500年後からの来訪者After Future8-13(163-39)

Last-modified: 2017-01-08 (日) 03:01:41

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future8-13163-39氏

作品

ついに始まった冬のオンシーズン。古泉がゾーン状態になれるようになったことも含めて、ダイレクトドライブゾーンでの戦術に日本代表の監督も唖然。俺たちがまだ見せていない戦術がもう二つと、零式改(アラタメ)があるんだがそれは三日目以降のお楽しみだ。一大戦争が終わってもジョンの世界ではハルヒ達は超能力者として覚醒した青古泉に挑み、俺はジョンと朝倉の二人を相手にバトルを繰り広げていた。その間、OG達は情報結合の練習兼商品作り。遊戯○芸人の方はもう一度収録をという話でまとまったが、アフレコの方はル○ン役の声優が揉めている状態。毎年恒例のコ○ンの映画のアフレコの方が先に来てしまいそうだ。

 

『みんな、時間だ』
バトルに一区切りついたところで、いつものジョンの一言。全員が気にしているのは当然ニュースの新聞の一面。ほとんどの新聞社の見出しに『直結連動型ゾーン』と漢字で書かれ、その横に『ダイレクトドライブ』とルビがふられていた。VTRもディナーよりも練習試合最初の二セット。最後に監督と俺のコメント。81階で見ていたんじゃないのか?と聞きたくなるほど、ハルヒが鼻を高々としていた。
「フフン、あたしたちのレシーブ力があってこその技よ!」
「監督のコメント通り、『スパイカーが防御に転じる隙も与えない超速攻技に日本代表も大苦戦!』と書かれているようですね。『囮もキョン社長の集中力の前では無意味!男子日本代表優勝確定か!?』ですか。司令塔と三枚ブロック、零式改(アラタメ)なら可能でしょうが、ダイレクトドライブゾーンは男子日本代表にはまだまだ厳しそうですね」
「何にせよ、今日の練習試合はスパイカーは一人。ブロックに行かない分、空いているスペースに間違いなく叩かれる。それを見極めて指示を出すつもりだが、ブロックに行くか?」
『必要ない!』
有希の「問題ない」をアレンジしやがった。とりあえず今日のディナーの仕込みを俺が担当する以上、今週末のおススメは明日から俺、古泉、青ハルヒの順番になった。四日目以降は他のメンバーに任せて人事部に入ることも、タイタニック号の修繕、未来の方にも行くことができる。日本代表の朝食のパンも焼かないとな。予想通り、スパイカー一人に対してコースを読めばいいだけ。「朝倉、一歩前」などと指示を出せばそれですべて通る。ベンチから見ていてようやくスピードに慣れたらしき鶴屋さんやOG達が二セット目から参戦し、今日は三セット出場してコートから出た。
「キョン社長、今日は三セットでしたが、全セット出ない理由が何かあるんですか?集中力が切れるとか……」
「いえ、単純に目立ちたがりが多いだけです。俺のせいで自分が目立たないとシーズン毎に文句を言われていますよ。ただ、明日は最初から最後まで全セット出場する予定です。しかも、昨日や今日とはまったく違った戦術でね。その代わり生放送には一セットも出ないという約束なんですけどね」
「この二日間とまったく違った戦術というのは一体どういったものなんでしょうか?」
「明日、見てのお楽しみです。ですが、これから世界を相手にする上で絶対に攻略しなければならないであろう戦術をとることに間違いはありません。ただ、普通のものをそのままというわけにはいきませんけどね」
「遊戯○芸人を再度集めて演出をされるそうですが、それは一体どのように?」
「では、失礼します」

 

 専用エレベーターに乗り込んで81階のスイッチを押した俺を引きとめようと、エレベーターのスイッチを外から押そうとしていたが残念だったな。そんなことなら随分前に取り付けた閉鎖空間が未だに残っている。敷地を囲む閉鎖空間同様、俺が許可してなければ通ることができない。要するに、俺の邪魔をしようとしても指がスイッチに届かず、閉鎖空間に遮られるってことだ。待たされることなくエレベーターの扉が閉まっていた。しかし、敷地を囲む閉鎖空間を素通りしてきた奴がああいう質問をしてくるというのは、なんとかしないとな。昨日の奴も含めて出禁にしてしまうか。人事部にもそう伝えておこう。
「しかし、青チームはビラ配りばっかりで練習試合に出なくて本当にいいのか?」
「明日まで……いえ、特に明日はあなたの独壇場ですからね。涼宮さんが仕込みに追われることのない日に出させていただくまでですよ。あなたの場合は、ダイレクトドライブゾーンと明日の三枚ブロック、それに零式改(アラタメ)を全国的に広めたかったから今まで出場しなかっただけでしょうが、それが終わってしまえば、あなたも、我々もシーズンが終わってからいくらでも参加できます。我々も今は影分身の修行中ですからね。マスターした後からでも遅いということはありません」
「あたしは生放送しか出ないって言ったじゃない!」
「本当に一度も出ないつもりか?古泉の言うように仕込みに追われることのない日くらい出たらどうだ?」
「今のところ出るつもりはさらさらないわよ」
「ところで、私の方から一件報告をしてもいいかね?……昨日も話題に上がっていたが、例の生放送番組からドラマのオープニングとエンディングの二曲のオファーが届いた。明後日だそうだが、大丈夫かね?」
「妙だね。僕らにとって嬉しいニュースを、優先的に電話が鳴るようにしたんじゃなかったかい?」
「今回の場合は別。主役が古泉一樹で変わらない上に、復興支援のためのランジェリーの宣伝も兼ねている。平均視聴率も33%を超えている。TV局側が早く出演させた方が得策と判断しただけ」
「あ―――――――――――――っ!!もう!明後日からキョンが出なくなるから、チャンスだと思っていたのに!!リハーサルなんてやってたら、ほとんど試合に出られないじゃない!」
「明後日は古泉がおススメ料理、青ハルヒがディナーの仕込みだし、ビラ配りのことを考えると、リムジンの運転は俺になりそうだな。何なら、リハーサルは俺が代わりに出ようか?五人分」
「このバカキョン!テレビ局でリハーサル中のあたし達が練習試合に出てたら、おかしいでしょうが!!」
「あ``……そのことをすっかり忘れていた。すまん」

 

 しばしの沈黙が流れ、名案はないものかと考えていたんだが、結局出てきたのは妥協策のみ。
「影分身で待機していることも考えたけれど、急に交代というのは難しいだろうね。でも、影分身なら妊娠がバレずに済むから、生放送の方は僕が出ることにするよ。午前中は楽団の練習もあることだしね」
「仕方がないわね。その日の練習試合は諦めるしかなさそうね」
「問題ない。練習試合の三日目と四日目を入れ替えるだけ」
『入れ変える!?』
「彼一人で練習試合に出る日を明後日にする。明日は彼抜きで練習試合をする。あなたのさっきのコメントも都合により四日目になると報道陣にFAXをするだけ」
「そうするとどうなるんですか!?」
「黄俺が一人で日本代表を相手にしている間に、黄ハルヒ達はリハーサルと番組出演。明後日の練習試合に出られなくなる分、明日は黄俺抜きで派手に暴れるってことですよ」
「名案よ、有希!すぐ報道陣にFAXを流してちょうだい!!」
「分かった」
「ヘリ二機にリムジンか……交通事故にならないといいんだが」
「いいえ、明後日の練習試合が彼一人というのであれば、僕がリムジンの運転にまわります。仕込みをしながらでも十分ですよ」
「やれやれ、待ちに待った零式改(アラタメ)の公開日だったのに……おススメ料理を明日中に仕上げてしまうか。明後日は青ハルヒに催眠をかけることになりそうだ。生放送前におススメ料理は出しつくすだろう。練習試合は無理でも接客なら影分身に催眠をかければ十分だ。待っている間こっちに来てくれ」
『問題ない』

 

「しかし、生放送出演の連絡も予め分かっていたこととはいえ、流石に忙しいな。……特に週末は。夜練さえなければ俺も接客にまわったんだが……って、あっ!ゾーンに入れる分だけ残しておけば、俺も接客にまわれる!」
「おや、そんな使い方ができるとは僕もまだまだのようですね。ゾーンに入れるようになっただけで子供のようにはしゃいでいましたよ」
「すまないが、これだけじゃないんだ。日にちは違うが、三代目毛利○五郎として、次の映画から声優を交代して欲しいそうだ。声優陣の強い希望だと言っていた。その後は毎週のアニメの方もということになるだろう」
「おいおい、世界大会中もアフレコに戻ってこいってことか?ちなみに圭一さん、その映画のアフレコはいつ行うんです?」
「来週の火曜の午後からだそうだ。向こうも告知中に秘密裏に何度も戻ってきた情報を得ているらしい。君の都合に他の声優も合わせるから、二、三話まとめて収録したいとのことだ」
「キョン君が羨ましいです!ゴールデンウィーク前にやっと公開する映画の内容が、こんな時期に分かるなんて!」
「みくるももうちょっとキョン君のことを考えるっさ!その日はディナーの仕込みができなくなるにょろよ!」
「週末でなければ、我々が交代するだけですから心配いりませんよ」
「あっ!でも、キョン君、ごめんなさい!」
「気にするな……と言いたいところなんだが、流石に疲労が一気に襲ってきた気分だ。この後も夜練か」
「みくるちゃんを余計に心配させるようなことを言ってるんじゃないわよ!このバカキョン!あんたのはお披露目が一日伸びたせいで、ショックを受けているだけでしょうが!」
「それが一番大きいのは確かなんだが……やれやれだ」
「くっくっ、零式改(アラタメ)を撃つときは覚醒状態でないと撃てないだろうけれど、各国の代表の采配を読むくらいゾーンだけで十分だろう?いつものように三セット連取で帰ってくればいいじゃないか。僕たちもキミの帰りを待ち望んでいるんだ。ジョンや朝倉さんもキミとのバトルが待ちきれないようだからね」
「あら、わたしはただのストレス発散のつもりだったんだけど?」
「とりあえず、ディナーも終わったし、夜練に行ってくる。一つずつ乗り切っていくしか方法はなさそうだ」

 

 ディナーの方はOGがいつまでも片付け当番でいるわけにもいかず、結局、古泉と青ハルヒの影分身で片付け作業にあたっていた。オンシーズン初めての夜練を撮影しようと報道陣が本社内を右往左往……というより、上往下往?右往左往の上下バージョンを何と言ったかは忘れたが。トラップに引っ掛かって出禁の連中が今日だけで何人増えたのやら。他国にこの練習を真似されたら勝てなくなるだろうとあれほど言っているにも関わらず、ホンットに馬鹿な連中だよ。さっきのショックの分だと言わんばかりに、夜練後はハルヒがいつもより割増でマッサージしてくれたものの、あまりにも大きすぎるショックを払拭するには至らず。古泉に忠告される前に零式改(アラタメ)を失敗してしまいそうで怖い。翌朝のニュースは『明日に延期!?昨日までとは違う新しい戦術とは!?』なんて見出しのものばかり。意味もなく専門家に聞いているところが馬鹿らしいとつくづく感じるよ。しかし、三日目と四日目を入れ替えるということは、ジョンのデビュー戦が今日になるってことだ。それはそれで日本代表が課題とする点の一つでもあり、それにどうやって対応するかが問われてくる。明日の三枚ブロックも含めてどう攻略するか見物だな。
「オンシーズン初ってこともあるんだが、昨日の夜練を何とかして撮影をしようとした馬鹿が、日本代表の寝泊まりしているフロアのトラップに何人も引っ掛かった。他国に真似させるわけにはいかない以上、絶対に内容を明かすわけにはいかん。出禁の連中が一気に増えたので人事部で対応を宜しくお願いします。それと、青古泉。異世界支部の69階を第二調理場としてフロアを模様替えさせてもらえないか?今年は異世界の社員食堂を使わないからまだいいが、来年と再来年はディナーとおススメ料理の両方の仕込みとなると厨房が足りない。その代わり、漫画喫茶化している89階をスイートルームにしてくれて構わない。どうだ?」
「そんなことでしたら、わざわざ僕に確認するまでもありません。ご自由に使ってください。あなただけでなく、黄僕や涼宮さんも同様に困ってしまうことになりますからね。ホテルフロアが多すぎて何に使おうか迷っていたくらいなんです。ちゃんとした目的を持ったフロアがまた一つ増えたのなら、僕はそれで構いません」
「古泉、ディナーの方は間に合いそうか?」
「ええ、午後の一、二セットは出られないことを覚悟していましたが、そういうことでしたら間に合いそうです。ありがとうございます!」
「それなら、あたしも午前中は電話対応にまわろうかな。どっちのキョンも古泉君も出られないんじゃ、いくら圭一さんが影分身できるようになっても、社員達に負担がかかっちゃうわよ!」
「そうしてもらえると助かる。未だに彼かハルヒさん出ないと、対応できない国からの電話もかかってきているからね」

 

 圭一さんの一言に全員が呆れかえっていた。午後は俺も参加したいところだが、スキー場のホテル三ヶ所分となるとさすがに分量が多くて間に合いそうにない。明日、ハルヒが生放送番組に出る分、安比高原のホテルには青有希の影分身がつき、おでん屋の切り盛りも青朝倉の影分身で問題ない。情報結合の練習をしているものの、未だに影分身に至ることができないOG達が申し訳なさそうにしていたが、修行を始めた時期が違うだけでOG達を責めるメンバーもおらず、『もし~だったら』などと言う輩もいない。それぞれ自分の仕事をまっとうすることでそれぞれの担当に分かれた。折角有希が回線を仕分けたんだ。俺かハルヒしか対応できないところからの電話なんて対応しなければいい。異世界69階の改装も終わり、まずは昼食の支度から。スカ○ターで体育館の様子を伺ってはいるが、土日でも無ければ練習に参加しているのは日本代表入りしたOG六人くらい。鶴屋さん達はビラ配りに参加し、ENOZは明日の生演奏とカバー曲の練習をしていた。未来古泉には……まぁ、将棋に関連する誰かが連絡しているだろう。調理場も増えて午前中だけでも大分進んだが、まだ三分の一は残っている。終わった頃に体育館に顔を出すのが丁度いいってところか。
「結局、俺とハルヒしか対応できないって電話には対応したのか?無視して諦めさせた方が得策だと思うんだが」
「それもそうね。内容も様々だし、対応しているとキリがないわよ!」
「今日の午前中だけしか対応していないのに、ハルヒさんがそこまで言うなんて余程バラエティに富んでいたんだろうね。大体の想像はできるけれど、どんな内容だったのか教えてくれないかい?」
「イタリア、韓国、香港、台湾、上海、日本で起きた事件に関する取材と、パフォーマンスを見せて欲しいって番組出演の依頼。映画がどの国でも人気みたいで、どうやって撮影したのか聞きたいそうよ」
「全部受けていたら影分身が何体あっても足りなさそうだな。黄俺がアメリカの記者に浴びせた殺気を実際に受けないと分からん奴ばっかりってことか。オ○リスクで本当に踏みつぶすくらいがちょうどいい気がしてきたぞ」
「くっくっ、どこの国でも映画が人気なのはよかったじゃないか。でも、そうだね。キョンやハルヒさん以外対応できない電話は放置して、電話の台数を増やした方がよさそうだ」
「問題ない。夕食後、第二人事部の台数を増やしておく。それに面接室も使うときだけ情報結合を戻せばいい。スペースの無駄。ただし、面接室にはテレポートで直接向かって」
「こればっかりは異世界に電話線をつなぐわけにはいきません。黄有希さんの用意した電話で対応にあたる他ないでしょう。面接室も利用することになるとは驚きました」
「むー…、一つ気になったにょろが、こっちで受信してあとは回線を繋ぐだけなら、そこにあるドアと同じものを用意して、向こうの世界まで回線を伸ばしたらどうっさ?第三人事部とでも称してもう一フロア作ればいいっさ!」
『あ~、なるほど!!』
「分かった。面接室はそのままにして、異世界の14階に第三人事部を作る。専用エレベーター以外、その階には止まれない様にしておく。あなたはあのドアを第二人事部に用意して」
「どうやら、また一つ異世界支部のフロアが埋まったようですね」
「ああ、鶴屋さんの名案炸裂だ!」

 

 ハルヒが午前中対応していた例の三台については今後一切無視することで意見が一致。すぐに第二人事部にどこでもドアを設置して異世界支部14階と繋いだ。もうしばらくすれば、影分身に慣れた青古泉が第三人事部を独占することになるだろう。明日の午前中は俺も電話対応に参加できる。いよいよ三日目の練習試合開始。鼻高々にユニフォームを見に纏った鶴屋さんがコート内に入り、青みくるはベンチか。妊娠している間は出られないと踏んでいた佐々木も、明日の生放送番組に出演する分、暴れさせろと言わんばかりにベンチに腰かけていた。そして、体育館内をざわつかせていた人物が俺の代わりにポジションについた。番号は子供たち三人の次、23番ジョン。野球だけだとばかり思っていた、日本代表選手や監督たちも今回のジョンの出場に呆れていた。この後、その表情がどう変わるのやら。第二調理場の中央にも設置したモニターが試合の様子を映し出していた。今日は日本代表のサーブからスタート。エースの狙いは当然ジョン。昨日までと違ったジョンの通常レシーブにあっけに取られていたが、このままジョンが撃つのなら通常レシーブでないと間に合わん。他の四人も既に攻撃態勢に入っていたが、有希のトスは一見するとオープントスと間違えてしまいかねないものだったが、球の軌跡は曲線を描くことなくジョンのジャンプ力に合わせたBクイックをそのまま相手ブロックの更に上から叩き込んだ。このワンプレーだけでいくつ驚くポイントがあったのかは知らんが、空いたスペースに叩きつけられたボールを拾いもせずにコート内にいた選手たちが呆れていた。ただでさえ昨日は夜練の取材を強行しようと報道陣が動いていたんだ。監督もあまり報道陣にヒントを与えるようなコメントをしなければいいが……まぁ、俺の許可なしに公開できないで終わるか。それよりも、俺のインタビューの前にジョンに報道陣が集まりそうだな。ようやくプレーを飲みこんだ選手たちが昨日まで小さく固めていた守りを元に戻してきた。『ジョンの見せ場は作ったんだから後は自分に撃たせろ!』とばかりに残り四人が攻撃態勢を敷く。誰を選ぶかは有希の采配次第。相手の守りに合わせて振り分けていたが、それでもジョンの出番が多かったように見える。ジョンのジャンプ力には対抗できずとも、コースを制限し、残り五人でレシーブするためのブロックだったが、いくらなんでも自由自在すぎやしないか?まぁ、ブロックが届かないことを見越して、トスを上げる方の有希もジョンの手に収まる頃には、ネットの真上かどちらかというと相手コートの方にボールの芯がくるようなトスをあげているからな。『アタックラインより前』どころか、『ネット際』と言ってもおかしくない位置に、ジョンのスパイクが次々と決まっていく。結局その日は、ジョンはコートに居座り、鶴屋さんが青みくると、古泉が佐々木と入れ替わり、拡大した子供たちを連れて体育館に俺が現れた時点でハルヒ、有希、朝倉が交代。俺が告知に行っている間に、どうやら美姫もジョンに合わせたトスの練習をしていたようだ。一セット様子を見させるものだとばかり思っていたが、子供たちが現れてすぐにメンバーチェンジ。非の打ちどころのないプレーを見せて三日目を終えた。

 

「監督、オンシーズン三日目を終えていかがですか?」
「いやはや、野球だけだとばかり思っていた彼がバレーの試合にまで参戦してきたことに終始驚いていました。何のぎこちなさも感じさせないプレーもそうですが、何と言ってもあの跳躍力。セッター二人の正確なトスもさることながら、どういう守り方をしても空いたスペースに叩き込まれるあのスパイクにどう対処していくかコーチ陣と検討していきたいと思っています。世界大会では、今回の彼のようにこちらのブロックが通用しない選手も多く出場してきます。また一つ、勉強させていただきました」
「監督、ありがとうございました」
「キョン社長、三日目と四日目を入れ替えることになった理由というのは一体何だったのでしょうか?」
「昨日の夕食の前までは、メンバー全員がこの予定で行くと満場一致の決定だったんですが、急遽、変更せざるを得ない予定が入ってきまして……まぁ、俺から言わずとも、明日になれば分かる人には分かるかと思います」
「ちなみに、明日の試合では、今日のプレースタイルとも違ったものになるということでよろしいんでしょうか?」
「ええ、まったく別のプレースタイルに間違いありません」
「ディナー後の練習は一体どのような内容のものをされているんでしょうか?」
「それについては一切触れることはできません。公開すれば、まず間違いなく他国に真似されてしまうでしょうし、日本代表選手たちが苦戦を強いられることになります。取材を強行すれば日本全国からクレームを浴びることになるでしょう。昨日も強引な取材を試みた人間が何人もいるようです。本社の敷地内にすら踏みこめなくなりたくなければ、諦めてください。俺たちからも日本代表チームからも情報が漏れることは一切ありません」
「あの、ほんの少しでいいのでヒントだけでも教えていただけないでしょうか?」
「では、失礼します」

 

 てっきりジョンも報道陣に囲まれていたもんだと思っていたぞ。どうやって姿をくらましたんだ?
『俺は普通にエレベーターに乗っただけだ。報道陣にとっては夜練のことの方が大事だったんじゃないか?』
だとしても、明日のニュースでVTRが流れることはあるまい。『日本全国からクレームを受ける』と言えば尚更な。強引な取材をすればどうなるか忠告はしたし、練習用体育館にいったところで閉鎖空間内に報道陣は入れない。一生謎のままってことだ。しかし、例のアフレコは練習試合が終わる前までに戻って来られるんだろうな?……って影分身を置いておけばいいだけか。ついでに第三人事部で電話対応させておくことにしよう。
「古泉、青ハルヒ、週末のディナーは新川さん達に頼むとして、来週はどうする?火曜はアフレコに出ないといけないし、俺が月曜でもいいか?」
「ええ、この後圭一さんから何も報告が無ければ……の話ですけどね」
「おいおい、これ以上予定が狂うってのか!?」
「あくまで可能性の一つでしかありませんが、あなたと例の芸人でル○ン役の声優争いが勃発してもおかしくありません。告知後半月も経って、未だに揉めているんですからね」
「それでまた番組出演しろっていうのか?」
「もしそうだったとしても、軍配は間違いなくあなたに挙がる筈ですよ」
そりゃあ、本人と同じ声帯にしているんだから、物真似芸人ごとき相手になる筈もないのは確かだが、視聴者からすれば、聞き慣れているのは今の声優の方。朝倉がサブタイトルをアレンジした例のTVスペシャルじゃないが、事前にそれでも見ない限り公平なジャッジは出来まい。観客に判定を任せる場合は層によって変わってくるからな。古泉の予想が的中するかと思ったが、圭一さんからは特に報告はなく、滞りなくディナーを終えることができた。

 

 翌日、全員の予想が外れることも無く、各新聞社の一面を飾ったのはジョン。監督のコメントがそのまま見出しとして活用され、『監督「世界大会に向けたいい勉強になった」』などと書かれていた。写真の方はジョンのアップもさることながら、ブロックの上からスパイクを放つ一瞬を捉えたものが多数掲載されていた。予想外だったのは、カットされるとばかり思っていた俺のコメントが、TV局によっては最後まで放送されていた局がいくつかあったこと。
「今シーズン三日間はSOS Creative社の新たな戦略に対する策が、まだ見つからずにいる状態が続いていますが、確かにキョン社長のおっしゃる通り、前のシーズンで見せたあの驚異的な防御力を他国に真似されては厄介なことになりそうです。日本代表チームには一つでも多く勝ち星をあげてもらうためにも、昨日のようなブロックが通用しない相手に対する策は今のうちから立てておきたいところですね」
と女性アナウンサーが一言。「しかし、どんな夜練なのか気になりますね」などの発言が出てくるかと思ったが、それも一切出てこなかった。理由が理由なだけに、どうせヒントすら出てこないのなら予想すら立てない方が良いと思ったのかもしれん。
「ところで、今日の全セットに俺が出る分、生放送には出ないとは言ったが、誰が何セット目に出るかは決まっているのか?点数も何点マッチにするのか考慮に入れなければならん」
「今シーズンは……13日(月)か。OGが日本代表側で出る分、三セット目は黄ハルヒと黄有希、ENOZなんだろ?」
「いくら生放送には出ないとインタビューで応えても、今日と初日のあの戦略はキョンがいないと不可能だよ。あれを見に来る客も多いんじゃないかい?TV局側からも出てくれと言われそうだ」
「子供たちや鶴屋さん、ジョンまでとなると俺が出ている余裕はない。今シーズンは子供たちに二セットずつ出してやってくれ。土日以外はほとんど出られないからな。青チームは明日以降どうするつもりだ?」
「そろそろ出たいところですが、土日は子供たちがコートに居座るのなら、我々は来週以降でいかがです?」
「あたしは前にも言った通り生放送しか出ないわよ!」
「ハルヒがこう言っている以上、ビラ配りは今の規模で続けることになりそうだな。ただ、子供たちが出るときだけは出させてくれ」
「わたしもキョンと一緒。土日は子供たちと一緒に出させて欲しい」
「では、ヘリの運転は僕が引き受けることにしましょう」
「じゃああたしも……って言いたいところなんだけど、それじゃ美姫ばっかり狙われることになるわね。有希か青涼子で出てもらえない?」
『ハルヒママ!わたし、有希お姉ちゃんと一緒がいい!!』
「分かった。でもわたしはスイッチ要因。正セッターは美姫」
「あたしに任せなさい!」
伊織にやらせたら、やってみただけで出来そうな気がするが……まぁいいか。

 

 スイッチ要因としての実戦経験を積ませる意味も含めて、土日は有希、青朝倉、岡島さんの三人で回すことになった。討論の結果、生放送一セット目青チーム(青みくる、青古泉、青ハルヒ、青鶴屋さん、青朝倉、青佐々木)、二セット目子供たちチーム(青朝倉、美姫、青ハルヒ、伊織、幸、青俺)、三セット目子供たちチーム2(青有希、美姫、ジョン、伊織、幸、青ハルヒ)、四セット目ENOZチーム(ハルヒ、岡島さん、榎本さん、中西さん、有希、財前さん)、五セット目黄チーム(古泉、ハルヒ、有希、鶴屋さん、朝倉、みくる)、今日出る分、生放送は出ない俺と妊娠中の佐々木を除いて一応全員ってことになるんだが……五セット目、セッターが有希のみで前回の青チームのときのように今度は有希が狙われるという話になったんだが、「有希さんにできて、わたしにできないわけがないわ」と朝倉が一蹴。同じ理由で三セット目も美姫だけが狙われるという意見が出たんだが、「そこは伊織がいるから心配いらん」とこちらも俺が周りに提言しておいた。元はと言えば、前回青古泉が執拗に狙われたからだが、ここまでセッターで悩んだのもこれが初めてかもしれん。記憶していなくとも、自分が何セット目のどの位置につくか覚えていればいいし、忘れた場合は有希がずっとベンチにいるから心配いらん。ハルヒ達の入れ替わりのこともあり、ENOZチームが四セット目となった。
「まさかとは思うんだけどね、今シーズンから天空スタジアムで……なんてことにならないだろうね?」
「土日ならまだしも、月曜日ですからね。天空スタジアムを埋めるほど客は入らないでしょうし、照明の関係でどちらかのチームが凡ミスをすることも十分考えられます。慣れ親しんだ体育館の方が良いでしょう」
「TV局からその件が出たら俺が伝えておく。当日はキャプテンの印はハルヒ達のユニフォームに入れることになりそうだ。空調完備の閉鎖空間があるから必要はないんだが……専用のジャージでもデザインして着てみるか」
『私たちの分も作ってください!!』
OGが12人揃って机を叩いて、立ち上がった。
「デザイン課の人間を差し置いて全員分のジャージをデザインするなんて……と言いたいところだけれど、あなたと例のパイプ椅子にあれだけのアクセサリーやランジェリーをデザインされたら、仕方がないわね」
「俺とあのパイプ椅子を一緒にするな!」

 

ドッと笑いが飛び出したが、生放送の件はこれで解決。ジャージのデザインと言っても、至ってシンプル。上は赤を基調として白と黒の三色を使ったもの。下は白を基調として、こちらも赤と黒の三色。スポーツ用品を専門に扱う会社ならどの会社でも似たようなものがあるし、違いといえば、上下に『SOS Creative社 Volleyball Team Kyon 1』と三段編成で書かれているだけ。午前中は第三人事部も使って電話対応しながら考えておいたデザインを昼食時に見せたら一発OKが出た。朝倉達とENOZのサイズについては有希に任せるとして、夕食時には配れるだろう。昼食後、体育館に赤いユニフォームを見に纏って現れたのは俺一人。OG達も日本代表用のユニフォームを着ていた。コートの前列、ライトポジションに立った俺に昨日とは違う意味で呆れている……というより、クエスチョンマークが三つほど頭の上に浮かんでいそうだな。当然ベンチには誰もおらず、残りのメンバーは電話対応や自分の仕事へと向かっていった。公式試合なら即レッドカードだが、練習試合なんだ。こんな前例一度たりとも無いだろうからな。声帯を変えて、どういう事情なのか実際に見てもらうことにしよう。
「多○影分身の術!」
影分身とはいえ、ユニフォームの番号は1~6まで振られ、キャプテンマークは本体の俺だけ。どうしていいものか困り果てていた主審に「試合を始めて、プレーを見てもらえれば理由が分かる」と説明してサービス許可の笛が鳴った。零式改(アラタメ)の披露試写会は三セット目。通常サーブを難なく取られて相手チームの攻撃。
「C!」
指示がたった一言で終わるというのも気持ちが良いもんだ。ライトからステップを踏んだ選手に前衛全員による三枚ブロック。それに対して、二の腕に当てるブロックアウトに切り替えたが、視線を見れば何処を狙っているのかがすぐに分かる。ブロックアウト封じで先制点をもぎ取った。ワンプレー見せれば、どういう戦略か気が付いただろう。次はどういう手で攻めてくるのかもな。レシーブ後……案の定!
「時間差!センターに合わせて跳べ!」
二度目の三枚ブロックも、今度は指先に当てるブロックアウト。スパイクを打つ直前に腕を降ろすと、ボールはカメラを構えていた報道陣目掛けて一直線。主審の判定は当然アウト。客席から落ちてきたボールを持って第三球。
「バック!」
バックトスでエースが撃ってくるものだとばかり思っていたが、AクイックとBクイックの間から飛び込んできた。「6俺!」などと叫ぶのも恥ずかしいのでコースが分かった段階で同期。初日、二日目と見せたダイレクトドライブゾーンでレフトからのBクイック。エースの横をぶち抜いたスパイクがサイドラインギリギリに落ちた。

 

 タイムアウトはまだ取らんか。あと三つ手が残っているからな。一つ目は青チームが見せたリバウンドによる連携。二つ目は一度俺にあててブロックカバーでもう一度攻めること。だが、どちらも視線を見れば何処にあてようとしているか判断が付く。二度も封じられた手を使うはずがない。最後の一つは三枚ブロックを越えたボールをこちらのコートに落とすもの。当然後衛にはそれに対応するよう三枚ブロックの近くで構えて待っている。これなら、こちらもダイレクトドライブゾーンでの攻撃は不可能というわけではないが、選択肢が限られてしまう。セッターがツーで三枚ブロックを越えてこちらのコートに落としてきた。セッターを含めた全員攻撃も夜練で培った防御力でどこへ撃っても取られてしまう。だが、その後の攻撃も前衛なら三枚ブロック、バックアタックならブロックに飛ばずにダイレクトドライブゾーンでの攻撃で得点を重ねていった。しかし、流石に全セット俺が出ると言わなければ良かった。このまま三セット目の頭で零式改(アラタメ)を打てるかどうか自信が無くなってきたぞ。日本代表のタイムアウト後、エースのバックを主体とした攻撃に変わり、ダイレクトドライブゾーンでの攻撃に意識の移動が追い付かなくなってきたところで点を許してしまった。威力に負けているわけではないんだが、無理にダイレクトドライブゾーンで仕掛ける必要はない、というよりできない。みすみす点をやるくらいなら通常の全体攻撃で返した方がベスト。2セット目で少しずつラリーが続くようになり、それでも可能なときはダイレクトドライブゾーンでの攻撃で点をもぎ取っていった。急進派の親玉には「安いプライドなんざふりかざしているからだ」とか言っておきながら、今の俺は間違いなくアイツ等と同類だな。集中力を切らすことなく、なんとか二セットを勝ち取り、三セット目に突入することができた。技の名前の通り理不尽に点をもぎ取ってやる。先ほどまでのセットと違い、サーブ順を一つ回して本体から。残る影分身には1%の意識しか残していないが、六人とも俺だからな。移動する必要がほとんどない。精々、前衛がブロックにつく程度だ。しかし、先ほどまでは本体も通常サーブで通してきたんだが、ローテを一つ戻しただけで零式用のシフトに早変わりした。そんなにバレやすいもんなのかねぇ……まぁいい、青OGが未完成の零式を練習していたときもあったが、零式をマスターしたはずのOGがどうしてトスの段階から回転をかけていたのか、その答えを今見せてやる!

 

 サービス許可の笛が鳴り、トスの段階から高速の前回転をかけてストレートに零式を放った。白帯のてっぺんに当たった瞬間相手コート側で高速にネットを蔦ってボールがコートに落ちる。落ちる音は鳴れども、バウンドせずにエンドラインに向かって転がっていった。しばらくの沈黙の後、会場全体が騒然とし始めた。もはや他のコートではプレーをせずにこちらのコートを見ていた。いつ集中力が切れるか分からん。早く次を撃たせろ。呆然と立ち尽くしていた主審がようやく気付き、笛で早くボールを戻すよう急かしていた。確か、零式改(アラタメ)を初めて撃ったときは青チームが相手をしていたんだったな。次にどんな反応をしてくるのか楽しみだ。トスの段階から回転をかけるのは先ほどまでと変わらず。零式改(アラタメ)をクロスへと放った。
「あっ、アウト!!」
サーブが白帯にあたりネットを蔦い出した瞬間に前衛の中央にいた選手が叫んだ。だが、自然落下より早く落下し、サイドラインギリギリでコートに落ちた。線審はINの判定をしている。通常の零式ならアウトのジャッジで正しい。初めて零式改(アラタメ)を見せたときも、青ハルヒは白帯に当たった位置でアウトと判定したが、コート内に落ちていた。さて、次はどんな対応をしてくるのか楽しみだ。タイムアウトは無し、防御形態は変わらず。ならば、もう一度零式改(アラタメ)をストレートに放った。前に出ていた選手がすかさず寄ったが、高速落下に対応しきれず、真正面でレシーブできずにワンタッチでアウト。タイムアウトはまだ無し。第四球、二度目のクロスに素早く対応したが、サイドラインギリギリで落ちる零式改(アラタメ)にまたしてもレシーブを乱してワンタッチでアウト。ようやく主審のタイムアウトが宣告された。

 
 

…To be continued