500年後からの来訪者After Future7-9(163-39)

Last-modified: 2016-12-09 (金) 10:27:39

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future7-9163-39氏

作品

最終回の撮影も中盤に入り、第一、第二の事件が起こってしまった。これで俺の考えた密室殺人が現実に起こったものとして撮影され、佐々木たちは役を演じているときも、現場検証の様子をモニターで見ていたときも、トリックとその証拠をずっと考えていたらしいのだが未だ掴めず。解決編を取り除いた最終話の脚本を全員に配ったが、第九話が終わった時点でトリックと証拠が分かるように修正する必要が出てきてしまったようだ。SOS団とENOZのアンコール曲も終え、楽団員がアリーナ席の椅子を片付け始めた。

 

『料理のテレポートとテーブルや椅子の準備は俺がやる。邪魔にならないような位置にいてくれ』
『問題ない』
これで今年は28日の忘年会でおしまい。パイプ椅子は一度情報結合を解除してもいいかもしれん。クリスマスケーキの移動については古泉に任せるとして、作っておいた料理をビュッフェ形式で情報結合&テレポート。二か所に同じような台が設置され、料理が並べられた。用意した料理は、大皿にまんべんなく盛られたクラブハウスサンド、自家製オーブンチキン、パエリア、ハンバーグと特製デミグラスソース、ビーフシチュー、アボガド&トマトのサラダ、生ハムメロン、その他新川流クリスマス料理の数々、ミニサイズのクリスマスケーキとしてショートケーキ、チョコレートケーキ、ロールケーキ、ティラミス、レアチーズケーキの五種を用意した。それぞれに料理名や使っている食材を記載したプレートが置かれている。テレポートされた料理の数々に楽団員一同『おぉ―――――!!』と一言。社員食堂と同じテーブルや椅子を情報結合して準備は整った。ステージ上に立った古泉がマイクパフォーマンス。
「皆様、二日間続いたコンサートライブお疲れ様でした。では、これより打ち上げパーティを開催致します」
楽団員からの拍手が古泉に送られている。俺も自分に鈴木四郎の催眠をかけてステルスを解いた。コンサートが終わるごとに打ち上げしているだけあって、何も指示されることなく互いのグラスに飲み物をついでいた。
「はい、あんたも」
「ああ、ありがとう。こりゃまた良いドレスを仕立ててもらったな。似合ってるぞ、ハルヒ」
「フフン!有希があたしのために用意してくれたんだから当たり前じゃない!あんたがくれたネックレスとも合うようにしてくれたし、有希にちゃんとお礼しておかなくっちゃ!」
「ああ、そうだな」
「あと一回、忘年会がございますが、コンサートは今日で最後になります。短い期間でしたが、皆様本当にありがとうございました。今後ともよろしくお願い致します。乾杯!」
『かんぱ~い!』
「それでは、しばらくご歓談ください。尚、今回の料理も社長が用意していったものです。どうぞご賞味ください」
『これ全部!?』なんて声が上がっていたが、本当のことだからな。年越しで影分身しながら寿司を握っている様子を見せれば少しは納得するだろう。俺も料理を手に取ることにしよう。みくると古泉は……こういうときどうするかくらい言わなくても分かるだろ。楽団員たちも男性陣はオーブンチキンをそのまま手に取ってかじりつき、小皿に限界まで盛ったパエリアやハンバーグをテーブルまで運んでいる。女性陣はスイーツ五種すべてを小皿に盛ってこちらもテーブルまで運んでいた。料理人冥利に尽きるってヤツだ。作った料理を『美味しい』と言ってもらえれば嬉しくない奴などいない。

 

 しばらくして、古泉が再びマイクを手に取った。
「皆様、ステージ上をご覧ください。発案は社長ですが、僕の方で作らせていただきました。クリスマスツリーに見立てたウェディングケーキ並のクリスマスケーキです。二つ同時に箱を開けたいと思いますので、パフォーマンスと合わせてご覧ください」
ステージ上に立ったハルヒと青みくるの斜め前に円形テーブルに置かれた縦長の箱がテレポートで現れた。ハルヒは自分でやっているだろうが、青みくるの方は……今回は古泉かな。そろそろ情報結合ができるようになってもおかしくないレベルまで来ているだろうが、五日のコンサートで最後だ。その後はみくるのイヤリングに切り替わる。ハルヒと青みくるが羽を広げて宙を舞い、プレゼントボックスを少しずつ上にあげていく。クリスマスツリーに見立てたケーキが姿を現した。色が色だけに楽団員の反応も今一つだったが、どんなケーキなのか説明されれば飛び付くだろう。
「ほとんど緑色ですので抹茶を使ったものだと考えられる方も多いと思いますが、このケーキはすべて野菜だけで色づけされたものです。部位によって使っている野菜が違い、当然味も変わってきます。さらに、一番上の星もシュークリームを型枠で成形して金箔を張ったものでこちらも食べることができます。日本代表チームに食べ放題ディナーとして出した野菜スイーツを一つにまとめたクリスマスケーキです。砂糖は1gたりとも使っておりません。低糖質低カロリーでバランス良く栄養を摂取できる優れものです。これから部位ごとに切り分けますのでご賞味ください」
反応は様々だが、ほぼ全員がクリスマスケーキに興味を持ち、ステージの近くへと歩みよっていく。翼の情報結合を解除したハルヒと青みくるが一段ずつ降ろしてはケーキを小分けにして楽団員に配っていく。子供たちはその後ろでジャンプしながら見ていた。
「尚、来週の忘年会では日本代表チームに出した野菜スイーツがそのまま出てまいります。そちらも低糖質低カロリーでケーキが無くなるまで食べ放題です。忘年会を楽しみにしていただければ幸いです」
女性陣が大喜びで小分けにされたケーキに手を伸ばしていく。野菜だけの甘みに驚きながら周りにいた楽団員とケーキを分け合って食べている。子供たちもようやくハルヒからケーキを受け取ることができて満足していた。身内にも俺には見えない様に催眠をかけたが、俺だと分かったらしい。子供たちが俺のところに近寄ってきて、『ケーキ美味しい!』と一言。それからしばらく、時間のことも考慮して「料理に満足された方から解散という形にしたい」と最後の一言を告げ、打ち上げパーティを無事に終えることができた。

 

「それにしても、二日間ハードだったわね!流石に疲れたわよ」
「ハルヒが疲れたなんていうのも珍しいな」
「いくら脚本をサイコメトリーして、獅○光がどんな性格の持ち主なのかアニメで見て知ってても、演じるのってやっぱり難しいわ!青みくるちゃんも凄いわよね。怖くも何ともないのに恐怖に脅えなくちゃいけないんだから!」
「それが分かっただけで十分だ。ストレスが溜まっている振りをしなくちゃいけないみくるが、シャンプーし始めた瞬間に表情がガラッと変わった理由が判明したようなもんだ」
「それもそうね。NG集どんなのにしようかな。それに有希、なんかついでみたいな言い方しちゃって悪いんだけど、ドレス仕立ててくれてありがとね!キョンから貰ったネックレスにも合うようにしてもらえて嬉しかったわ!」
「問題ない」
「ところで有希、タイタニック号のシーンを除いた全シーンを撮影して、三時間分くらいになったらどうする?90分を二回にするか第十話、最終話にするかで迷っているんだ。遊技場でのシーンは服部と一色、桜○と俺は出ないことにしたい。桜○の理由は簡単だ。園生さん達の手伝いの為に早く寝る。それだけだ」
「今、TV局にそんな電話をかけても無理。年末年始の特番で余裕がない。遊技場のシーンはあなたの設定で撮影する。明日は朝食後から撮影に入るのがベスト。青チームの涼宮ハルヒのビラ配りは彼の影分身に任せるだけ」
「撮る順番はもう決まったか?」
「古泉一樹が火曜日に第九話の披露試写会と提案している以上、ラスベガスで挑戦状を叩きつけられるシーンから撮影して孤島に移る。まずは二人の着替えるシーンから」
「明日、青新川さんは料理に集中してもらうってことでどうだ?今日も折角来たのに厨房で料理をしているって設定だけで出番がなくて申し訳なかったからな」
「問題ない。わたし達の明日の昼食は孤島で撮影をしながら食べる。でも、撮影が終わったらシドの分はわたしが食べたい」
「ちなみにファーストシーズンのラストで似たようなことをしていたから大丈夫だとは思うが、みくると齊藤が扉を挟んで話しているシーンを一つのカメラで両方撮ることは可能か?」
「大丈夫、わたしに任せて」
「ところであんた、どうして設定変えたのよ!?麻雀でも何でも、やればいいじゃない!」
「事件に関連する内容が絡んできて帳尻が合わなくなったんだよ」
「ってことは、あの密室トリックに関係するってこと!?」
「バレちゃあ仕方がないな。他言するなよ?」
「当っ然よ!有希の次は絶対にあたしが解いてやるんだから!」

 

 翌朝もTBS以外のTV局はVTRを放映、取材許可の降りている新聞社二社がレストランの様子を記事にしていた。みくると青ハルヒの着替えシーンの撮影用に有希からランジェリーが手渡され、青新川さんにも昨日撮影に参加してもらっていた件を謝罪して、今日の食事についてOKをもらった。
「ところで、ドラマ撮影とはまったくの別件だ。レストラン前の報道陣の侵入をいつから出すかの相談をさせてくれ。個人的にはこのままいけば一月末まで。もしその間に何かまた暴言が飛び出したり、許可が下りた後の行動があまりに酷いようならまた制限をかけるつもりでいる」
「そうですね。来週はあなたと涼宮さんがいなくなってしまいますし、年明けからOKというのも僕としてはいささか納得ができません。その案でいいかと」
「確かに、通ることができるようになったからといっても、そのあとの行動が伴わないのなら僕はシーズンが終わるまででも良いと思うよ。立札に注意書きをする必要もない。そのくらいは一般常識だ」
「今度はレストランに監視カメラを設置する必要がありそうね。強引な取材をしたり接客の邪魔したら即刻退場させてやるんだから!」
「問題ない。映像の編集は任せて」
「なら、今の状態を維持していれば一月末。それまでにまた暴言があれば一ヶ月延長。許可しても行動によっては再度制限をかけて今シーズン中はレストラン内には入れない。それでいいか?」
『問題ない』
「じゃあ、圭一さん。明日以降、人事部の社員に連絡をお願いします」
「分かった。そのように伝えておこう。ところで、私は役目を終えたが、撮影を見に行っても構わないかね?」
「僕も撮影を拝見させてください。現場を見てトリックを暴いてみたいんですよ」
「着替えのシーンもあるが……有希、大丈夫か?」
「問題ない。そのときはあなた達が外にいればそれでいい。どの道、古泉一樹の発言通り火曜日に披露……試写会ができない。忘年会と被る」
『あ――――――――――――――――――っ!!』
「これは大変失礼を致しました。とんだ失態をしてしまったようです。では、翌日の水曜日ではいかがでしょう?夜練もありませんしその日なら大丈夫かと……」
「とにかく、まずは完成させないとな」

 

 まず向かったのはラスベガス。青古泉の部屋に園生さんが訪れる、最終回最初のシーン。呼び鈴が鳴って青ハルヒが応対する。
「は~い、どちら様………ゲッ!?あんた!一体何しに来たのよ!?」
「どうかしたのか?ハルヒ……って、おまえ!!」
「こんばんは。今日はあなた方に招待状をお届けにあがりました」
「招待状だぁ!?そんなものを貰って俺たちが参加するとでも思っているのか!?」
「ええ、あなた方は参加せざるを得ませんので。これがどういう意味か、お分かりですね?」
「あたし達と関係のある人達を殺すって言いたいの!?」
「その通りです。勿論、あなた方も含めて。何人でもいいように団体客用のフェリーを手配しましたので、中に詳細がありますので、『皆さんで』お越しください。お待ちしております。では、失礼致します」
室内にしばしの間、沈黙が流れ、招待状を握りしめた青古泉が叫ぶ。
「上等だ!今度こそケリをつけてやる!!ハルヒ、おまえはここに残れ!」
「嫌よ!あたしも一緒に行くわ!!誰かに監視されているかも分からない状態でいるなんてゴメンよ!あたしだってアイツ等と決着をつけてやるんだから!!」
このシーン後オープニング。そのあと、フェリーから降りてくるシーンに繋げられる。第七話、第八話の収録もできたが、今回は最終回の事件を優先する。孤島にテレポートしてまずは館をブラインドフィールドで覆い、一日目の夜に風呂に入ろうとみくると青ハルヒが服を脱ぐシーン。既に有希の指定したランジェリーはドレスチェンジ済み。服だけ脱いで問題なく撮影を終了、同様にビーチバレー前後のみくるの着替えシーンも撮影された。当然ドレスチェンジして別のランジェリーに切り替わっている。風呂は一日目のシーン、ビーチバレーは二日目だからな。

 

「じゃあ、青古泉君とジョン入って。屋上を確認に行くシーンの撮影をするわ!」
みくるが部屋の窓を開けて屋上に上ろうとするところからスタート。
「朝比奈さん、俺やジョンが先に行った方がいいんじゃないのか?」
「もう少しなのよ!一樹君、肩貸して頂戴!!」
『肩!?』
何をする気なのかと分からない三人を撮影して一旦カット。窓に腰かけて外に落ちないよう窓と壁を掴んで青古泉が堪えている。そして、青古泉の方の上にはみくるの両脚が乗っていた。
「一樹君、上見ないでよ?」
「上!?」
素直に上を見上げた青古泉にみくるの着けているランジェリーが映る。当然ここもカメラに収まっていた。
「あんたバカ!?見ないでって言われたのにどうして見るのよ!?そのくらい察しなさいよ!」
「悪い、つい朝比奈さんのセリフにつられて……だが、屋上に登ることはできたようだ。ハルヒ、今度はおまえが行け。俺はサイコメトリーで屋上の様子は知ってる。最後でいい」
青ハルヒ、ジョンが屋上へと登り、ジョンの手を掴んだ青古泉がようやく屋上へと登ってきた。肩についた靴跡を払っている。
「俺の言った通りだろう?この屋上のどこにロープなんてひっかけるつもりだ?それに、俺の肩に乗ってようやく登って来られたんだ。服部やシドのような奴でもない限り、登ることすら無理なんじゃないのか?」
青古泉の問いに誰も答えないまま辺りを見渡す三人。みくるとジョンは屋上からの様子を携帯で撮影していた。
『とりあえず、めぼしい場所の写真は撮れた。次だ』

 

 次にやってきたのはシドの部屋、みくるが口臭スプレーのような容器を取り出し床に噴射しようとしたところで青古泉が止めに入る。
「朝比奈さん、それ、血液の反応を見るスプレーだろ?やるだけ無駄だ」
「一樹君、それは一体どういうこと?」
「あのときはこの部屋に誰もいないことだけ分かった時点でジョンが鉄扉に気付いた。ようやくサイコメトリーできたよ。どうやって扉を開けさせたのかは不明だが、返り血が付着しないようにシーツ越しに数回刺して仰向けに倒れたらしい。そのあと、首の下にシーツを何重にも折って首をはねたんだ。この情報は操作されてない」
『だが、それでも犯人に返り血はつく。シドの首にシーツは被せてないんだろ?』
「あのな!今の俺の職業を何だと思っているんだ!美容院で使用するようなケープ代わりにすれば返り血を浴びずに済むだろ!腕だって枕カバーを繋げるだけで十分だ」
「分かった。あたしも少量しかもってきてないし、一樹君のサイコメトリーを信じるわ。この部屋にまだ情報が残ってないか見てもらえないかしら?あたしはその間にシドの荷物を調べるわ!」
「ああ、任せろ!」
みくると青ハルヒでシドのバッグの中身を調べ、青古泉が部屋中を隈なくサイコメトリーしてまわった。
「あんたも少しは手伝いなさいよ!」
『シドはここに旅行をするために来たんだぞ?他の目的で来たのなら話は別だが、服部や獅○の名前を聞いて愕然としていたんだ。持ち物検査をしても無駄だと言ったのは……誰だったかな?』
「そうね、何か特別なものが混じっているわけでもないし、財布を盗まれているわけでもない。特になくなっていそうなものも思いつかないし……一樹君、そっちはどう?」
「さっきと似たようなイメージしか流れてこない。肝心なものについてはアイツに弄られている。でも、何か変なんだよな……」
「どういうことか、詳しく説明してもらえないかしら?」
「アイツが敷いたレールに乗せられているような感じがするんだ。情報をめちゃくちゃにされている方がまだマシだ。『シドの殺害はこうやって行われました』と教えられた気分だよ」
『要は、アイツが俺たちをミスリードしようとしているってことだな』
「真相は、もっと別なところにある……か。部屋に戻りましょ、光さん達の様子も気になるし、ドア越しに話してみることにするわ!一樹君、一緒についてきて!」
「また俺かよ……」

 

「まったく、やれやれと言いたくなりましたよ。シド殺害トリックのヒントすらまるで掴めません」
「それはこっちのセリフだよ。キミがいない間もずっと撮影に参加しているけれど、僕たちだってヒントすら掴めていないんだ。キョン、少しくらいヒントをもらえないかい?」
「有希はヒント無しでトリックを解いたんだ。分からないなら分からないでバラエティ番組に出てもらった方が都合がいいことだってあり得る。視聴者にはヒントすら与えてもらえないんだ。自分で答えを見つけろ」
「とにかく、次行くわよ、次!園生さんにマスターキーを返した三人が食堂にいる涼子から齊藤の部屋にみんなで集まっていると聞いて駆け付けるシーンね。そのあと、みくるちゃんと齊藤が話をするところ。それが終わったら昼食食べるわよ!」
『問題ない』
青ハルヒが齊藤の部屋の前にテレポートで移動し、青古泉たち三人が食堂へと向かっていく。
「あら?他の人たちはどうしたんですか?」
「齊藤様が部屋に閉じこもってしまいまして、一向に出ていらっしゃらないので他の皆様が『説得に行く』と仰って向かわれたのですが……」
『やれやれ、世話のやける連中だ』
「とにかく、あたし達も行ってみましょ!」
二階の一番奥は先に来た桜○に陣取られ、その横に園部、そして一色。齊藤の部屋は二階の一番手前。階段のすぐ傍で他のメンバーが集まっていた。
「どうしたの!?」
「さっきから何を言っても出てこないのよ。『一緒に昼食を食べよう』って何度も声をかけているんだけど……」
「こうなったらマスターキーを借りてきて強引にでも!」
「桜○君、それはだめだよっ!そんなことをしたら齊藤さんの逃げ場がなくなっちゃうよっ!!」
「分かったわ。みんなは食堂で待っててもらえませんか?先に食べてもらっても構いません。あたしが齊藤さんと話してみます。一樹君、一応護衛役ってことで居てもらってもいいかしら?」
「ああ」

 

 青ハルヒがみくる達を睨むように他のメンバーを誘導した後、辺りが静かになったところを見計らってみくるが話し始める。
「齊藤さん、朝比奈です!他の皆さんには食堂に戻ってもらいました。念のため、いつ……いえ、古泉君にも同席してもらっています。今朝、警察手帳をお見せした通り、あたしは刑事です。古泉君はあたしが事件のことで悩む度に助けてくれる人なんです!あたしと古泉君は、齊藤さんの言う『みんな』の中には入っていないと思うんです!部屋から出て来られなくても、あたしはそれで構いません。扉越しでいいですから、少しお話を聞かせてもらえませんか?この事件の犯人を突き止めて、齊藤さんを守りたいんです。話したくないことであれば、それでも結構です。こんな大きな声じゃ、他の皆さんにもあたしの声が聞こえてしまいます!扉の近くに来ていただけませんか?」
『事件のことで悩む度に助けてくれる人』という表現に青古泉が怪訝な表情を浮かべていたが、しばらく沈黙したあと、フロアを擦るような音が聞こえてきた。
「刑事さん、服部とシドが殺されたら、次は俺の番だ」
一人称が『私』から『俺』に変わったことにみくると青古泉が視線を合わせた。
「どうして次が自分だと思うんですか?齊藤さん、さっきは『みんな殺される』って言ってたじゃないですか。他の誰かの可能性だってあるわけですよね?」
「いいや、俺に違いない!あの事件のとき服部の口車に乗せられて……」
「事件というのは、光さんが二年前って言っていた事件のことですか?年齢もバラバラですし、皆さんどうやって知り合いになったんですか?」
「……そのときまでは、あの事件が起きるまではみんな赤の他人だったんだ。………二年前、俺は豪華客船に乗って顧客に絵画を届けに行くつもりだった。それなのに!その船の中で火災が発生して!!服部が高所恐怖症だというのは刑事さんも聞いていたはず。アイツの高所恐怖症はあの事件がきっかけなんだ!俺も!シドも!同じ高所恐怖症になってしまったんだ!!」

 

みくるが警察手帳に『内容をメモして』と書き、青古泉に手帳とペンを託した。
「火災が発生して……豪華客船から海に飛び降りた………ってことでいいですか?」
「最初に突き落されたんだ!!服部も!シドも!二人とも飛び降りるのを躊躇していたら、船員が二人の背中を押したんだ!!その光景を見て、海に浮かんで気絶している二人を見て、誰もそこから動かなくなってしまった!!それでも、二人を助けるために飛び降りたのが光さんだった。園部さんを抱いて一緒に飛び降りたんだ。服部もシドもあの二人に助けられたようなもんだった。俺もそれを見てようやく決心して飛び込んだよ。他の客たちも飛び込み始めて、海面に浮かび上がった俺の近くにあった救命ボートがたまたま服部たちの乗ったボートだった。似たようなボートに何人も乗り込んで、豪華客船に乗った客全員が乗りきれるほどの救命ボートが無かったんだ!俺たちのボートももう限界だった。その頃には服部もシドも意識を取り戻していたよ!とりあえず、これで命は助かった、そう思ったそのときだ!!服部とシドを押し倒した船員が俺たちのボートに乗り込もうとしてきたんだ!!乗り込もうとすればするほどボートが傾いて、今にも転覆しそうだった!!そしたら、服部とシドが二人で『そいつを振り落とせ』って叫んだんだ!!俺もそのときは自分の頭がどうかしてしまっていたんだと思ったよ。自分の持っているバッグで何度もそいつを殴りつけた。向こうも俺のバッグについているプレートを握って離そうとしなかった。それを見かねたシドがその船員を蹴り飛ばしたんだ!!突き落されたお返しだと言いたそうに!!そのおかげでそいつは気絶してボートから離れていったよ。でも、アイツが掴んでいた俺のプレートだけは引きちぎられてしまったんだ!!すり替えられることのないように俺のものだと分かるようにつけていたプレートだったんだ!!
服部とシドが殺された!次は間違いなく俺の番だ!!刑事さん、お願いだ!!俺を助けてくれぇ!!」
「分かりました。それで次は自分だと勘繰ったわけですね?齊藤さんから聞いたことは決して無駄にはしません。必ず犯人を突き止めます。ですが、それまで飲まず食わずじゃ餓死してしまいます。食堂から『あたしの分の食事』を運んできます。また声をかけますから、扉を開けて食事を取ったらすぐ閉めてください。あたしが齊藤さんの分の食事を食べます。もしそれであたしが死んだら、それ以降は助けが来るまで絶対にここから出ないでください。あたしが生きているうちは食事を毎食届けに来ます」
「う、ああぁ……ありがとぅ…ありがとうございます……」
「じゃあ、取りに行ってきますね」
みくるが立ち上がり、メモを終えた青古泉がそれについていく。
「一樹君、分かっているわね?」
「毒が入ってないか確かめるんだろ?テーブルに触れば全員分わかるから大丈夫だ!」

 

「カ――――――――――――――――ット!青みくるちゃん、最高よ!名演技だったわ!!これが映画だったらアカデミー賞で主演女優賞取れるわよ!!」
中年男役で主演女優賞が取れるか!阿呆。まぁ、映画のヒロインだったらと言いたいのは周りにも十分伝わっているみたいだし、良いだろう。時間も頃合い。食堂のシーンを撮り終えたら古泉たちは一旦戻ることになりそうだな。
食堂には沈黙を保ったまま、誰も食事に手をつけようとせず、朝倉や園生さんもその場で立って待っているだけだった。
「みくるちゃんっ!!齊藤さん、どうだったっ!?」
「自室で昼食を食べるって言ってくれたわ。安心して!すみません、料理を運ぶトレイをお借りしたいんですがよろしいですか……?」
「かしこまりました。少々お待ちください」
「わたしも手伝うよっ!」
「ごめんなさい。齊藤さんとは、あたしと一樹君の二人だけで行くって約束しちゃったの。心配してくれているのは齊藤さんにもちゃんと伝わっていたから、あとはあたしたちに任せてもらえない?」
「光さん、ここは二人に任せた方がいいよ」
「そうだね。でも、食事が食べられるようになってよかったっ!!」
「お待たせ致しました。どうぞ」
「(大丈夫だ。毒はない)」
トレイを受け取ったみくるが自分の席の料理をトレイに乗せ始めた。
「えっ!?朝比奈さん、何を……?」
「あたしの分の食事を齊藤さんに届けるのよ。齊藤さんの分の食事はあたしが食べる。齊藤さんとそういう約束をしてきたのよ!」
「そんなの駄目だよっ!!もし、齊藤さんの食事に毒が入っていたら、みくるちゃんがっ!!」
「だからって齊藤さんを見殺しになんて光さんならできるの?」
「それはそうだけど……でもっ!!」
「もしあたしが毒で死ぬようなことがあれば、すぐに全員の持ち物を検査してくれればいいわ!光さんにならそれができる!それに、刑事みたいな一樹君が必ず事件を解決してくれるわよ」
「嫌だっ!みくるちゃんが死ぬのを黙って見ているわけにはいかないっ!!」
『これだけの事件を起こす犯人だ。二人を殺害しただけでなく首まではねている。そんな奴が周りの人間の前で毒殺なんてありえない。いくら状況が変わったからとはいえ、自分のポリシーも貫けない腑抜けに殺される程、俺たちは軟じゃないってことだ。それで納得しろ!』
「とにかく、みんなは先に食べていて頂戴。二人で齊藤さんのところに届けに行ってくるから」

 

 そのあと、食事を齊藤の部屋の前に運びみくるが声をかけるシーンを撮影。扉を開けた瞬間、みくると青古泉が齊藤に見えるような位置に二人で座っていた。それを見た齊藤はこれで安心して食事にありつけるという表情を見せていた。食堂に戻って齊藤の席でみくるが食事をしているシーンを撮影し、古泉たちは本社へと戻った。
「みくるちゃんはビーチバレー用の服にドレスチェンジしてきて!ジョンはビーチバレーのシーンが終わったら天候を暴風雨に変えて頂戴!その間に遊戯室でのシーンを撮影するわ!」
『分かった。「暴風雨」でいいんだな?』
何か嫌な予感がするな。大丈夫か?おい。ビーチバレーに向かうのは獅○、桜○と青古泉たち四人。みくるのドレスチェンジを待って砂浜にテレポートした。
「いい!?あくまで全員バレーボール初心者なんだからそのつもりでプレーしなさい!いいわね!」
まずは六人でサークルを作りレシーブ練習からスタート。獅○が投げたビーチバレー用のボールにしどろもどろしながらレシーブをする桜○。
「おい光!レシーブってこんなに痛いのか!?」
「多分、慣れちゃえば平気だよっ!わたしも小手を打たれたときは痛かったもんっ!」
しばらく練習シーンを撮影してチーム決め。獅○、桜○、ジョンVS青古泉、青ハルヒ、みくる……って、いくら公平に決めたとはいえ、獅○と桜○が本当にド素人なら、力の差がありすぎる。まぁ、バスケもド素人か。青古泉にはクイック技は使わないように縛りをつけ、みくるがスライディングでレシーブするシーンも撮影。館に帰ってから着替えさせる口実だ。桜○にセッターを任せた獅○からの「桜○君、ボールを持っちゃ駄目だよっ!」の一言。あとはジョン、獅○、青ハルヒのスパイクシーンを撮影して終了。しかしジョンの奴、やけにスパイクに撃ち慣れているような気がするのは俺だけか?

 

 ジョンが天候を操作している間、地下遊戯室ではビリヤードをしている齊藤、シド。トランプに熱中している獅○と園部。そこにジョンに化けた俺を先頭に青古泉たち四人が入ってくる。
「おや?我々は麻雀ではなかったのですか!?」
「第九話の中に遊戯室でのシーンを入れながら、青古泉たち四人で情報を共有するシーンを撮影する。遊戯室に誰が居て、誰がいなかったのか。誰が何時頃に自室に戻っていったのかを一日目の夜の様子として組み込む。服部、一色、桜○、俺は遊戯室に現れなかったことも含めてな。桜○が現れなかった理由は二日目の朝に園生さん達の手伝いをするためだ。園部に『今日は早く寝るって言ってた』と説明させる」
「くっくっ、キミが設定を変えてまで第九話に組み込むということは、よほど大事なシーンだということになりそうだ。四人が居ないことと何時に誰がいなくなったのかが事件解決の鍵になりそうだね」
「楽しみですね。早く撮影を始めませんか?」
「ジョンが戻ってきてからだ。去年の年越しパーティのときと同じ仕掛けのはずだからな。作ってさえしまえば、あとは待つだけでいい。その間に青古泉たち四人の話し合いのシーンを撮る」
『それなら終わったぞ。しばらく時間がかかるが、情報を共有するシーンを撮影している間に暴風雨になるだろう』
「相変わらず、仕事が早いですね。シド役は僕がやります。始めましょう」
「まさかとは思うが古泉、おまえビリヤードまで弱いなんてことはないだろうな?」
「私も初心者だ。ここでのシーンに切り替えながら情報を共有するのなら、勝ち負けは関係ないのではないか?」
「いいから早く撮影するわよ!あたし達はババ抜きで勝負よ!」
セリフは特になし、ジョンの一言で三階の部屋から遊戯室へとやってくる。ジョンはシドと齊藤の二人とビリヤード。残り三人は二人でも楽しそうにトランプをしている獅○達の輪の中に入った。
「あっ!みくるちゃんっ!!みくるちゃん達も一緒にトランプしようっ!」
「ええ、いいわよ。あら?桜○君は一緒じゃないの?」
「今日は早く寝るって言ってた」
「アイツ、夕食にも寝坊してきたのにまだ寝足りないわけ!?」
「明日の朝、寝坊してこなければそれでいいよっ!でも、寝坊したときは……むふふっ」
「光さん、何もそこまでしなくても」
それを気に五人でトランプを始め、
「上っがり―――っ!わたしが一番っ!」
獅○のそのセリフが取れれば、遊戯室でのシーンは終了。獅○がトップになったところでトランプチームは解散。みくるがジョンに一言告げて遊戯室を出る。

 

「有希っ!第九話でまだ撮影していないシーンは!?」
「二日目の夕食と情報の共有、涼宮ハルヒが玄関前でメモを確認して暴風雨の中を歩いていくシーンの三つ」
「キョン、夕食の準備は?」
「用意してはあるが、さっき昼食を食べたばっかりだ。みんな腹いっぱいだろうからもう少し後の方がいい。それに次回予告と視聴者プレゼントのお知らせのシーンも撮影しないとな」
「でも、暴風雨にはなりましたけど、夜にならないと涼宮さんのシーンが撮影できそうにありません」
『そういうことなら、キョンが超サ○ヤ人でブラインドフィールドを展開するだけでいい』
「なるほど、閉鎖空間が広すぎて側面は見えないというわけですか」
「それじゃあ、シドの部屋の現場検証をしたあと、みくるちゃんと青古泉君が部屋に戻ってきて情報を共有するシーンから撮影するわ!ところでキョン、次回予告はどんなシーンになるのよ!?」
「台本通り、みくると青古泉、ジョンが二手に分かれて館内を探しまわるシーンを撮影する。セリフは撮影後に三人がアフレコするだけでいい。最後に青ハルヒが洞窟内で倒れているシーンを撮影して終わりだ。ついでに視聴者プレゼントも青ハルヒとみくるでアフレコしてしまえばいい。第九話の始まる前と次回予告のあとにそれを入れる」
「どうして二回も告知する必要があるのよ!?」
「最初に告知が入れば、録画する予定の無かった視聴者でも録画できます。視聴者プレゼントが黄僕のシャンプー&カットですからね。女性ファンは何度も見返して、トリックや証拠を推理して見せるはずです。我々ですらこんな状態ですから、ネットに議論スレッドが立ってもおかしくありませんよ」
「あたしは議論するつもりは無いわよ!でも、まぁいいわ。次のシーンの撮影に進みましょ!」
『問題ない』

 
 

…To be continued