコメトリー能力のおかげで一気にトップスタイリストにまで昇りつめ、今も尚そのマスクと技量で女性客に追われている状態。そうだろう?古泉一樹。今の俺の仕事はおまえのサイコメトリーの邪魔をすること。おまえは俺を嫌っているかもしれないが、俺にとってはようやく仲間に出会えた気分なんだ。おまえは神の存在を信じるか?俺たちに与えられたギフトをどう使うかは俺たち次第。まずは事件の幕が上がるのを待っていればいい。俺たちの仕事はそこからってことだ。三階の一番奥が俺の部屋だ。扉が開いている客室は誰も使っていないから、部屋を決めたらフロントで鍵を貰ってくるといい。鍵がかかっていれば誰かが使っている証拠だ。またあとでな」
「クソッ!何が仲間だ!!あんな奴等に手を貸しやがって!!」
『バカとハサミは何とやらってヤツだ。折角親切に教えてくれたんだ。部屋を決めたらフロントに鍵を取りに行こう。いつまでも重い荷物を持っているわけにもいかないだろう?』
「そうね、部屋がいくつ残っているのかまでは行ってみないと分からないけど、あの男とだけは隣同士にはなりたくないわ!あたし達の会話を盗聴していることだってありえるんだもの!」
「良く分からないけど、早く三階に行って部屋を決めようっ!!」

 

「カット。逆光でも問題ない。次のシーンで今日はラスト」
「じゃあ、館の主が殺害される場面を撮るわよ!」
「おや?朝食を食べているところで黄朝倉さんの悲鳴が聞こえるのではありませんでしたか?朝食の用意は?」
「そこまではまだ用意していない。だが、椅子に座った状態からどういう順番で和室に来るか決める必要がありそうだ。階段を駆け下りているシーンから殺害現場を確認するシーンまででいい。立場上、俺は何が起きたか分かっているし、園生さんと新川さんも同様に足取りが遅いはずだ」
「座席の配置としては早いが、体格的に私も追い抜かされていくことになりますな。シドさんも恐怖心もあって遅れ気味になるでしょう。園部さんも手足の細さを考えれば自然と後方になるのではありませんかな?」
『必然的に、俺、古泉一樹、朝比奈みくる、獅○光の四人ということになりそうだ。おっと、朝比奈みくるはヒールを履いている状態か。少々遅れることになりそうだ。獅○光は通路の途中で甲冑が持っている剣を持って行け。剣道一筋なんだろ?』
「わたしに任せなさいっ!」
「クソッたれ。誰が誰に化けているんだか見当すらつかなくなっちまった」
「だったら、まずは服部の首をはねて殺害現場を作るところからだな」
『首をはねる!?』
「ちょっとあんた!死体メイクをした首を情報結合すればそれでいいじゃない!」
「血は流石に無理だが、他の推理物でよくある人形よりリアリティが出ていいと思ったんだが……」
「このバカキョン!OG達が言ってたの忘れたの!?情報結合だけでも十分リアリティがあるわよ!さっさと準備しなさいよ!」
「だったら先に向こうにいる朝倉に任せた方が早そうだ。ジョンから出た案も含めて試しに走ってみよう。有希、カメラワークでハルヒが剣を持って行くところを抑えてくれ」
「分かった」

 

 しかし、朝倉が悲鳴を上げるなんて、今日が初めてだろうな。青朝倉に代えた方が……あまり変わらんか。
『じゃ、涼子が叫んだら一斉に飛び出すわよ?』
『問題ない』
「キャ――――――――――――――ッ!!」
うー…む、何と言っていいのやら分からん。可愛い子ぶっているわけでもなく、普段の朝倉が素のまま出ているわけでもない。至って普通の女性の叫び声だ。朝倉でもこんな声が出せるとは思わんかった。真っ先に和室に到着した青古泉が叫ぶ。
「見るな!ハルヒ!!」
青古泉が片腕で後に続いていた青ハルヒ達を止めると、その下からみくるが通り抜けて中の様子を覗いた。青ハルヒの言った通り十分リアリティがあるな。あり過ぎるくらいだ。朝倉に情報結合を任せて正解だったかもしれん。
「殺されているの?」
「服部さんの首がはねられている」
『首がはねられた!?』
「朝倉さん、すみませんが下がってください。この場を現状保存します」
「カ―――――ット!みくるちゃん、練習だったから良かったけどセリフと表情が噛み合ってないわよ!?」
「だって、ハルヒさん。こんなの怖すぎですよぅ……」
「有希、今のみくるの表情はカメラに撮れてるか?」
「問題ない」
「よし、NG集入り決定だ。ハルヒの声は後で元に戻すかアフレコしてくれ」
「駄目。青チームの涼宮ハルヒがカメラに映っている以上、他の誰かがNGを出す必要がある。走らなくてもいいからこの場面だけ撮り直す」
「じゃあ、有希か佐々木になりそうだな。それ以外は全員催眠をかけずに映っている。影分身で佐々木に化ける」

 

それぞれの立ち位置は変えずにみくるのセリフだけ撮影。
「朝倉さん、すみませんが下がってください。この場を現状保存します」
「カット!くっくっ、これが練習だったからまだ良かったけれど、朝比奈さんのセリフと表情がまるで正反対だ。本番は大丈夫なのかい?」
「みくる、本番はいけそうか?」
「キョンぐん、わだしこれだけでNGを何度も出してしまいそうでずぅ――――――!!」
ここまでがNG集のVTRでいいだろう。俺がみくるの代わりをやる必要がありそうだ。
「分かった。俺が二役演じる。カメラに映らないところに隠れて見ていろ。みんなを何度も走らせるわけにもいかんからな」
「ありがどうございばず―――――――――!!」
『じゃあ、時間も時間だし、OKでもNGでもこれ一回でラストにするわ。涼子、お願い!!』
「キャ――――――――――――――ッ!!」
叫び声と共に再び和室へとかけていく。一番手に青古泉、二番手にみくるに化けた俺、三番手に青ハルヒ、ジョンは辺りの様子を探りながら和室へと向かっていく。和室の枕もとに転がっていた生首を確認して青古泉が叫ぶ。
「見るな!ハルヒ!!」
「殺されているの?」
「服部さんの首がはねられている」
『首がはねられた!?』
「朝倉さん、すみませんが下がってください。この場を現状保存します」
「みくる……ちゃん?」
獅○光は構えていた剣を降ろし、朝倉はみくるの指示通り和室から外に出た。
「皆さんごめんなさい。職業柄、本職を言うと周りが警戒してしまうので、昨日は雑誌編集者だと嘘を吐きました」
「では、君の本当の職業はもしや……」
「お察しの通り、あたしは警視庁捜査一課の刑事です。現時点をもって、ここにいるすべての人間を服部三四郎氏殺害の容疑者として、この孤島に残っていただきます。逃げようとすれば殺人犯でなくとも警察で事情聴取をさせていただくことになります。予めご了承ください。森さん、すみませんが警察に連絡をお願いできますか?」
「かしこまりました」
「ふざけんな!!この中に殺人犯がいるかもしれないっていうのに一緒にいられるか!俺はクルーザーで帰らせてもらう!おいあんた、運転してくれ!」
興奮状態のシドが青新川さんの肩を鷲掴んだ。
『そう死に急ぐことはないだろう?』
「この俺が死に急ぐだぁ!?てめぇ、それは一体どういう意味だ!?」
今度はジョンの胸倉を両手で掴んで顔を近づけた。シドに照準を合わせたままジョンが言い返す。
『この孤島に来るためにはあの専用のクルーザーで来るより他は無い。当然その逆もな。あのクルーザーに爆弾が仕掛けられている可能性が高い。クルーザーの音に気付かれ、犯人が遠隔操作で爆破スイッチを押せばそれまでだ。そこのジイさんと一緒に木端微塵になりたいのなら勝手にしろ。俺にはあんたを止める権利はないからな』
「ぐっ……くそぉ………」
「とりあえず、皆さんは一旦食堂へお戻りください。クルーザーは危険でも警察のヘリや船がくれば、帰ることができます。一樹君、お願い!」
「分かった」

 

『カット。問題ない、あとは朝食を食べている最中に朝倉涼子の悲鳴が聞こえて動くだけ。後は編集で繋げる』
「じゃあ、催眠を解いて戻ろう。声帯は俺が直す。帰ったら皿洗いもしないとな」
SPもこの後のコンサートライブの観客を入れ始めている。チケット屋からタダで譲ってもらった観客の他にも報道陣が紛れ込んでいることを期待して多数のファンが近くに集まっていた。本社に戻ってすぐ、仕込みを終えたおススメ料理の入ったキューブを持って、古泉と青ハルヒがホテルへとテレポート。後を追うように影分身が安比高原のホテル厨房へと向かった。『楽団のコンサート中は待っているだけで暇だから』と、ENOZがレストランの接客にまわってくれた。タイミングを見て連絡をすることにしよう。以前決めていた通り、SOS交響楽団のコンサートが先。曲目は、ベートーベン交響曲第七番第一楽章、ハレ晴レユカイ(青チームダンス付き)、God knows…、Lost my music、最後に昨日見せたバラード曲をオーケストラで演奏してからENOZのライブ。SOS団がその後に続く形。アンコールでSuper DriverとENOZのエンディング曲を披露して終了だ。打ち上げは明日のコンサートが終わってから。コンサートを始める前に答えを聞いておくとしよう。
「さてハルヒ、答えを聞かせてもらおうか?あの窓ガラスがどうして割れなかったのか」
「あんなアホの考えることなんてどうせくだらないことなんだから、あたしに分かるわけないでしょうが!!」
「異世界では未遂に終わったが、こっちの世界では北口駅前店のオープンの日に事件が起きた。当然ハルヒだってそこにいたんだ。苛立ちを抑えて接客にまわっていただろう?」
「あ――――――――――――――――――っ!!トラックの追突事故!店内にまで入り込んで、店をめちゃくちゃにしようとしたときね!!ってことは、あんたの閉鎖空間ってことじゃない!」
「ようやく思い出したか。じゃあ、次はみくるだな。ズバリ、犯人は?」
「多分、一色さんだと思います」
「その根拠は?」
「青古泉君たちと打ち合わせをしているときに気が付きました。齊藤さんとシド君は光さんには驚いていましたけど一色さんのことについては何の反応も示しませんでした。ミッシング・リンクがあるのは一色さんを除く六人。一色さんだけは誰とも面識が無かったはずです」
「視聴者からすれば、今の黄朝比奈さんの考え方で犯人を暴くことになるでしょう。ですが、彼から渡された次回予告の台本には、黄朝比奈さんはもう一つのミッシング・リンクに気付くことになる。我々はそっちのミッシング・リンクで犯人が一色さんだと断定したんです。そして、偶然にも『涼宮ハルヒ』がそれに当てはまってしまうとね」

 

 みくるが再度黙り込んでしまった。まぁ、ハルヒと違って自分の力で解いたんだから、解説をしてもいいだろう。
「みくる、どうして名前を名乗るシーンがあんなにたくさんあったと思う?しかもフルネームで」
「みんないろんなタイミングで会っていたからじゃないんですか?ディナーのときはキョン君の料理をみんなで一斉に食べて欲しかったから、自己紹介が全員終わってから食べ始めたんじゃ?」
「前に俺が説明したはずだ。『イニシャルがS・Hになる人間を集める』ってな」
「イニシャル?獅○光、一色沙弥華、齊藤平八、園部葉月、桜○花道、服部三四郎、シド・ハ○……あ―――――っ!!一色さんだけI・Sです!あれ?でも、服部三四郎じゃH・Sですよ?」
「以前はファーストネームが先という傾向が強く、僕の場合ですと古泉一樹でI・Kになります。ですが、現在はそこまで気にされなくなった関係で、ファミリーネームが先でもいいとされています。さらにSもHもどちらも点対称な図形です。S・Hと刻みこまれたキーホルダーや結婚指輪を握り締めた状態で彼女の関係者が亡くなっていたとすれば、S・H、H・Sのどちらも考えられます。最終話でそのシーンが撮影されることになるでしょう」
「キョン先輩、第九話の脚本は私も見ましたけど、イニシャルがS・Hになる人物を集めて、そのメンバー全員が高所恐怖症になるなんて、どんな事件がきっかけだったんですか?」
「トリックは別だが最終話の脚本ができれば理由が分かる。全員揃っているわけでもないし、今はあまり時間が無い。すまないが、また今度にしてくれ。先にそういうものが分かってしまうと面白味が無くなってしまうしな。それから、明日の軽食、夕食、加えて撮影で使う朝食と昼食は俺が用意する。その間古泉は打ち上げのクリスマスケーキ作り、服部が死んで手が空いた圭一さんにシド役を演じてもらいたいんですがどうですか?どのホテルもレストラン前は報道陣が通夜の参列者みたいな状態になっていますし……」
「分かった。今週も土日は電話を取らないということでいいかね?」
「ええ、それで宜しくお願いします」
『キョンパパ、レ○アース続きみたい!』
「じゃあ、お風呂に入ってからにしよう。幸も一緒に三人でな」
『問題ない!』

 

 観客の中に混じっていた報道陣が牢屋に入れられる度に反対側の歩道にいた連中が大盛り上がり。スマホでその様子を撮影している奴もゴロゴロいる。報道陣のチケットをもらおうと列の最後尾で並んでいた客も何人かいたようだ。譲り過ぎてチケットを持っていない客まで前に入れてしまった女性もいたけどな。もう無駄だと諦めればいいものを未だにSPに殴りかかってくるのはどうにかならんのか?容易に受けとめ、殴り倒すシーンもバッチリ収められていた。
「後頭部が地面に激突する前に俺が足を挟んだ理由が分かるか?おまえのようなアホでも死んでもらってはこっちが困るんだよ。もっとも、おまえごとき殺す価値もない。チケット代が欲しけりゃくれてやる。さっさと消えろ」
ぐうの音も出せずに殴られた頬を摩って駅の方へと向かっていく。ギャラリーがその様子を見て大笑いしていた。動画をUPしてそれで儲けている奴も混じっているんだろう。チケットを持った客が全員いなくなった時点で信号が赤でもこっちに向かってくるかと思ったが、どうやら杞憂に終わったらしい。
 翌朝、TBS以外のTV局はレストラン内の様子を撮影したものをVTRで流し、新聞社二社がレストランの光景を写真に収めて一面を飾っていた。この間のような他の新聞社が飛び付きそうな大きなネタでもない限り、この二社はレストランの記事で一面を飾り続けるだろう。
「ようやく最終話がみんなに渡せる状態までになった。勿論、キョンが考えた密室トリックは白紙のページのままだけどね。でも、鶴屋さんがみんなを迎えに来て、どういう終わり方をするか悩んでいるんだ。ヘリに乗ったところで終わりでいいのか、それとも通常の生活に戻ったところで終わるのがいいのか……いい案があれば教えてもらえないかい?」
「青古泉先輩が涼宮先輩にプロポーズするのはダメですか?サードシーズンは結婚式から始まるんですよね?ファーストシーズンの最後に『サイコメトリー能力を活かした職に就け』って言っていたのなら、サードシーズンに繋がる何かで終わった方がいいんじゃないですか?」
「くっくっ、確かに案としては悪くない。でも、『サイコメトリー能力を活かした職に就け』ならセカンドシーズンでどんな職に就くのか色々あって見当がつかないけれど、プロポーズするとなると話は別だ。結婚式をあげるという事が視聴者に分かってしまうだろう?出来れば、サードシーズンでウェディングドレスを着た涼宮さんを映すシーンから撮影したいんだ」
「だったら、ハルヒか黄朝比奈さんのシャンプーで終わりそうだな。髪型を変えてもいいならカットもありだ」
「ですが、それをやってしまうと、もう片方も同じ髪型にする必要が出てきそうですね」
「営業時間が終わってから、古泉君に化けたキョンがシャンプーしてくれればそれでいいわよ!」

 

「総監督、おまえの意見は?」
「ん~青あたしかみくるちゃんのどっちかにあんたが古泉君に化けてシャンプーで良いと思うんだけど……やっぱり青あたしの方かな?女子高に潜入する回も今撮影しているもの青あたしはどちらかっていうと巻き込まれた方だから、最後に一言くらいあってもいいわよ。最後にキスシーンで終わりにするとか」
『キスシーンで終わりにする!?』
「あたしはそれでいいわよ!?相手がキョンならね!」
「決まりのようね。それより、昨日この子が言ってた犯人の動機、全員揃っているし、教えてくれてもいいんじゃない?殺人にまで駆り立てた理由が何なのか、わたしも気になっていたのよ」
「そうだな。脚本を配るより話した方が早いか。ただ、このシーンの撮影は年越しパーティが終わってからにしたい。別の目論みもあるんでな。第九話で判明している通り、一色を除く六人が二年前の豪華客船ツアーに参加していた。だが、旅行を満喫している最中に火災が発生し、救命ボートで避難することになった。当然、豪華客船だから高いところから海中に飛び込むことになる。女性や子供を優先したかったが、その高さに怖がって飛び込めず、そこで飛びこんでも平気だと安心させるために選ばれたのがガタイの良いシドと服部だった。だが、あの二人も躊躇してばかりで決心がつかず火の手は回る一方。そこで仕方なくシドと服部の二人をクルーが後ろから押したんだ。当然上手く着水することはできず、外傷は受けたものの、後から園部と二人で飛びこんできた獅○が二人を救命ボートに運び、自分たちも乗った。偶然にしては出来過ぎてはいたが、その救命ボートに桜○と齊藤が乗り込む、そのすぐ後にもう一人『俺も乗せてくれ』とボートに乗り込もうとした人間がいた」
「なるほど、カルニアデスの板ですね。その最後の一人が乗り込もうとしたらボートが沈んでしまう可能性が高かった。自分たちの命を優先してその人物を見殺しにしてしまったというわけですか」
「ああ、昨日は青古泉もキーホルダーや結婚指輪と言っていたが、結婚指輪ではサイズだけで男か女かがバレてしまう。齊藤が持っていたバッグについていたキーホルダー……ストラップに近いかもしれん。S・Hと書かれたプレートを掴まれて、齊藤が強引にバックを引っ張りプレートが外れてしまった。そして、そのプレートを握りしめたまま遺体として回収され、遺族に身柄を確認してもらったってシナリオだ」
「それで獅○さんが三階で他のメンバーが一階と二階だったのね」
「シドが一階と言うのも納得がいった。残りの六人もあいつらだけの秘密として警察に話すことも無かったってことか。しかし、そんな大がかりな撮影どうやってやるんだ?エキストラは影分身でいいとしても、会社の資金で豪華客船を買うつもりか?」

 

「くっくっ、年越しパーティでパフォーマンスとして見せた後、豪華客船をサルベージするのさ。タイタニック号を深海4000mから海上へと持ち上げ修理して使う。違うかい?」
「タイタニック号をサルベージなんてそんなことできるんですか!?」
「できない事をキョンが提案したりしないわよ。映画の監督だって言っていたじゃない!」
「足りない部分は情報結合でどうにでもなるわよ。改装もしないといけないわね」
「ああ、色んな設備を設けるつもりだ。撮影に使った後は社長室の引き出しに収納するが、社員旅行として使うのも悪くない。なんなら、グアムで結婚式を挙げた後にでも乗るか?」
「面白いじゃない!キョン、修理が終わったら船頭であのシーンをまたやるわよ!」
「わたしも入れて」
WみくるやW佐々木など女性陣の過半数が名乗りを上げたのは言うまでもない。
「この話はここで終わりにして、今日の予定についてだ。夜中のうちに打ち上げ前の軽い夕食、それから撮影に使う朝食と昼食は俺が用意した。その分古泉には今日の打ち上げ用のケーキを作る作業に没頭してもらいたい。シド役は昨日圭一さんに確認してOKを貰っている。今日の撮影は朝食を食べている最中に朝倉の悲鳴が聞こえるシーンからスタートのはずだから、青新川さん、園生さん、朝倉の三人を除く撮影メンバーの昼食はいらないはずだ。クリスマスケーキができたら、プレゼントボックスの中に入れて隠しておいてくれ。青みくるとハルヒで羽を生やして飛び立ち、ボックスを開けるパフォーマンスを見せる。青みくるが白い羽だから、ハルヒは漆黒の羽になりそうだ。撮影終了後、催眠を解いたら青俺、青有希、青みくるを除く青チーム全員に催眠をかけて別人になってもらう。こっちはみくるだけ催眠をかけることになるだろう」
「呆れましたよ、もうそこまで進んでいたとは驚きました。青朝比奈さんのあのパフォーマンスをプレゼントボックスを開けるために使うとは夢にも思いませんでした。ですが、そうですね。今日の僕は撮影に参加している余裕はどうやらなさそうです」
「とにかくだ。さっさと撮影を進めて処女航海もまっとうできずに終わった船の無念を俺たちで晴らしてやるぞ!」
『問題ない!』

 

 子供たち三人も今日から毎日バレーに参加できると喜んでいる。平日は最後の一セット程度しか現れず、土日は練習の最初から練習試合の最後までいる。監督やコーチからは高校生や大学生程度に見られていてもおかしくはない。この前話していた件ではないが、期待の新生があの三人のせいで霞むなんてことにならなければいいんだが。
楽団の練習が終わり、撮影メンバーを連れて再び孤島へと足を運んで朝食の用意をしていると、有希から意外な一言が飛び出した。
「………しまった」
「どうしたのよいきなり?」
「日付が変わっているのに同じ服で撮影しているのはおかしい。それに朝比奈みくると涼宮ハルヒは入浴前の服を脱ぐシーンの撮影もする」
「えぇ――――っ!?有希さんそんなシーンまで撮るんですか!?」
「ランジェリーを見せるところまでだから問題ない」
「あっ、俺も忘れていた。青ハルヒはパーカーを含むコーディネートに着替えてきてくれ」
「なんでそんなことをしなくちゃいけないのよ!?」
「あとで説明する。とりあえず、みくると青ハルヒが昨日来ていた服は後で情報結合すればいいし、登場人物は催眠をかけ直すだけで済みそうだ。朝食に集まるところから始めて、朝倉の悲鳴が聞こえたところからは、もう一度通せばいいだけだろ?」
「総監督としてあるまじき失態だわ。みんなごめん!朝食に集まるところからもう一回撮影させて」
『問題ない』

 
 

…To be continued