500年後からの来訪者After Future8-15(163-39)

Last-modified: 2017-01-12 (木) 06:49:06

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future8-15163-39氏

作品

たった半日で喜怒哀楽のすべてを体感したかのような一日が過ぎ、練習試合で二回とも上げられてしまった零式改(アラタメ)のクロスも、検証の結果、集中力切れで回転数が不足していたためと判明。三枚ブロックで練習試合に挑む際に改めて受けてもらうことにした。レストラン内に蔓延った報道陣も、その態度の素行故、更に一ヶ月の許可期日延長が決定した。また、ニュースで報じられていた昨日の監督のコメントを受けて、書き初めで一位を獲得したOGと急遽温泉旅行に行くことにしたんだが、俺がそれを口にしてから妻の顔はずっと紅く染まったまま。これじゃ、零式改(アラタメ)の練習どころか通常の練習に出るのも危なさそうだ。さて、どうしたものか……

 

ようやく81階に出揃った俺たちに、圭一さんから一言。
「古泉と園生から聞いてはいたが、バレー関係のニュースだけでそんなに長い時間放送していたというのかね?」
「ええ、バレー関係と言っても我々はほとんど関与していません。彼一人だけであれだけの尺をとっていたようなものです。どのTV局も元日本代表をコメンテーターに呼んでいた程ですからね。そのコメントもあってこんな時間になってしまったというのが適切かと思いますよ?」
「とにかく、報告を先に済ませてしまおう。各新聞社は昨日のバレーの試合内容で一面、新川さんのディナーで二面、スキー場のレストランのおススメ料理関連は三面以降に押しやられていた。昨日はどのレストランも去年のスプリングバレーのときと変わらないくらいの人数がいたが、立札で警告はしたものの、それを遵守しようとする奴はほとんどおらず、これまで許可されていた報道陣以外は全社もう一ヶ月延長だ。どこか一つくらいはマシなところがあるかと思ったが、サイコメトリーでの情報を集約したところ結局こうなった。今日もその許可を願う電話で人事部の電話が鳴りやまないはずです。これまでと同様、『自業自得だ』と突っぱねてもらって構いません。俺も可能な限り参加します。二つ目、ジョンの世界に行っていたメンバーにはもう話したが、例の声優が揉めている映画の件についてだ。当時はまだ現役としてアフレコに参加していた次○大介役を除いた、五人の声だけを映像からカットしてもらったものに、俺が再アフレコをして日テレに送りつける。後は聞き比べてどう判断してくるかは日テレに任せる。その報告が今後人事部に届く可能性があること。三つ目、この前デザインを見せた俺たちのジャージが全員分完成した。女性陣は有希にサイズを合わせてもらった。子供たちの分は元のサイズで作ってある。拡大するときにジャージも一緒に拡大してくれればいい」
バレー関係者の席の前にジャージ上下が現れた。こちら側のOG達は一人を除いて表情が明るくなっていた。ユニフォーム姿の子供たちは言うまでもない。
『今日はこれを着て練習に出ます!』
『キョン(伊織)パパ、わたしもジャージ着てもいい!?』
「ああ、そのために作ったんだ。練習中に暑くなったりすれば脱いでも構わないが、絶対に無くすなよ?」
『あたしに任せなさい!』

 

 子供たちは朝食の途中でジャージに着替え始め、OG達はそのままドレスチェンジ。他のメンバーは自室へとテレポートしていた。今日は楽団の練習もあることだしな。
「あれぇ?折角キョン先輩が作ってくれたジャージなのに着替えないの?そんな状態じゃ練習すらまともに出来そうにないねぇ?青チームの自分に変わってもらった方がいいんじゃない?……むふふふ」
「私もさっきから彼女の様子が気になっていたんだ。人事部の電話の件はどちらとも了解したが、一体何があったというんだね?」
「今朝のニュースで放映された監督のコメントを受けて、近日中に温泉旅行に行くそうですよ?」
『監督のコメント?』
見せた方が早そうだな。監督のコメント部分だけモニターに映すと、元機関メンバーや青圭一さん達、ついでに俺の両親がモニターに注目している。
『これまでとプレースタイルが異なるというのはニュースで見ていましたが、こちらの采配をすべて読まれた上での三枚ブロックとは驚きました。しかも、ブロックアウトまで封じられてしまうとは……三枚ブロックを越えたフェイント球すら、今後は彼に通用しないでしょう。まさに、難攻不落の要塞そのものでしたよ。また一つ世界大会に向けた良い勉強になりました。それに、オフシーズンの間は不完全な零式すら成功しない彼女を見ていて、次の世界大会の出場は難しいだろうと半ば諦めていましたが、不調などではなく、更に進化を遂げた零式のための練習をしていたんだと今頃になって気付いた自分に正直呆れています。完全版だったはずの零式に、更に改良を加えた彼にもね』
「零式改(アラタメ)のための練習をしていたことが、監督にもようやく分かったってことは僕にも伝わってきたけれど、これが温泉旅行とどうつながるんだい?」
「くっくっ、『互いのゲン担ぎのために四月の終わり頃に出かける予定だった』そうだけれど、こっちのOGと入れ替わって零式の練習をさせるにしても、その頃にサーブで失敗しているシーンを監督に見せるわけにはいかないというのがキョンの結論さ」

 

 青裕さんの疑問に青佐々木が説明をつけ足して、ようやく納得ができたらしい。
「周りからも言われていたが、今日のところは青チームの自分に任せて俺の仕事を手伝え。二人で話し合って行き先も決めないといけないからな。いつ出発することになるかは分からないが、影分身は置いていくから、昼食の支度については俺がやる。ただ、帰って来るまではジョンの世界に行くつもりはない。その間はジョンにも青俺の頭の中に移動してもらう予定でいる。その間の冊子作りは青有希と青朝倉が入って進めておいて欲しい。青俺や青古泉たちも含めて、今後は影分身の数が必要になってくるはずだからな」
「おっと、それ以上の発言はしないでくださいよ?異世界支部の方もバレーのオンシーズンが終わった時点でシートを外す予定なんですから。社員募集の垂れ幕もそのときに垂らします。大画面でも募集の旨をCMにして流したいところですが、こればかりは仕方がありません」
「えっ!?古泉君、もうシートを外すんですか!?てっきり四月一日にお披露目かと思っていました」
「すまないが、それについての詳細は、今後青ハルヒや青古泉達から報告があるはずだ。俺たち二人が居ない間のことに関して、それでも大丈夫なのか確認をしたい。どうだ?」
「わたし達の世界のものと合わせて600万部も作らなくちゃいけないことを考えればそうならざるを得ないでしょうね。わたしと有希さんも情報結合と影分身の修行をしないといけないし」
「そういうことなら、その間は私が二店舗につきます。影分身の修行も始めたいので。今日も両方の店舗に向かった方が良さそうですね」
『影分身の修行!?』
「あんた、もうできるようになったの!?」
変態セッターの一言に他のOG達だけでなく、青朝倉や青有希、圭一さん達まで驚いている。エージェント達は驚くことはないだろうに……もう既に使っていると思っていたが、どうやらそういうわけでもなかったらしい。指を鳴らすと後ろに一体の影分身が現れた。
「なるほど。百聞は一見にしかずのようですね。意識が朦朧とすると聞いていたのもようやく納得ができました。影分身を使って冊子作りをするつもりでしたけど、また一冊ずつからやり直すことになりそうです」
「私は三月号を作り終えたら零式の練習になりそう。中途半端で終わるくらいなら私も撃てるようになりたいし、黄キョン先輩のコメント通りなら、零式ですらどの相手国も攻略までには至ってないんでしょ?」
「ごめん、青私。今日と旅行中はお願い」
顔は未だに紅いままだが、なんとか喋ることはできたようだ。半ば強引に『俺の仕事を手伝え』と言ったのもあるだろうが、この状態で練習に出るのは難しいとようやく結論に達したらしい。
「異論なしと判断して良さそうだな。色々と聞きたい事もあったが、昼食のときにする。行き先と日程が決まったら必ず報告する。朝食や夕食もどうするか決めて、青新川さんにも伝えないといかん。緊急性のあるものが無ければ、時間も押しているし今朝はこのくらいにするが、それでいいか?」
「すいません、ご両親のいらっしゃる間にお伝えしたいので一点だけ。先ほど申し上げた通り、異世界支部のシートをオンシーズン終了後に外します。現在オフィスに通勤している彼女も含めて、それ以降は異世界支部の人事部で電話を取ってもらうことになります。引っ越しをするのであればお早めにお知らせください」
「じゃあ、引っ越しについては俺がやる。青俺の両親にも挨拶に行かないといけないんでな」
「あんた、それならお母さん達も一緒に行くわよ」
「何のために青俺の両親を呼ばず、青有希の部屋で夕食を食べさせていたと思っているんだ。実の娘ですら自分の両親だと判別できなかったのに、これ以上の混乱を招く行為はするな。青古泉の指定した期限までに引っ越し先だけは決めておけ。家電製品くらいなら、こっちで用意してやる。朝食の片付けは俺たちでやる。それぞれで仕事に向かってくれ」
『問題ない』

 

 81階に残ったのは昼食の支度を始めた俺と、朝食で使った皿の片付けをしている妻の二人っきり。もっとも、調理場では月曜のディナーの支度を任せ、残りは人事部で電話対応。今夜のおススメ料理の仕込みをしていた古泉と俺の影分身で第三人事部まで埋まっていた。
「キョン、一つお願いがあるんだけど、いいかな?」
「俺にできる範囲でなら何でもいいぞ。どうかしたのか?」
「キョンと二人っきりのときはテレパシーで話がしたい。ジョンとのテレパシーで培ったっていう集中力を、私も鍛えたい。……ダメ?」
『そんなことでいいならお安い御用だ。しかし、零式を会得した時点で相応の集中力はついていると思うんだが』
『昨日の試合を横で見ていて良く分かった。零式改(アラタメ)の習得も、ダイレクトドライブゾーンでの攻撃を私たち六人でやるのも、もっと集中力を鍛えないとダメだって。できれば、青私ともテレパシーで話すようにして欲しい。青私には私からも話しておくから』
『なら、本人が俺に願い出てくるのを待つことにしよう。ところで、行き先はどうする?一昨年までは年中無休で全国の合宿所を回っていたんだ。調べなくても、いくつか候補は浮かんでいるんじゃないのか?』
『行ってみたいと思ってたところならいくつかあるけど、書き初めの一位の景品と副賞で得た権利を行使することを考えたら、もっと良いところに行きたいなぁって。もうそんな権利もらえないかもしれないし。……ねぇキョン、温泉じゃないとダメ?』
『タイタニック号でクルージングの方が良かったか?』
『うー…ん、それも行ってみたかったけど、まだみんなで処女航海にすら出ていないのに、それより前に行くのはちょっと……特に、ハルヒ先輩には申し訳ないし』
『温泉じゃないところでタイタニック以外となると俺も出てこないな。どこか「ここに行ってみたい」と思うようなところでもあるのか?』
『ビバリーヒルトンホテルのスイートルーム』
『なるほど、確かに温泉ではないな。俺もあそこの料理をもっと食べてみたいと思っていたんだ。そこで決まりだ。いつから行く?』
『キョンの影分身が忙しくないときがいいけど、毎日ディナーかおススメ料理があるんじゃ……』
『まぁ、オンシーズン中だから仕方がない部分はあるが、一番意識を割く必要があるのはみんなのシャンプーやマッサージのとき。あとは夜練の時間帯だ。ビバリーヒルトンだと、時差はマイナス17時間。朝食後に出かけるくらいが丁度いい。明日にでも行くか?』
『週末だから、予約が取れるといいんだけど……片付けも終わったし、私が調べて予約してもいい?』
『ああ、好きなところを選んでこい』

 

 昼食の準備を本体一人でやっていた分、片付けが終わっても作業を続けていた。予約さえ取れてしまえば、あとは向こうで楽しんでくることができる。同期して他の影分身の様子を確認してみたが、第三人事部まで使っているだけあって、レストラン取材の件はほぼ沈静化した。もう電話対応の方にまわる必要もあるまい。月曜のディナーの仕込みに集中してさっさと終わらせてしまおう。やれやれ、色々とやらないといけない事が多すぎる。木曜のディナーで野菜スイーツ食べ放題ができるようにしたい。今のうちから準備を始めておかないとな。早々に『予約が取れた』とテレポートで戻ってきた。昼食の支度を二人で終えると、昼食までの時間を使ってタイタニック号の修繕に向かった。
『今日は何をするつもりなの?』
『まずは来年のパーティに向けた準備だ。ハリウッドスター達の泊まる客室を作っていく。客室と言ってもどれもスイートルーム並のものにするつもりだ。客室すべてそれでもいいんだが二等客室や三等客室、乗務員室を見てみたいなんて人達もいるだろうし、社員旅行としても使いたい。去年、集まった人数が宿泊できる分は確保しないとな。ディーゼルエンジンに変えた分の空きスペースが大量にあるはずだから、そこも全て客室にする』
『他の施設はどうするの?』
『当時のタイタニック号の様子や構造図を多数展示した資料室、遊戯施設、バー、スパ、美容院、温水プール4つ、大浴場、楽団のコンサートホール辺りを予定しているが、資料室と温水プール以外は場所をどこにするかをまだ決めていない。年越しパーティや社員旅行として使うには一等客室をどの程度の広さで作ればいいか、まずはこの船と相談するところからだな』
『私にも何か手伝わせて!』
『じゃあ、資料室を頼めるか?船をサイコメトリーして読み取った映像を、そのままカラー写真として情報結合してくれ。当時使われていたものを置いたり、模型を展示してみたり、資料室内をどうデザインするかは任せる』
『う……流石にそれは胸を張って「あたしに任せなさい!」なんて言えそうにないな。本当に私が作っていいの?』
『俺だって似たようなもんだ。試しに作ってみて、これで良いかどうかを全員に聞くつもりだったんだ。文句を言われて当たり前だと思っていればいい。「資料室を作りたいから何をメインに持ってくるのが良い?」とサイコメトリーでこの船に聞いたっていいんだ。まずは資料を集めるところからになるだろう。別に今日中に完成させる必要もないし、午後からはアフレコもある。そっちに立ち会っても構わん。どういう方針で行くかさえ教えてくれれば、後は俺が情報結合したっていいんだ。やれるところまでやってみてくれないか?』
『キョンがデザインすると、みんな一発でOKしちゃいそうだけど……分かった。やれるだけやってみる』

 

 どちらも情報をかき集めるだけで時間が過ぎてしまい、午後は俺一人でアフレコになりそうだと思っていたら、そっちにも立ち会いたいらしい。旅行先も決まったし、予約も取れた。朝食後までの表情が嘘のように無くなっている。午後の練習試合なら出られそうなもんだが……案の定、すっかり元気になった妻を見た周りのOG達から冷やかされている。変わってもらった分、今日はディナーも青OGだな。
「できた」
楽団の練習終了後、早々とアフレコ用のDVDが手渡された。コイツのことだ、影分身も使うことなく練習しながら編集作業をしていたに違いない。
「助かったよ。これなら午後からアフレコして、今日中にTV局に送りつけることができそうだ。もし、この件で人事部に連絡が来ることがあれば、『このまま放映してもらって構わない』と伝えていただけますか?」
「分かった。そうすることにする。しかし、こちらも助かったよ。レストランの取材許可を懇願する電話が午前中どころかあんな短時間で沈静化するとはね。午後は我々で対応する。古泉の方も自分の仕事に専念してくれ」
「では、明日は僕が人事部に回ることにします。それより、僕や涼宮さんに相談もせずに野菜スイーツを作り始めて、一体どうされるおつもりなんです?」
『野菜スイーツ!?』
「確か、黄キョン先輩の特製カレーの次にリクエストが多かったっていうメニューですよね?」
『カレー!?』
この前食べたばかりだというのに、『カレー』の三文字に反応した有希たちにハルヒと青俺から鉄拳制裁。
「散々食べ尽くしてから一週間も経っとらんのに、どうしておまえ等は変り映えがないんだ!?話が先に進まないだろうが!自重しろと何度言わせれば気が済むんだ!!」
「でも、アカデミー賞の授賞式の後はカレーで祝賞会をするんでしょ?」
「その予定だったのを、妥協策と称して日程を変更したのはおまえ等の方だ。この前の一件で、作り置きはすべて無くなった。まぁ、『気が向いたら』また作ることになるだろう。大体な、祝福される側になるかもしれない俺が、どうして祝賞会の料理を自分で作らなきゃならん。ノミネーションしただけで、アカデミー賞を授賞するとはまだ決まってない。受け取れなかった人間にもプレゼント的なものが出るらしいが、それで祝賞会というわけにもいかん。とにかく、一回くらい俺の気分を害さないようにした程度で、『またカレーを作ろうと思えるようになった』とは考えないことだ。ハルヒや青俺から鉄拳を喰らわされる状態から脱却しない限り、まず無理だと頭に叩き込んでおけ。野菜スイーツに関しては別に黙っていたわけじゃない。この場で言えばいいだろうと踏んでいただけだ。折角アンケートを取っておいてまだ出てこないのかと思われるのもどうかと思ってな。木曜のディナー辺りで出せたらと準備を始めたまで。旅行中も仕込み作業なら可能だから、今からなら間に合うだろう」

 

 有希たちどころか、アカデミー賞の授賞式の後に食べられると思っていたらしきメンバーまで表情を曇らせていた。すでに作ってあるものならまだしも、これから作らないといけないとなれば話は別だ。
「なるほど、先ほどからの彼女の表情も含めると、いつから旅行に出かけるかももう決まっているようですね。どの道昼食の時点で報告するつもりだったんでしょうが、話のついでに教えていただけませんか?」
「明日の朝食後、出発する予定だ。そこから二泊三日だから、火曜の夕食前に戻ってくることになるだろう。食事も現地で摂る。俺の場合は告知に行っていたときとほとんど変わらん。本体が旅行に行くだけで、昼食の支度やディナー、おススメ料理の仕込み、電話対応、夜練には影分身であたる」
『朝食後に出発する!?』
「あんた達一体どこまで行くつもりよ!?旅館までそんなに遠いならテレポートで十分じゃない!」
「色々と考えた末、その時間から向かった方が都合が良いというだけだ。それより、今朝の青みくるの疑問を解消してやったらどうだ?俺も別件で聞いておきたい事があるんだ」
『聞いておきたい事!?』
「くっくっ、面白いじゃないか。キミが何を聞きたいのかは僕にも分からないけれど、順序は問わないのなら、キョンの『聞いておきたい事』とやらを聞いてからにさせてくれないかい?」
青佐々木のセリフを受けて、周りの視線が俺に集まる。異論なしとみて間違いなさそうだ。
「なら、おまえに聞こう、青佐々木。昨日の生放送後、大御所MCとは話したのか?ドラマの最終回前半を見て、犯人やトリック、証拠は見つかったのかどうかって話だ。話すよりも見せた方が早いのなら、モニターに出してくれないか?」
「彼に言われるまで、僕もすっかり忘れていましたよ。確かに、昨日はあなた自身がそれどころではなかったはずですし、我々もレストランの状態に憤りを抱いていましたから気がつきませんでした。てっきり、異世界支部のことで青僕に聞くものだとばかり思っていましたよ」
「僕も『おまえに聞く』なんて言われて正直焦ったよ。でも、そのことなら、ハルヒさんか黄朝比奈さんに聞くべきなんじゃないかい?確かに、僕もその場に居たから答えられないわけじゃないけれど、僕なんかでいいのかい?」
「わたしはそれで構いません。わたしが話すよりも、青佐々木さんの方が詳しく説明してくれそうです!」
「……分かった。なら、僕から話すことにする。結論から言うとね、まだ犯人すら確証が持てないでいるらしい。『シド殺害時だけを考えれば、一色か園部のどちらかだろうけど、完璧なアリバイを確保した獅○や桜○の可能性だって十分あり得る』と話していた。要はキミが聞いてくるほどの域には到達出来ていないってことさ。でも、視聴者プレゼントが黄古泉君のシャンプー&カットだってことは確信していたみたいだよ。『応募して抽選で当たっても、俺じゃあまり意味がない』だってさ」

 

 大御所MCの昨夜の時点での状態を聞いて納得した表情を浮かべているのがちらほら……じゃないな。解答編の脚本が配られるのを待っていたメンバーのほとんどが同じ面構えをしていた。
「じゃあ、同じ条件で鶴屋先輩たちはトリックも証拠も全部揃えて真相を解き明かしたってことですか!?凄い、私じゃ絶対にあんなの解けないです!」
『フフン。ちょっとは見直したにょろ?』
「くっくっ、だったらNG集の撮影は催眠じゃなく本人に出てもらおうじゃないか。宣伝も兼ねて女子高潜入捜査事件のNGシーンを一番多くしたいんだ。エキストラも当然必要になる。このシーズンが終わったらまとめて撮影したいから準備をしておいてくれたまえ」
「準備はいいにょろが、どんなシーンがあるのか教えて欲しいっさ!」
「そうだね、近日中に台本にまとめたものを全員に配ることにするよ。キミには、随分待たせてしまったようだ。あとは存分に話してくれたまえ。異世界支部の今後の運営についてね」
「アメリカ支部が始動した頃の彼の気持ちが良く分かりましたよ。すでに完成しているのに、お披露目までどうしてこんなに長い間、待っていなければならないのかとね。ですが、それは単なる個人的な見解で、ちゃんとした理由は別にあります。僕がお披露目を早めた最大の理由、それは困難の分割です」
『困難の分割!?』
「四月以降、出来るだけ早い段階から異世界支部を始動させるには三月の段階から面接を済ませ、社員を集めて振り分ける必要があります。シートをかぶせた状態でシートの外側に垂れ幕を垂らしてしまっては、四月を迎えるまで外すことができません。アメリカ支部なら彼のパフォーマンスでシートを通りぬけることが可能だと説明してしまえば、おおよその人間は納得するでしょうが、今の我々の世界では『鈴木四郎のパフォーマンス』だと言ったところで納得できる人間はほとんどいないはずです。シートの一部を開けて社員だけ入れるようにするのも一つの手ですが、毎日のように彼のSPが必要になる上に、大画面が使用できず、四月になったとたんに取材や番組取材の電話が殺到します。要するに、新年度を迎える前から、出る杭を叩いてしまうんですよ。異世界支部では野球の試合が終わらなければ天空スタジアムの一般開放はしませんし、ハルヒさんの料理の味付けとこちらの新川さんのスペシャルランチなら口コミで十分。番組取材は一切受け付けません。そのための垂れ幕も下げるつもりです。そして、こちらで垂らしている垂れ幕と同様、デザイン課の社員を希望する人間にデッサンの時間を与えるためです。こちらの世界で彼の告知が終わってすぐに垂れ幕を垂らしたのに、今日に至っても一向に面接希望者が現れないのは、中卒でも都立の試験はまだ終わっていませんし、新社会人も他の会社の合否が確定していない状態で我々の会社で面接を受けるわけにはいきません。もっとも、いくらデザインに長けた人間でも、こんな時期に面接を希望する人間が社内機密を守れるとは到底思えませんけどね。僕のような身内や朝比奈さん達の椅子のような例外もありますが、合否を左右するデザインだけはもっと良いものがないかと悩むことも多いはずです。そのために垂れ幕を垂らす時期を早める。一度不採用の通知を受け取ってしまえば、もう一度新しいデザインを一から考え直す必要も出てくるでしょう。それを防ぐためにも、時間を与えるんです。こちらはそのつもりが無くても、『四月までに面接を受けて合格しないといけない』という考えが頭から離れないでしょうからね。彼の言っていた影分身も大量に必要になるというのは、シートを外した直後から殺到するであろう電話対応のことです。こちらの圭一さんと彼女だけで対応しきれるほどのものではありませんし、今はサイコメトリーを使える人間で駆逐しないと報道陣を調子に乗せてしまうだけですので」

 

 佐々木の言葉を遵守するかのように、青みくるの疑問に対して青古泉が熱弁。自分をみくる達の座っている椅子と同等に並べて話をしたのは俺も意外だったが、シートを外す時期を早める理由として何の文句もないし、予め想定していた場面をすべて話し尽くしたからな。何かあるとすれば、青俺や青ハルヒから追加するくらいだが、どちらも青古泉の説明に十分満足していた。
「そんな細かなことまで全部考えた上でなんて驚きました。わたし、自分たちの世界にできる会社に少しでも貢献しようと考えていたのに、古泉君たちとは考えるレベルがまるで違いますね。今後のわたしたちの支部の発展にできることを少しでも多く考えてくることにします!」
「みくるちゃん、一人で悩んでいたって、解決策が見つからずに終わるわよ?」
「会議なら『俺たち』でやりませんか?」
「何の案も出せないと思うけれど、わたしも参加させてもらってもいいかしら?」
『問題ない』
『ハルヒママ!有希お姉ちゃん!試合!!』
「そうね、そろそろ行かないとまずいわね!あんた達も試合に出るからにはユニフォーム姿になりなさい!その代わり、今朝キョンから言われたことはちゃんと守るのよ!?」
『キョンパパから言われたこと!?』
「あら?そんな状態じゃ試合になんて出せそうにないわね。OG達に代わりに出てもらおうかしら?」
『キョンパパ!もう一回教えて!!』
やれやれ、本当に悩んで困り果てている顔をしている。『あたしに任せなさい!』とか言ってなかったか?
「脱いだジャージはどうするんだった?」
『絶対に無くさない!!』
俺からのヒントを受けてようやくハルヒ達がエレベーターを降りていった。
「ところで、朝の様子を見ていて俺も驚いていたんですが、今のエージェントなら意識が朦朧とすることはあっても、やってみただけで一人につき影分身を五体くらいは出せるはずです。各支部間を移動するような超長距離テレポートは影分身には不可能でしょうが、まずは本体と影分身の二人で別々の作業をすることから始めてみてはいかがです?我が社が本格的に動き出す前から、キューブの拡大縮小もやってみただけでできたんですから、心配いりませんよ」

 

 俺の発案に互いに顔を見合わせていたが、八人同時に影分身を情報結合。予想通り全員が五体以上の影分身を成功させていた。
「最初は簡単な作業から慣れていくことになるでしょう。本社の人事部で電話対応をするのも一つの手です。影分身を出した状態で今の自分にどれだけのことができるのか色々と試してみてください」
『了解!』
『なら、俺たちは19階でアフレコになりそうだ。事前に用意しておいた台本もサイコメトリーしたし、ぶっつけ本番で終えることができるだろう』
『映画の内容は知ってたけど、本家本元の声優だとどんな風になるのか私も楽しみ!その後はタイタニック号の修繕に戻ってもいい?』
『ああ、野菜スイーツは影分身にでも任せておけばいいだろう』
二人でレコーディングルームに降りてアフレコ開始。しかし、この映画、銭○警部の声優が変わったせいもあってギャグパートがほとんどないのが困りものだ。持ち味を生かしきれん。五人全員が集合するようなシーンを除いて影分身は三体程度で十分。あとは音量の調節に室外から中の様子を伺っているのが一体。妻もその影分身を一緒にアフレコの様子を見ていた。しばらく……といってもCMなしでも一時間半以上だからな。さすがに疲れたが、音量調節の方も問題はない。完成したDVDをサイコメトリーでチェックして……問題なし。メッセージを添えてすぐにでも送ることにしよう。『どうだった?』と聞く必要もないようだ。『興奮した!』と言わんばかりの表情を崩そうとはしなかった。
『やっぱり、元祖声優陣の方が100倍いい!!』
『あとはこれを見た日テレのスタッフがどんな策に出るかだ。それは向こうに任せて俺たちはタイタニックの続きってことになりそうだな。DVDは俺が送っておく。資料室の方を頼む』
『あたしに任せなさい!』

 

 やれやれ、そのセリフは胸を張って言えそうにないんじゃなかったのか?……まぁいいだろ。それだけ資料室のデザインにこだわっている証拠だ。こっちも時間までにやれることをやってしまわないとな。ハリウッドスター達を全員一等客室に入れてもまだ余りある分の客室を用意して、残りは二等、三等客室。それでも豪勢に振る舞うつもりだけどな。乗務員室も同様だ。全客室前の廊下には雰囲気に合ったカーペットを敷き、楽団員のコンサートホールを作るスペースも十分余っている。再来週の月曜辺りに全員を連れて処女航海ができそうだ。
『キョン、一応資料室は作ってみたけど、見て足りないものがあったら教えてくれない?』
広めに確保したはずの資料室には、所狭しと当時の写真、家具、客室はすべて忠実に再現されていた。
『強いてあげるとすれば、年越しパーティのときは日本語で書かれている部分を英語に変えるくらいだな。再来週の週明けにはみんなを連れて処女航海ができそうだ。そのときに他のメンバーにも見てもらうことにしよう』
『うん!』
おススメ料理の火入れは影分身に任せて、本体は夕食で全員が揃うのを待っていた。俺の背後には各ホテルのレストランの様子を生中継でとらえた映像がモニターに映っている。
「くっくっ、自業自得のはずなのに苛立ちを隠せずにいるのが良く分かるよ。このままもう一ヶ月延長したところで反省の色が見られるとは到底思えない。『今シーズンは諦めろ』とすっぱり言いきったらどうだい?」
「良いではありませんか。これで暴動でも起きようものなら即出入り禁止が確定します。勝手に苛立たせておきましょう。それだけのことを起こしておいて尚、人事部に懇願してくるようであれば、黄佐々木さんのおっしゃる通り『今シーズンは諦めろ』と死の宣告をするまでですよ」
今日のディナーも青OGに譲るつもりらしい。青OGの分の夕食を自席にテレポートして他のメンバーの到着を待っていた。
「古泉、青ハルヒ。来週のおススメ料理の件で一つ相談なんだが、誰が何曜日の担当をするかは決まっているか?」
「いいえ、僕もあなたのご予定を聞いてから決めるつもりでいましたから、特に何も。ですが、月曜のディナーの仕込みと木曜の食べ放題ディナーの準備をされていることを考えれば、おのずと金曜日は僕か涼宮さんということになりそうです。僕はどちらでも構いませんが、涼宮さんのご希望はありますか?」
「キョンに日曜日のおススメ料理の仕込みを任せればいいわよ。今週と同じ順序で行くのなら、黄古泉君が金曜、あたしが土曜、キョンが日曜ってことになりそうね!」
「分かった。野菜スイーツが出揃ったら日曜の仕込みに回る。最終日もその後帰るわけでもないし、鉄板料理食べ放題というのも悪くない。バレンタインのチョコレートケーキは出せなくなりそうだけどな」
「でしたら、オンシーズン最終日は優雅に振る舞って木曜日のオフシーズンディナー日に鉄板料理食べ放題というのはいかがです?最終日の仕込みは僕の方で作ることにしましょう」
「じゃあ、あたしが生放送の日ってことになりそうね!これでいきましょ!」
『問題ない』

 

 ようやく練習試合を終えた六人が戻ってきた。ハルヒ達は満足気な表情だが、双子はどこか不機嫌そうな顔をしていた。三人ともジャージは忘れずに持ち帰って来たみたいだし、幸の方はハルヒ達と同様、満足気に青俺たちに試合内容がどうだったか報告をしているってのに……どうしたんだ?今は影分身がインタビューに答えている最中。真っ先に俺に近づいてきた美姫が一言。
「明日はキョンパパも一緒が良い。キョンパパが一緒じゃないと面白くない!」
「明日はちょっと難しいな。じゃあ、来週の土日は俺も入ろう。それじゃ駄目か?」
そういや、来週と言ってコイツ等分かるのか?一向に表情が硬いまま改善の余地が無かったところで、試合の様子を見ていた影分身から同期で試合内容が伝わってきた。いくらハルヒ、有希、朝倉といえど、俺の指示と比べると、攻撃に転じるまでの時間にどうしても差が出てしまう……か。それでも0コンマ数秒の世界だが、その分美姫の選択肢は減り、超速攻のダイレクトドライブゾーンとしては二流。セッターをやっていた美姫が一番それを感じ取っているようだ。同等の集中力を持つ伊織が指示を出してしまいそうだが、それはそれで逆に困る。零式を撃てる司令塔なんて入ったら、何人辞めされられることになるのやらわかりゃしない。この三人が入っても不満を持つようじゃ、他のメンバーに交代出来やしないな。とりあえず、一緒に試合ができると分かったところで一応納得したらしい。ジャージを椅子の背もたれにかけてようやく夕食が始まった。
「キョン、モニターの映像を切り替えられないかい?これ以上はストレスが溜まるだけだ。今日キミが再アフレコしたっていう映画を見せてくれたまえ」
「それは構わんが、ディナー中の六人以外全員揃っていて、レストランの接客の方は大丈夫なんだろうな?」
「それならあたしたちに確認しなくても、言われた通り映像を切り替えるだけで済むでしょうが!あんたや古泉君、青あたし、現地のスタッフ以外にもあたし達の影分身がついているわよ!」

 

 ハルヒに言われるがまま、レストラン内に映像を切り替えてみると、ハルヒや有希だけでなく、青有希や佐々木たちの姿があった。もっとも、催眠をかけた状態だけどな。確認を終え次第、佐々木の要望通りの画像に切り替えた。最初はほとんど会話もないし、五○衛門の斬鉄剣でボードが真っ二つにされるところからでいいだろう。朝昼とあれだけ話していたんだ。処女航海の話を切り出したかったが、これでは明日の朝に話すことになりそうだ。
「やはり、本家本元は違いますね。これまでの映画が駄作に思えてきましたよ」
「声優の関係上なのかどうかは俺も知らんが、個人的には銭○警部のギャグシーンがあまりないのがちょっとな」
「これなら、いくら揉めても文句を言えそうにないわね」
子供たちもル○ン三世は分からなくとも、コ○ンの映画とあってか食事をするのを止め、モニターに集中していた。
「そんなに気になるのなら、三人の前にもモニターを出してやる。食べながら見てもいいからご飯食べるぞ!」
「三人だけだなんて酷いことを言わないでくれたまえ。僕たちの前にもモニターを出してもらえないかい?」
やれやれ、おまえがそれを言い出したら全員ってことになるだろうが。配膳された皿の奥に小型のモニターが現れ、音声は共通だが映像はそれぞれで見られるように切り替えた。ここまで違う世代が出揃っているというのに、全員の眼がモニターに行くとは……いやはや流石としか言いようがないな。
「近いうちに人事部に連絡が来たとしても、何らおかしくない。社員にも伝えておくことにするよ」
夕食を終えても映画が終わるまで誰一人としてフロアから立ち去ろうとするメンバーはいなかった。

 
 

…To be continued