500年後からの来訪者After Future7-8(163-39)

Last-modified: 2016-12-09 (金) 10:31:27

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future7-8163-39氏

作品

セカンドシーズン最終回も第一の殺人が起きてしまうところまで収録が進んだ。青古泉の鼻血の件やリアリティがあり過ぎてみくるのセリフと表情が一致しないという事態にもなったが、無事解決してコンサートライブの方も文句なしの大盛況。敷地外では違う意味で大盛況していたが果たして今日はどうなるのやら。有希の一言がきっかけで、日にちを変えているのに服が変わっていないのはおかしいとして急遽撮り直すことに。ついでに、青ハルヒだけを例の洞窟に呼び出す方法をようやく閃き、青ハルヒにはパーカーを着てもらった。

 

二日目の朝、朝倉と園生さんは食器を並べ、登場人物たちが次々と食堂に集まってくる。
「おっはよ――――――――――――――っ!!みんな起きるの早いねっ!桜○君も今日は寝坊しなかったみたいだし、えらいえらいっ!」
「昨日遅れてしまった分、朝一番に来て手伝いをしてたんだよ!そういうおまえこそ、朝からテンションが高すぎだ!もうちょっとなんとかならねぇのか!!あぁ!?」
「うわぁ―――――っ!!パンの香ばしいいい匂い!これも新川さんが作ってくださったんですか?」
「左様でございます。後ほどお好きなものを選んでいただければこちらでカットさせていただきます」
「全部食べてみたいけど、後でお腹が痛くなっちゃいそう」
「葉月ちゃん、美味しいパンがあったら教えてっ!わたしも葉月ちゃんに教えるからっ!」
「うん、光さんもぜひ教えてください!」
「朝比奈さん、そのバッグどうしたんだ?」
「化粧直しのためよ。(それに、このあとどうなるか分からないし)」
「(そうみたいだな。今のところ料理に問題はない)」
「(じゃ、異常があった時点で教えてくれる?)」
「(分かってる)」
「さぁて、昨日遊べなかった分、今日は丸一日外で遊びましょっ!!ビーチバレーするわよっ!ビーチバレーっ!」
「今朝のニュースで見ましたが、今日はこの辺りは午後から雲行きが怪しくなるそうですよ?」
「え――――――っ!!それじゃあ練習もできなさそうだね。初心者ばっかりなんだよ!?あっ、でもバスケ経験者ならトス上げられるよねっ!シュート撃つのと変わらないでしょ!?シド君や一樹君ならスパイクも撃てそうだしさっ!」
「ケッ!餓鬼共でやってろ。俺は参加しねーよ」
「わたしもこの孤島のことを書き留めておきたいのよ。ほら、昨日服部さんが話していたでしょ?この館が何をモチーフにされたものだったのか」
「そういえば、服部さん遅いですね。どうかされたんですかな?」
「一人くらい居なくたっていいだろ!?俺は今目の前にあるパンを丸ごとかじりたくて仕方がないんだ!」
「こら、桜○っ!昨日の夕食、誰のせいで遅れたと思っているんだっ!」
「そっ……それはっ……」
「では、皆様でお先にお召し上がりください。我々の方で確認してまいりますので。朝倉、お願い」
「かしこまりました」

 

 桜○がパンを掴んで直接かじりつきそうになったところを獅○が止め、園生さんに渡して切り分けてもらっていた。今は俺とみくるが入れ替わり、俺がみくるに化け、みくるが俺に化けている。みくるだけあとから食べるようなことになることはない。しばらくして朝倉の悲鳴が聞こえ、和室前に全員が揃う。一連のやり取りの後、ハルヒがテレパシーで『カ―――――ット!』と叫ぶ。
「おまえな!テレパシーで叫ぶな!!」
「有希、映像は?」
「問題ない」
聞いちゃいねぇ。やれやれ……今のうちに説明をしておくか。
「青ハルヒと青朝倉、ちょっといいか?青ハルヒのパーカーの件だ」
「これがどうしたっていうのよ!こんな衣装で撮影するなんて脚本のどこにも書いてなかったじゃない!」
「そう。脚本には青ハルヒは青古泉と同室で泊まる。犯人が例の洞窟に青ハルヒだけ呼び出すための仕掛けをどうしようかずっと迷っていたんだが、ようやく閃いた。青朝倉、和室から食堂に戻る途中のエントランスで、これを持って青ハルヒに声をかけて欲しい。セリフは『あら?涼宮さん、パーカーに何か入っているわよ?わたしが取ってあげる』そう言ってパーカーに手を突っ込んで、この何重にもおられた紙切れを青ハルヒに見せて欲しい。それを受けとって、青ハルヒが紙をめくっていくと……」
『古泉一樹の命が惜しければ、今夜九時にあなた一人でこの地図の洞窟にいらっしゃい。朝倉涼子ぉ!?』
「あら?わたしがどうかしたのかしら?」
「青ハルヒだけをあの洞窟に単独でおびき出すメッセージの受け渡しについての打ち合わせをしていたんだ。有希、殺害現場だけじゃなくて、和室から食堂に戻っていくシーンも撮影して欲しい」
「分かった」

 

 有希なら二か所同時に撮影することができるだろう。みくるの一言で青ハルヒと他のメンバーが戻っていく。
『しかし、妙だな。首をはねるのは犯人の勝手だろうが、胴体はどこへ消えたんだ?』
「そう、おかげで死亡推定時間が全く分からないの。あの人たちのこともあるし、このあと警察がやってくるなんてまずありえないわ!『電話線が切られている』と言われるでしょうね。少しだけど、指紋を採取するような道具はいくつか持ってきたんだけど、使うだけ無駄に終わりそうよ。一樹君、そっちはどう?」
「その生首に触れるのだけは勘弁してくれよ?俺も胴体を探しながらサイコメトリーしていたんだが、まったく関係のない情報か、殺害されるシーンを操作されて犯人の来ている服すら分からないようになってる。ただ、操作されてはいるようなんだが一つ気になるものがある」
『気になるもの?』
「アルファベット二文字のイメージが流れ込んできた。SとMだ。どういうつもりでアイツがこれを残したのかが分からん。まったく関係ないことだってあるかもな」
「どちらか一方、あるいは両方が変えられていることもありえるわ。アルファベット二文字が浮かんできただけでも十分よ。それで、殺害されるシーンっていうのは?」
「ナイフで胴体を刺されてから首をはねているらしい。この和室においてあったはずの日本刀で間違いない」
青古泉のセリフにジョンとみくる(俺)が、刀が置いてあったであろう場所に視線を移した。
「脇差も無いってことはこの後の犯行に使うつもりでどこかに隠しているかもしれないわね」
『館内にこれだけ武器が揃っているんだ。胴体と一緒に海にでも投げたんじゃないのか?隠すとしてもリスクが高すぎる。空き部屋は全部解放された状態なんだろう?全部の部屋を調べても出てくるとは思えない。あの連中も関わっていることだしな』
「持ち物検査も無駄に終わりそうね。でも、日本刀なら分かるけど、どうして胴体まで……」
「とりあえず戻ろう。組織のボスはやっぱりアイツで間違いなかったってことだ」
「一樹君ちょっと待って」
「もう十分調べただろ?これ以上何をするってんだ!?」
「圏外でも、カメラ機能は使えるでしょ?」
『なるほどな。マスターキーは奴等の手中にある。その前にこの状況を抑えておこうというわけか』
「それでバッグをもっていたのか。流石だな」
「刑事としての勘よ!二人も携帯は持ち歩くようにして頂戴!」

 

「ったく、あんなもの見ちまったら折角の御馳走も気分が台無しだ」
「わたしもあんなに美味しい料理なのに……食べられるかどうか………」
「ちゃんと食べなきゃ元気がでないよっ!桜○君も葉月ちゃんも一緒に食べてビーチバレーに行こう!」
「フン、おまえに言われなくても分かってらい!大体だな、両手でシュートするのは女子の方だ!」
「あははっ!それってもしかして『左手は添えるだけ』って名言っ!?」
「やかましい!」
「あら?涼宮さん、パーカーに何か入っているわよ?わたしが取ってあげる」
「あっ、ありがとう。何だろうこれ………っ!!」
「どうかしたの?」
「いえ、何でもないですっ!」
『カット。どちらも問題ない。この後朝食を済ませたら昨夜の遊戯室でのシーンを撮影する。それに涼宮ハルヒと朝比奈みくるの風呂場のシーンも撮る』
『殺害現場の撮影も済んだし、俺とみくるは元に戻る。ところで、青ハルヒと青古泉は麻雀はできるか?』
『あんなの簡単よ!』
『僕も問題ありません』
『なら服部は俺の影分身に催眠をかける。俺も含めて四人でやろう。獅○、園部、みくるはトランプ。シド、齊藤、ジョンはビリヤードだな。青ハルヒがまともに麻雀ができると聞いて正直安心したよ』
『ちょっと!それどういう意味よ!?』
両方からクレームが飛んできた。だが、初めてこの孤島に来たときのことを忘れてもらっては困る。
『初めてここに来た日の夜に、遊戯室で麻雀をしたときのハルヒの役がめちゃくちゃでな。聞いて驚け。「イーシャンテン金縛り」だ。テンパイすらせずに「ロン!」とかぬかしやがった。まぁ、本人は気付かずに役満が完成していたこともあったけどな』

 

『くっくっ、どんな並びでその役ができあがるのか覚えてないのかい?ぜひ見てみたいもんだね』
『私も君や古泉と一緒に麻雀をしていたのを今思い出したよ。キミの言う通り確かにめちゃくちゃな役ばかりだったが、役満ができあがっていたときは私も驚いていたよ』
『もー…しょーもないことばっかり覚えているんだから……とにかく、次のシーンに移りましょ!あたしもお腹が空いたわよ!でも、殺害現場を目撃した直後なんだから、急いで食べちゃダメだからね!特に有希!!』
『問題ない』
俺とみくるが入れ替わって食堂に戻るシーンから。先頭は獅○、園部、桜○、そして俺。園生さんと朝倉はメイドの仕事を果たすべく早歩きで食堂に戻っていく。遅れて齊藤とシドが明らかに青ざめた顔で入って来る。最後に一色とメモ書きを見て顔がカメラに映らないくらい頭を垂れた青ハルヒ。
「折角、パンの香ばしいいい匂いだったのに、それも無くなっちゃいましたね」
「大丈夫だよ、葉月ちゃんっ!少しくらい冷めてたって昨日のディナーみたいに美味しいはずだよっ!」
「美味い!美味いっすよコレ!!」
「ふふっ、『晴○サ―――――――――――ン!!』とか言いたげだねっ!」
「やかましい!今度は東京スカイツリーから異世界に行ってろ!」
「いやしかし、これほど優雅な朝食を食べたのは私も初めてだ。あまりみんなに思い出させたくないが、先ほどの事件が嘘のようだ」
「いいえ、あれは現実です!」
「みくるちゃんっ!?」

 

 ようやくみくる、青古泉、ジョンの三人が現れた。
「一樹!どうだったの!?」
「和室に合ったのは、はねられた首だけだった。おそらくだが、殺されてから首をはねられたらしい。だが、理由は俺にもさっぱり分からないが服部さんの胴体が和室のどこにも見当たらなかった。和室に置いてあったはずの日本刀とその脇差も無くなってる」
「胴体が無くなっているだと!?一体どういうことだ!?」
「犯人が別の場所に運んだとしか考えられません。森さん、警察の方にはつながりましたか?」
「いえ、かけようとしたのですが、私が気付いたときには電話線が無くなっていました。切られた程度であれば再度つなげられるのですが……」
「ちょっと待て!!ってことは誰も助けに来ないってことじゃねえか!?おい、姉ちゃん!食料はあるんだろうな!?」
「そのことに関しましては心配はいりません。主は皆様がお帰りになられてからも、しばらくはここに滞在する予定でしたので」
「しかし、それは服部さんやお嬢さん方の話であって、我々の分までまかないきれるのですかな?」
「落ち着いてください!皆さんに確認したいことがあります。……ここに来ることを誰かに告げてこられた方はいらっしゃいますか?旅行に行くだけでなく、行き先も含めてすべて」
「おいおい、ジャーナリストやルポライターが行き先を誰かに伝えると思うか?そんなことをすれば、大スクープをそいつに横取りされかねん。こういうツアーで職業を雑誌編集者と偽るならそのくらい分かるだろう?」
「わたしも、旅行に行くとしか……」
「我々もクルーザーで戻る予定でしたので他の者には何も……」

 

「ところで、クルーザー以外にボートのようなものは無いのですかな?」
「申し訳ありません。夏場であればエアボート等の手配はしたのですが……」
「大丈夫だよっ!!行き先は告げてなかったとしてもフェリーに乗ったことくらい記録に残っているだろうし、きっとわたし達が帰ってこない事を心配して気付いてくれるよっ!!」
「けどよ!この中に殺人鬼が紛れ込んでいるかもしれないんだろ!?数日も経たないうちに俺たち全員殺されるんじゃないだろうな!?」
「それなら対策はあります!マスターキーは森さん達が管理していますし、部屋に一人でいるときは鍵をかけたまま、いつ誰が来ても絶対に扉を開けない様にしてください。もし、行動する場合は三人以上で行動するよう心がけてください」
「ってことは、ビーチバレーもできるし、遊んでいる間はそこにいるみんなが安全ってことだよねっ!やろうよっ、ビーチバレー!!」
「俺は無駄な体力を使うつもりはねえよ!部屋でのんびりさせてもらうぜ」
「わたしも忘れないうちにまとめておきたいし……パスさせてもらうわ」
「光さん、ごめんなさい!ビーチバレーに行った方が安全なのは分かるんですけど、わたしどうしても怖くて」
「気にすることないよ、葉月ちゃんっ!今夜またみくるちゃん達とトランプしようっ!!」
返事は無かったが園部の表情は明るくなっていた。みくるたち三人が自席に付き食事を再開。朝倉は飲み物の要望に応えていたが、園生さんは動く気配が無い。
「あの……一つ皆様に提案があります。朝食を摂るのもこんな時間になってしまいましたし、午後から天候が崩れる心配もございますので昼食を遅らせて二時ごろからというのはいかがでしょうか?それならビーチバレーもより長く楽しめるかと……」
「うんっ!それだよっ!!やっぱりお腹が減っているときに食べなくちゃ駄目だよっ!!わたしは賛成っ!」
「わたしもそれがいいです。お昼だとあんまり食べられそうにないですし」
「少しでも食料が持つのなら私も賛成です」
「ふふっ、この機会にダイエットしてみるのはどうかしら?齊藤さん」
「ふはははは、違えねぇや!いいぜ、俺も乗ってやる!それと、服部さんがあの世に逝っちまったのなら、あの野郎の分は俺がいただくぜ!!食料ならたんまりあるんだろう?」
「勿論でございます。では、午後二時にこちらの食堂にお集まりください」

 

 そのまましばらく会話をしながら食事を続け、ビーチバレーに参加するのが獅○、桜○と青古泉たち四人。みくるはミニスカートではビーチバレーができないということで、そこでも着替えシーンを入れることになった。二人前をぺろりと平らげたシドが先に食堂から姿を消し、俺、齊藤、一色、園部が食堂からいなくなったところで有希が「カット!」の合図をした。
「圭一さん二人分も食べて大丈夫ですか!?」
「さすがにちょっと食べ過ぎたようだ。誰か交代してもらえないかね?」
「有希、次は遊技場の撮影だったな?メンバーを入れ替えるか、麻雀牌に細工でもしないと時間がかかり過ぎる。明日以降に回して、昼食のシーンの撮影にしないか?どの道、シドは昼食には現れないし、配膳はされても料理に手をつけることもない。みくると青ハルヒの着替えシーンならいつでも撮れるはずだ」
「分かった。今日はそれがラスト。あなたかジョンが例の部屋の準備をして」
『服を変えてシドの首を置くだけだ。俺が行く。キョンは昼食を並べてくれ』
「すまん、よろしく頼む」
「私の出番も終わったし、我々で食器を洗っておく。君たちは撮影を続けてくれ」と圭一さんからのありがたい配慮を受けたが、本社から持ってきたものでもないし、情報結合を解除して昼食用に再結合すればそれで済む。セットの準備が整い、食堂には俺、一色、園部、齊藤の四人と昼食の開始を待っている園生さんと朝倉の計六人。ビーチバレーを終え、自室で着替えてきた獅○達が食堂に集まった。
「みんなおかえりなさい。どうでしたか?」
「初心者ばっかりなのにあんなに白熱するなんて吃驚だよっ!」
「六人ってことは三対三で試合していたの?どんな結果になったのか教えてもらえないかしら?」
「最後は点数なんて数えてなかったから、どっちが勝ったかなんて分からないわよ」
『俺は上がった球を撃っていただけだ』
「朝比奈さんがあんなにレシーブが上手いなんて初めて知ったよ。バッティングセンターに通っていた成果か?」
「ったく、結局俺にセッターを押しつけやがって『ボールを持ったら駄目っ!』なんて言われてもそう上手くいくわけがあるか!!……ってシドはどうしたんだ!?」
『!!!』
「とにかくシドの部屋に行くぞ!」

 

 青古泉の一言をきっかけに全員が走りだす。
「ちょっと一樹!どの部屋だか分かるの!?」
「玄関を入ってアイツは左に行った。服部と反対なら一番奥のはずだ。なにより使っていない部屋は扉が開いてる!」
「一樹君ってトップスタイリストじゃないのっ!?なんだか刑事みたいだっ!」
『そこの刑事さんからスカウトされたんだよ』
「冗談言ってる場合!?」
『それが真実だろ?』
ジョンの一言に言い返す暇もなく、シドの部屋の前に全員が辿り着いた。みくるが全員を代表するかのようにシドの部屋の扉をノックする。
「ここで間違いなさそうね。シドさん?いらっしゃいますか?……シドさん!?仕方ないわね。朝倉さん、マスターキーを!」
「すぐにお持ちします!」
朝倉がマスターキーを取りに行こうとした瞬間、青古泉がハッとしてドアノブを掴んだ。
「嘘、開いてる……?」
「中を確認する!見たくない奴は見るなよ!?」
その一言でシドの生首を連想してしまった女性陣が眼を瞑る。って、しまった。みくると交代しておくのをすっかり忘れていた。大丈夫なのか……?この後。
「……誰も、居ないぞ?」
『誰も居ない!?』
「本当ね、ベッドは使った形跡があるし、彼の荷物も置いてある。あたしたちがビーチバレーをやっている間もクルーザーの音なんてしなかった!彼は一体どこに行ったの!?」
『おい』
「ちょっとあんた!そんな場所全然関係ないじゃない!」
『俺たちが館内を回っていたときは開いていたはずだ。だが、今は閉まっている』
「朝倉さん、この部屋は本来何に使われる部屋だったのかご存じですか?」
「拷問部屋だったと聞いています。ですが、武器を飾るだけならまだしも、拷問部屋まで忠実に再現するのはためらったそうで、パイプ椅子が一つあるだけの主の瞑想部屋だったと」
「マスターキーをお願いしてもいいですか?」
「かしこまりました」

 

「ま……まさか、この拷問部屋にシドさんが!?嫌だ……いやだああぁぁぁ!!」
「光さん!わたし怖くて見てられない!!」
「大丈夫だよっ!『見たくない奴は見るな』って一樹君が言ってた。葉月ちゃんは絶対にわたしが守ってみせるっ!」
「これがマスターキーです!」
青古泉が鍵を差し込むと、ロックが解除される音が鳴った。重い鉄の扉を慎重に開いた。
「遅かったか……」
パイプ椅子の背もたれに上半身を預け。右手にはこの部屋の鍵が握られている。シドの頭部は冷たいコンクリートの床に転がっていた……。
「こっ、殺される!みんな殺されてしまうんだ!!うあああぁぁぁ!!」
「齊藤さん!単独行動は危険よ!!」
『心配することはない。自分の部屋で閉じこもるだけだ』
「とりあえず、他のみんなは食堂に戻ってくれ。くれぐれも単独行動はするなよ。ハルヒ、みんなを頼む」
「分かった」
食堂に戻っていくメンバーが角を曲がって青古泉たちから見えなくなったところで有希の「カット」の声が入る。
『夜は軽食だから、殺害現場を調べるシーンを撮影して終わりにしましょ!』
『キョン君、また代わってもらってもいいですか?』
『ああ、心配いらん。みくるは様子を見ていればいい』
『キョン君、ありがとうございます!』
みくるがNGを出すかとも思ったが、どうやら杞憂に終わったらしい。死体を発見するところをしのげば、そのあとは俺と交代できるからと何とか堪えることができたのかもしれん。俺、ジョン、青古泉による殺害現場の捜査が始まった。

 

「本当にパイプ椅子しかないな。あとは精々あの小窓が開いている程度。鍵は死体が握っているし、密室殺人ってことになりそうだ。これを解かない限り、事件は解決できそうにないな」
『こんなもの、俺にとっては密室でも何でもない。あらかじめ、脚立であの小窓の鍵を空けておき、外からロープを伝って下りてくる。先に殺害しておけば逃げられることもない。あとはロープを昇って外に出るだけだ』
「あたしもジョンと同じ考えよ。ジャンプしてもあの小窓には届かないだろうけれど、ロープ一つで解決するわ」
「そのロープを結ぶ場所がどこにもないんだよ。あとで確認することになるだろうが、この扉のノブに触れた瞬間にこの館の屋上の情報が伝わってきた。アイツ等がその程度のトリックでシドの死体をここまで運ばせたとは俺には思えない」
「それもそうね。でも、念のため本当にロープを結ぶ場所がないか確かめる必要がありそうだわ。だけど、ロープを使わないで一体どうやって……それに、この殺害現場、明らかにおかしいのよ。服部殺害のときもそうだった」
「おかしいって何のことだ?」
「血の量よ。首まではねているのに、この血の量はいくらなんでも少なすぎるわ!」
「シドの部屋で殺害して首をはねたんじゃないのか?警察が来られないのなら、血を拭き取るだけで済むだろ」
「一応、シドの部屋のルミノール反応を調べるわ。鑑識が来られないことを見越して計画を立てているでしょうから。でも、部屋で首をはねてからここに運びこむなんて考えられないのよ。大量の血を拭き取っていたら時間がかかり過ぎて、誰かに見つかる可能性が極めて高くなるし、床に刀で斬った跡のようなものはなかった」
『ベッドのシーツを被せてから首をはねればいいだろう。リネン室に行けば、シーツや枕カバーのストックがあるはずだ。こんな孤島の別荘なら尚更な』
「確かに、シーツを使えば返り血を浴びることなく犯行に及ぶことも、廊下に血液が付着することなく服部の胴体を運ぶことも可能ね。でも、首をはねるときには使えそうにないわ」
『どういう意味だ?』
「首の斬られた位置が問題なのよ。ただ首をはねるだけなら、こんな首の根に近い位置ではねる必要はないわ。シーツを被せて斬ったとしてもあんな小窓からの光やこの部屋の照明じゃ、シルエットもロクに映らないでしょうし、ここまで正確に斬ることができるかしら?」

 

『この部屋で得られる情報はどうやらこれだけのようだな。確認するのなら、さっさと済ませてしまおう。雲行きが怪しくなってくるんだろ?』
「一樹君、サイコメトリーの方はどう?」
「駄目だ。ロープが使えないことと、あの小窓付近の指紋がすべて拭きとられていたことくらいしか分からない」
「それだけでも有力な情報よ。あの小窓が何らかの形で使われたことに違いないわ!」
「ところで、確認に行くのはいいが、ハルヒ達はどうするつもりだ?」
『ついでに、齊藤が殺られる前に、例の事件のことを聞いてみたらどうだ?』
「そうね、行きましょ」
犯行現場から出た後、外で待っていた園生さんにマスターキーを返したところでカット。これで第九話のほとんどを撮り終えたも同然だ。
「有希、一時間の枠の中に収まりそうか?」
「あなたが言っていた通り、遊戯室でのシーンは短時間で収める必要がありそう。ビーチバレーのシーンもそう。でも、朝比奈みくると涼宮ハルヒが服を脱ぐシーンは必要不可欠。あとは、テーブルの裏でサイコメトリーしているところでランジェリーが見えるくらいでそれ以外にチャンスはない」
「なら、遊戯室のシーンは最終話に回そう。青古泉たちが遊戯室でのシーンを回想する程度で済む」
「分かった。時間の計算も必要。最終話の脚本も見せて」
「有希だけ解決編入りの脚本になりそうだな。夕食で配って読んでおいてもらうことにしよう。撮影する順番を決めておいてくれ」
「問題ない」

 

手つかずの昼食に現状維持の閉鎖空間を張って本社に戻ると、撮影以外のメンバーが軽い夕食にありついていた。
「あんた達だけで先に食べているって一体どういうことよ!?」
「たかが軽食で文句を言うな。第九話のほとんどを撮り終えたんだ。この後の打ち上げで盛り上がればいいだろ?それより、漆黒の翼に合うドレスは用意してあるんだろうな?」
「問題ない。わたしがデザインした。あとはコンサートライブ終了後に着替えるだけ」
「それはいいことを聞きました。第九話を先に見せていただけませんか?実際に見てみないと分からないものもありそうです。それに、第五話と第六話の披露試写会は日曜だと有希さんが仰っていましたが、おススメ料理の関係で、とてもじゃありませんができそうにありません。月曜日は今年最後の夜練ですし、火曜日の夕食時に第九話の披露試写会というのはいかがです?」
「くっくっ、撮影に参加している間もずっと考えていたんだけどね、役を演じている僕たちでさえあの密室トリックは未だに解明できていないんだ。ついさっき、その密室の現場検証のシーンを撮ってきたばかりなんだけどね。モニターで見ている間も何も閃かなかったよ。本当にロープを使わずにあの密室から脱出できるのかい?」
「さっき有希とも話していたんだが、今から有希以外のメンバーには解決編を取り除いた最終話の脚本を渡す。時間の関係で第九話の遊戯室でのシーンは最終話に回すことにした。最後くらいなら多少延長してもTV局側が何とかしてくれるはずだ」
有希には解決編が書きこまれた脚本を、それ以外のメンバーにはその部分が空白の脚本を情報結合した。
「キョン、これじゃ90分スペシャルにしても収まりきらないんじゃないのかい?」
「えっ!?青佐々木先輩、なんでそんなに読むのが早いんですか!?」
「脚本をサイコメトリーしただけさ。内容が濃すぎて、時間短縮したくてもどのシーンも削れそうにないよ。カルニアデスの板の次はバックドラフト現象かい?最後まで目が離せそうにないじゃないか」
『バックドラフト現象?』
「酸素がほとんど無くなった密閉空間に急激に酸素を取りこむと大爆発を起こす現象のことです。あの館の窓は閉鎖空間で割れない様になっていますから、玄関で待ち伏せている彼を倒したとしても、扉を開けた瞬間に木端微塵というわけです」
「それでみくるちゃんが『開けちゃ駄目よ!』なんて叫ぶわけね」
「おっと、言い忘れるところだった。三人とも、ライブの後のパーティで俺のことを『キョンパパ』とか『伊織パパ』って呼んじゃ駄目だぞ?『キョン』でもアウトだ。パーティ中にそれを言ったらケーキは食べられないからな?」
『じゃあ、何て呼んだらいいの?』
「パーティの間だけだ。『ねぇねぇ』くらいで話しかけてきてくれればいい。他のメンバーもパーティ中はそれで通してくれ。俺はレストランの方に向かう。後のことは宜しく頼むな」
『問題ない』

 

 古泉と、青ハルヒは軽く食べ物をつまんでからそれぞれのホテルに向かうはず。やることは昨日とほとんど変わらん。スカ○ターで敷地外のSP達の様子を見ていた。コンサートに加えてライブもあるせいかもしれん。報道陣が紛れているのは変わらず、有無を言わさず牢屋に入れられていた。天空スタジアムの方は観客が全員いなくなるまではみんなが滞りなく進めてくれるはず。明日は何の撮影から始めるかが問題だ。第九話で残っているのは園生さんが青古泉の部屋に入ってくるシーン、みくるがビーチバレーに行く前に着替えるシーンと、初日の夜のみくると青ハルヒが風呂に入ろうとするシーン、屋上と青ハルヒが例のメッセージカードを玄関前で確認して暴風雨の中洞窟に向かうシーン、齊藤の部屋に集まっていたメンバーを先に昼食を食べているシーン、みくると齊藤が扉越しに話しているシーン、最後にビーチバレーのシーンか。明日は青新川さんの出番はないかもしれん夕食まで頼んでしまった方がよさそうだな。遊戯室のシーンは最終話に回したから時間内におさま……しまった!遊戯室でのシーンも第九話に入れないとあの密室トリックが解けない!やれやれ、ハルヒの言ってた「第九話だけで本当にトリックや証拠がわかるんでしょうね!?」が現実になるところだった。有希に後で相談しよう。しかし、いくらアホでも分かるようにするとはいえ、ちょっとやりすぎじゃないのか?殴りかかってきた報道陣を避けて殴り返すところまでは昨日と一緒。だが、そのあと報道陣の後頭部を掴んで閉鎖空間の壁に顔面を何度も叩きつけていた。
「ほら、どうした?通りたいんだろう?通してやると言っているんだから、さっさと通れ!」
「痛っ……分かっ、分かった!認める!報道関係者だと認めるから、止めてくれ!!」
その一言を聞いて青俺が手を離すと、顔に手を当てながら立ち去っていった。その現場を歩道の反対側だけでなく、列に並んでいた観客からもしっかりと動画に収められていた。信号が切り替わるのを待って、周りに嘲笑われながら駅へと向かっていく。そうやって全国民にバカにされ続ければいい。そういや、周りに忌み嫌われる様になった奴と、不要物のテレポート先をアホの谷口から変えた奴は今頃どうしているだろうな。まぁ、俺には関係ない。

 

 全てのおススメ料理を出しつくし、あとは影分身と現地スタッフに任せて天空スタジアムの中へ。スタジアム中からアンコールの声が鳴り響いていた。再び照明の当てられたステージにハルヒ達が現れて会場内が熱狂。
「みんなありがとう――――――――――――っ!!それじゃ、アンコールにお応えしてあたし達とENOZの新曲で終わりにしたいと思います!!」
「YEAR―――――――――――――――――――――――――――――――――!!」
「一月から始まる古泉君とみくるちゃんのドラマのオープニングとエンディングになるので、是非そっちでも聞いてください!サイコメトラーItsuki、セカンドシーズンオープニング曲です!Super Driver!!」

 
 

…To be continued